説明

側面にマークを有する焼結金属製スプロケット

【課題】 焼結金属製スプロケットの側面に、その側面を凹ませて形成される立体的なマークを、付与コストがかからず、位置決め可能な形状にすることを課題とする。
【解決手段】 上部に円筒形状もしくは円錐形状の鍔部、下部に歯車部、および前記円筒部又は円錐部の側面(6)にマーク(5)を有する焼結金属製スプロケットであって、前記マーク(5)は、部品の軸心と平行で少なくとも一端が部品の端面(8)に切り抜けており、前記マークの内部に前記歯車部に対応する凸部(12)を有する焼結金属製スプロケットとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、機械加工が不要でありかつサイジングでの位置決めが可能なマークを円筒又は円錐状の側面に備えた焼結金属製スプロケットに関する。ここで言うマークは、側面を凹ませて形成された立体的なマークである。
【背景技術】
【0002】
回転軸に取り付けて使用する焼結金属製スプロケット、中でも、エンジンの駆動系に利用される動力伝達用の焼結スプロケットには、表面の外部から目視できる箇所に組み付け位置を確認するためのマークや動作制御のためにセンサで検出するタイミングマークなどのマークが付与されることが多い。
【0003】
そのマークは、焼結金属製スプロケットの使用状況や用途などによっては、消失する心配が無く、かつセンサによる検出も可能な立体的なマークが要求される。その立体的なマークは、下記特許文献1 が開示しているようにカムスプロケットの端面に設ける場合もあるが、端面に設けた場合はそのマークを目視により確認をすることが行いにくいことや、検出用センサの設置位置が規制されるといった問題がある。そのため、スプロケットの円筒又は円錐状の側面、例えば、鍔の外周面やボス部の外周面などにマークが設けられる。その場合のマークは、スプロケットの圧粉体を焼結した後にドリルなどで加工して付与する方法が採られていた。
【0004】
ドリルなどによる加工によってマークを付与する場合、マーク付与のための工程があるため、スプロケットの製造コストが高くなる課題があった。その課題に対し、下記特許文献2では、マークを金型で成形することにより、マーク付与のための工程を省略している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−148195号公報
【特許文献2】特開2008−298172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記文献2に記載の金型で付与されたマークは、歯車の歯先の径が円筒又は円錐の径に近づくにつれてマークの凹みの深さが浅くなり、マークを目視により確認することが困難となったり、マーク形成自体が形成できなくなったりするおそれがある。焼結金属製スプロケットは、寸法矯正のためサイジングを行われることが多いが、上記金型で付与されたマークは回り止めや位置決めとして用いることもできる。ターンテーブルを用いたサイジング金型への製品の供給において、上記のようにマークの凹みの深さが浅い場合、回り止めの機能が十分に発揮できないおそれがある。その場合、ターンテーブルを用いた供給ができず、製造コストのアップにつながってしまう。
【0007】
本発明は、歯車の歯先の径が円筒又は円錐の径に近づいた場合でも、焼結金属製スプロケットの側面に付与したマークの視認性を確保すること。さらに、ターンテーブルでの製造を可能とするために、焼結金属製スプロケットの側面に付与したマークを回り止め可能な形状にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明においては、上部に円筒形状もしくは円錐形状の鍔部、下部に歯車部、および前記円筒部又は円錐部の側面にマークを有する焼結金属製スプロケットにおいて、前記マークは、部品の軸心と平行で少なくとも一端が部品の端面に切り抜けており、前記マークの内部に前記歯車部に対応する凸部を有する構成とした。
【0009】
この発明の焼結金属製スプロケットは、側面に設けるマークを、部品の軸心と平行で少なくとも一端が部品の端面に切り抜けた溝で形成されるものにしたので、圧粉体を得る粉末成形工程においてそのマークを金型で成形して付与することができ、マーク付与のための切削加工が省かれてコスト低減が図れる。さらに、マークの内部に前記歯車部に対応する凸部を形成しているため、歯先の位置を目視により認識することが容易になり、製品の組み付け時の作業性が向上する。
【0010】
前記マークは前記歯車部の歯先径よりも内径にあるマーク底面を有し、前記凸部が前記マーク底面に形成されている構成とすると好ましい。
【0011】
前記マークは前記歯車部の歯先径よりも内径にあるマーク底面を有し、前記凸部は前記マーク底面に形成しているので、サイジング時にターンテーブルブッシュを用いても確実に位置決めができ、サイジングの作業性が向上する。
【0012】
前記凸部は前記歯車部の形状に相似で1つの歯形よりも大きい形状であると好ましい。
【0013】
前記凸部は前記歯車部の形状に相似で1つの歯形よりも大きい形状としたので、成形金型での成形が容易になる。
【0014】
前記凸部の端面と鍔部端面と間に段差を有すると好ましい。
【0015】
前記凸部の端面と端面と間に段差を有する構造としたので、マークの位置を目視により確認する際に、凸部の位置が明確になり視認性が向上する。特に鍔部端面を加工する製品の場合、凸部端面と鍔部端面の表面粗さの違いによりその2つの端面表面の輝きが異なり、視認性が一層向上する。
【発明の効果】
【0016】
この発明の焼結金属製スプロケットは、側面に設けるマークを、部品の軸心と平行で少なくとも一端が部品の端面に切り抜けた溝で形成されるものにしたので、圧粉体を得る粉末成形工程においてそのマークを金型で成形して付与することができ、マーク付与のための切削加工が省かれてコスト低減が図れる。さらに、マークの内部に前記歯車部に対応する凸部を形成しているため、歯先の位置を目視により認識することが容易になり、製品の組み付け時の作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の焼結金属製スプロケットの実施の形態を示す正面図
【図2】図1の焼結金属製スプロケットの断面図
【図3】図1のA部を拡大した図
【図4】図2のB部を拡大した図
【図5】図1の焼結金属製スプロケットの粉末成形工程を示す断面図
【図6】図5の工程で得られる圧粉体の断面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面の図1〜図4に基づいて、この発明の実施の形態を説明する。例示の焼結部品1は、エンジンの駆動系に採用されるカムスプロケットであって、製品寸法は、以下の諸元である。
鍔部直径:φ90mm
歯車部長径:φ89.5mm
製品全長:25mm
【0019】
このカムスプロケット1は、本体部2の一端側外周に動力伝達用のチェーンを掛ける歯部3を有している。さらに、本体部2の他端側外周に歯部3の標準外径よりも大径の鍔部4を有している。
【0020】
この鍔部には、1つのマーク5が形成されている。このマーク5は、少なくとも一端が部品の上パンチに形成される側の鍔端面8に切り抜けており、かつ部品の軸心と平行な溝である。このマーク5は金型により形成されている。そして、このマークは、歯車の1つの歯に重なる位置に設けられており、このマークは歯車の歯先よりも製品の中心側にあるマーク底面11を有している。そのため、歯車の歯先径が鍔部の径に近くても、マークの凹みの深さを確保することができ、その結果、視認性が向上し、回り止めのとしての機能も確保することができる。
【0021】
そして、このマークには、そのマーク底面11の上に歯先形状と相似形で歯形よりも大きい凸部12が形成されている。そのため、歯先形状が小さく確認しにくい場合でも、凸部により歯先位置を確認することができる。
【0022】
スプロケットの歯車の歯先頂点と製品中心をつないだ直線を歯先中心軸13とすると、この凸部はその中心軸が歯車の歯先中心軸13と重なる位置に形成されている。そのためこの凸部の位置を確認することにより、歯車の歯先位置を容易に特定することができる。
【0023】
このマークは、歯先中心軸13上であって、鍔部外周上または外周よりも外側に中心14を有する円弧の一部を2つの側面15として有する。鍔端面視において、その2つの側面15をつないだ円弧上に段差をつけ、円弧中心側の鍔端面を低くして、その面を凸部端面16とした。
【0024】
このマークは、回転制御用のタイミングマークとサイジングでの位置決めマークを兼ねている。タイミングマークとしては、鍔端面視において歯先の位置が認識できる必要がある。本実施例において、歯先形状と相似でありかつ歯先中心軸13上に中心軸を有する凸部12がマークの内部に形成されているため、鍔端面視で歯先の位置を容易に認識することができる。
【0025】
サイジングでの位置決めマークとしては、位置決め時に引っ掛かりとして機能する必要があるために、マークの深さが必要となる。このマークは、マーク底面11が歯先よりも部品の軸心側に形成されているため、マーク深さが十分に確保されており、位置決めマークとしての機能を十分に果たすことができる。
【0026】
本実施例においては、マークの側面15をつなぐ円弧上において、凸部端面16と鍔部端面8に段差がつけられている。段差をつけることで、側面が1つの円弧で形成されていることが明確になり、マークの位置の視認性が向上する。また、凸部端面16は鍔端面8から段差をつけられているため、焼結品の素材面が維持される。鍔端面を切削等で加工する場合、鍔端面8と凸部端面16の輝きの違いにより、マークの位置の視認性が更に向上する。この段差によりマークが1つであることが明確になる。これは以下のような不具合を防止する効果を有する。歯先を挟んで2つの同じマークを形成したような場合、サイジングでの位置決めにおいて、マークが2つあるために、位置決めがどちらか一方に固定されないおそれがある。タイミングマークは、一般的にマークが1つである、マークが2つあるために組み付け時に位置を間違えるおそれがある。
【0027】
例示の焼結金属製スプロケット1の粉末成形は、図5に示すように、歯部3の輪郭成形部17a、鍔部4の輪郭(外周)成形部17b、マーク成形部(マーク5用の成形部17cのみを図示)をダイ17に設け、そのダイ17と、下1パンチ18−1及び下2パンチ18−2からなる分割下パンチ18と、上パンチ19と、コアロッド20とを組み合わせた金型を使用してなされる。その金型成形されて得られた圧粉体21を図6に示す。この圧粉体21を焼結し、その後に、本体部2の外周の鎖線で画した領域を切削して歯部3と鍔部4を生じさせる。また、必要があれば本体部2の内径面2aや組み付け穴2bなども切削加工する。
【0028】
以上の工程を経ると、それぞれが縦長の溝で形成されたマーク5を有する焼結金属製スプロケットが完成する。この焼結金属製スプロケットは、焼結後のマーク5の切削加工が省かれており、生産性の向上とコスト低減が図れており、凸部により組みつけの作業性が向上している。
【符号の説明】
【0029】
1 焼結金属製スプロケット
2 本体部
2a 内径面
2b 組み付け穴
3 歯部
4 鍔部
5 マーク
6 側面
8 端面
10 歯先
11 マーク底面
12 凸部
13 歯先中心軸
14 円弧中心
15 側面
16 凸部端面
17 ダイ
17a 歯部の輪郭形成部
17b 鍔部の輪郭形成部
17c マーク形成部
18 分割下パンチ
19 上パンチ
20 コアロッド
21 圧粉体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に円筒形状もしくは円錐形状の鍔部、下部に歯車部、および前記円筒部又は円錐部の側面(6)にマーク(5)を有する焼結金属製スプロケットであって、
前記マーク(5)は、部品の軸心と平行で少なくとも一端が部品の端面(8)に切り抜けており、前記マークの内部に前記歯車部に対応する凸部(12)を有する焼結金属製スプロケット。
【請求項2】
前記マーク(5)は前記歯車部の歯先径よりも内径にあるマーク底面(11)を有し、前記凸部(12)は前記マーク底面(11)に形成されている請求項1に記載の焼結金属製スプロケット。
【請求項3】
前記凸部(12)は前記歯車部の形状に相似で1つの歯形よりも大きい形状である請求項1または2に記載の焼結金属製スプロケット。
【請求項4】
前記凸部(12)の端面と鍔部端面(8)と間に段差を有する請求項2に記載の焼結金属製スプロケット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−190923(P2011−190923A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60202(P2010−60202)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】