説明

側壁剪断分離層

圧縮空気式タイヤでは、肩部剪断層及びビード部剪断層の対が、カーカス層の少なくとも軸方向片側に置かれる。実施例は、布内に弾性繊維が織り込まれたエラストマー布で構成されてもよい。こうした布は、スパンデックス繊維でもよく、更に布はトリコット構造のナイロン繊維を加えて織られることを特徴としてもよい。別の実施形態は、MA10が1MPa〜350MPaであるポリウレタンタイプのエラストマー素材で構成される剪断層を、少なくとも1つ含む。挟み衝撃領域内の模範的な肩部剪断層及びビード部剪断層は、タイヤの内部を挟んで反対側にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、タイヤ側壁構造に関し、より具体的に、挟み衝撃からのタイヤの損傷を最小限にするための側壁内の剪断分離層に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書で用いられる場合、挟み衝撃は、タイヤの肩部がタイヤのビード部に接触するか、又は、ほぼ接触するように、タイヤの踏み面部分が衝撃を受ける際に生じ得るタイヤ条件を記述する。そのような条件では、タイヤの側壁は、肩部がビード部に接触するか又はほぼ接触するように、バックルで締め付けられるか、又は、それ自体の上に折り畳まれる。そのような挟み込みの間に、タイヤ複合構造のゴム混合物及びカーカス層は、リムと障害物又はタイヤの通過経路内の他の機構との間で圧縮される。タイヤに利用されるゴム系の材料は実質的に圧縮不可能であるので、ゴムは、挟み込みを生じさせる力にほぼ垂直な方向に伸びる。そのような伸びは、ポアソン効果として知られている。ゴムの伸びは、変位としてカーカス層コードに移され、強い衝撃等のある条件下で、カーカス層コードは、コードが切断される破断強さを超えて、変形を被り得る。
【0003】
挟み衝撃からのそのような損傷により、多くの場合、カーカス層コードが、2つの異なる場所に、タイヤの肩部内、タイヤのビード部内のどちらか、又は、それらの両方に分断されることになることが観察されている。コードのそのような分断は、コードがタイヤの保全性に寄与するので、望ましくない。破壊されるコードの数に応じて、タイヤは、変形又は切断又は損傷が十分に激しい場合、タイヤの収縮を示し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、タイヤの踏み面部分への強い衝撃を生じさせる質の悪い道路条件又は他の要因は、挟み衝撃に寄与し得る。例えば、舗装されていない又は舗装が不十分な道路は、挟み衝撃をまねき得る様々な穴又は他の突然の高さの変化を有し得る。同様に、残骸又は他の障害物を含む道路により、タイヤが道路内のそのような障害物に突き当たる際に、挟み衝撃が生じ得る。従って、激しいタイヤの挟み込みをまねく条件が予期又は予想される道路表面に対して、ラジアル層の破壊に対してより耐性のあるタイヤが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の特定の実施形態は、挟み衝撃からの損傷への耐性が増した圧縮空気式のタイヤを含み、そのような実施形態は、タイヤの肩部及びビード部内に1つ以上の剪断層を有する。特定の実施形態は、肩部剪断層の対を有する圧縮空気式のタイヤを含み、その対の1つは、それぞれ各側壁に位置し、各々の前記剪断層は、カーカス層の少なくとも軸方向片側に置かれ、肩部剪断層は、側壁からクラウンに向かって伸びている。そのようなタイヤは、ビード部剪断層の対を更に含み得る。その対の1つは、それぞれ各側壁に位置し、各ビード部剪断層は、カーカス層の少なくとも軸方向片側に置かれ、ビード部剪断層は、側壁からビードコアに向かって伸びている。
【0006】
特定の実施形態は布に織られた弾性繊維を有する同エラストマー布からなる、剪断層の少なくとも一つを備える。こうした繊維はスパンデックス繊維でも良く、同布は更にトリコット構造のナイロン繊維を加えて織られることを特徴としても良い。
【0007】
特定の実施形態は1MPaから350MPaの間のMP10を有するポリウレタン型エラストマー材料からなる、剪断層の少なくとも一つを備える。
【0008】
特定の実施形態は、10%(MA10)で計測される引張弾性率が、カーカス層の軸方向内側の外側に置かれる側壁部品を構成する全エラストマー組成物のうちの最低のMA10として選択されるMA10の110%以下である、エラストマー組成物で構成される剪断層のうちの少なくとも1つを含む。タイヤの挟み衝撃領域内の肩部剪断層とビード部剪断層は、タイヤの内部を挟んで互いに反対側にある。
【0009】
特定の実施形態は、10%(MA10)で計測される引張弾性率が、カーカス層の軸方向外側の側壁ビード部部品を構成する全エラストマー組成物のうちの最高のMA10として選択されるMA10の110%以下である、エラストマー組成物で構成されるビード部剪断層のうちの少なくとも1つを含み得る。
【0010】
特定の実施形態は、10%(MA10)で計測される引張弾性率が25MPa〜100MPaである、単繊維補強エラストマー組成物で構成される肩部剪断層及びビード部剪断層の対のうちの少なくとも1つを含み得る。
【0011】
特定の実施形態は、側壁からクラウン層の半径方向内側の位置へ、クラウン層及び/又はビード部分剪断層の軸方向末端から既定の距離dだけ伸びる肩部剪断層、及並びに/若しくは、タイヤの軸方向に垂直な方向に、ビードコアの中心から既定の距離hにある位置へ伸びるビード部分剪断層を含み得る。距離dは、例えば、少なくとも10mmであり得、高さhは、例えば、15mm以下であり得る。
【0012】
特定の実施形態は、側壁に向かって、例えば、ビードコアの中心から少なくとも30mmにある点まで伸びるビード部剪断層を含み得るか、又は、クラウン層の軸方向末端からビード部に向かって、例えば、少なくとも20mmの距離にわたり伸びる肩部剪断層を含み得る。
【0013】
本発明の上記の及び他の目的、特徴及び利点は、類似の参照番号が本発明の類似の部品を表している付属の図面で示されるような、本発明の特定の実施形態の以下のより詳細な記載から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による圧縮空気式タイヤの模範的な実施形態の部分断面図である。
【図2】挟み込みを被っている図1に示されるタイヤの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の特定の実施形態は、挟み衝撃からの損傷に対する耐性が増した圧縮空気式タイヤを含む。様々な実施形態は、挟み衝撃損傷に対する耐性を与えるために、タイヤの側壁の様々な場所で与えられる剪断層を含む。そのような挟み衝撃による損傷は、例えば、カーカス層内の1つ以上のコードの破壊を含み得る。より具体的に、そのような実施形態では、剪断層は、タイヤの肩部及びビード部内において、タイヤが挟み衝撃条件にある場合に、タイヤの挟み衝撃領域内の肩部剪断層とビード部剪断層がタイヤ内部を挟んで互いに反対側にあるような位置に与えられる。
【0016】
本明細書で用いられる場合、挟み衝撃は、タイヤの肩部がタイヤのビード部に接触するか又はほぼ接触するように、タイヤの踏み面部分が衝撃を受ける際に生じ得るタイヤ条件を記述する。従って、挟み衝撃を被るタイヤの挟み衝撃領域は、タイヤの肩部がタイヤのビード部分に接触するか又はほぼ接触する、タイヤの部分である。
【0017】
剪断層は、挟み衝撃条件にあるタイヤから起こり得る損傷を最小限にする剪断分離層として働くと考えられる。カーカス層のコード及びそれらのコードを取り巻くゴム(エラストマー母材)は、異なる引張弾性率を有するので、タイヤが、挟み衝撃の際に極端な変形を被る場合、コードと、コードに接するゴム、つまり、カーカス層内のコードを包み込むゴムとの間の境界面で剪断が発現する。カーカス層の少なくとも片側に剪断層を配置することにより、境界面を分離することによる境界面での剪断が限定されると考えられる。剪断を分離すれば、挟み衝撃からのコードの損傷は、最小限にされる。
【0018】
挟み衝撃によるタイヤの損傷に対する耐性が増加する剪断層は、1)タイヤの各側面の肩部領域内の、及び、2)タイヤの各側面のビード領域内の、カーカス層の少なくとも軸方向片側に置かれる。より具体的には、特定の実施形態は、カーカス層の軸方向内側に、カーカス層の軸方向外側に、又は、カーカス層の両側に位置する剪断層を含み得る。カーカス層の片側のみへの剪断層の配置を含むこれらの実施形態では、肩部剪断層とビード剪断層の配置は、カーカス層の同じ側であり得る。例えば、肩部剪断層とビード部剪断層の両方が、カーカス層の軸方向内側に、又は、カーカス層の反対側に位置する。特定の実施形態では、1つ以上の剪断層が、カーカス層の表面から、5mm以下だけ、又は代わりに、3mm以下だけ、又は1mm以下だけ分離され得る。より具体的には、これらの実施形態では、材料の介入層が、カーカス層の側面と、カーカス層の側面に隣接するが、その上ではない所に置かれる剪断層との間に含まれ得る。
【0019】
特定の実施形態では、剪断層の一部分が、カーカス層の両側に剪断層を有し得るのに対し、剪断層の他の部分が、カーカス層の片側のみに剪断層を有し得ることに留意するべきである。例えば、ビード部剪断層は、カーカス層の両側にビード剪断層を含み得るのに対し、肩部剪断層は、カーカス層の片側のみに1つの肩剪断層を含み得る。
【0020】
剪断層は、極めて薄く、幾つかの実施形態では、剪断層厚は、例えば、0.2mm〜2mmであり得、他の実施形態では、剪断層厚は、0.3mm〜1.5mm、0.3mm〜1mm、0.3mm〜0.7mm、又は、0.4mm〜0.7mmであり得る。剪断層は、カーカス層の向かい側に、例えば、タイヤ組立工程中にシートとして剪断層を置くことにより、又は、タイヤ組立工程中の押出成形により、又は、カーカス層との共押出により置かれ得る。全ての方法は、当業者に十分に知られている。エラストマー布またはポリウレタン系材料からなる、剪断層を有する特定の実施形態における剪断層厚は0.05mmから3mmの間の範囲でも良く、あるいは、上記に掲載された厚さのいずれかまたは、0.1mmから3mmの間、0.5から3mmの間、0.5から2mmの間、または0.5mmから1mmの間でも良い。ポリウレタン型エラストマー材料からなる、剪断層を備える特定の実施形態において、厚さは非常に薄くて良く、同材料が噴霧されるまたは刷毛で塗られる場合は50ミクロン未満でも良い。
【0021】
幾つかの実施形態では、剪断層は、全て同じ厚さを有するが、その事例である必要はないことに留意するべきである。1つ以上の剪断層は、他の剪断層とは異なる厚さを有し得る。更に、1つ以上の剪断層は、剪断層の長さにわたり、異なる厚さを有し得る。
【0022】
本発明は、肩部剪断層とビード部剪断層として剪断層を記載し、そのような記載は、剪断層が、少なくともタイヤの肩領域及びビード領域で、カーカス層の上に及び/又はそれに隣接して置かれることを単に教示していることに留意するべきである。特定の実施形態は、例えば、カーカス層の1つ以上の側に、1つのビード領域から、クラウン領域を通り、他のビード領域までずっと連続剪断層を与えることを含み得る。他の実施形態は、例えば、ビード部から肩部層へビード剪断層を伸ばすことにより、ビード剪断層の開始端から、クラウン内の又はクラウン付近の肩剪断層の末端を通る連続的な剪断層を与えることを含み得る。
【0023】
上記のように、本発明の特定の実施形態は、既定の場所に、既定の長さで、肩部剪断層とビード部剪断層を置いて、タイヤの挟み衝撃領域内の肩部剪断層とビード部剪断層が、タイヤ内部を挟んで互いに反対側にあることを確保する。
【0024】
特定の実施形態では、肩部剪断層は、全て同じ長さを有し得、ビート部剪断層は、全て同じ長さを有し得る。従って、他の実施形態では、肩部剪断層の長さは、カーカス層の長さに沿って異なる場所で始まる、及び/又は、異なる場所で終わることにより異なり得る。その上、ビード部剪断層の長さは、カーカス層の長さに沿って異なる場所で始まる、及び/又は、異なる場所で終わることにより異なり得る。
【0025】
同実施形態では、剪断層は、例えば、タイヤの構成に通常利用されるゴム組成物等のエラストマー組成物で構成され得る。エラストマーは伸ばされた後で基本的に元の形に戻る材料として知られる。あるいは、同剪断層はポリウレタン型エラストマー材料および/または弾性繊維を有する布でも良い。ここで用いられるポリウレタン型エラストマーはポリウレタン、ポリ尿素、およびポリウレタン尿素である。剪断層は、以下に考察されるように、タイヤの他の側壁を構成する他のエラストマー組成物のMA10と比較して、10%伸張(MA10)での引張弾性率を基にして選択されるエラストマー組成物で構成され得るように定められている。
【0026】
本明細書に用いられる場合、明細書及び請求項の両方で、そのような引張弾性率は、MPaで表記され、ASTM規格D412に従ってダンベル試験片上で、23℃の温度で計測される。これらの計測は、試験片の原断面積に基づいた、MPaでのセカント弾性係数である。一般に、MA10が高い材料は、硬い材料であり、MA10が低い材料は、軟らかい材料である。同ダンベル試験片はタイヤ構造や、弾性繊維布およびポリウレタン型エラストマー材料のような、剪断層構造に適するその他の材料に通常使用されるゴム組成からなってもよい。
【0027】
従って、第2の材料よりも軟らかい材料は、MA10が第2の材料のMA10未満である材料である。第2の材料よりも「やや軟らかい」材料は、第2材料のMA10の110%以下、又は代わりに、107%以下、105%以下、103%以下、若しくは、第2材料のMA10に等しいMA10を有する材料である。
【0028】
更に、特定の実施形態において剪断層は、カーカス層の軸方向内側面の外側に置かれるタイヤの他の側壁部品を構成する他のゴム組成物のMA10と比較して、MA10を基に選択されるエラストマー組成物で構成され得る。より具体的に、特定の実施形態において剪断層が構成され得る適切なゴム組成物は、a)カーカス層の軸方向内側面から軸方向外側の側壁部品を構成する最も軟らかい材料よりも軟らかいか、又は、やや軟らかいこと、若しくは、b)剪断層が位置するタイヤ断面内での、且つ、カーカス層の軸方向内側面から軸方向外側にある、側壁部品を構成する最も軟らかい材料よりも軟らかいか、又は、やや軟らかいことを特徴し得る組成物である。従って、内部ライナーは、剪断層材料を選択するための側壁部品と見なされるものとして、除外されることに留意するべきである。
【0029】
例えば、ビード部剪断層は、いずれかの側壁部品(内部ライナーを考慮に入れない)を構成する最も軟らかい材料よりも軟らかいゴム組成で、又は、ビード部部品(内部ライナーを考慮に入れない)を構成する最も軟らかい材料よりも軟らかいゴム組成で構成され得る。加えて、肩部剪断層は、いずれかの側壁部品を構成する最も軟らかい材料よりも軟らかいゴム組成で、又は、肩部部品(両方に対して、内部ライナーを考慮に入れない)を構成する最も軟らかい材料よりも軟らかい材料で構成され得る。
【0030】
適切なエラストマー組成物が選択され得る別の基準は、ビード部剪断帯を選択することに該当する。ビード部剪断帯では、組成物は、c)ビード部内の最も硬いエラストマー組成物よりも軟らかいか、又は、やや軟らかいものとして選択され得る。大抵のタイヤでは、最も硬いエラストマー組成物は、タイヤのビード充填剤を構成する組成物であり得る。
【0031】
特定の実施形態の剪断帯を構成するのに適切なエラストマー組成物が選択され得る別の基準は、d)MA10が25MPa〜100MPa、又は代わりに、40MPa〜80MPA、45MPa〜75MPa又は50MPa〜70MPaである短繊維補強エラストマー組成物を特徴とし得る材料を選択することである。
【0032】
短繊維補強エラストマー組成物は、エラストマーの1000重量部当たり1〜20重量部(phr)、又は代わりに、2phr〜15phr、3phr〜13phr又は5phr〜10phrを有する組成物である。短繊維は、例えば、アラミド、ガラス、ポリエステル、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタラート(PEN)又はナイロンのような材料から構成され得る。1つ以上の異なる種類及び/又は長さの短繊維の混合物が、剪断層の特定の実施形態に加えられ得る。短繊維は、例えば、0.01〜5mm、又は代わりに、0.1〜5mm、0.5mm〜5mm若しくは1〜4mmの長さを有し得る。特定の実施形態では、ゴム組成物内に組み込まれ得る、あらゆる長さの短繊維が適切であり得る。
【0033】
本発明による剪断層として適切な材料を選択するのに利用され得る手続の実施例は、内部ライナーを除いて、側壁、ビード部及び肩部の部品を構成する各エラストマー材料のMA10を得ることを含み得る。そのような部品は、例えば、側壁の外部薄皮、ビード充填剤、踏み面及びカーカス層のエラストマー母材を含み得る。次に、カーカス層のエラストマー母材は、通常、壁面内で最も軟らかい材料であるので、肩部剪断層及びビード部剪断層は、カーカス層のエラストマー母材よりも軟らかいゴム組成で構成され得る。その上、肩部剪断層及び/又はビード部剪断層は、MA10が50MPaである短繊維補強エラストマー材料で構成され得る。代わりに、ビード部剪断層は、(通常、その事例であるように)ビード充填剤がタイヤのビード部内で最も硬い材料の場合、ビード充填剤よりも軟らかいゴム組成から構成され得る。
【0034】
本発明の特定の実施形態では、剪断層は、上に与えられた材料の選択についての制約a〜dが満足される限り、同じ材料で構成され得る。代わりに、1つ以上の剪断層は、上に与えられた制約a〜dが満足される限り、他の材料とは異なる材料で構成され得る。その上、1つ以上の剪断層の各々は、上に与えられた制約a〜dが満足される限り、剪断層の長さに従って異なる材料から、及び/又は、剪断層の長さに従って同じ材料から構成され得る。
【0035】
剪断層を構成するのに適切なゴム組成物は、当業者に周知のようなタイヤ構造での利用に適している、それらのゴム組成物を含む。通常、そのようなゴム組成物は、天然ゴム、合成ジエンゴム又はそれらの組み合わせ等のジエン系ゴムに基づく。
【0036】
ジエンエラストマー又はゴムは、ジエン単量体(共役型の又は非共役型の2つの二重炭素間結合を有する単量体)から少なくとも部分的に(即ち、同種重合体又は共重合体)生じる、それらのエラストマーを意味すると理解される。本質的に、不飽和ジエンエラストマーは、15mol%を超えるジエン源物質(共役ジエン)の部又はユニットの含有量を有する共役ジエン単量体から少なくとも部分的に生じる、それらのジエンエラストマーを意味すると理解される。本質的に不飽和のゴムエラストマー
【0037】
従って、例えば、ブチルゴム、ニトリルゴム又は、ジエンと、エチレン−プロピレンジエン三元重合体(EPDM)型又は酢酸エチレンビニル共重合体型のアルファオレフィンとの共重合体等のジエンエラストマーは、先の定義内にはなく、特に、「本質的に飽和した」ジエンエラストマー(ジエン源物質のユニットの低い又は極めて低い含有量、即ち、15mol%未満)として記載され得る。本発明の特定の実施形態は、本質的に、飽和ジエンエラストマーを含み得ない。
【0038】
本質的に不飽和ジエンエラストマーの分類内に、高度不飽和ジエンエラストマーがあり、特に、50mol%を超えるジエン源物質(共役ジエン)のユニットの含有量を有するジエンエラストマーを意味すると理解される。本発明の特定の実施形態は、高度不飽和ジエンエラストマーのみに基づく剪断層を提供する。
【0039】
本発明の特定の実施形態での利用に適したゴムエラストマーは、高度不飽和ジエンエラストマーを、例えば、ポリブタジエン(BR)、ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエン共重合体、イソプレン共重合体及びそれらのエラストマーの混合物を含む。
【0040】
その上、本発明の特定の実施形態での利用に適しているのは、共重合体であり、例えば、ブタジエン−スチレン共重合体(SBR)、ブタジエン−イソプレン共重合体(BIR)、イソプレン−スチレン共重合体(SIR)及びイソプレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBIR)、それらの混合物、並びに/若しくは、他の本質的に不飽和の及び/又は高度に不飽和のゴムエラストマーとの混合物を含む、ゴムエラストマーである。
【0041】
その上、本発明の特定の実施形態での利用に適しているのは、例えば、天然ゴム、合成シス−1,4ポリイソプレン、並びに、それらの混合物、及び/又は、他の本質的に不飽和の及び/又は高度に不飽和のゴムエラストマーとの混合物を含むゴムエラストマーである。これらの合成シス−1,4ポリイソプレンは、90mol%を超える、又は代わりに、98mol%を超えるシス−1,4結合を有することを特徴とし得る。
【0042】
ジエンエラストマーに加えて、剪断層を構成するのに適したエラストマー組成物は、当業者に知られているような追加の成分を含み得る。そのような追加の成分として、例えば、補強充填材、結合剤、可塑剤、様々な処理補助剤、油増量剤、劣化防止剤又はそれらの組み合わせが挙げられ得る。適切な充填剤として、カーボンブラック並びに、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、粘土及び/又は炭酸カルシウム等の無機充填剤(「白色充填剤」)が挙げられる。エラストマー組成物として、例えば、硫黄、促進剤、酸化亜鉛及びステアリン酸を含む硫黄硬化系等の硬化系が更に挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0043】
上記に開示した通り、ゴム組成からなる、剪断層に加えて、あるいは、同剪断層はポリウレタン型エラストマー材料および/または弾性繊維を有する布からなっても良い。
【0044】
弾性繊維を有する布は弾性繊維と共に、および、天然および/または化学繊維弾性繊維と共に織られた布である。こうした布の一例として、スパンデックスを使用して作られている布があり、欧州や世界の他の地域で一般にエラステインと呼ばれる。スパンデックスは周知の材料で、限界まで非常に高い弾性(最高で500%から600%)および伸びからの高い回復を有する合成弾性繊維として一般に定義される。この化学的構造は非常に複雑だが、基本的にスパンデックスは硬および軟質セグメントならびに両者の間の架橋結合を含む一連のエラストマー製品である。製造された同繊維は一般にゴムより強くて軽い。スパンデックスの特性は高延伸、可逆(繰り返し伸ばした後で一定の原形に戻る能力)、高耐久性、均一性および多用途性を含む。
【0045】
スパンデックス繊維を有する布は一般に綿、羊毛、絹、麻、ナイロン、レーヨン等の他の追加の化学または天然繊維と共に織られる。水着は弾性繊維を用いて作られた周知の製品の一例で、しばしばナイロンとスパンデックスを使用して作られる。ナイロンとスパンデックスの組み合わせはしばしばトリコット構造に織られ、またライクラ(デュポン社の登録商標)のように、通常は80%のナイロンと20%のスパンデックスを含む。この布は一般に四方伸縮性、すなわち布の長さ方向と幅方向の両方に伸びる性質のために用いられる。別の周知の織物としてラッシェル型構造があり、しばしばより高いナイロン含有量(約85%のナイロンと15%のスパンデックス)を有する。ラッシェル型構造を有する布の伸縮は該して一方向の伸縮が他方の伸縮よりも著しく大きい。
【0046】
発明を限定することなく、本発明の特定の実施形態はトリコット構造に織られたナイロンとスパンデックスの組み合わせを含む布からなる一つまたはそれ以上の剪断層を備える。他の実施形態はラッシェル型構造に織られた組み合わせを備えても良い。両構造は繊維工業では周知である。
【0047】
ポリウレタン型エラストマー材料もまた本発明の特定の実施例のための一つまたはそれ以上の剪断層としての使用に適する。適したポリウレタン型エラストマー材料は1MPaから350MPaまたは、二者択一的に5MPaから280MPa、30MPaから250MPa、40MPaから230MPa、または50MPaから190MPaの間のMA10を有するポリウレタン、ポリ尿素、およびポリウレタン尿素を含む。液体ポリウレタン型エラストマー材料を用いる特定の実施形態において、同剪断層はタイヤ施工手順中にブラシをかけたり、噴霧または押し出しされてもよい。
【0048】
ここでは、本発明の実施形態について詳細に述べられ、それらのうちの1つ以上の実施例が、図面に示される。各実施例は、本発明の説明のために与えられ、何らかの形で本発明の範囲を限定することを意味するものではない。考察の目的のために、模範的なタイヤの実施形態の半分のみが図に示されていることに留意するべきである。当業者は、本明細書に開示される教示内容を利用して、同じ又は実質的に類似の特徴が、タイヤの両側で繰り返されていることを理解するであろう。
【0049】
ここで、図1に関して、上に考察されたような、ある不利な移動条件下での挟み衝撃に対して向上した耐性を与えるために、ここで更に記載されることになるような特徴を有する圧縮空気式ラジアルタイヤ10が与えられる。タイヤ10は、路面に接触する踏み面11を有する。踏み面11は、踏み面11の半径方向内側に位置するクラウン12により支えられ、クラウン12は、ベルト束又はクラウン層13を有し、外包を堅くし、向上された装着性と運転応答を与える。側壁14は、クラウン12の軸方向末端15から半径方向内側に方向に伸びる。タイヤ10の肩部18は、側壁14の上部に形成される。タイヤビード16は、壁面14の半径方向内側に位置し、円周方向に伸縮しないビードコア17を含む。タイヤのビード部19は、側壁14の下部に形成される。ビードコア17は、単一要素として示されているが、通常、ビード16を通して円周方向に置かれる金属製の撚り線の束を含み得る。タイヤ10は、タイヤの内面を形成し、膨張ガスがタイヤ10を通過するのを抑制する、内部ライナー26を更に含み得る。当業者は、本明細書に開示される教示内容を利用して、本発明が、添付の図1及び図2に示されるようなビード16、踏み面11、側壁14又はタイヤ10の正確な形状に限定されないことを理解するであろう。様々な異なる寸法及び形状のリム上にタイヤを備え付けるための他の実施形態は、本発明の範囲内にある。
【0050】
圧縮空気式タイヤ10は、カーカス層21を更に含む。カーカス層21は、タイヤ10のビード16間で伸び、カーカス層末端22の対で終結する。各カーカス層末端22は、ビードコア17のうちの1つの周りをカーカス層21で包み込み、次に、側壁14に沿って半径方向外側方向に既定の距離にわたりカーカス層21を伸ばした後に、前記カーカス層を終結することにより形成される。カーカス層21は、ベルト束13の半径方向内側にある位置で、クラウン12を通り抜けるように伸びる。硬質ゴム組成物から成るビード充填剤23は、各ビード16の半径方向外側に置かれ、カーカス層末端22からカーカス層21を分離する。当業者に周知のように、ビード充填剤23とカーカス層末端22の配置及び寸法は、タイヤの設計基準により事前に定められ、これらの部品のいずれかの適切な幾何学形状は、本発明の範囲内にある。
【0051】
通常、カーカス層21は、ゴム組成物の薄層等のエラストマー母材中に埋め込まれる複数の互いに平行な繊維コードで構成される。当業者に周知のように、カーカス層21は、通常、コードを互いに平行に置いてエラストマー母材中に包み込む、挟み加圧工程を利用して形成される。コードは、例えば、ポリエステル、ナイロン、アラミド、レーヨン又はこれらの繊維材料の組み合わせ等の材料から作製され得る。次に、カーカス層21は、コードが一般的にタイヤ10の側壁14に沿って半径方向に向けられるように配置される。より具体的に、タイヤ10の側壁14に沿って、カーカス層22のコードは、タイヤ10の回転軸に実質的に垂直である。
【0052】
加えて、タイヤ10に、肩部18剪断層33、34及びビード部19剪断層31、32が与えられる。この模範的実施形態の肩部剪断層は、カーカス層21の軸方向外側に置かれる1つの肩部剪断層34と、カーカス層21の軸方向内側に置かれる1つの肩部剪断層33とを含む。同様に、ビード部剪断層は、カーカス層21の軸方向外側に置かれる1つのビード剪断層34と、カーカス層21の軸方向内側に置かれる1つのビード部剪断層33とを含む。
【0053】
肩部剪断層33、34は、側壁14からベルト束13の半径方向内側の位置へ伸びる。特定の実施形態では、肩部剪断層は、クラウン12に向かって既定の距離dだけ伸び、半径方向内側ベルト13の軸方向末端27を通り過ぎる。特定の実施形態では、既定の距離dは、少なくとも10mmであるが、例えば、挟み衝撃以外の製造プロセス又はタイヤ性能の考慮等の他の考慮に応じて、長く又は短くあり得る。特定の実施形態では、肩部剪断層は、ベルト13の軸方向末端27からビード部19に向かって、少なくとも20mmである既定の距離にわたり伸びる。しかしながら、そのような距離は、本発明の範囲を限定するものとして与えられていない。
【0054】
ビード部剪断層31、32は、側壁14からビード部19内の位置へ伸びる。特定の実施形態では、ビード部剪断層31、32は、側壁から、タイヤ10の軸方向に垂直な方向に、ビードコア17の中心から既定の距離hにある位置に伸びる。特定の実施形態では、既定の距離hは、15mm以下であるが、例えば、挟み衝撃以外の製造プロセス又はタイヤ性能の考慮等の他の考慮に応じて、長く又は短くあり得る。特定の実施形態では、ビード剪断層31、32は、側壁に向かって、ビードコア17の中心から少なくとも30mm以上にある点へ伸びる。しかしながら、そのような距離は、本発明の範囲を限定するようには与えられない。
【0055】
図2は、挟み衝撃を被っている、図1に示されたタイヤの部分的断面図である。タイヤ10の挟み衝撃領域は、タイヤの肩部18がタイヤ10のビード部19に接触する、又は、ほぼ接触するタイヤのその部分である。肩部剪断バンド33、34及びビード部剪断バンド31、32は、本発明の特定の実施形態に従って、タイヤ内部を挟んで互いに反対側にある。従って、挟み衝撃領域を通過する軸方向に、ビードコア17の中心を通過する線から垂直に引かれる線41は、剪断バンドがタイヤ内部を挟んで互いに反対側にある場合、ビード部剪断バンドのうちの少なくとも1つと肩部剪断バンドの少なくとも1つとを通過することになる。
【0056】
本発明は、単に説明として見なされるべきであり、何らかの形で本発明の範囲を限定するものではない、次の実施例により更に示される。実施例で開示される組成物の特性は、以下に記載されるように評価される。
【0057】
引張弾性率(MPa)は、ASTM基準D412に基づいてダンベル試験片上で、23℃の温度で、10%(MA10)と100%(MA100)で計測された。計測は、第2の引張において、即ち、適応サイクル後に行われた。これらの計測は、試験辺の原断面に基づいた、MPaでのセカント弾性係数である。
実施例1
【0058】
この実施例は、本発明に従ってカーカス層と、カーカス層を取り巻く材料との間に剪断層を与えることにより、挟み衝撃により生じるタイヤ損傷に対する耐性が向上することを実証する。試料は、調製され、本質的に準静的であってタイヤに対する挟み衝撃損傷の尤度を正確に予期する試験方法により試験された。
【0059】
試験方法は、互いに角度を付けて置かれた2つの棒の間で、複合試料を圧する。複合試料は、厚さが10mmであり、カーカス層が周囲混合物の中央に配置されている。第1カーカス層コードの破壊されるまで、2つの棒の間で複合試料を圧するのに必要な力が計測された。第1カーカス層コードを破壊するのに必要な力が大きいほど、複合試料は、挟み衝撃からの損傷に耐えるのにより優れていると位置づけた。
【0060】
2組の試験が行われた。第1組は、周囲混合物を有し、MA10が30MPaであった複合試料で実行され、その結果は、表1に示される。第2組は、周囲混合物を有し、MA10が3.5MPaであった複合試料で実行され、その結果は、表2に示される。これらのゴム組成物は、タイヤに利用される通常のゴム組成物である。より具体的に、より高いMA10を有する、利用された組成物は、タイヤのビード充填剤として利用される通常のゴム組成物であった。より低いMA10を有する組成物は、カーカス層のエラストマー母材として利用される通常の組成物である。そのような組成物及びそれらを作製し、硬化させる方法は、当業者に十分に知られている。
【0061】
各組は、周囲混合物の中央に覆い込まれるカーカス層のみを有する対照(W1及びW2)複合試料で実行された。カーカス層は、3.2MPaのMA10を有するエラストマー母材中に閉じ込まれるPETコードを含んだ。PETは、370tpmでのPET1670/2であった。PETコードを裂く力は、20daNに近く、破壊で15%の伸びであった。利用されたコード密度は、119f/dmであり、収縮は、0.9%の近くであった。
【0062】
追加の複合試料(S1〜S10)は、表1及び表2に示されるMA10計測を有するゴム組成物から成る剪断層を用いて調製された。これらのゴム組成物は、タイヤに利用される通常のゴム組成物であった。より具体的に、S1及びS2の剪断層に利用される組成物は、カーカス層内のエラストマー母材として通常利用される組成物であった。S3の剪断層に利用される組成物は、タイヤクラウン内のベルトを分離するのに通常利用される組成物であった。S4及びS5の剪断層に利用される組成物は、タイヤのビード充填剤として通常利用される組成物であった。そのような組成物及びそれらを作製し、硬化させる方法は、当業者に十分に知られている。
【0063】
剪断層は、各々が0.6mmの厚さであり、カーカス層の片側に又は両方に加えられた。複合試料の厚さは、剪断層の追加の厚さを含めて、10mmに維持された。
【0064】
次に、第1カーカス層コードを破壊するのに必要な力が、各複合試料に対しいて計測され、対照試料内の前記第1コードを破壊するのに必要な力と比較された。結果は、規格化され、表1及び表2に報告される。

表1−1−30MPaのMA10を有する周囲混合物での挟み衝撃試験の結果

表2−3.5MPaのMA10を有する周囲混合物での挟み衝撃試験の結果

【0065】
試料組成物の最も軟らかい材料が、カーカス層エラストマー母材(3.2MPa)であるので、表1及び表2に示される結果は、周囲のエラストマー材料(S1、S2、S6)よりも軟らかいか、又は、ほぼ同程度に軟らかい剪断層により、挟み衝撃に対する耐性が増すことを実証する。しかしながら、他の試料で示されるように、その弾性率が最も軟らかい材料の弾性率を超えて十分に増加するので、挟み衝撃に対する耐性は、対照試料よりも上には増加しない、又は、実際には減少する。挟み衝撃に対する耐性が、カーカス層の両側の剪断層で増加することに留意するべきである。
実施例2
【0066】
この実施例は、本発明に従って、カーカス層とそのカーカス層を取り巻く材料との間に剪断層を与え、前記剪断層混合物内に短繊維を組み込むことにより、挟み衝撃により生じるタイヤ損傷に対する耐性が向上することを実証する。
【0067】
同じ試験方法が、実施例1で利用されたように、本実施例の試料複合物について行われた。複合試料に加えられた剪断層は、それぞれ50及び75MPaのMA10を有する短繊維補強エラストマー組成物で構成された。短繊維は、アラミド(テイジン・トワロン・アラミド社から、3mmの長さのT−320繊維として入手可能)であり、それぞれ、5phr及び10phrの量で加えられた。

表3−30MPaのMA10を有する周囲混合物での挟み衝撃試験の結果


表4−3.5MPaのMA10を有する周囲混合物での挟み衝撃試験の結果

【0068】
当業者に周知にように、短繊維は、短繊維補強材料が粉砕機にかけられるか又はロール成形される際に、本質的に整列される。そのような整列は、表3及び表4に示されるように、X方向のMA10がY方向のMA10よりも高いような異方性を与える。それらの表の結果に示されるように、剪断層の異方特性は、試験結果への影響がない。
実施例3
【0069】
この例はカーカス層と本発明に基づくカーカス層の周りの材料との間に配置されるエラストマー布からなる剪断層がピンチショックによるタイヤの損傷に対する耐性を向上することを示す。
【0070】
検査のためのサンプルは例1および例2に用いられたものと同じ方法によって準備された。しかし、サンプルを上記の例に記載される準静的試験方法で行う代わりに、テスト方法は動的衝撃機械上での試験を含む。同機械は2つの垂直水平レールの間に摺動可能に取り付けられた圧子を支持する台車からなる。同台車は力センサーに相互依存の鋼板上に配置されるサンプルの異なる高さの上で開放された。採取された計測はサンプルとの衝撃における圧子の速度、サンプルの厚さの変位および衝撃力を含む。衝撃で得られたエネルギーが計算された。

表5 ピンチショック試験結果、スパンデックス剪断層

【0071】
表5に示す試験結果に見られるように、試験中に損傷したコードの数はスパンデックス剪断層を有するサンプルの中では顕著に少なかった。同剪断層はトリコット構造を有するスパンデックス布で、同布は厚さが約0.2mmでナイロン82%およびライクラ18%であった。この布は、概して水着に用いられるが、ミリケン社から得られた。
実施例4
【0072】
この例はカーカス層と本発明に基づくカーカス層の周りの材料との間に配置されるポリウレタン系エラストマー材料からなる剪断層がピンチショックによるタイヤの損傷に対する耐性を向上することを示す。
【0073】
例1に用いられたものと同じテスト方法がこの例の表6に示すP1およびP2サンプル複合材に用いられた。例3に用いられたものと同じテスト方法が表6に示すP3サンプル複合材に用いられた。同複合材サンプルに加えられた剪断層はポリウレタン尿素接着剤からなり、ひとつは50MPaのMA10を有し、他方は190MPaのMA10を有する。
表6 ピンチショック試験結果、ポリウレタン尿素剪断層

【0074】
ポリウレタン尿素接着剤の厚さは非常に薄く、0.5mm未満である。この薄い剪断層でも表6に示すようにピンショック損傷の減少に著しい改善を供給した。
【0075】
本発明の実施形態に基づく使用に適する市販の多くのポリウレタン系材料がある。この例では、190MPaのMA10を有するポリウレタン尿素接着剤P3はアミン部(短い芳香族ダイアミンと長い芳香族ダイアミンの混合)およびイソシアネート部(ヘキシル・ジイソシアネートの三量体である脂肪族トリイソシアネート)の混合で、その生成法は米国特許番号6,624,283に完全に開示されており、参照により本書に組み込まれる。この材料の破断点の伸びは室温で約15%であった。この例で用いられる50MPaのMA10を有するポリウレタン尿素材料P1、P2はP3材料より弾性力があり、室温で約370%の破断点の伸びを有した。この材料はトリイソシアネートと芳香族ジイソシアネートの置き換えにより異なる。これらの材料に関する追加情報は国際特許出願に開示される。
【0076】
用語「構成する」、「含む」、及び「有する」は、本請求項及び本明細書で用いられる場合、特定されない他の要素を含み得る開放群を指すものと見なされるべきである。用語「で本質的に構成される」は、本請求項及び本明細書で用いられる場合、特定されない他の要素が、請求される本発明の基本的な及び新規の特性を材料面で変えない限り、それらの他の要素を含み得る部分的な開放群を指すものと見なされるべきである。用語「a」、「an」、及び単語の単数形は、前記用語が1つ以上の何かを与えることを意味するように、同じ単語の複数形を含むものと受け取られるべきである。用語「少なくとも1つ」及び「1つ以上の」は、交換可能に用いられる。用語「1つの」又は「単一の」は、1つ及び単に1つのものが意図されていることを示すものとして用いられるべきである。同様に、「2つの」等の他の特定の整数値は、物の特定数が意図される場合に用いられる。用語「好ましくは」、「好ましい」、「好む」、「任意選択で」、「得る」、及び類似の用語は、参照される項目、条件又は工程が、本発明の任意選択の(任意の)特徴であることを示すように用いられる。「a〜b」として記載される範囲は、「a」及び「b」の値を含む。
【0077】
上の記載から理解されるべきことは、本発明の実施形態に対して、その真の趣旨から逸脱することなく様々な修正及び変更がなされ得ることである。上の記載は、単に説明目的のために与えられており、意味を限定するものとして解釈されるべきではない。以下の請求項の言語のみが、本発明の範囲を限定するべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラウンにより支えられる踏み面であって、前記クラウンが、前記踏み面の半径方向内側に置かれる、踏み面と、
各側壁が、前記クラウンの軸方向末端から半径方向内側に向かって伸び、各側壁が、前記タイヤの側面を定める、側壁の対と、
各ビードが、円周方向に伸縮せずにビードコアの中心を定めるビードコアを有し、各ビードが、それぞれ各側壁の半径方向内側に置かれる、ビードの対と、
エラストマー母材中に埋め込まれ、前記ビードの間で前記クラウンを通り抜けるように伸びる、半径方向に向けられた複数のカーカス層コードから構成されるカーカス層であって、前記カーカス層がカーカス層末端の対を有し、各末端がそれぞれ各ビードに固定される、カーカス層と、
前記踏み面の半径方向内側に、且つ、前記カーカス層の半径方向外側に配置され、前記タイヤの前記側壁の間に伸びる、1つ以上のクラウン層と、
肩部剪断層の対であって、前記対の1つが、それぞれ各側壁に位置し、各々の前記剪断層が、前記カーカス層の少なくとも軸方向片側に置かれ、前記肩部剪断層が、前記側壁から前記クラウンに向かって伸びている、肩部剪断層の対と、
ビード部剪断層の対であって、前記対の1つが、それぞれ各側壁に位置し、各々の前記剪断層が、前記カーカス層の少なくとも軸方向片側に置かれ、前記ビード部剪断層が、前記側壁から前記ビードコアに向かって伸びている、ビード部剪断層の対と
を含む圧縮空気式タイヤであって、
布内に弾性繊維が織り込まれたエラストマー布で、前記肩部剪断層及びビード部剪断層の対の1つ以上が構成される、および
同肩部剪断層および同タイヤのピンチショックを受けるビード部剪断層は同タイヤの内部を挟んで互いに反対側にある、
圧縮空気式タイヤ。
【請求項2】
同弾性繊維がスパンデックスである、請求項1に記載の圧縮空気式タイヤ。
【請求項3】
弾性繊維がトリコット構造のナイロン繊維と共に織られたスパンデックス繊維を有する、請求項1に記載の圧縮空気式タイヤ。
【請求項4】
布が18%から25%の間のスパンデックス繊維を有し、残りがナイロン繊維である、請求項3に記載の空気タイヤ。
【請求項5】
前記肩部剪断層が、前記側壁から前記クラウン層の半径方向内側の位置へ、前記クラウンの軸方向末端から既定の距離dだけ伸びる、請求項1に記載の空気圧縮式タイヤ。
【請求項6】
前記距離dが少なくとも5mmである、請求項5に記載の空気圧縮式タイヤ。
【請求項7】
前記ビード部剪断層が、前記タイヤの軸方向に垂直な方向に、前記ビードコアの中心から既定の距離hにある位置へ伸びる、請求項1に記載の空気圧縮式タイヤ。
【請求項8】
前記高さhが10mm以下である、請求項7に記載の空気圧縮式タイヤ。
【請求項9】
前記肩部剪断層の対の各1つが、1つの肩部剪断層を有し、前記肩部剪断層が、前記カーカス層の軸方向内側に置かれる、請求項1に記載の空気圧縮式タイヤ。
【請求項10】
前記肩部剪断層の対の各1つが、2つの肩部剪断層を有し、一方が、前記カーカス層の軸方向内側に置かれ、他方が、前記カーカス層の軸方向外側に置かれる、請求項1に記載の空気圧縮式タイヤ。
【請求項11】
前記ビード部剪断層の対の各1つが、1つのビード部剪断層を有し、前記ビード剪断層が、前記カーカス層の軸方向内側に置かれる、請求項1に記載の空気圧縮式タイヤ。
【請求項12】
前記ビード部剪断層の対の各1つが、2つのビード部剪断層を有し、一方が、前記カーカス層の軸方向内側に隣接して置かれ、他方が、前記カーカス層の軸方向外側に隣接して置かれる、請求項1に記載の空気圧縮式タイヤ。
【請求項13】
前記カーカス層の側面に隣接する各剪断層の厚さが、0.1mm〜3mmである、請求項1に記載の空気圧縮式タイヤ。
【請求項14】
前記厚さが0.3mmおよび1mmである、請求項13に記載の空気圧縮式タイヤ。
【請求項15】
クラウンにより支えられる踏み面であって、前記クラウンが、前記踏み面の半径方向内側に置かれる、踏み面と、
各側壁が、前記クラウンの軸方向末端から半径方向内側に向かって伸び、各側壁が、前記タイヤの側面を定める、側壁の対と、
各ビードが、円周方向に伸縮せずにビードコアの中心を定めるビードコアを有し、各ビードが、それぞれ各側壁の半径方向内側に置かれる、ビードの対と、
エラストマー母材中に埋め込まれ、前記ビードの間で前記クラウンを通り抜けるように伸びる、半径方向に向けられた複数のカーカス層コードから構成されるカーカス層であって、前記カーカス層がカーカス層末端の対を有し、各末端がそれぞれ各ビードに固定される、カーカス層と、
前記踏み面の半径方向内側に、且つ、前記カーカス層の半径方向外側に配置され、前記タイヤの前記側壁の間に伸びる、1つ以上のクラウン層と、
肩部剪断層の対であって、前記対の1つが、それぞれ各側壁に位置し、各々の前記剪断層が、前記カーカス層の少なくとも軸方向片側に置かれ、前記肩部剪断層が、前記側壁から前記クラウンの半径方向内側の位置へ、前記クラウンの軸方向末端から既定の距離dだけ伸びる、肩部剪断層の対と、
ビード部剪断層の対であって、前記対の1つが、それぞれ各側壁に位置し、各々の前記剪断層が、前記カーカス層の少なくとも軸方向片側に置かれ、前記ビード部剪断層が、前記側壁から、前記タイヤの軸方向に垂直な方向に前記ビードコアの中心から既定の距離hにある位置へ伸びる、ビード部剪断層の対と
を含む圧縮空気式タイヤであって、
エラストマー布内に織られたスパンデックス繊維を有する同エラストマー布で、前記肩部剪断層及びビード部剪断層の対の1つ以上が構成され、
前記タイヤの挟み衝撃領域内の前記肩部剪断層及び前記ビード部剪断層が、前記タイヤの内部を挟んで互いに反対側にある、
圧縮空気式タイヤ。
【請求項16】
前記距離dが少なくとも10mmである、請求項15に記載の圧縮空気式タイヤ。
【請求項17】
前記肩部剪断層が、前記クラウンの前記軸方向末端から前記ビード部に向かって、少なくとも20mmの距離にわたり伸びる、請求項15に記載の圧縮空気式タイヤ。
【請求項18】
前記高さhが15mm以下であることを特徴とする、請求項15に記載の圧縮空気式タイヤ。
【請求項19】
前記ビード部剪断層が、前記側壁に向かって、前記ビードコアの中心から少なくとも30mmにある点へ伸びる、請求項15に記載の圧縮空気式タイヤ。
【請求項20】
同エラストマー布がトリコット構造にナイロン繊維と共に織られたスパンデックス繊維を備えることを特徴とする請求項15に記載の圧縮空気式タイヤ。
【請求項21】
前記布の18%〜25%がスパンデックス繊維で、残りがナイロン繊維である、請求項20に記載の圧縮空気式タイヤ。
【請求項22】
クラウンにより支えられる踏み面であって、前記クラウンが、前記踏み面の半径方向内側に置かれる、踏み面と、
各側壁が、前記クラウンの軸方向末端から半径方向内側に向かって伸び、各側壁が、前記タイヤの側面を定める、側壁の対と、
各ビードが、円周方向に伸縮せずにビードコアの中心を定めるビードコアを有し、各ビードが、それぞれ各側壁の半径方向内側に置かれる、ビードの対と、
エラストマー母材中に埋め込まれ、前記ビードの間で前記クラウンを通り抜けるように伸びる、半径方向に向けられた複数のカーカス層コードから構成されるカーカス層であって、前記カーカス層がカーカス層末端の対を有し、各末端がそれぞれ各ビードに固定される、カーカス層と、
前記踏み面の半径方向内側に、且つ、前記カーカス層の半径方向外側に配置され、前記タイヤの前記側壁の間に伸びる、1つ以上のクラウン層と、
肩部剪断層の対であって、前記対の1つが、それぞれ各側壁に位置し、各々の前記剪断層が、前記カーカス層の少なくとも軸方向片側に置かれ、前記肩部剪断層が、前記側壁から前記クラウンに向かって伸びている、肩部剪断層の対と、
ビード部剪断層の対であって、前記対の1つが、それぞれ各側壁に位置し、各々の前記剪断層が、前記カーカス層の少なくとも軸方向片側に置かれ、前記ビード部剪断層が、前記側壁から前記ビードコアに向かって伸びている、ビード部剪断層の対と
を含む圧縮空気式タイヤであって、
MA10で計測される引張弾性率が1MPa〜350MPAである、ポリウレタン型エラストマー材料で、前記肩部剪断層及びビード部剪断層の対の1つ以上が構成され、
前記タイヤの挟み衝撃領域内の前記肩部剪断層及び前記ビード部剪断層が、前記タイヤの内部を挟んで互いに反対側にある、
圧縮空気式タイヤ。
【請求項23】
前記MA10が40MPa〜230MPaである、請求項22に記載の圧縮空気式タイヤ。
【請求項24】
肩部剪断層が頂層の軸端から所定の距離dだけ頂層の半径方向同内側の位置まで側壁から伸びることを特徴とする請求項22に記載の空気タイヤ。
【請求項25】
同距離dが少なくとも5mmであることを特徴とする請求項24に記載の空気タイヤ。
【請求項26】
ビード部剪断層がビードコアの中心からタイヤの軸方向に垂直な方向に所定の距離hの位置まで伸びることを特徴とする請求項22に記載の空気タイヤ。
【請求項27】
同高さhが10mm以下であることを特徴とする請求項26に記載の空気タイヤ。
【請求項28】
一対の肩部剪断層の各々がカーカス層の軸方向内側上に位置する一つの肩部剪断層を備えることを特徴とする請求項22に記載の空気タイヤ。
【請求項29】
一対の肩部剪断層の各々が2つの肩部剪断層を有し、1つはカーカス層の軸方向内側上に位置し、他方はカーカス層の軸方向外側上に位置することを特徴とする請求項22に記載の空気タイヤ。
【請求項30】
一対のビード部剪断層の各々がカーカス層の軸方向内側上に位置する一つのビード剪断層を備えることを特徴とする請求項22に記載の空気タイヤ。
【請求項31】
一対のビード部剪断層の各々が2つのビード部剪断層を有し、1つはカーカス層の軸方向内側に隣接する位置にあり、他方はカーカス層の軸方向外側に隣接する位置にあることを特徴とする請求項22に記載の空気タイヤ。
【請求項32】
同カーカス層の側に隣接する各剪断層の厚さが0.05mmから3mmの間であることを特徴とする請求項22に記載の空気タイヤ。
【請求項33】
同厚さが0.1mmから1mmの間であることを特徴とする請求項32に記載の空気タイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−513341(P2012−513341A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543506(P2011−543506)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【国際出願番号】PCT/US2009/036310
【国際公開番号】WO2010/074769
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(599093568)ソシエテ ド テクノロジー ミシュラン (552)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)