説明

光センサおよび測距方法

【課題】良好な精度と応答性を両立した光センサおよび測距方法を提供する。
【解決手段】測定の基準となる基準距離を予め設定し、物体までの距離がその基準距離よりも近いか遠いかを判定する。また、基準距離を段階的に切り替えながら上記判定処理を繰り返して、物体の存在領域を絞り込むことによって、物体までの距離を測定する。このような処理であれば、受光信号全体を詳細にサンプリングせずとも、十分な精度の判定結果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を利用して物体の有無、距離等を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光パルスを用いた測距装置が知られている。例えば、飛行時間(TOF;Time of Flight)計測方式の光センサでは、光パルスが物体で反射して戻ってくるまでの時間から距離を測定する(特許文献1〜5参照)。
【0003】
TOF計測方式の光センサでは、通常、距離分解能を高めるために極小時間幅の光パルスを用いる。そして、受信側では、いわゆる等価サンプリングによって受光パルスを時間軸伸張し、受信感度を確保する。また、同一点を複数回サンプリングし平均化することで、ノイズの影響を低減し、精度の向上を図る手法も多用される。特にLEDのような低速な発光デバイスを用いた場合はパルスの立ち上がりエッジがなまるために、平均化によるS/N比の向上が有効である。
【特許文献1】特開平2−228579号公報
【特許文献2】特開平5−172945号公報
【特許文献3】特開平5−223928号公報
【特許文献4】特開平6−258432号公報
【特許文献5】特開平5−288515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、等価サンプリングや平均化を行った場合、精度の向上は達成できるものの、応答性の低下を招いてしまうという問題がある。例えば、10MHzで光パルスを照射し、1万倍の時間軸伸張と1000点の平均を行った場合には、応答性(測定時間)は1secまで低下することになる。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、良好な精度と応答性を両立した光センサおよび測距方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明では、測定の基準となる基準距離を設定し、物体までの距離がその基準距離よりも近いか遠いかを判定する。このような判定処理であれば、受光信号全体を詳細にサンプリングせずとも、十分な精度の判定結果を得ることが可能である。よって、サンプリング回数を大幅に減らし、測定時間の短縮を図ることができる。
【0007】
また、基準距離を段階的に切り替えながら上記判定処理を繰り返して、物体の存在領域を絞り込むことによって、物体までの距離を測定することも好ましい。かかる測距処理によれば、従来の光センサに比べて格段に少ないサンプリング回数で測距を行うことが可能となる。
【0008】
具体的には、以下のような構成を採用することが好ましい。
【0009】
本発明の第1態様では、光パルスを照射する発光手段と、光を受光する受光手段と、受光手段から得られる受光信号をサンプリングするサンプリング手段と、サンプリングされた信号を処理する処理手段と、を備えた光センサにおいて、測定の基準となる基準距離が予め設定されており、発光手段は、時間t(ただし、t=2×基準距離/光速)よりも長
いパルス幅をもつ光パルスを照射し、サンプリング手段は、光パルスの照射時刻から時間t経過後のタイミング(以下、基準距離タイミングという。)で受光信号をサンプリングし、処理手段は、サンプリングされた信号のレベルが閾値を超えているか否かで、物体までの距離が基準距離よりも近いか遠いかを判定する。
【0010】
光パルスのパルス幅が時間tよりも長いため、基準距離より近くに物体が存在する場合は必ず基準距離タイミングにおいて受光パルスが観測される。一方、基準距離よりも遠くに物体が存在する場合(測定可能範囲内に物体がまったく存在しない場合は、無限遠に物体が存在するものとみなす)には、基準距離タイミングにおいて受光パルスは観測されない。よって、その基準距離タイミングで受光信号をサンプリングするだけで、物体と基準距離との相対的位置関係を精度良く判定することができる。サンプリング回数としては、1回でもよく、複数回行ってもよい。
【0011】
本発明の第2態様では、光パルスを照射する発光手段と、光を受光する受光手段と、受光手段から得られる受光信号の最大レベルを保持し、その保持している最大レベルを最大値信号として出力する最大値保持手段と、最大値信号をサンプリングするサンプリング手段と、サンプリングされた信号を処理する処理手段と、を備えた光センサにおいて、測定の基準となる基準距離が予め設定されており、サンプリング手段は、光パルスの照射時刻から時間t(ただし、t=2×基準距離/光速)経過後のタイミングで最大値信号をサンプリングし、処理手段は、サンプリングされた信号のレベルが閾値を超えているか否かで、物体までの距離が基準距離よりも近いか遠いかを判定する。
【0012】
この構成によれば、受光パルス出現後はそのピークレベルが保持された信号が得られる。すなわち、パルス幅が時間tより短い場合であっても、第1態様における受光信号と実質的に同じ波形の信号が得られるのである。したがって、光パルスのパルス幅によらず、第1態様と同様、基準距離タイミングでサンプリングを行うだけで基準距離に対する物体の遠近を判定することができるようになる。そして、短いパルス幅の光パルスを用いれば、光パルスの照射時間を減らせるため、消費電力を低減することができるという利点もある。
【0013】
ここで、受光パルスのピークレベルと閾値の比がほぼ一定となるように、受光信号または閾値のレベルを調整する調整手段を設けることも好ましい。調整手段の構成は種々考えられるが、たとえば受光信号のレベルを調整する場合には、受光手段の後段にAGC(オート・ゲイン・コントロール)を設ければよい。また、閾値のレベルを調整する場合には、受光信号(受光パルス)のピークレベルを一旦保持し、そのピークレベルの所定の割合に閾値を設定すればよい。このように調整手段にてピークレベルと閾値の比を調整することで、閾値判定の精度をほぼ一定に保つことができる。
【0014】
本発明の第3態様では、光パルスを照射する発光手段と、光を受光する受光手段と、受光手段から得られる受光信号をサンプリングするサンプリング手段と、サンプリングされた信号を処理する処理手段と、を備えた光センサにおいて、測定の基準となる基準距離が予め設定されており、発光手段は、一定の周期で光パルスを繰り返し照射し、サンプリング手段は、受光された光パルス部分のサンプリング漏れが生じない程度の粗い間隔で、各周期におけるサンプリングタイミングを徐々に遅延させていくことによって、受光信号の時間軸伸張を行い、処理手段は、時間軸伸張波形のピークが光パルスの照射時刻から時間t(ただし、t=2×基準距離/光速)経過後に相当するタイミングよりも後に現れるか否かで、物体までの距離が基準距離よりも近いか遠いかを判定する。
【0015】
この構成によれば、従来の等価サンプリングよりも大幅に少ないサンプリング回数で判定処理を行うことができ、測定時間の短縮を図ることができる。第3態様も、第2態様と
同様、時間tよりも短いパルス幅の光パルスを用いた場合に有効である。
【0016】
第3態様において、時間軸伸張波形のピークが、光パルスの照射時刻から時間t経過後に相当するタイミングの近傍に現れた場合には、サンプリング手段は、光パルスの照射時刻から時間t経過後のタイミングでさらに受光信号をサンプリングし、処理手段は、そのサンプリングされた信号も判定処理に利用することが好ましい。
【0017】
すなわち、物体が基準距離から大きく離れており、遠近の判定が容易な場合には、粗く掃引するだけで迅速に判定処理を行う。その一方で、物体が基準距離近傍に存在し、遠近の判定が難しい場合には、詳細なサンプリングを行って判定精度を向上するのである。これにより、応答性と精度の両立を図ることができる。
【0018】
また、時間軸伸張の途中でピークが観測された場合には、発光手段は次の測定期間まで光パルスの照射を停止することが好ましい。さらに、サンプリング処理を停止してもよい。このように無駄なパルス照射や処理を省略することにより、消費電力を低減することができる。
【0019】
発光手段の照射時刻は、たとえば、光の照射タイミングを決定する送信クロックから得ることができる。あるいは、発光手段から照射された光を直接受光する第2の受光手段をさらに備え、サンプリング手段が、第2の受光手段が光パルスを受光した時刻を発光手段の照射時刻とすることも好適である。後者の構成によれば、実際の照射時刻を正確に取得できるので、判定処理の精度が向上する。
【0020】
本発明の第4態様では、正弦波または矩形波に変調された光を照射する発光手段と、光を受光する受光手段と、受光手段から得られる受光信号をサンプリングするサンプリング手段と、サンプリングされた信号を処理する処理手段と、を備えた光センサにおいて、測定の基準となる基準距離が予め設定されており、発光手段は、時間tの2倍(ただし、t=2×基準距離/光速)よりも長い周期をもつ正弦波または矩形波を照射し、受光手段は、受光信号のDC成分をカットし、サンプリング手段は、正弦波または矩形波の振動中心に相当する時刻から時間t経過後のタイミングで受光信号をサンプリングし、処理手段は、サンプリングされた信号の極性に基づき、物体までの距離が基準距離よりも近いか遠いかを判定する。
【0021】
正弦波または矩形波の半周期が、正弦波または矩形波が基準距離を往復する時間tよりも長いため、基準距離タイミングでサンプリングされる信号レベルは、物体までの距離が基準距離に一致する場合にちょうどゼロとなり、基準距離よりも近いか遠いかで極性が反転する。よって、その基準距離タイミングで受光信号をサンプリングするだけで、物体と基準距離との相対的な位置関係を精度良く判定することができる。
【0022】
また、信号の極性がプラスかマイナスかで判定できるため、閾値判定に比べて判定のばらつきが小さい。さらに、正弦波または矩形波を用いているので、帯域カットによりノイズを効果的に除去できるという利点もある。
【0023】
なお、「正弦波または矩形波の振動中心に相当する時刻」とは、発光手段から照射する光の強度が(最大値−最小値)/2となる時刻をいう。あるいは、発光手段から照射する光の正弦波または矩形波のDC成分をカットしたときに、その信号がゼロクロスする時刻ということもできる。この時刻は、たとえば、発光手段の変調制御の内容から推定することができる。あるいは、発光手段から照射された光を直接受光し、かつ、その受光信号のDC成分をカットする第2の受光手段を設け、サンプリング手段が、第2の受光手段の出力信号がゼロクロスする時刻を前記振動中心に相当する時刻とすることも好適である。
【0024】
サンプリング手段は、サンプリングタイミングが微少時間ずつずれた複数のサンプリング手段からなり、複数のサンプリング手段によって同一の受光信号をサンプリングし、それらの信号を平均することも好ましい。
【0025】
これにより、ノイズの影響を排除してS/N比の良好な信号を得ることができる。しかも、同一の受光信号から複数点のサンプリングを行うものであるため、応答性の低下を招くことがない。
【0026】
基準距離を設定する基準距離設定手段をさらに備えることも好ましい。基準距離設定手段の構成は種々考えられ、たとえば、ユーザが手動で基準距離を設定できるようにしてもよい。あるいは、設置された物体までの距離を光センサ自身が測距し、測定された距離を基準距離に自動設定することも好適である。
【0027】
以上のように、本発明の光センサによれば、基準距離よりも近くに物体が存在するか、遠くに物体が存在するかを精度良く判定することができる。そして、この判定処理機能を利用すれば、次のように物体までの距離を測距することも可能である。
【0028】
たとえば、測定対象範囲を2つの領域に分割するように基準距離を設定した上で、その基準距離よりも近い領域と遠い領域のいずれに物体が存在するかを判定し、物体が存在する側の領域を新たな測定対象範囲に設定し、上記処理を複数回繰り返して物体の存在領域を絞り込むことによって、物体までの距離を測定すればよい。
【0029】
かかる構成によれば、従来方式に比べて格段に少ないサンプリング回数で高精度に測距を行うことができる。
【0030】
また、絞り込みの過程において、絞り込みの進行度合いに応じて判定処理の精度を高くすることが好ましい。すなわち、測定対象範囲が広い絞り込みの初期段階では判定精度を低くし、絞り込みが進んで測定対象範囲が狭くなるにつれ判定精度を上げていくのである。これにより、処理の高速化と測距精度の向上とを両立することができる。
【0031】
なお、上述した構成の光センサに限らず、物体までの距離が基準距離よりも近いか遠いかを判定可能な機能を有してさえいれば、位相差方式、三角測距方式、PN符号方式などいずれの方式の光センサであっても、上記本発明に係る測距方法を適用可能である。
【0032】
なお、本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する光センサもしくは光測距装置として捉えることができる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む物体距離判定方法もしくは測距方法、または、かかる方法を実現するためのプログラムとして捉えることもできる。上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、少ないサンプリング回数で高精度に物体の有無または距離を測定できるため、良好な精度と応答性の両立を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0035】
<第1実施形態>
(ハードウェア構成)
図1を参照して本発明の第1実施形態に係る光センサについて説明する。図1は、第1実施形態に係る光センサのハードウェア構成を示すブロック図である。
【0036】
この光センサは、設定された基準距離よりも近い領域内に物体が存在するか否か、もしくは、基準距離よりも遠い領域内に物体が存在するか否か、または、近い領域と遠い領域のいずれに物体が存在するか、などの検知を行うセンサである。このような光センサの用途としては、たとえば、ベルトコンベア上を搬送される物品の検知、ゲートを通過する車両の検知などが想定される。すなわち、検知対象となる物体の移動経路や存在領域がある程度定まっており、その限られた範囲内における物体の有無を検知すれば足りるような場面で用いられる。
【0037】
光センサは、図1に示すように、送信クロック生成部1、パルス生成部2、駆動回路3、発光素子4、受光素子5、増幅器6、遅延時間生成器7、タイミングパルス生成部8、サンプリングホールド部9、比較器10、閾値発生器11、および、マイクロコントローラ12を有して構成される。
【0038】
送信クロック生成部1は、送信クロック信号を生成する回路である。この送信クロック信号は、パルス生成部2に入力され、照射光パルスを生成するための基準クロック信号として利用される。また、送信クロック信号は遅延時間生成器7にも入力される。
【0039】
パルス生成部2は、送信クロック信号を所定幅のパルス信号に変換する回路である。本実施形態では、下記式で表される時間Tに等しいパルス幅のパルス信号が生成される。
T=2×Lmax/c
Lmax:光センサの測定可能範囲(距離)
c:光速
【0040】
駆動回路3は、パルス信号に基づいて電流を変調し、その電流を発光素子4に供給することによって発光素子4を駆動する回路である。
【0041】
発光素子4は、電気エネルギーを光エネルギーに変換し、光パルスを空間に放射する素子である。発光素子4としては、LEDやレーザダイオードなどのデバイスを用いることができるが、本実施形態ではLEDを採用する。
【0042】
受光素子5は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する素子であり、フォトダイオードなどのデバイスで構成可能である。受光素子5から出力される受光信号は、増幅器6にて電圧波形へ変換・増幅され、サンプリングホールド部9へ出力される。
【0043】
本実施形態では、発光素子4が本発明の発光手段に対応し、受光素子5および増幅器6が本発明の受光手段に対応する。
【0044】
遅延時間生成器7は、送信クロック信号(光パルスの照射時刻に相当する。)に対して所定の遅れ時間t1をもった遅延信号を生成する回路である。遅れ時間t1は下記式で表される。
t1=2×L/c
L:基準距離,L<Lmax
【0045】
なお、基準距離Lとは測定の基準となる距離であって、製品製造時にプリセットされるか、測定の前に手動にて予め設定されるパラメータである。ただし、このパラメータの内部的な保持形式は距離値である必要はなく、時間換算値や独自形式の値で保持してもよい。基準距離Lは、光センサの測定可能距離Lmaxよりも小さい値をとる。
【0046】
タイミングパルス生成部8は、遅延時間生成器7から入力された遅延信号に基づきサンプリングパルスを生成する回路である。ここでは、光パルスの照射時刻から時間t1経過後に出現するようなサンプリングパルスが生成される。
【0047】
サンプリングホールド部9は、タイミングパルス生成部8から入力されたサンプリングパルスに従って、受光信号をサンプリング(標本化)するサンプリング手段である。サンプリングされた信号は比較器10に入力される。
【0048】
比較器10は、サンプリングされた信号のレベルと閾値発生器11から入力された閾値とを比較する回路である。その比較結果の信号は、マイクロコントローラ12に入力される。
【0049】
マイクロコントローラ12は、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、CPU、メモリなどから構成された回路であり、メモリに格納されているプログラムに従って種々のディジタル信号処理を実行可能である。本実施形態では、比較器10、閾値発生器11およびマイクロコントローラ12が本発明の処理手段に対応する。
【0050】
(遠近判定処理)
次に、上記構成の光センサにおける遠近判定処理について説明する。
【0051】
まず、送信クロック生成部1で生成された送信クロック信号に同期して、発光素子4から幅Tの光パルスが照射される。測定可能範囲内に物体が存在するときには、物体で光パルスが反射され、その反射光が受光素子5で受光される。受光素子5の出力(受光信号)は増幅器6で増幅された後、サンプリングホールド部9に入力される。
【0052】
図2に照射光パルスと受光信号の波形を示す。物体までの距離が基準距離Lに等しい場合には、図2(a)に示すように、パルス照射時刻から時間t1経過後のタイミング(以下、「基準距離タイミングt1」という。)に受光信号の立ち上がりが現れる。また、物体までの距離が基準距離Lよりも近い場合には、図2(b)に示すように、基準距離タイミングt1よりも前に受光パルスが到達する。光パルスのパルス幅TはT>t1の関係を満たすため、この場合には、基準距離タイミングt1にて必ず受光パルスが観測されることになる。一方、物体までの距離が基準距離Lよりも遠い場合には、図2(c)に示すように、基準距離タイミングt1の時点では受光パルスが返ってこない(観測されない)。
【0053】
換言すれば、基準距離タイミングt1における受光信号レベルがLOW(受光パルス以外の部分)の場合は、物体が基準距離Lよりも遠くにあり、受光信号レベルがHI(受光パルスの部分)の場合は、物体が基準距離Lよりも近くにある、といえる。
【0054】
本実施形態の遠近判定処理はこの特性を利用したものである。すなわち、サンプリングホールド部9によって、基準距離タイミングt1の1点だけで受光信号をサンプリングし、比較器10によって、サンプリングされた信号のレベルと閾値を比較し、その結果をマイクロコントローラ12に渡す。マイクロコントローラ12では、信号レベルが閾値を超えているか否かで、物体までの距離が基準距離Lよりも近いか遠いかを判定するのである。
【0055】
かかる判定処理によれば、1点のサンプリングだけで物体と基準距離Lとの相対的位置関係を精度良く判定することができる。よって、受光信号全体を詳細にサンプリング(時間軸伸張)して波形を調べる処理が不要となり、従来方式に比べて応答性を格段に向上することができる。なお、基準距離タイミングt1におけるサンプリングは、1回実行する
だけでもよいが、好ましくは複数回実行してそれらを平均化するとよい。平均をとることにより、ノイズを低減して、遠近判定処理の精度を向上することができる。
【0056】
<第1実施形態の変形例1>
図3は、第1実施形態に係る光センサの変形例1を示している。第1実施形態では閾値を固定にしていたのに対し、この変形例1では、受光パルスのピークレベルと閾値の比がほぼ一定となるように閾値のレベルを調整する。
【0057】
一般に、物体までの距離や物体の反射面の状態などによって、受光素子5で受光される光の強度は変化する。よって、図4(a)に示すように、受光信号強度(レベル)が高い場合と低い場合とでは、同じタイミングでサンプリングしたとしても、閾値判定の結果が異なる場合が生ずる。本変形例1は、この点を改善すべく、閾値のレベルを動的に変化させるものである。
【0058】
詳しくは、図3に示すように、第1実施形態の構成に加え、ピーク検知回路13と分圧器14とを設ける。これらの回路が本発明の調整手段に対応する。ピーク検知回路13は、増幅器6から入力された受光信号からピークレベル(つまり、受光信号に含まれる受光パルス部分の最大電圧)を検知する回路であり、また分圧器14は、ピーク検知回路13から入力されたピークレベルを所定の割合に分圧する回路である。本実施形態では50%に分圧する分圧器14を用いている。
【0059】
上記構成においては、初回測定時に、受光信号のピークレベルを取得し、その50%の値を閾値として比較器10に設定する。そして、2回目以降の測定では、第1実施形態と同様、基準距離タイミングt1で1点サンプリングを実施し、サンプリングされた信号のレベルと閾値とを比較し、物体の遠近を判定する。
【0060】
これにより、図4(b)に示すように、受光信号強度によらず、物体までの距離が同じであれば同一の閾値判定結果が得られるようになり、判定処理の精度および信頼性が向上する。
【0061】
<第1実施形態の変形例2>
図5は、第1実施形態に係る光センサの変形例2を示している。上記変形例1では閾値のレベル調整を行ったのに対し、この変形例2では、受光信号のレベル調整を行う。狙いとする効果は、変形例1と同じである。
【0062】
詳しくは、図5に示すように、第1実施形態の増幅器6に代えて、AGCアンプ15を設ける。AGCアンプ15は、受光信号のピークレベルが一定になるように増幅率を自動調整する回路である。このAGCアンプ15が本発明の調整手段に対応する。
【0063】
この構成によれば、物体までの距離や物体の反射面の状態によらず、サンプリング対象となる受光信号のピークレベルがほぼ一定となる。よって、固定閾値を用いた場合であっても、物体までの距離が同じであれば同一の判定結果が得られるようになり、判定処理の精度および信頼性が向上する。
【0064】
<第1実施形態の変形例3>
第1実施形態では、送信クロック信号から光パルスの照射時刻を得ている。しかしながら、送信クロック生成部1の出力信号が発光素子4に到達するまでにある程度の時間的遅れが存在するため、厳密にいうと、送信クロック信号と光パルスの照射時刻の間に僅かながらズレが生じる。また、そのズレ量は回路の温度特性に依存して変動する。よって、送信側の回路構成を工夫したり温度補償回路を設けるなどして、時間的遅れや温度特性を補
償することが好ましいといえる。
【0065】
これに対し、変形例3では、発光素子から照射された光パルスを直接受光して、その受光時刻を光パルスの照射時刻として利用する構成を採用する。詳しくは、図6に示すように、第1実施形態の構成に加えて、受光素子16と増幅器17とを設ける。受光素子16は、発光素子4の照射光を直接受光できるように、発光素子4に近接して配置される。これら受光素子16および増幅器17が本発明の第2の受光手段に対応する。
【0066】
上記構成において、発光素子4から光パルスが照射されると、同時にその光が受光素子16にて受光される。その受光パルスは増幅器17で増幅された後、遅延時間生成器7に入力される。遅延時間生成器7は、その受光パルスに対して所定の遅れ時間t1をもった遅延信号を生成し、遅延信号をタイミングパルス生成部8に入力する。これ以外の動作は第1実施形態のものと同様である。
【0067】
かかる構成によれば、実際のパルス照射時刻を正確に取得できるので、判定処理の精度が向上する。しかも、温度補償回路などの追加が不要のため、コスト的に有利である。
【0068】
<第1実施形態の変形例4>
図7は、第1実施形態に係る光センサの変形例4を示している。本変形例4は複数のサンプリングホールド部を並列に設けたところに特徴がある。
【0069】
ハードウェア構成としては、増幅器6の後段に3つのサンプリングホールド部9a,9b,9cを並列に配するとともに、タイミングパルス生成部8の後段に2つの微少時間遅延部18a,18bを直列に設ける。第1のサンプリングホールド部9aにはタイミングパルス生成部8からのサンプリングパルスがそのまま入力されるのに対し、第2のサンプリングホールド部9bには時間Δtだけ遅延したサンプリングパルスが入力され、第3のサンプリングホールド部9cには時間Δt×2だけ遅延したサンプリングパルスが入力される。また本変形例では、比較器と閾値発生器を無くし、サンプリングホールド部9a,9b,9cの出力を直接マイクロコントローラ12に渡している。
【0070】
上記構成において、受光素子5の受光信号は増幅された後、3つのサンプリングホールド部9a,9b,9cに同時に入力される。一方、タイミングパルス生成部8からは、パルス照射時刻から時間t1−Δtだけ遅延したサンプリングパルスが供給される。そうすると、図8に示すように、サンプリングホールド部9a,9b,9cがそれぞれ「t1−Δt」,「t1」,「t+Δt」のタイミングで同一の受光信号をサンプリングする。このようにしてサンプリングされた3つの信号は、マイクロコントローラ12によってA/D変換され、ディジタル信号処理によって平均される。そして、その平均値と閾値とを比較し、物体と基準距離Lとの相対的位置関係が判定される。
【0071】
かかる構成によれば、ノイズの影響を排除してS/N比の良好な信号を得ることができる。しかも、同一の受光信号から複数点のサンプリングを行うものであるため、応答性の低下を招くことがない。
【0072】
<第1実施形態のその他の変形例>
なお、上述した変形例1〜4の各構成を組み合わせることも好ましい。その一例として、変形例2と変形例3を組み合わせた光センサの構成を図9に示す。このような構成によって判定精度のさらなる向上を図ることができる。
【0073】
また、基準距離タイミングt1におけるサンプリングを複数回繰り返し、それらの信号の平均をとることで、精度を向上することも好ましい。このような平均処理を行ったとし
ても、従来方式に比べれば十分な応答性が得られる。
【0074】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。上記第1実施形態では、時間t1よりも長い光パルスを用いていたのに対し、第2実施形態では、時間t1よりも短いパルス幅(たとえば極小時間幅)の光パルスを用いる。
【0075】
このようなパルス幅の短い光パルスを用いた場合、第1実施形態と同じ手法では物体の遠近を判別することができない。なぜなら、物体までの距離が基準距離Lよりも近いと、基準距離タイミングt1より前に受光パルスが通過してしまうことがあり(図10(a)参照)、基準距離タイミングt1における1点サンプリングでは、物体までの距離が基準距離Lよりも遠い場合(図10(b)参照)と区別できないからである。
【0076】
そこで本実施形態では、図11に示すように、増幅器6の後段に最大値保持手段としてのピーク保持回路20を追加する。このピーク保持回路20は、受光信号の最大レベルを保持し、その保持している最大レベルを最大値信号として出力するものである。ピーク保持回路20の保持値は、パルス生成部2からの信号によって測定周期毎にリセットされる。
【0077】
この構成によれば、図12に示すように、受光パルス出現後はそのピークレベルが保持された信号がサンプリングホールド部9に入力されることになる。この最大値信号は、第1実施形態における受光信号と実質的に同じ波形の信号であるため、基準距離タイミングt1における信号レベルを観測するだけで、物体までの距離が基準距離Lよりも近いか遠いかを判別することができる。
【0078】
したがって、本実施形態においても第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。加えて、光パルスの照射時間を大幅に減らすことができるため、光センサの消費電力を低減することが可能となる。なお、本実施形態の場合も、第1実施形態の変形例に準じた変形を行えば、判定処理の精度および信頼性をさらに向上することができる。
【0079】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態でも時間t1よりも短いパルス幅(たとえば極小時間幅)の光パルスを用いるが、上記第2実施形態では最大値保持手段により受光信号を変換したのに対し、本実施形態では受光信号を粗い間隔で時間軸伸張することにより遠近判定を行う点で異なる。
【0080】
光センサのハードウェア構成としては、図13に示すように、第1実施形態の遅延時間生成器7に代えて電圧−遅延時間変換器30を設けるとともに、鋸波生成部31および定電圧生成部32を追加する。
【0081】
鋸波生成部31は、線形増加する電圧を出力する回路であり、その傾きは可変である。また、定電圧生成部32は一定の電圧を出力する回路である。定電圧生成部32の出力電圧は、基準距離Lに対応した値に設定されている。電圧−遅延時間変換器30は、入力された電圧に比例した遅延信号を生成する回路である。つまり、鋸波生成部31から入力される電圧は、徐々に遅延時間が拡大するような遅延信号に変換され、一方、定電圧生成部32から入力される電圧は、一定の遅延時間t1をもつ遅延信号に変換される。
【0082】
上記構成の光センサにおける遠近判定処理は次のように行う。
【0083】
まず、送信クロック信号に同期した一定の周期で、発光素子4から極小時間幅の光パル
スを繰り返し照射する。物体で反射した光パルスは受光素子5で受光され、増幅された後、順次サンプリングホールド部9に入力される。
【0084】
一方、電圧−遅延時間変換器30は、鋸波生成部31からの出力電圧に基づき遅延信号を生成し、タイミングパルス生成部8に供給する。よって、サンプリングパルスとしては、各周期におけるサンプリングタイミングが徐々に遅延していくような信号が生成される。
【0085】
ここでの遅延間隔は、通常の等価サンプリングにおける間隔に比べてかなり粗くてもよく、少なくとも、受光パルス部分のサンプリング漏れが生じない程度の間隔であれば足りる。たとえば、パルス幅の半分ないし4分の1程度の間隔でも十分である。
【0086】
サンプリングホールド部9は、上記サンプリングパルスに従って、各周期の受光信号をサンプリングし、受光信号の時間軸伸張を行う。そして、マイクロコントローラ12が、時間軸伸張波形のピークが基準距離タイミング(実際には時間軸伸張の拡大率を考慮する必要があるため、基準距離タイミングt1に相当する時刻t1′)よりも後に現れるか否かで、物体までの距離が基準距離Lよりも近いか遠いかを判定する。
【0087】
このとき、時間軸伸張波形のピークが基準距離タイミングt1′から明らかに離れていることが判ったら、この時点で判定結果を出力し処理を終える。しかし、ピークが基準距離タイミングt1′の近傍に現れた場合には、さらに詳細なサンプリングを実施する。
【0088】
具体的には、電圧−遅延時間変換器30に入力する電圧を定電圧生成部32のものに切り替え、サンプリングホールド部9で基準距離タイミングt1でのサンプリングが行われるようにする。そして、そのタイミングで複数回サンプリングを行い、得られた信号を積算平均し、詳細な遠近判定を行う。
【0089】
以上述べた本実施形態によれば、従来の等価サンプリングよりも大幅に少ないサンプリング回数で判定処理を行うことができ、測定時間の短縮を図ることができる。また、物体が基準距離Lから大きく離れており、遠近の判定が容易な場合には、粗く掃引するだけで迅速に判定処理を行う一方、物体が基準距離L近傍に存在し、遠近の判定が難しい場合には、詳細なサンプリングを行って判定精度を向上するので、応答性と判定精度の両立を図ることができる。加えて、光パルスの照射時間を大幅に減らすことができるため、光センサの消費電力を低減することが可能となる。
【0090】
<第3実施形態の変形例1>
図14は、第3実施形態に係る光センサの変形例1を説明するための図であり、照射光パルス、受光信号、サンプリングパルス、および時間軸伸張波の波形を示している。
【0091】
この変形例1では、マイクロコントローラ12が時間軸伸張波形を逐次監視しており、時間軸伸張の途中でピーク(受光パルス部分)が観測された場合には、パルス生成部2とタイミングパルス生成部8に停止信号を送って、次の測定期間まで光パルスの照射およびサンプリング処理を停止させる。
【0092】
かかる制御により、無駄なパルス照射や処理を省略することができ、消費電力の低減を図ることが可能となる。
【0093】
<第3実施形態の変形例2>
上述した構成では、製品製造時もしくは測定時に手動で基準距離Lを設定することとしたが、変形例2では、ティーチング機能により基準距離Lを自動設定する。ハードウェア
構成としては図13のものと同様である。
【0094】
ティーチングの際には、光センサと測定対象物体とを測定時と同じ位置関係に配置し、光センサのティーチングボタン(不図示)を押す。ティーチング時、光センサは一般的な飛行時間計測方式の測距センサとして動作する。
【0095】
まず、送信クロック信号に同期した一定の周期で、発光素子4から極小時間幅の光パルスを繰り返し照射する。物体で反射した光パルスは受光素子5で受光され、増幅された後、順次サンプリングホールド部9に入力される。一方、電圧−遅延時間変換器30は、鋸波生成部31からの出力電圧に基づき遅延信号を生成し、タイミングパルス生成部8に供給する。このとき、鋸波生成部31での出力電圧の傾きを、上述した測定時(遠近判定処理時)の傾きよりも小さくすることで、遅延間隔を細かくし、詳細な時間軸伸張波形を取得する。
【0096】
そして、この時間軸伸張波形の立ち上がりが閾値を超える時刻を特定し、光パルスの飛行時間を算出する。飛行時間の半分の値に光速を乗じたものが、物体までの距離である。
【0097】
マイクロコントローラ12は、このようにして測定された距離を定電圧生成部32に設定する。測定時(遠近判定処理時)には、この設定値が基準距離Lとして用いられる。
【0098】
以上の構成により、基準距離Lの自動設定を行うことができ、光センサの操作性が向上する。
【0099】
なお、このティーチング機能と同様の構成を第1実施形態や第2実施形態の光センサに適用することも可能である。また、第3実施形態の場合も、第1実施形態の変形例に準じた変形を行えば、判定処理の精度および信頼性をさらに向上することができる。
【0100】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態について説明する。上記第1〜第3実施形態では、光パルスを用いていたのに対し、第4実施形態では、矩形波(方形波ともいう)に変調された光を用いる。
【0101】
光センサのハードウェア構成としては、図15に示すように、第1実施形態の構成における受光素子5の後段にDCカット部40を加え、増幅器6の後段にバンドパスフィルタ41を追加したものである。比較器と閾値発生器は不要である。
【0102】
DCカット部40は、受光信号のDC成分をカットすることにより、受光信号強度の最大値と最小値の中央にグランド電位を設定する回路である。また、バンドパスフィルタ41は、不要な帯域をカットすることにより、矩形波を正弦波に整形するとともにノイズを除去するための回路である。なお、バンドパスフィルタ41は増幅器6の前段に設けてもよい。
【0103】
上記構成の光センサにおける遠近判定処理は次のように行う。
【0104】
パルス生成部2が、送信クロック信号に基づきパルス信号を生成する。このパルス信号に従って発光素子4から照射光が照射される。このとき、パルス信号のデューティー比を50%とすることで、図16(a)に示すような矩形波が得られる。なお、パルス信号のパルス幅は、矩形波の周期が時間t1の2倍よりも長くなるように設定される。ただし、時間t1は、矩形波が基準距離Lを往復する時間(t1=L/c)である。
【0105】
測定可能範囲に物体が存在するときには、物体で照射光が反射され、その反射光が受光素子5で受光される。受光素子5の出力(受光信号)は、DCカット部40でDCカットされ、増幅器6で増幅される。DCカット・増幅後の受光信号の波形を図16(b)に示す。その後、バンドパスフィルタ41を通すことで、図16(c)に示すような正弦波が得られる。
【0106】
本実施形態では、照射光(矩形波)の振動中心に相当する時刻から時間t1経過後の時刻を基準距離タイミングt1とし、この基準距離タイミングt1にて受光信号をサンプリングする。基準距離タイミングt1における受光信号のレベルは、物体までの距離が基準距離Lに等しいときはゼロになり、近いときはプラスになり、遠いときはマイナスになる。つまり、基準距離タイミングt1における信号レベルの極性を調べることにより、物体と基準距離Lとの相対的位置関係を判定できるのである。
【0107】
そこで本実施形態の遠近判定処理では、サンプリングホールド部9によって、基準距離タイミングt1の1点だけで受光信号をサンプリングし、その信号をマイクロコントローラ12に入力する。マイクロコントローラ12では、信号の極性がプラスかマイナスかで、物体までの距離が基準距離Lよりも近いか遠いかを判定する。
【0108】
かかる判定処理によれば、1点のサンプリングだけで物体と基準距離Lとの相対的位置関係を精度良く判定でき、従来方式に比べて応答性を格段に向上することができる。また、信号の極性がプラスかマイナスかで判定できるため、閾値判定に比べて判定のばらつきが小さい。さらに、正弦波または矩形波を用いているので、帯域カットによりノイズを効果的に除去できるという利点もある。ホワイトノイズレベルはスペクトル帯域幅のルートに比例するため、信号帯域を絞ることでS/N比の向上が期待できる。
【0109】
なお、ここでは矩形波の照射光を用いたが、正弦波に変調した照射光を用いても同様の作用効果を得ることができる。また、上記各実施形態やその変形例の構成を、本実施形態のものに組み合わせることも好ましい。
【0110】
<第5実施形態>
上記第1〜第4実施形態における遠近判定処理によれば、基準距離Lよりも近くに物体が存在するか、遠くに物体が存在するかを精度良く判定することができる。本発明の第5実施形態では、このような光センサの遠近判定処理機能を利用して、物体までの距離を測定する。
【0111】
以下、図17および図18を参照して、測距方法の処理の流れを詳しく説明する。なお、ここでは第1実施形態の光センサを用いた場合の処理を例示する。
【0112】
まず、ステップS1において、マイクロコントローラ12が測定対象範囲の値を初期化する。たとえば、光センサの測定可能範囲Lmaxが10メートルであった場合には、測定対象範囲の初期値を「0〜10メートル」に設定する。
【0113】
ステップS2では、マイクロコントローラ12が、測定対象範囲を2つの領域に分割するように基準距離L1を設定する。たとえば、測定対象範囲が「0〜10メートル」の場合なら、その半分である「5メートル」を基準距離L1に設定する。
【0114】
ステップS3では、ステップS2で設定された基準距離L1に対応する基準距離タイミングt1でサンプリングを実施し、サンプリングされた信号のレベルと閾値を比較することによって、基準距離L1よりも近い領域と遠い領域のいずれに物体が存在するか判定する。図18(a)の例では、基準距離L1よりも遠い領域に物体が存在する、という判定
結果が得られる。
【0115】
ステップS4では、マイクロコントローラ12が、上記判定結果に基づき、物体が存在する側の領域を新たな測定対象範囲に設定する。すなわち、図18(a)の例では、「5〜10メートル」の範囲が新たな測定対象範囲となる。
【0116】
ステップS5では、マイクロコントローラ12が、絞り込みを終了するか否か判断する。
【0117】
絞り込みを続行する場合には、再びステップS2〜S4の処理を繰り返す。すなわち、測定対象範囲「5〜10メートル」を二分する「7.5メートル」が新たな基準距離L2に設定され、図18(b)に示すように、基準距離L2に対応する基準距離タイミングt2に関して物体の遠近が判定される。その判定結果に基づき、さらに測定対象範囲が「5〜7.5メートル」が絞り込まれ、図18(c)に示すように、基準距離「6.25メートル」に対応する基準距離タイミングt3に関し物体の遠近判定が行われる。
【0118】
このように上記処理を複数回繰り返して物体の存在領域を徐々に絞り込んでいき、測定対象範囲の幅が分解能以下まで狭くなったときに絞り込みを終了する(ステップS5;YES)。
【0119】
ステップS6では、マイクロコントローラ12が、最終回の遠近判定で用いた基準距離(もしくは基準距離タイミング)とその判定結果から、物体までの距離を算出する。
【0120】
以上述べた本実施形態によれば、従来方式に比べて格段に少ないサンプリング回数で高精度に測距を行うことができる。具体的には、受信信号全体を掃引する方式に比べて、最低でもlog2(range/accuracy)倍の測定時間削減効果が得られる。
【0121】
<第5実施形態の変形例1>
第5実施形態では遠近判定結果に従って測定対象範囲を1/2ずつ絞り込んでいったが、変形例1では、遠近判定処理の精度(誤差)を考慮して、新たな測定対象範囲をやや広めに設定する。
【0122】
たとえば、図19(a)に示すように、遠近判定処理の精度(判定誤差範囲)が1メートルの場合、基準距離Lの±0.5メートルの範囲では誤判定が生じる可能性がある。このとき、物体が基準距離Lよりも近い領域NAに存在するにもかかわらず、遠い領域FAに存在すると誤判定されると、第5実施形態の処理では、図19(b)に示すように、物体の存在しない側の領域FAに新たな測定対象範囲が設定されることとなり、それ以降の絞り込み処理が正しく行えない。
【0123】
そこで変形例1では、測定対象範囲の絞り込みに際し、判定誤差範囲が必ず新たな測定対象範囲に含まれるように、測定対象範囲をやや広めに設定する。具体的には、図19(c)に示すように、物体が存在するという判定結果が得られた領域FA(5〜10メートルの範囲)に、判定誤差範囲(4.5〜5.5メートルの範囲)を加えた領域を、新たな測定対象範囲に設定するのである。
【0124】
これにより、仮に誤判定が生じたとしても、その影響を回避することができ、測距精度の向上を図ることができる。
【0125】
<第5実施形態の変形例2>
遠近判定処理の精度は、基準距離タイミングにおいて複数回サンプリングを行い、それ
らを平均化することにより向上する。理論的には、N点のサンプリングを行えば、判定誤差範囲の大きさは1/√Nになる。よって、サンプリング点数を多くとることにより、誤判定が生じる可能性自体を小さくすることもできる。
【0126】
とはいえ、サンプリング点数を多くするとその分、処理時間が増大する。
【0127】
そこで、さほど判定精度が必要とされない絞り込みの前半では平均化処理を行わないか、行ったとしてもサンプリング点数を少なくし、絞り込みの後半においてサンプリング点数を多くして精度を高めるようにするとよい。このように絞り込みの進行度合いに応じて(つまり遠近判定の要求精度が増すに従い)遠近判定処理の精度を高くすることにより、測距精度と応答性の両立を図ることができる。
【0128】
精度の設定法としては、たとえば、絞り込みの回数、測定対象範囲の大きさ(距離)、もしくは基準距離に概ね比例するようにサンプリング点数を増加させる方法、測定対象範囲の大きさから適切な判定誤差範囲を算出する方法など、種々のものが考えられ、いずれを採用してもよい。以下、判定誤差範囲の動的設定法の一具体例について述べる。
【0129】
本例では、単位時間あたりに絞り込み範囲から除外される領域が最大となるように、判定誤差範囲の大きさを決定する。
【0130】
i回目の遠近判定処理における測定対象範囲の大きさ(距離)を、LA
i回目の遠近判定処理における判定誤差範囲の大きさ(距離)を、a、とすると、
i+1回目の遠近判定処理における測定対象範囲の大きさ(距離)LAi+1は、式1となる。
【数1】

【0131】
すなわち、i回目の遠近判定処理にて絞り込み範囲から除外される領域LAi−は、式2で表すことができる。
【数2】

【0132】
上述したように、N点のサンプリングを行えば判定誤差範囲の大きさは1/√Nになるので、i回目の遠近判定処理にかかる時間Tは、式3を満たす。
【数3】

【0133】
よって、単位時間あたりに絞り込み範囲から除外される領域は、式4で表される。
【数4】

【0134】
式4の1次微分が0となる
【数5】

のときに、式4は最大値をとる。
【0135】
以上より、遠近判定処理の各段階において、式5を満たすように判定誤差範囲を動的に設定することにより、単位時間あたりに絞り込み範囲から除外される領域が最大となり、測距精度と応答性の両立を図ることができる。
【0136】
<第5実施形態のその他の変形例>
第5実施形態では分解能以下の範囲にまで絞り込みを行うこととしたが、絞り込みの途中段階においてパルス波形の立ち上がり部分が1点ないし複数点サンプリングされたら、その値から波形推定を行い、閾値を超える時刻を推定することも好ましい。これにより、応答性のさらなる向上を図ることができる。
【0137】
また、ここでは第1実施形態の光センサを用いた場合を例示したが、第2〜第4実施形態のいずれの光センサでも同様の測距処理を行うことができる。さらに、物体までの距離が基準距離よりも近いか遠いかを判定可能な機能を有してさえいれば、位相差方式、三角測距方式、PN符号方式などいずれの方式の光センサであっても、上記測距方法を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】第1実施形態に係る光センサのハードウェア構成を示すブロック図。
【図2】第1実施形態における照射光パルスと受光信号の波形を示す図。
【図3】第1実施形態に係る光センサの変形例1を示す図。
【図4】閾値のレベル調整を説明する図。
【図5】第1実施形態に係る光センサの変形例2を示す図。
【図6】第1実施形態に係る光センサの変形例3を示す図。
【図7】第1実施形態に係る光センサの変形例4を示す図。
【図8】図7の光センサにおけるサンプリング処理を説明する図。
【図9】図5と図6の光センサを組み合わせた構成を示す図。
【図10】パルス幅の短い光パルスを用いた場合の問題を説明する図。
【図11】第2実施形態に係る光センサのハードウェア構成を示すブロック図。
【図12】第2実施形態における照射光パルスと受光信号の波形を示す図。
【図13】第3実施形態に係る光センサのハードウェア構成を示すブロック図。
【図14】第3実施形態に係る光センサの変形例1を示す図。
【図15】第4実施形態に係る光センサのハードウェア構成を示すブロック図。
【図16】第4実施形態における照射光と受光信号の波形を示す図。
【図17】第5実施形態に係る測距方法の処理の流れを示すフローチャート。
【図18】図17の測距方法における絞り込み処理について説明する図。
【図19】第5実施形態に係る測距方法の変形例について説明する図。
【符号の説明】
【0139】
1 送信クロック生成部
2 パルス生成部
3 駆動回路
4 発光素子
5 受光素子
6 増幅器
7 遅延時間生成器
8 タイミングパルス生成部
9,9a,9b,9c サンプリングホールド部
10 比較器
11 閾値発生器
12 マイクロコントローラ
13 ピーク検知回路
14 分圧器
15 AGCアンプ
16 受光素子
17 増幅器
18a,18b 微少時間遅延部
20 ピーク保持回路
30 電圧−遅延時間変換器
31 鋸波生成部
32 定電圧生成部
40 DCカット部
41 バンドパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光パルスを照射する発光手段と、
光を受光する受光手段と、
受光手段から得られる受光信号をサンプリングするサンプリング手段と、
サンプリングされた信号を処理する処理手段と、を備えた光センサにおいて、
測定の基準となる基準距離が予め設定されており、
前記発光手段は、時間t(ただし、t=2×基準距離/光速)よりも長いパルス幅をもつ光パルスを照射し、
前記サンプリング手段は、光パルスの照射時刻から時間t経過後のタイミングで受光信号をサンプリングし、
前記処理手段は、サンプリングされた信号のレベルが閾値を超えているか否かで、物体までの距離が前記基準距離よりも近いか遠いかを判定する
光センサ。
【請求項2】
光パルスを照射する発光手段と、
光を受光する受光手段と、
受光手段から得られる受光信号の最大レベルを保持し、その保持している最大レベルを最大値信号として出力する最大値保持手段と、
最大値信号をサンプリングするサンプリング手段と、
サンプリングされた信号を処理する処理手段と、を備えた光センサにおいて、
測定の基準となる基準距離が予め設定されており、
前記サンプリング手段は、光パルスの照射時刻から時間t(ただし、t=2×基準距離/光速)経過後のタイミングで最大値信号をサンプリングし、
前記処理手段は、サンプリングされた信号のレベルが閾値を超えているか否かで、物体までの距離が前記基準距離よりも近いか遠いかを判定する
光センサ。
【請求項3】
受光パルスのピークレベルと前記閾値の比がほぼ一定となるように、受光信号または閾値のレベルを調整する調整手段をさらに備える
請求項1または2記載の光センサ。
【請求項4】
光パルスを照射する発光手段と、
光を受光する受光手段と、
受光手段から得られる受光信号をサンプリングするサンプリング手段と、
サンプリングされた信号を処理する処理手段と、を備えた光センサにおいて、
測定の基準となる基準距離が予め設定されており、
前記発光手段は、一定の周期で光パルスを繰り返し照射し、
前記サンプリング手段は、受光された光パルス部分のサンプリング漏れが生じない程度の粗い間隔で、各周期におけるサンプリングタイミングを徐々に遅延させていくことによって、受光信号の時間軸伸張を行い、
前記処理手段は、時間軸伸張波形のピークが光パルスの照射時刻から時間t(ただし、t=2×基準距離/光速)経過後に相当するタイミングよりも後に現れるか否かで、物体までの距離が前記基準距離よりも近いか遠いかを判定する
光センサ。
【請求項5】
時間軸伸張波形のピークが、光パルスの照射時刻から時間t経過後に相当するタイミングの近傍に現れた場合には、
前記サンプリング手段は、光パルスの照射時刻から時間t経過後のタイミングでさらに受光信号をサンプリングし、
前記処理手段は、そのサンプリングされた信号も前記判定処理に利用する
請求項4記載の光センサ。
【請求項6】
時間軸伸張の途中でピークが観測された場合には、前記発光手段は次の測定期間まで光パルスの照射を停止する
請求項4または5記載の光センサ。
【請求項7】
前記発光手段から照射された光を直接受光する第2の受光手段をさらに備え、
前記サンプリング手段は、前記第2の受光手段が光パルスを受光した時刻を前記発光手段の照射時刻とする
請求項1〜6のうちいずれか1項記載の光センサ。
【請求項8】
正弦波または矩形波に変調された光を照射する発光手段と、
光を受光する受光手段と、
受光手段から得られる受光信号をサンプリングするサンプリング手段と、
サンプリングされた信号を処理する処理手段と、を備えた光センサにおいて、
測定の基準となる基準距離が予め設定されており、
前記発光手段は、時間tの2倍(ただし、t=2×基準距離/光速)よりも長い周期をもつ正弦波または矩形波を照射し、
前記受光手段は、受光信号のDC成分をカットし、
前記サンプリング手段は、正弦波または矩形波の振動中心に相当する時刻から時間t経過後のタイミングで受光信号をサンプリングし、
前記処理手段は、サンプリングされた信号の極性に基づき、物体までの距離が前記基準距離よりも近いか遠いかを判定する
光センサ。
【請求項9】
前記発光手段から照射された光を直接受光し、その受光信号のDC成分をカットする第2の受光手段をさらに備え、
前記サンプリング手段は、前記第2の受光手段の出力信号がゼロクロスする時刻を前記振動中心に相当する時刻とする
請求項8記載の光センサ。
【請求項10】
前記サンプリング手段は、サンプリングタイミングが微少時間ずつずれた複数のサンプリング手段からなり、
複数のサンプリング手段によって同一の受光信号をサンプリングし、それらの信号を平均する
請求項1〜9のうちいずれか1項記載の光センサ。
【請求項11】
前記基準距離を設定する基準距離設定手段をさらに備える
請求項1〜10のうちいずれか1項記載の光センサ。
【請求項12】
請求項1〜11のうちいずれか1項記載の光センサにおいて、
測定対象範囲を2つの領域に分割するように基準距離を設定した上で、その基準距離よりも近い領域と遠い領域のいずれに物体が存在するかを判定し、
物体が存在する側の領域を新たな測定対象範囲に設定し、
上記処理を複数回繰り返して物体の存在領域を絞り込むことによって、物体までの距離を測定する
光センサ。
【請求項13】
絞り込みの進行度合いに応じて前記判定処理の精度を高くする請求項12記載の光セン
サ。
【請求項14】
物体までの距離が、設定された基準距離よりも近いか遠いかを判定可能な光センサが、
測定対象範囲を2つの領域に分割するように基準距離を設定した上で、その基準距離よりも近い領域と遠い領域のいずれに物体が存在するかを判定し、
物体が存在する側の領域を新たな測定対象範囲に設定し、
上記処理を複数回繰り返して物体の存在領域を絞り込むことによって、物体までの距離を測定する
測距方法。
【請求項15】
絞り込みの進行度合いに応じて前記判定処理の精度を高くする請求項14記載の測距方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−64641(P2006−64641A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250213(P2004−250213)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】