説明

光ドロップケーブル

【課題】実験によって得られた知見、特に産卵管形状に着目し、セミがノッチ部の形状を利用して産卵するに際して、産卵管挿入の障害になる構造であって、ノッチ部本来のニッパによる切り裂き作業、これに伴う切り裂きを円滑に行うことができるようにした構造を提供する。
【解決手段】ノッチ部がノッチ先端部のノッチ最深さ点から外被面に向けて斬次開放された形状であって、光ファイバ心線に近い側のノッチ先端部が開放角度30°以内(0°を含まず)で0.2mm以上の深部を有する形状とされ、ノッチ先端部から外被面までの外被開放部62が、開放角度が前記開放角度以上とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ドロップケーブル(光ファイバケーブル)に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブルは、光ファイバ心線とこれを挟むように配設された2本の抗張力体と抗張力体を樹脂シースで被覆する外被(外皮)から構成され、断面形状がくさび形状の切欠き溝からなる引き裂き部としてのノッチ部が、光ファイバ心線を挟んで対抗する外被の外側面に設けられた構造を有するものとして一般的に知られている。
【0003】
このような光ドロップケーブルについて、セミ(特にクマゼミ等の大型セミ)が産卵行動をすることが原因で、内部の光ファイバ心線が断線する事故が発生することが報告されている。
【0004】
この事故は、セミが空中に架設された光ドロップケーブルを枯れ枝と勘違いして産卵管を突き刺して卵を産みつける時に、特にケーブル外面のノッチ部に産卵管を突き刺し、この際に光ファイバ心線に産卵管が接触して光ファイバ心線を断線させることによって発生する。
【0005】
産卵管接触による事故防止を実現するために、たくさんの提案がなされている。
【0006】
特許文献1には、セミが有する産卵管の直径よりも幅広にノッチ部の溝幅を形成することが記載されている。
【0007】
特許文献2には、光ドロップケーブルの外皮に山形の突条を設けてセミが光ファイバ心線の近くに産卵しないようにした構造が記載されている。
【0008】
特許文献3には、ノッチ部を2段階の階段状に形成したドロップ光ファイバケーブルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−122049号公報
【特許文献2】特開2002−90592号公報
【特許文献3】特開2005−121754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、セミが光ファイバケーブルに留まり、産卵管を光ファイバケーブルに突き刺すことにより光ファイバ心線を傷付け、断線に至る事故に至る。
【0011】
発明者等は、クマゼミによる光ドロップケーブルでクマゼミ産卵実験を行い、断線被害の状況を観察した。
【0012】
図1は、光ドロップケーブルにクマゼミが留まり、産卵管を光ドロップケーブル(ドロップケーブル)に産卵管を突き刺している状態、産卵管形状および光ドロップケーブルに対する産卵痕を示す。これらの実験によれば、供試された光ドロップケーブルに対して、産卵痕は、光ファイバ心線にダメージを与えており、ほとんどのケースにおいて卵が産みつけられていた。
【0013】
本発明は、これらの実験によって得られた知見、特に産卵管形状に着目し、セミがノッチ部の形状を利用して産卵するに際して、産卵管挿入の障害になる構造であって、ノッチ部本来のニッパによる切り裂き作業、これに伴う切り裂きを円滑に行うことができるようにした構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
図1に示す産卵管形状に注目すると、産卵管形状は、図2(a),図2(b)に構造的に示すように、平べったい円錐状をなし、観測値によれば、最大の産卵管角度は先端に向けてほぼ35〜40°をなし、その長さはほぼ1.5〜1.9mm程度である。そして、ノッチ部に挿入される産卵管先端部の長さは0.3mm以内である。
【0015】
このような観測値に基づくと、ノッチ部の切り欠き角度(開放角度)を30°以内となし、産卵管の先端部の大部分が挿入されないようにすることによってセミが産卵管挿入をする時の障害とせしめることが可能となる。
【0016】
そして、小さな切り欠き角度のみのノッチ部構造としてはニッパ使用による切り裂き作業をスムーズに行えないので、ノッチ部の入口部はラップ状に角度を大きくすることでニッパ使用による切り裂き作業を円滑なものとすることができる。
【0017】
そのため、本発明は、1本もしくは近接配置の2本の光ファイバ心線と、該光ファイバ心線の側方に配設される抗張力体と、前記光ファイバ心線および抗張力体を被覆し、断面がほぼ矩形をなし、矩形形状の外被面に一対のノッチ部が形成された外被とを備えた光ドロップケーブルにおいて、
前記ノッチ部がノッチ先端部のノッチ最深さ点から外被面に向けて斬次開放された形状であって、光ファイバ心線に近い側のノッチ先端部が開放角度30°以内(0°を含まず)で0.2mm以上の深部を有する形状とされ、ノッチ先端部から外被面までの外被開放部が、開放角度が前記開放角度以上とされたこと
を特徴とする光ドロップケーブルを提案する。
【0018】
本発明は、更に上述の光ドロップケーブルであって、前記ノッチ部が2段階の段階状形状とされ、光ファイバ心線に近い側のノッチ先端部が、解放角度30°以内で0.2mm以上の深部を有する形状とした光ドロップケーブルを提供する。
【0019】
本発明は、更に上述の光ドロップケーブルであって、前記ノッチ部が曲面形状で形成され、ノッチ先端部が、開放角度30°以内で0.2mm以上の深度を有する形状とした光ドロップケーブルを提供する。
【0020】
本発明は、また、前記外被を形成する材料は、デュロメータ硬度(ショアD)が55以上の、高密度ポリエチレンと難燃材料とを組み合わせ材料であることを特徴とする光ドロップケーブルを提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ノッチ先端部が、開放角度30°以内で0.2mm以上の深度を有する形状とされているので、産卵管挿入時の挿入障害となって産卵管先端部の大部分がノッチ部に挿入されず、ノッチ先端部から外被面までの外被開放部が、開放角度が前述の開放角度以上としているので、ニッパを挿入し易く、切り裂き作業を円滑に行うことができると共に、ノッチ先端部の開放角度が小さいために切り裂きをより小さな力で実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】クマゼミの産卵による光ドロップケーブルの断線被害状況の観察図。
【図2】クマゼミの産卵管形状を示す、図2(a)その写真図、図2(b)(c)はそれぞれ上方からおよび側方から見た時の構造図。
【図3】本発明の第1の実施例を示す構成図。
【図4】図3の構成図の1部拡大図。
【図5】本発明の第2の実施例を示し、図4に対応する図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0024】
図3は、本発明の実施例である光ドロップケーブルの構成を示し、図3(a)は1本の光ファイバ心線が用いられた場合の例を示し、図3(b)は間隔を置いた2本の光ファイバ心線が用いられた場合の例を示す。尚、本実施例では支持線が無い光ドロップケーブルの一例を示しているが、支持線有りの場合も本実施例と同様な効果が得られる。
【0025】
図3(a)において、光ドロップケーブル1は、1本の光ファイバ心線2と、光ファイバ心線2の側方で本例の場合、両側(図で上下両側)に間隔を置いて配設される一対の抗張力体3と、光ファイバ心線および一対の抗張力体3を被覆し、断面がほぼ矩形をなし、矩形形状の外被面5、本例の場合、上述の両側に直角方向の両側(図で左右両側)の外被面5に一対のノッチ部6が形成された外被(外皮)4を備えて構成される。‘ほぼ’としたのは四隅において曲線形状をなすことによる。図3(b)に示す例にあっても図3(a)に示す例と基本的に同一の構成であるが、近接配置の2本の光ファイバ2(2a、2b)が用いられており、2本の光ファイバ2の中心を通る水平線からノッチ部6が上下方向にずれている例を示している。
【0026】
図3(b)に示す例は、水平面上に対称配置されていないが、左側面から右側面にかけてある角度(例えば45°)の線上に光ファイバ心線2を中心として一対のノッチ部6が形成されている。すなわち、45°角度の線上において、一対のノッチ部6は光ファイバ心線2を中心として対称配置とされ、ニッパ等の道具による外被4の引き裂きを行い易いように配置されている。
【0027】
図4は、図3に示す例示において、主にノッチ部6を拡大して示す図であり、図4(a)は図3(a)に、そして図4(b)は図3(b)に対応する。
【0028】
図4において、ノッチ部6は2段階形状とされ、光ファイバ心線に近い側のノッチ先端部61と、ノッチ先端部61から外被面5までの外被開放部62とから構成される溝構造を備える。図示の例においては、セミの産卵管先端部の形状を参照して、ノッチ先端部61が開放角度20°で0.2mmの深度を有し、外被開放部62の開放角度を60°としている。セミの産卵管形状を考慮した時に、ノッチ先端部61が開放角度30°以内(0°を含まず)で0.2mm以上の深部を有する形状とし、外被開放部62が、開放角度が前述の開放角度30°よりも大きな開放角度とすることができる。この角度はニッパ挿入を考慮した時に60°以内とされる。すなわち、ノッチ先端部61および外被開放部62の角度は、セミの産卵管先端部61が奥方まで到達しないで、ニッパが挿入しやすい形状となる。
【0029】
従って、図4に示す例によれば、ノッチ部6がノッチ先端部61のノッチ最深さ点から外被面に向けて斬次開放された形状であって、光ファイバ心線に近い側のノッチ先端部61が開放角度30°以内(0°を含まず)で0.2mm以上の深部を有する形状とされ、ノッチ先端部61から外被面5までの外被開放部62が、開放角度が前述の開放角度以上とされ、ノッチ部6が2段階の段階状形状とされた場合に、ノッチ先端部61が開放角度30°以内で0.2mm以上の深部を有する形状とした光ドロップケーブルが構成される。
【0030】
このような例において、外被4は、デュロメータ硬度(ショアD)が55〜70の熱可塑性樹脂で形成され得る。一般的に硬いプラスチックを測定する場合は、JIS K7215(プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法)に準じて測定され、外被4はショアD硬度の数値で表される。
【0031】
外被4を形成するデュロメータ硬さ(ショアD)55以上の材料としては、高密度ポリエチレンと難燃材料(例えば、水酸化マグネシウム)とを組み合せた材料があげられる。
【0032】
更に例示してみると、デュロメータ硬度(ショアD)が55以上の樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド46などを主材料とした熱可塑性樹脂が、その他の樹脂としては、例えば、ABS樹脂、ACS樹脂、AES樹脂、ABS/PVCアロイ、ASA樹脂、エチレン−塩化ビニル共重合体、フッ素樹脂、ポリアミドイミド、ポリアリレート、オレフィンビニルアルコール共重合体、フェノール樹脂、ポリアミド系樹脂(アモルファスポリアミド、変性ポリアミドなど)、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリチオエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ノルボルネン樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリ塩化ビニルなどや、これらの樹脂を主材として、変性又は合成、混合したもの、炭酸カルシウムやチタン酸カリウムウィスカー、カオリン粘土、タルクや雲母などの充填材を添加して硬度を向上させたもの、或いは架橋材を添加した後に架橋させて硬度を向上させたもの、などが挙げられる。
【実施例2】
【0033】
図5は、第2の実施例の構成を示し、第1の実施例と同一構成については同一の番号が付してあり、図5(a)は図4(a)に、そして図5(b)は図4(b)に対応する。図5において、点線は、第1の実施例を比較のため示してある。
【0034】
第1の実施例では、ノッチ部6が2段階の段階状形状としているが、第2の実施例では、ノッチ部6が曲面形状で形成され、ノッチ先端部61Aが開放角度30°以内で0.2mm以上の深部を有する形状としてある。この例の場合、ノッチ先端部61Aは曲率が大きな円で形成し、外被開放部62Aは曲率が小さな円で形成している。従って、この場合にあってもノッチ部6の外被開放部62Aはラッパ状としてノッチ先端部61Aの開放角度よりも大きなものとして形成することができる。例えば、第1の実施例では開放角度が60°としていたが、このラッパ状形状の採用によって60°よりも更に大きなものとしながら、ノッチ先端部61の開度角度を第1の実施例における開放角度よりも小さなものとすることができる。そして、外被開放部62Aは曲面であるので、セミの産卵管先端部がこの曲面により強く押圧され、中への挿入が妨げられ得る。なお、曲面はいくつかの曲面の複合によって形成するようにしてもよい。
【0035】
画面形状は、本例に示すように全体が曲面で形成される場合に加えて、本例に示すところに従って、直線との組み合わせ、直線自体の組み合わせ、球球、放物線、インボリュート(歯形の歯型)からなる曲面のいずれかで形成されてもよい。
【0036】
従って、図5に示す例によればノッチ部6がノッチ先端部61Aのノッチ最深さ点から外被面に向けて斬次開放された形状であって、光ファイバ心線に近い側のノッチ先端部61Aが開放角度30°以内(0°を含まず)で0.2mm以上の深部を有する形状とされ、ノッチ先端部61Aから外被面5までの外被開放部62Aが、開放角度が前述の開放角度以上とされ、ノッチ部6が曲面形状で形成され、ノッチ先端部61Aが開放角度30°以内で0.2mm以上の深度を有する形状とした光ドロップケーブルが構成される。
【符号の説明】
【0037】
1…光ドロップケーブル、2…光ファイバ心線、3…抗張力体、4…外被(外皮)、5…外被面、6…ノッチ部、61,61A…ノッチ先端部、62,62A…外被開放部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本もしくは近接配置の2本の光ファイバ心線と、該光ファイバ心線の側方に配設される抗張力体と、前記光ファイバ心線および抗張力体を被覆し、断面がほぼ矩形をなし、矩形形状の外被面に一対のノッチ部が形成された外被とを備えた光ドロップケーブルにおいて、
前記ノッチ部がノッチ先端部のノッチ最深さ点から外被面に向けて斬次開放された形状であって、光ファイバ心線に近い側のノッチ先端部が開放角度30°以内(0°を含まず)で0.2mm以上の深部を有する形状とされ、ノッチ先端部から外被面までの外被開放部が、開放角度が前記開放角度以上とされたこと
を特徴とする光ドロップケーブル。
【請求項2】
請求項1において、前記ノッチ部が2段階の段階状形状とされ、ノッチ先端部が開放角度30°以内で0.2mm以上の深部を有する形状としたことを特徴とする光ドロップケーブル。
【請求項3】
請求項1において、前記ノッチ部が曲面形状で形成され、ノッチ先端部が開放角度30°以内で0.2mm以上の深部を有する形状としたことを特徴とする光ドロップケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−232643(P2011−232643A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104280(P2010−104280)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(504026856)株式会社アドバンスト・ケーブル・システムズ (64)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】