説明

信号検知方法及びノイズ除去方法

【課題】 無線モジュールの性能に影響を与えずに、当該無線モジュールから出力されたベースバンドの信号波に対して処理を行う信号検知方法。
【解決手段】 無線で送られたディジタル信号を復調する場合に、受信波形の特徴から、本来あるべき信号位置を検出する。本来あるべき信号の位置と通信速度から、次の信号が立ち上がる時間軸上の位置を割り出す。その位置の前後をスライスして、信号電圧を測定する。これにより、信号の立ち上がりを検知して、信号とノイズを見分ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の属する技術分野は、ディジタル信号を高周波変調し、電波としてそのディジタル信号を送信し、その電波を受信してディジタル信号を復調した時に、復調したディジタル信号が高周波変調前のディジタル信号との同一性を高める為の信号修正方法の技術分野に属する。特に、無線信号の電界強度が弱い場合や、機械が密集してノイズや同一周波数の電波が多数発射されている場合に用いられるディジタル信号の復調方法である。
【背景技術】
【0002】
ディジタル信号を高周波で変調してデータ転送を行う無線通信は、近年無線センサーネットワークの普及と共に一般化してきている。無線通信に於けるノイズ除去方法について、古くはモールス通信を行う際にフィルター特性をシャープにし、通過帯域を狭くして混信やノイズ成分を除去する方法がある。また、近年では中間周波数帯や低周波帯に於いて、A/D変換器を用いて信号波をアナログ信号からディジタル信号に置き換え、DSP(ディジタル・シグナル・プロセッサー)素子を用いて変換したディジタル信号の不要部分やノイズを除去し、更にその信号をA/D変換器を用いてアナログ信号に変換する方法が具現化されている。しかし、これらの2方法は構造が複雑であり、従って装置が大型化する為に小型装置での応用が難しく、また多くの素子を用いることから消費電流も多くなることから、コイン電池などの小電源で駆動する小型の装置には使えないとの欠点があった。
【0003】
更に、これらの2方法に於いて問題となるのは、素子特性からある特定周波数又は周波数範囲に信号波の周波数に周波数調整をしなければならない為に、水晶発振回路等で発生させた電気信号を信号波に混合して、用いる前記素子の特性に合わせた信号波の周波数を生成し、更に高調波をフィルターする機構、即ちスーパーヘテロダイン方式の機構が必要となる。従って、装置規模並びに消費電流共に増大する欠点を持つ。一方、無線装置の小型化や省電力化に伴いディスクリートの素子を用いて無線回路を組むよりもパッケージ・イン型の無線モジュール又は無線ICを用いて無線回路を組む方が調整等の点に於いても有利である。
【特許文献1】特許第365783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が目的とするところは、受信した信号を復調する際に受信信号の正解率を上げることであるが、本発明で用いている無線部はディジタル信号、つまりベースバンドの入力及び出力以降の無線処理、つまり信号を高周波変調してアンテナから送信し、又はアンテナで受信した高周波信号を復調してベースバンドの信号波に直す処理は全てパッケージ型の無線モジュールで行われている。即ち無線モジュール自体にハード的又はソフト的な変更を加えると無線モジュールの性能に影響を与える可能性がある為、当該無線モジュールから出力されたベースバンドの信号波に対して処理を行う必要があり、これが課題となる。
【0005】
近年は稼働電力が著しく低いが処理速度の速い中央処理装置が登場しており、これらの中央処理装置を用いることでベースバンドの信号波形を整形することが可能となった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の信号検知方法は、カップリング・コンデンサーを検波回路に用いる無線装置に於いて、無線で送られたディジタル信号を復調する場合に、受信波形の特徴から、本来あるべき信号位置を検出し、信号とノイズを見分ける。
【0007】
本発明の受信ノイズ除去方法は、カップリング・コンデンサーを検波回路に用いる無線装置に於いて、受信波形の特徴からデータの通信速度を判定する方法と前記判定方法を用いたものである。
【0008】
本発明の号検知方法は、前記本来あるべき信号の位置と、判定された前記通信速度から、次の信号が立ち上がる時間軸上の位置を割り出し、その前後をスライスし、信号電圧を測定することで信号の立ち上がりを検知する。
【0009】
また、本発明の信号検知方法は、前記信号の立ち上がりが検知されなかった場合に、信号入力がないことを判定する。
【0010】
本発明で用いられた無線装置の主要部分は、ハードウエア的には前記無線モジュールを中心として構成された無線部と、その制御及び通信制御を行う中央処理装置、及び電源で構成されている。信号復調に於ける正解率を上げる為には、無線部から出力されたベースバンドの信号波を中央処理装置で希望する信号であるのか、混信信号やノイズ成分であるのかを判定する手段が用いられる。
【0011】
また既知の方法として、通信距離に合わせたデータ転送速度、即ち通信距離を長く取る場合は通信速度を下げる方法やマンチェスター法、即ち、ディジタル信号の1(一)を送る時にディジタル信号の1とディジタル信号の0(零)を送る方法がある。無線通信に於いて、側波帯の幅を極力一定に保つ事は受信効率を上げるのに役立つが、この無線装置が環境ノイズやスパークノイズが多い環境で仕様される場合は、本来存在しない信号を除去しないと受信効率を上げることは難しい。
【0012】
ディジタル信号による無線通信は、データの転送速度が異なる場合が多くあり、また、ある一定の速度で送ったとしても、データの送出に係わる中央処理装置で用いられる水晶発振子の周波数は個々の偏差がある為に、数値で指定された周波数と全く一致する場合は少ない。また、水晶発振子は温度に敏感な為、温度保証機能を持たない水晶振動子では、温度による周波数ドリフトがデータ転送速度に影響を与える。従って、データ通信の速度を正しく見分ける必要が先ずは出てくる。データ転送速度の見分け方として、プリアンブルを用いて計測する方法が一般的である。通常の無線通信では、プリアンブルと呼ばれる信号を送ってから、本来電送したいデータを電送する方法をとる。プリアンブルは通常1と0を交互に送る場合が多く、本発明で用いた通信でも1と0を交互に32ビット送ってからデータを送る方法をとっている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、無線装置の使用環境に於いて、環境ノイズやスパークノイズが多い場合に環境の影響を極力抑えて、本来の信号を復調する事に役立ち、よって通信の信頼性を高めることができる。また、当該無線装置を室内等干渉が多く、信号波によるアンテナ起電力が著しく下がる場合や、遠距離の通信で信号波がノイズレベルに非常に近い場合等に受信信号の正解率を上げることに役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ディジタル通信に於けるプリアンブルは、通常1及び0の信号を交互に送るものが多い。これは受信機の検波回路を安定させる目的があり、特にカップリング・コンデンサーを検波回路に用いている場合は当該コンデンサーの電位を安定させ、信号に対しての応答を早くする効果がある。
【0015】
カップリング・コンデンサーを用いたディジタル信号の検波回路の出力波形は、コンデンサー出力の性質をもった波形であり、この性質を生かして信号の速度を測定することが可能であり、プリアンブルが送られている間に信号波の波形から信号の長さ、つまりデータの転送速度を割り出し、これを基に本来あるべき信号をノイズと分離して行くことで、信号の判読を容易にすることができる。
【0016】
本発明の実験に用いられた無線装置は、OOKの信号を送受信するトランシーバモジュールにフラッシュメモリー搭載型のマイクロプロセッサーを使用した。OOK変調とは、ベースバンドの入力信号が1の時に高周波出力を出し、0の時は出力を出さない振幅変調方式の一種である。主搬送波の周波数は315MHzを用い、信号波はディジタル信号をOOK変調したものを用いた。
【0017】
実施の方法として、プリアンブル送信時のカップリング・コンデンサーの出力電圧を用いてベースバンドのデータ転送速度を割り出す方法を実施例1に、信号波が1から0に移り、更に0から1に変化した場合の信号の立ち上がり時のピーク判定方法を実施例2に、同様に信号波が1から0に移り、更に次の信号が0だった場合のピーク判定方法を実施例3に記載する。
【実施例1】
【0018】
本実施例では、バランスデータを用いたプリアンブルからデータ転送速度を割り出す方法について説明する。カップリング・コンデンサーを用いた検波回路に於いて、コンデンサーが示す電圧値は、信号波によってコンデンサーに蓄積された電荷が徐々に放電する為、当該検波回路からの出力波形が送信側で送ったデータの波形と異なる場合が多い。
【0019】
図1は、データが0から1へ、そして0に変化した時のベースバンド波形100、送信波形110及びカップリング・コンデンサーを検波回路に使用した場合の受信波形120を示す。信号が0から1に変化した時に、尖塔電圧が発生し、受信波形120に大きなピークが現れる。尖塔電圧とコンデンサーに電荷が貯まって行く課程で、一度谷間ができ、最大電圧値が見られる。ここで、送信波形110が1から0へと変化すると、電圧はコンデンサーの放電波形に従って降下していく。
【0020】
図2は送信波形と受信波形との時間的関係を表したものである。受信信号をある一定の時間毎にスライスしてその電圧を測定し、ノイズ閾値及びこの閾値を越えた信号電圧を信号電圧1とし、受信信号がノイズ閾値未満に下がった最初の信号電圧を信号電圧Nとする。その様子を図3に示す。
【0021】
次に信号電圧1から信号電圧Nの間において特異点、つまり接線の傾きが0の点が3点存在する。3点の内、信号電圧の一番低い点を図4に示す特異点Bとする。特異点Bは、他の2点の中間にあることが条件となる。特異点Bの信号電圧1側にある特異点をP1とし、土曜に特異点Bの信号電圧N側にある特異点を特異点P2とする。具体的に特異点を探す方法としては、信号電圧1から信号電圧Nまでの間で、隣り合う二つの信号電圧から傾きを測定し、傾きの符号が変わる点を特異点として取られる方法が一般的である。
【0022】
ノイズの閾値は数値を入力するか、信号の無い状態である一定の時間ノイズ成分を連続受信して、積算した電圧の平均値を計算したものが一般的に用いられる。
【0023】
特異点P1は信号が0から1に変化した時の尖塔電圧であり、特異点P2は信号が1から0に切り替わった点である。信号波が1である状態ではコンデンサーに電荷が貯まり、電圧が上昇するが、信号波が1から0に切り替わると、コンデンサーに貯まる電荷が供給されなくなり、放電に変わるので、信号電圧が降下することになる。従って、ベースバンドの信号の長さ、時間T、は、信号電圧1から特異点P2の差にサンプリング間隔を掛け合わせたものである。図4に時間Tを示す。
【0024】
本実施例では時間精度を上げる為に、32回のプリアンブルについて、最初の8回を除く24回について時間測定を行って、その結果を平均値とした。
【0025】
実際の受信信号をスペクトル・アナライザー等でその形状を見てみると、その形は基本的には図1〜図5に示す形状をしているものの、変形した波形も多く見受けられる。特に、尖塔電圧が特異点P2の電圧よりもかなり高い場合が多くあり、従来の様にテーブルに設定した数値を用いて0又は1の判断をした場合は、2つの異なった信号と取られる可能性があり、スパイクノイズに様にシャープな信号でなくとも、信号の誤認の恐れがあることが判った。従って、本実施例に示す方法を用いてデータ転送速度を割り出すことは、このような場合にも有効と実験的に証明された。
【実施例2】
【0026】
本実施例は、実際のデータを受信する場合に於いて信号波が0から1になり、更に1から0になった後について、次の信号が1なのか0なのかを判定する場合の方法について説明する。本実施例では次の信号が1であった場合について説明する。
【0027】
前実施例で判明した特異点P2及び時間Tを用いて、信号の立ち上がりを探査する位置を決定する。信号立ち上がり探査の基点となるのが、図5の探査開始基準点である。この点は、特異点P2から時間Tだけ経過した位置にある。時間Tはベースバンドのデータ転送時間に相当する値であるから、特異点P2、つまり信号が1から0に変化した点と推測される点、から時間Tだけ経過した点の近傍で、信号波が0から1に変化する可能性がある。
【0028】
しかし、データ転送用のクロックには周波数誤差があるため、誤差分を加味した時間帯で信号の立ち上がりを探査する必要がある。
【0029】
図6に於いて、探査開始点及び探査終了点について説明する。探査開始点は、探査基準点からある一定の時間T2だけ前に行った点にあり、ここから適当な一定間隔で信号をスライスし、その電圧を測定する。信号波のスライス及び電圧測定は、図7に示す様に探査終了点まで行う。探査終了点は、探査開始基準点より時間T2だけ遅れた位置にある。時間T2に付いては高周波の精度を決める水晶発信子の安定度に依存するので、本実施例では水晶振動子の精度をレンジで、つまり水晶振動子の精度が±10PPMだったので、主搬送波に対しレンジで20PPM前の時間軸上の位置に探査開始点を設定した。信号波が立ち上がるかの判定は、スライスした電圧値がノイズの閾値を越えることで立ち上がりが確認できるが、スパイクノイズ等の影響を考えると、少なくても2電圧測定値がノイズの閾値を越えていることが好ましい。本実施例では連続する3つのスライス測定電圧がノイズの閾値を越えることを条件とした。
【0030】
本発明の実施条件ではマンチェスター法を使用しており、この方法では信号波は0が2つ以上又は1が2つ以上連続することがない。従って、1が2つ連続した場合はその次に必ず0がくるはずであるので、基点となる最初の信号波の立ち上がりから時間Tを3倍した時点から図7で示す作業を行うことで、その次にくる信号が0なのか1なのか判断することができる。
【実施例3】
【0031】
本実施例は、実際のデータを受信する場合に於いて信号波が0から1になり、更に1から0になった後について、次の信号が0だった場合について説明する。信号の立ち上がりを探査する方法においては、実施例2に準じる方法を用いる。
【0032】
図8を用いて信号波のピークが存在しないことを確認する方法を説明する。図7同様、信号波の立ち上がり位置と想定される場所を、時間軸に沿って探査開始点から探査終了点までスライスし、各スライス地点の信号電圧を測定する。しかし、信号が0の場合は、1の場合と異なって信号波としての入力がない為、ノイズレベルが出力される。従って、スライス電圧値が連続してノイズレベルを超えることはない。しかし、スパイクノイズの可能性も考えられる為、本来はスライス電圧値が最高となる探査開始時間から時間Tだけ時間軸を下った点、図7で言うピーク確認地点、に於いて再度、信号波をスライスし、その位置でのスライス電流値を測定する。測定したスライス電流値が、ここに於いてもスライス電流値がノイズ閾値を下回る場合には入力信号がないと判定できる。但し、ピーク確認地点でのスライス電圧値がスパークノイズ等でノイズ閾値を越え、且つ、図3のピーク閾値の70%を越えていない場合も、信号入力がないと判定する。その他の場合は、ピーク確認地点の近傍をスライスし、その値を持って判断する必要がある。近傍点をスライス値がノイズ閾値を越えていなければ、信号入力がないと判定し、ノイズ閾値を越え、且つ、図3のピーク閾値の70%を越えている場合は信号入力があると判定する。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明はノイズの多い環境下又は信号が減衰し、ノイズレベルに近づいた時にノイズと信号を識別する方法として有効である。ノイズレベルが高い場所として、工場など機械類が多い場所や電力線の近傍などが上げられる。信号が減衰した場合としては通信距離が長い場合や送信電力が低い場合などが上げられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】送信波形と受信波形の比較を示した図
【図2】送信波形と受信波形の関係を示した図
【図3】ピーク閾値とノイズ閾値を示した図
【図4】特異点P1、P2及び特異点Bの位置を示した図
【図5】ピーク有無の探査開始基準点を示した図
【図6】探査開始点及び探査終了点を示した図
【図7】探査開始基準点近傍での信号波スライシングを示した図
【図8】信号波の0から1への立ち上がりがない場合における波形を示した図
【符号の説明】
【0035】
100 ベースバンド波形
110 送信波形
120 受信波形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップリング・コンデンサーを検波回路に用いる無線装置に於いて、無線で送られたディジタル信号を復調する場合に、受信波形の特徴から、本来あるべき信号位置を検出し、信号とノイズを見分ける信号検知方法。
【請求項2】
カップリング・コンデンサーを検波回路に用いる無線装置に於いて、受信波形の特徴からデータの通信速度を判定する方法と前記判定方法を用いた受信ノイズ除去方法。
【請求項3】
請求項1記載の前記本来あるべき信号の位置と、請求項2記載の判定された前記通信速度から、次の信号が立ち上がる時間軸上の位置を割り出し、その前後をスライスし、信号電圧を測定することで信号の立ち上がりを検知する信号検知方法。
【請求項4】
請求項3に於いて、前記信号の立ち上がりが検知されなかった場合に、信号入力がないことを判定する信号検知方法。
【請求項5】
請求項3及び請求項4で示す方法を用いて、ノイズと信号を区別するノイズ除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−325184(P2007−325184A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155997(P2006−155997)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(305018823)盛岡セイコー工業株式会社 (51)
【Fターム(参考)】