説明

偽造防止媒体及び偽造防止シール

【課題】製品に貼着され、 色変化によって製品の真正を証明する偽造防止媒体であって、観察角度を変えることなく色変化の有無を確認することができて、製品が遠距離に置かれている場合であっても、容易に真偽判定を行うことができる偽造防止媒体を提供すること。
【解決手段】製品側に配置され、互いに屈折率の異なる複数の薄膜を積層して構成される多層薄膜層2と、前記多層薄膜層より観察者側に配置された偏光膜3とを備える。別途用意した偏光フィルタ10を介して、かつ、この偏光フィルタ10を回転させることにより、色変化の有無を確認することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止媒体に関する。本発明の偽造防止媒体は、例えば、シールとして製品に貼付することにより、この製品が真正であることを証明することができる。仮に製品にこのシールが貼付されていなかった場合、その製品は偽造されたものである。
【背景技術】
【0002】
従来、偽造を防止する手段には、物品そのものを真似することが困難なものとするか、あるいは真似することが困難なシール等を貼着することにより、真正製品と偽造製品とを区別できるようにするものがある。
【0003】
この後者の代表的なものとして、近年多用されているレリーフ型ホログラムを利用したシール等がある。これは画像を微細な凹凸状に形成したものであり、この微細凹凸により反射光を回折させて前記画像を再生するものである。反射光の波長に応じて回折角が異なり、見る角度(すなわち、ホログラムを支持している角度)に応じて固有のカラーシフト(反射光の色変化)を生じ、観察する位置により見える色が異なる。このため、観察角度を変えたときの色変化の有無や画像を確認することにより、真正製品であるか否かを容易に判定することができる。かかるレリーフ型ホログラムは、カラーコピー機による複製はもちろん、その他の方法による偽造も困難であることから、偽造防止用のシールや転写箔として広く用いられてきた。
【0004】
しかしながら、近年に至って偽造技術の進展に伴って、レリーフ型ホログラムの偽造も出現するようになり、偽造防止効果も薄れてきている。
【0005】
ところで、このレリーフ型ホログラムと同様に、可視光線を波長分散させ、見る角度によるカラーシフト(反射光の色変化)の効果を実現する材料として、互いに屈折率の異なる複数の薄膜層を積層して構成される多層薄膜(特許文献1〜7参照)が知られている。
【特許文献1】特開昭61−105509号公報
【特許文献2】特開平7−146649号公報
【特許文献3】特開平7−199812号公報
【特許文献4】特開平7−214960号公報
【特許文献5】特開平7−144500号公報
【特許文献6】特開平7−146650号公報
【特許文献7】特開平11−224050号公報 これらは薄膜の光学特性と膜厚により得られる光の干渉作用を利用したものであり、特定の波長域に反射・透過特性を有し、観察する位置によりこの反射・透過特性が変化して見える色が異なる。このため、前記レリーフ型ホログラムの場合と同様に、観察角度を変えたときの色変化を確認することにより、真正製品であるか否かを容易に判定することができる。
【0006】
しかしながら、前記多層薄膜を利用した偽造防止媒体は、その観察角度を変化させない限り色変化が生じることがなく、このため、製品の真偽を判定するためには、製品を傾けたり、観察者自身が移動しなければならなかった。このため、例えば製品棚に陳列された製品に貼り付けられた偽造防止媒体を確認する場合等、手に取れない遠距離に置かれた製品の真偽判定を行なうことは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、観察角度を変えることなく色変化の有無を確認することができ、このため、製品が遠距離に置かれている場合であっても、容易に真偽判定を行うことができる偽造防止媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、
製品に貼着して、観察者に対し製品の真正を証明する偽造防止媒体において、
製品側に配置され、互いに屈折率の異なる複数の薄膜を積層して構成される多層薄膜層と、前記多層薄膜層より観察者側に配置された偏光膜とを備えることを特徴とする偽造防止媒体体である。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、多層薄膜層に入射し反射された光は、この多層薄膜層の多重反射と光路差とに起因して、その波長ごとに異なる方向に出射する。次に、この出射光は、偏光膜を透過して偏光に変化する。そして、この偏光を、別途準備した偏光フィルタを介して観察すると、前記偏光の偏光面と偏光フィルタとの交差角度に応じて、観察される光強度が変化し、その色彩も変化する。このため、観察者が移動することなく、その偏光フィルタを回転させることで明るさや色彩の変化を観察することが可能となり、その真偽を判定することができる。また、カラーコピーによってこの変化を再現することは不可能であるから、その偽造を防止することが可能である。
【0010】
ところで、前記多層薄膜層にエンボスが施されている場合、エンボス部分の色と非エンボス部分で異なる色に見え、このため、その真偽の判定が一層容易となり、また、偽造は一層困難となる。請求項2〜6に記載の発明は、このような事情によってなされたものである。
【0011】
すなわち、請求項2に記載の発明は、前記多層薄膜層にエンボスが施されていることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体である。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、前記エンボスが、断面三角形状の線状に施されていることを特徴とする請求項2に記載の偽造防止媒体である。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、前記エンボスが、そのエンボス領域の全面に渡って頂角が同一である断面三角形状に施されていることを特徴とする請求項3に記載の偽造防止媒体であり、
他方、請求項5に記載の発明は、前記エンボスが、そのエンボス面のうち一部の部位において、その他の部位とは異なる頂角の断面三角形状に施されていることを特徴とする請求項3に記載の偽造防止媒体である。
【0014】
また、請求項6に記載の発明は、前記エンボスが、そのエンボス面のうち一部の部位において、その他の部位とは異なる方向に伸びる線状に施されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の偽造防止媒体である。
【0015】
次に、請求項7に記載の発明は、請求項1〜6に記載の偽造防止媒体に、さらに可視情報を付加したもので、すなわち、請求項7に記載の発明は、前記多層薄膜層を構成する薄膜と薄膜との間に、可視情報を構成するパターン層を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の偽造防止媒体である。
【0016】
次に、前記偏光膜としては、直線偏光膜と、円偏光膜のいずれを使用することもできる。請求項8〜9に記載の発明は、このような理由からなされたものである。
【0017】
すなわち、請求項8に記載の発明は、前記偏光膜が直線偏光膜であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の偽造防止媒体である。
【0018】
また、請求項9に記載の発明は、 前記偏光膜が円偏光膜であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の偽造防止媒体である。
【0019】
次に、請求項10〜11に記載の発明は、請求項1〜9に係る偽造防止媒体の製造の際の便宜及び使用時の便宜を図ったものである。
【0020】
すなわち、請求項10に記載の発明は、前記多層薄膜層と前記偏光膜とが、支持体上に積層されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の偽造防止媒体である。
【0021】
また、請求項11に記載の発明は、 製品に貼着して製品の真正を証明する偽造防止シールにおいて、
製品側に配置され、互いに屈折率の異なる複数の薄膜層を積層して構成される多層薄膜層と、前記多層薄膜層より観察者側に配置された偏光膜とを備え、
かつ、前記製品に接着する接着層を備えることを特徴とする偽造防止シールである。
【発明の効果】
【0022】
請求項1〜11に記載の発明によれば、観察者が移動することなく、別途準備された偏光フィルタを回転させながらその透過光の明るさや色彩の変化を観察して、その真偽を判定することができる。また、カラーコピーによってこの変化を再現することは不可能であるから、その偽造を防止することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(偽造防止媒体)
本発明に係る偽造防止媒体は、製品に貼着してその製品の真正を証明するものであり、この偽造防止媒体が貼着されていない製品は偽造品と認定できる。
【0024】
製品の真偽を判定する機能を果たすため、本発明に係る偽造防止媒体は、製品側に配置された多層薄膜層と、偏光膜とを必須の構成要素とする。偽造防止媒体に入射した室内光等は多層薄膜層で反射され、こうして反射された光は、その波長ごとに、すなわち色彩ごとに異なる方向に出射する。そして、偏光膜を透過した出射光を、別途準備した偏光フィルタを介して観察することにより、その偏光フィルタの回転に伴って明るさや色彩が変化する現象を観察することができる。この現象を観察できる場合は真正の製品である。また、観察できない場合は偽造品と認定できる。
【0025】
本発明に係る偽造防止媒体は、多層薄膜層と偏光膜のほか、この原理を損なわない範囲で、さらに別の層を構成要素として有することができる。
【0026】
例えば、製造上の便宜のため、あるいは取り扱い上の便宜のため、支持体を構成要素として含むことができ、この支持体の片面に、順次、多層薄膜層と偏光膜とを積層して、偽造防止媒体とすることができる。
【0027】
また、支持体の表裏両面に、それぞれ、多層薄膜層と偏光膜とを積層して、偽造防止媒体とすることもできる。この場合には、支持体は透明である必要がある。
【0028】
また、製品に接着する接着層を積層して使用時の便を図ることもできるし、偏光膜に保護層を積層して損傷や汚れから防ぐことも可能である。また、多層薄膜層を構成する薄膜と薄膜との間に、可視情報を構成するパターン層を設けることも可能である。
【0029】
なお、これら各層は、必要な接着剤層を介して積層することができる。
【0030】
また、多層薄膜層には、エンボスを施すことができる。多層薄膜層にエンボスが施されている場合には、同一位置から観察しても、エンボス部分の色と非エンボス部分の色が異なる色に見え、このため、その真偽の判定が一層容易となり、また、偽造は一層困難となる。
【0031】
エンボスは、多層薄膜層の全面に施すこともできるが、その一部にエンボスを施し、残余の部位をエンボスのない部位とすることが望ましい。エンボス部分の色彩と非エンボス部分の色彩の区別が明瞭となり、真偽の判定が容易だからである。例えば、文字や図形の形状にエンボスを施した場合には、この文字や図形を明確に読み取ることが可能となる。
【0032】
エンボスは、断面三角形状の線状に施すことが望ましい。この場合、尾根に相当する頂部の両側で異なる色彩の反射光を射出して、そのエンボス形状の認識が容易となり、また、偏光フィルタを透して観察したときにも、その変化を容易に認識して真偽判定が容易となるからである。好ましくは、その一辺の長さが1mm程度の二等辺三角形状である。
【0033】
また、このエンボスは、エンボス面の全面に渡って頂角が同一である断面三角形状に施しても良いし、そのエンボス面のうち一部の部位において、その他の部位とは異なる頂角の断面三角形状に施しても良い。また、このエンボスは、そのエンボス面のうち一部の部位において、その他の部位とは異なる方向に伸びる線状に施したものであっても良い。
【0034】
次に、本発明に係る偽造防止媒体の層構成を、図面を参照して説明する。
【0035】
図面の図1Aは、本発明に係る偽造防止媒体の第1形態の平面図であり、図1Bは、図1AのX−X線における断面説明図である。
【0036】
この第1形態の媒体は、透明支持体1の裏面に多層薄膜層2を積層し、その表面に接着剤層4を介して偏光膜3を積層したものである。そして、多層薄膜層2には、その一部にエンボスが施されている。エンボスは、全体として、星形の形状を有する領域aに施されており、このエンボス領域aに、平行に伸びた多数の線から構成されるストライプ状に施されている。また、その断面形状は、一辺の長さが1mm程度の二等辺三角形状であり、この二等辺三角形は、エンボス領域aの全領域に渡って頂角が同一の三角形である。
【0037】
偏光フィルタ10を透してこの媒体を観察したときの状況を図1Cに示す。図1Cから分かるように、偏光フィルタ10を重ねた部位は、その透過光強度が低下する。なお、この透過光強度は、偏光フィルタ10の角度によって変化する。
【0038】
次に、図2は、本発明に係る偽造防止媒体の第2形態の断面説明図である。この第2形態の偽造防止媒体は、製品に貼着する接着層5を備える。その他は第1形態の偽造防止媒体と同様である。
【0039】
また、図3は、本発明に係る偽造防止媒体の第3形態の断面説明図である。この第3形態の偽造防止媒体は、互いに異なるエンボスを施したものである。すなわち、エンボス領域のうち、一部の領域a1に断面二等辺三角形状のエンボスを施すと共に、その他の部位a2に、頂角の異なる二等辺三角形状の断面を有するエンボスを施したものである。そして、領域a1に施されたエンボスは平行に伸びた多数の線から構成されるストライプ状であり、他方、領域a2に施されたエンボスは、これとは異なる方向に平行に伸びた多数の線から構成されるストライプ状に施されている。その他は第1形態の偽造防止媒体と同様
である。
【0040】
また、図4は、本発明に係る偽造防止媒体の第4形態の断面説明図である。この第4形態の偽造防止媒体は、透明支持体1の裏面に多層薄膜層2を積層し、その表面に接着剤層4を介して偏光膜3と保護層6とを順次積層したものである。そして、多層薄膜層2を構成する薄膜と薄膜との間に、可視情報を構成するパターン層7が設けられている。
【0041】
(支持体)
支持体1は偽造防止媒体の基材となるものである。この支持体1は、基材として剛性と表面平滑性を有するものが好ましく使用できる。また、この支持体1の表裏にそれぞれ多層薄膜層と偏光膜とを積層する場合には、透明な材料を使用する必要がある。
【0042】
この支持体1としては、例えば、合成樹脂、天然樹脂、ガラス等のシートが利用できる。合成樹脂としては、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン等が例示できる。好ましくは、トリアセチルセルロースである。
【0043】
(多層薄膜層)
本発明に係る多層薄膜層2は、反射光を波長分散して、その波長(色彩)ごとに異なる方向に出射するもので、互いに屈折率の異なる複数の薄膜を積層して構成される。この多層薄膜層2を構成する薄膜は、少なくとも2層あればよい。例えば、高屈折率薄膜と、低屈折率薄膜の2層である。この場合には、高屈折率薄膜表面からの反射光、高屈折率薄膜と低屈折率薄膜との境界面からの反射光、低屈折率薄膜の反対側表面からの反射光、及びこれら各界面間の多重反射光が互いに干渉して、その干渉光が出射する。この出射光の波長は、この出射光を構成する前記反射光相互の光路差に依存し、この光路差は入射角すなわち出射角に依存するから、その出射方向に応じて出射光の波長が異なる。
【0044】
また、多層薄膜層2は3層以上の薄膜を積層して構成されたものであっても良い。たとえば、例えば、高屈折率薄膜、低屈折率薄膜、高屈折率薄膜の順で積層した3層である。一般に、薄膜の数が多いほど、出射光は明るくなる。
【0045】
多層薄膜層2を構成する薄膜としては、セラミックスの薄膜、金属又は合金の薄膜、有機ポリマー等が使用できる。
【0046】
セラミックスの薄膜としては、例えば、Sb23 (3.0=屈折率n:以下同じ)、Fe2 3 (2.7)、TiO2 (2.6)、CdS(2.6)、CeO2 (2.3)、ZnS(2.3)、PbCl2 (2.3)、CdO(2.2)、Sb23 (2.0)、WO3 (2.0)、SiO(2.0)、Si23 (2.5)、In2 3 (2.0)、PbO(2.6)、Ta23 (2.4)、ZnO(2.1)、ZrO2 (2.0)、MgO(1.6)、SiO2 (1.5)、MgF2 (1.4)、CeF3 (1.6)、CaF2 (1.3〜1.4)、AlF3(1.6)、Al23 (1.6)、GaO(1.7)等が使用できる。
【0047】
また、金属の薄膜としては、例えば、Al、Fe、Mg、Zn、Au、Ag、Cr、Ni、Cu、Si等が例示できる。また、これら金属の合金を使用することもできる。これら金属及び合金は光吸収率が高いため、光透過率30〜60%の薄膜として利用することが好ましい。
【0048】
これらセラミックス、金属及び合金は、真空成膜法によって支持体1上に成膜することができる。膜厚は、それぞれ、50〜2000nmの範囲でよい。なお、金属及び合金は
光吸収率が高いため、光透過率が30〜60%となるような薄膜として利用することが好ましい。
【0049】
また、有機ポリマーは低屈折率薄膜の薄膜として使用できる。例えばポリエチレン(1.51=屈折率n:以下同じ)、ポリプロピレン(1.49)、ポリテトラフロロエチレン(1.35)、ポリメチルメタアクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.60)である。
【0050】
これら有機ポリマーは、公知のグラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法などの印刷方法や、バーコート法、グラビア法、ロールコート法等の塗布方法等を用いて積層することができる。膜厚は2000nm以下であることが望ましい。
【0051】
(エンボス)
エンボスは、多層薄膜層2を一方向から見た場合でも違う色が見えるようにするために設けるものであり、そのエンボスの形状は、頂点の角度が等しい二等辺三角形を連ねた形状であることが望ましい。なお、断面形状が直角三角形のエンボスであってもよい。
【0052】
エンボスの大きさは、前記二等辺三角形の一辺の長さが1mm前後の場合、エンボスが容易であり、また、色変化の安定の点で望ましい。このエンボスは、支持体1上に多層薄膜層を積層した後、エンボス版を重ねて加熱加圧することによって施すことができる。
【0053】
(偏光膜)
偏光膜3は、別途準備した偏光フィルタと協力して、出射光の色彩を変化させるものである。
【0054】
偏光膜3として、直線偏光膜、円偏光膜のいずれを使用することもできるが、偏光膜3が直線偏光膜の場合には前記偏光フィルタとして直線偏光フィルタを使用し、偏光膜3が円偏光膜の場合には前記偏光フィルタとして円偏光フィルタを使用する必要がある。
【0055】
なお、直線偏光膜としては、1軸異方性を有するフィルムに二色性吸収体を吸着させることにより、この二色性吸収体を異方軸に沿って配列させたものが使用できる。1軸異方性を有するフィルムとしては、例えば、1軸延伸ポリビニルアルコールが例示できる。また、二色性吸収体としてはヨウ素の錯体が例示できる。この他、二色性吸収体として、ブルー、レッド、グリーンまたそれらの混合色に着色した二色性染料を使用することもできる。なお、この直線偏光膜の製造に当たっては、フィルムを1軸延伸した後に二色性吸収体を吸着させて製造しても良いし、二色性吸収体を吸着させた後に延伸して製造しても良い。
【0056】
また、直線偏光膜として、ポリ塩化ビニル等のフィルムを処理してポリエンを配向させたものを利用することも可能である。
【0057】
また、円偏光膜としては、前記直線偏光膜の片面に、4分の1波長板を積層したものが使用できる。4分の1波長板は1軸異方性を有するフィルム又はシートであって、その異方軸に偏光面を有する偏光の光速度と、この異方軸に直交する方向に偏光面を有する偏光の光速度とを異ならせしめ、一方の偏光の位相を他方に比較して90度遅延せしめるものである。そして、前記直線偏光膜の異方軸とこの4分の1波長板の異方軸とが45度の角度で交差するように両者を積層すると、直線偏光膜に入射した光線は、円偏光として4分の1波長板から出射する。このため、直線偏光膜を多層薄膜2側に、4分の1波長板をその反対側に位置するように配置する必要がある。4分の1波長板としては、1軸延伸されたポリカーボネートフィルム、1軸延伸された環状ポリオレフィンフィルム等が使用でき
る。
【0058】
また、直線偏光フィルタとしては前記直線偏光膜と同一のものが使用できる。円偏光フィルタとして前記円偏光膜と同一のものを使用することもできるが、直線偏光膜の両面に、それぞれ、4分の1波長板を積層したものを使用することもできる。この場合には、円偏光フィルタの表裏の区別がなくなり、裏返して利用することが可能となる。
【0059】
(接着層)
接着層5は、本発明に係る偽造防止媒体を製品に接着するものである。この接着層5が設けられている偽造防止媒体は、そのまま、シールとして製品に貼着することができる。また、この接着層が設けられていない偽造防止媒体は、別途準備した接着剤によって製品に貼着すればよい。
【0060】
接着層5としては、多層薄膜層2を変質させたり、侵すものでなければ、一般的な接着材料を用いることができる。例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル系ポリアミド、アクリル系、ブチルゴム系、天然ゴム系、シリコン系、ポリイソブチル系等の粘着材等である。また、この粘着材に、各種添加剤を添加したものを使用してもよい。添加剤としては、例えば、アルキルメタクリレート、ビニルエステル、アクリルニトリル、スチレン、ビニルモノマー等の凝集成分が例示できる。また、添加剤として、不飽和カルボン酸、ヒドロキシ基含有モノマー、アクリルニトリル等の改質成分を添加することもできる。また、重合開始剤、可塑剤、硬化剤、硬化促進剤、酸化防止剤等を添加することも可能である。
【0061】
接着層5は、公知のグラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法などの印刷方法、バーコート法、グラビア法、ロールコート法等などの塗布方法で塗布形成することができる。
【0062】
(保護層)
保護層6は、偏光膜3表面を物理的、化学的影響から守ってその損傷や汚れを防止するために設けられる。この保護層6としては、合成樹脂フィルムや合成樹脂の塗膜が利用できる。
【0063】
合成樹脂フィルムとしては、例えば、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート等のフィルムが使用できる。好ましくは、光学的に等方性のフィルム、すなわち、無延伸フィルムである。なお、このフィルムは、接着剤を用いて貼り合わせればよい。
【0064】
また、塗膜に使用される材料としては、公知のアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、あるいはこれらの共重合体が例示できる。また、これらの樹脂にイソシアネート、エポキシ等の硬化剤を添加して強靭性を付与したものを利用することもできる。好ましくは、(メタ)アクリロイル基を分子内に持つ化合物をモノマーとして、このモノマーを重合して得られる樹脂である。モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を1〜20個有するものが好ましく使用できる。例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等である。これらモノマーに光開始剤を添加して塗料化し、この塗料を塗布して形成された塗膜に紫外線等を照射することにより、前記モノマーを重合させることができる。なお、塗膜の形成には、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法などの印刷方法、バーコート法、グラビア法、ロールコート法等などの塗布方法をを用いることができる。また、この塗膜に紫外線等を照射する場合には、高圧水銀ランプ等の紫外線照射装置を使用できる。なお、紫外線照射時に窒素等の
不活性ガスを紫外線照射区域に充填し酸素阻害を軽減することでより強固な塗膜を形成することもできる。
【0065】
(パターン層)
パターン層7は、偽造防止媒体に可視情報を付加するもので、このパターン層7は、文字、数字、マークや絵柄などのデザインの形状に、多層薄膜層2を構成する薄膜と薄膜との間に設けられる。二つ以上の薄膜間のそれぞれに、別の可視情報を設けることも可能である。
【0066】
このパターン層7は、水または有機溶剤に溶解する高分子材料を用いて形成できる。この高分子材料としては、ポリビニルアルコール、線状の飽和ポリエステル樹脂、セルロース系樹脂、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコン系樹脂、ポリイソブチル系樹脂等の樹脂またはこれらの共重合物が使用できる。なお、セルロース系樹脂としては、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロースが例示でき、メタクリル系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチルが例示できる。
【0067】
このパターン層7は、透明なものであってもよい。透明な場合においても、その上下の前記薄膜とは屈折率が異なるため、このパターン層7の前記デザインを認識することが可能である。また、このパターン層7は着色されたものであってもよい。着色する場合には、 前記高分子材料に顔料や染料等の着色剤を添加すればよい。
【0068】
このパターン層7は、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法などの印刷方法、またはバーコート法、グラビア法、ロールコート法等、またはインクジェット法等の塗布方法により設けることができる。
【0069】
(製造方法)
本発明に係る偽造防止媒体は、まず、支持体1の裏面に多層薄膜2を積層する。この多層薄膜2の積層は、その材質に応じて真空成膜法、印刷方法又は塗布方法を採用することが可能である。なお、前記パターン層7を設ける場合には、多層薄膜2を形成する途中でパターン層7を印刷又は塗布して設ければよい。
【0070】
次に、多層薄膜をエンボスする。そして、支持体1の表面に、順次、偏光膜3、保護層6を積層して偽造防止媒体を製造することができる。支持体1と偏光膜3との積層は、接着剤層4を用いて可能である。
【0071】
この接着剤層4としては、前記接着層5と同様の粘着材が使用できる。すなわち、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル系ポリアミド、アクリル系、ブチルゴム系、天然ゴム系、シリコン系、ポリイソブチル系等の粘着材等である。また、この粘着材に、各種添加剤を添加したものを使用してもよい。
【0072】
また、前記保護層6として合成樹脂フィルムを使用する場合には、接着剤によって積層することができる。この接着剤についても、前記接着層5と同様の粘着材が使用できる。
【0073】
次に、支持体1の裏面の多層薄膜2上に接着層5を設けることによって、偽造防止シールを製造することができる。なお、偏光膜3と保護層6の積層に先立ってこの接着層を設けることも可能である。また、この接着層5には、離型紙を貼着して、シール使用時までその表面を保護しておくことが望ましい。
【実施例】
【0074】
<実施例1>
厚み 25μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂シートを透明支持体1として、前記第2形態の偽造防止シール(図2参照)を作成した。
【0075】
すなわち、この透明支持体1上に、厚さ20nmの金属アルミニウム薄膜、厚さ580nmのSiO2薄膜、厚さ70nmの金属アルミニウム薄膜を、この順に真空蒸着法によって成膜して、3層構造の多層薄膜層2を積層した。
【0076】
次に、下記組成の塗料を使用し、グラビア印刷法で多層薄膜層2上に印刷して、厚さ10μmの接着層5を形成し、離型紙を貼り合わせた。
【0077】
[接着層5用塗料の組成]
アクリル系樹脂 60部
(製品名:BPS5160 東洋インキ製造(株)製)
溶 剤 トルエン 4部
MEK 5部
酢酸エチル 1部
次に、エンボス板で加熱加圧して、前記支持体1と多層薄膜2の両者をエンボスした。なお、エンボス板は、そのエンボス部aが星形をしており、このエンボス領域にストライプ状の凹凸を設けたもので、このストライプを構成する線の断面形状は、頂角が90度の二等辺三角形である。
【0078】
そして、グラビア印刷法により、接着剤層用塗料を支持体1表面に10μmの厚さに塗布して接着剤層4を形成した。この塗料は、前記接着層5用塗料と同一の組成である。そして、ロールラミネーターを使用して、この接着剤層4上に直線偏光膜3を積層して、偽造防止シールを製造した。
【0079】
この偽造防止シールを、肉眼で観察したところ、正面から見るとエンボス部分は赤色、非エンボス部分は緑色に見えた。また、角度を変えて観察すると、エンボス部分と非エンボス部分の双方共に色彩が変化して見えた。
【0080】
次に、この偽造防止シールをカラーコピー機でコピーし、そのコピーを観察したところ、全体が黒く、前記エンボス部分と非エンボス部分の区別が困難であった。
【0081】
次に、1m離れた位置で、別途用意した直線偏光フィルタを介して偽造防止シールを観察したところ、この直線偏光フィルタの回転に伴ってその明暗が変化した。
【0082】
<実施例2>
厚み 25μmの透明ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂シートを透明支持体1として、前記第4形態の偽造防止媒体(図4参照)を作成した。
【0083】
すなわち、この透明支持体1上に、厚さ20nmの金属アルミニウム薄膜、厚さ580nmのMgF2薄膜を、この順に真空蒸着法によって成膜した。次に、このMgF2薄膜上に、下記組成の塗料を使用し、グラビア印刷法で文字形状に印刷し、厚さ1μmのパターン層7を形成した。そして、このパターン層7を被覆して、前記MgF2薄膜上に、厚さ70nmの金属アルミニウム薄膜を真空蒸着法によって成膜して、3層構造の多層薄膜層2を積層した。
【0084】
[パターン層用塗料の組成]
ポリエステル系樹脂 20部
(製品名:バイロン20SS 東洋紡(株)製)
溶 剤 トルエン 32部
MEK 40部
酢酸エチル 8部
次に、エンボス板で加熱加圧して、前記支持体1と多層薄膜2の両者をエンボスした。なお、エンボス板は、そのエンボス部aが星形をしており、このエンボス領域にストライプ状の凹凸を設けたもので、このストライプを構成する線の断面形状は、頂角が90度の二等辺三角形である。
【0085】
そして、グラビア印刷法により、接着剤層用塗料を支持体1表面に10μmの厚さに塗布して接着剤層4を形成した。そして、ロールラミネーターを使用して、この接着剤層4上に左円偏光膜3を積層した。なお、接着剤層用塗料の組成は次のとおりである。
【0086】
[接着剤層4用塗料の組成]
アクリル系樹脂 60部
(製品名:BPS5160 東洋インキ製造(株)製)
溶 剤 トルエン 4部
MEK 5部
酢酸エチル 1部
次に、ロールコーターを使用して、前記左円偏光膜3上に、次の組成からなる塗料を塗布した。そして、高圧水銀灯を用いて、この塗膜に500mJの紫外線照射を行って硬化させ、保護層6を形成した。保護層4の厚みは4μmである。
【0087】
[保護層の組成1]
溶剤 MEK 47.5部
アクリルモノマー ペンタエリスリトールテトラアクリレート 50部
重合開始剤 イルガキュア 184 2.5部
得られた偽造防止シールを、肉眼で観察したところ、正面から見るとエンボス部分は赤色、非エンボス部分は緑色に見えた。また、角度を変えて観察すると、エンボス部分と非エンボス部分の双方共に色彩が変化して見えた。
【0088】
次に、この偽造防止シールをカラーコピー機でコピーし、そのコピーを観察したところ、全体が黒く、前記エンボス部分と非エンボス部分の区別が困難であった。
【0089】
次に、1m離れた位置で、別途用意した右円偏光フィルタを介して偽造防止シールを観察したところ、この右円偏光フィルタの回転に伴ってその明暗が変化した。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1Aは本発明の偽造防止媒体の第1の形態を示す平面図、図1Bは図1AのX−X線における断面説明図、図1Cは使用時の状態を示す平面図。
【図2】本発明の偽造防止媒体の第2の形態を示す断面説明図。
【図3】本発明の偽造防止媒体の第3の形態を示す断面説明図。
【図4】本発明の偽造防止媒体の第3の形態を示す断面説明図。
【符号の説明】
【0091】
1‥‥‥支持体
2‥‥‥多層薄膜層
3‥‥‥偏光膜
4‥‥‥接着剤層
5‥‥‥接着層
6‥‥‥保護層
7‥‥‥パターン層
10 ‥‥‥偏光フィルタ
a‥‥‥エンボス部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品に貼着して、観察者に対し製品の真正を証明する偽造防止媒体において、
製品側に配置され、互いに屈折率の異なる複数の薄膜を積層して構成される多層薄膜層と、前記多層薄膜層より観察者側に配置された偏光膜とを備えることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項2】
前記多層薄膜層にエンボスが施されていることを特徴とする請求項1に記載の偽造防止媒体。
【請求項3】
前記エンボスが、断面三角形状の線状に施されていることを特徴とする請求項2に記載の偽造防止媒体。
【請求項4】
前記エンボスが、そのエンボスエンボス領域の全面に渡って頂角が同一である断面三角形状に施されていることを特徴とする請求項3に記載の偽造防止媒体。
【請求項5】
前記エンボスが、そのエンボス面のうち一部の部位において、その他の部位とは異なる頂角の断面三角形状に施されていることを特徴とする請求項3に記載の偽造防止媒体。
【請求項6】
前記エンボスが、そのエンボス面のうち一部の部位において、その他の部位とは異なる方向に伸びる線状に施されていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の偽造防止媒体。
【請求項7】
前記多層薄膜層を構成する薄膜と薄膜との間に、可視情報を構成するパターン層を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の偽造防止媒体。
【請求項8】
前記偏光膜が直線偏光膜であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の偽造防止媒体。
【請求項9】
前記偏光膜が円偏光膜であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の偽造防止媒体。
【請求項10】
前記多層薄膜層と前記偏光膜とが、支持体上に積層されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の偽造防止媒体。
【請求項11】
製品に貼着して、観察者に対し製品の真正を証明する偽造防止シールにおいて、
製品側に配置され、互いに屈折率の異なる複数の薄膜層を積層して構成される多層薄膜層と、前記多層薄膜層より観察者側に配置された偏光膜とを備え、
かつ、前記製品に接着する接着層を備えることを特徴とする偽造防止シール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−3759(P2007−3759A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183025(P2005−183025)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】