説明

光ファイバコード及びその製造方法

【課題】 ロール状に巻き取る際に、光ファイバコード同士が密着することを抑制するプラスチック光ファイバコードを得る。
【解決手段】 GI型のプラスチック光ファイバ素線17を作製する。素線17を被覆装置100のニップル114内に20m/minの速度で搬送する。被覆樹脂116であるLDPEを125℃に加熱して溶融させる。樹脂流路115に樹脂116を流して素線17の外周面を被覆して1次被覆層19aが形成され、プラスチック光ファイバコード19を得る。樹脂116は、ダイス口金出口111aより距離L1が3mm上流側の被覆開始位置116aで被覆を開始する。1次被覆層19aの十点平均粗さRzが1.8〜2.0μmとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバコード及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信産業の発達に伴い、高速広帯域を確保できる光伝送方式による通信の需要が高まっている。光通信で伝送路として用いられる光ファイバは伝送損失が小さいものが要求されている。さらに光ファイバは光の導波に必要な最低限の構成であるコア部とクラッド部とを有する最低限の構成(以下、素線と称する)で用いられることは少なく、素線の保護,外乱光の入射防止、機械的性能の向上、安全性の確保、識別のための着色などの観点から周辺に被覆層を施した光ファイバコードの形態で用いられることが一般的である。
【0003】
ところで、光ファイバ素線は、通常ロール状に巻き取られ保存されている。このときに光ファイバ素線に被覆されている樹脂表面が滑らかであると、光ファイバ素線同士が接触することで光ファイバ素線間に静電気が発生し、さらに、巻き取り時あるいは巻き替え時に光ファイバ素線が近傍の光ファイバ素線と重なり、更にその上に光ファイバ素線が積み重なることで、光ファイバ素線に不均一な力が掛かる場合がある。それにより、さらに応力が加わりマイクロベンディングと称される構造不整を引き起こす一因となる。
【0004】
そこで、前記問題を解決する方法としてトラバースピッチ(巻き間隔)を広くすることが提案されている。しかしながら、この場合には、ロール状の光ファイバ素線間に隙間が生じる場合がある。その状態で重ね巻きすると下層の光ファイバ素線の隙間に上層の光ファイバ素線が入り込むなどの巻き不良を生じ、不均一な力が掛かることによって伝送損失上昇を引き起こす問題が生じている。また、ロール状の光ファイバ素線では、光ファイバ素線同士がわずかに密着しているため、巻き替え作業時にライン速度を上げることができなく、そのため作業時間が長くなり、生産効率が悪いという問題も生じている。
【0005】
また、イオナイザーなどによって静電気を中和する操作を被覆工程内に追加することも可能であるが、強く帯電し易い素材の被覆では、この静電気中和工程のための走行路などを長く取る必要があり好ましくない。さらに素材の観点からの改良として、特殊な素材を適用する事で表面性を制御して張付きを抑制できることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。ただし、多層被覆の場合に各被覆層の外周にこの様な素材を毎回適用する事は困難であり、汎用素材でこれらの問題を解決する方法が求められていた。
【特許文献1】特開2003−147031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ロール状に巻き取る際に張付きを抑制し、且つ伝送損失の上昇を抑制する光ファイバコード及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)被覆層の表面粗さRzが0.5μm以上10μm以下であることを特徴とする光ファイバコード。
(2)(1)の光ファイバコードの外周に追加の被覆層を設けたことを特徴とする光ファイバコード。
(3)導光部を構成する素材がプラスチックであることを特徴とする(1)または(2)のプラスチック光ファイバコード。
(4)被覆層の表面粗さRzが0.5μm以上10μm以下となるように被覆を施すことを特徴とする光ファイバコードの製造方法。
(5)光ファイバ素線に熱可塑性樹脂を被覆する工程において、被覆される前記光ファイバ素線の走行速度が20m/min以上100m/min以下で、熱可塑性樹脂を押し出すスクリュの剪断速度が1.0×105(1/sec)以上1.0×106(1/sec)以下の範囲内であり、押出ダイ内部で熱可塑性樹脂を光ファイバ素線に密着させる被覆方式であることを特徴とする(4)に記載の光ファイバコードの製造方法。
(6)被覆される溶融樹脂の温度が溶融樹脂の融点以上、(融点+20)℃以下であることを特徴とする(4)または(5)記載の光ファイバコードの製造方法。
(7)光ファイバ素線を被覆する前記熱可塑性樹脂の融点が100℃以上130℃以下であることを特徴とする(4)ないし(6)いずれか1つに記載の光ファイバコードの製造方法。
(8)被覆される光ファイバはプラスチック光ファイバであることを特徴とする(4)ないし(7)いずれか1つ記載の光ファイバコードの製造方法。
(9)(4)ないし(8)いずれか1つの製造方法で得られた光ファイバコードを巻き取り、巻き取った光ファイバコードにさらに被覆を行うことを特徴とする光ファイバコードの製造方法。
【0008】
本発明の光ファイバコードは、光ファイバ素線またはプラスチック光ファイバコード素線に樹脂を被覆して被覆層が形成されている光ファイバコードにおいて、前記被覆層の表面粗さが、十点平均粗さ(Rz)で0.5μm以上10μm以下である。前記被覆層の外周に更に第2被覆層が形成されていることが好ましい。導光部を構成する素材がプラスチックであることが好ましい。
【0009】
本発明の光ファイバコードの製造方法は、光ファイバ素線または光ファイバコード素線に熱可塑性樹脂をスクリュ押し出しにより被覆する被覆工程を有する光ファイバコードの製造方法において、前記被覆工程における前記スクリュの剪断速度が、1.0×103(1/sec)以上1.0×106(1/sec)以下である。前記被覆工程が、ニップルとダイスとからなる押出ダイを用いる場合であって、前記ニップル先端が前記ダイス出口よりも内側に位置し、前記ダイス出口前において溶融状態の前記熱可塑性樹脂を前記光ファイバ素線または前記光ファイバコード素線と接触させて密着被覆させることが好ましい。前記被覆工程で、前記光ファイバ素線または前記光ファイバコード素線の走行速度を20m/min以上100m/min以下とすることが好ましい。前記光ファイバがプラスチック光ファイバであることが好ましい。前記光ファイバコードの製造方法により製造された光ファイバコードを巻き取り、前記巻き取られた光ファイバコードを巻きほぐし、さらに被覆を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光ファイバコードは、表面粗さRz(μm)が0.5μm以上10μm以下の範囲の被覆層が形成されているから、前記光ファイバコードを巻き取る際に、近傍の光ファイバコード同士が密着して貼り付くことが抑制される。そのため、次工程で巻き解かれる際に前記光ファイバコードに過剰に力が加わることがないので、残留応力やマイクロベンディングが生じることが抑制され、伝送損失の上昇を抑制できる。また、ハンドリング性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の被覆に用いる光ファイバ素線は、光伝送用のコア部とクラッド部とを有する構造であり、素材は性能に影響しない程度に透明であれば特に限定されない。素材の組み合わせとしては、コア部とクラッド部とがいずれも石英ガラスからなる石英系光ファイバでも良く、コア部が石英ガラスからなりクラッド部がポリマーからなるポリマークラッド光ファイバでも良く、コア部とクラッド部とのいずれもがポリマーからなるプラスチック光ファイバ(POF)でも良い。
【0012】
またその構造はコア部の屈折率がクラッド部の屈折率より高い一定の屈折率からなるステップインデックス型、さらにコア部が屈折率に分布を有しモード遅延を解消するように設計されている屈折率分布型(Graded Index、以下GI型と称する)や、階段状にステップインデックスを配置したマルチステップインデックス型などのマルチモード光ファイバのほか、その伝送する光のモードを基本モードまで限定したシングルモード光ファイバなども知られている。
【0013】
光ファイバ素線の製造方法は、多種の方法が知られている。主なものを挙げると石英系光ファイバではVAD法によってスートプリフォームを作製し、このプリフォームを延伸して作製する方法が良く知られている。プラスチック光ファイバについては、プラスチックの容易加工性から多種の製法が知られている。例えば、溶融樹脂を多層もしくは単層で押出しながら紡糸する方法、重合性組成物からプリフォームを作製して石英系光ファイバと同様にそのプリフォームを溶融延伸工程を経てして光ファイバ素線を製造する。
【0014】
屈折率に分布を有するものは予め屈折率分布を有するプリフォームを溶融延伸する方法や屈折率を変化させる物質を熱拡散によって分布させる方法がある。予め屈折率分布を有するプリフォームの作製方法としては石英系のVAD法ではスートプリフォームを作製する際に、屈折率を上昇させるゲルマニウムの濃度を調整することで屈折率を変化させる。プラスチック光ファイバでは、例えばプリフォームの段階で、特許第3332922号、特開平8−1147145号公報、特開平11−344623号公報などに挙げられる様々な屈折率分布の付与方法で作製したプリフォームを溶融延伸するものや、線材(ファイバ)内もしくは線材外より屈折率調整成分を熱などによって拡散させて屈折率を分布させる方法も知られている。
【0015】
上記の各製法で得られる光ファイバ素線は、曲げ、対候性の向上、吸湿による性能低下抑制、引張強度の向上、耐踏付け性付与、難燃性付与、薬品による損傷からの保護、外部光線によるノイズ防止、着色などによる商品価値の向上などを目的として、通常、その表面に1層以上の保護層を被覆して使用される。
【0016】
これら被覆に用いられる保護層形成用材料としては、エラストマー系素材,紫外線硬化樹脂,反応性組成物などが知られているが、一般的な被覆素材としては熱可塑性素材が用いられている。本発明に適用できる熱可塑性素材の例としては、ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),ポリ塩化ビニル(PVC),エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA),エチレン−アクリル酸エチル(EEA),ポリエステル,ナイロンなどが挙げられ、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレンあるいはα−オレフィンの重合体、およびそれらの共重合体などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0017】
(被覆の構造)
光ファイバ素線を被覆することにより、光ファイバコードの製造が可能となる。その際にその被覆の形態として、被覆材と光ファイバ素線との界面が全周にわたって接して被覆されている密着型の被覆と、被覆材と光ファイバ素線との間に空隙を有するルース型被覆がある。ルース型被覆では、側圧の緩和やその空隙に抗張力繊維や吸湿素材などの機能性材料を充填できるなどの効果が見られるが、たとえばコネクタとの接続部において被覆層を剥離した場合にその端面の空隙から水分などが浸入して長手方向に拡散されるおそれや、被覆と密着していないので光ファイバ素線と被覆層との位置が動いて(ピストニング)しまい固定が困難などの懸念があるため、通常は密着型が好ましく用いられる。
【0018】
さらに、必要に応じて上記の保護層を1次被覆層(光ファイバコード素線)とし、外周にさらに2次(または多層)被覆層を設けても良い。1次被覆が充分な厚みを有している場合には、1次被覆の存在により熱ダメージが減少するため、2次被覆層の素材の硬化温度の制限は、1次被覆層を被覆する場合に比べて、緩くすることができる。2次被覆層には前述と同様に、難燃剤や紫外線吸収剤,酸化防止剤,ラジカル捕獲剤,昇光剤,滑剤などを導入しても良い。
【0019】
なお、難燃剤については臭素を始めとするハロゲン含有の樹脂や添加剤やリン含有のものがあるが、燃焼時の毒性ガス低減などの安全性の観点で難燃剤として水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を好ましく使うことができる。金属水酸化物はその内部に結晶水として水分を有しており、またその製法過程での付着水が完全に除去できないため、低吸湿性の光ファイバや低次被覆層ではない場合、金属水酸化物による難燃性被覆は1次被覆層の外層に吸湿性被覆を設けてその外層にさらに被覆層として設けることが望ましい。
【0020】
難燃性の規格として、UL(Underwriters Laboratory )ではいくつかの試験方法を決めており、それぞれ難燃性能の低い順から、CMX(燃焼試験は一般にVW−1試験と言われている)、CM(垂直トレイ燃焼試験)、CMR(ライザー試験)、CMP(プレナム試験)などのグレードが設定されている。プラスチック光ファイバ素線の被覆の場合、芯材であるプラスチック光ファイバ素線は可燃性素材で出来ているので、火災時に延焼を防ぐためにVW−1の規格を有したコードまたはケーブルであることが好ましい。
【0021】
また、被覆層に複数の機能を付与させるために、さらに様々な機能を有する被覆を積層させても良い。例えば、前述の難燃化以外に、吸湿を抑制するためのバリア層や水分を除去するための吸湿材料、例えば吸湿テープや吸湿ジェルを被覆層内や被覆層間に有することができ、また可撓時の応力緩和のための柔軟性素材層や発泡層など緩衝材、剛性を向上させるための強化層など、用途に応じて選択して設けることができる。樹脂以外にも構造材として、高い弾性率を有する(いわゆる抗張力繊維)および/または剛性の高い金属線などの線材を熱可塑性樹脂に含有すると、得られるケーブルの力学的強度を補強することができることから好ましい。抗張力繊維としては、例えばアラミド繊維,ポリエステル繊維,ポリアミド繊維が挙げられる。また、金属線としてはステンレス線,亜鉛合金線,銅線などが挙げられる。いずれのものも前述したものに限定されるものではない。その他に保護のための金属管の外装、架空用の支持線や、配線時の作業性を向上させるための機構を組み込むことができる。
【0022】
また、光ファイバケーブルの形状は使用形態によって、光ファイバ素線または光ファイバコードを同心円上にまとめた集合型のものや、1列に並べたテープ型のもの、さらにそれらを押え巻やラップシースなどでまとめたものなど用途に応じて使用形態が選ばれる。
【0023】
(光ファイバコードの製造方法)
図1に本発明に係る光ファイバコードの製造に用いられる光ファイバコード製造設備90の例を示す。防湿防塵カートリッジ91には、乾燥剤92と光ファイバ素線ロール(以下、素線ロール)82がセットされるリール93とが備えられている。光ファイバ素線(以下、素線とも称する)17は図示しない駆動装置により、5m/min〜50m/minの速度で帯電除去ユニット94に送られる。帯電除去ユニット94で、素線17表面に帯電している電荷を除去することで、被覆層の形成が容易となる。そして、被覆装置100で被覆を行いプラスチック光ファイバコード(以下、光ファイバコードと称する)19を得る。なお、被覆方法は後に詳細に説明する。
【0024】
次に、被覆層を固化させるために、冷却工程を行う。冷却工程は、図1に示されているように水槽101を用いても良いし、その他の冷却装置を用いても良い。水槽101には被覆層の素材に応じて5℃〜70℃の水を入れる。光ファイバコード19は、水槽101内を0.1分〜5分走行させることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。そして、光ファイバコード19に付着した水を除湿ブロー装置102で乾燥する。その後に線径測定装置103及びコブ検出器104を用いて、光ファイバコード19の被覆層の被覆状態を確認する。
【0025】
最後に、リール105で光ファイバコード19をコードロール106として巻き取る。なお、リール105は、送り出し側と同様に乾燥剤107を備えている防湿防塵カートリッジ108に収納されていることが好ましい。これにより、光ファイバコード19が空気中の水分を含むことによる伝送損失の悪化などの光学特性の悪化が生じるおそれが無くなる。
【0026】
図2に示されるように被覆装置100は、ダイス口金111,ダイスヘッド本体112,ニップル口金113及びニップル本体114などを備えている。通常これらは金属から作製される。例えば、ステンレス鋼,クロムモリブデン綱,ニッケルクロム綱,クロム綱,マンガン綱,タングステンカーバイト(WC)綱,真鍮,銅,アルミニウム及び鋳鉄綱などが使用される。樹脂流路や口金先端部分は平面性向上、樹脂の剥離性向上,硬度改良,耐腐食性向上及び耐磨耗性向上などの目的でニッケルメッキ,硬質クロムメッキなどのメッキ処理や表面処理が行われる。また、被覆樹脂の流路(以下、樹脂流路と称する)115は、樹脂物性により異なるが、樹脂が均一に回り、樹脂の流れ線(ウェルドライン)が出にくい素材から形成することが必要である。さらに口金から押出した際に、樹脂の押出圧力が均等になり流れムラが生じない素材であることも必要である。
【0027】
樹脂116は、樹脂入口117から樹脂流路115を通る。そして、被覆開始位置116aで素線17表面に被覆が開始される。そして、光ファイバコード19の1次被覆層19aとなる。また、樹脂116の温度を調整するためのヒータ118,119がダイス口金111及びダイスヘッド本体112に取り付けられている。
【0028】
ニップル口金113は、被覆による素線17の性能劣化要因として非常に重要である。素線17は、走行中常にニップル口金113の素線側面(以下、ニップル口金表面と称する)113aとニップル本体114の素線側面(以下、ニップル本体表面と称する)114aとから熱を受けている。ヒータ118,119によりダイス口金111及びダイスヘッド本体112は加熱されている。そして、樹脂流路115中の樹脂116も加熱され所望の粘性となっている。なお、ニップル口金113の出口とはダイス口金111の出口は離れており、光ファイバ素線もしくはコードと被覆素材の溶融樹脂が接触する構造を取るプレッシャー型といわれる形態を取っている。この金型を用いて以下の条件で被覆を行うことによって、表面が適度に粗度を有するハンドリング性が良好な被覆が得られる。
【0029】
本発明では、被覆樹脂表面にメルトフラクチャーによる凹凸を故意に形成させることで、ハンドリング性(巻取特性)が向上することを特徴としている。これにより、巻取り時の被覆線同士の接触を抑制することができる。平滑表面の被覆線を巻いた時に起こる静電気は接触面積が大きくなる、あるいは、摩擦速度が大きくなることで発生量が増大する。静電気が発生すると、巻取時に光ファイバコード同士が反発し合うことで隙間が発生し、巻き形状が低下する。巻き形状が低下すると、例えば巻き崩れや被覆線の重なり合いによって、局所的な側圧がかかり、損失上昇する可能性がある。一方、樹脂表面にメルトフラクチャーが形成されると、樹脂同士の接触面積が低下するため、静電気発生量が低減する。また、摩擦速度(巻取速度、被覆速度)が増大した場合でも、その発生量変化も抑制されるため、その結果としてハンドリング性が向上する。
【0030】
同様な表面形成を被覆を形成した後で付与する場合は、機械的および/または熱的な手段を用いて被覆層を加工する必要があるが、高分子押出成形時の不安定流動現象として知られているメルトフラクチャーを用いる事で被覆時に形成されるため好ましく用いる事ができる。メルトフラクチャーは不安定流動の一種であるため、トラブルと捉えられがちだが、適度な粗さを持つことが却って良い効果を引き起こすことを見出したのが、本発明の特徴である。
【0031】
メルトフラクチャーを利用した被覆方法としては光学部品等との接着性を向上させる目的として臨界剪断速度を算出し、この臨界剪断速度よりも大きい剪断速度を発生させながら押出成形を行うことで、樹脂表面にメルトフラクチャーを形成させ、表面の凸凹によるアンカリング効果によって、ケーブル外皮とコネクタとの接着性を向上させることを特徴とした特許である特開2004−126361号公報が挙げられる。しかし、特開2004−126361号公報の実施形態においてニップル先端がダイス内部の出口付近で樹脂と接触するダイ構造で被覆することで所定の表面粗さを形成させているが、実際にその様な形態でプラスチック光ファイバ素線を被覆すると、光ファイバ素線に大きな樹脂側圧がかかり、伝送損失が大きく上昇してしまうため、好ましくない。加圧型方式においては、樹脂の接触位置からダイス出口までの距離(d)は、プラスチック光ファイバ素線径や目標とする被覆外径(D)にもよるが、D≦d≦3Dであることが好ましい。ニップルがランド部を有するチュービング方式では、ダイスとニップルの端面が揃っている、あるいは若干ニップル先端が突き出ている状態に設定することが好ましい。
【0032】
また、被覆の際は、ダイス(外側ダイ)とニップル(内側ダイ)に温度差を付けることで、メルトフラクチャーを発生させることができるとされているが、一般的にはダイスおよびニップルは、共にダイヒーターによって一定温度に制御されていることが多く温度差を付ける機構やその制御は難しい。対して、本発明による被覆では、ダイス内の溶融樹脂温度に変化を与えることなく操作しやすい制御項目で被覆状態を調節でき、特に被覆樹脂の温度や樹脂側圧に対して性能にダメージを受けやすいプラスチック光ファイバ素線、特に屈折率分布型プラスチック光ファイバ素線に対して好適に用いることができる。
【0033】
また、この様な表面を有する被覆層に追加の被覆層を設ける場合、被覆対象の表面に凹凸があるため、被覆層間の界面の面積が増大するため、密着力が増加する。これを利用して、最終製品の最外層は外観を考慮して平滑な仕上げとし、それまでの素線から下地となる被覆層は本発明の被覆方法で形成させる態様を好ましく用いることができる。
【0034】
本発明の具体的な態様としては、以下の例を示す事ができるが、本発明は以下の例に限定される事はない。
【0035】
ダイス口金出口111aにおける樹脂116のせん断速度は、1×103(1/sec)以上1×106(1/sec)以下とすることが好ましく、5×103(1/sec)以上5×105(1/sec)以下とすることがより好ましく、最も好ましくは1×104(1/sec)以上1×105(1/sec)以下とすることである。せん断速度は、流路の径や流体(本発明においては樹脂116)の粘性などにより変化する値である。
【0036】
また、本発明に用いる熱可塑性樹脂の分子量、分子量分布は特に制限されず、溶融温度は130℃以下、メルトフローインデックス(MFR)は5(g/10min)以上150(g/10min)以下が好ましく、更に好ましくは溶融温度が125℃以下であり、MFRが20(g/10min)以上90(g/10min)以下である。被覆温度は140℃以下が好ましく、更に好ましくは130℃以下である。
【0037】
また、せん断速度を前記範囲とするために、素線17の外径D1(mm)とダイスのランド長L1(mm)とが、0.5×D1≦L≦3×D1の範囲とすることが好ましく、0.7×D1≦L≦2.5×D1とすることがより好ましく、1.0×D1≦L≦2.0×D1とすることが更に好ましい。
【0038】
さらに、素線17の搬送速度S1(m/min)も樹脂116のダイス口金出口111aのせん断速度を調整する条件となる。本発明においては、20m/min≦S1(m/min)≦100m/minであることが好ましく、より好ましくは30m/min≦S1(m/min)≦80m/minとすることであり、最も好ましくは、40m/min≦S1(m/min)≦60m/minとすることである。さらに、本発明では、ダイス口金出口111aよりも上流側で樹脂116を素線17の外周面に被覆させることが好ましい。これにより、ダイス口金111と素線17との間で樹脂116が圧縮されて、1次被覆層19aの表面を適度に粗いものとすることが可能となる。また、このとき素線17にかかる張力を制御できる機構を有している事が好ましい。
【0039】
以上の方法により作製される光ファイバコード19は、その表面粗さRz(μm)が、0.5μm以上10μm以下であり、好ましくは1.0μm以上8.0μm以下であり、最も好ましくは1.5μm以上6.0μm以下である。
【0040】
本発明によって、表面に粗度を付与する事で、隣接する被覆素材の樹脂のなじみや静電気による強い密着を防ぐ事ができるため、連続して被覆等の送り出し作業をする場合に巻き解く際に過剰な力を必要としなくなるため好ましく、テンションメンバや抗張力繊維によって、機械的強度を付与しにくい低次の被覆においては特に好ましく用いる事ができる。また、施工性や見栄えなどによって被覆層表面の平滑性が求められる場合は、最外層のみを表面が平滑に被覆すれば良く、それ以外の層に本発明の被覆方法を組み合わせて適用しても良い。
【実施例】
【0041】
以下に実施例として素線に屈折率分布型プラスチック光ファイバを用いた例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料の種類、それらの割合、操作などは、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。なお、説明は実験1で詳細に行う。比較例である実験2ないし実験4では、実験1と異なる箇所のみを説明する。
【0042】
[実験1]
押出成形により作製した外径D1が20mm,内径19mm(クラッド肉厚t1が0.5mm)、長さ900mmのポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなるクラッドパイプを用いた。このクラッドパイプを充分に剛性を有する内径20mm、長さ1000mmの重合容器に挿入した。この重合容器をクラッドパイプごと純水にて洗浄した後に90℃にて乾燥させた。その後、クラッドパイプにテフロン(登録商標)製の栓を用いて一端を封止した。エタノールにてクラッドパイプの内壁を洗浄した後に、80℃の熱オーブンにて圧力を(大気圧に対して−0.08MPa)として12時間、減圧処理を行った。
【0043】
次に、アウターコア重合工程を行った。三角フラスコ内に、重水素化メチルメタクリレート(MMA−d8 和光純薬(株)社製)205.0gと、2,2' −アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.0512gと、1−ドデカンチオール(ラウリルメルカプタン)0.766gとをそれぞれ計量してアウターコア液を調製した。このアウターコア液を井内盛栄堂(株)社製の超音波洗浄装置USK−3(38000MHz、出力360W)を用いて10分間超音波照射を行った。次に、クラッドパイプ内にそのアウターコア液を注液
した後に減圧濾過装置を用いてクラッドパイプ内を大気圧に対して0.01MPa減圧した。減圧脱気しつつ前記超音波洗浄装置を用いて超音波処理を5分間行った。
【0044】
クラッドパイプの先端部分の空気をアルゴンにて置換後、クラッドパイプの先端部をシリコン栓とシールテープを用いて密閉した。アウターコア液を含んだクラッドパイプごと、60℃の湯浴中にいれ、震盪させつつ2時間予備重合を行った。その後、前記予備重合を行ったクラッドパイプを水平状態(クラッドパイプの長さ方向が水平になる状態)で60℃の温度を保持しつつ500rpmにて回転させながら2時間加熱重合(回転重合)を行った。その後に回転速度3000rpmで60℃,16時間、さらに3000rpmで90℃,4時間の回転重合を行った。クラッドパイプの内側にPMMA−d8からなるアウターコアを有する円筒管を得た。
【0045】
次に、インナーコア部作製前処理を行った。前述したアウターコアが形成されているクラッドパイプを90℃の熱オーブンにて圧力を(大気圧に対して−0.08MPa)として3時間、減圧処理を行った。さらに、インナーコア重合工程を行った。三角フラスコ内に重水素化メチルメタクリレート(MMA−d8)82.0gと、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル0.070gと、1−ドデカンチオール0.306gと、ドーパントとしてジフェニルスルフィド(DPS)6.00gとをそれぞれ計量してインナーコア液を調製した。その後に超音波洗浄装置USK−3を用いて10分間超音波照射を行った。
【0046】
アウターコアが形成されているクラッドパイプを80℃で20分保温した後にインナーコア液を中空部に注入した。クラッドパイプの一端をシールテープで覆い、その後そのクラッドパイプをオートクレーブ内に鉛直に設定(底付け部が下、シールテープで覆った部分が上で)した後、オートクレーブの蓋をセットした。オートクレーブ内の空気をアルゴンガスにて置換し、そのなかを0.05MPaの圧力が掛かった雰囲気とした。100℃で48時間界面ゲル重合法で加熱重合させた。その後120℃で更に24時間の加熱重合及び熱処理を行いインナーコアを形成した。その後にオートクレーブ外にプリフォームとして取り出した。
【0047】
このプリフォームを、温度を240℃に設定した炉内で加熱溶融させて延伸する延伸工程を行った。この延伸工程によって、外径が316μmの屈折率分布型プラスチック光ファイバ素線17が得られた。650nm波長のレーザー光を用いて素線17の伝送損失を測定したところ、70dB/kmと良好であった。
【0048】
この得られた素線17を穴径1.3mm、ランド長3.0mmであるダイスと内径0.4mm、外径1.25mmであるニップルとを有する金型を取り付けた押出機(30mmφスクリュー径)を用いて、溶融熱可塑性樹脂の低密度ポリエチレン(LDPE);東ソー製 型番:ニポロンL,MFR=50g/10min、融点122℃)を125℃,13.2g/minで押し出し、20m/minの速度で送り出されるファイバ素線径D1が316μmの素線17に接触させながら1.2mmにし、6000m連続して被覆した。水による冷却後、径400mmのリールに巻き取った。巻取り状態は乱れのない良好な状態であり、被覆線の重なり現象は1回も見られなかった。被覆した光ファイバコード19の表面粗さは表面形状測定顕微鏡(キーエンス製 VK8500)によって測定したところ、十点平均粗さRzで1.8〜2.0μmであった。巻き取った被覆線を、巻き替え機を用いて300m毎に分け、測定した結果、各々の損失上昇は0〜+1dB/kmであり、被覆前後における損失上昇は見られなかった。この光ファイバコード19を別のリールに巻き変えた際に、被覆表面の帯電量を測定したところ、0Vとほとんど帯電していなかった。
【0049】
[実験2]
ライン速度80m/minで被覆し、巻き取り部にイオナイザを取り付けながら光ファイバコードを巻き取った以外は、実験1と同様に被覆を行い、巻き取ったドラムも実験1と同じ環境で保存した。光ファイバコードの重なり現象は6000m中に20回見られ、巻き取り形状はよくなく、表面粗さを測定したところ、十点平均粗さRzは30μmと高くなっていた。この巻き取った光ファイバコードを、巻き替え機を用いて300m毎に分け、測定した結果、巻き取りの内側と外側で若干の差があったが、どれも被覆前後で伝送性能に+5〜+10dB/kmの損失上昇が見られた。OTDR(Optical Time Domain Reflectometer;JIS C 6823,光ファイバ損失試験方法)で測定すると、重なりの発生した箇所で損失が上昇していることが確認された。
【0050】
[実験3]
ライン速度5m/mm(剪断速度1.0×102(1/sec))で被覆し、巻き取り部
にイオナイザを取り付けながら光ファイバコードを巻き取った以外は、実験1と同様に被覆を行い、巻き取ったドラムも実験1と同じ環境で保存した。光ファイバコードの重なり現象は6000m中に2回見られ、巻き取り形状は重なり部分以外は密に詰まっているものの良好であった。表面粗さを測定したところ、十点平均粗さRzは0.2μmと滑らかであった。ただし、実験1と比較して光ファイバコード同士の密着が強かった。
【0051】
この巻き取った光ファイバコードを巻き替え機を用いて300m毎に分けたところ、巻き替えを行う際に光ファイバコードがリールから離れる位置が安定していなかった。測定した結果、重なり現象見られなかった光ファイバコードでは+10dB/kmの損失上昇が見られ、重なり現象が見られたポイントを含むものは+15dB/kmの損失上昇がみられた。
【0052】
[実験4]
ダイ外側で樹脂と光ファイバ素線とが接触するチュービング型ダイスを用いて被覆を行い、ライン速度50m/minで被覆し、巻き取り部にイオナイザを取り付けながら光ファイバコードを巻き取った以外は、実験1と同様に被覆を行い、巻き取ったドラムも実験1と同じ環境で保存した。光ファイバコードの重なり現象は6000m中に40回見られ、巻き取り形状は重なり部分が目立ちよくないものであったが、表面粗さを測定したところ、十点平均粗さRzは0.3μmと滑らかであった。ただし、実験1と比較して整列している光ファイバコード同士の密着が強かった。
【0053】
この巻き取った光ファイバコードを巻き替え機を用いて300m毎に分けたところ、巻き替えを行う際に光ファイバコードがリールから離れる位置が安定していなかった。重なり現象が見られたポイントを含むものは+15dB/kmの損失上昇がみられた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係るプラスチック光ファイバコードの製造に用いられる製造設備の概略図である。
【図2】図1の製造設備の要部断面図である。
【符号の説明】
【0055】
17 プラスチック光ファイバ素線
19 プラスチック光ファイバコード
90 光ファイバコード製造設備
100 被覆装置
116 樹脂
Rz 十点平均粗さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ素線または光ファイバコード素線に樹脂を被覆して被覆層が形成されている光ファイバコードにおいて、
前記被覆層の表面粗さが、十点平均粗さ(Rz)で0.5μm以上10μm以下であることを特徴とする光ファイバコード。
【請求項2】
前記被覆層の外周に更に第2被覆層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の光ファイバコード。
【請求項3】
導光部を構成する素材がプラスチックであることを特徴とする請求項1または2記載の光ファイバコード。
【請求項4】
光ファイバ素線または光ファイバコード素線に熱可塑性樹脂をスクリュ押し出しにより被覆する被覆工程を有する光ファイバコードの製造方法において、
前記被覆工程における前記スクリュの剪断速度が、1.0×103(1/sec)以上1.0×106(1/sec)以下であることを特徴とする光ファイバコードの製造方法。
【請求項5】
前記被覆工程が、ニップルとダイスとからなる押出ダイを用いる場合であって、
前記ニップル先端が前記ダイス出口よりも内側に位置し、
前記ダイス出口前において溶融状態の前記熱可塑性樹脂を前記光ファイバ素線または前記光ファイバコード素線と接触させて密着被覆させることを特徴とする請求項4記載の光ファイバコードの製造方法。
【請求項6】
前記被覆工程で、前記光ファイバ素線または前記光ファイバコード素線の走行速度を20m/min以上100m/min以下とすることを特徴とする請求項4または5記載の光ファイバコードの製造方法。
【請求項7】
前記光ファイバがプラスチック光ファイバであることを特徴とする請求項4ないし6いずれか1つ記載の光ファイバコードの製造方法。
【請求項8】
請求項4ないし7いずれか1つ記載の光ファイバコードの製造方法により製造された光ファイバコードを巻き取り、
前記巻き取られた光ファイバコードを巻きほぐし、さらに被覆を行うことを特徴とする光ファイバコードの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−178086(P2006−178086A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369770(P2004−369770)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】