説明

優秀な組換え蛋白質を生産するためのヒト宿主細胞

優秀な組換え蛋白質を生産するための遺伝子工学技術を利用したヒト宿主細胞を提供する。具体的には、ヒト胚芽腎臓由来の細胞と、EBVゲノムが染色体内に挿入されたヒトB細胞由来の細胞との融合から誘導されたヒト宿主細胞に関するものであり、前記ヒト宿主細胞は、安定化した特殊形質が良好に保存され、異種組換え蛋白質医薬品の生産に有用に利用されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優秀な組換え蛋白質を生産するためのヒト宿主細胞に係り、さらに具体的には、遺伝子工学技術を利用したヒト胚芽腎臓由来の細胞及びヒトB細胞由来の細胞の融合から誘導されたヒト宿主細胞に関するものであり、それらヒト宿主細胞は、安定化した特殊形質が良好に保存され、異種組換え蛋白質医薬品の生産に有用に利用されうる。
【背景技術】
【0002】
最近までも、人間を治療するためのほとんどの組換え蛋白質医薬品は、人間ではない哺乳動物の細胞、例えば、チャイニーズハムスターの卵巣(CHO:Chinese hamster ovary)、マウス黒色腫(NSO)細胞、マウス骨髄腫(SP2/0)細胞などから生産されている。一方、ヒト細胞株を治療用組換え蛋白質の生産に使用しようとする試みがあったが、ヒト胚芽腎臓(human embryonic kidney)293細胞による活性蛋白質Cの生産(非特許文献1)、ナマルワ(Namalwa)細胞によるインターフェロン−ベータの生産(非特許文献2)、HKB11細胞による切断された形態の(truncated)組換えfactor VIII及びさまざまな抗体の生産(非特許文献3)、PER.C6細胞(非特許文献4)による多数の抗体、及びウイルス性DNAの生産(非特許文献5及び非特許文献6)がその例である。
【0003】
特許文献1及び特許文献2には、CHO細胞内で発現させ難い蛋白質を生産するための代替方案として、ヒト宿主細胞であるHKB11細胞が開示されている(非特許文献3、非特許文献7)。また、特許文献3及び特許文献4には、HKB11細胞によって切断された形態の組換えfactor VIIIを生産する方法が開示されている。前記HKB細胞は、HH514−16から誘導された細胞株であって、B細胞不滅化能とウイルス生成能に欠陥があるエプスタイン・バール・ウイルス(EBV:Epstein Barr virus)ゲノムを含んでいる(非特許文献8)。かようなHKB細胞は、高密度の細胞成長、高効率の形質移入(transfection)、簡便なMTX誘導増幅、目的蛋白質の多量分泌、及びIgM発現の消失のような特性を示しているが、これは、組換え治療用蛋白質を生産するにあたって、望ましい特性であると言える。しかし、HKB細胞の増殖培養過程で、EBVが細胞から分離される傾向があることを観察することになった(非特許文献9)。かような傾向性は、HKB細胞がEBVがない細胞になることが可能であり、その結果、異種遺伝子の効果的な発現に有用なさまざまな長所をそれ以上保有できないということを意味する。言い換えれば、HKB細胞の場合、長期間培養することになればEBVが消失し、組換え治療用蛋白質生産のための望ましい特性を発揮できないという問題点がある。
【0004】
このために、本発明者らは、前記問題点を解決するために研究を繰り返していて、ナマルワ細胞の場合、EBVゲノムがエピソーム(episome)形態で存在せずに、細胞染色体に挿入されている(非特許文献10、非特許文献11及び非特許文献12)という点に着眼し、ナマルワ細胞を利用し、ウイルスが生成される安全性に対する問題は解決しつつ、EBVの情報は続けて維持できる新たなヒト宿主細胞のクローンを確立し、前記ヒト宿主細胞の優秀性を究明することによって、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,136,599号明細書
【特許文献2】大韓民国特許第627,753号公報
【特許文献3】米国特許6,358,703B1号明細書
【特許文献4】大韓民国特許第616,028号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Eli Lylly,2001
【非特許文献2】Wellcome Research Laboratory,1999
【非特許文献3】Cho et al.,2003,Biotech.Prog 19: 229-232
【非特許文献4】Fallaux et al.,1998,Human Gene Therapy,9:1909-1917
【非特許文献5】Jones et al.,2003,Biotechnol.Prog.19:163-168
【非特許文献6】Xie et al.,2003,Biotech.Bioeng.83:45-52
【非特許文献7】Cho and Chan,2002,Biomedical Science 9:631-638
【非特許文献8】Rabson et al.,1983,PNAS USA 87:3660-3664
【非特許文献9】Chang et al.,2002,J Virol.76:3168-3178
【非特許文献10】Matsuo et al.,Science 14 December 1984:1322-1325
【非特許文献11】Henderson et al.,1983,PNAS USA 80:1987-1991
【非特許文献12】Rose et al.,2002,J.Clin.Microbiol.40:2533-2544
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ヒト胚芽腎臓由来の細胞と、EBVゲノムが染色体内に挿入されたヒトB細胞由来の細胞との融合から誘導されたヒト宿主細胞を提供することである。
本発明の他の目的は、組換え蛋白質を生産するための用途の前記ヒト宿主細胞を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記のような目的を達成するために、本発明は、ヒト胚芽腎臓由来の細胞と、EBVゲノムが染色体内に挿入されたヒトB細胞由来の細胞との融合から誘導されたヒト宿主細胞を提供する。
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、モノクローナル(monoclonal)抗体を含んだ組換え蛋白質を生産するための用途の前記ヒト宿主細胞を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ヒト胚芽腎臓由来の細胞と、EBVゲノムが染色体内に挿入されたヒトB細胞由来の細胞との融合から誘導された新たなヒト宿主細胞を確立した。本発明によるヒト宿主細胞を利用し、短時間に研究用蛋白質を供給できるだけではなく、量的及び質的な側面で、非常にすぐれた人間治療に適した異種組換え蛋白質医薬品を生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】F2N細胞融合過程及びF2N78クローン選別過程の概括図である。
【図2】AないしDは、初期段階でのF2Nクローンのさまざまな成長パターンを示し、塊りを形成する成長パターンを示すクローン(C及びD)は、選別過程から除外した。
【図3】本発明で使われた発現ベクターの開裂地図を示し、あらゆるベクターは、pCTベクターを基本骨格として構築している。
【図4A】IgG発現が高いF2Nクローンを選別するために、一時的形質移入を行った結果を示し、一次スクリーニングした結果である。
【図4B】IgG発現が高いF2Nクローンを選別するために、一時的形質移入を行った結果を示し、一次選別された17個のクローンを対象に二次スクリーニングした結果である。
【図4C】IgG発現が高いF2Nクローンを選別するために、一時的形質移入を行った結果を示し、最終選別されたF2N78細胞のIgG生産性を、293細胞と比較した結果(3回反復実験を行う)である。
【図5A】蛍光免疫染色法を利用し、Ig−muとIg−kappaとの発現有無を確認した結果を示すイメージである。
【図5B】蛍光免疫染色法を利用し、EBNA1とα(2,6)−STとの発現有無を確認した結果を示すイメージである。
【図6】RT−PCR(reverse transcription-polymerase chain reaction)を利用し、F2N98細胞で、GntIII、Ig−mu及びEBNA1の発現いかんを確認した結果を示し、ナマルワ、293及びCHO細胞を陰性対照群として使用し、GntIII、Ig−mu及びEBNA1蛋白質の特異的なプライマー対は、表1に整理してある。
【図7】F2N78細胞と293細胞とを比較し、oriP発現ベクター(pCT125及びpCT132)の抗体生産性を確認した結果を示すグラフである。
【図8】F2N78細胞をEBNA1遺伝子のない発現ベクターであるpCT132で一時的形質移入して得た抗体生産性の結果を示すグラフであり、4回反復実験を行った。
【図9A】CHO細胞の細胞成長に対する酪酸ナトリウムの効果を示すグラフである。
【図9B】ナマルワ細胞の細胞成長に対する酪酸ナトリウムの効果を示すグラフである。
【図9C】293細胞の細胞成長に対する酪酸ナトリウムの効果を示すグラフである。
【図9D】F2N78細胞の細胞成長に対する酪酸ナトリウムの効果を示すグラフである。
【図10】酪酸ナトリウム処理によるF2N78細胞、ナマルワ細胞及び293細胞でのBHRF1及びBALF1の発現いかんを、RT−PCRを利用して確認した結果を示し、ここで0、1及び4は、それぞれ細胞培養培地に添加した酪酸ナトリウムの濃度(mM)である。
【図11】CHO#247細胞の抗体生産性に対する酪酸ナトリウムの効果を示すグラフである。
【図12】F2N78_Ig細胞の抗体生産性に対する酪酸ナトリウムの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のヒト宿主細胞は、ヒト胚芽腎臓由来の細胞(human embryonic kidney-derived cell)と、EBV(Epstein-Barr virus)ゲノムが染色体内に挿入されたヒトB細胞由来の細胞との融合(fusion)から誘導されたことを特徴とする。
【0012】
前記ヒト胚芽腎臓由来の細胞は、ヒト胚芽腎臓細胞、ヒト胚芽腎臓細胞から誘導した細胞、他のヒト胚芽腎臓由来の細胞から誘導した細胞、または前記任意の体細胞分裂から得た細胞を含む。ここで、「から誘導した」には、正常な体細胞分裂(mitotic division)、形質移入(transfection)、細胞融合、または細胞を変形させたり新たな特性を有する細胞を製造するのに使われる他の遺伝子工学的な技術や、細胞生物学的な技術のような方法が含まれるが、これらに制限されるものではない。具体的には、前記ヒト胚芽腎臓由来の細胞は、293由来細胞、望ましくは、293細胞でありうる。かような293細胞は、高い形質移入効率性と、高レベルの蛋白質生産能とを示す一方、無血清浮遊(suspension)培養時に、凝集現象(aggregation)を起こす。
【0013】
前記ヒトB細胞由来の細胞は、EBVゲノムが染色体内に挿入された細胞であって、ヒトB細胞、ヒトB細胞から誘導した細胞、他のヒトB細胞由来の細胞から誘導した細胞、または前記任意の体細胞分裂から得た細胞を含む。ここで、「から誘導した」には、正常な体細胞分裂、形質移入、細胞融合、または細胞を変形させたり新たな特性を有する細胞を製造するのに使われる他の遺伝子工学的な技術や、細胞生物学的な技術のような方法が含まれるが、これらに制限されるものではない。具体的には、EBVゲノムが細胞染色体内に挿入されたヒトB細胞由来の細胞は、ナマルワ細胞でありうる。かようなナマルワ細胞は、形質移入効率が低い一方、浮遊培養条件で、凝集なしに良好に成長する特徴がある。
【0014】
EBVゲノムは、前述の通り、一般的なB細胞内で、エピソーム形態で存在するが、例外的に、ナマルワ細胞のようなB細胞では、細胞染色体に挿入された形態として存在する。本発明では、かような例外的であって独特の現象を活用し、ウイルス情報は続けて維持しつつ、ウイルスが生成されない安全な新たなヒト宿主細胞株を製造した。前記EBVゲノム遺伝子のうち、oriP発現ベクターに必要なエプスタイン・バール核抗原1(EBNA1:Epstein Barr nuclear antigen 1)遺伝子と、アポトーシス抑制(anti-apoptotic)現象を維持するBHRF1遺伝子及びBALF1遺伝子(Cabras et al.,2005,J Clinical Virology 34:26-34)は、ナマルワ細胞で発現されるために、宿主細胞でもウイルス情報として有用に利用されうるのである。そして、溶菌サイクル(lytic cycle)遺伝子として、初期蛋白質発現を誘導するBZLF1遺伝子(Countryman et al.,1987,J Virol,61:3672-3679)と、エピソーム状態のゲノムでのみ発現されるLMP2遺伝子(Sample et al.,J Virol 63:933-937)は、ナマルワ細胞で発現されないために、ウイルスが生成されない(M.Bernasconi et al.,Virology Journal,2006,3:43-57)安全な宿主細胞として製造できるのである。
【0015】
本発明のヒト宿主細胞は、ヒト胚芽腎臓由来の細胞と、EBVゲノムが染色体内に挿入されたヒトB細胞由来の細胞との融合から誘導されたために、ヒト胚芽腎臓由来の細胞、例えば、293細胞、並びにヒトB細胞由来の細胞、例えば、ナマルワ細胞それぞれの望ましい特性を共に保有する新たな細胞株である。付け加えて述べるならば、本発明によるヒト宿主細胞の確立のための細胞融合パートナーとして、293細胞を選択することによって、本発明のヒト宿主細胞は、形質移入効率が高く、かつさらに向上した蛋白質生産能を有することができる。また、ナマルワ細胞を他の細胞融合パートナーとして選択することによって、本発明のヒト宿主細胞は、浮遊培養が容易であるだけではなく、ウイルス生成の問題点がないので、安全であり、かつEBNA1蛋白質が持続的に発現され、oriP発現ベクターにEBNA1遺伝子が必要なく、またはBHRF1及びBALF1のようなウイルス性bcl−2類似(homolog)遺伝子によってアポトーシス抑制活性を有することができる。
【0016】
また、前記ヒトB細胞由来の細胞、望ましくはナマルワ細胞は、HAT感受性及びG418耐性を有する細胞でありうる。ヒト胚芽腎臓由来の細胞と、ヒトB細胞由来の細胞との望ましい特性をいずれも保有することを特徴とする本発明のヒト宿主細胞の確立のためには、細胞融合後に、2つの細胞の望ましい特性をいずれも保有するクローンを選別する過程を経なければならない。ほとんどの細胞と同様に、ヒト胚芽腎臓由来の細胞、すなわち、293細胞は、HATに耐性を有してG418に感受性がある性質を有するので、本発明では、前記のような選別のために、HAT感受性及びG418耐性を有するヒトB細胞由来の細胞、望ましくは、ナマルワ細胞をその融合パートナーとして選択した。
【0017】
本発明の一実施例では、ヒト胚芽腎臓由来の細胞と、ヒトB細胞由来の細胞との融合から誘導された新たなヒト宿主細胞を開発するために、293細胞及びナマルワ細胞を利用した。まず、293細胞との細胞融合パートナーとして、HATに感受性があってG418に耐性があるナマルワ細胞株を誘導するために、ナマルワ細胞株をウシ胎児血清(FBS:fetal bovine serum)及び6−チオグアニンが添加された培地で培養した。数カ月にわたる選別期間の間、6−チオグアニンの濃度を高めつつ処理した後、HAT含有培地に対する前記ナマルワ細胞の感受性を確認した。次に、HATに感受性があるナマルワ細胞群に、pSV2neoプラスミドを形質移入した後、G418に耐性を有する細胞群を選別し、最終的に293細胞との融合パートナーとして使用した。次に、文献(Kennett RH.Cell fusion Methods Enzymol 58:345-359;1979)に記載されたポリエチレングリコール(PEG)を利用した方法によって、293細胞とHAT感受性ナマルワ細胞との融合反応を行った。細胞融合反応は、前記方法に制限されるものではなく、当技術分野の一般的な方法によって行うことができる。
【0018】
本発明者らは、前記293細胞とナマルワ細胞との融合過程から誘導された本発明によるヒト宿主細胞を、F2N(Fusion of 293 and Namalwa cells)と命名した。本発明者らは、本発明によるF2N細胞がHKB細胞と類似した特性を有するが、HKB細胞とは異なり、EBVゲノムがF2N細胞の染色体内に挿入されているために、長期間細胞培養しても、EBVゲノムが消失されずに存在するであろうと予想した。これを証明するために、いくつかのF2Nクローンを選別し、無血清浮遊培養条件で1年以上培養した。その結果、無血清浮遊培養条件下で、1年以上培養させた細胞集団で、ほぼ100%いずれもEBNA1の発現が観察され(図5及び図6参照)、かような結果から、F2N細胞は、長い間培養しても、EBVゲノムが消失されずに維持されるという事実を確認することができた。
【0019】
本発明の一実施例では、前記F2N細胞中で、形質移入の効率が高いクローンを選別するために、IgGを発現するpCT132ベクター(図3参照)をF2N細胞に形質移入させた後、酵素結合免疫吸収分析(ELISA:enzyme-linked immunosorbent assay)を行い、細胞の抗体生産効率を比較した(図4参照)。一般的に、F2N細胞の形質移入効率が、293細胞の形質移入効率より高かった。さらに、それらのうち、特に形質移入効率が高く、無血清浮遊培養条件で良好に成長する1個のクローンを選択し、F2N78と命名し、これを2008年4月11日付けで、大田市儒城区クァハクノ111番地に所在する韓国生命工学研究院生物資源センター(KCTC:Korean Collection for Type Cultures)に寄託した(寄託番号:KCTC11309BP)。
【0020】
本発明の一実施例では、293細胞とナマルワ細胞との融合から誘導されたF2N細胞が目的とする望ましい特性を有しているか否かを確認するために、F2N78細胞から抽出したmRNAで、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR:reverse transcription-polymerase chain reaction)を行い、F2N78クローンのEBNA1、Ig−mu、Ig−kappa及びN−アセチルグルコサミン転移酵素(GnTIII:N−acetylglucosaminyl transferase III)の発現いかんを確認した。その結果、F2N78クローンがEBNA1及びGnTIIIを発現し、IgMを発現しないことを確認することができた(図6参照)。また、本発明の一実施例では、蛋白質レベルで、EBNA1、IgM及びα(2,6)−シアン酸転移酵素(α(2,6)ST:alpha(2,6)-sialyl transferase)の発現いかんを確認するために、蛍光免疫染色法(IF:immunofluorescence)を行い、そこからF2N78細胞がEBNA1及びα(2,6)STを発現する一方、IgMを発現しないことを確認した(図5参照)。ここで、EBNA1の発現は、それらF2NクローンにEBVゲノムが存在することを意味し、GnTIII及びα(2,6)STの発現は、人間と類似したグリコシル化プロファイルが持続的に示されるということを意味する。また、IgMの未発現は、ナマルワ細胞で観察されていた免疫グロブリンの発現が融合細胞であるF2N細胞では抑制されたことを意味するが、かような特性は、F2Nクローン、特に、F2N78細胞から組換え治療用モノクローナル抗体を生産するのに必須要素に該当する。
【0021】
従って、本発明のヒト宿主細胞は、EBNA1蛋白質を持続的に発現し、人間と類似したグリコシル化プロファイルに関与する酵素を発現し、IgM蛋白質を発現しないヒト宿主細胞を提供する。
【0022】
このように、本発明によるヒト宿主細胞は、EBNA1の安定した発現を提供する。EBNA1は、ほぼ3kbサイズの遺伝子であり、細胞内のoriP発現ベクターの自律複製(autonomous replication)において必須不可欠な要素である。EBNA1がシス(cis)形態であっても、トランス(trans)形態であっても、細胞内にoriP発現ベクターと共に存在する場合であるならば、oriP発現ベクターは、ヒト細胞内で正常に複製されうる。しかし、EBNA1がoriP発現ベクターと別個に存在(すなわち、トランス形態)ではなくして、oriP発現ベクター内に位置する場合(すなわち、シス形態)には、その発現ベクターのサイズが大く過ぎて、ベクターDNA操作が容易ではなく、またEBNA1遺伝子を含んだあらゆる遺伝子の効率的な発現に困難が伴いうる。しかし、本発明によるF2N78細胞の場合は、細胞染色体に挿入されたEBVゲノムからEBNA1蛋白質が持続的に発現されるために、oriPプラスミド内にEBNA1遺伝子が存在する必要がないので、oriP発現ベクターの効率的な操作と、かようなベクターに含まれた遺伝子の発現とがさらに容易である。
【0023】
また、本発明によるヒト宿主細胞は、人間と類似したグリコシル化プロファイルに関与する酵素を持続的に発現する。よって、本発明によるヒト宿主細胞から生産される蛋白質は、人間と類似したグリコシル化プロファイルを有するので、CHO細胞のような非ヒト細胞で生産された蛋白質より、生体内免疫原性(immunogenicity)が低く、生体内半減期が長く、その結果、蛋白質医薬品の効率性を向上させることもできる。
【0024】
また、本発明によるヒト宿主細胞は、ナマルワ細胞で発現されるIgM蛋白質を発現させない。よって、本発明によるヒト宿主細胞は、組換え治療用モノクローナル抗体の生産に必須な条件を有している。
【0025】
本発明の一実施例では、F2N78細胞のアポトーシス抑制活性を確認するために、さまざまな濃度の酪酸ナトリウムを処理した。一般的に酪酸ナトリウムは、細胞培養時に、CMV−プロモータまたはSV40−プロモータによる遺伝子発現レベルを上昇させる一方(Lee etal.,1993,Cell 72:73-84;Cockett et al.,1990,Bio/technology 8:662-667;Chang et al.,1999,Free Rad Res 30:85-91;Gorman et al.,1983,Nucl Acid Res11:7631-7648)、細胞周期(cell cycle)を停滞(arrest)させたり、細胞分化(differentiation)を誘導してアポトーシスを誘導したりもする(Cuisset et al.,1998,Biochem Biophy Res Commun 246:760-764;Cuisset et al.,1998,Biochem Biophy Res Commun 246:760-764)。しかし、本発明によるF2N78細胞は、酪酸ナトリウム処理時にも、アポトーシス現象が抑制され、場合によっては、細胞成長率が同一細胞の対照群(0mM酪酸ナトリウム)より良好であった。対照群細胞としてのナマルワ細胞では、酪酸ナトリウム処理後に実験した全ての条件で、細胞生存率(viability)が低下し、細胞成長がそれ以上なされない現象が顕著に示され、293細胞では、高い濃度の酪酸ナトリウム処理時に、アポトーシス(apoptosis)現象が示された(図9参照)。
【0026】
また、本発明の一実施例では、F2N78細胞のアポトーシス抑制的(anti-apoptotic)細胞成長を説明するために、ナマルワ細胞から由来したEBVゲノム遺伝子に属するウイルス性bcl−2類似因子であるBHRF1とBALF1との発現いかんをRT−PCRを行って確認した。その結果、図10から分かるように、ナマルワ細胞の場合、酪酸ナトリウム処理群並びに未処理群のいずれでもBHRF1が発現する一方、F2N78細胞の場合は、いずれの側からもBHRF1が発現しなかった。しかし、BALF1は、酪酸ナトリウム処理いかんと関係なく、ナマルワ細胞及びF2N78細胞いずれでも発現した。対照群としての293細胞では、BHRF1とBALF1とがいずれも発現しなかった。既存に発表されたさまざまな論文(Bellows et al.,2002,J Virol.76:2469-2479,Marshall et al.,1999,J Virol.73:5181-5185)によれば、BHRF1遺伝子及びBALF1遺伝子が同時に発現しとき、BALF1は、BHRF1のアポトーシス抑制活性を阻害すると報告されている。これは、ナマルワ細胞で見られる現象である。従って、F2N78細胞内で、BALF1のみ発現されるということを示す前記実施例は、F2N78細胞が有するアポトーシス抑制活性に係わる根拠になりうる。かような結果は、F2N78以外の他のクローンでも観察された。これは、期待していなかった結果であり、具体的な理由やメカニズムについてはまだ明らかになっていない。
【0027】
よって、本発明のヒト宿主細胞は、酪酸ナトリウム添加培養時に、アポトーシス抑制活性を示すヒト宿主細胞を提供する。これはさらに、本発明のヒト宿主細胞が、酪酸ナトリウムが添加されていない場合でも、長期間の回分培養(batch culture)条件で、自然に発生するアポトーシス現象に対する抵抗性を有することができることを意味する。
本発明の一実施例では、酪酸ナトリウム処理下で、F2N78細胞の抗体生産性を確認するために、2種の抗体生産細胞株であるCHO細胞とF2N78細胞とを比較した。酪酸ナトリウムを処理したCHO細胞株の場合、細胞成長は、対照群(0mM酪酸ナトリウム)と比較して、50%まで減少し、生産性は、2倍ほど上昇した(図11参照)。一方、酪酸ナトリウムを処理したF2N78細胞株の場合、細胞成長率は、対照群(0mM酪酸ナトリウム)と比較して、最大2倍ほど上昇し、生産性も、対照群細胞(0mM酪酸ナトリウム)と比較して、4倍ないし5倍の高い上昇率を示した(図12参照)。かような現象は、酪酸ナトリウムによるF2N78細胞株のアポトーシス抑制現象が、細胞の抗体生産性上昇にも、影響を与えたものであると見ることができる。
【0028】
本発明の一実施例では、F2N78細胞内のoriP発現ベクターの抗体生産性を確認するために、F2N78細胞に、pCT132発現ベクターとpCT125発現ベクターとをそれぞれ形質移入させた後、抗体生産性を比較した。ここで、前記pCT125発現ベクターは、プラスミド内にEBNA1コーディング配列を含む一方、pCT132発現ベクターは、プラスミド内にEBNA1コーディング配列がないという差がある。図7から分かるように、pCT132ベクターが形質移入された細胞は、pCT125ベクターが形質移入された細胞と同等であるか、または多少優位な抗体生産性を示した。一般的には、新薬開発過程に必要な少量の蛋白質を短期間に生産するためには、一時的形質移入(transient transfection)による生産方法を使用することが有益である。従って、かような側面から見るとき、本発明によるヒト宿主細胞は、EBNA1が持続的に発現されるという点で、pCT132のようなEBNA1遺伝子のない発現ベクターを使用した一時的形質移入による新薬開発に、特に適した細胞株であると言える。
【0029】
また本発明は、組換え蛋白質を生産するための前記ヒト宿主細胞を提供する。前記ヒト宿主細胞は、さまざまな種類の組換え蛋白質を発現するように、遺伝子工学的に改造されうる。前記組換え蛋白質は、人間治療用組換え蛋白質、望ましくは、治療用モノクローナル抗体を含み、モノクローナル抗体以外の治療用組換え蛋白質も含む。
以下、本発明について、実施例によってさらに詳細に説明する。下記実施例は、本発明を例示するものであり、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
材料及び方法
1.細胞及びプラスミド
ヒト胚芽腎臓(293)細胞(ATCC CRL−1573)及びナマルワ細胞(ATCC CRL−1432)は、米国・微生物保存センター(ATCC:American Type Culture Collection)からそれぞれ譲り受けた。
本発明に使われた発現ベクターの開裂(cleavage)地図は、図3に記載されている。
【0031】
2.形質移入
細胞内の形質移入のために、電気穿孔法(electrophoration)及び陽イオン性ポリマー(cationic polymer)を利用した方法が使われた。
【0032】
電気穿孔法:3x10個の細胞をプラスミド12μg[pSV2neoベクター2μg、及びMAR(matrix attached region)配列を含むベクター10μg]が添加されたRPMI1640培地300μlに懸濁(resuspension)した後、GenePulse II electroporator(Bio−Rad)を利用し、電気衝撃(220V/960microfarads)を与えた。その後、成長培地に懸濁させて72時間経過後、1mg/ml濃度のG418と、10%ウシ胎児血清(FBS)とを含有する選別培地で培養した。およそ14日後に観察したところ、形質移入された細胞は、活発な成長を示す一方、対照群細胞は、それ以上成長しなかった。選別された細胞は、1mg/ml濃度のG418を含む選別培地で、続けて培養した。ネオマイシン(Neomycin)遺伝子に特異的なプライマーでポリメラーゼ連鎖反応(PCR:polymerase chain reaction)を行い、ネオマイシン遺伝子の存在を確認した。
【0033】
陽イオン性ポリマーを利用した方法:陽イオン性ポリマーとしては、LipofectamineTMLTX(Invitrogen、15338−100)とFreeStyleTMMax(Invitrogen、16447−100)とを使用し、メーカーの使用説明書によって形質移入を行った。LipofectamineTMLTX試薬の場合、形質移入当日細胞の飽和度が6ウェルプレートで、ウェルの50〜80%になるように、前日に細胞を接種(seeding)した後、形質移入当日、2.5μgのDNAと6.25μlのLTXとを使用して形質移入を進めた。FreeStyleTMMax試薬の場合、浮遊培養状態での形質移入に使用し、無血清培地のFreeStyle 293 Expression media(Invitrogen、12338、以下、FreeStyle 293培地とする)、またはEX−CELL 293 Serum free media(Sigma、14571C、以下、EX−CELL 293培地とする)で育つ細胞は、形質移入当日、1ml当たり1x10個の細胞になるように、前日接種した。形質移入は、OptiPRO SFM II(Invitrogen、12309)培地に、DNAとFreeStyleTMMax試薬とを、1:1の割合で使用して進めた。
【0034】
3.蛍光免疫染色法(IF)
EBNA1の発現を感知するために、蛍光物質と間接的に結合して染色される方法である染色蛍光物質が接合された(conjugated)抗血清蛋白質(ACIF)(Reedman and Klein,1973;Fresen and zur Hausen,1976)との反応を行った。まず、スライドガラス上に塗抹された細胞を、−20℃で5分間メタノールで固定させた。最初の反応抗体としては、抗EBNAの力価(titer)の高いヒト血清を使用した。その後、EBNA1染色のシグナルを増大させるために、ヒト補体(血清蛋白質、complement)で処理し、蛍光物質が接合された抗ヒト補体C3抗体(FITC−conjugated anti human complement C3 antibody、USBiological、C7850−14C)で処理した。このように処理されたスライドをグリセロールとホスフェートバッファ(PBS)とが1:1で混合された溶液で覆って仕上げた。
【0035】
Ig−muとIg−kappaとの発現を確認するために、それぞれ蛍光物質が接合された抗ヒトIgM抗体(FITC−conjugated affinity-purified goat anti-human IgM、mu chain specific、Sigma、F5384)と、蛍光物質が接合された抗ヒトkappa chain(Fluorescein anti-human kappa chain,affinity purified made in goat、Vector、FI−3060)を使用し、前記と類似した方法で細胞染色を行った。
また、α(2,6)STの蛋白質発現を確認するために、蛍光物質が接合されたサンブクスニグラ(Sambuicus nigra)レクチン(FITC conjugated Sambucus nigra(Elderberry bark)−SNA−1、EY laboratories、F−2602)で、前記と類似した方法で細胞を染色した。
【0036】
4.EBNA1、GnTIII、Ig−mu、BALF1、BHRF1に対するRT−PCR
RNeasy(R)Plus Mini kit(Qiagen、74134)を使用し、細胞からmRNAを抽出した後、OneStep RT−PCR Kit(Qiagen、210212)を使用してRT−PCRを行った。それぞれのプライマー配列は、下記表1に表示した。RT−PCR実験は、GeneAmp PCR system 9700(Applied Biosystems)を使用して進め、RT−PCR段階及び条件は、次の通りである:(i)逆転写段階(50℃で30分、1サイクル);(ii)逆転写酵素不活性化及びcDNA変性(denaturation)段階(95℃で15分、1サイクル);(iii)PCR増幅段階(94℃で30秒、52℃で1分、72℃で30秒、35サイクル);(iv)伸張段階(72℃で10分、1サイクル)。RT−PCRの生成物は、電気泳動でアガロースゲル上で確認した。
【0037】
(表1)RT−PCRに使われたプライマーの配列

【0038】
5.酵素結合免疫吸収分析法(ELISA:enzyme-linked immunosorbent assay)
分泌される抗体の濃度は、酵素結合免疫吸収分析法によって測定された。まず、ヤギの抗ヒト免疫グロブリンG(Fcγ)(Jackson ImmunoReserarch、109−006−098)を96ウェル・マイクロタイタ(microtiter)プレート(Nunc、449824)上に吸着させた。このプレートを、1%ウシ血清アルブミン(BSA)が含まれたホスフェートバッファで処理してブロッキングした後、2倍ずつ連続して希釈したサンプルをプレートの各ウェルに入れた。室温で2時間インキュベーションした後、ヤギのペルオキシダーゼ標識抗−ヒトλ抗体(peroxidase-labeled goat anti-human λ antibody)(Sigma、A5175)で処理した。室温で1時間インキュベーションした後、テトラメチルベンジジン(TMB)と反応させ、この反応を1N HClで中止させた。スタンダード(standard)としては、骨髄腫プラズマで精製されたヒトIgG1λ(human IgG1 lampda purified myeloma plasma)(Sigma、I5029)を250ng/mlの濃度から使用した。プレートリーダ(Spectramax plus 384、Molecular Device)を使用し、450/570nmで吸光度を読んで濃度を測定した。
【0039】
実施例1:細胞融合によるヒト細胞株の確立
まず、細胞融合パートナーとして、HAT(Sigma、H0262)に感受性があり、G418(Calbiochem、345810)に耐性があるナマルワ細胞株を誘導するために、ナマルワ細胞株を、10%FBS(Hyclone、SH30070.03)及び6−チオグアニン(Sigma、A4660)が添加されたRPMI1640培地で培養した。4ヵ月の選別期間の間、6−チオグアニンの濃度を5μg/mlから30μg/mlまで上昇させて処理した後、1xHAT含有培地に対する前記細胞の感受性を確認した。HATに感受性があるナマルワ細胞群に、pSV2neoプラスミドを形質移入した後、1.5mg/ml濃度のG418に耐性を有する細胞群を選別し、細胞融合パートナーとして使用した。
【0040】
細胞融合は、主に文献(Kennett RH.Cell fusion Methods Enzymol 58:345-359;1979)に記載されたポリエチレングリコール(PEG)を利用した方法によって進められた。対数増殖期にある4x10個の293細胞と6x10個のナマルワ細胞とを、カルシウム(Ca2+)とマグネシウム(Mg2+)とのないホスフェートバッファで2回洗浄した後、5μg/ml濃度の落花生凝集素(peanut agglutinin、Sigma、L0881)で前処理された6ウェルプレートに接種した。細胞を接種した6ウェルプレートを、Beckman AllegraTM X−12R遠心分離器で、6分間400gに遠心分離した。ウェルからホスフェートバッファを除去した後、ウェルにある細胞に2mlの40%ポリエチレングリコール(Sigma、P7777)を2分間処理した。対照群として、それらのうち1つのウェルの細胞は、ポリエチレングリコール処理を行わなかった。次の段階として、細胞を5%ジメチルスルホキシド(DMSO)(Sigma、D2650)が添加された5mlのホスフェートバッファで3回洗浄した後、ホスフェートバッファを利用し、さらに3回洗浄した。15%FBSが添加されており、DMEM/F12培地とRPMI1640培地とを同量に混ぜた培地で細胞を処理した後、COインキュベータに30分間静置させた。その後、培地を除去した後、0.4mg/ml濃度のG418、0.5xのHAT及び15%FBSが添加されており、DMEM/F12とRPMI1640とが同量で混合されている選別培地で細胞を処理した後、96ウェルプレートの各ウェル当たり1x10個の細胞を接種した。一週間後、細胞接種時に使用した培地と同じ組成の新鮮な選別培地に交換した。接種2週間後には、G418とHATとの濃度がそれぞれ0.8mg/mlと1xとに上昇した選別培地を細胞に供給した。接種して3週間経過後に観察したとき、対照群細胞は成長していない一方、融合細胞は成長した。それらのうち成長が速く、かつ健康に育つ9個のウェルにある細胞を混合し、それら細胞で96ウェルプレートで制限希釈クローニング(LDC:limiting dilution cloning)を進め、単一細胞クローン(SCC:single cell clone)を確保した。制限希釈クローニング段階で、対数的に育つ細胞を96ウェルプレートの各ウェルに、100μlの選別培地と共に1個の細胞を接種し、0.8mg/ml濃度のG418、1xHAT及び15%FBSが添加された新鮮培地を選別培地として使用した。毎週1回ずつ新鮮な選別培地を細胞に供給し、1つの細胞が接種されて育っているか否かを確認するために、顕微鏡下で各ウェルを観察した。かような過程を介して、97個の単一細胞クローンを確保し、これをF2Nと命名した。F2Nは、293細胞とナマルワ細胞との融合細胞を意味する。この段階で、それぞれのF2Nクローンの成長パターンは、底に若干吸着しつつも浮遊培養される性質を有しており、強く凝集されたパッチを形成するものとするとき、293細胞と多少類似している。
【0041】
全てのクローンは、窒素タンクに冷凍保管され、それら全てのクローンでEBNA1発現、IgM発現そして形質移入効率を調べた。調査結果、全てのクローンがEBNA1を発現することを確認した。EBNA1が発現されるということは、それらクローンにEBVが存在することを意味する。また、全てのクローンは、IgMを発現しないことを確認し、これは、ナマルワ細胞の免疫グロブリン発現が融合細胞では、抑制されたことを意味する。さらに体系的な特徴分析のために、友好的な(favorable)成長パターンを示し、高い形質移入効率を有する17個のクローンを選定した。IgGを発現するpCT132ベクターを使用して試験したとき、選定された17個のF2Nクローンの形質移入効率は、293細胞の形質移入効率より高かった。17個のF2Nクローンを選定する過程で、細胞が凝集して育つ単一細胞クローンは除外した(図2のC及びD参照)。
【0042】
実施例2:F2N78クローンの特徴究明
F2Nクローンの選別のために、一時的形質移入を利用し、一次的にIgGの発現が高い17個のクローンを選別し(図4A)、それらクローンを対象に、二次スクリーニングを実施した(図4B)。それらのうちIgGの発現が最も高いF2N78クローンに対して、293細胞とIgGとの生産性を比較するために、pCT132ベクターを利用して一時的形質移入試験を反復的に行い、その結果、F2N78細胞のIgG発現率が293細胞より2〜3倍高いということを確認した(図4C)。
【0043】
一次選定された17個のクローンいずれも、EBNA1の発現が陽性であり、IgMの発現は陰性であった。それら17個の単一細胞クローンのうちIgG発現が高い順に、7個の単一細胞クローンを選別し、無血清培地を利用した浮遊培養条件の下に適応させた。無血清浮遊培養条件に適応された7個の単一細胞クローン内に、EBVゲノムが存在するか否かをEBNA1の持続的な発現いかんを介して確認した。図5から分かるように、無血清浮遊培養条件下で1年以上育ったF2N78細胞集団のほぼ100%がEBNA1発現に対して陽性を示した。治療用蛋白質の製造において、マスター細胞銀行(MCB:master cell bank)とマスター製造用細胞銀行(MWCB:master working cell bank)とを設け、生産する期間を含んだ生産細胞クローンの分裂期間は、1年ほどならば十分である。
【0044】
また、細胞内の重要な遺伝子の持続的な発現を調べるために、無血清培地を使用して浮遊培養で1年以上培養してきたF2N78クローンを対象に、IF(図5参照)とRT−PCR(図6参照)とを行った。結果を整理すれば、次の通りである:(1)IFでEBNA1の発現を確認し、また2種の異なるプライマー対を利用したRT−PCRを介して、EBNA1が発現されるということを再度確認し;(2)Ig−muは、前記IF及びRT−PCRによって発現が消失したことを確認し、またIFで、Ig−kappaの発現が消失したことを確認し;(3)2種の異なるプライマー対を利用したRT−PCRを介して、抗体依存性細胞障害(antibody dependant cellular cytotoxicity)と密接な関連があるbisectingN−アセチルグルコサミンの生成に関与するGnTIII(Campbell and Stanley、1984)の発現を確認し;(4)CHO細胞には存在せずにてヒト細胞にだけ特殊に存在するα(2,6)STの発現もまたIFによって証明された。
【0045】
実施例3:一時的形質移入
新薬開発過程に必要な蛋白質を短時間内に生産するためには、一時的形質移入による生産方法が使われている。このために、FreeStyle 293培地で浮遊培養されたF2N78細胞と293細胞とを2つの異なる構造のoriP発現ベクター(pCT132及びpCT125)で形質移入して抗体生産性を比較した。2つのベクターのうちpCT132は、プラスミド内にEBNA1コーディング配列がなく、pCT125は、EBNA1コーディング配列がプラスミド内に存在する。
【0046】
図7から分かるように、pCT132とpCT125とを、F2N78細胞と293細胞とにそれぞれ形質移入した反復試験で、F2N78細胞では、2つのベクターが類似した抗体生産性を示した一方、293細胞では、pCT125がpCT132よりさらに高いIgG生産を示した。さらに、pCT132ベクターで形質移入されたF2N78細胞での生産量(25μg/ml以上)は、pCT125ベクターで形質移入された293細胞の生産量(15μg/ml)より高かった。これは、F2N78細胞でのEBNA1遺伝子のないpCT132発現ベクターのIgG生産が、293細胞でのEBNA1遺伝子があるpCT125発現ベクターのIgG生産より効率的であるという面を示している一方、EBNA1が発現されない293細胞では、EBNA1のあるpCT125発現ベクターが、EBNA1のないpCT132発現ベクターよりその効率性が高いということを示している。
【0047】
かようなpCT132発現ベクターの効率性を高めるために、F2N78細胞が良好に成長できるように、新たな培地(EX−CELL 293培地)に適応させた後、FreeStyle Max試薬を使用した一時的形質移入を行った。その結果、形質移入後の6日目に、100μg/mlほどの高い抗体生産性を示すことが反復試験を介して確認された(図8参照)。これは、本発明で開発したヒト細胞株が、すでに開発されている293細胞株より一時的形質移入での優秀性を意味する。
【0048】
実施例4:F2N細胞に対する酪酸ナトリウム処理の効果
酪酸ナトリウム処理は、生産細胞株に2種の影響を及ぼす。さまざまな遺伝子上の過アセチル化(hyper-acetylation)を介して遺伝子発現を活性化させる一方、アポトーシスを誘導して細胞成長率を低下させる。かような現象を確認するために、EX−CELL 293培地に適応させたCHO、293、ナマルワ及びF2N78の細胞を1ml当たり3x10個の細胞になるように接種した後、3日目に、さまざまな濃度(0,1,2及び4mM)の酪酸ナトリウムで処理した。
【0049】
図9Aないし図9Dから分かるように、CHO細胞は、酪酸ナトリウムの濃度が高いほど細胞数と細胞生存率とが急落する現象が見られた。ナマルワ細胞もCHO細胞と同様に、処理した全ての濃度の酪酸ナトリウムで、細胞成長率と生存率とが急減することを確認した。これに対して293細胞は、低濃度(1mM及び2mM)の酪酸ナトリウムでは、細胞成長率に特に影響を受けず、高濃度(4mM)では、細胞成長率と生存率とがかなり低下した。しかし、F2N78細胞は、試験した全ての条件で、細胞成長率と生存率とがいずれも低下せず、むしろ高濃度(4mM)の酪酸ナトリウムでは、その成長率と生存率とが上昇した。
【0050】
F2N78細胞のアポトーシス抑制的な細胞成長を説明するために、ナマルワ細胞から由来したEBVゲノム内に存在する2つのウイルス性bcl2類似因子であるBHRF1とBALF1との発現をRT−PCRを介して確認した。図10から分かるように、F2N78細胞では、酪酸ナトリウム処理群並びに未処理群いずれでも、BHRF1は発現されず、BALF1は発現されることを確認した。一方、ナマルワ細胞では、2種の遺伝子がいずれも発現されることを確認した。対照群として使用した293細胞では、BHRF1とBALF1とがいずれも発現していない。F2N78細胞が、ナマルワ細胞から由来しているにもかかわらず、F2N78細胞内では、BHRF1が発現しないという事実は、F2N78細胞のアポトーシス抑制的な細胞成長を説明できる根拠となる。既存に発表されたさまざまな報告によれば、BHRF1遺伝子とBALF1遺伝子とが共に発現されたとき、BALF1は、BHRF1のアポトーシス抑制的活性を阻害するとのことである(Marshall et al.,1999,J Virol.73:5181-5185)。従って、F2N78内で、BALF1のみ発現されるという事実は、F2N78細胞がアポトーシス抑制活性を有するということを意味する。しかし、ナマルワ細胞内では、2種の因子いずれも発現するために、F2N78細胞とは異なり、アポトーシス抑制現象を確認できるものではないと考えられる。
【0051】
次に、酪酸ナトリウムが細胞の抗体生産性に狂ぼす影響を確認するために、CHO細胞とF2N78細胞とからそれぞれ抗体生産細胞株を製造して比較した。CHO#247は、MTX増幅過程を経て製作された抗体生産単一細胞株であり、F2N78_Igは、プロマイシン(puromycin)選別を経て製作された抗体生産細胞集団である。2つの細胞株をそれぞれ接種した後、3日目にさまざまな濃度(0,1,2,4mM)の酪酸ナトリウムを処理した。CHO#247の場合、酪酸ナトリウムを処理していない群と比較したとき、酪酸ナトリウム処理群の細胞成長は、50%まで低下したが、生産性は、2倍近く上昇した(図11参照)。一方、F2N78_Igの場合、酪酸ナトリウム処理を行っていない群に比べて、最大2倍ほどの細胞成長率上昇を示し、生産性面でも、4ないし5倍の上昇率を示した(図12参照)。図12から分かるように、F2N78の抗体生産上昇率は、CHO細胞株と比較するとき、さらに高い上昇率に該当する。かような現象は、酪酸ナトリウムに対するF2N78細胞株のアポトーシス抑制効果が、細胞の抗体生産性上昇にさらに影響を与えて示されるものであると見られる。
【0052】
討議
一般的に、EBVゲノムがウイルス・パーティクルを生成するために、EBVライフサイクルのエピソーム状態にある一方、ナマルワ細胞は、染色体に挿入された2つのコピーのEBVゲノム(Henderson et al.,1983,PNAS USA 80:1987-1991及びRose et al.,2002,J.Clin.Microbiol.40:2533-2544)を有する。かような例外的な染色体内に、EBVゲノムが挿入された形態は、組換え蛋白質を生産する宿主細胞に2種のメリットを提供する。第一に、染色体に挿入されたEBVゲノムからウイルス生成の恐れがないというメリットがあり、第二に、潜伏期(latent)のEBNA1蛋白質並びにBALF1の初期遺伝子は持続的に発現される一方、BHRF1の発現は消失するEBV遺伝子の発現様相にそのメリットを見出すことができる。これと関連して、特にウイルス性bcl−2と関連した2つの遺伝子のうり一つであるBHRF1遺伝子の消失は、F2N78クローンのアポトーシス抑制的成長を提示する予期できなかった結果である。また、EBNA1遺伝子の持続的な発現は、EBNA1遺伝子のないoriP発現ベクターを使用できるという長所として作用する。それ以外にも、GnTIIIとα(2,6)STとの発現は、ヒト細胞としての特別のメリットを提供するものである。また、Ig−muchainとIg−kappa chainの発現が消失し、組換えモノクローナル抗体の製造においても、本発明によるヒト宿主細胞は有用である。
【0053】
細胞致死率が低くなり、細胞成長期間が延びるということは、目的とする蛋白質(protein of interest)の生産量増加を意味するために、アポトーシス抑制的な細胞成長は、組換え蛋白質の生産を増大させるにおいて、非常に重要である。かような価値は、F2N78細胞の培養時に、酪酸ナトリウムを処理した実験で確認することができ、場合によっては、酪酸ナトリウムをF2N78細胞の治療用蛋白質の生産性を高めるのに使用することもできるというところにある。
【0054】
以上、本発明について実施形態を用いて説明したが、それらは例示的なものに過ぎず、本技術分野の当業者ならば、本発明の範囲および趣旨から外れない範囲で多様な変更および変形が可能であるということを理解することができるであろう。従って、本発明の技術的範囲は、説明された実施形態によって定められず、特許請求の範囲によって定められねばならない。
【配列表フリーテキスト】
【0055】
配列番号1:GnTIII遺伝子の第1プライマー(センス)
配列番号2:GnTIII遺伝子の第1プライマー(アンチセンス)
配列番号3:GnTIII遺伝子の第2プライマー(センス)
配列番号4:GnTIII遺伝子の第2プライマー(アンチセンス)
配列番号5:Ig−mu遺伝子のプライマー(センス)
配列番号6:Ig−mu遺伝子のプライマー(アンチセンス)
配列番号7:EBNA1遺伝子の第1プライマー(センス)
配列番号8:EBNA1遺伝子の第1プライマー(アンチセンス)
配列番号9:EBNA1遺伝子の第2プライマー(センス)
配列番号10:EBNA1遺伝子の第2プライマー(アンチセンス)
配列番号11:BHRF1遺伝子のプライマー(センス)
配列番号12:BHRF1遺伝子のプライマー(アンチセンス)
配列番号13:BALF1遺伝子のプラーマー(センス)
配列番号14:BALF1遺伝子のプラーマー(アンチセンス)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト胚芽腎臓由来の細胞と、エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)ゲノムが染色体内に挿入されたヒトB細胞由来の細胞との融合から誘導されたヒト宿主細胞。
【請求項2】
前記ヒト胚芽腎臓由来の細胞が、293細胞であることを特徴とする請求項1に記載のヒト宿主細胞。
【請求項3】
前記ヒトB細胞由来の細胞が、HAT感受性及びG418耐性の細胞であることを特徴とする請求項1に記載のヒト宿主細胞。
【請求項4】
前記ヒトB細胞由来の細胞が、ナマルワ細胞であることを特徴とする請求項1に記載のヒト宿主細胞。
【請求項5】
前記ナマルワ細胞が、HAT感受性及びG418耐性のナマルワ細胞であることを特徴とする請求項4に記載のヒト宿主細胞。
【請求項6】
前記ヒト宿主細胞が、(i)EBNA1蛋白質を連続して発現させ、(ii)IgM蛋白質を発現させず、(iii)人間と類似したグリコシル化プロファイルを持続し、(iv)BALF1を発現させてBHRF1を発現させないことを特徴とする請求項1に記載のヒト宿主細胞。
【請求項7】
前記ヒト宿主細胞が、酪酸ナトリウム添加培養時に、細胞成長に抑制を受けないことを特徴とする請求項1ないし請求項6のうち、いずれか1項に記載のヒト宿主細胞。
【請求項8】
前記ヒト宿主細胞が、寄託番号KCTC11309BPのF2N78であることを特徴とする請求項1,請求項6及び請求項7のうちいずれか1項に記載のヒト宿主細胞。
【請求項9】
組換え蛋白質を生産するためであることを特徴とする請求項1,請求項6,請求項7及び請求項8のうちいずれか1項に記載のヒト宿主細胞。
【請求項10】
前記組換え蛋白質が、モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項9に記載のヒト宿主細胞。
【請求項11】
前記組換え蛋白質が、モノクローナル抗体以外の治療用蛋白質であることを特徴とする請求項9に記載のヒト宿主細胞。

【図1】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【図3】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−517566(P2011−517566A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503913(P2011−503913)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【国際出願番号】PCT/KR2009/001856
【国際公開番号】WO2009/125999
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(510269355)セルトリオン インク (1)
【Fターム(参考)】