説明

優れた成形品特性を与え得る炭素系成形材料とそれを用いて得られた固体高分子形燃料電池用セパレータ

【課題】ガスバリア性を高めるべく、緻密な組織を形成し得る、ガス発生量が少ない、成形性に優れた炭素系成形材料を提供すること、またそのような成形材料を用いて、集電効率の向上に寄与し得る、優れた導電性と、高い作動温度でも熱破損を防止し得る、改善された熱間強度とを備えた固体高分子形燃料電池用セパレータを提供すること。
【解決手段】炭素系成形材料を、(A)重量平均分子量が4000以下のレゾール型フェノール樹脂、(B)重量平均分子量が5000以上で且つ煮沸メタノールへの溶解度が30質量%以上である熱硬化性のフェノール樹脂、及び(C)炭素質基材を必須成分として含み、前記(A)成分及び(B)成分の合計量と前記(C)成分との含有割合が、質量基準比で10:90〜35:65となるように構成し、かかる成形材料を用いて固体高分子形燃料電池用セパレータを成形するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた成形品特性を与え得る炭素系成形材料と、それを用いて得られた固体高分子形燃料電池用セパレータに係り、特に、熱硬化性フェノール樹脂と炭素質基材とを必須成分とする炭素系成形材料と、それを用いて成形された、ガスバリア性や熱間強度等の特性に優れた固体高分子形燃料電池用セパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、固体高分子形の燃料電池は、エネルギー効率が高く、環境汚染の負荷が小さく、更に低温で作動し得るところから、自動車の動力源を始め、小型可搬電源、定置発電用電源等に広く普及するものとして、注目されてきている。
【0003】
そして、かかる固体高分子形燃料電池は、表面に複雑且つ細かい燃料ガス通路溝を有する薄肉形状のセパレータ(アノード側)と、同様に薄肉の酸化剤ガス通路溝を有するセパレータ(カソード側)との間に、ガス拡散層及び電極と電解質膜(例えばイオン交換膜)を設けてなるユニットを、基本構造として、それを多数積層して得られる積層体の両端部に、集電板がそれぞれ設けられてなる構成を有する集電構造体であって、その電解質膜を介してなされる燃料ガスと酸化剤ガスとの化学反応によって生じる電気エネルギーを、集電板を用いて、外部に取り出すようにした方式の電池である。
【0004】
従って、そのような固体高分子形燃料電池に用いられるセパレータには、電気エネルギーの損失を防ぐための高い導電性、燃料ガスや酸化剤ガスの透過を防止するための高度のガスバリア性、及びガスリークを伴う破損を生じにくい機械的強度等が、基本特性として要求されているのである。しかし、最近では、燃料に含まれる一酸化炭素による電極触媒の被毒化の低減や、発電効率の向上等の観点から、従来の作動温度(例えば80〜100℃)よりも高い温度(例えば100〜200℃)が、採用されてきているため、かかるセパレータに対しても、新たに、熱破損を生じないような熱間強度が、要求されるようになってきている。
【0005】
ところで、上述の如き固体高分子形燃料電池用セパレータの成形用材料としては、従来から、ステンレス、チタン系合金等の耐食性金属材料を用いた金属セパレータが、提案されているのであるが、それは、耐熱性及び集電効率には優れているものの、電解腐食及びイオン化による耐久性能の低下、成形加工性の困難さ、重量が大きくなる等において、課題を残すものであった。
【0006】
一方、性能面及びコスト面で優位にある導電性熱硬化性樹脂組成物を用いて、上記したセパレータを成形することが考えられ、特にレゾール型フェノール樹脂と炭素質基材とを主成分とする炭素系成形材料が好適であると考えられることから、従前から種々の検討がなされている。例えば、特開2003−128872号公報(特許文献1)においては、ジメチレンエーテル型レゾールフェノール樹脂と導電性を有する炭素系材料、及びアミン系硬化剤を必須成分とすることにより、成形性、電気的特性、機械的特性に優れた導電性フェノール樹脂成形材料が、提案されているのである。
【0007】
しかしながら、そこで用いられるフェノール樹脂には、その硬化時に縮合水が生成し、そしてこの縮合水がガス化することにより、成形品にピンホール等の成形不良が発生したり、またガスの臭気による作業環境の悪化等の問題があり、この問題は、従来技術では、何等回避されていないのである。また、従来のフェノール樹脂系の成形材料にあっては、ガスバリア性や導電性が低いことに加えて、前記した高作動温度で要請される熱間強度(曲げ強度)においても、その要請に充分に応え得るものではなかったのである。
【0008】
【特許文献1】特開2003−128872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かくの如き事情を背景にして完成されたものであって、ガスバリア性を高めるべく、緻密な組織を形成し得る、ガス発生量が少ない、成形性に優れた炭素系成形材料を提供することにあり、またそのような成形材料を用いて、集電効率の向上に寄与し得る、優れた導電性と、高い作動温度でも熱破損を防止し得る、改善された熱間強度とを備えた固体高分子形燃料電池用セパレータを提供することをも、その目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明者等は、上記した目的を達成すべく鋭意検討した結果、結合剤として特性の異なる2種類の熱硬化性フェノール樹脂を用いた炭素系成形材料は、前述の如き諸特性を充分に満足させることのできる固体高分子形燃料電池用セパレータを提供し得ることを見出し、その知見を基に更に検討を進めて、本発明を完成するに至ったのである。
【0011】
すなわち、本発明は、先ず、上記した課題を解決するための成形材料として、(A)重量平均分子量が4000以下のレゾール型フェノール樹脂、(B)重量平均分子量が5000以上で且つ煮沸メタノールへの溶解度が30質量%以上である熱硬化性のフェノール樹脂、及び(C)炭素質基材を必須成分として含み、前記(A)成分及び(B)成分の合計量と前記(C)成分との含有割合が、質量基準比で10:90〜35:65であることを特徴とする優れた成形品特性を与え得る炭素系成形材料を、その要旨としているのである。
【0012】
なお、そのような本発明に従う成形材料の好ましい態様の一つによれば、前記(A)成分と前記(B)成分との含有割合は、質量基準比で20:80〜80:20であり、また前記(A)成分としては、ベンジリックエーテル型レゾール樹脂が、有利に用いられ、更に前記(C)成分としては、黒鉛が、有利に用いられることとなる。
【0013】
そして、本発明にあっては、上述せる如き成形材料を用いて成形してなることを特徴とする固体高分子形燃料電池用セパレータをも、また、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明に従う炭素系成形材料にあっては、特性の異なる2種類の熱硬化性フェノール樹脂を用いていることによって、成形時には十分な流動性が確保されるのみならず、ガスの発生が有利に抑制される(ガス発生量が少ない)ことから、成形性に優れ且つガスにより発生するピンホール等の成形不良やガスの臭気による作業環境の問題等も効果的に改善された炭素系成形材料となり、従って、そのような成形材料を用いて成形して得られる固体高分子形燃料電池用セパレータにあっては、良好な導電性及びガスバリア性を有し、しかも熱間強度(曲げ強度)が50MPa以上で、且つ強度保持率が80%以上という、優れた機械的性能を有するものとなるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の構成について、更に具体的に説明することとする。
【0016】
先ず、本発明に従う、炭素質基材(C)の結合剤として機能する熱硬化性フェノール樹脂は、特性の異なる2種類の熱硬化性フェノール樹脂の併用を特徴とするものであり、具体的には、(A)重量平均分子量が4000以下のレゾール型フェノール樹脂と、(B)重量平均分子量が5000以上で、且つ煮沸メタノールへの溶解度が30質量%以上である熱硬化性フェノール樹脂とから、構成されるものである。
【0017】
そして、ここでいう(A)成分たるレゾール型フェノール樹脂は、重量平均分子量が4000以下で、分子中にメチロール基を有し且つ熱硬化性を有するものであって、代表的には、例えばレゾール樹脂、含窒素レゾール樹脂、ノボラック型レゾール樹脂、ベンジリックエーテル型レゾール樹脂及びこれらの変性樹脂等、その種類に限定されることなく用いられ得るが、成形性の観点から、有利には、分子内にベンジリックエーテル結合を有するベンジリックエーテル型レゾール樹脂が、好ましく用いられることとなる。特に、フェノール核結合官能基として、特開平6−298888号公報に記載のH1 −NMRによる測定に基づくメチロール基が10〜20モル%及びジメチレンエーテル基が40〜60モル%であるベンジリックエーテル型レゾール樹脂が、好適に用いられる。このようなベンジリックエーテル型レゾール樹脂を用いることによって、成形性の優位さに加えて、成形時のガス発生がより効果的に抑制されるのであり、また、溶出した金属イオンやアンモニウムイオンによる燃料電池の性能低下を効果的に回避することができることとなる。なお、ここで言う重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算にて、算出することができる。
【0018】
なお、上述したようなベンジリックエーテル型レゾール樹脂としては、その重量平均分子量が4000以下のものであれば、その製法を問わず、如何なるものであっても、用いることが可能であるが、かかるベンジリックエーテル型レゾール樹脂を有利に製造し得る方法の一つとしては、反応触媒の存在下、フェノール類とアルデヒド類とを、フェノール類の1モルに対して、アルデヒド類が、一般に、0.5〜3.0モルの割合となるようにして、付加・縮合反応せしめる方法を、例示することができる。また、そこで用いられるフェノール類及びアルデヒド類としては、従来より公知の各種のものが、何れも、採用可能である。例えば、フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、p−tert−ブチルフェノール、ノニルフェノール等のアルキルフェノール、レゾルシノール、ビスフェノールF、ビスフェノールA等の多価フェノール、及びこれらの混合物等が挙げられ、一方、アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、ポリオキシメチレン、トリオキサン、アセトアルデヒド、パラアルデヒド(パラアセトアルデヒド)、グリオキザール、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0019】
また、上記したフェノール類とアルデヒド類との付加・縮合反応の際に用いられる触媒としては、特に限定されるものではなく、従来からベンジリックエーテル型レゾール樹脂の製造に用いられている各種の触媒の中から、所望とするレゾール樹脂の重量平均分子量等に応じて、適宜に選択されて用いられる。そして、それら公知の触媒の中でも、例えば、スズ、鉛、亜鉛、コバルト、マンガン、ニッケル等の金属元素を有する金属塩のうちの少なくとも1種が、反応触媒として好適に採用され得るのである。より具体的には、かかる金属塩としては、例えば、ナフテン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、ホウ酸亜鉛、酸化鉛の他、このような金属塩を形成し得る酸と塩基の組合せ等が挙げられる。また、かかる金属塩を反応触媒として採用する場合に、その使用量としては、特に限定されるものではないものの、一般に、フェノール類の100質量部に対して、0.01〜5質量部となるような割合において、使用されることとなる。
【0020】
他方、そのような(A)成分のレゾール型フェノール樹脂と共に用いられる、(B)成分としての熱硬化性フェノール樹脂は、5000以上の重量平均分子量を有し、更に煮沸メタノールへの溶解度が30重量%以上、好ましくは50重量%以上である熱硬化性のフェノール樹脂であって、かかる条件を満たすものであれば、その製法を問わず、如何なるものであっても、使用することが可能である。
【0021】
かかる(B)成分たる熱硬化性フェノール樹脂の好適な具体例としては、特開平4−159320号公報に開示されているような、懸濁重合法によって製造された変性ノボラック型フェノール樹脂中に、ヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤が分散されてなるユニベックス(商品名、ユニチカ株式会社製)や特公昭62−30210号公報及び特公昭62−30211号公報にて開示されているような、微粒子状のフェノール樹脂であるベルパール(商品名、2005年3月1日付けでカネボウ株式会社からエア・ウォーター・ベルパール株式会社に事業譲渡されている製品)を例示することができるが、特にベルパールSシリーズ(商品名)が有利に用いられることとなる。
【0022】
なお、かくの如きベルパールSシリーズは、例えば、反応系内の温度を所定温度以下に保った状態において、塩酸と過剰のホルムアルデヒドとを含む塩酸−ホルムアルデヒド浴にフェノール類を接触させる方法によって製造される、フェノール類とホルムアルデヒドとの縮合物からなる微粒子状のフェノール樹脂であって、それは、1)GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量が5000以上であり、また、特開平6−298888号公報に記載のH1 −NMRによる測定に基づく、2)フェノール核当量が110〜130であり、更に3)ベンゼン環1個当たりの、メチレン結合の数が0.9〜1.2個、メチロール基の数が0.05〜0.20個である、という特徴を有している。
【0023】
そして、上述の如き特性の異なる(A)レゾール型フェノール樹脂と(B)熱硬化性のフェノール樹脂とを、所定の割合で配合し、均一となるように混合せしめることによって得られる熱硬化性樹脂組成物(D)は、溶融時においては十分な流動性を有し且つガスの発生が少ない成形材料を提供できる結合剤として、好適に用いられ得るものとなっているのである。
【0024】
ここにおいて、上記した(A)レゾール型フェノール樹脂と(B)熱硬化性のフェノール樹脂との配合割合は、質量基準比で、前者(A)/後者(B)=20/80〜80/20、好ましくは25/75〜75/25の範囲内となるように、設定される。かかる(A)レゾール型フェノール樹脂の割合が20質量%未満、換言すれば熱硬化性のフェノール樹脂(B)の割合が80質量%を超えると、成形材料の流動性が十分に確保され得ないおそれがあり、その一方、かかる(A)レゾール型フェノール樹脂の割合が80質量%を超えると、換言すれば(B)熱硬化性のフェノール樹脂の割合が20質量%未満となると、ガスの発生が多くなるおそれがあるからである。
【0025】
また、それら(A)レゾール型フェノール樹脂と(B)熱硬化性のフェノール樹脂との混合に際して、それらのフェノール樹脂としては、固体状のもの、液体状のもの、或いは所定の溶媒に分散及び/又は溶解せしめた状態のもの等、何れも制約なく用いることが可能であり、上記の(A)成分及び(B)成分の状態に応じた公知の混合手法(例えば、粉体混合、溶融混合、溶液混合等)に従って、両者を混合するのが好適であるが、必ずしも、上述したように、先立って熱硬化性樹脂組成物を調製する必要はなく、成形材料を調製する際に、炭素質基材(C)及び必要に応じてその他の添加成分に、上記の(A)成分及び(B)成分をそれぞれ配合して、成形材料を調製することも可能である。
【0026】
次に、本発明に従う炭素質基材(C)としては、導電性の優れているものが、好ましく用いられる。具体的には、グラファイト構造が成長した黒鉛であり、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、土壌黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛類で、塊状、鱗状、球状などの形状をしているものが、挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。それらの中でも、特に、成形品を薄肉化した場合でも機械的強度を維持できる膨張黒鉛が、好適である。そして、このような黒鉛としては、特に制限は無く、その平均粒径としては1〜100μmのものが好ましく、より好ましくは4〜50μmである。また、これら黒鉛類のほかに、導電助剤として機能するカーボンナノチューブ、メソフェーズカーボン、気相合成カーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラックや、曲げ強度や靭性などの機械的特性を改善する効果があるカーボン繊維等を、添加することができる。
【0027】
そして、本発明に係る、固体高分子形燃料電池用セパレータの成形に好適に用いられる成形材料は、上述したような、熱硬化性樹脂組成物(D)と炭素質基材(C)とを主要な組成として構成されるものではあるが、必要に応じて、本発明の目的及び効果に悪影響をもたらさない範囲で、更に、ステアリン酸等の離型剤、その他公知の配合剤等を併用することができる。また、前者(D)と後者(C)との配合割合としては、質量基準比で、(D)/(C)=10/90〜35/65の範囲であり、好ましくは20/80〜30/70である。この(D)/(C)の比が、10/90未満であると、成形時に十分な流動性が確保できないため、複雑な形状を成形することが難しくなり、逆に35/65を越えると、ガスの発生が多く且つ導電性が低下し、実用に適さなくなる恐れがあるからである。
【0028】
なお、かかる成形材料の製造方法としては、通常の方法により製造することができる。例えば、前記原材料を所定量配合し、リボンブレンダーやプラネタリミキサー等を用いて混合した粉末状成形材料や、更に混合した材料を80℃〜100℃の加熱ロールや二軸混練機を用いて溶融混練し、これをシート状若しくは造粒化するか、冷却後、粉砕・分級などの操作を経て、成形材料とすることができる。または、混合した材料を、ヘンシェルミキサーやパン型造粒機等の造粒機を用いて、メタノール、アセトンなどの溶媒やPVA等の造粒バインダーにより湿式造粒による成形材料とすることもできる。
【0029】
そして、本発明にあっては、かくして得られた成形材料を成形加工することによって、ガスバリア性や熱間強度等の特性に優れた固体高分子形燃料電池用セパレータを有利に得ることができるのであるが、その成形加工方法としては、特に限定されず、圧縮成形や射出成形、若しくは射出圧縮成形することにより、加熱、加圧され、熱硬化することで得られる。以下、その代表的な圧縮成形加工方法の一例について説明する。
【0030】
先ず、予め所望の成形温度に調整された、表面にガス通路を形成するための凸状パターンを備えた成形金型内に、成形材料を充填した後、所望の成形条件(一般に、成形温度130〜300℃/成形圧力10〜40MPa/成形時間2〜10分間程度)で圧縮成形を行うことによって、表面に凹状のガス通路を備えた任意の肉厚を有する本発明の固体高分子形燃料電池用セパレータを得ることができる。また、必要に応じて、アフターキュアを実施しても良い。
【0031】
このようにして、本発明においては、目的に応じて種々のサイズの固体高分子形燃料電池用セパレータが製造され得るのであるが、好ましくは、肉厚が0.2〜2mm程度のセパレータが製造されることとなる。なお、肉厚が0.2mm未満では、燃料電池の軽量化及び集電効率に寄与できるものの、脆くて割れ易くなり、ガスバリア性にも劣るようになるという問題を生じる恐れがある。一方、肉厚が2.0mmを超えると、燃料電池の重量やサイズが大きくなるという不具合を伴う恐れがある。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明は、そのような実施例に限定して、解釈されるものでは、決してない。なお、実施例における「%」は、全て「質量%」を表わしている。また、得られた固体高分子形燃料電池用セパレータ及び使用した成形材料の諸特性については、以下に示す方法に従って測定した。
【0033】
(1)常態強度、熱間強度(曲げ強度:MPa)
実施例及び比較例にて調製された成形材料を用い、それを180℃に加熱した金型内に充填し、圧縮成形機により、成形圧力:20MPa、成形時間:5分間の条件下でプレスし、肉厚:2mmの燃料電池用セパレータ(平板)を作製した。次いで、この得られたセパレータについて、JIS−K−6911に準処して、常態強度は、23℃雰囲気下で測定する一方、熱間強度は、温度150℃の雰囲気下で測定した。なお、テストピースサイズは、横10mm×縦70mm×厚み2mmである。また、強度保持率は、次式により算出した。
[強度保持率(%)]=(熱間強度)÷(常態強度)×100
【0034】
(2)導電性(体積固有抵抗:mΩ・cm)
導電性は、常態強度測定の場合と同様にして作製された燃料電池用セパレータ(平板)を用い、四端子四探針法抵抗率計(商品名:ロレスターGP、三菱化学株式会社製)により、JISK7194に準じて測定した。なお、テストピースサイズは、横70×縦70mm×厚み2mmであった。
【0035】
(3)成形材料の成形性(流動性:mm)
実施例及び比較例にて調製された成形材料5gを、成形圧力:20MPaで、室温下にタブレット化することにより、φ25mmの試料を作製した。次いで、この試料を、JIS−K−6911に準拠して、流動性測定用円板上に乗せた後、直ちに、成形圧力/成形温度=20MPa/160℃で、3分間、圧縮成形して、円状成形体を得、更にその光沢部分の長さ(mm)を測定して、成形材料の成形性(流動性:mm)として評価した。
【0036】
(4)比重のバラツキ
実施例及び比較例にて作製された成形材料を、180℃に加熱された溝付き金型に充填し、圧縮成形機により、成形圧力:20MPa、成形時間:5分間の条件下でプレスし、凹部肉厚:0.5mm、凸部肉厚:1.5mmの燃料電池用セパレータを作製した。次いで、この得られた燃料電池用セパレータから、30mm角に切り出した試験片(n=6)の比重を測定し、その最大値、最小値及び平均値を、下式に従い算出し、その数値が5%未満であれば○とし、5%以上であれば×として、成形性を評価した。
[比重のバラツキ(%)]=[(最大値)−(最小値)]÷(平均値)×100
【0037】
(5)ガスバリア性
比重のバラツキ測定の場合と同様にして作製された燃料電池用セパレータの片面に、石鹸水を塗布する一方、その反対側の面には、窒素ガスにより0.2MPaの圧力を掛けることにより、かかるセパレータを通過した窒素ガスにて生ずる石鹸水の泡の有無を、目視で判定した。そして、泡が無ければ○とし、泡が有れば×として、評価した。
【0038】
(6)ガス発生量(%)
実施例及び比較例にて調製された成形材料を、熱分析装置(TG−DTA)による熱重量測定にて、空気雰囲気下、昇温:10℃/分で加熱し、100〜200℃の間の質量変化(減少量)を、測定に供した試料の質量で除した百分率を、ガス発生量(%)として評価した。
【0039】
−実施例1−
(A)重量平均分子量が4000以下のレゾール型フェノール樹脂として、ベンジリックエーテル型レゾール樹脂(旭有機材工業株式会社製、重量平均分子量:3100)を用いると共に、(B)重量平均分子量が5000以上で、かつ煮沸メタノールへの溶解度が30質量%以上である熱硬化性フェノール樹脂として、ベルパールS890(商品名、エア・ウォーター・ベルパール株式会社製、重量平均分子量:10000、煮沸メタノールへの溶解度:95%)を用いて、それらを、下記の表1に掲げる配合割合にて配合し、熱硬化性樹脂組成物(D)を得た。なお、各フェノール樹脂の重量平均分子量は、東ソー株式会社製ゲル濾過クロマトグラフSC−8020シリーズ・ビルドアップシステム(カラム:G2000HXL+G4000HXL、検出器:UV254nm、キャリヤ:テトラヒドロフラン1mL/分、カラム温度:38℃)を用いたGPC測定によって、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)として求められたものである。
【0040】
次いで、上記で得られた熱硬化性樹脂組成物(D)と、炭素質基材(C)としての球状黒鉛(商品名LB−CG、日本黒鉛工業株式会社製)とを用い、下記の表1に示される配合割合にて配合して、ヘンシェルミキサーで撹拌混合した後、造粒剤としてメタノールを配合物に対して10%添加し、更にヘンシェルミキサーで造粒し、50℃の温風乾燥機にて恒量になるまで乾燥することにより、顆粒状の成形材料を得た。この得られた成形材料について、先に記載した方法に従って、その成形性(流動性)及びガス発生量(以上を「成形材料特性」という)を測定する一方、そのような成形材料を用いて成形された燃料電池用セパレータについて、その常態強度、熱間強度及び強度保持率、導電性、比重のバラツキ及びガスバリア性(以上を「セパレータ特性」という)を測定した。それらの評価結果を、下記表1に示す。
【0041】
−実施例2〜7−
実施例1において、表1に示すように配合割合を変更する以外は、実施例1と同様にして、各種の成形材料を調製した。そして、この得られた成形材料について、実施例1と同様にして、成形材料特性とセパレータ特性を測定した。その評価結果を、下記表1に示す。なお、実施例6においては、炭素質基材として鱗状黒鉛(商品名:CP、日本黒鉛工業株式会社製)を用い、実施例7においては、炭素質基材として膨張黒鉛(商品名:CMX、日本黒鉛工業株式会社製)を用いた。
【0042】
−比較例1〜4−
実施例1において、表1に示すように配合割合を変更する以外は、実施例1と同様にして、各種の成形材料を調製した。そして、この得られた成形材料について、実施例1と同様にして、成形材料特性とセパレータ特性を測定した。その評価結果を、下記表2に示す。なお、比較例4においては、流動性が悪く、目的とするセパレータが得られなかったために、セパレータ特性を測定することが出来なかった。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
かかる表1及び表2の結果より明らかなように、本発明に従って、異なる2種類のフェノール樹脂を結合剤として併用し、且つそれらフェノール樹脂の使用量と炭素質基材の使用量との割合を規制することによって、優れた成形材料特性を有する成形材料を得ることが出来、更に、この成形材料を用いて成形したセパレータ(成形品)にあっては、優れたセパレータ特性を有することが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重量平均分子量が4000以下のレゾール型フェノール樹脂、(B)重量平均分子量が5000以上で且つ煮沸メタノールへの溶解度が30質量%以上である熱硬化性のフェノール樹脂、及び(C)炭素質基材を必須成分として含み、前記(A)成分及び(B)成分の合計量と前記(C)成分との含有割合が、質量基準比で10:90〜35:65であることを特徴とする優れた成形品特性を与え得る炭素系成形材料。
【請求項2】
前記(A)成分と前記(B)成分との含有割合が、質量基準比で20:80〜80:20であることを特徴とする請求項1に記載の優れた成形品特性を与え得る炭素系成形材料。
【請求項3】
前記(A)成分が、ベンジリックエーテル型レゾール樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の優れた成形品特性を与え得る炭素系成形材料。
【請求項4】
前記(C)成分が、黒鉛であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の優れた成形品特性を与え得る炭素系成形材料。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の炭素系成形材料を用いて成形してなることを特徴とする固体高分子形燃料電池用セパレータ。


【公開番号】特開2007−258107(P2007−258107A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83953(P2006−83953)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000117102)旭有機材工業株式会社 (235)
【Fターム(参考)】