倍力装置
【課題】電動倍力装置において、倍力制御の精度を高める。
【解決手段】ブレーキペダル7の操作によってプランジャ8が移動すると、相対変位センサ30によって検出したプランジャ8と直動部材6との相対変位に基づき、電動モータ3を制御し、ボール−ネジ機構5を駆動して直動部材6をプランジャ8に追従させる。直動部材6がリアクション部材11を介してマスタシリンダ9のピストン13を推進して制動力を発生させる。このとき、マスタシリンダ9からの反力の一部がリアクション部材11を介してブレーキペダル7にフィードバックされる。基準位置センサ31により、プランジャ8と直動部材6との相対位置が所定の基準位置にあることを検知したとき、相対変位センサ30の検出値を相対変位基準値として記憶し、この相対変位基準値を基準としてプランジャ8と直動部材6との相対変位を決定する。
【解決手段】ブレーキペダル7の操作によってプランジャ8が移動すると、相対変位センサ30によって検出したプランジャ8と直動部材6との相対変位に基づき、電動モータ3を制御し、ボール−ネジ機構5を駆動して直動部材6をプランジャ8に追従させる。直動部材6がリアクション部材11を介してマスタシリンダ9のピストン13を推進して制動力を発生させる。このとき、マスタシリンダ9からの反力の一部がリアクション部材11を介してブレーキペダル7にフィードバックされる。基準位置センサ31により、プランジャ8と直動部材6との相対位置が所定の基準位置にあることを検知したとき、相対変位センサ30の検出値を相対変位基準値として記憶し、この相対変位基準値を基準としてプランジャ8と直動部材6との相対変位を決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキシステムに用いられる倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のブレーキシステムに用いられる倍力装置において、ブレーキペダルの操作に応じて電動モータを作動させ、ボール−ネジ機構等の回転−直動変換機構を介してマスタシリンダのピストンを推進して、ブレーキ液圧を発生させるようにした電動倍力装置が知られている。この種の電動倍力装置において、例えば特許文献1に示されたものでは、多くの車両に用いられているエンジンの吸気負圧を倍力源とする気圧式倍力装置と同様に、ゴム等の弾性体からなるリアクション部材を介して制動時のマスタシリンダからの反力の一部をブレーキペダルにフィードバックするようにしたものがある。これにより、簡単な構造でマスタシリンダからの反力をブレーキペダルにフィードバックすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/068404号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようにマスタシリンダからの反力の一部をブレーキペダルにフィードバックするようにした倍力装置では、制御精度を高めるためには、各部の寸法、各種センサの取付位置及び検出の精度を高めることが要求される。
【0005】
本発明は、制御精度を高めることができる倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材と、該入力部材と相対移動可能に設けられた倍力部材と、該倍力部材を駆動するアクチュエータと、前記入力部材及び倍力部材の推力をマスタシリンダに伝達すると共に該マスタシリンダからの反力を所定の比率で前記入力部材と前記倍力部材に伝達する推力伝達機構と、前記入力部材と前記倍力部材との相対変位を検出するための相対変位検出手段と、該相対変位検出手段が検出した相対変位に基づいて前記アクチュエータの作動を制御する制御手段と、を備えた倍力装置において、
前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知するための基準位置検知手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る倍力装置によれば、制御精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す電動倍力装置の直動部材、プランジャ及びリアクション部材の作動状態を示す図である。
【図3】図1に示す電動倍力装置の制御を示すフローチャートである。
【図4】図1に示す電動倍力装置の電動モータの制御を示すグラフ図である。
【図5】図1に示す電動倍力装置の作動の一例を示すタイムチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態に係る電動倍力装置のブレーキペダル部を示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る電動倍力装置の直動部材の戻りスイッチ部を示す図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る電動倍力装置の制御を示すフローチャートである。
【図9】図8に示すフローチャートのステップS3において、ブレーキスイッチにより初期位置判定を実行するための制御を示すフローチャートである。
【図10】図8に示すフローチャートのステップS3において、戻りスイッチにより初期位置判定処理を実行するための制御を示すフローチャートである。
【図11】図8に示すフローチャートのステップS3において、ブレーキスイッチ及び戻りスイッチにより初期位置判定処理を実行するための制御を示すフローチャートである。
【図12】図8に示すフローチャートのステップS3において、電動モータへの通電に基づき初期位置判定処理を実行するための制御を示すフローチャートである。
【図13】図8に示すフローチャートのステップS3において、電動モータへの非通電時間に基づき初期位置判定処理を実行するための制御を示すフローチャートである。
【図14】図1に示す電動倍力装置において、プランジャとリアクション部材との間の隙間の寸法誤差を示す説明図である。
【図15】図1に示す電動倍力装置の入出力特性を示すグラフ図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る電動倍力装置の調整装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置について、図1乃至図5を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態に係る電動倍力装置1は、ハウジング2内に、電動モータ3と、電動モータ3のロータ4の回転運動を直線運動に変換する回転−直動変換機構であるボール−ネジ機構5と、ボール−ネジ機構5の直動部材6に挿入されてブレーキペダル7に連結されたプランジャ8と、直動部材6及びプランジャ8の推力をマスタシリンダ9に伝達する出力ロッド10と、出力ロッド10と直動部材6及びプランジャ8との間に介装されたリアクション部材11とが設けられている。
【0010】
ハウジング2は、車室とエンジンルーム等の隔壁であるダッシュパネルDのエンジンルーム側に取付けられ、後部の円筒部12がダッシュパネルDを貫通して車室内に延ばされている。ハウジング2の前部には、円筒部12と同心に配置されたマスタシリンダ9が取付けられ、マスタシリンダ9のピストン13がハウジング2内に挿入されている。マスタシリンダ9は、リザーバ14にブレーキ液を貯留し、ピストン13の推進により、ブレーキ液圧を発生させて、各車輪のブレーキ装置にブレーキ液圧を供給する公知のマスタシリンダであり、タンデム型、シングル型いずれでもよい。
【0011】
電動モータ3は、ボール−ネジ機構5を駆動するアクチュエータであり、ハウジング2に固定されたステータ15と、ステータ15に挿入されて回転可能に支持された円筒状のロータ4とを備え、制御電流によってロータ4の回転を制御可能なものであり、例えば、同期モータ、誘導モータ等とすることができる。
【0012】
ボール−ネジ機構5は、軸受17、18によってハウジング2に回転可能に支持された円筒状の回転部材19と、回転部材19及びハウジング2の円筒部12に挿入され、軸方向に沿って移動可能かつ軸回りに回転しないように支持された直動部材6と、これらの互いの対向面に形成された螺旋状のボール溝20、21間に装填された複数の転動体であるボール22とを備え、回転部材19の回転により、ボール22が転動することによって直動部材6が軸方向に沿って移動するようになっている。また、ボール−ネジ機構5は、直動部材6の直線運動を回転部材19の回転運動に変換することができる。なお、本実施形態では、回転−直動変換機構として、ボール−ネジ機構5を用いているが、電動モータ3のロータ4の回転運動を直線運動に変換するものであれば、ローラ−ネジ機構等の他の形式の回転−直動変換機構を用いてもよい。
【0013】
回転部材19は、電動モータ3のロータ4に挿通されて一体に回転するように結合されている。直動部材6は、倍力部材として前端部がマスタシリンダ9のピストン13に対向し、後部がハウジング2の円筒部12に挿入されて、円筒部12に設けられたストッパ12Aによって軸回りの回転及び後退位置が規制されている。直動部材6は、ハウジング2の前壁との間に設けられたテーパ状のコイルバネである戻しバネ23のバネ力によって後退方向に付勢されてストッパ12に当接している。なお、本実施形態では、ロータ4によって回転部材19を直接駆動する構造となっているが、これらの間に歯車、プーリ等の減速機構を介装してもよい。
【0014】
プランジャ8は、ブレーキペダル7の操作により進退動する入力部材であり、直動部材6内に軸方向に沿って移動可能に案内されている。マスタシリンダ9のピストン13に対向する直動部材6の前端部には、大径ボア24及び小径ボア25からなる段付ボアが形成されている。小径ボア25には、プランジャ8の先端部が摺動可能に挿入されている。プランジャ8は、直動部材6に設けられたストッパ26によって後退位置が規制され、直動部材6との間に設けられたテーパ状のコイルバネである戻しバネ27のバネ力によって後退方向に付勢されてストッパ26に当接している。
【0015】
大径ボア24には、ゴム等の弾性体からなる円板状のリアクション部材11が嵌合され、リアクション部材11の上に出力ロッド10の基端部に形成されたフランジ部が当接している。小径ボア25に挿入されたプランジャ8の先端部とリアクション部材11との間には、プランジャ8がストッパ26に当接する後退位置にあるとき、一定の隙間Cが形成されている。リアクション部材11は、直動部材6及びプランジャ8に係合して、これらの推力をマスタシリンダ9に伝達する推力伝達機構を構成しており、直動部材6及びプランジャ8が前進してリアクション部材11を介して出力ロッド10によってマスタシリンダ9のピストン13を推進したとき、大径ボア24の断面積A1及び小径ボア25の断面積A2によって決定されるリアクション部材11に対する直動部材6及びプランジャ8の受圧面積に応じて直動部材6及びプランジャ8に反力がフィードバックされる。プランジャ8の後端部には、入力ロッド28を介してブレーキペダル7が連結されている。
【0016】
ハウジング2には、ボール−ネジ機構5の回転部材19、すなわち、電動モータ3のロータ4の回転位置を検出するレゾルバ等の回転位置センサ29が取付けられている。直動部材6とプランジャ8との間には、これらの相対変位を検出するための相対位置検出手段としての相対変位センサ30が設けられている。相対変位センサ30は、例えば、抵抗値の変化等に基づき、相対変位をアナログ信号として検出するポテンショメータとすることができる。
【0017】
また、直動部材6には、プランジャ8と直動部材6との相対位置が所定の基準位置にあることを検知するための基準位置検知手段としての基準位置センサ31が設けられている。基準位置センサ31は、プランジャ8が、直動部材6に対して、ストッパ26に当接する最も後退した位置(図2(A)参照)から一定距離ΔT(図2(B)参照)だけ前進(リアクション部材11側に向かって移動)した位置である基準位置にあるか否かを検知するものであり、例えば公知のリミットスイッチを用いることができる。基準位置センサ31は、基準位置を検知したとき、オン又はオフのいずれの信号を出力するものでもよい。
【0018】
ブレーキペダル7に対しては、その踏込みの有無を検知するためのブレーキペダルセンサ32が設けられている。ブレーキペダルセンサ32としては、基準位置センサ31と同様、公知のリミットスイッチを用いることができるが、ブレーキペダル7の踏込みに伴いブレーキランプに通電するための既存のブレーキランプスイッチを利用してもよい。
【0019】
ハウジング2の上部には、制御手段であるコントローラ33が取付けられている。コントローラ33は、回転位置センサ29、基準位置センサ31、相対変位センサ30及びブレーキペダルセンサ32の出力信号を含む各種センサからの検出信号に基づいて、制御電流を供給して電動モータ3の作動を制御するものである。コントローラ33による制御については、図2を参照して以下に説明する。
【0020】
図2(A)に示すように、ブレーキペダル7が踏込まれていない非制動状態では、戻しバネ23、27のバネ力により直動部材6及びプランジャ8は、ストッパ12Aおよびストッパ26によって規定される後退限位置にある。このとき、リアクション部材11とプランジャ8との間には、一定の隙間Cが形成されている。また、この状態では、相対変位センサ30は、直動部材6とプランジャ8との相対変位を検出し、基準位置センサ31は、基準位置を検知しておらず、そして、ブレーキペダルセンサ32は、ブレーキペダル7の踏込み検知していない状態となっている。
【0021】
図2(B)に示すように、ブレーキペダル7が踏込まれて、入力ロッド28を介してプランジャ8が直動部材6に対して一定距離ΔTだけ前進することで、所定の基準位置に達する。このとき、基準位置センサ31は、プランジャ8が基準位置にあることを検知する。このとき、コントローラ33は、相対変位センサ30の検出値を相対変位基準値P0として記憶して、相対変位に基づく電動モータ3の制御を開始する。なお、ブレーキペダルセンサ32は、ブレーキペダル7の操作が開始されたとき、これを検知する。
【0022】
ブレーキペダル7が更に踏込まれると、コントローラ33は、現在の相対変位センサ30の検出値Pから相対変位基準値P0を減じて、直動部材6とプランジャ8との相対変位ΔP(ΔP=P−P0)を演算する。そして、この相対変位ΔPに基づき、制御電流を出力して電動モータ3の作動を制御し、直動部材6を前進(図2(C)、(D)参照)、保持(図2(E)参照)又は後退(図2(F)参照)させて相対変位ΔPを所定の範囲に保持することにより、プランジャ8の移動に直動部材6を追従させる。
【0023】
ブレーキペダル7の踏込みによってプランジャ8が前進すると、直動部材6は、電動モータ3の推力によってプランジャ8に追従して前進し、リアクション部材11を介して出力ロッド10を押圧し、マスタシリンダ9のピストン13を推進して液圧により制動力を発生させる。リアクション部材11は、直動部材6と出力ロッド10との間で圧縮されて変形し(図2(C)参照)、前進したプランジャ8の先端部に当接する(図2(D)参照)。これにより、マスタシリンダ9のピストンからの反力は、リアクション部材11を介して直動部材6及びプランジャ8に伝達される。このとき、リアクション部材11に対する直動部材6の受圧面積A1とプランジャ8の受圧面積A2(<A1)との比率に応じて、その反力の一部がプランジャ8を介してブレーキペダル7にフィードバックされる。このようなブレーキペダル7の踏込みにより、所定の倍力比をもって制動力を発生させることができ、その踏力に応じて制動力を制御することができる。
【0024】
制動開始時(プランジャ8が基準位置にあるとき)、プランジャ8とリアクション部材11との間に所定の隙間C1(いわゆるジャンプインクリアランス)を設けることにより、プランジャ8は、一定距離だけリアクション部材11から反力を受けることなく前進できるので、制動初期において制動力を迅速に立ち上げることができる。
【0025】
次に、コントローラ33により電動モータ3の制御を実行するための制御フローの一例について、図3を参照して説明する。図3のフローチャートにおいては、ブレーキペダルセンサ32により、ブレーキペダル7の踏込みが検出されると処理がスタートし、ステップS1では、基準値設定フラグをクリアしてステップS2に進む。ステップS2では、ブレーキペダルセンサ32により、ブレーキペダル7が操作中であるか否かを判定する。判定の結果、操作中である場合にはステップS3に進む。
【0026】
ステップS3では、基準値設定フラグの有無を判定し、基準値設定フラグが無い場合は相対変位基準値P0を記憶するためにステップS4に進む。一方、基準値設定フラグが有る場合には相対変位基準値P0が既に記憶されているのでステップS6に進む。
【0027】
ステップS4では、プランジャ8が基準位置にあることを基準位置センサ31により検知したか判定し、基準位置が検知されない場合には、プランジャ8が基準位置まで達していないので、ステップS2へ戻り、検知された場合には、ステップS5に進む。
ステップS5では、基準位置センサ31がプランジャ8の基準位置への移動を検知したときの相対変位センサ30の検出値を相対変位基準値P0として記憶するとともに、基準値設定フラグをセットしてステップS6に進む。
【0028】
ステップS6では、相対変位センサ30の現在の検出値Pから上記で記憶された相対変位基準値P0を減じて、相対変位基準値P0からの直動部材6に対するプランジャ8の相対変位ΔP(ΔP=P−P0)を演算して、ステップS7に進む。
【0029】
ステップS7では、相対変位ΔPを所定範囲α〜βの下限値αと比較し、相対変位ΔPが下限値αよりも大きい(ΔP>α)場合には、プランジャ8が少なくとも後退してないものとして、ステップS8に進む。
【0030】
ここで、図4に示すように、所定の範囲α〜βは、下限値αが、直動部材6を後退させる方向に電動モータ3を制御するための相対変位量の目標値として設定される値となっており、一方、上限値βが、直動部材6を前進させる方向に電動モータ3を制御するための相対変位量の目標値として設定される値となっている。本実施形態においては、下限値αは、プランジャ8と直動部材6との相対変位ΔPが0、すなわち、相対変位センサ30の検出値が相対変位基準値P0であるときの値となっている。上限値βは、入出力特性にヒステリシスを付与するために必要な値となっており、上記隙間C1よりも小さい値として設定されている。
【0031】
ステップS8では、相対変位ΔPを上記上限値βと比較し、相対変位ΔPが上限値βよりも大きい(ΔP>β)場合には、プランジャ8が前進している、すなわち、ブレーキペダル7が踏み込まれている最中であるものとして、ステップS9に進む。
【0032】
ステップ9では、相対変位ΔPを上限値βとするために電動モータ3に供給する制御電流が所定の制限値以下か否かを比較し、制御電流が制限値以下である場合は、ステップS10で相対変位ΔPが上限値βとなるように、電動モータ3をフィードバック制御して、直動部材6を前進させる方向に電動モータ3を回転させて、ステップS2に戻る。また、制御電流が制限値を超える場合は、ステップS11で、電動モータ3の回転位置を保持してステップS2へ戻る。これにより、電動モータ3への過電流の供給を防止して、電動モータ3を保護することができる。
【0033】
また、ステップS8で、相対変位ΔPが上限値β以下(ΔP≦β)である場合には、プランジャ8の動作が停止している、すなわち、ブレーキペダル7が踏み込みがほぼ一定で維持されているものとして、ステップS11で電動モータ3の回転位置を保持してステップS2に戻る。
【0034】
ステップS7で、相対変位ΔPが下限値α以下(ΔP≦α)である場合には、プランジャ8が後退している、すなわち、ブレーキペダル7が解放されている最中であるものとして、ステップS12に進む。ステップS12で相対変位ΔPが下限値αとなるように、電動モータ3をフィードバック制御して、直動部材6を後退させる方向に電動モータ3を回転させてステップS2に戻る。
【0035】
なお、ステップS2で、操作中でないと判定した場合にはステップS13で電動モータ3への通電を停止、若しくは電動モータ3への通電の停止状態を維持してステップS14に進む。ステップS14では、ブレーキペダルセンサ32が操作中である状態から操作中でない状態になってから所定時間、例えば、2分間ぐらいの時間が経過したかを判定し、所定時間経過していれば、本フローチャートの処理を終了する。
【0036】
以上のようにして、ブレーキペダル7の操作に応じて、電動モータ3の作動を制御して、プランジャ8の移動に直動部材6を追従させることにより、所定の倍力比で制動力を発生させ、踏力に応じて制動力を制御することができる。このとき、相対変位センサ30の検出値を基準位置センサ31によって校正するので、温度変化による相対変位センサ30の信号ドリフト等による影響を軽減して制御精度を高めると共に安定した制御を行なうことができる。
【0037】
このとき、図4に示すように、プランジャ8と直動部材6との相対変位ΔPが、所定の範囲α〜βを超えたとき、その相対変位ΔPの大きさに比例して電動モータ3の回転量を大きくするように制御量を調整することにより、応答性を高め、高精度で安定した制御を実行することができる。
【0038】
また、相対変位センサ30の相対変位基準値P0の設定(記憶)は、図2に示す制御フローでは、ブレーキペダル7が操作されて、基準位置センサ31によってプランジャ8が基準位置にあるのを検知した後に毎回実行しているが、これに限らず、経過時間その他の条件に基づき、適宜実行して、相対変位基準値P0を更新してもよい。
【0039】
次に、電動倍力装置1の作動の一例について、図5を参照して説明する。図5は、ブレーキペダル7を一定の速さで踏込み、その位置を一旦保持した後、一定の速さで解放した場合のタイムチャートを示している。
【0040】
時刻t0でブレーキペダル7の踏込みを開始し、ブレーキスイッチ32がこれを検知する。ブレーキペダル7の踏込みにより、プランジャ8が前進し、時刻t1で基準位置に達すると、これを基準位置センサ31が検知し、相対変位センサ30の検出値を相対変位基準値P0として記憶する。これにより、相対変位基準値P0からの相対変位ΔPの演算を開始する。時刻t2で相対変位ΔPが上限値βを超えると、電動モータ3が作動し、直動部材6が前進してピストンを推進し、マスタシリンダ9の液圧が上昇し始める。その後、プランジャ8及び直動部材6の前進に伴い、一定の割合でマスタシリンダの液圧9が上昇する。時刻t3でブレーキペダル7の踏込み位置を保持すると、相対変位ΔPは、上述の下限値α〜上限値βの範囲内(α<ΔP<β)となり、電動モータ3の回転位置が保持される。これにより、マスタシリンダ9の液圧も保持される。その後、時刻t4でブレーキペダル7を戻し始めると、相対変位ΔPが下限値α未満となり、電動モータ3が作動して直動部材6が後退し、ピストン13が後退して、マスタシリンダ9の液圧が解除される。
【0041】
次に、本発明の第2実施形態について図6を参照して説明する。
なお、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同じ符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0042】
図6に示すように、本実施形態では、相対変位センサ30が省略され、代りにブレーキペダル7のストロークを検出するストロークセンサ34が設けられている。ストロークセンサ34は、プランジャ8の変位を検出する入力部材変位検出手段として利用される。また、回転位置センサ29は、直動部材6の変位を検出する倍力部材変位検出手段として利用される。コントローラ33は、回転位置センサ29の検出値Pmと、ストロークセンサ34の検出値Psの差分に基づき、直動部材6とプランジャ8との相対変位ΔPを演算により求める。このとき、上記第1実施形態と同様、プランジャ8が基準位置にあることを基準位置センサ31により検知したとき、回転位置センサ29及びストロークセンサ34の検出値を制御基準値Pm0、Ps0として記憶し、回転位置センサ29及びストロークセンサ34の現在の検出値Pm、Psと、相対変位基準値となる制御基準値Pm0、Ps0との差分として相対変位ΔPを求める。このようにして求めた相対変位ΔPに基づき、上記第1実施形態と同様、電動モータ3の作動を制御する。
【0043】
このとき、ボール−ネジ機構5の回転部材19は、電動モータ3のロータ19に連結されているので、直動部材6の位置(変位)は、回転位置センサ29の検出値Pmに一定の係数K1を乗じ、又は、所定の変換テーブルを用いて得ることができる。また、プランジャ8は、入力ロッド28を介してブレーキペダル7に連結されているので、プランジャ8の位置(変位)は、ストロークセンサ34の検出値Psに一定の係数K2を乗じ、又は、所定の変換テーブルを用いて得ることができる。ここで、変換テーブルを用いてこれらの変換を行なうことにより、これらの位置関係が非線形の場合でも直動部材6及びプランジャ8の位置を得ることができる。そして、このようにして得た直動部材6の位置(変位)及びプランジャ8の位置(変位)から演算したこれらの相対変位ΔPに基づき、上記第1実施形態と同様、電動モータ3の作動を制御する。
【0044】
この場合、図2に示される制御フローを、次のように置き換えて実行することになる。まず、ステップS5では、基準位置センサ31がプランジャ8の基準位置を検知したとき、回転位置センサ29の検出値を制御基準値Pm0として記憶し、ストロークセンサ34の検出値を制御基準値Ps0として記憶して、基準値設定フラグをセットしてステップS6に進む。ステップS6では、回転位置センサ29の現在の検出値Pmから記憶された制御基準値Pm0を減じた値に一定の係数K1を乗じ、又は、所定の変換テーブルを用いて直動部材6の位置を演算する。また、ストロークセンサ34の現在の検出値Psから記憶された制御基準値Ps0を減じた値に一定の係数K2を乗じる、又は、所定の変換テーブルを用いてプランジャ8と直動部材6との相対変位ΔP(ΔP=K1・(Pm−Pm0)−K2・(Ps−Ps0))を演算する。このようにして演算した相対変位ΔPに基づき、所定の範囲α〜βとの比較により電動モータ3の作動を制御する。
【0045】
なお、上述の制御フローでは、直動部材6の位置を表す回転位置センサ29の検出値Pm及びプランジャ8の位置を表すストロークセンサ34の検出値Psのそれぞれについて制御基準値Pm0、Ps0を記憶するようにしているが、これらの差分(相対変位)について相対変位基準値を記憶して、その相対変位基準値に基づき相対変位ΔPを演算するようにしてもよい。
【0046】
次に本発明の第3実施形態について、図7乃至図13を参照して説明する。
なお、上記第2実施形態に対して、同様の部分には同じ符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0047】
図7に示すように、本実施形態では、基準位置センサ31が省略され、代りに、ハウジング2の円筒部に、ボール−ネジ機構5の直動部材6が所定の基準位置にあることを検知する戻り位置センサ35が設けられている。戻り位置センサ35は、ハウジング2に対して最も後退した位置である「直動部材基準位置」(倍力部材基準位置、直動部材後退限位置)にあるのを検知するものであり、上記第1及び第2実施形態の基準位置センサ31と同様、例えば公知のリミットスイッチとすることができ、直動部材基準位置を検知したとき、オン又はオフのいずれの信号を出力するものでもよい。
【0048】
また、ブレーキスイッチ32は、ブレーキペダル7が踏込まれていない状態を検知する、すなわち、ブレーキペダル7に入力ロッド28を介して連結されたプランジャ8が最も後退した位置である「プランジャ基準位置」(入力部材基準位置、プランジャ後退限位置)にあることを検知する。
【0049】
コントローラ33は、直動部材6が直動部材基準位置にあるとき、回転位置センサ29の検出値を基準値Pm0´として記憶する。また、プランジャ8が基準位置にあるとき、ストロークセンサ34の検出値を基準値Ps0´として記憶する。そして、現在の回転位置センサ29の検出値Psから基準値Ps0´を減じた値に上述の係数K1を乗じるか、又は、所定の変換テーブルを用いて演算した直動部材6の変位を算出する。また、現在のストロークセンサ34の検出値Psから基準値Ps0´を減じた値に上述の係数K2を乗じるか、又は、所定の変換テーブルを用いて演算したプランジャ8の変位を算出する。これら算出した直動部材6の変位とプランジャ8の変位との差分からプランジャ8と直動部材6との相対変位ΔP´(ΔP´=K1・(Pm−Pm0´)−K2・(Ps−Ps0´))を演算する。
【0050】
そして、プランジャ8が直動部材6に対してプランジャ基準位置から上述の一定距離ΔT(図3(B)参照)だけ前進した位置を基準として、プランジャ8と直動部材6との相対変位ΔP(ΔP=ΔP´−ΔT=K1・(Pm−Pm0´)−K2・(Ps−Ps0´)−ΔT)を演算する。このようにして得た相対変位ΔPに基づき、電動モータ3の作動を制御する。
【0051】
ここで、直動部材6が直動部材基準位置にあることは、戻り位置センサ35によって直接検知することができ、あるいは、ブレーキスイッチ32のオン−オフ、電動モータ3への通電の有無等によって非制動状態を検知することにより、間接的に検知することができる。また、プランジャ8がプランジャ基準位置にあることは、ブレーキスイッチ32のオン−オフによって直接検知することができ、あるいは、戻り位置センサ35の検知、電動モータ3への通電の有無等によって非制動状態を検知することにより、間接的に検知することができる。
【0052】
次に、本実施形態の制御を実行するための制御の一例について、図8を参照して説明する。図8において、ステップS101では、回転位置センサ29及びストロークセンサ34に所定の初期値をセットし、基準値設定フラグをクリアして、ステップS102に進む。ステップS102では、基準値設定フラグの有無を判断し、基準値設定フラグが無ければ、基準値を記憶するためにステップS103に進む。一方、基準値設定フラグが有れば、ステップS105に進む。
【0053】
ステップS103では、直動部材6及びプランジャ8が直動部材基準位置及びプランジャ基準位置にあるか否かをそれぞれの基準位置判定フラグによって判定する。この判定処理は、例えば図9乃至図13に示す制御フローによって実行することができる。図9に示す例では、ステップ201で、ブレーキスイッチ32がブレーキペダル7の踏込みを検知しているか否かを判定し、ブレーキスイッチ32がブレーキペダル7の踏込みを検知しないとき、直動部材6及びプランジャ8が直動部材及びプランジャ基準位置にあるとして、ステップS202で基準位置判定フラグに1をセットする。また、ブレーキスイッチ32がブレーキペダル7の踏込みを検知したとき直動部材及びプランジャ基準位置にないとして、ステップS203で基準位置判定フラグを0でリセットする。なお、ブレーキスイッチ32は、ブレーキペダル7及び入力ロッド28を介してプランジャ8の位置を検知することになるので、検知精度が低下しやすい。
【0054】
図10に示す例では、ステップ301で、直動部材6が後退位置にあることを戻り位置センサ35により検知したか否かを判定し、直動部材6が後退位置にあることを戻り位置センサ35により検知したとき、直動部材6及びプランジャ8がこれらの基準位置にあるとして、ステップS302で基準位置判定フラグに1をセットする。また、直動部材6が後退位置にあることを戻り位置センサ35により検知しないとき、直動部材6及びプランジャ8が基準位置にないとして、ステップS303で基準位置判定フラグを0でリセットする。この場合、戻り位置センサ35は、直動部材6の位置を直接検知するので、ブレーキスイッチ32によるものよりも高い検知精度を期待することができる。
【0055】
図11の例は、図9及び図10の戻り位置スイッチ35及びブレーキスイッチ32による判定を組合わせて行うものである。ステップS401で、プランジャ8がこれらの基準位置にあることを戻り位置センサ35により検知し、かつ、ブレーキスイッチ32がブレーキペダル7の踏込みを検知しないとき、直動部材6及びプランジャ8がこれらの基準位置にあるとして、ステップS403で基準位置判定フラグに1をセットする。ステップS401、S402で、何れか又は何れもそうでない場合は、基準位置にないとして、ステップS404で基準位置判定フラグを0でリセットする。この場合、2つのセンサ、スイッチの状態によって判定を行なうので、検知精度を高めることができる。
【0056】
図12の例では、ステップS501で、電動モータ3への通電状態に基づいて判定するもので、電動モータ3への通電がない場合に直動部材6及びプランジャ8がこれらの基準位置にあるとして、ステップS502で基準位置判定フラグに1をセットする。電動モータ3への通電がある場合には基準位置にないとしてステップS503で基準位置判定フラグを0でリセットする。また、図13の例では、電動モータ3へ一定時間通電があるか否かで基準位置にあるか否かを判定する。ステップS601で、電動モータ3への通電状態を確認し、電動モータ3への通電がない場合に、ステップS602で、非通電計時タイマをインクリメントしてステップS603へ進む。ステップS603で、非通電計時タイマが所定値より大きくなるまで待って、非通電計時タイマが所定値より大きくなったときに、一定時間通電がないこととして、直動部材6及びプランジャ8がこれらの基準位置にあるとし、ステップS604で基準位置判定フラグに1をセットする。ステップS603で、非通電計時タイマが所定値より大きくなる前に、ステップS601で、電動モータ3への通電があると判定した場合には、基準位置にないとして、ステップS603で基準位置判定フラグを0でリセットする。この場合、低温等の直動部材6の戻り特性が悪化する環境下においても、直動部材6及びプランジャ8の基準位置の判定をより確実行うことができる。更に、図9乃至図13に示す判定処理を適宜組み合わせてもよい。
【0057】
ステップS103では、直動部材6及びプランジャ8がこれらの基準位置にある場合には、ステップS104に進み、ステップS104では、その時点の回転位置センサ29の検出値を基準値Pm0´として記憶し、ストロークセンサ34の検出値を基準値Pm0´として記憶し、基準値設定フラグをセットして、ステップS105に進む。直動部材6及びプランジャ8がこれらの基準位置にない場合には、直接、ステップS105に進む。
【0058】
ステップS105では、ブレーキペダル7の操作の有無を判定し、踏込みがなく操作されていない場合は、ステップS113で電動モータ3への通電を停止、若しくは通電停止状態を維持してステップS102に戻る。ブレーキペダル7が操作されている最中である場合には、ステップS106に進む。ステップS106では、現在の回転位置センサ29の検出値Psから基準値Ps0´を減じた値に上述の係数K1を乗じるか、又は、所定の変換テーブルを用いて演算して直動部材6の変位を算出する。また、現在のストロークセンサ34の検出値Psから基準値Ps0´を減じた値に上述の係数K2を乗じるか、又は、所定の変換テーブルを用いて演算してプランジャ8の変位を算出する。これら直動部材6の変位とプランジャ8の変位との差分からプランジャ8と直動部材6との初期位置からの相対変位ΔP´(ΔP´=K1・(Pm−Pm0´)−K2・(Ps−Ps0´))を演算する。
【0059】
更に、プランジャ8が直動部材6に対してプランジャ基準位置から上述の一定距離ΔT(図3(B)参照)だけ前進した位置を基準として、プランジャ8と直動部材6との相対変位ΔP(ΔP=ΔP´−ΔT=K1・(Pm−Pm0´)−K2・(Ps−Ps0´)−ΔT)を演算してステップS107に進む。ステップS107からステップ112では、上記ΔPに基づいて図2に示す制御と同様の処理を実行して、ステップS2へ戻る。これにより、上記第2実施形態と同様の制御を実行することができる。
【0060】
なお、本実施形態において、回転位置センサ29とストロークセンサ34とを用いて相対変位ΔP´を演算する代りに、上記第1実施形態と同様、相対変位センサ30を設けて相対変位ΔP´を直接検出するようにしてもよい。この場合、ブレーキスイッチ32及び戻り位置センサ35を用いて直動部材6及びプランジャ8の基準位置を検知したとき、相対変位センサ30の検出値を基準値として記憶し、相対変位ΔP´を検出する。
【0061】
次に、電動倍力装置1の入出力特性の調整方法について、図14乃至図16を参照して説明する。
電動倍力装置1の入出力特性の一例について図14及び図15を参照して説明する。電動倍力装置1の入出力特性は、ブレーキペダル7の踏込みにより、プランジャ8が直動部材6に対して初期位置からΔT(図3(B)参照)だけ移動して、基準位置に達したとき、電動モータ3の作動の制御が開始され、制動初期においては、プランジャ8とリアクション部材との隙間C1(図14(B)参照)により、プランジャ8がリアクション部材11から反力を受けることなく前進するので、いわゆるジャンプイン特性によって出力(制動力)が迅速に立ち上がる(図15のA点参照)。その後、リアクション部材11に対する直動部材6の受圧面積A1とプランジャ8の受圧面積A2との比率に応じた倍力比で入力に比例した出力が発生する(図15の実線参照)。
【0062】
このとき、リアクション部材11とプランジャ8との隙間C1が図14(B)に示す規定の場合よりも小さいと(図14(A)参照)、リアクション部材11とプランジャ8との当接が早くなり、ジョンプイン時の出力が小さくなり(図15中の破線参照)、また、隙間C1が大きいと(図14(C)参照)、リアクション部材11とプランジャ8との当接が遅くなり、ジャンプイン時の出力が大きくなる(図15中の一点鎖線参照)。このように隙間C1の精度により、入出力特性にばらつきが生じる。
【0063】
本実施形態では、図16に示す調整装置36を用いて電動倍力装置1の入出力特性の調整を行う。図16に示すように、調整装置36は、電動倍力装置1の入力ロッド28に所望の推力を付与する推力発生装置37と、出力ロッド10の出力を測定する推力測定装置38と、推力発生装置37の推力及び推力測定装置38の測定推力から電動倍力装置1の入出力特性を得て、補正量を決定する調整装置39とを備えている。
【0064】
調整装置39は、推力発生装置37によって電動倍力装置1に所定の推力(入力)を付与し、推力測定装置38によって出力を測定する。このとき、図15に示すように、所定の入力Bに対して、リアクション部材11とプランジャ8との隙間C1が規定値よりも小さい場合、出力は、規定の出力B0よりも小さい出力B1となり、隙間C1が規定値よりも大きい場合、規定の出力B0よりも大きい出力B2となる。これにより、出力の大小に応じて、実際の出力がB0となるように、相対変位センサ30が出力する(第2及び第3実施形態では、演算する)相対変位ΔPに対する補正量を決定し、コントローラ33の記憶手段である不揮発性メモリに書き込む。コントローラ33は、記憶した補正量により補正した相対変位ΔPに基づき、電動モータ3の作動をする。
【0065】
これにより、個々の電動倍力装置1について、組立後に、各部の寸法精度、各種センサ及びスイッチの取付位置の寸法精度等による入出力特性のばらつきを調整することができ、制御精度を高めることができる。なお、第2及び第3実施形態の電動倍力装置1では、演算した相対変位ΔPに対して補正量を決定し、コントローラ33に記憶させることにより、同様に適用することができる。
【0066】
なお、上記第1乃至第3実施形態では、推力伝達機構として、弾性体であるリアクション部材11を用いた場合(いわゆるディスク式)について説明している。しかし、これに限らず、いわゆるレバー式の倍力装置にも適用することができる。また、倍力部材としてアクチュエータによって駆動されるピストン(受圧面積大)と、入力部材としてブレーキペダルによって駆動される入力ピストンとをマスタシリンダに挿入して、マスタシリンダ内のブレーキ液に臨む、入力ピストンから直接、反力をブレーキペダルへフィードバックする形式の倍力装置にも適用することができる。
【0067】
上記実施形態の倍力装置によれば、ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材と、該入力部材と相対移動可能に設けられた倍力部材と、該倍力部材を駆動するアクチュエータと、前記入力部材及び倍力部材の推力をマスタシリンダに伝達すると共に該マスタシリンダからの反力を所定の比率で前記入力部材と前記倍力部材に伝達する推力伝達機構と、前記入力部材と前記倍力部材との相対変位を検出するための相対変位検出手段と、該相対変位検出手段が検出した相対変位に基づいて前記アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備え、前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知するための基準位置検知手段を備えている。上記のような構成により、倍力装置の制御精度を高め、安定した入出力特性を得ることができる。
【0068】
上記実施形態の倍力装置によれば、前記制御手段は、前記基準位置検知手段が前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知したとき、前記相対変位検出手段の検出値を相対変位基準値として記憶し、相対変位基準値を基準として前記入力部材と前記倍力部材との相対変位を決定するようにしている。上記のような構成により、温度変化による相対変位検出手段の信号ドリフト等による影響を軽減して制御精度を高めると共に安定した制御を行なうことができる。
【0069】
上記実施形態の倍力装置によれば、前記推力伝達機構は、前記入力部材及び前記倍力部材に係合し、これらの相対変位を許容する推力伝達部材と、前記入力部材及び前記倍力部材から前記推力伝達部材に伝達された推力によって前記マスタシリンダに液圧を発生させる液圧発生機構とを含んでいる。
【0070】
上記第1の実施形態の倍力装置によれば、前記基準位置検知手段は、前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知したとき、オン又はオフとなるスイッチ手段となっている。
【0071】
上記第2,3の実施形態の倍力装置によれば、前記基準位置検知手段は、前記入力部材が所定の入力部材基準位置にあることを検知するための入力部材基準位置検知手段と、前記倍力部材が所定の倍力部材基準位置にあるのを検知するための倍力部材基準位置検知手段とを含み、前記入力部材が入力部材基準位置にあることを検知し、かつ、前記倍力部材が倍力部材基準位置にあるのを検知することにより、相対変位の基準位置を検知するようにしている。
【0072】
上記第2,3の実施形態の倍力装置によれば、前記相対変位検出手段は、前記入力部材の変位を検出する入力部材変位検出手段と、前記倍力部材の変位を検出する倍力部材変位検出手段とを含み、前記入力部材の変位及び前記倍力部材の変位に基づき、これらの相対変位を検出するようにしている。
【0073】
上記第2,3の実施形態の倍力装置によれば、前記制御手段は、前記相対位置検出手段が検出する相対変位に対する補正量を記憶する記憶手段を備えている。
【符号の説明】
【0074】
1 電動倍力装置(倍力装置)、6 直動部材(倍力部材)、7 ブレーキペダル、8 プランジャ(入力部材)、9 マスタシリンダ、11 リアクション部材(推力伝達機構)、30 相対変位センサ(相対変位検出手段)、31 基準位置センサ(基準位置検知手段)、33 コントローラ(制御手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキシステムに用いられる倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のブレーキシステムに用いられる倍力装置において、ブレーキペダルの操作に応じて電動モータを作動させ、ボール−ネジ機構等の回転−直動変換機構を介してマスタシリンダのピストンを推進して、ブレーキ液圧を発生させるようにした電動倍力装置が知られている。この種の電動倍力装置において、例えば特許文献1に示されたものでは、多くの車両に用いられているエンジンの吸気負圧を倍力源とする気圧式倍力装置と同様に、ゴム等の弾性体からなるリアクション部材を介して制動時のマスタシリンダからの反力の一部をブレーキペダルにフィードバックするようにしたものがある。これにより、簡単な構造でマスタシリンダからの反力をブレーキペダルにフィードバックすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/068404号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようにマスタシリンダからの反力の一部をブレーキペダルにフィードバックするようにした倍力装置では、制御精度を高めるためには、各部の寸法、各種センサの取付位置及び検出の精度を高めることが要求される。
【0005】
本発明は、制御精度を高めることができる倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材と、該入力部材と相対移動可能に設けられた倍力部材と、該倍力部材を駆動するアクチュエータと、前記入力部材及び倍力部材の推力をマスタシリンダに伝達すると共に該マスタシリンダからの反力を所定の比率で前記入力部材と前記倍力部材に伝達する推力伝達機構と、前記入力部材と前記倍力部材との相対変位を検出するための相対変位検出手段と、該相対変位検出手段が検出した相対変位に基づいて前記アクチュエータの作動を制御する制御手段と、を備えた倍力装置において、
前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知するための基準位置検知手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る倍力装置によれば、制御精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す電動倍力装置の直動部材、プランジャ及びリアクション部材の作動状態を示す図である。
【図3】図1に示す電動倍力装置の制御を示すフローチャートである。
【図4】図1に示す電動倍力装置の電動モータの制御を示すグラフ図である。
【図5】図1に示す電動倍力装置の作動の一例を示すタイムチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態に係る電動倍力装置のブレーキペダル部を示す図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る電動倍力装置の直動部材の戻りスイッチ部を示す図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る電動倍力装置の制御を示すフローチャートである。
【図9】図8に示すフローチャートのステップS3において、ブレーキスイッチにより初期位置判定を実行するための制御を示すフローチャートである。
【図10】図8に示すフローチャートのステップS3において、戻りスイッチにより初期位置判定処理を実行するための制御を示すフローチャートである。
【図11】図8に示すフローチャートのステップS3において、ブレーキスイッチ及び戻りスイッチにより初期位置判定処理を実行するための制御を示すフローチャートである。
【図12】図8に示すフローチャートのステップS3において、電動モータへの通電に基づき初期位置判定処理を実行するための制御を示すフローチャートである。
【図13】図8に示すフローチャートのステップS3において、電動モータへの非通電時間に基づき初期位置判定処理を実行するための制御を示すフローチャートである。
【図14】図1に示す電動倍力装置において、プランジャとリアクション部材との間の隙間の寸法誤差を示す説明図である。
【図15】図1に示す電動倍力装置の入出力特性を示すグラフ図である。
【図16】本発明の一実施形態に係る電動倍力装置の調整装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の第1実施形態に係る電動倍力装置について、図1乃至図5を参照して説明する。図1に示すように、本実施形態に係る電動倍力装置1は、ハウジング2内に、電動モータ3と、電動モータ3のロータ4の回転運動を直線運動に変換する回転−直動変換機構であるボール−ネジ機構5と、ボール−ネジ機構5の直動部材6に挿入されてブレーキペダル7に連結されたプランジャ8と、直動部材6及びプランジャ8の推力をマスタシリンダ9に伝達する出力ロッド10と、出力ロッド10と直動部材6及びプランジャ8との間に介装されたリアクション部材11とが設けられている。
【0010】
ハウジング2は、車室とエンジンルーム等の隔壁であるダッシュパネルDのエンジンルーム側に取付けられ、後部の円筒部12がダッシュパネルDを貫通して車室内に延ばされている。ハウジング2の前部には、円筒部12と同心に配置されたマスタシリンダ9が取付けられ、マスタシリンダ9のピストン13がハウジング2内に挿入されている。マスタシリンダ9は、リザーバ14にブレーキ液を貯留し、ピストン13の推進により、ブレーキ液圧を発生させて、各車輪のブレーキ装置にブレーキ液圧を供給する公知のマスタシリンダであり、タンデム型、シングル型いずれでもよい。
【0011】
電動モータ3は、ボール−ネジ機構5を駆動するアクチュエータであり、ハウジング2に固定されたステータ15と、ステータ15に挿入されて回転可能に支持された円筒状のロータ4とを備え、制御電流によってロータ4の回転を制御可能なものであり、例えば、同期モータ、誘導モータ等とすることができる。
【0012】
ボール−ネジ機構5は、軸受17、18によってハウジング2に回転可能に支持された円筒状の回転部材19と、回転部材19及びハウジング2の円筒部12に挿入され、軸方向に沿って移動可能かつ軸回りに回転しないように支持された直動部材6と、これらの互いの対向面に形成された螺旋状のボール溝20、21間に装填された複数の転動体であるボール22とを備え、回転部材19の回転により、ボール22が転動することによって直動部材6が軸方向に沿って移動するようになっている。また、ボール−ネジ機構5は、直動部材6の直線運動を回転部材19の回転運動に変換することができる。なお、本実施形態では、回転−直動変換機構として、ボール−ネジ機構5を用いているが、電動モータ3のロータ4の回転運動を直線運動に変換するものであれば、ローラ−ネジ機構等の他の形式の回転−直動変換機構を用いてもよい。
【0013】
回転部材19は、電動モータ3のロータ4に挿通されて一体に回転するように結合されている。直動部材6は、倍力部材として前端部がマスタシリンダ9のピストン13に対向し、後部がハウジング2の円筒部12に挿入されて、円筒部12に設けられたストッパ12Aによって軸回りの回転及び後退位置が規制されている。直動部材6は、ハウジング2の前壁との間に設けられたテーパ状のコイルバネである戻しバネ23のバネ力によって後退方向に付勢されてストッパ12に当接している。なお、本実施形態では、ロータ4によって回転部材19を直接駆動する構造となっているが、これらの間に歯車、プーリ等の減速機構を介装してもよい。
【0014】
プランジャ8は、ブレーキペダル7の操作により進退動する入力部材であり、直動部材6内に軸方向に沿って移動可能に案内されている。マスタシリンダ9のピストン13に対向する直動部材6の前端部には、大径ボア24及び小径ボア25からなる段付ボアが形成されている。小径ボア25には、プランジャ8の先端部が摺動可能に挿入されている。プランジャ8は、直動部材6に設けられたストッパ26によって後退位置が規制され、直動部材6との間に設けられたテーパ状のコイルバネである戻しバネ27のバネ力によって後退方向に付勢されてストッパ26に当接している。
【0015】
大径ボア24には、ゴム等の弾性体からなる円板状のリアクション部材11が嵌合され、リアクション部材11の上に出力ロッド10の基端部に形成されたフランジ部が当接している。小径ボア25に挿入されたプランジャ8の先端部とリアクション部材11との間には、プランジャ8がストッパ26に当接する後退位置にあるとき、一定の隙間Cが形成されている。リアクション部材11は、直動部材6及びプランジャ8に係合して、これらの推力をマスタシリンダ9に伝達する推力伝達機構を構成しており、直動部材6及びプランジャ8が前進してリアクション部材11を介して出力ロッド10によってマスタシリンダ9のピストン13を推進したとき、大径ボア24の断面積A1及び小径ボア25の断面積A2によって決定されるリアクション部材11に対する直動部材6及びプランジャ8の受圧面積に応じて直動部材6及びプランジャ8に反力がフィードバックされる。プランジャ8の後端部には、入力ロッド28を介してブレーキペダル7が連結されている。
【0016】
ハウジング2には、ボール−ネジ機構5の回転部材19、すなわち、電動モータ3のロータ4の回転位置を検出するレゾルバ等の回転位置センサ29が取付けられている。直動部材6とプランジャ8との間には、これらの相対変位を検出するための相対位置検出手段としての相対変位センサ30が設けられている。相対変位センサ30は、例えば、抵抗値の変化等に基づき、相対変位をアナログ信号として検出するポテンショメータとすることができる。
【0017】
また、直動部材6には、プランジャ8と直動部材6との相対位置が所定の基準位置にあることを検知するための基準位置検知手段としての基準位置センサ31が設けられている。基準位置センサ31は、プランジャ8が、直動部材6に対して、ストッパ26に当接する最も後退した位置(図2(A)参照)から一定距離ΔT(図2(B)参照)だけ前進(リアクション部材11側に向かって移動)した位置である基準位置にあるか否かを検知するものであり、例えば公知のリミットスイッチを用いることができる。基準位置センサ31は、基準位置を検知したとき、オン又はオフのいずれの信号を出力するものでもよい。
【0018】
ブレーキペダル7に対しては、その踏込みの有無を検知するためのブレーキペダルセンサ32が設けられている。ブレーキペダルセンサ32としては、基準位置センサ31と同様、公知のリミットスイッチを用いることができるが、ブレーキペダル7の踏込みに伴いブレーキランプに通電するための既存のブレーキランプスイッチを利用してもよい。
【0019】
ハウジング2の上部には、制御手段であるコントローラ33が取付けられている。コントローラ33は、回転位置センサ29、基準位置センサ31、相対変位センサ30及びブレーキペダルセンサ32の出力信号を含む各種センサからの検出信号に基づいて、制御電流を供給して電動モータ3の作動を制御するものである。コントローラ33による制御については、図2を参照して以下に説明する。
【0020】
図2(A)に示すように、ブレーキペダル7が踏込まれていない非制動状態では、戻しバネ23、27のバネ力により直動部材6及びプランジャ8は、ストッパ12Aおよびストッパ26によって規定される後退限位置にある。このとき、リアクション部材11とプランジャ8との間には、一定の隙間Cが形成されている。また、この状態では、相対変位センサ30は、直動部材6とプランジャ8との相対変位を検出し、基準位置センサ31は、基準位置を検知しておらず、そして、ブレーキペダルセンサ32は、ブレーキペダル7の踏込み検知していない状態となっている。
【0021】
図2(B)に示すように、ブレーキペダル7が踏込まれて、入力ロッド28を介してプランジャ8が直動部材6に対して一定距離ΔTだけ前進することで、所定の基準位置に達する。このとき、基準位置センサ31は、プランジャ8が基準位置にあることを検知する。このとき、コントローラ33は、相対変位センサ30の検出値を相対変位基準値P0として記憶して、相対変位に基づく電動モータ3の制御を開始する。なお、ブレーキペダルセンサ32は、ブレーキペダル7の操作が開始されたとき、これを検知する。
【0022】
ブレーキペダル7が更に踏込まれると、コントローラ33は、現在の相対変位センサ30の検出値Pから相対変位基準値P0を減じて、直動部材6とプランジャ8との相対変位ΔP(ΔP=P−P0)を演算する。そして、この相対変位ΔPに基づき、制御電流を出力して電動モータ3の作動を制御し、直動部材6を前進(図2(C)、(D)参照)、保持(図2(E)参照)又は後退(図2(F)参照)させて相対変位ΔPを所定の範囲に保持することにより、プランジャ8の移動に直動部材6を追従させる。
【0023】
ブレーキペダル7の踏込みによってプランジャ8が前進すると、直動部材6は、電動モータ3の推力によってプランジャ8に追従して前進し、リアクション部材11を介して出力ロッド10を押圧し、マスタシリンダ9のピストン13を推進して液圧により制動力を発生させる。リアクション部材11は、直動部材6と出力ロッド10との間で圧縮されて変形し(図2(C)参照)、前進したプランジャ8の先端部に当接する(図2(D)参照)。これにより、マスタシリンダ9のピストンからの反力は、リアクション部材11を介して直動部材6及びプランジャ8に伝達される。このとき、リアクション部材11に対する直動部材6の受圧面積A1とプランジャ8の受圧面積A2(<A1)との比率に応じて、その反力の一部がプランジャ8を介してブレーキペダル7にフィードバックされる。このようなブレーキペダル7の踏込みにより、所定の倍力比をもって制動力を発生させることができ、その踏力に応じて制動力を制御することができる。
【0024】
制動開始時(プランジャ8が基準位置にあるとき)、プランジャ8とリアクション部材11との間に所定の隙間C1(いわゆるジャンプインクリアランス)を設けることにより、プランジャ8は、一定距離だけリアクション部材11から反力を受けることなく前進できるので、制動初期において制動力を迅速に立ち上げることができる。
【0025】
次に、コントローラ33により電動モータ3の制御を実行するための制御フローの一例について、図3を参照して説明する。図3のフローチャートにおいては、ブレーキペダルセンサ32により、ブレーキペダル7の踏込みが検出されると処理がスタートし、ステップS1では、基準値設定フラグをクリアしてステップS2に進む。ステップS2では、ブレーキペダルセンサ32により、ブレーキペダル7が操作中であるか否かを判定する。判定の結果、操作中である場合にはステップS3に進む。
【0026】
ステップS3では、基準値設定フラグの有無を判定し、基準値設定フラグが無い場合は相対変位基準値P0を記憶するためにステップS4に進む。一方、基準値設定フラグが有る場合には相対変位基準値P0が既に記憶されているのでステップS6に進む。
【0027】
ステップS4では、プランジャ8が基準位置にあることを基準位置センサ31により検知したか判定し、基準位置が検知されない場合には、プランジャ8が基準位置まで達していないので、ステップS2へ戻り、検知された場合には、ステップS5に進む。
ステップS5では、基準位置センサ31がプランジャ8の基準位置への移動を検知したときの相対変位センサ30の検出値を相対変位基準値P0として記憶するとともに、基準値設定フラグをセットしてステップS6に進む。
【0028】
ステップS6では、相対変位センサ30の現在の検出値Pから上記で記憶された相対変位基準値P0を減じて、相対変位基準値P0からの直動部材6に対するプランジャ8の相対変位ΔP(ΔP=P−P0)を演算して、ステップS7に進む。
【0029】
ステップS7では、相対変位ΔPを所定範囲α〜βの下限値αと比較し、相対変位ΔPが下限値αよりも大きい(ΔP>α)場合には、プランジャ8が少なくとも後退してないものとして、ステップS8に進む。
【0030】
ここで、図4に示すように、所定の範囲α〜βは、下限値αが、直動部材6を後退させる方向に電動モータ3を制御するための相対変位量の目標値として設定される値となっており、一方、上限値βが、直動部材6を前進させる方向に電動モータ3を制御するための相対変位量の目標値として設定される値となっている。本実施形態においては、下限値αは、プランジャ8と直動部材6との相対変位ΔPが0、すなわち、相対変位センサ30の検出値が相対変位基準値P0であるときの値となっている。上限値βは、入出力特性にヒステリシスを付与するために必要な値となっており、上記隙間C1よりも小さい値として設定されている。
【0031】
ステップS8では、相対変位ΔPを上記上限値βと比較し、相対変位ΔPが上限値βよりも大きい(ΔP>β)場合には、プランジャ8が前進している、すなわち、ブレーキペダル7が踏み込まれている最中であるものとして、ステップS9に進む。
【0032】
ステップ9では、相対変位ΔPを上限値βとするために電動モータ3に供給する制御電流が所定の制限値以下か否かを比較し、制御電流が制限値以下である場合は、ステップS10で相対変位ΔPが上限値βとなるように、電動モータ3をフィードバック制御して、直動部材6を前進させる方向に電動モータ3を回転させて、ステップS2に戻る。また、制御電流が制限値を超える場合は、ステップS11で、電動モータ3の回転位置を保持してステップS2へ戻る。これにより、電動モータ3への過電流の供給を防止して、電動モータ3を保護することができる。
【0033】
また、ステップS8で、相対変位ΔPが上限値β以下(ΔP≦β)である場合には、プランジャ8の動作が停止している、すなわち、ブレーキペダル7が踏み込みがほぼ一定で維持されているものとして、ステップS11で電動モータ3の回転位置を保持してステップS2に戻る。
【0034】
ステップS7で、相対変位ΔPが下限値α以下(ΔP≦α)である場合には、プランジャ8が後退している、すなわち、ブレーキペダル7が解放されている最中であるものとして、ステップS12に進む。ステップS12で相対変位ΔPが下限値αとなるように、電動モータ3をフィードバック制御して、直動部材6を後退させる方向に電動モータ3を回転させてステップS2に戻る。
【0035】
なお、ステップS2で、操作中でないと判定した場合にはステップS13で電動モータ3への通電を停止、若しくは電動モータ3への通電の停止状態を維持してステップS14に進む。ステップS14では、ブレーキペダルセンサ32が操作中である状態から操作中でない状態になってから所定時間、例えば、2分間ぐらいの時間が経過したかを判定し、所定時間経過していれば、本フローチャートの処理を終了する。
【0036】
以上のようにして、ブレーキペダル7の操作に応じて、電動モータ3の作動を制御して、プランジャ8の移動に直動部材6を追従させることにより、所定の倍力比で制動力を発生させ、踏力に応じて制動力を制御することができる。このとき、相対変位センサ30の検出値を基準位置センサ31によって校正するので、温度変化による相対変位センサ30の信号ドリフト等による影響を軽減して制御精度を高めると共に安定した制御を行なうことができる。
【0037】
このとき、図4に示すように、プランジャ8と直動部材6との相対変位ΔPが、所定の範囲α〜βを超えたとき、その相対変位ΔPの大きさに比例して電動モータ3の回転量を大きくするように制御量を調整することにより、応答性を高め、高精度で安定した制御を実行することができる。
【0038】
また、相対変位センサ30の相対変位基準値P0の設定(記憶)は、図2に示す制御フローでは、ブレーキペダル7が操作されて、基準位置センサ31によってプランジャ8が基準位置にあるのを検知した後に毎回実行しているが、これに限らず、経過時間その他の条件に基づき、適宜実行して、相対変位基準値P0を更新してもよい。
【0039】
次に、電動倍力装置1の作動の一例について、図5を参照して説明する。図5は、ブレーキペダル7を一定の速さで踏込み、その位置を一旦保持した後、一定の速さで解放した場合のタイムチャートを示している。
【0040】
時刻t0でブレーキペダル7の踏込みを開始し、ブレーキスイッチ32がこれを検知する。ブレーキペダル7の踏込みにより、プランジャ8が前進し、時刻t1で基準位置に達すると、これを基準位置センサ31が検知し、相対変位センサ30の検出値を相対変位基準値P0として記憶する。これにより、相対変位基準値P0からの相対変位ΔPの演算を開始する。時刻t2で相対変位ΔPが上限値βを超えると、電動モータ3が作動し、直動部材6が前進してピストンを推進し、マスタシリンダ9の液圧が上昇し始める。その後、プランジャ8及び直動部材6の前進に伴い、一定の割合でマスタシリンダの液圧9が上昇する。時刻t3でブレーキペダル7の踏込み位置を保持すると、相対変位ΔPは、上述の下限値α〜上限値βの範囲内(α<ΔP<β)となり、電動モータ3の回転位置が保持される。これにより、マスタシリンダ9の液圧も保持される。その後、時刻t4でブレーキペダル7を戻し始めると、相対変位ΔPが下限値α未満となり、電動モータ3が作動して直動部材6が後退し、ピストン13が後退して、マスタシリンダ9の液圧が解除される。
【0041】
次に、本発明の第2実施形態について図6を参照して説明する。
なお、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同じ符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0042】
図6に示すように、本実施形態では、相対変位センサ30が省略され、代りにブレーキペダル7のストロークを検出するストロークセンサ34が設けられている。ストロークセンサ34は、プランジャ8の変位を検出する入力部材変位検出手段として利用される。また、回転位置センサ29は、直動部材6の変位を検出する倍力部材変位検出手段として利用される。コントローラ33は、回転位置センサ29の検出値Pmと、ストロークセンサ34の検出値Psの差分に基づき、直動部材6とプランジャ8との相対変位ΔPを演算により求める。このとき、上記第1実施形態と同様、プランジャ8が基準位置にあることを基準位置センサ31により検知したとき、回転位置センサ29及びストロークセンサ34の検出値を制御基準値Pm0、Ps0として記憶し、回転位置センサ29及びストロークセンサ34の現在の検出値Pm、Psと、相対変位基準値となる制御基準値Pm0、Ps0との差分として相対変位ΔPを求める。このようにして求めた相対変位ΔPに基づき、上記第1実施形態と同様、電動モータ3の作動を制御する。
【0043】
このとき、ボール−ネジ機構5の回転部材19は、電動モータ3のロータ19に連結されているので、直動部材6の位置(変位)は、回転位置センサ29の検出値Pmに一定の係数K1を乗じ、又は、所定の変換テーブルを用いて得ることができる。また、プランジャ8は、入力ロッド28を介してブレーキペダル7に連結されているので、プランジャ8の位置(変位)は、ストロークセンサ34の検出値Psに一定の係数K2を乗じ、又は、所定の変換テーブルを用いて得ることができる。ここで、変換テーブルを用いてこれらの変換を行なうことにより、これらの位置関係が非線形の場合でも直動部材6及びプランジャ8の位置を得ることができる。そして、このようにして得た直動部材6の位置(変位)及びプランジャ8の位置(変位)から演算したこれらの相対変位ΔPに基づき、上記第1実施形態と同様、電動モータ3の作動を制御する。
【0044】
この場合、図2に示される制御フローを、次のように置き換えて実行することになる。まず、ステップS5では、基準位置センサ31がプランジャ8の基準位置を検知したとき、回転位置センサ29の検出値を制御基準値Pm0として記憶し、ストロークセンサ34の検出値を制御基準値Ps0として記憶して、基準値設定フラグをセットしてステップS6に進む。ステップS6では、回転位置センサ29の現在の検出値Pmから記憶された制御基準値Pm0を減じた値に一定の係数K1を乗じ、又は、所定の変換テーブルを用いて直動部材6の位置を演算する。また、ストロークセンサ34の現在の検出値Psから記憶された制御基準値Ps0を減じた値に一定の係数K2を乗じる、又は、所定の変換テーブルを用いてプランジャ8と直動部材6との相対変位ΔP(ΔP=K1・(Pm−Pm0)−K2・(Ps−Ps0))を演算する。このようにして演算した相対変位ΔPに基づき、所定の範囲α〜βとの比較により電動モータ3の作動を制御する。
【0045】
なお、上述の制御フローでは、直動部材6の位置を表す回転位置センサ29の検出値Pm及びプランジャ8の位置を表すストロークセンサ34の検出値Psのそれぞれについて制御基準値Pm0、Ps0を記憶するようにしているが、これらの差分(相対変位)について相対変位基準値を記憶して、その相対変位基準値に基づき相対変位ΔPを演算するようにしてもよい。
【0046】
次に本発明の第3実施形態について、図7乃至図13を参照して説明する。
なお、上記第2実施形態に対して、同様の部分には同じ符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0047】
図7に示すように、本実施形態では、基準位置センサ31が省略され、代りに、ハウジング2の円筒部に、ボール−ネジ機構5の直動部材6が所定の基準位置にあることを検知する戻り位置センサ35が設けられている。戻り位置センサ35は、ハウジング2に対して最も後退した位置である「直動部材基準位置」(倍力部材基準位置、直動部材後退限位置)にあるのを検知するものであり、上記第1及び第2実施形態の基準位置センサ31と同様、例えば公知のリミットスイッチとすることができ、直動部材基準位置を検知したとき、オン又はオフのいずれの信号を出力するものでもよい。
【0048】
また、ブレーキスイッチ32は、ブレーキペダル7が踏込まれていない状態を検知する、すなわち、ブレーキペダル7に入力ロッド28を介して連結されたプランジャ8が最も後退した位置である「プランジャ基準位置」(入力部材基準位置、プランジャ後退限位置)にあることを検知する。
【0049】
コントローラ33は、直動部材6が直動部材基準位置にあるとき、回転位置センサ29の検出値を基準値Pm0´として記憶する。また、プランジャ8が基準位置にあるとき、ストロークセンサ34の検出値を基準値Ps0´として記憶する。そして、現在の回転位置センサ29の検出値Psから基準値Ps0´を減じた値に上述の係数K1を乗じるか、又は、所定の変換テーブルを用いて演算した直動部材6の変位を算出する。また、現在のストロークセンサ34の検出値Psから基準値Ps0´を減じた値に上述の係数K2を乗じるか、又は、所定の変換テーブルを用いて演算したプランジャ8の変位を算出する。これら算出した直動部材6の変位とプランジャ8の変位との差分からプランジャ8と直動部材6との相対変位ΔP´(ΔP´=K1・(Pm−Pm0´)−K2・(Ps−Ps0´))を演算する。
【0050】
そして、プランジャ8が直動部材6に対してプランジャ基準位置から上述の一定距離ΔT(図3(B)参照)だけ前進した位置を基準として、プランジャ8と直動部材6との相対変位ΔP(ΔP=ΔP´−ΔT=K1・(Pm−Pm0´)−K2・(Ps−Ps0´)−ΔT)を演算する。このようにして得た相対変位ΔPに基づき、電動モータ3の作動を制御する。
【0051】
ここで、直動部材6が直動部材基準位置にあることは、戻り位置センサ35によって直接検知することができ、あるいは、ブレーキスイッチ32のオン−オフ、電動モータ3への通電の有無等によって非制動状態を検知することにより、間接的に検知することができる。また、プランジャ8がプランジャ基準位置にあることは、ブレーキスイッチ32のオン−オフによって直接検知することができ、あるいは、戻り位置センサ35の検知、電動モータ3への通電の有無等によって非制動状態を検知することにより、間接的に検知することができる。
【0052】
次に、本実施形態の制御を実行するための制御の一例について、図8を参照して説明する。図8において、ステップS101では、回転位置センサ29及びストロークセンサ34に所定の初期値をセットし、基準値設定フラグをクリアして、ステップS102に進む。ステップS102では、基準値設定フラグの有無を判断し、基準値設定フラグが無ければ、基準値を記憶するためにステップS103に進む。一方、基準値設定フラグが有れば、ステップS105に進む。
【0053】
ステップS103では、直動部材6及びプランジャ8が直動部材基準位置及びプランジャ基準位置にあるか否かをそれぞれの基準位置判定フラグによって判定する。この判定処理は、例えば図9乃至図13に示す制御フローによって実行することができる。図9に示す例では、ステップ201で、ブレーキスイッチ32がブレーキペダル7の踏込みを検知しているか否かを判定し、ブレーキスイッチ32がブレーキペダル7の踏込みを検知しないとき、直動部材6及びプランジャ8が直動部材及びプランジャ基準位置にあるとして、ステップS202で基準位置判定フラグに1をセットする。また、ブレーキスイッチ32がブレーキペダル7の踏込みを検知したとき直動部材及びプランジャ基準位置にないとして、ステップS203で基準位置判定フラグを0でリセットする。なお、ブレーキスイッチ32は、ブレーキペダル7及び入力ロッド28を介してプランジャ8の位置を検知することになるので、検知精度が低下しやすい。
【0054】
図10に示す例では、ステップ301で、直動部材6が後退位置にあることを戻り位置センサ35により検知したか否かを判定し、直動部材6が後退位置にあることを戻り位置センサ35により検知したとき、直動部材6及びプランジャ8がこれらの基準位置にあるとして、ステップS302で基準位置判定フラグに1をセットする。また、直動部材6が後退位置にあることを戻り位置センサ35により検知しないとき、直動部材6及びプランジャ8が基準位置にないとして、ステップS303で基準位置判定フラグを0でリセットする。この場合、戻り位置センサ35は、直動部材6の位置を直接検知するので、ブレーキスイッチ32によるものよりも高い検知精度を期待することができる。
【0055】
図11の例は、図9及び図10の戻り位置スイッチ35及びブレーキスイッチ32による判定を組合わせて行うものである。ステップS401で、プランジャ8がこれらの基準位置にあることを戻り位置センサ35により検知し、かつ、ブレーキスイッチ32がブレーキペダル7の踏込みを検知しないとき、直動部材6及びプランジャ8がこれらの基準位置にあるとして、ステップS403で基準位置判定フラグに1をセットする。ステップS401、S402で、何れか又は何れもそうでない場合は、基準位置にないとして、ステップS404で基準位置判定フラグを0でリセットする。この場合、2つのセンサ、スイッチの状態によって判定を行なうので、検知精度を高めることができる。
【0056】
図12の例では、ステップS501で、電動モータ3への通電状態に基づいて判定するもので、電動モータ3への通電がない場合に直動部材6及びプランジャ8がこれらの基準位置にあるとして、ステップS502で基準位置判定フラグに1をセットする。電動モータ3への通電がある場合には基準位置にないとしてステップS503で基準位置判定フラグを0でリセットする。また、図13の例では、電動モータ3へ一定時間通電があるか否かで基準位置にあるか否かを判定する。ステップS601で、電動モータ3への通電状態を確認し、電動モータ3への通電がない場合に、ステップS602で、非通電計時タイマをインクリメントしてステップS603へ進む。ステップS603で、非通電計時タイマが所定値より大きくなるまで待って、非通電計時タイマが所定値より大きくなったときに、一定時間通電がないこととして、直動部材6及びプランジャ8がこれらの基準位置にあるとし、ステップS604で基準位置判定フラグに1をセットする。ステップS603で、非通電計時タイマが所定値より大きくなる前に、ステップS601で、電動モータ3への通電があると判定した場合には、基準位置にないとして、ステップS603で基準位置判定フラグを0でリセットする。この場合、低温等の直動部材6の戻り特性が悪化する環境下においても、直動部材6及びプランジャ8の基準位置の判定をより確実行うことができる。更に、図9乃至図13に示す判定処理を適宜組み合わせてもよい。
【0057】
ステップS103では、直動部材6及びプランジャ8がこれらの基準位置にある場合には、ステップS104に進み、ステップS104では、その時点の回転位置センサ29の検出値を基準値Pm0´として記憶し、ストロークセンサ34の検出値を基準値Pm0´として記憶し、基準値設定フラグをセットして、ステップS105に進む。直動部材6及びプランジャ8がこれらの基準位置にない場合には、直接、ステップS105に進む。
【0058】
ステップS105では、ブレーキペダル7の操作の有無を判定し、踏込みがなく操作されていない場合は、ステップS113で電動モータ3への通電を停止、若しくは通電停止状態を維持してステップS102に戻る。ブレーキペダル7が操作されている最中である場合には、ステップS106に進む。ステップS106では、現在の回転位置センサ29の検出値Psから基準値Ps0´を減じた値に上述の係数K1を乗じるか、又は、所定の変換テーブルを用いて演算して直動部材6の変位を算出する。また、現在のストロークセンサ34の検出値Psから基準値Ps0´を減じた値に上述の係数K2を乗じるか、又は、所定の変換テーブルを用いて演算してプランジャ8の変位を算出する。これら直動部材6の変位とプランジャ8の変位との差分からプランジャ8と直動部材6との初期位置からの相対変位ΔP´(ΔP´=K1・(Pm−Pm0´)−K2・(Ps−Ps0´))を演算する。
【0059】
更に、プランジャ8が直動部材6に対してプランジャ基準位置から上述の一定距離ΔT(図3(B)参照)だけ前進した位置を基準として、プランジャ8と直動部材6との相対変位ΔP(ΔP=ΔP´−ΔT=K1・(Pm−Pm0´)−K2・(Ps−Ps0´)−ΔT)を演算してステップS107に進む。ステップS107からステップ112では、上記ΔPに基づいて図2に示す制御と同様の処理を実行して、ステップS2へ戻る。これにより、上記第2実施形態と同様の制御を実行することができる。
【0060】
なお、本実施形態において、回転位置センサ29とストロークセンサ34とを用いて相対変位ΔP´を演算する代りに、上記第1実施形態と同様、相対変位センサ30を設けて相対変位ΔP´を直接検出するようにしてもよい。この場合、ブレーキスイッチ32及び戻り位置センサ35を用いて直動部材6及びプランジャ8の基準位置を検知したとき、相対変位センサ30の検出値を基準値として記憶し、相対変位ΔP´を検出する。
【0061】
次に、電動倍力装置1の入出力特性の調整方法について、図14乃至図16を参照して説明する。
電動倍力装置1の入出力特性の一例について図14及び図15を参照して説明する。電動倍力装置1の入出力特性は、ブレーキペダル7の踏込みにより、プランジャ8が直動部材6に対して初期位置からΔT(図3(B)参照)だけ移動して、基準位置に達したとき、電動モータ3の作動の制御が開始され、制動初期においては、プランジャ8とリアクション部材との隙間C1(図14(B)参照)により、プランジャ8がリアクション部材11から反力を受けることなく前進するので、いわゆるジャンプイン特性によって出力(制動力)が迅速に立ち上がる(図15のA点参照)。その後、リアクション部材11に対する直動部材6の受圧面積A1とプランジャ8の受圧面積A2との比率に応じた倍力比で入力に比例した出力が発生する(図15の実線参照)。
【0062】
このとき、リアクション部材11とプランジャ8との隙間C1が図14(B)に示す規定の場合よりも小さいと(図14(A)参照)、リアクション部材11とプランジャ8との当接が早くなり、ジョンプイン時の出力が小さくなり(図15中の破線参照)、また、隙間C1が大きいと(図14(C)参照)、リアクション部材11とプランジャ8との当接が遅くなり、ジャンプイン時の出力が大きくなる(図15中の一点鎖線参照)。このように隙間C1の精度により、入出力特性にばらつきが生じる。
【0063】
本実施形態では、図16に示す調整装置36を用いて電動倍力装置1の入出力特性の調整を行う。図16に示すように、調整装置36は、電動倍力装置1の入力ロッド28に所望の推力を付与する推力発生装置37と、出力ロッド10の出力を測定する推力測定装置38と、推力発生装置37の推力及び推力測定装置38の測定推力から電動倍力装置1の入出力特性を得て、補正量を決定する調整装置39とを備えている。
【0064】
調整装置39は、推力発生装置37によって電動倍力装置1に所定の推力(入力)を付与し、推力測定装置38によって出力を測定する。このとき、図15に示すように、所定の入力Bに対して、リアクション部材11とプランジャ8との隙間C1が規定値よりも小さい場合、出力は、規定の出力B0よりも小さい出力B1となり、隙間C1が規定値よりも大きい場合、規定の出力B0よりも大きい出力B2となる。これにより、出力の大小に応じて、実際の出力がB0となるように、相対変位センサ30が出力する(第2及び第3実施形態では、演算する)相対変位ΔPに対する補正量を決定し、コントローラ33の記憶手段である不揮発性メモリに書き込む。コントローラ33は、記憶した補正量により補正した相対変位ΔPに基づき、電動モータ3の作動をする。
【0065】
これにより、個々の電動倍力装置1について、組立後に、各部の寸法精度、各種センサ及びスイッチの取付位置の寸法精度等による入出力特性のばらつきを調整することができ、制御精度を高めることができる。なお、第2及び第3実施形態の電動倍力装置1では、演算した相対変位ΔPに対して補正量を決定し、コントローラ33に記憶させることにより、同様に適用することができる。
【0066】
なお、上記第1乃至第3実施形態では、推力伝達機構として、弾性体であるリアクション部材11を用いた場合(いわゆるディスク式)について説明している。しかし、これに限らず、いわゆるレバー式の倍力装置にも適用することができる。また、倍力部材としてアクチュエータによって駆動されるピストン(受圧面積大)と、入力部材としてブレーキペダルによって駆動される入力ピストンとをマスタシリンダに挿入して、マスタシリンダ内のブレーキ液に臨む、入力ピストンから直接、反力をブレーキペダルへフィードバックする形式の倍力装置にも適用することができる。
【0067】
上記実施形態の倍力装置によれば、ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材と、該入力部材と相対移動可能に設けられた倍力部材と、該倍力部材を駆動するアクチュエータと、前記入力部材及び倍力部材の推力をマスタシリンダに伝達すると共に該マスタシリンダからの反力を所定の比率で前記入力部材と前記倍力部材に伝達する推力伝達機構と、前記入力部材と前記倍力部材との相対変位を検出するための相対変位検出手段と、該相対変位検出手段が検出した相対変位に基づいて前記アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備え、前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知するための基準位置検知手段を備えている。上記のような構成により、倍力装置の制御精度を高め、安定した入出力特性を得ることができる。
【0068】
上記実施形態の倍力装置によれば、前記制御手段は、前記基準位置検知手段が前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知したとき、前記相対変位検出手段の検出値を相対変位基準値として記憶し、相対変位基準値を基準として前記入力部材と前記倍力部材との相対変位を決定するようにしている。上記のような構成により、温度変化による相対変位検出手段の信号ドリフト等による影響を軽減して制御精度を高めると共に安定した制御を行なうことができる。
【0069】
上記実施形態の倍力装置によれば、前記推力伝達機構は、前記入力部材及び前記倍力部材に係合し、これらの相対変位を許容する推力伝達部材と、前記入力部材及び前記倍力部材から前記推力伝達部材に伝達された推力によって前記マスタシリンダに液圧を発生させる液圧発生機構とを含んでいる。
【0070】
上記第1の実施形態の倍力装置によれば、前記基準位置検知手段は、前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知したとき、オン又はオフとなるスイッチ手段となっている。
【0071】
上記第2,3の実施形態の倍力装置によれば、前記基準位置検知手段は、前記入力部材が所定の入力部材基準位置にあることを検知するための入力部材基準位置検知手段と、前記倍力部材が所定の倍力部材基準位置にあるのを検知するための倍力部材基準位置検知手段とを含み、前記入力部材が入力部材基準位置にあることを検知し、かつ、前記倍力部材が倍力部材基準位置にあるのを検知することにより、相対変位の基準位置を検知するようにしている。
【0072】
上記第2,3の実施形態の倍力装置によれば、前記相対変位検出手段は、前記入力部材の変位を検出する入力部材変位検出手段と、前記倍力部材の変位を検出する倍力部材変位検出手段とを含み、前記入力部材の変位及び前記倍力部材の変位に基づき、これらの相対変位を検出するようにしている。
【0073】
上記第2,3の実施形態の倍力装置によれば、前記制御手段は、前記相対位置検出手段が検出する相対変位に対する補正量を記憶する記憶手段を備えている。
【符号の説明】
【0074】
1 電動倍力装置(倍力装置)、6 直動部材(倍力部材)、7 ブレーキペダル、8 プランジャ(入力部材)、9 マスタシリンダ、11 リアクション部材(推力伝達機構)、30 相対変位センサ(相対変位検出手段)、31 基準位置センサ(基準位置検知手段)、33 コントローラ(制御手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材と、該入力部材と相対移動可能に設けられた倍力部材と、該倍力部材を駆動するアクチュエータと、前記入力部材及び倍力部材の推力をマスタシリンダに伝達すると共に該マスタシリンダからの反力を所定の比率で前記入力部材と前記倍力部材に伝達する推力伝達機構と、前記入力部材と前記倍力部材との相対変位を検出するための相対変位検出手段と、該相対変位検出手段が検出した相対変位に基づいて前記アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備えた倍力装置において、
前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知するための基準位置検知手段を備えたことを特徴とする倍力装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記基準位置検知手段が前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知したとき、前記相対変位検出手段の検出値を相対変位基準値として記憶し、相対変位基準値を基準として前記入力部材と前記倍力部材との相対変位を決定することを特徴とする請求項1に記載の倍力装置。
【請求項3】
前記推力伝達機構は、前記入力部材及び前記倍力部材に係合し、これらの相対変位を許容する推力伝達部材と、前記入力部材及び前記倍力部材から前記推力伝達部材に伝達された推力によって前記マスタシリンダに液圧を発生させる液圧発生機構とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の倍力装置。
【請求項4】
前記基準位置検知手段は、前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知したとき、オン又はオフとなるスイッチ手段であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の倍力装置。
【請求項5】
前記基準位置検知手段は、前記入力部材が所定の入力部材基準位置にあることを検知するための入力部材基準位置検知手段と、前記倍力部材が所定の倍力部材基準位置にあるのを検知するための倍力部材基準位置検知手段とを含み、
前記入力部材が入力部材基準位置にあることを検知し、かつ、前記倍力部材が倍力部材基準位置にあるのを検知することにより、相対変位の基準位置を検知することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の倍力装置。
【請求項6】
前記相対変位検出手段は、前記入力部材の変位を検出する入力部材変位検出手段と、前記倍力部材の変位を検出する倍力部材変位検出手段とを含み、前記入力部材の変位及び前記倍力部材の変位に基づき、これらの相対変位を検出することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の倍力装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記相対位置検出手段が検出する相対変位に対する補正量を記憶する記憶手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の倍力装置。
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により進退動する入力部材と、該入力部材と相対移動可能に設けられた倍力部材と、該倍力部材を駆動するアクチュエータと、前記入力部材及び倍力部材の推力をマスタシリンダに伝達すると共に該マスタシリンダからの反力を所定の比率で前記入力部材と前記倍力部材に伝達する推力伝達機構と、前記入力部材と前記倍力部材との相対変位を検出するための相対変位検出手段と、該相対変位検出手段が検出した相対変位に基づいて前記アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備えた倍力装置において、
前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知するための基準位置検知手段を備えたことを特徴とする倍力装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記基準位置検知手段が前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知したとき、前記相対変位検出手段の検出値を相対変位基準値として記憶し、相対変位基準値を基準として前記入力部材と前記倍力部材との相対変位を決定することを特徴とする請求項1に記載の倍力装置。
【請求項3】
前記推力伝達機構は、前記入力部材及び前記倍力部材に係合し、これらの相対変位を許容する推力伝達部材と、前記入力部材及び前記倍力部材から前記推力伝達部材に伝達された推力によって前記マスタシリンダに液圧を発生させる液圧発生機構とを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の倍力装置。
【請求項4】
前記基準位置検知手段は、前記入力部材と前記倍力部材との相対位置が所定の基準位置にあることを検知したとき、オン又はオフとなるスイッチ手段であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の倍力装置。
【請求項5】
前記基準位置検知手段は、前記入力部材が所定の入力部材基準位置にあることを検知するための入力部材基準位置検知手段と、前記倍力部材が所定の倍力部材基準位置にあるのを検知するための倍力部材基準位置検知手段とを含み、
前記入力部材が入力部材基準位置にあることを検知し、かつ、前記倍力部材が倍力部材基準位置にあるのを検知することにより、相対変位の基準位置を検知することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の倍力装置。
【請求項6】
前記相対変位検出手段は、前記入力部材の変位を検出する入力部材変位検出手段と、前記倍力部材の変位を検出する倍力部材変位検出手段とを含み、前記入力部材の変位及び前記倍力部材の変位に基づき、これらの相対変位を検出することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の倍力装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記相対位置検出手段が検出する相対変位に対する補正量を記憶する記憶手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の倍力装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−71732(P2012−71732A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218872(P2010−218872)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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