説明

修飾ラッカーゼおよび芳香族化合物の処理方法

【課題】芳香族化合物の分解除去に適した修飾ラッカーゼの提供。
【解決手段】下記式(1)の化合物に基づく構成単位(ア)と、特定の構造を有するジカルボン酸および/または無水マレイン酸の化合物に基づく構成単位(イ)とを有する共重合体により化学修飾された修飾ラッカーゼ。式(1)中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、R1およびR3は同時にメチル基を表すことはなく、R4は炭素数1〜3のアルキレン基を表し、R5は水素原子または炭素数1〜22の炭化水素基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上を表し、mはAOの平均付加モル数を表し、m=1〜910である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾ラッカーゼを用いて芳香族化合物含有水を処理し、芳香族化合物を分解除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物系の環境汚染物質、いわゆる有機汚染物質と総称されるものとして、クロロフェノール、ポリクロロフェノール、ダイオキシン類、コプラナPCB類、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DTT)、ヘキサクロロベンゼン(HCB)、トリクロロエチレン(TCE)、ポリブロモビフェニルエーテル(PBBE)といった有機ハロゲン化合物に加えて、アルキルフェノール類、ビスフェノールA、フタル酸エステル類、ジエチルスチルベストロール(DES)、有機スズ化合物、一部の有機塩素化合物等に代表される内分泌撹乱化合物質、各種の染料や洗剤に使用されているアゾ化合物、多環芳香族炭化水素(PAHs)等が挙げられる。これらの化合物は、一般に難分解性であり、環境中へ放出された後に残留することが確認されており、そのうちある種の化合物については、生態系へ悪影響を及ぼすことが懸念されている。しかしながら、これらの化合物の多くについては、分解処理が確立されておらず、安全な処理方法の確立が早急の課題となっている。
【0003】
難分解性有機汚染物質の多くは、一般に水に難溶性であるが、微量に溶けた汚染物質が環境汚染・生態系破壊を引き起こす点で大きな問題となっている。これらは、安定性に優れるため環境中に長く残留するものが多い。特にクロロフェノール類やクロロベンゼン類については、低温でのその不完全燃焼により、極めて有毒なダイオキシン類が生成することが明らかにされている。従って、有機塩素化合物の完全分解処理にあたっては厳重な汚染規制下で、有害廃棄物専門の高温焼却炉にて燃料とともに燃焼分解する処理が行われている。
【0004】
ところが、高温焼却炉での処理となるため、(i)多量の燃料が消費されること、(ii)有害廃棄物専門の高温焼却炉が大規模になること、(iii)冷却装置が必要であること、(iv)焼却炉まで運搬する必要があること等の問題点を抱え、総体的に莫大な処理コストが必要となる。加えて、有機塩素化合物の焼却処理の間、ダイオキシン類を含む毒性化合物の生成の有無について継続的にモニタリングする必要がある。さらに、焼却後に生成される化学物質の中に、予測出来ない未知の毒性化合物が含まれる可能性があることを否定できない。このような諸般の事情により、このような焼却炉建設に関して、社会的同意を得ることが困難となっている。
【0005】
上記の状況の下、実用化されている高温焼却法に代わる処理法が幾つか考案されている。例えば、物理化学的処理方法としてはX線照射、オゾン接触、活性炭吸着、超臨界反応等の各方法が実施または検討されているが、環境中に放出・拡散された有機塩素化合物を分解するには効率的とは言えない。そのため、微生物、或いはそれらが生産する酵素を用いたバイオ分解処理方法が幾つか考案されている(例えば、特許文献1、2、3、4参照)。しかし、未だ検討の余地があり実用化には至っていない。その理由としては、有機塩素化合物は難水溶性であるため、水中には微量にしか溶けないため、酵素反応速度が遅く、無害化処理が効率的に進まないことが挙げられる。
【特許文献1】特開2001−46052号公報
【特許文献2】特開平11−309443号公報
【特許文献3】特開平10−257895号公報
【特許文献4】特開平6−91290号公報
【0006】
ポリフェノールオキシダーゼの一種であるラッカーゼは穏和な条件下、分子状酸素を電子受容体として種々のフェノール類を酸化する酵素である。基質特異性については厳密ではなく、芳香族化合物に対して高い反応性を有する。また、ラッカーゼの基質にうち、酸化された後に比較的安定なラジカルイオンとなる低分子化合物はラッカーゼ・メディエーターと呼ばれる。ラッカーゼによりラジカルイオン化したラッカーゼ・メディエーターは、ラッカーゼ単独では通常分解され難いか或いは分解され得ない難分解性有機汚染物質群に対して作用し、間接的にこれらの有機汚染物質群を分解することが出来る(非特許文献1)。
【非特許文献1】バイオテクノロジーレター(Biotechnol. Lett.)22、119〜125、(2000)
【0007】
これらラッカーゼ酵素単独使用若しくはラッカーゼ及びラッカーゼ・メディエーターの併用系(ラッカーゼ/ラッカーゼ・メディエーター系)を用いた有機汚染物質の無害化の研究が多くされている。しかし、これらの研究は水中に微量に溶解している難分解性有機汚染物質を対象としたものであり、分解対象物となる難分解性有機汚染物質(基質)の濃度が低いために、基質濃度が低いほど反応速度が遅くなるというミカエリス−メンテン(Michaelis−Menten)酵素反応速度論から見ても、非常に効率が悪いことは自明である。このことはラッカーゼを扱っている公知の特許についても同様なことが言える。例えば、ラッカーゼを用いて水溶液中に微量に溶解したダイオキシンの分解を試みる方法が報告されている(特許文献5参照)が、基質濃度が低いために分解効率が悪い。
【特許文献5】特開2001−37465号公報
【0008】
近年、有機汚染物質の分解処理に関して、有機溶媒にて濃縮した後に分解処理する方法(特許文献6参照)が報告されているが、この方法では、有機溶媒を新たに必要とし、また、有機汚染物質を抽出した有機溶媒による環境汚染の可能性も高く、別途有機溶媒の分離回収を行う必要があるため、高コストであり、実用的とは言えない。
【特許文献6】特開2003−52367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、水中に微量に溶解して存在する種々の芳香族化合物を効率的に酸化・重合し、水不溶性重合物を形成させ、水中より除去する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意研究の結果、同一分子中に酸無水物とポリオキシアルキレン基をもつ共重合体を化学的に結合させた修飾ラッカーゼが水溶液中において高い安定性を示すことを見出し、かつ、疎水性の高い共重合体を用いた修飾ラッカーゼは水溶液中で順ミセルを形成し、順ミセル中に難水溶性の難分解性有機汚染物質を濃縮することを見出し、水中に微量に溶解した難分解性有機汚染物質を酸化・重合し、水不溶性重合物を形成し、水中より沈殿物として容易に除去できることを見出して本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、ラッカーゼが、式(1)で示されるポリアルキレングリコールエーテルに基づく構成単位(ア)と、式(2A)または式(2B)で示されるジカルボン酸または無水マレイン酸に基づく構成単位(イ)とを有する共重合体により化学修飾された、修飾ラッカーゼに係るものである。
【化3】


(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、但し、RおよびRは同時にメチル基を表すことはなく、Rは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Rは水素原子または炭素数1〜22の炭化水素基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上を表し、mはAOの平均付加モル数を表し、m=1〜910である。)
【化4】


(式中、X及びXはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境面、操作面で優れた工程で、通常は難分解性である芳香族化合物を分解除去することができる。すなわち、本発明で用いられる共重合体によりラッカーゼを修飾することにより、ラッカーゼ自体の熱失活及び自己酸化による失活が起こりにくくなり、酵素反応が長時間持続する。また、本発明で用いられる共重合体と修飾ラッカーゼからなるミセルを形成し、ミセル中に疎水性の高い難分解性芳香族化合物を濃縮し、酵素反応により難分解性芳香族化合物を酸化・重合することにより水不溶性物質を形成し、これをろ過分別することができるために、操作面、環境面において優れている。
【0013】
また、従来のように焼却処理する場合と比べ、必要とされる設備、燃料等が不要となり環境面、操作面で優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、修飾ラッカーゼを用いて、難水溶性の難分解性芳香族化合物を含む水溶液中でミセルを形成させることにより、この有機汚染物質をミセル中に濃縮せしめ、ミセル中においてラッカーゼの酵素反応により難分解性芳香族化合物を酸化・重合し、水不溶性物質として除去する方法を提供するものである。
【0015】
本発明の修飾ラッカーゼは、式(1)で示されるポリアルキレングリコールエーテルに基づく構成単位(ア)と、式(2A)および式(2B)で示される化合物の少なくとも一方と、構成単位(イ)及び必要に応じて共重合可能な他の単量体に基づく構成単位(ウ)を有する共重合体により化学修飾された修飾ラッカーゼである。
【0016】
式(1)において、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、但し、RおよびRは同時にメチル基を表すことはなく、Rは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Rは水素原子または炭素数1〜22の炭化水素基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上を表し、mは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、m=1〜910である。
【0017】
,R及びRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表すが、R及びRが同時にメチル基を表すことはない。そのうち、Rが水素原子、Rが水素原子またはメチル基、Rが水素原子であるものが好ましい。
【0018】
は炭素数1〜3の2価の炭化水素基を表し、例えば、−CH−、−CHCH−、−CH(CH)CH−、−CHCHCH−などを挙げることができ、好ましくは−CH−である。
【0019】
は、水素原子または炭素数1〜22の炭化水素基を表し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、イソノニル基、デシル基、ドデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、イソセチル基、オクタデシル基、イソステアリル基、オクタデセニル基、オクチルドデシル基、ドコシル基、デシルテトラデシル基などが例示されるが、炭素数1〜5の炭化水素基が好ましい。
【0020】
AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシトリメチレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基などが挙げられるが、炭素数2〜3のオキシアルキレン基が好ましい。
【0021】
mはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、m=1〜910、好ましくは6〜455、より好ましくは6〜114の数である。
【0022】
(AO)m、すなわちm個のオキシアルキレン基からなるポリオキシアルキレン鎖は、オキシアルキレン基を1種または2種以上を含んでもよい。2種以上のオキシアルキレン基を含む場合には、そのオキシアルキレン単位の配列には制限はなく、ブロック状であっても、ランダム状であってもよい。
【0023】
また、式(2A)において、X及びXはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す。
前記共重合体は、式(2A)のジカルボン酸に基づく構成単位と式(2B)の無水マレイン酸に基づく構成単位との一方のみを含有していてよく、あるいは両方を含有していてよい。前記共重合体が、式(2A)に基づく構成単位と式(2B)に基づく構成単位との両方を含有している場合には、その混合比率は任意である。
【0024】
及びXはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表し、アルカリ金属原子としては、例えば、ナトリウム、カリウムなどが、アルカリ土類金属原子としては、カルシウム、マグネシウムなどが、有機アンモニウムとしては、有機アミン由来のもの、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジンなどが挙げられる。
【0025】
式(2A)で示されるカルボン酸のX及びXは、共重合させた後に別のX及びXに変換されてもよい。例えば、X及びXが水素原子である式(2A)で示されるカルボン酸を用いて共重合させた後、X及びXをアルカリ金属原子や有機アンモニウム等に変換してもよい。
【0026】
本発明で使用する共重合体は、実質的に構成単位(ア)および(イ)のみからなっていてよい。あるいは、必要に応じて、「共重合可能な他の単量体に基づく構成単位(ウ)」を含有していてよい。この「共重合可能な他の単量体」の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸などの不飽和カルボン酸;不飽和カルボン酸のアルキルエステル;不飽和カルボン酸のアルキルアミド;スチレン、メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル化合物;イソブチレン、ジイソブチレンなどのオレフィン;酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド等が挙げられる。
【0027】
上記構成単位(ア)、(イ)及び(ウ)の組成比は限定されない。構成単位(ア)の組成比率は、30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることが更に好ましい。また、構成単位(ア)の組成比率は、99.8重量%以下であることが好ましく、95重量%以下であることが更に好ましく、94重量%以下であることが最も好ましい。
【0028】
構成単位(イ)の組成比率は、0.2重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることが更に好ましく、6重量%以上であることが最も好ましい。構成単位(イ)の組成比率は、70重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることが更に好ましい。構成単位(イ)の比率は、式(2A)に基づく構成単位と式(2B)基づく構成単位との合計量に基づく。構成単位(ウ)の組成比率は0重量%であってよい。構成単位(ウ)の上限は特にないが、30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることが更に好ましく、10重量%以下であることが一層好ましい。
【0029】
ラッカーゼの修飾に用いる共重合体は、上記構成単位(ア)、(イ)及び必要に応じて(ウ)の単量体を、公知の方法によりラジカル共重合させることにより、容易に得ることができる。本発明で用いる共重合体は、重合開始剤の種類あるいは重合条件等を変化させることにより、種々の重合度の共重合体を得ることができ、その重量平均分子量は、通常5000〜100万、好ましくは5000〜15万である。また、ラッカーゼの修飾に用いる共重合体は市販のものを用いることもできる。
【0030】
本発明に用いられる修飾ラッカーゼは、ラッカーゼ中のリジン残基のアミノ基あるいは末端アミノ基を利用して、共重合体とラッカーゼを公知の方法(例えば、特開平5−284967号公報、特開平7−222586号公報記載の方法と同様の方法)により反応させることにより得ることができる。
【0031】
即ち、両者の反応は、共重合体が水溶性の場合は、ラッカーゼの水溶液に共重合体を直接添加する方法がよい。共重合体が水に溶解しにくい場合、あるいは水に不溶の場合は、共重合体を予め水と相溶性のあるアセトン等の溶剤に溶解したのち、ラッカーゼ水溶液に添加する方法が好ましい。また、反応の際のpHは7〜11であることが好ましく、8〜9であることが更に好ましいこれは、pHが酸性側であるとラッカーゼ中の遊離アミノ基の量が少なくなるので修飾率が低下するためである。
【0032】
また、反応温度は、高過ぎると修飾工程でのラッカーゼの活性低下がおこり、また、酸無水物基の加水分解反応がラッカーゼのアミノ基と酸無水物基との反応より起こりやすくなって修飾率が低下するため、0〜10℃が好ましい範囲である。
【0033】
ラッカーゼの共重合体による修飾率の範囲としては、修飾率を次の式で計算する場合、10〜80%が好ましく、30〜60%が特に好ましい。
修飾率=(全アミノ基数−残存アミノ基数)×100/全アミノ基数
アミノ基の定量は、下記のTNBS法(注一)で行った。
【0034】
(注一:TNBS法(トリニトロベンゼンスルホン酸法))
ビュレット法(注二)により蛋白質濃度を測定した試料溶液0.5mlを試験管に入れる。次に4%炭酸水素ナトリウム水溶液(pH8.5)(注三)及び0.1%トリニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液をそれぞれ0.5ml加え、40℃で2時間反応させる。次いで、10%ドデシル硫酸ナトリウム0.5ml及び1N塩酸0.25mlを加え、335nmにおける吸光度を測定する。あらかじめ濃度既知のアラニンを用いて作成した検量線をもちいて、試料のアミノ基の定量を行う。
(注二:ビュレット法)
試料溶液1mlにビュレット試薬4mlを加え37℃で30分間反応させる。560nmにおける吸光度を測定し、あらかじめ牛血清アルブミン溶液を用いて作成した検量線より、試料溶液の蛋白質濃度を決定する。
(注三:4%炭酸水素ナトリウム溶液(pH8.5))
4%炭酸水素ナトリウム溶液に0.1N水酸化ナトリウムを滴下し、pHを8.5に調整したもの。
【0035】
修飾率はこれらの範囲外であってもよいが、修飾率が80%より高いと酵素単位(1ユニット)あたりの比活性が低下して、所望する酵素の触媒効果を得るために多くの酵素量を必要とすることになる恐れがあり、30%より低いと修飾ラッカーゼの熱に対する安定性が不十分となる恐れがある。
【0036】
かかる修飾により、共重合体部分がラッカーゼ表面を被覆して、ラッカーゼの熱に対する安定性及び界面張力が改善される。これらの安定性の向上により、水溶液中で安定なミセルを形成することが可能となり、難分解性物質のミセル内への取り込みと酸化・重合を促進して、難分解性物質の除去を高い効率で行うことができる。
【0037】
難分解性芳香族化合物含有水の処理条件として、処理温度は0〜60℃が好ましく、より好ましくは0〜50℃である。処理温度が50℃より高いとラッカーゼの熱安定性が悪くなり活性が低下するため好ましくない。
【0038】
修飾ラッカーゼの濃度としては、処理溶液に対して5mg/L以上、2g/L以下が好ましく、10mg/L以上、1g/L以下がより好ましい。修飾ラッカーゼの濃度が5mg/Lより低いと、処理溶液中で修飾ラッカーゼは溶解した状態として存在することになり、難分解性芳香族化合物の酸化・重合させて処理する能力が低下するため好ましくない。また、2g/L以上、修飾酵素が処理溶液中で析出する濃度まで修飾ラッカーゼを処理溶液に加えても難分解性芳香族化合物の酸化・重合を阻害することはないが、処理溶液に対してあまりにも多く添加、添加した量に対して、処理能力が上がらないため好ましくない。
【0039】
処理する際のpHとしては4〜9が好ましく、pHが4より低い場合や9より高い場合はラッカーゼの活性が低下して好ましくない。
【0040】
本発明で処理される芳香族化合物としては、有機汚染物質として総称されるクロロフェノール、ポリクロロフェノール、ダイオキシン、ポリ塩化ビフェニル、ジクロロジフェニルトリクロロエタン、ヘキサクロロベンゼン、トリクロロエチレン、ポリブロモビフェニルエーテル等の有機ハロゲン化物質やビスフェノールA等のアルキルフェノール類、フタル酸エステル類、ジエチルスチルベストロールなどが挙げられる。これらの有機化合物はラッカーゼ及びラッカーゼ・メディエーターの作用により、酸化・重合し水不溶性の重合物となる。
【0041】
重合し、水不溶性となった難分解性芳香族化合物由来物質は遠心分離、ろ過などの一般的方法により分離除去を行うことができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0043】
(製造例1)
下記化合物を1リットルのトルエンに溶解し、窒素雰囲気下に80±2℃で7時間の重合反応を行った。
CH=CHCHO(CHCHO)10CH 512g(1モル)
無水マレイン酸 103g(1.05モル)
t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート 4.3g(0.02モル)
【0044】
ついで、トルエン及び未反応の無水マレイン酸を10〜30mmHgの減圧下に100±10℃で留去し、487gの共重合体No.1を得た。得られた共重合体No.1は淡黄色のワックス状の固体で融点は45℃、鹸化価は182.9であった。
【0045】
以下、同様の方法により表1に表す共重合体を製造した。表1は共重合体に用いる構成単位(ア)の化合物の構造式と反応のモル比、この共重合体の反応に用いる構成単位(イ)と構成単位(ウ)および触媒のモル比を表す。表2は得られた共重合体の分析値を表す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
(ラッカーゼの修飾)
ラッカーゼを表1の共重合体による修飾を試みた。修飾ラッカーゼの活性は2,6−ジメトキシフェノールを基質として用い、活性測定溶液中の濃度を0.9mM、酵素濃度3mg/L、pH5、温度25℃で反応を行い、この反応により得られたキノン誘導体を分光光度計(Hitachi U−3210)を用いて469nmにおける吸光度を測定することにより行なった。相対活性は、修飾酵素(ME)の活性を未修飾酵素(NE)の活性で除した値である。
【0049】
(実施例1)
ラッカーゼ0.2gを0.16Mホウ酸緩衝液(pH8.5)19.8gに溶解し、系の温度を4℃に保持した。これにNo.2の共重合体を0.2gから2.0gを加えて2時間攪拌した。その後、pH5の酢酸緩衝液を加えて反応溶液を希釈して、4g/Lの修飾ラッカーゼ溶液を得た。得られた修飾ラッカーゼをTNBS法により修飾率を求めた。修飾率と反応の重量比(共重合体/酵素)の関係を図1に示す。
【0050】
(実施例2)
実施例1で得られた修飾ラッカーゼの活性を2,6−ジメトキシフェノールを基質として修飾率と相対活性の関係を図1に示す。
【0051】
(実施例3)
修飾率50%のNo.2共重合体で修飾した修飾ラッカーゼ(ME)と未修飾ラッカーゼ(NE)の25℃と40℃での熱安定性の結果を図2に示す。
【0052】
(実施例4)
共重合体No.2で修飾した修飾ラッカーゼの臨界ミセル濃度の測定を行った。測定は協和界面科学製「CVBP−A3」を使用し、25℃でデュヌイ法により表面張力の測定を行った。得られた表面張力と濃度の関係を図3に示す。図3より、表面張力と濃度の相関は2つの直線から成り立ち、各々の直線が交差する点が臨界ミセル濃度である。この結果より、臨界ミセル濃度は約5mg/Lであり、修飾ラッカーゼの濃度が5mg/L以上であれば、ミセルを形成した。
【0053】
(実施例5)
修飾率50%のNo.2共重合体で修飾した修飾ラッカーゼ(ME)と未修飾ラッカーゼ(NE)を用いて、ジクロロフェノールの除去率を測定した。反応条件はpH5.0、温度25℃とし、修飾ラッカーゼ濃度を12mg/L、初期ジクロロフェノール濃度を0.5mMとして、反応時間を1日とした場合の除去率と酵素濃度の関係を図4に示す。
【0054】
(実施例6)
修飾率50%のNo.2共重合体で修飾した修飾ラッカーゼ(ME)と未修飾ラッカーゼ(NE)を用いて、難分解性芳香族化合物として各種フェノール系化合物の除去率を測定した。反応条件はpH5.0、温度25℃とし、修飾ラッカーゼ濃度を12mg/L、初期フェノール系化合物の濃度を0.45mMとして、反応時間を1日とした場合の各種フェノール系化合物の除去率を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
(実施例7)
修飾率50%のNo.2共重合体で修飾した修飾ラッカーゼ(ME)と未修飾ラッカーゼ(NE)を用いて、難分解性芳香族化合物としてフェノール系誘導体であるo−クロロフェノール、2,4−ジクロロフェノール、2,4,6−トリクロロフェノールの混合物の除去率を測定した。反応条件はpH5.0、温度25℃として、修飾ラッカーゼの濃度を12mg/L、初期フェノール系誘導体の濃度をそれぞれ0.45mMとして、反応時間を1日とした場合のそれぞれのフェノール系誘導体の除去率を表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
(実施例8)
共重合体No.1(AKM)及び共重合体No.2(AGM)、共重合体No.3(AEM)によって修飾された修飾ラッカーゼの活性を2,6−ジメトキシフェノールを基質として測定した。測定溶液中の初期の基質濃度を0.9mMとし、修飾ラッカーゼの濃度を3mg/LとしてpH5.0、温度25℃で測定を行なった。活性の測定は2,6−ジメトキシフェノールの酸化により得られたキノン誘導体の469nmにおける吸光度を測定することにより行なった。図5に各々の共重合体で修飾を行った修飾ラッカーゼの相対活性を示す。
【0059】
(実施例9)
共重合体No.1(AKM)及び共重合体No.2(AGM)、共重合体No.3(AEM)によって修飾された修飾ラッカーゼの温度37℃における熱的安定性を測定した。その結果を図6に示す。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実線は、共重合体とラッカーゼとの修飾反応における共重合体の添加量と修飾率の関係を示すグラフであり、点線は、修飾率と相対活性の関係を示すグラフである。
【図2】修飾ラッカーゼ(ME)と未修飾ラッカーゼ(NE)の25℃と40℃における経時的安定性を示すグラフである。
【図3】共重合体No.2で修飾した修飾ラッカーゼと共重合体No.2の濃度と表面張力の関係及び臨界ミセル濃度を示すグラフである。
【図4】ジクロロフェノールの除去効率と酵素濃度の関係を示すグラフである。
【図5】異なる共重合体を用いて修飾を行った修飾ラッカーゼの相対活性を示すグラフである。
【図6】修飾ラッカーゼと未修飾ラッカーゼの37℃での保存安定性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラッカーゼが、式(1)で示されるポリアルキレングリコールエーテルに基づく構成単位(ア)と、式(2A)で示されるジカルボン酸および式(2B)で示される無水マレイン酸の少なくとも一方に基づく構成単位(イ)とを有する共重合体により化学修飾された、修飾ラッカーゼ。
【化1】


(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、但し、RおよびRは同時にメチル基を表すことはなく、Rは炭素数1〜3のアルキレン基を表し、Rは水素原子または炭素数1〜22の炭化水素基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上を表し、mはAOの平均付加モル数を表し、m=1〜910である。)
【化2】


(式中、X及びXはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す。)
【請求項2】
前記共重合体において、前記構成単位(ア)の比率が30〜99.8重量%、前記構成単位(イ)の比率が0.2〜70重量%、及び共重合可能な他の単量体に基づく構成単位(ウ)の比率が0〜30重量%であることを特徴とする、請求項1記載の修飾ラッカーゼ。
【請求項3】
前記ラッカーゼを構成するアミノ基のリジン残基および末端アミノ基を、前記共重合体と化学結合させた、請求項1または2記載の修飾ラッカーゼ。
【請求項4】
前記共重合体にラッカーゼを加えて修飾を行なう際の修飾条件が、pH7〜11、温度0℃〜10℃であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の修飾ラッカーゼ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の修飾ラッカーゼを用いて、炭素数6以上の芳香族化合物含有水を処理することを特徴とする、芳香族化合物の処理方法。
【請求項6】
前記芳香族化合物が、ダイオキシン類、コプラナPCB類、ビスフェノール類、ハロゲン化フェノール類及びフタル酸エステル類から選ばれる少なくとも一種である、請求項5記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−94811(P2006−94811A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286608(P2004−286608)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】