説明

側方照射型プローブ

【課題】狭い口腔内においても、癌との面接触照射が可能で、癌方向のみに均等な励起光パワー密度の照射を行うことができる照射プローブを提供する。
【解決手段】本発明の側方照射型プローブは、把持部(5)と、把持部(5)の先端に把持部(5)の長さ方向から所定の角度閉じた方向に取り付けられた反射ミラー部(4)と、把持部(5)内部に取り付けられ、導光ファィバー(1)により導光されてきた励起光を均等に拡大投射するマイクロレンズ部(2)を含み、マイクロレンズ部(2)を通過した励起光(6)を反射ミラー部(4)で把持部(5)の側方に反射させる。これにより、狭い口腔内の舌根部に発症した癌であっても、癌と面接触させかつ垂直方向から照射し、より正確に均等な励起光照射が行え、治療条件として設定された内容通りの癌治療を行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線力学的療法用の励起光照射プローブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
舌癌の治療は、手術が第一選択肢であり次いで放射線治療がよく行われている。しかし、これらの治療方法の問題として副作用が大きく、患者のQOL(生活の質)が悪化することが挙げられる。例えば放射線治療の場合、病巣部だけでなく他の正常組織への照射が避けられず、その結果として唾液障害や歯槽骨が腐るという事例は珍しいことではない。この副作用により、癌治療後のQOLの悪さに苦しみ、修復手術を必要とした場合は膨大な費用と大手術が必要となる。
【0003】
近年、光線力学的療法(腫瘍親和性・光感受性物質〔以下薬剤と称す〕と励起光の組み合わせで主に癌を治療する方法)が開発された。当該療法は、光感受性を有し、癌などに選択的に取り込まれる薬剤を静脈注射し、一旦全身の組織に取り込まれた後、時間経過とともに正常組織から薬剤が排泄され、癌等にはより多く残された状態を待って癌に向かって励起光を照射することにより行われる。治療のメカニズムは、上記作用により活性酸素が癌組織内で生成され標的とした癌細胞等が壊死するものである。この療法の特徴は、副作用が非常に軽微であり、放射線治療と違って繰り返しの治療が可能である。更に、治療部位の機能温存が可能である等、従来の治療方法にはなかったメリットが数多くあることから各方面での臨床研究が行われるようになった。その中の一つに口腔癌がある。中でも舌癌治療にQOLの面から期待が集まっている。
【0004】
従来の技術で光線力学的療法による舌癌治療を行う場合、舌の先端部に発症した癌の場合はマイクロレンズを使用した前方照射型プローブで十分な励起光照射が行えるが、舌根部に発症した癌の場合は、狭い口腔内での照射となりマイクロレンズによる照射方式では、照射角度が斜め方向になる問題や、マイクロレンズ先端部と病巣までの距離が確保できず、癌のサイズにあった十分な照射効率が確保できない問題があった(図3参照)。図5A−Bは従来型の側射プローブを示しており、マイクロレンズ系の欠点を補い狭い空間での照射を可能として開発されたものである。1は導光ファイバー、6は励起光、8は光拡散チップである。1の導光ファイバーにより導光されてきた励起光6は、8の拡散チップに入射された後、拡散チップ内であらゆる方向の光に拡散され拡散チップの側方へ放出される。
【特許文献1】特許第3551996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、以上のような従来の側方照射を目的とした医療用レーザプローブを使用して舌根部の癌治療を行う場合、狭い口腔内への照射プローブ挿入問題は解決されるが、励起光が全円周方向に照射されることによる光学的な効率の悪さや治療を必要としない正常組織への照射があり、正常組織へ障害を及ぼす問題と、平面状の癌に対して円筒形の照射プローブであることから、癌に対する励起光パワー密度が均一になりにくいという問題があった(図4参照)。特に、当該治療は薬剤の濃度と励起光の照射エネルギー量に依存していることから、術式による照射エネルギー量のバラツキは極力抑える必要がある。以上のとおり、従来の側方照射医療用レーザプローブは、励起光が全円周方向に照射され拡散してしまい、目的の個所に集中して照射できないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記従来の課題に鑑み、狭い口腔内においても、癌との面接触照射が可能で、癌方向のみに均等な励起光パワー密度の照射を行うことができる照射プローブを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の側方照射型プローブは、把持部と、前記把持部先端に前記把持部の長さ方向から所定の角度閉じた方向に取り付けられた反射ミラー部と、前記把持部内部に取り付けられ、導光ファィバーにより導光されてきた励起光を均等に拡大投射するマイクロレンズ部を含み、前記マイクロレンズ部を通過した励起光を前記反射ミラー部で前記把持部の側方に反射させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、狭い口腔内の舌根部に発症した癌であっても、癌と面接触させかつ垂直方向から照射し、より正確に均等な励起光照射が行え、治療条件として設定された内容通りの癌治療を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、導光ファイバーにより得られた励起光を均等拡大するマイクロレンズと、マイクロレンズにより得られた均等な励起光をプローブの側方へ屈折させる反射ミラー部を備えている。また、側方部から出射される励起光のビーム径を調整する必要がある場合は、マイクロレンズと反射ミラーの距離を移動できる手段を備えている。
【0010】
(実施の形態1)
図1において、1は励起光発振部からの励起光を導光する導光ファイバー、2は導光ファイバー1と導光ファィバー1により得られた励起光を拡大投射するためのマイクロレンズとを内蔵し固定するマイクロレンズ部、3はマイクロレンズ部2より得られた励起光を効率よく側面方向に90度屈折させ、前記屈折光をプローブの側方から放出させるための密閉された空間と透明窓からなる反射ミラー部、4は反射ミラー部3に取り付けられた反射ミラー板、5はマイクロレンズ部や導光ファイバーを内蔵している把持部、6は本構成により得られ透明窓11から放出された励起光である。
【0011】
以上のように構成された側方照射型プローブについて、その動作を説明する。
口腔内の奥側に位置する舌根部に発生した舌癌に対して、光線力学的療法を実施する場合、例えば舌と頬肉間の狭い隙間に励起光照射機構を挿入し、均質な励起光照射を要求されるケースが多々ある。このようなケースでの当該側方照射型プローブの使用方法について説明する。先ず、側方照射型プローブの把持部5を持って癌部の照射を必要とする部位に側方照射型プローブの先端にある反射ミラー部3の透明窓11を誘導する。この位置において、透明窓11と癌が接触した状態を保ち励起光発振部の操作により励起光6を発振させ、導光ファィバー1を通して励起光6を側方照射型プローブまで導光させる。導光されてきた励起光6は、導光ファイバー1の先端からその前方に取り付けられているマイクロレンズ2に入射され、レンズの作用によりマイクロレンズの前方に設定された広がり角を持って放出される。放出された励起光は、前方に45度の角度をもって取り付けられた反射ミラーに入射し広がり角を維持しながら効率よく90度の方向、つまり側方照射型プローブ本体の側方へ反射される。反射された励起光6は、側方照射型プローブの先端側方に取り付けられた透明窓11を透過し、その前面にある舌癌部に透明窓11が接触した状態で垂直方向に照射される。
【0012】
以上のように、本発明による側方照射型プローブを使用して舌癌の光線力学的治療を行った場合、狭い口腔内においても励起光照射機構の挿入が容易であり、光学的に癌の正面からの照射になる点、癌との接触照射により距離が固定されることから照射パワー密度が固定される点等の効果により正確な治療を行うことが可能である。
【0013】
(実施の形態2)
図2において、把持部5と反射ミラー部3はねじで接合されており、両者の回転方向位置を固定ねじ7で固定されている。さらに両者の回転構造の回転中心軸と、導光ファイバー1あるいはマイクロレンズ2の中心軸とは、位置がずれた状態で取り付けられている。このため、回転とともにマイクロレンズ2の端面から反射ミラー板4までの距離が変化する。つまり、把持部5と反射ミラー部3の軸方向に対する位置関係は、反射ミラー部3を回転することにより短くしたり長くしたりすることが可能である。この結果、反射ミラー部3から放出される励起光のビームサイズの変更が可能となる。
【0014】
以上のように構成された側方照射型プローブについて、その動作を説明する。実際の治療においては、舌癌のサイズはさまざまであり、励起光6を照射すべき面積もさまざまとなる。副作用が小さい光線力学的治療といえども治療が及んだ部位に一時的なダメージが起こるのは避けられない事実であり、極力必要でない部位への励起光照射を回避する必要がある。その手段として本実施形態による側方照射型プローブは、マイクロレンズ部2と反射ミラー部3の距離を増減することにより励起光6の直径サイズを変更できる構成になっている。つまり、標準設定された励起光サイズよりも小さい照射面積を選択したい場合は、固定ねじ7を反時計方向に回転させ緩める。これにより反射ミラー部3の回転が自由になるので、把持部5との距離が短くなる方向に回転移動させる。図2でいうなら矢印X方向に回転させることにより反射ミラー部3とマイクロレンズ部2の距離が短くなる。この状態で反射ミラー部3の位置決めを行い、固定ねじ7を時計方向に回転させ把持部5と反射ミラー部3をしっかりと固定する。この操作により、側射される励起光のサイズを小さくすることが可能である。逆に大きくしたい場合は、矢印Xとは反対方向に反射ミラー部3を回転させればよい。
【0015】
なお、マイクロレンズ部2と反射ミラー4との距離の調整方法に付いては、例えば、マイクロレンズ部の外枠部分を長くし、把持部5の根元側(反射ミラー部3の反対側)から直接操作する方法もある。
【産業上の利用可能性】
【0016】
以上説明のとおり本発明の側方照射型プローブは、照射が困難な狭い空間での光照射が容易となり、光線力学的療法による舌癌治療に役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1における側方照射型プローブの全体構成を示す図。
【図2】本発明の、側方照射プローブの実施の形態2における部分構成を示す図。
【図3】従来方式の、マイクロレンズよる前方照射方式による照射イメージ図。
【図4】従来方式の、側方照射プローブによる側方照射イメージ図。
【図5】Aは従来方式による側射を目的とした医療用レーザプローブを示す横側面図、Bは同A図の右側面図。
【符号の説明】
【0018】
1 導光ファイバー
2 マイクロレンズ部
3 反射ミラー部
4 反射ミラー
5 把持部
6 励起光
7 固定ねじ
8 光拡散チップ
9 舌
10 癌部
11 透明窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持部と、
前記把持部先端に前記把持部の長さ方向から所定の角度閉じた方向に取り付けられた反射ミラー部と、
前記把持部内部に取り付けられ、導光ファィバーにより導光されてきた励起光を均等に拡大投射するマイクロレンズ部を含み、
前記マイクロレンズ部を通過した励起光を前記反射ミラー部で前記把持部の側方に反射させる側方照射型プローブ。
【請求項2】
前記反射ミラー部は、把持部の軸方向に回転移動する機能を有する請求項1に記載の側方照射型プローブ。
【請求項3】
前記反射ミラー部が把持部の軸方向に回転移動することにより、前記反射ミラー部から放出される励起光のビームサイズを変更させる請求項2に記載の側方照射型プローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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