説明

信号発信装置

【課題】軽量・小型の装置で信号を発信し続けることができるようにして遭難報知用或いは動物トレーサー用としての有用な信号発信装置を提供する。
【解決手段】着衣1に取り付けられて着衣1側からの熱エネルギを受ける受熱面2aと、外気に接する外部露出面2bとを有し、受熱面2aと外部露出面2bとの温度差により発電する熱電素子を備えた熱電モジュール2と、熱電モジュール2にて発電した電力により信号を発する発信機12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遭難報知用或いは動物トレーサー用の信号発信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
雪山等で遭難が発生した場合に、遭難者が何らかの方法で遭難場所を人に知らせることができれば、直ちに最善の救難を図ることができて救出の可能性を高めることができるが、一般には遭難場所が判らないために救難作業が遅れたり、救難作業を講じることが全くできないといった場合が多く発生している。
【0003】
このような問題に対処するために、登山者に信号発信機を携帯させることは有効である。しかし、従来から一般に知られている信号発信機は、バッテリ(二次電池)又は乾電池(一次電池)等の電池で作動する構造となっているために、信号発信機を作動させようとしたときに電池容量が不足していたり、電池切れの場合には使用することができず、また、電池容量が残っていても、電池による信号の発信時間には限りがあり、比較的短い時間で電池容量が尽きて信号の発信が不能になってしまうという問題がある。
【0004】
一方、野生動物に首輪等を用いて信号発信機を取り付けておき、動物の行動を追跡調査することによって動物の生態等を調査するようにした動物トレーサー用の信号発信機が用いられている。
【0005】
上記動物トレーサー用の信号発信機では通常乾電池(一次電池)が用いられているが、この場合においても乾電池による信号の発信時間には限りがあるために比較的短い時間で電池容量が尽きて信号の発信が不能になってしまう問題があり、長期間に亘って動物の行動をトレースすることはできない。
【0006】
特許文献1には、ケースに、電池、ブザー、超小型の発信機、ライトと赤色カバー付き点滅灯等を収容してなる緊急救命用報知器が示されている。
【0007】
又、特許文献2には、腕時計に熱発電機を設け、裏蓋に熱発電機に体温を伝えるためのサファイヤを使用し、サファイヤは従来裏蓋に使用しているステンレスやチタンより熱伝導率が良いために、サファイヤによって人の体温を効率よく熱発電機に伝えられるようにした熱電式腕時計が示されている。
【特許文献1】特開平11−161864号公報
【特許文献2】特開平11−166985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1に示される緊急救命報知器においては、前記したように発信機を電池にて作動させるようにしているために、電池出力の寿命のために信号の発信時間に限りがあり、遭難時等のように長時間の発信が必要な場合に途中で信号が発信できなくなる場合がある。又、電池容量の残量が少ない場合や、電池切れの場合には全く使用できない場合がある。
【0009】
又、前記特許文献2の熱電式腕時計は、腕時計の電源として熱電式発電機を使用するようにしたものであるが、軽量・小型の構成で信号を発信し続けることができるようにした信号発信装置に関するものではない。
【0010】
又、特許文献1及び2には遭難報知用或いは動物トレーサー用としての信号発信装置については全く開示されていない。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなしたもので、軽量・小型の装置で信号を発信し続けることができ、よって遭難報知用或いは動物トレーサー用として有用な信号発信装置を提供することを目的としてなしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、担持体に取り付けられて担持体側からの熱エネルギーを受ける受熱面と、外気に接する外部露出面とを有し、前記受熱面と外部露出面との温度差により発電する熱電素子を備えた熱電モジュールと、該熱電モジュールにて発電した電力により信号を発する発信機と、を備えたことを特徴とする信号発信装置である。
【0013】
請求項2に係る発明は、前記担持体が着衣類であることを特徴とする請求項1に記載の信号発信装置である。
【0014】
請求項3に係る発明は、遭難報知用信号発信装置であることを特徴とする請求項1又は2に記載の信号発信装置である。
【0015】
請求項4に係る発明は、前記担持体がベルト類であることを特徴とする請求項1に記載の信号発信装置である。
【0016】
請求項5に係る発明は、動物トレーサー用発信装置であることを特徴とする請求項1又は4に記載の信号発信装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の信号発信装置は、熱電モジュールと発信機とを備えた着衣類の担持体を身体に装着する。又は、熱電モジュールと発信機とを備えたベルト類の担持体を動物の身体に装着する。すると、熱電モジュールの熱電素子は身体から発せられる熱エネルギーを受ける受熱面と外気に接する外部露出面との温度差によって発電し、熱電モジュールで発電した電力によって発信機は信号を発信するので、この発信機の信号により発信位置を知ることができる。熱電モジュールは身体からの熱エネルギーの伝達がある限り発電し続けるので、発信機は長期間に亘って発信位置を報知し続ける効果がある。
【0018】
又、軽量・小型の装置でしかも電源等を必要としないために、安価で携帯に適した実用性の高い信号発信装置を提供できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1は本発明を着衣類に適用した遭難報知用信号発信装置の形態の一例を示す切断側面図、図2は図1をII−II方向から見た平面図、図3は図2をIII−III方向から見た断面図である。図1〜図3中、1は例えば身体に装着する防寒用のパンツ或いはジャケット等の着衣(担持体)であり、該着衣1の例えば股部、脇腹、二の腕等の比較的動きの邪魔にならない位置に熱電モジュール2を取り付けている。
【0021】
熱電モジュール2は、図2に示す如く矩形形状を有する断熱材からなる枠材3の内部に、図3に示す如く複数のP型の熱電素子4aとN型の熱電素子4bとを交互に並べて、これら熱電素子4aと4bとが直列に導通するように、熱電素子4a,4bの着衣1内側(受熱側)となる一端部(図3の左側)同士が電極5(例えば銅)により順次電気的に接続されていると共に、着衣1外側(低温側)となる他端部(図3の右側)同士が電極6(例えば銅)により順次電気的に接続され、接続の両端に位置する電極5と電極6とに電力回収ライン7が接続されている。
【0022】
更に、電極5の受熱側と電極6の低温側には、夫々セラミック或いはプラスチック(耐熱エンジニアリングプラスチックPPs)等の薄い基板8が固定されている。前記電極5,6と基板8との接合には、例えばハンダ接着等が用いられる。
【0023】
前記熱電モジュール2の各熱電素子4a,4b、電極5,6及び基板8以外の部分には断熱材9が配置されている。
【0024】
そして、前記熱電モジュール2の内側である受熱面2aが着衣1の外面に接するように固定されている。熱電モジュール2を着衣1に固定する方法としては、熱電モジュール2の受熱面2aを着衣1の外面に当てた状態で、熱電モジュール2の枠材3の外周に設けた合成樹脂製或いは布製等の固定部材10を着衣に縫い付けること等にて固定できる。
【0025】
又、前記熱電モジュール2における外側(図3の右側)の基板8の外面には、伝熱性の高い部材(例えば銅等)により形成した冷却フィン11が邪魔にならない範囲で固定してあり、該冷却フィン11によって外部露出面2bが形成されている。従って、前記熱電モジュール2は、受熱面2aが着衣1内側の身体からの熱エネルギーを受け、外部露出面2bが冷却フィン11により外気と接して冷却されるので、受熱面2aと外部露出面2bとの間に温度差が生じ、この温度差によって各熱電素子4a,4bにより発電が行われるようになっている。
【0026】
前記熱電モジュール2が固定された着衣1の近傍位置には、発信機12が固定されている。この発信機12にはDC−DCコンバータ等が備えられていてもよい。発信機12は、外周に設けた合成樹脂製或いは布製等の固定部材13を着衣1に縫い付けること等によって固定される。そして、前記電極5,6に接続された電力回収ライン7が前記発信機12に接続されている。
【0027】
図4は、前記図1の形態において、着衣1の外面における前記熱電モジュール2を除く範囲に保温材14を設けることにより着衣を2重構造とした場合を示しており、これによって保温材14で保温された受熱面2a側と、大気に露出している外部露出面2bとの間の温度差を大きくとれるようにしている。
【0028】
図5は、前記着衣1への熱電モジュール2の取り付け方法の他の形態を示したもので、着衣1に熱電モジュール2の矩形の外径に合わせた大きさの開口15を形成し、この開口15に熱電モジュール2を嵌合配置して、熱電モジュール2を前記固定部材10により着衣1に固定している。この方法によると、熱電モジュール2の受熱面2aが着衣1の内側に露出することになるため、熱電モジュール2の受熱面2aに身体からの熱エネルギーが直接伝達されることになるので、受熱面2aと外部露出面2bとの間の温度差を更に大きくとることができる。
【0029】
尚、前記熱電モジュール2における熱電素子4a,4bの配置と接続には種々の方法を採用することができ、例えば図6に直流電流の流れを矢印で示すように、電流が一筆書き状に流れるように熱電素子4a,4bを接続することは狭いスペースにおいて発電電力を高められることから好ましい。
【0030】
以下、図1〜図6に示した形態の作用を説明する。
【0031】
図1〜図3に示す如く、熱電モジュール2と発信機12からなる遭難報知用発信装置を備えた着衣1(担持体)は、熱電モジュール2の受熱面2aが位置する内側が身体側となるように身体に装着する。
【0032】
すると、前記熱電モジュール2の受熱面2aが内側の身体からの熱エネルギーを受け、一方熱電モジュール2の外部露出面2bが冷却フィン11により外気と接して冷却されることにより、受熱面2aと外部露出面2bとの間に温度差が生じ、この温度差によって各熱電素子4a,4bが発電することにより熱電モジュール2から電力が出力される。この熱電モジュール2からの電力によって、発信機12は信号を発信するようになる。
【0033】
このとき、例えば、熱電モジュール2における受熱面2aの温度が30℃で外部露出面2bの温度が0℃の場合には30℃の温度差が生じるので、この温度差によって各熱電素子4a,4bは発電を行うことができ、例えば着衣1内側の受熱面2a近傍に簡易カイロ等の発熱体を備えていれば、更に大きな温度差を保持させることができる。発信機12は小電力(例えば100mW)で信号を発信することができるものであり、前記したように受熱面2aと外部露出面2bとの間に30℃前後の温度差があれば、熱電モジュール2は発信機12の発信に必要な電力を十分供給することができる。
【0034】
熱電モジュール2は身体からの熱エネルギーの伝達がある限り発電し続けることになるので、発信機12は長期間に亘り略永久的に信号を発信し続けることができ、よって遭難等の発生時に発信機12が遭難者の遭難位置を報知し続けることにより、遭難位置を特定した最善の救難対策を迅速に講じることができるようになる。
【0035】
尚、図4では、着衣1の外面における前記熱電モジュール2を除く範囲に保温材14を設けるようにしたので、熱電モジュール2の受熱面2aと外部露出面2bとの間の温度差を大きくとることができ、これにより熱電モジュール2による発電電力を高めることができる。又、図5では、着衣1に設けた開口15に熱電モジュール2を嵌合させて固定し、熱電モジュール2の受熱面2aが着衣1の内側に露出するようにしたので、熱電モジュール2の受熱面2aに身体からの熱エネルギーが直接伝達されることによって、受熱面2aと外部露出面2bとの間の温度差を更に大きくとることができ、これにより熱電モジュール2による発電電力を高めることができる。
【0036】
図7は、本発明をベルト類に適用した動物トレーサー用信号発信装置の形態の一例を示す切断側面図であり、図7中、16は例えば動物の首に装着する首輪等のベルト(担持体)であり、該ベルト16の外側に凹部17を形成することにより内側に薄肉部18を形成し、前記凹部17の薄肉部18の外面に熱導伝性両面テープ或いは熱導伝性接着剤等による固定材19により前記熱電モジュール2の受熱面2aを固定している。そして、前記ベルト16における熱電モジュール2の近傍位置に、前記発信機12を取り付けている。
【0037】
図8は、前記ベルト16に対する熱電モジュール2の取り付け方法の他の形態を示したもので、ベルト16に熱電モジュール2の矩形の外径に合わせた大きさの開口20を形成すると共に開口20の内側部外周に段部21を形成し、又、前記熱電モジュール2の受熱面2aに熱導伝性の高い材料からなる固定用部材22を固定し、前記熱電モジュール2をベルト16の内側から開口20に嵌合させると共にベルト16の段部21に固定用部材22を嵌合させて、固定用部材22の外周をボルト等の固定具23によりベルト16に固定している。
【0038】
又、図9は前記ベルト16に固定する熱電モジュール2の配置方法を示したもので、熱電モジュール2がベルト16の曲りを妨げないように、ベルト16の幅方向に延びた細長い形状の熱電モジュール2を、ベルト16の長手方向に所要の間隔で複数箇所に埋め込んで設けた場合を示している。
【0039】
以下、図7〜図9に示した形態の作用を説明する。
【0040】
図7、図8に示す如く、熱電モジュール2と発信機12からなる遭難報知用発信装置を備えたベルト16(担持体)は、熱電モジュール2の受熱面2aが位置する内側が動物の身体側となるように動物の首等に巻付けて装着する。
【0041】
すると、前記熱電モジュール2の受熱面2aが動物の身体からの熱エネルギーを受け、一方熱電モジュール2の外部露出面2bが冷却フィン11により外気と接して冷却されることにより、受熱面2aと外部露出面2bとの間に温度差が生じ、この温度差によって各熱電素子4a,4bが発電することにより熱電モジュール2から電力が出力される。この熱電モジュール2からの電力によって発信機12は信号を発信する。
【0042】
熱電モジュール2は動物の身体からの熱エネルギーの伝達がある限り発電し続けることになるので、発信機12は長期間に亘って略永久的に信号を発信し続けるようになる。従って、動物の行動を長期間に亘って追跡調査することが可能となり、動物の生態等の調査がより容易且つ確実に行われるようになる。
【0043】
又、前記したように、熱電モジュール2と発信機12からなる信号発信装置は、軽量・小型でありしかも電源等を必要としないために、安価で携帯に適しており、遭難報知用及び動物トレーサー用として好適に実施することができる。
【0044】
尚、本発明の信号発信装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明を着衣類に適用した遭難報知用信号発信装置の形態の一例を示す切断側面図である。
【図2】図1をII−II方向から見た平面図である。
【図3】図2をIII−III方向から見た断面図である。
【図4】着衣を2重構造とした場合の断面図である。
【図5】着衣に設けた開口に熱電モジュールを嵌合させて配置した場合を示す断面図である。
【図6】直流電流の流れが一筆書き状になるように熱電素子を配置した例を示す斜視図である。
【図7】本発明をベルト類に適用した動物トレーサー用信号発信装置の形態の一例を示す切断側面図である。
【図8】ベルトに設けた開口に熱電モジュールを嵌合させて配置した場合を示す断面図である。
【図9】ベルトの曲りを妨げないようにベルトに熱電モジュールを固定する場合の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1 着衣(担持体)
2 熱電モジュール
2a 受熱面
2b 外部露出面
4a,4b 熱電素子
12 発信機
16 ベルト(担持体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担持体に取り付けられて担持体側からの熱エネルギーを受ける受熱面と、外気に接する外部露出面とを有し、前記受熱面と外部露出面との温度差により発電する熱電素子を備えた熱電モジュールと、該熱電モジュールにて発電した電力により信号を発する発信機と、を備えたことを特徴とする信号発信装置。
【請求項2】
前記担持体が着衣類であることを特徴とする請求項1に記載の信号発信装置。
【請求項3】
遭難報知用信号発信装置であることを特徴とする請求項1又は2に記載の信号発信装置。
【請求項4】
前記担持体がベルト類であることを特徴とする請求項1に記載の信号発信装置。
【請求項5】
動物トレーサー用発信装置であることを特徴とする請求項1又は4に記載の信号発信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−67050(P2006−67050A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244717(P2004−244717)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】