説明

傾斜センサ

【課題】電極の面積を同じにして検知した容量の差の反転で傾斜を判定することで誤判定を回避しつつ、傾斜判定角度を180度に限ることなく任意の角度に設定可能とする傾斜センサを提供する。
【解決手段】傾斜センサ20においては、電極31,32は、同一の大きさの面積を持ち傾斜検知用のボール6が入れられた円弧状移動路9に沿う同心円状に配置されており、判定角度部において接続部31c,32cで内外周が逆転配置されている。ボール6の球状の表面と電極31,32との距離が異なり且つ内外周が反転しているので、ボール6が判定角度部を通過して移動するとき、内外周の電極について検出される静電容量の大きさが同じで符号が反転する変化を捉えることで、温度変化に影響されずに傾斜センサ20の傾斜を正確に検出することができる。また、判定角度部は任意の角度に設定可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電極について検出される静電容量に基づいて傾斜を判定する傾斜センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対向電極間に傾斜検知用の移動体入れ、その電極についての静電容量又はその変化を検出し、検出した静電容量の値に基づいて移動体の動きを判定し、当該センサが取り付けられた被検出体の傾斜を検知する傾斜センサが提案されている。移動体としては導電性の有るボールが用いられる。
【0003】
対向電極間に傾斜検知用のボールを入れ、ボールの移動によって生じる静電容量の変化に基づいてボールの動きを判定する傾斜センサの一例として、ゼロ点調整や温度補償等の調整が不要な静電容量式傾斜センサが提案されている(特許文献1参照)。この静電容量式傾斜センサによれば、半円状の一対の差動電極が垂直方向に隣接配置され、これと対向するように、共通電極が一定の間隙を設けて配置されている。一対の差動電極及び共通電極は、密閉容器内に収容され、密閉容器内には誘電性液体が封入される。上側の差動電極及び共通電極は上側可変コンデンサを構成し、下側の差動電極及び共通電極は下側可変コンデンサを構成している。
【0004】
図8は従来の傾斜センサの一例を示す断面図であり、(a)は移動体の移動路に沿う方向に切断した断面図、(b)は移動体の移動路と直交する方向((a)のA−A線)で切断した断面図である。図9は図8に示す傾斜センサの出力例を示す図であり、(a)はある温度状態での二つの電極が検出する容量の変化を示すグラフ、(b)は(a)から温度が変化したときの両電極が検出する容量の変化を示すグラフ図である。
【0005】
図8に示す傾斜センサ1は、ガラスなどの導電性のない側板3,4と、側板3,4間に挟まれたシリコン等の中間板5とを三層構造に構成された容器状の本体2の形態に構成されている。容器2の内部には移動体としてのステンレス等の導電性のある材料から形成されている移動体としてのボール(ボール径Z)6が収容されている。ボール6を収容するため、中間板5には貫通孔7が形成されている。側板3,4には、貫通孔7に対応して且つ貫通孔7の開口の内側に納まる態様で窪み8,8が形成されている。窪み8,8は、周辺部が斜面となった板3,4の厚さの約半分の深さにまで浅い皿状に形成されている。
【0006】
窪み8,8の周りの側板3,4間には、本体2が傾斜するときに、ボール6が相対的な加速度を受けて移動可能な弧状の移動路9が形成されている。本実施例では、移動路9は、ボール6の径Zよりも僅かに広い幅Xを有する円環状の通路に形成されており、円環状の移動路9は、図8(a)の左右の感度軸方向を含む面内に延びて形成されている。中間板5に形成される貫通孔7の内周面には、加工上の観点も含めて、両側から等距離の中間位置に稜線7aが形成されており、それに応じて、ボール6は稜線7a上を転がるように移動する。傾斜センサ1によれば、本体2との間に相対的な加速度を受けて移動可能なボール6等の移動体を入れた本体2の側板3,4間の静電容量が測定され、ボール6が移動路9に沿って動くことによる静電容量の変化が検出される。
【0007】
本体2を構成する非導電性の板3,4と、中間板5とは、略同等の厚さを有し、正面で見て正方形の板材である。貫通孔7及び窪み8,8以外の部分は、平坦に形成されており、板3,4と中間板5との接合面は液密に接合される。図8(a)に示すように、表側には本体2の貫通孔7と窪み8,8から成るキャビティ内に連通し液体を注入する注入部10が設けられている。図8は、ボール6に大きな加速度が作用しないときの、ボール6の安定位置を定めている。
【0008】
移動路9に沿って、側板3,5には、移動路9に臨む側に金属電極(以下、単に「電極」という)が付着されている。電極は、互いに対向する第1電極11,11と互いに対向する第2電極12,12とから成っている。本実施例では、第1電極11,11と第2電極12,12とは、周方向に区分した弧状に形成されており、第1電極11,11が図8(a)の安定状態を中心とする比較的狭い検出角度範囲(定常状態の判定角度範囲)θ1に広がっており、第2電極12,12が残りの比較的広い角度範囲(傾斜状態判定角度範囲)θ2に渡って広がっている。第1電極11,11の検出角度範囲θ1と第2金属電極12,12の検出角度範囲θ2は、互いに相補的に配置されており、トータルで360度の範囲をカバーしている。
【0009】
検出角度範囲θ1でボール6が検知されるときには、傾斜センサ1は定常状態にあると判定される。また、検出角度範囲θ2でボール6が検知されるときには、傾斜センサ1は傾斜状態にあると判定される。第1電極11,11及び第2電極12,12について、外部との電気的接続を確保する接続端子13,14が設けられている。
【0010】
図9は、図8に示す傾斜センサ1の出力例である。この例では、電極間の容量(静電容量)の時間変化がグラフとして示されている。太実線で示すグラフが第1電極11,11間での容量の変遷であり、破線で示すグラフが第2電極12,12間での容量の変遷を示すグラフである。移動路9でボール6が存在する電極については、移動路9の電極間距離Xからボール径Zを除いた間隔(X−Z)が小さいため、静電容量が大きい。また、静電容量は、対向する電極の面積に比例する。したがって、図8(a)に示すように、ボール6が第1電極11,11間の定常位置に有るときには、第1電極11,11間の静電容量は、存在していない(ボール6は第2電極12,12間に存在している)ときよりも大きい。また、第2電極12,12間の静電容量は、ボール6が第2電極12,12間に位置する状態の方が、存在していない(第1電極11,11間に存在している)ときよりも大きい。更に、第2電極12,12の面積が第1電極11,11の面積よりも広いため、定常状態では、第2電極間の容量が第1電極間の容量よりも大きい。
【0011】
細実線で示す線は傾斜判定を行う閾値を示す線であり、この閾値を境に傾斜の判定がなされる。移動路9を移動するボール6が、電極間に存在する又は存在していない場合の静電容量の違いで、傾斜センサ1の定常状態は傾斜状態かが検知可能である。図9(a)に示すように、第1電極11,11間での容量がこの閾値を超えて低下し、第2電極12,12間での容量がこの閾値を超えて変化するとき、傾斜センサ1は傾斜状態にあることがわかる。しかしながら、温度変化など外的要因にて容量そのものが変化することがある。その容量変化の様子が図9(b)に示されている。閾値は当初設定のとおりであるので、容量特性が変化してしまうと、例えば、第2電極12,12間での容量は、傾斜していなくても既に閾値を超えており、傾斜していると誤判定される。図示の状態では、第1電極11,11間の静電容量が閾値を下回ることが検出されれば、傾斜状態を判定可能であるが、この閾値を下回らないと、傾斜したにもかかわらず、傾斜していないと誤判定されるおそれがある。
【0012】
上記の対向電極とそのギャップ内に移動可能に配置された移動体とを備えた傾斜センサについては、図10に示すように、第1電極15,15及び第2電極16,16の面積(設けられる角度を180度にする)を同一にし、第1電極15,15間及び第2電極16,16間の静電容量差を測定し、その差が反転することにより傾斜判定を行うことが考えられる。この構造によれば、第1電極15,15及び第2電極16,16は共に180度の検出角度範囲θ3,θ4を持つ。ボール6が移動する移動量、即ち、第2電極16,16間まで移動すれば、第1電極15,15及び第2電極16,16間で検出される静電容量の大きさが反転するので、本体2が第1電極15,15でカバーする角度範囲を超えて傾斜したことを判定することができる。両電極の出力である静電容量は、図11(a)に示すように、ボール6が定常状態と傾斜状態との境界を通過するときに互いにクロスして静電容量差の値が正(ΔQ)から負(−ΔQ)、或いはその逆に反転する。図11(b)に示すように、温度変化に起因して容量特性に変化が生じた場合、容量の差の大きさが変化する(ΔQ’,−ΔQ’)ことはあっても、定常状態又は傾斜状態のいずれかの状態ではその容量の差(|ΔQ’|)は常に同じであり、定常状態と傾斜状態との間でボール6が動くときには容量の差の符号の逆転が必ず生じる。したがって、上記の傾斜していなくても傾斜(或いはその逆)しているという誤判定がなされる問題点を回避できる。しかしながら、両電極の面積を同じにすることに起因して、傾斜判定角度が180度に固定されてしまうという別の問題が生じる。
【特許文献1】特開2000−241162号公報(段落[0016]〜[0023]、[0031]、図1〜図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、移動体が移動路に沿って動くときに複数の並列に並んだ電極のそれぞれについての静電容量を計測し、各電極の静電容量に基づいて、移動体が判定角度範囲を越えて移動するのを判定可能にする点で解決すべき課題がある。
【0014】
この発明の目的は、電極の面積を同じにして検知した容量の差の反転で傾斜を判定することで誤判定を回避しつつ、傾斜判定角度を180度に限ることない任意の角度に設定可能とする傾斜センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、この発明による傾斜センサは、電極間に傾斜検知用の移動体を入れ、当該電極についての静電容量に基づいて移動体の動きを判定する傾斜センサであり、移動体の動きは円弧状移動路で定められる動きであり、電極は同一の大きさの面積を持ち円弧状移動路に沿う同心円状に配置された2つ以上の電極であり、電極は移動体の動きについて傾斜判定の範囲を定める判定角度部で内外周が逆転配置されていることから成っている。
【0016】
この傾斜センサによれば、電極間に入れられた傾斜検知用の導電性を有する移動体は、円弧状移動路で定められる動き、即ち、円弧状の経路を辿る動きをする。円弧状移動路に関して、同一の大きさの面積を持つ2つ以上の電極が移動路に沿う同心円状に配置されており、しかも、複数の電極は、移動体の動きについて傾斜判定の範囲を定める判定角度部で内外周が逆転配置されている。移動体が判定角度部を通過して移動するとき、内外周の電極について検出される静電容量の変化を捉えることで、傾斜センサの傾き(又は、移動体の動き)が傾斜判定の範囲を超えるものであるか否かの判定をすることができる。
【0017】
上記の傾斜センサにおいて、電極を二つの電極から構成し、一方の電極については、定常状態判定範囲と傾斜状態判定範囲とで逆転配置されている内外周側の各電極部を、両判定範囲を区分する二つの判定角度部の一方に対応する接続部によって接続させ、他方の電極については、判定範囲とで逆転配置されている内外周側の各電極部を、判定角度部の他方に対応する接続部によって接続させることができる。この傾斜センサによれば、内外周が逆転配置される電極部は、定常状態判定範囲と傾斜状態判定範囲とを区分する二つの判定角度部のそれぞれに設けられる接続部で接続され、接続部による両判定範囲への影響を可及的に少なくすることができる。
【0018】
接続部で接続された二つの電極を備える上記の傾斜センサにおいて、定常状態判定範囲及び傾斜状態判定範囲とのそれぞれにおいて、内周側の電極部の幅を外周側の電極部の幅よりも広くすることにより、内周側の電極部と外周側の電極部の面積を同一大きさに設定することができる。定常状態判定範囲及び傾斜状態判定範囲とのそれぞれにおいて内周側の電極部と外周側の電極部の面積を同一大きさに設定することで、移動体が判定角度部を越えて移動するときの各電極についての静電容量の差を把握し易くなる。また、内周側の電極部と外周側の電極部の面積を同一大きさにすることは、電極幅の調整によって容易に設定することができる。
【0019】
接続部で接続された二つの電極を備える上記の傾斜センサにおいて、各電極部と移動体との間の距離を、両電極部を接続する接続部を境に定常状態判定範囲と傾斜状態判定範囲とで逆転させることが好ましい。移動体の表面形状に工夫を施して定常状態判定範囲又は傾斜状態判定範囲において各電極部と移動体との間の距離を異ならせることで、各電極部と移動体との間の距離が接続部を境に逆転させることができる。電極部は角度判定部において内外周で逆転配置されているので、移動体が角度判定部を越えて円弧状移動路を移動するとき、移動体と各電極部との間の距離は接続部を境に逆転され、検出される静電容量に変化を生じさせることができる。
【0020】
上記各傾斜センサにおいて、電極を円弧状移動路の各側でそれぞれ同心円状に配置された2つ以上の電極とし、各電極を円弧状移動路を挟んで対向配置させることができる。この場合、各電極は対称配置となり、部品数の低減にも寄与することができる。
【0021】
上記各傾斜センサにおいて、移動体が判定角度部を越えて移動するときに2つの電極についての静電容量の差が反転することで、傾斜判定がなされることから成る。各電極についての静電容量の差を取る場合には、移動体が存在しない電極部が寄与する容量を互いに相殺することができるとともに、移動体が存在する電極部の静電容量の差を正味の差とすることができ、静電容量の差の符号が反転することで移動体が判定角度部を越えて移動することを判定することができる。
【0022】
上記各傾斜センサにおいて、移動体はボールとすることができる。ボールを移動体として用いる場合、ボールは円弧状移動路を転がることで移動し易く、更に、同心状の電極から球表面への距離は、通常、異なるものとなる。
【0023】
また、上記各傾斜センサにおいて、移動体は、大円柱体の端面に小円柱体を重ねた積み重ね円柱体とすることができる。積み重ね円柱体を移動体として用いる場合、積み重ね円柱体は円弧状移動路を転がることで移動し易い。更に、同心状の電極から円柱体の端面への距離は、大小の円柱体の端面の差だけ異なるものとなる。
【0024】
更に、上記各傾斜センサにおいて、移動体は、当該移動体が浸漬する高粘性液体とともに、センサ内部に封入することができる。高粘性液体は移動体の動きに対する粘性抵抗を与え、移動体の盲動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明による傾斜センサは、上記のように構成されているので、電極間に入れられた傾斜検知用の導電性を有する移動体は、円弧状移動路で定められる円弧状の経路を辿る動きをし、移動体が判定角度部を通過して移動するとき、内外周の電極について検出される静電容量(又は両静電容量の差)が変化する。この静電容量の変化を捉えることで、傾斜センサの傾き(又は、移動体の動き)が傾斜判定の範囲を超えるものであるか否かの判定をすることができる。更に、複数の電極の面積を同じにして検知した容量の差の反転で傾斜を判定可能とすることで、温度変化に伴って生じる容量特性変化起因した誤判定を回避することができ、しかも、判定角度部は任意角度の位置に設定可能であるので、傾斜判定角度を180度に限ることがなく傾斜判定の角度を任意角度に設定可能な傾斜センサが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付した図面に基づいて、この発明による傾斜センサの実施例を説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は、この発明による傾斜センサの一実施例であり、(a)は感度軸方向に平行な平面で切断した正面断面図、(b)は(a)のB−B断面図、(c)は(a)のC−C断面図、(d)は傾斜状態にある傾斜センサの(a)と同様の断面図である。図2は図1(b)電極部Dの拡大図、図3は傾斜判定角度を変更した例を示す図1(a)と同様の断面図である。傾斜センサの基本的な構成は、図8に示した従来のものと同様であるので、同じ機能を奏する部材や部位には同じ符号を付すことで再度の説明を省略する。
【0028】
図1に示す実施例において、傾斜センサ20は、転倒・傾斜などに起因して、加速度を受け移動する移動体としてのボール6を入れた容器状の本体22の電極間の静電容量を測定し、ボール6が動くことによる静電容量の変化を検出するセンサである基本的な点で従来のものと変わりはない。傾斜センサ20の本体22の構造は、ガラス板などの導電性の無い側板23と、シリコンなどの導電性の有る側板24と、中間板25とからなる三層積層構造である。また、中間板25は、更に、ガラス板などの導電性の無い板25aと、シリコンなどの板25bとの積層構造である。
【0029】
本実施例の特徴となる点は、電極の構造であり、二つの面積同一の電極31,32が同心円状に配置されており、且つ判定角度部で内外周を逆転配置されている。即ち、電極31については、定常状態判定角度θ1の範囲では外周側電極部31aとなっており、残る傾斜状態判定角度θ2の範囲では内周側電極部31bとなっている。内外両電極部31a,31bは、両判定角度の一方の境界上で接続部31cによって互いに接続されている。また、電極32については、定常状態判定角度θ1の範囲では内周側電極部32aとなっており、残る傾斜状態判定角度θ2の範囲では外周側電極部32bとなっている。内外両電極部32a,32bは、両判定角度の境界の他方で接続部32cによって互いに接続されている。なお、電極31,32は、非導電性の側板23にのみ付着して設けられている。
【0030】
定常状態判定角度θ1と傾斜状態判定角度θ2の範囲内(ただし、接続部31c,32cを除く)で、両電極部31aと31bとの面積和は、両電極部32aと32bとの面積和と同一になるように調整されている。具体的には、角度θ1の範囲内で内周側電極部32aの幅W2は外周側電極部31aの幅W1よりも広く設定されている。また、角度θ2の範囲内で内周側電極部31bの幅は外周側電極部32bの幅よりも広く設定されている。また、接続部31c及び接続部32cの面積についても、同一になるように調整されている。その結果、電極31と電極32との面積は全体としても同一に調整されていることになり、仮にボール6が封入されていなければ、電極31及び電極32が検出する静電容量は等しくなる。
【0031】
図1(a)に示すようにボール6が定常状態の位置を占めている場合には、ボール6と各電極部31a,32aとの配置は、詳細には図1(b)のDの部分を拡大した図2に示されている関係にある。即ち、ボール6の表面6aは球表面であるので、表面6aとの間の距離については、内周側電極部32aの距離(平均的な距離L1)が外周側電極部31aの距離(平均的な距離L2)よりも短い。外周側電極部31aと内周側電極部32aとの面積が同一に調整されているので、電極31a,32aについての静電容量の大きさは電極部31a,32aとボール6の表面6aとの間の距離の長短に依存し、内周側電極部32aと32bについての静電容量の方が外周側電極部31aと31bについての静電容量よりも大きくなっている。また、接続部31c及び32cが寄与する静電容量は同じである。その結果、ボール6が定常状態の位置を占めている場合、電極32についての静電容量は、電極31についての静電容量よりも大きい。
【0032】
図1(d)に示す傾斜センサ20の傾斜状態においては、ボール6は、傾斜状態判定角度θ2の範囲に移動している。このとき、ボール6の表面6aとの間の距離については、内周側電極部31bの方が外周側電極部32bよりも短い。ボール6が傾斜状態の位置を占めている場合には、電極31が検出する静電容量は、電極32が検出する静電容量よりも大きい。これにより、電極31及び電極32が検出する静電容量差の正負符号の逆転をすることで、センサ20が傾斜判定部(接続部32c)を超えて傾斜したか否かを判定することができる。また、温度変化などの外的要因によって、各電極が検出する静電容量がたとえ変動する場合であっても、その静電容量差を取ることにより、そうした変動が相殺され、温度変化に影響されにくい傾斜センサ20となる。
【0033】
また、各電極を同心円状に電極を配置したことにより、電極形状を換えれば、傾斜判定角度を簡単に変更することができる。即ち、図3は、定常及び傾斜の判定角度の範囲を変更した例を示す図である。図3に示す実施例では、電極31及び電極32と比較して、接続部で区切る円弧状の長さを異ならせた電極31’及び電極32’を用いた変形例である。この変形例では、定常状態判定角度の範囲θ1’は、図1に示す範囲θ1よりも広く取られるが(傾斜状態判定角度の範囲θ2は、逆に狭い範囲θ2’とされる)、このことは設計の段階で容易に変更することができる。
【0034】
次に、傾斜検出回路の一例について説明する。一般に、平行平板の静電容量は、以下の式で表される。
[静電容量]=[誘電体の誘電率]*[平板の面積]/[平板間の距離] 式(1)
式(1)を実施例1(図1)に当てはめて考えると、ボール6が動くことにより、
[定常時の電極31〜ボール6の隙間]=[傾斜時の電極32〜ボール6の隙間]
>[定常時の電極32〜ボール6の隙間]=[傾斜時の電極31〜ボール6の隙間]であり、また、定常時と傾斜時での変数は、電極31,32〜ボール6の隙間(上記式(1)において言えば、[平板間の距離]に相当)のみであるから、
[定常時の電極32の静電容量]=[傾斜時の電極31の静電容量]
>[定常時の電極31の静電容量]=[傾斜時の電極32の静電容量]
となる。
【0035】
図4は、本発明による傾斜センサと組み合わせて適用される傾斜・転倒の検出回路の例を示す図である。図4(a)は作動アンプ部を有するアナログ回路の一例の概略図、図4(b)はマイクロコンピュータを用いる場合の概略図である。上記各電極31,32の出力(静電容量や電気抵抗など)を差動アンプ41、マイコン42のA/Dポート又はI/Oポートに入力し演算して、電極31及び電極32の静電容量の差を判定し、転倒・傾斜を検知する。
【0036】
この時の定常状態と傾斜状態とでの出力は、図5に示すようになる。即ち、図5(b)は電極31の静電容量の出力を示すグラフであり、定常状態にある当初の段階ではボール6が図1(a)〜(c)に示す位置にあり、ボール表面6aとの間の距離が長いために、静電容量が小さい。その後、傾斜状態に移行すると、図1(d)に示す状態となり、ボール表面6aとの間の距離が短くなるために、静電容量が大きくなる。いずれの状態でも、その状態が持続される間は、容量の値は一定である。閾値を超えた場合に傾斜の判定が行われる。電極32との容量差を判定したグラフが図5(a)に示されている。容量差を判断の対象としているので、容量差の符号が反転する位置で定常(通常)状態から傾斜(転倒)状態に変化したことが判る。また、温度変化などで誘電率が変化し、容量が変化する場合でも、本発明の電極形状により、容量差EとFは常に同じになるため、温度補償の必要がなく安価な回路にできる。
【実施例2】
【0037】
本発明による傾斜センサの別の実施例を図6を参照して説明する。図6に示す実施例は図1に示す実施例1の構造違いであり、図1(b)と同様な断面図で示されている。図6に示す傾斜センサ50においては、図1に示す傾斜センサ20と同等の部材及び位置については、傾斜センサ20で用いられている符号と同じ符号を付すことで、再度の説明を省略する。センサの本体52は、導電性の無いガラス板から成る側板53,54と、側板53,54間に挟まれたシリコン板のような中間板55とから形成されている。キャビティ52aに臨む側板53の位置には、同心円状で各判定角度で内外周の配置を逆転させた電極56(外周側電極部56a,内周側電極部56b),57(内周側電極部56a,外周側電極部56b)が付着されている。また、側板54のキャビティ52aに臨む位置には、電極56,57に互いに対向する状態で電極58(外周側電極部58a,内周側電極部58b),59(内周側電極部59a,外周側電極部59b)が設けられている。同心状電極56〜59を両側の側板53,54に設定しても、実施例1と同様の効果を得ることができる。また、ボール6の入っている部分の形状については、実施例1において側板23,24に形成されている窪み8,8と同様の窪みを形成することなく平らであってよい。
【実施例3】
【0038】
本発明による傾斜センサの更に別の実施例として、キャビティ内にエチレングリコールのような粘性の高い液体を入れて、ボール6の動きを抑えてもよい。高粘性の液体は、傾斜・転倒以外の振動・衝撃などに起因してボール6が動こうとするときに、その動きに対する粘性抵抗として作用し、ボール6の動きを抑制するので、センサの誤動作を防止することができる。
【実施例4】
【0039】
本発明による傾斜センサの更に他の実施例が、図7に示されている。図7は、図1(d)の電極部の拡大図と同様の図であるが中間板65のみならず、両側板63,64までの広い範囲に描かれている。また、構成要素及び部位について、実施例1と同じものについては、実施例1に付されたのと同じ符号を付すことで、再度の説明を省略する。図6に示す傾斜センサ60においては、移動体66がボールのような球状ではなく、円板を重ね合わせた円柱体とされている。即ち、移動体66は、大円柱体67とその端面68,68に小円柱体69,69を同じ軸線66aを共通させて重ねた段付きの円柱体である。一方の電極71は小円柱体69の端面70に対向し、他方の電極72は大円柱体67の端面68であって小円柱体69の外側に広がる環状端面に対向している。これによって、電極71,72は、移動体66との間の距離に差異を生じている。移動体66は、円柱体形状であっても、ボールの場合と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明による傾斜センサの一実施例を示す図である。
【図2】図1に示す一部を拡大して示す断面図である。
【図3】図1に示す実施例に対して、定常及び傾斜の判定角度の範囲を変更した例を示す図である。
【図4】本発明による傾斜センサと組み合わせて適用される傾斜・転倒の検出回路の例を示す図である。
【図5】図1に示す傾斜センサの定常状態と傾斜状態とでの出力の一例を示すグラフである。
【図6】本発明による傾斜センサの別の実施例を示す図である。
【図7】本発明による傾斜センサの更に他の実施例を示す図である。
【図8】従来の傾斜センサの一例を示す図である。
【図9】図8に示す傾斜センサの出力例を示すグラフである。
【図10】従来の傾斜センサの別例を示す図である。
【図11】図10に示す傾斜センサの出力例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
1 傾斜センサ 2 本体
3,4 側板 5 中間板
6 移動体(ボール) 6a 表面
7 貫通孔 7a 稜線
8,8 窪み
9 移動路 10 注入部
11,11 第1電極 12,12 第2電極
13,14 接続端子
20 傾斜センサ 22 本体
23 側板(導電性無し) 24 側板(導電性有り)
25 中間板
25a 板(導電性無し) 25b 板
31,32,31’32’ 電極
31a 外周側電極部 31b 内周側電極部
31c 接続部
32a 内周側電極部 32b 外周側電極部
32c 接続部
41 差動アンプ 42 マイコン
50 傾斜センサ
52 本体 52a キャビティ
53,54 側板 55 中間板
56,57 電極 58,59 電極
60 傾斜センサ
63,64 側板 65中間板
66 移動体 66a 軸線
67 大円柱体 68 端面
69 小円柱体 70 端面
71,72 電極
θ1,θ1’ 定常状態判定角度の範囲
θ2,θ2’ 傾斜状態判定角度の範囲
L1,L2 表面6aと電極との間の距離
W1 幅(外周側) W2 幅(内周側)
Z ボール径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間に傾斜検知用の移動体を入れ、当該電極についての静電容量に基づいて前記移動体の動きを判定する傾斜センサにおいて、前記移動体の動きは円弧状移動路で定められる動きであり、前記電極は同一の大きさの面積を持ち前記円弧状移動路に沿う同心円状に配置された2つ以上の電極であり、前記電極は前記移動体の動きについて傾斜判定の範囲を定める判定角度部で内外周が逆転配置されていることから成る傾斜センサ。
【請求項2】
前記電極は二つの電極から成り、一方の前記電極は、定常状態判定範囲と傾斜状態判定範囲とで逆転配置されている内外周側の各電極部が、前記両判定範囲を区分する二つの判定角度部の一方に対応する接続部によって接続されており、他方の前記電極は、前記判定範囲とで逆転配置されている内外周側の各電極部が、前記判定角度部の他方に対応する接続部によって接続されていることから成る請求項1に記載の傾斜センサ。
【請求項3】
前記定常状態判定範囲及び前記傾斜状態判定範囲とのそれぞれにおいて、前記内周側の電極部の幅を前記外周側の電極部の幅よりも広くすることにより、前記内周側の電極部と前記外周側の電極部の面積が同一大きさに設定されていることから成る請求項2に記載の傾斜センサ。
【請求項4】
前記各電極と前記移動体との間の距離が、前記両電極部を接続する前記接続部を境に前記定常状態判定範囲と前記傾斜状態判定範囲とで逆転していることから成る請求項2又は3に記載の傾斜センサ。
【請求項5】
前記電極は前記円弧状移動路の各側でそれぞれ同心円状に配置された2つ以上の電極であり、前記各電極は前記円弧状移動路を挟んで対向配置されていることから成る請求項1〜4のいずれか1項に記載の傾斜センサ。
【請求項6】
前記移動体が前記判定角度部を越えて移動するときに前記2つの電極についての静電容量の差が反転することで、前記傾斜判定がなされることから成る請求項1〜5のいずれか1項に記載の傾斜センサ。
【請求項7】
前記移動体はボールであることから成る請求項1〜6のいずれか1項に記載の傾斜センサ。
【請求項8】
前記移動体は、大円柱体の端面に小円柱体を重ねた積み重ね円柱体であることから成る請求項1〜6のいずれか1項に記載の傾斜センサ。
【請求項9】
前記移動体は、当該移動体が浸漬する高粘性液体とともに、センサ内部に封入されていることから成る請求項1〜8のいずれか1項に記載の傾斜センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−163184(P2007−163184A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356815(P2005−356815)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】