説明

優れた低温じん性を有する高強度部品を製造するための鋼及び前記タイプの鋼の使用

本発明は、低温であっても優れた延性破壊値J積分を有する、引張り力の高い鋼であって、そして、好ましくない条件及び非常に厳しい作業条件であっても前記の鋼から製造される構造部品の破壊の危険が最小限に減少される前記鋼に関する。本発明の鋼は(重量%で示す)、0.08〜0.25%C、0.10〜0.30%Si、0.80〜1.60%Mn、=0.020%P、=0.015%S、P及びSの合計=0.030%であり、0.40〜0.80%Cr、0.30〜0.50%Mo、0.70〜1.20%Ni、0.020〜0.060%Al、0.007〜0.018%N、=0.15%V、=0.07%Nb、V及びNbの合計=0.020%であり、並びに残余物の鉄及び不可避の不純物を含む。本発明の鋼は、高引張力チェーンの製造に特に適している。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、優れた低温じん性を有する高強度部品を製造するための鋼に関する。前記タイプの鋼は、例えば、荷重を締結及び固定するために必要な手段、例えば、停止手段又はクランピング手段用に使用される。前記鋼を、特に、溶接丸鋼チェーンを製造するための、熱間圧延棒鋼、圧延ワイヤー、又はブライト鋼(Blankstahl)を成形するために加工する。
【0002】
前記タイプの鋼への需要は、DIN17115に記載されている。更に、良好な変形性及び同等に溶接への良好な適合性に対して、実際に生じるストレスの結果として設定される用件を満たすために、鋼は優れた強度及びじん性性質を有していなくてはならない。
【0003】
この目的のために公知であり、そして、DIN17115に指定されている高級鋼(Edelstahl)23MnNiCrMo 5 3及び23MnNiCrMo 54は、それぞれ以下(重量%で表示)、0.20〜0.26%C、≦0.25%Si、1.10〜1.40%Mn、それぞれ0.020%のP及びS、P及びS含有量合計は0.035%を超えない、必要な場合に0.020〜0.050%Al、0.014%までのN、及び0.40〜0.60Crを含む。0.20〜0.30%Mo及び0.70〜0.90%Niも鋼23MnNiCrMo 5 2に加えられるのに対して、鋼23MnNiCrMo 5 4は更に、0.50〜0.60%Mo及び0.90〜1.10%Niを含む。
【0004】
シップの固定又は係留、あるいは、プラットホームの穴開け用のチェーンを製造するための鋼は、中国特許公報CN−1281906により公知である。WPINDEXデータベースから入手可能である前記公報の要約は、公知の前記鋼が(以下、重量%で表示)、0.25〜0.35%C、0.15〜0.30%Si、1.45〜1.75%Mn、0.90〜1.40%Cr、1.00〜1.20%Ni、0.45〜0.65%Mo、0.02〜0.06%Nb、0.020〜0.05%Al、0.020%までのP、0.15%までのS、0.20%までのCu、0.03%までのSn、0.01%までのSb、0.04%までのAs、0.005%までのB、0.009%までのN、0.0020%までのO、0.0002%までのH、鉄(Fe)である残余物、及び炭素同位体が1.4より大きい不可避の不純物、を含むことを記載している。
【0005】
公知の前記鋼は周囲温度での強度及びじん性に関する必要要件を満たしているが、特に、低温度でのじん性に関して問題があるということが実際的な知識によりこれまで示されてきた。
【0006】
従って、本発明の目的は、低温でも優れたじん性を有する高強度鋼を提供することであって、それぞれの場合において、好ましくない、厳しい作業条件であっても前記鋼から製造される製品の破裂のリスクを最小限に減少することである。前記鋼の有利な使用も本明細書に記載される。
【0007】
本発明によると、前記目的は、以下の組成(重量%で表示):
C:0.08〜0.25%、
Si:0.10〜0.30%、
Mn:0.80〜1.60%、
P:≦0.020%
S:≦0.015%
P及びS含有量合計≦0.030%であり、
Cr:0.40〜0.80%、
Mo:0.30〜0.50%、
Ni:0.70〜1.20%、
Al:0.020〜0.060%、
N:0.007〜0.018%、
V:≦0.15%、
Nb:≦0.07%
V及びNb含有量合計≧0.020%であり、鉄である残余物、及び不可避の不純物を含む、優れた低温度でのじん性を有する高強度製品を製造する本発明による鋼によって達成される。
【0008】
本発明による鋼の場合、必要用件を最適に満たす性質プロファイルを達成する方法で、個々の合金組成を選択する。これは、Cr、Ni、及びNの含有量(本発明によって決められている)、及び、Nb及びVの最小限の含有量合計により達成される。本発明により決められている前記合金エレメントの含有範囲に従う場合には、特に高いじん性、良好な硬化、焼戻しの間の硬度の改良された保留、及び、極めて微細な粒組織が達成される。本発明による鋼は、冷間成形可能性が高く、そして、仕上げ加工された状態で高い強度も有する。本発明による鋼は、高いノッチ衝撃じん性及び低い破壊様相遷移温度によっても特徴づけられ、前記の低い破壊様相遷移温度は、先行技術により公知の鋼のぜい性破壊温度よりも実質的に低い温度においてのみぜい性破壊が生じる温度である。
【0009】
0.08〜0.25重量%の範囲にあるC含有量によって、本発明による鋼の良好な低温抵抗が保障される。特に、C含有量が0.16〜0.23重量%の場合において、よい結果を得ることができる。
【0010】
本発明による鋼の焼戻し際での良好な硬化及び硬度の保留は、0.30〜0.50重量%のMo含有量の組み合わせと共に、0.40〜0.80重量%のCr含有量の制限によって達成する。Cr含有量を0.40〜0.65重量%に、そして、Mo含有量を0.35〜0.50重量%に調節することにおいて、前記組み合わせ効果により達成される確実性の程度を高めることができる。
【0011】
0.70〜1.20重量%、特に、0.75〜1.00重量%のNi含有量によって、特に、本発明による鋼において強調されるべきである良好な低温じん性がもたらされる。
【0012】
0.020〜0.060重量%、特に、0.020〜0.045重量%のAl含有量、及び、0.007〜0.018重量%、特に、0.007〜0.015重量%のN含有量によって、本発明による鋼における極めて微細な粒組織を導くことができる。
【0013】
最終的に、V含有量を最大で0.15重量%、及び、Nb含有量を最大で0.07重量%に限定することに対して、本発明による鋼は、合計で少なくとも0.02重量%のNb及びVを含むという事実によって、温度が上昇された場合であっても、所望の微細粒組織を達成する。驚くべきことに、本発明による鋼がバナジウムを含まない場合では、前記の効果が確実に生じるということがわかった。従って、好ましい構成では、本発明による鋼は、不可避の不純物を含むか、又は、Vを一切含むことがない。
【0014】
焼戻し硬化処理中であっても、微細粒を維持する。従って、通常、本発明による仕上げ加工された鋼は、ASTM10よりも細かいオーステナイト粒度を有する。本発明による鋼の組織の細度は、従って、DIN17115により必要とされるASTM5のオーステナイト粒度の公知の鋼よりも実質的に大きい。
【0015】
従って、本発明は、低温であっても優れたじん性を有する鋼を提供する。その性質の有利な組み合わせによって、本発明の鋼より製造される部品の破壊リスクを、好ましくない、厳しい作業条件であっても減少する。
【0016】
本発明による鋼を圧延鋼に加工することが好ましい。前記加工の目的は、各々の加工工程を介して、本発明による鋼の可能な限り最も微細な粒組織を保つことである。これは、加熱及び圧延の間で実施される加工工程だけではなく、部品成形の前後に実施される焼鈍処理も含む。本発明によると、粗い粒の成形を抑えるために、過熱の間に生じる拡散プロセスに関わらず高い圧延温度を避けることができるような方法で、加熱及び圧延の条件を選択する。追加変形間の温度も、細粒構造を維持する所望の構成の加熱変形の間の制御されたエネルギーの引き下げによって選択する。最終成形工程の直後の加速された熱の引き下げは、究極的に達成された構造状態の「凍結(Einfrierens)」の意味において、硬度及びじん性を減少させることがある好ましくない降下プロセスを防ぐ。あるいは、各々の部品を成形するための鋼の冷間成形に望ましい熱間焼鈍された状態において、鋼の比較的低い材料の強度を得るために、長時間の加熱処理によって、サイズ及び分布に関する炭窒化物の望ましい析出状態を作る。
【0017】
その特定の特質スペクトラムの結果、本発明の鋼は、その後の焼戻し硬化を伴う冷間成形による高強度部品の製造に適している。前記部品は、例えば、最も高い強度の分類に割り当てられる、荷重の持ち運び、引っ張り、持ち上げ、運搬、又は固定用の手段であることができる。一般用語「停止又はクランピング手段」として要約することのできる前記物品は、例えば、接着ポイント、フック、クリップ、アイレット、チェーン、ジョイント、キャッチエレメント、ロッカー、固定器(Streben)、スピンドル及びラチェットクランプ、並びに接着アイなどを含む。
【0018】
優れた使用特性を有する構造エレメントの接続手段も、本発明の鋼でできていることができる。前記の構造エレメントは、例えば、ボルト、あるいは、接続又は力伝動エレメント(例えば、スクリュー、クランプ、ロッドなど)である。
【0019】
本発明の鋼を適用する1つの分野が、チェーンの製造であること特に適している。本発明の組成の鋼でできているチェーンは、非常に低い温度であっても、破砕又は同程度の破損のリスクを生じることなく、重い荷重に確実に耐えることができる。最も厳しい要件であっても満たすことができる丸鋼チェーン、特に、溶接丸鋼チェーンは、従って、本発明の鋼でできていることができる。
【0020】
通常、本発明の鋼でできている部品は、強度を少なくとも1200MPa、特に、1550MPa、1600MPa又は1650MPaより大きい強度を有している。この関係において、強度少なくとも1550MPaの場合、本発明の鋼でできている部品の破面遷移温度FATTは、通常、最大で−60℃であることを強調しなければならない。前記の限界温度は、公知の鋼よりも極めて低い。
【0021】
本発明の鋼から製造される部品の場合、通常、ノッチ衝撃作業値は45Jより大きく、そして、個々の部品が−60℃で170N/mmより、特に、185N/mmより大きい技術的亀裂開始じん性JICを有していることも注目すべきことである。技術的亀裂開始じん性JICは、鋼材料の延性破壊傾向の評価を可能にするASTM1820において定められた値である。
【0022】
前記タイプの鋼から製造される部品が、通常、28%以上の破断伸び(Bruchdehnung)を示すという事実において、本発明の鋼のじん性が高いことを認めることができる。
【0023】
実施態様を参照して、本発明をより詳しく以下に説明する。
【0024】
以下の組成(重量%で表示する):
0.19%C、
0.20%Si、
1.31%Mn、
0.005%P、
0.010%S、
P含有+S含有=0.015%であり、
0.45%Cr、
0.37%Mo、
0.88%Ni、
0.400%Al、
0.008%N、
0.01%V、
0.06%Nb、
(V含有+Nb含有=0.07%)、
並びに、鉄(Fe)からなる残余物及び不可避の不純物を含む鋼を溶解し、そして、加工して圧延鋼を成形した。熱間圧延後に得られた製品の可能な限り微細な粒組織を保証するために、熱間圧延中の圧延温度を低い水準に保った。更に、熱成形によって生じた熱を消散させるために、圧延された製品の冷却を各々の圧延工程の間に実施した。熱間圧延パスを離れる際に生じ、そして、その後の加工工程中においても確実に保持される鋼の微細粒組織を凍結するために、得られた熱間圧延製品を熱間圧延の直後に急冷する。
【0025】
その後の冷間成形の有益な強度を設定するために実施された熱間圧延及び長時間の熱処理の後に、圧延された鋼を成形し、チェーンが集められた場合には溶接することによって閉鎖するチェーンリンクを成形した。
【0026】
前記の方法において製造されるチェーンは、ASTM11の微細粒組織、強度1,270N/mm、及び−70℃の前記強度で決定される破面遷移温度FATTを示した。これらのノッチ衝撃作業値は−60℃試験温度で557Jであり、そして、破断伸びは28%であった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
添付図面において、本発明の鋼の延性破壊値J積分の過程が、0.4の標準化された初期亀裂長さa/wの−60℃での亀裂進展REW上に、点線で示されている。安定した亀裂進展の技術的に相当する開始の際に、185N/mmの亀裂発生じん性JICがあることを見ることができる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温での優れた硬度を有する高強度部品を製造するための鋼であって、以下の組成(重量%で表示):
C:0.08〜0.25%、
Si:0.10〜0.30%、
Mn:0.80〜1.60%、
P:≦0.020%、
S:≦0.015%、
P及びS含有量合計≦0.030%であり、
Cr:0.40〜0.80%、
Mo:0.30〜0.50%、
Ni:0.70〜1.20%、
Al:0.020〜0.060%、
N:0.007〜0.018%、
V:≦0.15%、
Nb:≦0.07%、
V及びNb含有量合計≧0.020%であり、並びに、鉄である残余物及び不可避の不純物を有する、前記鋼。
【請求項2】
C含有量が、0.16重量%〜0.23重量%であることを特徴とする請求項1に記載の鋼。
【請求項3】
Mn含有量が、1.00重量%〜1.35重量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の鋼。
【請求項4】
Cr含有量が、0.40重量%〜0.65重量%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項5】
Mo含有量が、0.35重量%〜0.50重量%であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項6】
Ni含有量が、0.75重量%〜1.00重量%であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項7】
Al含有量が、0.020重量%〜0.045重量%であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項8】
N含有量が、0.007重量%〜0.015重量%であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項9】
ASTM10よりも細かいオーステナイト粒度を有していることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項10】
冷間成形と共にそれに続く焼戻し硬化により高強度部品を製造する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成からなる鋼の使用。
【請求項11】
前記部品が、荷重を運び、引張り、持ち上げ、運搬し、又は固定する手段であることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記部品が、構造物エレメントの接続用の手段であることを特徴とする、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
前記部品がチェーンであることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記チェーンが丸鋼チェーンであることを特徴とする、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記チェーンを溶接することを特徴とする、請求項13又は14に記載の使用。
【請求項16】
前記部品が、強度少なくとも1200MPaを有することを特徴とする、請求項10〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記強度が、少なくとも1550MPaであることを特徴とする、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記強度が、少なくとも1600MPa、特に、少なくとも1650Mpaであることを特徴とする、請求項16又は17に記載の使用。
【請求項19】
強度少なくとも1550MPaで、前記部品の破面遷移温度(FATT)が最大で−60℃であることを特徴とする、請求項10〜18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
ノッチ衝撃作業値が、45Jよりも大きいことを特徴とする、請求項10〜19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記部品の材料が、170N/mmより大きい技術的亀裂発生じん性JICを有していることを特徴とする、請求項10〜20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
前記技術的亀裂発生じん性JICが、185N/mmより大きいことを特徴とする、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記部品が、28%より大きい破断伸びを有することを特徴とする、請求項10〜22のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2007−520633(P2007−520633A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551811(P2006−551811)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【国際出願番号】PCT/EP2005/001163
【国際公開番号】WO2005/075693
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(505371210)エーデルシュタールヴェルケ ズートヴェストファーレン ゲー エム ベー ハー (1)
【氏名又は名称原語表記】EDELSTAHLWERKE SUEDWESTFALEN GMBH
【出願人】(505371221)ルド−ケッテンファブリーク リーガー ウント ディーツ ゲー エム ベー ハー ウント コンパニー (1)
【氏名又は名称原語表記】RUD−KETTENFABRIK RIEGER & DIETZ GMBH & CO.
【Fターム(参考)】