説明

倍力装置

【課題】倍力装置において、マスタシリンダのシリンダボアに対するピストンの傾きを抑制して、ピストンの摺動を円滑にする。
【解決手段】電動モータ40により、ボール−ネジ機構41を駆動してネジ軸47を前進させ、プライマリピストン10の後端部に取付けられたバネ受35の当接部80をネジ軸47の段部50によって押圧し、プライマリピストン10を推進してマスタシリンダ2でブレーキ液圧を発生させる。段部50と当接部80との間に摩擦係数の小さいシム81を介装し、これらの当接部の摩擦を減少させることにより、プライマリピストン10のマスタシリンダ2のシリンダボア12に対する傾きを抑制してプライマリピストン10の摺動を円滑にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両のブレーキ装置に組込まれ、アクチュエータによってマスタシリンダにブレーキ液圧を発生させる倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、倍力源である電動モータ及び電動モータの回転運動を直線運動に変換するボール−ネジ機構を備え、電動モータによってボール−ネジ機構を介してマスタシリンダのピストンを推進するようにした電動倍力装置が記載されている。この倍力装置では、マスタシリンダから延出されたピストンをボール−ネジ機構の円筒状の直動部材の内部に挿入し、直動部材に形成された内側フランジでピストンの後端部を押圧することによりピストンを推進する。これにより、電動モータが作動不能となった場合でも、ブレーキペダルに連結された入力ロッドでピストンを直接押圧することにより、ピストンを直動部材の内側フランジから離間させて前進させることができ、制動機能を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−162482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載されているよう、直動部材の内側フランジによってピストンを押圧するようにした電動倍力装置では、次のような問題がある。直動部材の内側フランジ部とピストンとの当接部の寸法誤差、位置ずれ、あるいは、摩擦により、ピストンに横力が作用してピストンがマスタシリンダのシリンダボアに対して傾く虞がある。このようなピストンの傾きは、ピストンの円滑な摺動を妨げ、ブレーキ液圧が不安定になる原因となる。
【0005】
本発明は、ピストンの摺動を円滑にするようにした倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は、アクチュエータによって直線運動する直動部材によりマスタシリンダのピストンを押圧してブレーキ液圧を発生させる倍力装置において、前記直動部材と前記ピストンとの当接部に、前記直動部材に対して前記ピストンを径方向へ移動させる径方向移動手段を介装したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る倍力装置によれば、ピストンの摺動を円滑にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1の実施形態に係る倍力装置の縦断面図である。
【図2】図1に示す倍力装置の要部であるマスタシリンダのピストンとボール−ネジ機構の直動部材との当接部を拡大して示す図である。
【図3】図1に示す倍力装置のマスタシリンダのピストンとボール−ネジ機構の直動部材との間に介装されるシムを拡大して示す縦断面図である。
【図4】図1に示す倍力装置のマスタシリンダのピストンとボール−ネジ機構の直動部材との当接部の後方から見た端面図である。
【図5】第2の実施形態に係る倍力装置の縦断面図である。
【図6】図5に示す倍力装置の要部であるマスタシリンダのピストンとボール−ネジ機構の直動部材との当接部を拡大して示す図である。
【図7】第3の実施形態に係る倍力装置の要部であるマスタシリンダのピストンとボール−ネジ機構の直動部材との当接部を拡大して示す図である。
【図8】第4の実施形態に係る倍力装置の要部であるマスタシリンダのピストンとボール−ネジ機構の直動部材との当接部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、第1の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る倍力装置1は、アクチュエータ3を内装するハウジング4の前部にタンデム型のマスタシリンダ2が連結され、マスタシリンダ2の上部にはリザーバ5(一部のみ図示する)が接続されている。ハウジング4は、略有底円筒状のフロントハウジング4Aの開口部側に、リアカバー4Bを嵌合し、複数のボルト4Cによって結合してアクチュエータ3を収容している。
【0010】
マスタシリンダ2は、略有底円筒状のシリンダ本体2Aを含み、その開口部側がハウジング4の底部の開口部にスタッドボルト6A及びナット6Bによって結合されている。ハウジング4のリアカバー4Bには、平坦な取付座面7が形成され、取付座面7からマスタシリンダ2と同心の円筒部8が突出している。そして、電動倍力装置1は、車両のエンジンルーム内に配置され、円筒部8をエンジンルームと車室との隔壁であるダッシュパネル(図示せず)に貫通させて車室内に延ばし、取付座面7をダッシュパネルに当接させて取付座面7に設けられた複数のスタッドボルト9を用いて固定される。
【0011】
マスタシリンダ2のシリンダ本体2Aに一体に形成されたシリンダボア12には、開口側に、先端部がカップ状に形成された円筒状のプライマリピストン10(ピストン)が挿入され、底部側にカップ状のセカンダリピストン11が挿入されている。プライマリピストン10の後端部は、マスタシリンダ2の開口部からハウジング4内に突出して、リアカバー4Bの円筒部8まで延びている。シリンダ本体2A内は、プライマリピストン10及びセカンダリピストン11によってプライマリ室16及びセカンダリ室17の2つの圧力室が形成され、プライマリ室16及びセカンダリ室17には、液圧ポート18、19がそれぞれ設けられている。液圧ポート18、19には、各車輪のブレーキキャリパに液圧を供給するための2系統の液圧回路(図示せず)がそれぞれ接続される。
【0012】
また、シリンダ本体2Aの側壁の上部側には、プライマリ室16及びセカンダリ室17をリザーバ5に接続するためのリザーバポート20、21が設けられている。シリンダ本体2Aのシリンダボア12と、プライマリピストン10及びセカンダリピストン11との間は、それぞれ、シリンダボア12の内周面に一体に形成された環状のシール溝22a、22b及び23a、23bにそれぞれ嵌合されたシール部材22A、22B及び23A、23Bによってシールされている。2つのシール部材22A、22Bは、軸方向に沿ってリザーバポート20を挟むように配置されており、プライマリピストン10が図1に示す非制動位置にあるとき、プライマリ室16がプライマリピストン10の側壁に設けられたポート24を介してリザーバポート20に連通し、プライマリピストン10が非制動位置から前進したとき、シール部材22Aによってプライマリ室16がリザーバポート20から遮断されるようになっている。また、2つのシール部材23A、23Bは、軸方向に沿ってリザーバポート21を挟むように配置されており、セカンダリピストン11が図1に示す非制動位置にあるとき、セカンダリ室17がセカンダリピストン11の側壁に設けられたポート25を介してリザーバポート21に連通し、セカンダリピストン11が非制動位置から前進したとき、シール部材23Aによってセカンダリ室17がリザーバポート21から遮断されるようになっている。
【0013】
プライマリ室16内のプライマリピストン10とセカンダリピストン11との間には、バネアセンブリ26が介装され、セカンダリ室17内のマスタシリンダ2の底部とセカンダリピストン11との間には、圧縮コイルバネである戻しバネ27が介装されている。バネアセンブリ26は、圧縮コイルバネ28を伸縮可能なリテーナ29によって所定の圧縮状態で保持し、そのバネ力に抗して圧縮可能としたものである。リテーナ29とプライマリピストン10の中間壁30(後述する)との間には、円筒状のスペーサ29Aが介装されている。
【0014】
プライマリピストン10は、カップ状の先端部と円筒状の後部と、内部を軸方向に仕切る中間壁30とを備え、中間壁30には、案内ボア31が軸方向に沿って貫通されている。案内ボア31には、段部32Aを有する段付形状の入力ピストン32の小径の先端部が摺動可能かつ液密的に挿入されている。案内ボア31と入力ピストン32との間は、2つのシール部材33A、33Bによってシールされており、プライマリピストン10の中間壁30には、案内ボア31のシール部材33A、33B間に開口する通路33が径方向に沿って貫通されている。
【0015】
ハウジング4に内に延びるプライマリピストン10の中間部は、フロントハウジング4Aの底部の開口部に嵌合する円筒状のバネ受部材70に挿入されて軸方向に沿って摺動可能に案内されている。バネ受部材70は、一端部に形成された外側フランジ部71がフロントハウジング4Aの底部の開口部に嵌合して固定されて、マスタシリンダ2のシリンダボア12に連接している。バネ受部材70の後端内周部に取付けられたシール部材72によってプライマリピストン10との間をシールし、プライマリピストン10の中間壁30に設けられた通路33がシール部材72の内側に開口している。マスタシリンダ2のシール溝22b及びシール部材22Bが設けられたシリンダボア12の開口部12Aを突出させ、また、バネ受部材70を設けて、プライマリピストン10の支持部の長さを長くすることにより、プライマリピストン10のシリンダボア12に対する傾きを抑制している。
【0016】
入力ピストン32の後端部には、リアカバー4Bの円筒部8及びプライマリピストン10の後部に挿入された入力ロッド34の先端部が連結され、入力ロッド34の後端側は、円筒部8から外部に延出されている。円筒部8から外部に延出された入力ロッド34の後端部に、ブレーキペダル(図示せず)が連結される。プライマリピストン10の後端部には、環状のバネ受35が取付けられ、プライマリピストン10は、バネ受部材70の後端部とバネ受35との間に介装された圧縮コイルバネである戻しバネ36によって後退方向に付勢されている。また、入力ピストン32は、プライマリピストン10の中間壁30との間及びバネ受35との間にそれぞれ介装されたバネ手段としての圧縮コイルバネであるバネ37、38によって、図1に示す中立位置に弾性的に保持されている。入力ロッド34の後退位置は、入力ロッド34の中間部に設けられた大径の当接部34Aがリアカバー4Aの円筒部8の後端部に設けられた径方向内側に突出するストッパ39に当接することによって規定されている。
【0017】
ハウジング4内には、電動アクチュエータである電動モータ40及び電動モータ40の回転を直線運動に変換してプライマリピストン10に推力を付与する回転−直動変換機構であるボール−ネジ機構41を含むアクチュエータ3が設けられている。電動モータ40は、永久磁石埋め込み型同期モータであって、フロントハウジング4Aの底部の後側の段部に固定された複数のコイルを有するステータ42と、ステータ42の内周面に対向して配置された円筒状のロータ45と、ロータ45の内部に挿入され、円周方向に沿って配置された複数の永久磁石とを含んでいる。ロータ45は、ボール−ネジ機構41の回転部材であるナット部材46の外周部に固定されている。ナット部材46は、フロントハウジング4Aの底部付近からリアカバー4B付近にわたって軸方向に沿って延ばされ、その両端部がベアリング43、44によってフロントハウジング4A及びリアカバー4Bに回転可能に支持されている。なお、電動モータ40は、ロータ45の表面又は内部に永久磁石を配置した同期モータ、あるいは、誘導モータ等の他の形式のモータとしてもよい。
【0018】
ボール−ネジ機構41は、ナット部材46と、ナット部材46及びハウジング4の円筒部8内に挿入されて軸方向に沿って移動可能で、かつ、軸回りに回転しないように支持された直動部材である中空のネジ軸47とを有している。そして、図2に示すように、これらの対向面となるナット部材46の外周面とネジ軸47の外周面とには、それぞれ螺旋溝46A,47Aが形成されている。これら螺旋溝46A,47Aの間には、複数のボール48がグリスと共に装填されている。このような構成により、ボール−ネジ機構41は、ナット部材46の回転に伴ってネジ溝に沿ってボール48が転動することで、ネジ軸47が軸方向に移動するようになっている。ボール−ネジ機構41は、ナット部材46とネジ軸47との間で、回転及び直線運動を相互に変換可能、すなわち、上記したようにナット部材46の回転をネジ軸47の直動運動に、また、ネジ軸47の直動運動をナット部材46の回転に変換可能となっている。
【0019】
なお、上述の例では、電動モータ40のロータ45の回転運動をボール−ネジ機構41のナット部材46に直接伝達するようにしているが、電動モータ40とボール−ネジ機構41との間に、遊星歯車機構、差動減速機構等の公知の減速機構を介装して、電動モータ40の回転を減速してボール−ネジ機構41に伝達するようにしてもよい。
【0020】
ボール−ネジ機構41のネジ軸47は、バネ受部材70のフランジ部71との間に介装された圧縮テーパコイルバネである戻しバネ49によって後退方向に付勢され、後端部がリアカバー4Bの円筒部8に設けられたストッパ39に当接することよって後退位置が規制されている。ネジ軸47内には、プライマリピストン10の後端部が挿入され、ネジ軸47の内周部に形成された環状の段部50にバネ受35の外周に形成された環状の当接部80がシム81を介して当接することによってプライマリピストン10の後退位置が規制されている。これにより、プライマリピストン10は、ネジ軸47の前進により、段部50に押されて前進し、また、段部50から離間して単独で前進することができる。そして、図1に示すように、ストッパ39に当接したネジ軸47の段部50によってプライマリピストン10の非制動位置が規定され、非制動位置にあるプライマリピストン10及びバネアセンブリ26の最大長によって、セカンダリピストン11の後退位置、すなわち、非制動位置が規定されている。
【0021】
ハウジング4内には、電動モータ40のロータ45の回転位置を検出する回転位置センサであるレゾルバ60が設けられている。レゾルバ60は、ナット部材46の後部側の外周部に固定されたレゾルバロータ60Aと、レゾルバロータ60Aに対向してリアカバー4Bに取付けられたレゾルバステータ60Bとから構成されている。
【0022】
リアハウジング4Bの円筒部8の後端部には、ネジ軸47の外周を覆う円筒状のカバー部材76が取付けられている。ネジ軸47は、円筒部8から突出する後端部に軸方向に沿って形成された案内溝47Bに、リアハウジング4Bの円筒部8のストッパ39を係合させることにより、軸方向に移動可能、かつ、軸回りに回転しないように支持されている。
【0023】
電動倍力装置1には、ブレーキペダル、すなわち、入力ピストン32及び入力ロッド34の変位を検出するストロークセンサ(図示せず)、電動モータ40に供給する電流を検出する電流センサ(図示せず)、プライマリ、セカンダリ室17、18の液圧を検出する液圧センサ82等の各種センサが設けられている。また、電動倍力装置1には、マイクロプロセッサベースの電子制御装置であるコントローラが接続され、このコントローラにより、前述の各種センサから検出信号に基づき、電動モータ40の回転を制御することによって作動する。
【0024】
次に、プライマリピストンの後端部に取付けられたバネ受35と、ボール−ネジ機構41のネジ軸47の段部50との当接部の構造について、図2乃至図4を参照して、更に詳細に説明する。
【0025】
バネ受35は、略円筒状で、一端部にプライマリピストン10の円筒状の後端部にねじ込まれる小径のネジ部82が形成され、他端側の外周に等間隔で六面取りされた面取り部83(図4参照)が形成されている。バネ受35の軸方向の中間部の外周に、フランジ状の当接部80が形成され、内周にフランジ状の内側バネ受部84が形成されている。当接部80は、外径がネジ軸47の内径よりも小径、かつ、段部47の内径よりも大径で、その端面がシム81を介してネジ軸47側の当接部である段部50に当接することにより、プライマリピストン10の後退位置を規定する。また、当接部80は、段部50側とは反対側の端面が戻しバネ36のバネ受となっている。内側バネ受部83は、バネ38のバネ受となっている。面取り部83の軸方向の中間部には、外周溝85が形成されている。バネ受35のネジ部82側の外周縁部に、小径側の外径がプライマリピストン10の後端部の外径にほぼ等しいテーパ部86が形成され、面取り部83側の外周縁部に先細りのテーパ部87が形成されている。
【0026】
シム81は、ステンレス鋼等の薄い板材で形成され、バネ受35の面取り部83の外周に嵌合する円筒部88と、円筒部88の一端部に配置されて当接部80の端面に当接する外側フランジ部89とが一体に形成されている。円筒部88には、円周方向に沿って複数箇所(図示のものでは4箇所)に等間隔で係合爪90が形成されている。係合爪90は、円筒部88を長方形に切欠いて内側に切り起こすことのよって形成され、外側フランジ部89とは、反対側の内側に向けて傾斜されている。シム81は、バネ受35の面取り部83側から圧入することにより、係合爪90が撓んで拡開し外周溝に嵌合して、外側フランジ部89を当接部80の端面に当接させた状態でバネ受35に固定される。シム81は、ステンレス鋼のほか、段部50又は当接部80に対する摩擦を軽減するように、プライマリピストン10の一部であるバネ受35の当接部80やネジ軸47の段部50よりも摩擦係数が小さく、必要な強度を有するものであれば、他の材質でもよい。
【0027】
次に電動倍力装置1の作動について説明する。
ブレーキペダルを操作して入力ロッド34を介して入力ピストン32を前進させると、入力ピストン32の変位をストロークセンサによって検出し、コントローラによって入力ピストン32の変位に基づいて電動モータ40の作動を制御し、ボール−ネジ機構41のネジ軸47の段部50により、シム81及びバネ受35を介してプライマリピストン10を押圧し、前進させて入力ピストン32の変位に追従させる。これにより、プライマリ室16に液圧が発生し、また、この液圧がセカンダリピストン11を介してセカンダリ室17に伝達される。このようにして、マスタシリンダ2で発生したブレーキ液圧は、液圧ポート18、19を介して各車輪のブレーキキャリパに供給され、制動力を発生させる。ブレーキペダルの操作を解除すると、入力ピストン32、プライマリピストン10及びセカンダリピストン11が後退してマスタシリンダ2のブレーキ液圧が減圧し、ブレーキパッド66が後退して制動が解除される。なお、プライマリピストン10とセカンダリピストン11とは、同様に作動するので、以下、プライマリピストン10についてのみ説明することとする。
【0028】
このとき、プライマリ室16の液圧の一部を入力ピストン32によって受圧し、その反力を、入力ロッド34を介してブレーキペダルにフィードバックする。これにより、所定の倍力比をもって所望の制動力を発生させることができる。そして、入力ピストン32と、これに追従するプライマリピストン10との相対位置を調整して、バネ37、38のバネ力を入力ピストン32に作用させて、入力ロッド34に対する反力を加減することにより、倍力比を調整することができる。入力ピストン32に対して、プライマリピストン10を前方に調整することにより倍力比が大きくなり、後方に調整することにより倍力比が小さくなる。これにより、倍力制御、ブレーキアシスト制御、車間車両安定性制御、車間制御、回生協調制御等のブレーキ制御を実行することができる。
【0029】
そして、本第1の実施形態においては、ボール−ネジ機構41のネジ軸47の段部50と、プライマリピストン10の後端部に取付けたバネ受35との間にシム81を介装したことにより、これらの当接部の摩擦が減少して、プライマリピストン10の後端部がマスタシリンダ2のシリンダボア12と同心位置に移動し易くなるので、プライマリピストン10のシリンダボア12に対する傾きを抑制することでき、プライマリピストン10を円滑に摺動させることができる。その結果、安定したブレーキ液圧を発生させることができる。なお、上記実施形態では、シム81は、プライマリピストン10側に固定されているが、ネジ軸47側に固定してもよく、あるいは、いずれにも固定せず、これらの間で保持されるようにしてもよい。また、シム81は、プライマリピストン10側又はネジ軸47側と当接部の摩擦を減少させるように、これらよりも摩擦係数の小さいものとする。
【0030】
次に、第2の実施形態を図面に基づいて説明する。
図5、6に示すように、本実施形態に係る倍力装置101は、第1の実施形態の倍力装置1と大略同様の構成となっている。そして、第1の実施形態のシム81に代えて弾性体からなるゴムリング110がプライマリピストン10とボール−ネジ機構41との間に介装されている点が異なっている。以下、上記第1の実施形態に対して、同様の部分については同様の符号を付し、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0031】
ゴムリング110は、バネ受35の当接部80より若干小さな外径寸法と、当接部80より若干大きな内径寸法とを有する環状に形成されており、当接部80における段部50側に形成される環状溝80Aに内包されている。また、ゴムリング110は、ネジ軸47がプライマリピストン10側に移動したときに、弾性変形するような肉厚、硬度を有するものとなっている。
【0032】
ネジ軸47の段部50には、上記ゴムリング110に対向する位置に環状突起5Aが形成されており、この環状突起の外径寸法はゴムリング110の外径寸法よりも小さく、また、環状突起の内径寸法はゴムリング110の内径寸法よりも大きく形成されている。
【0033】
このように、第2の実施形態においては、ボール−ネジ機構41のネジ軸47の段部50と、プライマリピストン10の後端部に取付けたバネ受35との間にゴムリング110を介装している。このことにより、ネジ軸47の段部50の環状突起50Aにより、ゴムリング110及びバネ受35を介してプライマリピストン10を押圧したときに、ゴムリング110が弾性変形することになる。この結果、プライマリピストン10の後端部がマスタシリンダ2のシリンダボア12と同心位置に移動し易くなるので、プライマリピストン10のシリンダボア12に対する傾きを抑制することができ、プライマリピストン10を円滑に摺動させることができる。
【0034】
また、プライマリピストン10のシリンダボア12に対する傾きを抑制することできることにより、プライマリピストン10の傾きに起因する倍力装置101の作動音の増幅を抑制することができる。
【0035】
さらに、ブレーキペダルの操作の解除時に、各車輪のブレーキキャリパからプライマリ室16への作動液の戻りが遅れると、プライマリ室16が負圧状態となり、ネジ軸47の後退よりもプライマリピストン10の後退が遅れることがある。このため、特許文献1のものでは、プライマリピストン10のバネ受35がネジ軸47の段部50まで後退したときに、打音が生じる可能性がある。しかし、本第2の実施形態においては、ゴムリング110が設けられていることで、プライマリピストン10のバネ受35がネジ軸47の段部50の環状突起50Aまで後退したときに、打音を抑制することが可能になっている。
【0036】
次に、第3の実施形態を図面に基づいて説明する。
図7に示すように、本第3の実施形態においては、第2の実施形態の環状突起50に代えて環状突起120を有するシム板121がプライマリピストン10とボール−ネジ機構41との間に介装されている点が異なっている。以下、第2の実施形態に対して、同様の部分については同様の符号を付し、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0037】
シム板121は、ステンレス鋼等の薄い板材からなり、バネ受35の面取り部83の外周に嵌合する円筒部123と、円筒部123の一端部に配置されて当接部80に設けられたゴムリング110の端面に対向する外側フランジ部124とが一体に形成されている。円筒部123には、円周方向に沿って複数箇所に等間隔で係合爪125が形成されている。係合爪90は、円筒部88を長方形に切欠いて内側に切り起こすことによって形成され、外側フランジ部89とは、反対側の内側に向けて傾斜されている。また、外側フランジ部124には、当接部80に設けられたゴムリング110の端面に当接する環状突起120が形成されている。
【0038】
このように、第3の実施形態においては、ボール−ネジ機構41のネジ軸47の段部50と、プライマリピストン10の後端部に取付けたバネ受35との間にゴムリング110と環状突起120を有するシム板121を介装している。第2の実施形態と同様に、プライマリピストン10のシリンダボア12に対する傾きを抑制することができ、プライマリピストン10を円滑に摺動させることができるとともに、倍力装置の作動音の増幅や打音を抑制することができる。また、環状突起120を板材からなるシム板121に形成したので、第2の実施形態に比べて、環状突起120の大きさを容易に変更することができ、電動倍力装置の設計が容易になる。
【0039】
なお、上記第2、3の実施形態においては、ゴムリング110をバネ受35の当接部80に設けるようにしたが、これに限らず、図8に示す第4の実施形態のように、ネジ軸47の段部50側にゴムリング130を設けるようにしてもよい。この第4の実施形態においては、図8に示すように、ゴムリング130をネジ軸47に内包するための固定リング131をネジ軸47の内周に固定するようにしている。また、ゴムリング130と当接部80との間に、樹脂製の環状部材132を配置するようにしている。このようにすることで、上記第2の実施形態と同様の作用効果を奏するとともに、ゴムリング130の外側面全てが内包されることになるため、ゴムリングの耐久性が向上する。
【0040】
なお、上記各実施形態では、一例として、2系統の液圧ポート18、19を有するタンデム型のマスタシリンダ2を備えた電動倍力装置について説明しているが、本発明は、これに限らず、セカンダリピストン11及びセカンダリ室17を省略してシングル型のマスタシリンダとした電動倍力装置にも適用することができる。また、上記実施形態において、ボール−ネジ機構41のほか、他の公知の回転−直動変換機構を用いることもできる。
【0041】
さらに、上記各実施形態では、入力ピストン及びピストンが共にマスタシリンダ2に挿入されている構成(プライマリピストン10の案内ボア31に入力ピストン32が摺動可能かつ液密的に挿入されている構成)を用いているが、入力ピストンがマスタシリンダに挿入される構造である必要はなく、例えば、ブレーキペダルの踏力がマスタシリンダに直接伝達されない、いわゆるバイワイヤ式の構成にも適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…倍力装置、2… マスタシリンダ、3…アクチュエータ、10…プライマリピストン(ピストン)、47…ネジ軸(直動部材)、50…段部(当接部)、80…当接部、81…シム(径方向移動手段、板材)、110…ゴムリング(径方向移動手段、弾性体)、120…ゴムシム(径方向移動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータによって直線運動する直動部材によりマスタシリンダのピストンを押圧してブレーキ液圧を発生させる倍力装置において、前記直動部材と前記ピストンとの当接部に、前記直動部材に対して前記ピストンの径方向への移動を容易にする径方向移動手段を介装したことを特徴とする倍力装置。
【請求項2】
前記径方向移動手段は、前記直動部材と前記ピストンとが直接摩擦したときよりも摩擦係力が小さくなる板材であることを特徴とする請求項1に記載の倍力装置。
【請求項3】
前記板材は、前記ピストンに取付けられ、該ピストンに係合する係合爪を有していることを特徴とする請求項2に記載の倍力装置。
【請求項4】
前記径方向移動手段は、前記直動部材又は前記ピストンに固定される弾性体であることを特徴とする請求項1に記載の倍力装置。
【請求項5】
前記マスタシリンダには、前記ピストンが挿入されるシリンダボアが一体に形成され、該シリンダボアの内周面には、前記ピストンとの間をシールするシール部材を装着するためのシール溝が一体に形成され、前記シリンダボアの開口部は、前記直動部材と前記ピストンとの当接部に向かって突出されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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