説明

信号処理装置

【課題】パルスの立上がりと立下り遅延時間を独立して調整することのできる遅延回路を備えた信号処理装置を得る。
【解決手段】シリアル接続された複数の信号処理回路と、第1の抵抗と、上記第1の抵抗に直列接続されたダイオードと、上記第1の抵抗とダイオードの直列回路に並列接続された第2の抵抗と、上記第1の抵抗およびダイオードと第2の抵抗の並列回路に接続され、グランドに接地されたキャパシタと、上記並列回路およびキャパシタの後段に接続された増幅器とを有して構成され、上記それぞれの信号処理回路の後段に接続された遅延回路を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シリアル接続した電子機器の出力タイミングを合わせるために、入力パルスを遅延させる遅延回路を有した信号処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、抵抗及びキャパシタにより構成された遅延回路が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−206802号公報
【0004】
【非特許文献1】田宮、川俣監修、“パルス回路の設計マニュアル”、丸善株式会社
【0005】
図3は、従来の一般的な遅延回路の構成を示す図である。この遅延回路は、抵抗11とキャパシタ12と増幅器13により構成される。図に示されるように、入力パルスは抵抗11及びキャパシタ12で構成される積分回路により、抵抗11の抵抗値及びキャパシタ12の容量によって決まる遅延時間を経て出力される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図4は図3に示す従来の遅延回路の動作を示すタイミングチャートである。図3に示す従来の遅延回路では、パルスの立上りの遅延時間trdは、抵抗の抵抗値をR、キャパシタの容量をC、ICのスレッショルド電圧をVTH+、入力パルス振幅をVinとして、式1で与えられる。同様に、パルスの立下りの遅延時間tfdは、ICのスレッショルド電圧をVTH―として、式2で与えられる。
【0007】
【数1】

【0008】
このとき、例えば、R=1KΩ、C=200pF、Vin=5Vとし、VTH+=2.9V、VTH―=2.7VのICを用いたとすれば、式1、式2よりtrd≒174ns、tfd≒123nsとなり、図3に示すようにtrd≠tfdとなる。これは、単に立上りと立下りの遅延時間が異なるということだけではなく、入力するパルス幅と出力されるパルス幅が異なるということを意味する。この際、パルスの立上りの遅延時間trdとパルスの立下りの遅延時間tfdは、相互依存の関係にあって独立に調整することはできない。
【0009】
従来の遅延回路は、入力信号のパルス幅と出力信号のパルス幅が異なり、パルス幅により信号制御を行う無線機器においては問題となる。例えば、複数の信号処理回路をシリアルに接続し、その接続順序に従い各信号処理回路に順次入力信号を印加する場合、各信号処理回路の出力段に図4の遅延回路をそれぞれ接続すれば、各信号処理回路の出力信号についてパルスの立上がり遅延時間を揃えることができる。しかし、パルスの立上がり遅延時間と立下がり遅延時間を独立に調整できない故、信号処理回路毎に遅延回路の出力信号のパルス幅がそれぞれ異なってしまい、パルス幅による信号制御を行う場合に信頼性や精度が劣化してしまうという問題がある。
【0010】
この発明は、係る課題を解決するためになされたものであり、パルスの立上がりと立下り遅延時間を独立して調整することのできる遅延回路を備えた信号処理装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明による信号処理装置は、入力される信号を順次隣の信号処理回路に伝達するようにシリアル接続された複数の信号処理回路と、第1の抵抗と、上記第1の抵抗に直列接続されたダイオードと、上記第1の抵抗とダイオードの直列回路に並列接続された第2の抵抗と、上記第1の抵抗およびダイオードと第2の抵抗の並列回路に接続され、グランドに接地されたキャパシタと、上記並列回路およびキャパシタの後段に接続された増幅器とを有して構成され、上記それぞれの信号処理回路の後段に接続された遅延回路と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、遅延回路においてパルスの立上がりと立下り遅延時間を独立して調整することのできるので、シリアル接続した複数の電子機器から出力されるパルスについて、遅延時間とパルス幅を一致させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
図1はこの発明に係る実施の形態1による信号処理装置の構成を示す図である。図において、信号処理装置は、信号処理回路である複数のバッファ2(2a、2b、2c)と、各バッファ2の信号出力段に接続された遅延回路1(1a、1b、1c)とを備えており、各バッファ2と遅延回路1とは図示しない他の構成品とともに電子機器200を構成している。この電子機器200は、例えばレーダ信号処理装置、画像信号処理装置や、分散処理を行う並列処理電子計算機などに利用される。図1は、3つの異なるバッファ2を有する第1〜第3の電子機器200(200a〜200c)を、シリアルに3台接続した例を示している。各バッファ2は2つの信号出力端子を有し、一方の信号出力端子に遅延回路1が接続されている。また、バッファ2の他方の信号出力端子は、別のバッファ2の入力端子に接続されており、3つのバッファ2が相互に縦続接続されている。
【0014】
ここで、入力端子からバッファ2aに入力される信号は、バッファ2aに一旦格納された後、他方の信号出力端子から遅延回路1aに入力され、遅延回路1aにより遅延処理された後、出力信号1として外部に出力される。また、図1のバッファ2aへの入力信号は、一方の信号出力端子から隣の接続先のバッファ2bに入力される。
次に、バッファ2bに入力される信号は、バッファ2bに一旦格納された後、他方の信号出力端子から遅延回路1bに入力され、遅延回路1bにより遅延処理された後、出力信号2として外部に出力される。また、図1のバッファ2bへの入力信号は、一方の信号出力端子から隣の接続先のバッファ2cに入力される。
さらに、バッファ2cに入力される信号は、バッファ2cに一旦格納された後、他方の信号出力端子から遅延回路1cに入力され、遅延回路1cにより遅延処理された後、出力信号3として外部に出力される。また、図1のバッファ2cへの入力信号は、一方の信号出力端子から隣の接続先のバッファ2cに入力される。
【0015】
次に、この発明に係る実施の形態1による遅延回路1の構成について説明する。
図2は実施の形態1による遅延回路1の構成を示す図である。図において、図2(a)はダイオードを順方向に接続した第1態様の遅延回路1の構成を示し、図2(b)はダイオードを逆方向に接続した第2態様の遅延回路1の構成を示し、図2(c)はダイオードを順方向と逆方向に並列接続した第3態様の遅延回路1の構成を示す。
【0016】
図2(a)において、第1の態様の遅延回路1(101)は、抵抗11と、キャパシタ12と、増幅器13と、抵抗14と、ダイオード15を備え、抵抗11に対して並列に第2の抵抗14、及びダイオード15を装荷している。増幅器13は例えばオペアンプにより構成される。抵抗14とダイオード15は直列に接続され、この直列回路と抵抗11とが並列に接続されて並列回路20aを構成している。さらに、この並列回路20aが、キャパシタ12における一方の電極端子と遅延回路1(101)の入力端子との間に接続されている。キャパシタ12における他方の電極端子はグランドに接続され、接地されている。また、キャパシタ12の一方の電極および並列回路20aは増幅器13の入力段に接続されている。増幅器13の出力段は遅延回路1(101)の出力端子に接続される。ダイオード15は、アノードが入力端子側に接続され、カソードが出力端子側に接続されるように、増幅器13に対して順方向接続されている。
【0017】
図2(b)において、第2の態様の遅延回路1(102)は、抵抗11と、キャパシタ12と、増幅器13と、抵抗14と、ダイオード15を備え、抵抗11に対して並列に第2の抵抗14、及びダイオード15を装荷している。抵抗14とダイオード15は直列に接続され、この直列回路と抵抗11とが並列に接続されて並列回路20bを構成している。さらに、この並列回路20bが、キャパシタ12における一方の電極端子と遅延回路1(102)の入力端子との間に接続されている。キャパシタ12における他方の電極端子はグランドに接続され、接地されている。また、キャパシタ12の一方の電極および並列回路20bは増幅器13の入力段に接続されている。増幅器13の出力段は遅延回路1(102)の出力端子に接続される。ダイオード15は、アノードが出力端子側に接続され、カソードが入力端子側に接続されるように、増幅器13に対して逆方向接続されている。
【0018】
図2(c)において、第3の態様の遅延回路1(103)は、抵抗11と、キャパシタ12と、増幅器13と、抵抗14と、ダイオード15、16を備えている。抵抗11とダイオード16の直列回路と抵抗14とダイオード15の直列回路とは、並列に接続されて並列回路20cを構成している。さらに、この並列回路20cが、キャパシタ12における一方の電極端子と遅延回路1(103)の入力端子との間に接続されている。キャパシタ12における他方の電極端子はグランドに接続され、接地されている。また、キャパシタ12の一方の電極および並列回路20cは増幅器13の入力段に接続されている。増幅器13の出力段は遅延回路1(103)の出力端子に接続される。ダイオード15は、アノードが入力端子側に接続され、カソードが出力端子側に接続されるように、増幅器13に対して順方向接続されている。ダイオード16は、アノードが出力端子側に接続され、カソードが入力端子側に接続されるように、増幅器13に対して逆方向接続されている。
【0019】
次に、遅延回路1の動作について、第1乃至第3の態様毎に、順に説明する。
図2(a)の第1の態様の遅延回路1(101)は、パルス立上り時にダイオード15の順方向に電流が流れる。このため、パルス立上り遅延時間trdは抵抗11と抵抗14の合成抵抗値(R)とキャパシタ12の容量(C)によって、式1に基づいて決定される。
【0020】
また、パルス立下り時はダイオード15により抵抗14には電流が流れないため、パルス立下り遅延時間tfdは抵抗11の抵抗値(R)とキャパシタ12の容量(C)によって、式1に基づいて決定される。
よって、抵抗11、抵抗14、容量Cを適切に選択することにより、パルス立上り遅延時間trdと、パルス立下り遅延時間tfdを別々に調節することができる。
【0021】
続いて、図2(b)の第2の態様の遅延回路1(102)は、第1の態様の遅延回路1(101)とは逆方向にダイオード15の向きを変えて接続することにより、パルス立上り時に電流が流れずパルス立下り時にダイオード15の順方向に電流が流れる。このため、パルス立上り遅延時間trdは抵抗11の抵抗値(R)とキャパシタ12の容量(C)によって、式1に基づいて決定される。また、パルス立下り遅延時間tfdは抵抗11と抵抗14の合成抵抗値(R)とキャパシタ12の容量(C)によって、式1に基づいて決定される。このようにすることで、パルス立上り遅延時間trdとパルス立下り遅延時間tfdを別々に調節するとともに、立上り遅延時間trdより立下がり遅延時間tfdを早くすることも可能となる。
【0022】
続いて、図2(c)の第2の態様の遅延回路1(102)は、順方向接続のダイオード15と逆方向接続のダイオード16を並列に接続することにより、パルス立上り遅延時間trdが抵抗14の抵抗値(R)とキャパシタ12の容量(C)により式1に基づいて決定され、パルス立下り遅延時間tfdが抵抗11の抵抗値(R)とキャパシタ12の容量(C)により式1に基づいて決定される。このように、図2(a)、(b)の第1、第2の態様に示すような二つの抵抗の合成抵抗値が所望の値にならない場合は、図2(c)のように第2のダイオード16を追加することで、パルス立上り遅延時間trdおよびパルス立下り遅延時間tfdを、各抵抗11、14の抵抗値に基づいて全く独立に調整することができる。
【0023】
次に、図1に示す3台の電子機器をシリアル接続した信号処理装置の動作について説明する。ここでは、図1に示す構成において、第1〜第3の電子機器(200a〜200c)のそれぞれの出力信号の出力タイミングを合わせる場合について説明する。図5は、図3に示す従来の遅延回路を用いた信号処理装置について、電子機器の出力パルスのタイムチャートを示す図である。
【0024】
この場合、第1の電子機器200aの遅延回路1aは、入力されたパルスが、第1の電子機器200aのバッファ2aから第2の電子機器200bのバッファ2b、第3の電子機器200cのバッファ2c、及び遅延回路1cを経て出力されるまでの間の遅延時間に一致する必要がある。
また、第2の電子機器200bの遅延回路1bは、入力されたパルスが第2の電子機器200bのバッファ2bから第3の電子機器200cのバッファ2c、及び遅延回路1cを経て出力されるまでの間の遅延時間に一致する必要がある。
このため、各遅延回路1a〜1cの個々の遅延時間を異なる値に変えて、第1〜第3の電子機器200a〜200cからそれぞれ出力される各パルスの遅延時間が、結果的に全て一致するように調整を行う必要がある。
【0025】
ここで、従来の遅延回路を用いて電子機器がシリアル接続された信号処理装置を構成した場合は、遅延時間を変えるためには抵抗の抵抗値、もしくはキャパシタの容量、あるいは抵抗値と容量の両方を変えることになるが、パルス立上り遅延時間trdとパルス立下り遅延時間tfdとが依存関係にあって独立に調整することができない。このため、図5に示すように、各電子機器200の出力パルスの遅延時間(立上り遅延時間)を一致させることができても、入力パルスと各電子機器200の出力パルス幅が異なってしまう。
【0026】
しかし、図2に示す遅延回路を用いて電子機器がシリアル接続された信号処理装置を構成した場合は、遅延回路1a〜1cにおいて立上りと立下りの遅延時間を各々独立に調整することで、各電子機器200の出力パルスの立上りと立下りの遅延時間を一致させることができる。すなわち、各電子機器200の出力パルス幅を入力パルス幅と等しくすることができる。かくして、第1〜第3の電子機器200a〜200cから出力されるパルスについて、遅延時間(立上り遅延時間)を一致させた上で、さらにそのパルス幅をも一致させることが可能となる。
【0027】
なお、シリアル接続する電子機器の数は3台に限定するわけではなく、2台もしくは4台以上の多数の電子機器をシリアル接続する場合であっても、有効であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明に係る実施の形態1による信号処理装置の構成を示す図である。
【図2】この発明に係る実施の形態1による信号処理装置に用いる遅延回路の構成を示す図である。
【図3】従来の一般的な遅延回路の構成を示す図である。
【図4】図3に示す従来の遅延回路の動作を示すタイミングチャートである。
【図5】図3に示す従来の遅延回路を用いた信号処理装置を構成する電子機器の出力パルスのタイムチャートを示した図である。
【符号の説明】
【0029】
1 遅延回路、2 バッファ、11 抵抗、12 キャパシタ、13 増幅器、14 抵抗、15 ダイオード、16 ダイオード、200 電子機器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される信号を順次隣の信号処理回路に伝達するようにシリアル接続された複数の信号処理回路と、
第1の抵抗と、上記第1の抵抗に直列接続されたダイオードと、上記第1の抵抗とダイオードの直列回路に並列接続された第2の抵抗と、上記第1の抵抗およびダイオードと第2の抵抗の並列回路に接続され、グランドに接地されたキャパシタと、上記並列回路およびキャパシタの後段に接続された増幅器とを有して構成され、上記それぞれの信号処理回路の後段に接続された遅延回路と、
を備えた信号処理装置。
【請求項2】
上記並列回路は、アノードが互いに逆方向となるように並列接続された第1、第2のダイオードを有したことを特徴とする請求項1記載の信号処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−34772(P2010−34772A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193595(P2008−193595)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】