説明

偏光子の製造方法およびそれに用いる湿式延伸装置

【課題】高延伸倍率のポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光子を安定して製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】ポリビニルアルコール系フィルムに、延伸処理工程、染色処理工程およびホウ素化合物処理工程を少なくとも施す偏光子の製造方法において、前記延伸処理は合計延伸倍率が5.5倍以上となるように少なくとも2回行い、かつ第2回目以降の延伸処理では延伸倍率が1.2倍以上の延伸を、第1ピンチロールと第2ピンチロールの周速差を利用した湿式延伸処理により行い、当該湿式延伸処理では、第1ピンチロールから搬送されるフィルムは、最初に接する第1ガイドロールにおいて、第1ガイドロールから搬送されるフィルムが、第1ガイドロールを通過する前後において第1ガイドロールを介して形成される角度を抱き角(A)とする場合に、140〜175°の抱き角(A)、を形成するように第1ガイドロールを通過させることを特徴とする偏光子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子の製造方法に関する。得られた偏光子は、偏光板、光学フィルムに用いられ、さらには当該偏光板、光学フィルムは液晶表示装置、有機EL表示装置、PDP等の画像表示装置に用いられる。さらには、偏光子の製造方法における湿式延伸処理に用いられる処理浴を有する湿式延伸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)は、パソコン、TV、モニター、携帯電話、PDA等に使用されており、近年、カラー化や反射カラー化および、高精細化、高輝度化が、急速に進んでいる。これら、LCDの用途の拡大や、高精細化、高輝度化といった表示品位の向上を行うには、LCDに使用される偏光板の光学特性の高性能化(透過率や偏光度の向上)が必要になっている。
【0003】
従来、液晶表示装置等に用いる偏光子としては高い透過率と偏光度を兼ね備えていることから、染色処理されたポリビニルアルコール系フィルムが用いられている。また当該偏光子は、通常、その片面または両面に保護フィルムが貼合された偏光板として用いられている。近年では、液晶表示装置により高度な性能が要求され、偏光子にもより高い透過率と偏光度が要求されるようになっており、こうした要求に応える偏光子の製造方法が各種提案されている。
【0004】
偏光子の光学特性を高性能する方法としては、偏光子の製造工程において、ポリビニルアルコール系フィルムを高倍率で延伸処理する方法がある。しかしながら、ポリビニルアルコール系フィルムを高倍率で延伸すると、延伸中にフィルムが破断する、いわゆる”延伸切れ”が発生する可能性が高くなり、生産性上好ましくない。また、ポリビニルアルコール系フィルムの延伸を二段階以上で行う方法がある。しかし、二段階目以降の延伸倍率を大きくすると、”延伸切れ”が生じやすく安定して高偏光度の偏光子が得られない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高延伸倍率のポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光子を安定して製造しうる方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、偏光子の製造方法における湿式延伸処理に用いられる処理浴を有する湿式延伸装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す偏光子の製造方法により前記目的を達成できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、ポリビニルアルコール系フィルムに、延伸処理工程、染色処理工程およびホウ素化合物処理工程を少なくとも施す偏光子の製造方法において、
前記延伸処理は合計延伸倍率が5.5倍以上となるように少なくとも2回行い、かつ第2回目以降の延伸処理では延伸倍率が1.2倍以上の延伸を、第1ピンチロールと第2ピンチロールの周速差を利用した湿式延伸処理により行い、
当該湿式延伸処理では、第1ピンチロールから搬送されるフィルムは、最初に接する第1ガイドロールにおいて、第1ガイドロールから搬送されるフィルムが、第1ガイドロールを通過する前後において第1ガイドロールを介して形成される角度を抱き角(A)とする場合に、140〜175°の抱き角(A)、を形成するように第1ガイドロールを通過させることを特徴とする偏光子の製造方法、に関する。
【0008】
上記本発明では、合計延伸倍率が5.5倍以上の延伸処理を少なくとも2段階で行う。これにより高延伸倍率が確保され光学特性の高性能化を図ることができる。前記合計延伸倍率は5.7倍以上、さらには6.1倍以上であるのが好ましい。合計延伸倍率が大きくなりすぎると延伸切れが生じやすくなるため、合計延伸倍率は7倍以下とするのが好ましい。また、第2回目以降の延伸は、合計延伸倍率が5.5倍以上になるように湿式処理で延伸倍率が1.2倍以上の延伸を行う。第2回目以降の湿式延伸倍率は1.5倍以上、さらには2.1倍以上であるのが好ましい。第2回目以降の湿式延伸倍率が大きくなりすぎると延伸切れが生じやすくなるため、第2回目以降の湿式延伸倍率は3.5倍以下とするのが好ましい。なお、第1回目の延伸処理における延伸倍率は、1.2〜4.5倍、好ましくは1.7〜3.5倍である。
【0009】
しかも、本発明では、当該湿式延伸処理において第1ピンチロールから搬送されるフィルムを、最初に接する第1ガイドロールにおいて140〜175°の抱き角(A)を形成するように第1ガイドロールを通過させる。第1ガイドロールにおいて前記抱き角(A)の範囲となるようにフィルムを通過させることによって、フィルムが急激に延伸されないために延伸切れの発生を防止できる。前記抱き角(A)は好ましくは150〜170°である。
【0010】
前記偏光子の製造方法において、第1ピンチロールから搬送されるフィルムは、第1ガイドロールの下側を通過させることが好ましい。
【0011】
前記偏光子の製造方法において、湿式延伸処理は、ホウ素化合物浴中で行うことが好ましい。湿式延伸処理とともにホウ素化合物処理を施した場合に延伸切れの防止効果が大きい。
【0012】
なお、フィルム延伸中における延伸切れの防止方法としては、架橋処理浴(ホウ素化合物処理浴)の濃度を下げた状態で延伸したり、延伸するときの温度を50℃以上に高くして延伸したり、延伸速度を遅くして延伸する等により効果を奏するが、前記本発明のように湿式延伸処理浴中のガイドロールを前記配置とすることにより、延伸切れの防止効果がより認められる。
【0013】
また本発明は、偏光子の製造方法における湿式延伸処理に用いられる処理浴を有する湿式延伸装置であって、処理浴の両側には第1ピンチロールと第2ピンチロールを有し、第1ピンチロールと第2ピンチロールはそれぞれ対向するガイドロールを有し、第1ピンチロールから搬送されるフィルムは、最初に接する第1ガイドロールにおいて、第1ガイドロールから搬送されるフィルムが、第1ガイドロールを通過する前後において第1ガイドロールを介して形成される角度を抱き角(A)とする場合に、140〜175°の抱き角(A)を形成するように第1ガイドロールが設置されていることを特徴とする湿式延伸装置、に関する。
【0014】
前記湿式延伸装置は、第1ピンチロールから搬送されるフィルムを、第1ガイドロールの下側を通過させるように設置することが好ましい。
【0015】
前記湿式延伸装置は、第1ピンチロールと当該第1ピンチロールに対向して設けられたガイドロールの接点(x)と、湿式延伸処理を行う浴中において第1ピンチロール側にあるガイドロールであって、最も浴底に近く、かつ最も第1ピンチロールに近いガイドロールの中心点(y)までのロール間距離(C)が1m以上であることが好ましい。
【0016】
これら湿式延伸装置は、本発明の偏光子の製造方法における湿式延伸に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の偏光子に適用されるポリビニルアルコール系フィルムの材料には、ポリビニルアルコールまたはその誘導体が用いられる。ポリビニルアルコールの誘導体としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール等があげられる他、エチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸そのアルキルエステル、アクリルアミド等で変性したものがあげられる。ポリビニルアルコールの重合度は、1000〜10000程度、ケン化度は80〜100モル%程度のものが一般に用いられる。
【0018】
前記ポリビニルアルコール系フィルム中には可塑剤等の添加剤を含有することもできる。可塑剤としては、ポリオールおよびその縮合物等があげられ、たとえばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等があげられる。可塑剤の使用量は、特に制限されないがポリビニルアルコール系フィルム中20重量%以下とするのが好適である。通常フィルムは厚さ30〜150μm程度のものが用いられる。
【0019】
前記ポリビニルアルコール系フィルムには、延伸伸処理工程、染色処理工程およびホウ酸処理工程を施す。
【0020】
延伸処理工程は、一軸延伸処理を少なくとも2回行う。第2回目以降の延伸処理は、後述の湿式延伸処理により行う。なお、乾式延伸による一軸延伸処理法は特に制限されず、たとえば、特許第1524033号、特許第2731813号等に記載の方法や、乾燥オーブン内または外に設置されたロール間で引張力を加えながら延伸する方法、加熱ロールを用いて延伸する方法、テンター延伸機等を用いて延伸する方法等のいずれもの方法も採用できる。前記乾式延伸手段において未延伸フィルムは、通常、70〜150℃程度の加熱状態とされる。
【0021】
染色処理工程は、上記未延伸フィルムまたは延伸フィルムにヨウ素または二色性染料を吸着・配向させることにより行う。また延伸中に染色処理を施すこともできる。染色処置にあたっては膨潤工程を設けることができる。本発明では、第1回目の延伸処理を施した延伸フィルムに染色処理工程を施すのが好ましい。染色処理は、通常、上記フィルムを染色溶液に浸漬することにより一般に行われる。染色溶液としてはヨウ素溶液が一般的である。ヨウ素溶液として用いられるヨウ素水溶液は、ヨウ素および溶解助剤として例えばヨウ化カリウム等によりヨウ素イオンを含有させた水溶液などが用いられる。ヨウ素濃度は0.01〜0.5重量%程度、好ましくは0.02〜0.4重量%であり、ヨウ化カリウム濃度は0.01〜10重量%程度、さらには0.02〜8重量%で用いるのが好ましい。ヨウ素染色処理にあたり、ヨウ素溶液の温度は、通常20〜50℃程度、好ましくは25〜40℃である。浸漬時間は通常10〜300秒間程度、好ましくは20〜240秒間の範囲である。
【0022】
ホウ素化合物処理工程は、ホウ素化合物中で行う。ホウ素化合物処理工程の順序は特に制限されない。ホウ素化合物処理工程は、延伸工程とともに行うことができる。ホウ素化合物処理工程は複数回行うことができる。本発明では、第1回目の延伸処理と染色処理を施した後に、第2回目の湿式延伸処理を行う前にホウ素化合物処理工程を行うのが好ましい。さらには、第2回目の湿式延伸処理とともにホウ素化合物処理工程を行うのが好ましい。ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ砂等があげられる。ホウ素化合物は、水溶液または水−有機溶媒混合溶液の形態で用いられる。ホウ酸水溶液等のホウ酸濃度は、2〜20重量%程度、好ましくは3〜15重量%である。ホウ酸水溶液等には、ヨウ化カリウムを含有させることができる。前記ホウ素化合物処理は、前記延伸フィルムをホウ酸水溶液等へ浸漬することにより行うのが一般的である。ホウ素化合物処理は、その他に、塗布法、噴霧法等により行うことができる。ホウ素化合物処理による処理温度は、通常、30℃以上、好ましくは50〜85℃の範囲である。ホウ素化合物による処理時間は、通常、10〜800秒間、好ましくは30〜500秒間程度である。
【0023】
本発明の第2回目以降の湿式延伸処理を、図面を参照しながら説明する。当該湿式延伸処理前には、染色処理工程、ホウ素化合物処理が施されているのが好ましい。当該湿式延伸処は、図1〜図3に示すように、前記処理が施されて、搬送されるフィルムaについて、第1ピンチロール21と第2ピンチロール22の周速差を利用して行う。第1ピンチロール21にはガイドロール10が、第2ピンチロール22にはガイドロール30が、対向して設けられている。ガイドロール30の前にはガイドロール31が設けられている。また、当該湿式延伸処理を行う処理浴bは、ホウ素化合物を含有させて、ホウ素化合物処理を同時に行うのが好ましい。
【0024】
第1ピンチロール21から搬送されるフィルムaは、最初に接する第1ガイドロール11において140〜175°の抱き角(A)を形成するように通過させる。なお、抱き角(A)は図に示す通り、第1ガイドロール11により搬送されるフィルムaが、第1ガイドロール11を通過する前後において第1ガイドロール11を介して形成される角度である。
【0025】
図1、3では、フィルムaは、第1ガイドロール11の下側を通過している。図3に示すように、第1ガイドロール11に、続いてガイドロール41、42、43を設けることができる。図2では、フィルムaは、第1ガイドロール11の上側を通過している。フィルムaを、第1ガイドロール11の上側を通過させる場合には、最初に下側通過させるガイドロール12では下側を通過させる。ガイドロール12は、第1ピンチロール21から搬送されるフィルムaを最初に下側通過させたガイドロールであり抱き角(B)が120〜175°を形成するように設置するのが好ましい。第1ピンチロールから搬送されるフィルムは、最初に下側に通過させるガイドロールにおいて抱き角が120〜175°とすることが、フィルムの急激な延伸を抑制し、延伸切れの発生を防止するうえで好ましい。したがって、第1ピンチロールから搬送されるフィルムを、第1ガイドロールの上側を通過させた場合には、最初に下側を通過させたガイドロールにおける抱き角(B)が120〜175°の形成するようにするのが好ましい。前記抱き角(B)は好ましくは150〜170°である。
【0026】
また、図1〜3に示すように、第1ピンチロール21と当該第1ピンチロールに対向して設けられたガイドロール10の接点(x)と、湿式延伸処理を行う浴中において第1ピンチロール側にあるガイドロールであって、最も浴底に近く、かつ最も第1ピンチロールに近いガイドロールの中心点(y)までのロール間距離(C)は1m以上になるように設置するのが好ましい。前記ロール間距離(C)を1m以上とすることにより、フィルムが急激に延伸されないために延伸切れの発生が防止できる。前記ロール間距離(C)は好ましくは1.5m以上である。前記ロール間距離(C)は、通常、1〜5mの範囲とするのが好ましい。なお、第1ピンチロールから搬送されるフィルムは、湿式浴液中に直ちに入るように、前記搬送フィルムが浴中に入るまでの距離を短くして、浴液中にて延伸されるようにするのが延伸切れの防止効果が大きい。中心点(y)の基準となるとガイドロールは、浴bにおいて、第1ピンチロール21側にあるガイドロールである。すなわち、浴bを左右で分けた場合に左側にあるガイドロールである。また中心点(y)の基準となるとガイドロールは、浴bの最も浴底に近く、かつ最も第1ピンチロール21に近いガイドロールである。すなわち、俗低にガイドロールが数本設けられている場合は、第1ピンチロール21に最も近いガイドロールが中心点(y)の基準になるガイドロールとなる。したがって、図1における中心点(y)の基準になるガイドロールは、第1ガイドロール11となる。図2における中心点(y)の基準となるとガイドロールは、ガイドロール12となる。図3における中心点(y)の基準となるとガイドロールは、ガイドロール43となる。
【0027】
また前記各処理の施されたポリビニルアルコール系フィルム(延伸フィルム)は、常法に従って、水洗処理、乾燥処理が行われて偏光子となる。その他、本発明の偏光子の製造方法には、ヨウ化カリウム溶液等によるヨウ素イオン含浸処理等を任意に施すことができる。
【0028】
得られた偏光子は、常法に従って、その少なくとも片面に透明保護層を設けた偏光板とすることができる。透明保護層はポリマーによる塗布層として、またはフィルムのラミネート層等として設けることができる。透明保護層を形成する、透明ポリマーまたはフィルム材料としては、適宜な透明材料を用いうるが、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮断性などに優れるものが好ましく用いられる。前記透明保護層を形成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、二酢酸セルロースや三酢酸セルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーなどがあげられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、あるいは前記ポリマーのブレンド物なども前記透明保護層を形成するポリマーの例としてあげられる。
【0029】
前記透明保護フィルムの偏光子を接着させない面(前記塗布層を設けない面)には、ハードコート層や反射防止処理、スティッキング防止や、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理を施したものであってもよい。
【0030】
ハードコート処理は偏光板表面の傷付き防止などを目的に施されるものであり、例えばアクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を透明保護フィルムの表面に付加する方式などにて形成することができる。反射防止処理は偏光板表面での外光の反射防止を目的に施されるものであり、従来に準じた反射防止膜などの形成により達成することができる。また、スティッキング防止処理は隣接層との密着防止を目的に施される。
【0031】
またアンチグレア処理は偏光板の表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止等を目的に施されるものであり、例えばサンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式や透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて透明保護フィルムの表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。前記表面微細凹凸構造の形成に含有させる微粒子としては、例えば平均粒径が0.5〜50μmのシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等からなる導電性のこともある無機系微粒子、架橋又は未架橋のポリマー等からなる有機系微粒子などの透明微粒子が用いられる。表面微細凹凸構造を形成する場合、微粒子の使用量は、表面微細凹凸構造を形成する透明樹脂100重量部に対して一般的に2〜50重量部程度であり、5〜25重量部が好ましい。アンチグレア層は、偏光板透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)を兼ねるものであってもよい。
【0032】
なお、前記反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層等は、透明保護フィルムそのものに設けることができるほか、別途光学層として透明保護層とは別体のものとして設けることもできる。
【0033】
前記偏光子と透明保護フィルムとの接着処理には、接着剤が用いられる。接着剤としては、イソシアネート系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ゼラチン系接着剤、ビニル系ラテックス系、水系ポリエステル等を例示できる。前記接着剤は、通常、水溶液からなる接着剤として用いられ、通常、0.5〜60重量%の固形分を含有してなる。
【0034】
本発明の偏光板は、前記透明保護フィルムと偏光子を、前記接着剤を用いて貼り合わせることにより製造する。接着剤の塗布は、透明保護フィルム、偏光子のいずれに行ってもよく、両者に行ってもよい。貼り合わせ後には、乾燥工程を施し、塗布乾燥層からなる接着層を形成する。偏光子と透明保護フィルムの貼り合わせは、ロールラミネーター等により行うことができる。接着層の厚さは、特に制限されないが、通常0.1〜5μm程度である。
【0035】
本発明の偏光板は、実用に際して他の光学層と積層した光学フィルムとして用いることができる。その光学層については特に限定はないが、例えば反射板や半透過板、位相差板(1/2や1/4等の波長板を含む)、視角補償フィルムなどの液晶表示装置等の形成に用いられることのある光学層を1層または2層以上用いることができる。特に、本発明の偏光板に更に反射板または半透過反射板が積層されてなる反射型偏光板または半透過型偏光板、偏光板に更に位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板、偏光板に更に視角補償フィルムが積層されてなる広視野角偏光板、あるいは偏光板に更に輝度向上フィルムが積層されてなる偏光板が好ましい。
【0036】
反射型偏光板は、偏光板に反射層を設けたもので、視認側(表示側)からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置などを形成するためのものであり、バックライト等の光源の内蔵を省略できて液晶表示装置の薄型化を図りやすいなどの利点を有する。反射型偏光板の形成は、必要に応じ透明保護層等を介して偏光板の片面に金属等からなる反射層を付設する方式などの適宜な方式にて行うことができる。
【0037】
反射型偏光板の具体例としては、必要に応じマット処理した透明保護フィルムの片面に、アルミニウム等の反射性金属からなる箔や蒸着膜を付設して反射層を形成したものなどがあげられる。また前記透明保護フィルムに微粒子を含有させて表面微細凹凸構造とし、その上に微細凹凸構造の反射層を有するものなどもあげられる。前記した微細凹凸構造の反射層は、入射光を乱反射により拡散させて指向性やギラギラした見栄えを防止し、明暗のムラを抑制しうる利点などを有する。また微粒子含有の透明保護フィルムは、入射光及びその反射光がそれを透過する際に拡散されて明暗ムラをより抑制しうる利点なども有している。透明保護フィルムの表面微細凹凸構造を反映させた微細凹凸構造の反射層の形成は、例えば真空蒸着方式、イオンプレーティング方式、スパッタリング方式等の蒸着方式やメッキ方式などの適宜な方式で金属を透明保護層の表面に直接付設する方法などにより行うことができる。
【0038】
反射板は前記の偏光板の透明保護フィルムに直接付与する方式に代えて、その透明フィルムに準じた適宜なフィルムに反射層を設けてなる反射シートなどとして用いることもできる。なお反射層は、通常、金属からなるので、その反射面が透明保護フィルムや偏光板等で被覆された状態の使用形態が、酸化による反射率の低下防止、ひいては初期反射率の長期持続の点や、保護層の別途付設の回避の点などより好ましい。
【0039】
なお、半透過型偏光板は、上記において反射層で光を反射し、かつ透過するハーフミラー等の半透過型の反射層とすることにより得ることができる。半透過型偏光板は、通常液晶セルの裏側に設けられ、液晶表示装置などを比較的明るい雰囲気で使用する場合には、視認側(表示側)からの入射光を反射させて画像を表示し、比較的暗い雰囲気においては、半透過型偏光板のバックサイドに内蔵されているバックライト等の内蔵光源を使用して画像を表示するタイプの液晶表示装置などを形成できる。すなわち、半透過型偏光板は、明るい雰囲気下では、バックライト等の光源使用のエネルギーを節約でき、比較的暗い雰囲気下においても内蔵光源を用いて使用できるタイプの液晶表示装置などの形成に有用である。
【0040】
偏光板に更に位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板について説明する。直線偏光を楕円偏光または円偏光に変えたり、楕円偏光または円偏光を直線偏光に変えたり、あるいは直線偏光の偏光方向を変える場合に、位相差板などが用いられる。特に、直線偏光を円偏光に変えたり、円偏光を直線偏光に変える位相差板としては、いわゆる1/4波長板(λ/4板とも言う)が用いられる。1/2波長板(λ/2板とも言う)は、通常、直線偏光の偏光方向を変える場合に用いられる。
【0041】
楕円偏光板はスーパーツイストネマチック(STN)型液晶表示装置の液晶層の複屈折により生じた着色(青又は黄)を補償(防止)して、前記着色のない白黒表示する場合などに有効に用いられる。更に、三次元の屈折率を制御したものは、液晶表示装置の画面を斜め方向から見た際に生じる着色も補償(防止)することができて好ましい。円偏光板は、例えば画像がカラー表示になる反射型液晶表示装置の画像の色調を整える場合などに有効に用いられ、また、反射防止の機能も有する。上記した位相差板の具体例としては、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレンやその他のポリオレフィン、ポリアリレート、ポリアミドの如き適宜なポリマーからなるフィルムを延伸処理してなる複屈折性フィルムや液晶ポリマーの配向フィルム、液晶ポリマーの配向層をフィルムにて支持したものなどがあげられる。位相差板は、例えば各種波長板や液晶層の複屈折による着色や視角等の補償を目的としたものなどの使用目的に応じた適宜な位相差を有するものであってよく、2種以上の位相差板を積層して位相差等の光学特性を制御したものなどであってもよい。
【0042】
また上記の楕円偏光板や反射型楕円偏光板は、偏光板又は反射型偏光板と位相差板を適宜な組合せで積層したものである。かかる楕円偏光板等は、(反射型)偏光板と位相差板の組合せとなるようにそれらを液晶表示装置の製造過程で順次別個に積層することによっても形成しうるが、前記の如く予め楕円偏光板等の光学フィルムとしたものは、品質の安定性や積層作業性等に優れて液晶表示装置などの製造効率を向上させうる利点がある。
【0043】
視角補償フィルムは、液晶表示装置の画面を、画面に垂直でなくやや斜めの方向から見た場合でも、画像が比較的鮮明にみえるように視野角を広げるためのフィルムである。このような視角補償位相差板としては、例えば位相差フィルム、液晶ポリマー等の配向フィルムや透明基材上に液晶ポリマー等の配向層を支持したものなどからなる。通常の位相差板は、その面方向に一軸に延伸された複屈折を有するポリマーフィルムが用いられるのに対し、視角補償フィルムとして用いられる位相差板には、面方向に二軸に延伸された複屈折を有するポリマーフィルムとか、面方向に一軸に延伸され厚さ方向にも延伸された厚さ方向の屈折率を制御した複屈折を有するポリマーや傾斜配向フィルムのような二方向延伸フィルムなどが用いられる。傾斜配向フィルムとしては、例えばポリマーフィルムに熱収縮フィルムを接着して加熱によるその収縮力の作用下にポリマーフィルムを延伸処理又は/及び収縮処理したものや、液晶ポリマーを斜め配向させたものなどが挙げられる。位相差板の素材原料ポリマーは、先の位相差板で説明したポリマーと同様のものが用いられ、液晶セルによる位相差に基づく視認角の変化による着色等の防止や良視認の視野角の拡大などを目的とした適宜なものを用いうる。
【0044】
また良視認の広い視野角を達成する点などより、液晶ポリマーの配向層、特にディスコティック液晶ポリマーの傾斜配向層からなる光学的異方性層をトリアセチルセルロースフィルムにて支持した光学補償位相差板が好ましく用いうる。
【0045】
偏光板と輝度向上フィルムを貼り合わせた偏光板は、通常液晶セルの裏側サイドに設けられて使用される。輝度向上フィルムは、液晶表示装置などのバックライトや裏側からの反射などにより自然光が入射すると所定偏光軸の直線偏光または所定方向の円偏光を反射し、他の光は透過する特性を示すもので、輝度向上フィルムを偏光板と積層した偏光板は、バックライト等の光源からの光を入射させて所定偏光状態の透過光を得ると共に、前記所定偏光状態以外の光は透過せずに反射される。この輝度向上フィルム面で反射した光を更にその後ろ側に設けられた反射層等を介し反転させて輝度向上フィルムに再入射させ、その一部又は全部を所定偏光状態の光として透過させて輝度向上フィルムを透過する光の増量を図ると共に、偏光子に吸収させにくい偏光を供給して液晶表示画像表示等に利用しうる光量の増大を図ることにより輝度を向上させうるものである。すなわち、輝度向上フィルムを使用せずに、バックライトなどで液晶セルの裏側から偏光子を通して光を入射した場合には、偏光子の偏光軸に一致していない偏光方向を有する光は、ほとんど偏光子に吸収されてしまい、偏光子を透過してこない。すなわち、用いた偏光子の特性によっても異なるが、およそ50%の光が偏光子に吸収されてしまい、その分、液晶画像表示等に利用しうる光量が減少し、画像が暗くなる。輝度向上フィルムは、偏光子に吸収されるような偏光方向を有する光を偏光子に入射させずに輝度向上フィルムで一旦反射させ、更にその後ろ側に設けられた反射層等を介して反転させて輝度向上フィルムに再入射させることを繰り返し、この両者間で反射、反転している光の偏光方向が偏光子を通過し得るような偏光方向になった偏光のみを、輝度向上フィルムは透過させて偏光子に供給するので、バックライトなどの光を効率的に液晶表示装置の画像の表示に使用でき、画面を明るくすることができる。
【0046】
輝度向上フィルムと上記反射層等の間に拡散板を設けることもできる。輝度向上フィルムによって反射した偏光状態の光は上記反射層等に向かうが、設置された拡散板は通過する光を均一に拡散すると同時に偏光状態を解消し、非偏光状態となる。すなわち、拡散板は偏光を元の自然光状態にもどす。この非偏光状態、すなわち自然光状態の光が反射層等に向かい、反射層等を介して反射し、再び拡散板を通過して輝度向上フィルムに再入射することを繰り返す。このように輝度向上フィルムと上記反射層等の間に、偏光を元の自然光状態にもどす拡散板を設けることにより表示画面の明るさを維持しつつ、同時に表示画面の明るさのむらを少なくし、均一で明るい画面を提供することができる。かかる拡散板を設けることにより、初回の入射光は反射の繰り返し回数が程よく増加し、拡散板の拡散機能と相俟って均一の明るい表示画面を提供することができたものと考えられる。
【0047】
前記の輝度向上フィルムとしては、例えば誘電体の多層薄膜や屈折率異方性が相違する薄膜フィルムの多層積層体の如き、所定偏光軸の直線偏光を透過して他の光は反射する特性を示すもの、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持したものの如き、左回り又は右回りのいずれか一方の円偏光を反射して他の光は透過する特性を示すものなどの適宜なものを用いうる。
【0048】
従って、前記した所定偏光軸の直線偏光を透過させるタイプの輝度向上フィルムでは、その透過光をそのまま偏光板に偏光軸を揃えて入射させることにより、偏光板による吸収ロスを抑制しつつ効率よく透過させることができる。一方、コレステリック液晶層の如く円偏光を投下するタイプの輝度向上フィルムでは、そのまま偏光子に入射させることもできるが、吸収ロスを抑制する点よりその円偏光を位相差板を介し直線偏光化して偏光板に入射させることが好ましい。なお、その位相差板として1/4波長板を用いることにより、円偏光を直線偏光に変換することができる。
【0049】
可視光域等の広い波長範囲で1/4波長板として機能する位相差板は、例えば波長550nmの淡色光に対して1/4波長板として機能する位相差層と他の位相差特性を示す位相差層、例えば1/2波長板として機能する位相差層とを重畳する方式などにより得ることができる。従って、偏光板と輝度向上フィルムの間に配置する位相差板は、1層又は2層以上の位相差層からなるものであってよい。
【0050】
なお、コレステリック液晶層についても、反射波長が相違するものの組み合わせにして2層又は3層以上重畳した配置構造とすることにより、可視光領域等の広い波長範囲で円偏光を反射するものを得ることができ、それに基づいて広い波長範囲の透過円偏光を得ることができる。
【0051】
また、偏光板は、上記の偏光分離型偏光板の如く、偏光板と2層又は3層以上の光学層とを積層したものからなっていてもよい。従って、上記の反射型偏光板や半透過型偏光板と位相差板を組み合わせた反射型楕円偏光板や半透過型楕円偏光板などであってもよい。
【0052】
偏光板に前記光学層を積層した光学フィルムは、液晶表示装置等の製造過程で順次別個に積層する方式にても形成することができるが、予め積層して光学フィルムとしたのものは、品質の安定性や組立作業等に優れていて液晶表示装置などの製造工程を向上させうる利点がある。積層には粘着層等の適宜な接着手段を用いうる。前記の偏光板やその他の光学フィルムの接着に際し、それらの光学軸は目的とする位相差特性などに応じて適宜な配置角度とすることができる。
【0053】
前述した偏光板や、偏光板を少なくとも1層積層されている光学フィルムには、液晶セル等の他部材と接着するための粘着層を設けることもできる。粘着層を形成する粘着剤は特に制限されないが、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、アクリル系粘着剤の如く光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れるものが好ましく用いうる。
【0054】
また上記に加えて、吸湿による発泡現象や剥がれ現象の防止、熱膨張差等による光学特性の低下や液晶セルの反り防止、ひいては高品質で耐久性に優れる液晶表示装置の形成性などの点より、吸湿率が低くて耐熱性に優れる粘着層が好ましい。
【0055】
粘着層は、例えば天然物や合成物の樹脂類、特に、粘着性付与樹脂や、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉、その他の無機粉末等からなる充填剤や顔料、着色剤、酸化防止剤などの粘着層に添加されることの添加剤を含有していてもよい。また微粒子を含有して光拡散性を示す粘着層などであってもよい。
【0056】
偏光板や光学フィルムの片面又は両面への粘着層の付設は、適宜な方式で行いうる。その例としては、例えばトルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶媒にベースポリマーまたはその組成物を溶解又は分散させた10〜40重量%程度の粘着剤溶液を調製し、それを流延方式や塗工方式等の適宜な展開方式で偏光板上または光学フィルム上に直接付設する方式、あるいは前記に準じセパレータ上に粘着層を形成してそれを偏光板上または光学フィルム上に移着する方式などがあげられる。
【0057】
粘着層は、異なる組成又は種類等のものの重畳層として偏光板や光学フィルムの片面又は両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、偏光板や光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚さ等の粘着層とすることもできる。粘着層の厚さは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1〜500μmであり、5〜200μmが好ましく、特に10〜100μmが好ましい。
【0058】
粘着層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止等を目的にセパレータが仮着されてカバーされる。これにより、通例の取扱状態で粘着層に接触することを防止できる。セパレータとしては、上記厚さ条件を除き、例えばプラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体等の適宜な薄葉体を、必要に応じシリコーン系や長鏡アルキル系、フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤でコート処理したものなどの、従来に準じた適宜なものを用いうる。
【0059】
なお本発明において、上記した偏光板を形成する偏光子や透明保護フィルムや光学フィルム等、また粘着層などの各層には、例えばサリチル酸エステル系化合物やべンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式などの方式により紫外線吸収能をもたせたものなどであってもよい。
【0060】
本発明の偏光板または光学フィルムは液晶表示装置等の各種装置の形成などに好ましく用いることができる。液晶表示装置の形成は、従来に準じて行いうる。すなわち液晶表示装置は一般に、液晶セルと偏光板または光学フィルム、及び必要に応じての照明システム等の構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むことなどにより形成されるが、本発明においては本発明による偏光板または光学フィルムを用いる点を除いて特に限定はなく、従来に準じうる。液晶セルについても、例えばTN型やSTN型、π型などの任意なタイプのものを用いうる。
【0061】
液晶セルの片側又は両側に偏光板または光学フィルムを配置した液晶表示装置や、照明システムにバックライトあるいは反射板を用いたものなどの適宜な液晶表示装置を形成することができる。その場合、本発明による偏光板または光学フィルムは液晶セルの片側又は両側に設置することができる。両側に偏光板または光学フィルムを設ける場合、それらは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えば拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【0062】
次いで有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL表示装置)について説明する。一般に、有機EL表示装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。ここで、有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層、発光層、および電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
【0063】
有機EL表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、有機発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物資を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中の再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
【0064】
有機EL表示装置においては、有機発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
【0065】
このような構成の有機EL表示装置において、有機発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、有機発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0066】
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに、これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
【0067】
位相差板および偏光板は、外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、位相差板を1/4波長板で構成し、かつ偏光板と位相差板との偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【0068】
すなわち、この有機EL表示装置に入射する外部光は、偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は位相差板により一般に楕円偏光となるが、とくに位相差板が1/4波長板でしかも偏光板と位相差板との偏光方向のなす角がπ/4のときには円偏光となる。
【0069】
この円偏光は、透明基板、透明電極、有機薄膜を透過し、金属電極で反射して、再び有機薄膜、透明電極、透明基板を透過して、位相差板に再び直線偏光となる。そして、この直線偏光は、偏光板の偏光方向と直交しているので、偏光板を透過できない。その結果、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【実施例】
【0070】
以下に本発明を実施例および比較例をあげて具体的に説明する。なお、各例中の%は重量%である。
【0071】
実施例1
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム(平均重合度2400、ケン化度99.9%:(株)クラレ製ビニロンフィルム)を用いて、35℃の水浴にて、洗浄と膨潤処理を行い、ヨウ化カリウム濃度0.3%、ヨウ素濃度0.05%のヨウ素水溶液中に30℃で60秒間浸漬して染色しつつ、3.7倍に一軸延伸した。さらに34℃のホウ酸濃度8%のホウ酸水溶液中で架橋処理(無延伸)を実施した。
【0072】
次いで、前記延伸フィルム(図1中のフィルムa)を、図1に示すガイドロールを配置した浴bに搬送して、湿式延伸処理により延伸倍率1.7倍で第2回目の延伸を行い、合計延伸倍率が6.3倍となるようにした。浴bは、60℃のホウ酸濃度7%のホウ酸水溶液を用い、延伸とともに架橋処理を行った。図1における、抱角度(A)は160°、ロール間距離(C)は、2mになるように、各ガイドロールを配置した。その後、25℃の純水にて10秒間水洗処理を行い、60℃で4分間乾燥して偏光子を作製した。
【0073】
前記偏光子の製造を連続して5時間行い、第2回目の延伸処理において発生するフィルムの破断(延伸切れ)の発生回数を確認した。結果を表1に示す。
【0074】
実施例2〜5および比較例1〜4
実施例1において、浴b中で行う第2回目の延伸処理に適用する配置図、抱き度(A)、抱き度(B)、ロール間距離(C)を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にして偏光子を製造した。また延伸切れの回数を表1に示す。
【0075】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の偏光子の製造方法の第2回目以降の湿式延伸処理に用いる浴のガイドロールの配置図である。
【図2】本発明の偏光子の製造方法の第2回目以降の湿式延伸処理に用いる浴のガイドロールの他の配置図である。
【図3】本発明の偏光子の製造方法の第2回目以降の湿式延伸処理に用いる浴のガイドロールの他の配置図である。
【符号の説明】
【0077】
11 第1ガイドロール
21 第1ピンチロール
22 第2ピンチロール
a フィルム
b 処理浴(架橋浴)
A 抱き角
B 抱き角
C ロール間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系フィルムに、延伸処理工程、染色処理工程およびホウ素化合物処理工程を少なくとも施す偏光子の製造方法において、
前記延伸処理は合計延伸倍率が5.5倍以上となるように少なくとも2回行い、かつ第2回目以降の延伸処理では延伸倍率が1.2倍以上の延伸を、第1ピンチロールと第2ピンチロールの周速差を利用した湿式延伸処理により行い、
当該湿式延伸処理では、第1ピンチロールから搬送されるフィルムは、最初に接する第1ガイドロールにおいて、第1ガイドロールから搬送されるフィルムが、第1ガイドロールを通過する前後において第1ガイドロールを介して形成される角度を抱き角(A)とする場合に、140〜175°の抱き角(A)、を形成するように第1ガイドロールを通過させることを特徴とする偏光子の製造方法。
【請求項2】
第1ピンチロールから搬送されるフィルムを、第1ガイドロールの下側を通過させることを特徴とする請求項1記載の偏光子の製造方法。
【請求項3】
湿式延伸処理を、ホウ素化合物浴中で行うことを特徴とする請求項1または2記載の偏光子の製造方法。
【請求項4】
ホウ素化合物浴が、ホウ酸濃度は、2〜20重量%のホウ酸水溶液であることを特徴とする請求項3記載の偏光子の製造方法。
【請求項5】
ホウ素化合物による処理温度は、30〜85℃の範囲であることを特徴とする請求項3または4記載の偏光子の製造方法。
【請求項6】
第1回目の延伸処理を、湿式延伸処理により行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の偏光子の製造方法。
【請求項7】
第1回目の延伸処理を、染色処理工程とともに行うことを特徴とする請求項6記載の偏光子の製造方法。
【請求項8】
偏光子の製造方法における湿式延伸処理に用いられる処理浴を有する湿式延伸装置であって、処理浴の両側には第1ピンチロールと第2ピンチロールを有し、第1ピンチロールと第2ピンチロールはそれぞれ対向するガイドロールを有し、第1ピンチロールから搬送されるフィルムは、最初に接する第1ガイドロールにおいて、第1ガイドロールから搬送されるフィルムが、第1ガイドロールを通過する前後において第1ガイドロールを介して形成される角度を抱き角(A)とする場合に、140〜175°の抱き角(A)を形成するように第1ガイドロールが設置されていることを特徴とする湿式延伸装置。
【請求項9】
第1ピンチロールから搬送されるフィルムを、第1ガイドロールの下側を通過させるように設置することを特徴とする請求項8記載の湿式延伸装置。
【請求項10】
第1ピンチロールと当該第1ピンチロールに対向して設けられたガイドロールの接点(x)と、
湿式延伸処理を行う浴中において第1ピンチロール側にあるガイドロールであって、最も浴底に近く、かつ最も第1ピンチロールに近いガイドロールの中心点(y)までのロール間距離(C)が1m以上であることを特徴とする請求項8または9記載の湿式延伸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−250326(P2008−250326A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103605(P2008−103605)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【分割の表示】特願2002−230955(P2002−230955)の分割
【原出願日】平成14年8月8日(2002.8.8)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】