修飾ペプチドの定量化方法
【課題】
【解決手段】本発明は、サンプル中の修飾ペプチド類の定量化方法を提供する。本発明は、a) サンプルからペプチド類を得る;(b) 工程(a)で得られたペプチド類に参照修飾ペプチドを追加して、ペプチド類と参照修飾ペプチドとの混合物を形成する;(c) ペプチド類と参照修飾ペプチドとの混合物について質量分析(MS)を行い、サンプル中のペプチド類に関するデータを得る;および(d) サンプル中のペプチド類に関するデータを、修飾ペプチドに関するデータベース内のデータと、コンピュータプログラムを使用して比較する;ここで、ペプチドに関するデータベースは、以下を含む方法によってコンパイルされる:(i) サンプルからペプチド類を得る;(ii) 工程(i)で得られたペプチド類から修飾ペプチドを富化する;(iii) 工程(ii)で得られた富化された修飾ペプチドについて液体クロマトグラフ−タンデム質量分析法(LC−MS/MS)を行う;(iv)修飾ペプチドを同定するために工程(iii)で検出された修飾ペプチドを既知のリファレンスデータベースと比較する;(v) 工程(iv)で同定された修飾ペプチドに関連するデータをデータベースにコンパイルすることを含む。
【解決手段】本発明は、サンプル中の修飾ペプチド類の定量化方法を提供する。本発明は、a) サンプルからペプチド類を得る;(b) 工程(a)で得られたペプチド類に参照修飾ペプチドを追加して、ペプチド類と参照修飾ペプチドとの混合物を形成する;(c) ペプチド類と参照修飾ペプチドとの混合物について質量分析(MS)を行い、サンプル中のペプチド類に関するデータを得る;および(d) サンプル中のペプチド類に関するデータを、修飾ペプチドに関するデータベース内のデータと、コンピュータプログラムを使用して比較する;ここで、ペプチドに関するデータベースは、以下を含む方法によってコンパイルされる:(i) サンプルからペプチド類を得る;(ii) 工程(i)で得られたペプチド類から修飾ペプチドを富化する;(iii) 工程(ii)で得られた富化された修飾ペプチドについて液体クロマトグラフ−タンデム質量分析法(LC−MS/MS)を行う;(iv)修飾ペプチドを同定するために工程(iii)で検出された修飾ペプチドを既知のリファレンスデータベースと比較する;(v) 工程(iv)で同定された修飾ペプチドに関連するデータをデータベースにコンパイルすることを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は修飾ペプチドの定量化方法に関し、特にはりん酸化ペプチドの定量化方法に関する。例えば、そのような方法は、タンパク質のリン酸化部位を特定し定量化して、プロテインキナーゼの活性を定量化するのに使用される。
【背景技術】
【0002】
官能基の添加でほとんどのタンパク質は何らかの修飾を受け、これらの修飾は質量分析法で検出できる。
【0003】
質量分析法で検出できる蛋白質修飾としては、リン酸化、ニトロ化、グルコシル化、アセチル化、メチル化、および脂質化があげられる。これらの蛋白質修飾は細胞で様々な生物学的役割を持っている。質量分析法(MS)は、分子または原子をイオン化して、蒸発させ、それらの質量/電荷数比によりこれらのイオン類を分離できる装置に導入し、イオン類の(質量/電荷)比を測定する解析技術である。また、質量分析法は、分子類を断片に破壊し、その結果、分子類の構造決定を可能にすることを伴う。液体クロマトグラフ法の物理的分離のテクニックとのMSの組み合わせは、液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)として知られている。
【0004】
典型的なMS手順で、サンプルはMS装置にロードされ、そしてこのサンプル中に存在している化合物はイオン化される。これは例えば、電子衝撃イオン化(ESI)またはマトリツクスアシステッドレーザ脱離/イオン化(MALDI)による。そして、イオン類の質量/電荷比は異なった形式の質量分析、たとえば飛行時間、イオントラップまたは四重極、またはこれらの組み合わせで計算される。
【0005】
正常細胞のホメオスタシスは細胞信号系路(cell signalling pathways)の動作で制御される。これが緩和されると、癌、神経変性、アレルギーおよび糖尿病を含む多くの疾病の原因となる。タンパク質と脂質キナーゼはこれらの系路の重要な要素である。したがって、これらの酵素は多くの疾病の治療のために最も重要な薬物標的のクラスの1つを表す。
【0006】
酵素活性の不偏性検出のためのアプローチが報告された。酵素活性部位の反応性アミノ酸へ共有結合する化学プローブを使用することは可能である(Blethrow, J.D. 他. Proc NatlAcadSci USA 105, 1442-1447 (2008))または基体上のアミノ酸へ共有結合する化学プローブを使用することも可能である(Barglow, K.T. & Cravatt, B.F. Nat Methods 4, 822-827 (2007))。プローブに結合されたタンパク質は、親和性により精製され、質量分析法によって同定される。このアプローチは活性と基体を検出できるが、多くの細胞を必要とする。そして、提供された情報は、定性的である。
【0007】
より定量的なアプローチとして、特異的キナーゼの基体であることが知られているタンパク質におけるリン酸化部位の定量化は、キナーゼ活性の尺度として機能する。
読み取りとして質量分析法を使用して実行すると、このアプローチはただ一つの実験で数百ないし数千のリン酸化部位の定量化を許容する。例えば、安定同位体での代謝性の標識付けを使用して(SILACアプローチ)、EFGでヒーラ細胞を処理したときに異なるレベルの発現を示す2000よりも多いリン酸化部位の定量化が可能であった(Olsen, J.V. 他、 Cell 127, 635-648 (2006))。しかしながら、細胞が標識されたアミノ酸類を取り入れるために代謝的に活性である必要があるので、1次組織による細胞シグナリングを定量化する一般的ツールとしてこのアプローチを使用できない。また、少ないスループットは有用性を制限する。
【0008】
りん酸化ペプチドを測定するために同位体でラベルされた内部標準ペプチド類の使用は代替手段である場合がある(Gerber, S. A.他、 Proc Natl Acad Sci U S A 100, 6940-6945 (2003)) 。理論的には可能であるが、内部標準として使用する安定同位体でラベルされた何千ものりん酸化ペプチドの合成は実際には可能でない。
【0009】
安定同位体で化学的にペプチド類をラベルするのに、iTRAQ試薬を使用できる(Ross, P. L.; 他、MoI Cell Proteomics 2004, 3, (12), 1154-69.)。修飾ペプチドを含むペプチド類の相対定量化にこのテクニックを使用できる。制限は、比較できるサンプル数が同位体標識の数によって制限されるということである。データの統計的検証を得るために有用性に限界がある。化学標識付けは、また、薬が使用される状況で実用的でなく、化学反応段階で可変性が導入される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、当該技術分野において、第1次組織における、シグナルリング系路の、不偏性で、包括的で正確な測定に使用できる方法に対する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者は修飾ペプチド(modified peptides)の定量化方法、特にはりん酸化ペプチドの定量化方法の改良方法を見いだした。本発明の方法は修飾ペプチドに関するデータベースの作成と、生物試料から得たデータのデータベースとの比較、典型的にはコンピュータプログラムを使用した比較を含む。
【0012】
第1の態様では、本発明はサンプル中の修飾ペプチドの定量化方法を提供し、この方法は以下の工程を含む:
(a) サンプルからペプチド類を得る;
(b) 工程(a)で得られたペプチド類に参照修飾ペプチド(reference modified peptides)を追加し、ペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物を製造する;
(c) ペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物について質量分析法(MS)を行い、サンプル中のペプチド類に関連したデータを得る;および
(d) 修飾ペプチドに関するデータベース内のデータと、サンプル中のペプチド類に関連するデータを、コンピュータプログラムを使用して比較する;
ここで、修飾ペプチドに関するデータベースが、以下を含む方法によってコンパイルされる:
i) サンプルからペプチド類を得る;
ii) 工程(i)で得られたペプチド類から修飾ペプチドを富化する(enriching);
iii) 工程(ii)で得られた富化された修飾ペプチドについて液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC−MS/MS)を行う。
iv) 修飾ペプチドを同定するために、工程(iii)で検出された修飾ペプチドを、既知のリファレンスデータベースと比較する;および
(v) 工程(iv)で同定された修飾ペプチドに関連するデータをデータベースにコンパイルする。
【発明の効果】
【0013】
本発明はサンプルの修飾ペプチドの定量化方法を提供する。本発明の方法は、質量分析法で検出できるすべての修飾を含むペプチド類の定量化に適している。
【0014】
本発明の方法は、より長いタンパク質から得られる修飾ペプチドを定量化するのに使用される。同時に何千もの修飾ペプチドを定量化するのに本発明の方法を使用できる。
【0015】
また、本発明の方法は、例えば、アセチル化、ニトロ化、グリコシル化、メチル化および/または脂質化によって修飾されたペプチド類の定量化に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施態様について図説するフローチャートである。
【図2】図2Aから2Dは、TIQUASを使用する細胞信号の定量分析のための戦略を示す。
【図3】図3−1から図3−3は、実施例1の分析で同定されたリン酸化部位の例を示す。
【図4】図4Aは、PI−103に対する異なる感受性で、細胞ライン内のPI−103による、増殖の50%抑制濃度(IC50)を示す。図4Bは、同じ細胞ラインに本発明の方法を使用したりんペプチドの定量化の結果を示している。
【図5】図5Aから5Dは、無標識のLC−MSによる、正確なりんペプチド定量化のための戦略を示す。
【図6】図6Aから6Fは、シグナル伝達阻害剤への異なった鋭敏度を有するAML細胞ラインが、蛋白質リン酸化の顕著に異なるパターンを示すことを示す。
【0017】
本発明の方法は特にサンプル中のりん酸化ペプチドの定量化に有用である。その結果、1つの実施態様では、修飾ペプチドはりん酸化ペプチドである。本本明細書において、本発明の実施態様での「リンタンパク質」、または「ホスホタンパク質」という用語は、りん酸化蛋白質について言及するのに使用される。そして、「りんペプチド」、および「ホスホペプチド」という用語は、りん酸化ペプチドについて言及するのに使用される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ペプチド類を含むすべてのサンプルの修飾ペプチドを定量化するのに本発明の方法を使用できる。サンプルは、典型的には生物試料であり、生物源から入手されたすべてのタイプのサンプル、例えば人間、動物、植物またはバクテリアから入手されたサンプルであることができる。その結果、本発明は人間および非人間のソースから入手されたサンプルの使用を包含する。
【0019】
本発明の方法は対象となる任意の種からのサンプルの修飾ペプチドの検出と定量化に使用できる。典型的に、本発明の方法は、人間または動物からのサンプルを分析するのに使用される。動物は、典型的にマウス、ラット、モルモット、牛、羊またはヤギである哺乳動物である。あるいはまた、動物はたとえば鶏のような鳥、ゼブラ・フィッシュのような魚、虫の線虫のようなネマトーダ、またはミバエキイロショウジョウバエなどの昆虫などである。また、バクテリアや酵母などの他の生命体からのサンプルを分析するのに本発明の方法を使用できる。エシュリキア属大腸菌、サルモネラ・エンテリカ、肺炎球菌または黄色ブドウ球菌などのバクテリア、またはパン酵母サッカロマイセスセレビシアエまたは分裂酵母シゾサッカロマイセスポンベなどの酵母などの、実験的に重要な種からのサンプルを分析するのに本発明の方法を使用できる。また、植物、かび類またはウイルスからのサンプルを分析するのに本発明の方法を使用できる。
【0020】
典型的には、人間から生物試料を得る。例えば、尿、血液、または別の組織などの体液のサンプルであることができる。典型的に、生物試料は、細胞ライン(cell line)または組織、典型的には1次組織である。例えば、サンプルは人間または動物からの組織であることができる。人間または動物は、健康であるか、または病的であることができる。
【0021】
本発明のいくつかの実施態様では、サンプル自体またはサンプルが入手される生体が、本発明の方法を行う前にテスト物質で処理される。したがって、この実施態様では、組織が得られる細胞ラインまたは生体が、細胞ラインまたは組織に本発明の方法を行う前に、テスト物質で処理される。テスト物質は、典型的には外来化学物質または薬物であり、たとえば低分子阻害剤、RNAi、治療用ペプチド、および抗体であることができる。本発明のこの実施態様は、テスト物質のペプチド修飾への効果の調査を許容する。たとえばりん酸化ペプチドを定量化するのに使用される1つの実施態様では、本発明の方法を行う前に、系路のアゴニスト(agonists of pathways)、および/またはキナーゼ阻害薬で細胞ラインを処理できる。典型的なキナーゼ阻害薬は、実施例で使用されるように、ワートマニンやPI−103などのPI3Kの阻害剤を含んでいる。少なくとも80のキナーゼ阻害薬が異なったステージで臨床開発中である(Zhang, J.;et al Nat Rev Cancer 2009, 9,(1),28−39)。このテクニックも、キナーゼ経路に影響を与えると疑われた他のタイプの阻害剤、たとえばHSP90阻害剤、ホスファターゼ阻害剤および抗体医薬を調査するために有用である。
【0022】
本発明の方法の工程(a)は、サンプルからペプチド類を得ることを含む。当技術分野で知られていた任意の適切な方法を使用することでサンプルからペプチド類を得ることができる。
【0023】
1つの実施態様では、本発明方法の工程(a)は以下を含む:
(1)サンプルに細胞を溶解する;
(2)工程(1)で得られた溶解細胞からタンパク質を抽出する;および
(3)前記タンパク質をペプチド類に分解する。
【0024】
本発明のこの実施態様の工程(1)では、サンプル中の細胞は、溶解されるか、またはパックリと裂ける(split open)。当技術分野で知られている任意の適当な手段を使用して細胞を溶解することができる。例えば機械的な溶解(例えば、ワーリングブレンダを使用する)、液体均質化、超音波処理または手動による溶解(例えば、乳棒と乳鉢を使用する)などの物理的方法またはCHAPSまたはトリトン−Xなどの界面活性剤に基づく方法を使用できる。典型的には、細胞は、尿素ベースのバッファなどの変性バッファを使用することで溶解される。
【0025】
本発明のこの実施態様の工程(2)では、タンパク質が工程(1)で得られた溶解細胞から抽出される。言い換えれば、タンパク質は溶解細胞の他の成分から分離される。
【0026】
本発明のこの実施態様の工程(3)では、溶解細胞からのタンパク質はペプチド類まで分解される。言い換えれば、タンパク質は、より短いペプチド類へ分解される。また、タンパク質の分解は一般的に消化と呼ばれる。本発明で当技術分野で知られている任意の適当な薬剤を使用することでタンパク質切断を行うことができる。
【0027】
タンパク質切断または消化が、プロテアーゼを使用することで典型的に行われる。本発明では任意の適当なプロテアーゼが使用できる。本発明では、プロテアーゼは、典型的にはトリプシン、キモトリプシン、Arg−C、ペプシン、V8、Lys−C、Asp−C、および/またはAspNである。あるいはまた、化学的にタンパク質を分解することができる。例えばヒドロキシルアミン、ギ酸、臭化シアン、BNPS−スカトール、2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸(NTCB)または他の適当な薬剤が使用できる。
【0028】
本発明に使用されるペプチド類、および上で説明した工程(3)でタンパク質切断または消化で典型的に製造されるペプチド類は、質量分析に適している。典型的に、そのようなペプチド類は約5から30のアミノ酸長さであり、例えば7から25のアミノ酸類、10から20のアミノ酸類、12から18のアミノ酸または14から16のアミノ酸類である。しかしながら、より短いかまたはより長いペプチド類、たとえば約2から約50、約3から約40、または約4から約45のアミノ酸類なども使用できる。分析できるペプチドの長さは、質量分析計のそのような長いペプチド類を配列する能力によって制限される。ある場合には、最大300のアミノ酸類のポリペプチドを分析できる。
【0029】
本発明の方法の工程(b)では、参照修飾ペプチドはサンプルから得られたペプチド類に追加され、ペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物を製造する。その結果、工程(b)は1サンプルあたり1つのペプチド類混合物(修飾したものを含む)をもたらす。また、参照修飾ペプチドは本明細書では「内部標準」(ISs)と呼ばれる。典型的には、5から10、例えば、6から9または7から8の参照修飾ペプチドが加えられる。
【0030】
本発明では、参照修飾ペプチドは典型的には、参照りん酸化ペプチドである。そのような参照りん酸化ペプチドは、しばしば内部標準(IS)タンパク質と呼ばれる、定義された特性と濃度の参照蛋白質から典型的に得る。ISsは市販のタンパク質、例えば、カゼインである場合がある。あるいはまた、ISsは特に本発明における使用のために合成される。本発明のこの実施態様では、参照りん酸化ペプチドはそれが定量化するのが望ましいりん酸化ペプチドのいくつかと同じ配列で典型的に合成されるが、炭素と窒素の安定した重同位元素が富化される。ペプチド類は、1回に1つのアミノ酸が加えられ、アミノ酸鎖またはポリペプチドを形成する固相化学を使用することで典型的に合成される。
【0031】
典型的に、そのようなペプチド類は一般的な12Cと14Nを置換する、13Cと15Nで富化される。この富化作用は、同じ配列を有する内因のりん酸化ペプチドより約6から10ダルトン重い参照りん酸化ペプチドをもたらし、質量分析計を使用することでそれらを区別できるようにする。
【0032】
本発明の別の実施態様では、本発明方法がアセチル化ペプチドを定量化するのに使用されるとき、参照修飾ペプチドは、参照アセチル化ペプチド類である。そのような参照アセチル化ペプチドは、典型的にはアセチル化アミノ酸類を含む合成ペプチドである。
【0033】
参照修飾ペプチドは、典型的には比較されるそれぞれのサンプルに既知量で加えられる。内因の修飾ペプチドに関する信号は、川下の分析での参照修飾ペプチドに関する信号に規格化される。
【0034】
1つの実施態様では、本発明方法の工程(b)が、工程(b)で得たペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物から修飾ペプチドを富化し、富化された修飾ペプチドの混合物を製造する。その結果、この付加段階は1サンプルあたり1つの富化された修飾ペプチドの混合物をもたらす。本発明のこの実施態様では、工程(c)は、富化された修飾ペプチドの混合物に質量分析法(MS)を行い、サンプル中のペプチド類に関連したデータを得る。本発明のこの実施態様では、工程(b)は典型的には富化されたりん酸化ペプチドの混合物をもたらす。
【0035】
修飾ペプチドの富化工程は、クロマトグラフィーを使用することで典型的に行われる。1つの実施態様では、クロマトグラフィーは固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィー、および/または二酸化ジルコニウム(ZrO2)クロマトグラフィーである。典型的には、クロマトグラフィーは、IMACおよびTiO2クロマトグラフィーである。
【0036】
あるいはまた、修飾ペプチドを富化する工程は、抗体に基づく方法を使用することで行われる。
【0037】
本発明の1つの実施態様では、定量化されるペプチド類がりん酸化ペプチドである場合、チロシン、トレオニン、セリンまたはヒスチジンなどのりん酸化アミノ酸への親和性を有する抗体が、固体マトリックスに結合される(固定される)。りん酸化ペプチドはこれらの抗体が特異的にりん酸化ペプチドに結合する能力によって富化される。そして、りん酸化ペプチドが抗体被覆基質上に保持されるのに対して、非リン酸化ペプチド類は洗浄除去される。固定された抗体からのりん酸化ペプチドの溶離は、低pH溶媒の使用、または抗体とりん酸化ペプチドの間の相互作用をなくす他の適切な方法により行われる。
【0038】
本発明の別の実施態様では、定量化されるペプチド類が、アセチル化ペプチドペプチド類である場合、アセチル化アミノ酸残基に対する特異的抗体の使用により富化される。そのような抗体は、固体マトリックスに結合されて、次に、アセチル化アミノ酸残基に特異的に結合する抗体の能力によって富化される。そして、アセチル化ペプチドが固定された抗体の上に保持されるのに対して、非アセチル化ペプチドは洗浄除去される。
【0039】
本発明の方法の工程(c)では、質量分析法(MS)が工程(b)で得たペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物について行われ、サンプル中のペプチド類に関連したデータを得る。典型的に、このデータはサンプルのためのMSデータファイルの形である。本発明のひとつの実施態様では、本発明方法の工程(b)が、工程(b)で得たペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物から修飾ペプチドを富化し、富化された修飾ペプチドの混合物を精製することをさらに含む場合に、工程(c)は富化された修飾ペプチドの混合物に質量分析法(MS)を行い、典型的にはサンプルのMSデータファイルである、サンプル内のペプチド類に関するデータを得る。典型的に、質量分析法は液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)である。その結果、工程(c)は典型的に、LC−MS データファイル(それぞれのサンプルから1つ)をもたらす。
【0040】
典型的には、サンプル内のペプチド類に関するデータは、ペプチド類の質量/電荷(m/z)比、電荷(z)、および/または相対保持時間を含む。
【0041】
本発明方法の工程(d)では、サンプル中のペプチド類に関連するデータ(典型的にはMSデータファイル形式であり、より典型的にはLC−MSデータファイルの形式である)は、修飾ペプチドに関するデータベースのデータと、コンピュータプログラムを使用して比較される。たとえば、サンプル中のペプチド類の(質量/電荷:m/z)比、電荷(z)、および相対保持時間が、データベースの(質量/電荷:m/z)比、電荷(z)、および相対保持時間と比較される。これは、修飾ペプチドに関するデータベースを使用することで、サンプルのそれぞれの修飾ペプチドの同定と定量化を可能にする。
【0042】
典型的には、コンピュータプログラムは、PESCAL(Vanhaesebroeck、B.MoI Cell Proteomics 6(9)、1560-73、Cutillas、P.R.;2007)と呼ばれるプログラムである。PESCALは、比較されるべきすべてのサンプルから、データベースに存在するそれぞれの修飾ペプチドのために抽出されたイオンクロマトグラム(XIC、すなわち溶出プロファイル)を構成する。りん酸化されるべき、先に同定されたペプチドの質量/電荷と保持時間(すなわち、手順の第1で構成されたデータベース中の存在)にXICをセンタリングすることによって行われる。また、PESCALは、ペプチドの電荷が同一性の正しい指摘の助けになると考えている。また、プログラムはそれぞれのXICのピーク高さとカーブの下の面積について計算する。データは、参照修飾ペプチドにより分析されたそれぞれの修飾ペプチドの強度読み(ピーク面積または高さ)で割ることによって規格化される。
【0043】
本発明の方法において、修飾ペプチドに関するデータベースは、以下の工程を含む方法によってコンパイルされる:
(i)サンプルからペプチド類を得る;
(ii)工程(i)で得られたペプチド類から修飾ペプチドを富化する;
(iii)工程(ii)で得られた富化された修飾ペプチドに液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析法(LC−MS/MS)を行う;
(iv)修飾ペプチドを同定するために、工程(iii)で検知された修飾ペプチドと、既知のリファレンスデータベースを比較する;および
(v)工程(iv)で同定された修飾ペプチドに関連するデータをデータベースにコンパイルする。
【0044】
本発明方法の工程(i)は、サンプルからペプチド類を得ることを含む。当該技術分野で知られていた任意の適切な方法を使用してサンプルからペプチド類を得ることができる。
【0045】
サンプルは典型的に生物試料であり、上記のように生物源から入手されたすべてのタイプのサンプルであることができる。典型的に、サンプルは、細胞ラインまたは1次組織である。
【0046】
本発明のいくつかの実施態様では、工程(i)に使用されるサンプルは細胞ラインであり、サンプルは工程(i)を行う前に阻害剤で処理される。阻害剤は任意の適当なタイプの阻害剤であることができる。典型的には、本発明の方法がりん酸化ペプチドを定量化するのに使用されるときには、阻害剤はホスファターゼ阻害剤である。ホスファターゼ阻害剤による処理はリン酸化の化学量論量を増加させ、データベースに含むことができるより大きい数のりん酸化ペプチドに帰結する。さらに、目的がアセチル化されたペプチド類およびメチル化されたペプチド類である場合には、それぞれメチル基転移酵素またはアセチル加水分解酵素阻害剤を使用できる。
【0047】
1つの実施態様では、本発明方法の工程(i)は以下を含む:
(1)サンプルの細胞を溶解する;
(2)工程(1)で得られた溶解細胞からタンパク質を抽出する;および
(3)上記の工程(a)の工程(3)と同じ方法を使用して、前記タンパク質をペプチド類に分解する。
【0048】
本発明のこの実施態様の工程(1)では、サンプルの細胞は、溶解されるか、またはパックリと裂ける。当技術分野で知られている任意の適当な手段を使用して細胞を溶解することができる。例えば機械的な溶解(例えば、ワーリングブレンダを使用する)、液体均質化、超音波処理または手動による溶解(例えば、乳棒と乳鉢を使用する)などの物理的方法またはCHAPSまたはトリトン−Xなどの界面活性剤に基づく方法を使用できる。典型的に、細胞は、尿素ベースのバッファなどの変性バッファを使用して溶解される。
本発明のこの実施態様の工程(2)では、タンパク質は工程(1)で得られた溶解細胞から抽出される。言い換えれば、タンパク質は溶解細胞の他の成分から分離される。
【0049】
本発明のこの実施態様の工程(3)では、溶解細胞からのタンパク質は、上記の工程(a)の工程(3)と同じ方法を使用してペプチド類まで分解される。その結果、工程(i)の工程(3)は、変性されたペプチド類を含むペプチド類の混合物をもたらす。
【0050】
本発明では、当該技術分野で公知の任意の適当な薬剤を使用してタンパク質切断を行うことができる。しかしながら、上記のように、工程(i)の工程(3)に使用される切断方法は、上記の工程(a)の工程(3)で使用される切断方法と同じでなければならない。タンパク質切断は、典型的にはプロテアーゼを使用して行われる。本発明では任意の適当なプロテアーゼが使用できる。本発明では、プロテアーゼは、典型的にトリプシン、キモトリプシン、Arg−C、ペプシン、V8、Lys−C、Asp−CまたはAspNである。あるいはまた、化学的にタンパク質を分解することができる。例えばヒドロキシルアミン、ギ酸、臭化シアン、BNPS−スカトール、2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸(NTCB)または他の適当な薬剤が使用できる。
【0051】
本発明に使用されるペプチド類、および上で説明した工程(3)でタンパク質切断で典型的に製造されるペプチド類は、質量分析に適している。典型的に、そのようなペプチド類は約5から30のアミノ酸長さであり、例えば、7から25のアミノ酸類、10から20のアミノ酸類、12から18のアミノ酸または14から16のアミノ酸類である。しかしながら、より短いかまたはより長いペプチド類、たとえば約2から約50、約3から約40、または約4から約45のアミノ酸類なども使用できる。分析できるペプチドの長さは、質量分析計のそのような長いペプチド類を配列する能力によって制限される。ある場合には、最大300のアミノ酸類のポリペプチドを分析できる。
【0052】
本発明方法の工程(ii)では、修飾ペプチド類は工程(i)で得られたペプチド類から富化される。工程(ii)は修飾ペプチド類内で富化されたいくつかの断片をもたらす。
【0053】
工程(ii)における修飾ペプチドの富化工程は、多次元クロマトグラフィー(multidimensional chromatography)を使用することで典型的に行われる。1つの実施態様では、多次元クロマトグラフィーは、強カチオン交換高速液クロマトグラフ(SCX−HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、および二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィーで行われる。他の実施態様では、多次元クロマトグラフィーは、陰イオン交換高速液クロマトグラフ(SAX−HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)および二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィーを使用して行われる。本発明のこれらの実施態様では、クロマトグラフィー技術は逐次的に行われる。
【0054】
別法として、工程(ii)の修飾ペプチドの富化工程は、抗体に基づく方法で行われる。
【0055】
本発明の1つの実施態様では、定量化されるペプチド類がりん酸化ペプチドである場合、チロシン、トレオニン、セリンまたはヒスチジンなどのりん酸化アミノ酸への親和性を有する抗体が、固体マトリックスに結合される。りん酸化ペプチドはこれらの抗体が特異的にりん酸化ペプチドに結合する能力によって富化される。そして、りん酸化ペプチドが抗体被覆基質上に保持されるのに対して、非リン酸化ペプチド類は洗浄除去される。固定された抗体からのりん酸化ペプチドの溶離は、低pH溶媒の使用、または抗体とりん酸化ペプチドの間の相互作用をなくす他の適切な方法により行われる。
【0056】
本発明の別の実施態様では、定量化されるペプチド類が、アセチル化ペプチドペプチド類である場合、アセチル化アミノ酸残基に対する特異的抗体の使用により富化される。
そのような抗体は、固体マトリックスに結合されて、次に、アセチル化アミノ酸残基に特異的に結合する抗体の能力によって富化される。そして、アセチル化ペプチドが固定された抗体の上に保持されるのに対して、非アセチル化ペプチドは洗浄除去される。
【0057】
本発明の工程(iii)では、工程(ii)で得られた富化された修飾ペプチドについて液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC−MS/MS)を行う。
【0058】
本発明の工程iv)では、修飾ペプチドを同定するために、工程(iii)で検出された修飾ペプチドを、既知のリファレンスデータベースと比較する。この工程は、典型的には市販のサーチエンジン、たとえばMASCOT、ProteinProspector Phenyx、またはSequestサーチエンジン(ただしこれらに限定されるものではない)を使用することで行われる。
【0059】
本発明の方法の工程(v)では、工程(iv)で同定された修飾ペプチドに関連するデータが、データベースにコンパイルされる。このデータベースは次の生物学的実験における、りん酸化ペプチドの定量化に必要であるすべてのパラメータ類を記載する。典型的に、修飾ペプチドに関連するデータは、修飾ペプチドのアイデンティティ、質量/電荷(m/z)比、電荷(z)および/または相対保持時間を含む。これは、サンプル中のペプチドに関連するデータ、典型的にはサンプル中のペプチド類の(質量/電荷数)比、電荷(z)、および相対保持時間がデータベース内の修飾ペプチドの値と比較されることを許容して、その結果、サンプルの修飾ペプチドの識別と定量化を許す。
【0060】
本発明の方法を使用して比較できるサンプル数の限界は全くない。
【0061】
本発明の方法は、りん酸化ペプチドを定量化するのに典型的に使用される。この実施態様では、本発明の方法はシグナルリングの、標的の徹底的な定量化のためのテクニック(TIQUASと命名される)であり、シグナルリング系路活性の感受性のある、迅速かつ包括的な定量化を許容する。本発明方法は、1つの分析で、同時に、タンパク質上の何千ものリン酸化部位の量を測定できる。
【0062】
本発明の方法は、シグナルリング系路の分析に用途がある。なぜなら、シグナルリング系路の束(flux)が、脂質、プロテインキナーゼ、タンパク質をリン酸化する酵素によって大きい程度で制御されるからである。
【0063】
本発明のこの実施態様による方法は、りん酸化ペプチドを定量化するのに質量分析法を使用する他の方法に比較して利点がある(表1を参照)。これらの利点としては、包括性(何千ものりん酸化ペプチドを定量化できる)、スループット(分析時間は約2時間/サンプル、または約20サンプル/日/LC−MSである)、無制限な数のサンプルを比較する技術能力、およびその優れた感受性(定量化はタンデム質量分析法(MS/MS)によるペプチド類の同定を必要としない)があげられる。比較のために、SILAC実験は最大3個のサンプルを比較するために3週間を要する。なぜなら、細胞が約2週間、SILAC培地で成長する必要があるからであり、大規模な分離がそれぞれの実験に必要である。
【0064】
表1の参照文献
1. Olsen, J.V. 他、 Cell 127, 635-648 (2006)
2. Cutillas, P.R 他、 Mol Cell Proteomics 4, 1038-1051 (2005)
3. Gygi, S.P. 他、 Nat Biotechnol 17, 994-999 (1999)
4. Ross, P.L. 他、 Mol Cell Proteomics 3, 1154-1169 (2004)
5. Gerber, S.A. 他、Proc Natl Acad Sci U S A 100, 6940-6945 (2003)
6. Barglow, K.T. & Cravatt, B.F. Nat Methods 4, 822-827 (2007)
7. Cutillas, P.R. 他、 Proc Natl Acad Sci U S A 103, 8959-8964 (2006)
【0065】
【表1】
【0066】
1つの実施態様では、本発明は以下を含む、サンプル中のりん酸化ペプチドの定量化方法を提供する:
(a)サンプルからペプチド類を得る;
(b)任意に、工程(a)で得られたペプチド類に参照りん酸化ペプチドを追加して、ペプチド類と参照りん酸化ペプチドとの混合物を形成し、工程(b)で得られたペプチド類と参照りん酸化ペプチドとの混合物からりん酸化ペプチドを富化し、りん酸化ペプチドが富化された混合物を形成する;
(c)ペプチド類と参照りん酸化ペプチドとの混合物、またはりん酸化ペプチドが富化された混合物について質量分析(MS)を行い、サンプル中のペプチド類に関するデータを得る;および
(d)サンプル中のペプチド類に関するデータを、りん酸化ペプチドに関するデータベース内のデータと、コンピュータプログラムを使用して比較する;
ここで、りん酸化ペプチドに関するデータベースは、以下を含む方法によってコンパイルされる:
(i)サンプルからペプチド類を得る;
(ii)工程(i)で得られたペプチド類からりん酸化ペプチドを富化する;
(iii)工程(ii)で得られた富化されたりん酸化ペプチドについて液体クロマトグラフ−タンデム質量分析法(LC−MS/MS)を行う;
(iv)りん酸化ペプチドを同定するために工程(iii)で検出されたりん酸化ペプチドを既知のリファレンスデータベースと比較する;
(v) 工程(iv)で同定されたりん酸化ペプチドに関連するデータをデータベースにコンパイルする。
【0067】
1つの実施態様では、本発明は図1で示されるようなサンプル中のりん酸化ペプチドの定量化方法を提供する。
【0068】
1つの実施態様では、本発明は以下のような、サンプル中のりん酸化ペプチドを定量化する方法を提供する。本発明方法は本明細書においてTIQUASと呼ばれる。TIQUAS技術の基礎はLC−MSで検出して定量化できる、りん酸化ペプチドに関するデータベースの構築である。このデータベースは、次の生物学的実験におけるりん酸化ペプチドの定量化に必要であるすべてのパラメータ類を記載し、これはりん酸化ペプチドの同一性、質量/電荷比(m/z)、電荷および相対保持時間を含む。データベースは、多次元クロマトグラフィー(たとえば強カチオン交換、IMACまたはTiO2)を使用してりん酸化ペプチドを富化することによって、構成される。そして、富化されたりん酸化ペプチドの断片はりん酸化ペプチドの同定のためにLC−MS/MSによって分析される。データベースを構成するのは質量分析時間の約2から3週間かかるが、それがいったん組み立てられると、良いスループットおよび感受性を伴う生物学的実験を実行するのに使用できる。
【0069】
本発明の発明者は生物学的実験から取られたりん酸化ペプチドについてのLC−MSにおいて、データベースに記載されたそれぞれのりん酸化ペプチドの定量化を自動化するPESCAL(Cutillas and Vanhaesebroeck, Molecular & Cellular Proteomics 6, 1560-1573 (2007))というコンピュータプログラムを作成した。これらの生物学的実験において、細胞溶解物のタンパク質は、トリプシンまたは他の適当なプロテアーゼを使用することで消化される。りんペプチド内部標準(参照りん酸化ペプチドである)は、比較されるすべてのサンプルに既知量でスパイクされる(spiked)。得られたペプチド混合物の中のりん酸化ペプチドは、実行が簡単な(simple-to-perform)IMACまたはTiO2抽出段階を使用して富化される。富化されたりん酸化ペプチドは約120分(総サイクル)の1回のLC−MS測定で分析される。PESCALは次いで、比較されるすべてのサンプルにわたり、データベースに存在するそれぞれのりん酸化ペプチドのために、抽出されたイオンクロマトグラム(XIC、溶出プロファイル)を作図する。プログラムはそれぞれのXICのピーク高さと曲線下の面積を計算する。データは、それぞれのりんペプチド分析物質の強度読み値(ピーク面積または高さ)をりんペプチド内部標準のもので割ることによって、規格化される。
【0070】
このホスホプロテオミック(phosphoproteomic)アプローチは無制限なサンプルと複製の比較を許容する。
【0071】
別の実施態様では、本発明の方法はサンプル中のアセチル化ペプチドのための定量化方法である。アセチル化の定量分析は、何千ものペプチド類を発生させるための、たとえばトリプシンのような適当なプロテアーゼで細胞溶解物中のタンパク質を消化することを含む。そして、アセチル化ペプチドはアセチル化アミノ酸残基に対して特異的な抗体の使用により富化される。アセチル化アミノ酸類を含む合成ペプチドは、富化工程の前にサンプルにスパイクされる内部標準として使用される。そして、LC−MS/MSがこれらのアセチル化ペプチド類を同定するために使用され、データベースに組み入れられる。アセチル化ペプチドは個々のサンプル内でLC−MSによって同定され、参照としてデータベースにエントリーされる。
【0072】
本発明は以下の実施例を参照してさらに詳細に説明される。この実施例は例示の目的にのみ示される。実施例では、多くの図を参照する。
【0073】
図1は、本発明の実施態様について図説するフローチャートである。フローチャートの備考は以下の通りである。
1; ホスファターゼ阻害剤による処理は、リン酸化の化学量論量を増加させ、データベースに含むことができる多量のりん酸化ペプチドに帰結する。
2; プロテアーゼは、典型的にはトリプシン、キモトリプシン、Arg−C、ペプシン、V8、Lys−C、Asp−CまたはAspNである。
3; 多次元的クロマトグラフが、典型的には強カチオン交換を利用する、高速液クロマトグラフ(HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、および二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィーを使用するか、または陰イオン交換を利用する高速液クロマトグラフ(HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)および二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィーを使用して行われる。代替手段としては、抗体ベースの方法を使用できる。
4; 生物試料は適当な生物試料で、典型的には細胞ライン(任意に研究薬剤で処理される)であるか、または動物または患者からの1次組織である。
比較できるサンプル数の限界はない。
5; 内部標準は、参照りん酸化ペプチドであり、比較されるサンプルのそれぞれに既知量で追加される。内因のりん酸化ペプチドの信号は、川下の分析で内部標準ペプチドに関する信号に対して規格化される。
【0074】
図2は、TIQUASを使用する細胞信号の定量分析のための戦略を示している:
(A)実験設計を示す;
(B)得られたデータ(4つの非依存性の生物学的複製)のまとめを与え、確率によって分類されたデータのスナップを撮る(snapshot)。
(C)プロテインホスファターゼ1(PP1)制御サブユニット11からのりん酸化ペプチドの抽出されたイオンクロマトグラム(XIC)の例である。
(D)PI3Kの川下に先に示されたタンパク質のリン酸化部位の例を示す。
【0075】
図3は、実施例1の分析で同定されたリン酸化部位の例を示す。
【0076】
図4 (A)は、PI−103に対する異なる感受性で、細胞ライン内のPI−103による、増殖の50%抑制濃度(IC50)を示す。
(B)は、同じ細胞ラインに本発明の方法を使用したりんペプチドの定量化の結果を示している。表はりんペプチドと正の相関(より抵抗力がある細胞ラインの高いリン酸化)を示している。
【0077】
図5は無標識のLC−MSによる、正確なりんペプチド定量化のための戦略を示している。
(A)MSスペクトルは、m/z = 751.33939, tR=54.54 分、z = 3に、ミトジェン活性化プロテインキナーゼ3 (mitogen-activated protain kinase:pERKl) ペプチド(IADPEHDHTGFLTEpYVATR)を示している。
(B)この質量/電荷数±25ppmの抽出されたイオンクロマトグラム(XIC)は4
つの可能な候補をもたらす。
(C); 追加の荷電および同位体分布制限を適用した後に、このペプチドのクロマトグラフ溶出ピークを明確に同定できる(図では、矢印で示される)。なぜなら、最初の3つの同位体のためのXICsにはスペクトルに示されたものに対応する相対強度がある(また、配列データから同位体の相対強度について計算できる)からである。
(D); 更なる特異性は、XICが組み立てられる質量窓(mass window)を狭くする(±7ppm)ことによって、達成される。
【0078】
図6は、シグナル伝達阻害剤への異なった鋭敏度を有するAML細胞ラインが、蛋白質リン酸化の顕著に異なるパターンを示すことを示している。(A),(B)および(C)AML細胞ラインは、示した阻害剤の存在下で72時間培養され、MTSアッセイによって生存が測定された。データ点は平均±SEM(n=3)(D)、(E)、および(F)として示される。りんペプチドの例は、TIQUASにより同定され、確固として(倍率変化によって評価される)、顕著に(t−検定統計によって評価される)、(A)、(B)および(C)のシグナル伝達阻害剤への異なった鋭敏度で、異なって細胞ラインが制御されることが示された。
【0079】
実施例1−PI3Kシグナリングの研究
本発明の新規な定量化技術は、NIH−3T3線維芽細胞中のリン酸化部位を定量化するのに使用された。3T3線維芽細胞は、飢餓状態にされ(starved)、ついでpan−PI3K阻害剤ウォルトマンニン(wortmannin:WM)の存在下でのプレインキュベーションをしたものとしないものについて、血清によって刺激された。
これらの実験が4回行われた。
【0080】
図2(A)は実験設計を示している。細胞は、示したように処理され、尿素ベースのバッファで溶解され、核と細胞内可溶質タンパク質を得て、タンパク質は消化された。得られたりん酸化ペプチドは、IMACとTiO2クロマトグラフによって富化され、発明者によって開発されたコンピュータプログラム(PESCAL)(Cutillas and Vanhaesebroeck, Molecular & Cellular Proteomics 6, 1560-1573 (2007))を使用して定量化された。
【0081】
図2(B)は得られたデータのまとめと、確率によって分類されたデータのスナップショット(snapshot)を示す。3,100のりんペプチドがデータベースに検出されて、2,350のりん酸化ペプチドがこれらの分析で定量化された。その265が血清刺激の前の細胞のWM処理で顕著な影響を受けた(p<0.05)。図2(B)に示されたりんペプチドに関する詳細を表2に示す。
【0082】
【表2−1】
【0083】
【表2−2】
【0084】
【表2−3】
【0085】
【表2−4】
【0086】
図2(C)はPPl制御サブユニット11(CCCIpYEKPR;XIC=質量/電荷(m/z)683.26)からのりん酸化ペプチドの抽出されたイオンクロマトグラム(XIC)の例である。この部位がWMに感受性であることを示している。
【0087】
図2(D)は、PI3Kの川下であることが先に示されたタンパク質上のリン酸化部位の例を示す。4つの非依存性の実験に関するデータは、実験の再現性を示すために別々に示されている。これらの部位はPI3Kの川下にあることが知られており、その結果、これらのデータは本発明が有効であると確認するものである。このホスホプロテオミックなアプローチは無制限なサンプルと複製の比較を許容する。
【0088】
リン酸化のいくつかの部位がプロテインキナーゼとホスファターゼで同定された。細胞のWM処理により、転写および翻訳因子が影響を受けた(図3)。値は4つの非依存性の実験の、規格化されたホスホリル化ペプチドレベルの平均である。p値は、血清とWMサンプルグループに対する平均に、スチューデントのt検定を使用することで計算された。図3に示されたりんペプチドに関するさらなる情報を表3に示す。
【0089】
【表3−1】
【0090】
【表3−2】
【0091】
実施例2−PI3KとmTORの二重阻害剤へのさまざまな鋭敏度を有する細胞における、シグナルリング系路の調査
本発明のテクニックは、PI−103、脂質キナーゼPBK、およびプロテインキナーゼmTOR阻害剤へある範囲の鋭敏度を有する細胞ラインのパネル内のキナーゼ経路をプロファイルするのに使用された。図4Aに示されたパネルの細胞ラインは、PI−103を滴定してインキュベートされた。その増殖速度が阻害剤濃度の関数として測定された。阻害剤濃度は50%抑制濃度(IC50)として、マイクロモル単位の濃度で示された(図4A)。
【0092】
別の実験(図4B)では、これらの細胞ラインのりんペプチドは、開示されたテクニックを使用することで定量化された。実験は3回行われた。図4Bに示すように、いくつかのりんペプチドが50%抑制濃度値と相関を有した。これは、キナーゼ経路活性化と阻害剤効力の因果関係を示唆する。これらの値は統計的有意性と相関を有する(0.75を超えたR2値は統計的に有意である)。さらに、抵抗と感受性細胞ラインのりんペプチドの平均の信号の統計的検査法(スチューデントのt検定)の結果も、有意であった。これらのりんペプチドは、阻害剤効力の新規なバイオマーカーとして機能し、また、これらの阻害剤の作用機序を明らかにする。
【0093】
実施例3−キナーゼ阻害薬へのがん細胞の鋭敏度に関連するキナーゼ経路活性化の調査
分析法
この実施例に使用されるTIQUASアプローチは、先にLC−MS/MSによって同定されたりんペプチドの定量化を目的としたLC−MSの使用から成る。この分析は、本明細書に記載されたコンピュータプログラムPESCAL(Cutillas, P. R.; Vanhaesebroeck, B. MoI Cell Proteomics 6(9), 1560-73, 2007)を使用することで自動化されている。PESCALは所定の分子状イオンの最初の3つの同位体の抽出されたイオンクロマトグラム(XIC)を実行する。これはペプチドイオンの電荷の識別と、次に理論上の同位体分布と相関されることができる同位体の相対強度の計算の両方を許容する。
【0094】
図5は分析の原理について図説する。分析は無標識の定量化のためのクロマトグラフピークの具体的かつ信頼できる識別のためにPescalの新バージョンを備えた高分解性および高質量精度質量分析法を組み合わせる。サンプルがただ一つのLC−MS/MS測定で分析される標的へのアプローチであるので、データ依存実験でのアンダーサンプリング(undersampling in data-dependent experiments)に関する問題は避けられる。アプローチの特徴は、サンプルと複製の無制限な数の詳細な定量的情報を提供する能力と、定常的なホスホプロテオミックツールとしての使用のための十分なスループットを提供する能力である。
【0095】
白血病細胞における薬物反応のTIQUAS分析
AML発達、すなわちJAK、MEKおよびPI3K系路について重要なキナーゼのための阻害剤のパネルへの8個のAML細胞ラインの反応が調査された。細胞はLY294002、PIl03、およびIC87114(主要標的としてPI3Kを有する阻害剤)、MEK阻害剤(MEK I、Calbiochem)、JAK阻害剤(JAK I、Calbiochem)、およびFLT3阻害剤(Calbiochem)の濃度を増大させて細胞を処理した。これらのキナーゼはすべてさまざまの型の癌腫の処理のための潜在的薬物標的である。しかしながら、細胞をそれらの阻害に影響されやすくする原因となる機構は不十分にしか理解されていない。患者が制癌剤に異なった程度で応じるかもしれない臨床的症状を反映し、これらのキナーゼ阻害薬の関数としての我々のパネルの細胞ラインの増殖は、さまざまな鋭敏度を示す。
【0096】
次に、TIQUASアプローチは、HEL対AML−193(JAK Iへの抵抗力および感受性)、P31/FUJ対MV4−11(PI−103への抵抗力および感受性)、およびHEL対MV4−11(MEK Iへの抵抗力および感受性)における基本りん酸化レベルを比較するのに使用された。これらの実験は3回行われた(図6A、B、およびC)。3000より多くのりんペプチドがこれらの分析で同定された。合計1095のりんペプチドが、これらの細胞ラインで定量化された。細胞ラインの感受性と抵抗力について、数百が顕著(p<0.05)で確固とした(>2倍)差異を示した(これらの例は図6D、GおよびFに示される)。
【0097】
材料と方法
細胞培養
急性骨髄白血病細胞ライン(AML−193、CMK、CTS、HEL、Kasumi-1、KG−1、MV4−11、およびP31/FUJ)とネズミのNIH/3T3線維芽細胞は10%のウシ血清、100単位/mlのペニシリン、100マイクロg/mlのストレプトマイシンが補われた培地で、5%のCO2の湿気のある環境の中、37℃で培養された。AML細胞ラインは、RPMI中、約5から10×105細胞/ミリリットルで、50マイクロモルのβ−メルカプトエタノールを追加補充して維持された。NIH3T3線維芽細胞はDMEM培地で育てられた。
【0098】
ホスホプロテオミック研究において、AML細胞は実験の前の日に5×105細胞/ミリリットルで新鮮培地にシードされた。それぞれの培養物は10ml中に5×106細胞を含み、独立して3つの細胞培養が実行された。薬物阻害剤の効果をテストするとき、収穫の1時間前に、細胞は1マイクロMのPI−103、500nMのMEK I阻害剤、および500nMのJAK I阻害剤(それぞれCalbiochemからの528100、444937および420099)で処理された。
【0099】
細胞は10分間300xgで遠心沈殿し、1mMのバナジウム酸ナトリウムと1mMのフッ化ナトリウムを含む氷冷PBSで二度洗浄した。溶解物は、10×106細胞/ミリリットルの濃度で、変性バッファ(20mM HEPES pH8.0、8M尿素、1mMバナジウム酸ナトリウム、1mMフッ化ナトリウム、2.5mMピロリン酸ソーダ、1mMβグリセロールリン酸)を使用して行なわれた。更なる蛋白質可溶化は超音波処理で達成された。溶解残渣は10分間、20000xgで遠心沈殿してきれいにされた。上澄の蛋白質濃度はブラッドフォードアッセイで決定した。サンプルは−80℃で更なる分析まで冷凍された。
【0100】
薬物治療へのAML細胞ラインの感受性
96ウエルプレートで1×105細胞/ミリリットルで、8個の細胞ライン(AML193、CMK、CTS、HEL、Kasumi−1、KG−1、MV4−11、およびP31/FUJ)をシードした。それぞれの条件について3回実験した。2時間の回収時間の後、細胞は増大する濃度(1nM、10nM、100nM、1マイクロMおよび10マイクロM)のFLT3阻害剤、MEK I阻害剤、JAK I阻害剤、LY294002、PI−103、およびIC87114で処理された。コントロールとして、細胞は、ビヒクル(DMSO)で処理されたものと、未処理のものが利用される。72時間の処理の後に、MTSアッセイ (CellTiter 96R AQueous One Solution Cell Proliferation assay, Promega Corporation, Madison, WI, USA)によって細胞生存率が評価された。
【0101】
消化および固相抽出
サンプルの還元とアルキル化は、暗闇の中の4.1mM DTTおよび8.3mMヨードアセトアミドで室温でそれぞれ15分間、実行された。HEPES pH8.0と2M尿素でサンプルを希釈した後に、トリプシン処理が、5×106細胞あたり10TAME単位の固定されたTLCK−トリプシンを使用して、37℃で16時間行われた。消化は、1%の終末濃度でTFAを加えて停止された。得られたペプチド溶液は、メーカーガイドラインにより、Sep-Pak C18カラムを使用して脱塩した(Waters UK Ltd, Manchester, UK) 。ペプチド溶出は5mlの50%ACN/0.1%TFAで行われた。
【0102】
固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)
りんペプチド分離は、改良されたIMAC富化実験計画書(Alcolea、M.P.他、JProteome Res8(8)、3808(2009))を使用することで達成された。要約すれば、それぞれのサンプルは30分間、室温で、300マイクロリットルのFe(III)−コーティングされたセファロース高性能ビーズを、50%ACN/0.1%TFA中50%のスラリーとして使用して、インキュベートされた。非結合のペプチド類は捨てられ、ビーズは二度50%ACN/0.1%TFAの300マイクロリットルで洗浄された。富化されたりんペプチド画分は300マイクロリットルの1.5%アンモニア水、pH11で溶離された。50%のACNを含む50マイクロリットルの1.5%アンモニア水、pH11で第2の溶出が行われ、さらに富化された。溶出されたペプチド類は、SpeedVacで最終的に乾燥され、−80℃で貯蔵された。
【0103】
ナノ流れ液体クロマトグラフタンデム質量分析(LC−MS/MS)
ホスホプロテオミック実験において、乾燥されたりんペプチド富化サンプルは、0.1%のTFAの10マイクロリットルに溶解され、LC−MS/MS装置で分析した。後者は約3000psiの操作背圧で5マイクロリットル/分(ロード)が供給され、400nL/分(溶離)を有する、ナノフロー高速液体クロマトグラフィー(nanoAcquity、Waters/Micromass)にオンラインで接続されたLTQ−Orbitrap XL質量分析計(Thermo Fisher Scientific, Hemel Hempstead, UK) から成る。分離は100μm×100mmののBEHカラム(Waters/Micromass)で実行された。移動相は溶液A、LC−MSグレード水中の0.1%FA、および溶液B、LC−MSグレードACN中の0.1%FAであった。操作勾配は、100分で1%のBから35%のBにし、85%のBで5分間洗浄し、1%のBで7分間平衡させた。完全なスキャン調査スペクトル(m/z350−1600)は、LTQ−Orbitrap XLでm/z 400で、60000の解像度で取得された。データ依存分析(DDA)が利用され、調査スペクトルに存在している5つの最も豊富な多価イオンが、衝突誘起解離(衝突エネルギーを35%に規格化した)によって自動的に質量選択され断片化された。5つのMS/MSスキャン(m/z 50−2000)がMSスキャンのあとに続いた。ダイナミックな除外は500のエントリーに制限された除外リスト、10ppmの質量窓と40秒の除外時間(exclusion duration)により可能にされた。
【0104】
データ分析
LTQ−Orbitrap MS/MS データは平滑化されて、Mascot Distillerを使用することでセントロイドされた(centroided)。処理されたファイルは、国際タンパク質インデックス(IPI マウス v3.49, 165169 配列および IPI ヒト v3.56, 76539 配列) をMascotサーチエンジンを使用することで人間またはマウス配列ライブラリに対して検索された。検索はMascot Daemon(v2.2.2; Matrix Science、London,UK)で自動化された。パラメータは、消化酵素としてトリプシンを選び、1回の失敗は許容され、固定された修飾としてカルバミドメチル(C)が設定され、ピロ−グル(Pyro−glu)(N−term)、オキシデェィションまたは酸化(Oxidation)(M)、ホスホ(Phospho)(STY)は可変修飾である。データセットは±7ppmの質量許容度と±800mmuの断片質量許容度で検索された。統計的に有意な閾値(期待値<0.05)(Mascotによって返される)を超えていたとき、ヒットは有意であると考えられた。おとりのデータベースに対する検索で見積もられている偽陽性率は、約2%であった。これらもMascotによって返されて、また、phosphoELMデータベースにも存在していたとき、修飾部位が報告される。そうでない場合には、修飾の場所があいまいであると考えられた。そのような場合には、りんペプチドはタンパク質配列中の、スタート端残基(start-end residue)として報告される。
【0105】
統計的に有意な閾値でMascotによって同定されたりんペプチドは、LC−MSで定量化可能なペプチド類に関するデータベース中に置かれた。コンピュータプログラムPESCAL (Cutillas, P.R. & Vanhaesebroeck, B. 無標識の機能プロテオミクスを使用する5つのネズミのコアプロテオムの定量的なプロファイル(Quantitative profile of five murine core proteomes using label-free functional proteomics) MoI Cell Proteomics 6, 1560-1573 (2007))が使用された。PESCALは比較したがっているすべてのサンプルにわたり、データベースに存在しているペプチド類の強度を定量化する。PESCALは選択されたペプチド類の質量/電荷数と保持時間を使用し、それぞれのイオンの最初の3つの同位体について、抽出されたイオンクロマトグラム(XICs)を構成する。これは分子質量、保持時間、および電荷の制限を適用する。これは研究されたりんペプチドに対応するLC−MS溶出プロフィルの明確な識別を可能にする。XIC構造のための窓(windows)は、質量/電荷が7ppmで、保持時間は5分であった。それぞれのXICのピーク高さを決定することによって、強度値について計算できるだろう。
【技術分野】
【0001】
本発明は修飾ペプチドの定量化方法に関し、特にはりん酸化ペプチドの定量化方法に関する。例えば、そのような方法は、タンパク質のリン酸化部位を特定し定量化して、プロテインキナーゼの活性を定量化するのに使用される。
【背景技術】
【0002】
官能基の添加でほとんどのタンパク質は何らかの修飾を受け、これらの修飾は質量分析法で検出できる。
【0003】
質量分析法で検出できる蛋白質修飾としては、リン酸化、ニトロ化、グルコシル化、アセチル化、メチル化、および脂質化があげられる。これらの蛋白質修飾は細胞で様々な生物学的役割を持っている。質量分析法(MS)は、分子または原子をイオン化して、蒸発させ、それらの質量/電荷数比によりこれらのイオン類を分離できる装置に導入し、イオン類の(質量/電荷)比を測定する解析技術である。また、質量分析法は、分子類を断片に破壊し、その結果、分子類の構造決定を可能にすることを伴う。液体クロマトグラフ法の物理的分離のテクニックとのMSの組み合わせは、液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)として知られている。
【0004】
典型的なMS手順で、サンプルはMS装置にロードされ、そしてこのサンプル中に存在している化合物はイオン化される。これは例えば、電子衝撃イオン化(ESI)またはマトリツクスアシステッドレーザ脱離/イオン化(MALDI)による。そして、イオン類の質量/電荷比は異なった形式の質量分析、たとえば飛行時間、イオントラップまたは四重極、またはこれらの組み合わせで計算される。
【0005】
正常細胞のホメオスタシスは細胞信号系路(cell signalling pathways)の動作で制御される。これが緩和されると、癌、神経変性、アレルギーおよび糖尿病を含む多くの疾病の原因となる。タンパク質と脂質キナーゼはこれらの系路の重要な要素である。したがって、これらの酵素は多くの疾病の治療のために最も重要な薬物標的のクラスの1つを表す。
【0006】
酵素活性の不偏性検出のためのアプローチが報告された。酵素活性部位の反応性アミノ酸へ共有結合する化学プローブを使用することは可能である(Blethrow, J.D. 他. Proc NatlAcadSci USA 105, 1442-1447 (2008))または基体上のアミノ酸へ共有結合する化学プローブを使用することも可能である(Barglow, K.T. & Cravatt, B.F. Nat Methods 4, 822-827 (2007))。プローブに結合されたタンパク質は、親和性により精製され、質量分析法によって同定される。このアプローチは活性と基体を検出できるが、多くの細胞を必要とする。そして、提供された情報は、定性的である。
【0007】
より定量的なアプローチとして、特異的キナーゼの基体であることが知られているタンパク質におけるリン酸化部位の定量化は、キナーゼ活性の尺度として機能する。
読み取りとして質量分析法を使用して実行すると、このアプローチはただ一つの実験で数百ないし数千のリン酸化部位の定量化を許容する。例えば、安定同位体での代謝性の標識付けを使用して(SILACアプローチ)、EFGでヒーラ細胞を処理したときに異なるレベルの発現を示す2000よりも多いリン酸化部位の定量化が可能であった(Olsen, J.V. 他、 Cell 127, 635-648 (2006))。しかしながら、細胞が標識されたアミノ酸類を取り入れるために代謝的に活性である必要があるので、1次組織による細胞シグナリングを定量化する一般的ツールとしてこのアプローチを使用できない。また、少ないスループットは有用性を制限する。
【0008】
りん酸化ペプチドを測定するために同位体でラベルされた内部標準ペプチド類の使用は代替手段である場合がある(Gerber, S. A.他、 Proc Natl Acad Sci U S A 100, 6940-6945 (2003)) 。理論的には可能であるが、内部標準として使用する安定同位体でラベルされた何千ものりん酸化ペプチドの合成は実際には可能でない。
【0009】
安定同位体で化学的にペプチド類をラベルするのに、iTRAQ試薬を使用できる(Ross, P. L.; 他、MoI Cell Proteomics 2004, 3, (12), 1154-69.)。修飾ペプチドを含むペプチド類の相対定量化にこのテクニックを使用できる。制限は、比較できるサンプル数が同位体標識の数によって制限されるということである。データの統計的検証を得るために有用性に限界がある。化学標識付けは、また、薬が使用される状況で実用的でなく、化学反応段階で可変性が導入される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、当該技術分野において、第1次組織における、シグナルリング系路の、不偏性で、包括的で正確な測定に使用できる方法に対する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者は修飾ペプチド(modified peptides)の定量化方法、特にはりん酸化ペプチドの定量化方法の改良方法を見いだした。本発明の方法は修飾ペプチドに関するデータベースの作成と、生物試料から得たデータのデータベースとの比較、典型的にはコンピュータプログラムを使用した比較を含む。
【0012】
第1の態様では、本発明はサンプル中の修飾ペプチドの定量化方法を提供し、この方法は以下の工程を含む:
(a) サンプルからペプチド類を得る;
(b) 工程(a)で得られたペプチド類に参照修飾ペプチド(reference modified peptides)を追加し、ペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物を製造する;
(c) ペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物について質量分析法(MS)を行い、サンプル中のペプチド類に関連したデータを得る;および
(d) 修飾ペプチドに関するデータベース内のデータと、サンプル中のペプチド類に関連するデータを、コンピュータプログラムを使用して比較する;
ここで、修飾ペプチドに関するデータベースが、以下を含む方法によってコンパイルされる:
i) サンプルからペプチド類を得る;
ii) 工程(i)で得られたペプチド類から修飾ペプチドを富化する(enriching);
iii) 工程(ii)で得られた富化された修飾ペプチドについて液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC−MS/MS)を行う。
iv) 修飾ペプチドを同定するために、工程(iii)で検出された修飾ペプチドを、既知のリファレンスデータベースと比較する;および
(v) 工程(iv)で同定された修飾ペプチドに関連するデータをデータベースにコンパイルする。
【発明の効果】
【0013】
本発明はサンプルの修飾ペプチドの定量化方法を提供する。本発明の方法は、質量分析法で検出できるすべての修飾を含むペプチド類の定量化に適している。
【0014】
本発明の方法は、より長いタンパク質から得られる修飾ペプチドを定量化するのに使用される。同時に何千もの修飾ペプチドを定量化するのに本発明の方法を使用できる。
【0015】
また、本発明の方法は、例えば、アセチル化、ニトロ化、グリコシル化、メチル化および/または脂質化によって修飾されたペプチド類の定量化に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施態様について図説するフローチャートである。
【図2】図2Aから2Dは、TIQUASを使用する細胞信号の定量分析のための戦略を示す。
【図3】図3−1から図3−3は、実施例1の分析で同定されたリン酸化部位の例を示す。
【図4】図4Aは、PI−103に対する異なる感受性で、細胞ライン内のPI−103による、増殖の50%抑制濃度(IC50)を示す。図4Bは、同じ細胞ラインに本発明の方法を使用したりんペプチドの定量化の結果を示している。
【図5】図5Aから5Dは、無標識のLC−MSによる、正確なりんペプチド定量化のための戦略を示す。
【図6】図6Aから6Fは、シグナル伝達阻害剤への異なった鋭敏度を有するAML細胞ラインが、蛋白質リン酸化の顕著に異なるパターンを示すことを示す。
【0017】
本発明の方法は特にサンプル中のりん酸化ペプチドの定量化に有用である。その結果、1つの実施態様では、修飾ペプチドはりん酸化ペプチドである。本本明細書において、本発明の実施態様での「リンタンパク質」、または「ホスホタンパク質」という用語は、りん酸化蛋白質について言及するのに使用される。そして、「りんペプチド」、および「ホスホペプチド」という用語は、りん酸化ペプチドについて言及するのに使用される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ペプチド類を含むすべてのサンプルの修飾ペプチドを定量化するのに本発明の方法を使用できる。サンプルは、典型的には生物試料であり、生物源から入手されたすべてのタイプのサンプル、例えば人間、動物、植物またはバクテリアから入手されたサンプルであることができる。その結果、本発明は人間および非人間のソースから入手されたサンプルの使用を包含する。
【0019】
本発明の方法は対象となる任意の種からのサンプルの修飾ペプチドの検出と定量化に使用できる。典型的に、本発明の方法は、人間または動物からのサンプルを分析するのに使用される。動物は、典型的にマウス、ラット、モルモット、牛、羊またはヤギである哺乳動物である。あるいはまた、動物はたとえば鶏のような鳥、ゼブラ・フィッシュのような魚、虫の線虫のようなネマトーダ、またはミバエキイロショウジョウバエなどの昆虫などである。また、バクテリアや酵母などの他の生命体からのサンプルを分析するのに本発明の方法を使用できる。エシュリキア属大腸菌、サルモネラ・エンテリカ、肺炎球菌または黄色ブドウ球菌などのバクテリア、またはパン酵母サッカロマイセスセレビシアエまたは分裂酵母シゾサッカロマイセスポンベなどの酵母などの、実験的に重要な種からのサンプルを分析するのに本発明の方法を使用できる。また、植物、かび類またはウイルスからのサンプルを分析するのに本発明の方法を使用できる。
【0020】
典型的には、人間から生物試料を得る。例えば、尿、血液、または別の組織などの体液のサンプルであることができる。典型的に、生物試料は、細胞ライン(cell line)または組織、典型的には1次組織である。例えば、サンプルは人間または動物からの組織であることができる。人間または動物は、健康であるか、または病的であることができる。
【0021】
本発明のいくつかの実施態様では、サンプル自体またはサンプルが入手される生体が、本発明の方法を行う前にテスト物質で処理される。したがって、この実施態様では、組織が得られる細胞ラインまたは生体が、細胞ラインまたは組織に本発明の方法を行う前に、テスト物質で処理される。テスト物質は、典型的には外来化学物質または薬物であり、たとえば低分子阻害剤、RNAi、治療用ペプチド、および抗体であることができる。本発明のこの実施態様は、テスト物質のペプチド修飾への効果の調査を許容する。たとえばりん酸化ペプチドを定量化するのに使用される1つの実施態様では、本発明の方法を行う前に、系路のアゴニスト(agonists of pathways)、および/またはキナーゼ阻害薬で細胞ラインを処理できる。典型的なキナーゼ阻害薬は、実施例で使用されるように、ワートマニンやPI−103などのPI3Kの阻害剤を含んでいる。少なくとも80のキナーゼ阻害薬が異なったステージで臨床開発中である(Zhang, J.;et al Nat Rev Cancer 2009, 9,(1),28−39)。このテクニックも、キナーゼ経路に影響を与えると疑われた他のタイプの阻害剤、たとえばHSP90阻害剤、ホスファターゼ阻害剤および抗体医薬を調査するために有用である。
【0022】
本発明の方法の工程(a)は、サンプルからペプチド類を得ることを含む。当技術分野で知られていた任意の適切な方法を使用することでサンプルからペプチド類を得ることができる。
【0023】
1つの実施態様では、本発明方法の工程(a)は以下を含む:
(1)サンプルに細胞を溶解する;
(2)工程(1)で得られた溶解細胞からタンパク質を抽出する;および
(3)前記タンパク質をペプチド類に分解する。
【0024】
本発明のこの実施態様の工程(1)では、サンプル中の細胞は、溶解されるか、またはパックリと裂ける(split open)。当技術分野で知られている任意の適当な手段を使用して細胞を溶解することができる。例えば機械的な溶解(例えば、ワーリングブレンダを使用する)、液体均質化、超音波処理または手動による溶解(例えば、乳棒と乳鉢を使用する)などの物理的方法またはCHAPSまたはトリトン−Xなどの界面活性剤に基づく方法を使用できる。典型的には、細胞は、尿素ベースのバッファなどの変性バッファを使用することで溶解される。
【0025】
本発明のこの実施態様の工程(2)では、タンパク質が工程(1)で得られた溶解細胞から抽出される。言い換えれば、タンパク質は溶解細胞の他の成分から分離される。
【0026】
本発明のこの実施態様の工程(3)では、溶解細胞からのタンパク質はペプチド類まで分解される。言い換えれば、タンパク質は、より短いペプチド類へ分解される。また、タンパク質の分解は一般的に消化と呼ばれる。本発明で当技術分野で知られている任意の適当な薬剤を使用することでタンパク質切断を行うことができる。
【0027】
タンパク質切断または消化が、プロテアーゼを使用することで典型的に行われる。本発明では任意の適当なプロテアーゼが使用できる。本発明では、プロテアーゼは、典型的にはトリプシン、キモトリプシン、Arg−C、ペプシン、V8、Lys−C、Asp−C、および/またはAspNである。あるいはまた、化学的にタンパク質を分解することができる。例えばヒドロキシルアミン、ギ酸、臭化シアン、BNPS−スカトール、2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸(NTCB)または他の適当な薬剤が使用できる。
【0028】
本発明に使用されるペプチド類、および上で説明した工程(3)でタンパク質切断または消化で典型的に製造されるペプチド類は、質量分析に適している。典型的に、そのようなペプチド類は約5から30のアミノ酸長さであり、例えば7から25のアミノ酸類、10から20のアミノ酸類、12から18のアミノ酸または14から16のアミノ酸類である。しかしながら、より短いかまたはより長いペプチド類、たとえば約2から約50、約3から約40、または約4から約45のアミノ酸類なども使用できる。分析できるペプチドの長さは、質量分析計のそのような長いペプチド類を配列する能力によって制限される。ある場合には、最大300のアミノ酸類のポリペプチドを分析できる。
【0029】
本発明の方法の工程(b)では、参照修飾ペプチドはサンプルから得られたペプチド類に追加され、ペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物を製造する。その結果、工程(b)は1サンプルあたり1つのペプチド類混合物(修飾したものを含む)をもたらす。また、参照修飾ペプチドは本明細書では「内部標準」(ISs)と呼ばれる。典型的には、5から10、例えば、6から9または7から8の参照修飾ペプチドが加えられる。
【0030】
本発明では、参照修飾ペプチドは典型的には、参照りん酸化ペプチドである。そのような参照りん酸化ペプチドは、しばしば内部標準(IS)タンパク質と呼ばれる、定義された特性と濃度の参照蛋白質から典型的に得る。ISsは市販のタンパク質、例えば、カゼインである場合がある。あるいはまた、ISsは特に本発明における使用のために合成される。本発明のこの実施態様では、参照りん酸化ペプチドはそれが定量化するのが望ましいりん酸化ペプチドのいくつかと同じ配列で典型的に合成されるが、炭素と窒素の安定した重同位元素が富化される。ペプチド類は、1回に1つのアミノ酸が加えられ、アミノ酸鎖またはポリペプチドを形成する固相化学を使用することで典型的に合成される。
【0031】
典型的に、そのようなペプチド類は一般的な12Cと14Nを置換する、13Cと15Nで富化される。この富化作用は、同じ配列を有する内因のりん酸化ペプチドより約6から10ダルトン重い参照りん酸化ペプチドをもたらし、質量分析計を使用することでそれらを区別できるようにする。
【0032】
本発明の別の実施態様では、本発明方法がアセチル化ペプチドを定量化するのに使用されるとき、参照修飾ペプチドは、参照アセチル化ペプチド類である。そのような参照アセチル化ペプチドは、典型的にはアセチル化アミノ酸類を含む合成ペプチドである。
【0033】
参照修飾ペプチドは、典型的には比較されるそれぞれのサンプルに既知量で加えられる。内因の修飾ペプチドに関する信号は、川下の分析での参照修飾ペプチドに関する信号に規格化される。
【0034】
1つの実施態様では、本発明方法の工程(b)が、工程(b)で得たペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物から修飾ペプチドを富化し、富化された修飾ペプチドの混合物を製造する。その結果、この付加段階は1サンプルあたり1つの富化された修飾ペプチドの混合物をもたらす。本発明のこの実施態様では、工程(c)は、富化された修飾ペプチドの混合物に質量分析法(MS)を行い、サンプル中のペプチド類に関連したデータを得る。本発明のこの実施態様では、工程(b)は典型的には富化されたりん酸化ペプチドの混合物をもたらす。
【0035】
修飾ペプチドの富化工程は、クロマトグラフィーを使用することで典型的に行われる。1つの実施態様では、クロマトグラフィーは固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィー、および/または二酸化ジルコニウム(ZrO2)クロマトグラフィーである。典型的には、クロマトグラフィーは、IMACおよびTiO2クロマトグラフィーである。
【0036】
あるいはまた、修飾ペプチドを富化する工程は、抗体に基づく方法を使用することで行われる。
【0037】
本発明の1つの実施態様では、定量化されるペプチド類がりん酸化ペプチドである場合、チロシン、トレオニン、セリンまたはヒスチジンなどのりん酸化アミノ酸への親和性を有する抗体が、固体マトリックスに結合される(固定される)。りん酸化ペプチドはこれらの抗体が特異的にりん酸化ペプチドに結合する能力によって富化される。そして、りん酸化ペプチドが抗体被覆基質上に保持されるのに対して、非リン酸化ペプチド類は洗浄除去される。固定された抗体からのりん酸化ペプチドの溶離は、低pH溶媒の使用、または抗体とりん酸化ペプチドの間の相互作用をなくす他の適切な方法により行われる。
【0038】
本発明の別の実施態様では、定量化されるペプチド類が、アセチル化ペプチドペプチド類である場合、アセチル化アミノ酸残基に対する特異的抗体の使用により富化される。そのような抗体は、固体マトリックスに結合されて、次に、アセチル化アミノ酸残基に特異的に結合する抗体の能力によって富化される。そして、アセチル化ペプチドが固定された抗体の上に保持されるのに対して、非アセチル化ペプチドは洗浄除去される。
【0039】
本発明の方法の工程(c)では、質量分析法(MS)が工程(b)で得たペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物について行われ、サンプル中のペプチド類に関連したデータを得る。典型的に、このデータはサンプルのためのMSデータファイルの形である。本発明のひとつの実施態様では、本発明方法の工程(b)が、工程(b)で得たペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物から修飾ペプチドを富化し、富化された修飾ペプチドの混合物を精製することをさらに含む場合に、工程(c)は富化された修飾ペプチドの混合物に質量分析法(MS)を行い、典型的にはサンプルのMSデータファイルである、サンプル内のペプチド類に関するデータを得る。典型的に、質量分析法は液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)である。その結果、工程(c)は典型的に、LC−MS データファイル(それぞれのサンプルから1つ)をもたらす。
【0040】
典型的には、サンプル内のペプチド類に関するデータは、ペプチド類の質量/電荷(m/z)比、電荷(z)、および/または相対保持時間を含む。
【0041】
本発明方法の工程(d)では、サンプル中のペプチド類に関連するデータ(典型的にはMSデータファイル形式であり、より典型的にはLC−MSデータファイルの形式である)は、修飾ペプチドに関するデータベースのデータと、コンピュータプログラムを使用して比較される。たとえば、サンプル中のペプチド類の(質量/電荷:m/z)比、電荷(z)、および相対保持時間が、データベースの(質量/電荷:m/z)比、電荷(z)、および相対保持時間と比較される。これは、修飾ペプチドに関するデータベースを使用することで、サンプルのそれぞれの修飾ペプチドの同定と定量化を可能にする。
【0042】
典型的には、コンピュータプログラムは、PESCAL(Vanhaesebroeck、B.MoI Cell Proteomics 6(9)、1560-73、Cutillas、P.R.;2007)と呼ばれるプログラムである。PESCALは、比較されるべきすべてのサンプルから、データベースに存在するそれぞれの修飾ペプチドのために抽出されたイオンクロマトグラム(XIC、すなわち溶出プロファイル)を構成する。りん酸化されるべき、先に同定されたペプチドの質量/電荷と保持時間(すなわち、手順の第1で構成されたデータベース中の存在)にXICをセンタリングすることによって行われる。また、PESCALは、ペプチドの電荷が同一性の正しい指摘の助けになると考えている。また、プログラムはそれぞれのXICのピーク高さとカーブの下の面積について計算する。データは、参照修飾ペプチドにより分析されたそれぞれの修飾ペプチドの強度読み(ピーク面積または高さ)で割ることによって規格化される。
【0043】
本発明の方法において、修飾ペプチドに関するデータベースは、以下の工程を含む方法によってコンパイルされる:
(i)サンプルからペプチド類を得る;
(ii)工程(i)で得られたペプチド類から修飾ペプチドを富化する;
(iii)工程(ii)で得られた富化された修飾ペプチドに液体クロマトグラフィー−タンデム質量分析法(LC−MS/MS)を行う;
(iv)修飾ペプチドを同定するために、工程(iii)で検知された修飾ペプチドと、既知のリファレンスデータベースを比較する;および
(v)工程(iv)で同定された修飾ペプチドに関連するデータをデータベースにコンパイルする。
【0044】
本発明方法の工程(i)は、サンプルからペプチド類を得ることを含む。当該技術分野で知られていた任意の適切な方法を使用してサンプルからペプチド類を得ることができる。
【0045】
サンプルは典型的に生物試料であり、上記のように生物源から入手されたすべてのタイプのサンプルであることができる。典型的に、サンプルは、細胞ラインまたは1次組織である。
【0046】
本発明のいくつかの実施態様では、工程(i)に使用されるサンプルは細胞ラインであり、サンプルは工程(i)を行う前に阻害剤で処理される。阻害剤は任意の適当なタイプの阻害剤であることができる。典型的には、本発明の方法がりん酸化ペプチドを定量化するのに使用されるときには、阻害剤はホスファターゼ阻害剤である。ホスファターゼ阻害剤による処理はリン酸化の化学量論量を増加させ、データベースに含むことができるより大きい数のりん酸化ペプチドに帰結する。さらに、目的がアセチル化されたペプチド類およびメチル化されたペプチド類である場合には、それぞれメチル基転移酵素またはアセチル加水分解酵素阻害剤を使用できる。
【0047】
1つの実施態様では、本発明方法の工程(i)は以下を含む:
(1)サンプルの細胞を溶解する;
(2)工程(1)で得られた溶解細胞からタンパク質を抽出する;および
(3)上記の工程(a)の工程(3)と同じ方法を使用して、前記タンパク質をペプチド類に分解する。
【0048】
本発明のこの実施態様の工程(1)では、サンプルの細胞は、溶解されるか、またはパックリと裂ける。当技術分野で知られている任意の適当な手段を使用して細胞を溶解することができる。例えば機械的な溶解(例えば、ワーリングブレンダを使用する)、液体均質化、超音波処理または手動による溶解(例えば、乳棒と乳鉢を使用する)などの物理的方法またはCHAPSまたはトリトン−Xなどの界面活性剤に基づく方法を使用できる。典型的に、細胞は、尿素ベースのバッファなどの変性バッファを使用して溶解される。
本発明のこの実施態様の工程(2)では、タンパク質は工程(1)で得られた溶解細胞から抽出される。言い換えれば、タンパク質は溶解細胞の他の成分から分離される。
【0049】
本発明のこの実施態様の工程(3)では、溶解細胞からのタンパク質は、上記の工程(a)の工程(3)と同じ方法を使用してペプチド類まで分解される。その結果、工程(i)の工程(3)は、変性されたペプチド類を含むペプチド類の混合物をもたらす。
【0050】
本発明では、当該技術分野で公知の任意の適当な薬剤を使用してタンパク質切断を行うことができる。しかしながら、上記のように、工程(i)の工程(3)に使用される切断方法は、上記の工程(a)の工程(3)で使用される切断方法と同じでなければならない。タンパク質切断は、典型的にはプロテアーゼを使用して行われる。本発明では任意の適当なプロテアーゼが使用できる。本発明では、プロテアーゼは、典型的にトリプシン、キモトリプシン、Arg−C、ペプシン、V8、Lys−C、Asp−CまたはAspNである。あるいはまた、化学的にタンパク質を分解することができる。例えばヒドロキシルアミン、ギ酸、臭化シアン、BNPS−スカトール、2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸(NTCB)または他の適当な薬剤が使用できる。
【0051】
本発明に使用されるペプチド類、および上で説明した工程(3)でタンパク質切断で典型的に製造されるペプチド類は、質量分析に適している。典型的に、そのようなペプチド類は約5から30のアミノ酸長さであり、例えば、7から25のアミノ酸類、10から20のアミノ酸類、12から18のアミノ酸または14から16のアミノ酸類である。しかしながら、より短いかまたはより長いペプチド類、たとえば約2から約50、約3から約40、または約4から約45のアミノ酸類なども使用できる。分析できるペプチドの長さは、質量分析計のそのような長いペプチド類を配列する能力によって制限される。ある場合には、最大300のアミノ酸類のポリペプチドを分析できる。
【0052】
本発明方法の工程(ii)では、修飾ペプチド類は工程(i)で得られたペプチド類から富化される。工程(ii)は修飾ペプチド類内で富化されたいくつかの断片をもたらす。
【0053】
工程(ii)における修飾ペプチドの富化工程は、多次元クロマトグラフィー(multidimensional chromatography)を使用することで典型的に行われる。1つの実施態様では、多次元クロマトグラフィーは、強カチオン交換高速液クロマトグラフ(SCX−HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、および二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィーで行われる。他の実施態様では、多次元クロマトグラフィーは、陰イオン交換高速液クロマトグラフ(SAX−HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)および二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィーを使用して行われる。本発明のこれらの実施態様では、クロマトグラフィー技術は逐次的に行われる。
【0054】
別法として、工程(ii)の修飾ペプチドの富化工程は、抗体に基づく方法で行われる。
【0055】
本発明の1つの実施態様では、定量化されるペプチド類がりん酸化ペプチドである場合、チロシン、トレオニン、セリンまたはヒスチジンなどのりん酸化アミノ酸への親和性を有する抗体が、固体マトリックスに結合される。りん酸化ペプチドはこれらの抗体が特異的にりん酸化ペプチドに結合する能力によって富化される。そして、りん酸化ペプチドが抗体被覆基質上に保持されるのに対して、非リン酸化ペプチド類は洗浄除去される。固定された抗体からのりん酸化ペプチドの溶離は、低pH溶媒の使用、または抗体とりん酸化ペプチドの間の相互作用をなくす他の適切な方法により行われる。
【0056】
本発明の別の実施態様では、定量化されるペプチド類が、アセチル化ペプチドペプチド類である場合、アセチル化アミノ酸残基に対する特異的抗体の使用により富化される。
そのような抗体は、固体マトリックスに結合されて、次に、アセチル化アミノ酸残基に特異的に結合する抗体の能力によって富化される。そして、アセチル化ペプチドが固定された抗体の上に保持されるのに対して、非アセチル化ペプチドは洗浄除去される。
【0057】
本発明の工程(iii)では、工程(ii)で得られた富化された修飾ペプチドについて液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC−MS/MS)を行う。
【0058】
本発明の工程iv)では、修飾ペプチドを同定するために、工程(iii)で検出された修飾ペプチドを、既知のリファレンスデータベースと比較する。この工程は、典型的には市販のサーチエンジン、たとえばMASCOT、ProteinProspector Phenyx、またはSequestサーチエンジン(ただしこれらに限定されるものではない)を使用することで行われる。
【0059】
本発明の方法の工程(v)では、工程(iv)で同定された修飾ペプチドに関連するデータが、データベースにコンパイルされる。このデータベースは次の生物学的実験における、りん酸化ペプチドの定量化に必要であるすべてのパラメータ類を記載する。典型的に、修飾ペプチドに関連するデータは、修飾ペプチドのアイデンティティ、質量/電荷(m/z)比、電荷(z)および/または相対保持時間を含む。これは、サンプル中のペプチドに関連するデータ、典型的にはサンプル中のペプチド類の(質量/電荷数)比、電荷(z)、および相対保持時間がデータベース内の修飾ペプチドの値と比較されることを許容して、その結果、サンプルの修飾ペプチドの識別と定量化を許す。
【0060】
本発明の方法を使用して比較できるサンプル数の限界は全くない。
【0061】
本発明の方法は、りん酸化ペプチドを定量化するのに典型的に使用される。この実施態様では、本発明の方法はシグナルリングの、標的の徹底的な定量化のためのテクニック(TIQUASと命名される)であり、シグナルリング系路活性の感受性のある、迅速かつ包括的な定量化を許容する。本発明方法は、1つの分析で、同時に、タンパク質上の何千ものリン酸化部位の量を測定できる。
【0062】
本発明の方法は、シグナルリング系路の分析に用途がある。なぜなら、シグナルリング系路の束(flux)が、脂質、プロテインキナーゼ、タンパク質をリン酸化する酵素によって大きい程度で制御されるからである。
【0063】
本発明のこの実施態様による方法は、りん酸化ペプチドを定量化するのに質量分析法を使用する他の方法に比較して利点がある(表1を参照)。これらの利点としては、包括性(何千ものりん酸化ペプチドを定量化できる)、スループット(分析時間は約2時間/サンプル、または約20サンプル/日/LC−MSである)、無制限な数のサンプルを比較する技術能力、およびその優れた感受性(定量化はタンデム質量分析法(MS/MS)によるペプチド類の同定を必要としない)があげられる。比較のために、SILAC実験は最大3個のサンプルを比較するために3週間を要する。なぜなら、細胞が約2週間、SILAC培地で成長する必要があるからであり、大規模な分離がそれぞれの実験に必要である。
【0064】
表1の参照文献
1. Olsen, J.V. 他、 Cell 127, 635-648 (2006)
2. Cutillas, P.R 他、 Mol Cell Proteomics 4, 1038-1051 (2005)
3. Gygi, S.P. 他、 Nat Biotechnol 17, 994-999 (1999)
4. Ross, P.L. 他、 Mol Cell Proteomics 3, 1154-1169 (2004)
5. Gerber, S.A. 他、Proc Natl Acad Sci U S A 100, 6940-6945 (2003)
6. Barglow, K.T. & Cravatt, B.F. Nat Methods 4, 822-827 (2007)
7. Cutillas, P.R. 他、 Proc Natl Acad Sci U S A 103, 8959-8964 (2006)
【0065】
【表1】
【0066】
1つの実施態様では、本発明は以下を含む、サンプル中のりん酸化ペプチドの定量化方法を提供する:
(a)サンプルからペプチド類を得る;
(b)任意に、工程(a)で得られたペプチド類に参照りん酸化ペプチドを追加して、ペプチド類と参照りん酸化ペプチドとの混合物を形成し、工程(b)で得られたペプチド類と参照りん酸化ペプチドとの混合物からりん酸化ペプチドを富化し、りん酸化ペプチドが富化された混合物を形成する;
(c)ペプチド類と参照りん酸化ペプチドとの混合物、またはりん酸化ペプチドが富化された混合物について質量分析(MS)を行い、サンプル中のペプチド類に関するデータを得る;および
(d)サンプル中のペプチド類に関するデータを、りん酸化ペプチドに関するデータベース内のデータと、コンピュータプログラムを使用して比較する;
ここで、りん酸化ペプチドに関するデータベースは、以下を含む方法によってコンパイルされる:
(i)サンプルからペプチド類を得る;
(ii)工程(i)で得られたペプチド類からりん酸化ペプチドを富化する;
(iii)工程(ii)で得られた富化されたりん酸化ペプチドについて液体クロマトグラフ−タンデム質量分析法(LC−MS/MS)を行う;
(iv)りん酸化ペプチドを同定するために工程(iii)で検出されたりん酸化ペプチドを既知のリファレンスデータベースと比較する;
(v) 工程(iv)で同定されたりん酸化ペプチドに関連するデータをデータベースにコンパイルする。
【0067】
1つの実施態様では、本発明は図1で示されるようなサンプル中のりん酸化ペプチドの定量化方法を提供する。
【0068】
1つの実施態様では、本発明は以下のような、サンプル中のりん酸化ペプチドを定量化する方法を提供する。本発明方法は本明細書においてTIQUASと呼ばれる。TIQUAS技術の基礎はLC−MSで検出して定量化できる、りん酸化ペプチドに関するデータベースの構築である。このデータベースは、次の生物学的実験におけるりん酸化ペプチドの定量化に必要であるすべてのパラメータ類を記載し、これはりん酸化ペプチドの同一性、質量/電荷比(m/z)、電荷および相対保持時間を含む。データベースは、多次元クロマトグラフィー(たとえば強カチオン交換、IMACまたはTiO2)を使用してりん酸化ペプチドを富化することによって、構成される。そして、富化されたりん酸化ペプチドの断片はりん酸化ペプチドの同定のためにLC−MS/MSによって分析される。データベースを構成するのは質量分析時間の約2から3週間かかるが、それがいったん組み立てられると、良いスループットおよび感受性を伴う生物学的実験を実行するのに使用できる。
【0069】
本発明の発明者は生物学的実験から取られたりん酸化ペプチドについてのLC−MSにおいて、データベースに記載されたそれぞれのりん酸化ペプチドの定量化を自動化するPESCAL(Cutillas and Vanhaesebroeck, Molecular & Cellular Proteomics 6, 1560-1573 (2007))というコンピュータプログラムを作成した。これらの生物学的実験において、細胞溶解物のタンパク質は、トリプシンまたは他の適当なプロテアーゼを使用することで消化される。りんペプチド内部標準(参照りん酸化ペプチドである)は、比較されるすべてのサンプルに既知量でスパイクされる(spiked)。得られたペプチド混合物の中のりん酸化ペプチドは、実行が簡単な(simple-to-perform)IMACまたはTiO2抽出段階を使用して富化される。富化されたりん酸化ペプチドは約120分(総サイクル)の1回のLC−MS測定で分析される。PESCALは次いで、比較されるすべてのサンプルにわたり、データベースに存在するそれぞれのりん酸化ペプチドのために、抽出されたイオンクロマトグラム(XIC、溶出プロファイル)を作図する。プログラムはそれぞれのXICのピーク高さと曲線下の面積を計算する。データは、それぞれのりんペプチド分析物質の強度読み値(ピーク面積または高さ)をりんペプチド内部標準のもので割ることによって、規格化される。
【0070】
このホスホプロテオミック(phosphoproteomic)アプローチは無制限なサンプルと複製の比較を許容する。
【0071】
別の実施態様では、本発明の方法はサンプル中のアセチル化ペプチドのための定量化方法である。アセチル化の定量分析は、何千ものペプチド類を発生させるための、たとえばトリプシンのような適当なプロテアーゼで細胞溶解物中のタンパク質を消化することを含む。そして、アセチル化ペプチドはアセチル化アミノ酸残基に対して特異的な抗体の使用により富化される。アセチル化アミノ酸類を含む合成ペプチドは、富化工程の前にサンプルにスパイクされる内部標準として使用される。そして、LC−MS/MSがこれらのアセチル化ペプチド類を同定するために使用され、データベースに組み入れられる。アセチル化ペプチドは個々のサンプル内でLC−MSによって同定され、参照としてデータベースにエントリーされる。
【0072】
本発明は以下の実施例を参照してさらに詳細に説明される。この実施例は例示の目的にのみ示される。実施例では、多くの図を参照する。
【0073】
図1は、本発明の実施態様について図説するフローチャートである。フローチャートの備考は以下の通りである。
1; ホスファターゼ阻害剤による処理は、リン酸化の化学量論量を増加させ、データベースに含むことができる多量のりん酸化ペプチドに帰結する。
2; プロテアーゼは、典型的にはトリプシン、キモトリプシン、Arg−C、ペプシン、V8、Lys−C、Asp−CまたはAspNである。
3; 多次元的クロマトグラフが、典型的には強カチオン交換を利用する、高速液クロマトグラフ(HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、および二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィーを使用するか、または陰イオン交換を利用する高速液クロマトグラフ(HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)および二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィーを使用して行われる。代替手段としては、抗体ベースの方法を使用できる。
4; 生物試料は適当な生物試料で、典型的には細胞ライン(任意に研究薬剤で処理される)であるか、または動物または患者からの1次組織である。
比較できるサンプル数の限界はない。
5; 内部標準は、参照りん酸化ペプチドであり、比較されるサンプルのそれぞれに既知量で追加される。内因のりん酸化ペプチドの信号は、川下の分析で内部標準ペプチドに関する信号に対して規格化される。
【0074】
図2は、TIQUASを使用する細胞信号の定量分析のための戦略を示している:
(A)実験設計を示す;
(B)得られたデータ(4つの非依存性の生物学的複製)のまとめを与え、確率によって分類されたデータのスナップを撮る(snapshot)。
(C)プロテインホスファターゼ1(PP1)制御サブユニット11からのりん酸化ペプチドの抽出されたイオンクロマトグラム(XIC)の例である。
(D)PI3Kの川下に先に示されたタンパク質のリン酸化部位の例を示す。
【0075】
図3は、実施例1の分析で同定されたリン酸化部位の例を示す。
【0076】
図4 (A)は、PI−103に対する異なる感受性で、細胞ライン内のPI−103による、増殖の50%抑制濃度(IC50)を示す。
(B)は、同じ細胞ラインに本発明の方法を使用したりんペプチドの定量化の結果を示している。表はりんペプチドと正の相関(より抵抗力がある細胞ラインの高いリン酸化)を示している。
【0077】
図5は無標識のLC−MSによる、正確なりんペプチド定量化のための戦略を示している。
(A)MSスペクトルは、m/z = 751.33939, tR=54.54 分、z = 3に、ミトジェン活性化プロテインキナーゼ3 (mitogen-activated protain kinase:pERKl) ペプチド(IADPEHDHTGFLTEpYVATR)を示している。
(B)この質量/電荷数±25ppmの抽出されたイオンクロマトグラム(XIC)は4
つの可能な候補をもたらす。
(C); 追加の荷電および同位体分布制限を適用した後に、このペプチドのクロマトグラフ溶出ピークを明確に同定できる(図では、矢印で示される)。なぜなら、最初の3つの同位体のためのXICsにはスペクトルに示されたものに対応する相対強度がある(また、配列データから同位体の相対強度について計算できる)からである。
(D); 更なる特異性は、XICが組み立てられる質量窓(mass window)を狭くする(±7ppm)ことによって、達成される。
【0078】
図6は、シグナル伝達阻害剤への異なった鋭敏度を有するAML細胞ラインが、蛋白質リン酸化の顕著に異なるパターンを示すことを示している。(A),(B)および(C)AML細胞ラインは、示した阻害剤の存在下で72時間培養され、MTSアッセイによって生存が測定された。データ点は平均±SEM(n=3)(D)、(E)、および(F)として示される。りんペプチドの例は、TIQUASにより同定され、確固として(倍率変化によって評価される)、顕著に(t−検定統計によって評価される)、(A)、(B)および(C)のシグナル伝達阻害剤への異なった鋭敏度で、異なって細胞ラインが制御されることが示された。
【0079】
実施例1−PI3Kシグナリングの研究
本発明の新規な定量化技術は、NIH−3T3線維芽細胞中のリン酸化部位を定量化するのに使用された。3T3線維芽細胞は、飢餓状態にされ(starved)、ついでpan−PI3K阻害剤ウォルトマンニン(wortmannin:WM)の存在下でのプレインキュベーションをしたものとしないものについて、血清によって刺激された。
これらの実験が4回行われた。
【0080】
図2(A)は実験設計を示している。細胞は、示したように処理され、尿素ベースのバッファで溶解され、核と細胞内可溶質タンパク質を得て、タンパク質は消化された。得られたりん酸化ペプチドは、IMACとTiO2クロマトグラフによって富化され、発明者によって開発されたコンピュータプログラム(PESCAL)(Cutillas and Vanhaesebroeck, Molecular & Cellular Proteomics 6, 1560-1573 (2007))を使用して定量化された。
【0081】
図2(B)は得られたデータのまとめと、確率によって分類されたデータのスナップショット(snapshot)を示す。3,100のりんペプチドがデータベースに検出されて、2,350のりん酸化ペプチドがこれらの分析で定量化された。その265が血清刺激の前の細胞のWM処理で顕著な影響を受けた(p<0.05)。図2(B)に示されたりんペプチドに関する詳細を表2に示す。
【0082】
【表2−1】
【0083】
【表2−2】
【0084】
【表2−3】
【0085】
【表2−4】
【0086】
図2(C)はPPl制御サブユニット11(CCCIpYEKPR;XIC=質量/電荷(m/z)683.26)からのりん酸化ペプチドの抽出されたイオンクロマトグラム(XIC)の例である。この部位がWMに感受性であることを示している。
【0087】
図2(D)は、PI3Kの川下であることが先に示されたタンパク質上のリン酸化部位の例を示す。4つの非依存性の実験に関するデータは、実験の再現性を示すために別々に示されている。これらの部位はPI3Kの川下にあることが知られており、その結果、これらのデータは本発明が有効であると確認するものである。このホスホプロテオミックなアプローチは無制限なサンプルと複製の比較を許容する。
【0088】
リン酸化のいくつかの部位がプロテインキナーゼとホスファターゼで同定された。細胞のWM処理により、転写および翻訳因子が影響を受けた(図3)。値は4つの非依存性の実験の、規格化されたホスホリル化ペプチドレベルの平均である。p値は、血清とWMサンプルグループに対する平均に、スチューデントのt検定を使用することで計算された。図3に示されたりんペプチドに関するさらなる情報を表3に示す。
【0089】
【表3−1】
【0090】
【表3−2】
【0091】
実施例2−PI3KとmTORの二重阻害剤へのさまざまな鋭敏度を有する細胞における、シグナルリング系路の調査
本発明のテクニックは、PI−103、脂質キナーゼPBK、およびプロテインキナーゼmTOR阻害剤へある範囲の鋭敏度を有する細胞ラインのパネル内のキナーゼ経路をプロファイルするのに使用された。図4Aに示されたパネルの細胞ラインは、PI−103を滴定してインキュベートされた。その増殖速度が阻害剤濃度の関数として測定された。阻害剤濃度は50%抑制濃度(IC50)として、マイクロモル単位の濃度で示された(図4A)。
【0092】
別の実験(図4B)では、これらの細胞ラインのりんペプチドは、開示されたテクニックを使用することで定量化された。実験は3回行われた。図4Bに示すように、いくつかのりんペプチドが50%抑制濃度値と相関を有した。これは、キナーゼ経路活性化と阻害剤効力の因果関係を示唆する。これらの値は統計的有意性と相関を有する(0.75を超えたR2値は統計的に有意である)。さらに、抵抗と感受性細胞ラインのりんペプチドの平均の信号の統計的検査法(スチューデントのt検定)の結果も、有意であった。これらのりんペプチドは、阻害剤効力の新規なバイオマーカーとして機能し、また、これらの阻害剤の作用機序を明らかにする。
【0093】
実施例3−キナーゼ阻害薬へのがん細胞の鋭敏度に関連するキナーゼ経路活性化の調査
分析法
この実施例に使用されるTIQUASアプローチは、先にLC−MS/MSによって同定されたりんペプチドの定量化を目的としたLC−MSの使用から成る。この分析は、本明細書に記載されたコンピュータプログラムPESCAL(Cutillas, P. R.; Vanhaesebroeck, B. MoI Cell Proteomics 6(9), 1560-73, 2007)を使用することで自動化されている。PESCALは所定の分子状イオンの最初の3つの同位体の抽出されたイオンクロマトグラム(XIC)を実行する。これはペプチドイオンの電荷の識別と、次に理論上の同位体分布と相関されることができる同位体の相対強度の計算の両方を許容する。
【0094】
図5は分析の原理について図説する。分析は無標識の定量化のためのクロマトグラフピークの具体的かつ信頼できる識別のためにPescalの新バージョンを備えた高分解性および高質量精度質量分析法を組み合わせる。サンプルがただ一つのLC−MS/MS測定で分析される標的へのアプローチであるので、データ依存実験でのアンダーサンプリング(undersampling in data-dependent experiments)に関する問題は避けられる。アプローチの特徴は、サンプルと複製の無制限な数の詳細な定量的情報を提供する能力と、定常的なホスホプロテオミックツールとしての使用のための十分なスループットを提供する能力である。
【0095】
白血病細胞における薬物反応のTIQUAS分析
AML発達、すなわちJAK、MEKおよびPI3K系路について重要なキナーゼのための阻害剤のパネルへの8個のAML細胞ラインの反応が調査された。細胞はLY294002、PIl03、およびIC87114(主要標的としてPI3Kを有する阻害剤)、MEK阻害剤(MEK I、Calbiochem)、JAK阻害剤(JAK I、Calbiochem)、およびFLT3阻害剤(Calbiochem)の濃度を増大させて細胞を処理した。これらのキナーゼはすべてさまざまの型の癌腫の処理のための潜在的薬物標的である。しかしながら、細胞をそれらの阻害に影響されやすくする原因となる機構は不十分にしか理解されていない。患者が制癌剤に異なった程度で応じるかもしれない臨床的症状を反映し、これらのキナーゼ阻害薬の関数としての我々のパネルの細胞ラインの増殖は、さまざまな鋭敏度を示す。
【0096】
次に、TIQUASアプローチは、HEL対AML−193(JAK Iへの抵抗力および感受性)、P31/FUJ対MV4−11(PI−103への抵抗力および感受性)、およびHEL対MV4−11(MEK Iへの抵抗力および感受性)における基本りん酸化レベルを比較するのに使用された。これらの実験は3回行われた(図6A、B、およびC)。3000より多くのりんペプチドがこれらの分析で同定された。合計1095のりんペプチドが、これらの細胞ラインで定量化された。細胞ラインの感受性と抵抗力について、数百が顕著(p<0.05)で確固とした(>2倍)差異を示した(これらの例は図6D、GおよびFに示される)。
【0097】
材料と方法
細胞培養
急性骨髄白血病細胞ライン(AML−193、CMK、CTS、HEL、Kasumi-1、KG−1、MV4−11、およびP31/FUJ)とネズミのNIH/3T3線維芽細胞は10%のウシ血清、100単位/mlのペニシリン、100マイクロg/mlのストレプトマイシンが補われた培地で、5%のCO2の湿気のある環境の中、37℃で培養された。AML細胞ラインは、RPMI中、約5から10×105細胞/ミリリットルで、50マイクロモルのβ−メルカプトエタノールを追加補充して維持された。NIH3T3線維芽細胞はDMEM培地で育てられた。
【0098】
ホスホプロテオミック研究において、AML細胞は実験の前の日に5×105細胞/ミリリットルで新鮮培地にシードされた。それぞれの培養物は10ml中に5×106細胞を含み、独立して3つの細胞培養が実行された。薬物阻害剤の効果をテストするとき、収穫の1時間前に、細胞は1マイクロMのPI−103、500nMのMEK I阻害剤、および500nMのJAK I阻害剤(それぞれCalbiochemからの528100、444937および420099)で処理された。
【0099】
細胞は10分間300xgで遠心沈殿し、1mMのバナジウム酸ナトリウムと1mMのフッ化ナトリウムを含む氷冷PBSで二度洗浄した。溶解物は、10×106細胞/ミリリットルの濃度で、変性バッファ(20mM HEPES pH8.0、8M尿素、1mMバナジウム酸ナトリウム、1mMフッ化ナトリウム、2.5mMピロリン酸ソーダ、1mMβグリセロールリン酸)を使用して行なわれた。更なる蛋白質可溶化は超音波処理で達成された。溶解残渣は10分間、20000xgで遠心沈殿してきれいにされた。上澄の蛋白質濃度はブラッドフォードアッセイで決定した。サンプルは−80℃で更なる分析まで冷凍された。
【0100】
薬物治療へのAML細胞ラインの感受性
96ウエルプレートで1×105細胞/ミリリットルで、8個の細胞ライン(AML193、CMK、CTS、HEL、Kasumi−1、KG−1、MV4−11、およびP31/FUJ)をシードした。それぞれの条件について3回実験した。2時間の回収時間の後、細胞は増大する濃度(1nM、10nM、100nM、1マイクロMおよび10マイクロM)のFLT3阻害剤、MEK I阻害剤、JAK I阻害剤、LY294002、PI−103、およびIC87114で処理された。コントロールとして、細胞は、ビヒクル(DMSO)で処理されたものと、未処理のものが利用される。72時間の処理の後に、MTSアッセイ (CellTiter 96R AQueous One Solution Cell Proliferation assay, Promega Corporation, Madison, WI, USA)によって細胞生存率が評価された。
【0101】
消化および固相抽出
サンプルの還元とアルキル化は、暗闇の中の4.1mM DTTおよび8.3mMヨードアセトアミドで室温でそれぞれ15分間、実行された。HEPES pH8.0と2M尿素でサンプルを希釈した後に、トリプシン処理が、5×106細胞あたり10TAME単位の固定されたTLCK−トリプシンを使用して、37℃で16時間行われた。消化は、1%の終末濃度でTFAを加えて停止された。得られたペプチド溶液は、メーカーガイドラインにより、Sep-Pak C18カラムを使用して脱塩した(Waters UK Ltd, Manchester, UK) 。ペプチド溶出は5mlの50%ACN/0.1%TFAで行われた。
【0102】
固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)
りんペプチド分離は、改良されたIMAC富化実験計画書(Alcolea、M.P.他、JProteome Res8(8)、3808(2009))を使用することで達成された。要約すれば、それぞれのサンプルは30分間、室温で、300マイクロリットルのFe(III)−コーティングされたセファロース高性能ビーズを、50%ACN/0.1%TFA中50%のスラリーとして使用して、インキュベートされた。非結合のペプチド類は捨てられ、ビーズは二度50%ACN/0.1%TFAの300マイクロリットルで洗浄された。富化されたりんペプチド画分は300マイクロリットルの1.5%アンモニア水、pH11で溶離された。50%のACNを含む50マイクロリットルの1.5%アンモニア水、pH11で第2の溶出が行われ、さらに富化された。溶出されたペプチド類は、SpeedVacで最終的に乾燥され、−80℃で貯蔵された。
【0103】
ナノ流れ液体クロマトグラフタンデム質量分析(LC−MS/MS)
ホスホプロテオミック実験において、乾燥されたりんペプチド富化サンプルは、0.1%のTFAの10マイクロリットルに溶解され、LC−MS/MS装置で分析した。後者は約3000psiの操作背圧で5マイクロリットル/分(ロード)が供給され、400nL/分(溶離)を有する、ナノフロー高速液体クロマトグラフィー(nanoAcquity、Waters/Micromass)にオンラインで接続されたLTQ−Orbitrap XL質量分析計(Thermo Fisher Scientific, Hemel Hempstead, UK) から成る。分離は100μm×100mmののBEHカラム(Waters/Micromass)で実行された。移動相は溶液A、LC−MSグレード水中の0.1%FA、および溶液B、LC−MSグレードACN中の0.1%FAであった。操作勾配は、100分で1%のBから35%のBにし、85%のBで5分間洗浄し、1%のBで7分間平衡させた。完全なスキャン調査スペクトル(m/z350−1600)は、LTQ−Orbitrap XLでm/z 400で、60000の解像度で取得された。データ依存分析(DDA)が利用され、調査スペクトルに存在している5つの最も豊富な多価イオンが、衝突誘起解離(衝突エネルギーを35%に規格化した)によって自動的に質量選択され断片化された。5つのMS/MSスキャン(m/z 50−2000)がMSスキャンのあとに続いた。ダイナミックな除外は500のエントリーに制限された除外リスト、10ppmの質量窓と40秒の除外時間(exclusion duration)により可能にされた。
【0104】
データ分析
LTQ−Orbitrap MS/MS データは平滑化されて、Mascot Distillerを使用することでセントロイドされた(centroided)。処理されたファイルは、国際タンパク質インデックス(IPI マウス v3.49, 165169 配列および IPI ヒト v3.56, 76539 配列) をMascotサーチエンジンを使用することで人間またはマウス配列ライブラリに対して検索された。検索はMascot Daemon(v2.2.2; Matrix Science、London,UK)で自動化された。パラメータは、消化酵素としてトリプシンを選び、1回の失敗は許容され、固定された修飾としてカルバミドメチル(C)が設定され、ピロ−グル(Pyro−glu)(N−term)、オキシデェィションまたは酸化(Oxidation)(M)、ホスホ(Phospho)(STY)は可変修飾である。データセットは±7ppmの質量許容度と±800mmuの断片質量許容度で検索された。統計的に有意な閾値(期待値<0.05)(Mascotによって返される)を超えていたとき、ヒットは有意であると考えられた。おとりのデータベースに対する検索で見積もられている偽陽性率は、約2%であった。これらもMascotによって返されて、また、phosphoELMデータベースにも存在していたとき、修飾部位が報告される。そうでない場合には、修飾の場所があいまいであると考えられた。そのような場合には、りんペプチドはタンパク質配列中の、スタート端残基(start-end residue)として報告される。
【0105】
統計的に有意な閾値でMascotによって同定されたりんペプチドは、LC−MSで定量化可能なペプチド類に関するデータベース中に置かれた。コンピュータプログラムPESCAL (Cutillas, P.R. & Vanhaesebroeck, B. 無標識の機能プロテオミクスを使用する5つのネズミのコアプロテオムの定量的なプロファイル(Quantitative profile of five murine core proteomes using label-free functional proteomics) MoI Cell Proteomics 6, 1560-1573 (2007))が使用された。PESCALは比較したがっているすべてのサンプルにわたり、データベースに存在しているペプチド類の強度を定量化する。PESCALは選択されたペプチド類の質量/電荷数と保持時間を使用し、それぞれのイオンの最初の3つの同位体について、抽出されたイオンクロマトグラム(XICs)を構成する。これは分子質量、保持時間、および電荷の制限を適用する。これは研究されたりんペプチドに対応するLC−MS溶出プロフィルの明確な識別を可能にする。XIC構造のための窓(windows)は、質量/電荷が7ppmで、保持時間は5分であった。それぞれのXICのピーク高さを決定することによって、強度値について計算できるだろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、サンプル中の修飾ペプチドの定量化方法:
(a)サンプルからペプチド類を得る;
(b)工程(a)で得られたペプチド類に参照修飾ペプチドを追加して、ペプチド類と参照修飾ペプチドとの混合物を形成する;
(c)ペプチド類と参照修飾ペプチドとの混合物について質量分析(MS)を行い、サンプル中のペプチド類に関するデータを得る;および
(d)サンプル中のペプチド類に関するデータを、修飾ペプチドに関するデータベース内のデータと、コンピュータプログラムを使用して比較する;
ここで、修飾ペプチドに関するデータベースは、以下を含む方法によってコンパイルされる:
(i)サンプルからペプチド類を得る;
(ii)工程(i)で得られたペプチド類から修飾ペプチドを富化する;
(iii)工程(ii)で得られた富化された修飾ペプチドについて液体クロマトグラフ−タンデム質量分析法(LC−MS/MS)を行う;
(iv)修飾ペプチドを同定するために工程(iii)で検出された修飾ペプチドを既知のリファレンスデータベースと比較する;
(v) 工程(iv)で同定された修飾ペプチドに関連するデータをデータベースにコンパイルする。
【請求項2】
修飾ペプチド類がリン酸化ペプチド類である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該サンプルが細胞ラインまたは一次組織である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程(a)が以下を含む、請求項1から3のいずれか1項記載の方法:
(1)サンプルに細胞を溶解する;
(2)工程(1)で得られた溶解細胞からタンパク質を抽出する;および
(3)前記タンパク質をペプチド類に分解する。
【請求項5】
工程(3)が、プロテアーゼを使用して行われる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
プロテアーゼがトリプシン、キモトリプシン、Arg−C、ペプシン、V8、Lys−C、Asp−C、およびAspNから成る群から選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
工程(3)は、5から30のアミノ酸類のペプチド類まで前記タンパク質を分解することを含む、請求項4から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工程(b)が、前記ペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物から修飾ペプチドを富化し、富化された修飾ペプチドの混合物を製造し、工程(c)は、該富化された修飾ペプチドの混合物に質量分析法(MS)を行い、サンプル中のペプチド類に関連したデータを得ることを含む、請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
修飾ペプチドの富化工程が、クロマトグラフィーを使用して行われる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
クロマトグラフィーは固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィー、および二酸化ジルコニウム(ZrO2)クロマトグラフィーから成る群から選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
修飾ペプチドの富化工程が、抗体に基づく方法で行われる、請求項8記載の方法。
【請求項12】
サンプル内のペプチド類に関連するデータが、(質量/電荷)比(m/z)、電荷(z)、ペプチド類の相対保持時間である、請求項1から11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
工程(c)における前記質量分析法(MS)は液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)である、請求項1から12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
工程(i)が以下を含む、請求項4から7のいずれか1項記載の方法:
(1)サンプルに細胞を溶解する;
(2)工程(1)で得られた溶解細胞からタンパク質を抽出する;および
(3)前記タンパク質を請求項4の工程(3)に記載されたものと同じ方法でペプチド類に分解する。
【請求項15】
工程(ii)が、多次元クロマトグラフィーを使用して行われる、請求項1から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
多次元クロマトグラフィーが、強カチオン交換高速液クロマトグラフィー(SCX−HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、または二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィーを使用して行われる、請求項15記載の方法。
【請求項17】
多次元クロマトグラフィーが、陰イオン交換高速液体クロマトグラフィー(SAX−HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、または二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィーを使用して行われる、請求項15記載の方法。
【請求項18】
工程(ii)が、抗体に基づく方法を使用して行われる、請求項14記載の方法。
【請求項19】
工程(iv)が、MASCOTサーチエンジンを使用して行われる、請求項1から18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
修飾ペプチドに関連するデータが、修飾ペプチドの同定、(質量/電荷)比(m/z)、電荷(z)、および相対保持時間から成る群から選択される、請求項1から19のいずれか1項記載の方法。
【請求項1】
以下を含む、サンプル中の修飾ペプチドの定量化方法:
(a)サンプルからペプチド類を得る;
(b)工程(a)で得られたペプチド類に参照修飾ペプチドを追加して、ペプチド類と参照修飾ペプチドとの混合物を形成する;
(c)ペプチド類と参照修飾ペプチドとの混合物について質量分析(MS)を行い、サンプル中のペプチド類に関するデータを得る;および
(d)サンプル中のペプチド類に関するデータを、修飾ペプチドに関するデータベース内のデータと、コンピュータプログラムを使用して比較する;
ここで、修飾ペプチドに関するデータベースは、以下を含む方法によってコンパイルされる:
(i)サンプルからペプチド類を得る;
(ii)工程(i)で得られたペプチド類から修飾ペプチドを富化する;
(iii)工程(ii)で得られた富化された修飾ペプチドについて液体クロマトグラフ−タンデム質量分析法(LC−MS/MS)を行う;
(iv)修飾ペプチドを同定するために工程(iii)で検出された修飾ペプチドを既知のリファレンスデータベースと比較する;
(v) 工程(iv)で同定された修飾ペプチドに関連するデータをデータベースにコンパイルする。
【請求項2】
修飾ペプチド類がリン酸化ペプチド類である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該サンプルが細胞ラインまたは一次組織である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程(a)が以下を含む、請求項1から3のいずれか1項記載の方法:
(1)サンプルに細胞を溶解する;
(2)工程(1)で得られた溶解細胞からタンパク質を抽出する;および
(3)前記タンパク質をペプチド類に分解する。
【請求項5】
工程(3)が、プロテアーゼを使用して行われる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
プロテアーゼがトリプシン、キモトリプシン、Arg−C、ペプシン、V8、Lys−C、Asp−C、およびAspNから成る群から選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
工程(3)は、5から30のアミノ酸類のペプチド類まで前記タンパク質を分解することを含む、請求項4から6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工程(b)が、前記ペプチド類と参照修飾ペプチドの混合物から修飾ペプチドを富化し、富化された修飾ペプチドの混合物を製造し、工程(c)は、該富化された修飾ペプチドの混合物に質量分析法(MS)を行い、サンプル中のペプチド類に関連したデータを得ることを含む、請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
修飾ペプチドの富化工程が、クロマトグラフィーを使用して行われる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
クロマトグラフィーは固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィー、および二酸化ジルコニウム(ZrO2)クロマトグラフィーから成る群から選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
修飾ペプチドの富化工程が、抗体に基づく方法で行われる、請求項8記載の方法。
【請求項12】
サンプル内のペプチド類に関連するデータが、(質量/電荷)比(m/z)、電荷(z)、ペプチド類の相対保持時間である、請求項1から11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
工程(c)における前記質量分析法(MS)は液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)である、請求項1から12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
工程(i)が以下を含む、請求項4から7のいずれか1項記載の方法:
(1)サンプルに細胞を溶解する;
(2)工程(1)で得られた溶解細胞からタンパク質を抽出する;および
(3)前記タンパク質を請求項4の工程(3)に記載されたものと同じ方法でペプチド類に分解する。
【請求項15】
工程(ii)が、多次元クロマトグラフィーを使用して行われる、請求項1から14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
多次元クロマトグラフィーが、強カチオン交換高速液クロマトグラフィー(SCX−HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、または二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィーを使用して行われる、請求項15記載の方法。
【請求項17】
多次元クロマトグラフィーが、陰イオン交換高速液体クロマトグラフィー(SAX−HPLC)、固定された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、または二酸化チタン(TiO2)クロマトグラフィーを使用して行われる、請求項15記載の方法。
【請求項18】
工程(ii)が、抗体に基づく方法を使用して行われる、請求項14記載の方法。
【請求項19】
工程(iv)が、MASCOTサーチエンジンを使用して行われる、請求項1から18のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
修飾ペプチドに関連するデータが、修飾ペプチドの同定、(質量/電荷)比(m/z)、電荷(z)、および相対保持時間から成る群から選択される、請求項1から19のいずれか1項記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3−1】
【図3−2】
【図3−3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3−1】
【図3−2】
【図3−3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【公表番号】特表2012−524252(P2012−524252A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505225(P2012−505225)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000770
【国際公開番号】WO2010/119261
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(507078256)クイーン マリー アンド ウエストフィールド カレッジ (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000770
【国際公開番号】WO2010/119261
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(507078256)クイーン マリー アンド ウエストフィールド カレッジ (5)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]