説明

光ファイバの巻き取り方法及び巻き取り装置

【課題】光ファイバの張力変動を抑えて良好かつ円滑にボビンへ巻き取ることが可能な光ファイバの巻き取り方法及び巻き取り装置を提供する。
【解決手段】最終ガイドローラ20で光ファイバ心線2を案内して巻き取りボビン21に巻き取る光ファイバ心線2の巻き取り方法であって、巻き取りボビン21に巻き取られる直前の光ファイバ心線2の張力を測定し、測定張力Tsと予め設定された設定張力Tとの張力差ΔTに応じ、巻き取りボビン21の直前の最終ガイドローラ20に対してエア噴出ノズル31からエアを吹き付けて最終ガイドローラ20の負荷を調整する負荷調整制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを巻き取る巻き取り方法及び巻き取り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを所定の方向へ案内するガイドローラとして、通気性を有する円筒体の側面の周囲に環としたシート状回転体が配置され、前記円筒体の内部に供給されたガスが前記円筒体を通過して前記シート状回転体に吹き付けられることにより、前記シート状回転体が前記円筒体から浮遊して回転可能とされてその外周に接触した光ファイバをガイドするものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような構造にして、張力変動を抑えるようにしている。
【0003】
また、光ファイバの搬送速度変動を繰出しダンサーの揺動による繰出しロールの回転調整により吸収し、光ファイバの張力を一定に保つことが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−131391号公報
【特許文献2】特開平5−170476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ファイバを巻き取りボビンに巻き取る工程において、光ファイバの巻き取り終了時にライン線速を減速させる際、パスライン上のローラは、その慣性により回り続けようとする。このため、そのローラの下流側では、光ファイバの張力が低下して光ファイバが弛む現象が生じる。特に、巻き取りボビンとその手前のローラとの間では、線速の減速中における巻き取り張力が極端に低くなることがあり、巻き取りボビンに巻かれる光ファイバが線跳ねなどを起して巻き取り不良が発生してしまう。また、巻き取り不良により、巻き取った光ファイバの伝送損失を調べるOTDR(パルス試験法)を実施したときに測定不良が発生することもある。このような巻き取り不良が生じると、光ファイバを巻き替えて他の巻き取りボビンに再巻きしなければならず、コストアップの原因となってしまう。
【0006】
特許文献1の技術では、ローラの回転抵抗を小さくすることにより張力変動を抑えるようにしているが、複数のローラを使用しているため、個々のローラ抵抗を小さくしても、巻き取りボビンの直前での線速減速時の張力低下は依然として発生してしまう。特許文献2の技術では、繰出しダンサーの揺動により張力を一定に保つようにしようとするが、ダンサーの応答速度は遅いため、線速減速時の張力低下を吸収することは難しい。
【0007】
本発明の目的は、光ファイバの張力変動を抑えて良好かつ円滑に巻き取りボビンへ巻き取ることが可能な光ファイバの巻き取り方法及び巻き取り装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできる本発明の光ファイバの巻き取り方法は、ガイドローラで光ファイバを案内して巻き取りボビンに巻き取る光ファイバの巻き取り方法であって、
前記巻き取りボビンに巻き取られる直前の前記光ファイバの張力を測定し、測定張力と予め設定された設定張力との張力差に応じ、前記巻き取りボビンの直前のガイドローラの負荷を調整する負荷調整制御を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明の光ファイバの巻き取り方法において、
前記巻き取りボビンの減速時に、前記負荷調整制御を行うことが好ましい。
【0010】
本発明の光ファイバの巻き取り方法において、
前記負荷調整制御は、前記巻き取りボビンの直前のガイドローラに対してエアを吹き付けて前記ガイドローラの負荷を調整することが好ましい。
【0011】
本発明の光ファイバの巻き取り装置は、ガイドローラで光ファイバを案内して巻き取りボビンに巻き取る光ファイバの巻き取り装置であって、
前記巻き取りボビンに巻き取られる直前の前記光ファイバの張力を測定する張力測定装置と、
前記巻き取りボビンの直前のガイドローラの負荷を調整する負荷調整手段と、
前記張力測定装置により測定された測定張力と予め設定された設定張力との張力差に応じ、前記負荷調整手段を制御する負荷制御装置と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、負荷調整制御によって巻き取りボビンの直前のガイドローラ(最終ガイドローラ)の負荷を調整し、これにより巻き取りボビンと最終ガイドローラとの間の光ファイバの張力を調整することにより、巻き取りボビンに巻く光ファイバの張力変動を抑えて線跳ねによる巻き取り不良を防止し、良好かつ円滑に光ファイバをボビンに巻き取ることができる。これにより、再巻きを行うことによるコストアップを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が適用された着色装置の概略構成図である。
【図2】図1におけるA矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る光ファイバの巻き取り方法及び巻き取り装置の実施の形態の例を、図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、光ファイバの巻き取る形態例として、着色装置を例示して説明する。
図1に示すように、着色装置(巻き取り装置)11は、光ファイバ素線(光ファイバ)1の外周に着色層を形成するものであり、光ファイバ素線1を繰り出す繰り出しボビン12が取り付けられている。光ファイバ素線1は、例えば石英ガラスのコア及びクラッドからなるガラスファイバの周囲に樹脂を被覆したものであり、繰り出しボビン12から繰り出された光ファイバ素線1は、ガイドローラ13によりガイドされて着色ダイス14及び紫外線照射装置15へ送られる。
【0015】
光ファイバ素線1には、着色ダイス14で紫外線硬化型樹脂からなる着色樹脂が塗布され、紫外線照射装置15で紫外線が照射されて着色樹脂が硬化される。これにより、光ファイバ素線1には、外周に着色樹脂からなる着色層が形成される。このように着色された光ファイバ心線(光ファイバ)2は、ガイドローラ16によりガイドされてキャプスタンローラ17へ送られ、キャプスタンローラ17により所定の線速で引き取られ、その後、ダンサローラ18、ガイドローラ19及び最終ガイドローラ20を介して、巻き取りボビン21に巻き取られる。
【0016】
巻き取りボビン21の直前の最終ガイドローラ20は、例えば直径70mmのベークライトから形成された汎用のローラである。この最終ガイドローラ20の近傍には、図2に示すように、負荷調整手段として一対のエア噴出ノズル31が設けられており、これにより、最終ガイドローラ20は負荷調整機能を備えたものとなっている。エア噴出ノズル31は、先端からエアを噴出させるものであり、例えば、最終ガイドローラ20の側面に対して約45°斜め方向で約30mm離れた外側からエアを吹き付ける。このエア噴出ノズル31は、その先端開口部の面積が10mmであり、このエア噴射ノズル31から噴出されるエアは、最終ガイドローラ20の回転方向と対抗する向きに噴出される。このエア噴出ノズル31は、噴出するエアの風量の調節が可能である。
【0017】
また、巻き取りボビン21に巻き取られる直前の位置には、光ファイバ心線2の張力を測定する張力測定装置35が設けられている。この張力測定装置35は、光ファイバ心線2に接触することなく、例えば、光学的に非接触で張力を測定するものである。
【0018】
この張力測定装置35は、負荷制御装置37に接続されており、この張力測定装置35で測定された光ファイバ心線2の測定結果が負荷制御装置37へ送信される。負荷制御装置37は、エア噴出ノズル31にも接続されており、負荷制御装置37は、エア噴出ノズル31から噴出するエアの風量を制御する。
【0019】
次に、着色装置11において光ファイバ素線1に着色樹脂を被覆して巻き取りボビン21に巻き取る方法について説明する。
まず、繰り出しボビン12から光ファイバ素線1を繰り出し、ガイドローラ13を介して光ファイバ素線1を着色ダイス14及び紫外線照射装置15へ送る。そして、着色ダイス14で光ファイバ素線1の外周に紫外線硬化型樹脂からなる着色樹脂を塗布し、紫外線照射装置15で紫外線を照射して着色樹脂を硬化させる。
【0020】
これにより、光ファイバ素線1には、外周に着色樹脂からなる着色層が形成され、光ファイバ心線2となる。このように着色された光ファイバ心線2を、ガイドローラ16により案内してキャプスタンローラ17へ送り、キャプスタンローラ17により約1000m/分程度の所定の線速で引き取り、その後、ダンサローラ18及びガイドローラ19、最終ガイドローラ20を介して、予め設定された設定張力Tで巻き取りボビン21に巻き取る。
【0021】
上記のように光ファイバ素線1に着色樹脂をコーティングする工程では、そのコーティング工程の終了時に、線速V(m/分)を徐々に低下させるとともに巻き取りボビン21の回転速度を減速させる。このとき、最終ガイドローラ20は、その慣性により回り続けようとする。このため、この最終ガイドローラ20の下流側では、光ファイバ心線2の張力が極端に低下して弛む現象が生じ、巻き取りボビン21に巻かれる光ファイバ心線2が線跳ねなどを起して巻き取り不良が発生するおそれがある。
【0022】
そのため、本実施形態では、巻き取りボビン21の減速時に、張力測定装置35からの測定結果に基づいて、負荷制御装置37が負荷調整手段であるエア噴出ノズル31の動作を制御し、エア噴出ノズル31からエアを噴出させて負荷調整制御を行う。
この負荷調整制御では、まず張力測定装置35からの測定結果に基づいて、測定張力Tsと予め設定された設定張力Tとの張力差ΔT(g)を求める。そして、この張力差ΔT及び光ファイバ心線2の線速Vに基づいて、エア噴出ノズル31から噴出させるエアの風速v(m/秒)を次の式(1)から算出する。
v=−a×ΔT×V …(1)
但し、a:定数
【0023】
例えば、定数aが2/1000であるときに、張力差ΔTが−10(g)、線速Vが1000(m/分)であると、エア噴出ノズル31から噴出させるエアの風速vは、20(m/分)となる。
【0024】
そして、負荷制御装置37は、一対のエア噴出ノズル31の動作を制御し、エア噴出ノズル31から風速v=20(m/分)でエアを噴出させ、最終ガイドローラ20の側面に吹き付けさせる。すると、慣性で回り続けようとする最終ガイドローラ20には、エア噴出ノズル31から吹き付けられるエアにより回転抵抗が増し、回転負荷が付与される。なお、線速Vは減速されているので、エアの風速vもそれにつれて下げていくことになり、エアによる回転抵抗も線速につれて徐々に下がることになる。
【0025】
これにより、最終ガイドローラ20と巻き取りボビン21との間における光ファイバ心線2の張力の極端な低下が抑えられ、巻き取りボビン21に巻かれる光ファイバ心線2の線跳ねによる巻き取り不良が防止される。
【0026】
このように、上記実施形態によれば、負荷調整制御によって巻き取りボビン21と最終ガイドローラ20との間での光ファイバ心線2の張力を調整することにより、巻き取りボビン21に巻く光ファイバ心線2の張力変動を抑えて線跳ねによる巻き取り不良を防止し、良好かつ円滑に光ファイバ心線2を巻き取りボビン21に巻き取ることができる。例えば、巻き取り不良に伴う再巻率を1%〜20%程度削減することができる。これにより、再巻きを行うことによるコストアップを抑えることができる。
【0027】
また、最終ガイドローラ20にエアを吹き付けて負荷を調整することによって、最終ガイドローラ20の回転負荷を非接触で容易に調整することができるので、光ファイバ心線2の線跳ねによる巻き取り不良を簡易的な方法で防止することができる。
【0028】
なお、上記実施形態では、エア噴出ノズル31からエアを噴出させて最終ガイドローラ20へ吹き付けることにより、最終ガイドローラ20に負荷を付与したが、負荷を付与する方法としては、非接触であればエアの吹き付けによる方式に限定されない。例えば、磁力によって最終ガイドローラ20に負荷を付与する方式などでも良い。
【0029】
また、上記実施形態では、巻き取りボビン21の減速時にエア噴出ノズル31からエアを噴出させて最終ガイドローラ20の負荷調整制御を行ったが、この負荷調整制御は、定常線速走行中に行っても良い。定常線速走行中であっても、測定張力Tsと予め設定された設定張力Tとの張力差ΔTに応じて負荷調整制御を行うことで張力変動を抑え、巻き取りボビン21への光ファイバ心線2の巻き取りを常に安定した状態に維持することができる。
【0030】
また、上記実施形態では、本発明を光ファイバ素線1に着色樹脂を被覆させる着色工程に適用した場合を例示したが、本発明は、着色工程に限らず、光ファイバ素線1や光ファイバ心線2を巻き取りボビン21に巻き付ける他の工程にも適用可能である。例えば、大径のボビンから小径のボビンへ設定長毎に光ファイバを巻き替える巻き替え工程にも適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1:光ファイバ素線(光ファイバ)、2:光ファイバ心線(光ファイバ)、11:着色装置(巻き取り装置)、20:最終ガイドローラ、21:巻き取りボビン、31:エア噴出ノズル(負荷調整手段)、35:張力測定装置、37:負荷制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドローラで光ファイバを案内して巻き取りボビンに巻き取る光ファイバの巻き取り方法であって、
前記巻き取りボビンに巻き取られる直前の前記光ファイバの張力を測定し、測定張力と予め設定された設定張力との張力差に応じ、前記巻き取りボビンの直前のガイドローラの負荷を調整する負荷調整制御を行うことを特徴とする光ファイバの巻き取り方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバの巻き取り方法であって、
前記巻き取りボビンの減速時に、前記負荷調整制御を行うことを特徴とする光ファイバの巻き取り方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光ファイバの巻き取り方法であって、
前記負荷調整制御は、前記巻き取りボビンの直前のガイドローラに対してエアを吹き付けて前記ガイドローラの負荷を調整することを特徴とする光ファイバの巻き取り方法。
【請求項4】
ガイドローラで光ファイバを案内して巻き取りボビンに巻き取る光ファイバの巻き取り装置であって、
前記巻き取りボビンに巻き取られる直前の前記光ファイバの張力を測定する張力測定装置と、
前記巻き取りボビンの直前のガイドローラの負荷を調整する負荷調整手段と、
前記張力測定装置により測定された測定張力と予め設定された設定張力との張力差に応じ、前記負荷調整手段を制御する負荷制御装置と、を備えていることを特徴とする巻き取り装置。

【図1】
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【図2】
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