説明

光アクセスネットワークシステム

【課題】高速の信号を送受信することが可能であり、かつ利用する波長の数を増やさず加入者数を増やすことが可能である。
【解決手段】光回線終端装置100と光端末装置10とは、光ファイバ伝送路70、光合分岐器66及び複数の分岐光ファイバ伝送路を介して結合されている。光回線終端装置及び光端末装置は、光処理部12(102)及び電気処理部14(104)を具えて構成される。光処理部は発光素子20(122)、及び受光素子18(126)を具える。電気処理部は、送信信号を符号化して電気信号の形態の符号化送信信号を生成する送信信号処理部24(106)と、受光素子によって光信号の形態から電気信号の形態に変換された符号分割多重信号を復号化して受信信号を取り出す受信信号処理部22(108)とを具える。受信信号処理部が具える復号化処理回路30がアナログマッチドフィルタ44と判定回路46とを具えて構成される点が特徴である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、PON(Passive Optical Network)において、事業者と加入者とが符号分割多重(CDM: Code Division Multiplexing)方式を利用して通信するための光アクセスネットワークシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
事業者(以後、「センター」ということもある。)と複数の加入者(以後、「ユーザー」ということもある。)を、PONを介して接続して構成される光アクセスネットワークシステムが注目されている。以後の説明において、事業者側の装置を光回線終端装置あるいはOLT(Optical Line Terminal)、加入者側の装置を光端末装置あるいはONU(Optical Network Unit)ということもある。
【0003】
PONとは、光ファイバ伝送路の途中に受動素子である光合分岐器を接続して一本の光ファイバ伝送路を複数の光ファイバ伝送路に分岐し、この光合分岐器を中心にしてスター型に複数の光端末装置を接続するネットワークである(例えば、非特許文献1参照)。センターとユーザー間を結ぶネットワークにPONを採用することによって、センターと光合分岐器間の光ファイバ伝送路を複数のユーザーで共有することができ、設備コストを抑制することが可能である。
【0004】
PONを利用した従来の光アクセスネットワークシステムでは、時分割多重(TDM: Time Division Multiplexing)方式を採用し、TDM信号の時間スロットを制御することによってそれぞれのチャンネルに割り当てられるユーザーを識別している(例えば、非特許文献2参照)。ここで、ユーザーからセンターに向かう信号(以後、「上り信号」ということもある。)と、センターからユーザーに向かう信号(以後、「下り信号」ということもある。)とは異なる波長の光信号が使われている。これは、上り信号と下り信号とが一本の光ファイバ伝送路を共有するため、上り信号と下り信号とを波長の相違に基づいて識別するためである。上り信号と下り信号とは、光バンドパスフィルタによって分離及び合成され、各ユーザーとセンター間の信号は光合分岐器によって合波及び分波が行われる。
【0005】
一方、PONを利用した光アクセスネットワークシステムにおいて、上り信号を波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)方式によって伝送する方法も検討されている(例えば、非特許文献3参照)。しかしながら、多重するチャンネル数(ここでは、ユーザー数)を増やすためには、利用できる波長帯域が有限幅であるから、隣接するチャンネルに割り当てる波長間隔を狭くする必要がある。このように波長間隔を狭くするためには、光源の波長安定性が必要であり、この安定性を確保するために多くの設備コストが必要となる。
【0006】
そこで、利用する波長の数を増やさずとも、多重するチャンネルの数を増やし、かつ伝送容量を実質的に増大させることが望まれている。その方法の一つとして、センターとユーザーとの通信をCDM伝送によって行う方法が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1に開示されている通信方法では、伝送する電気信号を符号乗算し、無線周波数(RF: Radio Frequency)信号にアップコンバートした後、光伝送信号に変換する方法がとられている。また、特許文献2に開示されている受動型加入者ネットワークにおいては、伝送する電気信号を符号乗算した後に光伝送信号に変換して伝送する方法がとられており、更にこれに加えて、WDM方式も含めて採用されている。ここでは、送信光信号と受信光信号とは光サーキュレータによって合分岐する方法を用い、送信光信号と受信光信号とは同一の波長が使われている。
【0008】
特許文献1及び2に開示されているそれぞれの装置において、信号を受信するために、送信側と同期した符号を受信信号に乗算することが行われる。このために利用される受信器の構成例が、非特許文献4に開示されている。この受信器では、RF信号がベースバンドの電気信号に変換された後、A/D変換され、デジタルシフトレジスタ、及びデジタル相関演算装置によって自己相関波形が生成されることによって受信信号が取り出される。
【0009】
CDM方式をPONに採用することによって、利用する波長の数を増やさずとも、多重するチャンネルの数(ユーザー数に対応する。)を増大させることが可能となる。
【非特許文献1】横田、他、「光アクセスシステム ATM-PON」沖電気研究開発 第182号、Vol. 67、No. 1、2000年4月
【非特許文献2】Ian M. McGregor, et al. "Implementation of a TDM Passive Optical Network for Subscriber Loop Applications", J. Lightwave Technology, Vol. 7, No. 11、November 1989
【非特許文献3】K. W. Lim, et al. "Fault Localization in WDM Passive Optical Network by Reusing Downstream Light Sources", IEEE Photonics Technology Letters Vol. 17, No. 12, December 2005
【非特許文献4】Rushikesh S. Kalaspurkar, et al. "Performance Evaluation of a Recurring State Dynamic Digital Matched Filter for DS-CDMA", IEEE 2003
【特許文献1】特表2001-512919号公報
【特許文献2】特開2004-282742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、伝送する電気信号を符号乗算し、RF信号にアップコンバートするステップ及びA/D変換器によるA/D変換ステップを含むPONによる光アクセス方法を実行しようとすると、次の問題がある。すなわち、ビットレートが100 Mbit/sである高速の信号(高ビットレートの信号)を送受信する場合を一例にして説明すると、次のような困難がある。この場合、信号を符号長(符号長の定義は後述する。)が16の符号で符号化するために必要となる拡散レートは最低でも1.6 Gbit/s必要となり、RF信号にアップコンバートするには更にこの8倍程度の周波数が必要とされているので、12.8 GHz以上の搬送波が必要となる。そのため、A/D変換器、及び伝送する電気信号を符号乗算するデジタル乗算器を、少なくとも1 Gbit/s以上の速度で動作させる必要がある。現状では、このような高速で動作させることが可能であるA/D変換器及びデジタル乗算器は入手困難である。
【0011】
また、従来のPONによる光アクセスネットワークシステムでは、光伝送路に設けられる光合分波素子との接続のための光コネクタ等において発生する反射雑音の混入を防ぐために、上り信号と下り信号とで異なる波長の光が利用されている。そのため、加入者端末を1つ増やすごとに波長の異なる2種類の光が必要となり、必要とされる波長の異なる光の数が非常に多くなる。
【0012】
そこで、この発明の目的は、第1に、高速の信号を送受信することが可能であるPONによる光アクセスネットワークシステムを提供することにある。また、第2に、加入者数を増やしても、利用する波長の数を、従来の同種の光システムほど増やす必要がないPONによる光アクセスネットワークシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、事業者側に設置される装置である光回線終端装置と、ユーザー側に設置される装置である光端末装置との間で符号分割多重による双方向光通信を行う光アクセスネットワークシステムに関する。光回線終端装置と複数の光端末装置とは、光ファイバ伝送路、光合分岐器及び複数の分岐光ファイバ伝送路を介して結合されている。光ファイバ伝送路は、その一端に光合分岐器が設けられ、この光ファイバ伝送路の他端には、光回線終端装置が結合される。また、この光ファイバ伝送路は光合分岐器によって複数の分岐光ファイバ伝送路に分岐されて、その分岐光ファイバ伝送路それぞれには一つずつ光端末装置が結合される。
【0014】
これら複数の光端末装置のそれぞれには、互いに異なる符号が割り当てられ、光回線終端装置と複数の光端末装置との間で、符号分割多重による双方向光通信が行われる。光回線終端装置及び複数の光端末装置のそれぞれは、送信信号を符号化して符号化送信信号を生成して出力する送信信号処理部と、符号分割多重されて伝送された符号分割多重信号を受信して、この符号分割多重信号を復号化して受信信号を取り出す受信信号処理部とを具える。
【0015】
上述の目的を達成するために、この発明の光アクセスネットワークシステムの受信信号処理部は符号分割多重信号を復号化する復号化処理回路を具えており、この復号化処理回路は、アナログマッチドフィルタと判定回路とを具えている。そして、このアナログマッチドフィルタは、アナログシフトレジスタと、プラス信号用加算器と、マイナス信号用加算器と、このプラス信号用加算器及びこのマイナス信号用加算器それぞれからの出力信号を加算するアナログ加算器と、ローパスフィルタとを具えている。
【0016】
また、送信信号処理部が、送信信号を符号化する符号付与回路と、この符号付与回路の後段に接続されて、符号化送信信号の位相を調整して出力する遅延回路とを具えることが好適である。
【発明の効果】
【0017】
この発明の光アクセスネットワークシステムによれば、受信信号処理部が具えている復号化処理回路が、アナログマッチドフィルタと判定回路をと具えており、このアナログマッチドフィルタが、アナログシフトレジスタと、プラス信号用加算器と、マイナス信号用加算器と、アナログ加算器と、ローパスフィルタとを具えて構成されているために、高速の信号を送受信することが可能となる。すなわち、符号化信号をベース信号のままで多重化して送信し、受信信号処理部においてはA/D変換器を使用しないアナログマッチドフィルタを用いて復号化を実行することにより、高速の信号を送受信することが可能となる。
【0018】
また、送信信号処理部が、符号化送信信号の位相を調整する遅延回路を具えることによって、送信信号が、光伝送路に設けられる光合分波素子との接続のための光コネクタ等において発生する反射雑音の混入問題が発生するのを防ぐことができる。このために、上り信号と下り信号とで異なる波長の光を利用する必要がなく、必要とされる波長の異なる光の数を増やす必要がない。
【0019】
受信信号処理部が具えるアナログマッチドフィルタにおいて、符号分割多重信号が復号化される。その結果得られる自己相関波形のピークと相互相関波形のピークとを比べると、相互相関波形のピークが小さい。そこで、送信信号が復号化されて生成される自己相関波形と、光コネクタ等において発生する反射雑音成分が復号化されて生成される相互相関波形とを時間軸上でずらすことによって、自己相関波形のピークを判定回路で判定しやすい状態にすることができる。この判定しやすい状態とは、アナログマッチドフィルタから出力される復号化された出力信号の自己相関波形のピークに対するS/N比が大きい状態を指す。
【0020】
上述の自己相関波形と相互相関波形とを時間軸上でずらすことは、送信信号処理部が具える遅延回路によって、送信信号の位相を調整することによって容易に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態につき説明する。なお、各図は、この発明に係る一構成例を示し、この発明が理解できる程度に各構成要素の配置関係等を概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の材料および条件等を用いることがあるが、これら材料および条件は好適例の一つに過ぎず、したがって、何らこれらに限定されない。また、各図において同様の構成要素については、同一の番号を付して示し、その重複する説明を省略することもある。また、以下に示す概略的ブロック構成図においては、光ファイバ等の光信号の経路を太線で示し、電気信号の経路を細線で示してある。
【0022】
<第1実施例>
図1を参照して、第1実施例の光アクセスネットワークシステムの構成及びその動作を説明する。図1は、第1実施例の光アクセスネットワークシステムの概略的ブロック構成図である。図1に示す光アクセスネットワークシステムは、加入者数(ユーザー数)が4である場合、すなわち、光端末装置が4台である場合を想定してあるが、4台にかかわらず何台であっても以下の説明は成立する。図1においては、複数の光端末装置を識別するために、第1チャンネルを割り当てられた光端末装置をONU-1とし、第4チャンネルを割り当てられた光端末装置をONU-4として表してある。ONU-1からONU-4のいずれも同一の構成である。以後の第1実施例の光アクセスネットワークシステムの説明において、光端末装置の構造を説明する場合には、光端末装置10と一般的に表記して説明する。
【0023】
第1実施例の光アクセスネットワークシステムは、事業者側に設置される装置である光回線終端装置100と、ユーザー側に設置される装置である光端末装置(ONU-1からONU-4、以後、光端末装置10と表記する。)との間で符号分割多重による双方向光通信を行う光アクセスネットワークシステムである。光回線終端装置100と光端末装置10とは、光ファイバ伝送路70、光合分岐器66及び複数の分岐光ファイバ伝送路を介して結合されている。
【0024】
光ファイバ伝送路70は、その一端に光合分岐器66が設けられ、この光ファイバ伝送路70の他端には、光回線終端装置100が結合されている。また、この光ファイバ伝送路70は光合分岐器66によって複数の分岐光ファイバ伝送路に分岐されて、その分岐光ファイバ伝送路それぞれには一つずつ光端末装置が結合される。図1では、ONU-1を接続する光ファイバ伝送路を分岐光ファイバ伝送路74と表記し、ONU-4を接続する光ファイバ伝送路を分岐光ファイバ伝送路76と表記してある。
【0025】
これら複数の光端末装置のそれぞれ(ONU-1からONU-4)には、互いに異なる符号が割り当てられ、光回線終端装置100とこれらの光端末装置との間で、符号分割多重による双方向光通信が行われる。
【0026】
光端末装置10は、光処理部12及び電気処理部14を具えて構成されている。光処理部12は符号化送信信号を電気信号の形態から光信号の形態に変換するための発光素子20、及び符号分割多重信号を光信号の形態から電気信号の形態に変換するための受光素子18を具えている。
【0027】
電気処理部14は、送信信号を符号化して電気信号の形態の符号化送信信号を生成する送信信号処理部24と、上記受光素子18によって光信号の形態から電気信号の形態に変換された符号分割多重信号を復号化して受信信号を取り出す受信信号処理部22とを具えている。
【0028】
受信信号処理部22は、符号分割多重信号を復号化するための処理を行う復号化処理回路30を具え、自動利得制御(AGC: Auto Gain Control)素子28、クロック信号再生回路34、分周器38、第2遅延回路(図1で遅延回路2と表示してある。)40を具えている。また、送信信号処理部24は、符号化処理回路82及びドライバ60を具えている。ドライバ60には増幅器(AMP: Amplifire)が利用される。
【0029】
この発明の光アクセスネットワークシステムは、復号化処理回路30がアナログマッチドフィルタ44と判定回路46をと具えている点に特徴があり、特に、アナログマッチドフィルタ44の構成に特徴がある。詳細は後述するが、符号分割多重信号をアナログマッチドフィルタ44と判定回路46で復号化するための処理を送受信高速化することが可能となる。
【0030】
一方、光回線終端装置100も光端末装置10と同様に、光処理部102及び電気処理部104を具えて構成されている。光処理部102は、光端末装置10の光処理部12と同様に、発光素子122と受光素子126とを具えている。また、電気処理部104は、送信信号処理部106、受信信号処理部108及びクロック信号生成回路110を具えている。
【0031】
送信信号処理部106は、OUN-1からONU-4の送信信号処理部のそれぞれに割り当てられた符号と同一の符号が割り当てられた、符号化処理回路を並列に具える符号化処理回路列116と、ドライバ120とを具えている。OUN-1からONU-4の送信信号処理部のそれぞれと同一の構成の符号化処理回路は、図1で符号1から符号4と示してある。符号1から符号4と示してある符号化処理回路のそれぞれから出力される信号は、電気信号合波器118で合波されてドライバ120に入力される。
【0032】
また、受信信号処理部108は、OUN-1からONU-4の受信信号処理部のそれぞれに割り当てられた符号と同一の符号が割り当てられた復号化処理回路を並列に具える復号化処理回路列132と、自動利得制御素子128とを具えている。OUN-1からONU-4の受信信号処理部のそれぞれに割り当てられた符号と同一の符号が割り当てられた復号化処理回路は、図1で復号1から復号4と示してある。自動利得制御素子128から出力される信号は、電気信号分岐器130で分岐されて復号1から復号4と示してある復号化処理回路のそれぞれに入力される。
【0033】
送信信号処理部106及び受信信号処理部108に、クロック信号生成回路110からクロック信号が供給される。クロック信号生成回路110から供給されるクロック信号は、この光アクセスネットワークシステムの基準となるクロック信号である。光端末装置10では、クロック信号再生回路34によって、受信した符号分割多重信号からこのクロック信号が抽出されて、符号分割多重信号の復号化のために利用される。
【0034】
図1に示す上述の構成の光アクセスネットワークシステムは、以下に説明するように動作する。
【0035】
まず、下り信号について第1チャンネルを例にとって説明する。第1チャンネルの送信信号(図1で、光回線終端装置100の「送信信号入力ch1」と示してある。)は、光回線終端装置100の電気処理部104に具えられている符号化処理回路列116の「符号1」と表されている符号化処理回路に入力され、符号化されて符号化送信電気信号として出力される。符号化送信電気信号は、電気信号合波器118で合波されて符号分割多重電気信号としてドライバ120に入力されて増幅され、増幅された符号分割多重電気信号は、光処理部102が具える発光素子122によって光信号に変換され、符号分割多重光信号として出力される。発光素子122は、例えば、半導体レーザを利用することができる。
【0036】
符号分割多重光信号は、光カプラ124、光コネクタ72を介して、光ファイバ伝送路70、光コネクタ68、光合分岐器66、光コネクタ61を介して光端末装置10の光処理部12に入力される。光処理部12に入力された符号分割多重光信号は、光処理部12が具える光カプラ16を介して受光素子18に入力され、符号分割多重電気信号に変換されて、光端末装置10の電気処理部14に入力される。受光素子18は、例えば、フォトダイオードを利用することができる。
【0037】
電気処理部14に入力された符号分割多重電気信号は、電気信号分岐器26によって二分岐されて、一方はクロック信号再生回路34に、もう一方は自動利得制御素子28に入力される。クロック信号再生回路34に入力された符号分割多重電気信号からは、クロック信号が抽出される。また、自動利得制御素子28に入力された符号分割多重電気信号は、その強度にかかわらずこの自動利得制御素子28に設定されている一定の電圧値を持つ符号分割多重電気信号として整えられて、復号化処理回路30に入力される。この一定の電圧値は、復号化処理回路30が具えるアナログマッチドフィルタ44の構成素子であるアナログシフトレジスタの入力レベルに等しい値である。
【0038】
電圧値を整えられた符号分割多重電気信号は、まず、復号化処理回路30が具えるアナログマッチドフィルタ44によって復号化されて、判定回路46に入力される。判定回路46では、アナログマッチドフィルタ44によって復号化された信号のうち自己相関波形成分のみを抽出して出力する。すなわち、この自己相関波形成分から生成される受信信号が、第1チャンネルのONU-1が受信した信号成分である。
【0039】
上述したように下り信号、すなわち光回線終端装置100から光端末装置10に向けて伝送される送信信号は、符号化されて多重された符号分割多重光信号として伝送される。そして、光端末装置10において、符号分割多重光信号が符号分割多重電気信号に変換されて復号化される。すなわち、光端末装置10における復号化処理は、いずれも電気信号の状態で実行される。
【0040】
この発明の光アクセスネットワークシステムの特徴は、送信信号の符号化及び受信信号の復号化を行う電気処理部に特徴があり、以後の説明の大半は電気処理部における動作説明が中心である。この電気処理部の動作説明に必要な信号は符号化送信電気信号あるいは符号分割多重電気信号である。したがって以後の説明では、特に必要な場合を除き、光信号であるか電気信号であるかを区別しない。すなわち、符号分割多重光信号あるいは符号分割多重電気信号が、電気信号であるか光信号であるかを明示せず、符号分割多重信号と表記する。
【0041】
次に、上り信号について第1チャンネルを例にとって説明する。第1チャンネルの送信信号(図1で、光端末装置10の「送信信号入力」と示してある。)は、光端末装置10の電気処理部14の送信信号処理部24に具えられている符号化処理回路82に入力され、符号化されて符号化送信信号として出力される。符号化送信信号は、第1遅延回路(図1で遅延回路1と表示してある。)58を介してドライバ60に入力されて増幅され、増幅された符号化送信信号は、光処理部12が具える発光素子20によって、光信号に変換される。発光素子20は半導体レーザを利用することができる。
【0042】
符号化送信信号は、光カプラ16及び光コネクタ61を介して光合分岐器66に入力されて符号分割多重信号となって、光コネクタ68、光ファイバ伝送路70、光コネクタ72を介して光回線終端装置100の光処理部102に入力される。光処理部102に入力された符号分割多重信号は、光処理部102が具える光カプラ124を介して受光素子126に入力され電気信号に変換されて、光回線終端装置100の電気処理部104に入力される。受光素子126はフォトダイオードを利用することができる。
【0043】
電気処理部104に入力された符号分割多重信号は、受信信号処理部108が具える自動利得制御素子128に入力され、その強度にかかわらずこの自動利得制御素子128に設定されている一定の電圧値を持つ符号化受信電気信号として整えられて、復号化処理回路列132の「復号1」と表されている復号化処理回路に入力される。この復号化処理回路では、光端末装置10が具える復号化処理回路30と同様の処理がなされて、第1チャンネルのONU-1から伝送されてきた信号が生成されて出力される。
【0044】
<符号化処理>
図2(A1)から(C)を参照して送信信号を符号化する過程について、第1チャンネルを例にとって、説明する。図2(A1)から(C)において、横軸及び縦軸は省略してあるが、横軸の方向は時間軸の方向を示し、縦軸の方向は信号の強度を示している。図2(A1)及び(A2)は、それぞれ第1チャンネルの送信信号及び符号化送信信号を示し、図2(B1)及び(B2)は、それぞれ第2チャンネルの送信信号及び符号化送信信号を示している。そして、図2(C)は、第1チャンネルの符号化送信信号と第2チャンネルの符号化送信信号とが合波された符号分割多重信号の時間波形を示している。図2(A1)から(C)において、信号の0レベルを一点破線で示してある。そして、0レベル以上を「1」とし、0レベル以下を「-1」と表してある。
【0045】
図2(A1)に示す第1チャンネルの送信信号は、(1, 0, 1,...)である場合を想定しその時間波形を示している。図2(A2)は、符号長が4である(1, 0, 0, 1)で与えられる符号を想定し、この符号によって符号化されて生成された第1チャンネルの符号化送信信号の時間波形を示している。また、図2(B1)に示す第2チャンネルの送信信号は、(1, 1, 0,...)である場合を想定しその時間波形を示している。図2(B2)は、符号長が4である(1, 0, 1, 0)で与えられる符号を想定し、この符号によって符号化されて生成された第2チャンネルの符号化送信信号の時間波形を示している。
【0046】
ここで、符号を規定する「0」及び「1」からなる数列の項数を符号長ということもある。この例では、符号を規定する数列が(1, 0, 0, 1)あるいは(1, 0, 1, 0)であり、この数列の項数が4であるから符号長は4であることになる。また、符号を与える数列を符号列といい、符号列の各項「0」及び「1」をチップということもある。そして、0及び1そのものを符号値ということもある。送信信号の1ビットに割り当てられる時間幅(時間スロットともいう。)は、送信信号の伝送速度であるビットレートの逆数である。符号の1チップに割り当てる時間幅の逆数をチップレートということもある。
【0047】
符号化するにあたっては、送信信号の1ビットに割り当てられる時間スロットに対して、符号を構成する4チップが割り当てられる。すなわち、時間軸上で、送信信号の1ビット内に符号を規定する、数列(1, 0, 0, 1)あるいは(1, 0, 1, 0)に対応する符号化信号が完全に収まるように、時間軸上に配置される。
【0048】
送信信号を符号長4の符号で符号化するという意味は、送信信号(以後「D」と表すこともある。)と符号化信号(以後「C」と表すこともある。)との積D×Cを求めることに相当する。また、以下の説明において、どのチャンネルに対応するDであるかCであるかを区別する必要があるときは、チャンネル数を添えて示す。例えば第1チャンネルのDで及びCであることをそれぞれD1及びC1と示す。第2チャンネル等についても同様である。
【0049】
積D×Cを求めるための符号付与回路には、具体的には、排他的論理和演算EXOR(エクスクルシーブ・オア)ゲートの出力にインバータを接続したゲート回路であるEXNOR(エクスクルシーブ・ノア)回路を用いる。この場合には、1と0との2値信号として表した送信信号及び符号化送信信号等を、1と-1の2値信号に変換する。具体的には、送信信号及び符号化送信信号のバイアス電圧を調整して、これらの信号の振幅の中心を0 Vの水準に変更すればよい。
【0050】
図2(A1)に示す第1チャンネルの送信信号は、(1, 0, 1,...)であるので、これを1と-1の2値信号に変換すると(1, -1, 1,...)となる。第1チャンネルの送信信号を符号化するために利用する符号は、(1, 0, 0, 1)であるので、これを1と-1の2値信号に変換すると(1, -1, -1, 1)となる。
【0051】
第1チャンネルの送信信号の第1番目のビットは「1」であり、第2番目のビットは「0」であり、第3番目のビットは「1」である。ここで、第1チャンネルの送信信号が、(1, -1, -1, 1)で与えられる符号で符号化されるとは、第1番目のビットである「1」が(1, -1, -1, 1)で与えられる符号で符号化され、第2番目のビットである「-1」が(1, -1, -1, 1)で与えられる符号で符号化され、第3番目のビットである「1」が(1, -1, -1, 1)で与えられる符号で符号化されることを意味する。図示はしていないが、第4番目以降のビットが符号化されることも同様である。
【0052】
送信信号Dを符号Cで符号化するということは、積D×Cを求めることに相当するから、送信信号の第1番目のビットである「1」は、(Dの第1番目のビット(1))×C(1, -1, -1, 1)=(1×1, 1×(-1), 1×(-1), 1×1)=(1, -1, -1, 1)と符号化される。送信信号の第2番目のビットである「-1」は、(Dの第2番目のビット(-1))×C(1, -1, -1, 1)=((-1)×1, (-1)×(-1), (-1)×(-1), (-1)×1)=(-1, 1, 1, -1)と符号化される。第3番目のビットについても同様である。したがって、図2(A1)に示す第1チャンネルの送信信号が符号化されて得られる符号化送信信号は、上述の説明のように((1, -1, -1, 1),(-1, 1, 1, -1),(1, -1, -1, 1))=(1, -1, -1, 1、-1, 1, 1, -1, 1, -1, -1, 1,...)となる(図2(A2))。
【0053】
また、図2(B1)に示す第2チャンネルの送信信号が符号(1, 0, 1, 0)を1と-1の2値信号に変換した(1, -1, 1, -1)で符号化する場合も、上記の第1チャンネルの場合と同様である。送信信号の第1番目のビットである「1」は、(Dの第1番目のビット(1))×C(1, -1, 1, -1)=(1×1, 1×(-1), 1×1, 1×(-1)=(1, -1, 1, -1)と符号化される。送信信号の第2番目のビットも「1」であるからDの第2番目のビットも(1, -1, 1, -1)と符号化される。
【0054】
第3番目のビットは「-1」であるから(Dの第3番目のビット(-1))×C(1, -1, 1、-1)=((-1)×1, (-1)×(-1), (-1)×1, (-1)×(-1)=(-1, 1, -1, 1)と符号化される。したがって、図2(B1)に示す第2チャンネルの送信信号が符号化されて得られる符号化送信信号は、上述の説明のように((1, -1, 1, -1),(1, -1, 1, -1),(-1, 1, -1, 1))=(1, -1, 1, -1, 1, -1, 1, -1, -1, 1, -1, 1,...)となる(図2(B2))。
【0055】
第1チャンネルの符号化送信信号(1, -1, -1, 1, -1, 1, 1, -1, 1, -1, -1, 1,...)と第2チャンネルの符号化送信信号(1, -1, 1, -1, 1, -1, 1, -1, -1, 1, -1, 1,...)との和で与えられる符号分割多重信号は、(1+1, -1-1, -1+1, 1-1, -1+1, 1-1, 1+1、-1-1, 1-1, -1+1, -1-1, 1+1)=(+2, -2, 0, 0, 0, 0, 2, -2, 0, 0, -2, 2)となり、図2(C)にこの符号分割多重信号の時間波形を示す。
【0056】
図2(C)に示す符号分割多重信号が、光信号に変換されて光ファイバ伝送路を伝送する。光回線終端装置あるいは光端末装置によって受信されると、再び電気信号に変換されて復号化されて受信信号が抽出される。したがって、図2(C)に示す符号分割多重信号の時間波形の振幅の絶対値は本質的な意味を持っていない。したがって、図2(C)に示す符号分割多重信号は、振幅の最大値と最小値の中心を0レベルに設定して、振幅の値を1に規格化して(+1, -1, 0, 0, 0, 0, 1, -1, 0, 0, -1, 1)と表現しても同一の意味を持つ。
【0057】
<復号化処理>
図3(A)から(D)を参照して符号分割多重信号を復号化する過程について、第1チャンネルを例にとって、説明する。図3(A)及び(B)において、横軸は時間軸の方向を示す。縦軸は省略してあるが、縦軸の方向は信号の強度を示している。図3(A)は、復号化処理回路が具えるアナログマッチドフィルタに入力される符号分割多重信号の時間波形を示す。上述の図2(C)に示す符号分割多重信号の振幅の最大値と最小値の中心を0レベルに設定し、振幅の値を1に規格化して示してある。図3(B)は、アナログマッチドフィルタで復号化されて出力される信号の時間波形を示している。アナログマッチドフィルタから出力される信号は、後述するように、受信したチャンネルの光端末装置の受信信号成分である自己相関波形成分と、受信したチャンネルの光端末装置以外が受信する相互相関波形成分との和となっている。すなわち、相互相関波形成分は、雑音成分になる。
【0058】
図3(C1)は、判定回路で閾値判定がなされて出力された信号の時間波形を示す。図3(C2)は、図3(C1)に示す信号をラッチするためのクロック信号の時間波形を示す。また、図3(D)は、図3(C1)に示す閾値判定がなされて出力された信号を図3(C2)に示すクロック信号でラッチして得られる信号の時間波形を示す。この図3(D)に示す信号が受信信号である。図3(C1)、(C2)及び(D)の横軸及び縦軸は省略してあるが、横軸の方向が時間軸の方向を示し、縦軸の方向が信号の強度を示してある。また、信号の0レベルを一点破線で示してある。
【0059】
アナログマッチドフィルタから出力された信号を判定処理する判定回路は、図1に示す復号化処理回路30が具える判定回路46が相当する。また、図1では、図3(C1)に示す判定処理がなされて出力された信号を、図3(C2)に示すクロック信号でラッチするためのラッチ回路も含めて、判定回路46と示してあり、ラッチ回路そのものは図示を省略してある。
【0060】
送信信号を符号化するという意味は、上述したように送信信号Dと符号化信号Cとの積D×Cを求めることに相当する。一方、符号化されて送信されてきた符号分割多重信号を受信して、この符号分割多重信号を復号化することは、符号分割多重信号を再度同一の符号で符号化することに対応する。
【0061】
符号分割多重信号は、第1チャンネルの符号化送信信号(D1×C1)、第2チャンネルの符号化送信信号(D2×C2)、第3チャンネルの符号化送信信号(D3×C3)等、多重される全ての符号化送信信号の和となっている。したがって、符号分割多重信号は、(D1×C1)+(D2×C2)+(D3×C3)+....で表される。この符号分割多重信号を第1チャンネルに割り当てられた符号C1で復号化するとは、{(D1×C1)+(D2×C2)+(D3×C3)+....}×C1を求めること(符号分割多重信号を再度同一の符号で符号化すること)に相当する。
【0062】
すなわち、アナログマッチドフィルタで復号化されて出力される信号の時間波形は、{(D1×C1)+(D2×C2)+(D3×C3)+....}×C1=(D1×C1)×C1+(D2×C2)×C1+(D3×C3)×C1+....=D1×C12+ (D2×C2×C1) + (D3×C3×C1) + ....を反映した信号である。ここで、C12=1である。なぜならば、同一符号の積であるから、両者の符号を構成するチップは全て同一の値、すなわち「1」あるいは「-1」である。すなわち、C12の演算を符号のチップごとに見ると、1×1=1あるいは(-1)×(-1)=1と必ず「1」となるからである。したがって、上述したアナログマッチドフィルタで復号化されて出力される信号の時間波形を表す第1項D1×C12は、D1となり、第1チャンネルの送信信号を構成する各ビットのパルスD1が再生される。すなわち、この成分がアナログマッチドフィルタで復号化されて出力される信号の、第1チャンネルの送信信号に対する自己相関波形成分に相当する。
【0063】
一方、上述したアナログマッチドフィルタで復号化されて出力される信号の時間波形を表す第2項以下の項は、C1×Ci≠1(ここで、i=2, 3,...である。)であるので、(D2×C2)×C1及び(D3×C3)×C1の項からは、第2、第3チャンネルの送信信号を構成する各ビットのパルスD2及びD3は再生されない。すなわち、これらの成分がアナログマッチドフィルタで復号化されて出力される信号の、第1チャンネルの送信信号に対する相互相関波形成分に相当する。
【0064】
以上説明したように、アナログマッチドフィルタによれば、符号分割多重信号を復号化して、自己相関波形成分を再生することが可能である。図3(B)において、時間軸上に示すパルス成分(図3(B)でP及びQで示してある。)が自己相関波形成分である。また、相互相関波形成分は、時間軸を挟んで上下に示す破線の間に収まる雑音成分である。図3(B)では、相互相関波形成分はその形状が極めて複雑であるので、その最大値と最小値のレベルを、時間軸を挟んで上下に示す破線で示し、その詳細な形状は省略してある。
【0065】
図3(B)に示すアナログマッチドフィルタで復号化されて出力される信号の時間波形を、判定回路で処理して自己相関波形成分のみが抽出されて出力された信号が図3(C1)に示されている。図3(C1)に示されている信号が図3(C2)に示されているクロック信号によってラッチされて、図3(D)に示す受信信号が得られる。
【0066】
次に、判定回路でのラッチ処理の内容を、図3(C1)、(C2)及び(D)を参照して説明する。ラッチ処理を行うためのラッチ回路には、周知のDフリップフロップ回路等を利用することができるので、ラッチ回路そのものの説明は省略する。この実施例では、Dフリップフロップ回路として、MC100LVEL31(ON semiconductor社製)を利用した。
【0067】
図3(C1)に示す時間波形は、後述するように閾値処理回路によって、図3(B)に示すアナログマッチドフィルタで復号化されて出力された信号を処理して生成される。すなわち、閾値処理回路は、図3(B)に示すアナログ復号化信号を、図3(C1)に示すデジタル復号化信号に変換する役割を果たす。したがって、図3(C1)に示す時間波形は、図3(B)に示す復号化されて出力された信号の自己相関波形成分に対応して矩形波(矩形パルス)が現れるのが特徴である。この矩形パルスの振幅の大きさは、閾値処理回路によって規定され、図3(C1)に現れている矩形パルス全ての振幅の大きさは一定である。図3(C1)ではこの矩形パルスの一例を、a、bをそれぞれ付した2本の下向きの矢印で挟んで示してある。閾値処理回路には、周知のコンパレータから好適なものを適宜選択して利用できる。この実施例では、MAX9600(MAXIM Integrated Products社製)を利用した。
【0068】
図3(C1)に示すデジタル復号化信号と図3(C2)に示すクロック信号とが、ラッチ回路として機能するDフリップフロップ回路に入力されると、次のような処理が行われて、図3(D)に示す受信信号が得られる。
【0069】
図3(C2)に示すクロック信号の立ち上がりの瞬間(例えば、図3(C2)にXと示してある瞬間)が、デジタル復号化信号の自己相関波形のピークに対応する矩形パルス(例えば、図3(C1)にa、bをそれぞれ付した2本の下向きの矢印で挟んで示してある。)が存在している場合には、Dフリップフロップ回路の出力端子から「1」に相当する強度の信号が出力され始める。そして、再びクロック信号の次の立ち上がりの瞬間(図3(C2)にYと示してある瞬間)まで、Dフリップフロップ回路の出力端子から「1」に相当する強度の信号が出力され続け、この瞬間にDフリップフロップ回路の出力端子から「-1」に相当する強度の信号に変化する。
【0070】
同様に、次にDフリップフロップ回路の出力端子から「1」に相当する強度の信号が出力され始めるのは、図3(C2)にZと示すクロック信号の立ち上がりの瞬間である。そして、Dフリップフロップ回路の出力端子からの出力信号が「-1」に相当する強度の信号に変化するのは、再びクロック信号が立ち上がる瞬間である(この瞬間は、図3(C2)から外れている。)。
【0071】
以上説明したように、デジタル復号化信号の自己相関波形のピークに対応する矩形パルスの存在時間内に、クロック信号の立ち上がり信号がDフリップフロップ回路に入力されると、図3(D)に示す受信信号の「1」に相当する強度の矩形パルスが生成される。一方、デジタル復号化信号の自己相関波形のピークに対応する矩形パルスの存在時間外に、クロック信号の立ち上がり信号がDフリップフロップ回路に入力された場合には、Dフリップフロップ回路の出力端子からは「-1」に相当する信号が出力されたままである。
【0072】
このように、クロック信号の立ち上がりの瞬間にデジタル復号化信号の自己相関波形のピークに対応する矩形パルスが存在するか否かに対応して、Dフリップフロップ回路の出力端子からは「1」に相当する信号が出力されたり、「-1」に相当する信号が出力されたりする。このことによって、受信信号が再生される。図3(D)に示す受信信号は、図2(A1)に示す送信信号(1, -1, 1,...)の一部である(1, -1, 1,...)の部分が再生されたものとなっている。図3(D)で(1, -1, 1,...)に相当する部分を明示するために、信号の値である「1」及び「-1」を括弧で括って示してある。
【0073】
上述の説明から明らかなように、クロック信号の立ち上がりの瞬間にデジタル復号化信号の自己相関波形のピークに対応する矩形パルスが存在していなければ、図3(D)に示す受信信号を生成することができない。したがって、必ず図3(C1)に示すデジタル復号化信号と図3(C2)に示すクロック信号との時間軸上での相対的な位置関係を調整する必要がある。両者の相対的な位置関係の調整について、図1を参照して説明する。
【0074】
受光素子18から出力される符号分割多重信号は、電気信号分岐器26によって分岐されて、分岐された一方がクロック信号再生回路34に入力されて、伝送レート周波数のクロック信号が再生され出力される。この伝送レート周波数のクロック信号は、電気信号分岐器36で分岐されて、分岐された一方が分周器38に入力されて、ベースレート周波数のクロック信号に変換されて出力される。ここで、伝送レート周波数とは、符号分割多重信号のビットレートに対応する周波数を指し、ベースレート周波数とは、個々のチャンネルの送信信号のビットレートに対応する周波数を指す。すなわち、伝送レート周波数をチャンネル数で除した周波数が、ベースレート周波数となる。
【0075】
分周器38から出力されるクロック信号は、第2遅延回路40に入力されて、その位相が調整されて出力される。第2遅延回路40から出力されたクロック信号が図3(C2)に示されている。すなわち、第2遅延回路40によって、図3(C2)に示されているクロック信号の時間軸上での位置を調整することができる。この調整は、手動で行ってもかまわないが、自動的に行うことも可能である。この調整を自動化するための一手段は、公開特許公報(特開2005−33544号公報)に開示されている。
【0076】
ここで、図3(B)に示したアナログマッチドフィルタで復号化されて出力される信号の時間波形に含まれる雑音成分について説明する。図1に示す光アクセスネットワークシステムの光端末装置10では、送信信号処理部24からは送信信号が出力され、一方、受信信号処理部22には受信信号が入力される。ここで、各チャンネルには、符号化するための符号及び復号化するための符号が割り当てられている。そしてこれらの符号は同一のものが使われる。そのため、光伝送路に設けられる光合分波素子との接続のための光コネクタ等において発生する反射雑音が、受信信号処理部に入力される受信信号に混入するという問題が発生する。
【0077】
この反射雑音の受信信号への混入のメカニズムを、図4を参照して説明する。図4は、光コネクタからの反射光が受信信号処理部に混入する様子の説明に供する図である。図4では、反射雑音の受信信号への混入のメカニズムの説明に必要な部分だけを図1から抜き出して示してある。送信信号は発光素子20から出力されて光カプラ16のポート3から入力され、ポート1から出力されて光コネクタ61に入力される。光コネクタ61からは、送信信号の一部が反射されて光カプラ16のポート1に入力される。この反射された送信信号は、光カプラ16のポート2から出力されて受光素子18に入力される。
【0078】
したがって、受光素子18には、光カプラ16のポート1から入力されてポート2から出力される受信信号aと、光コネクタ61から反射された送信信号の一部bの両方が入力される。この送信信号の一部bは、主に、光カプラ16のポート3から入力されてポート1から出力された送信信号が光コネクタ61から反射され、再びポート1に入力されて、ポート2から出力されたものである。
【0079】
図5(A)及び(B)を参照して、受信信号と反射された送信信号が混入した信号を復号化した場合について説明する。図5(A)及び(B)は、受信信号と反射された送信信号が混入した信号を復号化した場合の自己相関波形のピーク位置の関係について示す図である。横軸は時間軸を示し、縦軸は省略してあるが、縦軸の方向に信号強度を示している。
【0080】
送信信号と受信信号とは同一の符号で符号化された信号であるので、両者の自己相関波形のピーク位置が、一致してしまう場合が発生する。図5(A)及び(B)において、cで示すピークは、受信信号の自己相関波形を示し、rと示すピークは反射された送信信号の自己相関波形を示している。図5(A)は、受信信号と反射された送信信号の自己相関波形のピーク位置が一致した場合を示しており、図5(B)は、受信信号と反射された送信信号の自己相関波形のピーク位置が一致しない場合を示している。
【0081】
図5(A)及び(B)において、受信信号の相互相関波形成分は、時間軸を挟んで上下に示す太い破線の間に収まる雑音成分であり、送信信号の相互相関波形成分は、時間軸を挟んで上下に示す細い破線の間に収まる雑音成分である。相互相関波形成分は、その形状が極めて複雑であるので、その最大値と最小値のレベルを、時間軸を挟んで上下に示す破線で示し、その詳細な形状は省略してある。
【0082】
図5(A)に示す受信信号と、反射された送信信号の自己相関波形のピーク位置が一致した場合には、受信信号の自己相関波形のピークと送信信号の自己相関波形のピークとの差が、正味の信号成分となり、図5(A)においてS1で示してある。この場合のS/N比を与えるNの値は、送信信号の自己相関波形のピーク強度であり、図5(A)においてN1で示してある。
【0083】
一方、図5(B)に示す両者の自己相関波形のピーク位置が一致しない場合には、自己相関波形のピークと受信信号の相互相関波形成分のピークとの差が、正味の信号成分となり、図5(B)においてS2で示してある。この場合のS/N比を与えるNの値は、受信信号の相互相関波形成分のピーク強度であり、図5(B)においてN2で示してある。
【0084】
図5(A)及び(B)に示すように、S1<S2であり、N1>N2であるから、図5(B)に示す両者の自己相関波形のピーク位置が一致しない場合のS/N比S2/N2の方が、図5(A)に示す両者の自己相関波形のピーク位置が一致した場合のS/N比S1/N1より大きい。すなわち、(S2/N2)>(S1/N1)である。したがって、受信信号の自己相関波形のピーク位置と、反射された送信信号の自己相関波形のピーク位置とをずらせて受信することによって、S/N比を大きくすることができることから、このように両者のピーク位置をずらせて受信することが好適であるといえる。
【0085】
受信信号と反射された送信信号の自己相関波形のピーク位置を調整するには、図1に示す第1遅延回路58の遅延量を調整することで実現する。第1チャンネルの場合を例に説明すると、符号付与回路56から出力された符号化送信信号は、第1遅延回路58に入力されてその位相が調整される。第1遅延回路58において、符号化送信信号の遅延量が調整されるので、光コネクタ61から反射してくる送信信号の自己相関波形のピーク位置と、第1遅延回路58から出力された符号化送信信号の自己相関波形のピーク位置との時間軸上での位置関係を調整できる。両者の自己相関波形のピーク位置の間隔は、第1遅延回路58において与えられた遅延量に対応して変化する。すなわち、図5(B)が示すように、両者の自己相関波形のピーク位置が一致しない状態とすることができる。第1遅延回路58において与えられた遅延量に対応する、受信信号と反射された送信信号の自己相関波形のピーク位置の間隔は、図5(B)に、両端に矢印を付した時間軸に平行な線分で示してある。
【0086】
<アナログマッチドフィルタ>
この発明の光アクセスネットワークシステムの特徴の一つは、符号分割多重信号をアナログマッチドフィルタによって復号化する点にある。そこで、図6(A)及び(B)を参照して、アナログマッチドフィルタの構成及びその動作について説明する。
【0087】
図6(A)及び(B)は、アナログマッチドフィルタの概略的ブロック構成図である。アナログマッチドフィルタは、アナログシフトレジスタ140と、プラス信号用加算器142と、マイナス信号用加算器144と、このプラス信号用加算器142及びこのマイナス信号用加算器144それぞれから出力された出力信号を加算するアナログ加算器146と、ローパスフィルタ148とを具えている。プラス信号用加算器142及びマイナス信号用加算器144は、それぞれ増幅器150及び反転増幅器152を具えている。増幅器150及び反転増幅器152は、その周辺回路を省略して示してある。
【0088】
データ入力と示す入力端子には、自動利得制御素子28から出力される符号分割多重信号が入力される。また、クロック入力と示す入力端子には、電気信号分岐器36で分岐された伝送レート周波数のクロック信号が入力される。
【0089】
図6(A)に示すアナログマッチドフィルタは、数列(1, 0, 0, 1)で与えられる符号によって復号することを想定して設計されている。すなわち第1実施例の第1チャンネルに割り当てられた符号によって復号することを想定してある。数列(1, 0, 0, 1)で与えられる符号は、「1」と「-1」の2値表示すると数列(1, -1, -1, 1)で与えられる符号といってもよい。
【0090】
ここでは、簡単のために、まず符号分割多重信号のうち、第1チャンネルの成分のみを取り上げて、説明する。符号分割多重信号には、第1チャンネル以外のチャンネルの符号化された送信信号も混入しているが、これらは、第1チャンネルに割り当てられた符号とは別の符号で符号化されているので、再生されない。
【0091】
図2(A2)に示された第1チャンネルの符号化送信信号が、アナログマッチドフィルタによって、図2(A1)に示された時間波形を持つ第1チャンネルの送信信号と同一の時間波形である受信信号として再生されることについて説明する。
【0092】
アナログシフトレジスタ140としては、4段(入力側から順に1, 2, 3, 4と示してある。)の電荷結合型素子CCD(Charge Coupled Device)によって形成されるシフトレジスタ(以後、「CCDシフトレジスタ」という。)が使われる。すなわち、アナログシフトレジスタ140は、4ビットのCCDシフトレジスタである。第1実施例では、チップ数が4の符号(符号長が4である符号)によって符号化する場合を想定しているので、4段のCCDシフトレジスタが使われる。実際には、チップ数が16あるいは32の符号等、符号長が長い符号が使われるので、16あるいは32段のCCDシフトレジスタ等段数の多いCCDシフトレジスタが使われるが、以下に説明する原理は同様である。
【0093】
各チャンネルのビットレートが125 Mbit/sであって16チャンネルを符号長16の直交符号で符号化して多重する場合、あるいは各チャンネルのビットレートが62.5 Mbit/sであって32チャンネルを符号長32の直交符号で符号化して多重する場合には、符号化のチップレートは、2 Gbit/sとなる。すなわち、CCDシフトレジスタの、各段の間の電荷は2Gb/sでシフトすればよい。これに対して現状のCCDシフトレジスタでは、各段の間の電荷のシフトの速度は、10 Gbit/s程度確保されているので、CCDシフトレジスタを用いたアナログマッチドフィルタによれば、チップレートが2 Gbit/sである符号化は、容易に実現できる。すなわちPONにおいて、事業者と加入者とが符号分割多重方式を利用して100 Mbit/s級の通信をするための光アクセスネットワークシステムが容易に実現される。
【0094】
CCDシフトレジスタ140のクロック入力端子には、伝送レート周波数のクロック信号が入力される。また、CCDシフトレジスタ140のデータ入力端子には、符号分割多重信号(図2(A2)に示す符号化送信信号)が入力される。図6(A)及び(B)に示すCCDシフトレジスタ140の第1段の入力端子をD1、出力端子をQ1、と示してある。また、第2、第3及び第4段の入力端子を、それぞれD2、D3、D4と示し、出力端子を、それぞれQ2、Q3、Q4と示してある。CCDシフトレジスタ140のデータ入力端子は、第1段の入力端子D1に接続されている。
【0095】
図6(A)を参照して、符号(1, -1, -1, 1)で符号化された第1チャンネルの符号分割多重信号が復号化される原理を説明する。
【0096】
まず、CCDシフトレジスタの第1段のデータ入力端子D1に、符号分割多重信号、すなわち、ここでは、図2(A2)に示された第1チャンネルの符号化送信信号の「1」(図2(A2)のCS1と示された時間スロットが1になっている。)が入力されると、クロック信号に同期して、第1段の出力端子Q1からは「1」が出力される。次に、第1段のデータ入力端子D1に第1チャンネルの符号化送信信号の「-1」(図2(A2)のCS2と示された時間スロットが−1になっている。)が入力されると、クロック信号に同期して第1段の出力端子Q1からは「-1」が出力され第2段の出力端子Q2からは「1」が出力される。このように次々とCS3と示された時間スロット、CS4と示された時間スロットの信号が第1段のデータ入力端子D1に入力されると、クロック信号に同期して、第1段から第4段の出力端子からは、先に出力された信号が1段ずつずれて出力される。
【0097】
符号化送信信号の、ちょうどCS1からCS4までの時間スロットに存在するチップが全てアナログシフトレジスタ140のデータ入力端子から入力された段階で、第1段から第4段のそれぞれの出力端子、Q1、Q2、Q3及びQ4の出力端子からの出力値(Q1、Q2、Q3、Q4)は、(1,-1,-1, 1)となる。すなわち、第1段から第4段のそれぞれの出力値である(Q1, Q2, Q3, Q4)は、アナログシフトレジスタ140にF、G、H、Iと示す位置における電圧値として現れる。
【0098】
位置Fの電圧値と位置Iの電圧値とは、プラス信号用加算器142に入力され、電気信号合波器154で合波されて増幅器150に入力されて、位置Fの電圧値と位置Iの電圧値との和に相当する信号となって出力される。一方、位置Gの電圧値と位置Hの電圧値とは、マイナス信号用加算器144に入力され、電気信号合波器156で合波されて反転増幅器152に入力されて、位置Gの電圧値と位置Hの電圧値との和に相当する電圧値(負の値である。)が正の電圧値に変換されて出力される。
【0099】
増幅器150からの出力信号と反転増幅器152からの出力信号とは、アナログ加算器146で合波されて、ローパルフィルタ148に入力される。
【0100】
ローパスフィルタ148は、アナログ加算器146から出力される信号のうち、ベースレート周波数の信号を濾しとって、高周波の雑音成分を遮断する役割を果たす。
【0101】
符号化送信信号の、ちょうどCS1からCS4までの時間スロットに存在するチップが全てアナログシフトレジスタ140のデータ入力端子から入力された段階でQ1、Q2、Q3及びQ4の出力端子からの出力値(Q1, Q2, Q3, Q4)が(1, -1, -1, 1)となるので、電気信号合波器154では、F及びIの位置での電位である電位1と電位1とが入力されて、電位2となって増幅器150に入力される。また、電気信号合波器156には、G及びHの位置での電位である電位-1と電位−1とが入力されて、電位−2となって反転増幅器152に入力される。
【0102】
したがって、増幅器150からは電位2に比例する電位(ここでは、簡単のため増幅率を1とする。)の信号が出力され、反転増幅器152からは、電位-2が反転(ここでは、簡単のため増幅率を-1とする。)された電位2の信号が出力され、両者はアナログ加算器146で合波されて、電位4である信号として、ローパスフィルタ148を介して、CCDシフトレジスタ140のデータ出力端子から出力される。
【0103】
CCDシフトレジスタ140の出力値(Q1, Q2, Q3, Q4)が次に(1, -1, -1, 1)となるのは、CS9からCS12までの時間スロットに存在するチップが全てアナログシフトレジスタ140のデータ入力端子から入力された段階である。このときも同様にCCDシフトレジスタ140のデータ出力端子から、電位4である信号が出力される。
【0104】
CCDシフトレジスタ140の出力値(Q1, Q2, Q3, Q4)が(1, -1, -1, 1)とは異なる出力となっているときは、CCDシフトレジスタ140のデータ出力端子から電位4以上の信号が出力されることはなく、必ず電位4未満である。これは、CCDシフトレジスタ140の出力値(Q1, Q2, Q3, Q4)が(1,-1, -1, 1)とは異なる、例えば(-1, -1, 1, 1)等の状態となる場合を、上記の説明と同様に検討すれば明らかである。
【0105】
次に、図6(B)を参照して、符号(1, -1, 1, -1)で符号化された第2チャンネルの符号分割多重信号が復号化される原理を説明する。図6(A)に示したアナログマッチドフィルタと図6(B)に示すアナログマッチドフィルタとの相違は、増幅器150と反転増幅器152に入力する信号を、F、G、H、Iのいずれの位置から取り出すかの相違である。図6(A)に示したアナログマッチドフィルタでは、増幅器150への入力信号をF及びIの位置から取り出し、反転増幅器152への入力信号をG及びHの位置から取り出している。これに対して、図6(B)に示したアナログマッチドフィルタでは、増幅器150への入力信号をG及びIの位置から取り出し、反転増幅器152への入力信号をF及びHの位置から取り出している。このように、増幅器150と反転増幅器152に入力する信号を、F、G、H、Iのいずれから取り出すかによって、符号長が4である任意の符号を設定することができる。
【0106】
符号分割多重信号には、第2チャンネル以外のチャンネルの符号化された送信信号も混入しているが、これらは、第2チャンネルに割り当てられた符号とは別の符号で符号化されているので、再生されない。
【0107】
図2(B2)に示された第2チャンネルの符号化送信信号が、アナログマッチドフィルタによって、図2(B1)に示された時間波形を持つ第2チャンネルの送信信号と同一の時間波形である受信信号として再生されることについて説明する。図6(B)に示したアナログマッチドフィルタにおいても、復号化の動作は基本的に図6(A)に示したアナログマッチドフィルタと同様である。
【0108】
まず、CCDシフトレジスタの第1段のデータ入力端子D1に、符号分割多重信号、すなわち、ここでは、図4(B2)に示された第2チャンネルの符号化送信信号の「1」(図2(B2)のCS1と示された時間スロットが1になっている。)が入力されると、クロック信号に同期して、第1段の出力端子Q1からは「1」が出力される。次に、第1段のデータ入力端子D1に第2チャンネルの符号化送信信号の「-1」(図2(B2)のCS2と示された時間スロットが−1になっている。)が入力されると、クロック信号に同期して第1段の出力端子Q1からは「-1」が出力され第2段の出力端子Q2からは「1」が出力される。このように次々とCS3と示された時間スロット、CS4と示された時間スロットの信号が第1段のデータ入力端子D1に入力されると、クロック信号に同期して、第1段から第4段の出力端子からは、先に出力された信号が1段ずつずれて出力される。
【0109】
符号化送信信号の、ちょうどCS1からCS4までの時間スロットに存在するチップが全てアナログシフトレジスタ140のデータ入力端子から入力された段階で、第1段から第4段のそれぞれの出力端子、Q1、Q2、Q3及びQ4の出力端子からの出力値(Q1, Q2, Q3, Q4)は、(-1, 1, -1, 1)となる。すなわち、第1段から第4段のそれぞれの出力地である(Q1, Q2, Q3, Q4)は、アナログシフトレジスタ140にF、G、H、Iと示す位置における電圧値として現れる。
【0110】
位置Gの電圧値と位置Iの電圧値とは、プラス信号用加算器142に入力され、電気信号合波器154で合波されて増幅器150に入力されて、位置Gの電圧値と位置Iの電圧値との和に相当する信号となって出力される。一方、位置Fの電圧値と位置Hの電圧値とは、マイナス信号用加算器144に入力され、電気信号合波器156で合波されて反転増幅器152に入力されて、位置Fの電圧値と位置Hの電圧値との和に相当する電圧値(負の値である。)を正の電圧値に変換されて出力される。
【0111】
増幅器150からの出力信号と反転増幅器152からの出力信号とは、アナログ加算器146で合波されて、ローパルフィルタ148に入力される。
【0112】
符号化送信信号の、ちょうどCS1からCS4までの時間スロットに存在するチップが全てアナログシフトレジスタ140のデータ入力端子から入力された段階でQ1、Q2、Q3及びQ4の出力端子からの出力値(Q1, Q2, Q3, Q4)が(-1, 1, -1, 1)となるので、電気信号合波器154では、G及びIの位置での電位である電位1と電位1とが入力されて、電位2となって増幅器150に入力される。また、電気信号合波器156には、F及びHの位置での電位である電位-1と電位−1とが入力されて、電位−2となって反転増幅器152に入力される。
【0113】
したがって、増幅器150からは電位2に比例する電位の信号が出力され、反転増幅器152からは、電位-2が反転された電位2の信号が出力され、両者はアナログ加算器146で合波されて、電位4である信号として、ローパスフィルタ148を介して、CCDシフトレジスタ140のデータ出力端子から出力される。
【0114】
CCDシフトレジスタ140の出力値(Q1, Q2, Q3, Q4)が次に(-1, 1, -1, 1)となるのは、CS5からCS8までの時間スロットに存在するチップが全てアナログシフトレジスタ140のデータ入力端子から入力された段階である。このときも同様にCCDシフトレジスタ140のデータ出力端子から、電位4である信号が出力される。
【0115】
CCDシフトレジスタ140の出力値(Q1, Q2, Q3, Q4)が(-1, 1, -1, 1)とは異なる出力となっているときは、CCDシフトレジスタ140のデータ出力端子から電位4以上の信号が出力されることはなく、必ず電位4未満である。
【0116】
以上説明したように、CCDシフトレジスタ140の出力値(Q1, Q2, Q3, Q4)が、設定された符号と一致した場合のみ、CCDシフトレジスタ140のデータ出力端子から、電位4である信号が出力される。これが、自己相関波形に相当する信号である。例えば、図3(B)に示した、第1チャンネルの符号化送信信号を復号化されて得られた信号の時間波形では、P及びQとして示されているピークは、CCDシフトレジスタ140のデータ出力端子から、電位4である信号が出力された瞬間に現れたピークである。
【0117】
<判定回路>
図7(A)から(C)を参照して、判定回路の構成及びその動作について説明する。図7(A)は、判定回路の概略的ブロック構成図であり、図7(B)は、アナログマッチドフィルタから出力された復号化された信号の時間波形を示している。また、図7(C)は、閾値判定がなされて出力された信号の時間波形を示している。
【0118】
図7(B)に示す時間波形は、図3(B)に示した、アナログマッチドフィルタで復号化されて出力される信号の時間波形に相当する。図7(B)と図3(B)とは、見かけ上異なるが、それぞれの図は説明の便宜のために抽象化して示しており、現実の信号の時間波形は、図7(B)に近い。
【0119】
判定回路は、コンパレータ42とDフリップフロップ回路52とを具えて構成される。判定回路のアナログデータ入力端子からコンパレータ42の入力端子(IN)に図7(B)に示すアナログマッチドフィルタから出力された復号化された信号を入力する。一方閾値レベル入力端子(REF)からは、閾値として設定する電位の信号を入力する。この電位は、図7(B)に閾値と表記されている電位に相当する。
【0120】
コンパレータ42の出力端子(OUT)からは、入力端子(IN)から入力された信号のレベルが閾値を超えている場合には、1に相当する電位の信号が出力される。一方入力端子(IN)から入力された信号のレベルが閾値を下回っている場合には、0に相当する電位の信号が出力される。したがって、コンパレータ42の出力端子(OUT)から出力される信号の時間波形は、図7(C)に示す時間波形となる。図7(C)に示す時間波形が、上述した図3(C1)に示した時間波形と対応する。
【0121】
図7(C)に示す時間波形の信号が、Dフリップフロップ回路52の入力端子(D)に入力される。一方Dフリップフロップ回路52のクロック信号入力端子(CLK)には、クロック信号が入力される。クロック信号入力端子(CLK)に入力されるクロック信号は、図3(C2)に示すクロック信号である。すなわち、このクロック信号によって、入力端子(D)に入力される閾値判定がなされて出力された信号をラッチすることになる。ラッチ動作の原理については既に説明したので、ここでは繰り返さない。
【0122】
図3(C1)では、矩形パルスの幅を等しく表してあるが、実際には、図7(C)に示す時間波形のように、矩形パルスの幅は等しくない。しかしながら、この矩形パルスの幅の範囲内に、クロック信号の立ち上がりの瞬間が含まれればよいので、この矩形パルスの幅は、必ずしも等しい必要はない。ただし、クロック信号入力端子(CLK)に入力されるクロック信号の立ち上がりの瞬間が、図7(C)に示す矩形パルスの幅(W1及びW2)の範囲内に収まるように、第2遅延回路によってクロック信号の時間軸上での位置を調整する必要がある。
【0123】
<第2実施例>
図8を参照して、第2実施例の光アクセスネットワークシステムの構成及びその動作を説明する。図8は、第2実施例の光アクセスネットワークシステムの概略的ブロック構成図である。第2実施例においては、加入者数が16である場合を想定してある。第1実施例の光アクセスネットワークシステムと異なる点は、第1実施例の光アクセスネットワークシステムでは、通信に使われる信号の波長が一種類のみであったのに対して、第2実施例の光アクセスネットワークシステムでは、4種類の波長を信号の波長として利用する、いわゆるWDMシステムとなっていることである。
【0124】
したがって、信号の波長がλ1で通信が行われる部分についての構成は、第1実施例の光アクセスネットワークシステムと同一である。信号の波長として利用する波長をλ1からλ4の4種類を使うことによって、ユーザーの数にして4倍(ONU-1からONU-16)の大きさのシステムに拡張されている。すなわち、ONU-1からONU-4では波長λ1を利用し、ONU-5からONU-8では波長λ2を利用し、ONU-9からONU-12では波長λ3を利用し、ONU-13からONU-16では波長λ4を利用する。また、ONU-1、5、9及び13に割り当てる符号は共通にすることができる。同様に、ONU-2、6、10及び14に割り当てる符号、ONU-3、7、11及び15に割り当てる符号、ONU-4、8、12及び16に割り当てる符号は、それぞれ共通にすることができる。また、ONU-1からONU-16に、それぞれ第1チャンネル(ch1)から第16チャンネル(ch16)を対応させてある。もちろん、上述の符号の割り当て及びONUへのチャンネルの割り当ては、一例を示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0125】
信号の波長として利用する波長をλ1からλ4の4種類に増やしたことによって、第1実施例の光アクセスネットワークシステムにおける光合分岐器66に対応する光合分岐器66-1及び66-4と、光カプラ124に対応する光カプラ124-1及び124-4との間に、波長選択性を持った波長選択性合分波器50及び54が必要である。
【0126】
波長選択性を持った波長選択性合分波器としては、例えば、WDM合分波器を利用することができる。また、波長選択性を持たない光合分岐器とこの光合分岐器の分岐光を出力する各ポートに、透過波長の異なる光フィルタを設置した装置を利用することもできる。
【0127】
第2実施例の光アクセスネットワークシステムにおいても、信号の波長がλ1からλ4で通信が行われる各部分の構成は、それぞれ第1実施例の光アクセスネットワークシステムと同一であるから、共通の、高速の信号を送受信すること、及び利用する波長の数を、従来の同種の光システムほど増やす必要がないという効果が得られることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】第1実施例の光アクセスネットワークシステムの概略的ブロック構成図である。
【図2】送信信号が符号化される過程の説明に供する図である。
【図3】受信信号が復号化される過程の説明に供する図である。
【図4】光コネクタからの反射光が受信信号処理部に混入する様子の説明に供する図である。
【図5】受信信号と反射された送信信号が混入した信号を復号化した場合の自己相関波形のピーク位置の関係について示す図である。
【図6】アナログマッチドフィルタの概略的ブロック構成図である。
【図7】判定回路の概略的ブロック構成図及びその動作原理の説明に供する図である。
【図8】第2実施例の光アクセスネットワークシステムの概略的ブロック構成図である。
【符号の説明】
【0129】
10:光端末装置(ONU)
12、102:光処理部
14、104:電気処理部
16、124、124-1、124-4:光カプラ
18、126:受光素子
20、122:発光素子
22、108:受信信号処理部
24、106:送信信号処理部
26、36、130:電気信号分岐器
28、128:自動利得制御素子
30:復号化処理回路
34:クロック信号再生回路
38:分周器
40:第2遅延回路
42:コンパレータ
44:アナログマッチドフィルタ
46:判定回路
50、54:波長選択性合分波器
52:Dフリップフロップ回路
56:符号付与回路
58:第1遅延回路
60、120:ドライバ(増幅器)
61、64、68、72:光コネクタ
66、66-1、66-4:光合分岐器
70:光ファイバ伝送路
74、76:分岐光ファイバ伝送路
82:符号化処理回路
100:光回線終端装置(OLT)
110:クロック信号生成回路
116:符号化処理回路列
118、154、156:電気信号合波器
132:復号化処理回路列
140:アナログシフトレジスタ
142:プラス信号用加算器
144:マイナス信号用加算器
146:アナログ加算器
148:ローパスフィルタ
150:増幅器
152:反転増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ伝送路の一端に光合分岐器を設け、
前記光ファイバ伝送路の他端に結合された光回線終端装置と、前記光合分岐器によって分岐されて形成される複数の分岐光ファイバ伝送路のそれぞれに結合された複数の光端末装置との間で、複数の該光端末装置のそれぞれに、互いに異なる符号を割り当て、符号分割多重による双方向光通信を行う光アクセスネットワークシステムであって、
複数の前記光端末装置及び前記光回線終端装置のそれぞれは、送信信号を符号化して符号化送信信号を生成して出力する送信信号処理部と、符号分割多重されて伝送された符号分割多重信号を受信して該符号分割多重信号を復号化して受信信号を取り出す受信信号処理部とを具え、
前記受信信号処理部は前記符号分割多重信号を復号化する復号化処理回路を具えており、該復号化処理回路がアナログマッチドフィルタと判定回路とを具えており、
該アナログマッチドフィルタが、アナログシフトレジスタと、プラス信号用加算器と、マイナス信号用加算器と、該プラス信号用加算器及び該マイナス信号用加算器それぞれからの出力信号を加算するアナログ加算器と、ローパスフィルタとを具える
ことを特徴とする光アクセスネットワークシステム。
【請求項2】
前記送信信号処理部が、前記送信信号を符号化する符号付与回路と、該符号付与回路の後段に接続されて、前記符号化送信信号の位相を調整して出力する遅延回路とを具えることを特徴とする請求項1に記載の光アクセスネットワークシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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