説明

修飾されたE2タンパク質を含む組み換えブタコレラウイルス(CSFV)および前記組み換えCSFVを形成するための方法

発明は組み換えブタコレラウイルス(CSFV)に関する。好ましい組み換えCSFVはE2タンパク質の「TAVSPTTLR」ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸の欠失を含む。本発明は更に組み換えCSFVを含むワクチン、組み換えCSFVを形成するための方法、および組み換えCSFVの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動物疾患に関する。より具体的には、本発明は修飾されたE2タンパク質を含む組み換えブタコレラウイルス(CSFV)に関する。本発明はまた、感染動物を予防接種動物から区別可能とする前記組み換えCSFVを含むワクチン、および、前記組み換えCSFVを形成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタコレラウイルス(CSFV)はエンベローププラス鎖RNAウイルスであり、これはウシウィルス性下痢ウイルス(BVDV)およびボーダー病ウイルス(BDV)と共に、フラビウイルス科のファミリーのペスチウイルス属を含む(Pringle,1998.Arch Virol 143:203−10)。家畜化されたブタの群れにCSFVが伝染すると巨額の経済的損失が生じる場合がある(Terpstra and de Smit.2000.Vet Microbiol 77:3−15)。ウサギおよび細胞培養における反復継代により弱毒化されているCSFVウイルス、いわゆる「チャイニーズ」または「C」株による予防接種は、強毒性のCSFVに対抗する即効性で長寿命の免疫をもたらす。C株ウイルスは世界中で良好に使用されており、しばしば、これまで作成されたもののうちで最も効果的な獣医科用ワクチンと称される。しかしながらこのワクチンは感染と予防接種の動物の間の血清学的区別(DIVA)を可能にしない。このことは、予防接種集団中でCSF感染動物を検出することが不可能であることは重大な商取引上の制約をもたらす場合があるため、主要な難点となっている。
【0003】
この分野におけるCSFの診断は構造糖タンパク質ErnsまたはE2のいずれかに対して指向された抗体を検出するELISAにより実施できる。サブユニットワクチン(Hulstら、1993.J Virol 67:5435−42)から弱毒化生ワクチン(van Gennipら、2000.Vaccine 19:447−59;van Zijlら、1991.J Virol 65:2761−2765)およびレプリコン系ワクチン(van Gennipら、2002.Vaccine 20:1544−56;Widjojoatmodjoら、2000.J Virol 74:2973−2980)にまで渡る、適切なELISAを伴う場合DIVAの基準を満足できる数種の候補ワクチンが開発されている。
【0004】
CSFに対抗する市販のDIVAワクチンはErnsに対して指向された抗体を検出する血清学的な試験を伴っているバキュロウィルス産生E2に基づいている(Van Aarle,2003.Dev Biol Stand Basel 114:193−200)。このワクチンはCSFに対抗して保護を与えるが、免疫の発生および持続時間の両方の点においてC株ワクチンよりも有効性が低い(van Oirschot,2003.Vet Microbiol 96:367−84)。より重要なことは、このワクチンを伴っているErns ELISAはペスチウイルス属の他のメンバー(即ちBVDVおよびBDV)も検出する。従ってこれらの使用はこれらのウイルスが循環する領域においては推奨されない(2003/265/EC;SANCO/10809/2003)。
【0005】
更に、Erns ELISAの感度は個々の動物を診断するには不十分であることが以前よりわかっており、従って十分多数量の動物を用いた群れ基準でのみ使用しなければならない(Blomeら、2006.Rev Sci Tech 25:1025−38;Floegel−Niesmann,2003.Dev Biol(114:185−91))。このことは、一般的にはE2 ELISAはDIVAワクチンを伴う場合にはErns ELISAよりもはるかに好ましいことを説明している。
【0006】
E2タンパク質は2つの主要な抗原ドメイン、即ちB/CドメインおよびAドメインを含有する(van Rijnら、1993.J Gen Virol 74:2053−60;Wensvoort,1989.J Gen Virol 70:2865−76)。CSFVポリタンパク質のアミノ酸766と866の間に位置するドメインAは、サブドメインA1、A2およびA3に分割される(Wensvoort,1989.J Gen Virol 70:2865−76)。A1ドメインは中和抗体に対する優性な標的であるという事実にもかかわらず、これは進化の過程を通して保存されている。実際、この配列の保存および免疫優性は、E2 ELISAにおいてこれを優性標的としている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Pringle,1998.Arch Virol 143:203−10
【非特許文献2】Terpstra and de Smit.2000.Vet Microbiol 77:3−15
【非特許文献3】Hulstら、1993.J Virol 67:5435−42
【非特許文献4】van Gennipら、2000.Vaccine 19:447−59
【非特許文献5】van Zijlら、1991.J Virol 65:2761−2765
【非特許文献6】van Gennipら、2002.Vaccine 20:1544−56
【非特許文献7】Widjojoatmodjoら、2000.J Virol 74:2973−2980
【非特許文献8】Van Aarle,2003.Dev Biol Stand Basel 114:193−200
【非特許文献9】van Oirschot,2003.Vet Microbiol 96:367−84
【非特許文献10】2003/265/EC;SANCO/10809/2003
【非特許文献11】Blomeら、2006.Rev Sci Tech 25:1025−38
【非特許文献12】Floegel−Niesmann,2003.Dev Biol(114:185−91)
【非特許文献13】van Rijnら、1993.J Gen Virol 74:2053−60
【非特許文献14】Wensvoort,1989.J Gen Virol 70:2865−76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
CSFの爆発的発生は現在では検疫規制および被疑動物群の屠殺により制御されているが、将来のCSFの爆発的発生を制御するためにはより人間的でより経済的な介入策の実施が急務である。従って、頑健でCSFV特異的なELISAを伴ったDIVAワクチンが緊急に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は組み換えブタコレラウイルス(CSFV)であって、親CSFVポリタンパク質の829位から837位に相当するE2タンパク質の「TAVSPTTLR」ドメイン中に少なくとも1つのアミノ酸の欠失を含む上記ウイルスを提供する。
【0010】
ポリタンパク質とはウイルスRNAの翻訳時に形成される約4000アミノ酸の仮説的ポリタンパク質を意味する。前記ポリタンパク質はプロセシングにより最終切断産物NPro−C−Erns−El−E2−p7−NS2−NS3−NS4A−NS4B−NS5A−NS5Bとなる。
【0011】
CSFV E2タンパク質はアミノ酸配列TAVSPTTLR(CSFVポリタンパク質の残基829から837;アミノ酸に関する一文字コードを用いた場合)を含む最近発見されたエピトープを含有する(Linら、2000.J Virol 74:11619−25)。このエピトープはA1ドメインの全ての特徴的側面、即ち免疫優性であり、進化的に保存されており、CSFVに特異であり、中和抗体に対する標的であることを共有している。ペスチウイルスの異なる株に由来するE2タンパク質内でのTAVSPTTLRドメイン周囲の配列の比較によれば、配列TAVSPTTLRはCSFVの株内で強力に保存されており、BVDVおよびBDVの株内では高度に可変である(Linら、2000.J Virol 74:11619−25)。
【0012】
TAVSPTTLRドメインを認識するE2特異的ELISAで使用される抗体、特にモノクローナル抗体は、ペスチウイルス属の他のメンバーとは交差反応せず、そのため、これらの他のウイルスが循環する領域において使用できる。前記抗体は、E2タンパク質の前記ドメイン中に欠失を含む本発明の組み換えCSFVは認識しない。
【0013】
即ち、前記組み換えウイルスは、組み換えウイルスを感染させた動物を、野生型CSFVに感染した動物から、感染していない、および/または予防接種されていない動物から、区別可能とする。更に、前記組み換えウイルスの使用はこれらの動物の間で判別を行うためのペプチド系診断試験の使用を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は組み換えブタコレラウイルス(CSFV)であって、CSFVの「TAVSPTTLR」ドメインまたはこの等価物において少なくとも1つのアミノ酸の欠失を含む上記ウイルスを提供する。等価なドメインは、1つのアミノ酸が他のアミノ酸、例えば同じグループに属するアミノ酸で置き換えられた、即ち別の芳香族アミノ酸で置き換えられた芳香族アミノ酸、または別の脂肪族アミノ酸で置き換えられた脂肪族アミノ酸である、E2領域内部のドメインである。
【0015】
前記親ゲノムは好ましくはCSFV株、好ましくは天然に存在する、または組み換え弱毒化CSFV株から誘導された実質的に完全なウイルスゲノムを含む。親ゲノムという用語は核酸分子、例えばRNA分子および/またはこのcDNAコピーを含む。
【0016】
「少なくとも1つのアミノ酸の欠失」という用語は本説明において使用する場合、アミノ酸少なくとも1つの除去を意味する。「欠失」という用語はアミノ酸少なくとも1つの除去の後に同じ位置に別のアミノ酸少なくとも1つの挿入がある場合を包含しない。従って、「欠失」という用語は本明細書において使用する場合、アミノ酸の別のアミノ酸との置換を包含しない。
【0017】
前記組み換えcDNA分子は好ましくは実質的に完全な組み換えブタコレラウイルス(CSFV)ゲノムを含み、これにより、前記ゲノムはCSFVポリタンパク質の829位から837位に相当する保存された「TAVSPTTLR」ドメイン中に少なくとも1つのアミノ酸の欠失を含むE2タンパク質をコードする。「実質的に完全な」という用語は、前記ゲノムにより形成された前記ウイルスが適する細胞または細胞系統を感染させることができ、上記適する細胞または細胞系統中で再生できることを指す。「実質的に完全な」ウイルスゲノムは好ましくは複製コンピテントなゲノムである。より好ましくは、感染性で、複製コンピテントで、パッケージングコンピテントなウイルスゲノムである。更に好ましくは、組み換えブタコレラウイルス(CSFV)は「実質的に完全な」ウイルスゲノム、好ましくは複製コンピテントなゲノム、または、より好ましくは、感染性で、複製コンピテントで、パッケージングコンピテントなウイルスゲノムを含む。
【0018】
好ましい実施形態においては、本発明による組み換えCSFVのTAVSPTTLRドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸の欠失は、前記「TAVSPTTLR」ドメインの中央部プロリンの欠失を含む。
【0019】
プロリンは骨格窒素原子上に環化した側鎖を有する点において20種の一般的アミノ酸の中では独特である。これにより前記プロリンおよびプロリンに先行する残基のコンホーメーションが制約される。更に、プロリンはコンホーメーション「スイッチ」として作用することができ、これによりタンパク質の部分を代替コンホーメーション採用可能とすることができる。従って、TAVSPTTLRドメイン中の中央部プロリンの改変は、一次配列を変化させるのみならず、免疫原性のTAVSPTTLRドメインのコンホーメーションも変化させる。TAVSPTTLRドメインの中央部プロリンの欠失を含むE2タンパク質は、E2タンパク質内部の前記ドメインを認識する抗体により認識されない。
【0020】
更なる好ましい実施形態において、本発明による組み換えCSFVの改変されたE2タンパク質は前記TAVSPTTLRドメインからの少なくとも2つのアミノ酸の欠失を含む。2つのアミノ酸の欠失は、E2のTAVSPTTLRドメインからのそれぞれ、TA、AV、VS、SP、PT、TT、TLおよびLRの欠失を含む。2つのアミノ酸の最も好ましい欠失はTAVSPTTLRドメイン中の833から834位のPTの欠失である。
【0021】
更なる好ましい実施形態において、本発明による組み換えCSFVの改変されたE2タンパク質は、前記TAVSPTTLRドメインから少なくとも3つのアミノ酸、例えば3つのアミノ酸、4つのアミノ酸、5つのアミノ酸、6つのアミノ酸、7つのアミノ酸、8つのアミノ酸または9つのアミノ酸の欠失を含む。更に好ましいE2タンパク質はアミノ酸配列VSP、SPT、AVSP、またはSPTTLの欠失を含む。
【0022】
本発明は更に、親CSFVゲノムの少なくとも1つの更なる改変を含む本発明による組み換えCSFVを提供する。前記保存されたTAVSPTTLRドメイン中に欠失を含むウイルスは親ウイルスと比較して細胞を感染させることにおいてより低効率性であるか、および/または感染細胞中でより低効率に複製しており、その結果、親ウイルスと比較してより低いウイルス力価となっていた。保存されたTAVSPTTLRドメイン中の欠失を含むウイルスに感染した細胞の連続継代は、より効率的に感染するか、および/または細胞中で複製される救済されたウイルスをもたらしており、これにより、親ウイルスの力価に匹敵する力価がもたらされている。救済されたウイルスは保存されたTAVSPTTLRドメイン中の欠失を有するウイルスの適合性の損失を補償している親ゲノム中の更なる改変1つ以上を導入している。
【0023】
1つの実施形態において、前記少なくとも1つの更なる改変はウイルスのゲノムを変化させるがアミノ酸の改変はもたらさないサイレントな突然変異である。前記サイレントな突然変異はウイルスゲノムの非コーディング部分、またはウイルスゲノムのコーディング部分において、例えばNpro、C、Erns、E1および/またはE2をコードするウイルスゲノムの部分において、および/または、非構造タンパク質をコードする部分において、存在している。サイレントな突然変異はこれらのウイルスの形成の間のある時点において改変されたウイルスの適合性の回復に寄与していると考えられる。いかなる理論にも拘束されないが、例えばサイレントな突然変異は、前記サイレントな突然変異はウイルスゲノム核酸のコンホーメーションを改変するため、ウイルスゲノムの向上した安定性および/または向上した複製をもたらす。更に、前記サイレントな突然変異は向上したコドン使用をもたらす場合がある。好ましいサイレントな突然変異はERNS遺伝子の1549位のUからCへの改変により与えられる。
【0024】
更なる実施形態において、前記少なくとも1つの更なる改変はE2タンパク質と共にジスルフィド結合ヘテロ2量体に組み立てられることがわかっているE1タンパク質をコードする領域中にある。即ち、E2の保存されたTAVSPTTLRドメインにおける欠失は、少なくとも部分的には、E1タンパク質中の少なくとも1つのアミノ酸の改変により補償される。更なる実施形態において、前記少なくとも1つの更なる改変はNpro、C、ErnsまたはE2タンパク質をコードする領域中にある。前記少なくとも1つの更なる改変は好ましくはNpro、C、Erns、E1および/またはE2タンパク質をコードする領域から選択される異なる領域中、または、Npro、C、Erns、E1および/またはE2タンパク質をコードする1つの領域内部における、少なくとも2つの改変を含む。前記少なくとも2つの更なる改変は、好ましくは、少なくとも1つのサイレントな突然変異を含む。好ましいサイレントな突然変異はERNS遺伝子の1549位のUからCへの改変により与えられる。
【0025】
好ましい実施形態においては、前記少なくとも1つの更なる改変はE2タンパク質中の追加的N連結グリコシル化部位の導入をもたらす。E2タンパク質の追加的位置におけるN連結グリコシル化部位は明らかに、直接、または、炭水化物部分に対する係留部位としてのこの機能により、TAVSPTTLRエピトープ中の前記欠失により課せられた適合性の損失を補償している。好ましい実施形態においては前記N連結グリコシル化部位は例えば774位におけるDからNへの改変のような、アミノ酸位置772から778からのLFDGTNPドメインの改変により導入される。または、もしくは追加的に、N連結グリコシル化部位はE2タンパク質中の830位におけるAからNへの改変により導入される。
【0026】
前記更なる改変は好ましくは、Ernsタンパク質内部のV392をコードする1547位から1549位におけるコドン;E1タンパク質内部のE634をコードする2273位から2275位におけるコドン;E2タンパク質内部のD774をコードする2693位から2695位におけるコドン;および/またはE2タンパク質内部のV831をコードする2864位から2866位におけるコドンを改変する。記載した位置におけるコドンの前記改変はサイレントな突然変異を含むか、またはコードされたアミノ酸の改変を含む。好ましい少なくとも1つの更なる改変はグリシン(G)との831位におけるバリン(V)の置換を含む。
【0027】
別の好ましい実施形態においては、親ゲノムの前記少なくとも1つの更なる改変は789位におけるSからFへの置換および/または445位におけるAからTへの置換をもたらす。789位におけるセリンおよび445位におけるアラニンは全てのC株ウイルス中に存在し、家兎継代したCSFV株に関連しているのに対し、789位におけるフェニルアラニンおよび445位におけるスレオニンは強毒性CSFV株中で保存されている。C株ウイルスの履歴は十分解明されていないが、ウイルスは数百回ウサギにおいて継代されることにより弱毒化されていることが明らかであり、そのためには789位におけるSおよび445位におけるAが有利であり得る。789位におけるSからFへの改変および445位におけるAからTへの改変は同様にTAVSPTTLRエピトープ中の欠失を含むウイルスの増殖のために有利であるのに対し、これはTAVSPTTLRエピトープを含むウイルスにおいてはほぼ中立的となる。
【0028】
なお更なる好ましい実施形態において、本発明は833位におけるPの欠失およびサイレントな改変を含む組み換えCSFVを提供する。好ましいサイレントな改変はERNS遺伝子の1549位におけるUからCへの改変である。更に好ましい組み換えCSFVは833位におけるPの欠失および789位におけるSからFへの改変および/または445位におけるAからTへの改変;833位におけるPの欠失および774位におけるDからNへの改変、831位におけるVからGへの置換、および834位におけるTの欠失を、1549位におけるUからCへの改変に加えて、または加えることなく、含んでいる。最も好ましい組み換えCSFVは、E2タンパク質の「TAVSPTTLR」ドメインのそれぞれ833および834位のプロリンおよびスレオニンの欠失、E2タンパク質の1549位のUからCへの改変、634位のアスパラギン酸(D)とのグルタミン酸(E)の置換、774位のアスパラギン酸(N)とのアスパラギン酸(D)の置換、および、831位のグリシン(G)とのバリン(V)の置換を含む。
【0029】
更なる実施形態において、本発明は親CSFVポリタンパク質のE2における829位から837位の「TAVSPTTLR」ドメインにおける少なくとも1つのアミノ酸の改変を含み、これにより上記改変がTAVSPTTLRドメインにおける中央部プロリンからアスパラギンへの置換を含む、組み換えブタコレラウイルス(CSFV)を提供する。前記置換は改変されたE2タンパク質へのE2特異的モノクローナル抗体の結合を最小限化、または、更には阻害することがわかった。
【0030】
一次アミノ酸配列を変化させることとは別に、前記アスパラギンの導入は、グリコシル化コンセンサス配列[N−x−S/T]、ここで式中xはPまたはD以外のいずれかのアミノ酸を指すものを含むN連結グリコシル化部位の導入をもたらす(Kornfeld and Kornfeld,1985.Annu Rev Biochem 54:631−64)。ウイルスタンパク質のNグリコシル化は、免疫原性に関与していることが示唆されており、そのため、N連結グリコシル化の導入はウイルスタンパク質に対する細胞および抗体の応答の両方を制限することができる。即ち前記置換は前記組み換えウイルスを感染させた動物からの野生型ウイルスを感染させた動物の区別を可能にする前記組み換えウイルスを形成するために使用できる。
【0031】
1つの実施形態において、TAVSPTTLRドメインにおける中央部プロリンからアスパラギンへの置換を含む組み換えCSFVは、ゲノム内に少なくとも1つの更なる改変を含む。好ましい少なくとも1つの更なる改変はNpro、C、Erns、E1および/またはE2における、および/または非構造タンパク質をコードする部分における、追加的なNグリコシル化部位をもたらす。好ましい追加的なNグリコシル化はE2内部、例えばE2タンパク質のTAVSPTTLRドメイン内部、またはLFDGTNPエピトープ内部に存在する。
【0032】
更に好ましい少なくとも1つの更なる改変は、ウイルスゲノムの非コーディング部分、または、ウイルスゲノムのコーディング部分、例えばNpro、C、Erns、E1および/またはE2をコードするウイルスゲノムの部分、および/または非構造タンパク質をコードする部分に存在するサイレントな突然変異である。好ましいサイレントな突然変異はERNS遺伝子の1549位におけるUからCへの改変により与えられる。
【0033】
また更に好ましい少なくとも1つの更なる改変は、Npro、C、Erns、E1および/またはE2において、および/または、非構造タンパク質をコードする部分において、少なくとも1つのアミノ酸の改変を含む。前記少なくとも1つの更なる改変は好ましくは、ERNS遺伝子の1549位における例えばUからCへのサイレントな改変、789位におけるSからFへの改変、445位におけるAからTへの改変、774位におけるDからNへの改変、831位におけるVからGへの改変、および/または834位におけるTの欠失から選択される。更により好ましくは、前記少なくとも1つの更なる改変は、サイレントな突然変異、追加的Nグリコシル部位、および/またはアミノ酸改変から選択される少なくとも2つの更なる改変を、TAVSPTTLRドメインの中央部プロリンからアスパラギンへの置換に加えて含む。前記少なくとも2つの更なる改変は、Npro、C、Erns、E1、E2および非構造タンパク質から選択される同じタンパク質において、または異なるタンパク質において、存在する。前記少なくとも2つの更なる改変はNpro、C、Erns、E1およびE2から選択される同じタンパク質において、または異なるタンパク質において、存在することが好ましい。
【0034】
なお更なる実施形態において、本発明は組み換えブタコレラウイルス(CSFV)であって、親CSFVゲノムによりコードされるE2における829位から837位の「TAVSPTTLR」ドメインにおける少なくとも1つのアミノ酸の付加を含む上記ウイルスを提供する。前記挿入付加は、改変されたE2タンパク質へのE2特異的モノクローナル抗体の結合を最小限化、更には阻害することになる。「TAVSPTTLR」ドメインにおける少なくとも1つのアミノ酸の挿入は好ましくは、Npro、C、Erns、E1、E2および非構造タンパク質において、サイレントな突然変異、追加的Nグリコシル部位、および/またはアミノ酸改変、またはこの組み合わせから選択される少なくとも1つの更なる改変と、組み合わせられる。前記少なくとも1つの更なる改変は好ましくは、ERNS遺伝子の1549位における例えばUからCへのサイレントな改変、789位におけるSからFへの改変、445位におけるAからTへの改変、774位におけるDからNへの改変、および/または831位におけるVからGへの改変から選択される。
【0035】
本発明による組み換えCSFVの親ゲノムは好ましくは弱毒化されたCSFV株のゲノムである。
【0036】
弱毒化されたCSFV株は、RNase活性を有するタンパク質をコードするErns遺伝子の突然変異により(Mayerら、2003.Virus Res.98:105−16);CSFV強毒性株からのNproの欠失により(Mayerら、2004.Vaccine22:317−328);ErnsとE2における突然変異を組み合わせることにより(van Gennipら、2004.J.Virol,78:8812−8823);E1遺伝子の突然変異により(Risattiら、2005.Virology 343:116−127);並びにE2遺伝子の突然変異により(Risattiら、2007.Virology 364:371−82)、形成できる。
【0037】
好ましい弱毒化されたCSFV株は、3’末端非コーディング領域に挿入を含む。例えば、3’未翻訳領域中の12ヌクレオチドの挿入はCSFVの弱毒化をもたらす(Wangら、2008.Virology 374:390−8)。前記挿入は好ましくは5’−CUUUUUUCUUUUからなる12ヌクレオチドの配列を含む。
【0038】
最も好ましい親ゲノムはC(チャイニーズ)株のゲノムである。親ゲノムとして更により好ましいものは、ブタ腎臓細胞系統SK6の懸濁培養に適合されたC株ウイルスであるセジペスト(Cedipest)C株のゲノムである(Terpstraら、1990.Dtsch Tierarztl Wochenschr.97:77−9)。セジペスト株400から600TCID50を接種されたブタは、予防接種後7日および6ヶ月において、CSFVの強毒性株の100pigLD50より高値の攻撃に対して完全に保護される。従って、本発明はまたE2における829位から837位の改変された「TAVSPTTLR」ドメインをコードする組み換えブタコレラウイルス(CSFV)ゲノムのコピーを含むcDNA分子を提供する。前記cDNA分子は好ましくは本発明による実質的に完全な組み換え親CSFVウイルスゲノムを含み、これにより、前記親ゲノムはC(チャイニーズ)株から、またはより好ましくはセジペスト株から誘導される。好ましいcDNA分子は「TAVSPTTLR」ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸の欠失を含むE2タンパク質をコードする組み換えCSFVゲノムのコピーを含む。本発明はまた、前記改変された「TAVSPTTLR」ドメインを特異的に認識する抗体、好ましくはモノクローナル抗体を提供する。本発明は更に、前記改変された「TAVSPTTLR」ドメインを含むタンパク質をコードするコンストラクトに関する。本発明は更に、前記改変された「TAVSPTTLR」ドメインを含むタンパク質、および前記改変された「TAVSPTTLR」ドメインを含むペプチド、および例えばELISAのようなイムノアッセイにおける前記タンパク質またはペプチドの使用に関する。
【0039】
その他の態様において、本発明は本発明による組み換えCSFVを含む生CSFワクチンを提供する。
【0040】
本発明による組み換えCSFVを含むワクチン、即ち免疫活性な組成物は、生弱毒化ウイルスにより誘導される保護の急速な誘導および延長性を、E2タンパク質の重要な免疫優性エピトープであるE2の保存されたTAVSPTTLRドメインにおける欠失のような相違に基づく、予防接種動物と野生型のウイルスを感染させた動物との間の区別の可能性と組み合わせている。
【0041】
循環ウイルスレベルの顕著な低減および臨床症例の同時低減をもたらす数種のワクチンを開発している。例えばエンベロープ糖タンパク質E2に基づくCSFVに対するサブユニットワクチンを開発している。このサブユニットワクチンはERNSに対する抗体の検出に基づいて、予防接種ブタと感染ブタとの間の判別を可能にする(Van Aarle,2003.Dev Biol Stand(Basel)114:193−200)。しかしながら、ワクチンは免疫の発生と持続時間の両方に関してC株ワクチンより劣っている。より重要な点として、このワクチンを伴うErns ELISAはペスチウイルス属の他のメンバー(即ちBVDVおよびBDV)も検出する。従ってこれらの使用はこれらのウイルスが循環する領域においては推奨されない(2003/265/EC;SANCO/10809/2003)。
【0042】
更なるワクチンがいわゆるウィルスレプリコン粒子(VRP)により提供される。VRP粒子は、複製可能でありコードされたウイルスタンパク質を発現することができるが、ウイルス構造タンパク質をコードする遺伝子の少なくとも1つにおける欠失のために粒子形成のために必要とされる完全な情報を含有していない突然変異体のゲノムRNAを含有する。これらのウイルス粒子は非伝染性であり、従って安全なワクチンのための要件の1つを満足している。しかしながらE2遺伝子の部分的または完全な欠失を有するVRPは、高度に強毒性のCSFVによる致死的攻撃に対抗しては僅かに部分的な保護のみしか誘導しなかった(Maurerら、2005.Vaccine23:3318−28)。
【0043】
本発明は更に、本発明によるワクチンの有効量を動物に投与することを含む、CSFに対抗して上記動物を保護する方法を提供する。
【0044】
有効量とは、これを投与する個体において免疫学的応答を誘導することにより、ワクチンに対する分泌、細胞および/または抗体媒介の免疫応答を個体において発生させる、前記ワクチンの量として定義される。ワクチンに対する前記分泌、細胞および/または抗体媒介の免疫応答はまた、強毒性CSFV株による攻撃に対抗して効果的である。
【0045】
前記有効量は好ましくは経口、または口鼻または筋肉内に投与される。本発明による組み換えCSFVを含むブタコレラに対する免疫原性組成物は、好ましくは製薬上許容し得る担体と共に投与する。
【0046】
CSFに対抗して動物を保護する別の方法は、特に野生の雄ブタのような野生動物を保護するための餌ワクチンとしての本発明のワクチンの有効量を提供することを含む。
【0047】
効力のあるワクチンはウイルスの複製を防止することおよび/またはウイルスの伝染を低減することにより、臨床症状を低減または防止する。DIVA(感染動物を予防接種動物から区別する)という用語は、区別診断試験と連携して野生型ウイルスの突然変異体に基づいているワクチンおよびこの付随診断試験に関して使用される。この系は回復期の動物の血清学的発見を代償とすることなく感受性の動物集団の集団的予防接種を可能にする。
【0048】
本発明は更に血清学的試験において動物の血清を分析することを含む、CSFVに感染した動物を、非感染動物から、または本発明によるCSFワクチンを接種した動物から区別する方法を提供する。前記CSFVワクチンは本発明のTAVSPTTLRドメインの改変、より好ましくは、E2タンパク質における少なくとも1つの更なる改変、例えばアミノ酸位置772から778のLFDGTNPドメインにおける改変を含むことが好ましい。
【0049】
前記血清学的試験は好ましくは未損傷のTAVSPTTLRドメインを含むE2タンパク質を認識するモノクローナル抗体のような抗体1つ以上、および、CSFVによりコードされる更なるエピトープ、例えばE2タンパク質内部の更なるエピトープ、例えばLFDGTNPエピトープを認識するモノクローナル抗体のような抗体1つ以上を含む。
【0050】
好ましい実施形態においては、前記抗体の酵素結合免疫吸着試験(ELISA)は生存ブタにおけるCSFの診断を可能にする。好ましいELISAは、サンドイッチ型ELISAである。好ましいELISAはE2に基づいた競合的ELISA、例えばCeditest 2.0 ELISAである。改変されたLFDGTNPドメインの存在下または非存在下に、改変されたTAVSPTTLRドメインを含む突然変異体のE2タンパク質を有する動物の血清を予備インキュベートすることにより、前記改変されたTAVSPTTLRドメインおよび改変されたLFDGTNPドメインに対して指向された抗体に対する前記血清を枯渇させることができる。
【0051】
最も好ましいELISAはペプチド系のELISAであり、その場合、ペプチドはマイクロウェルの試験プレートに交差結合される。前記交差結合は好ましくは例えばポリL−リジンのようなアンカータンパク質を通じて実施される。交差結合ペプチドを使用するELISAは一般的には受動的にコーティングされたペプチドを使用するELISAと比較して、より感度が高い。手法は比較的簡素に実施され、組織培養施設を必要とせず、自動化に適しており、半日以内に結果が出る。一方でCSFVの野生種とワクチン株との間、他方でCSFVと他のペスチウイルスとの間で、区別を明確に行うモノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体を使用することができる。ペプチドは非特異的な交差反応性をブロックするために使用される。
【0052】
前記ペプチド系のELISAは好ましくは液相ペプチドELISA(lpELISA)である。CSFVに対抗する抗体の検出のための前記lp−ELISAにおいては、被験血清を修飾CSFVペプチドと非相同対照ペプチド、例えばBVDVペプチドの混合物と共にインキュベートする。前記修飾されたCSFVペプチドは好ましくはビオチニル化されているのに対し、対照ペプチドはビオチニル化されていない。CSFV特異的抗体は前記CSFVペプチドに結合することになり、前記修飾を通じて、例えばビオチニル化されたCSFVペプチドのアビジンまたはストレプトアビジンへの結合により、捕獲される。修飾されたCSFVペプチドと複合体化された抗体を検出することができ、例えば、複合体化されたブタ抗体は、抗ブタパーオキシダーゼコンジュゲートおよびその後の適切な基質とのインキュベーションにより検出される。
【0053】
野生種CSFVに感染しているか、本発明の組み換えウイルスで予防接種されている動物の区別のための代替の試験は、蛍光抗体試験(FAT)および逆転写酵素とその後の例えばポリメラーゼ連鎖反応によるcDNA複製、および増幅されたDNAの配列の分析により、与えられる。FATはCSFVに感染している疑いのある、または、本発明によるワクチンを予防接種されているブタから単離した扁桃、脾臓、腎臓、リンパ節または回腸遠位部分の低温切片においてCSFV抗原を検出するために使用される。代替の試験法においては、CSFVは例えば野生種のCSFVに感染しているか感染の疑いのある動物の扁桃から単離され、PK−15細胞と共にインキュベートされる。その後、複製したウイルスを、PK−15細胞中で野生種のウイルスと本発明の組み換えウイルスとを区別する抗体を用いながら、検出する。
【0054】
更なる好ましい血清学的試験は、前記血清が未損傷のTAVSPTTLRドメインを含むE2タンパク質に対抗して指向された抗体の結合を阻害する抗体を含むか、または、前記血清が改変されたTAVSPTTLRドメインを含むE2タンパク質に対抗して指向された抗体の結合を阻害する抗体を含むかを調べるための競合的ELISAを含む。
【0055】
なお更に好ましい血清学的試験は、本発明による改変されたTAVSPTTLRドメインを含むE2タンパク質を特異的に認識する1つ以上の抗体、好ましくはモノクローナル抗体を含む。よりいっそう好ましい実施形態において、前記血清学的試験は、本発明による改変されたTAVSPTTLRドメインおよび前記E2タンパク質の更なる改変された免疫原性ドメインを含むE2タンパク質を特異的に認識するモノクローナル抗体のような抗体1つ以上を含む。前記マーカーワクチンは動物への予防接種の後の判別抗体の信頼性の高い誘導および検出(感度および特異性)を必要とする。前記判別抗体の存在は、好ましくは蛍光抗体ウイルス中和試験、中和パーオキシダーゼ結合試験、および抗体ELISAから選択される、上記血清学的試験により検出される。
【0056】
本発明は更に、感染した動物を予防接種された動物から区別することができるようにするマーカーワクチン中で使用できる感染性組み換えウイルスを単離するための方法を提供し、方法は、前記ウイルスによりコードされ、ウイルスの少なくとも90%において、好ましくはウイルスの少なくとも95%において、より好ましくはウイルスの少なくとも99%において、保存されているタンパク質の免疫優性ドメインを選択する工程;前記免疫優性ドメインをコードする前記ウイルスのゲノム領域中に、改変、好ましくは欠失を導入することにより、例えば出発ウイルスを形成する工程;改変されたゲノムを適する細胞または細胞系統に接触させる工程;適する細胞または細胞系統を継代することによりウイルスの増殖を可能にする工程;および、出発ウイルスの適合性の損失を補償するゲノム中の1つ以上の更なる改変を含む上記適する細胞または細胞系統から感染性ウイルスを単離する工程、を含む。
【0057】
タンパク質の保存された免疫優性ドメイン中の前記改変は、野生型の免疫優性ドメインを発現するウイルスを改変された免疫優性ドメインを発現するウイルスから判別する、モノクローナルおよびポリクローナル抗体のような抗体の形成を可能にする。従って、本発明はまた、前記改変され保存された免疫優性ドメインを特異的に認識する抗体、好ましくはモノクローナル抗体を提供する。
【0058】
本発明は更に、前記改変され保存された免疫優性ドメインを含むタンパク質をコードするコンストラクトに関する。本発明は更に前記改変され保存された免疫優性ドメインを含むタンパク質、および、前記改変され保存された免疫優性ドメインを含むペプチドに関する。
【0059】
保存された免疫優性ドメイン中に改変を含むワクチンは更に、未改変の免疫優性ドメインを認識する予防接種された個体における抗体の形成を誘導しない。前記未改変の保存された免疫優性ドメインを認識することを指向する診断試験は、野生型免疫優性ドメインを発現するウイルスに感染した動物を、予防接種した動物から判別することを可能にする。
【0060】
保存された免疫優性ドメインの前記改変は、野生型ウイルスと比較して細胞を感染させることにおいてより低効率性であるか、および/または感染細胞中でより低効率に複製するウイルスをもたらす場合がある。感染した細胞または細胞系統の継代を行うことは、ウイルスを救済する1つ以上の第2の部位のゲノム改変の導入を可能とする。前記救済されたウイルスは、改変されたウイルスと比較してより効率的に感染し、および/または細胞中で複製するか、または保存された免疫優性ドメインの改変に相関する別の不都合に拮抗している。従って救済されたウイルスは保存された免疫優性ドメイン中の改変により導入された適合性の損失を補償する親ゲノムにおける1つ以上の更なる改変を含む。本発明による方法の更なる利点は、親ゲノム中の追加的な1つ以上の更なる改変が、親の免疫優性ドメインを含む復帰変異株のウイルスの形成を阻止する点である。
【0061】
本発明による好ましい方法において、ゲノム領域中の前記改変は少なくとも1つのアミノ酸の欠失をもたらす。少なくとも1つのアミノ酸、例えば1つのアミノ酸、2つのアミノ酸、3つのアミノ酸、または3つより多いアミノ酸の欠失は、親の免疫優性ドメインを含む復帰変異株ウイルスの形成を更に阻止することになる。
【0062】
本発明による更なる好ましい方法においては、少なくとも1つのアミノ酸の欠失は、親ウイルスのゲノムにおける少なくとも1つの更なる改変と組み合わせられる。前記少なくとも1つの更なる改変により、出発ウイルスの感染細胞または細胞系統の継代は、少なくとも1つのアミノ酸の前記欠失が前記細胞または細胞系統中のウイルスの複製にとって有害である場合には、可能となる。前記少なくとも1つの更なる改変の導入はある程度までは出発ウイルスの適合性を回復させ、出発ウイルスが前記細胞または細胞系統中で複製可能となる。
【0063】
好ましい実施形態においては、前記ウイルスは負鎖RNAウイルス、例えば狂犬病ウイルスおよびニューカッスル病ウイルス、および正鎖RNAウイルス、例えばフラビウイルス科、好ましくはペスチウイルス、例えばウシウィルス性下痢ウイルス、ボーダー病ウイルス、およびCSFVから選択される。本発明の方法のために最も好ましいウイルスはCSFVである。
【0064】
本発明は更に本発明の方法により得ることができる感染性組み換えウイルス、好ましくはCSFVを提供する。
【0065】
本発明はまた、本発明の方法により得ることができる感染性組み換えウイルス、好ましくはCSFVの使用、例えば1匹以上の動物に予防接種することにより前記動物を強毒性野生種ウイルスによる感染に対抗して保護するためのワクチンにおける使用を提供する。
【0066】
ワクチンの前記使用は、感染動物を非感染動物または予防接種動物から区別できるようにする。
【0067】
効力のあるマーカーワクチンの主要な利点は、これが予防接種ブタ集団中の感染ブタの検出を可能にし、これによりブタ集団におけるCSFVの蔓延または再伝播をモニタリングする可能性を付与する点である。即ち、予防接種ブタ集団が検査室試験結果に基づいてCSF非含有であることをある程度の信頼性をもって宣言できるようになる。
【0068】
後者は生存ブタまたはブタ製品の輸出のための制限期間を短縮することができる。商取引の迅速な続行の経済的利点は明らかであり、従って、いずれかのマーカーワクチンの使用に緊密に関連している。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】E2における導入された適応突然変異。 研究中の組み換えウイルスの772位から791位および823位から842位のアミノ酸の比較。 導入されたアミノ酸置換は太字で示し、適応突然変異は太字斜体で示す。 TAVSPTTLRおよびLFDGTNPエピトープは枠内に表示。 ++;ウイルスは救済され、生育はvFlc34(野生型)のものに匹敵していた。+;vFlc34と比較して減損した生育のウイルス。+:ウイルスは数回の継代の後に培養基から消失していた。−;ウイルスは検出されなかった。nd;測定せず。 新たに導入されたAAUコドンの1つはウイルスの増殖中に欠失した。
【図2】vFlc34(野生型C株)、C株グリコシル化突然変異vFlc−N1およびvFlc−N2およびC株欠失突然変異体vFlc−ΔPおよびvFlc−ΔPTa1のインビトロの生育特性。SK6.T7単層を感染させ、メチルセルロースを含有する生育培地で被覆し、4日間37℃でインキュベートした。単層を4%パラホルムアルデヒドで固定し、パーオキシダーゼコンジュゲートmAb WB103で免疫染色した。
【図3】(A)ウイルスvFlc34(◇)、vFlc−N1(□)、vFlc−N2(○)、および(B)vFlc34(◇)、vFlc−ΔP(×)およびvFlc−ΔPTa1(Δ)の多段階生育曲線。SK6.T7細胞は0.1の感染多重度で感染させた。
【図4】未感染(擬似検体)、またはvFlc34、vFlc−N1またはvFlc−N2をそれぞれ感染させたSK6.T7細胞の溶解物、およびPNGase F処理後の同試料を含有する変性PAGEゲルのウエスタンブロット。タンパク質はmAb C2および二次抗体としてのパーオキシダーゼコンジュゲートウサギ抗マウス免疫グロブリンにより検出した。オリゴマー(O)、単量体(M)およびPNGase F−処理単量体(M)の位置を示す。分子量標準物質タンパク質の位置は左側に示す。
【図5】vFlc−34(A)、vFlc−N1(B)、またはvFlc−ΔP(C)により誘導された、それぞれCeditest 2.0 E2 ELISA(▲)およびCHEKIT Erns ELISA(□)によるE2およびERNS抗体の応答の分析。記載した数値は平均(n=4)および標準偏差である。
【図6−1】左パネル:vFlc34(ウサギ1.1(A)および1.2(B))またはvFlc−ΔPTa1(ウサギ2.1(C)、2.2(D)および2.3(E))により誘導された、それぞれCeditest 2.0 E2 ELISA(▲)およびCHEKIT Erns ELISA(□)によるE2およびERNS抗体の応答の分析。右パネル:PEPSCAN分析による第36日において得られたウサギ抗血清の分析。162ペプチドとのウサギ抗血清の反応性(x軸)を示す。X軸上の数字はCSFVポリペプチド中のペプチドN末端の位置に相当する。y軸はODccd値を示す。
【図6−2】左パネル:vFlc34(ウサギ1.1(A)および1.2(B))またはvFlc−ΔPTa1(ウサギ2.1(C)、2.2(D)および2.3(E))により誘導された、それぞれCeditest 2.0 E2 ELISA(▲)およびCHEKIT Erns ELISA(□)によるE2およびERNS抗体の応答の分析。右パネル:PEPSCAN分析による第36日において得られたウサギ抗血清の分析。162ペプチドとのウサギ抗血清の反応性(x軸)を示す。X軸上の数字はCSFVポリペプチド中のペプチドN末端の位置に相当する。y軸はODccd値を示す。
【図6−3】TAVSPTTLRエピトープとのvFlc34(F)またはvFlc−ΔPTa1(G)に対して育成したウサギ抗血清由来の抗体の反応性の比較。X軸上の数字はCSFVポリペプチド中のペプチドN末端の位置に相当する。y軸はODccd値を示す。
【図7】CSFV C株E2タンパク質の外ドメインの抗原構造の案(Van Rijnら、1994.J Virol 68:3934−42から変更)。抗原ドメインB/CおよびAを示す。テキスト中で言及しているPNGSの位置は矢印で示す。これらの突然変異体において、記載したアミノ酸はAsn残基に置換されている。正規のN連結グリカンは実線で描画し、新たに導入された(推定)N連結グリカンは破線で描画する。ネイティブのE2構造中で共局在していると予測されるE2の位置は陰影部分である。B細胞エピトープ829TAVSPTTLR837および772LFDGTNP778は太字で示す。
【図8】vFlc34(A;ブタ番号3166から3170)、vFlc−ΔPTa1(B;ブタ番号3171から3175)を予防接種したブタ、または、培養基のみを接種したブタ(C;ブタ番号3176から3178)の体温(黒符号)および臨床数値(CS;白符号)。ブタには第28日に強毒性のブレシア株で攻撃した。発熱は40℃超の体温として定義した(破線)。
【図9】高度に強毒性のブレシア株の致死量で攻撃したブタから得られた末梢血中の末梢血白血球(A)および血小板(B)計数値。攻撃28日前において、ブタに培養基のみを接種するか、またはvFlc34(ブタ番号3166から3170)またはvFlc−ΔPTa1(ブタ番号3171から3175)を1回予防接種した。
【図10】vFlc34またはvFlc−ΔPTa1を予防接種し、その後強毒性ブレシア株で攻撃したブタにおいて誘導された抗体応答の分析。PrioCHECK CSFV Ab2.0 E2 ELISA(A)およびCHEKIT Erns ELISA(B)を用いて抗体応答を分析した。40%または50%を超えるブロッキングをもたらした血清を、それぞれE2 ELISAおよびErns ELISAにおいて、CSFV抗体に関して陽性とみなす。ブタは第0日にvFlc34(ブタ番号3166から3170;破線)またはvFlc−ΔPTa1(ブタ番号3171から3175;実線)を予防接種し、第28日に攻撃した(矢印)。
【0070】
実施例
【実施例1】
【0071】
材料および方法
ウイルスおよび細胞。T7 RNAポリメラーゼ(SK6.T7)を構成的に発現するブタ腎細胞(van Gennipら、1999.J Virol Methods 78:117−28)をグルタミン(0.3mg/ml、Gibco)、5%ウシ胎児血清および抗生物質ペニシリン(100U/ml、Gibco)、ストレプトマイシン(100U/ml、Gibco)、アンホテリシンB(2.5μg/ml、Gibco)および適宜、10mM2塩酸L−ヒスチジノール(Sigma)を添加したK1000培地中で生育させた。特段の記載が無い限り、ウイルス保存液は、SK6.T7細胞上で3から4回ウイルスを継代し、その後、感染単層の2回連続凍結/解凍サイクルを行うことにより作成した。後者は強度に細胞会合性であるC株ウイルスの放出を最大限とするために実施した。ウイルス保存液はlog10希釈でSK6.T7細胞上で力価検定し、TCID50/mlとして求めた。
【0072】
C株突然変異体の構築。T7プロモーター制御下の「セジペスト」CSFV C株のDNAコピーを含有するプラスミドpPRK−flc34を部位指向性突然変異誘発により突然変異を導入するための鋳型として使用した。C株ウイルスの以前に公開されたDNAコピー、即ちpPRKflc−133((Moormannら、1996.J Virol 70:763−70)はゲノムの3’末端の−10位におけるシトシンを欠いていることがわかった。pPRK−flc34において、このエラーを補正する。プライマーは表1に示す。フォワードプライマーの名称は構築された組み換えウイルスの名称に相当する。プライマーRV−rを各構築のためのリバースプライマーとして使用した。PCR増幅は、エキスパンドハイフィディリティーPCRシステム(Roche)を用いて実施した。PCR産物は製造元(Promega)の説明書に従ってpGEM−T Easyベクター内にクローニングし、ABI PRISM310遺伝子分析器(Applied Biosystems)を用いて配列決定した。PCR産物はApaLIで消化することによりpGEM−Tプラスミドから遊離させ、C株ウイルスの5’側半分をコードするcDNAを含有するpOK12−誘導プラスミドであるプラスミドpPRc129の相当するゲノムフラグメントを置き換えるために使用した。その後pPRc129プラスミドをNotIおよびSalIで消化し、得られたフラグメントは、プラスミドpPRK−flc34の相当するセグメントを置き換えるために使用し、これによりプラスミドpFlc−Nl、pFlc−N2、pFlc−N3、pFlc−N4、pFlc−N5、pFlc−ΔP、pFlc−ΔPT、pFlc−ΔSP、pFlc−ΔSPT、pFlc−ΔVSP、pFlc−ΔAVSPおよびpFlc−ΔSPTTLを得た。
【0073】
C株突然変異体のウイルス生産。完全長cDNAクローンを含有するプラスミドをXbaIで線状化し、以前に記載されている通りSK6.T7細胞にトランスフェクトした(van Gennipら、1999.J Virol Methods 78:117−28)。トランスフェクションの4日後、ウイルスタンパク質の発現を、CSFV非構造タンパク質NS3に対して指向されたmAb WB103を用いながらイムノパーオキシダーゼ単層試験(IPMA)により測定した(Edwardsら、1991.Vet Microbiol 29:101−8)。別のウェルに由来する細胞をトリプシン処理し、25cmの組織培養フラスコに移し、3から4日間生育させた。必要に応じて、細胞を反復して継代することにより、ウイルスの生育を支援した。単層を凍結解凍し、遠心分離することにより細胞破砕物を除去し、その後、−70℃で保存した。清澄化した溶解物を用いながら、新しいSK6.T7細胞を感染し、次いで4日後に採取することによりワクチン候補のシードロットを調製した。ウイルスの生育は常時、SK6.T7細胞上で実施した。本明細書に記載したウイルスはSK6細胞上でも正常に複製するが、SK6.T7細胞を用いた場合のほうが、生産収率がより正確な再現性を示した。
【0074】
救済されたウイルスの生育動態を研究するために、25cmの組織培養フラスコ中のサブコンフルエントな単層を0.1の感染多重度で感染させた。感染24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、120時間後、144時間後および168時間に、細胞溶解物中のウイルス力価を測定した。材料を2回凍結解凍し、4℃で2500×gで遠心分離することにより清澄化し、−70℃で保存した。ウイルス力価(logTCID50/ml)をSK6.T7細胞上で求めた。救済されたウイルスのE2遺伝子を配列決定した。適宜、キャプシド(C)、ERNSおよびE1タンパク質(即ち構造タンパク質)をコードする遺伝子も配列決定した。この目的のため、ウイルスRNAをHigh Pure全RNA単離キット(Roche)を用いながら単離し、Superscript First−Strand Synthesisシステム(Invitrogen)および遺伝子特異的プライマーを用いながらcDNA合成のために使用した。cDNAは上記した通り配列決定した。
【0075】
ウエスタンブロット。感染SK6.T7細胞の溶解物を25cmの組織培養フラスコ中に生育させたコンフルエントな単層から調製した。この目的のために、細胞は1%Nonidet P40(BDH)およびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Complete,Roche)を含有する0.5mlのリン酸塩緩衝食塩水(PBS)中で溶解させた。細胞破砕物を4℃で10,000×gで4分間遠心分離することにより除去した。タンパク質は12%ポリアクリルアミドゲル(NuPAGEシステム、Invitrogen)中で分離し、そしてその後、ニトロセルロース紙(Protran,Schleicher and Schuell)に移行させた。0.05%Tween−20および1%Protifar(Nutricia)を含有するPBSでブロッキング後、ブロットをE2のB/Cドメインに対して指向されたC株特異的mAb C2(Bognar and Meszaros,1963.Acta Vet Acad Sci Hung 13:429−438)、次にパーオキシダーゼコンジュゲートウサギ抗マウス免疫グロブリン(DAKO)と共にインキュベートした。パーオキシダーゼ活性はStorm 860分子画像化装置(GE Healthcare)を用いながら増強ケミルミネセンスシステム(ECL Plus,GE Healthcare)で検出した。
【0076】
イムノパーオキシダーゼ単層試験(IPMA)。単層をD−PBS(Gibco)で洗浄し、風乾し、−20℃で凍結した。単層をパラホルムアルデヒド(PBS中4%w/v)で15分間固定し、その後PBSで洗浄した。パーオキシダーゼコンジュゲートAドメイン特異的mAbであるb2、b3、b4、b7(Wensvoortら、1989.J Gen Virol 70:2865−76)、c1、c4、c8、c11(Bognar and Meszaros,1963.Acta Vet Acad Sci Hung 13:429−438)およびCeditest 2.0 ELISAで使用するmAb、即ちmAb 18.4を0.05%Tween−80および5%ウマ血清を含有するPBS中(PBS−T)で使用した。1時間37℃でインキュベートした後、プレートを3回PBS−Tで洗浄し、その後パーオキシダーゼの活性を基質として3−アミノ−9−エチル−カルバゾール(AEC、Sigma)を用いながら検出した。
【0077】
ウサギの接種。約2kgのニュージーランド白ウサギを2匹から4匹の群で飼育した。体温は接種の3日前から5日後まで毎日モニタリングした。ウサギの正常体温は38.5から40.1℃である。従って、発熱は40.1℃を超える体温として定義した。ウサギはウイルス10 TCID50を含有する生育培地200μlで耳辺縁静脈を介して接種した。7日毎に、血清を採集した。ウイルス単離のために使用するべきEDTA血液の接種4日後に採集した。
【0078】
ウイルス単離。末梢血白血球(PBL)をEDTA血液試料から、記載(Terpstra and Wensvoort,1988.Vet Microbiol 16:123−8)に従って塩化アンモニウム沈殿(0.83%NHCl)により濃縮した。PBLをPBSに再懸濁し、−70℃で凍結した。翌日、サブコンフルエントのSK6.T7細胞単層を1時間凍結解凍したPBLの懸濁液と共にインキュベートし、その後懸濁液を新しい生育培地に交換し、その後4日間インキュベートした。配列分析のために十分なウイルスを生産するために、救済されたウイルスをSK6.T7細胞上で数回継代した。
【0079】
PEPSCAN分析。CSFVポリタンパク質のアミノ酸690から851に渡るCSFV株ブレシアE2タンパク質から誘導されたオーバーラップ15アミノ酸長ペプチドの完全なセットを以前に記載されている通り(Geysenら、1984.Proc Natl Acad Sci USA 81:3998−4002)クレジットカードフォーマットminiPEPSCANカード中で合成した。各ペプチドへの血清由来抗体の結合はSlootstraらの記載の通りpinに基づいてELISAにおいて試験した(Slootstraら、1996.Mol Divers 1:87−96)。
【0080】
結果
新たに導入された潜在的N連結グリコシル化部位(PNGS)を有するC株突然変異体の生産および特性化。TAVSPTTLRエピトープ中の新たに導入された潜在的N連結グリコシル化部位を有する突然変異体C株ウイルスをコードする完全長cDNAコンストラクト(図1)は、T7プロモーター制御下のpPRK−flc34、即ち「セジペスト」C株のcDNAクローンの遺伝子修飾により構築した。N連結グリコシル化のための最低条件は、アミノ酸配列アスパラギン(Asn)−X−スレオニン(Thr)またはセリン(Ser)の存在であり、ここでXはProとアスパルテート(Asp)を除くいずれかのアミノ酸であることができる(Kornfeld and Kornfeld,1985.Annu Rev Biochem 54:631−64)。突然変異体ウイルスvFlc−N1は単一の新たに導入されたPNGSを含有するのに対し、突然変異体vFlc−N2、vFlc−N3、vFlc−N4およびvFlc−N5は多数を含有する(図1)。vFlc−N5ウイルスにおいて、TAVSPTTLRエピトープの中央部のPro残基(Pro833)は2つのAsn(N)残基と置換されており、2つのオーバーラップするPNGSをもたらしている(即ちNNTT)。
【0081】
組み換えウイルスを生産するために、線状化されたプラスミドを、T7 RNAポリメラーゼを構成的に発現するSK6.T7細胞内にトランスフェクトした。トランスフェクションの4日後、全例において、培養基中の感染性ウイルスの存在が新しいSK6−T7細胞の感染により明らかにされた。しかしながら、ウイルスの適合性における大きな相違が観察された。vFlc−N1の感染巣はvFlc34のものよりも幾分小型であった(図2)が、多段階生育曲線によればこれらの2種のウイルスの適合性には有意差はなかった(図3A)。ウイルスvFlc−N2は明確により弱毒化しており、かなり小型の病巣およびより低値の最終力価をもたらした(それぞれ図2および図3A)。pFlc−N3またはpFlc−N4でトランスフェクトした細胞の上澄みに由来するウイルスを1回または2回継代したが、最終的には消失した。突然変異によりこれ自体の適合性を増大させる機会を有するウイルスを得るために、これらのウイルスを含有する細胞を反復して継代した。しかしながら残念にも、陽性染色された細胞の数はこれらの継代の間に増大せず、適合性補償突然変異が導入されなかったことを示唆していた。
【0082】
興味深いことに、pFlc−N5から生産されたウイルス(図1)はトランスフェクトした細胞の僅か数回の継代の後に救済されており、最終的には10TCID50/mlの力価をもたらした。このウイルスのE2遺伝子を配列決定したところ、未変化であることがわかった。vFlc−N5をより大量に生産するために、ウイルスを用いて新しいSK6.T7細胞を感染させた。これによりvFlc34の通常得られるものと同様の力価が実際に得られたが(データ示さず)、コンセンサス配列は、ウイルスは2つの新たに導入されたAsn残基の一方を損失しており、このため、vFlc−N1と本質的に同一であったことを示していた。この所見は、TAVSPTTLRエピトープ中の第2のAsn残基が感染プロセスのある段階においてウイルスに対して有害であることを示唆している。結果として、ウイルスvFlc−N1およびvFlc−N2のみがその後の研究に適していると考えられた。
【0083】
DIVAワクチンとして適しているためには、ワクチン候補はAドメイン特異的抗体をインビボで誘導不可能でなければならない。しかしながら、現在の候補中に導入された修飾がAドメインの抗原性の構造に影響したかどうかに関する第1の考えを得るために、本発明者らは組み換えウイルスが本発明者らのAドメイン特異的mAbのいずれかによりIPMA中で認識されるかどうかを調べた。使用したAドメイン特異的mAbはCSFV株ブレシア(即ちmAb b2、b3、b4、b7)またはC株(即ちc1、c4、c8およびc11)のいずれかに対して育成した。Ceditest 2.0 ELISAにおいて使用したmAb、即ちmAb18.4をこれらの実験に使用した。本発明者らの抗体の一部は野生型C株を弱く染色したのみであったため、突然変異体C株ウイルスを認識する抗体の能力を、メチルセルロース被覆下にウイルスを生育させることにより生じさせた感染巣を染色することにより検討した。野生型C株の感染巣は使用した全抗体により明確に染色されたが、これらの実験は、Pro833→Asnの置換はインビトロのmAbによるAドメインの認識を防止するために十分であることを示していた(データ示さず)。
【0084】
ビリオンの表面におけるこの露出およびこれが中和抗体に対する優性な標的であるという事実にも関わらず、AドメインのTAVSPTTLRエピトープは進化の過程に渡って保存されている。このことは、この当該配列を含有するウイルスが、この領域中にアミノ酸置換を含有するウイルス集団内部の変異体を超えた選択的利点を有することを示唆している。本発明者らはこのエピトープ中に1つ(即ちvFlc−N1)または2つ(即ちvFlc−N2)のいずれかの新たに導入されたPNGSを有するウイルスを回収することができたが、組織培養物中の生育時のこれらの突然変異体の進化を研究することは明確に関連性があった。この目的のために、vFlc−N1をインビトロで30回継代した。ウイルスの表現型の安定性を研究するために、感染した単層を非構造タンパク質NS3に対して指向された抗体、即ちWB103で免疫染色し、2連の単層をAドメイン特異的抗体b3およびb4の混合物で染色することにより、表現型の復帰変異体(即ちAドメインがこれらの抗体で染色されるウイルス)が存在するかどうか調べた。僅か3継代の後、vFlc−N1に感染させた細胞の極めて低比率がb3/b4混合物で染色され、表現型の復帰が起こったことが明らかに示されていた。集団生物学の一般的競争排除原理によれば、資源が限定されている環境中に2生物が共存している場合、一方が最終的には他方より優勢となる(Gause,1934.Science 79:16−17)。このことを考慮し、本発明者らは表現型の復帰突然変異体がウイルスの反復継代によりvFlc−N1より優勢に生育できるかどうか調べることとした。驚いたことに、表現型復帰突然変異体の量は極めて低いレベルのままであり、殆どの実験において、b3/b4 mAb混合物で染色された僅か数個の細胞により現れたのみであった。即ち、表現型復帰突然変異体ウイルスは連続的に生じたが、ウイルス集団中では少数派変異体として常時維持されていたと考えられる。この所見はvFlc−N1と相対比較して表現型復帰変異体ウイルスのより低値の適合性を示唆しているため、本発明者らは復帰突然変異体ウイルスが野生型のC株配列への真の復帰を示している可能性は低いと考えた。復帰突然変異体の表現型を担っている突然変異を発見するためには、ウイルス集団は、このゲノムを配列決定可能とするために復帰突然変異体ウイルスに関してリッチ化する必要があった。96穴プレート中にウイルスの希釈液を播種することにより、表現型復帰変異体に関してリッチ化された集団を選択できる。この選択を反復した後、このゲノム配列を決定するために十分な量の復帰突然変異体ウイルスを含有している集団を得た。2つの個別の実験において、表現型復帰突然変異体はAsnコドンにおける単一対突然変異(AAUからAGU)に起因して、Asnが導入された位置(即ちCSFVポリタンパク質の833位)にSer残基を含有することがわかった。この突然変異はPNGSの損失をもたらすため、Aドメインを認識するmAbの能力回復を伴うことは意外ではない。結論として、復帰突然変異体サブ集団の検出は、vFlc−N1が突然変異によりこの適合性を増大させる可能性を探索していることを示している。しかしながら、新たに導入されたAAUコドンはマスター遺伝子型により維持されているため、ウイルスは集団レベルでは遺伝子的に安定であると考えられる。
【0085】
vFlc−N2の分析はvFlc−N1を用いた実験の間に観察されたものと同様の特性を有する表現型変異体を示したが、これらは更には特性化しなかった。
【0086】
1つまたは多数の新たに導入されたPNGSを有するE2タンパク質の相対的な電気泳動運動性の分析。vFlc−N1およびvFlc−N2のTAVSPTTLRエピトープ中の新たに導入されたPNGSがE2への新しい炭水化物部分の結合をもたらしたかどうかを調べるために、修飾されたE2タンパク質の相対的な電気泳動運動性を還元条件下のポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、次いでウエスタンブロットにより検討した。vFlc34、vFlc−N1およびvFlc−N2を感染させた細胞の分離タンパク質を含有するウエスタンブロットによれば、vFlc−N1のE2タンパク質はvFlc34の相当するタンパク質よりも高値の分子量を有していた(図4)。E2を含有するオリゴマーも検出されたが、タンパク質を変性条件下で分析したことを考慮すれば、これらのオリゴマーは恐らくは生理学的なものではない(図4)。タンパク質からN連結グリカン類を除去する酵素であるPNGase Fで細胞溶解物を処理したところ、同一の分子量のE2タンパク質が生じた。
【0087】
vFlc−N2の分離タンパク質を含有するウエスタンブロットは、2つの新たに導入されたグリコシル化シークオンの少なくとも1つが炭水化物部分のための係留部位として使用されることを示唆した(図4)。これらの溶解物は、より高分子量のE2タンパク質でさえも含有すると考えられ、第2のグリコシル化部位のグリコシル化を示唆している。
【0088】
TAVSPTTLRエピトープ中のターゲティングされた欠失を有するC株突然変異体の生産および特性化。TAVSPTTLRエピトープのターゲティングされた欠失を有するC株ウイルスをコードする完全長cDNAコンストラクト(図1)をグリコシル化突然変異体に関して上記した通り構築した。TAVSPTTLRエピトープの中央部Pro残基の欠失はvFlc−ΔPをもたらし、これはvFlc34と比較すれば幾分より小型の感染巣を生じさせ(図2)、大部分の実験において10倍低値の力価まで生育した(図3B)。しかしながら得られた最高の力価は10TCID50/mlを超えていた。IPMAによるvFlc−ΔPの分析によれば、このC株突然変異体は本発明者らのAドメイン特異的mAbのいずれによっても検出されなかった。留意すべきは、20継代の後、コンセンサス配列決定によればSer789コドンにおける対突然変異(UCCからUUC)が明らかになり、これはフェニルアラニン(Phe)とのセリンの置換をもたらしていた。得られたウイルスはvFlcΔPa1と命名した(図1)。
【0089】
vFlc−ΔPとは対照的に、1つより多いアミノ酸の欠失を有するウイルスは高度に無力化されていた。グリコシル化突然変異体vFlc−N3およびvFlc−N4に関して既に記載したものと同様、これらのウイルスをコードするプラスミドでトランスフェクトした細胞の上澄みに由来するウイルスは、数回継代できたが、その後消失した。突然変異により自体の適合性を増大させる機会を有するウイルスを得るために、これらのコンストラクトでトランスフェクトされた細胞を反復して継代した。pFlc−ΔSP、pFlc−ΔSPT、pFlc−ΔVSP、pFlc−ΔAVSPおよびpFlc−ΔSPTTLでトランスフェクトした細胞の継代ではウイルス生産の増大は起こらなかった。
【0090】
pFlc−ΔPTでトランスフェクトした細胞の初回継代の間、結果は他の欠失コンストラクトを用いて得られたものと同様であり、一定に小型(10から20個の細胞の平均)である感染巣が生じた。しかしながら、数回の追加的継代の後、免疫染色によれば、突然向上したウイルス生育が観察され、これはウイルスが適合性補償突然変異を導入していたことを示唆していた。得られたウイルスはvFlc−ΔPTa1と命名した。vFlc−ΔPTa1の推定蘇生突然変異を識別するために、このE2遺伝子のコンセンサス配列を決定した。明らかにこれはウイルスが導入された欠失を保持しており、E2遺伝子中に2つの突然変異を導入していたことを示していた。好都合なことに、突然変異の1つの配列クロマトグラム中の明確な二重ピークは、GACからAACへのコドンの変化をもたらした対突然変異が最初に発生していたことを示唆していた(データ示さず)。この突然変異はAsp774からAsnへの置換をもたらし、興味深いことにE2のAドメイン中に新しいPNGSを導入していた(図1および7)。第2の変化はTAVSPTTLRエピトープのバリン(Val)−831コドン内部の転換型突然変異(GUGからGGG)であり、これはValからグリシン(Gly)への置換をもたらした。
【0091】
適応突然変異もまた他の構造タンパク質をコードする遺伝子中に存在する可能性を考慮し、C、ERNSおよびE1遺伝子のコンセンサス配列も決定した。C遺伝子およびERNS遺伝子の配列分析によれば後者において僅か1つのサイレントな突然変異が明らかになった(U1549→C)。興味深いことに、E1遺伝子において、2275位における対突然変異(A2275→U)が検出され、これはアスパラギン酸(Asp)とのグルタミン酸(Glu)−634の置換をもたらしている(表2)。
【0092】
vFlc34およびvFlc−ΔPと相対比較した場合のvFlc−ΔPTa1のインビトロの生育特性を多段階生育曲線により可視化する(図3)。vFlc−ΔPTa1ウイルスはvFlc34よりも幾分緩徐に生育したが、同一の最終力価が得られる。
【0093】
ウイルス生産型プラスミドpFlc−ΔPTの実験的進化。vFlc−ΔPTa1の配列分析から得られた結果により、ERNSにおけるサイレントな突然変異、E1におけるアミノ酸置換およびE2における2置換が適合性回復の原因であることが本発明者らに示唆される。この仮説を試験するために、pFlc−ΔPTによる10独立トランスフェクションを実施し、構造タンパク質をコードする遺伝子を配列決定した。トランスフェクトされた細胞を反復継代し、ウイルスの存在をmAb WB103を用いながらIPMAによりモニタリングした。僅か2から3継代の後、陽性細胞の数は明確に増大し、ウイルスが適合性補償突然変異を導入したことが示唆された。11継代の後、ウイルスのゲノムをvFlc−ΔPTa1に関して記載した通り分析した。この実験の結果を表2に総括する。Asp774→Asn置換をもたらした突然変異は10進化ウイルス中6つにおいて観察され、平行進化を明らかに示していた。しかしながら、これらのウイルスの1つにおいて、Asp774→Glu置換をもたらした突然変異が観察され、3つの残余のウイルスにおいては、アミノ酸774のコドンに突然変異は観察されなかった。vFlc−ΔPTa1におけるVal831→Glyの原因となった突然変異が1つのウイルスで検出された(即ちvFlc−ΔPTa8、表2)。
【0094】
興味深いことに、1549位のサイレントな突然変異は全てのウイルスにおいて観察された。この結果は天然の選択はRNAレベルでも作動していること、および、追加的な適応突然変異はこの実験では分析しなかったゲノムの領域で観察される可能性があることを示している。しかしながら、vFlc−ΔPTa1のゲノムにおいて検出された4つの突然変異のうち3つがここでもまた現在の実験においてウイルスの進化の間に導入されたことを観察したことは印象的であった。注目すべきは、ウイルスvFlc−ΔPTa5においては、第5の位置における突然変異が検出された。ERNS遺伝子におけるサイレントな突然変異およびE2におけるAsp774→Asn置換の他に、このウイルスはERNS遺伝子のAla445コドンにおける対突然変異(GCAからACA)を導入しており、これによりAla445のThrとの置換がもたらされた(表2)。
【0095】
vFlc−ΔPおよびvFlc−N1に対する抗体応答の分析。Aドメイン特異的抗体がインビトロでvFlc−ΔPおよびvFlc−N1を認識する能力が無いことは、本発明者らがAドメインの抗原性構造を修飾することに成功したことを示している。しかしながら、DIVAワクチンとして適しているためには、インビボで誘導された抗体応答は、予防接種動物から感染動物を血清学的に区別することが可能となるために十分鈍化されなければならない。ワクチン候補は最終的にはブタにおけるこれらのDIVA特性および保護効力に関して試験されることになるが、現作業においては、本発明者らは2つの主要な理由から、体液性免疫応答の分析のためにウサギを使用することを好適とした。第1に本発明者らは研究中のワクチンウイルスがインビボで増殖し得感染を行えるかどうかを調べたいと考えた。ブタにおいて、C株ウイルスの接種はいかなる臨床症状も誘導しないのに対し、ウサギにおける接種は一時的な発熱疾患を誘導する。従って、ウサギを使用することにより増殖性感染を確認できるようになり、更に、選択された候補の毒性における潜在的相違を研究できるようになり、これによりインビボのウイルスの適合性に関する考え方が与えられる(de Smitら、2000.Vaccine 18:2351−8)。ウサギを使用することの第2の利点は、C株ウイルスを血液から単離できることであり、これはブタを使用する場合には成功しない場合が多い。インビボ複製後のワクチンウイルスの単離は、導入された遺伝子修飾が安定に維持されているかどうかを調べることを可能にした。ウサギ4匹の群にvFlc−ΔPまたはvFlc−N1を接種した。対照動物にはvFlc34か培養基のいずれかを接種した。馴化期間中、ウサギの平均体温は正常であった(39.2℃、SD±0.28、n=68)。発熱は40.1℃超の体温として定義した。発熱はまず、vFlc34(40.7℃、SD±0.48、n=4)およびvFlc−N1(40.5℃、SD±0.32、n=4)を接種した群において、両方とも接種後2日に観察された。vFlc−ΔPを接種したウサギにおける上昇した体温(40.0℃、SD±0.13、n=4)は接種後3日に観察された。
【0096】
ウイルスはvFlc34を接種したウサギ4匹中3匹、vFlc−N1を接種したウサギ4匹中3匹、およびvFlc−ΔPを接種したウサギ4匹中2匹のPBLから単離された。コンセンサス配列はこれらのウイルスのE2遺伝子はウサギにおける継代では改変されなかったことを示していた。C株突然変異体が感染動物と予防接種動物の間の区別を可能とするかどうかを調べるために、ウサギの抗血清をCeditest 2.0 E2 ELISA(Prionics)により分析した。このELISAはE2のAドメインに対する抗体を特異的に検出する。効果的な免疫化のための比較対照として、CHEKIT CSF Erns ELISA(IDEXX laboratories)を使用した。
【0097】
vFlc34、vFlc−N1およびvFlc−ΔPにより誘導したERNS応答は同程度であった(図5)。Ceditest 2.0 ELISAによるvFlc34およびvFlc−N1により誘導されたAドメイン特異的E2応答の比較によれば、vFlc−N1中に存在する修飾はこの応答に対して僅かな作用のみ有していたことが明らかになった。これとは対照的に、vFlc−ΔPのE2応答をvFlc34のものと比較すると、Pro833の欠失はAドメインに対する抗体応答において定量的なシフトを実際にもたらしていたことがわかる(図5)。Aドメイン特異的抗体応答に対するvFlc−N1の新たに導入されたN連結グリコシル化部位の作用が期待はずれであったことを考慮し、本発明者らはウサギにおけるvFlc−N2の抗原性特性の研究は行わなかったが、その代わりその後の実験に関しては欠失突然変異体に着目した。
【0098】
vFlc−ΔPTa1に対する抗体応答の分析。第2の動物実験において、vFlc−ΔPTa1に対する抗体応答をvFlc34に対して誘導されたものと比較した。接種前のウサギの平均体温は正常であった(39.2℃、SD±0.37、n=28)。この実験においては、vFlc34を接種したウサギ2匹中1匹のみが接種後2日に発熱した(40.3℃)。vFlc−ΔPTa1を接種したウサギ1匹(ウサギ2.1)は体温上昇を示さなかった。これとは対照的に、vFlc−ΔPTa1を接種された残余2匹では発熱が観察された(ウサギ2.2および2.3)。これらの動物中1匹において、接種5日後に体温40.6℃となり、もう1匹においては体温は接種後7日に40.4℃であった。vFlc−ΔPは発熱を誘導しなかったという事実を考慮すれば、この所見は極めて意外であった。しかしながら留意すべき重要な点として、接種後短時間において、ウサギ2.2および2.3は格闘状態となり、創傷を被っていた。これらの創傷は皮膚感染を誘発していること、および、この感染の兆候は発熱と同時に起こったという事実を鑑みれば、発熱はウイルス接種の結果であるよりはむしろ皮膚感染症に起因したと推定することは妥当であると考えられる。接種4日後、ウイルスをvFlc34を接種した両方の動物から単離した。vFlc−ΔPTa1を接種した3匹のウサギのPBLからはウイルスは単離されず、これは本ウイルスの弱毒化に関連すると考えられる。
【0099】
vFlc34を接種したウサギ2匹(動物1.1および1.2;図6、左パネル)の血清は、第1の実験で得られたものに匹敵するERNSおよびE2 ELISAにおける結果を示した。E2 ELISAにより測定したブロッキングのパーセンテージはErns ELISAにより検出されたものよりも高値であった。これとは対照的に、vFlc−ΔPTa1を接種したウサギ2.1由来の血清の分析は、E2 ELISAにおけるブロッキングのパーセンテージがErns ELISAにおいて検出されたものよりも低値であることを示していた。この結果は、vFlc−ΔPを用いた場合に得られた結果と合致しており(図5)、共にAドメイン特異的抗体応答の特異的な鈍化を示している。しかしながら意外にも、動物2.2および2.3由来の血清の分析はこの結果を確認するものではなかった。これらの動物は明らかに高レベルのAドメイン特異的E2抗体を発生させていた。動物2.1で得られた結果およびvFlc−ΔPで得られたより早期の結果を考慮すると、この所見は極めて意外であった。動物2.2および2.3におけるAドメイン特異的抗体の誘導は、恐らくは、通常は優性未満であるTAVSPTTLRエピトープ以外のAドメインのエピトープに向けてのAドメイン特異的抗体応答の再焦点調整により説明できる。
【0100】
抗体応答をより十分に分析するために、本発明者らはCSFV株ブレシアのE2タンパク質から誘導した予め構築された15アミノ酸長のオーバーラップペプチドを用いながら、PEPSCAN分析を行った。この分析によれば、野生型C株を接種した動物から第36日に得られた血清はCSFV株ブレシアの2つのエピトープを認識したことがわかった(図6、右パネル)。予測した通り、これらのエピトープの第1のものは829TAVSPTTLR837エピトープであった。特に、残基831VSPTTLR837は最も重要であると考えられた(図6B、上パネル)。第2のエピトープはアミノ酸754YLASLHKDAPT764を含んでいた。興味深いことに、最初に認識されるこのエピトープは以前に定義されたAドメイン(即ちアミノ酸766から866;図7)の外部に位置する。vFlc−ΔPTa1を接種したウサギから得られた血清のいずれも、上記したエピトープのいずれをも認識しなかった。829TAVSPTTLR837エピトープの認識が欠如していること(図6B;下パネル)はvFlc−ΔPTa1中に導入された突然変異により説明できるが、754YLASLHKDAPT764エピトープの認識が欠如していることは、より驚くべきことであった。この所見はある様式における754YLASLHKDAPT764エピトープは829TAVSPTTLR837エピトープと相互作用すること、およびこれらのエピトープはネイティブのE2構造中で近接して位置していることを示唆している(図7)。PEPSCAN分析はウサギ2.2および2.3の抗血清により認識されるAドメインのエピトープを明らかにしなかったが、これらの血清のいずれもTAVSPTTLRエピトープを認識しなかったことは確かに示していた。これより、本発明者らはvFlc−ΔPTa1はTAVSPTTLRに基づいたペプチドELISAを伴う場合にはDIVA基準を満足すると結論できる。
【0101】
考察
過去20年間において、E2またはErns ELISAのいずれかを伴う必要がある数種の実験的DIVAワクチンが開発された。文献によれば、両方の診断試験が現場でのCSFの検出に適していると報告されている場合が多い。これは原則的には正しいが、Erns ELISAはE2 ELISAよりも2つの主要な難点を有することに留意することが重要である。第1に、Erns ELISAは感染動物群の検出に関して信頼性を有するが、これらのELISAは個体動物を診断するには感度が不十分であることが以前よりわかっている。第2に、より重要な点として、Erns ELISAはCSF特異的ではない(2003/265/EC)。SANCO/10809/2003。European Commission,Directorate−General for Health and Constumer Protection,Brussels)。結果として、BVDVおよび/またはBDVウイルスが循環する領域におけるErns ELISAの使用は推奨されない。
【0102】
本作業の目的はE2 ELISAに匹敵するC株系DIVAワクチンを構築することであった。本発明者らはこれらのELISAの優性な標的であるAドメインのTAVSPTTLRエピトープ中に適正な突然変異を導入することによりこれを達成することを目標とした。2つの手順の1つ目において、TAVSPTTLRエピトープの中央部のPro(即ちPro833)残基をAsnと置換し、これによりTAVSPTTLRエピトープの中央部にPNGSを導入した。N連結グリカンは体液性免疫系から免疫原性ドメインを遮蔽するこれらの能力に関して周知であるが、これらは炭水化物鎖の構造的柔軟性に起因する2つの特徴となっている機能的に重要なドメインにおいて、またはこの近傍において十分な忍容性を顕著に示し得る。本発明者らはTAVSPTTLRエピトープの中央部に係留された新たに導入されたN連結グリカンを安定に維持しているvFlc−N1と命名されたC株突然変異体の生産を良好に行えたが、この修飾はAドメイン特異的抗体応答には僅かな作用しか有さないと考えられる。この理由により、本発明者らはこの手順を継続しないことを選択した。代替の手順において、本発明者らはTAVSPTTLRエピトープからアミノ酸を欠失させることによりAドメインの抗原性構造を改変することを目標とした。中央部のPro残基(即ちPro833)の欠失は、導入された欠失を安定に維持していたvFlc−ΔPと命名されたウイルスをもたらしたが、ウイルスは最終的には適応突然変異を獲得し、Ser789からフェニルアラニン(Phe)への置換をもたらした。本発明者らはこの非保存的置換を興味深いものとみなしたが、その理由は、Ser789は全てのC株ウイルスおよび関連のウサギ化されたCSFV株中に存在するのに対し、Phe789は強毒性CSFV株中で完全に保存されており、ペスチウイルス遺伝子の他のメンバー中でむしろ高度に保存されているからである(van Rijnら、1997.Virology 237:337−48)。C株ウイルスの歴史は十分解明されていないが、ウイルスは数百回ウサギにおいて継代することにより弱毒化されたことは明白である(van Oirschot,2003.Vet Microbiol 96:367−84)。従って、Ser789はウサギにおけるC株の複製のために好都合であると仮説を立てることができる。この推定が正しければ、C株がインビトロのブタ細胞上の成育時にPhe789に復帰しない理由は興味深いものである。これはWrightの適合性ランドスケープの概念により説明できる(Wright,1931.Genetics 16:97−159)。この概念に従えば、好都合な突然変異は、野生型のC株ウイルスに関して同様に適用される通り適合性ピークの最上領域において遺伝子型が存在する場合に緩徐に発生するのに対し、これらはvFlc−ΔPの場合と同様に適合性のピークのより低いレベルにおいて遺伝子型が存在する場合にはより迅速に発生する。
【0103】
vFlc−ΔPを接種したウサギから得られた血清の分析によれば、Pro833の欠失はAドメインの免疫原性をかなり鈍化させるために既に十分であることが明らかになった。この結果は本発明者らの手順の原則の証拠を明らかにしているが、これは同様に、得られるウイルスをDIVAワクチンとして適しているものとするためにはAドメインの抗原性構造はより広範に修飾される必要があったことをも明らかにしている。TAVSPTTLRエピトープからの2から4アミノ酸の欠失(ΔSP、ΔPT、ΔSPT、ΔVSP、ΔAVSP)を有するC株突然変異体をコードするプラスミドは感染性のウイルスを生産したが、これらは高度に無力化されており、持続的生育が不可能であった。しかしながらvFlc−ΔPTを含有する細胞の数継代の後、適合性の顕著な増大が観察された。救済されたウイルスはvFlc−ΔPTa1と命名された。本発明者らはE2遺伝子における適応突然変異が適合性回復を担っている可能性が高いと考えた。実際、2つの適応突然変異がE2遺伝子において検出された(図1)。第1の突然変異はTAVSPTTLRエピトープのVal残基のGlyとの置換をもたらした。導入された欠失に近接する適応突然変異が期待されたが、第2の突然変異は線状のE2配列中でTAVSPTTLRエピトープに対して遠位に位置していることがわかった。更に興味深いことに、この第2の突然変異(Asp774→Asn)はAドメイン中にPNGSを導入していた。
【0104】
逆方向遺伝学により同様のウイルス(即ちvFlc−N1;図1および図7)を構築した直後のAドメイン中にPNGSを有するC株突然変異体(即ちvFlc−ΔPTa1、図1および図7)の救済は、顕著な偶然であるように見える。しかしながら、本発明者らが研究を開始しようと思うに至った以前の所見を再考すれば、本発明者らの所見は偶然ではないことが示唆される。本発明者らの作業は中和mAbの存在下にウイルスを生育させることにより選択されたCSFV突然変異体の表現型により思い立ったものである(van Rijnら、1994.J Virol 68:3934−42)。ブレシア株のこのMAR(モノクローナル抗体耐性)突然変異体、即ちvPK26.2と命名されたものは、Aドメインの抗原性構造に影響したE2における2つのアミノ酸置換、即ち、Pro833→Leu(TAVSPTTLRエピトープ内部)およびThr858→Asn(24)を有していた。他のMAR突然変異体の分析ではPro833→Leuの置換は中和回避の原因であり、更に、第2のAドメイン特異的mAbの結合を妨害していたことが明らかになった。しかしながら、Leu833のみを含有するMAR突然変異体はなお2つの他のAドメイン特異的mAbにより認識されているが、Leu833およびAsn858の両方を含有するMAR突然変異体vPK26.2は本発明者らのAドメイン特異的mAbのいずれによっても検出されなかった。Asn858がAドメインの抗原性構造に明らかに影響していたことを考慮して、本発明者らは858位は何らかの様式において、ネイティブのE2構造中のTAVSPTTLRエピトープと相互作用するか、これと近接しているという仮説を立てた。更に興味深いことに、Thr858→Asn置換はAドメインに新しいPNGSを導入している(図7)。この部位におけるグリコシル化は以前には注目されていなかったが、E2の抗原性構造に対するこの突然変異の作用はN連結グリカンによるAドメインの遮蔽により説明できると考えられる。vPK26.2の表現型は、本発明者らに、TAVSPTTLRエピトープの中央部Proを欠失させる作用を調べることのみならず、N連結グリカンによりAドメインを遮蔽することの実現可能性を研究することを惹起した。本発明者らは、ウイルスvFlc−N1をもたらしたPro833のAsnとの置換が構造的に重要なPro833残基を除去し、同時に新しいPNGSをTAVSPTTLRエピトープ中に導入することは、好都合であることを発見した。この修飾はAsnによるPro833の置き換えとみなすことができるが、Pro833を欠いたウイルス中のAsn残基の挿入ともみなすことができることが重要である。これは意味論の問題とも考えられるが、vPK26.2の表現型並びにvFlc−N1の遺伝子的安定性および適合性を説明できる全く新しい展望を開くものである。これらのウイルスの驚くべき共通の特徴は、これらが共にPro833を欠き、共に新しいPNGSをAドメインに含有することである。この点から推察されることは、833位および858位は実際にはネイティブE2構造中同様の位置に所在していること、および、これらの位置のいずれかにおけるAsn部分は、直接、または炭水化物部分に対する係留部位としてのこの機能により、Pro833の欠失または置換により損なわれた適合性の浪費を補償することができることである(図7)。
【0105】
再度ウイルスvFlc−ΔPTa1に関し、興味深い点は、774位においてvFlc−ΔPTa1中に新たに導入されたPNGSはまた、ネイティブE2構造中TAVSPTTLRエピトープに近接して位置することである。即ち、このウイルスにおけるAsp774→Asnの置換はアミノ酸772LFDGTNP778を含む最近同定されたエピトープの中央に位置する(Pengら、2008.Virus Res 135:267−72)。829TAVSPTTLR837エピトープと同様、772LFDGTNP778エピトープはA1ドメインを定義する3つの特徴全て、即ちCSFV特異的であり、進化的に保存されており、中和抗体のための標的であること、を共有している。上記および本発明者らの実験所見に基づいて、本発明者らは、TAVSPTTLRおよびLFDGTNPエピトープはE2のネイティブの構造中で共局在化しており、恐らくは一緒になってA1ドメインを形成しているという仮説を立てる。
【0106】
総括すれば、本発明者らはTAVSPTTLRエピトープの中央部Pro残基の突然変異はE2タンパク質における3つの可能な位置の1つに位置するN連結グリカンにより補償されることができること、および、これらの位置はネイティブのE2構造に近接して位置することを仮説として唱える。第1のものは829TAVSPTTLR837エピトープそのものの内部に位置し、第2のものは772LFDGTNP778エピトープの内部に位置し、第3のドメインはアミノ酸配列858TTT860を含む(図7)。恐らくは、後者のアミノ酸はAドメイン中に位置する未確認のエピトープの部分でもある。これらの仮説を立証するための実験が進行中である。
【0107】
E2遺伝子の適応突然変異が適合性の回復において重要な役割を果たしていると推定することは妥当と思われるが、本発明者らは構造タンパク質をコードする他の遺伝子における突然変異も役割を果たしていることが合理的であると考える。従って、vFlc−ΔPTa1のC、ERNSおよびE1遺伝子も配列決定した。ゲノムのこの部分の配列決定は実際に2つの追加的な突然変異を明らかにした。第1のものはE1遺伝子において検出された。この突然変異は完全に保存されたGlu634残基のAspとの置換をもたらした。E2タンパク質がE1タンパク質とのジスルフィド結合ヘテロ2量体に組み立てられることが知られている(Thielら、1991.J Virol 65:4705−12)ことを考慮すれば、この突然変異はvFlc−ΔPTa1の適合性回復に寄与していることが察知される。C遺伝子中には突然変異は検出されなかったが、単一のサイレントな突然変異がERNS遺伝子において検出された。野生型CSFVのコンセンサス配列が例外的に安定であり、インビトロまたはインビボの継代により実質的に全く突然変異を蓄積しないこと(Vanderhallenら、1999.Arch Virol 144:1669−77)を念頭に置けば、コンセンサス配列決定によるこのようなサイレントな突然変異の検出は、自然選択がRNAレベルでも作動しており、それによりゲノムの他の領域における同義突然変異もまたvFlc−ΔPTa1の適合性回復に寄与していたことを明らかにしている。
【0108】
適合性回復の分子経路を理解するために、進化実験を実施した。この実験はERNS遺伝子におけるサイレントな突然変異、Val831→Gly置換をもたらす突然変異、および774位において新しいPNGSを導入する突然変異の平行進化を明らかにした(表2)。適合性回復の分子機序を十分解明するためには追加的な検討が必要であることは明白であるが、本所見はvFlc−ΔPTa1の適合性回復には上記した突然変異が実際に関与しているという見解を裏付けるものである。これらの突然変異がTAVSPTTLRエピトープにおけるより大きい欠失を有する突然変異の適合性を回復できることは十分可能である。
【0109】
進化実験において検討したウイルスの1つ(即ちvFlc−ΔPTa5)において、Ala445からThrへの置換をもたらした突然変異がERNS遺伝子において検出されたことは重要なことである(表2)。以前に記載したvFlc−ΔPの進化において観察されたSer789からPheへの置換と同様、vFlc−ΔPTa5において改変されたアミノ酸、この場合はAla445は、CSFVの野生種系統内で保存されているアミノ酸、この場合はThr445に変化している。これは本作業の範囲を超えているが、この所見もまた、CSFVの弱毒化はこの分子進化に関して価値ある見識を与えることができることを示している。
【0110】
Van Rijnらにより実施されたMAR突然変異体を用いた以前の研究は、TAVSPTTLRエピトープのPro833およびThr834はAドメインの保存されたエピトープの一体性のために極めて重要であることを示唆していた(van Rijnら、1994.J Virol 68:3934−42)。これら両方のアミノ酸を欠いており、更にVal831→Glyの置換を含有する十分生育しているC株突然変異体の生産が良好に行えたことは、このウイルスのAドメインの抗原性構造が劇的に変化したことを示唆していた。従って本発明者らは、vFlc−ΔPTa1により誘導された免疫応答はCeditest 2.0 E2 ELISAを用いて野生型CSFVにより誘導されたものとは区別可能であることを期待した。vFlc−ΔPTa1が実際にAドメイン特異的抗体を誘導することにおいて極めて強力であり得ることは意外であった。この所見の可能な説明としては、他の面では免疫優性であるTAVSPTTLRエピトープの破断が通常では優性未満であるAドメインのエピトープに対する抗体応答の再焦点調整をもたらすことが考えられる。これらのエピトープを同定する試みにおいて、抗血清をPEPSCAN分析により分析した。この分析は新しく認識されたエピトープを明らかにしなかったが、抗血清のいずれもTAVSPTTLRエピトープを含有するペプチドを認識しなかったことを確かに示していた。興味深いことに、このことは、TAVSPTTLRエピトープに基づくELISAをDIVA試験として使用することによりvFlc−ΔPTa1ワクチンウイルスを併用できることを示唆している。
【0111】
総括すれば、現作業は、強制的ウイルス進化はCSFウイルスを遺伝子的に修飾するための強力なツールとなり得ることを明らかにしている。ここにおいて、本方法は野生型CSFVから血清学的に区別できる遺伝子的に安定なC株突然変異体を生産するために良好に使用できた。
【実施例2】
【0112】
材料および方法
C株欠失突然変異体ウイルスvFlc−ΔPTa1を実施例1に記載した通り作成した。SK6−T7細胞はT7 RNAポリメラーゼを構成的に発現するブタ腎細胞とする(van Gennipら、1999.Vaccine 19(4−5),447−59)。これらの細胞をグルタミン(0.3mg/ml、Gibco、Invitrogen、Breda、The Netherlands)、5%ウシ胎児血清(FBS)および抗生物質ペニシリン(100U/ml、Gibco)、ストレプトマイシン(100U/ml、Gibco)およびアンホテリシンB(2.5μg/ml、Gibco)を添加したK1000培地中で生育させた。ウイルス保存液はSK6.T7細胞上で力価検定し、50%組織培養物感染用量(TCID50)として報告する。
【0113】
ペスチウイルスに対する抗生物質を含有しない13匹のコンベンショナルブタを5匹2群と3匹1群に分割した。第1群のブタ(3166から3170番)には2%ウシ胎児血清(FBS)および10TCID50の組み換えC株ウイルスvFlc34を含有する培養基1mlと共に筋肉内の経路で第0日に1回予防接種した(実施例1参照)。第2群のブタ(3171から3175群)にはvFlc−ΔPTa1ワクチンを同じプロトコルで予防接種した。第3群のブタ(3176から3178番)には2%FBSを含有する培養基を1回接種した。
【0114】
第28日に、第1、2および3群のブタを、鼻内投与によりCSFV株ブレシアの50%致死用量の200倍を含有する1ml(各鼻腔に0.5ml)で攻撃した。全ブタの疾患を毎日観察し、これらの体温の測定は−第3日から開始した。臨床症状の重症度は10CSF特異的基準の予め定義されたリストを用いて採点した(Mittelholzerら、2000.Vet Microbiol 74(4)293−308)。
【0115】
血清試料は全ブタから毎週調製した。EDTA試料および口腔咽頭液は、攻撃日(第28日)およびその後は第30、32、35、37、39、42、44、46、49、52および56日に、第1、2および3群の全ブタから採集した。EDTA試料を用いて白血球および血小板の数を測定した。この分析はMedonic CA 620コールターカウンター(Boule Medical AB)を用いて実施した。コンベンショナルに飼育されたブタにおいては、白血球および血小板の血中濃度はそれぞれ11×10から23×10、および320×10から720×10/リットルの範囲である。その結果、白血球減少症は<8×10個/l血液および血小板減少症は<200×10血小板/l血液として定義した。
【0116】
末梢血白血球(PBL)または咽喉スワブを用いたウイルス単離および定量的リアルタイム逆転写PCR(qRRT−PCR)を本質的には文献記載の通り実施した(Weesendorpら、2009.Vet Microbiol 135(3−4),222−30)。
【0117】
血清試料は市販のE2 ELISA(PrioCHECK CSFV Ab2.0E2 ELISA、Prionics、Lelystad、The Netherlands)および市販のErns ELISA(Chekit CSF Erns ELISA、IDEXX laboratories、Hoofddorp、The Netherlands)を用いながら製造元の説明書に従って分析した。
【0118】
結果
本発明者らは高度に強毒性のブレシア株を用いた致死的攻撃に対するvFlc−ΔPTa1ウイルスの保護効力をこの親ウイルスvFlc34と比較した。ブタ5匹の2群をvFlc34(第1群)またはvFlc−ΔPTa1(第2群)のいずれかで第0日に予防接種した。3匹よりなる対照群(第3群)には細胞培養基のみを接種した。第1、2および3群のブタは、第28日に高度に強毒性のブレシア株で攻撃した。
【0119】
対照群のブタは全て、高熱(図8C)、白血球減少症(図9A)および血小板減少症(図9B)を含むCSFの典型的臨床兆候を発症した。ウイルスは攻撃後第4日にはブタ3匹のうちの2匹、および第7および9日にはブタ全3匹のPBLから単離した。ウイルスは攻撃後第7日に2匹の咽喉スワブから、および攻撃後第9日には1匹から単離した。この群に属するブタは瀕死状態で発見され、感染後9日(ブタ3178番)または10日(ブタ3176番および3177番)に安楽死させた。
【0120】
組み換えC株ワクチン(即ちvFlc34)を予防接種したブタのいずれも、攻撃後臨床兆候を発症しなかった(図8A)が、1匹のブタ(3168番)が1日発熱し、もう1匹の別のブタ(3166番)は少なくとも1日血小板減少症を呈した(図9B)。PBLまたは咽喉スワブからはウイルスは単離されなかった。
【0121】
vFlc−ΔPTa1を予防接種した全ブタは3から6日間発熱し、そして攻撃後に軽度の臨床兆候を呈した(図8B)が、全ブタが完全に回復した。攻撃後第2日に1匹のブタ(ブタ番号3175)のPBLからウイルスが単離された。これから、本発明者らは、vFlc−ΔPTa1を用いた単回予防接種は高度に強毒性なブレシア株を用いた致死的攻撃に対する保護を与えると結論付けた。
【0122】
全血清を抗E2および抗ERNS抗体の存在について、それぞれPrioCHECK CSFV Ab2.0 E2 ELISA(Prionics)およびChekit CSF Erns ELISA(IDEXX laboratories)を用いながら分析した。vFlc34を予防接種したブタは全て感染後21日にE2 ELISAにおいて陽性であった(図10A)が、これらのブタは感染後35日にはErns ELISAにおいても陽性であった(図10B)。vFlc−ΔPTa1を予防接種したブタはいずれも、攻撃前のE2 ELISAで陽性ではなかった(図10A)。攻撃後7日以内に、全てのブタがE2 ELISAで陽性となった(図10A)。興味深いことは、vFlc−ΔPTa1を予防接種したブタ2匹(即ちブタ3171番および3172番)はvFlc34を予防接種したものよりもはるかに早期にERNS抗体へのセロコンバージョンを示した(図10B)。
【0123】
即ち、vFlc−ΔPTa1を予防接種したブタは全て、攻撃まではPrioCHECK E2 ELISAのカットオフ未満を維持し、vFlc−ΔPTa1がブタにおいてもDIVAワクチンとして使用できることを示していたと結論できる。
【0124】
結論として、本発明者らは、vFlc−ΔPTa1の単回予防接種が全予防接種ブタにおいて高度に強毒性の攻撃に対抗して保護をもたらしたことを明らかにしており、ウイルス出芽は殆ど、または全く無いという証拠が提示されている。
【0125】
【表1】

【0126】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組み換えブタコレラウイルス(CSFV)であって、親CSFVポリタンパク質の829位から837位に相当するE2タンパク質の「TAVSPTTLR」ドメイン中に少なくとも1つのアミノ酸の欠失を含む組み換えブタコレラウイルス(CSFV)。
【請求項2】
前記欠失が前記「TAVSPTTLR」ドメインにおけるプロリンの欠失を含む、請求項1の組み換えCSFV。
【請求項3】
前記欠失が少なくとも2つのアミノ酸を含む、請求項1または請求項2の組み換えCSFV。
【請求項4】
親ゲノムの少なくとも1つの更なる改変を含む、請求項1から3のいずれかに記載の組み換えCSFV。
【請求項5】
少なくとも1つの更なる改変がサイレントな突然変異である、請求項4に記載の組み換えCSFV。
【請求項6】
サイレントな突然変異がERNS遺伝子内の1549位におけるUからCへの改変である、請求項5に記載の組み換えCSFV。
【請求項7】
少なくとも1つの更なる改変がE2タンパク質中のN連結グリコシル化部位を形成する、請求項4に記載の組み換えCSFV。
【請求項8】
前記少なくとも1つの更なる改変がE2タンパク質中の774位におけるアスパラギン酸(D)の置換である、請求項4に記載の組み換えCSFV。
【請求項9】
前記少なくとも1つの更なる改変が831におけるグリシン(G)、および/または789位におけるフェニルアラニン(F)、および/または445位におけるスレオニン(T)をもたらす、請求項4に記載の組み換えCSFV。
【請求項10】
1549位におけるUからCへの改変、634位におけるアスパラギン酸(D)、E2タンパク質中の774位におけるアスパラギン(N)、および831位におけるグリシン’(G)を更に含む、E2タンパク質の「TAVSPTTLR」ドメインのそれぞれ833および834位におけるプロリンおよびスレオニンの欠失を含む、請求項4に記載の組み換えCSFV。
【請求項11】
親ゲノムが弱毒化されたCSFV株のゲノムである、請求項1から10のいずれかに記載の組み換えCSFV。
【請求項12】
親ゲノムがC(チャイニーズ)株のゲノムである、請求項1から11のいずれかに記載の組み換えCSFV。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の組み換えCSFVを含む生CSFワクチン。
【請求項14】
CSFに対抗して動物を保護する方法であって、有効量の請求項13のワクチンを前記動物に投与することを含む方法。
【請求項15】
血清学的試験において動物の血清を分析することを含む、非感染動物から、または請求項13のCSFワクチンを予防接種した動物から、CSFVに感染した動物を区別する方法。
【請求項16】
前記血清学的試験がペプチド系ELISAである、請求項15の方法。
【請求項17】
「TAVSPTTLR」ドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸の欠失を含むE2タンパク質をコードする組み換えブタコレラウイルス(CSFV)ゲノムを含むcDNA分子。
【請求項18】
感染動物を予防接種動物から区別できるようにするワクチン中で使用できる感染性組み換えCSFVを単離するための方法であって、方法が:
前記ウイルスによりコードされるタンパク質の免疫優性ドメインを選択する工程;
前記免疫優性ドメインをコードする前記ウイルスのゲノム領域中に改変を導入する工程;
改変されたゲノムを適した細胞または細胞系統に接触させる工程;
適した細胞または細胞系統を継代することによりウイルスの増殖を可能にする工程;および、
感染性ウイルスを前記適した細胞または細胞系統から単離する工程;
を含む方法。
【請求項19】
ゲノム領域中の前記改変が少なくとも1つのアミノ酸の欠失である、請求項18の方法。
【請求項20】
請求項18から19のいずれかの方法により得られる感染性組み換えCSFV。
【請求項21】
ワクチン中の請求項20に記載の感染性組み換えCSFVの使用。
【請求項22】
ワクチンが、未感染または予防接種動物から感染動物を区別できるようにする、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
未損傷のTAVSPTTLRドメインを含むCSFV E2タンパク質を特異的に認識する1つ以上の抗体を含むペプチド系ELISA。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−513212(P2012−513212A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543453(P2011−543453)
【出願日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【国際出願番号】PCT/NL2009/050801
【国際公開番号】WO2010/074575
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(506196247)インターベツト・インターナシヨナル・ベー・ベー (85)
【Fターム(参考)】