説明

偽造防止用紙

【課題】本発明の目的は、外部刺激に応答して表示状態を変える透明中空繊維を紙に混入した偽造防止用紙を提供することであり、前記透明中空繊維が容易に剥離せず、かつ真贋が容易に判定可能な偽造防止用紙を提供することである。
【解決手段】温度変化により蛍光の発光および消光が可逆的に変化する感温性ハイドロゲル材料を内包した透明中空繊維ユニットを、紙に混入したことを特徴とする偽造防止用紙。また、ハイドロゲルを構成するモノマー成分の少なくとも一つが蛍光色素を含むモノマーであることを特徴とする偽造防止用紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変化により蛍光の発光および消光が可逆的に変化する高分子ハイドロゲル材料が内包された透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙に関する。特に、前記透明中空繊維ユニットをパルプ繊維と分散して、抄紙した紙の全面に分散して形成された透明中空繊維が容易に剥離せず、かつ温度変化による蛍光の発光および消光によって真贋が容易に判定可能な偽造防止用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ、スキャナー、プリンター、電子複写機などの高性能化や廉価化によって、紙幣、株券、債券、商品券、宝くじ等の紙からなる有価証券類を比較的容易に偽造することが可能になり、プロの偽造集団ではない素人による偽造が増えている。したがって、これまで用いられてきた、マイクロ文字、隠し文字、地紋印刷、蛍光印刷などの印刷による偽造防止技術を施した有価証券類についても、精巧な偽造品が出回っている。こうした背景から、印刷によってではなく、抄紙工程において紙そのものに偽造防止処理が施されている偽造防止紙のニーズは、ますます増加している。
【0003】
また上記の背景から、一般の人々が偽造紙幣などに接する機会が増えており、紙幣等の真贋判定を彼ら自身が行わなければならなくなってきている。このような現状においては、誰にでも容易に、また確実に真贋判定が行えるような偽造防止技術に対する重要性が増している。紙そのものに施されており、容易に判定できる偽造防止技術としては黒透かしや白透かしといった透かし技術が広く使用されている。しかし、精巧な印刷技術による偽造品に対し、黒透かしや白透かしでは環境条件によっては真贋判定が正確に行えないことがあり、偽造された有価証券が使用されてしまうという問題があった。
【0004】
紙そのものに施す偽造防止技術の1つとして、着色繊維、蛍光発色繊維などを混抄した偽造防止用紙が種々提案され、有価証券類の用紙として実用化されている。例えば、特許文献1には、中間色の染料を定着した着色繊維を混抄した偽造防止用紙が提案されているが、近年のカラーコピー技術やスキャナー・プリンターなどのデジタル画像技術の向上に伴い、こうした用紙でも容易かつ精巧に偽造することが可能となってきている。また、特許文献2に提案されているような、蛍光発色繊維を混抄した偽造防止用紙の場合でも、比較的容易に入手できる蛍光インクを用いれば、スキャナーおよびプリンターによる偽造も容易に実行可能となる。このように、着色繊維、蛍光発色繊維などを混抄した用紙は、紙そのものに容易に偽造防止効果を付与できるという利点があるものの、偽造防止の効果は弱まってきている。
【0005】
特殊繊維を混抄して製造される偽造防止用紙に関する上記の問題点を解決するため、本発明者らは、表示材料や記録材料を内包した透明中空繊維を混入した偽造防止用紙を提案している(特許文献3及び4参照)。ここでは、外部刺激によってその表示状態を可逆的に変えることができる材料を内包した透明中空繊維を用いているため、複写機やデジタル画像技術による複製は不可能であり、高い偽造防止効果を有した。しかしその一方、内包物として液体を含む場合には、偽造防止用紙を切断する・折るなどの加工を行う際にその液体が漏れ、偽造防止効果が無くなる、周りを汚してしまうなどといった問題点があった。
【特許文献1】特開平8−144195号公報
【特許文献2】特開平11−93096号公報
【特許文献3】特願2005−370641号
【特許文献4】特願2006−204264号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記加工上および偽造防止性能上の問題を解決し、外部刺激に応答して表示状態を変える透明中空繊維を紙に混入した偽造防止用紙を提供することである。さらには、前記透明中空繊維が容易に剥離せず、かつ温度変化による蛍光の発光および消光によって真贋が容易に判定可能な偽造防止用紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、温度変化により蛍光の発光および消光が可逆的に変化する高分子ハイドロゲル材料が内包された透明中空繊維ユニットを紙に混入することにより、偽造防止用紙を提供できることを見出した。特に、前記透明中空繊維ユニットをパルプ繊維と分散して、抄紙した紙の全面に分散して形成された透明中空繊維が容易に剥離せず、かつ温度変化による蛍光の発光および消光によって真贋が容易に判定可能な偽造防止用紙を簡便に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は下記の態様を包含する。
(1)温度変化により蛍光の発光および消光が可逆的に変化する高分子ハイドロゲル材料を内包した透明中空繊維ユニットを、紙に混入したことを特徴とする偽造防止用紙。
(2)前記高分子ハイドロゲル材料の主成分が感温性ハイドロゲルであり、高分子を構成するモノマー成分の少なくとも一つが蛍光色素を含むモノマーである、(1)項に記載の偽造防止用紙。
(3)前記ハイドロゲルを構成するモノマー成分の少なくとも1つが、そのポリマーが下限臨界共溶温度をもつN−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体である、(1)項または(2)項に記載の偽造防止用紙。
(4)前記蛍光色素が、蛍光色素分子が親水環境におかれたときは発光せず、疎水環境におかれたときは発光する蛍光色素である、(2)項または(3)項に記載の偽造防止用紙。
(5)前記蛍光色素が、ベンゾフラザン骨格を有する蛍光色素である、(2)項〜(4)項のいずれか1項に記載の偽造防止用紙。
【0009】
(6)前記高分子ハイドロゲル材料を内包した透明中空繊維ユニットが、透明中空繊維にハイドロゲルを構成する各材料を溶解した水溶液を注入した後、該水溶液をゲル化させることにより作製されることを特徴とする、(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載の偽造防止用紙。
(7)前記透明中空繊維ユニットの、外径が10〜500μm、かつ内径が5〜490μmの範囲にある(1)項〜(6)項のいずれか1項に記載の偽造防止用紙。
(8)前記透明中空繊維を形成する材料が、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂から選択される少なくとも1種である(1)項〜(7)項のいずれか1項に記載の偽造防止用紙。
(9)(1)項〜(8)項のいずれか1項に記載の偽造防止用紙に、さらに他の紙を抄合せたことを特徴とする偽造防止用紙。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、紙に、温度変化により蛍光の発光および消光が可逆的に変化する高分子ハイドロゲル材料を内包した透明中空繊維ユニットを混入することにより、温度変化による蛍光の発光および消光によって真贋が容易に判定可能な、極めて優れた偽造防止性能を備えた偽造防止用紙を提供することが可能となった。本発明の偽造防止用紙は、前記透明中空繊維ユニットが容易に剥離することなく、かつ切断などの加工を行っても偽造防止性能は保持されるため、紙幣、株券、債券、商品券、宝くじ等の有価証券類用紙として利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の偽造防止用紙は、紙と親和性の高い樹脂系の透明中空繊維の中に、温度変化により蛍光の発光および消光が可逆的に変化する高分子ハイドロゲル材料を内包させ、それを紙に抄き込むことにより構成される。
本発明の偽造防止用紙の一例の概念図を図1に示す。図1に示すように、偽造防止用紙11は、前記高分子ハイドロゲル材料を内包した透明中空繊維ユニット(以下、透明中空繊維ユニットとする)12が、紙全面に均一に分散した状態で形成される。ただし、紙に混入された透明中空繊維ユニット12は、1本以上あれば、紙に混入できる限り何本でもよい。
【0012】
図1に示した偽造防止用紙11の全面に均一に分散された透明中空繊維ユニット12の構成と機能について、一例を挙げて説明する。透明中空繊維ユニット12の一例の概念図を図2に示す。透明中空繊維ユニット12は、前記高分子ハイドロゲル材料21、透明中空繊維22からなり、両末端23には、熱融着、または接着加工により、ハイドロゲル材料21が乾燥しないように封止した様子を概念的に示してある。
【0013】
本発明の最大の特徴は、温度変化により蛍光の発光および消光が可逆的に変化する高分子ハイドロゲル材料を内包した透明中空繊維を用いることである。その温度変化に対応した蛍光の変化について一例を図3に示す。図3の例において、温度が低い状態、例えば室温付近の約20℃である場合、本発明のハイドロゲルは消光状態であり、励起光を照射しても蛍光発光しない。しかし、本発明の偽造防止用紙を、例えば図3のように40℃以上に加熱すると、ハイドロゲルは発光状態となり、励起光を照射すると強い蛍光発光を示す。
【0014】
前記のような、温度変化に応じて蛍光の消光状態と発光状態を可逆的に変化させることのできる本発明の高分子ハイドロゲル材料は、下限臨界共溶温度をもつポリマーを主成分とする感温性ハイドロゲルから構成される。さらに、感温性ハイドロゲルを構成する少なくとも1つのモノマー成分に、蛍光色素を含むモノマーが含まれる。蛍光色素としては、蛍光色素分子が親水環境におかれたときは発光せず、疎水環境におかれたときは発光する特性を持ち、一般に蛍光プローブとして用いられる蛍光色素が好適に使用される。ここで、感温性ハイドロゲルとは、ある相転移温度を境界にして、相転移温度以下では水溶性、相転移温度以下では水に難溶性となるポリマーからなるハイドロゲルのことを指し、この相転移温度を一般に下限臨界共溶温度(もしくはLCST)と呼ぶ。
【0015】
非特許文献1に記述されているように、前記のような蛍光色素をモノマー単位として含む感温性ポリマーは、下限臨界共溶温度よりも低温領域ではポリマーは親水性が高く、したがって蛍光色素周辺の水分子も多くなるために蛍光発光を示さない。しかし、下限臨界共溶温度よりも高い温度領域まで加熱するとポリマーは疎水的になり、蛍光色素周辺の水分子の数は減少するため、強い蛍光発光を示すようになる。したがって、このように感温性ポリマーと、疎水環境のみで蛍光を示す蛍光色素とを組み合わせることによって、下限臨界共溶温度前後でのポリマーの疎水・親水の変化を利用して、蛍光の発光・消光を可逆的に変化させることが可能となる。
【0016】
【非特許文献1】Analytical Chemistry, 75, 5926−5935 (2003)
【0017】
本発明では、こうした特性を持つポリマーからなるハイドロゲルを内包した透明中空繊維が使用される。前記のような感温性ポリマーは容易にハイドロゲルを形成することができ、ゲル状態で透明中空繊維に内包することにより、切断などの加工によって内包物が漏れて偽造防止の機能が失われたり、周囲が汚れたりすることを防ぐことができる。
【0018】
本発明に用いられる感温性ハイドロゲルを構成する、下限臨界共溶温度を有するポリマーの主成分としては、N−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体のポリマーが好適に用いられる。N−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体としては、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−シクロプロピルアクリルアミド、N−n−エチルアクリルアミド等があげられるが、中でも、温度に対する鋭敏な応答性を有するものが好適に用いられ、特に、下限臨界共溶温度が32℃付近であるN−イソプロピルアクリルアミドや、下限臨界共溶温度が21℃付近であるN−n−プロピルアクリルアミドが好ましく用いられる。
【0019】
感温性ハイドロゲルの主成分として用いられる上記N−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体は、単独で重合およびゲル化させて用いても良いし、他のビニルモノマーを共重合させて用いても良い。使用できるビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのアミノ置換(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アミノ置換アルキルエステル、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。これら共重合させるモノマーの親水性・疎水性によって感温性ハイドロゲルの感温点(つまり、下限臨界共溶温度)を変化させることができる。例えば、親水性モノマーを共重合すると、下限臨界共溶温度は上昇し、逆に疎水性モノマーを共重合すると下限臨界共溶温度は低下する。このためハイドロゲルの感温温度は任意にコントロールできる。
【0020】
上述のように、本発明のハイドロゲル材料はその構成要素として、分子周辺の親水・疎水環境に応じて蛍光の消光状態及び発光状態が可逆的に変化する蛍光色素(いわゆる蛍光プローブ)分子を含むモノマーを有する。蛍光色素としては、ベンゾフラザン誘導体、フルオレスカミン、フルオレセイン誘導体、ダンシル誘導体、ピレン誘導体、フェナントレン誘導体など、一般に蛍光プローブとして用いられるものを用いることができる。この中でも特に、ベンゾフラザン誘導体は、分子周辺の親水・疎水環境に対する応答性が良く、疎水環境におかれた時に500〜550nmの波長領域に強い蛍光を示すことから、特に好適に用いられる。
【0021】
前記蛍光色素を含むモノマーとしては、分子内に前記の蛍光色素構造を有する、(メタ)アクリレートモノマーや(メタ)アクリルアミドモノマーが、本発明に用いられるN−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体と容易に共重合体を形成できるため、好ましく用いられる。その中でも、次の一般式(I)で表される、ベンゾフラザン骨格を有するモノマーが特に好適に用いられる。ここでRは水素原子またはメチル基、Rは特に制限の無い2価の有機基(例えば−CH−CH−基、−CH−CH−CH−基など)、Xは−O−基または−NH−基、Xは−NH−基、−N(CH)−基または−S−基、XはNO基、SON(CH基、SONH基またはSONH基を表す。
【0022】
【化1】

励起光の波長は、用いる蛍光色素により固有のもので、一概に決めることはできないが、多くのものは250〜400nmの範囲の波長の紫外光によって励起させることができる。その中でも、365nmの波長の近紫外光が、人体に対しても影響は少なく、最も好適に使用される。このような、250〜400nmの波長の紫外光は、市販のブラックライトを用いることで容易に得ることが可能である。また、いくつかの蛍光色素は、可視光によって励起されるものがあり、その場合はブラックライトを用いなくとも蛍光の発光を観察することができる。
【0023】
本発明において用いられる、高分子ハイドロゲル材料を内包した透明中空繊維ユニットは、ハイドロゲルを形成する水溶液を透明中空繊維に充填後、レドックス重合を行うことにより、簡便に作製することができる。具体的な作製方法は特に限定されないが、例えば以下のように行うことができる。まず、上述の高分子ハイドロゲル材料を構成するモノマーの主成分である、N−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体、蛍光色素を含むモノマー、および必要に応じて添加される、共重合成分となるモノマーからなるゲル形成水溶液を調製する。この際、N,N'−メチレンビスアクリルアミドなどの架橋剤や、N,N,N',N'−テトラエチレンジアミンなどの重合促進剤が適宜添加される。さらに、過硫酸カリウムや過硫酸アンモニウムなどの重合開始剤を加えた後、この水溶液を次に述べる方法にて透明中空繊維に充填する。
【0024】
上記ゲル形成水溶液を入れた容器と、適当な長さに切断され、片側が封止された透明中空繊維を、気圧、温度などの調節が可能な系内、例えばチャンバー内に設置する。ここで使用するチャンバーは真空/減圧、及び冷却/加温が可能なものであれば特に限定されず、例えば市販の真空乾燥機、実験用ガラス反応器等を使用することができる。減圧時の圧力は、ゲル形成水溶液が中空繊維の一端の封止された位置まで十分に充填するために必要な圧力とする。圧力は中空繊維の長さ、中空繊維の内径、ゲル形成水溶液の粘度等により適宜選択される。好ましくは50mmHg以下であり、さらに好ましくは30mmHg以下である。
【0025】
次に中空繊維の開放端側をゲル形成水溶液へ浸漬する。浸漬の方法としては、例えばチャンバー内に中空繊維の開放端側の開口部が下向きとなるように設置し、その下にゲル形成水溶液を入れた容器を設置する。前記容器を例えば、昇降台上に設置すれば、昇降台を上下することにより、中空繊維を溶液に浸漬することができる。また中空繊維を上下することにより溶液に浸漬することも可能である。昇降台は特に限定されないが、空気圧又は油圧により作動する昇降台が好ましい。中空繊維の開口部をゲル形成性溶液に浸漬するタイミングは、系内を減圧雰囲気下にする前後のいずれでも良い。溶液中に気泡が生じ、充填液に気泡が混入するおそれがあるため、減圧操作を行った後、浸漬操作を行うことが好ましい。
【0026】
次に、中空繊維の開口部をゲル形成水溶液に浸漬した状態で、系内の圧力(気圧)を減圧状態から常圧以下に加圧することで、中空繊維中空部の内外の気圧差により、ゲル形成性溶液が中空繊維の中空部に充填される(図4参照)。この加圧工程において、系内の気圧は常圧以上であれば特に限定されないが、好ましくは760mmHg〜1000mmHgである。加圧操作は、例えば系内に気体を導入することで実施することができる。気体としては、重合反応やゲル形成反応を阻害しないような不活性ガスが好ましい。具体的には、窒素ガス、アルゴンガスである。
本発明の充填方法によれば、複数本の中空繊維を束ねた中空繊維束の各中空繊維に一度にゲル形成水溶液を充填することも可能である。
【0027】
上記方法により充填操作が終了した後、透明中空繊維内でレドックス重合及びゲル化反応が同時に行われ、本発明の高分子ハイドロゲル材料を内包した透明中空繊維が作製される。この際、ゲル形成水溶液中の主成分モノマーである、N−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体の下限臨界共溶温度よりも高い温度で重合、ゲル化を行うと、疎水的な構造が固定化されたゲルが形成されてしまい、温度応答性を示さなくなる。したがって、系内を下限臨界共溶温度よりも低い温度に保ちながら重合、ゲル化を行うことが好ましい。
【0028】
上記のように作製された、高分子ハイドロゲル材料を内包した透明中空繊維をさらに短く切断し、両端を封止することにより、本発明の偽造防止用紙において紙に混入される透明中空繊維ユニットが作製される。切断後の透明中空繊維ユニットの長さは特に限定されないが、0.5mmから50mm程度のものが好ましく使用される。0.5mmより短いと、蛍光発光した状態においても偽造防止用紙中の中空繊維部分が観察しにくくなり、好ましくない。一方、50mmより長くなると、紙に抄き込むのがむずかしくなる。
【0029】
透明中空繊維を前記長さに切断後、内包されたハイドロゲルの乾燥を防ぐため、繊維末端を封止する必要がある。封止には、接着剤を用いる方法、加熱により透明中空繊維材料を溶解させる熱融着方法、レーザー光で透明中空繊維を断裁すると同時に封止も行う方法などがある。
接着剤としては、水系接着剤、エマルジョン系接着剤、溶剤系などの一般に公知の接着剤が適宜使用されるが、溶剤系の接着剤が好ましく用いられる。例えば、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、アルキド系、アミド系、アクリル系などの接着剤が使用できる。また、UV硬化樹脂のような特殊な接着剤を用いてもよい。
加熱により中空繊維材料を溶解させる方法では、一般にカッターの刃に熱したヒートカッターが用いられる。
またレーザー光を用いる方法では、炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)、イットリウム−アルミニウム−ガーネット結晶レーザー(YAGレーザー)、半導体レーザーなどが利用できる。
【0030】
中空繊維の材料としてポリメタクリレート系樹脂やポリカーボネート系樹脂などの、水蒸気透過性が比較的高い樹脂を用いた場合には、ゲル形成後の乾燥が問題となる場合がある。本発明の感温性ハイドロゲルが乾燥してしまうと、温度を変化させても蛍光の発光・消光を変化させることができなくなり、偽造防止用紙としての機能が失われてしまうため、以下のような操作により乾燥を防止することが好ましい。上述の透明中空繊維ユニットの作製方法において、系内を水蒸気圧で飽和させた状態で中空繊維内部にゲルを形成させることにより、中空繊維のポリマー壁中にもゲルが形成され、水蒸気の透過を防ぎ、内部のゲルの乾燥を防止することができる。また、グリセリン、プロピレングリコール、マルトースなどの保湿剤をゲル形成水溶液に添加しておくことも効果的である。
【0031】
次に、本発明において使用される透明中空繊維の材料及び製造方法について説明する。透明中空繊維の材料としては、紙との親和性に優れたものが好ましい。紙の主成分がセルロースであることを鑑みれば、セルロースとの親和性が高い材料を用いることが好ましい。セルロースとの親和性のパラメータとして、相溶性パラメータ、無機性値/有機性値(以下、I/O値とする)などの指標を用いることができる。例えば、セルロースとの親和性のパラメータとしてI/O値を用いた場合は、透明中空繊維の材料のI/O値が0.2〜3.0の範囲にあることが好ましい。I/O値の計算方法に関しては、非特許文献2に詳しく述べられている。
【0032】
【非特許文献2】有機概念図 甲田善生著、三共出版(1984)
【0033】
また、透明中空繊維の材料としては、透明性に優れたものが好ましい。透明性の観点から選択できる具体的な材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体(ABS系樹脂)、フッ素樹脂(例えば、4フッ化エチレン樹脂)、シリコーン系樹脂、ナイロン系樹脂、塩化ビニル系樹脂などを挙げることができる。
【0034】
透明中空繊維の材料の中でも、セルロイドやアセチルセルロースなどは好適に用いられる。これらの材料は、特に紙との親和性が強い。セルロイドやアセチルセルロースなどからなる透明中空繊維ユニットを、本発明の偽造防止用紙から剥離しようとした場合、該透明中空繊維ユニットは紙からうまく剥がれず、むしろユニットそのものが壊れてしまう。したがって、偽造を目的とした透明中空繊維ユニットの再利用が困難である。
【0035】
透明中空繊維は、例えば、以下のようにして製造できる。略同心円状の二層構造のポリマー繊維を溶融紡糸法などにより製造し、該繊維を延伸して外径10〜500μm程度の繊維を得る。このときに、内層は成形後に水洗や有機溶剤などで溶解する樹脂である。溶解によって内層の樹脂を取り除くことにより、透明中空繊維を得ることができる。あるいは、内層の溶解性樹脂の代わりに予め流体を導入しておけば、後から樹脂を取り除く必要がなくなり、より簡便に透明中空繊維を製造することが可能になる。この際導入する流体としては、空気や窒素ガスのような気体が好ましい。
【0036】
また、前記透明中空繊維は外径として10μmから500μm程度のものが使用できる。10μmより小さいと、蛍光発光した状態においても偽造防止用紙中の中空繊維部分が観察しにくくなり、好ましくない。一方、500μmより大きくなると、紙に抄き込むのがむずかしくなる。
さらに、前記透明中空繊維は内径として5μmから490μm程度のものが使用できる。5μmより小さいと、蛍光発光した状態においても偽造防止用紙中の中空繊維部分が観察しにくくなり、好ましくない。一方、490μmより大きくなると、外径が500μmの場合でも、外径に対して繊維の肉厚が薄すぎて脆くなり、内包物質が漏れてしまう場合がある。
【0037】
本発明の偽造防止用紙では、前記透明中空繊維が紙に混入されているため、中空繊維の外径は紙厚よりも十分に小さいことが好ましく、その差は10μm以上であることが好ましい。この差が10μmより小さいと、偽造防止用紙の表面に透明中空繊維ユニットの部分だけ著しく凸部が形成されているため、印刷工程などの後工程で問題が生じてしまう場合がある。
【0038】
次に、本発明の偽造防止用紙の用紙の原料となるパルプ繊維について説明する。パルプ繊維としては、針葉樹や広葉樹などの木材パルプからなる植物繊維、イネ、エスパルト、バガス、麻、亜麻、ケナフ、カンナビスなどの非木材パルプからなる植物繊維、またはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックから作られた合成繊維などが用いられる。
本発明に用いる用紙は、原料である前記のパルプ繊維を水中にて叩解し、抄いて絡ませた後、脱水・乾燥させて作られる。このとき、紙は主成分であるセルロースの水酸基間の水素結合により繊維間強度が得られる。また、紙に用いる填料としてはクレー、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタンなどがあり、サイズ剤としてはロジン、アルキルケテンダイマー、無水ステアリン酸、アルケニル無水こはく酸、ワックスなどがあり、紙力増強剤には変性デンプン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、尿素−ホルムアルデヒド、メラミン−ホルムアルデヒド、ポリエチレンイミンなどがあり、これらの材料をそれぞれ抄紙時に加え、主として長網抄紙機で抄造する。
また、植物繊維以外の例えば合成繊維を混入した紙の場合は、合成繊維間に水素結合などの結合力を持たないため結着剤を必要とすることが多いので、合成繊維比率と結着剤量は、紙の強度を落とさない程度に適宜決めるのが望ましい。
【0039】
前記透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙の抄紙方法は、通常の植物繊維紙の製造に用いられる方法でよく、原料濃度を0.01〜5%、好ましくは0.02〜2%の水希薄原料で十分に膨潤させた繊維をよく混練し、スダレ・網目状のワイヤーなどに流して並べて搾水後、加温により水分を蒸発させて作られる。
抄紙後は必要に応じて、クリヤ塗工、ラミネート処理、抄合せなどの処理を施してもよい。
【0040】
前記透明中空繊維ユニットを確実に抄き込むために、一度偽造防止用紙のシートを形成した後に、さらに別な紙を抄き合わせることもできる。この場合、乾燥工程まで終了したドライの偽造防止用紙の上に、前記植物繊維の水希薄原料を載せて、抄き合せをする方法、もしくは乾燥前のウェットの状態の偽造防止用紙のシート上に、さらに水希薄原料を載せて抄き合せをする多層抄きの方法などを用いることができる。製造コストの観点から、後者の多層抄きの方法を用いることが好ましい。
【0041】
多層抄きの方法については特に限定はされないが、例えば図5のような方法を用いることができる。図5は、円網ワイヤー51、傾斜ワイヤー52、透明中空繊維ユニット供給ボックス53、植物繊維の水希薄原料54、ウェットシートを誘導するためのカンバス55からなる。まず、円網ワイヤー51によって植物繊維の水希薄原料54のウェットシートが出来上がる。このウェットシートは、透明中空繊維ユニット供給ボックス53に達するまである程度脱水される。このウェットシートの上に、透明中空繊維ユニット供給ボックス53より透明中空繊維ユニット12がランダムにばら撒かれる。透明中空繊維ユニット12は、予め円網ワイヤー51内の水希薄原料54の中に混練されていても良く、この場合透明中空繊維ユニット供給ボックス53は必ずしも必要ではない。このようにして出来たウェットシートの上に、さらに傾斜ワイヤー52によってもう一層ウェットシートが載せられて、乾燥工程へ送られる。このような多層抄きは、各種特殊紙の製造方法として、一般的に行われている方法の一つである。
【0042】
本発明の偽造防止策が施された偽造防止用紙への印刷は、従来の紙の場合と同じ設備と方法が使用可能である。すなわち、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法などの印刷法で文字や絵柄を印刷することができる。
【0043】
本発明の偽造防止用紙は上述のように、温度変化により蛍光の発光および消光が可逆的に変化する高分子ハイドロゲル材料が内包された透明中空繊維ユニットが紙に混入されているため、電子複写やデジタル画像技術などで偽造することは不可能である。また、次のような簡便な方法で真贋を判定することができる。偽造防止用紙に、ブラックライトにより365nmの近紫外光を照射しながら、任意の方法により用紙の温度を変化させる。偽造防止用紙中に混入された中空繊維は、紙の温度が、使用されるハイドロゲル中のポリマーの下限臨界共溶温度よりも低い場合には蛍光を発しないが、それより高い温度になると蛍光発光を示すようになる。感温性ハイドロゲルは温度に対する応答性が鋭敏なため、短い時間間隔、例えば数秒以下の間隔で昇温及び冷却を繰り返しても、それに伴って蛍光の発光・消光が確認できる。したがって、ブラックライト下で昇温及び冷却を繰り返し、偽造防止用紙中の中空繊維の蛍光発光・消光を確認することにより、容易に真贋を判定することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、実施例中の「%」は、すべて「質量%」を意味する。
【0045】
実施例1
[透明中空繊維の作製]
溶融押出成型機を用い、ノズルの中心部のガス吐出孔から窒素ガスを流しつつ、該中心部の周りのノズルから、I/O値=0.7のポリエステル樹脂を押し出した。押出機温度は250℃にし、窒素ガスをほぼ大気圧に保った。溶融したポリエステル樹脂の押出し速度は0.15kg/hrであった。押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径100μm、内径70μmの透明中空繊維を得た。
【0046】
[ゲル形成水溶液の調製]
N−イソプロピルアクリルアミド1.1g、N,N'−メチレンビスアクリルアミド0.031g、非特許文献1に従って合成された、化学式(II)に示される、4−N−(2−アクリロイルオキシエチル−2,1,3−ベンゾオキサジアゾール(DBD−AE)0.011g、N,N,N',N'−テトラエチレンジアミン0.017g及び過硫酸アンモニウム0.068gを、10分間超音波脱気した蒸留水10gに溶解し、ゲル形成水溶液を調製した。
【0047】
【化2】

[ハイドロゲルを内包した透明中空繊維の作製]
図6に示すような、中空繊維を固定するための金属棒61、窒素ガスを封入したバルーン62及び真空ポンプ63を取り付けた3つ口セパラブルフラスコ64をチャンバーとして用い、以下の操作により透明中空繊維へのゲル形成水溶液の充填、及び重合・ゲル化を行った。まず上記ゲル形成水溶液を入れた容器65をフラスコ64内に設置した。次に、上記透明中空繊維を長さ15cmに切断し、片側の末端を熱融着加工により封止したもの20本を束ねて中空繊維束66とし、金属棒61に固定した。このとき、封止された末端が上になるように、また、封止されていないほうの末端が容器65内のゲル形成水溶液液面の上方に位置するようにした。その後、フラスコ64を0−5℃に保たれた氷浴67中に設置した。
窒素バルーンをつないだコック68を閉め、真空ポンプにつないだコック69を開けてフラスコ64内を30mmHgまで減圧した。次にコック69を閉め、コック68を開けてフラスコ64内を780mmHgまで加圧した。その後同様の減圧及び加圧操作を5回繰り返した。次にもう一度コック68を閉め、コック69を開けてフラスコ64内を20mmHgまで減圧した後、コック69を閉め、金属棒61のネジ固定式留め具を緩めて金属棒を中空繊維束66の先端の口が溶液に十分に浸漬するまでフラスコ64内に押し下げて再びネジをしっかり締めて固定した。次にコック68を開いてフラスコ内を780mmHgまで加圧した。加圧操作後、溶液は中空繊維束66のほぼ密封された位置まで充填された。その後、3時間重合せしめ、ハイドロゲルを内包した透明中空繊維を得た。
【0048】
[透明中空繊維ユニットの切断及び両末端の封止]
前記ハイドロゲルを内包した透明中空繊維を、刃を熱したカッターを用いて、カット長が概ね15mmになるように切断した。切断時に透明中空繊維の切断面部分が溶かされながら潰れることにより端部はシールされ、透明中空繊維ユニットが形成できた。
【0049】
[偽造防止用紙の作製]
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商標:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。この紙料に、前記透明中空繊維ユニットを混入し、実験用手すきマシンで坪量80g/mの紙を抄紙した。乾燥は回転式ドライヤーを使用し90℃で行った。透明中空繊維ユニットが紙の前面に一様に分散し、該透明中空繊維ユニットが完全に紙中に抄き込まれた偽造防止用紙を得た。本偽造防止用紙の紙厚は150μmであった。
【0050】
実施例2
実施例1において、ポリエステル樹脂の代わりに、I/O値=2.3のポリカーボネート樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の方法で偽造防止用紙を得た。
【0051】
[真贋判定方法]
実施例1および2にて用いている、N−イソプロピルアクリルアミドのポリマーの下限臨界共溶温度が約32℃であることを考慮し、以下の操作を行った。
実施例1または2で作製した偽造防止用紙に、気温25℃の室内で波長365nmのブラックライトで紫外線を照射したところ、蛍光発光は示さなかった。この状態で、偽造防止用紙の下に設置したホットプレートにより用紙を40℃に加熱したところ、偽造防止用紙中の透明中空繊維ユニットの部分が強い蛍光発光を示した。また、加熱を止め、紙が室温付近まで冷却されると、蛍光を示さなくなった。
上記のように、本発明の偽造防止用紙では、加熱・冷却によって蛍光の発光・消光が変化するような場合は本物、そのような挙動を示さない場合は偽物といったように、真贋判定を容易に行うことができた。
【0052】
実施例3
実施例1において、N−イソプロピルアクリルアミドの代わりに、N−n−プロピルアクリルアミドを用いた以外は、実施例1と同様の方法で偽造防止用紙を得た。
【0053】
[真贋判定方法]
本実施例にて用いている、N−n−プロピルアクリルアミドのポリマーの下限臨界共溶温度が約21℃であることを考慮し、以下の操作を行った。
実施例3で作製した偽造防止用紙に、気温25℃の室内で波長365nmのブラックライトで紫外線を照射したところ、偽造防止用紙中の透明中空繊維ユニットの部分が強い蛍光発光を示した。この状態で、偽造防止用紙の下に設置したホットプレートにより用紙を10℃に冷却したところ、蛍光発光を示さなくなった。また、冷却を止め、紙の温度が室温付近まで戻ると、再び蛍光を発光した。
上記のように、本発明の偽造防止用紙では、冷却・加熱によって蛍光の消光・発光が変化するような場合は本物、そのような挙動を示さない場合は偽物といったように、真贋判定を容易に行うことができた。
【0054】
比較例1
[蛍光発色繊維の作製]
重量平均繊維長が2.8mmであり、軸比が50〜200程度の針葉樹漂白クラフトパルプ100gと、蛍光顔料(平均粒子径3.0μmのMn活性化ZnGeO粒子)100gを高速気流中衝撃処理装置(商品名「ハイブリタイザー」、(株)奈良機械製作所製造)に投入し、5分間処理することによってパルプ繊維の表面へ蛍光顔料を固着させた蛍光発色繊維を得た。この繊維は可視光のもとでは無色であるがブラックライトで紫外線を照射すると赤色の蛍光発光を示した。
【0055】
実施例1において、ハイドロゲルを内包した透明中空繊維ユニットの代わりに、前記蛍光発色繊維を用いた以外は、実施例1と同様の方法で偽造防止用紙を得た。
【0056】
以上の実施例1〜3の、本発明の偽造防止用紙では、温度変化により蛍光の発光および消光が可逆的に変化する高分子ハイドロゲル材料が内包された透明中空繊維ユニットが紙の中に混入されているため、まったく同じものを真似て作るという意味での偽造は困難であり、偽造防止効果が非常に高い。温度変化により蛍光発光を制御できるような材料も、一般には入手できるものではないため、印刷やデジタル画像技術などにより複製することもほぼ不可能である。また、上述のように、ブラックライト照射下で温度を変化させるという簡便な手段により、容易に真贋判定が行えるという点からも、本発明の偽造防止用紙は、非常に優れた偽造防止効果があると言える。
一方、比較例1の偽造防止用紙では、蛍光発光繊維が紙に混入されているため、まったく同じものを真似て作るという意味での偽造は同様に難しいが、紫外線照射により繊維の部分が蛍光発光するという偽造防止部位は、例えば蛍光インクで印刷することなどによって同様のものを偽造することができる。よって、偽造防止用紙としての効果は低い。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、例えば前記実施例のように、ブラックライトを当てながら温度を変化させるといった非常に簡単な方法によって、人間が容易に真贋判定することができる偽造防止用紙を提供することができる。本発明の偽造防止用紙は、最小限のコストで最大限の偽造防止効果が得られるものであり、産業上の利用価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の偽造防止用紙の概念図
【図2】本発明の透明中空繊維ユニットの概念図
【図3】本発明の透明中空繊維ユニットにおいて、温度変化に応じて蛍光の発光・消光が変化する様子を示した概念図
【図4】本発明の透明中空繊維に、ゲル形成水溶液を充填する方法を示した概念図
【図5】本発明の多層抄きの製造方法の一例
【図6】本発明のハイドロゲルを内包した透明中空繊維の作製に用いる装置の模式図
【符号の説明】
【0059】
11:偽造防止用紙
12:透明中空繊維ユニット
21:高分子ハイドロゲル材料
22:透明中空繊維
23:封止された両末端の概念図
51:円網ワイヤー
52:傾斜ワイヤー
53:透明中空繊維ユニット供給ボックス
54:植物繊維の水希薄原料
55:ウェットシートを誘導するためのカンバス
61:中空繊維を固定するための金属棒
62:窒素ガスを封入したバルーン
63:真空ポンプ
64:3つ口フラスコ
65:ゲル形成水溶液を入れる容器
66:中空繊維束
67:氷浴
68:窒素ガスを導入するためのコック
69:真空ポンプと連結されたコック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度変化により蛍光の発光および消光が可逆的に変化する高分子ハイドロゲル材料を内包した透明中空繊維ユニットを、紙に混入したことを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項2】
前記高分子ハイドロゲル材料の主成分が感温性ハイドロゲルであり、高分子を構成するモノマー成分の少なくとも一つが蛍光色素を含むモノマーである、請求項1に記載の偽造防止用紙。
【請求項3】
前記ハイドロゲルを構成するモノマー成分の少なくとも1つが、そのポリマーが下限臨界共溶温度をもつN−アルキル(メタ)アクリルアミド誘導体である、請求項1または2に記載の偽造防止用紙。
【請求項4】
前記蛍光色素が、蛍光色素分子が親水環境におかれたときは発光せず、疎水環境におかれたときは発光する蛍光色素である、請求項2または3に記載の偽造防止用紙。
【請求項5】
前記蛍光色素が、ベンゾフラザン骨格を有する蛍光色素である、請求項2〜4のいずれかに記載の偽造防止用紙。
【請求項6】
前記高分子ハイドロゲル材料を内包した透明中空繊維ユニットが、透明中空繊維にハイドロゲルを構成する各材料を溶解した水溶液を注入した後、該水溶液をゲル化させることにより作製されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の偽造防止用紙。
【請求項7】
前記透明中空繊維ユニットの、外径が10〜500μm、かつ内径が5〜490μmの範囲にある請求項1〜6のいずれかに記載の偽造防止用紙。
【請求項8】
前記透明中空繊維を形成する材料が、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂から選択される少なくとも1種である請求項1〜7のいずれかに記載の偽造防止用紙。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の偽造防止用紙に、さらに他の紙を抄合せたことを特徴とする偽造防止用紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−63701(P2008−63701A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244223(P2006−244223)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】