説明

健康状態測定装置および報知装置および報知方法

【課題】排便時に併発されるガス中の所定成分の濃度を計測することにより、非侵襲で簡易的に血液の脂質代謝に関する情報を入手し提供することを可能とする。
【解決手段】本発明では、便器の便鉢に存在する排便時に併発されるガス中の所定成分の濃度を測定するガスセンサと、予め前記所定成分濃度とユーザの血液成分中の脂質代謝に関する情報との対応データを記憶している記憶部と、前記ガスセンサで測定された所定成分濃度を前記対応データに適用し、前記ユーザの血液成分中の脂質代謝に関する情報を前記対応データから選択する制御部と、を備えたことを特徴する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの血液成分に関する情報を排便時に併発されるガス成分から推定するための技術に関わる発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、食事や生活習慣を起因とする生活習慣病が増加している。特に高カロリー、高脂肪などの欧米型の生活習慣は高脂血症発症の原因であり、三大生活習慣病の一つである動脈硬化性疾患の危険因子となることがわかっている。生活習慣病を予防するには、食事や生活習慣を見直し健康行動に結びつけることが必要である。食事や生活習慣を見直す上で、血液成分中の脂質代謝に関する情報、すなわち血液中の総コレステロールやLDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪などの情報は有用な情報となる。
【0003】
従来の血液成分中の脂質代謝に関する情報を入手する方法としては採血がある。ユーザは集団健診を受けるかまたは病院で採血をすることで血液成分中の脂質代謝に関する情報を入手することができる。
採血は侵襲的な手法であるが、非侵襲で血液成分中の脂質代謝に関する情報を収集する技術としては、生体に光を照射し、透過光および反射光を受光し、分析することで計測を行うものがある。(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、あらかじめ入力されて記憶されているユーザの身長、体重、年齢、性別の情報と計測された生体インピーダンスの情報とから、ユーザの内臓脂肪横断面積を演算し、その演算結果からさらに血液成分中の脂質代謝に関する情報を演算し表示する方法もある。(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
血液成分情報に関する技術ではないが、排泄物とともに排出されるガス成分を利用して、腸内状態を知る技術としては特許文献3がある。特許文献3は、腸内状態報知装置およびその方法に関する本出願人の発明である。この装置では、排泄物から出る排泄ガス中の水素ガスをガスセンサで測定し、ガスセンサから出力された信号値に対応した腸内状態情報を腸内健康度判定用付属情報から抽出してユーザに報知するものである。腸内状態情報としては腸内に存在する種々の菌の総数、ビフィズス菌の数、悪玉菌の数、腸内菌の総数のうちのビフィズス菌数の割合、又は、腸内菌の総数のうちの悪玉菌数の割合等を採用している。
【0006】
特許文献4の腸内状態報知装置およびその方法も本出願人の発明であり、特許文献3と同様に排泄ガス中の水素ガスをガスセンサで検出し、腸内菌のバランスに関する情報を抽出してユーザに報知するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−237775号公報
【特許文献2】特許4132768号公報
【特許文献3】特開2008−237775号公報
【特許文献4】特許4132768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
採血は侵襲的な手法であり精神的な苦痛と肉体的な痛みを伴なう。また専門的知識とスキルを有する資格者でないと採血できないため、ユーザは集団検診を受けるか病院で検査をする必要があり、血液成分中の脂質代謝に関する情報を頻繁には入手できない。一方、特許文献1に記載された非侵襲で血液成分中の脂質代謝に関する情報を収集する技術では、計測とデータ処理には高額で大型の装置が必要であり、ユーザが日常的に手軽に利用できるものではない。
【0009】
特許文献2は、あらかじめ入力されて記憶されているユーザの生体情報と計測された生体インピーダンスの情報とから、血液成分中の脂質代謝に関する情報を演算し表示する方法であるが、肥満度に基づいて推測された情報である。血液成分中の脂質の濃度は食事の量だけでなく食事の質や個人の消化吸収能力にも影響を受けるので、体型が肥満ではないが血液中の脂質成分が多い人に対しては誤った情報を提供する可能性がある。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、非侵襲で簡易的に血液の脂質代謝に関する情報を入手し提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の健康状態測定装置は、便器の便鉢に存在する排便時に併発されるガス中の所定成分の濃度を測定するガスセンサと、予め前記所定成分濃度とユーザの血液成分中の脂質代謝に関する情報との対応データを記憶している記憶部と、前記ガスセンサで測定された所定成分濃度を前記対応データに適用し、前記ユーザの血液成分中の脂質代謝に関する情報を前記対応データから選択する制御部と、を備えたことを特徴する。
【0012】
本発明の健康状態測定方法は、便器の便鉢に存在する排便時に併発されるガス中の所定成分の濃度をガスセンサを用いて測定し、次に、予め前記所定成分の濃度とユーザの血液成分中の脂質代謝に関する情報との対応データを記憶している記憶部から前記対応データを呼び出し、制御部において、前記ガスセンサで測定された所定成分濃度を前記対応データに適用し、前記ユーザの血液成分中の脂質代謝に関する情報を前記対応データから選択することを特徴する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、血液成分中の脂質代謝に関する情報を集団健診に頼らず、日常的に手軽に入手できる。また排便時に併発されるガス中の成分を利用しているので、ユーザの日々の食事習慣を反映した情報として提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)〜(c)は本発明に係る検出されたガス濃度から血液の脂質代謝に関する情報を推定するための手順を示す図である。
【図2】本発明の健康状態測定装置および報知装置(衛生洗浄便座装置に搭載)の一例を示す(部分透視)外観図である。
【図3】本発明の健康状態測定装置および報知装置(衛生洗浄便座装置に搭載)を使用した健康状態測定方法の手順を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明する。図1(a)〜(c)は、検出されたガス濃度から血液中の脂質代謝に関する情報を入手するための手順を示す一例であり、(a)は排便時に発生したガス中の二酸化炭素濃度Vをガスセンサで測定した例を示すグラフである。横軸は排便所要時間を表し、t1は排便開始時、t2は排便終了時である。ここでの排便時間とはガスセンサの出力の信号値が記憶された時間である。また縦軸は、二酸化炭素濃度(センサ出力の信号値)を表している。ガスセンサは、少なくとも最高濃度(ピーク値:Vp値)を検出することが可能であればどのようなものでも良い。ここで最高濃度(ピーク値:Vp値)は二酸化炭素濃度の最大値Vmaxから二酸化炭素濃度の最小値Vbを引いた値である。Vp値は排便量が最も多い時点で出現するため、このときのガス濃度を採用すれば、より正確な二酸化炭素濃度(センサ出力の信号値)を推定することができる。なお、二酸化炭素濃度(センサ出力の信号値)のデータは、本装置が次に使用される前に当該濃度を消去するか、あるいは、別の記憶部に移行させることにより、データの混交を防止することができる。
【0016】
図1(b)は二酸化炭素の最高濃度(Vp値)と血液中の脂質代謝の情報との関係を表す図である。治療を必要とする疾患を持たない健康成人(被験者)12名に対し、血液中の脂質代謝に関する項目、すなわち中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロール値を検査し、それらの項目のうち、一つでも検査値が基準値を外れている被験者群(x)とすべての項目で検査値が基準値に入っている被験者群(y)とに分けて、それぞれ排便時に発生する二酸化炭素の最高濃度をガスセンサで測定した測定値(個人の平均値)をプロットした図である。
【0017】
図1(c)は、図1(b)に示された二酸化炭素の最高濃度(Vp値)に応じて適合する血液中の脂質代謝に関する情報を対応付けた図である。例えば、ある測定で得られた二酸化炭素の最高濃度(Vp1値)は、その値が一定濃度(Vd)以下(図では領域(A):300ppm以下)、または一定濃度(Vu)以上(図では領域(C):600ppm以上)の場合には、「血液中の脂質代謝に関する1つ以上の項目が基準値から外れている」という情報が対応づけられており、二酸化炭素の最高濃度(Vp1値)が一定濃度範囲(図では領域B:VdからVuまでの範囲。300ppmより大きく600ppmより小さい範囲)に入る場合は、「血液中の脂質代謝に関する全ての項目が基準値に入っている」という情報が対応付けられている。
【0018】
図1(a)〜(c)により、上記の二酸化炭素の最高濃度(Vp値)に対応する血液中の脂質代謝に関する情報を得ることができる。得られた血液中の脂質代謝に関する情報を表示することで、ユーザは排便するだけで非侵襲で簡易的に血液の脂質代謝に関する情報を入手できる。さらに、二酸化炭素の最高濃度(Vp値)を記憶部に蓄積しておき、適宜呼び出して経時的なデータ処理をほどこすことにより、ある期間の食事質の情報を加味した情報を提供することができ、日々の健康状態を管理することができる。
【0019】
本発明の健康状態測定装置および報知装置は、例えば洋式便器に付設された衛生洗浄便座装置に内蔵したり、洋式便器の便座に内蔵したり、あるいは、既設の洋式便器に後付けすることができる。また携帯型にして、どこのトイレに入っても手軽に血液成分中の脂質代謝に関する情報を入手できるようにすることも可能である。
【0020】
図2は本発明の健康状態報知装置Mを搭載した洋式便器に付設された衛生洗浄便座装置の一例を示す(部分透視)外観図である。便器1に付設された健康状態測定装置Lを内蔵した衛生洗浄便座装置2と便鉢3周縁の頂部との間に設けたスペースを利用して脱臭ファン用排気通路4が設置されている。脱臭ファン用排気通路4内に二酸化炭素センサ5が取り付けられている。また、記憶部6および制御部7は一体化して衛生洗浄便座装置2の後部内に組み込まれ、さらに、二酸化炭素の最高濃度(Vp値)と対応付けられた血液の脂質代謝に関する情報を報知する報知部8は、衛生洗浄便座装置の操作部9に組み込まれている。
【0021】
すなわち、健康状態測定装置Lの構成は、二酸化炭素センサ5、記憶部6および制御部7からなり、健康状態報知装置Mの構成は健康状態測定装置Lおよび報知部8からなる。なお、二酸化炭素センサ5と制御部7とのデータ交換は結線により、また制御部7と報知部8とのデータ交換は赤外線により行っている。
【0022】
図3は、本発明の健康状態測定装置および報知装置(衛生洗浄便座装置に搭載)を使用した健康状態測定方法の手順を示す一例である。使用者(以後、「ユーザ」と呼ぶ。)の動作を左側に、衛生洗浄便座装置が行う処理(健康状態測定装置および報知装置の処理を含む)を右側に、それぞれ振り分けて表示した。
【0023】
以下、本図を説明する。ユーザはトイレ内に入室し排便をして退室するのであるが、このトイレには本発明の健康状態測定装置および報知装置が取り付けてあるため、退室する前には自分の血液中の脂質代謝に関する情報が表示されることで、その日の体調を知り、あるいは継続的に測定していた場合は経時的な体調の変化を知ることができる。
【0024】
ユーザが入室すると人体検知センサによって入室が検知される。するとガスセンサのスイッチが入る。人体検知センサを使わない場合は、ユーザが健康状態測定装置および放置装置の電源を手動で入れてもよい。ユーザが着座すると着座センサが着座を検知し、ガスセンサが記録および記憶を開始する。着座センサを使わずにユーザが各センサの始動スイッチを押してもよい。
【0025】
ガスセンサ稼動開始時の時刻をt1とし、その時刻に対応するガスセンサ出力の信号値(二酸化炭素濃度)をV1と呼ぶ。ガスセンサ出力の信号値(二酸化炭素濃度)はガスセンサ稼動と同時に記憶部に記憶される。ユーザが排便を開始し終了するまで、一定時間txごとにデータVxを検出し、それらを記憶部に書き込む。
【0026】
排便終了後、ユーザがおしり洗浄を開始する。このとき、洗浄ボタンと連動させてセンサの記録を終了させる。排便終了時の時間t2と各センサのそのときの検知データV2が記憶される。尚、排便前または排便中に洗浄ボタンが使われるケースもあることを考慮する場合は、洗浄ボタンと連動させずにユーザが手動で記憶終了させる形式としてもよい。
【0027】
記憶終了後に、制御部はt1〜t2の範囲で二酸化炭素濃度の最大値Vmaxを検索する。そしてVmaxの値またはVmaxから二酸化炭素濃度の最小値Vbを引いた値を測定値(ピーク値Vp)として記憶部に記録する。
【0028】
制御部は上述の図1(c)に示したような対応データに基づいてピーク値Vpに対応する血液中の脂質代謝に関する情報を対応させ、情報を記憶部に書き込む。報知部は記憶部に書き込まれた対応結果をユーザに表示等により報知する。
【0029】
ユーザが離座すると、それを着座センサが感知し、また、退室すると人体検知センサによって退室が検知される。健康状態測定装置のスイッチは、離座または退室が検知されたときに電源offとする。
【0030】
本発明において、排便時に併発されるガス中の所定成分を利用することには次の理由がある。血液成分中の中性脂肪やコレステロールを増加させる食事習慣としては、高脂肪の食事習慣および高カロリーの食事習慣がある。高脂肪の食事習慣では血液中のコレステロールが増加する傾向にあり、高カロリーの食事習慣では血液中の中性脂肪が増加する傾向がある。一方で、排便時に併発されるガスの種類や量は摂取する食事の量や質すなわち食事習慣の影響を受けることがわかっている。ガスの中でも水素や二酸化炭素は食物繊維などの難消化性の多糖類や未消化の炭水化物が腸内細菌により分解される過程で生成されるものであり、大腸に入ってくるこれら難消化性の多糖類や未消化の炭水化物の量が多いほど多量に生成されるといわれている。
【0031】
高脂肪の食事習慣では摂取する食事の量は適正量であるが、摂取される食物繊維や炭水化物が相対的に少ない傾向にあるので、高脂肪ではない食事習慣に比べて、排便時に併発されるガス中の水素や二酸化炭素の量が少ない傾向がある。一方で高カロリーの食事習慣では栄養バランスは適正であるが、摂取される食事量が適正量を超えており、腸内細菌に利用される未消化の炭水化物や難消化性の多糖類の量が相対的に多い傾向にある。すなわち、排便時に併発されるガス中の水素や二酸化炭素の量は、適正な食事量を摂取している場合に比べてより多くなると推測される。このように食事習慣の影響により血液成分中の中性脂肪やコレステロールの濃度が変動し、同時に排便時に併発されるガス中の水素や二酸化炭素の量も変動するので、排便時に併発されるガス中の水素や二酸化炭素の量と、血液成分中の中性脂肪やコレステロールの状態、すなわち血液成分中の脂質代謝に関する情報とを対応付けることが可能と考えられる。
【0032】
上述したように、食事や生活習慣を見直す上で、血液成分中の脂質代謝に関する情報は有用な情報となるが、血液成分中の脂質代謝に関する情報を毎日の生活の中で定常的にチェックをすることは大変に困難である。したがって、日常的に行われる排便行為時に、何の負荷もなく簡便に、食事習慣を反映した血液成分中の脂質代謝に関する情報を知ることのできる健康状態測定装置および報知装置は有益である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本実施例によれば、血液成分中の脂質代謝に関する情報を集団健診に頼らず、日常的に手軽に入手できる。また排便時に併発されるガス中の成分を利用しているので、ユーザの日々の食事習慣を反映した情報として提供できる。
【符号の説明】
【0034】
1…便器
2…衛生洗浄便座装置
3…便鉢
4…脱臭ファン用排気通路
5…ガスセンサ
6…記憶部
7…制御部
8…報知部
L…健康状態測定装置
M…健康状態報知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器の便鉢に存在する排便時に併発されるガス中の所定成分の濃度を測定するガスセンサと、
予め前記所定成分濃度とユーザの血液成分中の脂質代謝に関する情報との対応データを記憶している記憶部と、
前記ガスセンサで測定された所定成分濃度を前記対応データに適用し、前記ユーザの血液成分中の脂質代謝に関する情報を前記対応データから選択する制御部と、
を備えたことを特徴する健康状態測定装置。
【請求項2】
前記所定成分が二酸化炭素であることを特徴とする請求項1に記載の健康状態測定装置。
【請求項3】
前記対応データは、複数の所定成分濃度の範囲と、それぞれの所定成分濃度の範囲に対応した前記ユーザの血液成分中の脂質代謝に関する情報と、からなることを特徴とする請求項1または2に記載の健康状態測定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の健康状態測定装置と、
前記制御部で選択された前記ユーザの血液成分中の脂質代謝に関する情報をユーザに報知する報知部と、を備えたことを特徴とする健康状態報知装置。
【請求項5】
便器の便鉢に存在する排便時に併発されるガス中の所定成分の濃度をガスセンサを用いて測定し、
次に、予め前記所定成分の濃度とユーザの血液成分中の脂質代謝に関する情報との対応データを記憶している記憶部から前記対応データを呼び出し、
制御部において、前記ガスセンサで測定された所定成分濃度を前記対応データに適用し、前記ユーザの血液成分中の脂質代謝に関する情報を前記対応データから選択することを特徴する健康状態測定方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−197081(P2010−197081A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39362(P2009−39362)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】