説明

光ピックアップおよびその衝突防止装置の製造方法

【課題】 光ピックアップの可動部と光ディスクとが接近したときの光ディスクと対物レンズとの衝突を防止するための衝突防止装置を、簡素な製造工程で極めて安価に製造することができる光ピックアップを提供する。
【解決手段】 光ピックアップは、光ディスクの記録面上に光を集光させる対物レンズ4と光ディスクとが直接衝突しないようにするための衝突防止装置10を有する。衝突防止装置は、少なくとも1個の成形体11を備え、成形体は、対物レンズ4を保持するレンズ保持部12の周辺部上面21に植立され、成形体の少なくとも頭頂部には緩衝用塗膜が塗布されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクの記録面上に対物レンズで光を集光させて情報の記録,再生などを行う光ピックアップに関し、また、対物レンズと光ディスクとが直接衝突しないようにするための衝突防止装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ピックアップは、光ディスク再生装置および光ディスク記録再生装置などの光ディスク装置(たとえば、DVDレコーダー、CDプレーヤー)に使用される。また、光ディスク装置は、PC(パーソナルコンピューター)にも搭載されている。
光ピックアップは、記録媒体である光ディスクの記録面上に光たとえばレーザー光を集光させて情報の記録,再生などを行う装置である。光ピックアップの対物レンズと光ディスクとが直接衝突しないようにするためには、従来いくつかの技術が提案されている。
【0003】
たとえば、特許文献1(特開2002−237071号公報)では、対物レンズのレンズ有効面の周縁から対物レンズの外縁または外側まで緩衝層が積層され、光ディスクの表面に対物レンズが近づいた場合に、レンズ有効面より先に緩衝層が光ディスクの表面に接触するようにしている。
ところが、この場合には、対物レンズ自体に緩衝層を積層しなければならないので、対物レンズの構成が複雑化し、その製造も困難であった。
そこで、特許文献2(特開2003−338063号公報)に記載の光ピックアップアクチュエータでは、可動部に設けられた対物レンズを保持する対物レンズ保持筒に、対物レンズ衝突防止用プロテクター部が設けられている。
【0004】
【特許文献1】特開平2002−237071号公報
【特許文献2】特開平2003−338063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記衝突防止用プロテクター部が、万一光ディスクの表面に接触したとき、光ディスクの表面に損傷を与えないようにするには、衝突防止用プロテクター部に緩衝用塗膜を塗布するのが好ましい。そこで、図7ないし図10に示すような方法で塗布処理を行なう場合があった。
図7ないし図10は従来技術を示す図で、図7は、衝突防止用プロテクター部を塗布処理する第1工程を示す斜視図、図8は、塗布処理の第2工程を示す拡大斜視図、図9(A),(B),(C)は、それぞれ塗布処理の第3工程を示す斜視図,平面図,正面図、図10は図9(C)のX部拡大図である。
【0006】
塗布処理を行うには、まず初めに、衝突防止用プロテクター部101(図8)が設けられたレンズホルダー102を、塗布用の取付け基台103上に複数個並べて取付ける。取付け基台103の上面には複数の支持部材104があらかじめ固定されており、その支持部材104にレンズホルダー102を装着して位置決めする。
取付け基台の上面側に遮蔽板105を被せるようになっており、遮蔽板105には、衝突防止用プロテクター部101の位置に対応する位置に、複数の孔106が配列されている。
したがって、衝突防止用プロテクター部101を塗布処理する場合には、図7,図8に示すように、第1工程で、複数のレンズホルダー102を複数の支持部材104に装着して位置決めする。
【0007】
次に、第2工程で、レンズホルダー102の衝突防止用プロテクター部101の配列位置に複数の孔106が対応して配列された遮蔽板105を、取付け基台103の上部に被せて、孔106が衝突防止用プロテクター部101の上面に配置されるようにする。これにより、図9に示すように、レンズホルダー102が、遮蔽板105と取付け基台103との間にはさまれた状態になる。
最後の第3工程では、遮蔽板105の孔106から塗料を、吹き付け,蒸着などの手段によって緩衝防止用プロテクター部101の上面に塗布して、ここに緩衝用塗膜を形成する(図9,図10)。
【0008】
このようにして、従来は、レンズホルダー102の製造工程で緩衝防止用プロテクター部101の塗布処理を行うので、レンズホルダー102自体を取付け基台103と遮蔽板105の間に並べた状態で、緩衝用塗膜を衝突防止用プロテクター部に塗布する必要がある。
その結果、一回の塗布処理で処理できるレンズホルダー102の数は自ずと少なくなり、この塗布処理がネックになって、レンズホルダー102を大量生産することが困難であった。
しかも、塗布処理にかかるコストは極めて高いので、このコストがレンズホルダー102の製造コストの大部分を占めてしまい、レンズホルダー102が高価なものになっていた。また、塗布処理のための装置が複雑で、製造工程も煩雑になっていた。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、光ピックアップの可動部と光ディスクとが接近したときこの光ディスクと対物レンズとの衝突を防止するための衝突防止装置を簡素な製造工程で極めて安価に製造することができる光ピックアップおよびその衝突防止装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明にかかる光ピックアップは、光ディスクの記録面上に光を集光させる対物レンズと前記光ディスクとが直接衝突しないようにするための衝突防止装置を有する光ピックアップであって、この衝突防止装置は少なくとも1個の成形体を備え、この成形体は、前記対物レンズを保持するレンズ保持部の周辺部上面に植立され、前記成形体の少なくとも頭頂部には緩衝用塗膜が塗布されている。
前記衝突防止装置の前記成形体は、前記頭頂部を有する頭部とこの頭部から下方に延びた足とを有して一体成形され、前記成形体の前記足は、前記レンズ保持部の前記周辺部上面に形成された成形体用孔または成形体用凹部に挿着されているのが好ましい。
また、前記成形体は、前記対物レンズを挟んでその両側に一対設けられているのが好ましい。
上述の目的を達成するための方法は、前記光ピックアップの衝突防止装置を製造する方法であって、前記緩衝用塗膜を有する前記成形体は、前記レンズ保持部の製造工程とは別の製造工程で製造され、この成形体の製造工程では、多数の前記成形体の母材を、取付け基台の多数の塗布用孔または塗布用凹部に配置して前記各成形体母材の少なくとも頭頂部を露出させた後、この状態でこの各成形体母材の少なくとも前記頭頂部に緩衝用塗膜を塗布するようにしている。
前記成形体母材を前記取付け基台の前記塗布用孔または前記塗布用凹部に配置して前記各成形体母材の頭部のみを露出させ、露出したこの頭部にのみ前記緩衝用塗膜を塗布するのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光ピックアップおよびその衝突防止装置の製造方法は上述のように構成したので、光ピックアップの可動部と光ディスクとが接近したときこの光ディスクと対物レンズとの衝突を防止するための衝突防止装置を簡素な製造工程で極めて安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
近年、DVDなどの光ディスクでは情報の記録密度が向上してきており、光ピックアップの対物レンズのNA(開口数)を高くする必要があるので、光ディスクと対物レンズとの間の距離が短くなってきている。
その結果、光ディスクと可動部とが接触する可能性が高くなり、両者が接触したとき光ディスクと対物レンズが損傷を受ける恐れがあるので、これを防止する対策が求められている。
【0013】
そこで、下記の実施例では、光ピックアップの衝突防止装置が少なくとも1個の成形体を備え、この成形体は、対物レンズを保持するレンズ保持部の周辺部上面に植立され、成形体の少なくとも頭頂部には緩衝用塗膜が塗布されている。
これにより、衝突防止装置を簡素な製造工程で極めて安価に製造することができる。また、可動部と光ディスクとが接近したとき、成形体の頭頂部が光ディスクに接触するので、光ディスクと対物レンズの損傷を防止することができる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明にかかる実施例を、図1ないし図6を参照して説明する。
図1ないし図6は本発明の一実施例を示す図で、図1は光ピックアップの斜視図、図2(A),(B)は、それぞれ可動部の組立手順を示す斜視図、図2(C)は可動部の平面図、図2(D)は、図2(C)のII−II線断面図である。
図3(A)は塗布処理前の成形体の正面図、図3(B)は塗布処理後の成形体の正面断面図、図3(C),(D)は、それぞれ変形例にかかる成形体の正面断面図,平面図、図3(E)は、他の変形例にかかる成形体の正面断面図である。
【0015】
図1ないし図3に示すように、本発明の光ピックアップ1は、可動部2を備えている。可動部2には、フォーカスコイル8およびトラッキングコイル9と、光ディスク3の記録面(表面3a)上にレーザー光などの光を集光させるための対物レンズ4とが設けられている。可動部2のフォーカスコイル8とトラッキングコイル9にそれぞれ電流を流すことにより、光ディスク3に対する対物レンズ4の位置を調整可能である。
光ピックアップ1は、可動部2を移動可能に支持する複数の支持ワイヤ5と、支持ワイヤ5を支持する支持台6と、支持台6が取付けられたヨーク部(継鉄部)7とを備えている。
【0016】
光ピックアップ1は、可動部2に設けられた衝突防止装置10を有している。衝突防止装置10は、可動部2と光ディスク3とが接近したとき、光ディスク3と対物レンズ4とを直接衝突させないようにする機能を有している。
衝突防止装置10は、ピン状など所定形状に形成された少なくとも1個(ここでは、2個)の成形体11を備えている。成形体11は、対物レンズ4を保持するレンズ保持部12の周辺部上面21に植立されており、成形体11の少なくとも頭頂部14には、緩衝用塗膜15が塗布(コーティング)されている。頭頂部14は、成形体11の外面のうち光ディスク3と直接接触する可能性のある箇所である。
【0017】
本発明では、成形体11のみに緩衝用塗膜15を塗布すればよいので、光ディスク3と対物レンズ4との衝突を防止するための衝突防止装置10を、簡素な製造工程で極めて安価に製造することができる。
可動部2に成形体11を設け、この成形体11が対物レンズ4と光ディスク3との直接的な接触を防止するので、光ディスク3と対物レンズ4を保護することができる。成形体11と光ディスク3とが直接接触しても、成形体11には緩衝用塗膜15が塗布されているので、光ディスク3の表面3aの損傷を防止することができる。
【0018】
光ディスク装置(図示せず)に使用される光ピックアップ1は、移動機構(図示せず)により、記録媒体である光ディスク3の半径方向に制御されつつ移動可能になっている。光ディスク装置は、光ディスク3を駆動モータで回転駆動するとともに、移動機構で所望の位置に光ピックアップ1を移動させる。
そして、光ピックアップ1は、光ディスク3の記録面(表面3a)上に対物レンズ4で光(たとえば、レーザー光)を集光させて、光ディスク3に対して情報の記録,再生などを行う。
光ディスク3としては、CD,CD−ROM,CD−R,CD−RW,MD,MO,DVD−ROM,DVD−RAM,DVD−R,DVD−RWなどがある。
【0019】
なお、説明の便宜上、対物レンズ4の光軸Bと平行な方向すなわちフォーカス方向をX方向とし、特に、光ディスク3側,反光ディスク側をそれぞれ上方向,下方向とする。このX方向と直交する方向(光ディスク3の半径方向)すなわちトラッキング方向をZ方向とし、X方向およびZ方向と直交する方向をY方向とする。
本実施例では、対物レンズ4が可動部2の中央部より一方側に偏心して配置された「レンズオフセットタイプ」の光ピックアップ1の場合を示している。なお、本発明は、対物レンズが可動部のほぼ中央部に配置された「レンズセンタータイプ」の光ピックアップにも適用可能である。
【0020】
磁性体からなるヨーク部7には、支持台6が取付けられている。支持台6は、複数(ここでは、四本)の支持ワイヤ5を支持しており、この四本の支持ワイヤ5は、可動部2を移動可能に支持している。
フォーカスコイル8およびトラッキングコイル9との間でそれぞれ磁気回路を構成する永久磁石19が、ヨーク部7の所定位置に取付けられている。可動部2に設けられたフォーカスコイル8とトラッキングコイル9には、支持ワイヤ5を介してそれぞれ電流が供給される。
フォーカスコイル8に電流を流せば、可動部2をフォーカス方向(対物レンズ4の光軸Bと平行な方向(X方向))に移動させることができる。トラッキングコイル9に電流を流せば、可動部2をトラッキング方向(光ディスク3の半径方向(Z方向))に移動させることができる。
【0021】
可動部2は所定形状の本体部16を有しており、本体部16は、絶縁性を有する樹脂材料などにより一体的に形成されている。対物レンズ4,フォーカスコイル8およびトラッキングコイル9などは、本体部16の所定位置に取付けられている。本体部16は、対物レンズ4を支持するレンズ支持部17と、コイル8,9を支持し、平面視でほぼ矩形のコイル支持部18とを有している。
レンズ支持部17にはレンズ保持部12が一体的に形成されている。レンズ保持部12の内面は、対物レンズ4を保持するために円形になっている。レンズ保持部12の中心軸線と対物レンズ4の光軸Bとが一致するように、対物レンズ4がレンズ保持部12に保持されている。
コイル支持部18の内方には、一つのフォーカスコイル8と、Z方向に並んだ一対のトラッキングコイル9とが設けられている。
【0022】
レンズ支持部17において、対物レンズ4を直接保持するレンズ保持部12の周辺部の上面21には、成形体用孔22(または、図3(E)に示す成形体用凹部22a)が形成されている。
成形体11は、可動部2とは別体に形成されて、この可動部2の成形体用孔22(または、成形体用凹部22a)に、カシメ,接着,圧入などの固定手段によって取付けられている。図2(A)は、成形体11を成形体用孔22に取付ける途中の状態を示しており、図2(B)〜(D)は、成形体11の取付けが完了した状態を示している。
【0023】
成形体11は、頭頂部14を有する頭部23と、頭部23から下方に延びた足24とを有して、ピン状に一体形成されている。成形体11の母材は、ゴム,合成樹脂などにより全体的に一体形成されている。
成形体11の足24は、レンズ保持部12の周辺部上面21に形成された成形体用孔22(または、成形体用凹部22a)に挿着されている。
このようにして、成形体11を本体部16とは別体で形成し、この成形体11をレンズ保持部12の周辺部上面21に植立させているので、本体部16の製造工程とは別の製造工程で、成形体11の少なくとも頭頂部14に緩衝用塗膜15を塗布することができる。
緩衝用塗膜15は、光ディスク3を保護する点から滑り特性の良好な素材が好ましく、たとえば、UV系塗料,UV系接着剤,UV系硬化性樹脂,フッ素樹脂(テフロン(登録商標))などが好ましく、これらの緩衝用塗膜15を、頭部23の少なくとも頭頂部14にコーティング,蒸着,塗装,接着などの方法で塗布することになる。
【0024】
成形体11を製造するには、たとえば、図3(A)に示すような成形体母材30を準備する。この成形体母材30は、頭頂部14を有する頭部23と、その下部に一体形成された足24とを有している。図3(A)〜(D)に示す成形体11は、全体がピン状に形成されている場合を示している。
図3(B)に示すように、頭部23の頭頂部14と外周面の両方に緩衝用塗膜15を塗布する場合や、図3(C),(D)に示すように、成形体11の頭頂部14のみに緩衝用塗膜15を塗布する場合などがある。
【0025】
また、図3(E)に示す変形例にかかる成形体11は、緩衝用塗膜15が塗布された頭頂部14を有する頭部23と、この頭部23から下方に延びる足24とを有して、一体形成されている。
また、頭部23の頭頂部14と外周面の両方に、緩衝用塗膜15を塗布している。足24は、成形体用凹部22aの形状に対応した形状を有して頭部23から下方に膨出形成され、成形体用凹部22aに挿着可能になっている。
【0026】
レンズ支持部17に取付けられた状態の成形体11は、可動部2と光ディスク3とが接近したときに、対物レンズ4より先に光ディスク3と直接的に接触可能である。やがて成形体11が光ディスク3と接触したときには、緩衝用塗膜15の塗布された頭頂部14のみが、対物レンズ4より常に先に光ディスク3の表面3aに接触することになる。これにより、光ディスク3と対物レンズ4とが直接接触することを防止して、光ディスク3の表面3aと対物レンズ4の損傷を防止している。
成形体11は、対物レンズ4を挟んでその両側に一対設けられている。これにより、光ディスク3が対物レンズ4に対して傾いた状態で可動部2に接近した場合でも、いずれか一方の成形体11が対物レンズ4より先に光ディスク3と接触する。よって、光ディスク3と対物レンズ4との直接的な接触を防止して、光ディスク3と対物レンズ4の損傷を防止することができる。
なお、成形体11を、対物レンズ4を挟んでその両側に一対設けた場合を示したが、レンズ保持部12の周辺部上面21の適当な位置の1箇所または複数箇所に設けた場合であってもよい。
【0027】
光ピックアップ1は、図示しない光学系を有している。この光学系は、レーザー光を発生する半導体レーザーなど光源,光検出器,反射ミラー,レンズおよび回折格子などを有している。対物レンズ4もこの光学系に含まれる。
光検出器は、光ディスク3の記録面で反射したレーザー光を受光し、再生信号を検出するとともに、フォーカスエラー信号,トラッキングエラー信号なども検出する。
【0028】
次に、光ピックアップ1の動作について説明する。
まず、光ディスク装置において、光ディスク3が駆動モータにより回転駆動されている状態で、移動機構により光ピックアップ1を所望の位置に移動させる。そして、光学系で発生したレーザー光を対物レンズ4で記録面上に集光させて、光ディスク3に対して情報の記録,再生などを行う。
光ピックアップ1の状態(可動部2の位置,姿勢など)を制御する場合には、光検出器で検出された光ディスク3の傾きなどの姿勢制御に関する情報を変換部で電気信号に変換し、制御部に電気信号(フォーカスエラー信号,トラッキングエラー信号など)として出力する。
制御部では、変換部から出力された電気信号(フォーカスエラー信号,トラッキングエラー信号など)に基づいて、フォーカスコイル8に流す電流とトラッキングコイル9に流す電流をそれぞれ制御する。
【0029】
対物レンズ4をフォーカス方向(X方向)に移動させる場合には、制御部は、移動すべき方向および移動量に応じた制御電流を、支持ワイヤ5を介してフォーカスコイル8に供給する。すると、フォーカスコイル8により生じる電磁力により、可動部2が光ディスク3に対してフォーカス方向(X方向)に移動(シフト)して、対物レンズ4の位置を調整する。
同様に、支持ワイヤ5を介して二つのトラッキングコイル9に供給する電流を制御すれば、トラッキングコイル9により生じる電磁力により、可動部2が光ディスク3のトラッキング方向(Z方向)に移動(シフト)して、対物レンズ4の位置を調整する。
このようにして、可動部2は、フォーカス方向,トラッキング方向にそれぞれ移動するようにその位置が制御される。
【0030】
正常動作時には、光ディスク3が可動部2から離れた状態で、光ピックアップ1により光ディスク3に対して情報の記録,再生などが行われる。
ところが、ターンテーブルに対して光ディスク3のセットが不十分であったり、光ディスク3自体が歪んだりしていると、回転中の光ディスク3と可動部2とが接近することがある。
この場合、一対の成形体11のうち一方または両方が、回転中の光ディスク3の表面3aに接触しても、成形体11の少なくとも頭頂部14には緩衝用塗膜15が塗布されているので、光ディスク3の表面3aに傷が付く恐れはない。
また、可動部2と回転中の光ディスク3とが接近したときは、成形体11は対物レンズ4より常に先に光ディスク3と接触するので、対物レンズ4が光ディスク3と直接接触することはなく、対物レンズ4の損傷を防止することができる。
【0031】
次に、衝突防止装置10の製造方法について説明する。
図4は、成形体を塗布処理する第1工程を示す斜視図、図5(A)は、成形体を塗布処理する第2工程を示す斜視図、図5(B)は、図5(A)のV部拡大図である。図6(A),(B)は、それぞれ図5(A)の平面図,正面図、図6(C)は、図6(B)のVI部拡大図、図6(D)は、塗布処理された多数の成形体のうちの一部の成形体を示す斜視図である。
【0032】
図4ないし図6に示すように、緩衝用塗膜15を有する成形体11は、レンズ保持部12(図1)の製造工程とは別の製造工程で製造されている。
この成形体11の製造工程では、多数の塗布用孔31(または、塗布用凹部)が配列された塗布用の取付け基台32を準備する。そして、多数の成形体母材30を取付け基台32の塗布用孔31(または、塗布用凹部)に配置して、各成形体母材30の少なくとも頭頂部14(本実施例では、頭部23全体)を取付け基台32の外方に露出させる(第1工程)。
このとき、成形体母材30のサイズは小さいので、取付け基台32に極めて多数の塗布用孔31を形成し、極めて多数の成形体母材30を取付け基台32の各塗布用孔31に取付けることができる。
【0033】
次いで、成形体母材30を塗布処理する第2工程では、頭部23が露出した状態で、各成形体母材30の少なくとも頭頂部14に緩衝用塗膜15を塗布する。
このようにすれば、上述の従来技術でレンズホルダー(本実施例でのレンズ支持部に相当)に直接塗布処理を行なっていた製造方法と比べて、本発明の方法では、極めて多数の成形体11を一度にまとめて塗布処理して、成形体11を大量生産することができる。
取付け基台32に多数の塗布用孔31を形成しておけばよいので、簡素な製造工程で簡単な作業により成形体11を大量に製造することができ、成形体11の単価を極めて安価にすることができる。
【0034】
なお、成形体母材30を取付け基台32の塗布用孔31(または、塗布用凹部)に配置して各成形体母材30の頭部23のみを露出させ、露出したこの頭部23の全体に緩衝用塗膜15を塗布するのが好ましい。
このようにすれば、頭頂部14のみに緩衝用塗膜15を塗布する場合と比べて、塗布面積が大きくなるので、成形体母材30が直接露出する部分が少なくなって、光ディスク3をより確実に保護することができる。
【0035】
成形体11に足24を設けたので、この足24を成形体用孔22(または、成形体用凹部22a)に挿着することにより、成形体11をレンズ支持部17に容易に取付けることができ、作業性がよい。
また、従来の塗布処理では、衝突防止用プロテクター部以外の部分に塗膜が付着してしまうのを防ぐために遮蔽板が必要であったが、本発明によれば、このような遮蔽板は不要で製造工程が簡素になる。
【0036】
本発明によれば、緩衝用塗膜15を塗布するための費用が低下するので、可動部2の本体部16の製造コストは、たとえば従来技術と比べて15分の1ないし20分の1に低下する。
また、成形体11を可動部2の本体部16とは別体の部品にしたので、緩衝用塗膜15は成形体11のみに塗布されこれ以外の部分には付着しない。したがって、塗布の不要な部分にまで緩衝用塗膜が付着して悪影響を及ぼすといった恐れはない。可動部2の本体部16とは分離された成形体11のみを任意の構成に設計変更できるので、設計の自由度が拡がる。
【0037】
以上、本発明の実施例(各種変形例を含む。以下同じ)を説明したが、本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲で種々の変形,付加などが可能である。
なお、各図中同一符号は同一または相当部分を示す。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、DVD,CDなどの記録面上に対物レンズでレーザー光などを集光させて情報の記録,再生などを行う光ディスク装置に取付けられる光ピックアップに適用される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1ないし図6は本発明の一実施例を示す図で、図1は光ピックアップの斜視図である。
【図2】可動部を示す図である。
【図3】成形体を示す図である。
【図4】成形体を塗布処理する第1工程を示す斜視図である。
【図5】成形体を塗布処理する第2工程を示す斜視図である。
【図6】図6(A),(B)は、それぞれ図5(A)の平面図,正面図、図6(C)は図6(B)のVI部拡大図、図6(D)は塗布処理された成形体の斜視図である。
【図7】図7ないし図10は従来技術を示す図で、図7は、塗布処理する第1工程を示す斜視図である。
【図8】塗布処理の第2工程を示す拡大斜視図である。
【図9】塗布処理の第3工程を示す図である。
【図10】図9(C)のX部拡大図である。
【符号の説明】
【0040】
1 光ピックアップ
3 光ディスク
4 対物レンズ
10 衝突防止装置
11 成形体
12 レンズ保持部
14 頭頂部
15 緩衝用塗膜
21 上面
22 成形体用孔
22a 成形体用凹部
23 頭部
24 足
30 成形体の母材
31 塗布用孔
32 取付け基台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクの記録面上に光を集光させる対物レンズと前記光ディスクとが直接衝突しないようにするための衝突防止装置を有する光ピックアップであって、
この衝突防止装置は少なくとも1個の成形体を備え、この成形体は、前記対物レンズを保持するレンズ保持部の周辺部上面に植立され、前記成形体の少なくとも頭頂部には緩衝用塗膜が塗布されていることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項2】
前記衝突防止装置の前記成形体は、前記頭頂部を有する頭部とこの頭部から下方に延びた足とを有して一体成形され、
前記成形体の前記足は、前記レンズ保持部の前記周辺部上面に形成された成形体用孔または成形体用凹部に挿着されていることを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の前記衝突防止装置を製造する方法であって、
前記緩衝用塗膜を有する前記成形体は、前記レンズ保持部の製造工程とは別の製造工程で製造され、この成形体の製造工程では、
多数の前記成形体の母材を、取付け基台の多数の塗布用孔または塗布用凹部に配置して前記各成形体母材の少なくとも頭頂部を露出させた後、
この状態でこの各成形体母材の少なくとも前記頭頂部に緩衝用塗膜を塗布するようにしたことを特徴とする光ピックアップの衝突防止装置の製造方法。
【請求項4】
前記成形体母材を前記取付け基台の前記塗布用孔または前記塗布用凹部に配置して前記各成形体母材の頭部のみを露出させ、
露出したこの頭部にのみ前記緩衝用塗膜を塗布することを特徴とする請求項3に記載の光ピックアップの衝突防止装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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