説明

信号伝送装置及び信号伝送方法

【課題】入力値の絶対値を少ないパルスで伝送することができ、且つ、受信側で得られる値が正しい値であることを短い周期で保証することができる信号伝送装置及び信号伝送方法を提供する。
【解決手段】入力値の絶対値に関する情報を含む所定ビットのワードの各ビットに対応するパルスを順に送信する。この際、入力値が所定の閾値に達したとき、及び、前回のパルス出力時から所定時間経過しても入力値が所定の閾値に達しないときに、入力値の増加、減少又は増減なしのいずれかを示す増減等情報、及び、ワードのビット情報に基づいてパルスの長さを設定し、そのパルスを送信する。これにより、入力値の絶対値に関する情報を少ないパルスで伝送することができるとともに、受信側で得られる値が正しい値であることを短い周期で保証することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量の測定値等をパルス信号を用いて伝送する信号伝送装置及び信号伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンコーダ等によりモータの回転角や直動機構の変位量等を測定し、その値をパルス信号を用いて時々刻々と伝送することが行われている。この伝送方法として、角度や位置の絶対値を時々刻々送る方法と、絶対値は所定の長い時間間隔のみで送り、その間、その測定値の変化量のみを時々刻々と送るという2つの方法がある。このうち前者の方法では、伝送されるパルスの数が多く、伝送装置や伝送路に大きな負荷が掛かるという問題がある。
【0003】
後者の効率的な伝送装置として、次のようなものが提案されている(特許文献1参照)。送信側では、入力された測定値が所定の基準値と等しいときに原点信号を送信し、測定値がそこから所定の変化量ずつ変化する度にパルスを送信する。これにより受信側では、原点信号を受信したときの測定値が既知の基準値であることが分かるとともに、測定値の変化を示すパルスの計数により現在の測定値が基準値からどれだけ変化した値であるかが分かる。つまり、受信側でそれらの信号を受信する度に、現在の測定値の絶対値を取得することができる。このとき、絶対値そのものを表すパルス列を次々に伝送するのではなく、測定値と基準値が等しいことを示す原点信号と測定値の変化を示すパルスを伝送するため、伝送される信号の数が少なく、伝送装置や伝送路への負荷が小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-116588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の装置では、測定値の変化を示すパルスの伝送エラーにより受信側でパルスの計数値にずれが生じ、測定値の正しい値を得ることができなくなっても、その後に送信側に入力される測定値が基準値に等しくなって原点信号が送信されることにより、受信側では原点信号に基づいて再び測定値の正しい値を得ることができる。しかし、送信側に入力される測定値が基準値に等しくない状態が続くと、その間は原点信号が送信されないため、一旦受信側のパルスの計数値にずれが生じると、その状態が継続する。従って、例えば測定値が基準値から離れたところで変動する場合には、その間に受信側で得られた値が正しい値であることを保証することができない。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、測定値等の入力値の絶対値に関する情報を少ないパルスで伝送することができ、且つ、入力値の変動範囲に拘わらず、受信側で得られる値が正しい値であることを短い周期で保証することができる信号伝送装置及び信号伝送方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係る信号伝送装置は、
入力値を表す複数のビットを含む所定数のビットで構成されるワードを所定の規則に従って生成し、該ワードの各ビットに対応するパルスを所定の時間t1以上の間隔で送信する送信ユニットと、
前記パルス列を受信して前記ワードを完成し、前記入力値を復元する受信ユニットと
を備える信号伝送装置であって、
前記送信ユニットが前記パルスを、
a) 所定時間t2経過する前に、入力値が所定の閾値を超えた時、
b) 所定時間t2経過する前に、入力値が所定の閾値を下回った時、
c) 所定時間t2の間、入力値が前記所定の閾値を超え又は下回らなかった時、
に、それぞれを表す増減等情報と前記ワードの各ビットの値とに基づいて定められた長さで送信し、
前記受信ユニットが、各パルスを受信した時点で前記増減等情報に基づき入力値を更新する
ことを特徴とする信号伝送装置。
【0008】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係る信号伝送方法は、
入力値を表す複数のビットを含む所定数のビットで構成されるワードを所定の規則に従って生成し、該ワードの各ビットに対応するパルスを所定の時間t1以上の間隔で送信する送信ユニットと、
前記パルス列を受信して前記ワードを完成し、前記入力値を復元する受信ユニットと
を用いる信号伝送方法であって、
前記送信ユニットが前記パルスを、
a) 所定時間t2経過する前に、入力値が所定の閾値を超えた時、
b) 所定時間t2経過する前に、入力値が所定の閾値を下回った時、
c) 所定時間t2の間、入力値が前記所定の閾値を超え又は下回らなかった時、
に、それぞれを表す増減等情報と前記ワードの各ビットの値とに基づいて定められた長さで送信し、
前記受信ユニットが、各パルスを受信した時点で前記増減等情報に基づき入力値を更新する
ものであることを特徴とする信号伝送方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る信号伝送装置及び信号伝送方法では、送信ユニットでは、或る時点の入力値の絶対値(以下、これを長周期値と呼ぶ)を複数ビットのデジタル値で表し、それにパリティビットや送信に必要なビット等を付加して1つのワードを生成する。そして、そのワードの各ビットに対応するパルスを最小時間間隔t1以上の間隔で順次送信する。
【0010】
本発明に係る信号伝送装置及び信号伝送方法の特徴は、この順次送信するパルスの長さが、ワード(これには、長周期値を表す複数ビットが含まれる)を構成する各ビットの値(0又は1)に依存する他、そのパルスを作成(送信)する時点での入力値(以下、これを短周期値と呼ぶ)の、長周期値又は前回の短周期値からの増減等に関する情報にも依存していることである。すなわち、送信されるパルスの長さは、
a) 前回送信時以降、(最小時間間隔t1が経過した後)所定時間t2が経過する前に入力値が所定の閾値を超えた時には「増加」
b) 前回送信時以降、(最小時間間隔t1が経過した後)所定時間t2経過する前に入力値が所定の閾値を下回った時には「減少」
c) 前回送信時以降、(最小時間間隔t1が経過した後)所定時間t2の間入力値が前記所定の閾値を超え又は下回らなかった時には「維持」
のいずれかの情報(増減等情報。3種)と、ワードを構成するビット値(ワード情報。2種)との組み合わせにより、6通りに変化する。送信ユニットは、こうして作成したパルスを最小時間間隔t1以上の間隔で順次送信する。
【0011】
なお、ここで入力値の増加及び減少の判断に用いられる閾値は、一定の幅で定められた値であってもよいし、所定の関数等に従って定められるものであってもよい。もちろん、これらの閾値は送信ユニットと受信ユニットで予め共有されている。
【0012】
これらのパルス列を受信する受信ユニットは、各パルスを受信した際、そのパルスの長さより、ワード情報と増減等情報を取り出す。
【0013】
そして、この中の増減等情報より、前回受信した長周期値(前回時点での入力値の絶対値)に前記所定閾値を用いた「増加」、「減少」、「維持」の演算を行い、その時点での入力値を決定する。
【0014】
また、ワード情報より、1ワードを構成する全てのパルスを受信した時点を判断する。その時点で、ワードの中から長周期値を表す複数のビットを取り出し、入力値の絶対値を復元する。
【0015】
このように、本発明に係る信号伝送装置及び信号伝送方法では、測定値等の入力値の絶対値に関する情報を少ないパルスで伝送することができるとともに、受信側で得られる値が正しい値であることを短い周期で保証することができる。
【0016】
なお、本発明の本質は符号化の部分にあるのであり、伝送することのできる信号は電気信号ばかりではなく光信号であってもよい。従って、例えば光ファイバによる高速LAN上で多重伝送することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例である信号伝送装置の概略構成図。
【図2】ワードのフォーマットの一例を示す図。
【図3】送信ユニットにて行われる処理を示すフローチャート。
【図4】受信ユニットにて行われる処理を示すフローチャート。
【図5】入力値の変化を表すグラフと、その変化に伴って出力されるパルスのタイミングチャートの一例を示す図。
【図6】パルス長の一例を示す図。
【図7】入力値の変化を表すグラフと、その変化に伴って出力されるパルスのタイミングチャートの一例を示す図。
【図8】絶対値テーブルの一例を示す図。
【図9】入力値の変化を表すグラフと、その変化に伴って出力されるパルスのタイミングチャートの変形例を示す図。
【図10】入力値の変化を表すグラフと、その変化に伴って出力されるパルスのタイミングチャートの変形例を示す図。
【図11】入力値の変化を表すグラフと、その変化に伴って出力されるパルスのタイミングチャートの変形例を示す図。
【図12】入力値及び算出値の変化を表すグラフと、入力値の変化に伴って出力されるパルスのタイミングチャートの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施例である信号伝送装置及び信号伝送方法について、図面を参照して説明する。信号伝送装置1は、入力値に基づいて生成されたパルスを順に送信する送信ユニット10と、受信したパルスに基づいて入力値を復元する受信ユニット20からなる(図1参照)。送信ユニット10は入力部11、制御部12、記憶部13、送信部14を備え、受信ユニット20は受信部21、制御部22、記憶部23、出力部24を備える。
【0019】
入力部11は、所定の物理量を計測する機器等からのアナログの電気信号(例えば温度センサや圧力センサ等から出力される電気信号)を所定ビットのデジタル電気信号に変換するA/D変換器である。本実施例のA/D変換器は14ビットの分解能を有するものであり、入力されたアナログ信号の大きさに応じて0〜16383のデジタル値を示すデジタル信号を所定のサンプリング周期で出力する。
【0020】
送信ユニット10の制御部12はCPUやDSP(デジタルシグナルプロセッサ)等のマイクロプロセッサを備えるものであり、機能的にはワード生成部121、パルス長設定部122を有するものである。記憶部13はRAMやROM等の記憶装置である。制御部12及び記憶部13の全て又は一部は、同一半導体チップ上に各種回路が形成されたワンチップマイコンで構成してもよい。
【0021】
制御部12のワード生成部121は、或る時点の入力値に基づいて所定数のビットから構成されるワードを所定のフォーマットに従って生成する。本実施例のワードは図2に示すようなフォーマットで生成される32ビットのワードである。各ワードには、先頭の8ビットにフレーム同期のためのデータとして"01111110"(16進数の7E)が割り当てられ、その後に入力値の絶対値データ(10ビット)とそれ以外の所定の付加データ(8ビット)が割り当てられる。このとき、絶対値データ及び付加データを表すビット列には、4ビット毎に同期ビット(各1ビット)が挿入される。そして、最後の2ビットには、絶対値データと付加データをそれぞれパリティチェックするためのパリティデータが1ビットずつ割り当てられる。なお、付加データは入力値に関連する1又は複数の任意の情報(例えば送信ユニット10のID番号や送信ユニット10に設けられたトグルスイッチからの入力値等)を示すものである。
【0022】
パルス長設定部122は後述する所定の条件に応じて、ワードの各ビットに対応するパルスの長さを設定する。
【0023】
送信部14は、パルス長設定部122で設定された長さのパルスを所定の伝送形態の電気信号に変換して送信する通信デバイスである。伝送形態はパルスの伝送に適したものであればよく、例えば、ツイストペア電線を用いて差動信号により伝送するものや、搬送波をパルス信号で変調しその搬送波を送信するもの等を用いることができる。
【0024】
受信ユニット20の受信部21は送信ユニット10の送信部14より送信された電気信号を受信する通信デバイスである。制御部22はCPUやDSP等のマイクロプロセッサを備えるものであり、機能的には入力値算出部221、絶対値復元部222を有するものである。記憶部23はRAMやROM等の記憶装置である。制御部22と記憶部23の全て又は一部は、送信ユニット10の制御部12、記憶部13と同様にワンチップマイコンで構成してもよい。出力部24は制御部22で生成された値を示す電気信号を外部の装置に出力するものである。なお、受信ユニット20の制御部22と記憶部23の全て又は一部は、この「外部の装置」の方が備える制御機能(又はソフトウェア)により実現することもできる。
【0025】
以下、送信ユニット10及び受信ユニット20の基本的な動作を図3、4に示すフローチャートに沿って説明する。ここでは、A/D変換器から出力される14ビット(0〜16383)の値(入力値)が図5に示すように変化するとともに、送信ユニット10が、或る時点(例えば伝送処理の開始時等)に入力された入力値を10ビット(0〜1023)の絶対値データに換算し、その絶対値データを含むワードを受信ユニット20に送信する場合を想定する。図5に示す値X0〜X5はそれぞれ隣接する値と定数Tずつ離れる閾値である。定数Tは入力値の最大値(厳密には14ビットの値の最大値16383に1を加えた値である16384)を絶対値データの取り得る値(0〜999)の個数(1000)で割った値(16.384)である。なお、ここでは絶対値データの取り得る値の個数を1000個としたが、その個数は本実施例では10ビットで表すことが可能な個数であればよく、1024個等でもよい。
【0026】
まず送信ユニット10では、入力部11にアナログの電気信号が入力されると、A/D変換器がその信号の大きさに応じた14ビットのデジタル信号を出力し、制御部12に入力する(ステップS11)。制御部12は、入力されたデジタル信号が示すデジタル値(入力値)を記憶部13に保存する。
【0027】
制御部12のワード生成部121は、記憶部13に保存された入力値に基づいて10ビットで表される絶対値データを生成し、上述したフォーマットに従ってこの絶対値データを含む32ビットのワードを生成する(ステップS12)。
【0028】
上記入力値が制御部12に入力されてから所定の最小時間(例えば10ms)経過した後に次の入力値が入力されると(ステップS13)、パルス長設定部122は、記憶部13に保存された前回の入力値に対して今回の入力値が上下の閾値を超えて増減したかどうかを判断する(ステップS14)。ただし、前回増減時と同じ閾値を超えて増減した場合には増減なしと判断する。図5に示す例であれば、伝送処理の開始時に値X0だった入力値が増加してX1に達したとき(点A)や、その後更に入力値が増加して値X2に達したとき(点B)、点Cにて値X2だった入力値が減少して値X1に達したとき(点D)等に、パルス長設定部122は入力値が閾値を超えて増減したと判断する。
【0029】
入力値が閾値を超えて増減したと判断されたときには、パルス長設定部122は入力値の増減を判断する(ステップS15)。図5に示す例であれば、点A、Bでは入力値の「増加」と判断し、点Dでは入力値の「減少」と判断する。次にパルス長設定部122は今回のワードにおける次に送信するビットの値が"0"であるか"1"であるかを判断する(ステップS17、S18)。そして、これらの判断に基づいて、次に送信するパルスの長さを設定する(ステップS20〜S23)。本実施例では図6に示すように、各パルスの長さを、入力値が増加し且つ次に送信するビットが"1"のときには2.7ms、入力値が増加し且つ次に送信するビットが"0"のときには2.4ms、入力値が減少し且つ次に送信するビットが"1"のときには2.1ms、入力値が減少し且つ次に送信するビットが"0"のときには1.8msにそれぞれ設定する。
【0030】
一方、上記ステップS14にて、入力値が閾値Tを超えて増減していないと判断されたときには、パルス長設定部122は前回のパルス出力時から所定時間(例えば320ms)経過したかどうかを判断する(ステップS16)。所定時間経過していなければステップS13に戻り、制御部12が次の入力値を待つ。所定時間経過していれば、パルス長設定部122が今回のワードにおける次に送信するビットの値が"0"であるか"1"であるかを判断し(ステップS19)、次に送信するパルスの長さを設定する(ステップS24、S25)。本実施例では図6に示すように、このときのパルス長を、次に送信するビットが"1"のときには1.5ms、次に送信するビットが"0"のときには1.2msにそれぞれ設定する。
【0031】
パルス長が設定されると、送信部14はそのパルスを所定の伝送形態の電気信号に変換して送信する(ステップS26)。制御部12は今回の入力値を記憶部13に保存し(ステップS27)、今回のワードの全てのビット情報の送信が完了したかどうかを判断する(ステップS28)。全てのビット情報の送信が完了していればステップS11に戻り、制御部12が次に入力される入力値に基づいて新たなワードを生成する。全てのビット情報の送信が完了していなければステップS13に戻り、制御部12が上記と同様の手順で現在送信中のワードの次のビット情報の送信処理を行う。
【0032】
図4に示すように受信ユニット20では、受信部21が上記パルスを受信すると(ステップS31)、制御部22がそのパルスの長さを識別する(ステップS32)。そして、その長さに基づいて入力値算出部221が入力値を算出し(ステップS33〜S38)、絶対値復元部222が絶対値を復元する(ステップS39〜S44)。このときに入力値算出部221及び絶対値復元部222は具体的には次のような処理を行う。
【0033】
入力値算出部221は、パルスの長さに基づいてパルスの増減情報が「増加」又は「減少」であると判断したときには、既に受信済みの前回のワードにより復元された前回の絶対値を初期値とする算出値に定数Tを加減し(ステップS33〜S36)、算出値を記憶部23に保存する。この算出値は、前回の絶対値の復元時以降に受信した各パルスの増減情報に基づいて算出されたものであり、現時点での入力値を示すものである。一方、パルスの増減情報が「増減なし」であると判断したときには、入力値算出部221は算出値の増減を行わない(ステップS37、S38)。本実施例では、図6に示すように、パルスの長さが2.7±0.1ms又は2.4±0.1msの範囲にあるとき、つまり増減情報が「増加」を示すときには、記憶部23に保存された前回の算出値を定数Tだけ増加させる。パルスの長さが2.1±0.1ms又は1.8±0.1msの範囲にあるとき、つまり増減情報が「減少」を示すときには、前回の算出値を定数Tだけ減少させる。パルスの長さが1.5±0.1ms又は1.2±0.1msの範囲にあるとき、つまり増減情報が「増減なし」を示すときには、前回の算出値を維持する。なお、伝送処理の開始直後のように復元した絶対値に基づく算出値が求められていないときには、ステップS33〜S38にて算出値の代わりに、予め定められた値(例えば原点の値等)を用いる。
【0034】
絶対値復元部222は、パルスの長さに基づいてビット情報を取得し、現在復元中のワードのビット列に"0"又は"1"のピットを追加する(ステップS39〜S44)。本実施例では、パルスの長さが2.7±0.1ms、2.1±0.1ms又は1.5±0.1msの範囲にあるときには、復元中のワードのビット列に"1"を追加する。パルスの長さが2.4±0.1ms、1.8±0.1ms又は1.2±0.1msの範囲にあるときには、復元中のワードのビット列に"0"を追加する。
【0035】
次に、制御部22が復元中のワードにおける絶対値データのビット情報が全て揃ったかどうかを判断する(ステップS45)。ビット情報が全て揃ったと判断されたときには、ビット情報に基づいて復元された絶対値と、増減情報に基づいて算出されている算出値を比較する(ステップS46)。それらに差がある場合には伝送エラー等によって算出値がずれたと考えられる。このずれは、ずれ発生以降の全ての算出値に含まれており、今回のパルスに基づいて算出した算出値にも含まれる。そのため、上記差がある場合には、ステップS33〜S38で算出又は維持された算出値を上記差だけ増減して補正する(ステップS47)。なお、ステップS46にて行う復元された絶対値とそれに対応する算出値の比較は、パリティデータに基づいて絶対値データのパリティチェックを行い、そのデータにエラーがないことを確認してから行ってもよい。
【0036】
ステップS45にてビット情報がまだ揃っていないと判断されたとき、ステップS46にて絶対値とそれに対応する算出値が一致したとき、及び、ステップS47にて算出値が補正されたときには、出力部24が算出値をデジタル又はアナログの電気信号として外部の装置に出力する(ステップS48)。その後、制御部22は今回の算出値を記憶部23に保存し(ステップS49)、ステップS31に戻って次のパルスを待つ。
【0037】
上述したとおり信号伝送装置1では、入力値が上下の閾値を超えて増減しなくても、前回のパルス出力時から所定時間(例えば320ms)経過すると送信ユニット10がパルスを送信する(図7参照)。そのため、送信ユニット10へ入力される入力値のが上下の閾値を超えて増減しない状態が長期間継続しても、送信ユニット10から定期的に送信されるパルスに基づいて、受信ユニット20が絶対値を復元したり、送信ユニット10が正常に動作していることを確認したりすることができる。
【0038】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜変形や修正を行えることは明らかである。例えば、上記実施例では送信ユニット10が、10ビットの絶対値データを含む32ビットで構成されるワードを作成し、所定の最小時間である10ms以上の間隔でパルスを送信する構成としたが、ワードを構成するビット数、絶対値データのビット数と定数T、及び前記最小時間は適宜変更可能である。また、閾値は定数Tずつ離れた値としたが、所定の関数等に従って定められるものであってもよい。これらにより、所望の閾値と周期により入力値の変化を把握することができる。さらに、これらの絶対値は、制御部12、22が所定の計算式により適宜算出してもよいが、図8に示すような絶対値テーブル131を記憶部13、23に予め保存しておき、制御部12、22が記憶部13、23から予め共有されている絶対値テーブル131の各値を適宜読み込んでもよい。なお、図8に示した絶対値テーブル131では、上記実施例のA/D変換器から出力可能なデジタル値(0〜16383)の範囲に1000個の絶対値が設定されている。各絶対値は定数T(16.384)毎に等間隔に設定された0.000から16367.616まで値であり、それぞれ0〜999の絶対値データに対応する。
【0039】
上記実施例では、入力値が上下の閾値を超えて増減したときであって、その閾値が前回増減時と異なる場合(図5に示す点A、B、D等のとき)及び前回のパルス出力時から所定時間経過したときのみにパルスを出力するが、例えば図9に示すように、点Bにて値X2だった入力値が一旦増加したものの閾値X3に達することなく減少に転じて同じ値X2に達したとき(点C)や、点Dにて値X1だった入力値が一旦減少したものの閾値X0に達することなく増加に転じて同じ値X1に達したとき(点E)にもパルスを出力してもよい。これらのときのパルスの増減情報は「増減なし」とすればよい。ただし、入力値が図10に示すように変動する場合、つまり、点Fにて値X1だった入力値が値X0、X2に達することなく値X1を挟んで繰り返し上下動するような場合には、入力値が値X1に達する度にパルスを出力すると、必要以上に多くのパルスが送信され、伝送装置や伝送路に大きな負荷が掛かる(図10(a)参照)。一方、上記実施例のように入力値が上下の閾値を超えて増減したとき及び前回のパルス出力時から所定時間経過したときのみにパルスを出力すれば、伝送装置や伝送路に掛かる負荷が小さい(図10(b)参照)。
【0040】
図11に示すように送信ユニット10ではパルスを所定の時間間隔で送信してもよい。この場合、パルス長設定手段122は所定の時間間隔で入力値の変化量を調べ、「増加」、「減少」又は「増減なし」のいずれかを示す増減情報を設定し、この増減情報とワードのビット情報に基づいてパルスの長さを設定する。送信部14はパルス長設定手段122でパルス長が設定される度にパルスを送信する。これにより、受信ユニット20では絶対値を一定の時間間隔で取得することができる。
【0041】
その他、パルス長設定部122が、入力値と閾値の大小関係から「増加」、「減少」等を判断するようにしてもよい。この場合には、所定の閾値として、前回の増減判断に用いた閾値に隣接する閾値を用いる。即ち、前回「増加」と判断した場合には、前回の判断に用いた閾値に隣接する上位の閾値を所定の閾値とし、これよりも入力値が大きい場合に「増加」と判断する。これにより、図12に示すように、一時的に入力値に大きな変動が生じても(点G)、連続して「増加」(あるいは「減少」)を示すパルスを送信し続けることにより、入力値と算出値を一致させることができる(点H)。
【0042】
送信ユニット10の入力部11は、アブソリュート方式のロータリーエンコーダやロータリーポテンショメータ等から出力される角度の絶対値を示す電気信号に基づいて入力値を設定するものであってもよい。また、入力部11は、アブソリュート方式のリニアエンコーダやリニアポテンショメータ等から出力される位置の絶対値を示す電気信号に基づいて入力値を設定するものであってもよい。アブソリュート方式のエンコーダは絶対値を示すパルスを次々と出力するものであるため、伝送データ量が多く、そのパルス列をそのまま伝送路に送り込むと伝送路に大きな負荷が掛かる。そこで、そのパルス列を信号伝送装置1の入力部11に入力し信号伝送装置1を介して伝送すればパルスの数が少なくなり、伝送路に掛かる負荷が軽減する。
【0043】
送信ユニット10の制御部12は、或る時点での物理量が所定の基準値であることを示す基準信号及びその時点からの物理量の変化量を示す電気信号に基づいて、入力値の絶対値を算出するものであってもよい。例えば、位置や角度の検出にインクリメンタル方式のロータリーエンコーダやリニアエンコーダを用いる場合、エンコーダの出力値が原点の値等の所定の基準値になると生成されて入力部11に入力される基準信号、及び、基準信号発生後にエンコーダから出力されて入力部11に入力される角度や位置の変化量を示す電気信号に基づいて、制御部12が角度や位置の絶対値(入力値)を算出してもよい。これにより、角度や位置の検出に、アブソリュートエンコーダよりも構造が簡単で安価なインクリメンタルエンコーダを用いる場合にも、角度や位置の絶対値を伝送することができる。また、インクリメンタルエンコーダの代わりに、所定の物理量を一定量計量する毎にパルスを出力する計測機器(例えば雨量計や積算電力計、容積流量計等)を用い、制御部12が上記と同様に基準信号及び物理量の変化量を示す電気信号に基づいて物理量の絶対値を算出し、その絶対値を伝送してもよい。
【0044】
信号伝送装置1は、測定対象の物理量を電気信号に変換する適切なセンサがあれば、どのような物理量の絶対値も伝送可能であり、温度や湿度、圧力等の様々な絶対値の伝送に利用することができる。
【0045】
センサにて物理量を電気量に変換する際、物理量と電気量は比例するのが理想的であるが、実際のセンサではそれらが完全には比例しないことがある。また、A/D変換器においても、入力される電気量と出力されるデジタル値は比例するのが理想的であるが、実際のA/D変換器ではそれらが完全には比例しないことがある。センサやA/D変換器にてこのような非線形性による直線性誤差が生じる場合、それが繰り返しの再現性があるものであれば、その誤差に応じた校正値を予め求めておき、送信ユニット10の制御部12又は受信ユニット20の制御部22にて入力値を校正してもよい。これにより、直線性誤差が生じやすい低価格のセンサやA/D変換器を用いても、入力された物理量の絶対値を高い精度で外部の装置に出力することができる。
【0046】
上記実施例では送信ユニット10がA/D変換器を備えるが、例えばアブソリュート方式のエンコーダ等から出力されるデジタル信号を送信ユニット10に入力する場合にはA/D変換器は不要である。エンコーダやセンサ等を送信ユニット10に組み込み、それらを一体化してもよい。多数の物理量を計測、監視する場合には、送信ユニット10を複数用意し、それらから出力されるパルスを時分割的に切り換えながら一つの伝送路に伝送してもよい。
【0047】
送信部14にて各パルスに基づく二相信号を生成し、それによりデータを伝送してもよい。送信部14と受信部21を光ファイバーで接続し、光通信によりデータを伝送してもよい。送信部14と受信部21をLANやWAN等のコンピュータネットワークを介して接続し、所定の通信プロトコルに従ってデータを伝送してもよい。搬送波として電波や光、音波等を用いる無線通信によりデータを伝送してもよい。
【0048】
受信ユニット20に表示部を設け、出力部24から出力される電気信号をそこに入力し、算出値をそこに表示させてもよい。表示部としては様々なものを用いることができ、例えば出力値をデジタル数字で表示するデジタル表示装置や、指針によって出力値を示すアナログメータ等を用いることができる。
【0049】
受信ユニット20には、機器に異常が発生したことや入力値が所定範囲を超えたこと、算出値にずれが生じたこと等をオペレータに通知するための異常通知部を設けてもよい。異常通知部としては様々なものを用いることができ、例えば異常が検知されると点灯するエラーランプや、エラーを示す文字や記号を表示するエラー表示装置、表示された算出値をエラー発生時に点滅させる算出値表示装置等を用いることができる。
【0050】
本実施例に係る信号伝送装置1は様々な用途に利用可能である。例えばX-by-WireやFly-by-Wireと呼ばれる自動車や航空機の制御信号の伝送に用いることができる。具体的には、自動車のアクセルペダルや航空機のラダーペダルの踏み込み角度や踏み込み圧力の絶対値の伝送等に用いることができる。自動車の用途では、CAN(Controller Area Network)やFlexRay等の通信規格に準じて絶対値を伝送してもよい。
【0051】
大規模な化学プラントのプロセスオートメーションで使用される制御システムや原子力発電所、ダム、上下水道設備等の遠隔監視制御システム等に用いることもでき、例えばオペレータがロータリーポテンショメータの回転角によって指示した制御値を化学プラントの制御装置に伝送する場合に用いることができる。この用途では、制御装置に入力される制御値が急激に変化すると、化学プラントに高負荷を加えることがあるため、制御値の変化率を所定値以下にすることが要求されるが、電源投入時にロータリーポテンショメータが大きな値に設定されていたり、化学プラントの稼働中にオペレータがロータリーポテンショメータを急激に回転させたりすると、制御値の変化率が所定値を超えることがある。このように急激に変化する可能性がある制御値を送信ユニット10に入力して伝送する場合、前述のように、入力値と閾値の大小関係から「増加」、「減少」等を判断するような構成とすればよい。これにより、送信ユニット10からは入力値の「増加」あるいは「減少」を示すパルスが所定の最小時間間隔で連続して送信されるため、予めワードを構成するビット数、閾値、及び最小時間間隔を適切に設定しておけば、受信ユニット20から出力される制御値の変化率を所定値以下にすることができ、制御装置に急激に変化する制御値が入力されることを防止することができる。また、特に原子力発電所、ダム、上下水道設備等の社会的に重要なシステムの監視業務では、機器の異常等を放置すると重大な事故を招くおそれがあるため、上記した異常通知部を用いてシステムの安全性を高めることが望ましい。
【0052】
本実施例に係る信号伝送装置1はファクトリーオートメーションに用いられる産業用ロボット、遠隔手術システムに用いられる医療用ロボット、家庭用の生活支援ロボット等の各種ロボットのモーションコントロールにも用いることができる。信号伝送装置1では物理量の絶対値を少ないパルスで伝送することができるため、例えば人間と同程度の多数の関節を有するロボットを制御するために多数のアブソリュートエンコーダを使用する場合に、処理能力の高い通信機器を用いなくてもよく、通信機器を小型化・軽量化・低コスト化しやすい。信号伝送装置1はその他にも、触覚センサ、味覚センサ、嗅覚センサにより得られる値の伝送等にも用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
1…信号伝送装置
10…送信ユニット
11…入力部
12、22…制御部
121…ワード生成部
122…パルス長設定部
13、23…記憶部
131…絶対値テーブル
14…送信部
20…受信ユニット
21…受信部
221…入力値算出部
222…絶対値復元部
24…出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力値を表す複数のビットを含む所定数のビットで構成されるワードを所定の規則に従って生成し、該ワードの各ビットに対応するパルスを所定の時間t1以上の間隔で送信する送信ユニットと、
前記パルス列を受信して前記ワードを完成し、前記入力値を復元する受信ユニットと
を備える信号伝送装置であって、
前記送信ユニットが前記パルスを、
a) 所定時間t2経過する前に、入力値が所定の閾値を超えた時、
b) 所定時間t2経過する前に、入力値が所定の閾値を下回った時、
c) 所定時間t2の間、入力値が前記所定の閾値を超え又は下回らなかった時、
に、それぞれを表す増減等情報と前記ワードの各ビットの値とに基づいて定められた長さで送信し、
前記受信ユニットが、各パルスを受信した時点で前記増減等情報に基づき入力値を更新する
ことを特徴とする信号伝送装置。
【請求項2】
前記送信ユニットが、物理量の絶対値を示す電気信号に基づいて入力値を設定する入力値設定手段を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の信号伝送装置。
【請求項3】
前記電気信号が、アブソリュート方式のエンコーダから出力された角度又は位置の絶対値を示す電気信号であることを特徴とする請求項2に記載の信号伝送装置。
【請求項4】
前記送信ユニットが、或る時点での物理量が所定の基準値であることを示す基準信号及び該時点からの物理量の変化量を示す電気信号に基づいて、入力値の絶対値を算出する絶対値算出手段を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の信号伝送装置。
【請求項5】
前記電気信号が、インクリメンタル方式のエンコーダから出力された角度又は位置の変化量を示す電気信号であることを特徴とする請求項4に記載の信号伝送装置。
【請求項6】
前記送信ユニットが、現入力値の変化量が所定の閾値に達したどうかの判断を所定の時間間隔で行うものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の信号伝送装置。
【請求項7】
入力値を表す複数のビットを含む所定数のビットで構成されるワードを所定の規則に従って生成し、該ワードの各ビットに対応するパルスを所定の時間t1以上の間隔で送信する送信ユニットと、
前記パルス列を受信して前記ワードを完成し、前記入力値を復元する受信ユニットと
を用いる信号伝送方法であって、
前記送信ユニットが前記パルスを、
a) 所定時間t2経過する前に、入力値が所定の閾値を超えた時、
b) 所定時間t2経過する前に、入力値が所定の閾値を下回った時、
c) 所定時間t2の間、入力値が前記所定の閾値を超え又は下回らなかった時、
に、それぞれを表す増減等情報と前記ワードの各ビットの値とに基づいて定められた長さで送信し、
前記受信ユニットが、各パルスを受信した時点で前記増減等情報に基づき入力値を更新する
ものであることを特徴とする信号伝送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−221691(P2011−221691A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88471(P2010−88471)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(591277153)甲賀電子株式会社 (3)
【Fターム(参考)】