説明

個別の食料製品を焙煎しかつ表面低温殺菌するための方法

本発明は、個別の食料製品を焙煎しかつ表面低温殺菌するための方法に関する。本発明により、処理を湿気のある雰囲気において100℃を上回る温度で実施し、低温殺菌処理を焙煎システムで焙煎過程の間に実施し、低温殺菌段階の間、製品表面の温度を、調整された雰囲気の露点温度を僅かに下回る温度に保ち、低温殺菌を1〜30分間実施し、進行中のまたは継続される焙煎によって、食料製品の表面における凝縮水を除去し、食料製品の吸水を最小限に抑えることが提案されると、焙煎と表面低温殺菌とを組み合わせて、1つの方法にまとめることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個別の食料製品、特に油糧種子、たとえばアーモンド、ヘーゼルナッツ、ペカンナッツ、クルミ、ピーナッツ、ブラン、シリアル、コーヒ、カカオおよびこれに類するものを焙煎しかつ表面低温殺菌するための方法に関する。
【0002】
農業製品や農業食品は、無害であるものの潜在的に病原性の微生物を必然的に保有している。たいていの事例では、農業製品は生鮮処理されるかまたは適切な科学技術法で保存される。産業上使用される保存法の1つには、特に熱による滅菌または低温殺菌、イオン化ビームの照射または致死的に作用するガスによる処理がある。特に後者の両方法は制限的にしか使用することができない。なぜならば、立法機関がこれらの方法の使用を厳しく取り締まっているからである。
【0003】
近年、サルモネラによる生アーモンドの汚染の複数の事例が報告された。アーモンド製品の安全性を高めるために、米国当局は、2007年秋以降に収穫された全てのアーモンドを低温殺菌する必要があることを命じた。アーモンドや別の油糧種子の低温殺菌は、使用すべき方法に特別な要求を課している。アーモンドの含水量は、処理によって、また、処理の間に著しく増加させられてはならない。なぜならば、これによって、アーモンドの貯蔵能だけでなく無傷性も損なわれるからである。さらに、生アーモンドは、集中的な熱処理または機械処理によって種皮を失う傾向にある。このことは、同じく品質欠陥と見なされる。
【0004】
さらに、米国当局は、低温殺菌を慣用の別の処理ステップの枠内で、たとえばブランチングまたは焙煎の間に行うことができるという要求を課した。この場合、これらの方法ステップの総和によって十分な不活性化が確保されなければならない。
【0005】
ナッツやアーモンドの熱空気焙煎に対して、種々異なる装置および方法が記載されている。これらの方法をまとめたものは、Finke(1965)、Kleinert(1966)、Gaupp(1978)、Bockelmann(1987)またはPerren(1995)に認められる。熱空気焙煎法は、通常、ナッツが125℃〜約600℃の乾燥した熱空気で負荷されることを有している。これによって、ナッツが加熱され、8〜60分の範囲内で焙煎される。焙煎は、焙煎度を作り出すことによって特徴付けられている。焙煎によって、含水量が2.5%よりも少ない値に減少させられ、テクスチャが変えられ、これによって、カリカリないしパリパリの脆いテクスチャが得られる。さらに、ライトグレーないしダークグレーの範囲内の焙煎色が作り出され、典型的な焙煎芳香と好ましい焙煎風味とが生まれる。
【0006】
微生物の有効な熱不活性化は、通常、高められた水分活性の雰囲気で得られる。これに対して、乾燥加熱によって、微生物は僅かしか不活性化されない。熱空気での焙煎は、乾燥した雰囲気での処理であるので、熱空気焙煎によって、極めて長い処理時間もしくは高い温度でしか、微生物の確実な不活性化が生ぜしめられない。
【0007】
カリフォルニア・アーモンド協会(Almond Board of California)の「Guidelines for Validation of Dry Roast Processes」には、サルモネラSEPT30に対する記載された代用物の不活性化をlog4のオーダ内で達成するために必要となるパラメータが記載されている。熱空気焙煎の枠内で最小限の熱不活性化のために達成しなければならない記載された製品温度・時間コンビネーションは、これらの条件下で専ら高い焙煎度と相応に黒ずんだ焙煎色とが作り出されるほど高い。したがって、極めて等級の高い焙煎度でしか、log4のオーダ内での微生物の不活性化を達成することができない。これには、米国当局に準じて、「低温殺菌されている」とのラベルが付与されない。
【0008】
Perren et al.(1996)の二段階焙煎法では、熱空気が、空気湿分の増加に繋がる給湿にさらされる。この場合、第1のプロセス段階での湿分の記載された約10%の増加では、栄養型の微生物の確実な不活性化を生ぜしめる雰囲気を発生させるためには不十分である。
【0009】
もう1つには、個別食品、特にアーモンドを除菌するための方法が記載されている。アーモンドを低温殺菌するために許容された方法をまとめたものは、カリフォルニア・アーモンド協会のウェブサイト(www.almondsarein.com)に記載されている。
【0010】
記載された多くの低温殺菌法は、湿気のある雰囲気、60〜120℃の範囲内の温度、常圧条件下での製品の隔絶された処理である。これらの方法の専らの目的は、微生物によるアーモンド表面の汚染を減少させることである。僅かなプロセス期間と、湿気のある雰囲気とに基づき、これらの方法は、所定の焙煎度を作り出すことができない。これらの低温殺菌法では、2.5%を下回る製品の乾燥が達成されず、典型的なテクスチャ、焙煎芳香または焙煎色も生まれない。
【0011】
したがって、公知先行技術には、ナッツ、アーモンド、油糧種子および別の個別物品を同時にまたは同一のプロセスで確実に低温殺菌しかつ熱空気で焙煎することができる方法が記載されていない。
【0012】
本発明の課題は、冒頭で述べた方法を改良して、食料製品の熱空気焙煎と低温殺菌とが組み合わされ、両方法が1つにまとめられるようにすることである。
【0013】
この課題を解決するために本発明の方法では、処理を湿気のある雰囲気において100℃を上回る温度で実施し、低温殺菌処理を焙煎システムで焙煎過程の間に実施し、低温殺菌段階の間、製品表面の温度を、調整された雰囲気の露点温度を僅かに下回る温度に保ち、低温殺菌を1〜30分間実施し、進行中のまたは継続される焙煎によって、食料製品の表面における凝縮水を除去し、食料製品の吸水を最小限に抑えるようにした。
【0014】
本発明の方法の有利な態様によれば、湿気のある雰囲気での処理を、有利には50℃〜99℃の間の温度で実施する。
【0015】
本発明の方法の有利な態様によれば、低温殺菌段階時に製品表面の温度を、調整された雰囲気の露点温度を有利には0℃〜8℃下回る温度に選択する。
【0016】
本発明の方法の有利な態様によれば、製品装入材料を前容器内に準備し、焙煎ゾーンに装入し、空気をベンチレータによって吸い込み、バーナを介してガスで加熱し、焙煎ゾーンに中心で供給し、焙煎物品の表面温度が、低温殺菌温度に到達するやいなや、低温殺菌段階を開始する。
【0017】
本発明の方法の有利な態様によれば、低温殺菌段階の間、フラップシステムを介して、焙煎ゾーンを通る空気量流を減少させ、熱空気内への蒸気噴射を弁とオリフィス絞りとを介して開始し、蒸気と混合された熱空気の露点温度が、焙煎物品の表面温度を約0℃〜8℃上回る温度に調整されているように、空気・蒸気量を設定する。
【0018】
本発明の方法の有利な態様によれば、低温殺菌段階の間、製品表面温度を、調整された空気・蒸気体積流に基づき生ぜしめられる露点温度に合致させる。
【0019】
本発明によって、栄養型の病原菌を最適な条件下でかつ短い時間で不活性化するという前提条件が達成されている。次いで、焙煎処理が継続され、製品が所望の焙煎度にもたらされる。
【0020】
低温殺菌は、湿気のある雰囲気での処理が、有利には50℃〜99℃の間の温度で実施され、低温殺菌段階時に製品表面の温度が、調整された雰囲気の露点温度を有利には0℃〜8℃下回る温度に選択されることによって最適化される。本発明による方法の有利な態様は、その他の従属請求項4〜6から知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】蒸気噴射手段を備えた、焙煎の間に焙煎物品を表面低温殺菌するための熱空気式焙煎設備NRを示す図である。
【図2】105℃の堆積物温度で低温殺菌段階によって中断される二段階焙煎の経過の例を示す図である。
【0022】
以下に、本発明を1つの実施例につき詳しく説明する。
【0023】
前述した方法は、たとえば図1に示したような熱空気式焙煎システムNRで実施される。製品装入材料が前容器内に準備され、焙煎ゾーン1に装入される。その後、空気がベンチレータ4によって吸い込まれ、バーナ5を介してガスで加熱され、焙煎ゾーン1に中心で供給される。焙煎熱空気が回転式のノズルアッセンブリ3を介して焙煎物品に提供される。この焙煎物品の表面温度が、50〜99℃の範囲内の設定された低温殺菌温度に到達するやいなや、低温殺菌段階が開始される。
【0024】
この低温殺菌段階の間、焙煎ゾーン1を通る空気体積流がフラップシステム13を介して製品1kgあたり0〜20Nm/hに減少させられ、食料製品1kgあたり蒸気0.01〜15.0kg/hのオーダで弁11とオリフィス絞り12とを介して熱空気内に蒸気噴射が開始される。空気・蒸気量は、蒸気と混合される熱空気の露点温度が焙煎物品の表面温度を約0〜8℃上回るように設定されている。この温度差に基づき、表面温度が、給湿された熱空気の露点温度に等しくなるまで、水が製品表面に凝縮する。この水凝縮のため、表面に水層が形成される。この水層には、栄養型の微生物の不活性化に対する最適な条件が付与されている。その後、所望のまたは意図された低温殺菌作用が生ぜしめられるまで、この最適な低温殺菌条件が1〜30分の間、湿気のある空気のコンスタントな流れおよびコンスタントな熱空気温度で維持される。たとえば8℃だけ製品温度が高められていることに基づき、表面への水蒸気の凝縮によって、1℃あたり0.1%の水の近似的な吸収に起因して、最大0.8%だけ食料製品の含水量が増加させられていることに注意しなければならない。
【0025】
低温殺菌段階に続いて、Perren et al.(1996)およびPerren und Escher(1997)に記載されているような二段階焙煎法が継続される。このためには、蒸気噴射が中断され、熱空気体積流が、設定された量に再び増加させられる。焙煎プロセスの進行の間、食料製品がまだ(2つの焙煎段階から成る)焙煎法の第1の段階の間に乾燥させられる。その後、第2の焙煎段階において、所望の焙煎度が、設定された熱空気温度で形成される。二段階焙煎の経過の一例が、低温殺菌段階と組み合わせて、図2に示してある。
【0026】
食料製品の望ましくない質的な変化を最小限に抑えるためには、低温殺菌段階の間の吸水を可能な限り減少させることが必要となる。このことは、製品表面温度が、調整された空気・蒸気体積流に基づき意図された露点温度に合致する場合に達成することができる。この場合、これに基づき、低温殺菌段階の、微生物の不活性化のために必要となる作用時間が明らかとなる。低温殺菌段階の処理期間と開始温度とに関連した、アーモンドにおける純粋な低温殺菌段階の低温殺菌作用の例が、表1に示してある。
【0027】
熱空気焙煎法への低温殺菌段階の図示の組込みによって、食料製品をただ1回の方法工程で低温殺菌しかつ熱空気で焙煎することが可能となる。さらに、獲得される低温殺菌作用が、獲得したい焙煎度に左右されない。これによって、黒ずんだ焙煎色または高い焙煎度が達成される必要なしに、アーモンドおよび別の食料製品を熱空気焙煎の間に確実にかつ再現可能に低温殺菌することが難なく可能となる。
【0028】
前述した低温殺菌法は、別の油糧種子、たとえばヘーゼルナッツ、ペカンナッツ、クルミ、ピーナッツ、ブラン、シリアル、コーヒ、カカオ等の、組み合わされた低温殺菌・焙煎処理のためにも適している。
【0029】
前述した熱不活性化法は、熱空気内での焙煎プロセスの枠内において、焙煎された食料製品の質的な特性が変化させられることなしに、中ないし低の含水量によるアーモンド、油糧種子ならびに別の個別の食料製品の表面微生物汚染を著しく減少させるために適している。したがって、米国当局に準じて、低温殺菌が語られる。なぜならば、この方法によって、ミクロフローラの減少、特にサルモネラSEPT30においてlog5の減少が確実に達成されているからである。
【0030】
表1
二段階焙煎法による所定の装置内での焙煎の間の、エンテロコッカス・フェシウムNRRL−B2354を接種した生アーモンドの表面低温殺菌に対する方法パラメータ。焙煎は、低温殺菌段階および第1の焙煎段階の両工程(工程1:170℃の空気温度で4分間;工程2:133℃の空気温度で4分間)のあと、低温殺菌段階の作用を確認するために中断された。エンテロコッカス・フェシウム(参照生物)における出発汚染は2・10KBE/gであった。
【表1】

(注1)焙煎設備NRの堆積物温度は、ナッツ表面温度と、熱空気温度と、別の影響因子とから発生させられる混合温度を成している。
【0031】

【符号の説明】
【0032】
1 焙煎ゾーン
3 ノズルアッセンブリ
4 ベンチレータ
5 バーナ
11 弁
12 オリフィス絞り
13 フラップシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個別の食料製品、特に油糧種子、たとえばアーモンド、ヘーゼルナッツ、ペカンナッツ、クルミ、ピーナッツ、ブラン、シリアル、コーヒ、カカオおよびこれに類するものを焙煎しかつ表面低温殺菌するための方法において、処理を湿気のある雰囲気において100℃を上回る温度で実施し、低温殺菌処理を焙煎システムで焙煎過程の間に実施し、低温殺菌段階の間、製品表面の温度を、調整された雰囲気の露点温度を僅かに下回る温度に保ち、低温殺菌を1〜30分間実施し、進行中のまたは継続される焙煎によって、食料製品の表面における凝縮水を除去し、食料製品の吸水を最小限に抑えることを特徴とする、個別の食料製品を焙煎しかつ表面低温殺菌するための方法。
【請求項2】
湿気のある雰囲気での処理を、有利には50℃〜99℃の間の温度で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
低温殺菌段階時に製品表面の温度を、調整された雰囲気の露点温度を有利には0℃〜8℃下回る温度に選択する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
製品装入材料を前容器内に準備し、焙煎ゾーン(1)に装入し、空気をベンチレータ(4)によって吸い込み、バーナ(5)を介してガスで加熱し、焙煎ゾーン(1)に中心で供給し、焙煎物品の表面温度が、低温殺菌温度に到達するやいなや、低温殺菌段階を開始する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
低温殺菌段階の間、フラップシステム(13)を介して、焙煎ゾーン(1)を通る空気量流を減少させ、熱空気内への蒸気噴射を弁(11)とオリフィス絞り(12)とを介して開始し、蒸気と混合された熱空気の露点温度が、焙煎物品の表面温度を約0℃〜8℃上回る温度に調整されているように、空気・蒸気量を設定する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
低温殺菌段階の間、製品表面温度を、調整された空気・蒸気体積流に基づき生ぜしめられる露点温度に合致させる、請求項4または5記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−531645(P2010−531645A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513681(P2010−513681)
【出願日】平成20年4月12日(2008.4.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/002906
【国際公開番号】WO2009/003545
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(510004480)ビューラー バルト アクチエンゲゼルシャフト (2)
【氏名又は名称原語表記】Buehler Barth AG
【住所又は居所原語表記】Daimlerstrasse 6, D−71691 Freiberg, Germany
【Fターム(参考)】