説明

信号検出装置の絶縁不良診断装置

【課題】1次側コイル10と一対の2次側コイル20,22とからなる3つのコイルは通常絶縁されているものの、これらの間に絶縁不良が生じることで回転角度θの検出精度が低下するおそれがあること。
【解決手段】2次側コイル22の電圧は、差動増幅回路26によって変換された後、レゾルバデジタルコンバータ28に取り込まれる。2次側コイル22には、抵抗体34,36を介して電圧VLが印加されており、これにより、2次側コイル22の直流電位がグランド電位よりも高く設定される。2次側コイル22の直流電位は、抵抗体50,52の接続点の電位がRC回路74にてフィルタ処理された後、反転増幅回路56によって規定電位との差圧を増幅した差圧信号として定量化され、差圧信号がコンパレータ58において閾値電圧Vth1と大小比較される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流信号が入力される1または複数の1次側コイルに磁気結合した1または複数の2次側コイルの両端の電圧を検出する信号検出装置に適用され、前記コイルの間の絶縁不良を検出する信号検出装置の絶縁不良診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置としては、例えば下記特許文献1に見られるように、ロータとともに回転する1次側コイルに交流の励磁信号によって磁束を生じさせ、この磁束によって一対の2次側コイルに誘起される電圧に基づき、ロータの回転角度を検出するレゾルバに適用されるものが周知である。このレゾルバでは、上記1次側コイルと一対の2次側コイルとからなる3つのコイルが通常絶縁されているものの、これらが短絡することで、回転角度の検出精度が低下するおそれがある。そこで上記装置では、1次側コイルと一対の2次側コイルとのそれぞれに、各別のバイアス電圧を印加し、コイルの対地直流電位がバイアス電圧以上であるか否かに基づき、短絡の有無を診断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4122606公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただし、上記の場合、対地直流電位がバイアス電位以上であるか否かを判断するための閾値設定が、バイアス電圧に依存するため、閾値を自由に設定する上では、バイアス電圧を変更する必要が生じる。これに対し、バイアス電圧を他の制約から定める場合には、閾値の設定範囲が狭くなり、ノイズ耐性が低下する等の不都合が生じやすい。
【0005】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、交流信号が入力される1または複数の1次側コイルに磁気結合した1または複数の2次側コイルの両端の電圧を検出する信号検出装置に適用され、前記コイルの間の絶縁不良を検出する新たな信号検出装置の絶縁不良診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、交流信号が入力される1または複数の1次側コイルに磁気結合した1または複数の2次側コイルの両端の電圧を検出する信号検出装置に適用され、前記コイルの間の絶縁不良を検出する信号検出装置の絶縁不良診断装置において、前記コイルのそれぞれの直流電位に相違するものが存在するように、前記コイルの少なくとも1つに直流電圧を印加する直流電圧印加手段と、前記コイルの少なくとも1つの電位と規定電位との差圧信号を生成する差圧信号生成手段と、閾値電圧を出力する閾値設定回路と、前記差圧信号生成手段の出力する差圧信号と前記閾値設定回路の出力信号との大小を比較する比較手段とを備え、前記比較手段による比較結果が前記絶縁不良の検出結果とされ、前記差圧信号には、前記少なくとも1つの電位と前記規定電位との差圧の絶対値が所定値倍されたものとする設定、および前記規定電位をグランド電位と相違させる設定の少なくとも一方がなされており、前記所定値は、1およびゼロと相違する値である。
【0008】
上記のように直流電圧印加手段を備える場合、コイルの直流電位に互いに相違するものが存在するため、それら互いに相違するものの間でコイルに絶縁不良が生じることで、それらの直流電位が変化する。この変化は、規定電位とコイルの電位との差圧信号によって定量化され、これと閾値電圧とが比較手段によって比較される。このため、比較手段では、絶縁不良が生じることに起因した直流電位の変化が生じているか否かに基づき、絶縁不良の有無を検出することができる。
【0009】
ここで、差圧信号が上記差圧の絶対値を増幅したものである場合、上記直流電位の変化の解像度を向上させることができる。一方、差圧信号が上記差圧の絶対値を縮小変換したものである場合、差圧信号の絶対値が過度に大きくなることを回避することができる。また、基準電位をグランド電位と相違させる場合、閾値電圧の設定や、比較手段の入力可能電圧の設定等の自由度が向上する。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記差圧信号には、前記少なくとも1つの電位と前記規定電位との差圧の絶対値が所定値倍されたものとする設定、および前記規定電位をグランド電位と相違させる設定の双方の設定がなされていることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記直流電圧印加手段は、前記コイルのそれぞれの直流電位が互いに相違するように前記直流電圧を印加する手段であることを特徴とする。
【0012】
上記発明では、コイルのそれぞれの直流電位が互いに相違するように直流電圧が印加されているため、3つ以上のコイルを備える場合において、いずれの一対のコイルの間に絶縁不良が生じたかにかかわらず、それらコイルの直流電位が変化することとなる。このため、任意の一対のコイルの間の絶縁不良の有無を検出することができる。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記差圧信号生成手段は、反転増幅回路で構成されることを特徴とする。
【0014】
上記反転増幅回路は、入力信号の電圧値の大きさを変換して出力信号とする機能を有する。そして、この機能を用いるなら、絶縁不良に起因した直流電位の変化が生じているか否かを比較手段が判断する上で適切な信号に変換することで、検出精度を向上させることができる。また、反転増幅回路は、入力信号の変化特性を反転させる機能を有する。そして、この機能を用いるなら、絶縁不良に起因した直流電位の変化が生じているか否かを比較手段が判断する上で適切な信号に変換することで、検出精度を向上させることなどができる。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記差圧信号生成手段は、非反転増幅回路で構成されることを特徴とする。
【0016】
上記非反転増幅回路は、入力信号の電圧値の大きさを変換して出力信号とする機能を有する。そして、この機能を用いるなら、絶縁不良に起因した直流電位の変化が生じているか否かを比較手段が判断する上で適切な信号に変換することで、検出精度を向上させることができる。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記1次側コイルは、単一のコイルからなり、前記2次側コイルは、第1の2次側コイルおよび第2の2次側コイルの一対のコイルからなり、前記直流電圧印加手段は、前記第1の2次側コイル、前記第2の2次側コイル、および前記1次側コイルの順に直流電位が低くなるように直流電圧を印加するものであり、前記差圧信号生成手段は、前記第2の2次側コイルの電位を前記少なくとも1つの電位として、前記差圧信号を生成する反転増幅回路であることを特徴とする。
【0018】
上記発明では、第1の2次側コイルと1次側コイルとの間に絶縁不良が生じた場合と、第1の2次側コイルと第2の2次側コイルとの間に絶縁不良が生じた場合との双方で、第1の2次側コイルの直流電位が低下する。このため、これらの絶縁不良については、第1の2次側コイルの直流電位の変化によって検出することが便宜である。
【0019】
一方、第2の2次側コイルと1次側コイルとの間に絶縁不良が生じた場合には、第2の2次側コイルの直流電位が低下するものの、第1の2次側コイルと第2の2次側コイルとの間に絶縁不良が生じた場合には、第2の2次側コイルの直流電位が上昇する。ここで、第2の2次側コイルと1次側コイルとの間の絶縁不良を検出すべく、第2の2次側コイルの直流電位の変化を直接用いる場合、閾値電圧を低い値に設定する制約が生じる。この制約は、差圧信号を用いることで解消される。ただし、差圧信号生成手段として非反転増幅回路を用いる場合、第1の2次側コイルと第2の2次側コイルとの間に絶縁不良が生じることで、その出力電圧が過度に大きくなるおそれがある。この点、上記発明では、反転増幅回路を用いることで、こうした事態を回避することができる。
【0020】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記閾値設定回路は、前記反転増幅回路によって生成される差圧信号との比較対象となる第1の閾値電圧に加えて、第2の閾値電圧を出力するものであり、前記比較手段は、前記反転増幅回路によって生成される差圧信号と前記第2の閾値電圧との大小比較に加えて、前記第1の2次側コイルの電位と前記第2の閾値電圧との大小を比較するものであり、前記第1の閾値電圧は、前記反転増幅回路の正常時の出力信号よりも大きく前記第2の2次側コイルと前記1次側コイルとの絶縁不良時の出力信号よりも小さいものであり、前記第2の閾値電圧は、前記第1の2次側コイルの正常時の電位よりも小さく、前記第1の2次側コイルと前記1次側コイルとの絶縁不良時および前記第1の2次側コイルと前記第2の2次側コイルとの絶縁不良時の前記電位よりも大きいことを特徴とする。
【0021】
上記発明では、反転増幅回路の出力信号が第1の閾値電圧よりも小さい場合に、第2の2次側コイルと前記1次側コイルとの絶縁不良であると判断することができる。また、第2の閾値電圧よりも第1の2次側コイルの電位の方が小さい場合に、第1の2次側コイルと前記1次側コイルとの絶縁不良、および前記第1の2次側コイルと前記第2の2次側コイルとの絶縁不良の少なくとも一方が生じていると判断することができる。
【0022】
請求項8記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記差圧信号生成手段は、前記反転増幅回路に加えて、前記第1の2次側コイルの電位を前記少なくとも1つの電位として、前記差圧信号を生成する非反転増幅回路を備え、前記閾値設定回路は、前記反転増幅回路によって生成される差圧信号との比較対象となる第1の閾値電圧に加えて、第2の閾値電圧を出力するものであり、前記第1の閾値電圧は、前記反転増幅回路の正常時の出力信号よりも大きく前記第2の2次側コイルと前記1次側コイルとの絶縁不良時の出力信号よりも小さいものであり、前記第2の閾値電圧は、前記非反転増幅回路の正常時の出力電圧よりも小さく、前記第1の2次側コイルと前記1次側コイルとの絶縁不良時および前記第1の2次側コイルと前記第2の2次側コイルとの絶縁不良時の前記出力電圧よりも大きいことを特徴とする。
【0023】
上記発明では、反転増幅回路の出力信号が第1の閾値電圧よりも小さい場合に、第2の2次側コイルと前記1次側コイルとの絶縁不良であると判断することができる。また、第2の閾値電圧よりも非反転増幅回路の出力信号の方が小さい場合に、第1の2次側コイルと前記1次側コイルとの絶縁不良、および前記第1の2次側コイルと前記第2の2次側コイルとの絶縁不良の少なくとも一方が生じていると判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかる絶縁不良の検出手法を示す図。
【図3】同実施形態にかかる比較手段の変更手法を示す図。
【図4】第2の実施形態にかかるシステム構成図。
【図5】上記各実施形態の変形例にかかるシステム構成図。
【図6】上記各実施形態の変形例にかかるシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる信号検出装置の絶縁不良診断装置をレゾルバの断線不良診断装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0027】
図示される1次側コイル10は、モータジェネレータ12のロータ14と一体的に回転するものである。1次側コイル10には、励磁信号生成部16からの交流電圧信号(励磁信号Sc)が印加される。励磁信号Scによって1次側コイル10に生じた磁束は、一対の2次側コイル20,22を鎖交する。この際、1次側コイル10と一対の2次側コイル20,22との相対的な配置関係は、ロータ14の回転角度θに応じて周期的に変化する。これにより、2次側コイル20,22の鎖交磁束数は、周期的に変化する。特に、一対の2次側コイル20,22と1次側コイル10との幾何学的な配置が相違する設定とされ、これにより、2次側コイル20,22のそれぞれに生じる電圧の位相が互いに「π/2」だけずれるようになっている。これにより、2次側コイル20,22のそれぞれの出力電圧は、励磁信号Scを、変調波sinθ、cosθのそれぞれによって変調した被変調波となる。すなわち、励磁信号Scを「sinωt」とすると、被変調波は、それぞれ「sinθsinωt」と「cosθsinωt」となる。
【0028】
2次側コイル20の出力電圧は、差動増幅回路24によって電圧変換され、A相被変調波Saとされ、2次側コイル22の出力電圧は、差動増幅回路26によって電圧変換され、B相被変調波Sbとされる。これらA相被変調波SaとB相被変調波Sbとのそれぞれは、周知のレゾルバデジタルコンバータ28に入力される。
【0029】
次に、本実施形態にかかる1次側コイル10、2次側コイル20,22の絶縁不良の有無の診断手法について説明する。本実施形態では、絶縁不良の診断を行なうべく、1次側コイル10、2次側コイル20,22のそれぞれの直流電位が互いに相違するように設定している。すなわち、2次側コイル20には、抵抗体30,32の直列接続体を並列接続して且つ、それらの接続点に電圧VH(>0)を印加する。ここで、電圧VHとは、グランド電位を基準とした電位差の値である。また、2次側コイル22には、抵抗体34,36の直列接続体を並列接続して且つ、それらの接続点に電圧VL(<VH)を印加する。ここで、電圧VLとは、グランド電位を基準とした電位差の値である。そして、1次側コイル10の一方の端子を接地することで、1次側コイル10の直流電位をグランド電位とする。ちなみに、ノイズ除去のために、2次側コイル20には、コンデンサ40,42の直列接続体が並列接続されて且つ、それらの接続点が接地され、2次側コイル22には、コンデンサ44,46の直列接続体が並列接続されて且つ、それらの接続点が接地されている。
【0030】
こうした設定によれば、1次側コイル10、2次側コイル20,22の間に絶縁不良が生じる場合、少なくとも2つのコイルの直流電位が変化する。このため、この直流電位の変化を定量評価することで絶縁不良の有無を診断することができる。以下、直流電位の変化の定量評価を行なうための構成について説明する。
【0031】
2次側コイル22には、抵抗体50,52の直列接続体が並列接続されており、それらの接続点は、RC回路54に接続されている。RC回路54は、入力電圧の低周波成分をコンデンサの両端の電圧として出力するローパスフィルタである。RC回路54の出力信号は、2次側コイル22の直流電位に応じた電圧信号である。
【0032】
RC回路54の出力信号は、反転増幅回路56に取り込まれる。反転増幅回路56は、オペアンプ56aと、オペアンプ56aの反転入力端子および出力端子間に接続される抵抗体56bと、反転入力端子に接続される抵抗体56cとを備えている。そして、オペアンプ56aの非反転入力端子の電位が電位V1(≠0)に固定され、抵抗体56cのうち反転入力端子に接続されない側が入力端子となる。こうした構成により、反転増幅回路56は、RC回路54の出力端子の電位Vbと規定電位との差圧を所定に変換した電圧信号を出力する。
【0033】
すなわち、抵抗体56b,56cの抵抗値R1,R2を用いると、反転増幅回路56の出力電圧は、以下の式(c1)にて表現される。
【0034】
(−R1/R2)・{Vb−V1・(1+R2/R1)} …(c1)
上記の式(c1)によれば、反転増幅回路56が、規定電位「V1・(1+R2/R1)」と電位Vbとの差圧を、「(−R1/R2)」倍に変換した電圧信号を出力することがわかる。反転増幅回路56の出力信号は、RC回路54の出力端子の電位(2次側コイル22の直流電位)の定量化信号として、コンパレータ58の反転入力端子に入力される。コンパレータ58の非反転入力端子には、閾値電圧Vth1が印加される。この閾値電圧Vth1は、電源電圧を抵抗体60,62によって分圧することで生成される電圧信号である。閾値電圧Vth1は、2次側コイル22に絶縁不良が生じていないときの反転増幅回路56の出力電圧よりも大きい値に設定されている。
【0035】
一方、2次側コイル20には、抵抗体70,72の直列接続体が並列接続されており、それらの接続点は、RC回路74に接続されている。RC回路74は、入力電圧の低周波成分をコンデンサの両端の電圧として出力するローパスフィルタである。RC回路74の出力信号は、2次側コイル20の直流電位に応じた電圧信号である。
【0036】
RC回路74の出力信号は、2次側コイル20の直流電位の定量化信号として、コンパレータ78の非反転入力端子に入力される。コンパレータ78の反転入力端子には、閾値電圧Vth2が印加される。この閾値電圧Vth2は、電源電圧を抵抗体80,82によって分圧することで生成される電圧信号である。閾値電圧Vth2は、2次側コイル20に絶縁不良が生じていないときのRC回路74の出力電圧よりも小さい値に設定されている。
【0037】
なお、上記差動増幅回路24,26、オペアンプ56a、コンパレータ58,78は、いずれも図示しない車載補機バッテリの電圧VBが印加されるものである。すなわち、これらは、電圧VBとグランド電位との間で動作する。
【0038】
上記コンパレータ58,78の出力する診断信号Dg1,Dg2は、マイクロプロセッサユニット(MPU90)に入力される。MPU90では、診断信号Dg1,Dg2に基づき、上記絶縁不良の有無を診断し、絶縁不良が生じている場合、その旨を外部(ユーザ)に通知する。以下、これについて図2に基づき説明する。
【0039】
図2(a)は、2次側コイル20(COSと表記)側のコンパレータ78と2次側コイル22(SINと表記)側のコンパレータ58とのそれぞれの比較結果と異常の種類との関係を示す。なお、図中、S1短絡、S2短絡、S3短絡のそれぞれは、先の図1に示すように、1次側コイル10と2次側コイル20との短絡、1次側コイル10と2次側コイル22との短絡、および2次側コイル20,22同士の短絡のそれぞれを示す。
【0040】
図2(b)に示すように、正常時において、反転増幅回路56の出力信号Vbcは、閾値電圧Vth1よりも低い。このため、コンパレータ58の出力信号(診断信号Dg1)は、論理「H」となる。これに対し、1次側コイル10と2側コイル22とが短絡する場合(S2短絡)、出力信号Vbcは、閾値電圧Vth1を上回る。このため、診断信号Dg1は、論理「L」に反転する。なお、2次側コイル20,22同士が短絡する場合、出力信号Vbcが閾値電圧Vth1を下回る度合いは、正常時より大きくなるものの、診断信号Dg1自体は、論理「H」のままである。
【0041】
図2(c)に示すように、正常時において、RC回路74の出力端子の電位Vaは、閾値電圧Vth2よりも高い。このため、コンパレータ78の出力信号(診断信号Dg2)は、論理「H」となる。これに対し、1次側コイル10と2側コイル20とが短絡する場合(S1短絡)、電位Vaは、閾値電圧Vth2を下回る。このため、診断信号Dg2は、論理「L」に反転する。同様に、2次側コイル20,22同士が短絡する場合、電位Vaが閾値電圧Vth2を下回るため、診断信号Dg2は、論理「L」に反転する。
【0042】
以上説明した本実施形態によれば、絶縁不良の有無を診断することができる。特に、本実施形態では、2次側コイル20と比較して正常時の直流電位が低い2次側コイル22について、反転増幅回路56を用いて、その直流電位を定量化したために、絶縁不良の検出精度を向上させることなどができる。以下、これについて説明する。
【0043】
今、一例として、「VH=5V,VL=2.5V,Vth1=3V、Vth4=4V,VB=8〜14V」とする。ここで、補機バッテリの電圧VBが一義的に定まらないのは、充放電電流により端子電圧が変動するためである。
【0044】
コンパレータ58の動作電圧は、「0〜VB」である。一方、反転増幅回路56が存在しない場合、RC回路54の出力端子の電位Vbは、2.5Vとなる。このため、反転増幅回路56を備えない場合、閾値電圧Vth1を「2.5V」よりも低い電圧とする必要がある。そしてこれは、コンパレータ58の動作電圧領域のうち低電位側に偏って閾値電圧Vth1を設定することを意味する。
【0045】
ここで、電位Vbと規定電位との差圧を所定に変換した電圧信号を用いることで、閾値電圧Vth1を自由に設定することができる。この自由度の向上自体は、反転増幅回路56に限らず、非反転増幅回路を用いたとしても実現可能なものである。ただし、非反転増幅回路を用いる場合、閾値電圧Vth1を上昇させる設定は、2次側コイル20,22同士が短絡する場合における非反転増幅回路の出力信号の電位を過度に上昇させることにつながる。そしてこのことは、絶縁不良の有無の診断を行なう機能の汎用性を低下させる要因となる。
【0046】
すなわち、仕様によっては、図3に示すように、コンパレータ58,78を備えることなく、MPU90によって比較手段を構成することが要求されることがある。そしてその場合、非反転増幅回路を用いると、2次側コイル20,22同士の短絡時に、非反転増幅回路の出力電圧が過度に大きくなり、MPU90に印加される電圧がその耐圧を上回るおそれがある。これに対し、本実施形態では、先の図2(b)に示したように、2次側コイル20,22同士の短絡時に、出力信号Vbcは、小さい電位の信号となるため、こうした問題が生じない。
【0047】
このように、反転増幅回路56を用いることで、汎用性の低下を回避しつつも、反転増幅回路56を備えない場合の閾値設定(図2(d))と比較して、閾値電圧Vth1を上昇させることができる。
【0048】
ちなみに、レゾルバでは、通常、1次側コイル10の印加電圧が2次側コイル20,22のそれと比較して大きいため、1次側コイル10の電圧印加手段の電源を用いることで、2次側コイル20,22の直流電位をグランド電位に対して大きく乖離させることは可能である。そしてこれによれば、電圧VLを高くすることも可能ではある。ただし、この場合、これを取り込む論理回路の耐圧を上昇させる要求が生じ、ひいては回路の大型化、高コスト化を招くおそれがある。また、消費電力が増大するおそれもある。これに対し、本実施形態では、反転増幅回路56を用いることで、こうした問題を回避することができる。
【0049】
なお、本実施形態では、「R1=30、R2=10」とし、電位V1を「2.5V」に設定した。この場合、反転増幅回路56のゲインを「3」とすることができ、2次側コイル22の直流電位の変化を反転増幅回路56によって増幅することができる。ちなみに、規定電位「V1・(1+R2/R1)」は「3.3V」となり、1次側コイル10と2次側コイル22との短絡時の電位Vbは、「1.9V」となる。ここで、電位Vbが「0V」まで低下しないのは、オペアンプ56の非反転入力端子が電位V1に固定されているため、反転入力端子の電位も電位V1に固定されるためである。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0050】
図4に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。図4において、先の図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0051】
図示されるように、本実施形態では、RC回路74の出力電圧が非反転増幅回路76に取り込まれる。非反転増幅回路76は、オペアンプ76aと、オペアンプ76aの反転入力端子および出力端子間に接続される抵抗体76bと、反転入力端子に接続される抵抗体76cとを備えている。そして、抵抗体76cのうち反転入力端子に接続されない側の電位がV2(≠0)に固定され、オペアンプ56aの非反転入力端子が入力端子となる。こうした構成によれば、非反転増幅回路76は、RC回路74の出力端子の電位Vaと規定電位との差圧を所定に変換した電圧信号を出力する。
【0052】
すなわち、抵抗体76b,76cの抵抗値R3,R4を用いると、非反転増幅回路76の出力電圧は、以下の式(c2)にて表現される。
【0053】
{1+(R3/R4)}・{Va−V2・R3/(R3+R4)} …(c2)
上記の式(c2)によれば、非反転増幅回路76が、規定電位「V2・R3/(R3+R4)」と電位Vaとの差圧を、「1+(R3/R4)」倍に変換した電圧信号を出力することがわかる。非反転増幅回路76の出力信号は、RC回路74の出力端子の電位(2次側コイル20の直流電位)の定量化信号として、コンパレータ78の非反転入力端子に入力される。
【0054】
こうした構成によれば、絶縁不良に起因した2次側コイル20の直流電位の低下についてもより高精度に検出することができる。すなわち、これにより、閾値電圧Vth2の設定の自由度を向上させたり、コンパレータ78を用いた閾値電圧Vth2との大小の比較精度を向上させたりすることができる。
【0055】
ちなみに、本実施形態でも、正常時において、反転増幅回路56の出力信号Vbcは、閾値電圧Vth1よりも低い。このため、コンパレータ58の出力信号(診断信号Dg1)は、論理「H」となる。これに対し、1次側コイル10と2側コイル22とが短絡する場合(S2短絡)、出力信号Vbcは、閾値電圧Vth1を上回る。このため、診断信号Dg1は、論理「L」に反転する。なお、2次側コイル20,22同士が短絡する場合、出力信号Vbcが閾値電圧Vth1を下回る度合いは、正常時より大きくなるものの、診断信号Dg1自体は、論理「H」のままである。
【0056】
また、正常時において、非反転増幅回路の出力信号Vacは、閾値電圧Vth1よりも高い。このため、コンパレータ78の出力信号(診断信号Dg2)は、論理「H」となる。これに対し、1次側コイル10と2側コイル20とが短絡する場合(S1短絡)、出力電圧Vacは、閾値電圧Vth2を下回る。このため、診断信号Dg2は、論理「L」に反転する。同様に、2次側コイル20,22同士が短絡する場合、出力電圧Vacが閾値電圧Vth2を下回るため、診断信号Dg2は、論理「L」に反転する。
【0057】
以上より、本実施形態でも、1次側コイル10と2次側コイル22との絶縁不良である場合に診断信号Dg1が論理「L」に反転し、1次側コイル10と2次側コイル20との絶縁不良や、2次側コイル20,22同士の絶縁不良の場合に、診断信号Dg2が論理「L」に反転する。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0058】
「直流電圧印加手段について」
上記各実施形態では、2次側コイル20、2次側コイル22、1次側コイル10の順に、印加される直流電圧が低くなるように設定したがこれに限らない。また、コイルの両端に一対の抵抗体の直列接続体を接続し、それらの接続点に直流電圧源を接続するものに限らず、たとえばコイルのいずれか一方の端子を抵抗体を介してプルアップするものであってもよい。
【0059】
また、2次側コイル20、2次側コイル22、1次側コイル10のそれぞれで各別の電源端子(グランド端子を含む)に接続することで、それらの電位を互いに相違させるものに限らない。たとえば、図5に示されるものであってもよい。なお、図5において、先の図4に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。図示されるように、2次側コイル20の一方の端子は、抵抗体30を介して電圧VHの電源端子に接続され、他方の端子は、抵抗体32を介して接地されている。また、2次側コイル22の一方の端子は、抵抗体34を介して電圧VHの電源端子に接続され、他方の端子は、抵抗体36を介して接地されている。ここで、抵抗体30,36は互いに等しい抵抗値R5であり、抵抗体32,34は、互いに等しい抵抗値R6(>R5)である。この場合、2次側コイル20の直流電位は、「VH・R6/(R5+R6)」程度となり、2次側コイル22の直流電位は、「VH・R5/(R5+R6)」程度となる。
【0060】
同様に、図6に示されるものであってもよい。なお、図6において、先の図4に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。図示されるように、抵抗体30,32は、互いに等しい抵抗値R7であり、抵抗体34,36は、互いに等しい抵抗値R8(>R7)である。この場合、差動増幅回路24,26や、RC回路54,74、さらには反転増幅回路56や非反転増幅回路76等の影響により、2次側コイル20の直流電位と2次側コイル22の直流電位とが互いに相違したものとなる。
【0061】
「差圧信号生成手段について」
上記第2の実施形態において、反転増幅回路56を削除してもよい。
【0062】
差圧を増幅するものに限らない。たとえば反転増幅回路56の場合、上記の式(c1)からもわかるように、ゲイン「R1/R2」を「1」よりも小さくてゼロよりも大きい値とすることもできる。これは、MPU90に入力される電圧の絶対値が過度に大きくなることを制限する上で有効である。
【0063】
差圧を増幅せずそれと絶対値の等しい信号を出力するものであっても、規定電位を調節することで、閾値電圧や比較手段の設定の自由度を向上させることはできる。
【0064】
規定電位をグランド電位としても、差圧を増幅するなら、直流電位の変化の検出精度を向上することはできる。また、差圧の絶対値を縮小変換するなら、比較手段に過度に大きい電圧が印加される事態を回避することができる。
【0065】
「閾値設定回路について」
上記各実施形態のように、電源電圧を一対の抵抗体によって分圧することで閾値電圧を生成するものに限らず、たとえば電源電圧の端子電圧を閾値電圧とするものであってもよい。
【0066】
「比較手段について」
上記第2の実施形態(図4)においても、アナログ回路(コンパレータ58,78)に代えて、たとえばMPU90によって構成してもよい。この場合、非反転増幅回路76や反転増幅回路56等の差圧信号生成手段の出力電圧を、MPU90内のアナログデジタル変換器の解像度や耐圧に適合したものとすべく、差圧信号生成手段の増幅率や上記規定電位等を適宜設定することが望ましい。ちなみに、非反転増幅回路76や反転増幅回路56の出力電圧は、それらに対する給電手段の電圧(図4では、「0〜VB」)に制限されるため、給電手段の電圧の設定によって、MPU90に入力される電圧が過度に大きくなったり過度に小さくなったりすることを回避することも有効である。
【0067】
「直流電位の設定について」
コイルの全ての直流電位が互いに相違する設定に限らない。たとえば2次側コイル20にのみ直流電圧を印加することで2次側コイル20の直流電位を1次側コイル10や2次側コイル22の直流電位と相違させつつも、1次側コイル10の直流電位と2次側コイル22の直流電位とを同一としてもよい。この場合であっても、コンパレータ78の出力する診断信号Dg2によって、2次側コイル20と2次側コイル22との間の絶縁不良を検出することはできる。
【0068】
「信号検出装置について」
レゾルバとしては、一対の2次側コイルを備えるものに限らない。たとえば、「ACサーボシステムの理論と設計の実際:杉本英彦編著、総合電子出版社」に記載されているように、一対の1次側コイルと単一の2次側コイルとを備えるものであってもよい。
【0069】
なお、信号検出装置としては、レゾルバにも限らない。
【符号の説明】
【0070】
10…1次側コイル、20,22…2次側コイル、56…反転増幅回路、58,78…コンパレータ(比較手段の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流信号が入力される1または複数の1次側コイルに磁気結合した1または複数の2次側コイルの両端の電圧を検出する信号検出装置に適用され、前記コイルの間の絶縁不良を検出する信号検出装置の絶縁不良診断装置において、
前記コイルのそれぞれの直流電位に相違するものが存在するように、前記コイルの少なくとも1つに直流電圧を印加する直流電圧印加手段と、
前記コイルの少なくとも1つの電位と規定電位との差圧信号を生成する差圧信号生成手段と、
閾値電圧を出力する閾値設定回路と、
前記差圧信号生成手段の出力する差圧信号と前記閾値設定回路の出力信号との大小を比較する比較手段とを備え、
前記比較手段による比較結果が前記絶縁不良の検出結果とされ、
前記差圧信号には、前記少なくとも1つの電位と前記規定電位との差圧の絶対値が所定値倍されたものとする設定、および前記規定電位をグランド電位と相違させる設定の少なくとも一方がなされており、
前記所定値は、1およびゼロと相違する値であることを特徴とする信号検出装置の絶縁不良診断装置。
【請求項2】
前記差圧信号には、前記少なくとも1つの電位と前記規定電位との差圧の絶対値が所定値倍されたものとする設定、および前記規定電位をグランド電位と相違させる設定の双方の設定がなされていることを特徴とする請求項1記載の信号検出装置の絶縁不良診断装置。
【請求項3】
前記直流電圧印加手段は、前記コイルのそれぞれの直流電位が互いに相違するように前記直流電圧を印加する手段であることを特徴とする請求項1または2記載の信号検出装置の絶縁不良診断装置。
【請求項4】
前記差圧信号生成手段は、反転増幅回路で構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の信号検出装置の絶縁不良診断装置。
【請求項5】
前記差圧信号生成手段は、非反転増幅回路で構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の信号検出装置の絶縁不良診断装置。
【請求項6】
前記1次側コイルは、単一のコイルからなり、
前記2次側コイルは、第1の2次側コイルおよび第2の2次側コイルの一対のコイルからなり、
前記直流電圧印加手段は、前記第1の2次側コイル、前記第2の2次側コイル、および前記1次側コイルの順に直流電位が低くなるように直流電圧を印加するものであり、
前記差圧信号生成手段は、前記第2の2次側コイルの電位を前記少なくとも1つの電位として、前記差圧信号を生成する反転増幅回路であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の信号検出装置の絶縁不良診断装置。
【請求項7】
前記閾値設定回路は、前記反転増幅回路によって生成される差圧信号との比較対象となる第1の閾値電圧に加えて、第2の閾値電圧を出力するものであり、
前記比較手段は、前記反転増幅回路によって生成される差圧信号と前記第2の閾値電圧との大小比較に加えて、前記第1の2次側コイルの電位と前記第2の閾値電圧との大小を比較するものであり、
前記第1の閾値電圧は、前記反転増幅回路の正常時の出力信号よりも大きく前記第2の2次側コイルと前記1次側コイルとの絶縁不良時の出力信号よりも小さいものであり、
前記第2の閾値電圧は、前記第1の2次側コイルの正常時の電位よりも小さく、前記第1の2次側コイルと前記1次側コイルとの絶縁不良時および前記第1の2次側コイルと前記第2の2次側コイルとの絶縁不良時の前記電位よりも大きいことを特徴とする請求項6記載の信号検出装置の絶縁不良診断装置。
【請求項8】
前記差圧信号生成手段は、前記反転増幅回路に加えて、前記第1の2次側コイルの電位を前記少なくとも1つの電位として、前記差圧信号を生成する非反転増幅回路を備え、
前記閾値設定回路は、前記反転増幅回路によって生成される差圧信号との比較対象となる第1の閾値電圧に加えて、第2の閾値電圧を出力するものであり、
前記第1の閾値電圧は、前記反転増幅回路の正常時の出力信号よりも大きく前記第2の2次側コイルと前記1次側コイルとの絶縁不良時の出力信号よりも小さいものであり、
前記第2の閾値電圧は、前記非反転増幅回路の正常時の出力電圧よりも小さく、前記第1の2次側コイルと前記1次側コイルとの絶縁不良時および前記第1の2次側コイルと前記第2の2次側コイルとの絶縁不良時の前記出力電圧よりも大きいことを特徴とする請求項6記載の信号検出装置の絶縁不良診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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