説明

偏光ガラスおよび偏光ガラスの製造方法

【課題】可視光領域内での透過率特性およびコントラスト比に優れた偏光ガラスを提供する。
【解決手段】ガラス中に分散し配向した延伸金属粒子を含む偏光ガラスの製造方法において、金属イオンを含む母材ガラスを準備する準備工程と、母材ガラスを、ガラス転移点温度を超えない温度に加熱し、金属イオンの少なくとも一部を金属粒子にするのに十分な時間還元する還元工程と、還元工程後の母材ガラスを、ガラス転移点温度より高い温度で熱処理することにより金属粒子を析出する析出工程と、析出工程後の母材ガラスを加熱しながら延伸する延伸工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶テレビ、液晶プロジェクター等の映像機器に用いることのできる偏光ガラスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光子は、液晶テレビ、液晶プロジェクター等の映像機器用途をはじめ、光通信分野など広く用いられている。偏光子には、有機および無機異種相による吸収型偏光子、結晶系複屈折偏光子、無機多層薄膜系偏光子があり、それぞれに特徴がある。
【0003】
中でも、有機および無機系吸収型偏光子は、TE波(S波)あるいはTM波(P波)の一方を吸収し偏光を得ることができるために扱いやすい。また、薄板状に加工することができるので、組み込む機器の設計の自由度が高い。これらのことから、特に軽薄短小化を要求される映像機器用途、および光通信分野に主に用いられている。
【0004】
また、無機多層薄膜系偏光子は、上記の有機および無機系吸収型偏光子と同様に軽薄短小化することができるが、TE波あるいはTM波の一方を反射させることで偏光を得るので、これら反射光の処理が困難という課題が挙げられる。一方、有機系吸収型偏光子では、光源からの有害光を吸収することによる光熱的劣化が起こり易いので、高い耐久性が要求されるような用途では扱いにくいという課題がある。したがって、無機系吸収型偏光子の利用が期待されている。
【0005】
図1は、無機系吸収型偏光子の一例である偏光ガラスの従来の製造方法(以下、「従来製法」と略称する)における、各工程でのガラスの性状を示す。偏光ガラスの従来製法は、主として、析出(または熱処理)工程、延伸工程、および還元工程から成る。より詳しくは、まず、ガラスにハロゲン化金属を溶融して母材ガラス11を形成してから、析出工程において母材ガラス11内にハロゲン化金属粒子13を析出させる(図1(A))。次に、この母材ガラス11をガラスプリフォームに加工した後、延伸工程においてハロゲン化金属粒子13を含むガラスプリフォームを引き伸ばしてガラスシート41に加工する(図1(B))。さらに、引き伸ばしたガラスシート41を研磨した後、還元工程においてガラスシート41内の延伸された延伸ハロゲン化金属粒子15を、例えば水素などの還元雰囲気中で還元処理して延伸金属粒子19とする(図1(C))。上記従来製法は、例えば、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2005−49529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば特許文献1に開示されている従来の偏光ガラスは、その製造方法上、内部に比較的大きな延伸ハロゲン化金属粒子等が存在するので、光の散乱および吸収によって特に可視域の透過率が減少してしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態においては、ガラス中に分散し配向した延伸金属粒子を含む偏光ガラスの製造方法において、金属イオンを含む母材ガラスを準備する準備工程と、母材ガラスを、ガラス転移点温度を超えない温度に加熱し、金属イオンの少なくとも一部を金属粒子にするのに十分な時間還元する還元工程と、還元工程後の母材ガラスを、ガラス転移点温度より高い温度で熱処理することにより金属粒子を析出する析出工程と、析出工程後の母材ガラスを加熱しながら延伸する延伸工程とを備える。
【0008】
上記偏光ガラスの製造方法において、準備工程は、ガラス、金属イオン、および、ハロゲンイオンを溶融する溶融工程を有してもよい。
【0009】
上記偏光ガラスの製造方法において、準備工程は、金属イオンをイオン交換によりガラスに注入するイオン交換工程を有してもよい。
【0010】
上記偏光ガラスの製造方法において、還元工程において、母材ガラスを、歪点温度より高い温度に加熱してもよい。
【0011】
上記還元工程において、母材ガラスの表面から、50μmから200μmまでの厚さまでの金属イオンを還元してもよい。
【0012】
上記偏光ガラスの製造方法における析出工程において、母材ガラスを、軟化点温度を超えない温度に加熱してもよい。
【0013】
上記析出工程において、20nmから150nmの粒径を有する金属粒子を析出してもよい。
【0014】
本発明の第2の形態によれば、ガラス中に分散し配向した延伸金属粒子を含む偏光ガラスであって、波長が500nm以上の入射光に対する透過率が70%以上である偏光ガラスが提供される。
【0015】
上記偏光ガラスは、可視光領域内において、コントラスト比(TE波(S波):TM波(P波))が100:1以上となる波長幅が200nm以上であることが好ましい。
【0016】
上記偏光ガラスは、波長が520nm以上の入射光に対する透過率が80%以上であることが好ましい。
【0017】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、還元工程において、母材ガラスをガラス転移点温度以下の温度に加熱して還元処理することで、母材ガラスの内部においてハロゲン化金属の結晶化および結晶の成長を抑えつつ、母材ガラスの表面部に含まれる金属イオンを還元することができる。よって、偏光ガラスの透過率を向上させることができる。また、上記還元工程において、母材ガラスの表面からの、金属イオンが還元される部分の厚さは、50μmから200μmまでの間で最適に制御することができる。さらに、析出工程において、析出する金属粒子の粒径を20nmから150nmまでの間で最適に制御することができる。よって、可視光領域内において、波長が520nm以上の入射光に対する透過率が80%以上であり、コントラスト比(TE波(S波):TM波(P波))が100:1以上となる波長幅が200nm以上である偏光ガラスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
本実施形態に係る偏光ガラスの製造方法(以下、「本製法」と略称する)は、少なくとも金属イオンを含む母材ガラスを準備する準備工程、母材ガラスをガラスプリフォームに加工する加工工程、ガラスプリフォームを還元する還元工程、ガラスプリフォームを熱処理して金属粒子を析出および成長させる析出工程、および、金属粒子を含むガラスプリフォームを引き伸ばす延伸工程、などの工程を備える。図2の(A)から(D)は、上記製造方法における加工工程、還元工程、析出工程、および延伸工程の各工程を終えた段階での、ガラスプリフォーム20およびガラスシート40の平面および断面の概略図である。また、図2の(A)から(D)におけるそれぞれの右側の図は断面の概略図であり、左側の図は平面の概略図である。図2の(A)から(D)それぞれの断面の概略図は、各図の右側および左側で連続的に繋がっているガラスプリフォーム20またはガラスシート40の一部分を示す。
【0021】
準備工程では、例えば、ガラス原料とハロゲン化金属原料とを溶融混合した後に固化して母材ガラスとする。この場合において、ガラス原料としてアルミノホウケイ酸ガラスを、ハロゲン化金属原料として塩化銀(AgCl)および臭化銀(AgBr)を用いる。
【0022】
また、上記ガラス原料に含まれるナトリウムを、銀イオンなどの1価の金属イオン(例えば、アルカリ金属イオン)とイオン交換することより、当該金属イオンを注入して、母材ガラスとしてもよい。イオン交換の方法としては、母材ガラスを溶融塩に浸漬する方法が挙げられる。浸漬に用いる塩としては、銀イオンなど注入したい金属イオンを含む適当な混合塩を選ぶことができる。例えば、硝酸銀とアルカリ金属硝酸塩との混合物等が挙げられる。また、イオン交換の他の方法としては、銀などを母材ガラスに蒸着し、この蒸着膜に電圧を印加してイオン交換する方法も挙げられる。
【0023】
加工工程では、母材ガラスを板状もしくはブロック状に成形してガラスプリフォーム20を切り出す(図2(A))。なお、図2の(A)から(C)に示すガラスプリフォーム20の支持具取付穴22は、後述する延伸工程において延伸装置100のガラス支持具115に固定するために空けられた穴である。
【0024】
還元工程では、ガラスプリフォーム20に含まれる金属イオンの少なくとも一部を還元する(図2(B))。具体的には、例えば水素雰囲気である還元炉内にガラスプリフォーム20を載置して加熱することによって、ガラスプリフォーム20の表面から所望の厚さに含まれる金属イオンを還元する。この厚さは、還元温度(還元炉内の雰囲気温度)または還元時間によって制御することができる。
【0025】
本製法の還元温度は、ガラスプリフォーム20の歪点温度以上で、ガラス転移点温度以下であることが好ましい。還元温度がガラス転移点温度以下で比較的低いので、ガラスプリフォーム20内で未還元の金属イオンとハロゲンイオンがハロゲン化金属粒子13となって析出するのを抑えることができる。このハロゲン化金属粒子13は、後工程である析出工程および延伸工程などを経て延伸ハロゲン化金属粒子15となって偏光ガラス内部に数多く存在すると、偏光ガラスの透過率低下の原因となる。したがって、還元工程において、ハロゲン化金属粒子13の析出を抑えることで、偏光ガラスの透過率を向上させることができる。
【0026】
また、本製法の還元時間は、例えば、ガラスプリフォーム20内の還元された金属イオンの少なくとも一部が金属粒子17として析出するのに十分で、ガラスプリフォーム20の表面から約200μmまでの厚さに含まれる金属イオンが還元される程度の時間でよい。これにより、後工程を経た偏光ガラスは、その表層に十分な厚さの延伸金属粒子19が含まれる層を持つので、優れた偏光特性を示す。
【0027】
析出工程では、例えば耐熱容器内などでガラスプリフォーム20を熱処理して、上記還元工程においてガラスプリフォーム20の表層に析出した金属粒子17を成長させるとともに、新たなハロゲン化金属粒子13が析出する(図2(C))。加熱処理の温度および時間は、ガラスプリフォーム20の形状などによって異なるが、ガラスプリフォーム20のガラス転移点温度より高く軟化点温度より低い温度で少なくとも1時間熱処理する。これにより、ガラスプリフォーム20の表層の金属粒子17を、粒径がおよそ20nm〜200nm(より好ましくはおよそ50nm〜100nm)の大きさに成長させる。
【0028】
図3は、本製法に供される母材ガラスと同じ組成である母材ガラスについて、熱処理を施していないもの(図3中のグラフ「X」)、本製法の析出工程として620℃で4時間熱処理したもの(図3中のグラフ「Y」)、および、従来製法の析出工程として620℃で1時間、さらに連続して730℃で4時間熱処理したもの(図3中のグラフ「Z」)、の3種類のガラスそれぞれについて、主に可視光領域での透過率特性を示す。図3に示すように、熱処理を施していないガラスと比べて、従来製法の析出工程を経たガラスは、主に可視光領域での透過率が大きく低下しているのに対して、本製法の析出工程を経たガラスは、このような透過率の低下が非常に小さい。
【0029】
これは、本製法の析出工程である図3「Y」が、図3「X」と比べて、吸収端が長波長側に移動していることから、ガラスプリフォーム20の内部でハロゲン化銀粒子13が析出していると考えられる。したがって、本製法の還元工程(495℃で24時間、大気圧の水素雰囲気中で還元処理する工程)に続く本製法の析出工程において、ガラスプリフォーム20の表層において金属粒子17が成長するとともに、ガラスプリフォーム20の内部でハロゲン化金属粒子13が析出すると考えられる。しかしながら、上記還元工程は処理温度がガラス転移点温度以下であるので、ガラスプリフォーム20の内部でのハロゲン化金属粒子13はほとんど生成せず(結晶核がない)、析出工程においてガラス転移点温度以上で処理してガラスプリフォーム20の内部でハロゲン化金属粒子13が析出した場合でも結晶核程度の大きさと考えられるので、その粒径は金属粒子17と比べて小さい。したがって、偏光ガラスの透過率の低下を小さくすることができる。
【0030】
延伸工程では、ガラスプリフォーム20を所定温度に加熱延伸して延伸金属粒子19を有するガラスシート40を形成する。図4は、本実施形態の延伸工程に用いる延伸装置100の構成を示す。図5は、延伸装置100における引張手段150の構成を示す。
【0031】
図4に示すように、延伸装置100は、電気炉117と、電気炉117の内部に設けられたガラス支持具115と、同じく電気炉117の内部に設けられたメインヒータ130、サブヒータ132、134、136、およびサイドヒータ138と、ガラスプリフォーム20の長手方向に関して上記の各種ヒータより下方に設けられた引張手段150とを備える。
【0032】
延伸装置100は、ガラスプリフォーム20の周囲に配した各種ヒータでガラスプリフォーム20を加熱しながら延伸する。これにより、ガラスプリフォーム20内に含む金属粒子17およびハロゲン化金属粒子13が引き伸ばされ、内部に延伸金属粒子19および延伸ハロゲン化金属粒子15を含んだガラスシート40が生成される(図2(D))。より具体的には、短冊形状に加工されたガラスプリフォーム20は、支持具取付穴22でガラス支持具115に固定され、メインヒータ130、サブヒータ132、134、136、およびサイドヒータ138で加熱しながら、ヒータの下方に設けられた引張手段150によって長手方向に引き取られる。
【0033】
ガラスプリフォーム20は、ガラスプリフォーム20の幅方向の収縮が生じる延伸部25における短冊形状の正面から、延伸部25の幅方向の中心付近を加熱するメインヒータ130と、延伸部25における短冊形状の側方から、延伸部25の側面を加熱するサイドヒータ138と、メインヒータ130の上方に所定の間隔で配されるサブヒータ132、134、および136で加熱される。ここで、メインヒータ130、サブヒータ132、134、136、およびサイドヒータ138の出力は、それぞれ独立して制御される。これにより、ガラスプリフォーム20は、延伸に適した温度分布として、例えば1×10ポイズから1×10ポイズになる温度分布に加熱されて延伸される。故に、ガラスプリフォーム20内部の金属粒子17を適当な楕円形状の延伸金属粒子19に延伸することができるので、後工程において研磨することなく、可視光領域における透過率の高い偏光ガラスを製造することができる。
【0034】
図5に示すように、引張手段150は、ガラスシート40の表裏面を挟む一対のローラ152、154と、これら一対のローラ152、154のそれぞれと一体的に回転する従動軸153、155と、これら従動軸153、155を機械的に同期して回転させる駆動軸156と、この駆動軸156に回転駆動力を与えるモータ157とを有する。従動軸153、155には互いにピッチの等しいねじり歯車が形成されており、これらのねじり歯車に噛み合う歯車が駆動軸156に形成されている。
【0035】
本製法の延伸工程において、延伸時に曲がりが発生しないように、ガラスプリフォーム20の延伸される部分の特定形状における断面二次モーメントが、少なくとも13mmとなるように、ガラスプリフォーム20に形状を選定することで、延伸後のガラスシート40の反りを抑えることができる。したがって、上記で説明した偏光ガラスの従来製法では、延伸後のガラスシート41を研磨して厚みを一定にしていたが、本実施形態では、延伸後のガラスシート40は、未研磨でも厚み精度が±10μmであり、研磨工程を省くことができるので、研磨コストを抑えることができる。
【0036】
以下、偏光ガラスの従来製法および本製法の効果をそれぞれ確認した実験例について説明する。
【実施例1】
【0037】
重量%で、LiO:1.8wt%、NaO:5.5wt%、KO:5.7wt%、B:18.2wt%、Al:6.2wt%、SiO:56.3wt%、Ag:0.24wt%、Cl:0.16wt%、Br:0.16wt%、CuO:0.01wt%、ZrO:5.0wt%、TiO:2.3wt%を有するガラス原料を白金るつぼに入れて約1350℃でプリメルトを行った。プリメルトで得られたガラスをキャンディ大に砕いてカレットとして、再び白金るつぼに入れて約1450℃で本メルトを行い、グラファイトの型に流し込んで成型し、徐冷炉に入れてアニールを行った後、取り出し母材ガラスとした。表1に、この母材ガラスの熱物性を示す。ただし、表1において、温度の誤差は±10℃程度である。
【表1】

【0038】
上記母材ガラスから70×250×3mm(幅×長さ×厚さ:断面二次モーメント22mm)の平板上に切り出してガラスプリフォームに加工した後、495℃で24時間、大気圧の水素雰囲気中で還元処理した。さらに、このガラスプリフォームを620℃で4時間熱処理して金属粒子を析出させた。図7は、熱処理時における母材ガラスの温度と時間の関係を示す。熱処理後のガラスプリフォームを約1×1010ポイズ〜1×1011ポイズになる温度でこのガラスプリフォームを約700kg/cm〜800kg/cmの応力で延伸してガラスシートとした。このガラスシートに仕上げ加工等を施して偏光ガラスとした。
【0039】
図8は、実施例1および下記比較例1で得られた偏光ガラスのTE波の透過率特性を示す。図8に示すように、実施例1で得られた偏光ガラスは、可視光の内、TE波の透過率は520nm以上(緑〜赤色域)で80%以上であった。また、図9に示すように、実施例1で得られた偏光ガラスにおける560nm以上の帯域でのコントラスト比(TE波(S波):TM波(P波))は、100:1以上であった。一方、実施例1で得られた偏光ガラスの厚さの精度は±10μmであった。
【0040】
<比較例1>
上記母材ガラスを610℃で1時間、さらに740℃で4時間熱処理してハロゲン化金属粒子を析出させた。図6は、熱処理時における母材ガラスの温度と時間の関係を示す。熱処理後の母材ガラス中に析出したハロゲン化金属粒子の粒径を測定したところ、およそ70〜150nmであった。この母材ガラスから70×250×2mm(幅×長さ×厚さ:断面二次モーメント7mm)の平板上に切り出してガラスプリフォームに加工した後、約1×10ポイズ〜1×10ポイズになる温度でこのガラスプリフォームを約400kg/cmの応力で延伸してガラスシートとした。このガラスシートを470℃で4時間、大気圧の水素雰囲気中で還元処理して、仕上げ加工等を施して偏光ガラスとした。
【0041】
図8に示すように、比較例1により得られた偏光ガラスは、可視光の内、TE波の透過率は520nmで65%であった。また、比較例1の偏光ガラスにおける560nm以上の帯域でのコントラスト比(TE波(S波):TM波(P波))は、およそ90:1であった。一方、比較例1の偏光ガラスの厚さの精度は±80μmであった。
【0042】
以上、本実施形態によれば、還元工程において、母材ガラスをガラス転移点温度以下の温度に加熱して還元処理することで、母材ガラスの内部においてハロゲン化金属の結晶化および結晶の成長を抑えつつ、母材ガラスの表面部に含まれる金属イオンを還元することができる。よって、偏光ガラスの透過率を大幅に向上させることができる。また、可視光領域内において、波長が520nm以上の入射光に対する透過率が80%以上であり、コントラスト比(TE波(S波):TM波(P波))が100:1以上となる波長幅が200nm以上である偏光ガラスを得ることができる。さらに、延伸後のガラスシートは、未研磨の状態でも十分に平滑であることから、従来製法と比べて、研磨コストを削減することができる。
【0043】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることができることは当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】従来の偏光ガラスの製造方法における、各工程でのガラスの性状を示す。
【図2】ガラスプリフォーム20およびガラスシート40の平面および断面の概略図である。
【図3】熱処理条件と透過率特性の関係を示す。
【図4】本実施形態の延伸工程に用いる延伸装置100の構成を示す。
【図5】延伸装置100における引張手段150の構成を示す。
【図6】従来製法の熱処理時における母材ガラスの温度と時間の関係を示す。
【図7】本製法の熱処理時における母材ガラスの温度と時間の関係を示す。
【図8】実施例1および比較例1で得られた偏光ガラスのTE波の透過率特性を示す。
【図9】実施例1によって得られた偏光ガラスの透過率特性を示す。
【符号の説明】
【0045】
11 母材ガラス、13 ハロゲン化金属粒子、15 延伸ハロゲン化金属粒子、17 金属粒子、19 延伸金属粒子、20 ガラスプリフォーム、22 支持具取付穴、25 延伸部、40、41 ガラスシート、100 延伸装置、115 ガラス支持具、117 電気炉、130 メインヒータ、132、134、136 サブヒータ、138 サイドヒータ、150 引張手段、152 ローラ、153 従動軸、154 ローラ、155 従動軸、156 駆動軸、157 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス中に分散し配向した延伸金属粒子を含む偏光ガラスの製造方法において、
金属イオンを含む母材ガラスを準備する準備工程と、
前記母材ガラスを、ガラス転移点温度を超えない温度に加熱し、前記金属イオンの少なくとも一部を金属粒子にするのに十分な時間還元する還元工程と、
前記還元工程後の前記母材ガラスを、前記ガラス転移点温度より高い温度で熱処理することにより前記金属粒子を析出する析出工程と、
前記析出工程後の前記母材ガラスを加熱しながら延伸する延伸工程と
を備える偏光ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記準備工程は、前記ガラス、前記金属イオン、および、ハロゲンイオンを溶融する溶融工程を有する請求項1に記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記準備工程は、前記金属イオンをイオン交換により前記ガラスに注入するイオン交換工程を有する請求項1に記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記還元工程において、前記母材ガラスを、歪点温度より高い温度に加熱する請求項1に記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記還元工程において、母材ガラスの表面から、50μmから200μmまでの厚さの金属イオンを還元する請求項4に記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記析出工程において、前記母材ガラスを、軟化点温度を超えない温度に加熱する請求項1に記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記析出工程において、20nmから150nmの粒径を有する前記金属粒子を析出する請求項6に記載の偏光ガラスの製造方法。
【請求項8】
ガラス中に分散し配向した延伸金属粒子を含む偏光ガラスであって、波長が500nm以上の入射光に対する透過率が70%以上である偏光ガラス。
【請求項9】
可視光領域内において、コントラスト比が100:1以上となる波長幅が200nm以上である請求項8に記載の偏光ガラス。
【請求項10】
波長が520nm以上の入射光に対する透過率が80%以上である請求項8に記載の偏光ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−156401(P2007−156401A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139523(P2006−139523)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(000155698)株式会社有沢製作所 (117)
【Fターム(参考)】