説明

修飾擬ポリロタキサンおよび修飾ポリロタキサンの製造方法

【課題】製造効率が良好で、使用化合物の選択範囲の広い修飾擬ポリロタキサンおよび修飾ポリロタキサンの製造方法を提供する。
【解決手段】修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させる反応により修飾擬ポリロタキサンを製造し、次いで得られた修飾擬ポリロタキサンの軸分子とキャッピング剤とを反応させて、前記軸分子の両末端にブロック基を付加する修飾ポリロタキサンの製造方法において、前記包接錯体を形成させる反応の溶媒に、有機溶媒を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾シクロデキストリンを輪成分とする修飾擬ポリロタキサンおよび修飾ポリロタキサンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
修飾シクロデキストリンを輪成分とする修飾ポリロタキサンを合成するには、従前は、シクロデキストリンを出発物質としてポリロタキサンを合成した後に、シクロデキストリンの水酸基を修飾する方法(特許文献1)、あるいは、修飾シクロデキストリンを出発物質として固相でポリロタキサンを合成する方法(特許文献2,3)が知られているだけであった。
【0003】
これに対し、近年、修飾シクロデキストリンを出発物質として、溶媒中でポリロタキサンを合成する方法が提案された(特許文献4)。この方法では、修飾シクロデキストリンに軸分子を貫通させる反応に使用する溶媒は水だけに限られている。
【特許文献1】特開2007−63412号公報
【特許文献2】特開2005−75979号公報
【特許文献3】特開2007−70553号公報
【特許文献4】特開2008−19371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のポリロタキサン合成後にシクロデキストリンの水酸基を修飾する方法では、修飾ポリロタキサンを得るために複雑な操作と多くの時間を費やしてしまい、効率的でない。さらにこの方法では、修飾率の高いポリロタキサンを得ることは困難である。また、固相でのポリロタキサンの合成は、収率が低く、製造効率が悪い。
【0005】
一方、特許文献4に記載の方法は、製造効率も良く収率も高いが、修飾シクロデキストリンに軸分子を貫通させる反応に使用する溶媒が水に限られているため、ワンポットでポリロタキサンを製造する場合、キャッピング剤等として水と混ざり易いが水と反応し難いものを選択しなければならず、利用できる化合物に限界があった。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、製造効率が良好で、使用化合物の選択範囲の広い修飾擬ポリロタキサンおよび修飾ポリロタキサンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させる反応により修飾擬ポリロタキサンを製造する方法において、前記包接錯体を形成させる反応の溶媒に、有機溶媒を用いることを特徴とする修飾擬ポリロタキサンの製造方法を提供する(発明1)。
【0008】
上記発明(発明1)によれば、輪成分として、あらかじめ修飾された修飾シクロデキストリンを使用し、また液相で合成するため、製造効率が良好である。また、反応溶媒として有機溶媒を使用するため、その有機溶媒自体の選択範囲が広く、それに伴って、修飾ポリロタキサンを製造する際に使用するキャッピング剤の選択範囲も広くなる。さらには、有機溶媒の種類等を適宜選択すれば、修飾擬ポリロタキサン・修飾ポリロタキサンが高収率で得られる。
【0009】
上記発明(発明1)においては、前記有機溶媒が、脂肪族炭化水素、アルコール、アミド、スルホキシド、エーテル、ニトリルおよびそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい(発明2)。
【0010】
上記発明(発明2)においては、前記脂肪族炭化水素が、炭素数5〜12のアルカンおよびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい(発明3)。
【0011】
上記発明(発明1〜3)においては、前記修飾シクロデキストリンが、(部分)メチル化シクロデキストリンであることが好ましい(発明4)。
【0012】
上記発明(発明4)においては、前記(部分)メチル化シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンであることが好ましい(発明5)。
【0013】
第2に本発明は、修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させる反応により修飾擬ポリロタキサンを製造し、次いで得られた修飾擬ポリロタキサンの軸分子とキャッピング剤とを反応させて、前記軸分子の両末端にブロック基を付加する修飾ポリロタキサンの製造方法において、前記包接錯体を形成させる反応の溶媒に、有機溶媒を用いることを特徴とする修飾ポリロタキサンの製造方法を提供する(発明6)。
【0014】
上記発明(発明6)によれば、輪成分として、あらかじめ修飾された修飾シクロデキストリンを使用し、また液相で合成するため、製造効率が良好である。また、反応溶媒として有機溶媒を使用するため、その有機溶媒自体の選択範囲が広く、それに伴ってキャッピング剤の選択範囲も広くなる。さらには、有機溶媒の種類等を適宜選択すれば、修飾ポリロタキサンが高収率で得られる。
【0015】
上記発明(発明6)においては、前記軸分子と前記キャッピング剤との反応の溶媒に、前記有機溶媒を用いることが好ましい(発明7)。かかる発明(発明7)によれば、修飾擬ポリロタキサンの合成および修飾ポリロタキサンの合成をワンポットで行うことができ、したがって、修飾ポリロタキサンを極めて効率良く製造することができる。
【0016】
上記発明(発明6,7)においては、前記有機溶媒が、脂肪族炭化水素、アルコール、アミド、スルホキシド、エーテル、ニトリルおよびそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい(発明8)。
【0017】
上記発明(発明8)においては、前記脂肪族炭化水素が、炭素数5〜12のアルカンおよびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい(発明9)。
【0018】
上記発明(発明6〜9)においては、前記修飾シクロデキストリンが、(部分)メチル化シクロデキストリンであることが好ましい(発明10)。
【0019】
上記発明(発明10)においては、前記(部分)メチル化シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンであることが好ましい(発明11)。
【0020】
上記発明(発明6〜11)においては、前記軸分子と前記キャッピング剤とを、イソシアネート基とアミン基との組み合わせで反応させることが好ましい(発明12)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る修飾擬ポリロタキサンの製造方法または修飾ポリロタキサンの製造方法によれば、製造効率が良好であり、また溶媒やキャッピング剤の選択範囲が広いという利点がある。さらには、溶媒の種類等を適宜選択すれば、修飾擬ポリロタキサン・修飾ポリロタキサンの収率も高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態では、修飾擬ポリロタキサンを製造し、次いで、得られた修飾擬ポリロタキサンから修飾ポリロタキサンを製造する。
【0023】
本実施形態で製造する修飾擬ポリロタキサンは、輪成分である修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に、末端に官能基を有する直鎖状分子(軸分子)が貫通してなり、未だ軸分子の末端にブロック基が結合されていないものである。本実施形態では、最初に、末端に官能基を有する直鎖状分子と、修飾シクロデキストリンとを用意する。末端に官能基を有する直鎖状分子は、市販のものを使用することもできるし、以下のようにして製造することもできる。
【0024】
直鎖状分子は、反応溶媒(本実施形態では有機溶媒)に溶解する分子であることが好ましい。かかる分子としては、ポリエーテル類、ポリエステル類、ポリオルガノシロキサン類などが挙げられ、例えば、ポリテトラヒドロフラン、ポリカプロラクトン、ポリアクリル酸エステル、ポリエチレングリコール、ポリジメチルシロキサンなどが好ましく挙げられる。これらの中でも、修飾シクロデキストリンとの錯形成性に優れる点で、ポリテトラヒドロフランを使用することが特に好ましい。
【0025】
なお、本明細書において、「直鎖状分子」の「直鎖」は、実質的に「直鎖」であることを意味する。すなわち、直鎖状分子上で環状分子が移動可能であれば、直鎖状分子は分岐鎖を有していてもよい。
【0026】
直鎖状分子の数平均分子量は、500〜1,000,000であることが好ましく、特に1,000〜500,000であることが好ましく、さらには、3,000〜100,000であることが好ましい。数平均分子量が500未満であると、貫通した修飾シクロデキストリンの離脱が発生し易く、修飾ポリロタキサンの収率が著しく低下する。また、数平均分子量が1,000,000を超えると、溶解性及び末端官能基の反応性が悪化し、軸分子とキャッピング剤との反応速度が著しく低下する。
【0027】
上記直鎖状分子の末端官能基としては、後述するブロック基と反応して直鎖状分子の末端を封鎖できるものであれば特に限定されないが、好ましくは、アミノ基、ヒドロキシル基、イソシアネート基、カルボキシル基、ビニル基およびエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用し、特に好ましくは、アミノ基を使用する。なお、末端官能基は両末端で同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0028】
直鎖状分子が末端に上記官能基を有する場合には、当該官能基を使用すればよいが、直鎖状分子が末端に上記官能基を有しない場合、または有する場合であっても必要に応じて、直鎖状分子の末端に上記官能基を付加する。直鎖状分子の末端に対する上記官能基の付加は、従来公知の方法、例えば、Nature, 356, 325-327 (1992)に記載の方法などによって行うことができる。
【0029】
例えば、直鎖状分子がポリテトラヒドロフランの場合には、末端にヒドロキシル基を有するため、当該ヒドロキシル基をそのまま使用することもできるし、また、当該ヒドロキシル基をアミノ基等に置換して使用することもできる。
【0030】
一方、本実施形態では、輪成分として修飾シクロデキストリンを使用する。シクロデキストリンは複数のヒドロキシル基を有しており(例えばα−シクロデキストリンは18個のヒドロキシル基を有している)、それらのヒドロキシル基の一部または全部が他の官能基に置換されることにより、修飾シクロデキストリンが得られる。他の官能基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、アセチル基等のアシル基などが挙げられる。それらの中でも、メトキシ基は官能基として小さく、隣接するヒドロキシル基の修飾を阻害しないため、メトキシ基が特に好ましい。
【0031】
例えば、全てのヒドロキシル基がメトキシ基に置換されたシクロデキストリンは、パーメチル化シクロデキストリンであり、1個または複数個のヒドロキシル基を残して他のヒドロキシル基がメトキシ基に置換されたシクロデキストリンは、部分メチル化シクロデキストリンである。本明細書では、両者をまとめて「(部分)メチル化シクロデキストリン」という。
【0032】
本実施形態では、修飾シクロデキストリンが(部分)メチル化シクロデキストリン、特にパーメチル化シクロデキストリンの場合に有効であり、さらにシクロデキストリンがα−シクロデキストリンの場合に有効である。なお、修飾シクロデキストリンは、常法によって製造することができる。
【0033】
上記のように軸分子として末端に官能基を有する直鎖状分子、輪成分として修飾シクロデキストリンを用意したら、修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させることにより、擬ポリロタキサンを得る。
【0034】
本実施形態では、修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させる反応の溶媒に、有機溶媒を用いる。一般的に、溶媒として有機溶媒を使用した場合、輪成分が包接能力を発揮できないと考えられており、しかも錯形成能力が低い修飾シクロデキストリンを輪成分として使用するため、従来、修飾シクロデキストリンを出発物質とした(擬)ポリロタキサンの製造に有機溶媒を用いることは、全く着想されなかった。しかし、本発明では、上記反応の溶媒として有機溶媒を使用した結果、予想に反して、不均一系であるにもかかわらず、修飾(擬)ポリロタキサンが得られた(後述する実施例参照)。この有機溶媒の種類を適宜選択すれば、修飾擬ポリロタキサン・修飾ポリロタキサンが高収率で得られる。
【0035】
有機溶媒としては、脂肪族炭化水素、アルコール、ポリオール、アミド、スルホキシド、エーテル、ニトリルおよびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、中でも脂肪族炭化水素がより好ましく、さらには炭素数5〜12のアルカンが特に好ましい。
【0036】
有機溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等のアルカン;2,2−ジメチルブタン、2−メチルペンタン、イソオクタン等のアルカン誘導体;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール等のアルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオール;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル;アセトニトリル、プロパンニトリル等のニトリルなどが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0037】
上記有機溶媒は、親水性溶媒と疎水性溶媒とに分類することもでき、それぞれ異なるメカニズムで修飾(擬)ポリロタキサンの形成に関与しているものと考えられる。親水性溶媒の場合、修飾シクロデキストリンの親水性溶媒への溶解性と、溶媒の親水性の度合いとにより、修飾シクロデキストリンの外側の親水性が上昇し、修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部の疎水性とのギャップが大きくなって、包接能力が高まると考えられる。なお、修飾シクロデキストリンの溶解性が高すぎる場合、軸分子と輪成分とが包接錯体の状態と、抱接せず分離して混合している状態とでは、分離している状態の方が安定であるため、その場合には収率は低下すると思われる。上記で例示した有機溶媒のうち、アルコール、ポリオール、アミド、スルホキシド、およびニトリルが親水性溶媒に該当する。
【0038】
一方、疎水性溶媒の場合、修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部のサイズに適度に適合した嵩高さと長さを持った疎水性溶媒であれば、当該疎水性溶媒が一度修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に取り込まれ、その後すぐに外に出て、次の疎水性溶媒が環状分子の穴部に取り込まれるという平衡状態が保たれ、この疎水性溶媒の移動の早さが収率に寄与すると考えられる。なお、疎水性溶媒が修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に安定的に取り込まれると、修飾シクロデキストリンが軸分子と包接錯体を形成しなくなるため、ある程度不安定な状態が望まれる。上記で例示した有機溶媒のうち、アルカン、アルカン誘導体、およびエーテルが疎水性溶媒に該当し、上記メカニズムを考慮すると、炭素数5〜12のアルカン、または炭素数5〜12のアルカン誘導体が特に好ましい。
【0039】
なお、親水性溶媒と疎水性溶媒とでは、上記メカニズムから考察するに、修飾(擬)ポリロタキサンの形成には疎水性溶媒の方が大きく関与しており、したがって疎水性溶媒の方が好ましいものと推察される。
【0040】
擬ポリロタキサンの製造は、末端に官能基を有する直鎖状分子および修飾シクロデキストリンを上記有機溶媒に溶解または分散させ、その溶液を撹拌することによって行うことができる。
【0041】
撹拌方法については特に制限はなく、常温または適当に制御された温度で、機械的撹拌処理、超音波処理などの方法で撹拌することができる。特に、短時間で修飾擬ポリロタキサンを得るには、超音波処理で撹拌することが効率的であり好ましい。撹拌時間は、数分〜1時間の条件で行うことが好ましい。超音波の照射条件については特に制限はないが、周波数20〜40kHzで行うことが好ましい。
【0042】
以上のようにして修飾擬ポリロタキサンを製造したら、修飾擬ポリロタキサンとキャッピング剤とを混合することによって、修飾擬ポリロタキサンの軸分子とキャッピング剤とを反応させ、軸分子の両末端にキャッピング剤のブロック基を付加(キャッピング)して、修飾ポリロタキサンを得る。
【0043】
ブロック基としては、輪成分である修飾シクロデキストリンが直鎖状分子により串刺し状になった形態を保持し得る基であれば特に限定されないが、好ましくは、ジアルキルフェニル基類、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、アントラセン類等が適宜選択される。
【0044】
軸分子とキャッピング剤とは、互いに反応する官能基を有するもの同士を反応させればよいが、特に、イソシアネート基とアミン基との組み合わせで反応させることが好ましい。すなわち、キャッピング剤としては、軸分子として末端官能基がアミンのものを選択した場合には、イソシアネート基を有するキャッピング剤、軸分子として末端官能基がイソシアネートのものを選択した場合には、アミン基を有するキャッピング剤を使用することが好ましい。これにより、触媒等の他の試薬を使用しなくても、また加熱しなくても、反応は効率良く短時間で進行し、そして、得られる修飾ポリロタキサンの収率も高い。
【0045】
イソシアネート基を有するキャッピング剤としては、例えば、3,5−ジメチルフェニルイソシアネート、4−トリチルフェニルイソシアネート等のモノイソシアネート類などが挙げられる。また、アミン基を有するキャッピング剤としては、例えば、3,5−ジメチルアニリン、4−トリチルアニリン等が挙げられる。
【0046】
キャッピング剤の使用量は、軸分子の末端官能基に対して、モル基準で等量〜30倍量であることが好ましく、特に2倍〜10倍量であることが好ましい。反応溶媒として有機溶媒を使用することにより、溶媒として水を使用する場合よりも、キャッピング剤の使用量を低減することができる。また、このキャッピング剤の使用量を適宜調整すれば、修飾ポリロタキサンを高い収率で得ることが可能である。
【0047】
修飾擬ポリロタキサンとキャッピング剤とを反応させるには、当該修飾擬ポリロタキサンとキャッピング剤との混合物を撹拌するだけでよく、溶媒中で攪拌して行ってもよいし、固相で攪拌して行ってもよい。なお、溶媒中での攪拌は、撹拌子、撹拌翼等を用いた機械的撹拌処理で十分足りる。また、固相での撹拌には、乳鉢、ボールミル、ミキサー等を用いるとよい。
【0048】
ここで、キャッピング剤は、水とは反応し易いが有機溶媒とは反応しないため、あるいは有機溶媒は水ほどは反応性が高くないため、溶媒として有機溶媒を使用すれば、キャッピング剤の選択肢が大幅に広がることとなる。さらに、溶媒を水とした場合には、イソシアネート基が水との反応で消費されることを前提に過剰量のキャッピング剤の添加が必要となるが、溶媒を有機溶媒とすることで、キャッピング剤の添加量を低減することも可能になる。
【0049】
また、溶媒としては、修飾擬ポリロタキサンの製造で使用した有機溶媒をそのまま使用することが特に好ましい。これにより、修飾擬ポリロタキサンの合成および修飾ポリロタキサンの合成をワンポットで行うことができ、したがって、修飾ポリロタキサンを極めて効率良く製造することができる。
【0050】
修飾シクロデキストリンはキャッピング剤との反応性が低いため、溶媒の温度は特に限定されず、常温または適当に制御された温度とすればよい。反応時間は、0.1〜5時間程度、特に0.5〜3時間であることが好ましい。このように、本方法によれば、短時間で修飾ポリロタキサンを製造することができる。なお、精製は常法によって行えばよい。
【0051】
以上の通り、本実施形態に係る修飾擬ポリロタキサンの製造方法または修飾ポリロタキサンの製造方法によれば、製造効率が良好であり、また溶媒やキャッピング剤の選択範囲が広いという利点がある。さらには、有機溶媒の種類等を適宜選択すれば、修飾擬ポリロタキサン・修飾ポリロタキサンが高収率で得られる。具体的な収率としては、従来の製造方法では20%未満であったが、本実施形態に係る方法によれば、20〜40%程度まで向上し得る。
【実施例】
【0052】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0053】
〔実施例1〕
(1)修飾シクロデキストリンの合成
α−シクロデキストリン(ナカライテスク社製)を、ジメチルホルムアミド中、水素化ナトリウムおよびヨウ化メチルと反応させることにより、パーメチル化α−シクロデキストリンを単離した。
【0054】
(2)擬ポリロタキサンの合成
上記で単離した輪成分としてのパーメチル化α−シクロデキストリン0.61gをn−ヘキサン2mlに分散させて、分散溶液を得た。次に、当該分散溶液に、軸分子として末端官能基アミンのポリテトラヒドロフラン(Aldrich社製,Polytetrahydrofuran bis (3-aminopropyl) terminated,Mn:1100)72mgを加えて12時間撹拌した後、超音波(周波数:35kHz)を30分間照射し、そのまま室温で一晩静置した。
【0055】
(3)ポリロタキサンの合成
一晩静置後、上記分散溶液に、キャッピング剤として3,5−ジメチルフェニルイソシアネート(Aldrich社製)185mgを添加し、室温で1時間撹拌し反応させ、反応溶液を得た。得られた反応溶液をそのままジエチルエーテルに注いで沈澱物を得て、当該沈殿物を回収した。次いで、当該沈殿物から分取ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(展開溶媒:CHCl)により高分子量体を回収し、乾燥させて修飾ポリロタキサンを得た。収量(mg)を表1に示す。
【0056】
また、得られた修飾擬ポリロタキサンのH−NMRのシクロデキストリンに由来するシグナルと軸分子に由来するシグナルとの積分比から、全体の収量中の軸分子の質量を算出し、仕込みの軸分子量との比から収率(%)を導出した。結果を表1に示す。
【0057】
〔実施例2〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりにn−ペンタンを使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0058】
〔実施例3〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりにn−ヘプタンを使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0059】
〔実施例4〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりにn−ドデカンを使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0060】
〔実施例5〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりに2,2−ジメチルブタンを使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0061】
〔実施例6〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりに2−メチルペンタンを使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0062】
〔実施例7〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりにイソオクタンを使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0063】
〔実施例8〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりにメタノールを使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0064】
〔実施例9〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりにエタノールを使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0065】
〔実施例10〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりにブタノールを使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0066】
〔実施例11〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりにイソプロパノールを使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0067】
〔実施例12〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりにジエチレングリコールを使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0068】
〔実施例13〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりにジメチルホルムアミド(DMF)を使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0069】
〔実施例14〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりにジメチルスルホキシド(DMSO)を使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0070】
〔実施例15〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりにジエチルエーテルを使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0071】
〔実施例16〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりにアセトニトリルを使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0072】
〔比較例1〕
溶媒としてn−ヘキサンの替わりに水を使用する以外、実施例1と同様にして修飾ポリロタキサンを製造した。収量(mg)及び収率(%)を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1から明らかなように、修飾シクロデキストリンを出発物質とし、反応溶媒として各種有機溶媒を使用して、修飾ポリロタキサンを製造することができた。
【0075】
ここで、実施例3〜5及び実施例8〜16は比較例1に比べて低い収率となっているが、従来、有機溶媒中ではポリロタキサンを得ることはできないと考えられていた事実は覆すことができた。なお、本実施例及び比較例では、比較のためにキャッピング剤の量を従来の水中でポリロタキサンを得るために必要な量に統一しているが、有機溶媒中ではより低減できるものと考えられる。したがって、キャッピング剤の使用量を各種有機溶媒に応じて最適量に調整した上で、溶媒を水とした場合と比較すれば、上記収率の結果は異なるものと考えられる。
【0076】
一方、実施例1、2、6及び7においては、キャッピング剤の使用量を、溶媒を水とした場合の最適量に合わせているにもかかわらず、比較例1よりも非常に高い収率で修飾ポリロタキサンを得ることができた。すなわち、反応溶媒を水から有機溶媒に変更する有効性は、キャッピング剤使用量の低減だけでなく、修飾ポリロタキサンを得る点からも有効であることが明らかとなった。
【0077】
また、反応溶媒として有機溶媒を使用することで、修飾擬ポリロタキサンの合成〜修飾ポリロタキサンの合成をワンポットで行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、効率良く修飾擬ポリロタキサンまたは修飾ポリロタキサンを製造するのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させる反応により修飾擬ポリロタキサンを製造する方法において、
前記包接錯体を形成させる反応の溶媒に、有機溶媒を用いることを特徴とする修飾擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒が、脂肪族炭化水素、アルコール、アミド、スルホキシド、エーテル、ニトリルおよびそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の修飾擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項3】
前記脂肪族炭化水素が、炭素数5〜12のアルカンおよびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の修飾擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項4】
前記修飾シクロデキストリンが、(部分)メチル化シクロデキストリンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の修飾擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項5】
前記(部分)メチル化シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンであることを特徴とする請求項4に記載の修飾擬ポリロタキサンの製造方法。
【請求項6】
修飾シクロデキストリンの環状分子の穴部に軸分子を貫通させ包接錯体を形成させる反応により修飾擬ポリロタキサンを製造し、次いで得られた修飾擬ポリロタキサンの軸分子とキャッピング剤とを反応させて、前記軸分子の両末端にブロック基を付加する修飾ポリロタキサンの製造方法において、
前記包接錯体を形成させる反応の溶媒に、有機溶媒を用いることを特徴とする修飾ポリロタキサンの製造方法。
【請求項7】
前記軸分子と前記キャッピング剤との反応の溶媒に、前記有機溶媒を用いることを特徴とする請求項6に記載の修飾ポリロタキサンの製造方法。
【請求項8】
前記有機溶媒が、脂肪族炭化水素、アルコール、アミド、スルホキシド、エーテル、ニトリルおよびそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項6または7に記載の修飾ポリロタキサンの製造方法。
【請求項9】
前記脂肪族炭化水素が、炭素数5〜12のアルカンおよびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項8に記載の修飾ポリロタキサンの製造方法。
【請求項10】
前記修飾シクロデキストリンが、(部分)メチル化シクロデキストリンであることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の修飾ポリロタキサンの製造方法。
【請求項11】
前記(部分)メチル化シクロデキストリンが、パーメチル化シクロデキストリンであることを特徴とする請求項10に記載の修飾ポリロタキサンの製造方法。
【請求項12】
前記軸分子と前記キャッピング剤とを、イソシアネート基とアミン基との組み合わせで反応させることを特徴とする請求項6〜11のいずれかに記載の修飾ポリロタキサンの製造方法。

【公開番号】特開2010−116473(P2010−116473A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290132(P2008−290132)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】