説明

光ゲル化用組成物及びハイドロゲル

【課題】保管安定性が向上した光ゲル化用組成物を提供する。
【解決手段】ラジカル重合反応性及び水溶性の重合性モノマーと、架橋性モノマーと、水と、多価アルコールと、光重合開始剤と、配位子を4以上有するアミノカルボン酸誘導体とを含むことを特徴とする光ゲル化用組成物。
【効果】保管中に反応が進行することによるゲル化が抑制され、長期間安定的に保管可能となる。そして品質のばらつきが少ない安定した性質のハイドロゲルを得ることが可能となる。重合して得られるハイドロゲルは、残存モノマーが極めて少なく安全性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ゲル化用組成物及びハイドロゲルに関する。更に詳しくは、本発明は、保管安定性が向上した光ゲル化用組成物及びその組成物から得られるハイドロゲルに関する。本発明の光ゲル化用組成物は、生体電極、医療用粘着剤、超音波診断用ゲル、工業用粘着剤、緩衝・防振材として使用するハイドロゲルを製造するための原料として好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、ラジカル重合は、モノマー配合液に過酸化物を重合開始剤として添加したゲル化用組成物を加熱し、モノマーの重合反応を行う熱重合法と、モノマー配合液に酸化剤と還元剤とを重合開始剤として添加して反応性を高めたゲル化用組成物を加熱し、モノマーの重合反応を行うレドックス重合法により行われていた。これら方法では、重合開始剤は、モノマー配合液に添加した段階から、加熱を行わない場合でも、徐々にモノマーとの反応が進行し、熱重合法では数時間〜数日、レドックス重合法では数十秒〜数分でゲル化用組成物がゲル化してしまうことが知られている。
【0003】
もともと溶液状のゲル化用組成物を所定の製品形状、例えば粘着剤層に成形する場合は、0.1〜1mmの厚さのシート状に成型してゲル化させる必要がある。しかし、前記の如く自然に反応が進行し、ゲル化してしまうと成型不可能となる。従って、モノマー配合液にあらかじめ重合開始剤を溶解させておくことはできず、重合・成型直前に重合開始剤を混合、溶解させる必要がある。
【0004】
しかし、配合容器から一旦移送容器のような他の容器に移したモノマー配合液を再度計量し、所定の重合開始剤を添加、溶解する作業は、添加量や溶解の確認が必要であり煩雑になりがちである。また、バッチ毎の差も大きくなりゲル化後の製品の質の安定性に欠けることとなる。更に、バッチ式で重合開始剤を混合し、重合・成型を行う場合、混合直後に重合させた物と、ポットライフの終わり付近で重合させた物との性質が完全に一致する保証はない。
【0005】
このような問題を解決する方法として、紫外線のような光により重合を開始させる方法がある。この方法で使用される光重合開始剤は、熱の影響を殆ど受けず、光を照射した時だけ重合反応を進行させることが可能である。例えば特表2004−503624号公報(特許文献1)には、
(1)不飽和フリーラジカルによる光重合が可能であり、かつ親水性重合体と重合可能な、1又はそれ以上の単量体と、
(2)1又はそれ以上のラジカル光重合開始剤と、
(3)多官能性の不飽和フリーラジカルによる光重合が可能な化合物を含む、1又はそれ以上の架橋剤と、
(4)水
の光ゲル化用組成物が記載されている。更に、この光ゲル化用組成物に、重合及び架橋するのに十分な強度及び適切な波長の光を照射することで、高含水ハイドロゲルを製造する方法が記載されている。
【0006】
即ち、上記方法によれば、光が重合反応のトリガーとなるため、あらかじめ配合調製段階にゲル化に必要な全組成を混合することが可能となる。
【特許文献1】特表2004−503624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本来、光のみでしか反応しないはずの光ゲル化用組成物が、たとえ完全に遮光保存されていてもゲル化する場合がある。例えば、同じ条件で製造した光ゲル化用組成物でも、常温では、半年〜1年経過してもゲル化しない場合がある反面、1ヶ月程度でゲル化することもある。特に、保管温度が40℃を超えるとゲル化が進行しやすい。
【0008】
更に、例えば、光ゲル化用組成物の輸送は、組成物作製後、一旦、ドラム缶等に充填し、倉庫で一定期間保管した後、トラック等で行われる。保管中及びトラックでの輸送中、夏場なら光ゲル化用組成物が高温にさらされることになる。そのため、少なくとも50℃の保管条件で、少なくとも1週間、好ましくは2週間、光ゲル化用組成物を安定的に保管できることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かくして本発明によれば、ラジカル重合反応性及び水溶性の重合性モノマーと、架橋性モノマーと、水と、多価アルコールと、光重合開始剤と、配位子を4以上有するアミノカルボン酸誘導体とを含むことを特徴とする光ゲル化用組成物が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、上記光ゲル化用組成物を重合して得られるハイドロゲルが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反応が保管中に進行することによるゲル化の抑制された光ゲル化用組成物が提供できる。そのため、たとえ、保管温度が50℃を超えても長期間安定的に保管することが可能である。また、本発明のゲル化用組成物を使用すれば、品質のばらつきが少ない安定した性質のハイドロゲルを得ることが可能である。更に、本発明のゲル化用組成物中のアミノカルボン酸誘導体は、光重合反応そのものを阻害しないので、紫外線のような光の照射でゲル化用組成物を重合反応させることで、残存モノマーが極めて少なく、安全性に優れたハイドロゲルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下では、本発明に至る経緯を説明する。
即ち、光重合開始剤、重合性モノマー及び水を混合しただけの光ゲル化用組成物では、加熱だけで反応開始することは理論上想定し難い。しかし、現実には、光ゲル化用組成物の保管中や輸送中にゲル化する場合がある。
【0013】
本発明の発明者等は、このゲル化が以下の理由によると推測している。
まず、ハイドロゲルには、導電性、粘着性等の様々な機能が要求される。様々な機能を発現するためには、様々な添加剤をモノマー配合液に配合することが必要とされる。これら添加剤の中には、除去しきれない微量の不純物が存在している場合があり、この不純物がモノマーや光重合開始剤に影響を与えることで、ゲル化が進行することが考えられる。
【0014】
更に、水は、工業生産レベルにおいては軟水、もしくは、イオン交換水が現実的に使用されている。しかし、軟水には種々の不純物が含まれており、またイオン交換でも不純物を完全に除去した水を得ることは実質不可能である。加えて、軟水やイオン交換水において、それらの原水の状態によっても含まれる不純物の種類が異なる。この不純物がモノマーや光重合開始剤に影響を与えることで、ゲル化が進行することが考えられる。
【0015】
上記のように、光ゲル化用組成物の原料には、種々の不純物が含まれており、これら不純物のいずれかが、ゲル化を進行させる役割を果たしていると考えられる。
【0016】
本発明の発明者等は、鋭意検討した結果、意外にも特定数の配位子を有するアミノカルボン酸誘導体をゲル化用組成物に添加することで、ゲル化が抑制され、その結果、反応が保管中に進行することによるゲル化の抑制された光ゲル化用組成物が得られることを見い出し本発明に至った。
【0017】
本発明において、ゲル化が抑制されるのは、アミノカルボン酸誘導体が、ゲル化を進行させる不純物を、ゲル化に影響を与えないような形態へ変化させているためであると推測される。
【0018】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明のゲル化用組成物は、ラジカル重合反応性及び水溶性の重合性モノマーと、架橋性モノマーと、水と、多価アルコールと、光重合開始剤と、配位子を4以上有するアミノカルボン酸誘導体とを含む。
【0019】
重合性モノマーとしては、ラジカル重合反応性を有し、水溶性であれば、その種類は特に限定されない。
ここで、水溶性は、光ゲル化用組成物が大量の水を含むため、高い方が好ましい。例えば、水100gに対する溶解度が、少なくとも20g以上であることが好ましく、更に好ましくは50g以上であり、最も好ましくは65g以上である。
【0020】
具体的な重合性モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン等の非電解質系アクリルアミド誘導体、ターシャルブチルアクリルアミドスルホン酸(TBAS)又はその塩、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド(DMAEAA)塩酸塩、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)塩酸塩等の電解質系アクリルアミド誘導体、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、スルホプロピルメタクリレート(SPM)及び(又は)その塩、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド(QDM)等の電解質系アクリル誘導体、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の非電解質系アクリル誘導体が挙げられる。これらの重合性モノマーを単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
【0021】
これら重合性モノマーの内、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、TBAS、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
なお、本明細書において、(メタ)アクリルは、アクリル又はメタクリルを、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0022】
これら重合性モノマーの光ゲル化用組成物中の濃度は、前記モノマーが光ゲル化用組成物中に均一に溶解していれば、特に限定されるものではないが、得られるゲル体のゲル強度を維持し、保型性、加工性を高めるためには、光ゲル化組成物全体に対して、13重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であることが更に好ましい。また、前記モノマーは水溶性であり、水への溶解度は十分高い。特に、常温で液体のモノマーの場合は任意の割合で水と溶解する。反面、ゲルには水とモノマー以外にも保湿剤や、必要に応じて、電解質塩、重合開始剤等の添加剤も溶解させる必要があるため、ゲル化用組成物中のモノマー濃度は30重量%以下に設定することが好ましく、25重量%以下に設定することが更に好ましい。
【0023】
架橋性モノマーは、上記重合性モノマーを架橋させることができさえすれば、特に限定されない。
具体的な架橋性モノマーとしては、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−エチレンビス(メタ)アクリルアミド等の多官能アクリルアミド誘導体、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等の多官能アクリルエステル、ジアリルアミン、テトラアリロキシエタン等の多官能アリル誘導体等が挙げられる。これらの架橋性モノマーを単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
【0024】
架橋性モノマーの光ゲル化用組成物中の濃度は、重合性モノマー及び架橋性モノマーの分子量や化学的、それらモノマーの物理的特性に応じて適宜設定するべきである。得られるゲルの保型性を高めるためには、光ゲル化組成物全体に対して、0.005重量%以上に設定することが好ましく、0.02重量%以上に設定することが更に好ましい。一方、ゲルは、保型性を損なわない程度に柔軟性を有している方が、それを粘着剤層として使用する際の初期タックが得やすいことから、0.2重量%以下に設定することが好ましく、0.1重量%以下に設定することが更に好ましい。
【0025】
架橋性モノマーは、上記のように添加量が少量であるため、溶解度が20gより小さい場合でも使用可能である。水溶性が低い架橋性モノマーを光ゲル化用組成物に溶解させる方法としては、例えば重合性モノマーに溶解させる方法、多価アルコールに溶解する方法がある。
【0026】
光ゲル化用組成物中の水の濃度は、光ゲル化組成物全体に対して、10重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であることが更に好ましい。これは、光ゲル化用組成物を重合させてハイドロゲルを生成した後、吸湿等による組成変化を低減する意味をもつ。例えば、配合段階で水分量を少なくしても、ハイドロゲル生成後、多価アルコール等の保湿成分の含有量に応じて吸湿し、平衡水分に達するためである。また、光ゲル化用組成物中の水の濃度は、50重量%以下であることが好ましく、35重量%以下であることが更に好ましい。これも同じく、配合段階で水分量を多くしても、ハイドロゲル生成後に平衡水分量になるまで乾燥し、平衡水分量に到達するためである。しかし、気化熱による冷却効果を期待する等、意図して水分量を多く設定する場合はこの限りでは無い。
【0027】
水は、できるだけ不純物が少ないことが好ましい。組成物のゲル化を抑制する観点からは、純水を使用することが好ましいが、工業生産レベルでは、純水の使用はコストが上昇するため好ましくない。そのため、イオン交換水を使用することが好ましく、導電率が10μS以下であるイオン交換水を使用することがより好ましい。
【0028】
多価アルコールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のジオールの他、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン等の多価アルコール縮合体、ポリオキシエチレングリセリン等の多価アルコール変成体等が使用可能である。中でも、ハイドロゲルを実際に使用する温度領域(例えば室内で使用する場合は20℃前後)で液状の多価アルコールを使用することが好ましい。そのような好ましいアルコールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリンである。
【0029】
光ゲル化用組成物中の多価アルコールの濃度は、重合して得られるハイドロゲルの粘着性、保湿性付与のためには、30重量%以上であることが好ましい。また、他の水溶性配合成分の溶解性を高めるため70重量%以下であることが好ましい。
【0030】
光重合開始剤は、紫外線や可視光線で開裂し、ラジカルを発生するものであれば特に限定されないが、中でもα−ヒドロキシケトン、α−アミノケトン、ベンジルメチルケタール、ビスアシルフォスフィンオキサイド、メタロセン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(製品名:ダロキュア1173,チバスペシャリティーケミカルズ社製)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(製品名:イルガキュア184,チバスペシャリティーケミカルズ社製)、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン(製品名:イルガキュア2959,チバスペシャリティーケミカルズ社製)、2−メチル−1−[(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(製品名:イルガキュア907,チバスペシャリティーケミカルズ社製)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン(製品名:イルガキュア369,チバスペシャリティーケミカルズ社製)等が挙げられる。これらを単独で又は複数組み合わせて使用することが可能である。
【0031】
光ゲル化用組成物中の光重合開始剤の濃度は、重合反応を十分に行い、残存モノマーを低減するためには0.01重量%以上であることが好ましく、反応後の残開始剤による変色(黄変)や、臭気を防ぐためには1.0重量%以下であることが好ましい。
【0032】
アミノカルボン酸誘導体としては、分子内に配位子を4以上有していさえすれば特に限定されない。具体的なアミノカルボン酸誘導体としては、NTA:ニトリロ四酢酸(4)、EDTA:エチレンジアミン四酢酸(6)、DTPA:ジエチレントリアミン五酢酸(8)、TTHA:トリエチレンテトラミン六酢酸(10)、GEDTA:グリコールエーテルジアミン四酢酸(8)、CYDTA:1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸(6)等とその塩が挙げられる。これらは一般にキレート化剤と称される化合物である。同じアミノカルボン酸でも配位子の数が4より少ないアラニン(2)、グリシン(2)や、アミノカルボン酸以外に分子内にカルボキシル基が複数存在しているクエン酸(3)等の多価有機カルボン酸は、キレート作用はあるが、光ゲル化用組成物の安定性向上に寄与しないことを確認している。なお、前記()内の数字は、分子内の配位子の数である。
【0033】
光ゲル化用組成物中のアミノカルボン酸誘導体の濃度は、光ゲル化用組成物の安定化の効果を得るためには、0.005重量%以上であることが好ましい。また、アミノカルボン酸誘導体の多くは、遊離酸の状態での水溶性が低い。そのため、添加量が多すぎると結晶が析出し、均一な光ゲル化用組成物が得られ難い。たとえ、調整時に、これらアミノカルボン酸誘導体の塩(例えば、アルカリ金属塩)を使用して溶解を容易にしたとしても、最終的に光ゲル化用組成物のpHを3〜7の範囲に調整する場合、遊離酸が生成し析出する結果となる。従って、濃度は、0.1重量%以下であることが好ましく、0.02〜0.05重量%であることがより好ましい。
【0034】
本発明の光ゲル化用組成物には、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体を添加してもよい。この共重合体を添加すれば、高粘着性のハイドロゲルを得ることができる。組成物全体に対して、0.03重量%以上添加すれば、ハイドロゲルの粘着力を向上させる効果が十分得られる。適度な硬さと粘着力を得るためには3重量%以下が好ましい。
【0035】
本発明の光ゲル化用組成物は、pHが3〜7の範囲であることが好ましく、4〜6であることがより好ましい。pHが低すぎたり、高すぎたりすると重合性モノマーの種類によっては加水分解することがあり、光ゲル化用組成物の安定性に欠ける場合がある。また、光ゲル化用組成物を重合して得られたハイドロゲルを生体に使用する場合は、ハイドロゲルは、皮膚刺激を低減するために弱酸性、即ち、前記pHの範囲内にあることが望ましい。
【0036】
pHの調整は、一定量の酸を添加することにより可能である。具体的な酸としては、多官能の鉱酸又は(及び)有機酸が挙げられる。更には、これら多官能の酸とその塩を混合して用いることによりpH緩衝性が発現し、よりpHを安定化させることが可能である。
【0037】
鉱酸としては、硫酸、リン酸、炭酸等が挙げられる。また、有機酸としては、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸等の多官能カルボン酸が挙げられる。
【0038】
更に、光ゲル化用組成物に電解質を添加することにより、導電性のハイドロゲル用の組成物が得られる。例えば、心電図測定用電極や低周波治療器用電極、各種アース電極等の生体電極として使用する場合は比抵抗が0.1〜10kΩ・cmになるように電解質を添加することが好ましい。
【0039】
電解質としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属やマグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属のハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、有機酸塩、アンモニウム塩等が使用可能である。この内、中性〜弱酸性であるものが好ましく、具体的には塩化ナトリウム、塩化カリウムである。
【0040】
電解質の添加量は、光ゲル化用組成物全体に対して、0.5〜10重量%であることが好ましい。0.5重量%未満の場合は、ハイドロゲルを低インピーダンス化することができず、電解質を添加しない場合との差が少ない。逆に、10重量%を超える場合は、光ゲル化用組成物に均一に溶解することが困難であり、電解質が析出したり、溶け残りが生じたりする場合があるため好ましくない。
【0041】
本発明の光ゲル化用組成物は、重合性モノマー、架橋性モノマー、水、多価アルコール、光重合開始剤、アミノカルボン酸誘導体、必要に応じて電解質、アクリル酸/メタクリル酸共重合体、pH調整剤、その他の添加剤を混合、攪拌して均一に溶解するという至って簡便な方法により得ることができる。他の添加剤としては、防腐剤、殺菌剤、防黴剤、防錆剤、酸化防止剤、安定剤、香料、界面活性剤、着色剤等が挙げられる。
【0042】
上記のように構成成分の投入順序は特に限定されないが、液体から固体の順に投入することが好ましく、固体成分については、溶解度が低いものから高いものの順に投入することが好ましい。また、溶解に時間がかかる場合は、40℃以下、好ましくは30℃以下の温水等で加熱、保温することで溶解の時間を短縮することが可能である。
【0043】
本発明のハイドロゲルは、上記光ゲル化用組成物に光を照射することにより得ることができる。
具体的には、樹脂フィルム等のベースフィルムの上に前記光ゲル化用組成物を滴下し、その上面に樹脂フィルム等のトップフィルムを被せて組成物を押し広げ、一定の厚みに制御する。この状態で光(紫外線)照射により重合架橋させて一定の厚みのハイドロゲルを得ることができる。
【0044】
ベースフィルムは、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン、紙又は樹脂フィルムをラミネートした紙等のフィルムを使用することができる。また、これらフィルムのゲルシートと接する面はシリコーンコーティング等の離型処理がなされていることが好ましい。
【0045】
ベースフィルムを離型紙として使用する場合は、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、紙、樹脂フィルムをラミネートした紙等のフィルムの表面に離型処理を施したものが好適に用いられる。特に、二軸延伸したPETフィルムや、OPP等が好ましい。離型処理の方法としては、シリコーンコーティングが挙げられ、特に、熱又は紫外線で架橋、硬化反応させる焼き付け型のシリコーンコーティングが好ましい。
【0046】
ベースフィルムを離型紙でなく、粘着剤のバッキング材(裏打材)として使用する場合は、ベースフィルムは、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン等の離型処理されていない樹脂フィルムが挙げられる。特に、ポリウレタンフィルムは柔軟性があり、水蒸気透過性を有するものも存在することから特に好ましい。但し、ポリウレタンフィルムは、通常単独では柔らかすぎ、製造工程での取扱が困難なため、キャリアとしてポリオレフィンや紙等がラミネートされていることが好ましい。ゲル生成工程は、これらキャリアフィルムをつけたままで行うことが好ましい。
【0047】
トップフィルムとしては、基本的にベースフィルムと同じ材質ものを使用することが可能であるが、光を遮蔽しない材質のフィルムを選択することが好ましい。また、前記のバッキング材に使用するフィルムは、トップフィルムとして使用しない方がよい。特に、バッキング材に使用するフィルムが、紫外線等の照射により劣化の可能性がある場合は、直接紫外線が照射される側に位置することになるため好ましくない。
【0048】
光ゲル化用組成物を連続的に重合架橋させ、生成したハイドロゲルをロール状に巻き取る場合は、ベースフィルムかトップフィルムかの何れかが柔軟性を有していることが好ましい。柔軟性が無いフィルムを両面に使用する場合、巻皺が発生する危険性が高いため好ましくない。柔軟性を有するフィルムは、ロール巻の内面、外面何れに使用してもよく、外面に配置することが好ましい。
本発明のハイドロゲルは、生体電極、医療用粘着剤、超音波診断用ゲル、工業用粘着剤、緩衝・防振材として好適に使用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の各性質の評価方法を下記する。
(熱保管安定性の確認)
光ゲル化用組成物を50mlネジ口瓶に25g計り取り、キャップを閉めて、50℃オーブン中に保管し、配合液がゲル化するまでの日数を確認する。
【0050】
(重合実験)
50℃のオーブンで20日間経過後の光ゲル化用組成物をシリコーンコーティングされたPETフィルム上に滴下し、その上から同じくシリコーンコーティングされたPETフィルムを被せて、液が均一に押し広げられ、厚さが0.5mmになる様に固定した。これにメタルハライドランプを使用してエネルギー量3000mJ/cm2の紫外線照射することにより厚さ0.5mmのハイドロゲルを得る。
【0051】
(残存モノマー量の測定)
光ゲル化用組成物の反応性が損なわれていないことを確認するために、HPLCを使用して、上記重合実験により得られたハイドロゲルの残存モノマー量を測定した。
【0052】
(粘着力の測定)
上記重合実験により得られたハイドロゲルの片面のPETフィルムを剥離し、代わりに片面に無機フィラーをコーティングした合成紙を貼付した後、長さ120mm、幅20mmに切り出して試験片を得る。
【0053】
得られた試験片のゲル面に残されたPETフィルムを剥離して、厚さ38μmのPETフィルムに貼付し、30分静置した後に引っ張り試験機を使用してT型剥離試験を行なう(引張速度300mm)。
【0054】
(実施例1)
200mlビーカーに多価アルコールとしてグリセリン(日本薬局方濃グリセリン、日本油脂社製)を57.83g、水(イオン交換水:導電率=0.1〜10μS)を20g計量し、マグネティックスターラーで攪拌し、均一な混合液とした。更に、0.02gのEDTA・2H・2Na・2H2O(EDTA塩純分換算で0.18g相当、キレスト社製キレスト2BS)、重合性モノマーとして20gのアクリルアミド(三菱化学社製)、架橋性モノマーとして0.03gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(三菱レーヨン社製)、重合開始剤として0.12gの1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロパン−1−オン(製品名:イルガキュア2959,チバスペシャリティーケミカルズ社製)、電解質として2gの塩化ナトリウム(日本薬局方塩化ナトリウム、赤穂化成社製)を順に加えて攪拌して、均一に溶解することで、無色透明な光ゲル化用組成物(pH6)を作製した。
【0055】
得られた光ゲル化用組成物の熱保管安定性を確認したところ20日間経過してもゲル化しなかった。また、20日間経過後の組成物を重合したところ良好なハイドロゲルが得られた。得られたハイドロゲルの残存モノマー量及び粘着力の測定結果を表1に示す。
【0056】
(実施例2)
グリセリンを57.78gにし、pHを5に調整するためにクエン酸(無水クエン酸、扶桑科学社製)を0.05g添加したこと以外は実施例1と同様にして光ゲル化用組成物を作製した。
得られた光ゲル化用組成物の熱保管安定性を確認したところ20日間経過してもゲル化しなかった。また、20日間経過後の組成物を重合したところ良好なハイドロゲルが得られた。得られたハイドロゲルの残存モノマー量及び粘着力の測定結果を表1に示す。
【0057】
(実施例3)
グリセリンを57.8g、EDTA・2H・2Na・2H2Oを0.05gにしたこと以外は実施例1と同様にして光ゲル化用組成物(pH6)を作製した。
得られた光ゲル化用組成物の熱保管安定性を確認したところ20日間経過してもゲル化しなかった。また、20日間経過後の組成物を重合したところ良好なハイドロゲルが得られた。得られたハイドロゲルの残存モノマー量及び粘着力の測定結果を表1に示す。
【0058】
(実施例4)
200mlビーカーに多価アルコールとしてグリセリンを57.83g、水を20g計量し、マグネティックスターラーで攪拌し、均一な混合液とし、更に、0.02gのGEDTA・4H(キレスト社製キレストGEA)、重合性モノマーとして20gのN,N−ジメチルアクリルアミド(興人社製)、架橋性モノマーとして0.03gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド、重合開始剤として0.12gのイルガキュア2959、電解質として2gの塩化ナトリウムを順に加えて攪拌して、均一に溶解することで、無色透明な光ゲル化用組成物(pH6)を作製した。
【0059】
得られた光ゲル化用組成物の熱保管安定性を確認したところ20日間経過してもゲル化しなかった。また、20日間経過後の組成物を重合したところ良好なハイドロゲルが得られた。得られたハイドロゲルの残存モノマー量及び粘着力の測定結果を表1に示す。
【0060】
(実施例5)
EDTA・2H・2Na・2H2Oの代わりにNTA・H・2Na(キレスト社製キレスト2NT)を使用したこと以外は実施例1と同様にして光ゲル化用組成物(pH6)を作製した。
得られた光ゲル化用組成物の熱保管安定性を確認したところ20日間経過してもゲル化しなかった。また、20日間経過後の組成物を重合したところ良好なハイドロゲルが得られた。得られたハイドロゲルの残存モノマー量及び粘着力の測定結果を表1に示す。
【0061】
(実施例6)
200mlビーカーに多価アルコールとして90%ポリグリセリン(10%の水を含む、日本油脂社製ユニグリG−6)を65g、水を14.81g計量した後、重合性モノマーとしてN,N−ジメチルアクリルアミドを14g、ヒドロキシエチルアクリレートを2g、アクリル酸(三菱化学社製)を4gの3種を計量・投入し、マグネティックスターラーで攪拌し、均一な混合液とした。次に、0.02gのEDTA・2H・2Na・2H2O(EDTA塩純分換算で0.18g相当)、架橋性モノマーとして0.05gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド、重合開始剤として0.12gのイルガキュア2959を順に加えて攪拌して、均一に溶解することで、無色透明な光ゲル化用組成物(pH3.5)を作製した。
【0062】
得られた光ゲル化用組成物の熱保管安定性を確認したところ20日間経過してもゲル化しなかった。また、20日間経過後の組成物を重合したところ良好なハイドロゲルが得られた。得られたハイドロゲルの残存モノマー量及び粘着力の測定結果を表1に示す。
【0063】
(実施例7)
200mlビーカーに多価アルコールとしてグリセリンを57.32g、水を18g計量し、マグネティックスターラーで攪拌し、均一な混合液とした。更に、0.03gのEDTA・2H・2Na・2H2O(EDTA塩純分換算で0.18g相当)、重合性モノマーとして20gのアクリルアミド、架橋性モノマーとして0.03gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド、粘着付与剤として2.5gのアクリル酸とメタクリル酸の共重合体の20重量%水溶液(日本純薬社製ジュリマーAC−20H、アクリル酸:メタクリル酸=7:3(モル比))、重合開始剤として0.12gのイルガキュア2959、電解質として2gの塩化ナトリウムを順に加えて攪拌して、均一に溶解することで、無色透明な光ゲル化用組成物(pH4)を作製した。
【0064】
得られた光ゲル化用組成物の熱保管安定性を確認したところ20日間経過してもゲル化しなかった。また、20日間経過後の組成物を重合したところ良好なハイドロゲルが得られた。得られたハイドロゲルの残存モノマー量及び粘着力の測定結果を表1に示す。
【0065】
(比較例1)
グリセリンを57.85gとし、EDTA・2H・2Na・2H2Oを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして光ゲル化用組成物(pH6)を作製した。
得られた光ゲル化用組成物の熱保管安定性を確認したところ6日後にゲル化した。また、ゲル化したため重合することはできなかった。なお、実施例との比較のため、光ゲル化用組成物作製後、直ちにハイドロゲルを作製し、このゲルの残存モノマー量及び粘着力を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例2)
グリセリンを57.8gとし、クエン酸を0.05g添加したこと以外は比較例1と同様にして光ゲル化用組成物(pH5)を作製した。
得られた光ゲル化用組成物の熱保管安定性を確認したところ6日後にゲル化した。また、ゲル化したため重合することはできなかった。
【0067】
(比較例3)
EDTA・2H・2Na・2H2Oの代わりに、0.02gのグリシン(キシダ化学社製試薬特級)を添加したこと以外は実施例1と同様にして光ゲル化用組成物(pH6)を作製した。
得られた光ゲル化用組成物の熱保管安定性を確認したところ5日後にゲル化した。また、ゲル化したため重合することはできなかった。
【0068】
(比較例4)
EDTA・2H・2Na・2H2Oの代わりに、0.02gのDL−アラニン(キシダ化学社製試薬特級)を添加したこと以外は実施例1と同様にして光ゲル化用組成物(pH6)を作製した。
得られた光ゲル化用組成物の熱保管安定性を確認したところ7日後にゲル化した。また、ゲル化したため重合することはできなかった。
【0069】
(比較例5)
グリセリンを57.84gとし、EDTA・2H・2Na・2H2Oの代わりに、0.01gのヒドロキノン(和光純薬社製試薬特級)を添加したこと以外は実施例1と同様にして光ゲル化用組成物(pH6)を作製した。
得られた光ゲル化用組成物の熱保管安定性を確認したところ7日後にゲル化した。また、ゲル化したため重合することはできなかった。
【0070】
(比較例6)
グリセリンを57.35gとし、EDTA・2H・2Na・2H2Oを添加しなかったこと以外は実施例7と同様にして光ゲル化用組成物(pH4)を作製した。
得られた光ゲル化用組成物の熱保管安定性を確認したところ1日後にゲル化した。また、ゲル化したため重合することはできなかった。なお、実施例との比較のため、光ゲル化用組成物作製後、直ちにハイドロゲルを作製し、このゲルの残存モノマー量及び粘着力を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から、実施例では高温で20日間経過後も保管状態は良好であったが、比較例は7日までに全てゲル化し、高温で長期間保管できないことが確認された。また、実施例の20日間高温保管後の光ゲル化用組成物から得られたハイドロゲルは良好なゲルであった。
【0073】
また、実施例のハイドロゲルの残存モノマー量は、何れも50ppmを下回り、十分に残存モノマーが低減されていることが確認された。従って、反応性は損なわれておらず、光ゲル化用組成物の劣化は認められなかった。
【0074】
更に、表1の実施例1と比較例1、実施例7と比較例6のハイドロゲルの残存モノマー量及び粘着力を比較すると、配位子を4以上有するアミノカルボン酸誘導体を添加しても性能が変動しないことが確認できた。なお、比較例1及び6は組成物作製直後にハイドロゲルを作製している。
なお、実施例及び比較例で使用した原料の使用量を表2にまとめて示す。
【0075】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合反応性及び水溶性の重合性モノマーと、架橋性モノマーと、水と、多価アルコールと、光重合開始剤と、配位子を4以上有するアミノカルボン酸誘導体とを含むことを特徴とする光ゲル化用組成物。
【請求項2】
前記アミノカルボン酸誘導体が、光ゲル化用組成物全体に対して、0.005〜0.1重量%含まれる請求項1に記載の光ゲル化用組成物。
【請求項3】
前記アミノカルボン酸誘導体が、ニトリロ四酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸及びそれらの塩から選択される請求項1又は2に記載の光ゲル化用組成物。
【請求項4】
更に、光ゲル化用組成物全体に対して、0.03〜3重量%のアクリル酸とメタクリル酸の共重合体を含有する請求項1〜3のいずれか1つに記載の光ゲル化用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の光ゲル化用組成物を重合して得られるハイドロゲル。

【公開番号】特開2007−84710(P2007−84710A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275936(P2005−275936)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】