説明

傾斜配向位相差フィルムの製造方法

【課題】配向不良が生じにくく、均一性に優れた傾斜配向フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】1種以上の重合性液晶化合物と、レベリング剤と、溶媒と、を含む液晶組成物溶液を基材上に塗布して、塗布層を形成する塗布工程、及び、熱量Qが、100<Q<300となる条件下で該塗布層を乾燥して、傾斜配向した液晶固化層を形成する乾燥工程、を有する傾斜配向フィルムの製造方法により、上記課題が解決される。レベリング剤としては、アクリル系レベリングが好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置、例えば液晶表示装置(LCD)等に好ましく用い得る傾斜配向位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差フィルムは、複屈折を利用して、液晶表示装置等の画像表示装置におけるコントラスト向上や視野角の拡大を実現する部材として用いられている。位相差フィルムとしては、高分子フィルムを延伸して光学異方性を付与したものが広く用いられている。
【0003】
一方、高分子フィルム等の透明基材上に液晶化合物を含む光学異方性層を塗布したものも位相差フィルムとして用いられている。特に、液晶化合物は大きな複屈折を有するため、高分子フィルムを延伸した位相差フィルムと比較して、小さい厚みで同等の位相差を得られることから、最近の液晶表示装置の薄型化、軽量化等の潮流に伴い注目されている。
【0004】
液晶化合物を配向させた位相差フィルムとしては、液晶化合物が基材に対して水平(ホモジニアス)配向されたものが知られている(例えば特許文献1参照)。このような位相差フィルムは、フィルム面内の液晶の配向方向と、その垂直方向で屈折率が異なる、すなわち、面内複屈折を生じるため、所謂Aプレートとして広く用いられる。また、液晶化合物を基材に対して垂直(ホメオトロピック)配向させたもの(例えば特許文献2)も知られている。このような位相差フィルムは、フィルム面内と、液晶化合物の配向方向であるフィルム厚み方向の屈折率が異なる、すなわち、厚み方向複屈折を生じるため、所謂Cプレートとして広く用いられている。
【0005】
これらに加えて、液晶化合物を傾斜配向させたもの(例えば特許文献3)も知られており、主にツイステッド・ネマチックモード(TN)液晶セルや、光学補償ベンド(OCB)モード液晶セル等のハイブリッドネマチック配向型の液晶セルの光学補償に用いられている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−347698号公報
【特許文献2】特開2003−177242号公報
【特許文献3】特開2007−206241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような液晶化合物を傾斜配向させた位相差フィルムは、液晶化合物を水平配向、あるいは垂直配向させた位相差フィルムと比較して、配向不良が生じやすく、フィルムにムラが生じやすいという課題がある。特に、特許文献3の実施例の製法では、レベリング剤を使用しておらず、また、乾燥時の熱量が多すぎるために、配向不良が生じ易いことが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意検討の結果、レベリング剤を含む液晶組成物溶液を基材上に塗布した後に、その乾燥条件を調整することで上記課題を解決し得ることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明は、1種以上の重合性液晶化合物と、レベリング剤と、溶媒と、を含む液晶組成物溶液を基材上に塗布して、塗布層を形成する塗布工程、及び、下記式で表される熱量Qが、100<Q<300となる条件下で該塗布層を乾燥して、傾斜配向した液晶固化層を形成する乾燥工程、を有する傾斜配向位相差フィルムの製造方法に関する。
【0009】
【数1】


ただし、tは、乾燥工程における乾燥開始から乾燥終了までの時刻(分)であり、T(t)は、時刻tにおける雰囲気温度(℃)である。
【0010】
さらに、本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法においては、前記乾燥工程における温度T(t)の最大値が60℃以上、120℃以下であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法においては、前記レベリング剤が、アクリル系レベリング剤であることが好ましい。
【0012】
本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法においては、前記アクリル系レベリング剤が、下記一般式(IV)で表される構造単位を有する化合物であることが好ましい。
【0013】
【化1】



(Rは水素又はメチル基であり、Rは炭素数1〜10の直鎖若しくは分枝のアルキル基、炭素数1〜10の直鎖若しくは分枝のハロゲン化アルキル基、ポリエステル基、又はポリエーテル基である。)
【0014】
さらに、本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法においては、前記重合性液晶化合物として、アクリル系液晶化合物を含有することが好ましい。
【0015】
本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法においては、前記アクリル系液晶化合物が、下記一般式(II)で表される化合物であることが好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
【化3】


(Y及びYはそれぞれ独立に、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、イソプロペニル基、4−ビニルフェニル基、1−クロロエテニル基、エポキシ基、シアネート基、イソシアネート基、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、又はニトロ基であり、Y、Yの少なくとも一方はアクリレート基若しくはメタクリレート基である。X、Xは、それぞれ独立に、共有結合、直鎖若しくは分枝のアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カーボネート基、あるいは、これらの1つ以上を含む2価の基である。A、B、及びCは置換基を表し、a、b及びcはそれぞれ対応するA、B及びCの置換数(0〜3までの整数)を表す。A、B、及びCは、それぞれ独立に、ハロゲン、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルコキシ基、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基又はヒドロキシ基である。なお、上記一般式(I)、(II)で表される化合物は、同一のベンゼン環上に複数の同一の置換基を有していてもよいし、異なる置換基を有していてもよい。)
【0018】
さらに、本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法においては、前記基材が配向処理されたものであることが好ましい。
【0019】
本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法においては、前記配向処理がラビング処理であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
液晶組成物溶液にレベリング剤を含み、かつ、乾燥時の熱量を所定範囲とする本発明の製造方法によれば、配向不良が解消され、均一性に優れた傾斜配向位相差フィルムを得ることができる。本発明により得られる傾斜配向位相差フィルムは、液晶表示装置等の画像表示装置用の光学補償フィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法は、1種以上の重合性液晶化合物と、レベリング剤と、溶媒と、を含む液晶組成物溶液を基材上に塗布して、塗布層を形成する塗布工程、及び、該塗布層を乾燥して、傾斜配向した液晶固化層を形成する乾燥工程、を有する。
【0022】
前記液晶組成物溶液は、1種以上の重合性液晶化合物と、レベリング剤と、溶媒とを含む。液晶組成物溶液に用いる重合性液晶化合物は、モノマー又はオリゴマーであり、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。重合性液晶化合物は、1分子あたり1又は2以上の重合性官能基を有する重合性のネマチック液晶化合物であることが好ましく、中でもアクリル系の重合性液晶化合物であることが好ましい。アクリル系の重合性液晶化合物としては、2官能のアクリル系モノマーが好ましく、中でも、重合後に主鎖型の液晶ポリマーとなるものが好ましい。
【0023】
このようなアクリル系液晶化合物の中でも、下記一般式(I)又は(II)で表される重合性アクリルモノマーを特に好適に用い得る。
【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
上記一般式(I)及び(II)において、Y又はYの少なくとも一方はアクリレート基(CH=CHCO−)若しくはメタクリレート基(CH=C(CH)CO−)である。Y、Yのいずれか一方が、アクリレート基、メタクリレート基のどちらもない場合、Y又はYは、ビニル基、イソプロペニル基、4−ビニルフェニル基、1−クロロエテニル基、エポキシ基、シアネート基、イソシアネート基等の重合性官能基であってもよく、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基等であってもよい。中でも、液晶化合物の配向性の観点から、Y、Yの両方が重合性官能基であることが好ましく、両方がアクリレート基、又はメタクリレート基であることがより好ましい。
【0027】
、Xは、それぞれ独立に、共有結合、直鎖若しくは分枝のアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カーボネート基、又はこれらの1つ以上を含む2価の基である。
【0028】
A、B,及びCは置換基を表し、a、b及びcはそれぞれ対応するA、B及びCの置換数(0〜3までの整数)を表す。A、B、及びCは、それぞれ独立して、ハロゲン、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルキル基、アルコキシ基、又はアルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基等の1価の基である。なお、上記一般式(I)又は(II)で表される化合物は、同一のベンゼン環上に複数の同一の置換基を有していてもよいし、異なる置換基を有していてもよい。
【0029】
特に、液晶分子が高い複屈折発現性を有し、液晶塗布層を薄くできるという観点からは、重合性液晶化合物として、前記一般式(II)の化合物を含むことが好ましい。上記化合物(II)において、Y、Yの両者が、アクリレート基、メタクリレート基であることが好ましく、液晶相を示す温度範囲の広さから、Y、Yの両者が、アクリレート基であることがより好ましい。また、X、Xはアルキレン基とエーテル基、カルボニル基、エステル基、若しくはカーボネート基が連結したものであることが好ましく、中でも、アルキレンの炭素数が1〜12であることがより好ましく、4〜10であることがさらに好ましい。アルキレンの炭素数が少ないと、液晶性が低くなる(すなわち、結晶性が高くなる)傾向がある。逆にアルキレン基の炭素数が多すぎると、液晶の等方相転移温度が低くなるため、後述するように、加熱乾燥によって液晶固化層を形成する際に、液晶分子の配向を均一に保つことができる温度範囲が狭くなる傾向がある。
【0030】
上記の観点から、本発明の位相差フィルムの製造方法においては、液晶性化合物の中でも特に、下記一般式(III)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0031】
【化6】

【0032】
上記一般式(III)において、Zは、水素、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基あるいはアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基のいずれであるが、塩素又はメチル基であることが好ましい。R及びRは、それぞれ独立に水素またはメチル基であるが、R及びRの両方が水素であることが好ましい。X及びXはそれぞれ独立にエーテル基、カルボニル基、エステル基、若しくはカーボネート基である。
【0033】
前記液晶組成物溶液に、レベリング剤を添加することで、空気界面側における配向の均一性に優れた位相差フィルムを得ることができる。レベリング剤としては、シリコーン系、フッ素系、ポリエーテル系、アクリル系、チタネート系等の種々の化合物を用いることができる。中でも、配向均一性の観点からはアクリル系のレベリング剤が好適に用いられる。特に、前記重合性液晶化合物としてアクリル系の重合性液晶化合物を用いる場合は、液晶化合物との相溶性の観点からもアクリル系のレベリング剤が好適に用いられる。
【0034】
アクリル系のレベリング剤は、シリコーン系のレベリング剤等の他のレベリング剤と比較して、前記のアクリル系の重合性液晶化合物との相溶性に優れている。さらに、アクリル系のレベリング剤は、高い表面調整能を有することから、液晶硬化層の厚みばらつきを小さく抑制することができる。なお、本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムの光学特性の詳細に関しては後述するが、位相差は複屈折と厚みの積で表されるため、厚みばらつきが少ない、すなわち、厚み均一性の高い位相差フィルムを得ることは、光学的な均一性の高い位相差フィルムを得るためにも重要である。
【0035】
また、このようなレベリング剤を用いることで、塗布層中の液晶化合物の分子が基材の法線方向に配向しやすくなる、すなわち、ホメオトロピック性が上昇する傾向がある。このように配向性が高くなる原因は定かではないが、塗布層を形成する際に、レベリング剤が塗布層表面に薄膜状に偏在しにくいために、表面張力が過度に低下しないためであると推定される。
【0036】
上記アクリル系レベリング剤は、分子構造中に下記一般式(IV)で表されるユニットを有することが好ましい。
【0037】
【化7】


は水素又はメチル基であり、Rは炭素数1〜10の直鎖若しくは分枝のアルキル基、炭素数1〜10の直鎖若しくは分枝のハロゲン化アルキル基、ポリエステル基、又はポリエーテル基である。Rは炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0038】
上記アクリル系レベリング剤のゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量Mwは、2000〜100000であることが好ましく、2500〜70000であることがより好ましく、3000〜40000であることがさらに好ましい。レベリング剤の分子量が過度に小さいと、レベリング性が不十分となるために、空気界面側における配向が不均一となる場合があり、分子量が過度に大きいと液晶組成物溶液の粘度が高くなり、液晶の配向性が妨げられたり、レベリング剤が不溶となる場合がある。
【0039】
このようなアクリル系レベリング剤としては、市販品を用いることができる。市販のアクリル系レベリング剤としては、例えばビック・ケミー社製の商品名「BYK−340」及び楠本化成社製の商品名「LF−1980」等が挙げられる。
【0040】
液晶組成物溶液中のアクリル系レベリング剤の含有量は、上記の重合性液晶化合物100重量部に対して、0.1〜1重量部であることが好ましく、0.12〜0.95重量部であることがより好ましく、0.15重量部〜0.9重量部であることがさらに好ましい。レベリング剤の含有量が過度に少ないと、上記の効果を十分に得られない場合がある。また、レベリング剤の量が過度に多いと、液晶の塗布層中でレベリング剤が偏在し、塗布層の均一性に劣る場合がある。
【0041】
前記液晶組成物溶液に用いる溶剤としては、前記重合性液晶モノマー及び前記重合開始剤を含む組成物の溶解性に優れ、当該組成物を基材に塗布する際に、基材の濡れ性や組成物の配向性の低下を生じさせないものであれば特に制限はない。
【0042】
具体的には、前記溶剤として、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、パラクロロフェノール等のフェノール類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン類、n−ブタノールや2−ブタノール、シクロヘキサノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類、メチルセロソルブ、酢酸メチルセロソルブ等のセロソルブ類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル類を用いることができる。その他、塩化メチレン、二硫化炭素、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等も前記溶剤の例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
なお、基材を実質的に侵食せず、上記組成物を十分に溶解するという観点においては、前記溶剤として、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、又は酢酸エチルを用いるのが好ましい。
【0044】
前記溶剤は、単独で、あるいは2種以上を任意に混合して用いてもよい。前記混合溶液の全固形分濃度は、溶解性、塗布粘度、基材上へのぬれ性、塗布後の厚み等によって異なるが、平滑性の高い位相差フィルムを得るためには、固形分濃度は2〜50重量%であることが好ましく、5〜45重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがさらに好ましい。
【0045】
前記混合溶液には、重合性の液晶化合物、レベリング剤、溶媒以外の成分を含んでいてもよい。特に、傾斜配向位相差フィルムを得るという本発明の目的においては、ホメオトロピック配向性の液晶化合物を含んでいることが好ましい。ホメオトロピック配向性の液晶化合物としては特に制限されないが、正の屈折率異方性を有する液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニットと、非液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニットとを含有する側鎖型液晶ポリマーを用いることが好ましい。このような液晶化合物としては、例えば特開2003−149441号公報に記載のものを用いることができる。
【0046】
このようなホメオトロピック配向性の液晶化合物を用いる場合、その使用量は特に制限されないが、前記重合性液晶化合物100重量部に対して1〜80重量部であることが好ましく、5〜60重量部であることがより好ましく、10〜50重量部であることがさらに好ましい。
【0047】
また、前記重合性液晶化合物の重合速度や反応率を高める観点において、光重合開始剤を用いることが好ましい。光重合開始剤としては、特に制限はなく、単一の化合物からなる光重合開始剤であっても良いし、2種類以上の異なる光重合開始剤を混合したものであっても良い。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサンソン系化合物等を挙げることができる。また、例えば、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ製の商品名「イルガキュア651」、「イルガキュア184」、「ダロキュアー1173」、「イルガキュア500」、「イルガキュア2959」、「イルガキュア907」、「イルガキュア369」、「イルガキュア819」、「イルガキュア784」等の光重合開始剤を用いても良い。さらには、メルク製の商品名「ダロキュアー953」、「ダロキュアー1116」や、日本化薬製の商品名「カヤキュアーMBP」、「カヤキュアーCTX」、「カヤキュアーDITX」、「カヤキュアーCTX」、「カヤキュアーDETX」、「カヤキュアーRTX」等を用いることも可能である。
【0048】
なお、前記光重合開始剤には、重合反応を促進させるために助剤を添加してもよい。助剤としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、n−ブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ミヒラーケトン、4,4’―ジエチルアミノフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(nブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン系化合物を挙げることができる。
【0049】
前記光重合開始剤の添加量には、特に制限はないが、前記重合性液晶化合物100重量部に対して、0.5〜20重量部であることが好ましく、2〜15重量部であることがより好ましい。また、助剤の添加量は、光重合開始剤に対して、0.5〜2倍量程度とするのが好ましい。
【0050】
また、液晶組成物溶液には、工程中の光による意図しない低露光量での重合を抑制する目的で重合禁止剤を加えることもできる。重合禁止剤としては、例えばp−ベンゾキノン、ナフトキノン、パラ−キシロキノン、パラ−トルキノン、2,6−ジクロロキノン、2,5−ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジカプロキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジアエロキシ−p−ベンゾキノン、ヒドロキノン、p−t−ブチルカテコール、2,5−ジブチルヒドロキノン、モノ−t−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン、ジ−t−ブチル・パラクレゾール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、ヒドロキノンモノメチルエーテル、α−ナフトール、アセトアニジンアセテート等を用いることができる。重合禁止剤の添加量は、重合性液晶化合物100重量に対して0.001〜3重量部であることが好ましく、0.01〜2重量部であることがより好ましい。重合禁止剤の添加量が過度に多いと、後の工程において紫外線を照射した場合においても重合が十分に進行せず、液晶硬化層の配向が不十分となる場合がある。
【0051】
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、前記液晶組成物溶液を基材上に塗布し、塗布層を形成する。基材は、重合性液晶化合物及びその他の溶液中の組成物を均一に展開し、その後均一な配向状態を得るために用いられる。かかる基材を形成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、アクリロニトリル・エチレン・スチレン樹脂、スチレン・マレイミド共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等を挙げることができる。また、シクロ系オレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系樹脂、芳香族ポリイミドやポリイミドアミド等のイミド系樹脂、スルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、アリレート系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。また、前記樹脂のブレンド物等からなる高分子フィルム基材等も挙げることができる。さらには、アルミ、鉄、銅等の金属基材、青板ガラス、アルカリガラス、無アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、フリントガラス、石英ガラス等のガラス基材、セラミックス基材等の各種基材、シリコンウェハー等の各種半導体基材等も挙げることができる。
【0052】
基材は、複屈折を有するものであってもよいし、有さないものであってもよい。複屈折を有さないものを用いることで、得られる位相差フィルムは、液晶層の有する複屈折のみによって位相差を発現するため、その光学特性の制御が容易となる。逆に、基材として複屈折を有するものを用いることで、基材の複屈折と液晶層の複屈折の両方に起因する位相差を有する位相差フィルムを得ることができるため、液晶層のみでは発現できない光学補償機能を有する位相差フィルムとすることもできる。
【0053】
前記重合性液晶化合物を基材上に塗布することで塗布層を形成する。基材上での配向の均一性を高める観点においては、前記基材は配向処理されたものであることが好ましい。配向処理の方法としては、例えば、ラビング処理、斜方蒸着処理、マイクログルーブ法、延伸高分子膜法等を挙げることができる。製造工程の容易さや配向均一性の高さの観点においては、配向処理法として、ラビング処理を用いることが好ましい。
【0054】
前記ラビング処理に用いられる配向膜としては、特に制限はないが、前記液晶組成物溶液のぬれ性に優れ、重合性液晶化合物を特定の方向に配向させることができるものが好ましい。このような配向膜として、具体的には、例えば、ポリアミド、ポリイミド、レシチン、シリカ、ポリビニルアルコール、エステル変性ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルのケン化度を調節したポリマー、シランカップリング剤等を塗布等して形成した配向膜を挙げられことができる。また、前記基材の表面をそのままラビング処理しても良い。
【0055】
前記液晶組成物溶液の基材への塗布方法については、特に限定はなく、従来公知の方法を用いことができる。例えば、溶液をスピンコート法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等で薄層展開すればよい。塗布厚みは、通常2〜300μmであり、より好ましくは2〜200μm、特に好ましくは2〜50μmである。厚みが上記の範囲内とすることで、厚み配向の均一性に優れた位相差フィルムを作製することができる。
【0056】
このようにして得られた塗布層は、加熱乾燥する乾燥工程によって前記溶剤を除去して、液晶固化層とする。本発明においては、乾燥工程の時刻t分における雰囲気温度をT(t)とした場合に、下記式で表される熱量Qが、100<Q<300となるように乾燥することで配向不良の少ない位相差フィルムを得ることができる。
【0057】
【数2】


(ただし、tは、乾燥工程における乾燥開始から乾燥終了までの時刻(分)であり、T(t)は、時刻tにおける雰囲気温度(℃)である。)
【0058】
乾燥工程は、風乾や自然乾燥等、加熱を伴わないものであってもよいが、溶剤を除去して、塗布層を固化する観点からは、40℃以上に加熱することが好ましい。乾燥工程における乾燥温度(雰囲気温度)は、一定でもよいし、段階的に変化させてもよい。なお、乾燥工程における乾燥温度が一定である場合には、前記の熱量Qは、単純に乾燥温度と乾燥時間の積で表される。また、乾燥温度を2段階以上に変化させて乾燥する場合は、上記の熱量Qは、各段階における乾燥温度(雰囲気温度)と乾燥時間の積を合計したものとなる。
【0059】
配向の均一性の観点において、熱量Qは120〜280であることがより好ましく、150〜250であることがさらに好ましい。また、乾燥工程における雰囲気温度T(t)の最大値は100℃以下であることがより好ましい。
【0060】
また、配向を固定する観点から、乾燥工程における温度T(t)の最大値は60℃以上、120℃以下とすることが好ましい。乾燥工程における温度の最大値が低すぎると、前述の如く液晶固化層中に溶剤が過度に残存するために、配向性に欠けて、複屈折が不十分となる場合がある。また、逆に温度T(t)の最大値が高すぎると、配向欠陥が生じやすくなる傾向がある。
【0061】
このような温度条件によって配向が均一となる理由は明らかではないが、一般には、乾燥前の塗布層においては、基材表面の配向規制力に従って並んだ液晶分子の一部に、液晶化合物の立ち上がる向きが局所的に逆転する、所謂「リバースチルト」状態のドメインが生じると考えられている。このようなリバースチルト状態のドメインを有する塗布層を加熱することによって、液晶化合物の分子運動(熱運動)が大きくなるために、リバースチルトしていた液晶分子が基材の配向規制力を超え、自由エネルギーが小さい(安定性の高い)基材のプレチルト角に従って配向した状態となり、リバースチルト状態が解消される、すなわち、均一な配向状態を形成すると考えられる。かかる観点からは、乾燥工程における雰囲気温度T(t)の最高温度は、リバースチルトを解消するのに十分である必要があるといえる。
【0062】
また、乾燥温度が高すぎると、液晶化合物が、その等方相転移温度を超えるため、基材の配向規制力から略完全に開放されて等方相状態となる。このように塗布層が一旦等方相状態となった後に、等方相転移温度未満となると再度基材の配向規制力によって液晶化合物が配向することとなるが、この際にリバースチルト状態を形成し易くなると考えられる。かかる観点からは、乾燥工程における雰囲気温度T(t)の最大値は等方相転移温度未満であることが好ましい。また、等方相転移温度未満の温度であっても、乾燥時間が長過ぎると配向規制力から開放されて等方相状態となる分子の割合が増加するために、T(t)の最高温度が高い場合と同様にリバースチルト状態を形成しやすくなると考えられる。
【0063】
乾燥時間は、上記の温度との関係から、熱量Qが適宜な値となるように設定することができるが、乾燥時間が過度に短いために、熱量Qの値が前記範囲を下回ると、溶剤が過度に残存する、すなわち、塗布層の固化が不十分となるために、配向性に欠けて複屈折が不十分となったり、配向欠陥が生じる場合がある。また、熱量Qの値が前記範囲を上回ると、リバースチルトが生じやすくなるばかりでなく、基材の熱収縮によって配向規制力が低下し、配向性に欠けて複屈折が不十分となる場合がある。
【0064】
乾燥温度を制御する方法については特に制限されないが、熱風、マイクロ波若しくは遠赤外線等を利用したヒーター、温度調節用に加熱されたロール、ヒートパイプロール又は金属ベルト等を用いた公知の加熱方法や温度制御方法を挙げることができる。
【0065】
乾燥温度は、そのバラツキが大きいと、塗布表面の厚みムラや配向ムラを生じ、最終的に得られる傾斜配向位相差フィルムの位相差のバラツキを招くことになる。従って、乾燥工程における温度のバラツキは小さいことが好ましい。傾斜配向位相差フィルムを枚葉で作成する場合には、フィルム面内での温度バラツキが小さいことが好ましい。また、フィルムを搬送しながら連続的に作成する場合においては、搬送方向と直交する方向、すなわち、幅方向での温度バラツキが小さいことが好ましい。
【0066】
このようにして得られた液晶固化層中の重合性液晶化合物は、熱、あるいは放射線照射等により硬化した液晶硬化層とすることが好ましい。本発明においては、配向の均一性を保つ観点から、硬化方法として放射線硬化を採用することが好ましい。放射線を照射することによって重合性液晶化合物が架橋硬化し、液晶の配向状態を固定することができる。
【0067】
前記放射線の種類としては、ガンマ線、電子線、可視光線、紫外線等を挙げることができるが、製造の容易性や、重合反応性の高さから、紫外線の照射が用いられる。紫外線照射における光源の波長は、用いる光化学反応性化合物が光学吸収を有する波長領域に応じて決定されるが、一般には、190nm〜400nmとするのが好ましく、250nm〜380nmであることがより好ましい。このような波長特性を有する光源としては、超高圧水銀ランプ、フラッシュ水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、ディープUVランプ、キセノンランプ、キセノンフラッシュランプ又はメタルハライドランプが好ましく用いられる。光源から出射された紫外線は非偏光でも偏光であってもよい。
【0068】
前記放射線照射における光源の位置としては、特に制限がなく、前記混合溶液が塗布される側に配置しても良いし、その反対の基材側に配置しても良い。また、上記放射線照射における大気中の雰囲気としては、特に制限がなく、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等を用いることができる。
【0069】
放射線の照射量は特に制限されないが、100〜1500mJ/cmであることが好ましく、100〜800mJ/cmであることがより好ましい。照射量が不十分であると重合が不十分となり、配向性に乏しくなる傾向がある。また、過度に照射すると、配向欠陥を生じる場合がある。
【0070】
放射線照射時における雰囲気の温度(照射温度ともいう)は、特に制限がないが、均一な配向状態を固定するために、20〜40℃の範囲に保持しながら、放射線照射を行うことが好ましい。
【0071】
以上のようにして作製された傾斜配向位相差フィルムにおいて、基材上に配向され固定された液晶層の厚みの範囲としては、液晶層の複屈折(Δn)や、必要とされる位相差に応じて選択できるが、通常0.1〜10μmであり、0.1〜8μmであることが好ましく、0.5〜6μmであることがより好ましく、0.5〜5μmであることがさらに好ましい。
【0072】
かかる傾斜配向位相差フィルムの光透過率は、波長590nmにおいて、80%以上とするのが好ましく、より好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以上である。
【0073】
また、波長590nmの光で測定した液晶硬化層のフィルム面内の位相差Re(590)は特に制限されないが、液晶表示装置の表示特性を改善する目的で用いる場合においては、50〜1000nmの範囲であることが好ましく、80〜800nmの範囲であることがより好ましい。ここで、Re(590)=(nx−ny)×dであり、nxは傾斜配向位相差フィルムの遅相軸方向(傾斜配向位相差フィルム面内の屈折率が最大となる方向)の屈折率を、nyは傾斜配向位相差フィルムの進相軸方向の屈折率を、dは液晶硬化層の厚みを表す。
【0074】
このようにして得られた傾斜配向位相差フィルムは、その位相差を利用して種々の光学用途に用いることができるが、特に液晶表示装置の光学補償、あるいは、それを目的とした光学補償偏光板に好適に用いることができる。
【0075】
光学補償偏光板は、前記傾斜配向位相差フィルムと偏光板を積層することによって得られる。一般に偏光板は、偏光子とその片面又は両面に保護フィルムを有する。
【0076】
前記偏光子としては、特に制限されず、各種のものを使用できる。たとえば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムとヨウ素等の二色性物質からなる偏光層が好適である。これら偏光層の厚さは特に制限されないが、一般的に、5〜80μm程度である。
【0077】
ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸した偏光子は、たとえば、ポリビニルアルコールをヨウ素の水溶液に浸漬することによって染色し、元長の3〜7倍に延伸することで作製することができる。必要に応じてホウ酸や硫酸亜鉛、塩化亜鉛等を含んでいてもよいヨウ化カリウム等の水溶液に浸漬することもできる。さらに必要に応じて染色の前にポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬して水洗してもよい。ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することでポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色のムラ等の不均一を防止する効果もある。延伸はヨウ素で染色した後に行っても良いし、染色しながら延伸してもよいし、また延伸してからヨウ素で染色してもよい。ホウ酸やヨウ化カリウム等の水溶液中や水浴中でも延伸することができる。
【0078】
前記透明保護フィルムとしては、特に制限されないが、例えば透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性等に優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、環状オレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、及びこれらの混合物が挙げられる。なお、偏光子には、通常、透明保護フィルムが接着剤層により貼り合わされるが、透明保護フィルムとして、(メタ)アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化性樹脂又は紫外線硬化型樹脂を用いることができる。透明保護フィルム中には任意の適切な添加剤が1種類以上含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、着色剤等が挙げられる。透明保護フィルム中の上記熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは50〜99重量%、さらに好ましくは60〜98重量%、特に好ましくは70〜97重量%である。透明保護フィルム中の上記熱可塑性樹脂の含有量が50重量%以下の場合、熱可塑性樹脂が本来有する高透明性等が十分に発現できない場合がある。
【0079】
上記材料の中でも、透明保護フィルムとして、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、環状オレフィン系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂から選ばれるいずれか少なくとも1つを用いることが好ましい。
【0080】
セルロース系樹脂としては、セルロースと脂肪酸のエステルが好適に用いられる。このようセルロースエステル系樹脂の具体例としでは、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリプロピオニルセルロース、ジプロピオニルセルロース等が挙げられる。これらのなかでも、トリアセチルセルロースが特に好ましい。トリアセチルセルロースは多くの製品が市販されており、入手容易性やコストの点でも有利である。トリアセチルセルロースの市販品の例としては、富士フィルム社製の商品名「UV−50」、「UV−80」、「SH−80」、「TD−80U」、「TD−TAC」、「UZ−TAC」や、コニカ社製の「KCシリーズ」等が挙げられる。一般的にこれらトリアセチルセルロースフィルムは、面内位相差(Re)はほぼゼロであるが、厚み方向位相差(Rth)は、〜60nm程度を有している。
【0081】
なお、厚み方向位相差が小さいセルロース樹脂フィルムは、例えば、上記セルロース樹脂を処理することにより得られる。例えばシクロペンタノン、メチルエチルケトン等の溶剤を塗布したポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ステンレス等の基材フィルムを、一般的なセルロース系フィルムに貼り合わせ、加熱乾燥(例えば80〜150℃で3〜10分間程度)した後、基材フィルムを剥離する方法;ノルボルネン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等をシクロペンタノン、メチルエチルケトン等の溶剤に溶解した溶液を一般的なセルロース樹脂フィルムに塗布し加熱乾燥(例えば80〜150℃で3〜10分間程度)した後、塗布フィルムを剥離する方法等が挙げられる。
【0082】
また、厚み方向位相差が小さいセルロース樹脂フィルムとしては、脂肪酸の置換度を制御した脂肪酸セルロース系樹脂フィルムを用いることができる。一般的に用いられるトリアセチルセルロースでは酢酸置換度が2.8程度であるが、好ましくは酢酸置換度を1.8〜2.7に制御することによってRthを小さくすることができる。上記脂肪酸セルロース系樹脂に、ジブチルフタレート、p−トルエンスルホンアニリド、クエン酸アセチルトリエチル等の可塑剤を添加することにより、Rthを小さく制御することができる。可塑剤の添加量は、脂肪酸セルロース系樹脂100重量部に対して、好ましくは40重量部以下、より好ましくは1〜20重量部、さらに好ましくは1〜15重量部である。
【0083】
環状オレフィン系樹脂の具体的としては、好ましくはノルボルネン系樹脂である。環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称であり、例えば、特開平1−240517号公報、特開平3−14882号公報、特開平3−122137号公報等に記載されている樹脂が挙げられる。具体例としては、環状オレフィンの開環(共)重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレン等のα−オレフィンとその共重合体(代表的にはランダム共重合体)、及び、これらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体、並びに、それらの水素化物等が挙げられる。環状オレフィンの具体例としては、ノルボルネン系モノマーが挙げられる。
【0084】
環状オレフィン系樹脂としては、種々の製品が市販されている。具体例としては、日本ゼオン株式会社製の商品名「ゼオネックス」、「ゼオノア」、JSR株式会社製の商品名「アートン」、TICONA社製の商品名「トーパス」、三井化学株式会社製の商品名「APEL」が挙げられる。
【0085】
(メタ)アクリル系樹脂としては、Tg(ガラス転移温度)が好ましくは115℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは125℃以上、特に好ましくは130℃以上である。Tgが115℃以上であることにより、偏光板の耐久性に優れたものとなりうる。上記(メタ)アクリル系樹脂のTgの上限値は特に限定きれないが、成形性当の観点から、好ましくは170℃以下である。(メタ)アクリル系樹脂からは、面内位相差(Re)、厚み方向位相差(Rth)がほぼゼロものフィルムを得ることができる。
【0086】
(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂等)、脂環族炭化水素基を有する重合体(例えば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体等)が挙げられる。好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のポリ(メタ)アクリル酸C1−6アルキルが挙げられる。より好ましくはメタクリル酸メチルを主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%)とするメタクリル酸メチル系樹脂が挙げられる。
【0087】
(メタ)アクリル系樹脂の具体例として、例えば、三菱レイヨン株式会社製のアクリペットVHやアクリペットVRL20A、特開2004−70296号公報に記載の分子内に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂、分子内架橋や分子内環化反応により得られる高Tg(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。
【0088】
(メタ)アクリル系樹脂として、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を用いることもできる。これらのラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は高い耐熱性、高い透明性、二軸延伸することにより高い機械的強度を有することに加えて、位相差が小さく、光弾性係数が小さいため偏光板の歪みによるムラ等の不具合を解消できる。
【0089】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂としては、特開2000−230016号公報、特開2001−151814号公報、特開2002−120326号公報、特開2002−254544号公報、特開2005−146084号公報等に記載の(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。
【0090】
また、透明保護フィルムとして、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルム、例えば、側鎖に置換及び/又は非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換及び/又は非置換フェニル並びにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が挙げられる。具体例としてはイソブチレンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体とアクリロニトリル・スチレン共重合体とを含有する樹脂組成物のフィルムが挙げられる。フィルムは樹脂組成物の混合押出品等からなるフィルムを用いることができる。これらのフィルムは位相差が小さく、光弾性係数が小さいため偏光板の歪みによるムラ等の不具合を解消することができ、また透湿度が小さいため、加湿耐久性に優れる。
【0091】
透明保護フィルムの厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性等の作業性、薄層性等の点より1〜500μm程度である。特に1〜300μmが好ましく、5〜200μmがより好ましい。透明保護フィルムは、5〜150μmの場合に特に好適である。
【0092】
なお、偏光子の両側に透明保護フィルムを設けるに際しては、その表裏で同じポリマー材料からなる保護フィルムを用いてもよく、異なるポリマー材料等からなる保護フィルムを用いてもよい。
【0093】
なお、本発明により得られる傾斜配向位相差フィルムの基材を偏光子の透明保護フィルムとすることもできる。このような構成は、フィルムの総数の減少により薄肉化が図られることに加えて、コストダウンにも繋がることから好ましい構成である。
【0094】
前記透明保護フィルムは、接着剤をと塗布する前に、表面改質処理を行ってもよい。具体的な処理としてば、コロナ処理、プラズマ処理、プライマー処理、ケン化処理等が挙げられる。
【0095】
前記透明保護フィルムの偏光子を接着させない面には、ハードコート層や反射防止処理、スティッキング防止や、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理を施したものであってもよい。
【0096】
ハードコート処理は偏光板表面の傷付き防止等を目的に施されるものであり、例えばアクリル系、シリコーン系等の適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を透明保護フィルムの表面に付加する方式等にて形成することができる。反射防止処理は偏光板表面での外光の反射防止を目的に施されるものであり、従来に準じた反射防止膜等の形成により達成することができる。また、スティッキング防止処理は隣接層(例えば、バックライト側の拡散板)との密着防止を目的に施される。
【0097】
またアンチグレア処理は偏光板の表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止等を目的に施されるものであり、例えばサンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式や透明微粒子の配合方式等の適宜な方式にて透明保護フィルムの表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。前記表面微細凹凸構造の形成に含有させる微粒子としては、例えば平均粒径が0.5〜20μmのシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等からなる導電性のこともある無機系微粒子、架橋又は未架橋のポリマー等からなる有機系微粒子等の透明微粒子が用いられる。表面微細凹凸構造を形成する場合、微粒子の使用量は、表面微細凹凸構造を形成する透明樹脂100重量部に対して一般的に2〜70重量部程度であり、5〜50重量部が好ましい。アンチグレア層は、偏光板透過光を拡散して視野角等を拡大するための拡散層(視野角拡大機能等)を兼ねるものであってもよい。
【0098】
なお、前記反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層等は、透明保護フィルムそのものに設けることができるほか、別途光学層として透明保護フィルムとは別体のものとして設けることもできる。
【0099】
前記偏光子と透明保護フィルムとの接着処理には、接着剤が用いられる。接着剤としては、イソシアネート系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ゼラチン系接着剤、ビニル系ラテックス系、水系ポリエステル等を例示できる。前記接着剤は、通常、水溶液からなる接着剤として用いられ、通常、0.5〜60重量%の固形分を含有してなる。上記の他、偏光子と透明保護フィルムとの接着剤としては、紫外線硬化型接着剤、電子線硬化型接着剤等が挙げられる。電子線硬化型接着剤は、上記各種の透明保護フィルムに対して、好適な接着性を示す。特に、接着性を満足することが困難であったアクリル樹脂に対しても良好な接着性を示す。
【0100】
また、実用に際しては、本発明により得られる傾斜配向位相差フィルムを積層した光学補償偏光板に、さらに他の光学層を積層して用いることもできる。その光学層については特に限定はないが、例えば反射板や半透過板、本発明の傾斜配向位相差フィルムや、その他の位相差フィルム等の液晶表示装置等の形成に用いられることのある光学層を1層又は2層以上用いることができる。例えば、偏光板に更に反射板又は半透過反射板が積層されてなる反射型偏光板又は半透過型偏光板、偏光板に更に位相差フィルムが積層されてなる楕円偏光板又は円偏光板、あるいは偏光板に更に輝度向上フィルムが積層されてなる偏光板等が挙げられる。
【0101】
位相差フィルムとしては、高分子素材を一軸又は二軸延伸処理してなる複屈折性フィルム、液晶ポリマーの配向フィルム、液晶ポリマーの配向層をフィルムにて支持したもの等が挙げられる。
【0102】
前記高分子素材としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルビニルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、セルロース樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、又はこれらの二元系、三元系各種共重合体、グラフト重合体、ブレンド物等が挙げられる。これらの高分子素材は延伸等により配向物(延伸フィルム)となる。
【0103】
液晶ポリマーとしては、例えば、液晶配向性を付与する共役性の直線状原子団(メソゲン)がポリマーの主鎖や側鎖に導入された主鎖型や側鎖型の各種のもの等を挙げられる。主鎖型の液晶ポリマーの具体例としては、屈曲性を付与するスペーサー部でメソゲン基を結合した構造の、例えばネマチック配向性のポリエステル系液晶性ポリマー、ディスコティック液晶ポリマーやコレステリック液晶ポリマー等が挙げられる。側鎖型の液晶ポリマーの具体例としては、ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート又はポリマロネートを主鎖骨格とし、側鎖として共役性の原子団からなるスペーサー部を介してネマチック配向付与性のパラ置換環状化合物単位からなるメソゲン部を有するもの等が挙げられる。これらの液晶ポリマーは、例えば、ガラス板上に形成したポリイミドやポリビニルアルコール等の薄膜の表面をラビング処理したもの、酸化ケイ素を斜方蒸着したもの等の配向処理面上に液晶性ポリマーの溶液を展開して熱処理することにより行われる。
【0104】
反射型偏光板は、偏光板に反射層を設けたもので、視認側(表示側)からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置等を形成するためのものであり、バックライト等の光源の内蔵を省略できて液晶表示装置の薄型化を図りやすい等の利点を有する。反射型偏光板の形成は、必要に応じ透明保護フィルム等を介して偏光板の片面に金属等からなる反射層を付設する方式等の適宜な方式にて行うことができる。
【0105】
なお、半透過型偏光板は、上記において反射層で光を反射し、かつ透過するハーフミラー等の半透過型の反射層とすることにより得ることができる。半透過型偏光板は、通常液晶セルの裏側に設けられ、液晶表示装置等を比較的明るい雰囲気で使用する場合には、視認側(表示側)からの入射光を反射させて画像を表示し、比較的暗い雰囲気においては、半透過型偏光板のバックサイドに内蔵されているバックライト等の内蔵光源を使用して画像を表示するタイプの液晶表示装置等を形成できる。
【0106】
偏光板と輝度向上フィルムを貼り合わせた偏光板は、通常液晶セルの裏側サイドに設けられて使用される。輝度向上フィルムは、液晶表示装置等のバックライトや裏側からの反射等により自然光が入射すると所定偏光軸の直線偏光又は所定方向の円偏光を反射し、他の光は透過する特性を示すもので、輝度向上フィルムを偏光板と積層した偏光板は、バックライト等の光源からの光を入射させて所定偏光状態の透過光を得ると共に、前記所定偏光状態以外の光は透過せずに反射される。この輝度向上フィルム面で反射した光を更にその後ろ側に設けられた反射層等を介し反転させて輝度向上フィルムに再入射させ、その一部又は全部を所定偏光状態の光として透過させて輝度向上フィルムを透過する光の増量を図ると共に、偏光子に吸収させにくい偏光を供給して液晶表示等に利用しうる光量の増大を図ることにより輝度を向上させうるものである。
【0107】
前記の輝度向上フィルムとしては、例えば誘電体の多層薄膜や屈折率異方性が相違する薄膜フィルムの多層積層体の如き、所定偏光軸の直線偏光を透過して他の光は反射する特性を示すもの、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持したものの如き、左回り又は右回りのいずれか一方の円偏光を反射して他の光は透過する特性を示すもの等の適宜なものを用いうる。
【0108】
偏光板に前記光学層を積層した光学フィルムは、液晶表示装置等の製造過程で順次別個に積層する方式にても形成することができるが、予め積層して光学フィルムとしたものは、品質の安定性や組立作業等に優れていて液晶表示装置等の製造工程を向上させうる利点がある。積層には粘着層等の適宜な接着手段を用いうる。前記の偏光板やその他の光学フィルムの接着に際し、それらの光学軸は目的とする位相差特性等に応じて適宜な配置角度とすることができる。
【0109】
さらに、本発明により得られる傾斜配向位相差フィルムやその他の各種光学部材には、液晶セル等の他部材と接着するための粘着層を設けることもできる。粘着層を形成する粘着剤は特に制限されないが、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系等のポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、アクリル系粘着剤の如く光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性等に優れるものが好ましく用いうる。
【0110】
また上記に加えて、吸湿による発泡現象や剥がれ現象の防止、熱膨張差等による光学特性の低下や液晶セルの反り防止、ひいては高品質で耐久性に優れる液晶表示装置の形成性等の点より、吸湿率が低くて耐熱性に優れる粘着層が好ましい。
【0111】
粘着層は、例えば天然物や合成物の樹脂類、特に、粘着性付与樹脂や、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉、その他の無機粉末等からなる充填剤や顔料、着色剤、酸化防止剤等の粘着層に添加されることの添加剤を含有していてもよい。また微粒子を含有して光拡散性を示す粘着層等であってもよい。
【0112】
各部材への粘着層の付設は、適宜な方式で行いうる。その例としては、例えばトルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶媒にベースポリマー又はその組成物を溶解又は分散させた10〜40重量%程度の粘着剤溶液を調製し、それを流延方式や塗布方式等の適宜な展開方式で偏光板上又は光学フィルム上に直接付設する方式、あるいは前記に準じ、セパレータ上に粘着層を形成してそれを偏光板上又は光学フィルム上に移着する方式等が挙げられる。
【0113】
粘着層は、異なる組成又は種類等のものの重畳層として各部材の片面又は両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、偏光板や光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚さ等の粘着層とすることもできる。粘着層の厚さは、使用目的や接着力等に応じて適宜に決定でき、一般には1〜500μmであり、5〜200μmが好ましく、特に10〜100μmが好ましい。
【0114】
粘着層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止等を目的にセパレータが仮着されてカバーされる。これにより、通例の取扱状態で粘着層に接触することを防止できる。セパレータとしては、上記厚さ条件を除き、例えばプラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体等の適宜な薄葉体を、必要に応じシリコーン系や長鎖アルキル系、フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤でコート処理したもの等の、従来に準じた適宜なものを用いうる。
【0115】
なお、前記の偏光子や透明保護フィルム、あるいは粘着層等の各層には、例えばサリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式等の方式により紫外線吸収能をもたせたもの等であってもよい。
【0116】
本発明により得られる傾斜配向位相差フィルム、及びそれを積層してなる光学補償偏光板は、液晶表示装置等の各種画像表示装置の形成等に好ましく用いることができる。液晶表示装置の形成は、従来に準じて行いうる。すなわち液晶表示装置は一般に、液晶セルと偏光板又は光学フィルム、及び必要に応じての照明システム等の構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むこと等により形成される。液晶セルについても、例えばVAモード、IPSモード、ECBモード、TNモード型、STNモード、π型(OCBモード)等の任意なタイプのものを用いうる。特に、本発明により得られる傾斜配向位相差フィルムは傾斜配向していることから、ECBモード、TNモード型、STNモードや、OCBモードのように、液晶分子が傾斜配向している液晶セルの視野角補償等を目的とした光学補償に好適に用いることができる。
【実施例】
【0117】
以下に、本発明を実施例をあげて説明するが、本発明は以下に示し実施例に制限されるものではない。
【0118】
[比較例1]
(液晶組成物溶液の調製)
下記式(V)で表される高分子液晶(重量平均分子量:5000、共重合比:n=35)20重量部と、下記式(VI)で表される重合性液晶化合物(BASF社製、商品名「Paliocolor LC242」(異常光屈折率=1.654、正常光屈折率=1.523))80重量部を、233重量部のシクロペンタノンに溶解して固形分濃度30重量%の溶液とした。この溶液に、0.3重量部のアクリル系レベリング剤(楠本化成社製、商品名「LF−1980」)を加え、さらに7重量部の重合開始剤(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ製、商品名「イルガキュア907」)を加えた。この溶液に、196重量部のシクロペンタノンを加え、固形分濃度20重量%の液晶組成物溶液を調製した。
【0119】
【化8】

【0120】
【化9】

【0121】
(基材の作成)
トリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム社製、商品名「TD80UL」)をラビング処理した。
【0122】
(塗布)
前記基材のそのラビング処理表面上に、ワイヤーバーを用いて前記液晶組成物溶液を均一に塗布し、塗布層を形成した。
【0123】
(乾燥)
得られた塗布層を、雰囲気温度を60℃に調整した空気循環式恒温槽内で1分間加熱乾燥して、厚み1.7μmの液晶が傾斜配向した固化層を形成した。
【0124】
(硬化)
得られた固化層の表面に、室温(25℃)にて波長365nmにおける照射量が600mJ/cmとなるように紫外線を照射し、傾斜配向した液晶硬化層を形成し、傾斜配向位相差フィルムとした。
【0125】
[実施例1〜6、比較例2〜6]
乾燥における空気循環式恒温槽内の雰囲気温度及び乾燥時間を以下の表1のように変更した以外は、上記比較例1と同様にして傾斜配向フィルムを得た。なお、表1中の括弧内の数字は、熱量Qを表す。
【0126】
【表1】

【0127】
[参考例1]
比較例1において、上記式(V)で表される高分子液晶20重量部と、上記式(VI)で表される重合性液晶化合物80重量部とを用いる代わりに、上記式(VI)で表される重合性液晶化合物100重量部を用いた以外は、上記比較例1と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムにおいては、液晶層が水平(ホモジニアス)配向していた。
【0128】
[参考例2〜12]
乾燥における空気循環式恒温槽内の雰囲気温度及び乾燥時間を下記の表2のように変更した以外は、上記参考例1と同様にして液晶層が水平配向した位相差フィルムを得た。なお、表2中の括弧内の数字は、熱量Qを表す。
【0129】
【表2】

【0130】
実施例、比較例、参考例で得られた位相差フィルムを、偏光顕微鏡(NIKON社製、商品名「ECLIPSE E600POL」)を用いて、クロスニコル状態にて顕微鏡の検光子の偏光方向(吸収方向)と位相差フィルムの遅相軸方向が平行となるようにして観察した。実施例及び比較例の観察結果(写真)を図1に、参考例の観察結果(写真)を図2に示す。
【0131】
図2からわかるように、水平配向フィルムに関する参考例では、塗布層の乾燥条件に関わらず、クロスニコル下での明暗のムラがほとんど観察されなかった。それに対して、図1のように傾斜配向した位相差フィルムでは、塗布層の乾燥条件によって明暗のムラが観察されるものがあり、実施例の位相差フィルムでは明暗のムラがほとんど観察されないのに対して、比較例の位相差フィルムでは、白く光が漏れている部分が観察された。
【0132】
また、比較例1〜5の位相差フィルムを、クロスニコル下で位相差フィルムの遅相軸と顕微鏡の検光子の偏光方向が45°の角度をなすように配置して、サンプルを傾けて観察したところ、見る方向によって黒く見える部分が異なっていた。このような現象から、比較例の位相差フィルムにおいては、配向不良(リバースチルト)が生じていることが分かった。
【0133】
以上の実施例、比較例、参考例からから、液晶が傾斜配向した位相差フィルムは、液晶が水平配向した位相差フィルムと比較して、配向不良が生じ易いが、本発明によれば、配向不良を生じずに均一性の高い傾斜配向位相差フィルムが得られることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】実施例及び比較例で得られた位相差フィルムの偏光顕微鏡(クロスニコル状態)での観察写真である。
【図2】参考例で得られた位相差フィルムの偏光顕微鏡(クロスニコル状態)での観察写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の重合性液晶化合物と、レベリング剤と、溶媒と、を含む液晶組成物溶液を基材上に塗布して、塗布層を形成する塗布工程、及び
下記式で表される熱量Qが、100<Q<300となる条件下で該塗布層を乾燥して、傾斜配向した液晶固化層を形成する乾燥工程、
を有する傾斜配向位相差フィルムの製造方法。
【数1】


(ただし、tは、乾燥工程における乾燥開始から乾燥終了までの時刻(分)であり、T(t)は、時刻tにおける雰囲気温度(℃)である。)
【請求項2】
前記乾燥工程における温度T(t)の最大値が60℃以上、120℃以下である、請求項1記載の傾斜配向位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記レベリング剤が、アクリル系レベリング剤を含有する請求項1または2記載の傾斜配向位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記アクリル系レベリング剤が、下記一般式(IV)で表される構造単位を有する化合物である、請求項3記載の傾斜配向位相差フィルムの製造方法。
【化1】


(Rは水素又はメチル基であり、Rは炭素数1〜10の直鎖若しくは分枝のアルキル基、炭素数1〜10の直鎖若しくは分枝のハロゲン化アルキル基、ポリエステル基、又はポリエーテル基である。)
【請求項5】
前記重合性液晶化合物として、アクリル系液晶化合物を含有する、請求項1〜4いずれか記載の傾斜配向位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記アクリル系液晶化合物が、下記一般式(I)又は(II)で表される化合物である、請求項5記載の傾斜配向位相差フィルムの製造方法。
【化2】


【化3】


(Y及びYはそれぞれ独立に、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、イソプロペニル基、4−ビニルフェニル基、1−クロロエテニル基、エポキシ基、シアネート基、イソシアネート基、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、又はニトロ基であり、Y、Yの少なくとも一方はアクリレート基若しくはメタクリレート基である。X、Xは、それぞれ独立に、共有結合、直鎖若しくは分枝のアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カーボネート基、あるいは、これらの1つ以上を含む2価の基である。A、B、及びCは置換基を表し、a、b及びcはそれぞれ対応するA、B及びCの置換数(0〜3までの整数)を表す。A、B、及びCは、それぞれ独立に、ハロゲン、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルコキシ基、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基又はヒドロキシ基である。なお、上記一般式(I)、(II)で表される化合物は、同一のベンゼン環上に複数の同一の置換基を有していてもよいし、異なる置換基を有していてもよい。)
【請求項7】
前記基材が配向処理されたものである、請求項1〜6いずれか記載の傾斜配向位相差フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記配向処理がラビング処理である、請求項7記載の傾斜配向位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−128793(P2009−128793A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306083(P2007−306083)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】