説明

保護コーティング組成物

【課題】金属基体、特に、亜鉛めっきのような腐食防止手段又は亜鉛や場合によってアルミニウムのような金属粒子を含む腐食防止コーティングで前処理された金属基体上へのコーティングに適した保護コーティング組成物を提供すること。
【解決手段】耐食添加物及び/又は滑剤及び/又は増粘剤と共に、溶媒中に有機ケイ酸塩、有機ポリケイ酸塩又はコロイド状シリカからなる群から選択されるケイ酸塩と有機チタン酸塩とをバインダとして含み、金属粒子を含まない保護コーティング組成物である。このバインダは、30〜60重量%のケイ酸塩と、40〜70重量%の有機チタン酸塩とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基体、特に、亜鉛めっき(galvanisation)のような腐食防止手段又は亜鉛や場合によってアルミニウムのような金属粒子を含む腐食防止コーティングで前処理された金属基体上へのコーティングのための保護コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、亜鉛めっきは、金属基体上への保護金属層の塗布の主要な手段とされている。亜鉛めっき(galvanic)層は、更なる耐食保護手段として、多くの場合、その次に不動態化又はリン酸処理される。不動態化は、酸化膜の形成を促進し得る硝酸等の穏やかな酸化剤を用いる亜鉛めっきされたスチール又はステンレススチールの化学的処理として定義することができる。この酸化膜は、スチールを選択的酸化から保護するクロム(III)又はクロム(VI)含有液から典型的に得られる。リン酸処理は、スチールを腐食から保護する手段として、リン酸鉄などのリン酸塩を用いるスチール又は亜鉛めっきされたスチールの処理である。ラッカー又は樹脂等の形態でトップコートをさらに塗布してもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5393611号
【特許文献2】米国特許第5324545号
【特許文献3】国際公開第01/85854号
【特許文献4】米国特許第4218354号
【特許文献5】英国特許第1380748号
【特許文献6】米国特許第4098749号
【特許文献7】欧州特許第0808883号
【特許文献8】英国特許第1499556号
【特許文献9】国際公開第98/24164号
【特許文献10】米国特許第5720902号
【特許文献11】独国特許第3329158号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記工程を用いて処理されたスチール基体の1つの問題は、得られた基体は減摩性に劣り、このように処理された基体には、不動態層の上に減摩コーティングを塗布することがしばしば必要である。しかしながら、このような減摩層は、あるにしても、基体に追加的な耐食性を殆ど与えず、従来の亜鉛めっき及び不動態化/リン酸処理によって与えられる耐食性レベルをむしろ低減させることがある。
【0005】
亜鉛めっきスチール用トップコートは、米国特許第5393611号及び同第5324545号で検討されている。これら双方は、チタン酸エステルと、「いわゆる」有機官能ポリシロキサン(organofunctional polysiloxane)、好ましくは2〜10個のシロキサン繰り返し単位及びエポキシ末端基を有するものとの組成物を用いて、スチール等の上のクロム酸処理(chromatised)又は不動態化された亜鉛めっき層を保護するための浸漬コーティング方法に関する。どちらの文献においても、有機官能ポリシロキサンという用語の意味は明確に定義されていないが、少なくとも1つのSi−R結合(ここで、Rは不飽和又は官能基置換された炭化水素ラジカル)を有するシロキサン骨格を有するポリマーを意味すると思われる。しかしながら、困惑することに、米国特許第5393611号及び米国特許第5324545号双方における実施例は、有機官能ポリシロキサンを用いるよりも、好ましいケイ素含有化合物が、エポキシシラン、即ち、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランであると教示している。そして、ケイ酸塩の使用に関するわずかな示唆もない。
【0006】
厳しい天候条件にさらされる金属用腐食防止コーティングは、当業者によく知られており、一般に、金属粒子の形態の腐食防止剤を含有し、特に、亜鉛及び/又はアルミニウムフレークをバインダと共に含有する。このようなコーティングにおける亜鉛フレークの使用は、水分存在下において亜鉛は鉄より電気陰性度が低いために、鉄より優先して亜鉛が酸化されるという事実から導かれる。このような組成物におけるアルミニウムフレークの存在は、亜鉛フレークの酸化速度を抑制すると考えられる。このようなコーティングは、本出願人による同時係属中の出願である国際公開第01/85854号、並びに米国特許第4218354号、英国特許第1380748号、米国特許第4098749号及び欧州特許第0808883号で検討されている。この種の耐食コーティングは、有機樹脂から実質的になる保護トップコートを利用してもよい。
【0007】
腐食防止塗料も記載されており、例えば、英国特許第1499556号は、ケイ酸エチルを加水分解し、ゲル化可能な液状加水分解物を形成して、耐食塗料での使用のために粉末亜鉛のような粉末と混合する方法に関する。このケイ酸エチルは酸加水分解され、加水分解用の溶媒はアセトン又はアルコールであった。
【0008】
金属粒子を含有する必要のない耐食コーティングは、変圧器、発電機及びモータの磁化可能な一体コアに用いる電気スチールシート(electrosteel sheet)上の電気絶縁コーティングを製造するための2成分コーティング材料を含む(国際公開第98/24164号)。このコーティング材料は、式 M(OR)4(ここで、Mはチタン又はジルコニウムであり、Rは直鎖又は分枝状の飽和又は不飽和の炭素数1〜20のアルキル基又はキレート基、及び中性化可能又は水性媒体に容易に分散可能な基を含むポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリル酸コポリマー樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂又はアミノ樹脂である)の錯体を含む。
【0009】
米国特許第5720902号は、低炭素鋼の腐食を抑制する組成物を記載しており、(a)式RnSiX(4-n)(ここで、Xはアルコキシ基又はカルボキシ基から選択される加水分解性基であり、n=1〜3である)を有する加水分解性基を含む無機ケイ酸塩又はケイ素化合物のようなケイ酸塩化合物と、(b)フッ化ジルコン酸又はフッ化チタン酸として例示される錯フッ酸化合物と、(c)種々の錯有機ジルコニウム及び有機チタン化合物から選択される架橋剤とを含む。独国特許第3329158号は、1つ以上の撥水性又は防湿性充填剤又は添加剤を含有する硬化可能な反応性樹脂コーティング組成物に関する。この添加剤は、アルキル、アルコキシ、OC24OCH3、C36SH、アルキル−エポキシ又はアルキルアミノ、又は式 R−O−Ti(OR’)3(ここで、R及びR’は、例えば、アルコキシ、アクリル酸、長鎖カルボン酸基である)のチタン酸塩、リン酸、ピロリン酸又は亜リン酸の部分エステル化酸基、あるいはこれらの誘導体を、金属Zn及び/又はZnリン酸塩及び/又はホウ酸塩の色素粒状体又は板状体、防水カオリン又は防水高分散シリカと組み合わせたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、耐食添加物及び/又は滑剤及び/又は増粘剤と共に、溶媒中に有機ケイ酸塩、有機ポリケイ酸塩又はコロイド状シリカからなる群から選択されるケイ酸塩と有機チタン酸塩とをバインダとして含み、金属粒子を含まない保護コーティング組成物である。
【0011】
不確かさを排除するため、ケイ酸塩という用語は、Si−C結合を実質的に含まない化合物を意味し、即ち、本発明に記載されているようなケイ酸塩中の炭素とケイ素との結合は、実質的に常に酸素原子を介したもの(即ち、Si−O−C結合)であることは理解されるべきである。
【0012】
本発明による保護コーティング組成物は、不動態化工程に用いられるクロム(III)又はクロム(VI)組成物に基づく酸化物コーティング又はリン酸化工程に基づくリン酸塩主体コーティングの代わりとなる保護コーティングを提供し得る。クロム(III)又はクロム(VI)含有組成物の必要性の排除は、現在の環境問題の観点から特に好ましい。亜鉛合金という用語は、本明細書中で用いられる場合、ニッケル、マンガン及び/又は鉄との亜鉛合金のような如何なる適切な亜鉛の合金をも意味することは理解されるべきである。
【0013】
或いは、保護コーティング組成物は、先に塗布された耐食コーティングを有する非めっき金属基体表面上の保護トップコートとして利用してもよい。本発明の保護コーティング組成物の使用により、例えば、先に塗布された耐食コーティング中に含まれる金属粒子の剥離の可能性は低減するであろう。
【0014】
適切なケイ酸塩には、コロイド状シリカ、有機ケイ酸塩及び有機ポリケイ酸塩が含まれ、有機ケイ酸塩及びポリケイ酸塩が特に好ましい。適切な有機ケイ酸塩及びポリケイ酸塩には、ケイ酸エステル、例えば、ケイ酸エステルモノマー(例えば、ケイ酸エチル)、加水分解物(例えば、ケイ酸エステル加水分解物)が含まれるが、ケイ酸エステルポリマーが好ましい(例えば、ポリケイ酸エチル)。
【0015】
適切な有機チタン酸には、チタン酸キレート(例えば、チタンアセチルアセトナート及びチタン酸トリエタノールアミン)及びチタン酸エステルが含まれ、後者が好ましい。適切なチタン酸エステルには、チタン酸エステルモノマー、例えば、テトラブチルチタン酸塩、テトライソオクチルチタン酸塩、及びテトライソプロピルチタン酸塩、テトラエチルチタン酸塩、テトラプロピルチタン酸塩が含まれるが、チタン酸エステルポリマーが好ましい(例えば、ブチルポリチタン酸塩及びプロピルポリチタン酸塩)。
【0016】
好ましくは、ケイ酸塩と有機チタン酸塩との組み合わせ(以下、バインダという)は、バインダ全体100重量%に対し、30〜60重量%、より好ましくは40〜55重量%のケイ酸塩と、40〜70重量%、より好ましくは45〜60重量%の有機チタン酸塩とを含む。
【0017】
本発明の保護コーティング組成物は、金属粒子を含まない耐食添加剤として金属リン酸塩も含んでもよい。本発明者らは、このような添加剤を含有させることにより、金属基体上の如何なる形態の亜鉛コーティングの耐食効果も増強することを見出した。好ましい金属リン酸塩は、亜鉛リン酸塩であり、改質亜鉛オルトリン酸塩(例えば、改質亜鉛アルミニウム−オルトリン酸塩水和物)及び改質亜鉛ポリリン酸塩(例えば、改質亜鉛アルミニウム−ポリリン酸塩水和物)であり、後者が最も好ましい。金属リン酸塩は、本発明の組成物の固体分の33重量%以下(例えば、0.1〜33重量%)、好ましくは5〜20重量%の量で存在してもよい。
【0018】
本発明の保護コーティング組成物は、増粘剤、例えばシリカ及び/又は有機改質クレーを、組成物の固体分の5重量%以下(例えば、0.1〜5重量%)、好ましくは1.5〜3.5重量%の量でさらに含んでもよい。
【0019】
本発明の保護コーティング組成物は、滑剤、例えば炭化水素ワックス及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ワックスを含むワックス、好ましくは、ポリオレフィン含有ワックス(例えば、微粉化ポリプロピレン炭化水素ワックス)を、組成物の固体分の8重量%以下(例えば、0.1〜8重量%)、好ましくは1.5〜4.5重量%の量でさらに含んでもよい。
【0020】
本発明の保護コーティング組成物への使用に適切な溶媒は、当業者によく知られている。有機溶媒が適切であり、これには、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン)、エステル(例えば、酢酸ブチル)及びこれらの混合物が含まれる。しかし、好ましい溶媒は、炭化水素溶媒であり、特に、その高い濃縮速度及び低い芳香族化合物レベルのために、ホワイトスピリットが好ましい。特に好ましいホワイトスピリットは、炭素数11〜16のノルマル、イソ及びシクロアルカンを含むものである。
【0021】
本発明による保護コーティング組成物に添加してもよい他の成分には、カーボンブラック又は着色顔料のような着色剤及び/又は少量のアクリル樹脂等の有機樹脂が含まれる。
【0022】
このように、本発明の保護コーティング組成物は、溶媒中のバインダと、好ましくは、金属リン酸塩耐食添加剤、滑剤及び増粘剤の1つ以上、最も好ましくはそれぞれとを含む。好ましくは、保護コーティング組成物の固体分は、54〜90重量%、より好ましくは65〜90重量%のバインダと、33重量%以下、より好ましくは5〜20重量%の金属リン酸塩と、8重量%以下、より好ましくは1.5〜4.5重量%の滑剤と、4重量%以下、より好ましくは1.5〜3.5重量%の増粘剤とを含む。
【0023】
好ましくは、本発明による保護コーティング組成物は、30〜70重量%、最も好ましくは40〜60重量%の溶媒と、70〜30重量%、最も好ましくは60〜40重量%の上述したような固体とを含んでもよい。
【0024】
本発明の保護コーティング組成物は、慣用の装置を用いて、その成分を順序に関係なく混合することにより調製可能であるが、好ましい方法は、ケイ酸塩及び有機チタン酸塩を混合して混合物を形成し、滑剤及び/又は耐食添加剤及び/又は増粘剤が存在する場合には、これらを所定量(5〜25重量%)の溶媒中に別々に混合して均一な添加剤スラリを形成することを含む。スラリ及び混合物は、その後さらに残りの溶媒と共に混合される。
【0025】
本発明の保護コーティング組成物は、如何なる慣用の塗布技術、例えば、ブラッシング、浸漬、浸漬回転及び噴霧によって表面に塗布してもよい。他の一般的な塗布方法には、噴霧ドラム、遠心、静電又は自動噴霧、プリント及びローラコーティングが含まれる。選択される塗布方法は、塗布される物の形、大きさ、重さ及び量次第であろう。塗布厚みは、保護コーティング組成物の寿命及び性質に影響を与え、約1〜10μm、好ましくは、1〜6μmの範囲にあるべきである。いったん表面が保護コーティング組成物でコーティングされると、溶媒が蒸発して乾燥され、保護コーティングが硬化する。得られる保護コーティング層は、例えば、200℃で10分間加熱することにより硬化され得る。
【0026】
上述したように、保護コーティング組成物は、ガルバーニ堆積された亜鉛又は亜鉛合金層上に直接塗布してもよい。得られる保護コーティングは、クロム(III)又はクロム(VI)化合物による保護層及び/又はリン酸処理の必要性を不要とする。しかしながら、必要な場合には、そのような層の上に保護コーティング組成物を塗布されてもよい。
【0027】
亜鉛めっきされ、次いで不動態化及び/又はリン酸処理された金属基体は、減摩性に劣り、不動態化及び/又はリン酸処理された基体上に適切な減摩コーティングを塗布することがその後しばしば必要である。しかしながら、このような減摩コーティングは、基体に付加的な耐食性を殆ど与えず、実際に耐食レベルを低減させることがある。本発明のさらなる実施の形態において、本発明者らは、1層以上の有機減摩コーティングの塗布の前に、本発明による保護コーティング組成物を基体上に塗布することにより、得られる塗布基体に著しい耐食性の向上がもたらされることを見出した。これらの減摩コーティングは、水性又は有機系溶媒中の非導電性有機又は無機樹脂(例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂又はポリウレタン樹脂)及び乾燥滑剤(例えばモリブデン二硫化物、グラファイト又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE))を含んでもよい。このような製品の例には、Molykote(登録商標)製品シリーズ(Dow Corning GmbH、ヴィースバーデン(Wiesbaden)、ドイツ)、例えば、Molykote(登録商標)D708、Molykote(登録商標)D106、Molykote(登録商標)D3484、Molykote(登録商標)D7400が含まれる。
【0028】
或いは本発明の保護コーティング組成物は、金属表面に予め塗布されている耐食コーティング用トップコートとして使用してもよい。特に好ましい組み合わせの1つは、本発明による保護コーティング組成物が耐食コーティング用のトップコートとして用いられるものであり、本出願人らの同時係属中の出願である国際公開第01/85854号に開示されている。上記出願では、溶媒中のバインダと、金属粒子を含む腐食防止剤とを含むコーティング組成物が提供されている。このバインダは、ケイ酸塩、好ましくはポリケイ酸エチルと、有機チタン酸塩と、アルミニウム粒子及び亜鉛粒子、特にアルミニウムフレーク及び亜鉛フレークを含む腐食防止剤とを含む。
【0029】
コーティング層の特に好ましい組み合わせは、
1. 国際公開第01/85854号における組成物の1層、2層又は3層コーティングの後に、本発明の保護コーティング組成物の1層〜3層コーティング
2. 亜鉛めっき鉄又はスチール基体に塗布された本発明の保護コーティング組成物の1層〜3層及び必要に応じて1層〜3層の有機減摩コーティング
を含む。
【0030】
したがって、本発明による保護コーティング組成物は、自動車の部材、例えば、ナット、ボルト及び他のファスナ、ドア、ボンネット及びブーツブロック部品、ヒンジ、ドアストッパ、ウインドウガイド、シートベルト部材、ブレーキロータ及びドラム、及び他の輸送産業関連部品のような物品のための、亜鉛めっき層及び耐食コーティング双方における高い耐食性、並びに任意の規定寿命間潤滑(for-life lubrication)及び一定の摩擦係数を改善するために用いてもよい。
【0031】
本発明のさらなる実施の形態は、上記のような保護コーティング組成物が塗布された基体、及び上記のような保護コーティング組成物をそのような基体に塗布する方法に関する。
【0032】
本発明による保護コーティング組成物の提供は、防食性のレベルを上昇させることができ、必要に応じて、定義され且つ一定の摩擦係数を有する寿命間乾燥潤滑(すなわち、金属表面はその実用寿命の間に一度しかコーティングを必要としない)がもたらされる。一方で、クロム(VI)は必要とせず、従来技術に記載したような高価な成分、例えば、フッ化ジルコン酸及びフッ化チタン酸等の錯フッ酸を必要としない。このような保護コーティング組成物の提供は、該コーティングでコーティングされた物品に魅力的な外観ももたらす。
【0033】
以下、本発明を実施例により説明する。すべての%は重量%である。白さびの表示は、コーティングされた基体表面上の白色粉末/物質の形成に関し、これは亜鉛酸化の反応生成物であることは理解されるべきである。赤さびは、鉄の酸化によるものである。少なくとも部分的に亜鉛金属を含む層でコーティングされたスチール製品において、観察者は白さびの形成に最初に気づくであろうし、そして実質的にすべての利用可能な亜鉛が酸化されれば、赤さびの形成が観察されるであろう。
【実施例】
【0034】
実施例1
本発明による保護コーティング組成物を以下及び第1表に示す材料を混合して調製した。第1表は本発明による保護コーティング組成物を示す。サンプル1は、耐食添加剤であるリン酸亜鉛−アルミニウムが除かれていることが分かるであろう。それぞれの場合において、保護コーティング組成物は、国際公開第01/85854号による8重量%のポリケイ酸エチルポリマーと、13重量%のチタン酸ポリブチルと、3重量%のアルミニウム顔料と、33重量%の亜鉛顔料と、5重量%のリン酸亜鉛−アルミニウムと、34重量%のペトロリウムホワイトスピリットと、2重量%のポリプロピレンワックスと、0.6重量%のシリカと、0.6重量%の有機改質クレーとを含む耐食コーティング(以下、ベースコートという)が予めコーティングされたボルト上に塗布された。
【0035】
下記第1表に示す保護コーティング組成物は以下のように調製した:
チタン酸ポリブチル及びポリケイ酸エチルを、溶解板を備えた混合釜中に10分間添加した。同時に、部分量のペトロリウムホワイトスピリット(サンプル2では約9重量%の溶媒、サンプル1では約20重量%の溶媒)中のシリカと、クレーと、リン酸亜鉛−アルミニウム(存在する場合)と、ポリプロピレンワックスとからなるスラリを、Ultra turraxホモジナイザ中で調製した。次いで、チタン酸ポリブチルとポリケイ酸エチルとの混合物中にスラリを添加し、得られた混合物を溶解板で30分間混合した後、溶媒の残部を加え、最終混合物を溶解板の存在下でさらに10分間混合した。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例2−基体前処理
径10mm×長さ60mmのスチールボルトをサンドブラストにより前処理した。
【0038】
実施例3−基体コーティング
上記実施例2の前処理したボルトを、2層のベースコートでコーティングした。各ベースコート層は遠心機中での浸漬スピンにより塗布し、第1層の塗布後、部分硬化を200℃で10分間行った後に、さらに浸漬スピン及び200℃で13分間の完全硬化を行った。
【0039】
保護コーティング組成物のサンプル1及び2双方は、同一の方法で塗布し、塗布された各層を200℃で10分間硬化させた。
【0040】
実施例4−耐食性
塩水噴霧試験DIN50021を、実施例3にて述べたように調製したボルトについて行った。結果を下記第2表に示す(10個のボルトについての試験結果から得られた平均結果)。示される各サンプルでは、2層のベースコートを塗布し、トップコートのみを変えた。
【0041】
【表2】

【0042】
上記の結果を、第2A表に示される結果と比較すべきである。この第2A表は、亜鉛及びアルミニウム粒子と、チタン酸テトラブチル及びトリメトキシビニルシランの混合物を含むバインダとを含む市販品を用いて、トップコートが有る場合と無い場合の双方について同一の試験を行った比較試験の結果である。双方の比較コーティングにおいて、2層のベースコートを用いたことは理解されるべきである。比較トップコートは、約30重量%以下のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を加えてもよい、フェノール成分及びエポキシ成分を含む有機樹脂であるということが理解される。比較ベースコート/比較トップコートの組み合わせでコーティングされたボルトの上に見られる赤さびの量は、比較ベースコートだけを含むコーティングの場合よりも著しく多い。さらに、第2A表に示される比較結果の組は、第2表の結果よりも著しく悪い。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例5−潤滑
実施例3に従って調製したコーティングされたボルトのスチール表面における摩擦係数を、Erichsen AP541ボルト試験機を用いて測定した。試験は、1回及び3回締め付けられたボルトとスチール表面とで行った。コーティング5.1、5.2及び5.3は、実施例4のコーティング4.1、4.4及び4.5に等しい。結果を下記第3表に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
実施例6
以下の実施例において、亜鉛−鉄及び亜鉛−ニッケルめっきスチールレバーを試験片として用いるため、Kirchheim−Teck Germanyの所有者から入手した。クロム(III)溶液で不動態化された試験片は、Novatec100プロセス及び組成物を用いて所有者により処理された。本発明によるトップコート組成物として用いたものは、上記実施例1のサンプル2で定義されているものである。これを、上記実施例3に記載された保護コーティング組成物で用いた塗布方法と同じ方法で塗布した。次いで、下記第4表に従ってコーティングされた試験片を、塩水噴霧試験DIN50021を用いて試験した。試験片に120℃の高温を24時間施して、加熱老化を行った。各サンプルにおいて、本発明によるコーティングの存在は、白さび及び赤さび双方が発生するまでの期間の延長をもたらした。
【0047】
【表5】

【0048】
実施例7−置換不動態化層+有機減摩層
以下の実施例において、種々の亜鉛めっきスチール部品、例えば、小型レバーをKirchheim−Teck Germanyの所有者から入手し、試験片として用いた。クロム(III)溶液で不動態化された試験片は、Novatec100プロセス及び組成物を用いて所有者により処理された。本発明によるトップコート組成物として用いたものは、上記実施例1のサンプル2に定義されているものである。これを、上記実施例3に記載された保護コーティング組成物で用いた塗布方法と同じ方法で塗布した。Wunsch−Chemie製のPhosbond W520の溶液中に亜鉛めっき基体を浸漬させ、80℃で乾燥させることにより、クロム(III)不動態化層の代わりにリン酸化工程でコーティングされた比較サンプルを調製した。浸漬スピン法により有機減摩コーティングを塗布した後、以下のように硬化させた:
Molykote(登録商標)D708 200℃、20分
Molykote(登録商標)D106 200℃、60分
Molykote(登録商標)D3484 170℃、10分
Molykote(登録商標)7400 23℃、15分
【0049】
次いで、第5表に示されるように調製されたコーティング製品を、塩水噴霧試験DIN50021を用いて上記実施例4で先述したように試験し、結果をまた下記第5表に示す。
【0050】
【表6】

【0051】
第5表より、クロム(III)不動態化又はリン酸化層の代わりに、本発明の保護コーティング組成物でコーティングされた各サンプルは、白さびの外観について改善された結果が観察されたMolykote(登録商標)D106を有するサンプルを除き、従来技術と比較して、白さび及び赤さびの著しくより良好な結果を与えたことが分かるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐食添加物及び/又は滑剤及び/又は増粘剤と共に、溶媒中に有機ケイ酸塩、有機ポリケイ酸塩又はコロイド状シリカからなる群から選択されるケイ酸塩と有機チタン酸塩とをバインダとして含み、金属粒子を含まない保護コーティング組成物。
【請求項2】
前記バインダが、該バインダ100重量%に対して、30〜60重量%のケイ酸塩と、40〜70重量%の有機チタン酸塩とを含む請求項1に記載の保護コーティング組成物。
【請求項3】
前記ケイ酸塩が、コロイド状シリカ、ケイ酸エステルモノマー、ケイ酸エステルポリマー及びケイ酸エステル加水分解物からなる群から選択される請求項1又は2に記載の保護コーティング組成物。
【請求項4】
前記ケイ酸塩が、ポリケイ酸アルキルである請求項3に記載の保護コーティング組成物。
【請求項5】
54〜90重量%の前記バインダと、33重量%以下の金属リン酸塩と、8重量%以下の滑剤と、4重量%以下の増粘剤とを含む固体分を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の保護コーティング組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の保護コーティング組成物の1層、2層又は3層のコーティング層から形成される保護コーティングを有する基体。
【請求項7】
ナット、ボルト及び他のファスナ、ドア、ボンネット及びブーツロック部品、ヒンジ、ドアストッパ、ウインドウガイド、シートベルト部材、ブレーキロータ及びドラム、並びに他の輸送産業関連部品から選択される請求項6に記載の基体。
【請求項8】
ナット、ボルト及び他のファスナ、ドア、ボンネット及びブーツロック部品、ヒンジ、ドアストッパ、ウインドウガイド、シートベルト部材、ブレーキロータ及びドラム、並びに他の輸送産業関連部品から選択される基体をコーティングするための請求項1〜5の何れか1項に記載の保護コーティング組成物の使用。

【公開番号】特開2009−108334(P2009−108334A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35329(P2009−35329)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【分割の表示】特願2002−585551(P2002−585551)の分割
【原出願日】平成14年4月23日(2002.4.23)
【出願人】(590001418)ダウ・コ−ニング・コ−ポレ−ション (166)
【氏名又は名称原語表記】DOW CORNING CORPORATION
【Fターム(参考)】