説明

信号機

【課題】 目的のレーン以外のレーンに信号を現示しているかのような現象をなくす。
【解決手段】 発光ユニットUと、ブリンカー5との組合せを有している。
発光ユニットUは、ケース1の基板3上に実装された多数のLED2を有するものであり、ブリンカー5は、一定の板厚を有し、LED2の正面方向以外の拡散光をカットする口径に設定された小穴6が開口されたものである。信号機の発光ユニットに実装された各LEDのそれぞれから発する拡散光は、ブリンカー5によってカットされ、信号現示が特定のレーン以外のレーンに対して信号現示であるかのように誤って認識される危険を回避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LEDを発光源とする交通信号機、鉄道用信号機に関する。
【背景技術】
【0002】
LEDの高輝度化に伴い、鉄道用信号機、交通信号機の光源は従来の信号電球に代えてLEDが用いられるようになってきた。一般に使用されるLEDの形状は半導体チップ(発光体)の上部を樹脂カバーで密閉したもので、カバーのレンズ効果により各種の指向特性が得られるように設計されている。LEDを発光源とする信号機の灯器は、多数のLEDを搭載した基板をケース内に収容し、ケースの開口に透明カバーを取り付けることによって構成される。
【0003】
鉄道用信号機では、例えば赤色、黄色、青緑色発光のLEDをそれぞれ搭載した基板をケース内に収容して3色の発光ユニットを上下3段に組み込むことによって3現示の信号機が構成される。ところで、LEDは、白熱電球などにくらべて一般に鋭い指向性を持っていることから、開発初期においては、指向性の強いLEDを用いて所定の面積を発光させるには、限られた面積の基板上にできるだけ間隔を詰めて多数のLEDを搭載することによって一定の拡散角度を確保する方法が用いられていた(特許文献1参照)。
【0004】
しかも、特許文献1の視覚誘導標においては、一定の拡散角度を確保するために、LEDを凸曲面の基板に取り付けている。しかしながら、LEDから放射された光の拡散角度が広いと鉄道用信号機の場合には以下に述べるような問題点が生じる。
【0005】
すなわち、鉄道用信号機がトンネル内に設置されている場合、あるいは鉄道用信号機の近傍に構造物がある場合に、トンネル内壁、構造物の天井、壁面などが反射面となり、その反射面に信号現示が投影されることで、その反射光をみた他のレーンを走行中の列車の運転手が、あたかも、そのレーンを指し示す信号現示であるかのように誤って認識してしまう危険がある。また、そのレーンを走行する列車の運転手にとっても、1つの信号機であるべきものが複数の信号現示が表示されているようにも見えることがあって、正しい信号現示の判断に迷う危険がある。
【0006】
従来の白熱電球式の信号機では、このような問題を避けるために偏光レンズを用いて特定のレーン以外を走行中の列車にはその信号現示が見えないようにするという方法があったが、LEDを発光源とする信号機では、LEDの指向性をできるだけ高めることによって対応することが可能である。
【0007】
図5は、一般的なLEDの指向性を示す図である。この例では、LEDの中心線O−O上を直進する光の割合を100%としたときに、中心線O−Oから5°の角度をなす方向に放射される光の割合は50%以下、中心線からの角度が増大するほどその方向に放射される光の量が減少するものの完全に0%にはならず、実質的には、LEDの全方向180°に渡って放射されるのである。
【0008】
通常、平行光線を得るには、レンズが用いられるが、レンズを用いたからといっても光の指向性を高めることにはならない。たとえば、特許文献2では、LEDを少なくして広い範囲に発光させる自発光視線誘導標を提案している。
【0009】
図6において、この自発光視線誘導標は、要するにLED23の前面にLED23からの光線を前面側に反射させる円錐形のレンズ24を配置し、該レンズ24にはLED23と対向して凸面部21が形成され、LED23の光線を円錐状側面22と凸面部21とに平行光線として外部に放射させるというものである。
【0010】
特許文献2には、LED23から発光される光線を相対向する凸面部21により拡散させることなく平行光線とし、更に側方に拡散しようとする光線を円錐状側面により平行光線とすることで、光束を略円筒状の形状のものとしてLED単独の場合より広い範囲で、且つ光線の拡散による発光輝度の低下を抑制し、光線が視認される効率を高めることで高い視線誘導効果が得られ、またレンズは円錐状であるからレンズ内部で不要な回折をすることが少なく、光線が視認される効率は更に高められ、LEDから発光される光線を相対向する凸面部により拡散させることなく平行光線とし、更に側方に拡散しようとする光線を円錐状側面により平行光線とすることができると説明されている。
【0011】
とはいえ、特許文献2に記載された自発光視線誘導標は、レンズを用いて拡散光を平行光に収束させる方式のため、現実には、レンズ24の前面が面光源として新たな発光面となるだけのことである。このような方式をもし、鉄道用信号機に用いたときには、レンズ24の前面から発する光は拡散し、特定のレーンを指し示す信号の拡散光が、トンネル内壁などの反射面で反射し、その反射光を見た他のレーンを走行中の列車の運転手があたかも信号現示であるかのように誤って認識する危険があることには変わりがない。以上、LEDを発光源とする鉄道用信号機についての問題点を説明したが、このような問題点は、一般の交通信号機においてもそのまま当てはまる。
【特許文献1】特開平9−31928号公報
【特許文献2】特許公開2004−232387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
解決しようとする問題点は、LEDを発光源とする信号機においては、LEDの発する光が拡散し、レンズで平行光線に収束して拡散を抑えようとしても、その拡散光がトンネル内壁、構造物の天井、壁面などで反射し、その反射光によって、目的のレーン以外に信号を現示しているかのような現象が生じる危険、あるいは1つの信号機であるべきものが、複数の信号現示が表示されているようにも見える危険があるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、信号機の発光ユニットに実装されたLEDの実装位置に対応して、各LEDの正面に、LEDの直径よりも小さい穴径を有するブリンカーを配置し、各LEDの発する光のうち、ブリンカーに開けられた穴の内径の範囲内を通過する直進光以外の拡散光をカットするため、拡散光による誤現示の危険をなくした点を最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明による鉄道用交通信号機は、各LEDの発する拡散光をカットするため、発光量の総量は当然減少するが、ブリンカーに明けられた穴の内径の範囲内を通過する直進光の光量はいささかも減少することが無いため、信号機の正面から見た明るさは、設計どおりに600mの視認距離を確保でき、しかも信号が指し示さないレーン(他のレーン)を走行中の列車に対して誤った信号を現示する危険をなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
信号機の正面から見た明るさは、設計どおりの視認距離を確保し、信号現示が特定のレーン以外のレーンに対して信号現示であるかのように誤って認識される危険を回避するという目的を一定の板厚を有し、LEDの正面に発する直進光以外の拡散光をカットする口径径に設定された小穴を開口したブリンカーを用いることによって実現した。
【0016】
なお、ブリンカーの用語は、信号機の用語として「明滅信号灯」の意味に使われる場合があるが、本発明に言うブリンカーとは、本来の「目隠し」の意味であって、「明滅信号灯」とは無関係である。
【実施例1】
【0017】
以下に本発明を鉄道用信号機に適用した場合の実施例を図によって説明する。図1、図2において、正面が開放された円形中空のケース1内には、LED2を搭載した基板3が収納設置されている。LED2を搭載したケース1は、発光ユニットUである。基板3上に搭載するLED2の配列は、特に限定されるものではないが、ケース1内の全体に分散させて縦横又は同心上に均等に密に配列されている。
【0018】
また、搭載するLEDの数は限定されるものではないが、視認距離600mを確保するに必要な光量が得られる数、通常の信号灯器では、発光光度3cdのLEDを用いた場合、約200個が組み込まれる。各LED2は、直列又は並列に結線して電源配線に結線するが、全LED2を少なくとも2組以上に分けて各組を並列接続して電源配線に結線すれば、仮に一つのLEDが断芯したときに、断芯したLEDが含まれる組の全てのLEDが発光不能となるが、他の組のLEDは点灯可能のため、信号現示不能の事態は避けることができる。
【0019】
本発明は、発光ユニットUの正面にブリンカー5を配置したものである。ブリンカー5は、発光ユニットUに実装された各LED2の実装位置にあわせて多数の小穴6を開口した一定厚みを有するボードであり、その表面は、透明カバー4で覆われる。図3にLED2とブリンカー5の小穴6との関係を示す。
【0020】
図3において、ブリンカー5の小穴6は、発光ユニットUに実装されたLED2の中心線O−O上の位置に開口され、その開口径は発光ユニットUの直径よりも小さい。例えば発光ユニットUに直径5mmのLEDが実装されているときには、ブリンカー5の小穴6の開口径は、5mm以下である。
【0021】
図4において、発光ユニットUの各LED2に対する小穴6の位置合せをして発光ユニットUにブリンカー5を重ね合わせ、ねじ8にて発光ユニットUにブリンカー5を一体に固着し、その組合せを灯器7の開口座に着座させ、内部よりユニット押え9にて灯器7に固定する。また、透明カバー4は、その周縁のフランジ部分4aをフード11とともにボルト10で共締めしてブリンカー5の正面を覆う。
【0022】
本発明の鉄道用信号機を3現示の多灯形色灯式信号機に構成するには、図示を略すがLEDには、それぞれの発光ユニットについて、赤,黄(橙黄),青緑発光のLEDを組込んで青緑,黄,赤色発光ユニットとし、青緑色発光ユニットを信号機の上段灯器に、黄色発光ユニットを中段灯器に、赤色発光ユニットを下段の灯器に組込む。
【0023】
本発明を適用した鉄道用信号機によれば、発光ユニットから照射される光の指向性が高いために、構築物の壁面や天井面を反射面として拡散光による目的外のレーンに対して誤認を生じるような信号現示が行われることがなく、したがって、トンネル内に設置されたときには、目的とするレーンのみに正確に信号現示が行われ、また、トンネル外に設置されたときには、近隣の構築物の影響を受けることなく、目的とするレーンのみに正確に信号現示ができる。
【0024】
図5において、LED2の中心線O−O上を直進する100%光量の範囲は、直径5mmのLEDの場合において、直径1mmの円形の範囲である。したがって、LEDの直進光を利用するには、理論上、小穴の直径が1mm以上、5mm以下でしかも小穴の直径が小さいほど指向性が高く、拡散光による反射の影響を減少できることになる。
【0025】
実験のため、ブリンカーとして、板厚10mm、20mmの2種類の板に、それぞれ小穴の直径1mm、2mm、3mmの3種類の穴をあけ、合計6種類のブリンカーを用意し、それぞれのブリンカーを直径5mmのLEDを用いた発光ユニットと組み合わせて視認試験を行ったところ、いずれのブリンカーも600mからの視認距離を確保できることがわかった。
【0026】
つまり、この実験によって、発光ユニットの正面をブリンカーでマスクすることによって、発光ユニットの全LEDから発せられる光の量は減少するものの、直径約1mmの円の範囲内でLED2の中心線O−O上を直進する光量そのものは何ら変化がなく、発光ユニットに直径5mmのLEDを用いたときに、ブリンカー5に開口する穴6の口径は、直径1mm以上直径5mm以下であれば、その口径は格別問題にはならないことがわかる。以上実施例は、本発明を鉄道用信号機に適用した例を説明したが、交通信号機にも全く同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の信号機は、鉄道用信号機として壁面や天井が反射面になりやすいトンネル内、あるいは近隣に反射面を構成するような構築物があるような鉄道線路の本線に設置して各レーンを進行する列車の運転手に対して信号現示を誤認させるような事態を防止でき、また側道と本線とが合流するような地点などに設置して本線の信号機を側線上を走行する列車から見えないようにすることができる。また、信号現示であるかのように誤って認識してしまう危険がある。また、交通信号機として道路上を走行する自動車の運転手に対して、信号現示の誤認を生じさせる危険をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の1実施例を示す発光ユニットとブリンカーとの組合せ例を示す図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】LEDとブリンカーの小穴との関係を示す図である。
【図4】発光ユニットとブリンカーとの組合せを灯器に組み込んだ例を示す図である。
【図5】LEDの直進光と、拡散光の光量の割合を示す図である。
【図6】LEDから発する光をレンズによって平行光に変える例を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 ケース
2 LED
3 基板
4 透明カバー
5 ブリンカー
6 小穴
7 灯器
8 ねじ
9 ユニット押え
10 ボルト
11 フード
U 発光ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光ユニットと、ブリンカーとの組合せを有する信号機であって、
発光ユニットは、ケースの基板上に実装された多数のLEDを有するものであり、
ブリンカーは、信号機の発光ユニットに実装された各LEDのそれぞれから発する拡散光をカットし、信号が指し示さないレーンを走行中の列車に対して誤った信号の現示を防止するものであることを特徴とする信号機。
【請求項2】
ブリンカーは、一定の板厚を有し、LEDの正面方向以外の拡散光をカットする口径に設定された小穴が開口されていることを特徴とする請求項1に記載の信号機。
【請求項3】
ブリンカーの小穴は、発光ユニットに実装された各LEDの中心線上の位置に開口されたものであることを特徴とする請求項2に記載の信号機。
【請求項4】
ブリンカーは、各LEDの正面にLEDの直径よりも小さい穴径を有する小穴を有し、
小穴は、信号機の発光ユニットに実装された各LEDの実装位置に対応して配置され、LEDの発する光のうち、小穴の内径の範囲内を通過する光以外の拡散光をカットするものであることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の信号機。
【請求項5】
ブリンカーに明けられた穴の内径の範囲内を通過するLEDの光量は、600mの視認距離を確保するものであることを特徴とする請求項2に記載の信号機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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