説明

偽造防止用紙

【課題】反射光で視認できず、透過光でカラーの模様又は図柄が視認できる偽造防止用紙を提供する。
【解決手段】上部紙層2と下部紙層3と少なくとも1層から成る中間層4から構成される多層紙1において、中間層4は、一方の面に、補色又はほぼ補色関係にあるパール顔料7と着色顔料6を有するインキにより図柄が形成された少なくとも1層5から成り、上部紙層2及び下部紙層3は不透明度が40〜90%の範囲である多層紙1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部紙層と下部紙層が接する一方の紙層面又は上部紙層と下部紙層の間に抄き込まれた中間層の一方の面に、文字や図形が印刷されて成る多層紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙幣、パスポート、有価証券、貴重印刷物等には偽造防止のために、すかしを施した用紙、機能性繊維を抄き込んだ用紙及びスレッドを抄き込んだ用紙等が製造されている。その中で、従来のすかしは、抄紙機のワイヤ上のダンディロールによって、所定の模様で湿紙に凹凸が形成され施されていた。また、円網抄紙機では、所定の模様をしたすき入れの型を有する円網によって施されていた。前述の抄紙機上で施されるすかしは、凹凸が形成されることによって、紙厚の厚い箇所と薄い箇所で濃淡が生じ、模様が認識されるものである。
【0003】
しかしながら、前述の抄紙機上で施されるすかしは、用紙の凹凸による色の濃淡のみで視認されるもので、複数の色を用いてすかしを施すことができず、意匠性に欠けるものであった。
【0004】
そこで、多色のすかしが視認できる用紙として、プラスチックフィルムに文字、模様又は図形を多色刷りで印刷し、前述したプラスチックフィルムの印刷された面に、透明又は半透明の薄紙を貼り合わせ、裏面に不透明紙を貼り合わせた偽造防止用紙が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、反射光では色のしるしの検出が不可能で、可視スペクトルの透過光で見るときには検出可能となる樹脂質支持体シートの一方の面に色のしるしの層を配置し、樹脂質支持体シートの色のしるしが配置された面と他方の面に、不透明度75%〜85%、重量19〜50g/m2、厚さ0.038〜0.050mmの紙シートを接着剤で積層した防護紙が開示されている(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】実公昭S49−14965号公報(第1−2項、第1、2図)
【特許文献2】特許第3164823号公報(第1−15項、第1−4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の偽造防止用紙は、単にプラスチックフィルムの印刷された面に透明又は半透明の薄紙を貼り合せているため、本来、透かしたときに視認されるべき模様等が、蛍光灯などの照明の光が当たると、反射光としてプラスチックフィルムに印刷された模様等の色が、透明又は半透明の薄紙を超えて視認されてしまうものであった。さらに、このように構成が単純であるため、複製が容易であるという問題があった。
【0008】
また、特許文献2の防護紙は、樹脂質支持体シートに配置された色のしるしが反射光で検出されないように、1層当たりの紙シートの不透明度を75%〜85%と高くするため、透過光での視認性が悪いという問題があった。
【0009】
また、特許文献2の防護紙は、重量19〜50g/m2、厚さ0.038〜0.050mmに、紙シートの形態を限定する必要があり、特に前述した紙シートの形態の下限側(重量19g/m2、厚さ 0.038mm)で、75%の不透明度を得るための顔料を添加する方法では、紙シートの色が限定されてしまう結果となる。また、二酸化チタンのような充填剤を添加する方法においても、多量の充填剤を添加する必要があるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、特許文献2の防護紙を作製する条件である、不透明度、重量及び厚さに限定される範囲よりも広範囲で製造可能であるとともに、紙シートの形態が同じであれば、前述の防護紙のしるしよりも透過光での視認性が良好で、反射光では視認できず、透過光では視認できる偽造防止用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上部紙層と下部紙層と少なくとも1層から成る中間層から構成される多層紙において、中間層は、一方の面に、補色又はほぼ補色関係にあるパール顔料と着色顔料を有するインキにより図柄が形成された少なくとも1層から成り、上部紙層及び下部紙層は不透明度が40〜90%の範囲であることを特徴とする多層紙である。
【0012】
本発明は、上部紙層と下部紙層から成る多層紙において、上部紙層と下部紙層が接する面の一方の紙層面に、補色又はほぼ補色関係にあるパール顔料と着色顔料を有するインキにより図柄が形成され、上部紙層及び下部紙層は不透明度が40〜90%の範囲であることを特徴とする多層紙である。
【0013】

また、本発明の多層紙は、中間層が不織布であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の多層紙は、図柄を形成したインキに含まれるパール顔料と着色顔料が、補色の関係であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の多層紙は、図柄を形成したインキに含まれるパール顔料が、リーフィング処理が施されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の多層紙は、上部紙層及び下部紙層が、各々坪量20〜50g/m2、厚さ0.035〜0.050mmの範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の多層紙は、特許文献2の防護紙よりも、坪量や不透明度等の数値的制約が少なく、かつ、潜像効果の高い多層紙を製造することができる。また、本発明の多層紙は、特許文献2の防護紙のしるしよりも視認性に優れ、反射光では視認できず、透過光では視認できる、カラーのすき入れを視認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための最良の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。なお、以降の説明の中で「不織布に着色顔料又は着色顔料とパール顔料を含むインキで印刷されていない領域」を「多層紙の無地部」と呼ぶこととする。
【0019】
本発明の多層紙の実施形態について図1から図6までを用いて説明する。なお、本実施の形態では、中間層に不織布を1層使用した多層紙について説明する。さらに、本実施の形態では、不織布の一方の面に、リーフィング処理を施したパール顔料と着色顔料を含むインキで印刷層を形成した多層紙について説明する。
【0020】
図1(a)は、本発明の多層紙1の断面図であり、上部紙層2と下部紙層3の間に不織布4が設けられている。不織布4の一方の面には、着色顔料6とパール顔料7を含むインキによって印刷層5が形成されている。図1(b)は、不織布4に印刷されている図柄8を示す図である。図2は、本発明の多層紙1にRGB成分を含む光が入射したときの反射光及び透過光を示す図である。図3(a)は、本発明の多層紙1を反射光で観察したときの状態を示す図である。図3(b)は、本発明の多層紙1を透過光で観察したときの状態を示す図である。
【0021】
図4(a)、(b)及び図5(a)、(b)は、本発明の多層紙1の反射光及び透過光における視認性を評価するために作製した多層紙1a〜1e(図示せず)と、本実施の形態の多層紙1の色相a*b*を示す図である。詳細には、図4(a)は、多層紙1の無地部と、不織布4にパール顔料7を用いず着色顔料6とメジウムの割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と、不織布4にパール顔料7を10%に固定し、着色顔料6とメジウムの割合を変更させて配合したインキを印刷した領域を、上部紙層2側からそれぞれ測定したときの色相a*を示す図である。図4(b)は、多層紙1の無地部と、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6とメジウムの割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と、不織布4にパール顔料7を10%に固定し、着色顔料6とメジウムの割合を変更させて配合したインキを印刷した領域を、上部紙層2側からそれぞれ測定したときの色相b*を示す図である。
【0022】
図5(a)は、多層紙1の無地部と、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6とメジウムの割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と、不織布4にパール顔料7を30%に固定し、着色顔料6とメジウムの割合を変更させて配合したインキを印刷した領域を、上部紙層2側からそれぞれ測定したときの色相a*を示す図である。図5(b)は、多層紙1の無地部と、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6とメジウムの割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と、不織布4にパール顔料7を30%に固定し、着色顔料6とメジウムの割合を変更させて配合したインキを印刷した領域を、上部紙層2側からそれぞれ測定したときの色相b*を示す図である。
【0023】
図6(a)は、多層紙1の無地部と、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6とメジウムの割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と、不織布4にパール顔料7を10%に固定し、着色顔料6とメジウムの割合を変更させて配合したインキを印刷した領域において、上部紙層2側に光源を配置し、下部紙層3側に受光部を配置して測定した分光透過率を示す図である。図6(b)は、多層紙1の無地部と、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6とメジウムの割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と、不織布4にパール顔料7を30%に固定し、着色顔料6とメジウムの割合を変更させて配合したインキを印刷した領域において、上部紙層2側に光源を配置し、下部紙層3側に受光部を配置して測定した分光透過率を示す図である。
【0024】
図1(a)の多層紙1は、不織布4の一方の面に、着色顔料6をグリーンインキ(大日精化工業製 ダイピロキサイドカラーグリーン #9320)で0.25%、リーフィング処理を施したマゼンタ色の粉末パール顔料7(メルク製 NEW211)を10%、メジウム(帝国インキ製 UV TUB000メジウム)を89.75%の割合で配合したインキで印刷している。ここで、リーフィング処理とは、パーフルオロアルキルリン酸塩処理であり、パール顔料7に撥水性及び撥油性を付与する表面処理のことである。このリーフィング処理によってパール顔料7がメジウム表面に配向する。なお、以降の説明において、インキの配合割合は、着色顔料6とパール顔料7のみを記載することとする。着色顔料6とパール顔料7の配合割合を除いたものがメジウムの配合割合である。
【0025】
図1(a)の印刷層5は、文字、数字、記号、図柄又は模様等を施すことができるが、本実施の形態では、不織布4に図1(b)に示す図柄8を印刷した。
【0026】
上部紙層2及び下部紙層3は、パルプ紙料をシートマシンで作製した。シートマシンで作製した上部紙層2及び下部紙層3は、湿紙の状態であり、作製した下部紙層3の上に図柄8を印刷した不織布4を積層し、更にその上に上部紙層2を積層し、プレス及び乾燥して多層紙1を作製した。作製した多層紙1の上部紙層2及び下部紙層3は、1層当たり、坪量35g/m2、厚さ0.050mmとし、上部紙層2及び下部紙層3の1層当たりの不透明度は66%、多層紙1の全体の不透明度は90%、色相が受光角0度のときL*83.49、a*1.72、b*12.54であった。前述の色相の値から、本実施の形態の多層紙1は黄色が強い黄赤の色を示すものであるが、これに限定されるものではない。ただし、透過光における図柄8の視認性の点から、紙層の色と着色顔料の色を異ならせて組み合わせることが好ましい。なお、不透明度については、高速分光光度計(村上色彩技術研究所製 CMS−35SPX)を用いて測定した。また、用紙の色相は、変角分光測色システム(村上色彩技術研究所製 変角分光測色システム GCMS4型)を用いて測定した。
【0027】
中間層は、不織布、PET基材、フィルム基材、カード基材及び前述した上部紙層2又は下部紙層3で例示した紙材等のシート基材でも本発明の多層紙1が作製可能である。好適には不織布が好ましく、不織布の例としては、ポリビニルアルコール繊維及びレーヨン繊維等があるが、特に限定されるものではない。ただし、多層紙1の層間剥離を考慮すると、PVA繊維の不織布又はバインダーを塗布した不織布を用いることが好ましい。なお、本実施の形態の不織布4には、坪量12g/m2、厚さ0.035mmのポリビニルアルコール製でバインダーを塗布したものを用いた。
【0028】
上部紙層2及び下部紙層3に使用するパルプは、特に限定されるものではなく、例えば、木材や木綿等の植物繊維を原料とするKP法やSP法によって得られる化学パルプ、GP、TMP、CTMP、CGP又はSCP等の機械パルプ、漂白パルプ、古紙再生パルプ等のいずれかのパルプを適宜選択することができる。
【0029】
本発明において、着色顔料6とパール顔料7の色の関係は、反射光で補色関係又はほぼ補色関係である。この補色関係とは、混色によりほぼ無彩色を表現可能な関係にある2色を、互いに補色としている。例えば、本実施の形態に限定されず、パール顔料がC(シアン)に対して着色顔料がR(レッド)及びパール顔料Y(イエロー)に対して着色顔料がB(ブルー)であっても、実施可能である。また、ほぼ補色関係とは、例えば、ある有彩色の色相角と、もう一つの有彩色の色相角の差がL*a*b*表色系で165°乃至195°の間にあるものであり、このような場合でも本発明の多層紙1が作製可能である。
【0030】
本実施の形態では、シートマシンで上部紙層2と下部紙層3を湿紙の状態で作製し、作製した下部紙層3の上に図柄8を印刷した不織布4を積層し、更にその上に上部紙層2を積層し、プレス及び乾燥して多層紙1を作製しているが、例えば、円網抄紙機及び長網抄紙機上で中間層として不織布を抄き込んで多層紙を作製するか、又はあらかじめ作製された用紙を上部紙層と下部紙層として用い、中間層として、本発明の実施の形態の図柄が形成された不織布を積層し、接着、加熱及び加圧等の処理をして貼り合わせても作製可能である。また、中間層を含まない上部紙層と下部紙層から成る多層紙において、上部紙層と下部紙層が接する面の少なくとも一方の紙層の面に、少なくともパール顔料と着色顔料を含むインキによって図柄を形成した場合においても、反射光では図柄が視認できず、透過光で図柄が視認できる多層紙が作製可能である。
【0031】
本発明に用いる着色顔料6は、特に限定されるものではない。
【0032】
また、本発明に用いるパール顔料7は、虹彩色パール又は2色性パール等、特に限定されるものではない。
【0033】
また、本発明に用いるメジウムは、特に限定されるものではない。
【0034】
次に、このように作製された多層紙1に、白色光のようなRGB成分を含む光が照射されたときの反射光及び透過光で認識される印刷層5で形成された図柄8の原理について、図2〜図5を用いて説明する。
【0035】
図2は、本発明の多層紙1に、RGB成分を含む光が入射したときの反射光及び透過光を示す図である。また、図3(a)は、本発明の多層紙1を反射光で観察したときの状態を示す図である。また、図3(b)は、本発明の多層紙1を透過光で観察したときの状態を示す図である。
【0036】
本発明の多層紙1に、RGB成分を含む光が入射すると、図2に示すようにRGB成分を含む光は、上部紙層2を透過する。そして、RGB成分を含む光がマゼンタ色のパール顔料7に照射されると、RB成分の大部分は反射され、残りのRB成分及びG成分は透過する。また、パール顔料7を透過したG成分は、着色顔料6に照射されて反射及び透過し、パール顔料7を透過したRB成分は、着色顔料6に照射され、着色顔料6に吸収される。そして、印刷層5からの反射光は、パール顔料7が反射するRB成分と着色顔料6が反射するG成分となり、これらのRGB成分の光は、上部紙層2内で散乱されて、最終的に観察者の目に到達する印刷層5の色は、無彩色又はほぼ無彩色の状態となる。したがって、多層紙1の不織布4に印刷された領域を上部紙層2側から観察した場合、上部紙層2の色が観察され、図3(a)に示すように図柄8は視認できない。
【0037】
本発明では、パール顔料7にリーフィング処理を施しているため、パール顔料7がメジウム表面に配向し、リーフィング処理を施していない印刷層と比べて、高い反射光を得ることができる。これは、メジウム表面に配向することによって反射光及び透過光の直進性が増すからである。結果として、白色光のようなRGB成分を含む光がパール顔料7に照射される場合、パール顔料7が反射するRB成分が増加するとともに、パール顔料7を透過するG成分も増加する結果となる。
【0038】
反射光及び透過光で観察したときの図柄8の視認性について評価するため、図1(a)及び図1(b)に示す多層紙1において、図柄8を形成する印刷層5を、パール顔料7を用いず着色顔料6を0.25%含むインキで印刷した多層紙1a(図示せず)と、図柄8を形成する印刷層5を、パール顔料7を用いず着色顔料6を0.5%含むインキで印刷した多層紙1b(図示せず)と、図柄8を形成する印刷層5を、着色顔料0.5%、パール顔料10%を含むインキで印刷した多層紙1c(図示せず)と、図柄8を形成する印刷層5を、着色顔料を0.25%、パール顔料30%を含むインキで印刷した多層紙1d(図示せず)と、図柄8を形成する印刷層5を、着色顔料0.5%、パール顔料30%を含むインキで印刷した多層紙1e(図示せず)を作製した。なお、多層紙1a〜1eの上部紙層2と下部紙層3の形態は、前述した多層紙1と同様の紙層とし、着色顔料6、パール顔料7及び不織布4も前述した多層紙1と同様のものを用いた。
【0039】
そして、多層紙1の無地部、多層紙1及び多層紙1a〜1eの不織布4に印刷された領域の色相を上部紙層2側から、変角分光測色システム(村上色彩技術研究所製 変角分光測色システム GCMS4型)を用いて測定した。また、多層紙1の無地部、多層紙1及び多層紙1a〜1eの不織布4に印刷された領域の透過率を自己分光光度計(U−3500/U−4000型 日立計測器サービス株式会社製)を用いて測定した。なお、透過率の測定は、上部紙層2側に光源を配置し、下部紙層3側に受光部を配置して測定を行った。
【0040】
(反射光での視認性の評価)
図4(a)は、多層紙1の無地部と、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と、不織布4にパール顔料7を10%に固定し、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域を、上部紙層2側からそれぞれ測定したときの色相a*を示す図である。
【0041】
図4(b)は、多層紙1の無地部と、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と、不織布4にパール顔料7を10%に固定し、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域を、上部紙層2側からそれぞれ測定したときの色相b*を示す図である。
【0042】
図5(a)は、多層紙1の無地部と、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と、不織布4にパール顔料7を30%に固定し、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域を、上部紙層2側からそれぞれ測定したときの色相a*を示す図である。
【0043】
図5(b)は、多層紙1の無地部と、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と、不織布4にパール顔料7を30%に固定し、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域を、上部紙層2側からそれぞれ測定したときの色相b*を示す図である。
【0044】
なお、L*a*b*表色系において、色相a*は赤色成分の色の強さを示すものであり、色相a*の値がマイナスの値であると緑色成分の強さを示す。また、色相b*は黄色成分の色の強さを示すものであり、色相b*の値がマイナスの値であると青色成分の強さを示すものである。
【0045】
本実施の形態において、多層紙1の無地部の色相は、図4(a)及び図4(b)に示すように、色相a*及び色相b*がプラスで、特に色相b*の値が大きいことから、黄色が強い黄赤色である。多層紙1の無地部、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域及び不織布4に着色顔料6とパール顔料7を含むインキで印刷した領域の色相b*は、図4(b)及び図5(b)に示すように、いずれも同程度であった。したがって、反射光での図柄8の視認性は、色相a*の影響が大きいこととなる。
以下にその説明をする。
【0046】
図4(a)に示す測定結果から、測定角度0度において、多層紙1の無地部の色相a*に対して、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域の色相a*の値は、1.7程度低い値となっており、実際に、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキで印刷した領域を、目視の反射光で観察すると、着色顔料6のグリーン色が確認された。
【0047】
一方、測定角度0度において、多層紙1の無地部の色相a*対して、不織布4に着色顔料6を0.5%、パール顔料7を10%含むインキで印刷した領域の色相a*の値は、1.4程度低い値であり、実際に、不織布4に着色顔料6を0.5%、パール顔料7を10%含むインキで印刷した領域を、目視の反射光で観察すると、前述の不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と比べ、グリーン色の視認性は弱くなるが、完全にグリーン色が視認されないという結果ではなかった。
【0048】
そして、測定角度0度において、多層紙1の無地部の色相a*に対して、不織布4に着色顔料6を0.25%、パール顔料7を10%含むインキで印刷した領域の色相a*の値は、0.5程度低く、無地部に近い値となり、実際に、不織布4に着色顔料6を0.25%、パール顔料7を10%含むインキで印刷した領域を目視の反射光で観察すると、多層紙1の無地部と同様な色で視認された。
【0049】
以上の結果から、着色顔料6と補色の関係にあるパール顔料7を所定の割合で配合することによって、反射光で着色顔料6の色が視認されなくなることが説明できる。ただし、図4(a)に示すように、着色顔料6を0.5%、パール顔料7を10%で配合して印刷した場合、色相a*の差が大きく、目視で着色顔料6の色が視認されてしまうため、このような場合には、着色顔料6とパール顔料7の配合割合を調整すればよい。例えば、図5(a)に示すように、パール顔料6の配合割合を30%にすることで、多層紙1の無地部に対する色相a*の値は、測定角度0度のときに0.9程度低い値となり、目視の反射光で観察した場合も多層紙1の無地部に近い色となる。
【0050】
(透過光での視認性の評価)
図6(a)は、多層紙1の無地部と、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と、不織布4にパール顔料7を10%に固定し、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域において、上部紙層2側に光源を配置し、下部紙層3側に受光部を配置して測定した分光透過率を示す図である。図6(b)は、多層紙1の無地部と、不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と、不織布4にパール顔料7を30%に固定し、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域において、上部紙層2側に光源を配置し、下部紙層3側に受光部を配置して測定した分光透過率を示す図である。
【0051】
図6(a)から、多層紙1の無地部の分光透過率は、緑色から赤色にかけての光の透過成分が多く、実際に目視の透過光で観察すると、黄赤色で観察される。これに対して、多層紙1aの不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6を0.25%含むインキで印刷した領域の分光透過率は、600〜700nmの波長領域、すなわち、赤色成分にかけての光の透過率が1〜2%程度下がる。一方、500〜570nmの波長領域、すなわち、緑色成分の光の透過率は変わらない。結果的に、赤色成分の光の透過量が減るため多層紙1の無地部とコントラスト差が生じ、緑色の図柄8が観察される。ただし、多層紙1aは着色顔料の配合量が0.25%と低いため図柄8の視認性は弱い。
【0052】
次に、多層紙1bの不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6を0.5%含むインキで印刷した領域の分光透過率は、図6(a)に示すように、570nm〜700nmの波長領域、すなわち、黄色から赤色成分にかけての光の透過率が3〜5%程度下がる。また、400〜570nmの波長領域、すなわち、紫色から緑色成分の光の透過率は2%程度下がる。つまり、測定した波長領域全体で透過率が下がり、特に、黄色から赤色成分にかけての透過率が下がっている。結果的に、多層紙1bは、多層紙1aと比べて多層紙1の無地部とのコントラストの差がより大きくなり、多層紙1aよりも視認性のよい緑色の図柄8が視認された。
【0053】
次に、多層紙1の不織布4に着色顔料6を0.25%、パール顔料7を10%配合して印刷した領域の分光透過率に、図6(a)に示すように、多層紙1bの不織布4にパール顔料7を用いず、着色顔料6を0.5%含むインキで印刷した領域の分光透過率よりも、測定した波長領域全体で透過率が下がっている。結果的に、多層紙1は、多層紙1bと比べて多層紙1の無地部とのコントラストの差がより大きくなり、多層紙1bよりも視認性のよい図柄8が視認された。
【0054】
次に、多層紙1cの不織布4に着色顔料6を0.5%、パール顔料7を10%配合して印刷した領域の分光透過率は、図6(a)に示すように、多層紙1の不織布4に着色顔料6を0.25%、パール顔料7を10%配合して印刷した領域の分光透過率よりも、測定した波長領域全体で透過率が下がっている。結果的に、多層紙1cは、多層紙1と比べて多層紙1の無地部とのコントラストの差がより大きくなり、多層紙1よりも視認性のよい図柄8が視認された。
【0055】
次に、図6(a)と図6(b)において、不織布4にパール顔料7を10%に固定し、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域と、不織布4にパール顔料7を30%に固定し、着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した領域を比較すると、不織布4にパール顔料7を30%に固定して着色顔料6の割合を変更させて配合したインキを印刷した多層紙1d及び多層紙1eの方が、測定した波長領域全体で透過率が下がり、多層紙1の無地部とのコントラストの差が大きく、図柄8の視認性がよい結果であった。
【0056】
また、不織布4にパール顔料7を30%に固定し、着色顔料6を0.25%と着色顔料6を0.5%含むインキで印刷した多層紙1dと1eを比較すると、不織布4にパール顔料7を30%に固定し、着色顔料6を0.5%含むインキで印刷した多層紙1eの方が、600〜700nmの波長領域、すなわち、赤色成分の光の透過率が2%程度下がる結果であった。結果的に、多層紙1eは、多層紙1dと比べて多層紙1の無地部とコントラストの差がより大きくなるため、より視認性のよい図柄8が視認された。以上の結果から、今回作製した多層紙1及び多層紙1a〜1eにおいて、透過光で最も図柄8の視認性がよいのは多層紙1eであった。
【0057】
本発明の多層紙1に関する透過光での視認性について補足すると、例えば、多層紙1の無地部における透過光で観察される色は、図6(b)に示す多層紙1の無地部を測定した波長領域全体の透過率の和に値することとなる。これに対して、例えば、多層紙1eを測定した波長領域全体の透過率の和は、半分程度となっている。このように、測定した波長領域全体の透過率の和が半分程度となっていることから、多層紙1の無地部から多層紙1eが視認されることは明らかである。同様に、多層紙1の無地部と多層紙1a〜多層紙1e間において、それぞれ測定した波長領域全体の透過率の和に差が生じていることから、多層紙1の無地部と多層紙1a〜多層紙1e間で、少なからず透過光の色の視認性に差が生じていることとなる。
【0058】
また、リーフィング処理を施すことによって、パール顔料6の配合量を減らすことができ、製造コストを下げることができる。
【0059】
また、本実施の形態では、上部紙層2及び下部紙層3を、坪量35g/m2、厚さ0.050mm、不透明度66%で構成しているが、坪量が35g/m2より低い場合、つまり不透明度が66%より低い場合においても、着色顔料6とパール顔料7の配合量を調整することにより、上部紙層2側から観察した場合の反射光を無彩色とすることができるので、従来の発明のように、用紙の不透明度が限定された範囲で反射光による図柄等が視認できなくする方法とは異なり、従来よりも広い範囲の用紙の形態において、反射光では図柄が視認できず、透過光で図柄が視認できる多層紙を製造することができる。
【0060】
この上部紙層2及び下部紙層については、各々坪量20〜50g/m2、厚さ0.035〜0.050mm、不透明度が40〜90%の範囲であれば、本発明の効果を奏することができる。特に、中間層又は上部紙層と下部紙層が接する面に形成された図柄を反射光で視認できなくするために、上部紙層と下部紙層の不透明度の範囲は、本発明では重要な要素である。
【0061】
また、従来の発明、例えば、特許文献2記載の防護紙と同程度の坪量(19〜50g/m2)、不透明度(75%〜85%)を有する形態の用紙を用いて多層紙を製造する場合、着色顔料6と補色の関係のパール顔料7を用いることで、反射光でほぼ無彩色とするため、従来の発明よりも着色顔料6の配合量を増やすことができるので、透過光で、より視認性のよいカラーのすき入れが得られる。
【0062】
以上のように、本実施の形態では、パール顔料7にリーフィング処理を施した形態の多層紙1について説明したが、リーフィング処理を施さないパール顔料7を用いた多層紙でも、着色顔料6とパール顔料7の配合割合を調整することによって反射光で図柄8が視認できず、透過光で図柄8が視認できる多層紙1を製造することができる。ただし、本発明の効果をより奏するためにはリーフィング処理を施す方が好ましい。
【0063】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の内容は、これらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
実施例1では、上部紙層及び下部紙層の1層当たりの坪量を30g/m2、厚さ0.050μm、不透明度を66%とした。着色顔料としてブルーインキ(大日精化工業製 シアニンブルー3463)を0.25%、パール顔料としてリーフィング処理を施した金色パール顔料(メルク製 NEW201)を10%配合したインキにより図柄を不織布に印刷し、上部紙層、図柄が印刷された不織布及び下部紙層を積層した多層紙を作製した。本実施例1の多層紙を反射光で観察した場合、図柄は視認されず、透過光で観察した場合、図柄がブルー色で視認された。
【0065】
(実施例2)
実施例2では、上部紙層及び下部紙層の1層当たりの坪量を30g/m2、厚さ0.050μm、不透明度を66%とした。また、図6に示すように、着色顔料としてブルーインキ(大日精化工業製 シアニンブルー3463)を0.25%、パール顔料としてリーフィング処理を施した金色パール顔料(メルク製 NEW201)を10%配合したインキを用いて、第1の印刷領域9を不織布4に印刷した。また、着色顔料としてグリーンインキ(大日精化工業製 ダイピロキサイドカラーグリーン #9320)を0.25%、パール顔料としてリーフィング処理を施したマゼンタ色の粉末パール顔料(メルク製 NEW211)を10%配合したインキを用いて、第2の印刷領域10を不織布4に印刷した。そして、上部紙層、第1の印刷領域及び第2の印刷領域が印刷された不織布4及び下部紙層を積層した多層紙を作製した。実施例2の多層紙を反射光で観察した場合、第1の印刷領域及び第2の印刷領域は視認されず、透過光で観察した場合、第1の印刷領域及び第2の印刷領域がブルーとグリーンのカラーの2色として視認された。
【0066】
(実施例3)
実施例3では、上部紙層及び下部紙層の1層当たりの坪量を20g/m2、厚さ0.035μm、不透明度を43%とした。パール顔料としてリーフィング処理を施したマゼンタ色の粉末パール顔料(メルク製 NEW211)を20%、着色顔料としてグリーンインキ(大日精化工業製 ダイピロキサイドカラーグリーン #9320)を0.25%配合したインキを用いて不織布に図柄を印刷し、上部紙層、図柄が印刷された不織布及び下部紙層を積層した多層紙を作製した。実施例3の多層紙において、多層紙の無地部と不織布に印刷された図柄の色相a*の差は、測定角度0度のとき0.5程度であり、不織布に印刷した図柄を上部紙層側から目視で観察した場合、多層紙の無地部と同様な色で視認された。また、透過光による図柄の視認性についても問題なくカラーとして得られた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】(a)は、本発明における多層紙の断面図を示す図、(b)は、不織布に印刷した図柄を示す図である。
【図2】多層紙にRGB成分を含む光が照射されたときの、透過光及び反射光の状態を示す図である。
【図3】(a)は、本発明における多層紙を、反射光で観察した場合に得られる図柄を示す図、(b)は、本発明の多層紙を、透過光で観察した場合に得られる図柄を示す図である。
【図4】(a)は、多層紙の無地部に対する色相a*の差を示す図、(b)は、多層紙の無地部に対する色相b* の差を示す図である。
【図5】(a)は、多層紙の無地部に対する色相a*の差を示す図、(b)は、多層紙の無地部に対する色相b* の差を示す図である。
【図6】(a)は、多層紙の分光透過率を示す図、(b)は、多層紙の分光透過率を示す図である。
【図7】実施例2の多層紙の不織布に印刷した図柄を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 多層紙
2 上部紙層
3 下部紙層
4 不織布
5 印刷層
6 着色顔料
7 パール顔料
8 図柄
9 第1の印刷領域
10 第2の印刷領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部紙層と下部紙層と少なくとも1層から成る中間層から構成される多層紙において、前記中間層は、一方の面に、補色又はほぼ補色関係にあるパール顔料と着色顔料を有するインキにより図柄が形成された少なくとも1層から成り、前記上部紙層及び下部紙層は不透明度が40〜90%の範囲であることを特徴とする多層紙。
【請求項2】
上部紙層と下部紙層から構成される多層紙において、前記上部紙層と下部紙層が接する面の一方の紙層面に、補色又はほぼ補色関係にあるパール顔料と着色顔料を有するインキにより図柄が形成され、前記上部紙層及び下部紙層は不透明度が40〜90%の範囲であることを特徴とする多層紙。
【請求項3】
前記中間層は、不織布であることを特徴とする請求項1記載の多層紙。
【請求項4】
前記パール顔料は、リーフィング処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至3記載の多層紙。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−291396(P2008−291396A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138790(P2007−138790)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】