保守ツール及び制御装置の保守ツール
【課題】統計モデルを構築する際に用いるデータに偏りが存在する学習型のプラントを制御する場合でも、高精度な統計モデルを構築して所望の制御効果を獲得可能な保守ツールを提供する。
【解決手段】本発明の保守ツールは、モデル構築データベース220に保存されたモデル調整の反復回数の情報、及び疎密度の変化の情報に基づいて、モデル調整の反復回数mに対して変化する疎密度の推移を表示するように構成した。
【解決手段】本発明の保守ツールは、モデル構築データベース220に保存されたモデル調整の反復回数の情報、及び疎密度の変化の情報に基づいて、モデル調整の反復回数mに対して変化する疎密度の推移を表示するように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保守ツール及び制御装置の保守ツールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラントの制御装置は、制御対象であるプラントから得られる状態量の計測信号を処理し、制御対象に与える制御信号(操作信号)を算出して制御対象に伝達する。プラントの前記制御装置には、プラントの状態量の計測信号がその目標値を満足するように、操作信号を計算するアルゴリズムが実装される。
【0003】
プラントの制御に用いられている制御アルゴリズムとして、PI(比例・積分)制御アルゴリズムがある。PI制御では、プラントの状態量の計測信号とその目標値との偏差に比例ゲインを乗じた値に、偏差を時間積分した値を加算して、制御対象に与える操作信号を導出する。
【0004】
PI制御を用いた制御アルゴリズムは、ブロック線図などで入出力関係を記述することができるため、入力と出力の因果関係が分かりやすく、多くの適用実績がある。しかし、プラントの運転状態の変更や環境の変化など、事前に想定していない条件でプラントを運転する場合には、制御ロジックを変更するなどの作業が必要になる場合がある。
【0005】
一方、プラントの運転状態や環境の変化に適応できる制御方式には、制御アルゴリズムやパラメータ値を自動的に修正する適応制御や学習アルゴリズムを用いた制御方式がある。
【0006】
学習アルゴリズムを用いてプラントの制御装置の操作信号を導出する方法としては、プラントの計測データや数値解析を基に構築したデータを用いて、それらを統計的に処理してプラントの特性を推定する統計モデルを構築し、この統計モデルに対して最適な制御ロジックを自律学習させる手法が一般的である。
【0007】
この自律学習させる手法を用いて得られた制御方式の性能は統計モデルの推定精度に依存する。即ち統計モデルの特性が実際のプラント特性に近づくほど、統計モデルに対する制御結果と同等の制御効果が得られる。そのため、学習アルゴリズムを用いた適応制御技術では、より高精度な統計モデルの構築が課題となる。
【0008】
統計モデルの精度を向上させる技術として、特許文献1には、統計的手法の一つであるRBFネットワークの基底関数の半径パラメータを、探索アルゴリズムを用いて最適化する技術が記載されている。
【0009】
また、非特許文献1には、統計モデルをRBFネットワークで構成し、その基底関数の半径パラメータをモデル構築用のデータ特性(データ数、次元、距離)を基に導出した計算式によって決定する技術が記載されている。
【0010】
上記の公知技術では、モデル構築用データの特性に基づく半径の調整が実行されるため、無作為に半径を設定する場合に比べて、より実際のプラント特性に合致した統計モデルを構築できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−115639号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】北山、安田、山崎:“RBFネットワークとParticle Swarm Optimizationによる統合的最適化”、電気学会論文誌C、Vol.128、No.4、pp.636−645(2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1、及び非特許文献1に開示された技術をプラントの制御装置へ適用した場合、データに基づく統計モデルの半径パラメータ設定により、無作為に半径パラメータを設定する場合に比べて、推定精度を向上させることができる。
【0014】
一方、プラント制御において、制御による操作条件の変更後、特性が安定するまでに数分から十数分の時間を要するため、この時間を制御周期として操作条件を変更することにより、最大限の効果を得ることが期待される。
【0015】
したがって、前記統計モデルのパラメータ調整、及び学習アルゴリズムによる制御ロジックの学習は、この制御周期以内に終了することが望ましい。
【0016】
ところが、特許文献1の技術をプラントの制御装置に適用する場合、特許文献1の技術のように最適化技術を用いた半径パラメータの調整手法では、データと統計モデルの推定結果との誤差を最小化するように半径パラメータを探索するため、探索回数に応じた反復誤差評価が必要となる。誤差評価の回数はデータ数に比例して増加するため、データサイズが大きい場合には計算コストが増加し、制御周期以内で統計モデルのパラメータ調整が終了しない可能性がある。
【0017】
これに対して非特許文献1の技術では、予め導出した計算式を用いて統計モデルの半径パラメータを決定するため反復誤差評価は不要となり、計算コストは小さくなり制御周期以内で統計モデル調整を終了できる。また該技術では、統計モデル構築用のデータがある程度の等間隔に分布することを前提としており、全ての基底の半径パラメータは一様に設定される。
【0018】
ところが、非特許文献1の技術をプラントの制御装置に適用する場合、プラントの運転制御では、性能保証値を満足するために最適な操作条件下で安定的に運転することが前提となるため、獲得されるモデル構築用のデータの分布は概ね最適条件に近い領域に集中することが想定され、また前記の性能保証値遵守の観点から、データを等間隔に分布させるための作為的な操作も許容されないことが多い。
【0019】
さらに、モデル構築用のデータがある条件に集中して分布すると、一様に設定した半径パラメータでは、統計モデルの基底関数が入力空間を充分にカバーできず、推定精度が著しく低下してしまう可能性がある。
【0020】
本発明の目的は、統計モデルを構築する際に用いるデータに偏りが存在する学習型のプラントを制御する場合でも、そのデータの偏りの分布に応じて適切に統計モデルのパラメータを制御周期以内で調整して、推定精度を向上させる機能を具備した保守ツール及び制御装置の保守ツールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の保守ツールは、モデル構築データベースに保存されたモデル調整の反復回数の情報、及び疎密度の変化の情報に基づいて、モデル調整の反復回数mに対して変化する疎密度の推移を表示するように構成したことを特徴とする。
【0022】
本発明の制御装置の保守ツールは、プラントから該プラントの状態量である計測信号を取り込み、前記計測信号を用いて前記プラントを制御する操作信号を演算する制御装置の保守ツールにおいて、前記制御装置は、前記プラントの状態量である計測信号を取り込んで保存する計測信号データベースと、前記計測信号データベースに保存されたプラントの計測データから変換したモデル構築データを保存するモデル構築データベースと、前記モデル構築データベースに保存されたモデル構築データを用いて前記プラントに制御信号を与えた時に該プラントの状態量である計測信号の値を推定するプラントの制御特性を模擬する統計モデルと、前記統計モデルを用いて前記計測信号に相当するモデル出力が目標値を達成するようにプラントに与える前記制御信号に相当するモデル入力の生成方法を学習する操作方法学習部と、前記操作方法学習部における学習の制約条件及び学習結果に関する学習情報データを保存する学習情報データベースと、前記計測信号データベースの計測信号、及び前記学習情報データベースの学習情報データを用いてプラントに対して送信される制御信号を演算する制御信号生成部と、前記モデル構築データベースに保存されるモデル構築データに含まれる統計モデルの基底半径パラメータを調整するモデル調整部を設けて、前記統計モデルが前記モデル調整部による基底半径パラメータの調整結果を用いてモデル出力を生成するように構成し、前記モデル構築データベースに保存されるモデル構築データには、モデル調整の反復回数の情報、及びデータの密集度を示す疎密度の情報が含まれるように構成し、前記保守ツールは、この制御装置とデータを送受信して前記制御装置による制御結果を表示するように構成して、前記モデル構築データベースに保存されたモデル調整の反復回数の情報、及び疎密度の変化の情報に基づいて、モデル調整の反復回数mに対して変化する疎密度の推移を表示するように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、統計モデルを構築する際に用いるデータに偏りが存在する学習型のプラントを制御する場合でも、そのデータの偏りの分布に応じて適切に統計モデルのパラメータを制御周期以内で調整して、推定精度を向上させる機能を具備した保守ツール及び制御装置の保守ツールを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施例であるプラントの制御装置の構成を示すブロック図。
【図2】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置における操作方法の学習時の動作フローを示すフローチャート。
【図3】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル調整部の構成を示すブロック図。
【図4】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル構築データに保存されるデータの態様を示す図。
【図5】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル調整の動作フローを示すフローチャート。
【図6】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル調整時のカテゴリ分割の概念を示す概略図。
【図7】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル調整メカニズムを説明する概要図。
【図8】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル調整時の基底疎密度分布変化の様子を示す概要図。
【図9】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル調整時のモデル推定値分布変化の様子を示す概要図。
【図10】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置において、モデル入出力を設定する際に画像表示装置に表示される画面の一例。
【図11】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置において、モデル調整条件を設定する際に画像表示装置に表示される画面の一例。
【図12】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置において、モデル調整結果を確認する際に画像表示装置に表示される画面の一例。
【図13】本発明のプラントの制御装置が適用される第2実施例である火力発電プラントの構成を示す概略構成図。
【図14】図13に記載した第2実施例の火力発電プラントに備えられたエアーヒーターの構成を示す概略構造図。
【図15】図13に記載した本発明の第2実施例による火力発電プラントの制御装置において、モデル入出力を設定する際に画像表示装置に表示される画面の一例。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の保守ツールに係るプラントの制御装置及び火力発電プラントの制御装置の実施例について図面を参照して説明する。
【0026】
本発明の保守ツールに係るプラントの制御装置及び火力発電プラントの制御装置の両者に共通した構成となるプラントの制御装置において、前記制御装置を構成するモデル調整部は、モデル構築データベースに保存された情報を用いてモデル構築用データのカテゴリ番号を決定するカテゴリ演算機能と、前記カテゴリ演算機能によって決定したカテゴリ情報を含むモデル構築データ情報を用いて統計モデルの半径パラメータを調整する半径調整機能のうち、少なくとも1つを備えることが望ましい。
【0027】
また、モデル構築データベースに保存される情報には、各データのモデル入力空間における座標、半径パラメータ、データ疎密度、及びデータの属するカテゴリ番号のうち、少なくとも1つの情報が含まれることが望ましい。
【0028】
また、カテゴリ演算機能は、各データの密集度を示す指標である疎密度を計算する機能と、外部入力装置より入力されたカテゴリ数情報を基に、モデル構築データの疎密度分布範囲をカテゴリ数で等分割した値を基準として各データのカテゴリ番号を決定する機能のうち、少なくとも1つを備えることが望ましい。
【0029】
また、半径調整機能は、半径パラメータを調整する際に、モデル入力空間内で任意に決定した基準モデル入力に対してその疎密度を計算する機能と、計算した疎密度が外部入力装置より入力された閾値条件を満足しない場合に、基準モデル入力の最近傍に位置するデータのカテゴリを抽出し、そのカテゴリに属するデータの半径パラメータを調整する機能のうち、少なくとも1つを備えることが望ましい。
【0030】
前記制御装置は画像表示装置と接続され、モデル構築データベースに保存された情報を画像表示装置に表示する機能と、モデル調整部で用いるモデル調整条件を、画像表示装置を介して設定する機能と、モデル調整部による統計モデルの調整結果を画像表示装置に表示する機能のうち、少なくとも1つを備えることが望ましい。
【0031】
モデル調整の条件設定を、画像表示装置を介して入力する機能を備えることにより、プラントの運転員は、プラントの制御ニーズに応じて適切なモデル調整条件を設定できる。更に、モデル調整による疎密度の推移、並びにデータと推定結果の誤差の推移を画像表示装置に表示する機能を備えることにより、プラントの運転員は、所望のモデル推定精度をモデル調整により獲得できたかを確認し、獲得できない場合には再度モデル調整を実行することができる。
【0032】
また、本発明の保守ツールに係る制御装置を火力発電プラントに適用する場合、火力発電プラントから取得する計測信号を用いて、火力発電プラントに与える制御信号を導出する制御信号生成部を備えた構成の火力発電プラントの制御装置となる。
【0033】
これらの計測信号は、火力発電プラントから排出されるガスに含まれる窒素酸化物、一酸化炭素、及び硫化水素の夫々の濃度のうち少なくとも1つを表す信号を含む。また制御信号は、空気ダンパの開度、空気流量、燃料流量、排ガス再循環流量のうち少なくとも1つを決定する信号を含む。
【0034】
前記制御装置は、火力発電プラントに制御信号を与えた時の、計測信号の値を推定する統計モデルと、前記統計モデルの構築に用いる、火力発電プラントの空気ダンパの開度、空気流量、燃料流量、排ガス再循環流量のうち少なくとも1つの情報を含むデータを保存するモデル構築データベースと、前記統計モデルを用いて、前記計測信号に相当するモデル出力が目標値を達成するように、前記制御信号に相当するモデル入力の生成方法を学習する操作方法学習部と、前記操作方法学習部における学習の制約条件及び学習結果に関する情報を保存する学習情報データベースと、前記モデル構築データベースに保存される情報に含まれる、統計モデルの半径パラメータを調整するモデル調整部とを備える。
【0035】
また、前記制御装置は画像表示装置と接続され、モデル構築データベースに保存された情報を画像表示装置に表示する機能と、モデル調整部で用いるモデル調整条件を、画像表示装置を介して設定する機能と、モデル調整部による統計モデルの調整結果を画像表示装置に表示する機能のうち、少なくとも1つを備えることが望ましい。
【0036】
本発明の保守ツールに係る制御装置を火力発電プラントの制御に適用した実施例では、火力発電プラントにおけるモデル入力に該当するバーナ、及びアフタエアポートの空気量に関する設定情報を、画像表示装置を介して入力する。
【0037】
次に、本発明の実施例である保守ツールに係るプラントの制御装置及び火力発電プラントの制御装置について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0038】
まず、本発明の第1実施例である保守ツールに係るプラントの制御装置について図面を参照して説明する。
【0039】
図1は、本発明の第1実施例による保守ツールに係るプラントの制御装置のシステム構成図である。図1に示すように、制御対象のプラント100は、制御装置200によって制御される。
【0040】
プラント100を制御する制御装置200は保守ツール910と接続されているので、プラント100の運転員は、保守ツール910に接続された外部入力装置900と画像表示装置(例えばCRTディスプレイ)920とを介して、制御装置200を制御することができる。
【0041】
制御装置200には、演算装置として、計測信号変換部300、数値解析部400、統計モデル500、モデル調整部600、制御信号生成部700、及び操作方法学習部800がそれぞれ備えられた構成となっている。
【0042】
また制御装置200には、データベース(DB)として、計測信号データベース210、モデル構築データベース220、学習情報データベース230、制御ロジックデータベース240、及び制御信号データベース250が設けられている。
【0043】
また制御装置200には、外部とのインターフェイスとして、外部入力インターフェイス201、及び外部出力インターフェイス202が設けられている。
【0044】
そしてこの制御装置200では、外部入力インターフェイス201を介して、プラント100から該プラントの各種状態量を計測した計測信号1を制御装置200の計測信号データベース210に取り込んでおり、また、制御装置200の制御信号生成部700から外部出力インターフェイス202を介して、制御対象のプラント100に対して該プラントを制御する制御信号15を、例えば供給する空気流量を制御する制御信号16として出力するように構成されている。
【0045】
この制御装置200では、外部入力インターフェイス201を介して前記プラント100から取り込んだプラント100の状態量を計測した計測信号2は、計測信号データベース210に保存される。
【0046】
また、制御装置200に設けた制御信号生成部700にて生成される制御信号15は、制御装置200に設けた制御信号データベース250に保存されると共に、外部出力インターフェイス202から前記プラント100に対する操作信号16として出力される。
【0047】
制御装置200に設けた計測信号変換部300では、計測信号データベース210に保存された計測データ3をモデル構築データ4に変換する。このモデル構築データ4は、モデル構築データベース220に保存される。また、計測データ3に含まれる直前の制御結果として得られた運転条件は、制御装置200に設けた制御信号生成部700に入力される。
【0048】
制御装置200に設けた数値解析部400では、プラント100を模擬する物理モデルを用いて、プラント100の特性を予測する。数値解析部400で実行して得られた数値解析データ5は、モデル構築データベース220に保存される。
【0049】
制御装置200に設けたモデル調整部600では、モデル構築データベース220から取り込んだモデル構築データ7に含まれるモデルパラメータ情報を更新(モデルを調整)し、更新後のモデル構築データ8をモデル構築データベース220に保存する。
【0050】
制御装置200に設けた操作方法学習部800では、学習データ12を生成し、学習情報データベース230に保存する。
【0051】
制御装置200に設けた統計モデル500は、プラント100の制御特性を模擬する機能を持つ。すなわち、操作信号16をプラント100に与え、その制御結果に対する計測信号1を得るのと同等の機能を模擬演算する。この模擬演算のために、統計モデル500は、操作方法学習部800より受けたモデル入力9と、モデル構築データベース220に保存されたモデル構築データ6とを使用する。
【0052】
このモデル入力9は、操作信号16に相当する。モデル入力9とモデル構築データ6とから、前記統計モデル500では、基底関数を用いた統計的手法によりプラント100の制御による特性変化を模擬演算して、モデル出力10を得る。
【0053】
統計モデル500で得られたモデル出力10は、プラント100の計測信号1の予測値となる。尚、モデル入力9、モデル出力10は共に、その数は1種類に限定されず、夫々複数種類用意することができる。
【0054】
ここで、基底関数を用いた統計的手法とは、モデル入力を各成分とするベクトル空間上に、保有する統計データ(本発明ではモデル構築データ6に該当)情報に応じて基底関数を配置し、その線形結合によりプラント特性の模擬演算結果(モデル特性)を出力する手法である。
【0055】
代表的な手法として、ニューラルネットワークの1手法である動径基底関数ネットワーク(Radial Basis Function Network)が挙げられるが、本発明では統計モデルの構成に関してこれに限定せず、基底関数を用いる他の手法も用いることができる。基底関数は、一般的に放射状の関数(ガウス関数)が用いられ、その形状は放射の広がりを表す半径パラメータによって決定される。
【0056】
制御装置200に設けた制御信号生成部700では、学習情報データベース230より出力された学習情報データ13、及び制御ロジックデータベース250に保存された制御ロジックデータ14を用いて、計測信号1が望ましい値となるように制御信号15を生成する。
【0057】
この制御ロジックデータベース250には、制御ロジックデータ14を算出する制御回路、及び制御パラメータが保存される。この制御ロジックデータ14を算出する制御回路には、従来技術として公知のPI(比例・積分)制御を用いることができる。
【0058】
操作方法学習部800は、学習情報データベース230に保存された学習の制約条件及び学習のパラメータ設定条件等を含む学習情報データ11を用いて、モデル入力9の操作方法を学習する。学習結果である学習データ12は、学習情報データベース230に保存される。
【0059】
このように、制御装置200の動作において、モデル構築データベース220に保存されるモデル構築データ7に含まれるモデルパラメータ情報をモデル調整部600において調整するメカニズムを具備することにより、モデル構築データ7の特性に応じた適切なモデルパラメータが提供されるため、統計モデル500におけるプラント特性の推定精度を向上できる。
【0060】
また、かかるモデル調整はデータの密度分布を基準として定式化されたアルゴリズムに従って実行されるため、特許文献1に記載したような試行錯誤的な半径パラメータの決定手段に比べモデル調整に要する時間を短縮できる。
【0061】
尚、制御装置200に設置した統計モデル500、モデル調整部600、及び操作方法学習部800の詳細な機能については、後述する。
【0062】
また、操作方法学習部800から学習情報データベース230に保存される学習データ12には、操作前後のモデル入力、及びその操作の結果得られるモデル出力に関する情報が含まれている。
【0063】
学習情報データベース230では、現在の運転条件に対応する学習データ12が選択され、学習情報データ13として制御信号生成部700に入力される。
【0064】
プラント100の運転員は、キーボード901とマウス902で構成される外部入力装置900、制御装置200とデータを送受信できる保守ツール910、及び画像表示装置920を用いることにより、制御装置200に備えられている種々のデータベースに保存された情報にアクセスすることができる。
【0065】
また、これらの装置を用いることにより、制御装置200の数値解析部400、統計モデル500、モデル調整部600、及び操作方法学習部800で用いるパラメータ設定値、学習の制約条件、及び得られた学習結果の確認に必要な設定情報を入力することができる。
【0066】
保守ツール910は、外部入力インターフェイス911、データ送受信処理部912、及び外部出力インターフェイス913で構成され、データ送受信処理部912を介して制御装置200とデータを送受信できる。
【0067】
外部入力装置900で生成した保守ツール入力信号91は、外部入力インターフェイス911を介して保守ツール910に取り込まれる。保守ツール910のデータ送受信処理部912では、保守ツール入力信号92の情報に従って、制御装置200から入出力データ情報90を取得する。
【0068】
また、データ送受信処理部912では、保守ツール入力信号92の情報に従って、制御装置200の数値解析部400、統計モデル500、モデル調整部600、及び操作方法学習部800で用いるパラメータ設定値、学習の制約条件、及び得られた学習結果の視認に必要な設定情報を含む入出力データ情報90を出力する。
【0069】
データ送受信処理部912では、入出力データ情報90を処理した結果得られる保守ツール出力信号93を、外部出力インターフェイス913に送信する。外部出力インターフェイス913から送信された保守ツール出力信号94は、画像表示装置920に表示される。
【0070】
尚、上記の制御装置200では、計測信号データベース210、モデル構築データベース220、学習情報データベース2300、制御ロジックデータベース240、及び制御信号データベース250が制御装置200の内部に配置されるが、これらの全て、あるいは一部を制御装置200の外部に配置することもできる。
【0071】
また、数値解析部400が制御装置200の内部に配置されるが、これを制御装置200の外部に配置することもできる。
【0072】
例えば、数値解析部400、及びモデル構築データベース220を制御装置200の外部に配置し、数値解析データ5をインターネット経由で制御装置200に送信するようにしてもよい。
【0073】
図2は、図1に示した第1実施例であるプラントの制御装置における制御の手順を示すフローチャート図である。
【0074】
図2では、第1実施例のプラントの制御装置200に設置されたモデル調整部600による統計モデル500の調整、及び操作方法学習部800による操作方法の学習時の動作を表すフローチャートを示している。
【0075】
図2に示したフローチャートは、ステップ1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、及び2200を組み合わせて実行する。以下では、夫々のステップについて説明する。
【0076】
制御装置200の動作開始後、まず最初に、モデル構築条件・学習条件を設定するステップ1000では、モデル構築時の実行条件、学習時の最大学習回数、最大操作回数、制約条件等、種々のパラメータ値を設定する。
【0077】
次に、統計モデルの半径を調節するステップ1100では、制御装置200のモデル調整部600を動作させ、モデル構築データ7に含まれるモデルパラメータを更新する。ここで、前記モデルパラメータは、各データの基底半径情報、中心疎密度情報、およびカテゴリ番号情報を含む。尚、モデル調整部600の詳細な機能及び動作については、後述する。
【0078】
次に、統計モデルのパラメータを学習するステップ1200では、制御装置200の統計モデル500を動作させ、統計モデル500の推定値算出に用いるパラメータを学習する。学習の具体的手段については、公知の一般的に使われている種々の方式を用いることができる。
【0079】
次に、学習回数kを初期化(k=1)するステップ1300では、ステップ1400〜2100の繰り返し回数を示す値である学習回数kを初期化(k=1に設定)する。
【0080】
次に、モデル入力の初期値を決定するステップ1400では、学習を開始する際のモデル入力9の初期値を設定する。モデル入力9の初期値としては、予め設定された操作可能範囲内の任意の値を選ぶことができる。すなわち、この操作可能範囲内であれば、初期条件として任意の状態が選択可能である。尚、モデル入力9は、通常連続値ベクトルとして表現されるが、離散値ベクトルを用いてもよい。
【0081】
次に、操作回数oを初期化(o=1)するステップ1500では、ステップ1600〜2000の繰り返し回数である操作回数oを初期化(o=1に設定)する。
【0082】
次に、モデル入力を更新するステップ1600では、決定したモデル入力9の操作量を用いてモデル入力9を更新する。
【0083】
次に、統計モデルの基底関数値を計算するステップ1700では、更新したモデル入力9を統計モデル500へ入力し、統計モデル500の各基底関数値を計算する。
【0084】
次に、モデル出力を計算するステップ1800では、前記ステップ1200で求めた統計モデル500のパラメータ、及び前記ステップ1700で求めた統計モデル500の基底関数値から、統計モデル500の演算結果であるモデル出力10を計算する。
【0085】
次に、操作方法を学習するステップ1900では、操作方法学習部800を動作させ、統計モデル500で計算したモデル出力10の値を基に、制御装置200の操作方法学習部800を動作させて、強化学習理論等の学習アルゴリズムを用いて、モデル入力9の操作方法を学習する。
【0086】
次の、操作回数oが最大値以上に達したかを判断するステップ2000は分岐である。操作回数oがステップ1000で設定した最大操作回数よりも小さい場合は、oに1を加算した後にステップ1600に戻り、oが最大操作回数に達している場合は、ステップ2100に進む。
【0087】
次の、学習回数kが最大値以上に達したかを判断するステップ2100も分岐である。学習回数kがステップ1000で設定した最大学習回数よりも小さい場合には、kに1を加算した後にステップ1400に戻り、kが最大学習回数に達している場合は、ステップ2200に進む。
【0088】
そして最後の、学習結果を学習情報データベースに保存するステップ2200では、操作方法の学習結果を学習情報データベース230に保存し、操作方法学習部800における操作方法の学習の動作を終了させるステップに進む。
【0089】
以上の動作によって、モデル調整及び操作方法の学習では、プラント100の運転員が設定したモデル調整条件、及び学習条件に基づき、モデル構築データ7に含まれるモデルパラメータ情報を更新し、また任意のモデル入力条件から望ましいモデル出力が得られる入力条件へ到達する操作方法を自律的に獲得できる。
【0090】
次に、前記制御装置200におけるモデル調整部600の動作について、図3を用いて詳細に説明する。図3は、モデル調整部600の動作を説明する図であり、図1に示した制御装置200において、モデル調整部600、及びモデル構築データベース220を含む部分を詳細に示したものである。
【0091】
前記モデル調整部600は、カテゴリ演算機能部601、及び半径調整機能部602で構成される。カテゴリ演算機能部601は、モデル構築データベース220に保存されたモデル構築データ7を用いて、各モデル構築データの密度、及び各データに配置された基底の入力空間に対する被覆率を示すパラメータである疎密度、及び疎密度を基準としてデータを分類した結果決定されるカテゴリ番号を計算し、それらを更新したモデル構築データ8をモデル構築データベース220へ保存する。
【0092】
半径調整機能部602は、前記カテゴリ演算機能部601によって更新されたモデル構築データ7を用いて、それに含まれる疎密度、及びカテゴリ情報に基づいて各モデル構築データの基底半径情報を更新し、更新後のモデル構築データ8をモデル構築データベース220へ保存する。以上の動作は図2のフローチャートにおける統計モデルの半径を調節するステップ1100に相当する。
【0093】
図4に、前記モデル構築データベース220に保存されるデータの態様の一例を示す。
【0094】
図4に示されたモデル構築データベース220に保存されたデータおいて、データID221は各モデル構築データの識別番号である。データ座標222はそのデータの入力空間における座標情報であり、同時にそのデータに対して配置される統計の基底関数の中心パラメータを意味する。
【0095】
基底半径223は、各データに対して配置される基底の広がりを示すパラメータである。疎密度224はデータの密度分布、及び入力空間に配置されている基底による、該データ座標における基底関数の被覆率を示すパラメータである。
【0096】
カテゴリ番号225は疎密度に基づき決定されるパラメータであり、疎密度224が特定の範囲に入るデータは同一のカテゴリとなり、同じカテゴリ番号が与えられる。尚、カテゴリ番号225はモデル構築データベース220に保存されるデータ数が更新される際に決定され、次にモデル構築データベース220が更新されるまで更新しない。
【0097】
以下では、前記制御装置200に設けたモデル調整部600におけるカテゴリ演算機能部601、及び半径調整機能部602によるモデル調整のアルゴリズムについて、そのフローチャート(図5)及び概念図(図6、及び図7)を参照しながら説明する。
【0098】
図5は、前記モデル調整部600によるモデル調整のアルゴリズム動作を示すフローチャートであり、図2のフローチャートにおける統計モデルの半径を調節するステップ1100に相当する。
【0099】
図5に示したフローチャートは、ステップ1101、1102、1103、1104、1105、1106、1107、1108、1109、1110、1111、及び1112を組み合わせて実行する。以下では、夫々のステップについて説明する。
【0100】
モデル調整のアルゴリズム開始後、まず最初に、モデル調整条件および基底半径を初期化するステップ1101では、モデル調整部600を動作させて、モデル調整時の最大反復回数、カテゴリ数、疎密度判定閾値、及び基底半径等の種々のパラメータ値を初期化する。
【0101】
尚、後述のカテゴリ計算時に用いるため、全てのデータの基底半径は0より大きい同一の値に初期化する。また半径値は、例えばモデル入力空間の最大距離の5〜10%程度の小さい値に設定するのが望ましい。
【0102】
次に、モデル調整の反復回数mを初期化(m=1)するステップ1102では、ステップ1106〜1111の繰り返し回数である反復回数mを初期化(m=1に設定)する。
【0103】
次に、各データの疎密度を計算するステップ1103では、モデル調整部600のカテゴリ演算機能部601を動作させ、各モデル構築データの疎密度ρiを数式(1)に従って計算する。
【0104】
【数1】
【0105】
数式(1)において、i、jはデータの添え字、Iはデータ総数、ci、cjは夫々データi、jの座標ベクトル、riはデータiの基底半径である。また、数式(1)中のΣの中身の指数関数は統計モデル500の基底関数を表す。数式(1)が示すように、疎密度はデータの基底中心に対する全ての基底関数値の平均値、即ち基底関数によるデータ座標上の被覆率となる。
【0106】
即ち、データ間の距離が小さい(データが密集している)領域のデータに対しては疎密度が大きくなり、データ間の距離が大きい(データが疎である)領域のデータに対しては小さくなる。このように疎密度を定義することにより、データの疎密分布及び被覆率をスカラ量として扱うことが可能となる。
【0107】
次に、各データのカテゴリを決定するステップ1104では、前記各データの疎密度を計算するステップ1103で計算した各データの疎密度情報を基に各データが属するカテゴリ番号を決定する。前記カテゴリ番号は、前記モデル調整条件および基底半径を初期化するステップ1101において設定されたカテゴリ数、および各データの疎密度の最大値ρmax、及び最小値ρminを用いて数式(2)に従って計算されるカテゴリ境界条件ρLnを基に決定される。数式(2)において、Nはカテゴリ数、nはカテゴリ数の添え字を意味する。
【0108】
【数2】
【0109】
以上の定義に基づくカテゴリ番号決定方法を、図6を用いて説明する。
【0110】
図6は、疎密度の分布を示す概念図であり、横軸はモデル構築データID、縦軸は疎密度を表す。図6に示すように、各データの疎密度最大値ρmaxと最小値ρminの差をカテゴリ数Nで等分した範囲が各カテゴリの領域となり、その領域は数式(2)によって計算されるカテゴリ境界条件ρLnによって定義される。即ち、カテゴリnには疎密度がρLnからρLn+1の範囲を取るデータが分類される。(但し、カテゴリNの疎密度の範囲はρLNからρmaxとなる。)後述の半径調整手法では、同一のカテゴリ番号を有するデータの基底半径の値は一様となるように調整される。カテゴリ数が多い場合には調整する基底半径のパラメータ数が多くなり、精緻な基底半径の調整が可能となるため、より大きな推定精度の改善が期待できるが、その分計算コストが高くなるのに対し、カテゴリ数が少ない場合は推定精度の改善は小さいかわりに計算コストが低くなる。プラントの運転員は、精度及び時間に関するニーズに応じて任意にカテゴリ数を設定することができる。
【0111】
次に、疎密度・カテゴリ情報をデータベースに保存するステップ1105では、計算した疎密度、及びカテゴリ番号情報を用いて更新したモデル構築データ8をモデル構築データベース220へ保存する。
【0112】
以降のステップ1106〜ステップ1111では、前記モデル調整部600の半径調整機能部602を動作させ、決定したカテゴリ情報を基にデータの基底半径を調整する。ここで、具体的な調整アルゴリズムについて、図7を用いて説明する。
【0113】
図7は、前記モデル調整部600の半径調整機能部602におけるデータの基底半径の調整を説明する概要図であり、モデル入力数を2とした場合に、モデル入力空間上に、モデル構築データベース220に保存されるモデル構築データ7をプロットしたものである。各モデル入力は[0,1]の範囲を取り、各データには基底半径の値に応じた同心円、及び各データが属するカテゴリ番号が示されている。
【0114】
図7の上図及び下図に示しているように、同一のカテゴリ番号を持つデータの基底半径は等しい。基底半径の調整は、まずモデル入力空間上に基底半径調整の基準となるモデル入力xmを決定する。そして、そのモデル入力に対する疎密度が閾値条件を満足しない場合に、そのモデル入力の最近傍に位置するデータを抽出し、そのデータと同じカテゴリに属するデータの基底半径を調整する。
【0115】
図7の下図では、モデル入力xmに対して最近傍となるデータのカテゴリ番号2が選択され、同一のカテゴリ番号を持つデータの基底半径が調整(拡大)された場合を示している。以上の処理を一定回数反復することにより、モデル入力空間を必要充分にカバーできる基底半径パラメータを得ることができる。以下では、各ステップの詳細について説明する。
【0116】
次に、モデル入力条件を決定するステップ1106では、基底半径調整時に基準となるモデル入力xmを決定する。モデル入力条件としては、操作可能範囲内の任意の値を選ぶことができる。
【0117】
次に、モデル入力に対する疎密度を計算するステップ1107では、決定したモデル入力xmに対して、数式(3)に従ってxmの疎密度ρmを計算する。
【0118】
【数3】
【0119】
次に、疎密度が閾値条件を満足するかを判断するステップ1108は分岐である。計算した疎密度ρmが予め設定した閾値条件(上下限値以内)を満足するかどうかを判定する。そして閾値条件を満足する場合は該モデル入力xmに関して、調整対象となる基底半径は存在しないと見なし、ステップ1111に進み、閾値条件を満足しない場合は、基底半径を調整するためのステップであるステップ1109に進む。
【0120】
次に、モデル入力の最新傍データが属するカテゴリを決定するステップ1109では、該モデル入力xmに対して最も距離が小さい(最近傍となる)データ、及びそのデータが属するカテゴリ番号を決定する。
【0121】
次に、最新傍データに属する基底半径を調節するステップ1110では、前記モデル入力の最新傍データが属するカテゴリを決定するステップ1109において決定された最近傍データが属するカテゴリ番号と同一のカテゴリ番号を有するデータに関して、その基底半径を調整する。
【0122】
基底半径の調整は、疎密度ρmが閾値条件の下限値を下回る場合には基底のカバーする領域を広げて疎密度を増加させるために基底半径を大きくし、上限値を上回る場合には基底のカバーする領域を縮小して疎密度を低減させるために基底半径を小さくする方針に従って実行する。
【0123】
このように、任意のモデル入力条件に対する疎密度が閾値を満足するように基底半径を調整することにより、密領域における基底の競合による推定値の過大評価、及び疎領域において基底の被覆率が充分に確保できないことによる過小評価の影響を減少させ、モデル推定精度を向上させることができる。
【0124】
次に、mが最大値以上に達したかを判断するステップ1111は分岐である。反復回数mがモデル調整条件および基底半径を初期化するステップ1101で設定した最大反復回数よりも小さい場合は、mに1を加算した後にモデル入力条件を決定するステップ1106に戻り、mが最大操作回数に達している場合は、ステップ1112に進む。
【0125】
最後に、基底半径情報をデータベースに保存するステップ1112では、調整した基底半径情報を用いてモデル構築データ8を更新してモデル構築データベース220に保存し、モデル調整部600の動作を終了させるステップに進む。
【0126】
以上に説明した制御装置200のモデル調整部600によるモデル調整のアルゴリズムの効果について、図8及び9を用いて説明する。
【0127】
図8は図7で示したものと同様のモデル入力空間及びデータ構成における疎密度分布のコンタ図であり、図8の上図が基底半径を一様の値(0.1)に設定した場合のコンタ図、図8の下図がモデル調整アルゴリズムによる半径調整後のコンタ図である。
【0128】
また図9は、図8に示した2ケースの基底半径値に対するモデル出力分布のコンタ図である。図8及び図9の両図において、図7と同様に基底半径の同心円、及び各データのカテゴリ番号を示している。
【0129】
図8、図9の上図に示すように、基底半径を一様に設定した場合、入力空間上を基底関数が充分にカバーできないため、疎密度、モデル出力いずれも基底半径の同心円の内部のみで値が大きくなっている。
【0130】
この結果、データ分布が疎な領域での推定精度が低下し、前記制御装置200の操作方法学習部800による学習を行った場合でも、所望の制御性能が得られない可能性がある。
【0131】
一方、前記制御装置200のモデル調整部600によって基底半径を調整した場合は、基底関数によって入力空間を充分カバーすることができるため、図8、図9に示すように基底の被覆率が向上することで入力空間内のほぼ全域で疎密度が増加している。そして、モデル出力値はデータ分布が疎な領域でもデータの特性に応じた値となり推定精度が向上する。
【0132】
以上の説明から明らかなように、前記制御装置200のモデル調整部600では、モデル構築データの疎密度情報に基づき、入力空間内を必要充分にカバーできるように基底半径を調整する。この結果、基底が過重にカバーする領域や被覆率が低下する領域をなくし、モデル推定精度向上に寄与できる。
【0133】
また、疎密度を手掛かりに一定の方針に従って基底半径を調整するため試行錯誤的な探索処理を排除でき、試行錯誤的な半径調整手段に比べて計算コストを低減できる。以上で、モデル調整機能600の詳細な動作の説明を終了する。
【0134】
次に、第1実施例であるプラントの制御装置において、制御装置200とデータを送受信できる保守ツール910の外部出力インターフェイス913から送信された保守ツール出力信号94を表示する画像表示装置920にて表示される画面について、図10、11、12、13及び14を用いて説明する。図10〜14は、画像表示装置920に表示される画面の一具体例である。
【0135】
図10は第1実施例であるプラントの制御装置において、モデル入出力を設定する際に画像表示装置に表示される画面例であり、第1実施例のプラントの制御装置における制御の手順を示す図2のフローチャートにおけるモデル構築条件・学習条件を設定するステップ1000のモデル構築条件設定画面の一例である。
【0136】
この図10に示したモデル入出力設定の画面では、プラントの計測データ情報に基づく入出力項目から、任意の項目を選択して制御装置200における統計モデル500のモデル入出力を設定することができる。
【0137】
図10に示す画面が前記画像表示装置920に表示された状態で、外部入力装置900のマウス902を操作して画面上の数値ボックスにフォーカスを移し、キーボード901を用いることで数値を入力できる。また、マウス902を操作して画面上のボタンをクリックすることで、ボタンを選択する(押す)ことができる。同様に、マウス902を操作して画面上のチェックボックスをクリックすることで、チェックを入れることができる。
【0138】
図10に示した画面では、まず、モデル入力設定において、入力項目リスト3000に表示された入力項目に対し、任意の項目にマウス902のフォーカスを移し、ボタンを選択することにより選択バー3001を選択した入力項目に一致させることができる。そして、ボタン3002を選択することで、選択した入力項目をモデル入力項目リスト3003に追加できる。
【0139】
さらに、数値ボックス3004、及び3005の夫々にフォーカスを移して数値を入力することで、追加したモデル入力項目に対して、その最小値及び最大値を設定できる。既に追加したモデル入力項目リストから項目を削除する場合は、削除したい項目をマウス902により選択し、ボタン3006を選択することでリストから削除できる。
【0140】
図10に示した画面では、次に、モデル出力設定において、同様に出力項目リスト3007に表示された出力項目に対し、任意の項目にマウス902のフォーカスを移し、ボタンを選択することにより選択バー3008を選択した出力項目に一致させることができる。そして、ボタン3009を選択することで、選択した出力項目をモデル出力項目リスト3010に追加できる。
【0141】
既に追加したモデル出力項目リストから項目を削除する場合は、削除したい項目をマウス902により選択し、ボタン3011を選択することでリストから削除できる。
【0142】
以上のモデル入出力設定の終了後、ボタン3012を選択すると図11に示すモデル調整条件設定画面に移る。
【0143】
図11は第1実施例であるプラントの制御装置において、モデル調整条件を設定する際に画像表示装置に表示される画面例であり、この図11に示したモデル調整条件設定の画面では、数値ボックス3100、3101、3102、3103、及び3104の夫々にフォーカスを移して数値を入力することで、図5のフローチャートにおけるモデル調整の反復回数mの最大値であるモデル調整反復回数、前記ステップ1104において用いられるカテゴリ数、前記ステップ1108において用いられる疎密度閾値の最小値、及び最大値、並びにモデル調整結果の評価に用いる推定誤差目標値を決定することができる。
【0144】
以上のモデル調整条件設定の終了後、ボタン3105を選択することで、モデル調整を開始することができる。また、ボタン3106を選択するとモデル入出力設定画面に戻る。
【0145】
図12は第1実施例であるプラントの制御装置において、モデル調整結果を確認する際に画像表示装置に表示される画面であり、第1実施例のプラントの制御装置における制御の手順を示す図2のフローチャートにおけるステップ1100のモデル調整終了後の調整結果評価時に用いる画面の一例である。
【0146】
この図12に示したモデル調整結果表示の画面では、疎密度平均推移表示画面3200として、モデル調整の反復回数mに対する疎密度の推移がグラフ3201で表示される。
【0147】
ここで、グラフの横軸はモデル調整の反復回数mであり、縦軸は各反復回数における疎密度ρmの移動平均となる。また、この疎密度平均推移表示画面3200には図11のモデル調整条件設定画面において設定した疎密度閾値の最小値3202、及び最大値3203が表示される。
【0148】
また、図12に示したモデル調整結果表示の画面では、モデル推定誤差推移表示画面3204として、モデル調整の反復回数mに対するモデル推定誤差の推移がグラフ3205で表示される。ここで、グラフの横軸はモデル調整の反復回数mであり、縦軸は各反復回数におけるモデル評価用データとモデル推定値の誤差となる。また、このモデル推定誤差推移表示画面3204には図11のモデル調整条件設定画面において設定した推定誤差目標値3206が表示される。
【0149】
プラントの運転員は、図12に示した疎密度平均推移表示画面3200、及びモデル推定誤差推移表示画面3204に表示されるモデル調整結果を見ながら、モデル調整が適切に実行されているかどうかを判断することができる。
【0150】
前記疎密度平均推移表示画面3200において、モデル調整終盤における疎密度3201が、疎密度閾値の最小値3202と最大値3203の間を推移している場合、且つ前期モデル推定誤差推移表示画面3204において、モデル調整終盤におけるモデル推定誤差3205が、推定誤差目標値3206を下回っている場合には、望ましいモデル調整結果が得られたとしてボタン3207を選択することでモデル調整を終了することができる。
【0151】
一方で、モデル調整結果が前記の条件のいずれかを満足しない場合は、ボタン3208を選択することで図11のモデル調整条件設定画面に戻り、モデル調整を再実行できる。
【0152】
このように、第1実施例のプラントの制御装置においては、図12に示したモデル調整結果表示画面に表示される情報に応じてモデル調整の終了の可否を決定できる機能を有することにより、所望の統計モデル性能が得られるまでモデル調整を繰り返すことが可能となる。その結果、モデル構築データの構成によらず一定以上の推定精度を保証するロバストな統計モデルを構築できる。
【0153】
また、モデル調整の反復回数を予め少なく設定しておくことにより、モデル調整において冗長な計算コストを削減できるため、従来想定していたよりもモデル調整に要する時間を短縮できる。そのためプラントを操作する回数を増加させ、より高い制御効果を得ることができる。
【0154】
上記した本実施例のプラントの制御装置では、前記モデル調整部により適切に調整された半径パラメータを用いることにより、統計モデルの推定精度を向上させることができる。また、かかる半径パラメータの調整において、データと推定値の誤差評価の反復処理を必要としないため、計算コストを小さくでき、制御周期以内で調整を終了させることができる。
【0155】
以上で、第1実施例であるプラントの制御装置における画像表示装置920に表示される画面についての説明を終了する。
【0156】
本実施例によれば、統計モデルを構築する際に用いるデータに偏りが存在する学習型のプラントを制御する場合でも、そのデータの偏りの分布に応じて適切に統計モデルのパラメータを制御周期以内で調整して、推定精度を向上させる機能を具備した保守ツール及び制御装置の保守ツールを実現することができる。
【実施例2】
【0157】
次に、本発明の保守ツールに係わる制御装置200を、火力発電プラントに適用した第2実施例である火力発電プラントの制御装置について説明する。
【0158】
尚、火力発電プラント以外のプラントを制御する際にも、本発明に係わる制御装置200を使用できることは言うまでもない。
【0159】
図13は、本発明に係わる制御装置200が適用される火力発電プラント100aの構成を示す概略図である。先ず、火力発電プラント100aによる発電の仕組みについて簡単に説明する。
【0160】
図13において、火力発電プラント100aを構成するボイラ101には、ミル110で石炭を細かく粉砕した燃料である微粉炭と、微粉炭搬送用の1次空気及び燃焼調整用の2次空気とを供給する複数のバーナ102が設けられており、このバーナ102を通じて供給した微粉炭を、ボイラ101の内部で燃焼させる。尚、微粉炭と1次空気は配管134から、2次空気は配管141から夫々バーナ102に導かれる。
【0161】
また、ボイラ101には、2段燃焼用の空気をボイラ101に投入するアフタエアポート103が設けられている。2段燃焼用の空気は、配管142からアフタエアポート103に導かれる。
【0162】
ボイラ101の内部で微粉炭を燃焼することによって発生した高温の燃焼ガスは、ボイラ101の内部の経路に沿って下流側に流下して、ボイラ101の内部に配置された熱交換器106で給水と熱交換して蒸気を発生させた後に、排ガスとなってボイラ101の下流側に設置されたエアーヒーター104に流入し、このエアーヒーター104で熱交換してボイラ101に供給する空気を昇温する。
【0163】
そして、このエアーヒーター104を通過した排ガスは、図示していない排ガス処理を施した後に、煙突から大気に放出される。
【0164】
ボイラ101の熱交換器106を循環する給水は、給水ポンプ105を介して熱交換器106に供給され、熱交換器106においてボイラ101を流下する燃焼ガスによって過熱され、高温高圧の蒸気となる。尚、本実施例では熱交換器の数を1つとしているが、熱交換器を複数配置するようにしてもよい。
【0165】
熱交換器106で発生した高温高圧の蒸気は、タービンガバナ107を介して蒸気タービン108に導かれ、蒸気の持つエネルギーによって蒸気タービン108を駆動して発電機109で発電する。
【0166】
上記第2実施例の火力発電プラント100aには、火力発電プラントの運転状態を示す状態量を検出する様々な計測器が配置されている。
【0167】
前記火力発電プラント100aは図1のプラント100に該当しているので、これらの計測器から取得された火力発電プラントの計測信号は、図1に示すようにプラント100から計測信号1として制御装置200の外部入力インターフェイス201に送信される。
【0168】
計測器としては、例えば図13の火力発電プラント100aに示すように、熱交換器106から蒸気タービン108に供給される高温高圧の蒸気の温度を計測する温度計測器151、蒸気の圧力を計測する圧力計測器152、発電機9で発電される電力量を計測する発電出力計測器153が図示されている。
【0169】
蒸気タービン108の復水器(図示せず)によって蒸気を冷却して生じた給水は、給水ポンプ105によってボイラ101の熱交換器106に供給されるが、この給水の流量は流量計測器150によって計測されている。
【0170】
また、ボイラ101から排出する燃焼ガスである排ガス中に含まれている成分(窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、及び硫化水素(H2S)など)の濃度に関する状態量の計測信号は、ボイラ101の下流側に設けた濃度計測器154によって計測される。
【0171】
即ち、本発明の制御装置200を上記火力発電プラント100aに適用した第2実施例の火力発電プラントの制御装置において、計測器で計測される火力発電プラント100aの計測データ項目には、上記各計測器によって計測した火力発電プラント100aの状態量であるボイラ101に供給される燃料流量、ボイラ101に供給される空気流量、ボイラ101の熱交換器106に供給される給水流量、ボイラ101の熱交換器106で発生して蒸気タービン108に供給される蒸気温度、ボイラ101の熱交換器106に供給される給水の給水圧力、ボイラ101から排出される排ガスのガス温度、前記排ガスのガス濃度、及びボイラ101から排出される排ガスの一部をボイラ101に再循環させる排ガス再循環流量等が含まれる。
【0172】
これらの計測データ項目は、図1で示した制御装置200における制御信号生成部700で演算して出力された制御信号15によって決定される計測データ項目である。
【0173】
尚、一般的には図13に図示した以外にも多数の計測器が火力発電プラント100aに配置されるが、ここでは図示を省略する。
【0174】
次に、ボイラ101の内部に投入される空気の経路、すなわちバーナ102からボイラ101の内部に投入される1次空気と2次空気の経路、及びアフタエアポート103からボイラ101の内部に投入される空気の経路について図13を用いて説明する。
【0175】
図13に示したボイラ101において、1次空気は、ファン120から配管130に導かれ、途中でボイラ101の下流側に設置されたエアーヒーター104を通過する配管132と、エアーヒーター104を通過せずにバイパスする配管131とに分岐するが、エアーヒーター104の下流側に配設した配管133となって再び合流し、バーナ102の上流側に設置された微粉炭を製造するミル110に導かれる。
【0176】
エアーヒーター104を通過する1次空気は、ボイラ101を流下する燃焼ガスと熱交換することによって加熱される。この加熱された1次空気と共に、エアーヒーター104をバイパスした1次空気は、ミル110において粉砕した微分炭をバーナ102に搬送する。
【0177】
ファン121を用いて配管140から投入された空気は、エアーヒーター104で同様にして加熱された後に、2次空気用の配管141とアフタエアポート用の配管142とに分岐して、夫々、ボイラ101のバーナ102とアフタエアポート103とに導かれる。
【0178】
第2実施例である火力発電プラントの制御装置においては、ファン121から送られてバーナ102とアフタエアポート103からボイラ101の内部へ投入される空気流量を制御する例として、2次空気用の配管141とアフタエアポート用の配管142の上流側に操作端機器となるエアダンパ162及びエアダンパ163をそれぞれ設け、制御装置200によってこれらのエアダンパ162及びエアダンパ163の開度を調節して、ボイラ101の内部に供給される2次空気とアフタエアの流量をそれぞれ制御できるように構成している。
【0179】
また、ファン120から送られてバーナ102から微粉炭と共にボイラ101の内部へ投入される空気流量を制御する例として、配管133に合流する直前部分の配管131及び配管132に操作端機器となるエアダンパ160及びエアダンパ161をそれぞれ設け、制御装置200によってこれらのエアダンパ160及びエアダンパ161の開度を調節して、ボイラ101の内部に供給される空気の流量をそれぞれ制御できるように構成している。
【0180】
前記制御装置200は、他の計測データ項目を制御することもできるので、操作端機器の設置場所を制御対象に応じて変えてもよい。
【0181】
図14は、図13に示した火力発電プラント100aのボイラ101の下流側に設置したエアーヒーター104と関連する配管部の拡大図である。
【0182】
図14に示したように、エアーヒーター104には空気を供給する配管130、及び配管140がそれぞれ設置されており、このうち、配管140はエアーヒーター104を貫通して配設され、配管130は途中から分岐した配管131と配管132によって構成されており、前記配管131はエアーヒーター104をバイパスして配設され、前記配管132はエアーヒーター104を貫通して配設されている。
【0183】
そして配管132はエアーヒーター104を貫通した後に配管131と合流した配管133となってミル110に導かれ、このミル110から該配管133を通じて微粉炭と共に空気をボイラ101のバーナ102に導くように配設されている。
【0184】
また、配管140はエアーヒーター104を貫通した後に配管141と配管142とに分岐し、このうち、配管141はボイラ101のバーナ102に、配管142はボイラ101のアフタエアポート103に、それぞれ空気を導くように配設されている。
【0185】
また、前記配管133に合流する直前部分の配管131及び配管132には、流通する空気量を調節するエアダンパ160及びエアダンパ161がそれぞれ設置され、前記配管141及び配管142の上流部分には、流通する空気量を調節するエアダンパ162及びエアダンパ163がそれぞれ設置されている。
【0186】
そして、これらのエアダンパ160〜163を操作することにより、配管131、132、141、142を空気が通過する面積を変更することができるので、配管131、132、141、142を通過してボイラ101の内部に供給される空気流量を個別に調整できる。
【0187】
制御装置200の制御信号生成部700によって演算された制御信号15を外部出力インターフェイス202を介して火力発電プラント100aに対する操作信号16として出力し、ボイラ101の配管131、132、141、142にそれぞれ設置したエアダンパ160、161、162、163などの制御端の機器を操作する。
【0188】
尚、本実施例では、エアダンパ160、161、162、163などの機器のことを操作端と呼び、これを操作するのに必要な制御装置200で演算した制御信号15が該制御装置200から前記操作端に指令する出力信号を操作信号16と呼ぶ。
【0189】
また、制御信号生成部700によって演算されて前記操作端に出力される操作信号16としては、ボイラ101に配管131、132、141、142を通じて供給される空気流量、ボイラ101に空気を供給する配管131、132、141、142にそれぞれ設置された空気の流量を調節する空気ダンパ160〜163の開度、ボイラ101のバーナ102に供給される微粉炭の燃料流量、及びボイラ101から排出される排ガスの一部をボイラ101に再循環させる排ガス再循環流量等が含まれる。
【0190】
以降では、本発明の制御装置を火力発電プラント100aに適用して、操作端をボイラ101に設置したバーナ102に供給する空気量を調節する配管131、132にそれぞれ設置されたエアダンパ160、161、及びボイラ101に設置したアフタエアポート103に供給する空気量を調節する配管141、142にそれぞれ設置されたエアダンパ162、163として、被制御量をボイラ101から排出される排ガス中のCO、NOx、及びH2Sの濃度とする場合について説明する。
【0191】
尚、本実施例では、ボイラ101の操作端の操作量(エアダンパ160、161、162、163の開度)が制御装置200を構成する統計モデル500のモデル入力に、ボイラ101から排出される排ガスに含まれるNOx、CO及びH2S濃度が統計モデル500のモデル出力になり、モデル入出力夫々の最小化が学習の目的となる。
【0192】
図15は、第2実施例である火力発電プラントの制御装置において、火力発電プラント100aの制御装置200に用いた場合に、画像表示装置920に表示される画面の一例であり、第1実施例のプラントの制御装置においてモデル入出力を設定する際に表示される画面例を示した図10に対応する、画像表示装置に表示される制御装置200を構成する統計モデル500のモデル入出力設定の画面例である。
【0193】
図15に示したモデル入出力設定の画面例では、ボイラ101の操作端であるバーナ102、及びアフタエアポート103の夫々に対して、その位置関係を把握しながら制御装置200における統計モデル500のモデル入出力が設定できるようになっている。
【0194】
具体的には、モデル入力設定の画面において、ボイラ操作端表示画面3500に表示されたモデル入力項目リスト3502に表示される入力項目に対して選択バー3503によって選択された項目に関して、その設置位置を示すボイラ操作端表示画面3500に表示される缶前のボイラ図上のシンボルがポインタ3501によって示される。
【0195】
また、この操作とは逆に、ボイラ操作端表示画面3500に表示される特定の操作端のシンボルに対して外部入力装置900のマウス902をクリックし、ポインタ3501のフォーカスを合せることにより、選択バー3503の表示位置を移動させる(入力項目を選択する)こともできる。そして、ボタン3504を選択することで、選択した入力項目をモデル入力項目リスト3503に追加できる。
【0196】
尚、図15において、数値ボックス3506、並びにモデル入力設定の画面における出力項目の選択バー3509、画面3508、3511、ボタン3510、3512、3513、及びボタン3507の機能については、図10の画面の場合と同様である。
【0197】
第2実施例の火力発電プラントの制御装置によってボイラ101に供給する空気を制御する空気量制御では、特定のバーナ及びアフタエアポートのエアダンパの調整方法に関して先験的な知見が存在し、多くの場合それに基づいた制御が実行される。
【0198】
そこで、本実施例の制御装置200におけるモデル入力設定を、図15に示したような画面構成とすることにより、プラントの運転員は、ボイラ101の操作端の位置を確認しつつ、前記先験知識に基づく制御方法を考慮した上で制御装置200における統計モデル500のモデル入出力を適切に選定することができる。
【0199】
また、図15に示した画面を用いて設定した操作端、及び最小・最大値をプラント設計情報と関連付けて理解することが可能となるため、モデル入力設定を効率化し、設定ミスの低減にも資することができる。
【0200】
以上説明したように、本発明のプラントの制御装置200を火力発電プラントに適用すれば、環境規制や運用コストに対する要求を満たす操作方法を学習することにより、火力発電プラントから排出されるNOx、CO、及びH2S濃度の目標値を達成することができる。
【0201】
本実施例によれば、統計モデルを構築する際に用いるデータに偏りが存在する学習型のプラントを制御する場合でも、そのデータの偏りの分布に応じて適切に統計モデルのパラメータを制御周期以内で調整して、推定精度を向上させる機能を具備した保守ツール及び制御装置の保守ツールを実現することができる。
【符号の説明】
【0202】
1:計測信号、16:制御信号、90:入出力データ情報、100:プラント、100a:火力発電プラント、101:ボイラ、102:バーナ、103:アフタエアポート、130〜133:配管、140〜142:配管、160〜163:エアダンパ、200:制御装置、201:外部入力インターフェイス、202:外部出力インターフェイス、210:計測信号データベース、220:モデル構築データベース、230:学習情報データベース、240:制御ロジックデータベース、250:制御信号データベース、300:計測信号変換部、400:数値解析部、500:統計モデル、600:モデル調整部、700:制御信号生成部、800:操作方法学習部、900:外部入力装置、901:キーボード、902:マウス、910:保守ツール、911:外部入力インターフェイス、912:データ送受信処理部、913:外部出力インターフェイス、920:画像表示装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、保守ツール及び制御装置の保守ツールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラントの制御装置は、制御対象であるプラントから得られる状態量の計測信号を処理し、制御対象に与える制御信号(操作信号)を算出して制御対象に伝達する。プラントの前記制御装置には、プラントの状態量の計測信号がその目標値を満足するように、操作信号を計算するアルゴリズムが実装される。
【0003】
プラントの制御に用いられている制御アルゴリズムとして、PI(比例・積分)制御アルゴリズムがある。PI制御では、プラントの状態量の計測信号とその目標値との偏差に比例ゲインを乗じた値に、偏差を時間積分した値を加算して、制御対象に与える操作信号を導出する。
【0004】
PI制御を用いた制御アルゴリズムは、ブロック線図などで入出力関係を記述することができるため、入力と出力の因果関係が分かりやすく、多くの適用実績がある。しかし、プラントの運転状態の変更や環境の変化など、事前に想定していない条件でプラントを運転する場合には、制御ロジックを変更するなどの作業が必要になる場合がある。
【0005】
一方、プラントの運転状態や環境の変化に適応できる制御方式には、制御アルゴリズムやパラメータ値を自動的に修正する適応制御や学習アルゴリズムを用いた制御方式がある。
【0006】
学習アルゴリズムを用いてプラントの制御装置の操作信号を導出する方法としては、プラントの計測データや数値解析を基に構築したデータを用いて、それらを統計的に処理してプラントの特性を推定する統計モデルを構築し、この統計モデルに対して最適な制御ロジックを自律学習させる手法が一般的である。
【0007】
この自律学習させる手法を用いて得られた制御方式の性能は統計モデルの推定精度に依存する。即ち統計モデルの特性が実際のプラント特性に近づくほど、統計モデルに対する制御結果と同等の制御効果が得られる。そのため、学習アルゴリズムを用いた適応制御技術では、より高精度な統計モデルの構築が課題となる。
【0008】
統計モデルの精度を向上させる技術として、特許文献1には、統計的手法の一つであるRBFネットワークの基底関数の半径パラメータを、探索アルゴリズムを用いて最適化する技術が記載されている。
【0009】
また、非特許文献1には、統計モデルをRBFネットワークで構成し、その基底関数の半径パラメータをモデル構築用のデータ特性(データ数、次元、距離)を基に導出した計算式によって決定する技術が記載されている。
【0010】
上記の公知技術では、モデル構築用データの特性に基づく半径の調整が実行されるため、無作為に半径を設定する場合に比べて、より実際のプラント特性に合致した統計モデルを構築できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−115639号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】北山、安田、山崎:“RBFネットワークとParticle Swarm Optimizationによる統合的最適化”、電気学会論文誌C、Vol.128、No.4、pp.636−645(2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1、及び非特許文献1に開示された技術をプラントの制御装置へ適用した場合、データに基づく統計モデルの半径パラメータ設定により、無作為に半径パラメータを設定する場合に比べて、推定精度を向上させることができる。
【0014】
一方、プラント制御において、制御による操作条件の変更後、特性が安定するまでに数分から十数分の時間を要するため、この時間を制御周期として操作条件を変更することにより、最大限の効果を得ることが期待される。
【0015】
したがって、前記統計モデルのパラメータ調整、及び学習アルゴリズムによる制御ロジックの学習は、この制御周期以内に終了することが望ましい。
【0016】
ところが、特許文献1の技術をプラントの制御装置に適用する場合、特許文献1の技術のように最適化技術を用いた半径パラメータの調整手法では、データと統計モデルの推定結果との誤差を最小化するように半径パラメータを探索するため、探索回数に応じた反復誤差評価が必要となる。誤差評価の回数はデータ数に比例して増加するため、データサイズが大きい場合には計算コストが増加し、制御周期以内で統計モデルのパラメータ調整が終了しない可能性がある。
【0017】
これに対して非特許文献1の技術では、予め導出した計算式を用いて統計モデルの半径パラメータを決定するため反復誤差評価は不要となり、計算コストは小さくなり制御周期以内で統計モデル調整を終了できる。また該技術では、統計モデル構築用のデータがある程度の等間隔に分布することを前提としており、全ての基底の半径パラメータは一様に設定される。
【0018】
ところが、非特許文献1の技術をプラントの制御装置に適用する場合、プラントの運転制御では、性能保証値を満足するために最適な操作条件下で安定的に運転することが前提となるため、獲得されるモデル構築用のデータの分布は概ね最適条件に近い領域に集中することが想定され、また前記の性能保証値遵守の観点から、データを等間隔に分布させるための作為的な操作も許容されないことが多い。
【0019】
さらに、モデル構築用のデータがある条件に集中して分布すると、一様に設定した半径パラメータでは、統計モデルの基底関数が入力空間を充分にカバーできず、推定精度が著しく低下してしまう可能性がある。
【0020】
本発明の目的は、統計モデルを構築する際に用いるデータに偏りが存在する学習型のプラントを制御する場合でも、そのデータの偏りの分布に応じて適切に統計モデルのパラメータを制御周期以内で調整して、推定精度を向上させる機能を具備した保守ツール及び制御装置の保守ツールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の保守ツールは、モデル構築データベースに保存されたモデル調整の反復回数の情報、及び疎密度の変化の情報に基づいて、モデル調整の反復回数mに対して変化する疎密度の推移を表示するように構成したことを特徴とする。
【0022】
本発明の制御装置の保守ツールは、プラントから該プラントの状態量である計測信号を取り込み、前記計測信号を用いて前記プラントを制御する操作信号を演算する制御装置の保守ツールにおいて、前記制御装置は、前記プラントの状態量である計測信号を取り込んで保存する計測信号データベースと、前記計測信号データベースに保存されたプラントの計測データから変換したモデル構築データを保存するモデル構築データベースと、前記モデル構築データベースに保存されたモデル構築データを用いて前記プラントに制御信号を与えた時に該プラントの状態量である計測信号の値を推定するプラントの制御特性を模擬する統計モデルと、前記統計モデルを用いて前記計測信号に相当するモデル出力が目標値を達成するようにプラントに与える前記制御信号に相当するモデル入力の生成方法を学習する操作方法学習部と、前記操作方法学習部における学習の制約条件及び学習結果に関する学習情報データを保存する学習情報データベースと、前記計測信号データベースの計測信号、及び前記学習情報データベースの学習情報データを用いてプラントに対して送信される制御信号を演算する制御信号生成部と、前記モデル構築データベースに保存されるモデル構築データに含まれる統計モデルの基底半径パラメータを調整するモデル調整部を設けて、前記統計モデルが前記モデル調整部による基底半径パラメータの調整結果を用いてモデル出力を生成するように構成し、前記モデル構築データベースに保存されるモデル構築データには、モデル調整の反復回数の情報、及びデータの密集度を示す疎密度の情報が含まれるように構成し、前記保守ツールは、この制御装置とデータを送受信して前記制御装置による制御結果を表示するように構成して、前記モデル構築データベースに保存されたモデル調整の反復回数の情報、及び疎密度の変化の情報に基づいて、モデル調整の反復回数mに対して変化する疎密度の推移を表示するように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、統計モデルを構築する際に用いるデータに偏りが存在する学習型のプラントを制御する場合でも、そのデータの偏りの分布に応じて適切に統計モデルのパラメータを制御周期以内で調整して、推定精度を向上させる機能を具備した保守ツール及び制御装置の保守ツールを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施例であるプラントの制御装置の構成を示すブロック図。
【図2】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置における操作方法の学習時の動作フローを示すフローチャート。
【図3】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル調整部の構成を示すブロック図。
【図4】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル構築データに保存されるデータの態様を示す図。
【図5】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル調整の動作フローを示すフローチャート。
【図6】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル調整時のカテゴリ分割の概念を示す概略図。
【図7】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル調整メカニズムを説明する概要図。
【図8】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル調整時の基底疎密度分布変化の様子を示す概要図。
【図9】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置におけるモデル調整時のモデル推定値分布変化の様子を示す概要図。
【図10】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置において、モデル入出力を設定する際に画像表示装置に表示される画面の一例。
【図11】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置において、モデル調整条件を設定する際に画像表示装置に表示される画面の一例。
【図12】図1に記載した本発明の第1実施例によるプラントの制御装置において、モデル調整結果を確認する際に画像表示装置に表示される画面の一例。
【図13】本発明のプラントの制御装置が適用される第2実施例である火力発電プラントの構成を示す概略構成図。
【図14】図13に記載した第2実施例の火力発電プラントに備えられたエアーヒーターの構成を示す概略構造図。
【図15】図13に記載した本発明の第2実施例による火力発電プラントの制御装置において、モデル入出力を設定する際に画像表示装置に表示される画面の一例。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の保守ツールに係るプラントの制御装置及び火力発電プラントの制御装置の実施例について図面を参照して説明する。
【0026】
本発明の保守ツールに係るプラントの制御装置及び火力発電プラントの制御装置の両者に共通した構成となるプラントの制御装置において、前記制御装置を構成するモデル調整部は、モデル構築データベースに保存された情報を用いてモデル構築用データのカテゴリ番号を決定するカテゴリ演算機能と、前記カテゴリ演算機能によって決定したカテゴリ情報を含むモデル構築データ情報を用いて統計モデルの半径パラメータを調整する半径調整機能のうち、少なくとも1つを備えることが望ましい。
【0027】
また、モデル構築データベースに保存される情報には、各データのモデル入力空間における座標、半径パラメータ、データ疎密度、及びデータの属するカテゴリ番号のうち、少なくとも1つの情報が含まれることが望ましい。
【0028】
また、カテゴリ演算機能は、各データの密集度を示す指標である疎密度を計算する機能と、外部入力装置より入力されたカテゴリ数情報を基に、モデル構築データの疎密度分布範囲をカテゴリ数で等分割した値を基準として各データのカテゴリ番号を決定する機能のうち、少なくとも1つを備えることが望ましい。
【0029】
また、半径調整機能は、半径パラメータを調整する際に、モデル入力空間内で任意に決定した基準モデル入力に対してその疎密度を計算する機能と、計算した疎密度が外部入力装置より入力された閾値条件を満足しない場合に、基準モデル入力の最近傍に位置するデータのカテゴリを抽出し、そのカテゴリに属するデータの半径パラメータを調整する機能のうち、少なくとも1つを備えることが望ましい。
【0030】
前記制御装置は画像表示装置と接続され、モデル構築データベースに保存された情報を画像表示装置に表示する機能と、モデル調整部で用いるモデル調整条件を、画像表示装置を介して設定する機能と、モデル調整部による統計モデルの調整結果を画像表示装置に表示する機能のうち、少なくとも1つを備えることが望ましい。
【0031】
モデル調整の条件設定を、画像表示装置を介して入力する機能を備えることにより、プラントの運転員は、プラントの制御ニーズに応じて適切なモデル調整条件を設定できる。更に、モデル調整による疎密度の推移、並びにデータと推定結果の誤差の推移を画像表示装置に表示する機能を備えることにより、プラントの運転員は、所望のモデル推定精度をモデル調整により獲得できたかを確認し、獲得できない場合には再度モデル調整を実行することができる。
【0032】
また、本発明の保守ツールに係る制御装置を火力発電プラントに適用する場合、火力発電プラントから取得する計測信号を用いて、火力発電プラントに与える制御信号を導出する制御信号生成部を備えた構成の火力発電プラントの制御装置となる。
【0033】
これらの計測信号は、火力発電プラントから排出されるガスに含まれる窒素酸化物、一酸化炭素、及び硫化水素の夫々の濃度のうち少なくとも1つを表す信号を含む。また制御信号は、空気ダンパの開度、空気流量、燃料流量、排ガス再循環流量のうち少なくとも1つを決定する信号を含む。
【0034】
前記制御装置は、火力発電プラントに制御信号を与えた時の、計測信号の値を推定する統計モデルと、前記統計モデルの構築に用いる、火力発電プラントの空気ダンパの開度、空気流量、燃料流量、排ガス再循環流量のうち少なくとも1つの情報を含むデータを保存するモデル構築データベースと、前記統計モデルを用いて、前記計測信号に相当するモデル出力が目標値を達成するように、前記制御信号に相当するモデル入力の生成方法を学習する操作方法学習部と、前記操作方法学習部における学習の制約条件及び学習結果に関する情報を保存する学習情報データベースと、前記モデル構築データベースに保存される情報に含まれる、統計モデルの半径パラメータを調整するモデル調整部とを備える。
【0035】
また、前記制御装置は画像表示装置と接続され、モデル構築データベースに保存された情報を画像表示装置に表示する機能と、モデル調整部で用いるモデル調整条件を、画像表示装置を介して設定する機能と、モデル調整部による統計モデルの調整結果を画像表示装置に表示する機能のうち、少なくとも1つを備えることが望ましい。
【0036】
本発明の保守ツールに係る制御装置を火力発電プラントの制御に適用した実施例では、火力発電プラントにおけるモデル入力に該当するバーナ、及びアフタエアポートの空気量に関する設定情報を、画像表示装置を介して入力する。
【0037】
次に、本発明の実施例である保守ツールに係るプラントの制御装置及び火力発電プラントの制御装置について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0038】
まず、本発明の第1実施例である保守ツールに係るプラントの制御装置について図面を参照して説明する。
【0039】
図1は、本発明の第1実施例による保守ツールに係るプラントの制御装置のシステム構成図である。図1に示すように、制御対象のプラント100は、制御装置200によって制御される。
【0040】
プラント100を制御する制御装置200は保守ツール910と接続されているので、プラント100の運転員は、保守ツール910に接続された外部入力装置900と画像表示装置(例えばCRTディスプレイ)920とを介して、制御装置200を制御することができる。
【0041】
制御装置200には、演算装置として、計測信号変換部300、数値解析部400、統計モデル500、モデル調整部600、制御信号生成部700、及び操作方法学習部800がそれぞれ備えられた構成となっている。
【0042】
また制御装置200には、データベース(DB)として、計測信号データベース210、モデル構築データベース220、学習情報データベース230、制御ロジックデータベース240、及び制御信号データベース250が設けられている。
【0043】
また制御装置200には、外部とのインターフェイスとして、外部入力インターフェイス201、及び外部出力インターフェイス202が設けられている。
【0044】
そしてこの制御装置200では、外部入力インターフェイス201を介して、プラント100から該プラントの各種状態量を計測した計測信号1を制御装置200の計測信号データベース210に取り込んでおり、また、制御装置200の制御信号生成部700から外部出力インターフェイス202を介して、制御対象のプラント100に対して該プラントを制御する制御信号15を、例えば供給する空気流量を制御する制御信号16として出力するように構成されている。
【0045】
この制御装置200では、外部入力インターフェイス201を介して前記プラント100から取り込んだプラント100の状態量を計測した計測信号2は、計測信号データベース210に保存される。
【0046】
また、制御装置200に設けた制御信号生成部700にて生成される制御信号15は、制御装置200に設けた制御信号データベース250に保存されると共に、外部出力インターフェイス202から前記プラント100に対する操作信号16として出力される。
【0047】
制御装置200に設けた計測信号変換部300では、計測信号データベース210に保存された計測データ3をモデル構築データ4に変換する。このモデル構築データ4は、モデル構築データベース220に保存される。また、計測データ3に含まれる直前の制御結果として得られた運転条件は、制御装置200に設けた制御信号生成部700に入力される。
【0048】
制御装置200に設けた数値解析部400では、プラント100を模擬する物理モデルを用いて、プラント100の特性を予測する。数値解析部400で実行して得られた数値解析データ5は、モデル構築データベース220に保存される。
【0049】
制御装置200に設けたモデル調整部600では、モデル構築データベース220から取り込んだモデル構築データ7に含まれるモデルパラメータ情報を更新(モデルを調整)し、更新後のモデル構築データ8をモデル構築データベース220に保存する。
【0050】
制御装置200に設けた操作方法学習部800では、学習データ12を生成し、学習情報データベース230に保存する。
【0051】
制御装置200に設けた統計モデル500は、プラント100の制御特性を模擬する機能を持つ。すなわち、操作信号16をプラント100に与え、その制御結果に対する計測信号1を得るのと同等の機能を模擬演算する。この模擬演算のために、統計モデル500は、操作方法学習部800より受けたモデル入力9と、モデル構築データベース220に保存されたモデル構築データ6とを使用する。
【0052】
このモデル入力9は、操作信号16に相当する。モデル入力9とモデル構築データ6とから、前記統計モデル500では、基底関数を用いた統計的手法によりプラント100の制御による特性変化を模擬演算して、モデル出力10を得る。
【0053】
統計モデル500で得られたモデル出力10は、プラント100の計測信号1の予測値となる。尚、モデル入力9、モデル出力10は共に、その数は1種類に限定されず、夫々複数種類用意することができる。
【0054】
ここで、基底関数を用いた統計的手法とは、モデル入力を各成分とするベクトル空間上に、保有する統計データ(本発明ではモデル構築データ6に該当)情報に応じて基底関数を配置し、その線形結合によりプラント特性の模擬演算結果(モデル特性)を出力する手法である。
【0055】
代表的な手法として、ニューラルネットワークの1手法である動径基底関数ネットワーク(Radial Basis Function Network)が挙げられるが、本発明では統計モデルの構成に関してこれに限定せず、基底関数を用いる他の手法も用いることができる。基底関数は、一般的に放射状の関数(ガウス関数)が用いられ、その形状は放射の広がりを表す半径パラメータによって決定される。
【0056】
制御装置200に設けた制御信号生成部700では、学習情報データベース230より出力された学習情報データ13、及び制御ロジックデータベース250に保存された制御ロジックデータ14を用いて、計測信号1が望ましい値となるように制御信号15を生成する。
【0057】
この制御ロジックデータベース250には、制御ロジックデータ14を算出する制御回路、及び制御パラメータが保存される。この制御ロジックデータ14を算出する制御回路には、従来技術として公知のPI(比例・積分)制御を用いることができる。
【0058】
操作方法学習部800は、学習情報データベース230に保存された学習の制約条件及び学習のパラメータ設定条件等を含む学習情報データ11を用いて、モデル入力9の操作方法を学習する。学習結果である学習データ12は、学習情報データベース230に保存される。
【0059】
このように、制御装置200の動作において、モデル構築データベース220に保存されるモデル構築データ7に含まれるモデルパラメータ情報をモデル調整部600において調整するメカニズムを具備することにより、モデル構築データ7の特性に応じた適切なモデルパラメータが提供されるため、統計モデル500におけるプラント特性の推定精度を向上できる。
【0060】
また、かかるモデル調整はデータの密度分布を基準として定式化されたアルゴリズムに従って実行されるため、特許文献1に記載したような試行錯誤的な半径パラメータの決定手段に比べモデル調整に要する時間を短縮できる。
【0061】
尚、制御装置200に設置した統計モデル500、モデル調整部600、及び操作方法学習部800の詳細な機能については、後述する。
【0062】
また、操作方法学習部800から学習情報データベース230に保存される学習データ12には、操作前後のモデル入力、及びその操作の結果得られるモデル出力に関する情報が含まれている。
【0063】
学習情報データベース230では、現在の運転条件に対応する学習データ12が選択され、学習情報データ13として制御信号生成部700に入力される。
【0064】
プラント100の運転員は、キーボード901とマウス902で構成される外部入力装置900、制御装置200とデータを送受信できる保守ツール910、及び画像表示装置920を用いることにより、制御装置200に備えられている種々のデータベースに保存された情報にアクセスすることができる。
【0065】
また、これらの装置を用いることにより、制御装置200の数値解析部400、統計モデル500、モデル調整部600、及び操作方法学習部800で用いるパラメータ設定値、学習の制約条件、及び得られた学習結果の確認に必要な設定情報を入力することができる。
【0066】
保守ツール910は、外部入力インターフェイス911、データ送受信処理部912、及び外部出力インターフェイス913で構成され、データ送受信処理部912を介して制御装置200とデータを送受信できる。
【0067】
外部入力装置900で生成した保守ツール入力信号91は、外部入力インターフェイス911を介して保守ツール910に取り込まれる。保守ツール910のデータ送受信処理部912では、保守ツール入力信号92の情報に従って、制御装置200から入出力データ情報90を取得する。
【0068】
また、データ送受信処理部912では、保守ツール入力信号92の情報に従って、制御装置200の数値解析部400、統計モデル500、モデル調整部600、及び操作方法学習部800で用いるパラメータ設定値、学習の制約条件、及び得られた学習結果の視認に必要な設定情報を含む入出力データ情報90を出力する。
【0069】
データ送受信処理部912では、入出力データ情報90を処理した結果得られる保守ツール出力信号93を、外部出力インターフェイス913に送信する。外部出力インターフェイス913から送信された保守ツール出力信号94は、画像表示装置920に表示される。
【0070】
尚、上記の制御装置200では、計測信号データベース210、モデル構築データベース220、学習情報データベース2300、制御ロジックデータベース240、及び制御信号データベース250が制御装置200の内部に配置されるが、これらの全て、あるいは一部を制御装置200の外部に配置することもできる。
【0071】
また、数値解析部400が制御装置200の内部に配置されるが、これを制御装置200の外部に配置することもできる。
【0072】
例えば、数値解析部400、及びモデル構築データベース220を制御装置200の外部に配置し、数値解析データ5をインターネット経由で制御装置200に送信するようにしてもよい。
【0073】
図2は、図1に示した第1実施例であるプラントの制御装置における制御の手順を示すフローチャート図である。
【0074】
図2では、第1実施例のプラントの制御装置200に設置されたモデル調整部600による統計モデル500の調整、及び操作方法学習部800による操作方法の学習時の動作を表すフローチャートを示している。
【0075】
図2に示したフローチャートは、ステップ1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、及び2200を組み合わせて実行する。以下では、夫々のステップについて説明する。
【0076】
制御装置200の動作開始後、まず最初に、モデル構築条件・学習条件を設定するステップ1000では、モデル構築時の実行条件、学習時の最大学習回数、最大操作回数、制約条件等、種々のパラメータ値を設定する。
【0077】
次に、統計モデルの半径を調節するステップ1100では、制御装置200のモデル調整部600を動作させ、モデル構築データ7に含まれるモデルパラメータを更新する。ここで、前記モデルパラメータは、各データの基底半径情報、中心疎密度情報、およびカテゴリ番号情報を含む。尚、モデル調整部600の詳細な機能及び動作については、後述する。
【0078】
次に、統計モデルのパラメータを学習するステップ1200では、制御装置200の統計モデル500を動作させ、統計モデル500の推定値算出に用いるパラメータを学習する。学習の具体的手段については、公知の一般的に使われている種々の方式を用いることができる。
【0079】
次に、学習回数kを初期化(k=1)するステップ1300では、ステップ1400〜2100の繰り返し回数を示す値である学習回数kを初期化(k=1に設定)する。
【0080】
次に、モデル入力の初期値を決定するステップ1400では、学習を開始する際のモデル入力9の初期値を設定する。モデル入力9の初期値としては、予め設定された操作可能範囲内の任意の値を選ぶことができる。すなわち、この操作可能範囲内であれば、初期条件として任意の状態が選択可能である。尚、モデル入力9は、通常連続値ベクトルとして表現されるが、離散値ベクトルを用いてもよい。
【0081】
次に、操作回数oを初期化(o=1)するステップ1500では、ステップ1600〜2000の繰り返し回数である操作回数oを初期化(o=1に設定)する。
【0082】
次に、モデル入力を更新するステップ1600では、決定したモデル入力9の操作量を用いてモデル入力9を更新する。
【0083】
次に、統計モデルの基底関数値を計算するステップ1700では、更新したモデル入力9を統計モデル500へ入力し、統計モデル500の各基底関数値を計算する。
【0084】
次に、モデル出力を計算するステップ1800では、前記ステップ1200で求めた統計モデル500のパラメータ、及び前記ステップ1700で求めた統計モデル500の基底関数値から、統計モデル500の演算結果であるモデル出力10を計算する。
【0085】
次に、操作方法を学習するステップ1900では、操作方法学習部800を動作させ、統計モデル500で計算したモデル出力10の値を基に、制御装置200の操作方法学習部800を動作させて、強化学習理論等の学習アルゴリズムを用いて、モデル入力9の操作方法を学習する。
【0086】
次の、操作回数oが最大値以上に達したかを判断するステップ2000は分岐である。操作回数oがステップ1000で設定した最大操作回数よりも小さい場合は、oに1を加算した後にステップ1600に戻り、oが最大操作回数に達している場合は、ステップ2100に進む。
【0087】
次の、学習回数kが最大値以上に達したかを判断するステップ2100も分岐である。学習回数kがステップ1000で設定した最大学習回数よりも小さい場合には、kに1を加算した後にステップ1400に戻り、kが最大学習回数に達している場合は、ステップ2200に進む。
【0088】
そして最後の、学習結果を学習情報データベースに保存するステップ2200では、操作方法の学習結果を学習情報データベース230に保存し、操作方法学習部800における操作方法の学習の動作を終了させるステップに進む。
【0089】
以上の動作によって、モデル調整及び操作方法の学習では、プラント100の運転員が設定したモデル調整条件、及び学習条件に基づき、モデル構築データ7に含まれるモデルパラメータ情報を更新し、また任意のモデル入力条件から望ましいモデル出力が得られる入力条件へ到達する操作方法を自律的に獲得できる。
【0090】
次に、前記制御装置200におけるモデル調整部600の動作について、図3を用いて詳細に説明する。図3は、モデル調整部600の動作を説明する図であり、図1に示した制御装置200において、モデル調整部600、及びモデル構築データベース220を含む部分を詳細に示したものである。
【0091】
前記モデル調整部600は、カテゴリ演算機能部601、及び半径調整機能部602で構成される。カテゴリ演算機能部601は、モデル構築データベース220に保存されたモデル構築データ7を用いて、各モデル構築データの密度、及び各データに配置された基底の入力空間に対する被覆率を示すパラメータである疎密度、及び疎密度を基準としてデータを分類した結果決定されるカテゴリ番号を計算し、それらを更新したモデル構築データ8をモデル構築データベース220へ保存する。
【0092】
半径調整機能部602は、前記カテゴリ演算機能部601によって更新されたモデル構築データ7を用いて、それに含まれる疎密度、及びカテゴリ情報に基づいて各モデル構築データの基底半径情報を更新し、更新後のモデル構築データ8をモデル構築データベース220へ保存する。以上の動作は図2のフローチャートにおける統計モデルの半径を調節するステップ1100に相当する。
【0093】
図4に、前記モデル構築データベース220に保存されるデータの態様の一例を示す。
【0094】
図4に示されたモデル構築データベース220に保存されたデータおいて、データID221は各モデル構築データの識別番号である。データ座標222はそのデータの入力空間における座標情報であり、同時にそのデータに対して配置される統計の基底関数の中心パラメータを意味する。
【0095】
基底半径223は、各データに対して配置される基底の広がりを示すパラメータである。疎密度224はデータの密度分布、及び入力空間に配置されている基底による、該データ座標における基底関数の被覆率を示すパラメータである。
【0096】
カテゴリ番号225は疎密度に基づき決定されるパラメータであり、疎密度224が特定の範囲に入るデータは同一のカテゴリとなり、同じカテゴリ番号が与えられる。尚、カテゴリ番号225はモデル構築データベース220に保存されるデータ数が更新される際に決定され、次にモデル構築データベース220が更新されるまで更新しない。
【0097】
以下では、前記制御装置200に設けたモデル調整部600におけるカテゴリ演算機能部601、及び半径調整機能部602によるモデル調整のアルゴリズムについて、そのフローチャート(図5)及び概念図(図6、及び図7)を参照しながら説明する。
【0098】
図5は、前記モデル調整部600によるモデル調整のアルゴリズム動作を示すフローチャートであり、図2のフローチャートにおける統計モデルの半径を調節するステップ1100に相当する。
【0099】
図5に示したフローチャートは、ステップ1101、1102、1103、1104、1105、1106、1107、1108、1109、1110、1111、及び1112を組み合わせて実行する。以下では、夫々のステップについて説明する。
【0100】
モデル調整のアルゴリズム開始後、まず最初に、モデル調整条件および基底半径を初期化するステップ1101では、モデル調整部600を動作させて、モデル調整時の最大反復回数、カテゴリ数、疎密度判定閾値、及び基底半径等の種々のパラメータ値を初期化する。
【0101】
尚、後述のカテゴリ計算時に用いるため、全てのデータの基底半径は0より大きい同一の値に初期化する。また半径値は、例えばモデル入力空間の最大距離の5〜10%程度の小さい値に設定するのが望ましい。
【0102】
次に、モデル調整の反復回数mを初期化(m=1)するステップ1102では、ステップ1106〜1111の繰り返し回数である反復回数mを初期化(m=1に設定)する。
【0103】
次に、各データの疎密度を計算するステップ1103では、モデル調整部600のカテゴリ演算機能部601を動作させ、各モデル構築データの疎密度ρiを数式(1)に従って計算する。
【0104】
【数1】
【0105】
数式(1)において、i、jはデータの添え字、Iはデータ総数、ci、cjは夫々データi、jの座標ベクトル、riはデータiの基底半径である。また、数式(1)中のΣの中身の指数関数は統計モデル500の基底関数を表す。数式(1)が示すように、疎密度はデータの基底中心に対する全ての基底関数値の平均値、即ち基底関数によるデータ座標上の被覆率となる。
【0106】
即ち、データ間の距離が小さい(データが密集している)領域のデータに対しては疎密度が大きくなり、データ間の距離が大きい(データが疎である)領域のデータに対しては小さくなる。このように疎密度を定義することにより、データの疎密分布及び被覆率をスカラ量として扱うことが可能となる。
【0107】
次に、各データのカテゴリを決定するステップ1104では、前記各データの疎密度を計算するステップ1103で計算した各データの疎密度情報を基に各データが属するカテゴリ番号を決定する。前記カテゴリ番号は、前記モデル調整条件および基底半径を初期化するステップ1101において設定されたカテゴリ数、および各データの疎密度の最大値ρmax、及び最小値ρminを用いて数式(2)に従って計算されるカテゴリ境界条件ρLnを基に決定される。数式(2)において、Nはカテゴリ数、nはカテゴリ数の添え字を意味する。
【0108】
【数2】
【0109】
以上の定義に基づくカテゴリ番号決定方法を、図6を用いて説明する。
【0110】
図6は、疎密度の分布を示す概念図であり、横軸はモデル構築データID、縦軸は疎密度を表す。図6に示すように、各データの疎密度最大値ρmaxと最小値ρminの差をカテゴリ数Nで等分した範囲が各カテゴリの領域となり、その領域は数式(2)によって計算されるカテゴリ境界条件ρLnによって定義される。即ち、カテゴリnには疎密度がρLnからρLn+1の範囲を取るデータが分類される。(但し、カテゴリNの疎密度の範囲はρLNからρmaxとなる。)後述の半径調整手法では、同一のカテゴリ番号を有するデータの基底半径の値は一様となるように調整される。カテゴリ数が多い場合には調整する基底半径のパラメータ数が多くなり、精緻な基底半径の調整が可能となるため、より大きな推定精度の改善が期待できるが、その分計算コストが高くなるのに対し、カテゴリ数が少ない場合は推定精度の改善は小さいかわりに計算コストが低くなる。プラントの運転員は、精度及び時間に関するニーズに応じて任意にカテゴリ数を設定することができる。
【0111】
次に、疎密度・カテゴリ情報をデータベースに保存するステップ1105では、計算した疎密度、及びカテゴリ番号情報を用いて更新したモデル構築データ8をモデル構築データベース220へ保存する。
【0112】
以降のステップ1106〜ステップ1111では、前記モデル調整部600の半径調整機能部602を動作させ、決定したカテゴリ情報を基にデータの基底半径を調整する。ここで、具体的な調整アルゴリズムについて、図7を用いて説明する。
【0113】
図7は、前記モデル調整部600の半径調整機能部602におけるデータの基底半径の調整を説明する概要図であり、モデル入力数を2とした場合に、モデル入力空間上に、モデル構築データベース220に保存されるモデル構築データ7をプロットしたものである。各モデル入力は[0,1]の範囲を取り、各データには基底半径の値に応じた同心円、及び各データが属するカテゴリ番号が示されている。
【0114】
図7の上図及び下図に示しているように、同一のカテゴリ番号を持つデータの基底半径は等しい。基底半径の調整は、まずモデル入力空間上に基底半径調整の基準となるモデル入力xmを決定する。そして、そのモデル入力に対する疎密度が閾値条件を満足しない場合に、そのモデル入力の最近傍に位置するデータを抽出し、そのデータと同じカテゴリに属するデータの基底半径を調整する。
【0115】
図7の下図では、モデル入力xmに対して最近傍となるデータのカテゴリ番号2が選択され、同一のカテゴリ番号を持つデータの基底半径が調整(拡大)された場合を示している。以上の処理を一定回数反復することにより、モデル入力空間を必要充分にカバーできる基底半径パラメータを得ることができる。以下では、各ステップの詳細について説明する。
【0116】
次に、モデル入力条件を決定するステップ1106では、基底半径調整時に基準となるモデル入力xmを決定する。モデル入力条件としては、操作可能範囲内の任意の値を選ぶことができる。
【0117】
次に、モデル入力に対する疎密度を計算するステップ1107では、決定したモデル入力xmに対して、数式(3)に従ってxmの疎密度ρmを計算する。
【0118】
【数3】
【0119】
次に、疎密度が閾値条件を満足するかを判断するステップ1108は分岐である。計算した疎密度ρmが予め設定した閾値条件(上下限値以内)を満足するかどうかを判定する。そして閾値条件を満足する場合は該モデル入力xmに関して、調整対象となる基底半径は存在しないと見なし、ステップ1111に進み、閾値条件を満足しない場合は、基底半径を調整するためのステップであるステップ1109に進む。
【0120】
次に、モデル入力の最新傍データが属するカテゴリを決定するステップ1109では、該モデル入力xmに対して最も距離が小さい(最近傍となる)データ、及びそのデータが属するカテゴリ番号を決定する。
【0121】
次に、最新傍データに属する基底半径を調節するステップ1110では、前記モデル入力の最新傍データが属するカテゴリを決定するステップ1109において決定された最近傍データが属するカテゴリ番号と同一のカテゴリ番号を有するデータに関して、その基底半径を調整する。
【0122】
基底半径の調整は、疎密度ρmが閾値条件の下限値を下回る場合には基底のカバーする領域を広げて疎密度を増加させるために基底半径を大きくし、上限値を上回る場合には基底のカバーする領域を縮小して疎密度を低減させるために基底半径を小さくする方針に従って実行する。
【0123】
このように、任意のモデル入力条件に対する疎密度が閾値を満足するように基底半径を調整することにより、密領域における基底の競合による推定値の過大評価、及び疎領域において基底の被覆率が充分に確保できないことによる過小評価の影響を減少させ、モデル推定精度を向上させることができる。
【0124】
次に、mが最大値以上に達したかを判断するステップ1111は分岐である。反復回数mがモデル調整条件および基底半径を初期化するステップ1101で設定した最大反復回数よりも小さい場合は、mに1を加算した後にモデル入力条件を決定するステップ1106に戻り、mが最大操作回数に達している場合は、ステップ1112に進む。
【0125】
最後に、基底半径情報をデータベースに保存するステップ1112では、調整した基底半径情報を用いてモデル構築データ8を更新してモデル構築データベース220に保存し、モデル調整部600の動作を終了させるステップに進む。
【0126】
以上に説明した制御装置200のモデル調整部600によるモデル調整のアルゴリズムの効果について、図8及び9を用いて説明する。
【0127】
図8は図7で示したものと同様のモデル入力空間及びデータ構成における疎密度分布のコンタ図であり、図8の上図が基底半径を一様の値(0.1)に設定した場合のコンタ図、図8の下図がモデル調整アルゴリズムによる半径調整後のコンタ図である。
【0128】
また図9は、図8に示した2ケースの基底半径値に対するモデル出力分布のコンタ図である。図8及び図9の両図において、図7と同様に基底半径の同心円、及び各データのカテゴリ番号を示している。
【0129】
図8、図9の上図に示すように、基底半径を一様に設定した場合、入力空間上を基底関数が充分にカバーできないため、疎密度、モデル出力いずれも基底半径の同心円の内部のみで値が大きくなっている。
【0130】
この結果、データ分布が疎な領域での推定精度が低下し、前記制御装置200の操作方法学習部800による学習を行った場合でも、所望の制御性能が得られない可能性がある。
【0131】
一方、前記制御装置200のモデル調整部600によって基底半径を調整した場合は、基底関数によって入力空間を充分カバーすることができるため、図8、図9に示すように基底の被覆率が向上することで入力空間内のほぼ全域で疎密度が増加している。そして、モデル出力値はデータ分布が疎な領域でもデータの特性に応じた値となり推定精度が向上する。
【0132】
以上の説明から明らかなように、前記制御装置200のモデル調整部600では、モデル構築データの疎密度情報に基づき、入力空間内を必要充分にカバーできるように基底半径を調整する。この結果、基底が過重にカバーする領域や被覆率が低下する領域をなくし、モデル推定精度向上に寄与できる。
【0133】
また、疎密度を手掛かりに一定の方針に従って基底半径を調整するため試行錯誤的な探索処理を排除でき、試行錯誤的な半径調整手段に比べて計算コストを低減できる。以上で、モデル調整機能600の詳細な動作の説明を終了する。
【0134】
次に、第1実施例であるプラントの制御装置において、制御装置200とデータを送受信できる保守ツール910の外部出力インターフェイス913から送信された保守ツール出力信号94を表示する画像表示装置920にて表示される画面について、図10、11、12、13及び14を用いて説明する。図10〜14は、画像表示装置920に表示される画面の一具体例である。
【0135】
図10は第1実施例であるプラントの制御装置において、モデル入出力を設定する際に画像表示装置に表示される画面例であり、第1実施例のプラントの制御装置における制御の手順を示す図2のフローチャートにおけるモデル構築条件・学習条件を設定するステップ1000のモデル構築条件設定画面の一例である。
【0136】
この図10に示したモデル入出力設定の画面では、プラントの計測データ情報に基づく入出力項目から、任意の項目を選択して制御装置200における統計モデル500のモデル入出力を設定することができる。
【0137】
図10に示す画面が前記画像表示装置920に表示された状態で、外部入力装置900のマウス902を操作して画面上の数値ボックスにフォーカスを移し、キーボード901を用いることで数値を入力できる。また、マウス902を操作して画面上のボタンをクリックすることで、ボタンを選択する(押す)ことができる。同様に、マウス902を操作して画面上のチェックボックスをクリックすることで、チェックを入れることができる。
【0138】
図10に示した画面では、まず、モデル入力設定において、入力項目リスト3000に表示された入力項目に対し、任意の項目にマウス902のフォーカスを移し、ボタンを選択することにより選択バー3001を選択した入力項目に一致させることができる。そして、ボタン3002を選択することで、選択した入力項目をモデル入力項目リスト3003に追加できる。
【0139】
さらに、数値ボックス3004、及び3005の夫々にフォーカスを移して数値を入力することで、追加したモデル入力項目に対して、その最小値及び最大値を設定できる。既に追加したモデル入力項目リストから項目を削除する場合は、削除したい項目をマウス902により選択し、ボタン3006を選択することでリストから削除できる。
【0140】
図10に示した画面では、次に、モデル出力設定において、同様に出力項目リスト3007に表示された出力項目に対し、任意の項目にマウス902のフォーカスを移し、ボタンを選択することにより選択バー3008を選択した出力項目に一致させることができる。そして、ボタン3009を選択することで、選択した出力項目をモデル出力項目リスト3010に追加できる。
【0141】
既に追加したモデル出力項目リストから項目を削除する場合は、削除したい項目をマウス902により選択し、ボタン3011を選択することでリストから削除できる。
【0142】
以上のモデル入出力設定の終了後、ボタン3012を選択すると図11に示すモデル調整条件設定画面に移る。
【0143】
図11は第1実施例であるプラントの制御装置において、モデル調整条件を設定する際に画像表示装置に表示される画面例であり、この図11に示したモデル調整条件設定の画面では、数値ボックス3100、3101、3102、3103、及び3104の夫々にフォーカスを移して数値を入力することで、図5のフローチャートにおけるモデル調整の反復回数mの最大値であるモデル調整反復回数、前記ステップ1104において用いられるカテゴリ数、前記ステップ1108において用いられる疎密度閾値の最小値、及び最大値、並びにモデル調整結果の評価に用いる推定誤差目標値を決定することができる。
【0144】
以上のモデル調整条件設定の終了後、ボタン3105を選択することで、モデル調整を開始することができる。また、ボタン3106を選択するとモデル入出力設定画面に戻る。
【0145】
図12は第1実施例であるプラントの制御装置において、モデル調整結果を確認する際に画像表示装置に表示される画面であり、第1実施例のプラントの制御装置における制御の手順を示す図2のフローチャートにおけるステップ1100のモデル調整終了後の調整結果評価時に用いる画面の一例である。
【0146】
この図12に示したモデル調整結果表示の画面では、疎密度平均推移表示画面3200として、モデル調整の反復回数mに対する疎密度の推移がグラフ3201で表示される。
【0147】
ここで、グラフの横軸はモデル調整の反復回数mであり、縦軸は各反復回数における疎密度ρmの移動平均となる。また、この疎密度平均推移表示画面3200には図11のモデル調整条件設定画面において設定した疎密度閾値の最小値3202、及び最大値3203が表示される。
【0148】
また、図12に示したモデル調整結果表示の画面では、モデル推定誤差推移表示画面3204として、モデル調整の反復回数mに対するモデル推定誤差の推移がグラフ3205で表示される。ここで、グラフの横軸はモデル調整の反復回数mであり、縦軸は各反復回数におけるモデル評価用データとモデル推定値の誤差となる。また、このモデル推定誤差推移表示画面3204には図11のモデル調整条件設定画面において設定した推定誤差目標値3206が表示される。
【0149】
プラントの運転員は、図12に示した疎密度平均推移表示画面3200、及びモデル推定誤差推移表示画面3204に表示されるモデル調整結果を見ながら、モデル調整が適切に実行されているかどうかを判断することができる。
【0150】
前記疎密度平均推移表示画面3200において、モデル調整終盤における疎密度3201が、疎密度閾値の最小値3202と最大値3203の間を推移している場合、且つ前期モデル推定誤差推移表示画面3204において、モデル調整終盤におけるモデル推定誤差3205が、推定誤差目標値3206を下回っている場合には、望ましいモデル調整結果が得られたとしてボタン3207を選択することでモデル調整を終了することができる。
【0151】
一方で、モデル調整結果が前記の条件のいずれかを満足しない場合は、ボタン3208を選択することで図11のモデル調整条件設定画面に戻り、モデル調整を再実行できる。
【0152】
このように、第1実施例のプラントの制御装置においては、図12に示したモデル調整結果表示画面に表示される情報に応じてモデル調整の終了の可否を決定できる機能を有することにより、所望の統計モデル性能が得られるまでモデル調整を繰り返すことが可能となる。その結果、モデル構築データの構成によらず一定以上の推定精度を保証するロバストな統計モデルを構築できる。
【0153】
また、モデル調整の反復回数を予め少なく設定しておくことにより、モデル調整において冗長な計算コストを削減できるため、従来想定していたよりもモデル調整に要する時間を短縮できる。そのためプラントを操作する回数を増加させ、より高い制御効果を得ることができる。
【0154】
上記した本実施例のプラントの制御装置では、前記モデル調整部により適切に調整された半径パラメータを用いることにより、統計モデルの推定精度を向上させることができる。また、かかる半径パラメータの調整において、データと推定値の誤差評価の反復処理を必要としないため、計算コストを小さくでき、制御周期以内で調整を終了させることができる。
【0155】
以上で、第1実施例であるプラントの制御装置における画像表示装置920に表示される画面についての説明を終了する。
【0156】
本実施例によれば、統計モデルを構築する際に用いるデータに偏りが存在する学習型のプラントを制御する場合でも、そのデータの偏りの分布に応じて適切に統計モデルのパラメータを制御周期以内で調整して、推定精度を向上させる機能を具備した保守ツール及び制御装置の保守ツールを実現することができる。
【実施例2】
【0157】
次に、本発明の保守ツールに係わる制御装置200を、火力発電プラントに適用した第2実施例である火力発電プラントの制御装置について説明する。
【0158】
尚、火力発電プラント以外のプラントを制御する際にも、本発明に係わる制御装置200を使用できることは言うまでもない。
【0159】
図13は、本発明に係わる制御装置200が適用される火力発電プラント100aの構成を示す概略図である。先ず、火力発電プラント100aによる発電の仕組みについて簡単に説明する。
【0160】
図13において、火力発電プラント100aを構成するボイラ101には、ミル110で石炭を細かく粉砕した燃料である微粉炭と、微粉炭搬送用の1次空気及び燃焼調整用の2次空気とを供給する複数のバーナ102が設けられており、このバーナ102を通じて供給した微粉炭を、ボイラ101の内部で燃焼させる。尚、微粉炭と1次空気は配管134から、2次空気は配管141から夫々バーナ102に導かれる。
【0161】
また、ボイラ101には、2段燃焼用の空気をボイラ101に投入するアフタエアポート103が設けられている。2段燃焼用の空気は、配管142からアフタエアポート103に導かれる。
【0162】
ボイラ101の内部で微粉炭を燃焼することによって発生した高温の燃焼ガスは、ボイラ101の内部の経路に沿って下流側に流下して、ボイラ101の内部に配置された熱交換器106で給水と熱交換して蒸気を発生させた後に、排ガスとなってボイラ101の下流側に設置されたエアーヒーター104に流入し、このエアーヒーター104で熱交換してボイラ101に供給する空気を昇温する。
【0163】
そして、このエアーヒーター104を通過した排ガスは、図示していない排ガス処理を施した後に、煙突から大気に放出される。
【0164】
ボイラ101の熱交換器106を循環する給水は、給水ポンプ105を介して熱交換器106に供給され、熱交換器106においてボイラ101を流下する燃焼ガスによって過熱され、高温高圧の蒸気となる。尚、本実施例では熱交換器の数を1つとしているが、熱交換器を複数配置するようにしてもよい。
【0165】
熱交換器106で発生した高温高圧の蒸気は、タービンガバナ107を介して蒸気タービン108に導かれ、蒸気の持つエネルギーによって蒸気タービン108を駆動して発電機109で発電する。
【0166】
上記第2実施例の火力発電プラント100aには、火力発電プラントの運転状態を示す状態量を検出する様々な計測器が配置されている。
【0167】
前記火力発電プラント100aは図1のプラント100に該当しているので、これらの計測器から取得された火力発電プラントの計測信号は、図1に示すようにプラント100から計測信号1として制御装置200の外部入力インターフェイス201に送信される。
【0168】
計測器としては、例えば図13の火力発電プラント100aに示すように、熱交換器106から蒸気タービン108に供給される高温高圧の蒸気の温度を計測する温度計測器151、蒸気の圧力を計測する圧力計測器152、発電機9で発電される電力量を計測する発電出力計測器153が図示されている。
【0169】
蒸気タービン108の復水器(図示せず)によって蒸気を冷却して生じた給水は、給水ポンプ105によってボイラ101の熱交換器106に供給されるが、この給水の流量は流量計測器150によって計測されている。
【0170】
また、ボイラ101から排出する燃焼ガスである排ガス中に含まれている成分(窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、及び硫化水素(H2S)など)の濃度に関する状態量の計測信号は、ボイラ101の下流側に設けた濃度計測器154によって計測される。
【0171】
即ち、本発明の制御装置200を上記火力発電プラント100aに適用した第2実施例の火力発電プラントの制御装置において、計測器で計測される火力発電プラント100aの計測データ項目には、上記各計測器によって計測した火力発電プラント100aの状態量であるボイラ101に供給される燃料流量、ボイラ101に供給される空気流量、ボイラ101の熱交換器106に供給される給水流量、ボイラ101の熱交換器106で発生して蒸気タービン108に供給される蒸気温度、ボイラ101の熱交換器106に供給される給水の給水圧力、ボイラ101から排出される排ガスのガス温度、前記排ガスのガス濃度、及びボイラ101から排出される排ガスの一部をボイラ101に再循環させる排ガス再循環流量等が含まれる。
【0172】
これらの計測データ項目は、図1で示した制御装置200における制御信号生成部700で演算して出力された制御信号15によって決定される計測データ項目である。
【0173】
尚、一般的には図13に図示した以外にも多数の計測器が火力発電プラント100aに配置されるが、ここでは図示を省略する。
【0174】
次に、ボイラ101の内部に投入される空気の経路、すなわちバーナ102からボイラ101の内部に投入される1次空気と2次空気の経路、及びアフタエアポート103からボイラ101の内部に投入される空気の経路について図13を用いて説明する。
【0175】
図13に示したボイラ101において、1次空気は、ファン120から配管130に導かれ、途中でボイラ101の下流側に設置されたエアーヒーター104を通過する配管132と、エアーヒーター104を通過せずにバイパスする配管131とに分岐するが、エアーヒーター104の下流側に配設した配管133となって再び合流し、バーナ102の上流側に設置された微粉炭を製造するミル110に導かれる。
【0176】
エアーヒーター104を通過する1次空気は、ボイラ101を流下する燃焼ガスと熱交換することによって加熱される。この加熱された1次空気と共に、エアーヒーター104をバイパスした1次空気は、ミル110において粉砕した微分炭をバーナ102に搬送する。
【0177】
ファン121を用いて配管140から投入された空気は、エアーヒーター104で同様にして加熱された後に、2次空気用の配管141とアフタエアポート用の配管142とに分岐して、夫々、ボイラ101のバーナ102とアフタエアポート103とに導かれる。
【0178】
第2実施例である火力発電プラントの制御装置においては、ファン121から送られてバーナ102とアフタエアポート103からボイラ101の内部へ投入される空気流量を制御する例として、2次空気用の配管141とアフタエアポート用の配管142の上流側に操作端機器となるエアダンパ162及びエアダンパ163をそれぞれ設け、制御装置200によってこれらのエアダンパ162及びエアダンパ163の開度を調節して、ボイラ101の内部に供給される2次空気とアフタエアの流量をそれぞれ制御できるように構成している。
【0179】
また、ファン120から送られてバーナ102から微粉炭と共にボイラ101の内部へ投入される空気流量を制御する例として、配管133に合流する直前部分の配管131及び配管132に操作端機器となるエアダンパ160及びエアダンパ161をそれぞれ設け、制御装置200によってこれらのエアダンパ160及びエアダンパ161の開度を調節して、ボイラ101の内部に供給される空気の流量をそれぞれ制御できるように構成している。
【0180】
前記制御装置200は、他の計測データ項目を制御することもできるので、操作端機器の設置場所を制御対象に応じて変えてもよい。
【0181】
図14は、図13に示した火力発電プラント100aのボイラ101の下流側に設置したエアーヒーター104と関連する配管部の拡大図である。
【0182】
図14に示したように、エアーヒーター104には空気を供給する配管130、及び配管140がそれぞれ設置されており、このうち、配管140はエアーヒーター104を貫通して配設され、配管130は途中から分岐した配管131と配管132によって構成されており、前記配管131はエアーヒーター104をバイパスして配設され、前記配管132はエアーヒーター104を貫通して配設されている。
【0183】
そして配管132はエアーヒーター104を貫通した後に配管131と合流した配管133となってミル110に導かれ、このミル110から該配管133を通じて微粉炭と共に空気をボイラ101のバーナ102に導くように配設されている。
【0184】
また、配管140はエアーヒーター104を貫通した後に配管141と配管142とに分岐し、このうち、配管141はボイラ101のバーナ102に、配管142はボイラ101のアフタエアポート103に、それぞれ空気を導くように配設されている。
【0185】
また、前記配管133に合流する直前部分の配管131及び配管132には、流通する空気量を調節するエアダンパ160及びエアダンパ161がそれぞれ設置され、前記配管141及び配管142の上流部分には、流通する空気量を調節するエアダンパ162及びエアダンパ163がそれぞれ設置されている。
【0186】
そして、これらのエアダンパ160〜163を操作することにより、配管131、132、141、142を空気が通過する面積を変更することができるので、配管131、132、141、142を通過してボイラ101の内部に供給される空気流量を個別に調整できる。
【0187】
制御装置200の制御信号生成部700によって演算された制御信号15を外部出力インターフェイス202を介して火力発電プラント100aに対する操作信号16として出力し、ボイラ101の配管131、132、141、142にそれぞれ設置したエアダンパ160、161、162、163などの制御端の機器を操作する。
【0188】
尚、本実施例では、エアダンパ160、161、162、163などの機器のことを操作端と呼び、これを操作するのに必要な制御装置200で演算した制御信号15が該制御装置200から前記操作端に指令する出力信号を操作信号16と呼ぶ。
【0189】
また、制御信号生成部700によって演算されて前記操作端に出力される操作信号16としては、ボイラ101に配管131、132、141、142を通じて供給される空気流量、ボイラ101に空気を供給する配管131、132、141、142にそれぞれ設置された空気の流量を調節する空気ダンパ160〜163の開度、ボイラ101のバーナ102に供給される微粉炭の燃料流量、及びボイラ101から排出される排ガスの一部をボイラ101に再循環させる排ガス再循環流量等が含まれる。
【0190】
以降では、本発明の制御装置を火力発電プラント100aに適用して、操作端をボイラ101に設置したバーナ102に供給する空気量を調節する配管131、132にそれぞれ設置されたエアダンパ160、161、及びボイラ101に設置したアフタエアポート103に供給する空気量を調節する配管141、142にそれぞれ設置されたエアダンパ162、163として、被制御量をボイラ101から排出される排ガス中のCO、NOx、及びH2Sの濃度とする場合について説明する。
【0191】
尚、本実施例では、ボイラ101の操作端の操作量(エアダンパ160、161、162、163の開度)が制御装置200を構成する統計モデル500のモデル入力に、ボイラ101から排出される排ガスに含まれるNOx、CO及びH2S濃度が統計モデル500のモデル出力になり、モデル入出力夫々の最小化が学習の目的となる。
【0192】
図15は、第2実施例である火力発電プラントの制御装置において、火力発電プラント100aの制御装置200に用いた場合に、画像表示装置920に表示される画面の一例であり、第1実施例のプラントの制御装置においてモデル入出力を設定する際に表示される画面例を示した図10に対応する、画像表示装置に表示される制御装置200を構成する統計モデル500のモデル入出力設定の画面例である。
【0193】
図15に示したモデル入出力設定の画面例では、ボイラ101の操作端であるバーナ102、及びアフタエアポート103の夫々に対して、その位置関係を把握しながら制御装置200における統計モデル500のモデル入出力が設定できるようになっている。
【0194】
具体的には、モデル入力設定の画面において、ボイラ操作端表示画面3500に表示されたモデル入力項目リスト3502に表示される入力項目に対して選択バー3503によって選択された項目に関して、その設置位置を示すボイラ操作端表示画面3500に表示される缶前のボイラ図上のシンボルがポインタ3501によって示される。
【0195】
また、この操作とは逆に、ボイラ操作端表示画面3500に表示される特定の操作端のシンボルに対して外部入力装置900のマウス902をクリックし、ポインタ3501のフォーカスを合せることにより、選択バー3503の表示位置を移動させる(入力項目を選択する)こともできる。そして、ボタン3504を選択することで、選択した入力項目をモデル入力項目リスト3503に追加できる。
【0196】
尚、図15において、数値ボックス3506、並びにモデル入力設定の画面における出力項目の選択バー3509、画面3508、3511、ボタン3510、3512、3513、及びボタン3507の機能については、図10の画面の場合と同様である。
【0197】
第2実施例の火力発電プラントの制御装置によってボイラ101に供給する空気を制御する空気量制御では、特定のバーナ及びアフタエアポートのエアダンパの調整方法に関して先験的な知見が存在し、多くの場合それに基づいた制御が実行される。
【0198】
そこで、本実施例の制御装置200におけるモデル入力設定を、図15に示したような画面構成とすることにより、プラントの運転員は、ボイラ101の操作端の位置を確認しつつ、前記先験知識に基づく制御方法を考慮した上で制御装置200における統計モデル500のモデル入出力を適切に選定することができる。
【0199】
また、図15に示した画面を用いて設定した操作端、及び最小・最大値をプラント設計情報と関連付けて理解することが可能となるため、モデル入力設定を効率化し、設定ミスの低減にも資することができる。
【0200】
以上説明したように、本発明のプラントの制御装置200を火力発電プラントに適用すれば、環境規制や運用コストに対する要求を満たす操作方法を学習することにより、火力発電プラントから排出されるNOx、CO、及びH2S濃度の目標値を達成することができる。
【0201】
本実施例によれば、統計モデルを構築する際に用いるデータに偏りが存在する学習型のプラントを制御する場合でも、そのデータの偏りの分布に応じて適切に統計モデルのパラメータを制御周期以内で調整して、推定精度を向上させる機能を具備した保守ツール及び制御装置の保守ツールを実現することができる。
【符号の説明】
【0202】
1:計測信号、16:制御信号、90:入出力データ情報、100:プラント、100a:火力発電プラント、101:ボイラ、102:バーナ、103:アフタエアポート、130〜133:配管、140〜142:配管、160〜163:エアダンパ、200:制御装置、201:外部入力インターフェイス、202:外部出力インターフェイス、210:計測信号データベース、220:モデル構築データベース、230:学習情報データベース、240:制御ロジックデータベース、250:制御信号データベース、300:計測信号変換部、400:数値解析部、500:統計モデル、600:モデル調整部、700:制御信号生成部、800:操作方法学習部、900:外部入力装置、901:キーボード、902:マウス、910:保守ツール、911:外部入力インターフェイス、912:データ送受信処理部、913:外部出力インターフェイス、920:画像表示装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モデル構築データベースを有し、前記モデル構築データベースに保存されたモデル調整の反復回数の情報、及び疎密度の変化の情報に基づいて、モデル調整の反復回数mに対して変化する疎密度の推移を表示するように構成したことを特徴とする保守ツール。
【請求項2】
請求項1に記載の保守ツールにおいて、
前記疎密度の推移を表示する際に、疎密度閾値の最大値と最小値を表示するように構成したことを特徴とする保守ツール。
【請求項3】
請求項1に記載の保守ツールにおいて、
前記疎密度の推移を表示する際に、モデル構築データベースに保存された半径調整回数の情報、モデル誤差の変化の情報に基づいて、半径調整回数に対して変化するモデル推定誤差の推移を表示するように構成したことを特徴とする保守ツール。
【請求項4】
請求項3に記載の保守ツールにおいて、
モデル推定誤差の推移を表示する際に、推定誤差の目標値を表示するように構成したことを特徴とする保守ツール。
【請求項5】
プラントから該プラントの状態量である計測信号を取り込み、前記計測信号を用いて前記プラントを制御する操作信号を演算する制御装置の保守ツールにおいて、
前記制御装置は、前記プラントの状態量である計測信号を取り込んで保存する計測信号データベースと、前記計測信号データベースに保存されたプラントの計測データから変換したモデル構築データを保存するモデル構築データベースと、前記モデル構築データベースに保存されたモデル構築データを用いて前記プラントに制御信号を与えた時に該プラントの状態量である計測信号の値を推定するプラントの制御特性を模擬する統計モデルと、前記統計モデルを用いて前記計測信号に相当するモデル出力が目標値を達成するようにプラントに与える前記制御信号に相当するモデル入力の生成方法を学習する操作方法学習部と、前記操作方法学習部における学習の制約条件及び学習結果に関する学習情報データを保存する学習情報データベースと、前記計測信号データベースの計測信号、及び前記学習情報データベースの学習情報データを用いてプラントに対して送信される制御信号を演算する制御信号生成部と、前記モデル構築データベースに保存されるモデル構築データに含まれる統計モデルの基底半径パラメータを調整するモデル調整部を設けて、前記統計モデルが前記モデル調整部による基底半径パラメータの調整結果を用いてモデル出力を生成するように構成し、
前記モデル構築データベースに保存されるモデル構築データには、モデル調整の反復回数の情報、及びデータの密集度を示す疎密度の情報が含まれるように構成し、
前記保守ツールは、この制御装置とデータを送受信して前記制御装置による制御結果を表示するように構成して、前記モデル構築データベースに保存されたモデル調整の反復回数の情報、及び疎密度の変化の情報に基づいて、モデル調整の反復回数mに対して変化する疎密度の推移を表示するように構成したことを特徴とする制御装置の保守ツール。
【請求項1】
モデル構築データベースを有し、前記モデル構築データベースに保存されたモデル調整の反復回数の情報、及び疎密度の変化の情報に基づいて、モデル調整の反復回数mに対して変化する疎密度の推移を表示するように構成したことを特徴とする保守ツール。
【請求項2】
請求項1に記載の保守ツールにおいて、
前記疎密度の推移を表示する際に、疎密度閾値の最大値と最小値を表示するように構成したことを特徴とする保守ツール。
【請求項3】
請求項1に記載の保守ツールにおいて、
前記疎密度の推移を表示する際に、モデル構築データベースに保存された半径調整回数の情報、モデル誤差の変化の情報に基づいて、半径調整回数に対して変化するモデル推定誤差の推移を表示するように構成したことを特徴とする保守ツール。
【請求項4】
請求項3に記載の保守ツールにおいて、
モデル推定誤差の推移を表示する際に、推定誤差の目標値を表示するように構成したことを特徴とする保守ツール。
【請求項5】
プラントから該プラントの状態量である計測信号を取り込み、前記計測信号を用いて前記プラントを制御する操作信号を演算する制御装置の保守ツールにおいて、
前記制御装置は、前記プラントの状態量である計測信号を取り込んで保存する計測信号データベースと、前記計測信号データベースに保存されたプラントの計測データから変換したモデル構築データを保存するモデル構築データベースと、前記モデル構築データベースに保存されたモデル構築データを用いて前記プラントに制御信号を与えた時に該プラントの状態量である計測信号の値を推定するプラントの制御特性を模擬する統計モデルと、前記統計モデルを用いて前記計測信号に相当するモデル出力が目標値を達成するようにプラントに与える前記制御信号に相当するモデル入力の生成方法を学習する操作方法学習部と、前記操作方法学習部における学習の制約条件及び学習結果に関する学習情報データを保存する学習情報データベースと、前記計測信号データベースの計測信号、及び前記学習情報データベースの学習情報データを用いてプラントに対して送信される制御信号を演算する制御信号生成部と、前記モデル構築データベースに保存されるモデル構築データに含まれる統計モデルの基底半径パラメータを調整するモデル調整部を設けて、前記統計モデルが前記モデル調整部による基底半径パラメータの調整結果を用いてモデル出力を生成するように構成し、
前記モデル構築データベースに保存されるモデル構築データには、モデル調整の反復回数の情報、及びデータの密集度を示す疎密度の情報が含まれるように構成し、
前記保守ツールは、この制御装置とデータを送受信して前記制御装置による制御結果を表示するように構成して、前記モデル構築データベースに保存されたモデル調整の反復回数の情報、及び疎密度の変化の情報に基づいて、モデル調整の反復回数mに対して変化する疎密度の推移を表示するように構成したことを特徴とする制御装置の保守ツール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−47970(P2013−47970A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−229846(P2012−229846)
【出願日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【分割の表示】特願2009−103714(P2009−103714)の分割
【原出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【分割の表示】特願2009−103714(P2009−103714)の分割
【原出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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