説明

偏光素子、偏光素子の製造方法、電子機器

【課題】光学特性に優れた偏光素子、偏光素子の製造方法、電子機器を提供する。
【解決手段】基板と、前記基板上であって、一定間隔をおきながら帯状に配列された複数の反射層と、前記反射層上に形成された誘電体層と、前記誘電体層上であって、前記反射層の配列方向における微粒子径の長さが、前記反射層の配列方向と直交する方向における微粒子径の長さよりも長い形状異方性を有する無機微粒子で形成されるとともに、前記反射層の配列方向と直交する断面視において、隣接する一方の前記反射層側と他方の前記反射層側のそれぞれに少なくとも1つの凸部を有する無機微粒子層と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光素子、偏光素子の製造方法、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器としての液晶プロジェクターは、光変調装置としての液晶装置を備えている。当該液晶装置は、対向配置された一対の基板間に液晶層が挟持された構成のものが知られている。この一対の基板には、液晶層に電圧を印加するための電極がそれぞれ形成されている。そして、各基板の外側にはそれぞれ入射側偏光素子、および出射側偏光素子が配置されており、液晶層に対して所定の偏光が入射及び出射される構成となっている。一方、上記液晶プロジェクターにおいて黒の投影画像を得るためには、上記出射側偏光素子でほぼ全ての光エネルギーを吸収する必要がある。そのため、特に出射側偏光素子の温度上昇は著しい。そこで、例えば、出射側に2つの偏光素子を配置し、液晶装置の直後に配置される出射プリ偏光素子で大半の光エネルギーを吸収させ、後段に配置される出射メイン偏光素子で投影画像のコントラストを向上させる手法が知られている。そして、偏光素子は、より高い耐熱性を得るために、無機物で形成されている。当該偏光素子は、基板と、基板上に形成された反射層と、反射層上に形成された誘電体層と、誘電体層上に形成された無機微粒子層とを含んでいる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−216957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の偏光素子を出射プリ偏光素子として用いた場合、無機微粒子層の配置の形態によっては、出射光に旋光性を与えてしまい、その結果、出射メイン偏光素子からの漏れ光強度が増加し、液晶プロジェクターのコントラストが低下するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかる偏光素子は、基板と、前記基板上であって、一定間隔をおきながら帯状に配列された複数の反射層と、前記反射層上に形成された誘電体層と、前記誘電体層上であって、前記反射層の配列方向における微粒子径の長さが、前記反射層の配列方向と直交する方向における微粒子径の長さよりも長い形状異方性を有する無機微粒子で形成されるとともに、隣接する一方の前記反射層側と隣接する他方の前記反射層側のそれぞれに向けて凸部を有する無機微粒子層と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、無機微粒子層は、形状異方性を有する無機微粒子で形成されるため、光の吸収性をより高めることができる。さらに、無機微粒子層は、隣接する一方の反射層側と他方の反射層側のそれぞれに向けて、すなわち、異なる方向(2方向)に向けてそれぞれ凸部を有するため、斜入射光に対する旋光性を低下させ、漏れ光強度を低減させることができる。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかる偏光素子の前記無機微粒子層は、隣接する一方の前記反射層側に設けられた第1凸部を有する第1無機微粒子層と、隣接する他方の前記反射層側に設けられた第2凸部を有する第2無機微粒子層と、を有することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、無機微粒子層の第1凸部と第2凸部により、斜入射光に対する旋光性を低下させ、漏れ光強度を低減させることができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかる偏光素子では、前記反射層の配列方向と直交する断面視において、前記第1無機微粒子層と前記第2無機微粒子層との断面積比が同等であることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、第1無機微粒子層と第2無機微粒子層の断面積比が同等であることから、無機微粒子層の構成バランスがとれ、斜入射光に対する旋光性を効率よく低下させることができる。
【0012】
[適用例4]本適用例にかかる偏光素子の製造方法は、基板上に、一定間隔をおきながら帯状に配列された複数の反射層を形成する反射層形成工程と、前記反射層上に誘電体層を形成する誘電体層形成工程と、前記誘電体層上に、前記反射層の配列方向における微粒子径の長さが、前記反射層の配列方向と直交する方向における微粒子径の長さよりも長い形状異方性を有する無機微粒子を形成するとともに、隣接する一方の前記反射層側と隣接する他方の前記反射層側のそれぞれに向けて凸部を有する無機微粒子層を形成する無機微粒子層形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、無機微粒子層は、形状異方性を有する無機微粒子で形成されるため、光の吸収性をより高めることができる。さらに、無機微粒子層は、隣接する一方の反射層側と他方の反射層側のそれぞれに向けて、すなわち、異なる方向(2方向)に向けてそれぞれ凸部を有するため、斜入射光に対する旋光性を低下させ、漏れ光強度を低減させることができる。
【0014】
[適用例5]上記適用例にかかる偏光素子の製造方法の前記無機微粒子形成工程では、隣接する前記反射層のうち、一方の前記反射層側から斜方成膜して、前記一方の前記反射層側に斜方した第1凸部を有する第1無機微粒子層を形成する第1無機微粒子層形成工程と、隣接する前記反射層のうち、他方の前記反射層側から斜方成膜して、前記他方の前記反射層側に斜方した第2凸部を有する第2無機微粒子層を形成する第2無機微粒子層形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、無機微粒子層の第1凸部と第2凸部とにより、斜入射光に対する旋光性が低下され、漏れ光強度を低減させることができる。
【0016】
[適用例6]本適用例にかかる電子機器は、上記の偏光素子、または、偏光素子の製造方法によって製造された偏光素子を搭載したことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、光学特性に優れた電子機器を提供することができる。特に、液晶プロジェクターにおいて出射プリ偏光素子として用いた場合、出射光への旋光性が低減され、出射メイン偏光素子からの漏れ光強度が低下し、液晶プロジェクターのコントラストを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】偏光素子の構成を示す概略図。
【図2】偏光素子の形態及び漏れ光強度の特性を示す説明図。
【図3】偏光素子の形態及び漏れ光強度の特性を示す説明図。
【図4】偏光素子の製造方法を示す工程図。
【図5】電子機器としての液晶プロジェクターの構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、各図面における各部材は、各図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材ごとに縮小を異ならせて図示している。
【0020】
(偏光素子の構成)
まず、偏光素子の構成について説明する。図1は、偏光素子の構成を示し、同図(a)は、平面図であり、同図(b)は、断面図であり、同図(c)は、一部拡大図である。図1に示すように、偏光素子1は、基板2と、基板2上であって、一定間隔をおきながら帯状に配列された複数の反射層3と、反射層3上に形成された誘電体層4と、誘電体層4上であって、反射層3の配列方向における微粒子径の長さLaが、配列方向と直交する方向における微粒子径の長さLbよりも長い形状異方性を有する無機微粒子50aで形成されるとともに、隣接する一方の反射層3側と隣接する他方の反射層3側のそれぞれに向けて凸部を有する無機微粒子層5とを備えている。なお、以下の説明においてはXYZ座標系を設定し、このXYZ座標系を参照しつつ各部材の位置関係を説明する。この際、水平面内における所定の方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、垂直面内においてX軸方向とY軸方向のそれぞれに直交する方向をZ軸方向とする。本実施形態では、以下に説明する反射層3の延在方向をY軸方向とし、反射層3の配列軸をX軸方向として表している。
【0021】
基板2は、使用帯域の光(本実施形態では可視光域)に対して透明な材料、例えば、ガラスや石英、サファイア、水晶、プラスチック等の透光性を有する材料である。なお、偏光素子1を適用する用途によっては、偏光素子1が蓄熱して高温になる場合があるため、基板2の材料としては、耐熱性の高いガラスや石英、サファイア、水晶を用いることが好ましい。
【0022】
基板2の一方面側には、図1(a)に示すように、Y軸方向に延在する複数の反射層3が、平面視において略ストライプ状(帯状)に形成されている。反射層3は、光反射性が相対的に高い光反射性材料が用いられ、例えば、アルミニウム(Al)である。なお、アルミニウムの他にも、銀、金、銅、モリブデン、クロム、チタン、ニッケル、タングステン、鉄、シリコン、ゲルマニウム、テルル等の金属あるいは半導体材料等を用いることができる。
【0023】
反射層3は、可視光域の波長よりも短い周期でX軸方向に均等な間隔で形成されており、隣接する反射層3の間には溝部7が形成されている。例えば、反射層3の高さは、20〜200nmであり、反射層3の幅は、20〜70nmである。また、隣接する反射層3の間隔(溝部7のX軸方向の幅)は、80〜130nmであり、周期(ピッチ)は、150nm、である。このように、偏光素子1の反射層3は、ワイヤーグリッド構造を有している。そして、反射層3の延在方向(Y軸方向)に対して略平行方向に振動する直線偏光(TE波)を反射(減衰)させ、反射層3の延在方向に対して略直交する方向(X軸方向)に振動する直線偏光(TM波)を透過させる。
【0024】
誘電体層4は、スパッタ法あるいはゾルゲル法(例えばスピンコート法によりゾルをコートし熱硬化によりゲル化させる方法)により成膜されたSiO2等の可視光に対して透明な光学材料で形成されている。誘電体層4は、無機微粒子層5の下地層として形成される。また、無機微粒子層5を反射した偏光に対して、無機微粒子層5を透過し反射層3で反射した偏光の位相を調整して干渉効果を高める目的で形成される。
【0025】
誘電体層4を構成する材料は、SiO2の他として、Al23、MgF2などの一般的な材料を用いることができる。これらは、スパッタ、気相成長法、蒸着法などの一般的な真空成膜やゾル状の物質を基板2上にコートし熱硬化させることで薄膜化が可能である。また、誘電体層4の屈折率は、1より大きく、2.5以下とすることが好ましい。また、無機微粒子層4の光学特性は、周囲の屈折率によっても影響を受けるため、誘電層材料により偏光素子特性を制御することも可能である。
【0026】
無機微粒子層5は、誘電体層4上に形成されている。本実施形態では、図1(b)に示すように、無機微粒子層5は、誘電体層4の頂部に形成されている。
【0027】
無機微粒子層5は、無機微粒子50aによって形成されている。当該無機微粒子50aは、図1(c)に示すように、反射層3の配列方向(Y軸方向)における微粒子径の長さLaが、反射層3の配列方向(Y軸方向)と直交する方向(X軸方向)における微粒子径の長さLbよりも長い形状異方性を有している。このように、形状異方性を有することにより、Y軸方向(長軸方向)とX軸方向(短軸方向)とで光学定数を異ならせることができる。その結果、長軸方向と平行な偏光成分を吸収し、短軸方向と平行な偏光成分を透過させるという所定の偏光特性が得られる。このように形状異方性を有する無機微粒子50aで構成された無機微粒子層5は、斜方成膜、例えば、斜めスパッタ成膜等によって形成することができる。
【0028】
無機微粒子50aの材料としては、偏光素子1として使用帯域に応じて適切な材料が選択される。すなわち、金属材料や半導体材料がこれを満たす材料であり、具体的には金属材料として、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Si、Ge、Te、Sn単体もしくはこれらを含む合金が挙げられる。また、半導体材料としては、Si、Ge、Teが挙げられる。さらに、FeSi2(特にβ−FeSi2)、MgSi2、NiSi2、BaSi2、CrSi2、CoSi2などのシリサイド系材料が適している。特に、無機微粒子50aの材料として、アルミニウム又はその合金からなるアルミニウム系の金属微粒子、あるいは、ベータ鉄シリサイドやゲルマニウム、テルルを含む半導体微粒子を用いることで、可視光域で高コントラスト(高消光比)を得ることができる。なお、可視光以外の波長帯域、例えば赤外域に偏光特性をもたせるためには、無機微粒子層を構成する無機微粒子としてAg(銀)、Cu(銅)、Au(金)の微粒子などを用いるのが好適である。これは、これらの金属の長軸方向の共鳴波長が赤外域近辺にあるからである。これ以外にも、使用帯域に合わせて、モリブデン、クロム、チタン、タングステン、ニッケル、鉄、シリコンなどの材料を用いることができる。
【0029】
また、無機微粒子層5は、反射層3の配列方向(Y軸方向)と直交する断面視(X軸方向における断面視)において、隣接する一方の反射層3側と隣接する他方の反射層3側のそれぞれに向けて凸部が形成されている。本実施形態では、無機微粒子層5は、隣接する一方の反射層3側に設けられた第1凸部10aを有する第1無機微粒子層5aと、隣接する他方の反射層3側に設けられた第2凸部10bを有する第2無機微粒子層5bを有する。すなわち、図1(b)に示すように、一の反射層3が形成された配列方向(Y軸方向)に対し、X軸正方向側及びX軸負方向側のそれぞれに第1無機微粒子層5aと第2無機微粒子層5bが形成されている。そして、本実施形態では、反射層3の配列方向と直交する断面視において、反射層3を基板2に対して垂直方向に二分する中心線を引いた場合に、第1無機微粒子層5aと第2無機微粒子層5bとの断面積比がほぼ同等に形成されている。
【0030】
無機微粒子層5上には、保護層6が形成されている。保護層6は、SiO2、Al23、MgF2などの一般的な材料を用いることができる。これらは、スパッタ、気相成長法、蒸着法などの一般的な真空成膜やゾル状の物質を基板2上にコートし熱硬化させることで薄膜化が可能である。
【0031】
従って、本実施形態における偏光素子1は、可視光に対し透明な基板2と、金属からなり基板2上に一方向に延びた帯状薄膜が一定間隔に設けられてなる反射層3と、反射層3上に形成された誘電体層4と、無機微粒子50aが線状に配列されてなる無機微粒子層5と、を備え、無機微粒子層5は、帯状薄膜に対応する位置において、誘電体層4上に並べられて形成され、かつ、無機微粒子50aが線状に配列された方向と同じ方向を長手方向とするワイヤーグリッド構造となっており、無機微粒子50aは、該無機微粒子50aの配列方向の径が長く、配列方向と直交する方向の径が短い形状異方性を有するとともに、無機微粒子層5は、隣接する一方の反射層3側と隣接する他方の反射層3側のそれぞれに向けて凸部10a,10bを有する。
【0032】
ここで、偏光素子1を出射プリ偏光素子として用いた場合における、第1及び第2無機微粒子層5a,5bの形態と出射メイン偏光素子からの漏れ光強度の関係について説明する。図2は、偏光素子の形態及び漏れ光強度の特性を示す説明図である。
【0033】
図2(a)は、漏れ光強度の特性をシミュレーションによって求めるために、偏光素子をモデル化したものである。本シミュレーションでは、図2(a)の(a−1)〜(a−4)に示す4つの第1〜第4モデルM1〜M4を用いている。そして、第1〜第4モデル毎に第1無機微粒子層5aと第2無機微粒子層5bの断面積比を変えている。なお、本シミュレーションでは、反射層3の幅は45nm、高さは60nmとし、誘電体層4の厚みは10nmとした。周期は150nmである。また、基板2、反射層3、誘電体層4、無機微粒子層5の材質はそれぞれ、SiO2、アルミ、SiO2、アモルファスシリコンとした。
【0034】
以下、第1〜第4モデルM1〜M4の特徴部分について説明する。まず。第1モデルM1では、図2(a)の(a−1)に示すように、反射層3の配列方向に直交する方向における断面視において、仮想中心線に対して、第2無機微粒子層5bと第1無機微粒子層5aとの断面積比を5:5とした。すなわち、第1モデルM1は、第1無機微粒子層5aと第2無機微粒子層5bとの断面積比が同等である。同様にして、第2モデルM2は、図2(a)の(a−2)に示すように、第2無機微粒子層5bと第1無機微粒子層5aとの断面積比を3:7とした。第3モデルM3は、図2(a)の(a−3)に示すように、第2無機微粒子層5bと第1無機微粒子層5aとの断面積比を1:9とした。そして、第4モデルM4では、図2(a)の(a−4)に示すように、第2無機微粒子層5bと第1無機微粒子層5aとの断面積比を0:10とした。すなわち、第4モデルM4では、第2無機微粒子層5bが無い状態とした。
【0035】
図2(b)は、各第1〜第4モデルM1〜M4を含む偏光素子のシミュレーション用のモデル配置を示したものである。図2(b)に示すように、入射光の光軸Lに直交するように、光の入射側に入射側偏光素子200aを配置し、光の出射側に出射メイン偏光素子200bを配置した。なお、入射側偏光素子及び出射メイン偏光素子200a,200bは、理想的な吸収型偏光素子と仮定し、クロスニコル状態を維持する。そして、入射側偏光素子200aと出射メイン偏光素子200bとの間に出射プリ偏光素子として各第1〜第4モデルM1〜M4が配置される。ここで、各第1〜第4モデルM1〜M4は出射メイン偏光素子200bとパラレルニコル状態を維持する。本シミュレーションでは、液晶プロジェクターの照明光を考慮し、傾斜角をθ、光軸Lに対し回転角をφとして斜入射光を定義した。なお、実際の液晶プロジェクターでは、入射側偏光素子200aと出射プリ偏光素子としての第1〜第4モデルM1〜M4の間に液晶装置が配置されるが、出射プリ偏光素子としての第1〜第4モデルM1〜M4のみの特性を明確化するため、本シミュレーションでは液晶装置を省いている。
【0036】
図3(c)に、第1〜第4モデルM1〜M4における出射メイン偏光素子200bからの漏れ光強度の相対値を示す。計算ではθ=5°とし、φ=0°〜345°まで15°ずつ変化させ、それらの和を求めている。本シミュレーションによれば、第1モデルM1(第2無機微粒子層5b:第1無機微粒子層5a=断面積比5:5)に対し、第2モデルM2(断面積比3:7)では、約4.3倍の漏れ光強度を有し、第3モデルM3(断面積比1:9)では、約10.7倍の漏れ光強度を有し、第4モデルM4(断面積比0:10)では、約11.8倍の漏れ光強度を有している。換言すれば、本実施形態では、少なくとも微小な第2無機微粒子層5bが形成されていれば、漏れ光強度の低減効果を有しており、さらに、第1無機微粒子層5aと第2無機微粒子層5bとの断面積比が同等(5:5、左右対称)の場合に、漏れ光強度の低減に好適であることがわかる。一方、図3(d)は、光軸Lに対する回転角φにおける出射メイン偏光素子200bからの出射光強度を、それぞれのモデル(M1〜M4)に対して示した結果である。図中、φ=0°、180°は図1で示した座標系においてX−Z平面内であり、前者は第2無機微粒子層5b側から、後者は第1無機微粒子層5a側からの入射光に対応している。図3(d)から、第1モデルM1では、第1象限から第4象限の強度分布がほぼ同じであることが分かる。この強度分布は、理想的な吸収型偏光素子をクロスニコルで配置した状態と同じであり、第1モデルM1によって旋光は生じていないことが分かる。一方、第2モデルM2から第4モデルM4に連れて、第1象限と第2象限間、および第3象限と第4象限間の対称性が崩れ、さらに漏れ光強度が増加していることが分かる。これは、図2(a)から分かる様に、構造の左右対象性が崩れることによって、断面内における光学軸がZ軸方向から傾斜したことにより、斜入射光に対して旋光性が増加したためと考えられる。
【0037】
なお、上記θ=5°の斜入射光のシミュレーションの他、θ=10°及びθ=20°の斜入射光でも上記同様のシミュレーション行っている。これによれば、上記同様に、第1無機微粒子層5aに加え第2無機微粒子層5bが形成されることにより、漏れ光強度の低減効果を有し、さらに、第1無機微粒子層5aと第2無機微粒子層5bとの断面積比が同等(5:5)の場合に、漏れ光強度が最も低減される。
【0038】
以上のように構成された本実施形態の偏光素子1は、基板2の表面側、即ち、格子状の反射層3、誘電体層4及び無機微粒子層5の形成面側が光入射面とされる。そして、偏光素子1は、光の透過、反射、干渉、光学異方性による偏光波の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、反射層3の配列方向に平行な電界成分(格子軸方向、Y軸方向)をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させるとともに、反射層3の配列方向に垂直な電界成分(格子直角方向、X軸方向)をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。すなわち、TE波は、無機微粒子層5の光吸収作用によって減衰される。反射層3は、ワイヤーグリッドとして機能し、無機微粒子層5及び誘電体層4を透過したTE波を反射する。ここで、反射層3で反射したTE波は、無機微粒子層5で反射したTE波と干渉して減衰される。このようにTE波の選択的減衰を行うことができる。
【0039】
(偏光素子の製造方法)
次に、偏光素子の製造方法について説明する。図4は、偏光素子の製造方法を示す工程図である。本実施形態にかかる偏光素子の製造方法は、基板上に、一定間隔をおきながら帯状に配列された複数の反射層を形成する反射層形成工程と、反射層上に誘電体層を形成する誘電体層形成工程と、誘電体層上に、反射層の配列方向における微粒子径の長さが、反射層の配列方向と直交する方向における微粒子径の長さよりも長い形状異方性を有する無機微粒子を形成するとともに、隣接する一方の反射層側と隣接する他方の反射層側のそれぞれに向けて凸部を有する無機微粒子層を形成する無機微粒子層形成工程と、を含むものである。さらに、無機微粒子層形成工程では、隣接する反射層のうち、一方の反射層側から斜方成膜して、一方の反射層側に斜方した第1凸部を有する第1無機微粒子層を形成する第1無機微粒子層形成工程と、隣接する反射層のうち、他方の反射層側から斜方成膜して、他方の反射層側に斜方した第2凸部を有する第2無機微粒子層を形成する第2無機微粒子層形成工程と、を含むものである。以下、図面を参照しながら説明する。
【0040】
図4(a)の反射層形成工程では、基板2上に反射層3を形成する。例えば、フォトリソグラフィー法を用いたアルミニウム等の金属膜のパターン加工によって形成する。
【0041】
図4(b)の誘電体層形成工程では、反射層3上に誘電体層4を形成する。例えば、スパッタ法やゾルゲル法により、SiO2等の誘電体層4を形成する。
【0042】
図4(c)の第1無機微粒子層形成工程では、隣接する反射層3のうち、一方の反射層3側から斜方成膜して、一方の反射層3側に斜方した第1凸部10aを有する第1無機微粒子層5aを形成する。具体的には、例えば、スパッタ装置を用いて、反射層3が形成された基板2に対して斜め方向からスパッタ粒子を堆積させることにより、第1無機微粒子層5aを形成する。なお、図4(c)では、スパッタ粒子の入射方向を矢印で表している。基板2面に対する斜方成膜の斜方角度は、およそ0〜50°の範囲で適宜設定することができる。
【0043】
図4(d)の第2無機微粒子層形成工程では、隣接する反射層3のうち、他方の反射層3側から斜方成膜して、他方の反射層3側に斜方した第2凸部10bを有する第2無機微粒子層5bを形成する。すなわち、上記の第1無機微粒子層形成工程における斜方成膜の斜方方向とは逆方向の斜方方向から成膜させる。具体的には、例えば、スパッタ装置を用いて、反射層3が形成された基板2に対して斜め方向からスパッタ粒子を堆積させることにより、第2無機微粒子層5bを形成する。なお、図4(d)では、スパッタ粒子の入射方向を矢印で表している。基板2面に対する斜方成膜の斜方角度は、およそ0〜50°の範囲で適宜設定することができる。
【0044】
なお、上記の第1及び第2無機微粒子層形成工程では、上記した斜方成膜により、誘電体層4上に、反射層3の配列方向における微粒子径の長さLaが、反射層3の配列方向と直交する方向における微粒子径の長さLbよりも長い形状異方性を有する無機微粒子50aが形成される(図1(c)参照)。
【0045】
なお、第2無機微粒子層形成工程の後に、第1無機微粒子層形成工程を行ってもよいし、第1及び第2無機微粒子層形成工程を同時期に行ってもよい。
【0046】
ここで、上記した第1及び第2無機微粒子層形成工程における斜方成膜では、スパッタ装置のターゲットに近い側と遠い側では、堆積するスパッタ粒子の量が異なり、ターゲットに近いほど堆積するスパッタ粒子の量が多くなる傾向がある。このため、図4(c)に示す第1無機微粒子層形成工程では、第1無機微粒子層5aの体積は、スパッタ装置のターゲットに近い側(X軸負方向側)ほど大きく、ターゲットから遠い側(X軸正方向側)ほど小さくなる。一方、図4(d)に示す第2無機微粒子層形成工程では、第2無機微粒子層5bの体積は、スパッタ装置のターゲットに近い側(X軸正方向側)ほど大きく、ターゲットから遠い側(X軸負方向側)ほど小さくなる。従って、各第1無機微粒子層5a及び各第2無機微粒子層5bの体積は異なるが、各反射層3に対応する第1無機微粒子層5aと第2無機微粒子層5bとの体積の和は等しくなり、各反射層3上には、体積和が等しい無機微粒子層5が形成される。これにより、バランスのとれた光学特性を備えることができる。
【0047】
図4(e)の保護層形成工程では、第1及び第2無機微粒子層5a,5b上に保護層6を形成する。保護層6は、例えば、SiO2をスパッタ法等により形成する。以上の工程を経ることにより、偏光素子1を製造することができる。
【0048】
(電子機器の構成)
次に、電子機器の構成について説明する。図5は、電子機器としての液晶プロジェクターの構成を示す概略図である。液晶プロジェクター100は、光源となるランプと、液晶パネルと、偏光素子1等を備えている。
【0049】
図5に示すように、液晶プロジェクター100の光学エンジン部分は、赤色光LRに対する入射側偏光素子1A、液晶パネル90、出射プリ偏光素子1B、出射メイン偏光素子1Cと、緑色光LGに対する入射側偏光素子1A、液晶パネル90、出射プリ偏光素子1B、出射メイン偏光素子1Cと、青色光LBに対する入射側偏光素子1A、液晶パネル90、出射プリ偏光素子1B、出射メイン偏光素子1Cと、それぞれの出射メイン偏光素子1Cから出てくる光を合成し投射レンズ(不図示)に出射するクロスダイクロプリズム60とを備えている。ここで、偏光素子1は、入射側偏光素子1A、出射プリ偏光素子1B、出射メイン偏光素子1Cのそれぞれに適用可能である。特に、偏光素子1を出射プリ偏光素子1Bに適用することにより、出射メイン偏光素子1Cからの漏れ光強度を低減させ、コントラストを向上させることができる。
【0050】
液晶プロジェクター100では、光源ランプ(不図示)から出射される光をダイクロイックミラー(不図示)により赤色光LR、緑色光LG、青色光LBに分離し、それぞれの光に対応する入射側偏光素子1Aに入射させ、ついでそれぞれの入射側偏光素子1Aで偏光された光LR、LG、LBは液晶パネル90にて空間変調されて出射され、出射プリ偏光素子1B、出射メイン偏光素子1Cを通過した後、クロスダイクロプリズム60にて合成されて投射レンズから投射される構成となっている。光源ランプは高出力のものであっても、偏光素子1は、強い光に対して優れた耐光特性を有するため、信頼性の高い液晶プロジェクターを提供することができる。
【0051】
なお、偏光素子1を搭載した電子機器は、液晶プロジェクター100に限定されず、他にも、例えば、自動車のカーナビやインパネの液晶ディスプレイ等にも適用することができる。
【0052】
従って、上記実施形態によれば、以下に示す効果がある。
【0053】
偏光素子1は、隣接する一方の反射層3側に斜方して第1凸部10aを有する第1無機微粒子層5aと、隣接する他方の反射層3側に斜方して第2凸部10bを有する第2無機微粒子層5bとを含む無機微粒子層5を備える。これにより、斜入射光に対する旋光性が低下し、光漏れ量を低減させることができる。また、第1無機微粒子層5aと第2無機微粒子層5bとの断面積比を同等にすることにより、さらに、漏れ光強度を低減させることができる。そして、このような偏光素子1を液晶プロジェクター100に適用することにより、光学特性に優れ、コントラストが高い液晶プロジェクター100を提供することができる。
【0054】
なお、上記の実施形態に限定されるものではなく、以下のような変形例が挙げられる。
【0055】
(変形例1)上記実施形態では、第1無機微粒子層5aと第2無機微粒子層5bとの断面積比を同等(5:5)としたが、これに限定されない。例えば、第1無機微粒子層5aの第2無機微粒子層5bに対する断面積比(第1無機微粒子層5aの断面積:第2無機微粒子層5bの断面積)が、1:9であってもよいし、9:1であってもよい。すなわち、異なる方向に向けて、それぞれ第1無機微粒子層5aと第2無機微粒子層5bとが形成されていればよい。このようにしても、旋光性を低下させ、漏れ光強度を低減させることができる。
【0056】
(変形例2)上記実施形態では、第1無機微粒子層5aを一定の断面積として固定し、第2無機微粒子層5bの断面積を変化させたが、第2無機微粒子層5bを一定の断面積として固定し、第1無機微粒子層5aの断面積を変化させてもよい。換言すれば、第1無機微粒子層5aと第2無機微粒子層5bを入れ替えてもよい。このようにしても、上記同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0057】
1(1A,1B,1C)…偏光素子、2…基板、3…反射層、4…誘電体層、5…無機微粒子層、5a…第1無機微粒子層、5b…第2無機微粒子層、6…保護層、10a…第1凸部、10b…第2凸部、50a…無機微粒子、100…液晶プロジェクター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上であって、一定間隔をおきながら帯状に配列された複数の反射層と、
前記反射層上に形成された誘電体層と、
前記誘電体層上であって、前記反射層の配列方向における微粒子径の長さが、前記反射層の配列方向と直交する方向における微粒子径の長さよりも長い形状異方性を有する無機微粒子で形成されるとともに、隣接する一方の前記反射層側と隣接する他方の前記反射層側のそれぞれに向けて凸部を有する無機微粒子層と、を備えたことを特徴とする偏光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の偏光素子において、
前記無機微粒子層は、
隣接する一方の前記反射層側に設けられた第1凸部を有する第1無機微粒子層と、隣接する他方の前記反射層側に設けられた第2凸部を有する第2無機微粒子層と、を有することを特徴とする偏光素子。
【請求項3】
請求項2に記載の偏光素子において、
前記反射層の配列方向と直交する断面視において、前記第1無機微粒子層と前記第2無機微粒子層との断面積比が同等であることを特徴とする偏光素子。
【請求項4】
基板上に、一定間隔をおきながら帯状に配列された複数の反射層を形成する反射層形成工程と、
前記反射層上に誘電体層を形成する誘電体層形成工程と、
前記誘電体層上に、前記反射層の配列方向における微粒子径の長さが、前記反射層の配列方向と直交する方向における微粒子径の長さよりも長い形状異方性を有する無機微粒子を形成するとともに、隣接する一方の前記反射層側と隣接する他方の前記反射層側のそれぞれに向けて凸部を有する無機微粒子層を形成する無機微粒子層形成工程と、を含むことを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の偏光素子の製造方法において、
前記無機微粒子層形成工程では、
隣接する前記反射層のうち、一方の前記反射層側から斜方成膜して、前記一方の前記反射層側に斜方した第1凸部を有する第1無機微粒子層を形成する第1無機微粒子層形成工程と、
隣接する前記反射層のうち、他方の前記反射層側から斜方成膜して、前記他方の前記反射層側に斜方した第2凸部を有する第2無機微粒子層を形成する第2無機微粒子層形成工程と、を含むことを特徴とする偏光素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の偏光素子、または、請求項4または5に記載の偏光素子の製造方法によって製造された偏光素子を搭載したことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−141468(P2011−141468A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2693(P2010−2693)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】