説明

信号処理装置

【課題】光学系の結像特性や像流れ等の取得条件によって像に広がりが生じた場合に、その広がりのある目標の信号成分を高精度に算出することができ、目標の信号成分を絶対値として出力することができる信号処理装置を提供する。
【解決手段】信号積算部1は、入力画像5に含まれる入力画素に対して、その画素を中心とする周囲算出範囲内の画素値の和を算出する。ローパスフィルタ部2は、入力画像5から、信号積算部1における算出範囲と同一範囲のオフセット成分算出範囲内で画素値のオフセット成分を算出する。背景積算部3は、ローパスフィルタ部2の算出値と、予め設定された背景係数値6との積を算出する。差信号出力部4は、信号積算部1の算出値と、背景積算部3の算出値との差を算出し、その差の算出値を出力信号7として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、画像を処理して目標の特徴量を際だたせる信号処理装置に関し、特に画像に含まれる小さな目標の信号量を増幅する信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばレーダ画像等の画像内の目標を抽出する信号処理として、ハイパスフィルタ処理が用いられている(例えば、特許文献1参照)。目標は、一般的に、画像内において小面積である、あるいは時間的に変化が大きいといった特徴を持つ。このため、空間的・時間的に高周波な成分として現れ、ハイパスフィルタ処理による分離が効果的となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5371542号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来のハイパスフィルタ処理を用いた信号処理装置では、画像内の理想的に微小な目標を抽出する際には効果的に機能する。しかしながら、実際の画像では、幾何学的な目標の像は微小と見なせても、光学系の結像特性や像流れ等の取得条件により像に広がりがみられる。このような像の広がりが生じると、空間的に高周波な成分であった目標信号が低周波成分に変化し、ハイパスフィルタ処理による分離性能が低下してしまう。また、分離後の目標信号に関しても、低周波成分に変化した成分は失われているため、S/N比が低下してしまう。
【0005】
さらに、上記のような従来の信号処理装置では、ハイパスフィルタ処理を行うことによって、目標信号は相対値に変換され、絶対値を得ることができない。従って、目標の信号量を異なる時間の画像や他の同種のセンサにより取得された画像と比較することは困難となり、エネルギー等の物理量に変換することもできなくなる。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、光学系の結像特性や像流れ等の取得条件によって像に広がりが生じた場合に、その広がりのある目標の信号成分を高精度に算出することができ、目標の信号成分を絶対値として出力することができる信号処理装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の信号処理装置は、入力画像に含まれる入力画素の各画素に対して、その画素を中心とする周囲算出範囲内の画素値の和を算出する信号積算部と、前記周囲算出範囲の画素値に含まれるオフセット成分を算出するための範囲であるオフセット成分算出範囲内の画素値のオフセット成分を、前記入力画像から算出するローパスフィルタ部と、前記ローパスフィルタ部による算出値と、所定の背景係数値との積を算出する背景積算部と、前記信号積算部の算出値と前記背景積算部の算出値との差を、出力信号として出力する差信号出力部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
この発明の信号処理装置によれば、光学系の結像特性や像流れ等の取得条件によって像に広がりが生じた場合に、その広がりのある目標の信号成分を高精度に算出することができ、目標の信号成分を絶対値として出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1による信号処理装置を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態2による信号処理装置を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態3による信号処理装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による信号処理装置を示すブロック図である。
図1において、実施の形態1の信号処理装置は、信号積算部1と、ローパスフィルタ部2と、背景積算部3と、差信号出力部4とを有している。
【0011】
信号積算部1及びローパスフィルタ部2には、入力画像5が入力される。信号積算部1は、入力画像5に含まれる入力画素の各画素に対して、その画素を中心とする周囲算出範囲内の画素値の和を算出する。
【0012】
ローパスフィルタ部2は、入力画像5から、信号積算部1における周囲算出範囲と同一範囲のオフセット成分算出範囲内で画素値のオフセット成分を算出する。オフセット成分算出範囲とは、周囲算出範囲の画素値に含まれるオフセット成分を算出するための範囲である。このオフセット成分とは、入力画像5において目標がないときの画素値(即ち背景成分)の低空間周波数成分である。なお、ローパスフィルタ部2は、信号積算部1で積算する画素値に含まれるオフセット成分を算出するため、オフセット成分の算出に使用する空間周波数は、信号積算部1の積算の帯域幅以下の空間周波数領域でよい。
【0013】
背景積算部3は、ローパスフィルタ部2の算出値と、予め設定された背景係数値6との積を算出する。差信号出力部4は、信号積算部1の算出値と、背景積算部3の算出値との差を算出し、その差の算出値を出力信号7として出力する。
【0014】
ここで、背景積算部3で背景成分の積算値を算出するにあたり、ローパスフィルタ部2によって得られたオフセット成分と背景係数値6とが用いられる。また、信号積算部1において計算に用いられる画素の数をnとし、画像における目標の幾何学的な大きさと画素の大きさとの比をαとするとき、背景係数値6を(n−α)とする。これにより、出力信号7の大きさを、目標信号の絶対値と同等の大きさとすることができる。
【0015】
上記のような実施の形態1によれば、信号積算部1が入力画像5に含まれる入力画素の各画素に対して、その画素を中心とする周囲算出範囲内の画素値の和を算出する。また、信号積算部1の算出値、即ち周囲算出範囲内の画素値の和には、背景成分も含まれている。このため、背景積算部3が周囲算出範囲内における背景成分の積算値を見積もり、差信号出力部4で背景成分を除去することによって、目標の信号成分だけを出力信号7として出力することができる。これにより、光学系の結像特性や像流れ等の取得条件によって像に広がりが生じた場合に、その広がりのある目標の信号成分を高精度に算出(復元)することができ、目標の信号成分を絶対値として出力することができる。
【0016】
なお、実施の形態1において、オフセット成分算出範囲を、信号積算部1で用いられる周囲算出範囲よりも外側の範囲としてもよい。ここで、ローパスフィルタ部2で算出するオフセット成分は、信号積算部1の積算の帯域幅よりも低い空間周波数でよく、信号積算部1で用いる周囲算出範囲における外側の範囲から算出することができる。このように、ローパスフィルタ部2のオフセット成分算出範囲を、信号積算部1で用いる周囲算出範囲よりも外側の範囲に設定することによって、目標の信号成分を含まずにオフセット成分を算出でき、オフセット成分の算出精度を向上させることができる。
【0017】
また、実施の形態1において、ローパスフィルタ部2の算出値(出力値)を、例えばオフセット成分算出範囲の画素値の平均値としてもよい。ここで、オフセット成分算出範囲における中心画素の周囲の画素の平均値は、最も低い空間周波数成分となるため、高い周波数成分を持つ目標信号の影響を受けずに、背景成分の見積もりを行うことができる。
【0018】
さらに、実施の形態1において、ローパスフィルタ部2の算出値(出力値)を、オフセット成分算出範囲における中心画素の周囲の画素の中間値としてもよい。ここで、背景の空間的な均一性が低いときには、特異な背景成分によってローパスフィルタ部2でのオフセット成分の算出結果と、信号積算部1の算出結果に含まれるオフセット成分との間に誤差が生じる可能性がある。そこで、メディアンフィルタと同様に、中心画素の周囲の画素の中間値を用いることによって、この誤差を低減することができる。
【0019】
また、実施の形態1では、信号積算部1が、周囲算出範囲内の画素値の和を算出する際に、対象画素と、その対象画素の周囲の画素との画素値の和を算出した。しかしながら、信号積算部1が、周囲算出範囲内の画素値の和を算出する際に、その中心画素の画素値を算出から除外してもよい。ここで、背景成分よりも目標成分の出力が高くなるような画像では、目標を撮影した画素で出力飽和が発生し、出力の絶対値が不正確となる可能性がある。従って、出力飽和の発生する可能性がある中心画素を除外することによって、精度の高い目標信号の絶対値を得ることができる。これに加えて、信号飽和が起こりにくいので、ダイナミックレンジを拡大することができる。
【0020】
さらに、上記のような信号積算部1が周囲算出範囲内の画素値の和を算出する際にその中心画素の画素値を算出から除外する場合の例に対して、周囲算出範囲内の中心画素の周囲の画素値の分布を点像分布関数でフィッティング(近似)し、得られた点像分布関数の体積を、周囲算出範囲内の画素値の和として出力してもよい。この点像分布関数とは、画像取得に使用した光学系により発生した、点像に対するボケの広がり分布を表す関数である。このように、点像分布関数でフィッティングすることによって、出力飽和により失われた目標の信号量を補完することができ、出力値の精度を向上させることができる。
【0021】
また、信号積算部1において、中心画素を除外した周囲算出範囲内の画素値の和を算出し、点像分布関数から推定される中心画素に対する信号量(画素値)の比を加えた結果を出力してもよい。即ち、中心画素を除外した周囲算出範囲内の画素値の和をSとし、点像分布関数から推定される中心画素に対する信号量の比をεとすると、S(1+ε)を出力してもよい。これにより、簡単な計算でフィッティングと同等の結果を得ることができる。
【0022】
さらに、計算の簡略化を図るために、点像分布関数としてガウス関数を仮定してもよい。この場合、計算が簡略化されることにより、演算負荷の低減化、及び演算時間の短縮化を図ることができる。
【0023】
実施の形態2.
実施の形態1では、背景積算部3における演算処理の際に、予め設定された背景係数値6が用いられた。これに対して、実施の形態2では、背景係数算出部21によって背景係数値が目標距離値22から算出され、この算出された背景係数値が背景積算部3における演算処理に用いられる。
【0024】
図2は、この発明の実施の形態2の信号処理装置を示すブロック図である。図2において、実施の形態2の信号処理装置は、実施の形態1の信号処理装置の構成に加えて、背景係数算出部21をさらに有している。背景係数算出部21は、目標距離値22を基に背景係数値を算出し、その算出結果を背景積算部3へ出力する。背景係数算出部21によって算出される背景計数値は、実施の形態1の背景係数値6と同様に、(n−α)となる。
【0025】
ここで、目標距離値22は、画像取得時における光学系の焦点調整を基に計算することができる。また、目標距離値22として、レーザ測距器等の距離計測可能な装置の出力値を用いることもできる。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0026】
上記のような実施の形態2の信号処理装置によれば、背景係数算出部21によって背景係数値が目標距離値22から算出され、この算出された背景係数値が背景積算部3における演算処理に用いられるので、目標距離から幾何学的な関係を随時算出することで、出力信号7の精度をより向上させることができる。
【0027】
実施の形態3.
実施の形態1では、ローパスフィルタ部2のオフセット成分算出範囲が固定範囲であった。これに対して、実施の形態3では、背景領域抽出部31によって、オフセット成分算出範囲が入力画像5から決定され、その決定されたオフセット成分算出範囲に対して、ローパスフィルタ部2がオフセット成分を算出する。
【0028】
図3は、この発明の実施の形態3による信号処理装置を示すブロック図である。図3において、実施の形態3の信号処理装置は、実施の形態1の信号処理装置の構成に加えて、クラッタレベル算出部としての背景領域抽出部31をさらに有している。背景領域抽出部31は、入力画像5の画像特性を解析してクラッタレベルを算出し、その算出したクラッタレベルに基づいてオフセット成分算出範囲を決定する。
【0029】
背景領域抽出部31の画像特性の解析方法には、例えば、中心画素とその周囲の画素とを含む範囲を複数領域に分割し、その内部の画素値の分散が大きい領域を除去する方法を用いてもよい。あるいは、分割後の領域毎の平均値を比較し、他の領域と平均値が著しく異なる領域を除去する方法を用いてもよい。いずれの方法でも、非均一性の高い特異な背景領域を除去することができる。
【0030】
また、中心画素とその周囲の画素とを含む範囲を複数領域に分割する方法としては、画像の水平方向に分割する方法を用いてもよい。レーダ画像では、一般的に垂直方向に、地面・空・雲等が並んでおり、水平方向に分割することによって、空等の均一性の高い領域を効率的に抽出することができる。さらに、画像の水平方向に加えて垂直方向にも分割してもよく、垂直方向に分割することによって、領域を小面積化し、領域内に含まれる背景の単一化による均一性を高めることもできる。他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0031】
ここで、実施の形態1の信号処理装置では、背景の空間的な均一性が低いときには、特異な背景成分によってローパスフィルタ部2でのオフセット成分の算出結果と信号積算部1で発生しているオフセット成分との間に誤差が生じる可能性がある。これに対して、実施の形態3では、背景領域抽出部31で特異な背景成分を含まない背景領域をオフセット成分算出範囲として抽出し、そのオフセット成分算出範囲に対してローパスフィルタ部2がオフセット成分を算出するので、誤差を低減することができる。
【0032】
なお、実施の形態3の信号処理装置の背景係数値6として、実施の形態2の背景係数算出部21の算出結果を用いてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 信号積算部、2 ローパスフィルタ部、3 背景積算部、4 差信号出力部、5 入力画像、6 背景係数値、7 出力信号、21 背景係数算出部、22 目標距離値、31 背景領域抽出部(クラッタレベル算出部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力画像に含まれる入力画素の各画素に対して、その画素を中心とする周囲算出範囲内の画素値の和を算出する信号積算部と、
前記周囲算出範囲の画素値に含まれるオフセット成分を算出するための範囲であるオフセット成分算出範囲内の画素値のオフセット成分を、前記入力画像から算出するローパスフィルタ部と、
前記ローパスフィルタ部による算出値と、所定の背景係数値との積を算出する背景積算部と、
前記信号積算部の算出値と前記背景積算部の算出値との差を、出力信号として出力する差信号出力部と
を備えることを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記背景係数値を目標距離から算出する係数算出部
をさらに備え、
前記背景積算部は、前記ローパスフィルタ部による算出値と、前記係数算出部による算出値との積を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記入力画像の画像特性を解析してクラッタレベルを算出し、その算出したクラッタレベルに基づいて前記オフセット成分算出範囲を決定するクラッタレベル算出部
をさらに備え、
前記ローパスフィルタ部は、前記クラッタレベル算出部によって決定された前記オフセット成分算出範囲内の画素値のオフセット成分を算出する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記信号積算部は、前記周囲算出範囲内の画素値の和を算出する際に、前記周囲算出範囲における中心画素の画素値を算出から除外する
ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記信号積算部は、前記周囲算出範囲内の画素値の分布を点像分布関数でフィッティングし、得られた点像分布関数の体積を、前記周囲算出範囲内の画素値の和とする
ことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記ローパスフィルタ部は、前記周囲算出範囲内の画素値の中間値を前記オフセット成分として算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の信号処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−159916(P2012−159916A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17667(P2011−17667)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】