説明

偏光板切断方法および当該方法によって切断された偏光板

【課題】レーザ光を用いた偏光板の切断において、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が2%以下であるフィルムの層を含む偏光板を、切断面に変形を生じさせることなく切断する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る方法は、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が2%以下であるフィルムの層を含む偏光板を切断する方法であって、出力および/または移動速さを調整したレーザ光を照射することによって、上記フィルムに溝を形成する溝形成工程と、引裂角度および偏光板に与える張力を調整しながら、上記溝に沿って、上記溝形成工程後の上記偏光板を引き裂く引裂工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板切断方法および当該方法によって切断された偏光板に関する。具体的には、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が2%以下であるフィルムの層を含む偏光板を切断する方法および当該方法によって切断された偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板を用いる分野においては、当該偏光板を所望の長さ或いは大きさに切断する必要がある。そして、切断刃(例えば、丸刃やトムソン刃)を用いて長尺の偏光板を切断するときには、以下のような問題点がある。
【0003】
(1)偏光板を切断し続けることによって、切断刃に刃こぼれ(チッピング)が生じたり、切断刃が磨耗したりする。このため、一定の切れ味を担保するためには、チッピングや磨耗が生じた切断刃を定期的に交換する必要があり、その結果、ランニングコストが増大する。
【0004】
(2)偏光板を切断することによって、フィルム屑や糊等の異物が切断刃に付着する。その結果、切断刃の切れ味が低下し、切断速度が変化する。
【0005】
(3)切断刃を用いる場合は、応力を加えて偏光板を切断する。このため、保護フィルムが貼合された積層型偏光板を、切断刃を用いて切断すると、保護フィルムの端部が剥離してしまう。また、切断面にクラックが入り易いので、積層型偏光板の端部に割れや破れが生じ易くなる。その結果、積層型偏光板の耐久性が低下する原因となる。
【0006】
そこで、切断刃を用いて偏光板を切断することによって生じる上記の問題を解決すべく、レーザ光を照射することによって偏光板を切断する方法が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1では、レーザ光を照射することによって偏光板を切断することができることが記載されている。具体的には、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムの両面に一対のトリアセチルセルロース(TAC)フィルムが貼り合わされ、さらに、一方のTACフィルム側には、アクリル系粘着剤層を介してポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムからなるセパレータが設けられ、他方のTACフィルム側には、アクリル系粘着剤層を介してPETフィルムからなる表面保護フィルムが設けられた偏光板を、レーザ光を照射することによって切断している。レーザ光を照射することによって偏光板を切断すると、上述した(1)〜(3)のような問題が生じない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−284572号公報(2008年11月27日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1で切断対象とされている偏光板は、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が2%よりも高いフィルム(以下、「高吸収率フィルム」ともいう)が積層されてなる。このような高吸収率フィルムからなる積層型偏光板は、特許文献1に示すような従来の方法によって、偏光板の切断面が変形することはなく、良好に切断することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献1に示したような従来の方法では、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が2%以下であるフィルム(以下、「低吸収率フィルム」ともいう)(例えば、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメタクリル酸メチルフィルム等)の層を含む積層型偏光板を切断する場合に、レーザ光の出力が小さいと、積層型偏光板の高吸収率フィルムの層を切断することはできるが、低吸収率フィルムの層を切断することができない。一方、レーザ光の出力を大きくすると、積層型偏光板の高吸収率フィルムの層だけでなく低吸収率フィルムの層をも切断することが可能である。しかし、この場合は、高吸収率フィルムの層に過剰の熱が加わるため、切断された偏光板の端部が溶融して切断端部が変形してしまう(図6を参照)。切断面の形状が変形した偏光板は、断面品位が低下する。さらに、当該断面品位の低下によって種々の問題が生じ得る。例えば、偏光板がガラス基板に貼合されるときには、高い密着性が要求される。しかし、偏光板の切断面の凹凸によってガラス基板との貼合面に気泡が噛み込まれるなどの問題が生じる。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その主たる目的は、レーザ光を用いた偏光板の切断において、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が2%以下であるフィルムの層を含む偏光板を、切断面に変形を生じさせることなく切断する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本願発明は、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が2%以下であるフィルムの層を含む偏光板を切断する方法であって、出力および/または移動速さを調整したレーザ光を照射することによって、上記フィルムに溝を形成する溝形成工程と、引裂角度および偏光板に与える張力を調整しながら、上記溝に沿って、上記溝形成工程後の上記偏光板を引き裂く引裂工程と、を含むことを特徴としている。
【0013】
本発明に係る方法では、上記溝形成工程において、高吸収率フィルムの層をレーザ光によって切断し、かつ、低吸収率フィルムの層に、レーザ光によって溝を形成する。そして、上記引裂工程において、上記溝に力を加えることにより、溝に沿って低吸収率フィルムを引き裂き、切断する。本発明に係る方法は、従来のレーザ切断方法のように、レーザ光の出力を大きくして熱によって低吸収率フィルムを切断しない。それゆえ、レーザ光を用いた偏光板の切断において、切断面に変形を生じさせることなく低吸収率フィルムの層を含む偏光板を切断することができる。
【0014】
本発明に係る方法では、上記溝形成工程では、上記フィルムの両面に溝を形成することが好ましい。
【0015】
溝形成工程において、低吸収率フィルムの両面に溝を形成することによって、続く引裂工程において、低吸収率フィルムの引き裂きを効率よく行うことができる。
【0016】
本発明に係る方法では、上記溝形成工程では、レーザ光の出力を24W〜77Wの範囲、かつ、移動速さを300mm/秒〜1000mm/秒の範囲に設定することが好ましい。
【0017】
溝形成工程におけるレーザ光の出力および移動速さが上記の値であれば、偏光板の低吸収率フィルムに、効率よく溝を形成することができる。
【0018】
本発明に係る方法では、上記引裂工程では、偏光板の引裂角度を10°以上、かつ、張力を0.1N/mm以上に設定することが好ましい。
【0019】
引裂工程における引裂角度および張力が上記の値であれば、溝形成工程において溝を形成した低吸収率フィルムを引き裂き、切断することができる。
【0020】
本発明に係る方法では、上記フィルムは、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリプロピレンフィルム、またはポリメタクリル酸メチルフィルムであってもよい。
【0021】
本発明に係る方法では、レーザ光を用いた偏光板の切断において、切断面に変形を生じさせることなく低吸収率フィルムの層を含む偏光板を切断することができる。それゆえ、本発明に係る方法によれば、切断対象が、低吸収率フィルムとしてシクロオレフィンポリマーフィルム、ポリプロピレンフィルム、またはポリメタクリル酸メチルフィルムの層を含む偏光板である場合にも、切断面に変形を生じさせることなく偏光板を切断することができる。
【0022】
本発明に係る方法では、上記偏光板は、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が1%以下であるフィルムの層を含む偏光板であってもよい。
【0023】
本発明に係る方法では、切断対象が、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が1%以下であるフィルムの層を含む偏光板である場合にも、切断面に変形を生じさせることなく切断することができる。
【0024】
本発明に係る偏光板は、上述した本発明に係る方法によって切断されたことを特徴としている。
【0025】
上述したように、本発明に係る方法では、レーザ光を用いた偏光板の切断において、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が2%以下であるフィルムの層を含む偏光板を、切断面に変形を生じさせることなく切断することができる。このため、本発明に係る方法によって切断された偏光板は、切断面に変形が生じていない。それゆえ、本発明に係る偏光板は、断面品位の高い偏光板となり得る。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る方法は、以上のように、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が2%以下であるフィルムの層を含む偏光板を切断する方法であって、出力および/または移動速さを調整したレーザ光を照射することによって、上記フィルムに溝を形成する溝形成工程と、引裂角度および偏光板に与える張力を調整しながら、上記溝に沿って、上記溝形成工程後の上記偏光板を引き裂く引裂工程と、を含む構成である。
【0027】
また、本発明に係る偏光板は、上述した本発明に係る方法によって切断された偏光板である。
【0028】
本発明に係る方法は、従来のレーザ切断方法のように、偏光板に含まれる低吸収率フィルムの層を、レーザ光の出力を大きくして熱によって切断しない。それゆえ、レーザ光を用いた偏光板の切断において、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が2%以下であるフィルムの層を含む偏光板を、切断面に変形を生じさせることなく切断することができるという効果を奏する。そして、本発明に係る方法によって切断された偏光板は、切断面に変形が生じていない。それゆえ、本発明に係る偏光板は、断面品位の高い偏光板となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係るスリッター機の概略の構成を示す側面図である。
【図2】各波長の光を照射したときの、各種フィルムにおける透過率(%)を示すグラフであり、(a)は、TACフィルム、COPフィルム、PETフィルムおよびPVAフィルムにおける透過率(%)を示し、(b)は、位相差性能を付与したTACフィルム(n−TAC)およびPMMAフィルムにおける透過率(%)を示している。
【図3】実施例1にてレーザ光を照射した後のCOP偏光板を示す側面図である。
【図4】実施例1の引裂工程後のCOP偏光板を示す側面図である。
【図5】実施例1のガラス基板に貼合されたCOP偏光板を示す正面図である。
【図6】比較例1のレーザ光照射後のCOP偏光板を示す側面図である。
【図7】比較例1のガラス基板に貼合されたCOP偏光板を示す正面図である。
【図8】COP偏光板に溝を形成することができる条件におけるレーザ光の出力と移動速さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施の形態の一例について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。尚、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0031】
〔1.本発明に係る方法〕
本発明に係る方法は、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が2%以下であるフィルム(低吸収率フィルム)の層を含む偏光板を切断する方法であって、出力および/または移動速さを調整したレーザ光を照射することによって、上記フィルムに溝を形成する溝形成工程と、引裂角度および偏光板に与える張力を調整しながら、上記溝に沿って、上記溝形成工程後の上記偏光板を引き裂く引裂工程と、を含む構成である。
【0032】
ここで、「照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率(%)」は、従来公知のATR(Attenuated total reflection) 法を用いて測定することができる。当該「ATR法」とは、測定対象に対して任意の波長を有する光(レーザ光)を照射し、測定対象の表面で全反射する光を測定することによって、測定対象の表面における吸収スペクトルを得る方法である。照射されるレーザ光の発振波長範囲内において、任意の波長を有する光の吸収率を、ATR法を用いて測定し、得られた吸収率の平均値を算出することによって、上記「照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率(%)」を求めることができる。
【0033】
このような低吸収率フィルムとしては、例えば、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)フィルム等を挙げることができる。
【0034】
本発明に係る方法では、切断対象が、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が1%以下であるフィルムの層を含む偏光板である場合にも、切断面に変形を生じさせることなく切断することができる。
【0035】
本発明に係る方法の切断対象となる偏光板(以下、「切断対象偏光板」、または単に「切断対象」ともいう)は、上述したような低吸収率フィルムを含む複数のフィルムが、粘着剤層または接着剤層を介して積層された偏光板である。すなわち、上述した低吸収率フィルム以外に、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム等の高吸収率フィルムの層を含む偏光板が意図される。このような偏光板としては、後述する実施例で用いたCOP偏光板を挙げることができるが、本発明はこれに限定されない。
【0036】
なお、後述する実施例では、切断対象偏光板としてCOPフィルムの層の厚さが70μmであるCOP偏光板を用いているが、本発明に係る方法の切断対象はこれに限定されない。本発明に係る方法では、低吸収率フィルムの厚さに応じてレーザ光の出力および/または移動速さを調整することによって、偏光板を構成している低吸収フィルムに溝を形成することができる。それゆえ、本発明の方法によれば、低吸収率フィルムの厚さに関わらず、偏光板を切断することができる。
【0037】
上記「溝形成工程」および上記「引裂工程」について、以下に具体的に説明する。
【0038】
(1)溝形成工程
溝形成工程は、出力および/または移動速さを調整したレーザ光を照射することによって、偏光板を構成している高吸収率フィルムの層をレーザ光によって切断し、かつ、低吸収率フィルムの層に、レーザ光によって溝を形成する工程である。ここで、上記「フィルムに溝を形成する」とは、レーザ光を照射した部分のフィルムの厚さを、他の部分の厚さよりも薄くすること、すなわち、レーザ光を照射した部分をいわゆる肉薄の状態にすることを指している。より具体的には、後述する実施例の図3に示すような「U」字状または「V」字状の溝を低吸収率フィルムに形成することを指している。溝形成工程では、続く引裂工程において力を加えることによって低吸収率フィルムを引き裂くことが可能な程度にレーザ光を照射した部分が肉薄の状態になるような深さの溝を形成すればよいが、低吸収率フィルムの厚さの1/3以上の深さの溝を形成することが好ましい。低吸収率フィルムの厚さの1/3以上の深さの溝を形成することによって、後に続く引裂工程において、低吸収率フィルムを容易に引き裂くことができる。
【0039】
尚、図3に示す偏光板では、低吸収率フィルムとしてのCOPフィルムの両面に溝が形成されているが、溝形成工程では、低吸収率フィルムの少なくとも一面に溝が形成されればよい。また、本明細書において、レーザ光の「出力」とは、例えば、単位「W」で表される数値を指す。また、レーザ光の「移動速さ」とは、切断対象となる偏光板に対してレーザ光を相対的に移動させる速さ(Speed) をいい、例えば、単位「mm/秒」で表される数値を指す。
【0040】
溝形成工程では、偏光板に照射するレーザ光の出力および/または移動速さは、切断対象偏光板に含まれている低吸収率フィルムの層に好適な溝を形成することができるように、適宜調整され得る。すなわち、低吸収率フィルムに溝を形成することができる範囲で、偏光板に照射するレーザ光の出力および移動速さの両方を調整してもよいし、レーザ光の出力のみを調整してもよいし、レーザ光の移動速さのみを調整してもよい。
【0041】
後述する実施例に示すように、具体的には、レーザ光の移動速さに応じてレーザ光の出力を適宜調整する、または、レーザ光の出力に応じてレーザ光の移動速さを適宜調整することによって、切断対象偏光板に含まれている低吸収率フィルムに溝を形成することができる。
【0042】
但し、レーザ光の移動速さが遅すぎると生産性が低下し、一方、レーザ光の移動速さが速すぎるとこれに併せてレーザ光の出力を大きくする必要がある。それゆえ、例えば、二酸化炭素レーザ(COレーザ)を用いて、発振波長が9.4±0.2μmのレーザ光を照射する場合は、レーザ光の出力が24W〜77Wの範囲であり、かつ、レーザ光の移動速さが300mm/秒〜1000mm/秒の範囲で、これら出力および/または移動速さを調整することによって、切断対象偏光板に含まれている低吸収率フィルムに効率よく溝を形成することができる。
【0043】
レーザ光の移動速さは、レーザ光照射装置に対して切断対象偏光板を相対的に移動させる速さを変化させることによって調整してもよく、切断対象偏光板に対してレーザ光照射装置を相対的に移動させる速さを変化させることによって調整してもよい。
【0044】
レーザ光は、従来公知のレーザ照射装置を用いて照射することができる。具体的には、例えば、COレーザを挙げることができる。
【0045】
レーザ光の移動速さおよび出力以外のレーザ光照射条件についても、必要に応じて適宜設定され得る。例えば、レーザ光のスポット径を調整することによって、溝の幅を制御することが可能となる。レーザ光のスポット径は、通常40μm〜50μmである。
【0046】
また、レーザ照射装置の種類に応じて、照射するレーザ光の波長は適宜選択し得る。後述する実施例では、COレーザを用いて、発振波長が9.4±0.2μmのレーザ光を照射しているが、本発明はこれに限定されない。但し、切断対象偏光板に含まれている低吸収率フィルムに効率よく溝を形成する観点から、切断対象偏光板に含まれている低吸収率フィルム以外の高吸収率フィルム(例えば、PETフィルム、PVAフィルム、TACフィルム等)における吸収率がより高くなる発振波長のレーザ光を照射することが好ましい。例えば、COレーザは、波長が10μm前後のレーザ光を照射することができるが、図2に示すように、照射する光の波長によって、各種フィルムにおけるレーザ光の吸収率が異なる。このため、高吸収率フィルムにおけるレーザ光の吸収率をより高くする観点から、COレーザを用いる場合は、発振波長が9.2μm〜10.8μmのレーザ光を照射することが好ましい。
【0047】
切断対象偏光板におけるレーザ光を照射される側の上面から、レーザ光の焦点までの長さ(以下、「焦点距離」ともいう)についても特に限定されないが、切断対象偏光板に含まれている低吸収率フィルムに効率よく溝を形成する観点から、上記「焦点距離」が、切断対象偏光板におけるレーザ光を照射される側の上面から、低吸収率フィルムの層の上面までの厚さ以上であり、かつ、切断対象偏光板におけるレーザ光を照射される側の上面から、低吸収率フィルムの層の下面までの厚さ以下となるように、レーザ光の照射条件を調整することが好ましい。
【0048】
溝形成工程では、切断対象偏光板の表面および裏面のどちらの面側からレーザ光を照射したとしても、切断対象偏光板に含まれている低吸収率フィルムに溝を形成することができる。後述する実施例では、偏光板の保護フィルム側からレーザ光を照射することによって偏光板に含まれている低吸収率フィルム(CPOフィルム)に溝を形成しているが、偏光板のセパレートフィルム側からレーザ光を照射した場合も、偏光板に含まれている低吸収率フィルムに溝を形成することができる。
【0049】
(2)引裂工程
引裂工程は、引裂角度および切断対象偏光板に与える張力を調整しながら、溝形成工程において形成した溝に沿って、溝形成工程後の低吸収率フィルムを引き裂く工程である。
【0050】
一実施形態において、引裂角度および切断対象偏光板に与える張力を調整したスリッター機を用いて溝形成工程後の切断対象偏光板を引き裂くことができる。以下に、切断対象偏光板を引き裂く方法の一例として、スリッター機を用いる方法を図1に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るスリッター機5の概略の構成を示す側面図であり、偏光板(切断対象偏光板)3を引き裂きながら巻き取っている状態を示している。図1中の矢印は偏光板3の引裂方向を示している。
【0051】
スリッター機5は、搬送ローラ1(1a,1b,1cおよび1d)、および巻取軸2(2aおよび2b)を備えている。
【0052】
溝形成工程後の偏光板3は、偏光板3の引裂方向(溝形成方向)と偏光板3の搬送方向とが平行になるようにスリッター機5に導入され、搬送ローラ1(1a,1b,1cおよび1d)によって搬送される。そして、偏光板3に形成された溝に対して一方の偏光板が巻取軸2aに巻き取られ、他方の偏光板が巻取軸2bに巻き取られることによって、偏光板3は溝に沿って引き裂かれる。
【0053】
図1に示すスリッター機5においては、偏光板3を引き裂くことができるように、巻取軸2aおよび2bは、所定の引裂角度をなすように配置され、その巻取張力が所定の値となるように調整されている。ここで、本明細書において、上記「引裂角度」とは、偏光板3の一方の引裂辺Aと、他方の引裂辺Bとがなす角の角度αを指している。そして、「角の頂点C」が偏光板3の引裂点となる。また、上記「張力」は、引裂方向と平行方向に偏光板3に与えられる張力を指している。
【0054】
引裂工程では、偏光板3を、溝に沿って引き裂くことができる限り、上記「引裂角度」および上記「張力」は特に限定されないが、上記「引裂角度」が10°以上であり、上記「張力」が0.1N/mm以上であれば、偏光板を良好に引き裂くことができる。上記「引裂角度」が大きい程、せん断応力が大きくなるため、偏光板を引き裂き易くなる。このため、上記「引裂角度」が30°以上であることが好ましい。
【0055】
搬送ローラ1(1a,1b,1cおよび1d)は、偏光板3の搬送経路に沿って配置され、搬送ローラ1aは、搬送ローラ1bに偏光板3を押し当てるように配置されている。搬送ローラ1および巻取軸2は特に限定されず、公知のものを用いることができる。
【0056】
なお、本発明に係る方法では、必要に応じて、切断刃(例えば、この分野で従来用いられている丸刃やトムソン刃)を組み合わせて用いてもよい。例えば、溝形成工程において、レーザ光の照射によって低吸収率フィルムに溝を形成した後で、当該溝の部分を、切断刃を用いて切断してもよい。
【0057】
〔2.本発明に係る偏光板〕
本発明に係る偏光板は、本発明に係る方法によって切断されたことを特徴としている。本発明に係る方法については、上記「1.本発明に係る方法」の項で説明したので、ここでは省略する。
【0058】
上述したように、本発明に係る方法では、レーザ光を用いた偏光板の切断において、切断面に変形を生じさせることなく低吸収率フィルムの層を含んでいる偏光板を切断することができる。このため、本発明に係る方法によって切断された偏光板は、切断面に変形が生じていない。それゆえ、本発明に係る偏光板は、断面品位の高い偏光板となり得る。
【0059】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0061】
(各種フィルムにおける吸収率の測定)
各種フィルムにおける透過率(%)を、従来公知のATR法によって測定した。上記「ATR法については、上記「1.本発明に係る方法」の項で説明したので、ここでは説明を省略する。
【0062】
結果を図2に示す。図2は、各波長の光を照射したときの、各種フィルムにおける透過率(%)を示すグラフである。図2の(a)は、TACフィルム、COPフィルム、PETフィルムおよびPVAフィルムにおける透過率(%)を示し、図2の(b)は、位相差性能を付与したTACフィルム(n−TAC)、およびPMMAフィルムにおける透過率(%)を示すグラフである。なお、n−TACフィルムは、TACのアセテートの一部をプロピオネートで置換し、添加剤を付与して延伸して製作することによってコントラスト性能を改善したフィルムである。
【0063】
COレーザの発振波長の範囲(9.2μm〜10.8μm)における、各フィルムの平均透過率および平均吸収率を算出した結果を表1に示す。平均吸収率(%)は、100%から平均透過率(%)を減じることによって求めた。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示したように、COレーザの発振波長の範囲(9.2μm〜10.8μm)において、TACフィルム、n−TACフィルム、PVAフィルムおよびPETフィルムは、レーザ光の吸収率が2%より高いことが確認された。これに対して、COPフィルムおよびPMMAフィルムは、レーザ光の吸収率が2%以下であることが確認された。
【0066】
〔実施例1〕
切断対象として、シクロオレフィンポリマー(COP)偏光板(SRD341量産原反)を用いた。COP偏光板は、上から、保護フィルムとしてのPETフィルム(58μm)、TACフィルム(80μm)、偏光子としてのPVAフィルム(25μm)、COPフィルム(70μm)、粘着剤層(25μm)、セパレートフィルムとしてのPETフィルム(38μm)が積層された構成となっている。
【0067】
(溝形成工程)
実施例1の溝形成工程では、レーザ光照射装置(COレーザ、型番:Diamond E−400i、製造元:米国 Coherent社製)を用い、移動速さを300mm/秒、出力を25Wに調整したレーザ光(発振波長:9.4±0.2μm)をCOP偏光板に照射することによって、COP偏光板を構成しているTACフィルム層、PVAフィルム層、粘着剤層およびPETフィルム層を切断し、COPフィルム層に溝を形成した。その他のレーザ光照射条件は、表2に示したとおりである。尚、表2に示した「焦点」は、保護フィルム層の上面からレーザ光の焦点までの長さを表している。
【0068】
【表2】

【0069】
レーザ光照射後のCOP偏光板を図3に示す。図3のCOP偏光板は幅方向が横方向となるように示されており、切断面が中央に位置している。図3に示すように、COP偏光板の保護フィルム層6(PETフィルム層)、TACフィルム層7、PVAフィルム層8、粘着剤層10およびセパレートフィルム層11(PETフィルム層)は、レーザ光の照射によって切断されていた。これに対して、COPフィルム層9は、フィルムの上面および下面に溝が形成されていた。COPフィルム層9の上面に形成された溝は、深さが22μmであり、COPフィルム層9の下面に形成された溝は、深さが22μmであった。
【0070】
(引裂工程)
次いで、図1に示したスリッター機5を用いて、偏光板3である溝形成工程後のCOP偏光板を引き裂いた。具体的には、溝形成工程後のCOP偏光板をスリッター機5に導入し、COP偏光板の引裂角度αが40°、COP偏光板に与える張力が0.6N/mmとなるように調整した巻取軸2aおよび2bによってCOP偏光板を巻き取りながら、COP偏光板を引き裂いた。
【0071】
引裂工程後のCOP偏光板を図4に示す。図4のCOP偏光板は幅方向が横方向となるように示されており、切断面が右側に位置している。図4に示すように、COP偏光板の切断面(切断端部)において、COPフィルム層9の切断端部には変形が認められなかった。
【0072】
さらに、切断したCOP偏光板からセパレートフィルムを剥離して、COP偏光板をガラス基板に貼合した状態を図5に示す。図5は、ガラス基板に貼合されたCOP偏光板を示す正面図である。図5は50倍の倍率で貼合面の観察を行っている。ガラス基板は図中下側に配置されており、25μmの粘着剤層を介してCOP偏光板が貼合されている。図5に示すように、実施例1のCOP偏光板とガラス基板とは、気泡が噛み込まない状態で貼合されていた。これは、実施例1におけるCOP偏光板の切断の際に、切断端部に変形が生じず、フラットな状態が保たれたためであると考えられる。
【0073】
〔比較例1〕
比較例1では、切断対象として実施例1で用いたCOP偏光板を用いた。そして、移動速さを300mm/秒、出力を45Wに調整したレーザ光(発振波長:9.4±0.2μm)をCOP偏光板に照射することによって、COP偏光板を完全に切断した以外は、実施例1と同じレーザ光照射条件とした。
【0074】
レーザ光照射後のCOP偏光板を図6に示す。図6のCOP偏光板は幅方向が横方向となるように示されており、切断面が左側に位置している。比較例1のようにレーザ光の照射のみでCOP偏光板を切断した場合は、図6に示すように、COP偏光板のCOPフィルム層9が熱の影響により変形していた。
【0075】
さらに、切断したCOP偏光板からセパレートフィルムを剥離して、実施例1と同様にCOP偏光板をガラス基板に貼合した状態を図7に示す。図7は、ガラス基板に貼合されたCOP偏光板を示す正面図である。ガラス基板は図中下側に配置されており、粘着剤層を介してCOP偏光板が貼合されている。尚、図7と図5とは同じ倍率(倍率50倍)で貼合面の観察を行っている。
【0076】
図7に示すように、比較例1のCOP偏光板とガラス基板とは、気泡が噛み込んだ状態で貼合されていた。これは、比較例1におけるCOP偏光板の切断の際に、COPフィルム層が熱の影響により変形し、切断端部に変形が生じたためであると考えられる。
【0077】
実施例1と比較例1とにおける切断されたCOP偏光板の結果から、本発明に係る方法を用いることによって、低吸収率フィルムの層を含む偏光板であっても、切断面に変形を生じさせることなく切断し得ることが確認された。
【0078】
〔実施例2〕
図8に、COP偏光板に溝を形成することができる条件におけるレーザ光の出力と移動速さとの関係を示す。図8のグラフでは、レーザ光の移動速さに対するレーザ光の出力範囲(上限および下限)を示している。実施例1と同じCOP偏光板を用い、レーザ光の出力および移動速さ以外のレーザ光照射条件は、実施例1と同じ条件とした。
【0079】
図8に示すように、レーザ光の移動速さを変化させた場合であっても、レーザ光の出力を調整することによって、COP偏光板を構成しているCOPフィルム層に溝を形成することができることを確認することができた。言い換えれば、レーザ光の移動速さに応じてレーザ光の出力を適宜調整する、または、レーザ光の出力に応じてレーザ光の移動速さを適宜調整することによって、偏光板を構成している低吸収率フィルムに溝を形成することができることを確認することができたといえる。このようにしてレーザ光の出力および/または移動速さを調整することによって低吸収率フィルムに溝を形成したCOP偏光板を、引裂工程において引き裂くことによって、切断面に変形を生じさせることなくCOP偏光板を切断することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る方法によれば、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が2%以下であるフィルムの層を含んでいる偏光板であっても、切断面に変形を生じさせることなく切断することができる。このため、本発明は、偏光板を用いる分野において好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 搬送ローラ
1a 搬送ローラ
1b 搬送ローラ
1c 搬送ローラ
1d 搬送ローラ
2 巻取軸
2a 巻取軸
2b 巻取軸
3 偏光板
5 スリッター機
6 保護フィルム層(PETフィルム層)
7 TACフィルム層
8 PVAフィルム層
9 COPフィルム層
10 粘着剤層
11 セパレートフィルム層(PETフィルム層)
A 引裂辺
B 引裂辺
C 角の頂点
α 引裂角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が2%以下であるフィルムの層を含む偏光板を切断する方法であって、
出力および/または移動速さを調整したレーザ光を照射することによって、上記フィルムに溝を形成する溝形成工程と、
引裂角度および偏光板に与える張力を調整しながら、上記溝に沿って、上記溝形成工程後の上記偏光板を引き裂く引裂工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記溝形成工程では、上記フィルムの両面に溝を形成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記溝形成工程では、レーザ光の出力を24W〜77Wの範囲、かつ、移動速さを300mm/秒〜1000mm/秒の範囲に設定することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記引裂工程では、偏光板の引裂角度を10°以上、かつ、張力を0.1N/mm以上に設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
上記フィルムは、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリプロピレンフィルム、またはポリメタクリル酸メチルフィルムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
上記偏光板は、照射されるレーザ光の発振波長範囲におけるレーザ光の平均吸収率が1%以下であるフィルムの層を含む偏光板であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって切断された偏光板。

【図8】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate