説明

傾斜部高速エスカレータ

【課題】本発明は、簡素な構造で乗降口では低速で中間傾斜部では高速のエスカレータを提供する。
【解決手段】無端状の一対の踏段ローラチェーン4に多数の踏段1の駆動ローラ軸10aを連結して循環移動するエスカレータにおいて、互いに隣接する踏段1の前位側に固定された駆動ローラ軸10a間の踏段ローラチェーン4のリンク数を2リンクとし、その中間の1リンクに踏段1に接触しない補助ローラ11を設け、踏段1の後位側に固定された追従ローラ12を設ける。乗降口部では補助ローラ11を補助レール11bに沿って下側へ案内し、互いに隣接する駆動ローラ10間の距離を減じ移動速度は低下する。中間傾斜部では互いに隣接する駆動ローラ10間の距離が最大となるように一直線上に配し踏段1の移動速度も最大となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、中間傾斜部における踏段の移動速度が上下乗降口部における踏段の移動速度よりも速い傾斜部高速エスカレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動距離の長いエスカレータが多く設置されている。踏段の移動速度を高めて輸送効率の向上や乗客の利便性向上を図るために、乗降口付近では遅く、中間傾斜部では速い構成としたエスカレータが提案されている。
【0003】
このように中間傾斜部における踏段の移動速度が乗降口部付近における移動速度よりも速くなるようにした傾斜部高速エスカレータは、例えば地下鉄の駅舎等に設置されている移動距離の長いエスカレータとしての適用が期待される。又、従来の移動距離の短いエスカレータにおいても乗降口付近では遅く中間傾斜部では従来の速度となる高齢化社会に対応した乗り降りしやすいエスカレータが望まれている。
【0004】
例えば、傾斜部高速エスカレータとしては、先行する踏段に固定された駆動ローラと後続する踏段に固定された駆動ローラを、屈曲した形状の第1のリンクと第2のリンクを用いて連結するとともに、第1のリンクの先端に補助ローラをつけて、駆動ローラの移動を駆動ローラ用レールで、補助ローラの移動を補助ローラ用レールでそれぞれに案内させるものが知られている。(例えば、特許文献1参照)
【0005】
このような傾斜部高速エスカレータでは乗降口付近において、補助ローラ用レールの軌道が駆動用レールから離れるように設計されており、互いに隣接する駆動ローラ軸の間隔を変化させる複数のリンク機構で補助ローラを頂点とした山型形状に変位するようになっている。リンク機構のなす形状の変化に応じて先行する踏段に固定された駆動ローラと後続する踏段の駆動ローラとの距離が縮小され、その分、踏段の移動速度が中間傾斜部における移動速度に比べて遅くなるようになっている。
【特許文献】特開2003−212464
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし上記のように構成した技術では、乗降口付近での踏段の移動速度を遅くするために、複雑なリンク機構を設け互いに隣接する踏段間の距離を調整しているので部品の数も多く従って部品形状も小さくなり精度の問題や頻繁なリンク機構の開閉による耐久性への疑問も生じかねない。又、駅舎等、移動距離が長く時間帯で混雑する場所での負荷に対しての強度の問題もある。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決することを課題としてなされたものであり簡単な構成で踏段の移動速度が乗降口部では遅く、中間傾斜部では速い傾斜部高速エスカレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
無端状の一対の踏段ローラチェーンで多数の踏段の駆動ローラ軸を連結して循環移動させるエスカレータにおいて、踏段前位側に固定された駆動ローラ軸と、駆動ローラ軸に軸支された踏段ローラチェーンのチェーンリンクとピンローラ、その外側に駆動ローラ軸に軸支された回転自在な駆動ローラ、駆動ローラを案内する駆動レールを有し、踏段後位側に固定された追従ローラ軸と、追従ローラ軸に軸支された回転自在な追従ローラ、追従ローラを案内する追従レールを有し、踏段ローラチェーンの互いに隣接する駆動ローラ軸間のチェーンピッチを2リンクとし、その中間の1リンクのピンローラ、チェーンリンクに踏段側に、踏段と非接触な補助ローラ軸で回転自在な補助ローラを軸支し、補助ローラを案内する補助レールを有し、駆動レールと補助レールとの間隔を変化させて互いに隣接する駆動ローラ軸間の距離を変化させるものである。
【0009】
中間傾斜部において踏段を側面から見たとき、ライザは隣接する踏段側へ傾斜し、踏段の踏板とライザの作る角度は、鈍角となる。
【0010】
上側乗降口部、下側乗降口部において、駆動レールと補助レールの間隔を変化させる場所では、駆動ローラと補助ローラが回転自在な余裕を加えた寸法で、上下から駆動レール、補助レールで支持案内される。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、簡単な構造で中間傾斜部の高速化ができるとともに、騒音が少なく牽引強度の高い耐久性のあるエスカレータができる。
【0012】
また第2の発明によれば、踏板とライザの作る角度を鈍角とすることより中間傾斜部の高速化ができ前後する乗客との距離も離れ圧迫感も減少する。
【0013】
また第3の発明では、踏段ローラチェーンの変位にも安定して各ローラを支持案内できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1は傾斜部高速エスカレータの上側乗降口部付近を示す側面図である(図の煩雑化を避けるために駆動レール、補助レールの上側は省略してある)。図2は下側乗降口部付近の踏段ローラチェーン、各ローラ、各レールの配置図である(踏段ローラチェーンの外観は煩雑になるので中心線で示す)。図3は往路側中間傾斜部の踏段側面図、図4はその部分断面図、図5はその部分平面図、図6は乗降口部の踏段の部分断面図である。
【0015】
図1、図2において、主枠30には、無端状に踏段ローラチェーン4で連結された多数の踏段1が設けられている。主枠30には、駆動スプロケット20、駆動装置(省略)、受動スプロケット21、踏段1の循環路を形成する一対の駆動レール10b、踏段の姿勢を制御するための一対の追従レール12b、及び隣接する踏段1の間隔を変化させるための一対の補助レール11bが設けられている。
【0016】
踏段1の循環路は往路側区間、帰路側区間、上側反転部、下側反転部を有している。図1は往路側中間傾斜部A、往路側上曲部B、上側乗降口部C、上側反転部D、帰路側上水平部E、帰路側上曲部F、帰路側中間傾斜部Gを示している。
【0017】
図3、図4で踏段1は、踏板1aの一端から隣接する踏段1へ傾斜したライザ2と、踏板1aとライザ2との作る角度を鈍角とし、ライザ2と踏板1aを固定するブラケット3を有し、ブラケット3の前位側に固定された駆動ローラ軸10a、駆動ローラ軸10aに軸支された踏段ローラチェーン4のチェーンリンク4aとピンローラ4b、その外側に駆動ローラ軸10aに軸支された回転自在な駆動ローラ10を有し、ブラケット3の後位側に固定された追従ローラ軸12a、追従ローラ軸12aに軸支され回転自在な追従ローラ12を有している。駆動ローラ10は駆動レール10bに案内されて転動し追従ローラ12は追従レール12bに案内されて転動する。
【0018】
踏段ローラチェーン4の互いに隣接する駆動ローラ軸10a間のチェーンピッチを2リンクとし、その中間の1リンクのピンローラ4bとチェーンリンク4aに踏段1側に踏段1と非接触な補助ローラ軸11aで回転自在な補助ローラ11を軸支している。つまり一対の踏段ローラチェーン4は1リンク毎に駆動ローラ軸10a、補助ローラ軸11aの順で軸支されている。補助ローラ11は補助レール11bに案内されて転動する。
【0019】
図1、図2、図3において、往路側中間傾斜部Aを側面から見たとき、踏段1の駆動ローラ10、補助ローラ11、追従ローラ12の中心を結ぶ直線は、踏段ローラチェーン4の中心線と同一になっている。
【0020】
図1を上昇運転する場合について説明する。往路側中間傾斜部Aにおいて、多数の踏段1は階段状をなし蹴上げ高さも最大となり、互いに隣接する踏段1の駆動ローラ軸10a間の距離も最大となり踏段1の移動速度も最高となる。このとき踏段ローラチェーン4の中心線と駆動ローラ10、補助ローラ11、追従ローラ12の中心を結ぶ直線が同一となって駆動力は一直線上に働く。また、主枠30に各レールを固定する場合にも同位置が望ましい。
【0021】
踏段1の駆動ローラ10が往路側上曲部Bに進入すると、踏段1の踏板1aの水平を保つために、追従レール12は駆動レール10bを離れ下側へ向かう。このとき補助レール11bも互いに隣接する踏段1同士が接触しない余裕の間隔を保ちながら駆動レール10bと離れて下側へ向かう。逆にいえば踏段ローラチェーン4のリンク間寸法が決まっているので互いに隣接する踏段同士が余裕を保ちながら接触しない位置に補助レール11b、追従レール12bが配されている。また踏段ローラチェーン4の駆動ローラ軸10a間も縮小され踏段1の移動速度も徐々に遅くなる。踏段ローラチェーン4が変位を始める往路側上曲部Bから駆動ローラ10、補助ローラ11は、回転自在な余裕を加えた寸法で、上下から駆動レール10b、補助レール11bで支持案内される。踏段1が上側乗降口部Cに近づくに従い更に駆動レール10bと補助レール11bは離間し踏段ローラチェーン4の互いに隣接する駆動ローラ軸10a間も縮小されるので踏段1の移動速度は更に遅くなる。
【0022】
上側乗降口部Cに移行した踏段1は、踏段ローラチェーン4の互いに隣接する駆動ローラ軸10a間の距離も最小となり踏段1の移動速度も最小となる。図6はその部分断面図である。移動速度が最小となった踏段1は、補助レール11bが上側に向かい駆動レール10bとの距離が近づくに従って踏段ローラチェーン4の互いに隣接する駆動ローラ軸間の距離も拡大し踏段1の移動速度も徐々に速くなり互いに隣接する踏段1の踏板1a間の間隔も拡大する。このとき追従ローラ12は踏段1の踏板1aの水平を維持したまま上側反転部Dへ向かう。
【0023】
上側反転部Dに移行した踏段1は、駆動スプロケット20で反転する。駆動スプロケット20の作用歯数は7.5で耐磨耗性を考慮している。又このとき、踏段1の反転が円滑におこなわれるように追従レール12bの内側レールの中心を、駆動シャフト20a側へ近づけている。このことにより踏段1の駆動ローラ軸10aの位置が駆動スプロケット20aの中心の水平線以下に移行しても踏段1の追従ローラ12は下側に向かう位置にあるので反転が滞ることはない。
【0024】
上側反転部Dで反転を終了した踏段1は、踏板1aを下側に向けたまま帰路側上水平部E、帰路側上曲部F、帰路側中間傾斜部Gを移行する。
【0025】
図2は下側乗降口部付近の踏段ローラチェーン4、各ローラ、各レールの配置図で帰路側中間傾斜部G、帰路側下曲部H、帰路側下水平部I、下側反転部J、下側乗降口部K、往路側下曲部L、往路側中間傾斜部Aを示している。
【0026】
帰路側中間傾斜部Gから帰路側下曲部H、帰路側下水平部Iへ移行した踏段1は、踏板1aを下側に向けたまま下側反転部Jへ向かう。踏段1の帰路側の移動速度は、直線部においては踏段ローラチェーン4の駆動ローラ軸10a間の距離も最大となり踏段1の移動速度も最大となる。
【0027】
下側反転部Jに移行した踏段1は、受動スプロケット21で上側へ反転する。このとき踏段1の反転が円滑におこなわれるように追従レール12bの内側レールの中心を受動シャフト21aから離す方向へ移動してある。
【0028】
下側乗降口部Kに移行した踏段1は、補助レール11bが水平部から下側へ傾斜した位置に達して駆動レール10bと補助レール11bが離間し始めると踏段ローラチェーン4の互いに隣接する駆動ローラ軸10a間の距離も徐々に縮小し踏段1の移動速度も遅くなる。下側乗降口部Kで補助ローラ11が傾斜区間から水平部に移行した位置と駆動ローラ軸10aが往路側下曲部手前に達した区間が踏段ローラチェーン4の駆動ローラ軸10a間が最小となる区間で踏段1の移動速度も最小となる。
【0029】
往路側下曲部Lに移行した踏段1は、徐々に駆動レール10bと補助レール11bの間が狭くなり踏段ローラチェーン4の互いに隣接する駆動ローラ軸10a間の距離も拡大して踏段1の移動速度も速くなり補助ローラ11が往路側中間傾斜部Aに達して移動速度は最大になる。下側乗降口部付近で踏段ローラチェーン4が変位する区間は、駆動ローラ10、補助ローラ11が回転自在な余裕を加えた寸法で、上下から駆動レール10b、補助レール11bで支持案内される。以上のように踏段1は、上下乗降口部付近では遅く、その他の場所では速く循環移動している
【0030】
次に図3で踏段1の移動速度について説明する。踏段1の踏板1aの長さを先行する踏段1のライザ2との接触しない余裕を含めてSとし、後続する踏段1側へ傾斜したライザ2の傾斜水平分をR、踏段1の蹴上げをQ、踏段ローラチェーン4のチェーンピッチをP、エスカレータの傾斜角度を30度とすれば P=Qで R+S=√3P となる。
チェーンピッチPを250、踏板1a長Sを360とすれば、傾斜分Rは73、蹴上げ分Qは250、直線状態の踏段ローラチェーン4の駆動ローラ軸10a間は500、乗降口部の踏段ローラチェーン4の駆動ローラ軸10a間は360、で速度比は、乗降口部を1とすれば中間傾斜部では1.388、又中間傾斜部を1とすれば乗降口部では0.72となる。この速度比は過大なものではなく徐々に加速、徐々に減速されるので従来の等速エスカレータとの違和感はない。万一、エスカレータが停止した場合や歩行する乗客の場合でも蹴上げ高さ250mmは適度な高さで更に進行方向にライザ2が傾斜しているので靴先がライザ2に邪魔されることもなく安心して歩行できる。
【0031】
以上のように構成した傾斜部高速エスカレータは、従来の等速エスカレータの構造を大きく変えることなく簡素な構造で中間傾斜部の高速化を図っており安心安全なエスカレータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】は傾斜部高速エスカレータの上側乗降口部付近を示す側面図。
【図2】は傾斜部高速エスカレータの下側乗降口部付近の踏段ローラチェーン、各ローラ、各レールの配置図(踏段ローラチェーンの外観は煩雑になるので中心線で示す)。
【図3】は傾斜部高速エスカレータの往路側中間傾斜部の踏段側面図。
【図4】は傾斜部高速エスカレータの往路側中間傾斜部の踏段の部分断面図。
【図5】は傾斜部高速エスカレータの往路側中間傾斜部の踏段の部分平面図。
【図6】は傾斜部高速エスカレータの乗降口部の踏段の部分断面図。
【符号の説明】
【0033】
1 踏段
1a 踏板
2 ライザ
3 ブラケット
4 踏段ローラチェーン
4a チェーリンク
4b ピンローラ
10 駆動ローラ
10a駆動ローラ軸
10b駆動レール
11 補助ローラ
11a補助ローラ軸
11b補助レール
12 追従ローラ
12a追従ローラ軸
12b追従レール
20 駆動スプロケット
20a駆動シャフト
21 受動スプロケット
21a受動シャフト
30 主枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状の一対の踏段ローラチェーンで多数の踏段の駆動ローラ軸を連結して循環移動させるエスカレータにおいて、踏段前位側に固定された駆動ローラ軸と、上記駆動ローラ軸に軸支された上記踏段ローラチェーンのチェーリンクとピンローラ、その外側に駆動ローラ軸に軸支された回転自在な駆動ローラ、上記駆動ローラを案内する駆動レールを有し、上記踏段後位側に固定された追従ローラ軸と、上記追従ローラ軸に軸支された回転自在な追従ローラ、上記追従ローラを案内する追従レールを有し、上記踏段ローラチェーンの互いに隣接する上記駆動ローラ軸間のチェーンピッチを2リンクとし、その中間の1リンクの上記ピンローラ、上記チェーンリンクに上記踏段側に、上記踏段と非接触な補助ローラ軸で回転自在な補助ローラを軸支し、上記補助ローラを案内する補助レールを有し、上記駆動レールと上記補助レールとの間隔を変化させて互いに隣接する上記駆動ローラ軸間の距離を変化させることを特徴とした傾斜部高速エスカレータ。
【請求項2】
中間傾斜部において、上記踏段を側面から見たとき、ライザは隣接する上記踏段側へ傾斜し、上記踏段の踏板とライザの作る角度は、鈍角となることを特徴とした請求項1記載の傾斜部高速エスカレータ。
【請求項3】
上側乗降口部、下側乗降口部において、上記駆動レールと上記補助レールの間隔を変化させる場所では、上記駆動ローラと上記補助ローラが回転自在な余裕を加えた寸法で、上下から上記駆動レール、上記補助レールで支持案内されることを特徴とした請求項1記載の傾斜部高速エスカレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−184824(P2009−184824A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56990(P2008−56990)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(503407351)有限会社エイブル (5)
【Fターム(参考)】