説明

信号数推定装置

【課題】到来信号の信号数を精密に測定できる信号数推定装置を提供する。
【解決手段】複数のアンテナ11〜11と、複数のアンテナ11〜11からの複数のアンテナ受信信号から求められる固有ベクトル方向の信号成分のスペクトル又は複数のアンテナ受信信号から独立成分分析により求められる分離信号成分のスペクトルを複数に分割し、分割された複数のスペクトルに基づき固有ベクトル方向の信号成分又は分離信号成分に信号が存在するか否かを判断する信号処理装置15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、到来信号の信号数を推定する信号数推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信では、混信・干渉が存在し、その影響により信号処理性能が劣化する。混信・干渉の影響を抑圧する方法の前処理として、アレイアンテナの場合に到来方向を推定し、その推定方向の信号を抽出し、混信・干渉信号を抑圧する方法がとられている。その際、到来信号の信号数により、到来方向の推定値が変化してしまい、その結果として混信・干渉信号の抑圧性能が劣化する。
【0003】
なお、非特許文献1乃至4には、情報理論の立場から固有値などを用いて到来信号数を求める方法が記載されている。非特許文献5には、MUSIC法により到来方向を推定し、推定された到来方向に基づいた混信・干渉信号をDCMPなどの方法により抑圧する方法が記載されている。
【0004】
さらに、非特許文献6には、混信・干渉信号を抑圧する方法として、信号の独立性を用いた独立成分分析法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.Wax and T.Kailath,”Detection of signals by information theoreteic criteria”,IEEE Trans.Acoust.,Speech,Signal Processing,Vol.ASSP-33,Apr.1985.
【非特許文献2】H.Akaike:”Information theory and an extension of the maximum likelihood proinciple,” in Proc.2ndInt.Symp.Inform.Theory,suppl.Problems of Control and Inform.Theory,1973,pp.267-281.
【非特許文献3】J.Rissanen:”Modeling by shortest data description,”Automatica,vol.14,pp.465-471,1978.
【非特許文献4】G.Schwartz:”Estimating the dimension of a model,”Ann.Stat.,vo.6,pp.461-464,1978.
【非特許文献5】菊間信良:”アレーアンテナによる適用信号処理”,科学技術出版,1999.
【非特許文献6】村田昇:”入門 独立成分分析”東京電機大学出版局
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した情報理論の立場から固有値などを用いて到来信号数を求める方法の前提条件は、信号が独立性を有し、ノイズが正規分布していることであるが、実際には、独立性がないコヒーレントマルチパス信号が存在しているため、コヒーレントマルチパス信号を含む受信信号の信号数は不明確である。さらに、特定方向から到来する広帯域雑音成分などがあり、アレイアンテナ素子数を超える信号(雑音も含む)が存在しているため、信号数推定が不明確になる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、到来信号の信号数を精密に測定できる信号数推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る信号数推定装置によれば、複数のアンテナと、前記複数のアンテナからの複数のアンテナ受信信号から求められる固有ベクトル方向の信号成分のスペクトル又は前記複数のアンテナ受信信号から独立成分分析により求められる分離信号成分のスペクトルを複数に分割し、分割された複数のスペクトルに基づき前記固有ベクトル方向の信号成分又は前記分離信号成分に信号が存在するか否かを判断する信号処理装置とを備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態に係る信号数推定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る信号数推定装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】第1の実施形態に係る信号数推定装置のスペクトル分割方法の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、アレイアンテナで受信した信号による相関行列から求められる固有ベクトル方向の信号成分又は独立成分分析分離信号成分のスペクトル成分及びこの射影成分信号のスペクトルを複数(3以上)に分割し、各周波数帯域成分を最小二乗法で直線近似して直線の傾きを求め、直線近似からの偏差の標準偏差を求め、分割した区間の傾きと標準偏差を比較し、指定した閾値以上の違いがあった場合には、何らかの信号が存在すると判断する。即ち、本発明は、固有ベクトル方向信号成分又は独立成分分析分離信号成分と複数分割比較方式を組み合わせていることを特徴とする。
【0011】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【第1の実施形態】
【0012】
図1は、第1の実施形態に係る信号数推定装置の構成を示すブロック図である。信号数推定装置は、信号処理系から構成されており、p個(pは2以上の整数)の通信電波受信用のアンテナ11〜11、p個のアンプ12〜12、p個の周波数変換部13〜13、p個のデジタイザ14〜14、信号処理装置15および表示部16を備えている。
【0013】
p個のアンテナ11〜11は、外部から到来する電波を受信してアナログの電気信号に変換し、p個のアンプ12〜12にそれぞれ送る。
【0014】
p個のアンプ12〜12は、p個のアンテナ11〜11からそれぞれ送られてくる電気信号を増幅し、p個の周波数変換部13〜13にそれぞれ送る。
【0015】
p個の周波数変換部13〜13は、p個のアンプ12〜12からそれぞれ送られてくる増幅された電気信号の周波数を変換し、p個のデジタイザ14〜14にそれぞれ送る。
【0016】
p個のデジタイザ14〜14は、p個の周波数変換部13〜13からそれぞれ送られてくる周波数変換されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、アンテナ受信信号として信号処理装置15に送る。
【0017】
信号処理装置15は、この信号数推定装置の主要部であり、到来信号の信号数を推定する。この信号処理装置15は、到来信号の信号数推定のために、p個のデジタイザ14〜14からそれぞれ送られてくるp個のアンテナ受信信号に基づき、固有ベクトルを用いて到来信号の信号数を推定する。なお、この信号処理装置15の詳細な処理については、後述する。
【0018】
この信号処理装置15で行う信号数推定は、1つのCPU(Central Processing Unit)で行うこともできるし、複数のCPUで並行して行うこともできる。
【0019】
表示部16は、ディスプレイを含むパーソナルコンピュータから構成されており、信号処理装置15における処理結果を表示する。この表示部16は、パーソナルコンピュータを複数用意して並行に処理を行うように構成することができる。
【0020】
次に、上記のように構成される第1の実施形態に係る信号数推定装置の動作を説明する。図2は、第1の実施形態に係る信号数推定装置において実行される信号数推定処理を示すフローチャートである。信号数推定処理は、信号処理装置15おいて実行される。
【0021】
まず、受信信号相関行列作成・固有値・固有ベクトル計算が実行される(ステップS11)。信号処理系1のアンテナ11〜11で受信された信号sは、下記式により表される。アンテナ受信信号Xから相関行列Rを求め、求められた相関行列Rから固有ベクトル(E1~Ep)と固有値m〜mを求める。
【数1】

【0022】
R: 観測された信号の相関行列
p: アンテナ素子数
X: アンテナ受信信号(1〜p)
Es: 固有ベクトル(E1~Ep)を列成分としてもつ行列
Λ: 固有値を対角要素に持つ正方行列
〜m: 固有ベクトルに対応した固有値
ここで、Hは共役転置を示す。
【0023】
次に、固有ベクトル方向信号成分計算が実施される(ステップS12)。固有ベクトルk(1≦k≦p)方向信号成分は、次のように求められる。
【数2】

【0024】
なお、ここで求めた固有ベクトル方向信号成分について、ステップS15(固有ベクトル方向信号成分のFFT計算)以降による信号数推定を実施しても良い。
【0025】
次に、非特許文献6に記載された独立成分分析手法により、固有ベクトルを使用し、複数の推定到来信号成分を分離する分離行列Wを求める。
【数3】

【0026】
W: 信号分離行列
A: モードベクトル成分(U〜Un)を列成分として持つ行列(アレイマニフォールド)
s1~sn: n個の信号データ(独立成分)
Σ: 各アンテナの受信ノイズ成分(ζ1p)
ここで、Tは転置を示す。
【0027】
次に、分離信号成分計算が実施される(ステップS14)。分離行列Wを用いて、分離信号は、次のように求められる。
【数4】

【0028】
分離行列の添え字のkは、W行列のk行成分を示す。
【0029】
(7)式により求められた分離信号成分のスペクトルの状態を判断し、信号数推定を実施する。
【0030】
次に、分離信号成分のFFT計算が実施される(ステップS15)。即ち、k番目の分離信号成分をFFT処理し、複素周波数成分が計算される。
【数5】

【0031】
このとき、skは、Nデータ数分の分離信号成分を示す。周波数・スペクトルデータ(ログ表現)は、次のように計算される。
【数6】

【0032】
ここで、Sの添え字の*は、複素共役を表している。Nは、Skのデータ数を示している。
【0033】
次に、(9)式で求められた、k(1≦k≦p)番目のスペクトルデータから信号の有無を判定する。スペクトルデータPk(f)は、N個の成分から構成されている。このスペクトルデータPk(f)を、m(3≦m)分割する(ステップS16)。
【0034】
図3にスペクトルデータPk(f)を3分割する例を示す。図3に示すように、スペクトルデータPk(f)をグループGP1、GP2、GP3に等分割する方法、グループGP1とグループGP2とが重なり且つグループGP2とグループGP3とが重なる共通データを持つ分割の方法、グループGP1、GP2、GP3に不均一に分割する方法などがある。いずれの分割方法でも1区間のデータの数が100程度以上になるようにする。
【0035】
このため、信号数nを最初にゼロにし(ステップS17)、分割データ数が100以上かどうかが調べられる(ステップS18)。分割データが100未満である場合には、分割区間が100以上になるように、スベクトルデータの分割方法を変更し調整される(ステップS19)。
【0036】
次に、分割された各区間について、最小二乗法による直線近似を計算する(ステップS20)。直線近似式は、式(10)で与えられ、その係数は(11)式により求められる。
【数7】

【0037】
ここで、i((1≦i≦m)は、分割した区間を示す識別子、Tは転置を表す。また、U行列に含まれるxは、係数Cを求めるために使用する変数であり、整数(1,2,3,…,N)や、スペクトルに対応する周波数(f1,f2,….,fN)、相対周波数(0,(f2-f1),(f3-f1),…,(fN-f1))でも良い。
【0038】
推定した直線近似からの偏差を(13)式により計算し、標準偏差σを(15)式により求める(ステップS21)。
【0039】
求められた係数の中で大きさが最小なものを求める。
【数8】

【0040】
求められた最小値により、全係数の絶対値を割る。
【数9】

【0041】
この要素の中で、予め指定された閾値ε1より大きなものが存在する場合(ステップS22のYES)、その区間にスペクトルの変化が見られ、信号が存在すると判断する。
【0042】
なお、前記要素の中で、予め指定された閾値ε1より大きなものが存在しない場合(ステップS22のNO)、jを1だけインクリメントし(ステップS23)、jがmよりも小さい場合には(ステップS24のNO)、ステップS22の処理に戻り、jがmよりも大きい場合には(ステップS24のYES)、分離信号成分無しと判定し(ステップS25)、ステップS31の処理に進む。
【0043】
さらに、求めた標準偏差σで最小のものを求め、同様の処理を実施する。
【数10】

【0044】
この標準偏差の比の中で、予め指定された閾値ε2より大きなものが存在する場合(ステップS26のYES)、その区間にスペクトルの変化が見られ、信号が存在すると判断する。
【0045】
即ち、係数を用いた判定と標準偏差による判定により、両方とも閾値以上であった場合、k番目のデータ(固有ベクトル方向の信号成分又は分離信号成分)には、信号が存在すると判断する。
【0046】
全てのデータ(1〜p)について、同様の判定を行い(ステップS30、S31)、信号有りと判定された数nを、到来信号数とする(ステップS32)。
【0047】
なお、標準偏差の比の中で、予め指定された閾値ε2より大きなものが存在しない場合(ステップS26のNO)、jがmよりも小さい場合には(ステップS27のNO)、jを1だけインクリメントして(ステップS28)、ステップS22の処理に戻り、jがmよりも大きい場合には(ステップS27のYES)、分離信号成分無しと判定し(ステップS29)、ステップS31の処理に進む。
【0048】
このように、第1の実施形態に係る信号数推定装置によれば、受信した信号による相関行列から求められる固有ベクトル方向の信号成分又は独立成分分析分離信号成分のスペクトル成分及びこの射影成分信号のスペクトルを複数(3以上)に分割し、各周波数帯域成分を最小二乗法で直線近似して直線の傾きを求め、直線近似からの偏差の標準偏差を求め、分割した区間の傾きと標準偏差を比較し、指定した閾値以上の違いがあった場合には、何らかの信号が存在すると判断するので、到来信号の信号数を精密に測定できる。
【0049】
以上のように、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
11〜11 アンテナ
12〜12 アンプ
13〜13 周波数変換部
14〜14 デジタイザ
15 信号処理装置
16 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナと、
前記複数のアンテナからの複数のアンテナ受信信号から求められる固有ベクトル方向の信号成分のスペクトル又は前記複数のアンテナ受信信号から独立成分分析により求められる分離信号成分のスペクトルを複数に分割し、分割された複数のスペクトルに基づき前記固有ベクトル方向の信号成分又は前記分離信号成分に信号が存在するか否かを判断する信号処理装置と、
を備えることを特徴とする信号数推定装置。
【請求項2】
前記信号処理装置は、前記分割された複数のスペクトルの各周波数帯域成分を最小二乗法で直線近似して直線の傾きを求め、直線近似からの偏差の標準偏差を求め、分割した区間の前記直線の傾きが第1閾値以上で且つ前記標準偏差が第2閾値以上である場合に前記固有ベクトル方向の信号成分又は前記分離信号成分に信号が存在すると判断することを特徴とする請求項1記載の信号数推定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−74385(P2013−74385A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210627(P2011−210627)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】