説明

保護分離層を有する治療薬送達器具

本発明は、治療薬のような薬剤を患者へ送達するための埋込み式医療器具に関する。特に本発明は、活性作用物質を非活性化するかまたは分解する過程を防止または遅らせる保護層により保護された、治療薬を有する器具に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤のような作用物質を患者に送達するための治療薬送達器具に関し、保護層により分離された治療薬を有する器具に関する。
【0002】
[関連出願への相互参照]
本出願は、2001年8月20日に出願された米国特許仮出願第60/314,259号に基づく優先権を主張した、2001年9月7日に出願された係属中の米国特許出願第09/948,989号の一部継続であり、これらの記載内容は、参照により本明細書中に援用される。
【0003】
[関連技術の説明]
埋め込み式医療器具は、薬剤のような有益な作用物質を、制御された送達速度で長期間にわたって、体内の器官または組織に送達するために用いられることが多い。これらの器具は、作用物質を体内の様々な系に送達して、様々な治療を提供することができる。
【0004】
有益な作用物質を局所的に送達するのに用いられてきた多くの埋め込み式医療器具の1つは、冠動脈ステントである。冠動脈ステントは、通常、経皮的に導入され、所望の場所に配置するまで経腔的(transluminally)に移送される。次に、これらの器具は、器具の内部に配置したマンドレルまたはバルーンを拡張するように機械的に拡張するか、体内で起動すると保存していたエネルギーを解放することにより自分で拡張する。内腔(lumen)の中で拡張すると、ステントと呼ばれるこれらの器具は、体組織内に封入され、永久的なインプラントとなる。
【0005】
知られているステントの設計には、モノフィラメント・ワイヤのコイル・ステント(米国特許第4,969,458号)、溶接金属ケージ(米国特許第4,733,665号および第4,776,337号)、および最もよく知られている、円周に軸方向のスロットが形成された薄肉金属シリンダ(米国特許第4,733,665号明細書、米国特許第4,739,762号明細書、および米国特許第4,776,337号明細書)がある。ステントに使用するのに知られている構造材料には、ポリマーや有機織物、ステンレス鋼、金、銀、タンタル、チタン、およびニチノール(Nitinol)のような形状記憶合金、のような生体適合性金属がある。
【0006】
ステントベースの有益な作用物質の局所的送達によって対処することができる多くの問題の中でも、最も重要な問題の1つは再狭窄である。再狭窄は、血管形成術およびステントの埋め込みのような血管介入の後に生じる可能性がある、主な合併症である。簡単に定義すると、再狭窄は、細胞外マトリックスの沈着、新生内膜過形成(neointimal hyperplasia)、および血管平滑筋細胞の増殖によって血管内腔直径を縮小させ、最終的には内腔を再び狭め、さらには再閉塞させる場合がある、創傷治癒プロセス(a wound healing process)である。向上した外科技術、器具、および薬学的作用物質の導入にも関わらず、全再狭窄率は依然として、血管形成術後6〜12カ月以内で25%〜50%の範囲であると報告されている。この症状を治療するためには、さらなる血管再生術が必要となることが多く、それにより患者が受ける外傷および危険性が増す。
【0007】
再狭窄の問題に対処するために開発中である技法の1つは、ステント上に種々の有益な作用物質の表面コーティングを用いることである。例えば、米国特許第5,716,981号明細書は、ポリマー担体およびパクリタキセル(paclitaxel)(癌性腫瘍の治療に一般に用いられる公知の化合物)を含む組成物で表面コーティングされたステントを開示している。当該特許は、コーティング自体の所望の特徴はもちろん、噴霧および浸漬(dipping)のようなステント表面をコーティングする方法を詳細に説明している。当該特許は、「ステントを滑らかかつ均一にコーティング」し、「抗血管新生因子(anti-angiogenic factor)の、均一かつ予測可能な長期放出を提供する」はずである。しかしながら、表面コーティングは、有益な作用物質の放出速度(release kinetics)を、実際にはほとんど制御することができない。これらのコーティングは必然的に非常に薄く、通常は5〜8ミクロンの深さである。これと比較して、ステントの表面積は非常に大きいため、有益な作用物質の総容量を周囲組織に放出する拡散経路は非常に短い。
【0008】
表面コーティングの厚さを増加させることには、薬剤放出を制御する能力および薬剤充填量を増加させる能力を含む薬剤放出速度を改善するという有益な効果がある。しかしながら、コーティングの厚さを増加させることにより、ステント壁の厚さ全体が増加する。これは、埋め込み中の血管壁への外傷の増大、埋め込み後の内腔の流れ横断面(flow cross-section)の低減、およびコーティングが拡張および埋め込み中の機械的故障または損傷の影響をさらに受けやすくなることを含む、複数の理由から望ましくない。コーティングの厚さは、有益な作用物質の放出速度に影響を及ぼす幾つかの要因のうちの1つであるため、厚さを制限することにより、達成することができる放出の速度や薬剤送達の継続時間などの範囲が制限される。
【0009】
放出プロファイルが最適ではないことに加えて、表面コーティングされたステントにはさらなる問題がある。器具のコーティングに用いられることが多い固定されたマトリックスポリマー担体は通常、コーティング中に有益な作用物質の約30%を永久に保持する。これらの有益な作用物質は、細胞障害性が高いことが多いため、慢性炎症、遅発性血栓症(late thrombosis)、および血管壁の治癒の遅れまたは不完全性のような亜急性または慢性の問題が生じ得る。さらに、担体ポリマー自体は、血管壁の組織に対して高炎症性であることが多い。他方、ステント表面上で生分解性ポリマー担体を使用すると、ポリマー担体が分解した後にステントと血管壁の組織との間に「事実上の空間」すなわち空隙が生じる可能性があり、これにより、ステントと隣接組織との間で差動運動(differential motion)が可能となる。その結果生じる問題としては、微小磨耗および炎症、ステントのずれ(stent drift)、および血管壁の再内皮化(reendothelialize)の不全が挙げられる。
【0010】
別の重大な問題は、ステントを拡張すると、その上のポリマーコーティングに応力が加わることにより、コーティングが塑性変形し、さらには断裂する可能性があり、したがってこれが薬剤放出速度に影響を及ぼすかまたは他の望ましくない影響を及ぼす可能性があることである。さらに、粥状硬化性の血管においてこのようなコーティングステントを拡張させると、ポリマーコーティングに円周方向の剪断力が加わり、それによりコーティングがその下のステント表面から分離する可能性がある。このような分離も同様に、コーティング断片の塞栓形成を含む望ましくない影響を有し、血管を閉塞させる可能性がある。
【0011】
さらに、水、他の化合物、または薬剤を分解する体内の状態に対する薬剤の感受性により、表面コーティングを用いて送達することが現時点では不可能な薬剤がある。例えば、一部の薬剤は、一定の期間、水に曝されると活性が実質的に全て失われる。所望の治療時間が水中での薬剤の半減期よりも実質的に長い場合、その薬剤は既知のコーティングによって送達されることができない。タンパク質またはペプチド系の治療薬のような薬剤には、酵素、pHの変化、または他の環境条件に曝されると活性を失うものがある。体内の化合物または状態に敏感なこれらの薬剤は、表面コーティングを用いて送達されることができない場合が多い。
【0012】
したがって、作用物質を分解する体内の化合物または状態から作用物質を保護しながら、作用物質、例えば薬剤を患者へ送達するための有益な作用物質送達器具を提供することが望ましい。
【0013】
[発明の概要]
本発明は、治療薬を送達するための医療器具に関し、この場合、治療薬は保護層により分解から保護される。
【0014】
一態様では、本発明は、内部に複数の孔を有する埋込み式の器具本体と、器具本体中の複数の孔の中に含入される治療薬と、複数の孔中に設けられ、当該治療薬を分解する体内の化合物または状態から治療薬を保護するように配列された物質の保護層(a protective layer of material)とを含む埋込み式医療器具を対象とする。好ましい実施形態では、埋込み式医療器具はステントである。
【0015】
好ましい実施形態では、保護層は、腐蝕するにつれて上記治療薬を放出させる、薬学的に許容可能な生腐蝕性マトリックスである。
【0016】
別の好ましい実施形態では、治療薬は、上記保護層に隣接する一次治療薬層中に提供される一次治療薬であり、上記保護層は、該保護層が実質的に腐食するまで治療薬が放出されるのを防止する生腐蝕性マトリックスである。
【0017】
さらに別の好ましい実施形態では、埋込み式医療器具は、二次治療薬層中に提供される二次治療薬をさらに含み、上記保護層は、一次治療薬層を二次治療薬層から分離し、一次治療薬および二次治療薬層は各々、薬学的に許容可能な生腐蝕性マトリックス中に配置された治療薬を含む。
【0018】
好ましくは、生腐食性マトリックスは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコールコポリマー(polylactic-co-glycolic acid)、乳酸−カプロラクトンコポリマー(polylactic-co-caprolactone)、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリオルトエステル、多糖、多糖誘導体、ポリヒアルロン酸、ポリアルギニン酸、キチン、キトサン、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリペプチド、ポリリシン、ポリグルタミン酸、アルブミン、ポリ無水物、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリヒドロキシバレレート、ポリヒドロキシブチレート、タンパク質およびポリリン酸エステルからなる群から選択され得る薬学的に許容可能なポリマーを含む。
【0019】
あるいは、生腐蝕性マトリックスは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、脂肪酸および脂肪酸エステルからなる群から選択される。
【0020】
好ましい一実施形態では、生腐蝕性マトリックスは、腐食速度を制御するための添加剤をさらに含む。
【0021】
別の好ましい実施形態では、生腐蝕性マトリックスは、水または酵素の浸入(ingress)を実質的に防止する。
【0022】
好ましくは、生腐蝕性マトリックスは、加水分解、溶解または酵素的分解により腐食する。あるいは、一次治療薬層が実質的に腐食されると、保護層は物理的に粉々に壊れることにより腐食する。
【0023】
一実施形態では、少なくとも1つの治療薬は、生腐蝕性マトリックス中に均質に分散される。代替的な一実施形態では、治療薬は、固体粒子分散液、封入作用物質分散液、乳濁液、懸濁液、リポソーム、ニオソームまたは微小粒子として、生腐蝕性マトリックス中に不均質に配置され、ニオソーム、リポソームまたは微小粒子は、治療薬の均質混合物または不均質混合物を含む。
【0024】
別の好ましい実施形態では、上記一次治療薬および上記二次治療薬は、上記一次治療薬層および上記二次治療薬層の各々の中に均質に分散される。あるいは、一次治療薬および二次治療薬は、好ましくは固体粒子分散液(solid particle dispersion)、封入作用物質分散液(encapsulated agent dispersion)、ならびに乳濁液、懸濁液、リポソームまたは微小粒子として一次および二次治療薬層の各々の中に不均質に配置され、リポソームまたは微小粒子は治療薬の均質混合物または不均質混合物を含む。
【0025】
好ましくは、治療薬は、抗腫瘍形成剤(antineoplastic agents)、腫瘍形成剤(neoplastic agents)、抗増殖剤(antiproliferative agents)、アンチセンス化合物(antisense compounds)、免疫抑制剤(immunosuppresants)、血管新生剤(angiogenic agents)、血管新生因子(angiogenic factors)、抗血管新生剤(antiangiogenic agents)および抗炎症剤(anti-inflammatory agents)またはそれらの組合せからなる群から選択される。
【0026】
さらに別の好ましい実施形態では、保護層は活性化剤または非活性化剤をさらに含み、活性化剤または非活性化剤は、一次治療薬または二次治療薬の生物学的機能の損失を防止し、好ましくは活性化剤または非活性化剤は、制酸剤(antacids)、緩衝剤、酵素阻害剤、疎水性添加剤およびアジュバントからなる群から選択され、さらに好ましくは活性化剤または非活性化剤は、上記一次治療薬および上記二次治療薬のうちの一方を、pHの非活性化低減から保護する制酸剤である。あるいは、保護層は、上記一次治療薬および上記二次治療薬間の非活性化相互作用を防止する活性化剤または非活性化剤を含む。
【0027】
その方法の態様のうちの1つにおいて、本発明は、患者へ薬剤を送達する方法であって、上記のような埋込み式医療器具を、患者の動脈または静脈内に設置することを備える方法を対象とする。
【0028】
その方法の別の態様では、本発明は、上記のような埋込み式医療器具を用いて患者へ薬剤を送達する方法であって、患者が経皮経管冠動脈形成術(percutaneous transluminal coronary angioplasty)および腔内ステント設置(intraluminal stent placement)を受けた後に、患者における再狭窄を治療するために用いられる方法を対象とする。
【0029】
添付の図面に例示した好ましい実施形態を参照しながら、ここで本発明をより詳細に説明するが、この場合、同様の構成要素は同様の参照番号を有する。
【0030】
[発明の詳細な説明]
本発明は、作用物質、例えば薬剤を患者へ送達するための有益な作用物質送達器具に関する。特に本発明は、1つまたは複数の保護層により治療薬(単数または複数)を分解する、体内の化合物または状態から分離または保護された、1つ以上の治療薬を有する医療器具に関する。
【0031】
まず、本明細書で用いられる以下の用語は、以下の意味を有するものとする。
【0032】
用語「有益な作用物質」は、本明細書で用いる場合、最大限に広義に解釈されることが意図され、バリア層、担体層、治療層、または保護層などの不活性作用物質はもちろん、任意の治療薬または薬剤を含むように用いられる。
【0033】
用語「薬剤」および「治療薬」は、生物の身体管路(bodily conduit)に送達されて、所望の、通常は有益な効果をもたらす任意の治療活性物質を指すように、交換可能に用いられる。本発明は、特に抗腫瘍形成剤、血管新生因子、免疫抑制剤、抗増殖剤(抗再狭窄剤(anti-restenosis agents))、例えばパクリタキセルおよびラパマイシンなど、および抗トロンビン剤、例えばヘパリンなどを送達するのに非常に適している。
【0034】
本発明に用いられる治療薬は、全ての種類の作用を含めた薬剤として一般に言及される古典的低分子量治療薬を含み、例としては、抗腫瘍形成剤、免疫抑制剤、抗増殖剤、抗トロンビン剤、抗血小板剤、抗脂質剤、抗炎症剤、血管新生剤、抗血管新生剤、ビタミン、ACE阻害剤、血管活性物質、抗有糸分裂剤(antimitiotics)、メタロプロテイナーゼ阻害剤、NO供与体、エストラジオール、抗硬化剤(antisclerosing agents)の単独または組合せが挙げられるが、これらに限定されない。治療薬は、時として、生物学的作用物質(biologic agents)と呼ばれる、標的組織に影響を及ぼす薬剤様作用を有する、高分子量物質も含み、例としては、ペプチド、脂質、タンパク質薬剤、酵素、オリゴヌクレオチド、リボザイム、遺伝物質、プリオン、ウイルス、細菌および内皮細胞のような真核生物細胞が挙げられ、真核生物細胞について2〜3の例を挙げると、単球/マクロファージまたは血管平滑筋細胞が挙げられ、これらに限定されない。治療薬は、宿主に投与された場合に、所望の薬剤に代謝するプロドラッグであってもよい。さらに治療薬は、微小カプセル、微小球、微小泡、リポソーム、ニオソーム、乳濁液、分散液等として予備処方された後、治療薬層中に組入れられてもよい。治療薬は、放射性同位体、あるいはその他のいくつかの形態のエネルギー、例えば光または超音波エネルギーにより、あるいは全身投与(systemically administered)され得るその他の循環分子により活性化される作用物質でもあってもよい。
【0035】
用語「マトリックス」または「生体適合性マトリックス」は、通常、被検体に埋め込まれた際に、マトリックスの拒絶を引き起こすのに十分な有害反応を誘導しない媒体(medium)または物質を指すために、交換可能に用いられる。マトリックスは、本明細書で定義される、治療薬、活性化剤、または非活性化剤を含有するかまたは取り囲むことができるものの、通常、治療反応(therapeutic responses)自体はもたらさない。マトリックスは、単に支持、構造的完全性、または構造的バリアを与えることができる媒体でもある。マトリックスは、ポリマー性、非ポリマー性、疎水性、親水性、親油性、両親媒性(amphiphilic)などであってもよい。
【0036】
用語「生腐食性」は、本明細書で定義する場合、生理学的環境と相互作用すると、化学的または物理的プロセスのいずれかによって分解され得るマトリックスを指す。生腐食性マトリックスは、数分から数年、好ましくは1年未満の期間にわたって、その期間中にいかなる必要な構造的完全性も維持しながら、代謝可能または排泄可能(excretable)な構成要素に分解される。
【0037】
「薬学的に許容可能な」という用語は、宿主または患者に対して有毒でない、本明細書中に記載されたような、マトリックスまたは添加剤を指す。マトリックスに関する場合、それは、本明細書中に記載されているような治療薬、活性化剤または非活性化剤の適切な貯蔵および/または送達を提供し、作用物質の有効性または生物学的活性を妨げない。
【0038】
「実質的に腐食される」という用語は、ほぼ完全に系に分解されたかまたは吸収された腐食性層を指す。実質的に腐食された層では、初めの層の少なくとも約75%が腐食され、好ましくは物質の90%が腐食され、さらに好ましくは物質の95%が腐食される。
【0039】
「実質的に防止するかまたは遅らせる」という用語は、本明細書中で用いる場合、ほとんど停止されるが、しかしおそらくは発生から完全に停止されるわけではない、例えば水吸収のような過程を指す。この例に関しては、標準と比較した場合、少なくとも約10%、さらに好ましくは少なくとも約20%、さらに好ましくは少なくとも約50%、水が吸収される割合が低減される場合、水吸収は実質的に防止される。
【0040】
「保護層」という用語は、薬剤を分解するかまたは非活性化するように作用する、任意の過程の発生を防止するかまたは遅らせるのに役立つマトリックスを指し、同一層中に含入されるかまたは別の隣接層中に含入される。保護層は、好ましくは生腐蝕性である。
【0041】
「腐蝕」という用語は、媒体またはマトリックスの構成成分が、化学的または物理的過程により、生体再吸収(bioresorbed)されおよび/または分解されおよび/または壊される過程を指す。例えばポリマーに関しては、ポリマーの分子量が低下するように、ポリマー鎖の切断または加水分解により、腐食が起こり得る。低分子量のポリマーは、より大きい水溶解度を有し、したがって溶解される。別の例では、生理学的環境との反応時に、物理的に粉々に壊されることにより、腐蝕が起こる。
【0042】
「腐蝕速度」という用語は、腐蝕過程が起こるのに要する時間の量の測定値であり、通常は単位時間当たりの単位面積で報告される。
【0043】
「分解する」または「非活性化する」という用語は、治療薬のような活性構成成分を、器具中に組入れられた場合に実行されるように意図された作用を実施できなくなるかまたはできにくくなるようにさせる任意の過程を指す。
【0044】
用語「ポリマー」は、モノマーと呼ばれる2つ以上の反復単位の化学結合から形成される分子を指す。したがって、用語「ポリマー」には、たとえば、ダイマー、トリマー、オリゴマーが含まれてもよい。ポリマーは、合成、天然、または半合成であってもよい。好ましい形態では、用語「ポリマー」は、通常は約3,000よりも大きく、好ましくは約10,000よりも大きく、かつ、約10,000,000よりも小さい、好ましくは約1,000,000よりも小さい、より好ましくは約200,000よりも小さいMを有する分子を指す。ポリマーの例としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸コポリマー、乳酸−カプロラクトンコポリマーのようなポリ−α−ヒドロキシ酸エステル;ポリエチレングリコールおよびポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン;ポリオルトエステル;ポリヒアルロン酸、ポリアルギニン酸、キチン、キトサン、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースのような多糖および多糖誘導体;ポリリシン、ポリグルタミン酸、アルブミンのようなポリペプチドおよびタンパク質;ポリ無水物;ポリヒドロキシバレレートまたはポリヒドロキシブチレートのようなポリヒドロキシアルカノエート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
「脂質」という用語は、本明細書中で用いる場合、好ましくは一般に両親媒性(amphipathic)および生体適合性である非高分子化合物、有機低分子化合物、合成または天然の化合物を含むマトリックスを指す。脂質は典型的には、親水性構成成分および疎水性構成成分を含む。脂質の例としては、例えば脂肪酸、脂肪酸エステル、中性脂肪、リン脂質、糖脂質、脂肪族アルコール、ワックス、テルペン、ステロイドおよび界面活性剤が挙げられる。脂質という用語は、脂質の誘導体を含むことも意味する。特に脂質という用語は、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリンおよびジパルミトイルホスファチジルセリンのような合成リン脂質はもちろん、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリンを含むが、これらに限定されない。
【0046】
「ヒドロゲル」という用語は、液体構成成分が水である架橋高分子物質を指す。ヒドロゲルは、ある種のポリマーおよび本明細書中に開示された脂質を架橋することにより調製してもよい。
【0047】
「添加剤」という用語は、治療薬とともにマトリックス中に含まれてもよい、薬学的に許容可能な化合物、物質および組成物を指す。添加剤は、マトリックスの中または上または周囲に封入してもよい。添加剤は、マトリックス中に、本明細書中に記載されているように、均質にまたは不均質に配置してもよい。添加剤のいくつかの例は、レミングトン(Remington)中の、「薬学の科学と実際」(The Science and Practice of Pharmacy),ゲンナロ(Gennaro, ed.),マック出版株式会社(Mack Publishing Co.)、イーストン,Pa.19番(Easton, Pa., 19th ed.),1995年,に開示されるように、薬学的に許容可能な賦形剤、アジュバント、担体、酸化防止剤、防腐剤、緩衝剤、制酸剤等が挙げられる。
【0048】
用語「孔」は、任意の形状の孔を指し、貫通開口部および窪みの両方を含む。
【0049】
「反応環境」または「環境」という用語は、当該器具と当接する組織表面と医療器具中の孔の中の有益な作用物質の一次無傷層(the first intact layer)との間の領域を指す。
【0050】
「活性化および非活性化剤」という用語は、活性構成成分のための反応媒体または反応環境を調製するのに役立つ化合物、物質または媒体を指す。これは、反応環境内での化合物(例えば酵素)の活性化の過程を含んでもよい。それはまた、環境のpHまたはその他の生理学的条件を変更することを含んでもよい。これはさらに、反応環境からの化合物を分解するか、あるいは非活性化または分解を防止する過程を含んでもよい。活性化剤および非活性化剤のいくつかの例としては、無機および有機の酸および塩基、(好ましくは無機)緩衝剤、RNAアーゼ、触媒、キナーゼ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
「均質に配置された」という用語は、構成成分がマトリックスそれ自体と肉眼的に識別不可能であるような方法でマトリックス中に均一に混合される構成成分を指す。均質に配置された構成成分の一例は、小ビーズ油が水中に均一に分散されるマイクロエマルションのような薬剤処方物(a drug formulation)である。
【0052】
「不均質に配置された」という用語は、構成成分がマトリックスそれ自体と肉眼的に識別可能であるような方法でマトリックス中に不均一に混合される構成成分を指す。不均質に配置された構成成分の一例は、水中の小ビーズ油が溶液に濁りを生じるのに十分に大きく、そして時間が経過すると溶液の沈殿が観察され得る単純エマルションである。不均質に配置された組成物は、保護層のような構成成分が、治療薬または治療層の上または周囲に積み重ねられて保護外殻を形成する封入処方物も含む。
【0053】
孔を有する埋め込み式医療装置
図1は、大きな非変形支柱12およびリンク14を有するステント構造の形態の、本発明による医療器具10を示し、これは、支柱またはリンクの、または器具全体の機械的特性を損なうことなく、孔20を含むことができる。非変形支柱12およびリンク14は、米国特許第6,241,762号明細書において詳述されている延性蝶番16を用いてもよく、当該特許はその全文が参照により本明細書に援用される。孔20は、種々の有益な作用物質を、器具の埋め込み部位に送達するための大きな保護槽(protected reservoirs)としての役割を果たす。
【0054】
上記のような相対的に大きな保護開口部20により、本発明の拡張式医療器具は、大型分子あるいは遺伝的または細胞性作用物質、例えばタンパク質薬剤、酵素、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、遺伝子/ベクター構築物および細胞(患者自身の内皮細胞の培養が挙げられるが、これに限定されない)を送達するのに特に適切となる。これらの種類の作用物質の多くは、生分解性であるかまたはこわれやすく、保存寿命が非常に短いかまたは全くなく、使用時に調製されねばならないか、あるいはいくつかのその他の理由のためにその製造中にステントのような送達器具中に予備充填(pre-loaded)することができない。本発明の拡張式器具における大きな孔20は、使用時または使用前にこのような作用物質の充填を促すための、そして送達および埋め込み中の摩耗および押出しから作用物質を保護するための保護領域または受容体を形成する。
【0055】
孔20を用いて送達することができる有益な作用物質の容量は、同じステント/血管壁カバー率を有するステントを覆う5ミクロンコーティングの容量の約3〜10倍である。このはるかに大きい有益な作用物質の容量により、幾つかの利点が得られる。より大きい容量を用いて、それぞれが個別の放出プロファイルを有する複数の薬剤の組み合わせを送達し、効果を向上させることができる。また、大きい容量を用いるほど、あまり強力でない薬剤を大量に供給し、内皮層の治癒の遅れのような、より強力な薬剤による望ましくない副作用のない臨床効果を得ることができる。
【0056】
孔は、血管壁表面が曝露される化合物を保有する、有益な作用物質の表面積も低減する。有益な作用物質開口部を有する典型的器具に関しては、この曝露は、表面コーティングステントと比較して、約6:1〜8:1の範囲の係数(a factor)により低減する。これは、炎症を引き起こし得るポリマー担体およびその他の作用物質への血管壁組織の曝露を劇的に低減するが、これと同時に、送達される有益な作用物質の量を増大して放出速度の制御を改善する。
【0057】
図2は、1つ以上の有益な作用物質が、別個の層30内の開口部20の内部に、層状に充填されている医療器具10の断面図を示す。このような層および層の構成を形成する幾つかの方法の例は、2001年9月7日に出願された米国特許出願第09/948,989号明細書に記載されており、当該出願はその全文が参照により本明細書に援用される。
【0058】
一例によれば、開口部20の全深は約25〜約140ミクロンであり、典型的な層厚は約2〜約50ミクロン、好ましくは約12ミクロンである。したがって、典型的な各層はそれぞれ、表面コーティングステントに施される典型的なコーティングの約2倍の厚さである。典型的な開口部には、このような層が少なくとも2層、好ましくは約10〜12層あり、有益な作用物質の総厚は典型的な表面コーティングの約25〜28倍である。本発明の好ましい一実施形態によれば、開口部は、少なくとも3.2×10−3平方mm(5×10−6平方インチ)、好ましくは少なくとも4.5×10−3平方mm(7×10−6平方インチ)の面積を有する。
【0059】
各層は個別に形成されるため、個々の化学組成物および薬物速度特性(pharmacokinetic properties)を各層に与えることができる。このような層の多くの有用な構成を形成することができ、その幾つかは以下で説明される。各層は、1つ以上の作用物質を、層ごとに同じかまたは異なる比率で含んでもよい。層は、固体(solid)であってもよく、多孔性であってもよく、あるいは他の薬剤または賦形剤が充填されていてもよい。
【0060】
図3は、生分解性担体物質中の治療薬の層40が活性作用物質を充填せずに生分解性担体物質単独の層42と交互に並べられると共にバリア層44が内側に面した表面に提供される、貫通開口部20に提供される層の配列を示す。このような配列は、3つの設定可能(programmable)なバーストまたは波を放出して、階段状のまたはパルス状の送達プロファイルを達成する。活性作用物質を伴わない担体物質層を使用することにより、効力増強のために、薬剤の放出を細胞生化学的過程に同期させる可能性が生じる。生分解性担体層42および/またはバリア層44も、以下に記載されるように保護層であってもよい。
【0061】
あるいは、異なる層は、異なる治療薬を含むことにより、異なる時点で異なる治療薬を放出する能力が生じる。有益な作用物質の層により、送達プロファイルを異なる用途に合わせる能力が得られる。これにより、本発明による医療器具は、異なる有益な作用物質を体内の様々な場所に送達するのに用いることができる。
【0062】
さらなる代替物が、図4に示されている。ここでは、同じ治療薬の濃度は層ごとに変えられて、任意の形状の放出プロファイルを生じる能力を生み出している。例えば外側に面した表面56からの距離の増大に伴う層50中の作用物質の濃度の漸進的増大は、ゼロ次放出プロファイルとも呼ばれる一定放出速度を有する放出プロファイルを生じ得るが、これは既知の薄い表面コーティング物質および技術を用いて生じさせることは不可能である。
【0063】
ある種類の薬剤は、薬剤を分解する傾向がある体内の化合物または状態に対する薬剤の感受性のために、表面コーティングまたはその他の既知の方法により送達され得ない。例えばいくつかの薬剤は、水に短時間曝露されると、実質的にそれらの活性の全ては失われる。したがって、薬剤の活性は送達時間により実質的に低減されるため、長時間にわたってこれらの薬剤を送達することはできない。その他の薬剤は、体内のその他の化合物または状態、例えば酵素、pH変化またはその他の環境条件の存在下で分解する。
【0064】
図5は、治療薬を分解する体内の化合物または状態から、治療薬を保護する保護物質の層62間に、層状に重ねられた治療薬の層60の配列を示す。保護物質の層62の例は、以下で詳細に考察する。図5は、医療器具の表面に接触する組織に設けられたキャップ層の形態の保護層64も示す。保護層64は、その後の層の生分解を遮断するかまたは遅らせ、および/または体内の所望の位置へ医療器具を送達させる間、その方向の有益な作用物質の拡散を遮断するかまたは遅らせる。バリア層64はまた、有益な作用物質の内部層の水和を防止し、したがってこのような層が吸湿性物質から形成される場合、内部層の膨潤を防止するように機能してもよい。図5は、バリア層66も示す。医療器具10が管腔中に埋め込まれたステントである場合、バリア層66は管腔の内側に面する開口部20の一側に配置される。バリア層66は、治療薬60が管腔中を通過して管腔組織に送達されずに運び去られるのを防止する。
【0065】
図5の実施形態では、保護層62は、以下でさらに詳細に記載される方法で、治療薬の層60への水(またはその他の化合物)の流れを防止するかまたは遅らせる。保護層62は、所望の送達時間まで、水と治療薬の接触を低減することにより、治療薬の生物学的機能の損失を防止するかまたは低減する。
【0066】
図6は、医療器具10内の開口部20が、単数または複数の同じ層70中の治療薬および保護剤で充填される、本発明のさらなる実施形態を示す。この実施形態では、治療薬の層および保護剤の層は、同じ層の中に組み入れられる。任意に、バリア層72を、図5の実施形態と同様に設けてもよい。
【0067】
有益な作用物質の処方物
有益な作用物質には、バリア層、担体層、治療層または保護層のような非活性作用物質はもちろん、任意の治療薬または薬剤が含まれる。
【0068】
治療層の処方物
本発明の治療薬の層は、マトリックスおよび少なくとも1つの治療薬から成る有益な作用物質である。治療薬の層のマトリックスは、薬学的に許容可能なポリマー、例えば医療器具に典型的に用いられるものから作ることができる。このようなポリマーは公知であり、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸コポリマー、乳酸−カプロラクトンコポリマーのようなポリ−α−ヒドロキシ酸エステル;ポリエチレングリコールおよびポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン;ポリオルトエステル;ポリヒアルロン酸、ポリアルギニン酸、キチン、キトサン、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースのような多糖および多糖誘導体;ポリリシン、ポリグルタミン酸、アルブミンのようなポリペプチドおよびタンパク質;ポリ無水物;ポリヒドロキシバレレートまたはポリヒドロキシブチレートのようなポリヒドロキシアルカノエート等、ならびにそれらのコポリマーが含まれるが、これらに限定されない。ポリマーおよびコポリマーは、当該技術分野で公知の方法により調製することができ(例えば、レンプ及びメリル:「ポリマー合成」,1998年,ジョン ワイリー アンド サンズ(Rempp and Merril: Polymer Synthesis, 1998, John Wiley and Sons)参照)、あるいは、アルケルメス,ケンブリッジまたはバーミンガム ポリマーズ社,バーミンガム,アラバマ(Alkermes, in Cambridge, MAまたはBirmingham Polymer Inc., in Birmingham, Alabama)から購入することができる。
【0069】
本発明で用いるための好ましいコポリマーは、ラクチド−グルコリドコポリマー(poly(lactide-co-glycolide))(PLGA)ポリマーである。ポリマーが腐蝕する速度は、コポリマー内のラクチド対グルコリドの比、用いられる各ポリマーの分子量および用いられるポリマーの結晶度の選択により確定される。
【0070】
生腐蝕性ポリマーは、組成に基づいて予想できる速度で腐蝕すると共に治療薬を含有しないバリア層を形成するために用いてもよい。
【0071】
保護層および治療層の処方物中の添加剤
生腐蝕性マトリックス中に含まれ得る典型的添加剤は当業者に公知であり(レミングトン中の、「薬学の科学と実際」,ゲンナロ,マック出版株式会社、イーストン,Pa.19番,1995年)、薬学的に許容可能な賦形剤、アジュバント、担体、酸化防止剤、防腐剤、緩衝剤、制酸剤、乳化剤、不活性充填剤、芳香剤、増粘剤、粘着剤、乳白剤、ゲル化剤、安定剤、界面活性剤、エモリエント(emollients)、着色剤等が含まれるが、これらに限定されない。
【0072】
これらの医療器具中に組み入れられる治療薬のための典型的な処方物は当業者に公知であり、固体粒子分散液、封入作用物質分散液、ならびに乳濁液、懸濁液、リポソームまたは微小粒子が含まれるが、これらに限定されない。この場合、リポソームまたは微小粒子は、治療薬の均質混合物または不均質混合物を含む。
【0073】
器具中に存在し、治療効果を達成するために必要とされる薬剤の量は、特定薬剤の最低必要投与量、治療される健康状態、挿入器具の選定位置、投与される実際の化合物、年齢、体重、ならびに個々の患者の応答、患者の症候の重症度等のような多数の因子に依存する。
【0074】
従来の投与経路のための治療薬の適切な投与量レベルは、当業者に既知である。これら従来の投与量レベルは、生理学的活性物質および従来の浸透増強剤(penetration enhancer)を含めた組成物に関する投与量レベルの上限に対応する。しかしながら活性物質の送達は薬剤が必要とされる部位で起こるため、従来の投与量レベルよりも極めて低い投与量レベルが首尾よく用いられ得る。最後に、必要とされる有効投与量、特定処方物の治療活性ならびに所望の放出プロファイルにより、組成物中の治療薬のパーセンテージが確定される。概して活性物質は、用いられる特定の物質に応じて、総組成物の約0.0001重量%〜約99重量%、さらに好ましくは約0.01重量%〜約80重量%の量で、組成物中に存在する。しかしながら一般にその量は、総組成物の約0.01重量%〜約75重量%の範囲であり、約25%〜約75%のレベルが好ましい。
【0075】
保護層の処方物
本発明の保護層は、生腐蝕性マトリックスからなる有益な作用物質であり、任意に付加的添加剤、治療薬、活性化剤、非活性化剤等を含有する。保護層の選定物質の特性または保護層中に埋め込まれる化学物質のいずれかは、少なくとも1つの治療薬に関する非活性化の過程または条件から保護する。上記ポリマー物質のほかに、保護層は、当該技術分野で公知の薬学的に許容可能な脂質または脂質誘導体から構成してもよく、1−アルキル−2−アセトイル−sn−グリセロ 3−ホスホコリンおよび1−アルキル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ 3−ホスホコリンを含む脂肪酸、脂肪酸エステル、リゾ脂質、ホスホコリン(アバンティ ポーラ 油脂,アラバスター,アラバマ(Avanti Polar Lipids, Alabaster, Ala.));ジオレオイルホスファチジルコリンを含み、飽和および不飽和脂質を伴うホスファチジルコリン;ジミリストイル−ホスファチジルコリン;ジペンタデカノイルホスファチジルコリン;ジラウロイルホスファチジルコリン;ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC);ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC);およびジアラキドニルホスファチジルコリン(DAPC);ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイル−ホスファチジルエタノールアミン(DPPE)およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)のようなホスファチジル−エタノールアミン;ホスファチジルセリン;ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)を含むホスファチジルグリセロール;ホスファチジルイノシトール;スフィンゴミエリンのようなスフィンゴリピド;糖脂質;スルファチド;グリコスフィンゴリピド;ジパルミトイル(dipahmitoyl)ホスファチジン酸(DPPA)およびジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)のようなホスファチジン酸;パルミチン酸;ステアリン酸;アラキドン酸;オレイン酸;キチン、ヒアルロン酸、ポリビニルピロリドンまたはポリエチレングリコール(PEG)のような脂質保有ポリマーであって、本明細書中では「ペギル化脂質」とも呼ばれ、好ましくはDPPE−PEG(DPPE−PEG)を含み、これは、それに結合されたPEGポリマーを有する脂質DPPEを指し、例えばDPPE−PEG5000(それに結合されたDPPEを指す)を含み、これは、それに結合された、平均分子量約5000のPEGポリマーを有するDPPEを指す;スルホン化モノ−、ジ−、オリゴ−または多糖を保有する脂質;コレステロール、硫酸コレステロールおよびヘミコハク酸コレステロール;ヘミコハク酸トコフェロール;エーテルおよびエステル結合脂肪酸を有する脂質;重合化脂質(その広範な種々のものが当該技術分野で公知である);リン酸ジアセチル;リン酸ジセチル;ステアリルアミン;カルジオリピン;約6〜約8の炭素長の短鎖脂肪酸を有するリン脂質;不斉アシル鎖、例えば約6の炭素の1つのアシル鎖および約12の炭素の別のアシル鎖を有する合成リン脂質;セラミド;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪アルコール、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、ポリオキシエチル化ソルビタン脂肪酸エステル、グリセロールポリエチレングリコールオキシステアレート、グリセロールポリエチレングリコールリシノリエート、エトキシル化ダイズステロール、エトキシル化ヒマシ油、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンポリマーおよびポリオキシエチレン脂肪酸ステアレートのようなニオソームを含む非イオン性リポソーム;硫酸コレステロール、酪酸コレステロール、イソ酪酸コレステロール、パルミチン酸コレステロール、ステアリン酸コレステロール、酢酸ラノステロール、パルミチン酸エルゴステロールおよびn−酪酸フィトステロールを含むステロール脂肪族酸エステル;コレステロールグルクロニド、ラノステロールグルクロニド、7−デヒドロコレステロールグルクロニド、エルゴステロールグルクロニド、グルコン酸コレステロール、グルコン酸ラノステロールおよびグルコン酸エルゴステロールを含む糖酸のステロールエステル;ラウリルグルクロニド、ステアロイルグルクロニド、ミリストイルグルクロニド、グルコン酸ラウリル、グルコン酸ミリストイルおよびグルコン酸ステアロイルを含む糖酸およびアルコールのエステル;スクロースアセテートイソブチレート(SAIB)、ラウリン酸スクロース、ラウリン酸フルクトース、パルミチン酸(palritate)スクロース、ステアリン酸スクロース、グルクロン酸、グルコン酸およびポリウロン酸を含む糖および脂肪族酸のエステル;サルササポゲニン、スミラゲニン、ヘデラゲニン、オレアノール酸およびジギトキシゲニンを含むサポニン;トリパルミチン酸グリセロール、モノパルミチン酸グリセロール、ジステアリン酸グリセロール、トリステアリン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、モノミリスチン酸グリセロール、ジミリスチン酸グリセロール、トリミリスチン酸グリセロールを含む、ジラウリン酸グリセロール、トリラウリン酸グリセロール、モノラウリン酸グリセロール、ジパルミチン酸グリセロール、グリセロールおよびグリセロールエステル;n−デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコールおよびn−オクタデシルアルコールを含む長鎖アルコール;1,2−ジオレオイル−sn−グリセロール;1,2−ジパルミトイル−sn−3−スクシニルグリセロール;1,3−ジパルミトイル−2−スクシニルグリセロール;1−ヘキサデシル−2−パルミトイルグリセロホスホエタノールアミンおよびパルミトイルホモシステイン、および/またはそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0076】
望む場合には、陽イオン性脂質、例えば塩化N−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム(DOTMA)、1,2−ジオレオイルオキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロパン(DOTAP)および1,2−ジオレオイル−3−(4’−トリメチルアンモニオ)ブタノイル−sn−グリセロール(DOTB)を用いてもよい。陽イオン性脂質が脂質組成物中に用いられる場合、陽イオン性脂質対非陽イオン性脂質のモル比は、例えば約1:1,000〜約1:100であってもよい。好ましくは陽イオン性脂質対非陽イオン性脂質のモル比は約1:2〜約1:10であり、約1:1〜約1:2.5が好ましい。さらに好ましくは陽イオン性脂質対非陽イオン性脂質のモル比は、約1:1であってもよい。
【0077】
これらの脂質物質は当該技術分野で公知であり、アバンチ,バーナビー,B.C.カナダ(Avanti, Burnaby, B.C. Canada)から購入して用いてもよい。
【0078】
本発明に用いるための好ましい脂質は、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリンおよびジパルミトイルホスファチジルセリンのような合成リン脂質はもちろん、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリンである。
【0079】
生腐蝕性マトリックスが腐食する速度は、脂質の選定、分子量および選定物質の比率により確定される。
【0080】
保護層は、化学的または物理的腐食メカニズムにより腐食し得る。層が物理的メカニズムにより腐食する場合、層は典型的には、2つの高分子層間に埋め込まれた約0.1μm〜約3μmの非高分子物質の薄いフィルムである。この場合、保護層の構造的完全性は、これらの高分子層の両方が存在することにより保持される。管腔表面に最も近い高分子物質が腐食しきると、保護層は、残りの高分子層からその上に及ぼされる物理的力により粉々になる。別の実施形態では、保護層は、化学的相互作用、水中での溶解、加水分解または酵素との反応により腐食される。
【0081】
保護層の一つの機能は、非活性化条件または分解条件から、1つ以上の治療薬を保護することである。例えば疎水性保護層が水分の流入を阻止することにより、水感受性作用物質を水から保護する場合、物質の特性から保護してもよい。保護層はまた、物理的バリアとして作用してもよい。例えば、ヒドロゲルから成る保護層は、ゲルにより水を吸収させ、ゲル内に含まれる任意の作用物質をゲルから反応環境に拡散させてもよい。しかしながらヒドロゲルは、酵素が層に浸透するのを防止し、それにより内部に含入される任意の作用物質を酵素から保護する。結局、保護層はバリアとして作用しなければならないというわけではない。保護層は、治療薬の放出の前に、反応環境中に、例えば活性化剤または非活性化剤のような作用物質を放出することにより、治療薬を保護してもよい。
【0082】
治療薬は、保護層中に直接組入れられてもよい。治療薬は、保護層中に不均質にまたは均質に分散させてもよい。治療薬は、薬剤、またはマイクロカプセル、ニオソーム、リポソーム、微小泡、微小球等の中に処方される薬剤とすることができる。さらに保護層は、2つ以上の治療薬を含有してもよい。例えば、リムス、または静脈内、筋肉内または皮下を通して投与されねばならない任意のその他の薬剤のような水感受性薬剤を、SAIBまたは脂肪酸エステルのような疎水性マトリックスの中に組入れることができる。
【0083】
治療薬は、治療薬の層の中に配置され、保護層から分離してもよい。この場合、保護層は、治療薬の層に隣接してもよく、保護層が実質的に腐食されるまで、治療薬を分解するかまたは非活性化する過程を防止するかまたは遅らせるのに役立ってもよい。この場合、保護層は、治療薬の層および反応環境間のバリアである。このバリアは、水吸収を阻止する疎水性バリアであってもよい。疎水性バリアは、上記のような水感受性薬剤とともに用いられる。あるいは保護層は、酵素の吸収を阻止するヒドロゲルであってもよい。酵素耐性バリアは、DNA、RNA、ペプチドまたはタンパク質ベースの治療薬のような薬剤を保護するために用いられる。
【0084】
保護層は、治療薬を引き続いて放出する反応環境を調製するために、活性化剤および非活性化剤を任意に含んでもよい。これらの活性化剤および非活性化剤は、当業者に公知であり、制酸剤、緩衝剤、酵素阻害剤、疎水性添加剤およびアジュバントが含まれるが、これらに限定されない。例えばPLGAポリマー層中に組入れられる約0.5μm〜約5μm、さらに好ましくは約1μmの粒子中のMg(OH)は、任意の酸感受性薬剤とともに用いることができる。活性化剤の一例はキモトリプシンであり、これはポリビニルピロリドン層中に組入れてもよい。キモトリプシンを用いて、プロドラッグを活性薬剤に転換することができる。
【0085】
好ましい実施形態
一実施形態では、本発明の保護層は本質的に疎水性であり、水の吸収を防止するかまたは遅らせることができる。これは、リムスのような水感受性薬剤を送達するために特に有益である。疎水性生腐蝕性マトリックス物質のいくつかの例は、グリセリドのような、脂質、脂肪酸エステルである。腐食速度は、親水性−親油性平衡(HLB)を変えることにより制御される。あるいは疎水性保護層は治療薬を封入してもよく、封入された粒子はポリマーまたは脂質マトリックス中に分散してもよい。
【0086】
別の実施形態では、保護層は、pHの非活性化低減から治療薬を保護する制酸剤またはpH保持剤を含有してもよい。ラクチド、グリコリド、カプロラクトン、β−ヒドロキシバレレート、トリメチレンカルボネート、ジオキサノン、β−ヒドロキシブチレートおよびその他のコ−ヒドロキシアルキルカルボン酸のモノマー単位から成るポリマーは、in vivoおよびin vitroでの加水分解において水により分解されて、ポリマーマトリックス内の微気候、場合によっては外部環境が、ポリマー分解の過程中に6以下のpHを有する酸性になるような量で遊離酸基を生じる。このようなポリマーから局所的かつ持続的方法で有利に送達することのできるいくつかの治療薬は、それらの生物学的活性が、送達マトリックスから作用物質を放出するために必要とされるポリマーマトリックスの分解中にpHが低減すると、弱められるかまたは排除されるという点で、酸性環境に対し感受性がある。このような酸感受性剤の例は、ホスホジエステル−リボース結合またはモルホリノ−イミデート結合を有するRNAオリゴマー(いわゆる「アンチセンスオリゴ」)、リムス(例えばシロリムスおよびエベロリムス)ならびに一般的に、酸触媒下で加水分解を受ける化学的官能基を有する治療薬(例えばエステル、アミド、尿素、スピロエステル、無水物および炭酸塩)、あるいは作用物質を生物学的に不活性にさせるために6以下のpHでプロトン化することのできる官能基群、例えばアミノおよびイミノ基(例えば生物活性タンパク質の非活性化)を含有する治療薬である。
【0087】
マトリックス内(微気候)およびマトリックス外(環境)の両方でのポリマー分解中およびin vivo再吸収中に生成される酸性の作用を軽減するために、pHを6以上に、または特定の作用物質が治療的に無効になる閾値pHを越えるように保持可能な制酸剤または中和剤である酸スカベンジャーを含むということが予見される。意図される無機制酸剤には、例えばMg(OH)およびCa(OH)およびBa(OH)のような金属水酸化物、特に二価金属水酸化物、NaHCOおよびNaCOのような一価重炭酸塩および炭酸塩、ZnCOのような二価炭酸塩、NaHPOおよびNaHPOのような一価および二価リン酸水素およびリン酸二水素、酢酸ナトリウムのような、カルボン酸の一価塩が含まれる。さらに有機アミンのような有機塩基は、トリエタノールアミン、エタノールアミン、モルホリン、ピリミジンおよびプリン塩基、ポリエチレンイミン、ヌクレオシド、アミノ酸およびポリアミノ酸、特にポリリシンおよびポリヒドロキシリシン、ポリアルギニンおよびリシン、ヒドロキシリシン、アルギニンおよび/またはヒスチジン単位を含有するペプチド、のような酸スカベンジャーとして予見される。
【0088】
無機制酸剤は、溶媒キャスティング、成型、配合、粉砕および押出しのような標準的なポリマー加工処理技術により、ポリマーマトリックスに組入れられることが意図される。制酸剤の量は、酸感受性作用物質または作用物質の組合せが治療に適切な投与量および薬物速度プロファイルで放出される時間の一部または全時間の間に酸中和を提供するのに十分である。制酸剤は、所望の物理的特性が所望の適用のために弱められるまでの量で、高分子薬剤送達マトリックス中に組入れられてもよいし、あるいはそれより低いレベルで用いてもよい。制酸剤は、単独または他の制酸剤と組合せて用いてもよい。ラクチドおよび/またはグリコリドを含有するポリマー(いわゆるPLGAファミリーのポリマー)に関しては、制酸剤の量は一般に10重量%を超えず、1〜6重量%で用いるのが好ましい。制酸剤は完全ポリマー分解または加水分解のために算定された化学量論レベルで用いる必要はないが、特に、その構成モノマーまたはコモノマー単位へのポリマーの完全な分解前に全ての作用物質が送達される場合には、化学量論値未満で酸感受性作用物質のための有益な保護を提供してもよい。
【0089】
さらに別の実施形態では、保護層は非活性化または分解酵素から治療薬を保護する。酵素阻害剤は、保護層が腐食するとそれが反応環境に導入されるよう、保護層中に組入れられ得る。治療薬は、その後、阻害剤が保護層中に組入れられない場合に存在し得るより少ない酵素を有する環境に進入する。あるいは保護層は、小分子はゲル中にまたはゲルから拡散させるが大型分子は保護層に進入するのを実質的に防止する、アルギン酸カルシウム(ポリアルギン酸にCa(OH)を付加することにより製造される)のようなヒドロゲル物質で製造してもよい。DNA、RNA、ペプチドおよびタンパク質ベースの治療薬は、ヒドロゲルバリアを用いて保護される。
【0090】
埋込み式医療器具のための使用
ステントの形態の医療器具に関して本発明を説明してきたが、本発明の医療器具は、身体およびその他の器官および組織へ、薬剤を部位特異的に(site-specific)および時間の経過と共に放出するように(time-release)送達するのに有用な、その他の形状の医療器具とすることもできる。薬剤は、種々の療法のために、冠動脈および末梢血管を含む血管系に、及び身体の他の管腔に送達してもよい。薬剤は、管腔直径を増大し、閉塞を生じ、またはその他の理由で薬剤を送達してもよい。
【0091】
本明細書中に記載されたような医療器具およびステントは、特に経皮経管冠動脈形成術および腔内ステント設置後の、再狭窄の予防または改善に有用である。抗再狭窄剤を時間の経過と共にまたは持続的に放出するほかに、抗炎症剤のようなその他の作用物質を、器具内の複数の孔に組入れられた多層に組入れてもよい。これは、設置が生じた後の非常に特定の時間に起こることが知られている、ステントの設置に定期的に付随する任意の合併症を、部位特異的に治療または予防することを考慮している。
【0092】
拡張可能な医療器具内の開口部の中に有益な作用物質を充填するための方法には、浸漬およびコーティングのような既知の技術、及び既知の圧電性微小噴射技術(piezoelectric micro-jetting techniques)が含まれる。微小噴射器具は、保護層、治療薬層および任意のその他の層を含む精確な量の1つ以上の液体有益作用物質を、既知の方法で拡張可能な医療器具上の精確な位置に送達するために用いてもよい。有益作用物質は、手動噴射器具によって充填してもよい。
【0093】
下記の実施例では、以下の略号は以下の意味を有する。略号が限定されない場合、それはその一般的に許容された意味を有する。
mL = ミリリットル
M = モル濃度
wt. = 重量
vol. = 容積
μL = マイクロリットル
μm = マイクロメートル
nm = ナノメートル
DMSO = ジメチルスルホキシド
NMP = N−メチルピロリドン
DMAC = ジメチルアセトアミド
【実施例1】
【0094】
保護層内に治療薬を含む処方物
ラクチド:グリコリド=85:15で(Mv>100,000ダルトン)7重量%のラクチド−グリコリドコポリマー(PLGA)(バーミンガム ポリマーズ社(Birmingham Polymers, Inc))、およびDMSO、NMPまたはDMAC93重量%のような適切な有機溶媒からなる第一混合物を調製する。混合物をステント内の孔の中に滴下充填し、次に溶媒を蒸発させて、バリア層の形成を開始する。孔の中にポリマー溶液を充填し、続いて溶媒を蒸発させる同じ方法により、第二バリア層を第一バリア層上に載せる。5つの個々の層が被せられてバリア層を形成するまで、本手順を続ける。
【0095】
DMSOのような適切な有機溶媒中において、固体ベースで3%のシロリムスのようなリムスと、固体ベースで7%のジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)とからなる第二混合物を、バリア層上方のステント内の孔の中に導入する。溶媒を蒸発させて薬剤を充填した保護層を形成し、バリア層の上部に重ねられた保護層内で、孔がその全容積の約75%の薬剤を充填するまで、充填および蒸発工程を繰り返す。
【0096】
次に、ラクチド:グリコリド=50:50で(Mv≒80,000ダルトン)7重量%のラクチド−グリコリドコポリマー(PLGA)およびDMSOのような適切な有機溶媒の第三溶液の3層をマトリックス層中の薬剤の上に被せて、キャップ層を提供する。
【0097】
充填ステントのin vivoでの埋込み後、キャップ層は分解して、リムスを送達させる。バリア層は、ステント内の孔のバリア層側から治療薬が送達されるのを防止する。
【実施例2】
【0098】
治療薬層中の治療薬および治療薬層を分離する保護層を含む処方物
ラクチド:グリコリド=85:15で(Mv>100,000ダルトン)7重量%のラクチド−グリコリドコポリマー(PLGA)およびDMSO93重量%のような適切な有機溶媒からなる第一混合物を調製する。混合物をステント内の孔の中に滴下充填し、次に溶媒を蒸発させて、バリア層を形成する。溶媒の蒸発によって孔の中にポリマー溶液を充填する同じ方法により、第二バリア層を第一バリア層上に載せる。5つの個々の層が被せられてバリア層を形成するまで、本工程を続ける。
【0099】
RNAアーゼ/DNAアーゼフリー水50容積%およびジメチルスルホキシド(DMSO)50容積%の混合溶媒中における、固体ベース8%のPCN−1リボザイムおよび固体ベース2%、分子量8,000ダルトンのポリ(ビニルピロリドン)(PVP)の第二混合物を、バリア層上方のステント内の孔の中に導入する。溶媒を蒸発させて治療薬層を形成し、孔が十分に充填されるまで、充填および蒸発工程を繰り返す。
【0100】
次に、7重量%のSAIB(イーストマンケミカルズ)およびDMSOのような適切な有機溶媒からなる第三溶液の3層を、マトリックス層中の薬剤上に被せて、保護層を提供する。
【0101】
ラクチド:グリコリド=50:50で(Mv≒80,000ダルトン)5重量%のPLGA、5重量%のデキサメタソン、およびDMSO90重量%のような適切な有機溶媒からなる第四混合物を調製する。次に混合物を孔に充填し、溶媒を蒸発させて第二治療薬層を形成する。5つの層が被せられるまで、この工程を続ける。
【0102】
次に、ラクチド:グリコリド=50:50で(Mv≒80,000ダルトン)7重量%のPLGAおよびDMSOのような適切な有機溶媒からなる第五混合物を、第二治療薬層上に被せて、キャップ層を提供する。
【0103】
充填ステントのin vivoでの埋込み後、キャップ層は分解して、デキサメタソンを送達させる。保護層は、デキサメタソンが送達される間、PCN−1リボザイムを分解から保護する。保護層が分解した後、次にPCN−1リボザイムが送達される。
【実施例3】
【0104】
治療薬層中の治療薬および活性化剤を含有する保護層を含む処方物
ラクチド:グリコリド=50:50で(Mv>100,000ダルトン)7重量%の高分子量のラクチド−グリコリドコポリマー(PLGA)およびDMSO93重量%のような適切な有機溶媒からなる第一混合物を調製する。混合物をステント内の孔の中に滴下充填し、次に溶媒を蒸発させて、バリア層を形成する。溶媒の蒸発によって孔にポリマー溶液を充填する同じ方法により、第二バリア層を第一バリア層上に載せる。5つの個々の層が被せられて完全なバリア層を形成するまで、本工程を続ける。
【0105】
水:DMSO=50:50の溶媒混合物における、固体ベース3%のキモトリプシンおよび固体ベース7%のポリビニルピロリドンの第二混合物を、バリア層上方のステント内の孔の中に導入する。溶媒を蒸発させて、活性化エステル加水分解酵素が充填された保護層を形成し、活性化層中の酵素で孔がその全容積の約20%充填されるまで、充填および蒸発工程を繰り返す。
【0106】
次に、ラクチド:グリコリド=50:50で(Mv≒80,000ダルトン)7重量%のラクチド−グリコリドコポリマー(PLGA)およびDMSOのような適切な有機溶媒からなる第三溶液の3層を、マトリックス層中の酵素上に被せて、時間遅延(time delay)を提供する。
【0107】
1重量%の、プロドラッグ パクリタキセル−ポリグルタミン酸(PTX−PGA)共役体(この場合、パクリタキセル上の遊離ヒドロキシル基はエステル結合によりPGAに共有結合される)およびラクチド:グリコリド=50:50で(Mv≒80,000ダルトン)7重量%のラクチド−グリコリドコポリマー(PLGA)およびDMSO92重量%のような適切な有機溶媒からなる第四溶液を調製する。混合物を保護層上方のステント内の孔の中に充填し、次に溶媒を蒸発させて、プロドラッグ層を形成する。溶媒の蒸発によって孔にポリマー溶液を充填する同じ方法により、プロドラッグ層を第一層上に載せる。6つの個々の層が被せられてプロドラッグ層を形成するまで、本工程を続ける。
【0108】
充填ステントのin vivoでの埋込み後、プロドラッグがまず放出され、動脈組織に分配される。保護層が分解する間の遅延時間後、保護化キモトリプシンが放出され、そしてプロドラッグのエステル結合を酵素的に加水分解して、組織中の薬剤パクリタキセルの放出を活性化する。
【実施例4】
【0109】
治療薬層中の治療薬および非活性化剤を含有する保護層を含む処方物
5重量%のポリラクチドおよびDMSO95重量%のような適切な有機溶媒からなる第一混合物を調製する。混合物をステント内の孔の中に滴下充填し、次に溶媒を蒸発させて、バリア層を形成する。溶媒の蒸発によって孔にポリマー溶液を充填する同じ方法により、第二バリア層を第一バリア層上に載せる。5つの個々の層が被せられて完全なバリア層を形成するまで、本工程を続ける。
【0110】
水:DMSO=50:50の溶媒混合物中における、固体ベース8%のクエン酸および固体ベース2%のポリビニルピロリドンの第二混合物を、バリア層上方のステント内の孔の中に導入する。溶媒を蒸発させて、ホスホジエステル結合の加水分解を触媒できると共にRNAオリゴマーを脱重合化かつ非活性化できる非活性化化合物含有層を形成する。活性化層中の酵素で孔がその全容積の約20%充填されるまで、充填および蒸発工程を繰り返す。
【0111】
次に、ラクチド:グリコリド=50:50で7重量%のラクチド−グリコリドコポリマー(PLGA)およびDMSOのような適切な有機溶媒からなる第三溶液の3層を、非活性化化合物含有層上に被せて、同一の充填および蒸発順序により分離層を提供する。
【0112】
水:DMSO=50:50の溶媒混合物中における、固体ベース8%のPCN−1リボザイムおよび固体ベース2%のポリビニルピロリドンの第四混合物を、分離層上方のステント内の孔の中に導入する。溶媒を蒸発させて、アンチセンスオリゴヌクレオチドが充填されたポリマー治療薬層を形成し、そして孔がその全容積の約20%充填されるまで、充填および蒸発工程を繰り返す。
【0113】
次に、ラクチド:グリコリド=50:50で(Mv≒80,000ダルトン)7重量%のPLGAおよびDMSOのような適切な有機溶媒からなる第五混合物を、治療薬層上に被せて、キャップ層を提供する。
【0114】
充填ステントのin vivoでの埋込み後、PCN−1リボザイムがまず放出され、動脈組織に分配されて、治療効果を提供する。保護層が分解する間の遅延時間後、保護化クエン酸が放出され、そしてリボザイムオリゴヌクレオチド主鎖のホスホジエステルエステル結合を触媒的に加水分解して、その治療活性を終結する。
【実施例5】
【0115】
治療薬層中の治療薬および制酸剤を含有する保護層を含む処方物
ラクチド:グリコリド=85:15で(Mv>100,000ダルトン)7重量%のラクチド−グリコリドコポリマー(PLGA)およびDMSO93重量%のような適切な有機溶媒からなる第一混合物を調製する。混合物をステント内の孔の中に滴下充填し、次に溶媒を蒸発させて、バリア層を形成する。溶媒の蒸発によって孔にポリマー溶液を充填する同じ方法により、第二バリア層を第一バリア層上に載せる。5つの個々の層が被せられて完全なバリア層を形成するまで、本工程を続ける。
【0116】
固体ベース3%のシロリムス、ラクチド:グリコリド=50:50で(Mv=80,000ダルトン)7重量%のラクチド−グリコリドコポリマー(PLGA)および0.35重量%(PLGAベースで5重量%)の水酸化マグネシウムからなる第二混合物を、バリア層上方のステント内の孔の中に導入する。溶媒を蒸発させて、薬剤および制酸剤を含有する薬剤保護層を形成し、そして孔がその全容積の約60%保護層で充填されるまで、充填および蒸発工程を繰り返す。
【0117】
次に、ラクチド:グリコリド=50:50で(Mv≒80,000ダルトン)7重量%のラクチド−グリコリドコポリマー(PLGA)およびDMSOのような適切な有機溶媒からなる第三溶液の3層を被せる。
【0118】
次に、ラクチド:グリコリド=50:50で(Mv≒80,000ダルトン)7重量%のPLGAおよびDMSOのような適切な有機溶媒からなる第四混合物を、治療薬層上に被せて、キャップ層を提供する。
【0119】
充填ステントのin vivoでの埋込み後、PLGAポリマーは加水分解により分解し、そしてシロリムスが、酸性副産物(酸性官能基末端(acid function terminated)PLGAオリゴマーはもちろん、乳酸およびグリコール酸)と同様に放出される。酸性副産物は、シロリムスが放出される時間にわたって水酸化マグネシウムの作用により直ちにおよび継続的に中和され、したがって酸触媒分解からシロリムスを保護する。
【実施例6】
【0120】
多重治療薬層を有する医療器具からのパクリタキセル放出速度の測定
1,000mLの脱イオン水中に5個の「リン酸緩衝生理食塩水タブレット」(シグマ−アルドリッヒ社(Sigma-Aldrich Co.)カタログ番号P−4417)を溶解することにより、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)の溶液を調製して、リン酸緩衝液中で0.01M、塩化カリウム中で0.0027M、および塩化ナトリウム中で0.137Mで、pH7.4を有する溶液を提供する。このPBS溶液を、放出溶液として用いる。
【0121】
実施例1の多層化ステントからの薬剤の溶離速度(elution rate)を、標準シンク条件実験(a standard sink condition experiment)で確定する。
【0122】
10mLの第一のねじ蓋付きバイアルに放出溶液3mLを入れて、次に温度が平衡を保つまで、37℃に保持された振盪水浴中に置く。2つの保護層間のマトリックス層中に薬剤を含有する上記ステントを放出溶液中に入れて、60サイクル/分での振盪を開始し、そしてステントを一定時間、放出溶液中に浸漬して保持した。次にステントを第二のねじ蓋付きバイアル中に置いて、放出溶液3mLを37℃で入れて、一定期間保持する。第一の放出溶液を試料#1と呼ぶ。時々、一方のバイアル中の放出溶液からステントを取り出し、もう一方のバイアル中の新鮮な溶液中に入れて、ステントから溶離された種々の量の薬剤を含有する一連の試料を生成する。
【0123】
高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)により、所定の放出溶液試料中のパクリタキセルの量を確定する。以下の条件を用いる。
分析カラム:Sym.C18(5μm、3.9×150mm、ウォーターズ社(Waters Corp.),MA)
移動相:水/アセトニトリル=55容積%/45容積%
流速:1mL/分
温度:25℃
検出波長:227nm
注入容積:50μL
保持時間:10.5分
【0124】
既知のストック溶液から生成される検量曲線との比較により、実験の任意の時間中に、放出溶液中に溶離されるパクリタキセルの量を算定した。
【0125】
放出プロファイルの測定に関する方法および結果は、A.フィンケルシュタインら(A. Finkelstein et al.),「コナー医療システムステント:設定可能な薬物送達器具」(典he Conor Medsystems Stent: A programmable Drug Delivery Device,刀jTCT 2001年会議(TCT 2001 Conference),ワシントンD.C.,2001年9月、に発表されている。
【0126】
本発明をその好ましい実施形態について詳細に述べてきたが、本発明から逸脱することなく種々の変更および改変ができ、同等品を使用できることが、当業者には明白である。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】拡張可能ステントの形態の治療薬送達器具の斜視図である。
【図2】層中の開口部に含入された有益な作用物質を有する治療薬送達器具の一部の横断面図である。
【図3】器具中の開口部に含入された、治療薬層、保護層およびバリア層を有する治療薬送達器具の一部の横断面図である。
【図4】種々の濃度の治療薬を有する、有益な作用物質層を有する治療薬送達器具の一部の横断面図である。
【図5】器具中の開口部に含入された、治療薬層、保護層、バリア層およびキャップ層を有する治療薬送達器具の一部の横断面図である。
【図6】単一層および別個のキャップ層中に治療薬および保護物質を有する治療薬送達器具の一部の横断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に複数の孔を有する埋込み式の器具本体と、
該器具本体中の複数の孔の中に含入される治療薬と、
前記複数の孔中に設けられ、前記治療薬を分解する体内の化合物または状態から前記治療薬を保護するように配列された物質の保護層と
を備える埋込み式医療器具。
【請求項2】
前記保護層は、腐蝕するにつれて前記治療薬を放出させる、薬学的に許容可能な生腐蝕性マトリックスである請求項1に記載の埋込み式医療器具。
【請求項3】
前記生腐蝕性マトリックスは、水の浸入を実質的に防止する請求項2に記載の埋込み式医療器具。
【請求項4】
前記生腐蝕性マトリックスは、酵素の浸入を実質的に防止する請求項2に記載の埋込み式医療器具。
【請求項5】
前記生腐蝕性マトリックスは、pH変化による非活性化から、前記治療薬を実質的に保護する請求項2に記載の埋込み式医療器具。
【請求項6】
前記生腐蝕性マトリックスは、薬学的に許容可能なポリマーを含む請求項2に記載の埋込み式医療器具。
【請求項7】
前記薬学的に許容可能なポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸コポリマー、乳酸−カプロラクトンコポリマー、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリオルトエステル、多糖、多糖誘導体、ポリヒアルロン酸、ポリアルギニン酸、キチン、キトサン、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリペプチド、ポリリシン、ポリグルタミン酸、アルブミン、ポリ無水物、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリヒドロキシバレレート、ポリヒドロキシブチレート、タンパク質およびポリリン酸エステルからなる群から選択される請求項6に記載の埋込み式医療器具。
【請求項8】
前記生腐蝕性マトリックスは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、脂肪酸および脂肪酸エステルからなる群から選択される請求項2に記載の埋込み式医療器具。
【請求項9】
前記生腐蝕性マトリックスは、加水分解、溶解または酵素分解により腐食する請求項2に記載の埋込み式医療器具。
【請求項10】
前記生腐蝕性マトリックスは、腐食速度を制御するための添加剤をさらに含む請求項2に記載の埋込み式医療器具。
【請求項11】
前記治療薬は、前記生腐蝕性マトリックス中に均質に分散される請求項2に記載の埋込み式医療器具。
【請求項12】
前記治療薬は、前記生腐蝕性マトリックス中に不均質に配置される請求項2に記載の埋込み式医療器具。
【請求項13】
前記治療薬は、固体粒子分散液、封入作用物質分散液、乳濁液、懸濁液、リポソーム、ニオソームまたは微小粒子として、前記生腐蝕性マトリックス中に不均質に配置され、
前記ニオソーム、リポソームまたは微小粒子は、前記治療薬の均質混合物または不均質混合物を含む請求項12に記載の埋込み式医療器具。
【請求項14】
前記治療薬は、前記保護層に隣接する一次治療薬層中に提供される一次治療薬であり、
前記保護層は、該保護層が実質的に腐食するまで、前記治療薬が放出されるのを防止する生腐蝕性マトリックスである請求項1に記載の埋込み式医療器具。
【請求項15】
二次治療薬層中に提供される二次治療薬をさらに含み、
前記保護層は、前記一次治療薬層を二次治療薬層から分離し、
前記一次治療薬層および前記二次治療薬層は各々、薬学的に許容可能な生腐蝕性マトリックス中に配置された治療薬を含む請求項14に記載の埋込み式医療器具。
【請求項16】
前記保護層は、前記一次治療薬層および前記二次治療薬層のうちの一方への水の浸入を遅らせる請求項15に記載の埋込み式医療器具。
【請求項17】
前記保護層は、前記一次治療薬層および前記二次治療薬層のうちの一方への酵素の浸入を遅らせる請求項15に記載の埋込み式医療器具。
【請求項18】
前記保護層は、pH変化による非活性化から、前記一次治療薬層および前記二次治療薬層のうちの一方を実質的に保護する請求項15に記載の埋込み式医療器具。
【請求項19】
前記生腐蝕性マトリックスは、薬学的に許容可能なポリマーを含む請求項15に記載の埋込み式医療器具。
【請求項20】
前記薬学的に許容可能なポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸コポリマー、乳酸−カプロラクトンコポリマー、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリオルトエステル、多糖、多糖誘導体、ポリヒアルロン酸、ポリアルギニン酸、キチン、キトサン、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリペプチド、ポリリシン、ポリグルタミン酸、アルブミン、ポリ無水物、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリヒドロキシバレレート、ポリヒドロキシブチレート、タンパク質およびポリリン酸エステルからなる群から選択される請求項19に記載の埋込み式医療器具。
【請求項21】
前記生腐蝕性マトリックスは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、脂肪酸および脂肪酸エステルからなる群から選択される物質を含む請求項15に記載の埋込み式医療器具。
【請求項22】
前記生腐蝕性マトリックスは、加水分解、溶解または酵素的分解により腐食する請求項15に記載の埋込み式医療器具。
【請求項23】
前記一次治療薬層が実質的に腐食されると、前記保護層は物理的に粉々に壊れることにより腐食する請求項15に記載の埋込み式医療器具。
【請求項24】
前記生腐蝕性マトリックスは、腐食速度を制御するための添加剤をさらに含む請求項15に記載の埋込み式医療器具。
【請求項25】
前記一次治療薬および前記二次治療薬は、前記一次治療薬層および前記二次治療薬層の各々の中に均質に分散される請求項15に記載の埋込み式医療器具。
【請求項26】
前記一次治療薬および前記二次治療薬は、前記一次治療薬層および前記二次治療薬層の各々の中に不均質に配置される請求項15に記載の埋込み式医療器具。
【請求項27】
前記治療薬は、固体粒子分散液、封入作用物質分散液、ならびに乳濁液、懸濁液、リポソームまたは微小粒子として、前記一次治療薬層および前記二次治療薬層中に不均質に配置され、
前記リポソームまたは微小粒子は、前記治療薬の均質混合物または不均質混合物を含む請求項26に記載の埋込み式医療器具。
【請求項28】
前記保護層は、活性化剤または非活性化剤をさらに含み、
該活性化剤または該非活性化剤は、前記一次治療薬または前記二次治療薬の生物学的機能の損失を防止する請求項15に記載の埋込み式医療器具。
【請求項29】
前記活性化剤または前記非活性化剤は、制酸剤、緩衝剤、酵素阻害剤、疎水性添加剤およびアジュバントからなる群から選択される請求項28に記載の埋込み式医療器具。
【請求項30】
前記活性化剤または前記非活性化剤は、前記一次治療薬および前記二次治療薬のうちの一方を、pHの非活性化低減から保護する制酸剤である請求項28に記載の埋込み式医療器具。
【請求項31】
前記保護層は、前記一次治療薬および前記二次治療薬間の非活性相互作用を防止する、作用物質を含む請求項29に記載の埋込み式医療器具。
【請求項32】
前記治療薬は、抗腫瘍形成剤、腫瘍形成剤、抗増殖剤、アンチセンス化合物、免疫抑制剤、血管新生剤、血管新生因子、抗血管新生剤および抗炎症剤またはそれらの組合せからなる群から選択される請求項1に記載の埋込み式医療器具。
【請求項33】
前記器具はステントである請求項1に記載の埋込み式医療器具。
【請求項34】
患者へ薬剤を送達する方法であって、
内部に複数の孔を有する埋込み式の器具本体と、
該器具本体中の複数の孔の中に含入される治療薬と、
前記複数の孔中に設けられ、前記治療薬を分解する体内の化合物または状態から前記治療薬を保護するように配列された物質の保護層と
を備える埋込み式医療器具を、患者の動脈または静脈内に設置することを備える方法。
【請求項35】
患者が経皮経管冠動脈形成術および腔内ステント設置を受けた後に、患者における再狭窄を治療するために用いられる請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記治療薬は、前記保護層に隣接する一次治療薬層中に提供される一次治療薬であり、
前記保護層は、該保護層が実質的に腐食するまで、前記治療薬が放出されるのを防止する生腐蝕性マトリックスである請求項34に記載の方法。
【請求項37】
二次治療薬層中に提供される二次治療薬をさらに含み、
前記保護層は、前記一次治療薬層を二次治療薬層から分離し、
前記一次治療薬層および前記二次治療薬層は各々、薬学的に許容可能なポリマー中に配置された治療薬を含む請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記保護層は、前記一次治療薬層および前記二次治療薬層のうちの一方への水の浸入を遅らせる請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記保護層は、前記一次治療薬層および前記二次治療薬層のうちの一方への酵素の浸入を遅らせる請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記保護層は、pH変化による非活性化から、前記治療薬を実質的に保護する請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記生腐蝕性マトリックスは、薬学的に許容可能なポリマーを含む請求項37に記載の方法。
【請求項42】
前記薬学的に許容可能なポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸コポリマー、乳酸−カプロラクトンコポリマー、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリオルトエステル、多糖、多糖誘導体、ポリヒアルロン酸、ポリアルギニン酸、キチン、キトサン、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリペプチド、ポリリシン、ポリグルタミン酸、アルブミン、ポリ無水物、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリヒドロキシバレレート、ポリヒドロキシブチレート、タンパク質およびポリリン酸エステルからなる群から選択される請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記生腐蝕性マトリックスが、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、脂肪酸および脂肪酸エステルからなる群から選択される物質を含む請求項37に記載の方法。
【請求項44】
前記生腐蝕性マトリックスは、加水分解、溶解または酵素分解により腐食する請求項37に記載の方法。
【請求項45】
前記一次治療薬層が実質的に腐食されると、前記保護層は物理的に粉々に壊れることにより腐食する請求項37に記載の方法。
【請求項46】
前記生腐蝕性マトリックスは、腐食速度を制御するための添加剤をさらに含む請求項37に記載の方法。
【請求項47】
前記一次治療薬および前記二次治療薬は、前記一次治療薬層および前記二次治療薬層の各々の中に均質に分散される請求項37に記載の方法。
【請求項48】
前記一次治療薬および前記二次治療薬は、前記一次治療薬層および前記二次治療薬層の各々の中に不均質に配置される請求項37に記載の方法。
【請求項49】
前記治療薬は、固体粒子分散液、封入作用物質分散液、ならびに乳濁液、懸濁液、リポソームまたは微小粒子として、前記一次および二次治療薬層中に不均質に配置され、
前記リポソームまたは微小粒子は、前記治療薬の均質混合物または不均質混合物を含む請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記保護層は、活性化剤または非活性化剤をさらに含み、
該活性化剤または該非活性化剤は、前記一次治療薬または前記二次治療薬の生物学的機能の損失を防止する請求項37に記載の方法。
【請求項51】
前記活性化剤または前記非活性化剤は、制酸剤、緩衝剤、酵素阻害剤、疎水性添加剤およびアジュバントからなる群から選択される請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記活性化剤または前記非活性化剤は、前記一次治療薬および前記二次治療薬のうち一方を、pHの非活性低減から保護する制酸剤である請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記保護層は、前記一次治療薬および前記二次治療薬間の非活性化相互作用を防止する作用物質を含む請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記治療薬は、抗腫瘍形成剤、腫瘍形成剤、抗増殖剤、アンチセンス化合物、免疫抑制剤、血管新生剤、血管新生因子、抗血管新生剤および抗炎症剤またはそれらの組合せからなる群から選択される請求項34に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−505306(P2006−505306A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−538473(P2004−538473)
【出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【国際出願番号】PCT/US2003/030125
【国際公開番号】WO2004/026357
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【出願人】(500449400)コナー メドシステムズ, インコーポレイテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】CONOR MEDSYSTEMS, INC.
【住所又は居所原語表記】1360 Hamilton Court,Menlo Park,CA 94025 U.S.A.
【Fターム(参考)】