説明

光ディスク装置及びチルト調整方法

【課題】再生動作中に再生動作を中断させずに短時間でチルト調整を行うこと。
【解決手段】チルト調整機構7は、光ディスク1に対する対物レンズ6の傾きを調整し、エラー数検出回路12は、光ピックアップ3からの再生データに含まれるエラー数を検出する。チルト制御回路13は、検出されたエラー数が所定回数以上連続して閾値以上になった場合、データ再生を継続しながら、チルト調整機構7の調整量に対して一方向に所定量だけ補正を加える。補正した結果、エラー数が閾値以上である場合には、再度一方向に所定量だけ補正を加える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクからデータを再生する際に、回転するディスクに発生する傾き(チルト)を好適に調整する光ディスク装置及びチルト調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ディスク装置においては、光ピックアップのレーザビーム照射方向を光ディスク記録面に垂直になるように調整している。光ディスクが対物レンズに対して相対的に傾くと、集束ビームにコマ収差が発生し、光スポットが非対称に変形する。コマ収差はディスクの傾き(チルト)に比例し、再生信号レベルを劣化させる。そこでディスク装着時や再生動作直前にディスクのチルト量を測定し、対物レンズの傾きを調整して信号劣化を防止している。従来、次のようなチルト調整方法が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載の方法は、チルト調整用コイルに供給するチルト電圧を変更する毎にディスクより再生される信号に含まれるエラー数をカウントし、カウント値が適正値になったとき、その状態におけるチルト電圧を最適なチルト電圧として設定するものである。
【0004】
特許文献2に記載の方法は、再生動作状態においてエラー数が所定数に達したとき、再生動作を中断させてチルト調整を行った後中断位置から再生動作を再開させるものである。
【0005】
特許文献3に記載の方法は、光ディスクが大きく傾いてフォーカスエラー信号レベルが一定範囲を超えたときは、チルト機構を作動させて光ディスクをフォーカスサーボが可能な範囲まで光ピックアップへ近づけるように制御するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−196867号公報
【特許文献2】特開2005−004875号公報
【特許文献3】特開2003−248951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光ディスクのチルト量はディスクの回転速度により変化し、またその変化量はディスクの種類に依存する性質がある。光ディスク自体の固有の反りに対しては、例えば特許文献1に記載されるように、再生動作前の初期調整でディスクの反りを調整することができる。また再生動作開始後に回転速度とともにチルト量(反り)が変化する場合には、例えば特許文献2に記載されるように、再生動作を中断させてチルト調整を行うことができる。これらのチルト調整では、再生信号のエラー数を指標とすることで調整を精度良く行うことができる。しかしながら、再生動作開始後の調整では、再生動作を中断せねばならない。再生動作を中断すると、例えばベンチマークテスト(データ転送レートの検査)のような場合にはテストを最初からやり直せねばならず、大きな支障を与える。
【0008】
一方特許文献3は、再生動作を中断せずにチルト調整を行うことを提案している。しかし特許文献3の場合、チルト調整をフォーカスエラー信号レベルを指標に行っており、エラー数を指標にする方法に比べて調整精度が低下する。ただし、特許文献1に記載されるエラー数カウント方式では、チルト電圧を変えながらエラー数をカウントし、最適なチルト電圧を設定するものである。よって、調整のために相当の時間が必要であり、再生動作を中断せずに行うことは困難である。
【0009】
本発明の目的は、再生動作中に再生動作を中断させずに短時間でチルト調整を行う光ディスク装置及びチルト調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による光ディスク装置は、光ディスクを所定の速度で回転させるスピンドルモータと、対物レンズを介し光ディスクにレーザビームを照射しデータを記録再生する光ピックアップと、光ディスクに対する対物レンズの傾きを調整するチルト調整機構と、光ピックアップからの再生データに含まれるエラー数を検出するエラー数検出回路と、検出されたエラー数に応じてチルト調整機構を制御するチルト制御回路とを備え、チルト制御回路は、検出されたエラー数が閾値以上になった場合、光ピックアップによるデータ再生を継続しながら、チルト調整機構の調整量に対して一方向に所定量だけ補正を加える。
【0011】
ここにチルト制御回路は、検出されたエラー数が所定回数以上連続して閾値以上になった場合に、チルト調整機構の調整量に対して一方向に所定量だけ補正を加える。さらに、チルト調整機構の調整量を補正した結果、検出されるエラー数が閾値以上である場合、チルト調整機構の補正後の調整量に対して再度一方向に所定量だけ補正を加える。
【0012】
本発明による光ディスク装置のチルト調整方法は、光ディスクから再生したデータに含まれるエラー数を検出し、検出されたエラー数が閾値以上になった場合、データ再生を継続しながら、チルト調整機構の調整量に対して一方向に所定量だけ補正を加える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、チルト調整のために再生動作を中断することがなく、使い勝手が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による光ディスク装置の一実施例を示すブロック図。
【図2】チルト調整機構7の内部構成を示す図。
【図3】光ディスク1の反り状態を模式的に示す図。
【図4A】チルト調整方法の処理手順(初期調整)を示すフローチャート。
【図4B】チルト調整方法の処理手順(再調整)を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による光ディスク装置及びチルト調整方法の実施形態を図面を用いて説明する。
【0016】
図1は、本発明による光ディスク装置の一実施例を示すブロック図である。装着された光ディスク1は、スピンドルモータ2にて所定の速度で回転され、光ピックアップ3は回転する光ディスク1にレーザビームを照射し、データの記録・再生を行う。光ピックアップ3は、図示しないスレッド機構により半径方向の所望位置に移動する。光ピックアップ3はその内部に、レーザ光源となるレーザダイオード4、光ディスク1からの反射ビームを受光し電気信号に変換するフォトディテクタ5、レーザビームをディスク記録面に集光する対物レンズ6、及び対物レンズ6の光ディスク1に対する傾き(チルト)を調整するチルト調整機構7を含む。フォトディテクタ5は4分割受光面となっており、RF信号と4D信号を出力する。
【0017】
デジタルシグナルプロセッサ(DSP)8は、記録・再生信号を処理するとともに機構系のサーボ制御を行う。図では、再生処理とチルト制御に関する部分を示している。フォトディテクタ5からの出力信号に対し、RF増幅回路9はRF信号を増幅し、4D演算回路10は4D信号からMPP(メインプッシュプル)信号を生成する。信号処理回路11はRF信号からデータを復元し、MPP信号のレベルを検出する。エラー数検出回路12はデータに含まれるエラー数を検出する。エラーが発生した箇所についてはエラー訂正を行う。
【0018】
チルト制御回路13は、MPP信号レベルあるいはエラー数に基づき、チルト調整のための制御電圧を発生する。本実施例では、初期調整時にはMPP信号レベルを指標にし、再生開始後にはエラー数を指標にする。メモリ14には、検出したエラー数とその閾値、チルト調整で用いる制御電圧を格納する。チルト制御電圧はチルト駆動回路15に送られ、チルト駆動回路15はチルト調整機構7に対して駆動電圧を印加する。
【0019】
図2は、チルト調整機構7の内部構成を示す図である。
チルト調整機構7は、ホルダ21と、アクチュエータコイル22と、コア(マグネット)23と、チルトワイヤー24を含む。対物レンズ6は、ホルダ21に保持される。ホルダ21は、内部に一対のアクチュエータコイル22とコア23を有する。コイル22はホルダ21に接続され、コア23はチルト調整機構7の固定部に接続される。チルトワイヤー24はホルダ21を支持するとともに、チルト駆動回路15からの電流をコイル22に供給する。
【0020】
チルト駆動回路15から電圧+Vを印加すると一対のコイル22には互いに逆方向の電流が流れる。コイル22とコア23の電磁力により、ホルダ21は符号21’のように傾き、対物レンズ6も符号6’のように傾き、チルト調整を行う。駆動電圧の大きさと極性により、所望の傾きを実現する。
【0021】
図3は、光ディスク1の反り状態を模式的に示す図である。
低速回転時は、光ディスク1に対する外力が小さく、ほぼ静止状態と同様にディスク固有の反り形状を呈する。一方高速回転時は、遠心力とともに装置内の気流により浮力Fが働きディスク1を押し上げて、符号1’のように外周部に反りが発生する。浮力Fの方向は装置の構造に依存するので、反りの方向はディスクの種類に依らず常に一定方向となる。
【0022】
このような光ディスクの反りの変化に着目して、本実施例では次のようにチルト調整を行う。まず初期調整として、低速回転時の最適調整量(チルト電圧)を求め、基準値Vtとする。次に高速回転再生時に再調整が必要になったときは、基準値Vtに所定値Voを加算する補正を行い、エラー数が許容範囲になる条件を求める。再調整では所定値Voを加算する一方向の調整であるから、短時間に調整することができる。
【0023】
図4Aと図4Bは、チルト調整方法の処理手順を示すフローチャートである。図4Aは、セットアップ処理の中で行う初期調整を、図4Bは、再生動作中に行う再調整を示す。
【0024】
図4Aの初期調整から説明する。
セットアップ処理の開始の指示を受けると(S100)、光ディスク1を低速で回転させ(S101)、光ピックアップ3をディスク内周側に移動させる(S102)。チルト駆動回路15により、チルト調整機構7のアクチュエータコイル22に電圧を段階的に変化させて印加し、ディスクから得られる反射光信号(MPP信号)の強度を測定する。そして、信号レベルが最大になる制御電圧(チルト電圧)V1を求め(S103)、その電圧値V1をメモリ14に格納する(S104)。
【0025】
続いて光ピックアップ3をディスク外周側に移動させる(S105)。同様に、チルト調整機構7のアクチュエータコイル22に電圧を段階的に変化させて印加し、ディスクから得られるMPP信号の強度を測定する。そして、信号強度が最大になるチルト電圧V2を求め(S106)、その電圧値V2をメモリ14に格納する(S107)。
【0026】
メモリ14に格納したディスク内周位置と外周位置のチルト電圧値V1,V2を用いて、再生位置における最適チルト電圧Vtを求める。最適チルト電圧Vtは、V1,V2の値を元に直線補間して算出する。得られたチルト電圧Vtをチルト制御回路13に設定し、再生動作の初期値として用いる(S108)。その他の各種初期調整を行って、セットアップ処理を終了する(S109)。
【0027】
次に図4Bの再生動作中の再調整を説明する。チルト再調整は前記初期調整と区別するために、以下「チルト補正」とも呼ぶことにする。
再生処理開始の指示を受けると(S200)、光ディスク1を所定の速度で回転させ、またチルト制御回路13に前記初期調整で求めたチルト基準値Vtを設定し、ディスクから信号を再生する(S201)。このとき、補正カウンタの値nを0にリセットする(202)。補正カウンタnは、チルト電圧の基準値Vtを設定した後にこれを補正した回数を表す。
【0028】
再生動作を行いながら、エラー数検出回路12により、再生データに含まれるエラー数を所定間隔(所定ブロック数など)で検出する。検出したエラー数をEとする(S203)。エラー数Eをその閾値E0と比較する。ただしここでの閾値E0はチルト調整を必要とする下限値であって、エラー訂正の限界値より低く設定する。よって、エラー数Eが閾値E0を越えてもデータのエラー訂正が可能である。そして、エラー数Eが所定回数(例えばアドレス回数X)以上連続して閾値E0以上存在するかどうか判定する(S204)。これは、ディスクのキズ等によるエラー発生と区別するためである。ディスクのキズはディスク上に局所的に存在し、チルト調整を行っても解消しない。判定の結果、エラー数Eが連続して閾値E0以上であれば(S204でYes)、現在のチルト設定(電圧Vt)は適正ではないと判断し、S205へ進みチルトの再調整(チルト補正)を実行する。判定の結果、エラー数Eが連続して閾値E0以上でなければ(S204でNo)、現在のチルト設定は適正であると判断し、S203に戻り次のデータのエラー数の検出を継続する。
【0029】
チルトの再調整(チルト補正)では、まず、検出された現在のエラー数Eをメモリに格納し、これをE1とする(S205)。補正カウンタnに1を加算して更新する。初回の補正であればn=1となる(S206)。補正では、チルト設定の基準値VtにVoを加算し、チルト設定値をVt’=Vt+Voに補正する(S207)。ここにVoは補正1回当たりのチルト補正幅であり、例えば初期調整におけるチルト変更幅をそのまま用いればよい。また、チルト設定値の補正方向は一方向でよく、ここでは増加させる方向(+方向)としている。
【0030】
チルト設定値をVt’に補正した後、再生信号に含まれるエラー数を検出する。ここでも所定回数(X回)以上連続して検出されるエラー数を求め、E2とする(S208)。補正後のエラー数E2と補正前のエラー数E1と比較し、エラー数が減少しているかどうか判定する(S209)。判定の結果、E2<E1であれば(S209でYes)、補正により改善方向にあると判断する。その場合、さらにエラー数E2は閾値E0未満であるかどうかを判定する(S210)。E2<E0であれば(S210でYes)補正は適正であると判断する。E2<E0でなければ(S210でNo)補正は不十分であると判断し、S206へ進み再度チルト設定値を補正する。2回目の補正(n=2)では、Vt’=Vt+2・Voに補正する。このようにして、エラー数E2が閾値E0未満になるまで補正を繰り返す。そして、E2<E0になれば、補正後の状態で再生動作を継続する。全データの再生を終了したかどうか判定し(S211)、残りのデータがあれば、S203に戻りエラー数を検出しながらチルト調整を実行する。全データを終了したら再生処理を終了する(S214)。
【0031】
なお、S209の判定でE2<E1でなければ(S209でNo)、補正は悪化方向にあり、エラー発生はチルト要因ではないと判断する。そのときはチルト設定値を補正前の値である、Vt’=Vt+(n−1)・Voに戻す(S212)。そして、残りのデータをこのチルト設定条件で再生し(S213)、再生処理を終了する(S214)。ここでは、S213においてその後のチルトの補正動作を行わないものとしたが、再生動作を一定期間(一定半径幅)経過後、あるいはエラー数が所定値以下に低下したら、S203に戻り、エラー数に応じた再調整動作を再開させるようにしても良い。
【0032】
上記図4Bに示すチルト再調整は、光ディスクの回転速度が低速から高速に切替わり、ディスクの反りが図3のように増加する場合に対応させたものである。逆に高速から低速に切替えると反りは減少するので、逆方向のチルト調整が必要となる。これに対応するには、DSP8にて回転速度の切替え方向を検知し、高速から低速への切替えの場合には図4BのS202へ戻り、補正カウンタn=0として補正量の初期化を行えばよい。
【0033】
このように、本実施例のチルト再調整(補正)では、初期調整量に対して一方向に所定量だけ補正を加えるものであるから、短時間で実行できる。よって、再生動作を継続させた状態でチルトを調整し、再生データに含まれるエラー数を閾値未満に抑制することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…光ディスク、2…スピンドルモータ、3…光ピックアップ、4…レーザダイオード、5…フォトディテクタ、6…対物レンズ、7…チルト調整機構、8…デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、9…RF増幅回路、10…4D演算回路、11…信号処理回路、12…エラー数検出回路、13…チルト制御回路、14…メモリ、15…チルト駆動回路、22…アクチュエータコイル、23…コア(マグネット)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクにデータを記録再生する光ディスク装置において、
前記光ディスクを所定の速度で回転させるスピンドルモータと、
対物レンズを介し光ディスクにレーザビームを照射しデータを記録再生する光ピックアップと、
前記光ディスクに対する前記対物レンズの傾きを調整するチルト調整機構と、
前記光ピックアップからの再生データに含まれるエラー数を検出するエラー数検出回路と、
該検出されたエラー数に応じて前記チルト調整機構を制御するチルト制御回路とを備え、
該チルト制御回路は、検出されたエラー数が閾値以上になった場合、前記光ピックアップによるデータ再生を継続しながら、前記チルト調整機構の調整量に対して一方向に所定量だけ補正を加えることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光ディスク装置において、
前記チルト制御回路は、検出されたエラー数が所定回数以上連続して閾値以上になった場合に、前記チルト調整機構の調整量に対して一方向に所定量だけ補正を加えることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光ディスク装置において、
前記チルト制御回路は、前記チルト調整機構の調整量を補正した結果、検出されるエラー数が閾値以上である場合、前記チルト調整機構の補正後の調整量に対して再度一方向に所定量だけ補正を加えることを特徴とする光ディスク装置。
【請求項4】
光ディスクに対する対物レンズの傾きを調整するチルト調整機構を有する光ディスク装置のチルト調整方法において、
前記光ディスクから再生したデータに含まれるエラー数を検出し、
検出されたエラー数が閾値以上になった場合、データ再生を継続しながら、前記チルト調整機構の調整量に対して一方向に所定量だけ補正を加えることを特徴とするチルト調整方法。
【請求項5】
請求項4に記載のチルト調整方法において、
前記検出されたエラー数が所定回数以上連続して閾値以上になった場合に、前記チルト調整機構の調整量に対して一方向に所定量だけ補正を加えることを特徴とするチルト調整方法。
【請求項6】
請求項4に記載のチルト調整方法において、
前記チルト調整機構の調整量を補正した結果、検出されるエラー数が閾値以上である場合、前記チルト調整機構の補正後の調整量に対して再度一方向に所定量だけ補正を加えることを特徴とするチルト調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2011−18393(P2011−18393A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161606(P2009−161606)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(501009849)株式会社日立エルジーデータストレージ (646)
【Fターム(参考)】