説明

優先制御方法、優先制御システムおよび基地局装置

【課題】無線回線を介して接続される基地局装置と複数の端末装置との間の無線通信において、送信データ毎に設定された優先順位に従った送信優先制御を実現し、予め定められた通信品質を維持し、かつスループットを向上させる。
【解決手段】基地局装置は、非優先クラスのトラヒックはないと仮定して、優先クラスの規定の伝送遅延時間を満たすパラメータの暫定値を計算する第1のステップと、第1のステップで得られた優先クラスのパラメータの暫定値を用いて、非優先クラスのスループットを最大化するパラメータを算出する第2のステップと、第2のステップで得られた非優先クラスのパラメータを用いて、優先クラスのパラメータの暫定値を補正する際に、優先クラスの通信品質に影響を与えないように補正して最終的なパラメータを算出する第3のステップとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線回線を介して接続される基地局装置と複数の端末装置との間の無線通信において、送信データ毎に設定された優先順位に従った送信優先制御を実現する優先制御方法、優先制御システムおよび基地局装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線基地局と複数の無線端末が無線回線を介して接続される無線アクセスシステムのアクセス方式は、無線基地局により全無線端末の送信タイミングを管理する集中制御方式と、各無線端末が各々独立に送信タイミングを決めて送信を行う分散制御方式の2つの方式に大別できる。
【0003】
分散制御方式は、集中制御方式に比べて無線基地局の構成が簡易となる。また、無線基地局から無線端末を制御する必要がないことから、制御用信号が不要であり、高いスループットが実現できる。この分散制御方式では、各無線端末が個別に送信タイミングを決定するため、複数の無線端末において送信が行われた場合、送信パケットが衝突する可能性がある。特に輻輳状態においてはパケット衝突が頻繁に発生しスループットを低減させる。そのため、分散制御方式では、衝突回避アルゴリズムが用いられる。
【0004】
IEEE802.11では衝突回避アルゴリズムとして、Exponential back offアルゴリズムが用いられる。IEEE802.11で用いられる衝突回避アルゴリズムのバックオフ制御について、図8を参照して説明する。
【0005】
このアルゴリズムを用いて送信する場合、ビジーからアイドルの移行を契機にIFS(Inter Frame Space 、フレーム間隔)の時間だけ待ち、引き続き0からある規定値(ウィンドウサイズ)の間の乱数から算出されるランダムなバックオフ時間のキャリアスキャンを行い、継続してアイドルであることを確認した後に送信する。最初に送信する場合の乱数の最大値は、初期バックオフウィンドウサイズとして規定される。衝突等でパケットの送信に失敗した場合、ウィンドウサイズをx倍し、その範囲でランダムなバックオフ時間を算出し、その時間の間キャリアスキャンを行ったのちに再送する。ウィンドウサイズを大きくさせる値(上記のx)はパーシステント・ファクタ(PF)と呼ばれる。再び送信に失敗した場合、更にウィンドウサイズをx倍した中からランダムなバックオフ時間を算出し、バックオフしたのちに再送を行う。Exponential back offアルゴリズムでは、この動作を送信が成功するまで、もしくは、再送回数が予め決められた最大再送回数に達するまで繰り返す。
【0006】
Exponential back offアルゴリズムを用いた分散制御方式において、QoS(Quality of Service)を提供する方式として、IFS時間、初期バックオフウィンドウサイズ、PFのパラメータをサービスクラス毎に規定し、サービスクラス毎に優先制御を行う方式がある(非特許文献1)。ここで、IFSが短い場合や初期バックオフウィンドウサイズが小さい場合が送信優先度が高く、IFSが長い場合や初期バックオフウィンドウサイズが大きい場合が優先度が低いと言える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IEEE Std 802.11-1997
【非特許文献2】IEEE Std 802.11e/D6.0 Nov.2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
想定する無線アクセスシステムの要求条件は次の通りである。
(1) 広域性(1つの基地局により広い範囲 (例えば半径 3.5kmのエリア) をカバー)
(2) 超多次元マルチアクセスを実現(例えば収容端末 100万台以上)
(3) QoSの提供 (QoSを規定する指標として平均伝送遅延時間を使用)
【0009】
このような無線アクセスシステムに対して従来のアクセス方式を用いた場合、以下の問題点がある。
(1) 要求条件(1) で想定する無線アクセスシステムでは、無線端末間でキャリアスキャンができない場合があり、IFSによる優先制御方式を用いることができない。
【0010】
(2) 無線アクセスシステムに加わるトラヒックの増加の要因として、各端末の発生トラヒックが増加することによる要因aと、端末当たりのトラヒック量は変化しないが端末数が増加することよる要因bの2通りがある。トラヒック増加が要因aでもたらされる場合、低優先度の端末の送信を十分に抑制できるため従来方式の優先制御方式でも効果が見込める。一方、要因bの場合では、低優先度端末の送信を十分に抑制できないため従来方式でQoSを提供することは困難である。さらに、想定システムが超多次元マルチアクセスを実現することを目的とした無線アクセスシステムであり、収容端末数が多く、要因bによってトラヒックが増加することが頻繁に起こると予測される。
【0011】
(3) 従来方式で送信制御に用いるパラメータ(IFS、初期バックオフウィンドウサイズ、PF) と、伝送遅延時間との間には定性的な関係はあるが、それぞれのパラメータのトラヒック制御に対する効果は、1台の基地局に収容する端末の数により変わるため、定量的な関係は一意に決まらない。
【0012】
したがって、要求条件を満たす無線アクセスシステムを実現するためには下記の課題を解決する必要がある。
(1) キャリアスキャンおよびIFSを用いない優先制御方式の確立。
(2) 端末数の増加によるトラヒック増加が起きた場合でもQoSを提供できる優先制御方式の確立。
(3) QoSを規定する具体的指標に従って、その条件を満足させることのできる優先制御方式の確立。
【0013】
本発明は、無線回線を介して接続される基地局装置と複数の端末装置との間の無線通信において、送信データ毎に設定された優先順位に従った送信優先制御を実現し、予め定められた通信品質を維持し、かつスループットを向上させる優先制御方法、優先制御システムおよび基地局装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の発明は、無線回線を介して接続される基地局装置と複数の端末装置との無線通信で、送信データ毎に設定された優先クラスおよび非優先クラスに従った優先制御を行う優先制御方法において、基地局装置は、非優先クラスのトラヒックはないと仮定して、優先クラスの規定の伝送遅延時間を満たすパラメータの暫定値を計算する。
【0015】
第2の発明は、無線回線を介して接続される基地局装置と複数の端末装置との無線通信で、送信データ毎に設定された優先クラスおよび非優先クラスに従った優先制御を行う優先制御方法において、基地局装置は、非優先クラスの所定の通信品質を満たすパラメータを求める際に、前もって求めた優先クラスのパラメータの暫定値を用いて非優先クラスのパラメータを算出する。
【0016】
第3の発明は、無線回線を介して接続される基地局装置と複数の端末装置との無線通信で、送信データ毎に設定された優先クラスおよび非優先クラスに従った優先制御を行う優先制御方法において、基地局装置は、非優先クラスのトラヒックはないと仮定して、優先クラスの規定の伝送遅延時間を満たすパラメータの暫定値を計算する第1のステップと、第1のステップで得られた優先クラスのパラメータの暫定値を用いて、非優先クラスのスループットを最大化するパラメータを算出する第2のステップと、第2のステップで得られた非優先クラスのパラメータを用いて、優先クラスのパラメータの暫定値を補正する際に、優先クラスの通信品質に影響を与えないように補正して最終的なパラメータを算出する第3のステップとを有する。
【0017】
第3の発明の優先制御方法において、優先クラスのパラメータの暫定値は、優先クラスのマルコフ遷移モデルを解いて得られる式(1) ,式(2')、および伝搬遅延時間を規定する式(5) を用いて算出する。式(1) ,式(2'),式(5) は後述する。
【0018】
第3の発明の優先制御方法において、非優先クラスのパラメータの暫定値は、非優先クラスのマルコフ遷移モデルを解いて得られる式(3) ,式(4) 、および非優先クラスのスループットを最大化する式(6) を用いて算出する。式(3) ,式(4) ,式(6) は後述する。
【0019】
第4の発明は、無線回線を介して接続される基地局装置と複数の端末装置との無線通信で、送信データ毎に設定された優先クラスおよび非優先クラスに従った優先制御を行う優先制御システムにおいて、基地局装置は、非優先クラスのトラヒックはないと仮定して、優先クラスの規定の伝送遅延時間を満たすパラメータの暫定値を計算する第1の手段と、第1の手段で得られた優先クラスのパラメータの暫定値を用いて、非優先クラスのスループットを最大化するパラメータを算出する第2の手段と、第2の手段で得られた非優先クラスのパラメータを用いて、優先クラスのパラメータの暫定値を補正する際に、優先クラスの通信品質に影響を与えないように補正して最終的なパラメータを算出する第3の手段と、優先クラスおよび非優先クラスのパラメータを端末装置に報知する手段とを備える。
【0020】
第5の発明は、無線回線を介して接続される基地局装置と複数の端末装置との無線通信で、送信データ毎に設定された優先クラスおよび非優先クラスに従った優先制御を行う優先制御システムの基地局装置において、非優先クラスのトラヒックはないと仮定して、優先クラスの規定の伝送遅延時間を満たすパラメータの暫定値を計算する第1の手段と、第1の手段で得られた優先クラスのパラメータの暫定値を用いて、非優先クラスのスループットを最大化するパラメータを算出する第2の手段と、第2の手段で得られた非優先クラスのパラメータを用いて、優先クラスのパラメータの暫定値を補正する際に、優先クラスの通信品質に影響を与えないように補正して最終的なパラメータを算出する第3の手段と、優先クラスおよび非優先クラスのパラメータを端末装置に報知する手段とを備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、無線端末数の増加によるトラヒック増加が起きた場合でも、キャリアスキャンおよびIFSを用いることなく、予め定められた通信品質(QoS)を維持し、かつスループットを向上させる優先制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明が適用される無線アクセスシステムの構成例を示す図である。
【図2】無線アクセスシステムで用いるMACフレームの構成例を示す図である。
【図3】アップリンクでデータを送信する場合のアクセスシーケンスを示す図である。
【図4】アップリンクのランダムアクセスにけるバックオフシーケンスを示す図である。
【図5】アクセスパラメータの算出手順の概要を示すフローチャートである。
【図6】端末動作のマルコフ遷移モデルを示す図である。
【図7】本発明の無線基地局の構成例を示す図である。
【図8】IEEE802.11で用いられるバックオフの動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明が適用される無線アクセスシステムの構成例を示す。
図1において、無線アクセスシステムは、有線ネットワークに接続された1つの無線基地局1と、その無線基地局1を経由して有線ネットワークに接続する複数の無線端末2,3から構成される。ここで、無線端末2は優先クラスとし、無線端末3は非優先クラスとする。無線を介した無線端末同士の通信では分散制御アルゴリズムを用いたアクセス方式が用いられる。
【0024】
図2は、無線アクセスシステムで用いるMACフレームの構成例を示す。アクセス方式としてはTDMA/TDDを用い、多次元接続および双方向通信を実現する。
図2において、フレームの長さ固定長であり、MACフレーム前半が無線基地局から無線端末へ向かうダウンリンクであり、後半が逆方向のアップリンクである。
【0025】
ダウンリンクは、報知情報を送信するブロードキャスト領域BCと、ユニキャスト・データを送信するデマンドアサイン領域DAから構成される。ブロードキャスト領域BCでは、BCCH,FCCH,RFCHが送信される。BCCHは、基地局ID、MACフレーム番号等のシステム共通情報を報知する。FCCHは、そのMACフレームの構成を示す情報を報知する。RFCHは、前MACフレームにおけるランダムアクセスの成否および無線端末で用いられるランダムアクセスパラメータ(初期バックオフウィンドウサイズ、PF) 、RAスロット数およびその位置が報知される。
【0026】
アップリンクは、ユニキャスト・データを送信するデマンドアサイン領域DAと、RAスロットで構成されるランダムアクセス領域RAから構成される。
ダウンリンク、アップリンクともデマンドアサイン領域DAでは、ユニキャスト・データが送信される。
【0027】
図3は、アップリンクでデータを送信する場合のアクセスシーケンスを示す。
図3において、アクセスシーケンスは、帯域要求フェーズ、データ送信フェーズ、ACK受信フェーズの3つのフェーズから成る。
【0028】
帯域要求フェーズでは、ブロードキャスト領域BCのRFCHで報知される各クラスに応じた情報に基づくバックオフ処理が行われ、得られたランダムアクセス領域RAのRAスロットを用いて、データを送信するための帯域割当を要求する。バックオフ処理について後述する。このランダムアクセスが成功し、無線基地局へ帯域割当要求を送信できた場合、データ送信フェーズへ移行する。
【0029】
無線基地局は、無線端末がアップリンクULでデータを送信するための帯域と、次フレームのダウンリンクDLでACKを受信するための帯域の割り当てを行う。
データ送信フェーズの無線端末は、データ送信フェーズにおいて無線基地局によりデータ送信用帯域が割り当てられるのを待つ。データ送信用帯域の割り当ては、ブロードキャスト領域BCのFCCHにより、アップリンクのデマンドアサイン領域DAが指示される。無線端末は、データ送信用帯域が割り当てられた場合、その帯域を用いてデータを送信し、ACK受信フェーズへ移行する。
【0030】
無線基地局は、アップリンクで送信されたデータを正常に受信すると、ダウンリンクのデマンドアサイン領域DAでACKを送信する。
【0031】
ACK受信フェーズの無線端末は、無線基地局からACKが送られてくるのを待つ。無線端末が無線基地局からのACKを受信することで、1つのアクセスシーケンスが終了する。
【0032】
以上の帯域要求フェーズにおけるアップリンクのランダムアクセスでは、各無線端末から送信されるパケット(帯域割当要求)同士の衝突を回避するためのバックオフを以下のように実施する。
【0033】
図4は、アップリンクのランダムアクセスにおけるバックオフシーケンスを示す。
図4において、無線基地局は、MACフレーム先頭のブロードキャスト領域BCのRFCHを用いて、各クラスの初期バックオフウィンドウサイズ、PF、およびそのMACフレームにおけるRAスロット数とその位置の情報を送信する。無線端末は毎MACフレームのRFCHを受信することで、最新のパラメータを持つ。
【0034】
無線端末において送信データが発生した場合、初期バックオフウィンドウサイズからバックオフスロット数を算出する。算出されるバックオフスロット数は、0 〜(初期バックオフウィンドウサイズ−1) の範囲の乱数を用いる。そして、MACフレームのRA領域において、算出したバックオフスロット数だけバックオフを実施したのち、RAスロットにおいて帯域割当要求を送信する。送信データの発生したMACフレームにおけるRAスロット数が、算出したバックオフスロット数よりも少ない場合、バックオフの動作は次MACフレームにおいて引き続き実施される。
【0035】
このように、無線端末で実施されるバックオフは、無線基地局で決定された初期バックオフウィンドウサイズおよびPFを元に算出されたバックオフ・スロット数だけ行われる。したがって、クラス毎に初期バックオフウィンドウサイズおよびPFを設定することで、優先制御を実現することができる。
【0036】
本発明は、これらのアクセスパラメータの設定に関するものであり、無線基地局において、初期バックオフウィンドウサイズをどのように決定するかについて以下に説明する。
【0037】
アクセスパラメータの算出手順では、PFは固定値とし、初期バックオフウィンドウサイズのみを動的に変えるものとする。また、無線アクセスシステムでは、通信品質クラスとして、優先クラス、非優先クラスを設け、優先クラスでは“平均遅延時間≦要求品質閾値”で規定されるQoSを提供する。非優先クラスはベストエフォートとする。発生トラヒックに応じ、優先、非優先、両クラスのアクセスパラメータを制御することにより、非優先クラスのトラヒックを抑制し、優先クラスの通信品質を維持することとする。両クラスのアクセスパラメータの算出は基地局で行い、算出された値は報知チャネルを用いて各無線端末へ通知される。
【0038】
図5は、アクセスパラメータの算出手順の概要を示す。
図5において、アクセスパラメータの算出は、優先クラスのアクセスパラメータ暫定値算出処理(S1)、非優先クラスのアクセスパラメータ算出処理(S2)、優先クラスのアクセスパラメータ補正値算出処理(S3)の3つのステップにより行われる。
【0039】
優先クラスのアクセスパラメータ暫定値算出処理(S1)では、非優先トラヒックはないものとして優先クラスのアクセスパラメータの暫定値を算出する。
非優先クラスのアクセスパラメータ算出処理(S2)では、処理S1で算出された優先クラスのアクセスパラメータの暫定値を考慮し、非優先クラスのアクセスパラメータの値を算出する。
優先クラスのアクセスパラメータ補正値算出処理(S3)では、処理S2で算出された非優先クラスのアクセスパラメータの値を考慮し、処理S1で算出された優先クラスのアクセスパラメータの暫定値を補正する。
【0040】
以下、各クラスのアクセスパラメータとして、優先クラスおよび非優先クラスの各初期バックオフウィンドウサイズを算出する手順について具体的に説明する。まず、端末動作のマルコフ遷移モデル近似について図6に示す。
【0041】
図6において、マルコフ遷移モデルの変数は次の通りである。
Pg :データ発生確率
Wn :送信回数がn+1の場合のウィンドウサイズ
P:データ送信失敗確率
マルコフ遷移モデル中の状態Iはデータ発生待ち状態(アイドル状態) であり、状態B(m,n)はバックオフを実施している状態を表す。なお、mは再送回数であり、nは残りバックオフスロット数である。
【0042】
また、初期バックオフウィンドウサイズおよびデータ発生確率Pg は通信クラス毎に異なるため、図1に示す無線アクセスシステムにおいて、優先クラスのマルコフ遷移モデル、非優先クラスのマルコフ遷移モデルがそれぞれ存在する。
【0043】
優先クラスおよび非優先クラスの初期バックオフウインドウサイズ、送信確率、データ発生確率をそれぞれ次のように定義する。
優先クラス :W0h,τh ,Pgh
非優先クラス:W0l,τl ,Pgl
それぞれの関係式は、優先クラスのマルコフモデルを解くことにより式(1) , 式(2) が得られ、非優先クラスのマルコフモデルを解くことにより式(3) ,式(4) が得られる。
【0044】
【数1】

【0045】
なお、式中のmは最大再送回数、ph ,pl ,nh ,nl はそれぞれ、優先クラスの送信失敗確率、非優先クラスの送信失敗確率、優先クラスの端末数、非優先クラスの端末数である。優先クラスのデータ発生確率Pgh、非優先クラスのデータ発生確率Pglは、基地局で測定された受信データの受信間隔から算出できる。したがって、式(1) から式(4) には、変数W0h,ph ,τh ,W0l,pl ,τl が含まれる。
【0046】
ここで、伝送遅延時間規定を満たす優先クラスのパラメータW0h,ph ,τh の暫定値を算出する。このとき、図5の処理S1に示すように、非優先クラスの影響がないものとして計算する。すなわち、式(2) の第2項を削除して式(2')とする。また、平均伝送遅延時間(平均Delay )は、ランダムアクセススロットの時間長をTerssとして、式(5) から得られる。
【0047】
【数2】

【0048】
以上の式(1) ,式(2'),式(5) を解いて伝送遅延時間規定を満たす優先クラスのパラメータW0h,ph ,τh の値を決め、優先クラスの初期バックオフウインドウサイズW0hの暫定値を算出する。
【0049】
次に、優先クラスの初期バックオフウインドウサイズW0hの暫定値に対する優先クラスの送信確率τh を用いて、式(3) ,式(4) から非優先クラスのパラメータW0l,pl,τlを算出する。このとき、式(6) に示すスループットSを最大化する値を求める。
【0050】
【数3】

【0051】
次に、非優先クラスの送信確率τl を用いて、優先クラスの送信失敗確率ph を式(2'') に基づいて補正し、さらに優先クラスの初期バックオフウインドウサイズW0hの暫定値を補正する。補正は、遅延時間が変化しないように補正値ΔW0hを算出する。
【0052】
【数4】

【0053】
図7は、本発明の無線基地局の構成例を示す。
図7において、無線基地局10は、受信部11、トラヒック測定部12、ウィンドウサイズ算出部13、報知信号生成部14、送信部15により構成される。無線端末20は、受信部21、通信制御部22、送信部23ににより構成される。
【0054】
トラヒック測定部12は、受信部11から受信データの受信間隔を取得し、優先クラスのデータ発生確率Pgh、非優先クラスのデータ発生確率Pglを算出してウィンドウサイズ算出部13に出力する。バックオフウィンドウサイズ算出部13は、図5に示す3つの処理S1,S2,S3に従って、優先クラスの初期バックオフウインドウサイズW0h、非優先クラスの初期バックオフウィンドウサイズW0lを算出し、報知信号生成部14に出力する。報知信号生成部14は、当該情報を報知信号として生成し、送信部15を介して無線端末20に通知する。無線端末20は、報知信号を受信し、当該情報に従って送信タイミングを制御する。
【0055】
ところで、対象の無線アクセスシステムでは、異なるQoSを提供するために複数の通信品質クラスが定義される。通信品質クラス毎に満足すべきQoSの具体的指標が定義される。QoSの具体的指標が平均伝送遅延時間とした場合に、上記の例に示す優先クラス、非優先クラスにおいて、優先クラスは平均遅延時間が60秒以下とし、非優先クラスはベストエフォートとする。
【0056】
無線基地局10は、無線端末20がデータを送信する場合に用いるアクセス方式のパラメータ(初期バックオフウィンドウサイズ、PF) を周期的に報知する。アクセス方式のパラメータはクラス毎に異なり、無線端末20は送信データの属するクラスのアクセス方式パラメータを必ず用いる。
【0057】
無線基地局10では、無線端末20から送信されるデータの通信状況をクラス毎に管理する。管理単位は端末毎ではなく、クラス毎に管理する。具体的には、受信データのデータサイズ、および伝送遅延時間を記録し、各クラス毎にそれぞれの値を保持する。
【0058】
無線基地局10において算出する平均伝送遅延時間の算出方法は、ある時間単位で区切りその時間内に到着したデータで平均伝送遅延時間を算出する方法a、受信データを受信データ数毎に区切り平均伝送遅延時間を算出する方法b、時間領域または受信データ数に対してスライディング・ウィンドウを設け、そのウィンドウ内で平均伝送遅延時間を算出する方法c、などを用いる。
受信データサイズについても同様である。
【0059】
無線基地局10で測定された情報から無線端末のトラヒック生成動作を表すマルコフ遷移モデルを作成し、所要伝送遅延時間から適切なアクセス方式のパラメータを算出し、その値を無線基地局から無線端末へ送信する。
【0060】
適切なパラメータを算出する方法として、
(1) 優先クラスのみでパラメータの暫定値を算出する。
(2) 処理(1) で求めた暫定値を加味して非優先クラスのパラメータを算出する。
(3) 非優先クラスのパラメータから決まる優先クラスへの影響を考慮し、処理(1) で求めたパラメータ暫定値を補正する。
【0061】
処理(1) において、優先クラスの伝送遅延時間を考慮してパラメータを算出する。
処理(2) では、非優先クラスのスループットを最大化するパラメータを算出する。
【符号の説明】
【0062】
1 基地局装置
2 端末装置(優先クラス)
3 端末装置(非優先クラス)
10 無線基地局
11 受信部
12 トラヒック測定部
13 ウィンドウサイズ算出部
14 報知信号生成部
15 送信部
20 無線端末
21 受信部
22 通信制御部
23 送信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線回線を介して接続される基地局装置と複数の端末装置との無線通信で、送信データ毎に設定された優先クラスおよび非優先クラスに従った優先制御を行う優先制御方法において、
前記基地局装置は、前記非優先クラスのトラヒックはないと仮定して、前記優先クラスの規定の伝送遅延時間を満たすパラメータの暫定値を計算する
ことを特徴とする優先制御方法。
【請求項2】
無線回線を介して接続される基地局装置と複数の端末装置との無線通信で、送信データ毎に設定された優先クラスおよび非優先クラスに従った優先制御を行う優先制御方法において、
前記基地局装置は、非優先クラスの所定の伝送品質を満たすパラメータを求める際に、前もって求めた前記優先クラスのパラメータの暫定値を用いて前記非優先クラスのパラメータを算出する
ことを特徴とする優先制御方法。
【請求項3】
無線回線を介して接続される基地局装置と複数の端末装置との無線通信で、送信データ毎に設定された優先クラスおよび非優先クラスに従った優先制御を行う優先制御方法において、
前記基地局装置は、
前記非優先クラスのトラヒックはないと仮定して、前記優先クラスの規定の伝送遅延時間を満たすパラメータの暫定値を計算する第1のステップと、
前記第1のステップで得られた前記優先クラスのパラメータの暫定値を用いて、前記非優先クラスのスループットを最大化するパラメータを算出する第2のステップと、
前記第2のステップで得られた前記非優先クラスのパラメータを用いて、前記優先クラスのパラメータの暫定値を補正する際に、前記優先クラスの通信品質に影響を与えないように補正して最終的なパラメータを算出する第3のステップと
を有することを特徴とする優先制御方法。
【請求項4】
請求項1または請求項3に記載の優先制御方法において、
前記優先クラスのパラメータの暫定値は、前記優先クラスのマルコフ遷移モデルを解いて得られる式(1) ,式(2')、および伝搬遅延時間を規定する式(5) を用いて算出する
【数5】

ことを特徴とする優先制御方法。
【請求項5】
請求項3に記載の優先制御方法において、
前記非優先クラスのパラメータの暫定値は、前記非優先クラスのマルコフ遷移モデルを解いて得られる式(3) ,式(4) 、および前記非優先クラスのスループットを最大化する式(6) を用いて算出する
【数6】

ことを特徴とする優先制御方法。
【請求項6】
無線回線を介して接続される基地局装置と複数の端末装置との無線通信で、送信データ毎に設定された優先クラスおよび非優先クラスに従った優先制御を行う優先制御システムにおいて、
前記基地局装置は、
前記非優先クラスのトラヒックはないと仮定して、前記優先クラスの規定の伝送遅延時間を満たすパラメータの暫定値を計算する第1の手段と、
前記第1の手段で得られた前記優先クラスのパラメータの暫定値を用いて、前記非優先クラスのスループットを最大化するパラメータを算出する第2の手段と、
前記第2の手段で得られた前記非優先クラスのパラメータを用いて、前記優先クラスのパラメータの暫定値を補正する際に、前記優先クラスの通信品質に影響を与えないように補正して最終的なパラメータを算出する第3の手段と、
前記優先クラスおよび前記非優先クラスのパラメータを前記端末装置に報知する手段と
を備えたことを特徴とする優先制御システム。
【請求項7】
無線回線を介して接続される基地局装置と複数の端末装置との無線通信で、送信データ毎に設定された優先クラスおよび非優先クラスに従った優先制御を行う優先制御システムの基地局装置において、
前記非優先クラスのトラヒックはないと仮定して、前記優先クラスの規定の伝送遅延時間を満たすパラメータの暫定値を計算する第1の手段と、
前記第1の手段で得られた前記優先クラスのパラメータの暫定値を用いて、前記非優先クラスのスループットを最大化するパラメータを算出する第2の手段と、
前記第2の手段で得られた前記非優先クラスのパラメータを用いて、前記優先クラスのパラメータの暫定値を補正する際に、前記優先クラスの通信品質に影響を与えないように補正して最終的なパラメータを算出する第3の手段と、
前記優先クラスおよび前記非優先クラスのパラメータを前記端末装置に報知する手段と
を備えたことを特徴とする基地局装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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