説明

光ピックアップ部品

【課題】高弾性率、低比重および優れた成形性を有する光ピックアップ部品を提供する。
【解決手段】曲げ弾性率12GPa以上の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる光ピックアップ部品であって、前記熱可塑性樹脂組成物が、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを配合してなる熱可塑性樹脂組成物からなり、前記光ピックアップ部品の表面において、前記熱可塑性樹脂組成物が、構造周期0.001〜5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜5μmの分散構造を形成している光ピックアップ部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物を用いた光ピックアップ部品に関するものであり、さらに詳しくは、熱可塑性樹脂組成物中の優れた規則性による高い剛性を活かして、高弾性率、低比重および優れた成形性を有する、コンパクトディスク、レーザーディスク、デジタルビデオディスク、光磁気ディスク等に用いる光ピックアップ部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンパクトディスク、レーザーディスク、デジタルビデオディスク、光磁気ディスク等に用いる光ピックアップ部品は、高い寸法精度が要求されることから、各種充填剤を多量に配合して弾性率を向上させた熱可塑性樹脂組成物が素材として用いられてきた。
【0003】
しかし、近年では、特にパーソナルコンピューターに用いられるコンパクトディスクやデジタルビデオディスクにおいては、ドライブ速度の高倍速化が進んできており、この高倍速化に対応するためには、光ピックアップの応答性を上げる必要があり、そのためにより軽量な光ピックアップが必要とされてきている。しかしながら、上述した各種充填剤を多量に配合して弾性率を向上させた熱可塑性樹脂組成物を用いる場合には、一方で比重が重くなり、光ピックアップの応答性が低下するという問題があり、これらの相反する課題の解決が望まれていた。
【0004】
光ピックアップ部品用の熱可塑性樹脂組成物に関する従来技術としては、脂肪族ポリケトンとホウ酸アルミニウムウィスカを配合してなる、光ピックアップパーツ等に有効な熱可塑性樹脂組成物(例えば、特許文献1参照)が知られているが、当該技術では、比較的高い弾性率を得られるものの、一方で比重が重くなりすぎ光ピックアップの応答性が低下する問題が生じていた。
【0005】
また、液晶ポリマーを配合することにより光ピックアップ部品に有効な特性を付与した熱可塑性樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)も知られており、当該技術では、低比重と高い弾性率を両立できるとされているが、液晶ポリマーを用いているため、その他の熱可塑性樹脂との相溶性に劣り、その結果成形品表面で層状に剥離し易いなど、成形性の点で問題が生じていた。
【0006】
一方、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物をスピノーダル分解により構造を制御し特定範囲の構造としたポリマーアロイ(例えば、特許文献3参照)についてもすでに提案されており、このポリマーアロイが優れた強度および靱性を有し、光ピックアップ部品へ適用可能であることも知られているが、当該技術は、このポリマーアロイからなる高弾性率、低比重および優れた成形性を高い次元で満足する光ピックアップ部品の具体例については全く言及するものではなかった。
【特許文献1】特開平11−349801(第2頁、実施例)
【特許文献2】特開2001−118277公報(第2頁、実施例)
【特許文献3】特開2003−286414号公報(第2頁、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、高弾性率、低比重および優れた成形性を有する光ピックアップ部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、曲げ弾性率12GPa以上の高剛性を有し、かつ比重を著しく上げることなく、さらには成形性をも満足させた熱可塑性樹脂組成物からなる光ピックアップ部品を得るべく鋭意検討した結果、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物を用い、かつ光ピックアップ表面において、前記熱可塑性樹脂組成物に、構造周期0.001〜5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜5μmの分散構造を形成させることにより、上述の課題を解決した光ピックアップ部品が得られることを見出し本発明を完成させるにいたった。
【0010】
すなわち、本発明によれば、曲げ弾性率12GPa以上の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる光ピックアップ部品であって、前記熱可塑性樹脂組成物が、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを配合してなる熱可塑性樹脂組成物からなり、前記光ピックアップ部品の表面において、前記熱可塑性樹脂組成物が、構造周期0.001〜5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜5μmの分散構造を形成していることを特徴とする光ピックアップ部品が提供される。
【0011】
なお、本発明の光ピックアップ部品においては、
前記熱可塑性樹脂組成物が、さらに平均繊維径0.5〜20μmの繊維状充填剤を含有すること、および
前記熱可塑性樹脂組成物が、さらに平均粒径0.1〜50μmの粒状充填剤を含有すること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下に説明するとおり、高弾性率、低比重および優れた成形性を有する光ピックアップ部品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
(1)光ピックアップ部品
本発明の光ピックアップ部品に用いる熱可塑性樹脂は、曲げ弾性率12GPa以上の熱可塑性樹脂組成物からなることが必要であり、さらには12.5GPa以上であることが好ましく、より好ましくは13GPa以上である。
【0015】
かかる曲げ弾性率の測定法は、ASTM D−790に準拠し、室温で測定することによって得られる。
【0016】
本発明の光ピックアップ部品は、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物からなり、かつ光ピックアップ部品表面において、前記熱可塑性樹脂組成物が、構造周期0.001〜5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜5μmの分散構造を形成していることが必要である。かかる構造を有する熱可塑性樹脂組成物を得る方法としては、後述のスピノーダル分解を利用する方法が好ましい。さらに、より剛性の高い光ピックアップ部品を得るためには、光ピックアップ部品表面において、前記熱可塑性樹脂組成物が、構造周期0.002〜1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.002〜1μmの範囲の分散構造となるように制御することが好ましく、さらには、構造周期0.003〜0.5μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.003〜0.5μmの範囲の分散構造となるように制御することがより好ましく、さらには、構造周期0.003〜0.3μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.003〜0.3μmの範囲の分散構造となるように制御することが最も好ましい。
【0017】
両相連続構造における構造周期が上記の範囲未満では、剛性の点で不十分となり、逆に上記の範囲を超えると、成形性が悪化するため好ましくない。また、分散構造における粒子間距離が上記の範囲未満では、剛性の点で不十分となり、逆に上記の範囲を超えると、成形性が悪化するため好ましくない。
【0018】
本発明においては、このように微細な相構造を有する光ピックアップ部品を与える熱可塑性樹脂組成物を用いるため、剛性に優れた光ピックアップ部品を得ることができる。
【0019】
上記光ピックアップ部品は、後述のようにポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを、2軸押出機等を用いて十分な程度の高剪断応力下で溶融混練して一旦相溶化させ、押出機からガット状またはシート状に吐出し、吐出後直ぐに冷却することによって、2成分の樹脂が相溶状態で構造が固定された状態か、あるいはスピノーダル分解の初期状態である構造周期が0.1μm以下の両相連続構造を有する状態、より好ましくは2成分の樹脂が相溶状態で構造が固定された状態のガットまたはシートをカッティングすることによりペレット状に加工し、さらにかかるペレットを用いて、各種成形を施すことにより光ピックアップ部品を得ることができる。
【0020】
本発明の光ピックアップ部品の表面において、前記熱可塑性樹脂に、構造周期0.001〜5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜5μmの分散構造を形成させる好ましい方法としては、前記2成分の樹脂が相溶状態で構造が固定された状態か、あるいはスピノーダル分解の初期状態である構造周期が0.1μm以下の両相連続構造を有する状態のペレットを製造した後、このペレットを成形し、その成形の過程においてスピノーダル分解をさらに進行させ、構造周期が0.001〜5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜5μmの範囲の分散構造を形成させて、構造を固定する方法が挙げられる。
【0021】
本発明における光ピックアップ部品の好ましい成形方法としては、任意の方法が可能であるが、中でも射出成形が好ましい。
【0022】
(2)ポリブチレンテレフタレート樹脂
本発明で用いるポリブチレンテレフタレート樹脂とは、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体と1,4−ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体とを主成分とする重縮合反応によって得られる重合体であって、特性を損なわない範囲において共重合成分を含んでも良く、共重合成分の共重合量は全単量体に対して20モル%以下であることが好ましい。
【0023】
これら重合体および共重合体の好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)およびポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレート等が挙げられ、単独で用いても2種以上混合して用いても良い。
【0024】
また、これら重合体および共重合体は、成形性、機械的特性の観点からo−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.36〜1.60、特に0.52〜1.25の範囲にあるものが好適であり、さらには0.6〜1.0の範囲にあるものが最も好ましい。
【0025】
(3)ポリカーボネート樹脂
本発明で用いるポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールA、つまり2,2'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4'−ジヒドロキシジフェニルアルカンあるいは4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた1種以上のジヒドロキシ化合物を主原料とするものが好ましく挙げられる。なかでもビスフェノールA、つまり2,2'−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを主原料として製造されたものが好ましい。具体的には、上記ビスフェノールAなどをジヒドロキシ成分として用い、エステル交換法あるいはホスゲン法により得られたポリカーボネートが好ましい。さらに、上記ビスフェノールAは、これと共重合可能なその他のジヒドロキシ化合物、例えば4,4'−ジヒドロキシジフェニルアルカンあるいは4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどと併用することも可能であり、その他のジヒドロキシ化合物の使用量は、ジヒドロキシ化合物の総量に対し、10モル%以下であることが好ましい。
【0026】
また上記ポリカーボネート樹脂は、優れた耐衝撃性と成形性の観点から、ポリカーボネート樹脂0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し20℃で測定したときの比粘度が0.1〜2.0、特に0.5〜1.5の範囲にあるものが好適であり、さらには0.8〜1.5の範囲にあるものが最も好ましい。
【0027】
(4)熱可塑性樹脂組成物
本発明の光ピックアップ部品に用いる熱可塑性樹脂組成物は、少なくとも上記ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物からなり、さらに前述の光ピックアップ表面において、前記熱可塑性樹脂組成物が、構造周期0.001〜5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜5μmの分散構造を形成していることが必要である。
【0028】
かかる構造を有する熱可塑性樹脂組成物を得る方法としては、後述のスピノーダル分解を利用する方法が好ましい。
【0029】
一般に、2成分の樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物には、相溶系、非相溶系および半相溶系がある。相溶系は、平衡状態である非剪断下において、ガラス転移温度以上、熱分解温度以下の実用的な温度の全領域において相溶な系である。非相溶系は、相溶系とは逆に、全領域で非相溶となる系である。半相溶系は、ある特定の温度および組成の領域で相溶し、別の領域で非相溶となる系である。さらにこの半相溶系には、その相分離状態の条件によってスピノーダル分解によって相分離するものと、核生成と成長によって相分離するものがある。
【0030】
さらに3成分以上からなる熱可塑性樹脂組成物の場合は、3成分以上のいずれもが相溶である系、3成分以上のいずれもが非相溶である系、2成分以上のある相溶な相と、残りの1成分以上の相が非相溶な系、2成分が半相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる半相溶系に分配される系などがある。本発明においては、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を含む3成分以上からなるポリマーアロイの場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂以外の3成分目が、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂の少なくともいずれかに分配される系であることが好ましい。この場合ポリマーアロイの構造は、2成分からなる非相溶系の構造と同等になる。以下2成分の樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物で代表して説明する。
【0031】
上記非相溶系においても溶融混練によってスピノーダル分解を誘発することが可能であり、それには、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の剪断下で一旦相溶化し、その後非剪断下とすることにより相分解するいわゆる剪断場依存型スピノーダル分解により相分離する。この剪断場依存型スピノーダル分解様式の基本部分については、上述の一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解と同様であることから、以下一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解について説明した後、本発明に特徴的な部分を付記する形で説明する。
【0032】
一般にスピノーダル分解による相分離とは、異なる2成分の樹脂組成および温度に対する相図において、スピノーダル曲線の内側の不安定状態で生じる相分離のことを指す。一方、核生成と成長による相分離とは、該相図においてバイノーダル曲線の内側であり、かつスピノーダル曲線の外側の準安定状態で生じる相分離のことを指す。
【0033】
かかるスピノーダル曲線とは、組成および温度に対して、異なる2成分の樹脂を混合した場合、相溶な場合の自由エネルギーと相溶しない2相における自由エネルギーの合計との差(ΔGmix)を濃度(φ)で二回偏微分したもの(∂2ΔGmix/∂φ2)が0となる曲線のことである。スピノーダル曲線の内側では、∂2ΔGmix/∂φ2<0の不安定状態であり、スピノーダル曲線の外側では∂2ΔGmix/∂φ2>0である。
【0034】
またバイノーダル曲線とは、組成および温度に対して、系が相溶な領域と非相溶な領域の境界の曲線のことである。
【0035】
ここで相溶状態とは、分子レベルで均一に混合している状態のことである。具体的には異なる成分からなる相が、0.001μm以上の構造物を形成していない場合を指す。また、非相溶状態とは、相溶状態でない場合のことである。すなわち異なる成分からなる相が、0.001μm以上の構造物を形成している状態のことを指す。ここで、0.001μm以上の構造物とは、例えば、構造周期0.001〜1μmの両相連続構造や粒子間距離0.001〜1μmの分散構造などのことである。相溶か否かは、例えばPolymer Alloys and Blends, Leszek A Utracki, hanser Publishers,Munich Viema New York,P64,に記載の様に、電子顕微鏡、示差走査熱量計(DSC)、その他種々の方法によって判断することができる。
【0036】
詳細な理論によると、スピノーダル分解では、一旦相溶領域の温度で均一に相溶化した混合系の温度を、不安定領域の温度まで急速に変化させた場合、系は共存組成に向けて急速に相分離を開始する。その際濃度は一定の波長に単色化され、構造周期(Λm)で両分離相が共に連続して規則正しく絡み合った両相連続構造を形成する。この両相連続構造形成後、その構造周期を一定に保ったまま、両相の濃度差のみが増大する過程をスピノーダル分解の初期過程と呼ぶ。
【0037】
さらに上述のスピノーダル分解の初期過程における構造周期(Λm)は熱力学的に下式のような関係がある。
Λm〜[│Ts−T│/Ts]−1/2
(ここでTsはスピノーダル曲線上の温度)
【0038】
ここで両相連続構造とは、混合する樹脂の両成分がそれぞれ連続相を形成し、互いに三次元的に絡み合った構造を指す。この両相連続構造の模式図は、例えば「ポリマーアロイ 基礎と応用(第2版)(第10.1章)」(高分子学会編:東京化学同人)に記載されている。
【0039】
上記剪断場依存型スピノーダル分解では、剪断を賦与することにより相溶領域が拡大する。つまりはスピノーダル曲線が剪断を賦与することにより大きく変化するため、スピノーダル曲線が変化しない上記一般的なスピノーダル分解に比べて、同じ温度変化幅においても実質的な過冷却度(│Ts−T│)が大きくなる。その結果、上述の関係式におけるスピノーダル分解の構造周期を小さくすることが容易となる。
【0040】
スピノーダル分解では、この様な初期過程を経た後、波長の増大と濃度差の増大が同時に生じる中期過程、濃度差が共存組成に達した後、波長の増大が自己相似的に生じる後期過程を経て、最終的には巨視的な2相に分離するまで進行する。本発明においては、本発明で規定する範囲内の所望の構造周期に到達した段階で構造を固定すればよい。また中期過程から後期過程にかける波長の増大過程において、組成や界面張力の影響によっては、片方の相の連続性が途切れ、上述の両相連続構造から分散構造に変化する場合もある。この場合には本発明で規定する範囲内の所望の粒子間距離に到達した段階で構造を固定すればよい。
【0041】
ここで分散構造とは、片方の相が連続相であるマトリックスの中に、もう片方の相である粒子が点在している、いわゆる海島構造のことをさす。
【0042】
またこの初期過程から構造発展させる方法に関しては、特に制限はないが、熱可塑性樹脂組成物を構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度のうち、最も低い温度以上で熱処理する方法が通常好ましく用いられる。さらには熱可塑性樹脂組成物が相溶状態で単一のガラス転移温度を有する場合や、相分解が進行しつつある状態で、ポリマーアロイのガラス転移温度が熱可塑性樹脂組成物を構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度間にある場合には、その熱可塑性樹脂組成物中のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で熱処理することがより好ましい。
【0043】
またスピノーダル分解による構造を固定化する方法としては、急冷等により、相分離相の一方または両方の相の構造を固定する方法や、一方が熱硬化する成分である場合、熱硬化性成分の相が反応によって自由に運動できなくなることを利用する方法、さらに一方が結晶性樹脂である場合、結晶性樹脂相を結晶化によって自由に運動できなくなることを利用する方法が挙げられる。中でも結晶性樹脂を用いた場合、結晶化による構造固定が好ましく用いられる。
【0044】
一方、核生成と成長により相分離する系では、その初期から海島構造である分散構造が形成されてしまい、それが成長するため、本発明の様な規則正しく並んだ構造周期0.001〜5μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜5μmの範囲の分散構造を形成させることは困難である。
【0045】
かかる両相連続構造、もしくは分散構造が得られていることを確認するためには、規則的な周期構造が確認されることが重要である。そのためには、例えば、光学顕微鏡観察や透過型電子顕微鏡観察により、両相連続構造が形成されることの確認に加えて、光散乱装置や小角X線散乱装置を用いて行う散乱測定において、散乱極大が現れることを確認する。なお、光散乱装置、小角X線散乱装置は最適測定領域が異なるため、構造周期の大きさに応じて適宜選択して用いられる。この散乱測定における散乱極大の存在は、ある周期を持った規則正しい相分離構造が存在することの証明であり、その周期Λm は、両相連続構造の場合構造周期に対応し、分散構造の場合粒子間距離に対応する。またその値は、散乱光の散乱体内での波長λ、散乱極大を与える散乱角θm を用いて次式
Λm =(λ/2)/sin(θm /2)
により計算することができる。
【0046】
スピノーダル分解を実現させるためには、2成分以上の樹脂を、一旦相溶状態とした後、スピノーダル曲線の内側の不安定状態とすることが必要である。一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解においては、相溶条件下で溶融混練後、非相溶域に温度ジャンプさせることによって、スピノーダル分解を生じさせ得る。一方、上記剪断場依存型スピノーダル分解においては、非相溶系において、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の範囲の剪断下で相溶化しているため、非剪断下とすることのみでスピノーダル分解を生じさせ得る。本発明に用いるポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を配合してなる熱可塑性樹脂組成物は、上記剪断場依存型スピノーダル分解に属し、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の範囲の剪断下で相溶化するため、非剪断下とすることのみでスピノーダル分解を生じさせ得る。なお、上記において剪断速度は、例えば平行円盤型剪断賦与装置を用いる場合、所定の温度に加熱し溶融状態とした樹脂を平行円盤間に投入し、中心からの距離(r)、平行円盤間の間隔(h)、回転の角速度(ω)から、ω×r/hとして求めることが可能である。
【0047】
かかる熱可塑性樹脂組成物の具体的な製造方法としては、上記剪断場依存型スピノーダル分解を利用する方法が好ましい例として挙げられ、溶融混練時の相溶化を実現させる方法として、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを、2軸押出機のニーディングゾーンにおいて、高剪断応力下で溶融混練する方法が好ましい方法として挙げられる。
【0048】
かかる2軸押出機を用いる場合、ニーディングブロックを多用したスクリューアレンジにしたり、樹脂温度を下げたり、スクリュー回転数を高くしたり、使用ポリマーの粘度を上げることによってより高剪断応力状態を形成することにより、適宜調節することができる。
【0049】
使用ポリマーの粘度を上げ高剪断応力状態を形成する場合、好ましいポリカーボネート樹脂の比粘度は、0.5〜1.5の範囲であり、さらに好ましくは、0.8〜1.5の範囲である。ここでポリカーボネート樹脂の比粘度は、ポリカーボネート0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し20℃で測定することによって求めることができる。
【0050】
かかるポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂との配合量には特に制限がないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂の配合量の比として、ポリブチレンテレフタレート樹脂/ポリカーボネート樹脂=10/90〜90/10(重量比)の範囲が好ましく、さらには15/85〜85/15(重量比)の範囲が好ましい。
【0051】
また、上記熱可塑性樹脂組成物に、さらに熱可塑性樹脂組成物を構成する成分を含むブロックコポリマーやグラフトコポリマーやランダムコポリマーなどの第3成分を添加することは、相分離した相間における界面の自由エネルギーを低下させ、両相連続構造における構造周期や、分散構造における分散粒子間距離の制御を容易にするため好ましい。この場合、通常、かかるコポリマーなどの第3成分は、それを除く2成分の樹脂(本発明においてはポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂)からなる熱可塑性樹脂組成物の各相に分配されるため、2成分の樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物同様に取り扱うことができる。
【0052】
また、本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物には、さらに他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を本発明の構造を損なわない範囲で含有させることもできる。これらの熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリエステル、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、およびポリフェニレンオキサイド等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、およびエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0053】
これらの他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂は、本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能である。例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを配合する際に同時に添加する方法や、予めポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂を溶融混練した後に添加する方法や、始めにポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂のうち、いずれか片方の樹脂に添加し溶融混練後、残りの樹脂を配合する方法等が挙げられる。
【0054】
本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物には、高い弾性率を得るために、さらに平均繊維径0.5〜20μmの繊維状充填剤を添加することが有効である。かかる平均繊維径0.5〜20μmの繊維状充填剤としては、チョップドガラスファイバー、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ガラスミルドファイバー、炭素ミルドファイバー、ワラストナイト、窒化珪素ウィスカー、三窒化珪素ウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、炭化珪素ウィスカー、ボロンウィスカー等のウィスカー、金属繊維、ロックウール、ジルコニア、アルミナシリカ、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、炭化珪素、アルミナ、シリカ、等の無機系繊維、およびアスベスト等が挙げられるが、中でも、チョップドガラスファイバー、ガラスミルドファイバー、ワラストナイト、およびチタン酸バリウムウィスカーが好ましく、最も好ましくは、チョップドガラスファイバーである。
【0055】
これら繊維状充填剤の配合率は、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂との合計量100重量部に対し、1重量部から200重量部の範囲にあることが好ましく、より好ましくは、10重量部から150重量部の範囲である。
【0056】
本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物には、高い弾性率を得るために、さらに平均粒径0.1〜50μmの粒状充填剤を添加することが有効である。かかる平均粒径0.1〜50μmの粒状充填剤としては、例えばタルク、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、セリサイト、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、ケイ砂、硫酸バリウム、ガラスビーズ、および酸化チタン等が、中でも優れた成形品の表面外観を得るためには、タルク、カオリン、マイカ、および炭酸カルシウムの中から選ばれた1種以上であることが好ましい。
【0057】
なお、本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲でさらに各種の添加剤を含有させることもできる。これらの添加剤としては、例えば、酸化防止剤(リン系、硫黄系など)、紫外線吸収剤、熱安定剤(ヒンダードフェノール系など)、エステル交換反応抑制剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、染料および顔料を含む着色剤、難燃剤(ハロゲン系、リン系など)、難燃助剤(三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物、酸化ジルコニウム、酸化モリブデンなど)、発泡剤、カップリング剤(エポキシ基、アミノ基メルカプト基、ビニル基、イソシアネート基を一種以上含むシランカップリング剤やチタンカップリング剤)、および抗菌剤等が挙げられる。
【0058】
これらの添加剤は、本発明に用いる熱可塑性樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能である。例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを配合する際に同時に添加する方法や、予めポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを溶融混練した後に添加する方法や、始めにポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂のうち、いずれか片方の樹脂に添加し溶融混練後、残りの樹脂を配合する方法等が挙げられる。
【0059】
上記の熱可塑性樹脂組成物から得られる本発明の光ピックアップ部品は、その高弾性率、低比重および優れた成形性を活かして、コンパクトディスク、レーザーディスク、デジタルビデオディスク、光磁気ディスク等に用いる光ピックアップ部品として広く用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに説明する。
【0061】
なお、以下の実施例、比較例において、樹脂および充填剤としては、以下に示すものを使用した。
【0062】
PBT−1:ポリブチレンテレフタレート(東レ(株)製“トレコン”1100S、ガラス転移温度32℃、結晶融解温度220℃)
PC−1:ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製“ユーピロン”E2000、ガラス転移温度151℃、0.7gを100mlの塩化 メチレンに溶解し20℃で測定した時の比粘度1.18)
繊維状充填剤−1:繊維径9μm、長さ3mm長のガラス繊維
繊維状充填剤−2:繊維径0.7μm、長さ20μm長のホウ酸アルミニウムウィスカ
粒状充填剤−1:LMS300(富士タルク工業社製)、数平均粒子径が4.5μmのタルク
粒状充填剤−2:MSKPO(丸尾カルシウム社製)、数平均粒子径が0.2μmの炭酸カルシウム。
【0063】
[実施例1〜4]
表1記載の組成からなる樹脂原料を、押出温度270℃に設定し、ニーディングゾーンを2つ設けたスクリューアレンジとし、スクリュー回転数300rpmとした2軸押出機(池貝工業社製PCM−30)に供給し、ダイから吐出後のガットを、氷水中に急冷した。 各実施例のガットはいずれも不透明であったが、これらのガットをヨウ素染色法によりポリカーボネートを染色後、超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて10万倍に拡大して観察を行ったところ、いずれのサンプルについても充填剤を除き、0.001μm以上の構造物がみられず相溶化していることを確認した。
【0064】
次に、ダイから吐出後のガットを、10℃に温調した水を満たした冷却バス中を15秒間かけて通過させることで急冷し構造を固定した後、ストランドカッターでペレタイズしペレットを得た。
【0065】
上記で得られたペレットを、ホッパ下から先端に向かって、250℃−260℃−270℃−270℃に設定した日精樹脂工業社製射出成形機(PS−60E9DSE)で、金型温度80℃とし、保圧10秒、冷却時間30秒の成形サイクルでASTM D−790準拠の曲げ試験片を成形した。
【0066】
得られた成形品について以下の通り評価した結果を表1に記載した。
(1)曲げ試験 ASTM D790に準拠し、測定を行った。
(2)比重 上記ASTM D790試験片を用い、ASTM D792に従って比重を測定した。
(3)表面外観 上記ASTM D790試験片を用い、下記の指標で評価した。
○:ジェッティングおよび表層剥離による外観不良なし。
△:ジェッティングによる外観不良発生。
×:表層剥離による外観不良。
【0067】
また、上記射出成形用ペレットを用い、光ピックアップ部品を成形し、光ピックアップ部品から超薄切片を切り出し、上記ガットと同様に、透過型電子顕微鏡写真から構造の状態を観察した。電子顕微鏡写真では黒色に染色されたポリカーボネート相と、白色のポリブチレンテレフタレート相とが、互いに連続相を形成している両相連続構造が観察された。
【0068】
また、上記の両相連続構造の構造周期を小角光散乱で測定した。小角光散乱においてピーク位置(θm)から下式で構造周期(Λm)を計算した結果を表1に記載した。
Λm =(λ/2)/sin(θm /2)
【0069】
[比較例1〜5]
表1記載の組成からなる原料を用い、スクリュー回転数を100とする以外は、実施例1と同様にして溶融混練を行いガットを得た。
【0070】
比較例1のガットは不透明であった。これらのサンプルについても実施例1と同様にペレット、成形品を作製し、実施例1と同様に成形品を評価し、結果を表1に記載した。
【0071】
また、ピックアップ成形品表面から超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡写真から構造の状態を観察したところ、電子顕微鏡写真では大きいもので5μm以上の分散粒子が不均一に分散している構造が観察された。
【0072】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の光ピックアップ部品は、その高弾性率、低比重および優れた成形性を活かして、コンパクトディスク、レーザーディスク、デジタルビデオディスク、光磁気ディスク等に用いる光ピックアップ部品として広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ弾性率12GPa以上の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる光ピックアップ部品であって、前記熱可塑性樹脂組成物が、少なくともポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを配合してなる熱可塑性樹脂組成物からなり、前記光ピックアップ部品の表面において、前記熱可塑性樹脂組成物が、構造周期0.001〜5μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜5μmの分散構造を形成していることを特徴とする光ピックアップ部品。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物が、さらに平均繊維径0.5〜20μmの繊維状充填剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ部品。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物が、さらに平均粒径0.1〜50μmの粒状充填剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の光ピックアップ部品。

【公開番号】特開2006−268932(P2006−268932A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83577(P2005−83577)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】