説明

光ビームスプリッタ、光軸調整方法、光ビームスプリッタ製造方法

【課題】本発明の目的は、光軸調整および光ビームスプリッタの製造を容易に行うことのできる光ビームスプリッタを提供することである。
【解決手段】本発明の光ビームスプリッタは、屈折率の異なる2種類の誘電体の層が積層された不可視領域の所定の波長の入力光を分岐する光学多層膜を有する第1基体と、1つ以上の第2基体から構成される。光学多層膜は、入力光の略1/4波長の厚さの層と、入力光の略n/4波長の厚さ(ただし、nは3以上の奇数)の層の両方を有する。または、光学多層膜は、可視領域のあらかじめ定めた波長帯域で、あらかじめ定めた範囲の反射率を有する。または、光学多層膜は、白色光を入射した時に特定の色の光を反射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の波長の光を分岐する光ビームスプリッタ、その光ビームスプリッタを用いた光学系の光軸調整方法、その光ビームスプリッタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、従来の光ビームスプリッタの構造の例を示す。光ビームスプリッタ900は、第1基体910であるプリズムの一面に屈折率の異なる2種類の誘電体の層が積層された光学多層膜915が形成されている。そして、光学多層膜915が形成された面を接合面として、第2基体920であるプリズムと接合されている。また、通常は、第1基体、第2基体の外部と接する面には、反射防止膜が形成されている。図2は、光ビームスプリッタ900に、所定の波長の光を入力した場合の入力光、透過光、反射光の様子を示す。入力光は第1基体の1つの面から入射され、光学多層膜915で透過光と反射光に分岐される。分岐された光は、それぞれ第1基体または第2基体から出射される。なお、所定の波長とは、光ビームスプリッタ900が対象としている波長であり、この波長の光を入力した時に所望の透過率、反射率を得ることができる波長である。図3に、KrFエキシマレーザの波長(248nm)を対象とした光ビームスプリッタの反射率の波長特性を示す。このように、従来の光ビームスプリッタは、対象とする波長での特性を満足するように設計され、他の波長では同じ特性は得られない。
【0003】
このような光ビームスプリッタを用いた光学系の光軸調整や、光ビームスプリッタの製造では、オートコリメータを用いることが多い。例えば、特許文献1などがある。
【特許文献1】特開2003−131098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図4にオートコリメータを用いた測定例を示す。オートコリメータ800から出力された光は、光ビームスプリッタ900に入射され、光学多層膜915で反射された光は、ペンタプリズム810で反射されてオートコリメータ800に戻る。図5は、オートコリメータの観察像の様子を示す図である。通常、光ビームスプリッタ900やペンタプリズム810の表面では反射が起きる。したがって、図4に示した光路以外でもオートコリメータ800に光が戻ってくる。つまり、観察像805には、図5に示したように濃淡の異なる十字型のレティクルが複数映る。濃淡の違いは、反射率の違いなどから生じる各光路の損失の違いから生じるものである。そこで、観察像805に映っている十字型のレティクルの中で、光軸調整の対象となる光路を経たレティクルがどれかを濃淡で判断した上で、そのレティクルを見ながら光軸を調整する。
【0005】
しかし、濃淡だけの判断では、どのレティクルが対象となる光路を経たレティクルが分かりにくい場合もある。例えば、図3に示したような反射率の波長特性を持つ光ビームスプリッタの場合、オートコリメータで使用する可視光領域(400nm〜760nm)では、反射率は非常に小さい。このような場合には、図4に示した光路を経たレティクルもうすくなってしまうので、対象となる光路を経たレティクルの判別が困難となる。つまり、光軸の調整が困難になってしまう。
【0006】
また、光ビームスプリッタを組み立てる時には、第1基体と第2基体の相対的な位置を決め、その後固定する。この位置決めも、オートコリメータを用いて行われる。したがって、不可視領域の波長を対象とした光ビームスプリッタを組み立てる場合にも、同様の問題が生じる。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、光ビームスプリッタを含む光学系の光軸調整および光ビームスプリッタの製造を容易に行うことのできる光ビームスプリッタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光ビームスプリッタは、屈折率の異なる2種類の誘電体の層が積層された不可視領域の所定の波長の入力光を分岐する光学多層膜を有する第1基体と、1つ以上の第2基体から構成される。光学多層膜は、入力光の略1/4波長の厚さの層と、入力光の略n/4波長の厚さ(ただし、nは3以上の奇数)の層の両方を有する。または、光学多層膜は、可視領域のあらかじめ定めた波長帯域で、あらかじめ定めた範囲の反射率を有する。または、光学多層膜は、白色光を入射した時に特定の色の光を反射する。
【0009】
また、入力光が第1基体または第2基体の面に垂直に入射され、分岐された光がそれぞれ第1基体または第2基体の面に垂直に出射されるように、第1基体の形状、第2基体形状、第1基体と第2基体の配置が決められる。
【0010】
本発明の光軸調整方法では、オートコリメータからの出力光を白色光とし、本発明のビームスプリッタで分岐される前の光と分岐された後の光を色によって識別し、光軸を調整する。また、本発明の光ビームスプリッタ製造方法では、オートコリメータからの出力光を白色光とし、本発明の光ビームスプリッタによって分岐される前の光と、分岐された後の光とを色によって識別して第1基体および第2基体の相対的な位置を決め、決定した位置で第1基体および第2基体を互いに固定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光ビームスプリッタによれば、光ビームスプリッタの対象とする波長が不可視領域であったとしても、可視領域の一部にある程度の反射率を確保できる。したがって、オートコリメータの出力光を白色光にすれば、光ビームスプリッタで分岐される前の光と光ビームスプリッタで分岐された後の光とを、色によって識別できる。
【0012】
したがって、光軸調整や組み立ての時に、調整の対象となる光路を経たレティクルをオートコリメータの観察像の中から容易に見つけることができる。つまり、調整が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[第1実施形態]
図6に、本発明の光ビームスプリッタの構成例を示す。光ビームスプリッタ100の外観は、従来の光ビームスプリッタ900と同じである。光ビームスプリッタ100は、第1基体110であるプリズムの一面に屈折率の異なる2種類の誘電体の層が積層された光学多層膜115が形成されている。そして、光学多層膜115が形成された面を接合面として、第2基体120であるプリズムと接合されている。また、図示していないが、第1基体、第2基体の外部と接する面には、反射防止膜が形成されている。入力光、透過光、反射光の関係は図2と同じである。なお、第1基体、第2基体には例えば合成石英を用いればよい。また、光学多層膜の屈折率の高い層にはAlを、屈折率の低い層にはSiOを用いればよい。また、光学多層膜の積層の繰返しは、1回から10回程度とすればよい。
【0014】
従来の光ビームスプリッタ900との大きな違いは、光学多層膜115の構成である。図7に、KrFエキシマレーザの波長(248nm)を対象とした光ビームスプリッタ100の反射率の波長特性を示す。縦軸は反射率、横軸は波長を示している。なお、“H”は入力光の略1/4波長の厚さの高屈折率層を、“L”は入力光の略1/4波長の厚さの低屈折率層を、“nH”は入力光の略n/4波長の厚さの高屈折率層を、“nL”は入力光の略n/4波長の厚さの低屈折率層を示している。例えば、 “H3L3HLH”は、入力光の略1/4波長の厚さの高屈折率層、入力光の略3/4波長の厚さの低屈折率層、入力光の略3/4波長の厚さの高屈折率層、入力光の略1/4波長の厚さの低屈折率層、入力光の略1/4波長の厚さの高屈折率層の順番で積層された光学多層膜を意味している。また、略1/4波長とは、入力光の1/4波長より40%薄い厚さから40%厚い厚さの範囲を意味している。一般的に、誘電体多層膜は、高屈折率層と低屈折率層の繰返し回数を調整することと、各層の厚さを1/4波長近傍で調整(変更)することによって反射率などの光学特性を調整している。上述の略1/4波長の範囲は、光学特性の調整として考えられる層の厚さ調整範囲から定めたものである。
【0015】
図7の“HLHLH”は、単純に高屈折率層と低屈折率層とを略1/4波長の厚さで積層した光学多層膜を用いた光ビームスプリッタの特性を示しており、これは図3の従来の光ビームスプリッタの特性である。この光ビームスプリッタの場合には、可視領域(400nm〜760nm)全体で低い反射率となる。一方、本発明の光ビームスプリッタ100は、例えば、“HL5HLH”、“HL3HLH”、“H3LHLH”、“H3L3HLH”のように積層された光学多層膜115を有する。つまり、光学多層膜115は、入力光の略1/4波長の厚さの層と、入力光の略n/4波長の厚さ(ただし、nは3以上の奇数)の層の両方を有するように積層しており、可視領域の中の一部に反射率が従来よりも高い波長帯域がある。また、対象としている波長である248nmの反射特性は、従来と同じである。したがって、光ビームスプリッタ100は、対象としている入力光に対しては従来と同じ反射特性を持ち、かつ、白色光を入力すると特定の色の光(可視光)を反射する。
【0016】
なお、どの程度の反射率が必要かは、オートコリメータの性能や光学系全体での損失から決まる。したがって、オートコリメータの性能や光学系全体での損失から、具体的な光学多層膜の積層方法を決めればよい。一般的なオートコリメータの場合であれば、5%程度の反射率があれば観察できる。また、どの波長帯域の光を反射させるかによって色を選択できる。つまり、複数の光ビームスプリッタを用いる場合に、それぞれの光ビームスプリッタごとに反射させる波長帯域を変えれば、どの光ビームスプリッタで分岐された光なのかも色で判別できる。
【0017】
さらに、入力光が第1基体または第2基体の面に垂直に入射され、分岐された光が第1基体または第2基体の面に垂直に出射されるように、第1基体と第2基体の形状を決めればよい。このように第1基体と第2基体の形状を決めれば、白色光を入力光としても、屈折による色の分離を防ぐことができる。
【0018】
このように、光ビームスプリッタ100は、対象とする光の波長が不可視領域(248nmや1064nm)であっても、可視領域の一部にある程度の反射率を確保できる。したがって、オートコリメータの出力光を白色光にすれば、光ビームスプリッタ100で分岐される前の光と光ビームスプリッタ100で分岐された後の光とを、色によって識別できる。したがって、光軸調整の時に、調整の対象となる光路を経たレティクルをオートコリメータの観察像の中から容易に見つけることができる。つまり、光軸調整が容易になる。
【0019】
また、光ビームスプリッタ100を組み立てる場合であれば、オートコリメータからの出力光を白色光とする。そして、オートコリメータの観察像に映ったレティクルの色から光ビームスプリッタによって分岐される前の光と、分岐された後の光とを識別して第1基体および第2基体の相対的な位置を決める。位置が決定すれば、第1基体および第2基体を互いに固定する。したがって、光ビームスプリッタ100は容易に製造できる。
【0020】
[変形例]
図8にYAGレーザの波長(1064nm)を対象とした光ビームスプリッタ100の反射率の波長特性を示す。単純な積層である“HLH”は従来の光ビームスプリッタ900の特性を示しており、“H3LH”と“3HLH”は本発明の光ビームスプリッタ100の特性を示している。この場合も、単純な積層である“HLH”に比べ、“H3LH”と“3HLH”は可視領域の中の一部に反射率が高い波長帯域がある。また、1064nmでの反射特性は、“HLH”と同じである。したがって、第1実施形態と同じ効果を得ることができる。
【0021】
[第2実施形態]
図9に、第2基体を複数用いた場合の光ビームスプリッタの構成例を示す。第1実施形態では、1つの第2基体を用いた例を示したが、複数の第2基体を用いてもよい。図9のA〜Dはそれぞれ複数の第2基体を用いた例を示しており、各基体の配置が分かるように2方向または3方向から見た形状を示している。このように複数の第2基体を用いることで、本発明の効果を得ながら、反射光の出力位置と出力方向を変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来の光ビームスプリッタの構造の例を示す図。
【図2】光ビームスプリッタ900に、所定の波長の光を入力した場合の入力光、透過光、反射光の様子を示す図。
【図3】KrFエキシマレーザの波長(248nm)を対象とした光ビームスプリッタの反射率の波長特性を示す図。
【図4】オートコリメータを用いた測定例を示す図。
【図5】オートコリメータの観察像の様子を示す図。
【図6】本発明の光ビームスプリッタの構成例を示す図。
【図7】KrFエキシマレーザの波長(248nm)を対象とした光ビームスプリッタ100の反射率の波長特性を示す図。
【図8】YAGレーザの波長(1064nm)を対象とした光ビームスプリッタ100の反射率の波長特性を示す図。
【図9】第2基体を複数用いた場合の光ビームスプリッタの構成例を示す図。
【符号の説明】
【0023】
100 光ビームスプリッタ
110 第1基体
115 光学多層膜
120 第2基体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率の異なる2種類の誘電体の層が積層された不可視領域の所定の波長の入力光を分岐する光学多層膜を有する第1基体と、
1つ以上の第2基体から構成され、
前記光学多層膜は、前記入力光の略1/4波長の厚さの層と、前記入力光の略n/4波長の厚さ(ただし、nは3以上の奇数)の層の両方を有する
ことを特徴とする光ビームスプリッタ。
【請求項2】
屈折率の異なる2種類の誘電体の層が積層された不可視領域の所定の波長の入力光を分岐する光学多層膜を有する第1基体と、
1つ以上の第2基体から構成され、
前記光学多層膜は、可視領域のあらかじめ定めた波長帯域で、あらかじめ定めた範囲の反射率を有する
ことを特徴とする光ビームスプリッタ。
【請求項3】
屈折率の異なる2種類の誘電体の層が積層された不可視領域の所定の波長の入力光を分岐する光学多層膜を有する第1基体と、
1つ以上の第2基体から構成され、
前記光学多層膜は、白色光を入射した時に特定の色の光を反射する
ことを特徴とする光ビームスプリッタ。
【請求項4】
屈折率の異なる2種類の誘電体の層が積層された波長248nmの入力光を分岐できる光学多層膜を有する第1基体と、
1つ以上の第2基体から構成され、
前記光学多層膜は、前記入力光の略1/4波長の厚さの高屈折率層、前記入力光の略3/4波長の厚さの低屈折率層、前記入力光の略3/4波長の厚さの高屈折率層、前記入力光の略1/4波長の厚さの低屈折率層、前記入力光の略1/4波長の厚さの高屈折率層の順番で積層された層を有する
ことを特徴とする光ビームスプリッタ。
【請求項5】
屈折率の異なる2種類の誘電体の層が積層された波長1064nmの入力光を分岐できる光学多層膜を有する第1基体と、
1つ以上の第2基体から構成され、
前記光学多層膜は、前記入力光の略1/4波長の厚さの高屈折率層、前記入力光の略3/4波長の厚さの低屈折率層、前記入力光の略1/4波長の厚さの高屈折率層の順番で積層された層を有する
ことを特徴とする光ビームスプリッタ。
【請求項6】
屈折率の異なる2種類の誘電体の層が積層された波長1064nmの入力光を分岐できる光学多層膜を有する第1基体と、
1つ以上の第2基体から構成され、
前記光学多層膜は、前記入力光の略3/4波長の厚さの高屈折率層、前記入力光の略1/4波長の厚さの低屈折率層、前記入力光の略1/4波長の厚さの高屈折率層の順番で積層された層を有する
ことを特徴とする光ビームスプリッタ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載された光ビームスプリッタであって、
前記入力光は、前記第1基体または前記第2基体の面に垂直に入射され、
分岐された光は、それぞれ前記第1基体または前記第2基体の面に垂直に出射される
ことを特徴とする光ビームスプリッタ。
【請求項8】
オートコリメータを用いて請求項1から7のいずれかに記載の光ビームスプリッタを含む光学系の光軸を調整する光軸調整方法であって、
前記オートコリメータからの出力光を白色光とし、
前記光ビームスプリッタによって分岐される前の光と、分岐された後の光とを、色によって識別して光軸を調整する
ことを特徴とする光軸調整方法。
【請求項9】
オートコリメータを用いて請求項1から7のいずれかに記載の光ビームスプリッタの前記第1基体と前記第2基体とを組み立てる光ビームスプリッタ製造方法であって、
前記オートコリメータからの出力光を白色光とし、
前記光ビームスプリッタによって分岐される前の光と、分岐された後の光とを、色によって識別して前記第1基体および前記第2基体の相対的な位置を決め、
決定した位置で前記第1基体および前記第2基体を互いに固定する
ことを特徴とする光ビームスプリッタ製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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