説明

光ファイバの製造方法

【課題】樹脂が十分に硬化された良質な被覆を有する光ファイバの製造方法を提供すること。
【解決手段】走行するガラス光ファイバの外周に紫外線硬化型の樹脂を塗布する樹脂塗布工程と、前記樹脂を塗布した直後のガラス光ファイバを不活性ガス雰囲気下に通過させ、該樹脂の表面近傍に該不活性ガスからなる随伴流を形成する随伴流形成工程と、前記随伴流を伴うガラス光ファイバを、酸素を含むガスを供給した紫外線透過管内に通過させながら、前記随伴流に覆われた樹脂に紫外線を照射して硬化させ、被覆を形成する被覆形成工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス光ファイバに被覆を形成した光ファイバの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバは、ガラスからなる光ファイバ母材の一端を線引炉にて加熱溶融し、この一端からガラス光ファイバを線引きし、線引きしたガラス光ファイバの外周に樹脂からなる被覆を形成することによって製造される。
【0003】
光ファイバの被覆は、一般的に以下のように形成される。まず、紫外線硬化型樹脂(以下、適宜、樹脂と記載する)が溜められた樹脂塗布ダイスにガラス光ファイバを通過させ、樹脂を塗布する。つぎに、樹脂を塗布したガラス光ファイバを被覆形成装置に通過させる。
【0004】
被覆形成装置は、たとえば石英ガラスからなり、紫外線を透過する透明管と、この透明管の外周に配置された紫外線源とを備えている。そして、この被覆形成装置の透明管内に、樹脂を塗布したガラス光ファイバを通過させながら、透明管の周囲から紫外線源によって紫外線を照射することによって樹脂を硬化させ、被覆を形成する。
【0005】
ここで、紫外線硬化型樹脂は、一般に酸素濃度が高い雰囲気下で硬化させると、酸素と反応して硬化が不十分となり、品質の低い被覆となる。これを防ぐために、不活性ガス雰囲気下で樹脂に紫外線を照射する技術が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
一方、樹脂を硬化する工程において、樹脂の一部の成分は、樹脂が硬化する際に発生する反応熱や照射される光エネルギーの吸収による発熱によって揮発し、透明管の内面に付着する。透明管の内面に付着した樹脂成分は、紫外線照射により変質して透明管を曇らせる。すると、この曇りによって樹脂に到達する紫外線の量が減少し、硬化が不十分となり、品質の低い被覆となる。
【0007】
これを防ぐために、特許文献2には、透明管内においてガラス光ファイバが走行している走行領域に不活性ガスを供給するとともに、透明管内の走行領域の周囲には酸素を含むガスを供給し、不活性ガスの流れと酸素を含むガスの流れとの二層流を形成して、樹脂を十分に硬化させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−211545号公報
【特許文献2】特開2005−224689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示された方法は、不活性ガスと酸素を含むガスとの二層流を安定して形成するために複雑な装置構成を用いる必要があり、かつ各ガスの流速や排気量を厳密に制御する必要があるという問題がある。また、特許文献2に開示された方法を用いても、透明管内面の曇りは防止されるものの、製造された光ファイバにおいて樹脂の硬化が不十分となる場合があるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、樹脂が十分に硬化された良質な被覆を有する光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る光ファイバの製造方法は、走行するガラス光ファイバの外周に紫外線硬化型の樹脂を塗布する樹脂塗布工程と、前記樹脂を塗布した直後のガラス光ファイバを不活性ガス雰囲気下に通過させ、該樹脂の表面近傍に該不活性ガスからなる随伴流を形成する随伴流形成工程と、前記随伴流を伴うガラス光ファイバを、酸素を含むガスを供給した紫外線透過管内に通過させながら、前記随伴流に覆われた樹脂に紫外線を照射して硬化させ、被覆を形成する被覆形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る光ファイバの製造方法は、上記の発明において、前記ガラス光ファイバの線速を850m/min以上とすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る光ファイバの製造方法は、前記随伴流形成工程において、前記樹脂を塗布する樹脂塗布装置に連接して設けられた保護管の該樹脂塗布装置側に設けられた不活性ガス供給部から、前記不活性ガスを供給することによって、前記不活性ガス雰囲気を形成し、前記被覆形成工程において、前記不活性ガス供給部と前記紫外線透過管との間に設けられた酸素含有ガス供給部によって、前記紫外線透過管に酸素を含有するガスを供給するとともに、前記保護管に連接して設けられた前記紫外線透過管の外周に配置された紫外光源によって前記紫外線を照射することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る光ファイバの製造方法は、前記随伴流形成工程において、前記樹脂を塗布する樹脂塗布装置に連接して設けられた保護管の該樹脂塗布装置側に設けられた不活性ガス供給部から、前記不活性ガスを供給することによって、前記不活性ガス雰囲気を形成し、前記被覆形成工程において、前記不活性ガス供給部と前記紫外線透過管との間に形成された、外気を導入するための外気導入部によって、前記紫外線透過管に酸素を含有するガスを供給するとともに、前記紫外線透過管の外周に配置された紫外光源によって前記紫外線を照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂を塗布した直後のガラス光ファイバの樹脂の表面近傍に不活性ガスからなる随伴流を形成して樹脂と酸素との反応を防止し、かつ紫外線透過管には酸素を含有するガスを供給して内面の曇りを防止するので、樹脂が十分に硬化された良質な被覆を形成できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施の形態1に係る光ファイバの製造方法の実施に用いる光ファイバの製造装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す樹脂塗布ダイスおよび被覆形成装置の模式図である。
【図3】図3は、樹脂を塗布したガラス光ファイバを不活性ガス雰囲気下に所定の線速で走行させた後の、ガラスに塗布された樹脂の表面からの距離と、その位置における不活性ガス濃度との関係を示す図である。
【図4】図4は、樹脂塗布ダイスおよび実施の形態2に係る被覆形成装置の模式図である。
【図5】図5は、樹脂塗布ダイスおよび実施の形態3に係る被覆形成装置の模式図である。
【図6】図6は、樹脂塗布ダイスおよび実施の形態4に係る被覆形成装置の模式図である。
【図7】図7は、実施の形態4の構造を有する被覆形成装置を用いて光ファイバの製造を実施した場合の樹脂の硬化性、および透明管の曇りの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、特許文献2に開示された方法を用いても、製造された光ファイバにおいて樹脂の硬化が不十分となる場合がある原因は、樹脂を塗布したガラス光ファイバが、樹脂塗布ダイスを送出してから被覆形成装置に進入するまでに、ガラス光ファイバの樹脂の表面近傍に、酸素を含んだ外気を主成分とする随伴流が形成されているためであることを見出した。
【0018】
このように酸素を含んだ外気を主成分とする随伴流が形成されると、ガラス光ファイバが透明管内へと進入した後も、その周囲は酸素を含んだ外気を主成分とする随伴流に覆われている。このように酸素を含んだ外気を主成分とする随伴流が既に形成されたガラス光ファイバに対して、不活性ガスを供給しても、ガラス光ファイバは酸素を含んだ外気を主成分とする随伴流に覆われたままであり、その樹脂表面近傍を不活性ガス雰囲気とするのは困難である。その結果、樹脂は随伴流に含まれる酸素と反応して、その硬化が不十分となる。
【0019】
また、たとえばガラス光ファイバに不活性ガスを吹き付けて随伴流を剥ぎ取ろうとしても、そのためには、不活性ガスを多量に吹き付ける必要があるため、走行している光ファイバの線ぶれや断線が発生する原因となるおそれがある。
【0020】
本発明者らは、上記問題を解決するために、樹脂を塗布した直後のガラス光ファイバを不活性ガス雰囲気下に通過させ、樹脂の表面近傍に不活性ガスからなる随伴流を形成することに想到し、本発明を完成させたものである。
【0021】
以下に、図面を参照して本発明に係る光ファイバの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る光ファイバの製造方法の実施に用いる光ファイバの製造装置の全体構成を示す模式図である。図1に示すように、この製造装置100は、石英ガラスを主成分とする光ファイバ母材1の一端を加熱溶融するための、ヒータ11aを有する線引炉11と、線引炉11の下方において、光ファイバ母材1の一端から線引きしたガラス光ファイバ2の通路に配置された、樹脂塗布装置としての樹脂塗布ダイス12と、被覆形成装置13と、被覆形成装置13の下方に配置されたガイドローラ14、15および巻取りドラム16とを備えている。
【0023】
図2は、図1に示す樹脂塗布ダイス12および被覆形成装置13の模式図である。図2に示すように、樹脂塗布ダイス12は、ガラス光ファイバ2に塗布すべき、2種類の液状の樹脂を供給するための樹脂供給管12a、12bを備えている。また、被覆形成装置13は、樹脂塗布ダイス12に連接して設けられた保護管131と、保護管131に連接して設けられた紫外線透過管としての透明管132と、透明管132の外周に配置された紫外光源133と、透明管132および紫外光源133を収容保持する筐体134とを備えている。
【0024】
保護管131は、漏斗状に形成されたものであり、その材質はたとえばガラス、金属、プラスチック等であるが、特に限定はされない。また、保護管131と、樹脂塗布ダイス12および透明管132との間は、大気が侵入しないような密閉構造とされている。また、保護管131は、樹脂塗布ダイス12側に設けられた、保護管131内に不活性ガスG1を供給するための不活性ガス供給管131aと、不活性ガス供給管131aと透明管132との間に設けられ、保護管131内を経由して透明管132内に酸素を含有するガス(酸素含有ガス)G2を供給する酸素含有ガス供給管131bとを有している。不活性ガス供給管131aおよび酸素含有ガス供給管131bは、それぞれ流量調節器(不図示)を介して、それぞれのガスG1、G2を供給するガス供給源(不図示)に接続している。この流量調節器によって不活性ガスG1および酸素含有ガスG2の供給量及び流速が制御される。流量調節器は、たとえばマスフローコントローラであるが、調節弁でもよい。なお、不活性ガスG1は、たとえば窒素ガスである。また、酸素含有ガスG2は、たとえば大気である。
【0025】
透明管132は、たとえば石英ガラス管であるが、硬化型樹脂を硬化させるための紫外線を透過するものであれば特に限定されない。また、紫外光源133は、たとえばUVランプであるが、紫外線硬化型樹脂を硬化させることができる紫外線を出射できるものであれば特に限定はされない。また、筐体134は、紫外線を外部に漏洩させないような材質、構造のものが好ましい。
【0026】
つぎに、この製造装置100を用いた、本実施の形態1に係る光ファイバの製造方法について説明する。まず、光ファイバ母材1を線引炉11にセットする。つぎに、光ファイバ母材1の一端を線引炉11が有するヒータ11aにより加熱溶融し、加熱溶融した一端からガラス光ファイバ2を線引きする。線引きされたガラス光ファイバ2は、下方に走行し、樹脂塗布ダイス12を通過する。樹脂塗布ダイス12には、樹脂供給管12a、12bのそれぞれから供給された2種類の樹脂が溜められている。そして、樹脂塗布ダイス12は、走行し通過するガラス光ファイバ2の外周に樹脂を2層に塗布する。2層の樹脂を塗布されたガラス光ファイバ2aは、樹脂を塗布された直後に被覆形成装置13に進入する。
【0027】
被覆形成装置13において、ガラス光ファイバ2aは、はじめに保護管131を通過する。ここで、保護管131内の、ガラス光ファイバ2aが樹脂を塗布された直後に通過する領域Rは、不活性ガス供給管131aから供給された不活性ガスG1により、不活性ガス雰囲気となっている。ガラス光ファイバ2aをこの不活性ガス雰囲気の領域Rに通過させることによって、樹脂の周囲の表面近傍に不活性ガスG1からなる随伴流fを形成する。
【0028】
つぎに、ガラス光ファイバ2aは透明管132を通過する。透明管132は、透明管132の曇りを防止するために、酸素含有ガス供給管131bから酸素含有ガスG2が供給され、内部が酸素含有ガスG2の雰囲気となっている。ガラス光ファイバ2aは、不活性ガスG1からなる随伴流fを伴って、酸素含有ガス雰囲気の透明管132に進入する。この随伴流fはガラス光ファイバ2aから容易には剥ぎ取ることはできないものであるため、透明管132内部が酸素含有ガス雰囲気となっていても、ガラス光ファイバ2aの樹脂は随伴流fによって保護され、酸素に触れることが防止される。そして、紫外光源133は、透明管132を通過するガラス光ファイバ2aの、随伴流fに覆われた2層の樹脂に紫外線を照射して硬化させ、2層の被覆を形成する。このとき、透明管132は酸素含有ガス雰囲気によって内面の曇りが防止されているため、樹脂に到達する紫外線の量は十分となる。さらに、樹脂は酸素との反応が防止されているため、十分な量の紫外線によって十分に硬化することとなる。これによって、樹脂が十分に硬化された良質の被覆を有する光ファイバ3が製造される。
【0029】
つぎに、ガイドローラ14、15は、被覆を形成された光ファイバ3をガイドし、最後に巻取りドラム16がガイドローラ14、15によってガイドされた光ファイバ3を巻き取る。なお、ガラス光ファイバ2、2a、光ファイバ3の走行速度(線速)は、巻取りドラム16の回転数を調整することによって制御される。
【0030】
上記のように、本実施の形態1に係る光ファイバの製造方法によれば、樹脂が十分に硬化された良質な被覆を有する光ファイバ3を製造することができる。特に、本実施の形態1に係る光ファイバの製造方法では、ガラス光ファイバ2aを不活性ガス雰囲気下に通過させることによって形成される随伴流を積極的に利用しているため、透明管内に2層流を形成させる場合のような複雑な装置構成や各ガスの流速や排気量の厳密な制御が不要でありながら、良質な被覆を形成できるのである。
【0031】
つぎに、本実施の形態1に係る光ファイバの製造方法において、好ましい不活性ガス、酸素含有ガスの条件、および光ファイバの線速の条件について説明する。
【0032】
まず、不活性ガスとしては、窒素ガスや、ヘリウムガス、アルゴンガス等の希ガスなどを特に限定無く用いることができる。また、これらの不活性ガスは、純度の高いものの方が好ましいが、樹脂の硬化を阻害しない程度であれば、不純物として酸素を含んでいてもよい。含有される酸素の濃度は、好ましくは2%以下である。また、供給する不活性ガスの流量は、たとえば1〜50SLM程度であり、保護管131内に形成する不活性ガス雰囲気の圧力は、たとえば透明管132内に形成する酸素含有ガス雰囲気の圧力以上であることが好ましい。
【0033】
供給する不活性ガスの流量が1SLMより小さい場合、領域Rを完全な不活性ガス雰囲気とすることができず、樹脂の周囲の表面近傍に不活性ガスG1からなる随伴流fが形成できない場合がある。また供給する不活性ガスの流量が50SLMより大きい場合、走行している光ファイバの線ぶれや断線が発生するおそれがある。不活性ガス雰囲気の圧力が酸素含有ガス雰囲気の圧力以下である場合、不活性ガス雰囲気のなかに酸素含有ガスが混入することにより、不活性ガス雰囲気が壊されるため、不活性ガス雰囲気領域Rを形成できない場合がある。
【0034】
また、酸素含有ガスとしては、透明管132の内面の曇りを除去可能な濃度で酸素を含有するものであればよく、好ましくは酸素濃度が5%以上のものである。酸素含有ガスとしては、大気、または酸素ガスを用いることができる。また、供給する酸素含有ガスの流量は、たとえば1〜50SLM程度であり、透明管132内に形成する酸素含有ガス雰囲気の圧力は、たとえば領域Rにおける不活性ガス雰囲気の圧力以下であることが好ましい。
【0035】
特に、管内の流れの様子を表す無次元数であるレイノルズ数が2400より小さい場合には、透明管132内の流れが層流となり、不活性ガスG1からなる随伴流fと酸素含有ガスG2の層流とから二層流が形成され易くなる。その結果、樹脂が十分に硬化された良質な被覆を有する光ファイバ3がより確実に得られる。したがって、透明管132内の流れを表すレイノルズ数が2400より小さくなるように、各不活性ガスG1および酸素含有ガスG2の流量ならびに透明管137の内径を設定することが好ましい。
【0036】
つぎに、ガラス光ファイバの線速の条件について説明する。ガラス光ファイバの線速が高速であれば、樹脂を塗布したガラス光ファイバを不活性ガス雰囲気下に走行させたときに、樹脂の周囲にいっそう厚く、剥ぎ取りにくい随伴流が形成されるので好ましい。
【0037】
図3は、樹脂を塗布したガラス光ファイバを不活性ガス雰囲気下に所定の線速で走行させた後の、ガラスに塗布された樹脂の表面からの距離と、その位置における不活性ガス濃度との関係を示す図である。この図3は、図2における透明管132の入口近傍における随伴流を流動解析によって求めたものである。なお、供給する不活性ガスの流量は40SLMとし、供給する酸素含有ガスの流量は35SLMとして解析を行った。また、透明管の内径はガラス光ファイバの外径と比べて十分大きければよく、例えば直径5mm以上あればよいので、5mmとして解析を行なった。また、不活性ガスとして窒素ガスを用いた。なお、縦軸は不活性ガスの濃度を相対値で表しており、「0.0」は、その位置において雰囲気中に不活性ガスが存在しないことを意味し、「1.0」は、その位置において雰囲気の100%が不活性ガスであることを意味している。
【0038】
図3に示すように、ガラス光ファイバの線速が500m/minから1700m/minまで大きくなるにつれて、その周囲に形成される不活性ガスの厚さが増加しており、随伴流がよりいっそう厚く形成されている。特に、線速が850m/min以上になると随伴流が十分に発達しており、この随伴流に酸素含有ガスを吹き付けても容易には剥ぎ取れないと考えられる。すなわち、ガラス光ファイバの線速としては、850m/min以上とすることが好ましい。
【0039】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2〜4として、実施の形態1に係る光ファイバの製造方法において用いることができる被覆形成装置について説明する。図4は、樹脂塗布ダイスおよび本実施の形態2に係る被覆形成装置の模式図である。
【0040】
図4において、樹脂塗布ダイス12は、図1に示したものと同一であり、2種類の液状の樹脂を供給するための樹脂供給管12a、12bを備えている。また、本実施の形態2に係る被覆形成装置23は、図1に示す被覆形成装置13と比較して、透明管132、紫外光源133、および筐体134は同一であり、保護管131を保護管231に置き換えた構成を有している。
【0041】
この保護管231は、保護管131と同様に、漏斗状に形成されたものである。また、保護管231と、樹脂塗布ダイス12および透明管132との間は、大気が侵入しないような密閉構造とされている。また、保護管231は、それぞれ流量調節器を介してガス供給源(いずれも不図示)に接続した、不活性ガス供給管231aと酸素含有ガス供給管231bとを有している。さらに、保護管231は、不活性ガス供給管231aと酸素含有ガス供給管231bとの間の位置に、内周にわたって設けられた邪魔板231cを有している。邪魔板231cの形状はたとえば中心部にガラス光ファイバ用の挿通孔を有する円板状である。
【0042】
この被覆形成装置23では、邪魔板231cの存在によって、保護管231内においてガラス光ファイバが樹脂を塗布された直後に通過する不活性ガス雰囲気の領域Rの内圧が高くなるので、この領域Rに酸素含有ガスや大気が混入しにくくなる。その結果、樹脂の周囲の表面近傍に不活性ガスからなる随伴流がさらに確実に厚く形成されるので、樹脂をさらに確実に硬化させることができる。
【0043】
(実施の形態3)
つぎに、本発明の実施の形態3に係る被覆形成装置について説明する。図5は、樹脂塗布ダイスおよび本実施の形態3に係る被覆形成装置の模式図である。
【0044】
図5において、樹脂塗布ダイス12は、図1に示したものと同一であり、樹脂供給管12a、12bを備えている。また、本実施の形態3に係る被覆形成装置33は、図1に示す被覆形成装置13と比較して、透明管132、紫外光源133、および筐体134は同一であり、保護管131を保護管331に置き換えた構成を有している。
【0045】
この保護管331は、保護管131と同様に、漏斗状に形成されたものである。また、保護管331は、樹脂塗布ダイス12側に設けられ、流量調節器を介してガス供給源(いずれも不図示)に接続する不活性ガス供給管331aを有している。ここで、保護管331と樹脂塗布ダイス12との間は、外気が侵入しないような密閉構造とされている。これに対して、保護管331と透明管132との間には空隙Gが形成されている。さらに、透明管132の下端は排気管335aが設けられた封止部材335によって封止されている。また排気管335aは調整弁を介して吸気ポンプ(いずれも不図示)に接続している。
【0046】
この被覆形成装置33を使用する場合、樹脂塗布ダイス12によって樹脂を塗布されたガラス光ファイバ2aは、はじめに保護管331を通過する。保護管331内の、ガラス光ファイバ2aが樹脂を塗布された直後に通過する領域Rは、不活性ガス供給管331aから供給された不活性ガスG1により、不活性ガス雰囲気となっている。ガラス光ファイバ2aをこの領域Rに通過させることによって、樹脂の周囲の表面近傍に不活性ガスG1からなる随伴流fを形成する。
【0047】
一方、調整弁で流量を調整しながら、吸気ポンプによって排気管335aから透明管132内のガスG3を排気し、透明管132内を負圧にすることによって、空隙Gから酸素を含有する大気G4が吸気される。その結果、透明管132の内部は大気G4の雰囲気となる。なお、空隙Gから透明管132内に吸気される大気G4の量、あるいは内圧は、空隙Gの幅と排気管335aからのガスG3の排気量により決まる。
【0048】
この場合においても、透明管137内の流れを表すレイノルズ数が2400より小さくなるように、不活性ガスG1の流量、透明管132の内径、空隙Gの幅、および排気管335aからのガスG3の排気量を設定することが好ましい。
【0049】
そして、この状態で、不活性ガスG1からなる随伴流fを伴ったガラス光ファイバ2aを透明管132に進入させる。すると、ガラス光ファイバ2aの樹脂は随伴流fによって酸素に触れることが防止され、かつ透明管132は大気G4の雰囲気によって内面の曇りが防止されているため、樹脂に到達する紫外線の量は十分となる。その結果、樹脂が十分に硬化された良質の被覆を有する光ファイバ3が製造される。
【0050】
(実施の形態4)
つぎに、本発明の実施の形態4に係る被覆形成装置について説明する。図6は、樹脂塗布ダイスおよび本実施の形態4に係る被覆形成装置の模式図である。
【0051】
図6において、樹脂塗布ダイス12は、図5に示したものと同一であり、樹脂供給管12a、12bを備えている。また、本実施の形態3に係る被覆形成装置43は、図5に示す被覆形成装置33と比較して、透明管132、紫外光源133、および筐体134は同一であり、保護管331を保護管431に置き換えた構成を有している。
【0052】
この保護管431は、保護管331と同様に、漏斗状に形成されたものであり、不活性ガス供給管431aを有している。また、保護管431と樹脂塗布ダイス12との間は、外気が侵入しないような密閉構造とされており、保護管431と透明管132との間には空隙Gが形成されている。さらに、保護管431は、その下端の位置に、内周にわたって設けられた邪魔板431cを有している。邪魔板431cの形状はたとえば中心部にガラス光ファイバ用の挿通孔を有する円板状である。また、透明管132の下端は排気管335aが設けられた封止部材335によって封止されており、排気管335aは調整弁を介して吸気ポンプ(いずれも不図示)に接続している。
【0053】
この被覆形成装置43では、邪魔板431cの存在によって、保護管431内においてガラス光ファイバが樹脂を塗布された直後に通過する不活性ガス雰囲気の領域Rの内圧が高くなるので、この領域Rに酸素含有ガスや大気が混入しにくくなる。その結果、樹脂の周囲の表面近傍に不活性ガスからなる随伴流がさらに確実に厚く形成されるので、樹脂をさらに確実に硬化させることができる。
【0054】
(実施例)
つぎに、図6に示す実施の形態4の構造を有する被覆形成装置を光ファイバの製造装置に用いて、ガラス光ファイバの線速を様々な値として光ファイバの製造を行なった。ここで、不活性ガスとしては純度が99.9%の窒素ガスを用いた。また、保護管へ供給する窒素ガスの流量を35SLMとした。また、保護管と透明管との間の間隙の幅を40mmとし、排気管における排気圧を0.08kPaに制御した。
【0055】
図7は、実施の形態4の構造を有する被覆形成装置を用いて光ファイバの製造を実施した場合の樹脂の硬化性、および透明管の曇りの状態を示す図である。なお、樹脂の硬化性については、被覆された光ファイバが断線せず巻取りドラムに巻き取られた場合を「○」と判定し、ガイドローラまたは巻取りドラムにおいて断線が発生した場合を「×」と判定した。また、透明管の曇りの状態については、目視により曇りの有無を判定した。
【0056】
図7に示すように、ガラス光ファイバの線速が850、1000、1700m/minのいずれの場合においても、透明管の曇りは生じなかった。一方、樹脂の硬化性についても、ガイドローラおよび巻取りドラムにおいて断線は発生せず、製造された光ファイバの被覆を確認したところ十分に硬化したものであった。
【0057】
ところで、この実施例では、ガラス光ファイバの線速が850m/min以上の場合について示している。しかしながら、ガラス光ファイバの線速が850m/minより小さく、たとえば500m/min程度であっても、その線速に応じて保護管へ供給する窒素ガスの流量を増加させる等の制御によって、ガラス光ファイバの樹脂の周囲の表面近傍に窒素ガスからなる随伴流を形成でき、本発明の効果を奏するものとなる。
【0058】
特に、管内の流れの様子を表す無次元数であるレイノルズ数が2400より小さい場合には、透明管内の流れが層流となり、不活性ガスからなる随伴流と酸素含有ガスの層流とから二層流が形成され易くなる。その結果、樹脂が十分に硬化された良質な被覆を有する光ファイバがより確実に得られる。したがって、透明管内の流れを表すレイノルズ数が2400より小さくなるように、各ガスの流量、透明管の内径、空隙の幅、および排気管からの排気量を設定することが好ましい。また、これらの条件の設定は、ガラス光ファイバの線速に応じて調整してもよい。
【0059】
なお、上記実施の形態3、4に係る被覆形成装置は、排気管等の吸気機構を備えており、透明管の内部を負圧として大気を吸気するものであるが、ガラス光ファイバの線速が十分に速い場合は、ガラス光ファイバの走行によって透明管内に、或る程度の大気が巻き込まれるので、排気管等の吸気機構を設けなくてもよい。
【0060】
また、上記実施の形態3、4に係る被覆形成装置は、外気導入部として、保護管と透明管との間に空隙を設けたものであるが、このように空隙を設けず、保護管と透明管との間は密閉構造とし、保護管として、不活性ガス供給部の下部に外気導入孔を形成したものを用いてもよい。
【0061】
また、上記各実施の形態における樹脂塗布ダイスは、樹脂を2層に塗布することができる構成のものである。樹脂を1層だけ塗布することができる樹脂塗布ダイスを用いて2層の被覆を形成する場合には、たとえば図2に示すような樹脂塗布ダイスと被覆形成装置との組み合わせを、ガラス光ファイバの通路に2組直列に配置し、順次樹脂の塗布と被覆の形成とを行なえばよい。
【0062】
また、上記各実施の形態により本発明が限定されるものではない。上記各実施形態の各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1 光ファイバ母材
2、2a ガラス光ファイバ
3 光ファイバ
11 線引炉
11a ヒータ
12 樹脂塗布ダイス
12a、12b 樹脂供給管
13〜43 被覆形成装置
14、15 ガイドローラ
16 巻取りドラム
100 製造装置
131〜431 保護管
131a〜431a 不活性ガス供給管
131b、231b 酸素含有ガス供給管
132 透明管
133 紫外光源
134 筐体
231c、431c 邪魔板
335 封止部材
335a 排気管
f 随伴流
G 空隙
G1 不活性ガス
G2 酸素含有ガス
G3 ガス
G4 大気
R 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行するガラス光ファイバの外周に紫外線硬化型の樹脂を塗布する樹脂塗布工程と、
前記樹脂を塗布した直後のガラス光ファイバを不活性ガス雰囲気下に通過させ、該樹脂の表面近傍に該不活性ガスからなる随伴流を形成する随伴流形成工程と、
前記随伴流を伴うガラス光ファイバを、酸素を含むガスを供給した紫外線透過管内に通過させながら、前記随伴流に覆われた樹脂に紫外線を照射して硬化させ、被覆を形成する被覆形成工程と、
を含むことを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記ガラス光ファイバの線速を850m/min以上とすることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項3】
前記随伴流形成工程において、前記樹脂を塗布する樹脂塗布装置に連接して設けられた保護管の該樹脂塗布装置側に設けられた不活性ガス供給部から、前記不活性ガスを供給することによって、前記不活性ガス雰囲気を形成し、
前記被覆形成工程において、前記不活性ガス供給部と前記紫外線透過管との間に設けられた酸素含有ガス供給部によって、前記紫外線透過管に酸素を含有するガスを供給するとともに、
前記保護管に連接して設けられた前記紫外線透過管の外周に配置された紫外光源によって前記紫外線を照射することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項4】
前記随伴流形成工程において、前記樹脂を塗布する樹脂塗布装置に連接して設けられた保護管の該樹脂塗布装置側に設けられた不活性ガス供給部から、前記不活性ガスを供給することによって、前記不活性ガス雰囲気を形成し、
前記被覆形成工程において、前記不活性ガス供給部と前記紫外線透過管との間に形成された、外気を導入するための外気導入部によって、前記紫外線透過管に酸素を含有するガスを供給するとともに、
前記紫外線透過管の外周に配置された紫外光源によって前記紫外線を照射することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−168475(P2011−168475A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1390(P2011−1390)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】