説明

保湿性評価方法

【課題】人の保湿性評価試験結果と対応が取れるin vitro試験にて保湿性効能を示す化粧品、日用品、医薬品、衣料品などの繊維加工製品に関する簡便で再現性の高い保湿性評価方法を提供する。
【解決手段】3次元的組織細胞培養物に被験物質を接触させて、該被験物質の人の肌に対する保湿効果を予測する保湿性評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の肌の保湿を目的とした化粧品や日用品の保湿性能評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の最外層に位置する角層は物理的に生体を保護、異物の進入を防御、あるいは生体内への水の浸入や生体からの水の蒸散を防いでいる。数週間かけて皮膚内部から表層に到達して形成される角層には、生体の様々な状態が反映される。特に皮膚病変部では皮膚内部の変化が角層の形成や機能に作用して角層水分量が変化することがある。湿疹性病変部では角層水分量は増加し、アトピー性乾皮症や乾癬ではターンオーバーの変調を反映して角層水分量が著しく低下する。また日焼けなどの炎症後にも角層水分量は低下して、時間とともにカサカサとした感触となる。逆に保湿剤の塗布によって短時間で角層水分量は増加し、塗布物質が有効であればその減衰は単に水を塗布したケースより緩やかになる。そういった物質を長期的に連用し、皮膚の状態が改善されれば、無塗布状態(素肌)の角層水分量も増加する。このような角層水分量は測定時の皮膚コンディション、受けたダメージの程度、あるいはスキンケア効果の重要な指標となっている。また、湿疹部や外傷、強い炎症時など滲出液がでるようなケースを除き、一般的にコンディショニングの良い肌では角層水分量が多く、バリア機能も優れていて異物や刺激物質によるダメージからの防御機能も高いことが多い。逆にバリア機能の低い皮膚では、皮膚水分の蒸散が激しく、角層水分量は低いことが多い。すなわち角層水分量は、角層機能の重要なバロメーターともなっている。この角層水分量を正しく、容易に、且つ、人に対して安全に測定する方法が当該製品の性能評価に望まれている。
【0003】
角層水分量の測定には、皮膚を測定に適する状態に整えることが必要である。そのためEU(EEMCO)における角層水和評価ガイドラインがある。ガイドラインには長期水和評価と短期水和評価があり、いずれも発汗しにくい環境下で一定時間馴化、被験者が12〜15名などの条件下で行うとされている。
【0004】
非侵襲的に角層水分量の測定方法する様々な方法が試みられている。しかし、実用的には市販されている汎用機器による「キャパシタンス測定法」と「コンダクタンス測定法」のいずれかの方法が選択されることが多い。いずれも皮膚に交流電流を流し、角層の電気的特性に着目し水分量に応じた値が得られる方法である。
【0005】
以上のように保湿性評価には角層水分量を測定することが代表的な方法とされているが、再現性を得るために被験者数を有る程度の大人数が必要である点、皮膚のコンディショニングが重要であり、被験者の体調、評価する季節などの外乱因子が結果に影響を与える点、試験をスムーズに進めるための験者の準備など経済面などの問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであって、人の保湿性評価試験結果と対応が取れるin vitro試験にて保湿性効能を示す化粧品、日用品、医薬品、衣料品などの繊維加工製品に関する簡便で再現性の高い保湿性評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示すような手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、人の肌の保湿を目的とした化粧品や日用品の保湿性能評価方法に関する。
1.3次元的組織細胞培養物に被験物質を接触させて、該被験物質の人の肌に対する保湿効果を予測する保湿性評価方法。
2.3次元的組織細胞培養物が、バリア能を有する構造を持つ3次元的組織細胞培養物であることを特徴とする1の保湿性評価方法。
3.3次元的組織細胞培養物が、ヒト由来組織、動物由来組織及び3次元にインビトロ再構築された組織細胞培養物からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする1又は2の保湿性評価方法。
4.バリア能を低下させた3次元的組織細胞培養物を用いることを特徴とする1〜3のいずれかの保湿性評価方法。
5.界面活性剤及び/または有機溶剤に接触させて3次元的組織細胞培養物のバリア能を低下させることを特徴とする4の保湿性評価方法。
6.3次元的組織細胞培養物を低湿度環境で乾燥することを特徴とする1〜5のいずれかの保湿性評価方法。
7.相対湿度が0%RH以上90%RH以下の環境下で、被験物質と接触させることを特徴とする1〜6のいずれかの保湿性評価方法。
8.被験物質が液体、固体、気体、ゲル状物もしくはこれらの混合物あることを特徴とする1〜7のいずれかの保湿性評価方法。
9.被験物質が液体、固体、気体、ゲル状物もしくはこれらの混合物を繊維製品へ付与したものであることを特徴とする1〜7のいずれかの保湿性評価方法。
10.3次元的組織細胞培養物を、界面活性剤及び/または有機溶剤に接触させる第一工程と、相対湿度が0%RH以上90%RH以下の環境下で被験物質と接触させる第二工程と、該3次元的組織細胞培養物の生細胞数を確認する第三工程とを備えた保湿性評価方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明による保湿性評価方法により、3次元的組織培養物を用いることから、人での保湿性評価に対して再現性が高く、評価時間も短いため経済性に優れた保湿性評価方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の保湿性評価方法は、3次元的組織細胞培養物の表面に被験物を添加し、被験物の細胞に対する反応からその被験物の人の肌に対する保湿効果を予測する方法に関するものである。3次元的組織細胞培養物中の細胞は、ヒトと同様に水分を含み細胞が活性している。この水分が乾燥して失われると細胞は活性が低下し、最終的に死滅する。また、皮膚細胞の乾燥は皮膚最表層の角層により守られている。皮膚細胞の乾燥は角層のバリア能低下によるものともいえる。すなわち、細胞の活性度合いを用いて、角層のバリア能つまり肌保湿性を予測することが出来るものと考える。
【0010】
本発明で用いる3次元的組織細胞培養物とは、ヒト由来組織、動物由来組織および3次元にインビトロ再構築された組織細胞培養物であり、バリア能を有するものであれば特に問わない。
【0011】
3次元とは、皮膚構造を再構築させたものであり、表皮層と真皮層からなる多細胞層の構造物、あるいは、表皮層のみの多細胞層の構造物である。表皮層は、表皮細胞層が積み重なった構造を有し、所定の分化した表皮細胞群で構成されたものである。3次元的組織細胞培養物は培養人工皮膚であってもよい。
【0012】
本発明の培養人工皮膚とは、天然の皮膚組織に類似したものであって、生体より単離された皮膚の細胞から、細胞培養技術を用いて皮膚構造を再構築させたものであり、表皮層と真皮層からなる多細胞層の構造物、あるいは、表皮層のみの多細胞層の構造物である。表皮層は、表皮細胞層が積み重なった構造を有し、所定の分化した表皮細胞群で構成され、各細胞は生存している。
【0013】
培養人工皮膚の構造は、具体的には、コラーゲン等の細胞外マトリックス、またはそれに皮膚線維芽細胞を含有する基材上に基底細胞層、有棘細胞層、顆粒細胞層、角質層よりなる表皮層が重層した構造を持ち、例えば、ベル(Bell) により報告されたものは、真皮から採取された線維芽細胞をコラーゲンゲル中で培養し、この上に表皮から採取した表皮細胞を培養するものである(Bell ら、Science, Vol.211, p.1052, 1981年) (図1参照)。また、コラーゲンスポンジの上に、表皮細胞を培養させ、製造する方法がある(Boyceら、Surgery, Vol.103, p.421, 1988 年) 。培養人工皮膚の市販品としては、LSE(Living Skin Equivalent、東洋紡績株式会社製) や EpiDerm (MatTek Corporation製) などがある。
【0014】
本発明では、まず、培養人工皮膚を例えば、シャーレ又は培養プレートに入れ、さらに栄養培地を培養皮膚底面に接触するように加え、皮膚表面は、空気に曝された状態で培養できるようにする(図2参照)。栄養培地としては、必須細胞栄養素を含む基礎培地、あるいはその基礎培地に種々の添加物を含む培地であり、その一例としては、ハムF-12(HamF-12) 培地とダルベッコ修正イーグル培地(DMEM)の混合培地に、牛胎児血清などの添加物を加えた培地、例えば、LSE用アッセイ培地(東洋紡績株式会社製)などを用いる。培養人工皮膚は、基本的には、実験全体にわたり、約37℃付近で、約5〜10%二酸化炭素下で維持される。
【0015】
バリア能とは、3次元的組織細胞培養物における人の皮膚角層部分と同じ機能の部位を指す。通常、その最表面がこれに該当する。バリア能は健康な肌を維持するために必要な機能である。バリア能が低下した肌はドライスキンと呼ばれている。ドライスキンとは、角層の水分保持機能の低下、水分蒸散量の増加などにより、角層中の水分量が低下した潤いのない、かさついた肌の状態をいう。このような皮膚はアトピー性皮膚炎、乾皮症(皮脂減少症)、胆汁うっ滞性肝障害、尿毒症などで観察され、難治性のかゆみを呈することが多い。角層の水分保持には皮脂、角質細胞間脂質、遊離アミノ酸(天然保湿因子またはnatural moisturizing factor:NMF)の3大保湿因子が関与している。3次元的組織細胞培養物のバリア能として必要な点は、左記3大保湿因子の内、少なくとも1つが含まれていること、且つ、この保湿因子により、バリア能の下層に位置する真皮を構成する部位、表皮を構成する部位からの外気への水分蒸散が低く抑えられているものが好ましい。
【0016】
被験物の細胞に対する反応は、バリア能に対する影響、細胞活性化、細胞増殖性など生体組織や細胞に対して刺激が加われた時に生じる保湿性に関わる種々の反応を意味する。例としては、これに限定されるものではないが、被験物質の各曝露時間後の皮膚に対する刺激度としては、細胞生存率や刺激により細胞が産生する因子量などを指標と用いて用いてもよい。例えば、被験物質の細胞に対する反応の測定方法としては、生細胞数、テトラゾリウム塩、乳酸脱水素酵素(LDH)、プロスタグランジンE2(PGE2)、インターロイキン1(IL−1)、インターロイキン8(IL−8)等の測定法によって行っても良い。
【0017】
被験物質の細胞に対する反応の測定方法にテトラゾリウム塩を利用する場合には、乳酸脱水素酵素(LDH)などの細胞内脱水素酵素の作用により遊離した水素を電子キャリアを介して受容し還元されてホルマザンとなるものが好ましい。例えば、2-(4-indophenyl)-3-(4-nitrophenyl)-5-phenyl-2H-tetrazolium chloride(INT)、2,3-bis(2-Methoxy-4-nitro-5-sulfophenyl)-2H-tetrazolium-5-carboxyanilide inner salt(XTT)、3-(4,5-dimethylthyazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetrazolium bromide(MTT)などを用いることができる。テトラゾリウム塩は、3次元的組織細胞培養物の生細胞のミトコンドリアの脱水素酵素によって還元されてホルマザンを生成する。例えば、テトラゾリウム塩としてINTを用いた場合は赤紫色のホルマザンが生成するので、500nm付近における吸光度を測定すればよく、MTTを用いた場合は青紫色のホルマザンが生成するので、562nm付近における吸光度を測定すればよく、それぞれ生成するホルマザンに適当な波長の吸光度を測定すればよい。ここで、脱水素酵素の活性と3次元的組織細胞培養物の生細胞数との間にも相関関係があるため、結局、ホルマザンを定量することにより3次元的組織細胞培養物の生細胞数がわかる。
【0018】
プロスタグランジンE2(PGE2)、インターロイキン1(IL−1)、インターロイキン8(IL−8)等の測定はエンザイムイムノアッセイ法などをもちいて測定しても良い。
【0019】
3次元的組織細胞培養物へ被験物質を接触させる手段としては、繊維製品、紙製品やガラス繊維などにしみこませて接触させたり、フイルムやガラス製品などに塗布したりして接触させてもよい。ヒト皮膚パッチテスト等に用いられるフィンチャンバー、コットンパッド、濾紙、スポンジ、ガーゼ、不織布等にしみ込ませて接触させても良い。また、直接、被験物を皮膚表面に接触させても良い。被験物は、液体、気体、固体、ゲル状物、これらには、界面活性剤(アニオン系、カチオン系、または非イオン系)とこれらの界面活性剤を含む製品、例えば、シャンプー、洗剤、コンディショナー、食器洗浄液、スキンクレンザー、クリーニング剤およびスキンケア品目などがある。上記記載から明らかな様に、医薬品、化学品およびこれらの原料などの皮膚と接触する他の成分または製品を適用しても良い。
【0020】
本発明の特徴の一つに、低湿度の環境下に被験物質暴露後の組織をおいてインキュベートすることにある。通常の3次元的組織細胞培養物のインキュベートには37℃で飽和湿度の環境下で行われる。しかしながら、本発明の試験方法は、皮膚の乾燥による細胞の活性低下からの被験物質暴露による回復効果を見ることが目的の一つである。従って、3次元的組織細胞培養物を乾燥下におくのがよい。そのため、インキュベートの条件は温度が37℃付近で、相対湿度が0%RHから90%RH、好ましくは0%RHから80%RH、さらに好ましくは10%RHから50%RH、特に好ましくは10%RH〜30%RHの乾燥した環境下で実施する事が望ましい。
【0021】
更に、本発明の特徴として、バリア能を低下させた3次元的組織細胞培養物に対して被験物を貼付することも含まれる。バリア能の低下とは、角層の保湿成分を溶出し、表皮細胞から外気への水分蒸散量を増加することである。3次元的組織細胞培養物は本来健康な皮膚をモデルとしている。健常者に対して保湿性の評価を行っても、本来健康な肌を取り戻すことが目的である保湿剤の効果は期待出来ないと考えられる。そこで、バリア能の保湿性成分を適度に溶出させ、表皮細胞からの水分蒸散量を増加促進させ、3次元的組織細胞培養物を短時間に乾燥させる方法が好ましい。本発明のバリア能破壊には界面活性剤や有機溶剤を用いることが有効であることを見出した。
【0022】
界面活性剤には特に限定はなく、アニオン性(アルキルカルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩)、非イオン性(エーテル型非イオン界面活性剤、エーテルエステル型非イオン界面活性剤、エステル型非イオン界面活性剤、ブロックポリマー型非イオン界面活性剤、含窒素型非イオン界面活性剤)及び両性(カルボン酸型両性界面活性剤(アミノ型、ベタイン型)、硫酸エステル型両性界面活性剤、スルホン酸型両性界面活性剤、リン酸エステル型両性界面活性剤)その他の界面活性剤(天然界面活性剤、タンパク質加水分解物の誘導体、高分子界面活性剤、チタン・ケイ素を含む界面活性剤、フッ化炭素系界面活性剤)の活性剤を用いることができる。好ましくは、SDS(Sodium dodecylsulfate)水溶液、Triton X−100水溶液などを用いることができる。
【0023】
有機溶剤としては、エタノール、メタノール、トルエン、アセトンなどを用いても良いがこれらに限定されるものではない。好ましくは、アセトンがよく、さらに好ましくはエタノールがよい。また、界面活性剤と有機溶剤を混合して用いても良い。
【0024】
これらの界面活性剤や有機溶剤を3次元的組織細胞培養物に被験物を貼付する前に添加し、一定時間後除去し洗浄することで、バリア能が低下した3次元的組織細胞培養物を得ることが出来る。
【0025】
たとえば、SDSおよびTritonX−100を用いる場合の水溶液濃度は、0.01%〜5%が好ましく、さらに好ましくは0.03%〜4%がよく、特に好ましくは0.05%から3%にすることが望ましい。5%を超えるとバリア能および表皮細胞全体を死滅させてしまい、0.01%を下回るとバリア能低下に至らない可能性があり好ましくないが、本発明の効果を損なわない範囲で使用してもよい。これら界面活性剤を3次元的組織細胞培養物の接触させておく時間は、10秒〜10分が好ましく、さらに好ましくは30秒〜8分がよく、特に好ましくは1分から5分が望ましい。有機溶剤に関しても3次元的組織細胞培養物に接触させる時間は10秒〜10分が好ましく、さらに好ましくは30秒〜8分がよく、特に好ましくは1分から5分が望ましい。試験点数が多い場合、バリア能破壊時間を短く設定することが作業時間の面から困難であるため、接触時間は3分〜5分が適当であるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0027】
本発明の3次元的組織細胞培養物や培養人工皮膚は、前記の方法をもちいて調整しても構わないが、市販品を使用しても構わない。例としては、テストスキン(東洋紡績株式会社製)、EP1-100(倉敷紡績株式会社製)、ビトロライフスキン(グンゼ株式会社製)を使用しても構わない。
【0028】
(実施例1)
テストスキン(東洋紡績株式会社製)LSE−003キット付属の取り扱い説明の要領に沿って組織を取り出す。薬剤暴露部位を確保するリングをLSE組織表面に接着させ、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)0.1%水溶液をリング内に添加し5分間室温で静置する。その後、SDSをアスピレーターで除去し、アッセイ培地3mlをピペットで吹きかけ洗浄。この操作にて、角層の保湿成分が溶出し、乾燥肌が作成された。
【0029】
次に、被験物として、純水、保湿性化粧液(株式会社ファンケル製 フェナティ化粧液しっとり)を各80μlマイクロピペットにてLSE(Living Skin Equivalent)組織表面に添加。室温で60分静置した後、試料をアスピレーターにて吸引除去。続いて温度37℃、相対湿度15%RHから20%RHに調整したCO2インキュベーターにLSE組織をアッセイ培地が入っていないアッセイトレイに乗せて状態で入れ、24時間インキュベートした。その後、LSE組織をCO2インキュベーターより取り出し、LSE−003キット付属の取り扱い説明の要領に沿って、テトラゾリウム塩(MTT)試薬0.333g/mlが含まれるアッセイ培地の混合液1.2mlをアッセイトレイに入れ、温度37℃、相対湿度15%RHから20%RHに調整したCO2インキュベーター内で3時間インキュベートした。MTT処理後、LSE組織中央部を8mmφのバイオプシーパンチを用いてポリカーボネートの膜ごとくり抜き、切片を小試験管に移し、0.04N塩酸―イソプロパノールを700μl加え、暗所にて2時間抽出。抽出終了後、攪拌し、十分混和後、抽出された青紫色のホルマザンの562nmの吸光度を測定。ブランクとしては、抽出に用いる酸性イソプロパノール液を用いた。
【0030】
SDSで表面処理をせず、且つ、被験物を添加しなかった組織の吸光度、SDSで表面処理行い、被験物を添加しなかった組織の吸光度、SDSで表面処理後、被験物を添加した組織の吸光度の測定値を図3に示す。SDSと被験物を添加しなかったものの吸光度に対して、SDSを添加し被験物を添加しなかったものの吸光度は、やや低下しており、細胞の活性が低下していることが明らかである。一方、SDSで表面処理後、被験物である保湿性化粧水を添加したものの吸光度は、被験物が純水のものに対して高く、細胞活性が相対的に高いことが分かる。
【0031】
上記方法で得られた結果と人の肌の保湿性の対応を次の方法で確認した。被験物に純水、保湿性化粧液(株式会社ファンケル製 フェナティ(登録商標)化粧液しっとり)をSDS0.1%水溶液で表面処理した肌に塗布し、EU(EEMCO)における角層水和評価ガイドラインに沿って8時間暴露試験を行った。被験者は20代、30代の女性計8名を用いた。角層水分量はキャパシタンス測定法であるSKICON(登録商標)―200を使用して測定した。その結果を図4に示す。保湿性化粧液を塗布した角層水分量は、純水のものに対して高く、保湿性化粧液の塗布による保湿効果が認められた。
【0032】
肌角層水分測定による保湿性化粧液の保湿性効果と、3次元的組織細胞培養物を用いた被験物暴露後の組織の抽出液吸光度には密接な関係があり、本発明の3次元的組織細胞培養物を用いた方法は、ヒトの肌の保湿性評価を定量的、簡易的、且つ経済的に実施できる有効な保湿性評価方法である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明による保湿性評価方法により、3次元的組織培養物を用いることから、人での保湿性評価に対して再現性が高く、評価時間も短いため経済性に優れた保湿性評価方法を提供することができ、産業界に大きく寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】培養人工皮膚の一例の構造を示す図である。
【図2】保湿性評価方法の一例を示す図である。
【図3】被験物貼付と細胞活性の関係を示す。X軸−被験物、Y軸−ホルマザン抽出液吸光度(O.D.562nm)
【図4】被験物の保湿性効果を示す。X軸−被験物貼付時間、Y軸−角層水分量(μS)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元的組織細胞培養物に被験物質を接触させて、該被験物質の人の肌に対する保湿効果を予測する保湿性評価方法。
【請求項2】
3次元的組織細胞培養物が、バリア能を有する構造を持つ3次元的組織細胞培養物であることを特徴とする請求項1記載の保湿性評価方法。
【請求項3】
3次元的組織細胞培養物が、ヒト由来組織、動物由来組織及び3次元にインビトロ再構築された組織細胞培養物からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の保湿性評価方法。
【請求項4】
バリア能を低下させた3次元的組織細胞培養物を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の保湿性評価方法。
【請求項5】
界面活性剤及び/または有機溶剤に接触させて3次元的組織細胞培養物のバリア能を低下させることを特徴とする請求項4に記載の保湿性評価方法。
【請求項6】
3次元的組織細胞培養物を低湿度環境で乾燥することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の保湿性評価方法。
【請求項7】
相対湿度が0%RH以上90%RH以下の環境下で、被験物質と接触させることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の保湿性評価方法。
【請求項8】
被験物質が液体、固体、気体、ゲル状物もしくはこれらの混合物あることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の保湿性評価方法。
【請求項9】
被験物質が液体、固体、気体、ゲル状物もしくはこれらの混合物を繊維製品へ付与したものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の保湿性評価方法。
【請求項10】
3次元的組織細胞培養物を、界面活性剤及び/または有機溶剤に接触させる第一工程と、相対湿度が0%RH以上90%RH以下の環境下で被験物質と接触させる第二工程と、該3次元的組織細胞培養物の生細胞数を確認する第三工程とを備えた保湿性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−127444(P2007−127444A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318426(P2005−318426)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】