説明

光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステム

【課題】構造物の施工管理や維持管理を容易に支援することができる光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステムを提供する。
【解決手段】構造物の状態をモニタリングする構造ヘルスモニタリングシステム100において、光ファイバセンサ10は、構造物の施工期間中に設けられて、この時から供用期間中にわたり継続して使用され、光ファイバセンサ10による検知に基づいて構造物のひずみを計測するひずみ計測手段20と、ひずみ計測手段20により計測したひずみをモニタリングするモニタリング手段50と、モニタリング手段50によるモニタリング結果に基づいて、施工期間中においては構造物の施工管理方針を決定し、供用期間中においては構造物の維持管理方針を決定する管理方針決定手段60とを備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
新たな社会資本投資が堅調に進む一方、高度成長期に整備が進められた社会資本は、供用開始より30〜40年の年月を経ており、これらの安全かつ効率的な維持管理は今後の大きな課題である。
【0003】
すでに米国では、1990年代から橋梁や高速道路などの老朽化に伴う大小の事故、障害が頻発して社会問題化しており、さらにノースリッジ地震などの数々の地震災害を契機として、社会資本の維持管理手法に関する検討が盛んであるが、その中で適用が有望視されている技術に構造ヘルスモニタリングがあげられる(例えば、非特許文献1および2参照)。
【0004】
構造ヘルスモニタリングとは、構造体にあらかじめセンサ等を設置して、そのセンサからの情報から、損傷箇所の検知や劣化度の診断を目的とした技術であり、いわばセンサ技術、計測技術と、計測データを適切に処理し、損傷、劣化の指標を導出する解析技術の複合技術である(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
しかし従来は、光ファイバセンサに代表される先端センサの開発、および、これらセンサを構造体に設置するためのセンサ適用手法の開発が主体となっていた。そのため、果たしてこれらの先端センサを用いた構造ヘルスモニタリングシステムは、社会資本の管理者、使用者などに対して、損傷の検知や、維持管理に有用な情報を提供できるのかどうか、解析技術の開発を含めて検討する必要がある。
【0006】
その一方で、現在数多く建設が進められている長大橋をはじめとする土木構造物では、建設時は安全かつ高精度な施工管理を目的として、各種センサによる計測や高精度な測量などによる大規模管理が必須であり、さらに、完成後、供用中には長期にわたる維持管理をサポートする何らかのモニタリングシステムの設置が必要である。これらは従来、別個のシステムとして考えられていたため、供用中の長期の維持管理において非常に重要な指標となる建設中および完成直後(供用初期)の構造性能を引き継ぐことは困難であった。
【0007】
そこで、建設時の施工管理から完成後、供用申の維持管理まで一貫して担うことが可能な構造モニタリングシステムの構築が可能であれば、設計者、施工者、さらに管理者にとって有益でかつ有効なツールとして活用することができる。また、一貫したシステム構築により、高性能、高耐久性などの利点に関わらず、コスト面で導入が困難であった光ファイバセンサ等の先端センサの使用にも改めて道を開くことができる。
【0008】
これに関し、本発明者は、光ファイバセンサを主体とした長大PC橋構造ヘルスモニタリングシステムを既に開発している(例えば、非特許文献4および5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】K. P. Chong, N. J. Carino, G. Washer : Health Monitoring of civil Infrastructures, Smart Materials and Structures, Vol. 12, pp.483-493, 2003.05
【非特許文献2】A. Mita : Emerging Needs in Japan for Health Monitoring Technologies in Civil and Building Structures, Proceedings of Second Workshop on Structural Health Monitoring, pp. 56-67, 1999.09
【非特許文献3】武田展雄ほか:第1回〜第3回知的材料・構造システムシンポジウム、1999.12、2000.12、2002.01
【非特許文献4】岩城英朗、稲田裕、若原敏裕:“光ファイバひずみセンサ(B−OTDR)を用いた長大斜張橋施工時モニタリング”、土木学会第62回年次学術講演会、pp.805−806、2007年9月
【非特許文献5】岩城英朗、稲田裕、若原敏裕:“長大橋モニタリングシステムの開発と適用例”、プレストレストコンクリート、第50巻第2号、2008年3月、社団法人プレストレストコンクリート技術協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記の従来の非特許文献5の構造ヘルスモニタリングシステムでは、施工管理や維持管理における有用なツールとして活用できる可能性を提示するに留まっており、システムによるモニタリング結果を用いて、施工管理や維持管理と関連づけるかについては必ずしも明らかではない。また、構造物の施工管理や維持管理を容易に支援することができる構造ヘルスモニタリングシステムの開発が望まれている。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、構造物の施工管理や維持管理を容易に支援することができる光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステムは、構造物に設けた光ファイバセンサにより前記構造物の状態を検知し、この検知に基づいて前記構造物の状態をモニタリングする構造ヘルスモニタリングシステムにおいて、前記光ファイバセンサは、前記構造物の施工期間中に設けられて、この時から供用期間中にわたり継続して使用され、前記光ファイバセンサによる検知に基づいて前記構造物のひずみを計測するひずみ計測手段と、前記ひずみ計測手段により計測したひずみをモニタリングするモニタリング手段と、前記モニタリング手段によるモニタリング結果に基づいて、施工期間中においては前記構造物の施工管理方針を決定し、供用期間中においては前記構造物の維持管理方針を決定する管理方針決定手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項2に係る光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステムは、上述した請求項1において、前記光ファイバセンサによる検知に基づいて前記構造物の温度を計測する温度計測手段をさらに備え、前記モニタリング手段は前記温度計測手段により計測した温度をモニタリングすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項3に係る光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステムは、上述した請求項1または2において、前記ひずみ計測手段により計測したひずみに基づいて前記構造物のたわみ量を算定するたわみ量算定手段をさらに備え、前記モニタリング手段は前記たわみ量算定手段により算定したたわみ量をモニタリングすることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項4に係る光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステムは、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記計測手段で取得した計測データに関する所定のデータを保存するデータサーバであって、ユーザ端末とネットワークを介して通信可能なデータサーバをさらに備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項5に係る光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステムは、上述した請求項1〜4のいずれか一つにおいて、前記構造物は、橋梁であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項6に係る光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステムは、上述した請求項5において、前記橋梁は、斜張橋であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、構造物に設けた光ファイバセンサにより前記構造物の状態を検知し、この検知に基づいて前記構造物の状態をモニタリングする構造ヘルスモニタリングシステムにおいて、前記光ファイバセンサは、前記構造物の施工期間中に設けられて、この時から供用期間中にわたり継続して使用され、前記光ファイバセンサによる検知に基づいて前記構造物のひずみを計測するひずみ計測手段と、前記ひずみ計測手段により計測したひずみをモニタリングするモニタリング手段と、前記モニタリング手段によるモニタリング結果に基づいて、施工期間中においては前記構造物の施工管理方針を決定し、供用期間中においては前記構造物の維持管理方針を決定する管理方針決定手段とを備えるので、管理者は管理方針決定手段により決定した管理方針に沿って、施工管理や維持管理を行えばよい。このため、構造物の施工管理や維持管理を容易に支援することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の適用対象である長大PC斜張橋の側面図である。
【図2】図2は、本発明に係る光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステムの概要図である。
【図3】図3は、本発明に係る光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステムの構成図である。
【図4】図4は、光ファイバセンサを示す斜視図である。
【図5】図5は、ひずみ計測手段および温度計測手段の構成図である。
【図6】図6は、架設時の光ファイバセンサの延伸プロセスを示す斜視図であり、(a)は主桁コンクリート打設直後の図、(b)は型枠移動・配筋完了後の図である。
【図7】図7は、ひずみ計測結果の一例を示す図である。
【図8】図8は、温度計測結果の一例を示す図である。
【図9】図9は、主桁たわみ曲線を比較した図であり、(a)は測量レベルとの比較図であり、(b)は設計値との比較図である。
【図10】図10は、完成時の主桁ひずみ分布を示す図である。
【図11】図11は、経過日数に伴う主桁ひずみおよびコンクリート内部温度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステムの実施例を、長大PC斜張橋に適用する場合を例にとり図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
まず、本発明の光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステム100(以下、システムという。)が適用される長大PC斜張橋1(構造物)について説明する。
【0022】
図1に示すように、この長大PC斜張橋1は、移動型枠を用いた張出し架設工法等により施工される中央支間長500m程度の橋梁である。この斜張橋1は、径間中央CLに関して略左右対称であり、主塔P3、P4と、橋脚A1、P1、P2、P5、P6Aを有する。架設工法を用いた施工では、安全かつ高精度な施工のために、架設全期間にわたって、型枠移動やコンクリート打設、斜材緊張などに伴う構造体の変形の常時把握、および出来高の管理や、台風などの強風時の変形や振動予測が重要な課題となる。
【0023】
このため、架設時には、工事進捗に沿った線形・出来高の管理、施工期間中にわたる気候変動などの外乱に対する応答、型枠移動などで発生する振動(内乱)に対する応答の把握を主眼として施工管理を行う必要がある。一方、完成後の供用中の維持管理においては、クリープ、斜材張力の緩和等の影響、強風などの外乱に対する応答、走行車両等の活荷重による応答等を逐次計測し、これらを維持管理の指標とする必要がある。
【0024】
図2は、本発明に係る光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステム100の概要図である。図2に示すように、本発明のシステム100は、光ファイバセンサ10で取得したひずみや温度などのデータ(計測データ)をインターネットを通じてデータセンター72に転送し、所定のデータ処理をした後、データセンター72のデータサーバ70上に保存するものである。
【0025】
設計者、管理者などのユーザは、パソコン(パーソナルコンピュータ)などのユーザ端末80からWebブラウザを通じてシステム100のデータサーバにアクセスでき、どこからでも計測データの参照や分析を行うことができる。なお、データサーバ70とユーザ端末80を除いたシステム100の設置位置は、図1に示した適用対象の対称性を考慮し、同図に示す主塔P3側としてある。
【0026】
図3は、本発明のシステム100の詳細な構成図である。図3に示すように、本発明のシステム100は、光ファイバセンサ10と、ひずみ計測手段20と、温度計測手段30と、たわみ量算定手段40と、モニタリング手段50と、管理方針決定手段60と、データサーバ70とユーザ端末80とから構成される。
【0027】
光ファイバセンサ10(B−OTDR方式:Brillouin Optical Time Domain Reflectometer)は、長大PC斜張橋1の施工期間中に主桁2に設けられて、この時から供用期間中にわたり継続して使用されるものである。
【0028】
光ファイバセンサ10は、光ファイバの軸方向に沿って非常に短い周期のパルス光を入射すると光ファイバ中のパルス光伝搬に伴って微量な光が反射するという特性(後方散乱)を利用している。反射光の波長は光ファイバに加わるひずみや温度で変化するため、反射光の波長と伝搬時間(パルス光を入射してから反射光が受信されるまでの時間)をあわせて記録すれば、光ファイバ全域をひずみセンサ、温度センサとして使用できる。
【0029】
なお、計測できるひずみ・温度の長さ方向の精度(空間分解能)と光ファイバに入射するパルス光の周期(幅)とは反比例関係にあり、入射パルス光の周期(幅)を長くすると、空間分解能は低下する。例えば、入射パルス光の周期が10n秒(10×10−9秒)の場合の空間分解能は1mとなり、ある点で計測された計測値(ひずみ・温度)はその点の前後0.5mの範囲の平均ひずみ(温度)値となる。周期が100n秒の場合の空間分解能は10mである。さらに、反射光は非常に微弱な光であるため、実際の計測ではパルス光を反復して入射し、反射光を平均化してひずみ・温度を求める。また、入射パルス光の周期とはべつに、反射光の受信間隔を変化させ、計測間隔(サンプリング間隔)を設定する。
【0030】
光ファイバセンサ10は、コンクリート中に埋設使用されることを前提として、図4に示すように、光ファイバ素線4を、エンボス加工したポリエチレン樹脂6およびアラミド繊維8で被覆補強したものをひずみセンサとして開発し、適用している。なお、コンクリート埋設時にもセンサ外部からの応力(側圧や付着による引張や圧縮)の影響を回避するために、光ファイバ素線をステンレス細管に内挿し保護したものを温度センサとして使用することもできる。
【0031】
光ファイバセンサ10の敷設に際しては、移動型枠に沿って主塔P3から延伸するPC主桁2の四隅に上記センサを順次埋設する工法を用いる。すなわち、主桁2の四隅に埋設するおのおのの光ファイバセンサ10の始端(主塔P3側)を、図5のひずみ計測手段20および温度計測手段30の構成図に示すように、センサ埋設開始当初から光成端箱92と光スイッチ82を介して計測器84に接続して計測可能な状態とし、センサ10の未埋設部および終端はリール86を使用し束ね移動型枠の先端部近傍に仮設する。次に、主桁2の延伸に伴う型枠の移動および配筋完了後、リール86から光ファイバセンサ10を引き出して鉄筋に沿わせ固定し、コンクリート打設にあわせて主桁2中に埋設する。なお、計測器84とパソコン88、光スイッチ82とパソコン88、パソコン88および計測器84とハブ90をそれぞれ接続する。
【0032】
図6(a)、(b)に本敷設工法の概要を示す。本工法の適用により、主桁延伸の開始初頭から完成まで、継続した計測が可能となり、かつセンサ設置の労力を大幅に軽減できる。
【0033】
ひずみ計測手段20は、光ファイバセンサ10による検知に基づいて主桁2のひずみを計測するものである。温度計測手段30は、光ファイバセンサ10による検知に基づいて主桁2の温度を計測するものである。ひずみ計測手段20および温度計測手段30の構成を図5に示す。たわみ量算定手段40は、ひずみ計測手段20により計測したひずみに基づいて主桁2のたわみ量を算定するものである。
【0034】
モニタリング手段50は、ひずみ計測手段20により計測したひずみ、温度計測手段30により計測した温度、たわみ量算定手段40により算定したたわみ量をモニタリングするものである。モニタリング手段50は、CPUやメモリが内蔵されたコンピュータと、このコンピュータによる電算処理を表示するモニタとからなる。そして、このモニタ画面に主桁2のひずみ分布、温度分布、たわみ量分布に関するモニタリング状況を表示する。表示された内容はインターネットを介して設計者や管理者などのユーザ端末から監視できるようになっている。
【0035】
管理方針決定手段60は、モニタリング手段50によるモニタリング結果に基づいて、施工期間中においては主桁2の施工管理方針を決定し、供用期間中においては主桁2の維持管理方針を決定するものである。
【0036】
この管理方針決定手段60は、施工管理については、想定されるモニタリング結果毎に、施工方法や施工速度などに関する施工管理項目からなる施工管理方針を予め複数設定しておく。また、維持管理についても、想定されるモニタリング結果毎に、点検や補修などに関する維持管理項目からなる維持管理方針を予め複数設定しておく。
【0037】
そして、管理方針決定手段60は、実際に観測されたモニタリング結果と予め想定したモニタリング結果とを照合し、これにより適合したモニタリング結果に対応する施工管理方針または維持管理方針を選択決定する。決定した施工管理方針や維持管理方針をユーザ端末のモニタなどに出力表示することで、設計者や管理者などのユーザによる施工管理や維持管理を支援する。この場合、例えば、実際に観測されたモニタリング結果で、ひずみ、温度またはたわみ量が想定した値を超えている場合に、想定した値が、予め定めた施工管理計画または維持管理計画当初の値よりも小さくなる施工管理方針や維持管理方針を選択決定するようにしてもよい。
【0038】
このように、本発明によれば、設計者や管理者は管理方針決定手段60により決定した管理方針に沿って、施工管理や維持管理を行えばよい。このため、構造物の施工管理や維持管理を容易に支援することができるという効果を奏する。
【0039】
[架設時の計測結果]
<ひずみ計測結果>
本発明のシステム100による架設時の主桁ひずみ計測結果例を図7に示す。システム100では、入射パルス光の周期を20n秒、反射光の平均化回数を213回、計測間隔(サンプリング間隔)を0.5mと設定している。すなわち、敷設した光ファイバセンサ全域において、0.5m刻みでひずみ値が得られ、そのおのおののひずみ値は、計測点の前後1m(計2m)の光ファイバセンサに沿った範囲のひずみ平均値(ひずみ分布)である。
【0040】
上記の計測パラメータを用いた場合に必要な計測時間は1本のセンサあたり数分程度である。このため、振動や衝撃などによって生じるひずみ変化には追従しない。すなわち、本システム100から得られるデータは、ほぼ静的現象によって得られたひずみ値である。
【0041】
なお、光スイッチに接続したすべての光ファイバセンサの計測が完了するまでの時間は、光スイッチのチャンネル切替え、おのおののセンサからの計測データの保存に要する時間などを含めると、約1時間である。
【0042】
また、本システム100で採用した光ファイバセンサは、現場での施工の進捗に合わせてコンクリート打設時に埋設するため、破断に対する補償として、1本のセンサに2本の光ファイバ素線を配置する方式を採用しており(図4)、リール先端部で両素線を折り返して融着し、センサ全体でループ状にしている。このため、コンクリート打設時などに1本の光ファイバ素線が破断しても、残りの一方から光を逆向きに入射することで、途切れることなく計測が可能となる。図7においてもリール先端部を中心としてひずみ値は左右対称であり、センサ中の光ファイバは2素線ともに稼働状態にあることを示している。
【0043】
<温度計測結果>
本発明のシステム100による架設時の主桁温度計測結果例を図8に示す。本システム100で使用した計測機器(横河電機製AQ8603)は、光ファイバセンサ10からの計測値はひずみ値としてのみ出力するため、上記で示した光ファイバによる温度センサを、別途恒温槽中で校正し、ひずみ値を温度に変換した結果を図示している。
なお、これら光ファイバセンサ10を用いたひずみ、温度計測は本システム100の稼働開始当初から、連日2(架設中)〜4時間(完成後)おき(1日あたり6〜12回)に継続して実施することができる。
【0044】
<たわみ量の算定>
次に、たわみ量算定手段40によるたわみ量の算定手順について具体的に説明する。
まず、主桁2の上側のひずみ値と下側のひずみ値とを光ファイバセンサ10で計測し、ひずみ値で定義した主桁のたわみ曲線を表す数式(基本たわみ量)に工事進捗により変化する境界条件を反映する。そして、基本たわみ量の積分定数を決定し、この積分定数の値が代入された基本たわみ量に基づいて、主桁の工事進捗におけるたわみ量を算定するという手順からなる。本発明のシステム100としては、この手順をコンピュータを用いた演算処理により行う。
【0045】
たわみ曲線を表す数式(基本たわみ量)は、たわみ量の算定式であり、光ファイバセンサ10で計測した上側のひずみと下側ひずみとの差を主桁2の上下方向の高さで除算して得られるたわみ曲率を、主桁2の水平方向に関して2回積分することで得られ、任意の積分定数を含んでいる。
【0046】
この積分定数を含むたわみ曲線を表す数式に、工事進捗の各段階に対して予め求めてある境界条件を適用することで、工事進捗に応じた長大PC斜張橋主桁のたわみ量を容易に算定することができる。
【0047】
すなわち、主桁2のたわみ曲線は、主塔P3を原点として鉛直上方をy正軸、主径間方向をx正軸とすると、
【0048】
(P2閉合前)
【数1】

【0049】
(P2閉合後〜側径間閉合前)
【数2】

【0050】
ここで、εa、εb:主桁上床版、下床版の計測ひずみ値
h:光ファイバセンサの間隔(主桁の桁高)
L:P2〜P3間の距離
θ:主塔P3底部の傾斜角
のように求めることができる。以降の工程(側径間側閉合→主径間側閉合)においても同様である。
【0051】
次に、本発明のたわみ量算定手段40により算定したたわみ曲線と、測量値および設計値(理論値)との比較例について説明する。図9は、主桁たわみ曲線を比較した図であり、(a)は測量レベルとの比較図、(b)は設計値との比較図であり、それぞれ主桁延伸工程におけるたわみ曲線を、1つ前の施工ステップの斜材緊張後の線形を基準値として示している。
【0052】
図9(a)は、本発明のたわみ量算定手段40により算定したたわみ曲線と、1つ前のステップ斜材緊張時を基準とした測量レベル(相対レベル値)を比較した例であり、上からコンクリート打設時、型枠移動時、斜材緊張時の各施工ステップについての図である。連続計測を行っている光ファイバセンサ10から得られたひずみ値より上記のたわみ量算定手段40により求めた主桁たわみ曲線の状況が、施工ステップの進展に伴う荷重変化に沿って、刻々と変化していることが分かる。また、光ファイバセンサ10による計測ひずみ値に基づくたわみ曲線(実線)と、測量レベル差分(黒▽印)は各施工プロセスにおいて、良好な関係を示していることが分かる。
【0053】
また、図9(b)は、斜張橋の詳細設計で予め予測したたわみ量(〇印で示す設計値)との比較例を示している。光ファイバセンサ10による計測ひずみ値に基づくたわみ曲線(実線)と、設計値は良好な関係を示していることが分かる。このように、光ファイバセンサ10を用いた連続計測から得られたひずみ値を用いてたわみ曲線を時々刻々求める方法は、次ステップの上げ越し管理を行う上で有用である。
【0054】
<完成後のひずみ計測について>
図10は、完成時の主桁ひずみ分布を示す図である。この図10のひずみ分布を完成後の主桁ひずみ分布の初期値とすることができる。供用中の維持管理においては、図10の結果と、コンクリート埋設時の初期ひずみ値、温度変化から求められる主桁応力分布と、以下に説明するひずみ、温度の推移に注目して検討を行う。
【0055】
図11は、架設中からの完成供用中を通じ、主桁P3基部(側径間ブロック04:上記の図10中のS04)における主桁上床版および下床版のひずみと温度の経過日数に伴う推移の一例を示したものである。なお、この図11には橋面工開始から供用開始までの間のデータは割愛している。
【0056】
図11中に示した実線のとおり、ひずみ変化および温度変化は、おおむね周期的に推移している。図中の実線は、架設期間のデータに基づき、簡単な自己回帰モデルを作成し、供用開始後のひずみと温度の推移を予測したものである。上床版および下床版のいずれも、供用後の主桁コンクリートひずみと温度を推定できていることが分かる。
【0057】
このように、本発明によれば、架設時から完成供用中までを一貫してモニタリングできる。特に、施工中に設けた光ファイバセンサをそのまま供用中も利用可能であることから、センサ設置にかかる労力の低減が図られ、高精度かつ継続した施工管理(システム運用)ができる。また、架設時の計測データ、解析結果を完成供用中の維持管理の初期値として円滑に継承することができる。
【0058】
以上説明したように、本発明によれば、構造物に設けた光ファイバセンサにより前記構造物の状態を検知し、この検知に基づいて前記構造物の状態をモニタリングする構造ヘルスモニタリングシステムにおいて、前記光ファイバセンサは、前記構造物の施工期間中に設けられて、この時から供用期間中にわたり継続して使用され、前記光ファイバセンサによる検知に基づいて前記構造物のひずみを計測するひずみ計測手段と、前記ひずみ計測手段により計測したひずみをモニタリングするモニタリング手段と、前記モニタリング手段によるモニタリング結果に基づいて、施工期間中においては前記構造物の施工管理方針を決定し、供用期間中においては前記構造物の維持管理方針を決定する管理方針決定手段とを備えるので、管理者は管理方針決定手段により決定した管理方針に沿って、施工管理や維持管理を行えばよい。このため、構造物の施工管理や維持管理を容易に支援することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、本発明に係る光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステムは、構造物の施工管理や維持管理に有用であり、特に、構造物の施工管理から維持管理までを一貫して容易に支援するのに適している。
【符号の説明】
【0060】
1 長大PC斜張橋(構造物)
2 主桁
4 光ファイバ素線
6 ポリエチレン樹脂
8 アラミド繊維
10 光ファイバセンサ
20 ひずみ計測手段
30 温度計測手段
40 たわみ量算定手段
50 モニタリング手段
60 管理方針決定手段
70 データサーバ
72 データセンター
80 ユーザ端末
82 光スイッチ
84 計測器
86 リール
88 パソコン
90 ハブ
92 光成端箱
100 光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設けた光ファイバセンサにより前記構造物の状態を検知し、この検知に基づいて前記構造物の状態をモニタリングする構造ヘルスモニタリングシステムにおいて、
前記光ファイバセンサは、前記構造物の施工期間中に設けられて、この時から供用期間中にわたり継続して使用され、
前記光ファイバセンサによる検知に基づいて前記構造物のひずみを計測するひずみ計測手段と、
前記ひずみ計測手段により計測したひずみをモニタリングするモニタリング手段と、
前記モニタリング手段によるモニタリング結果に基づいて、施工期間中においては前記構造物の施工管理方針を決定し、供用期間中においては前記構造物の維持管理方針を決定する管理方針決定手段とを備えることを特徴とする光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステム。
【請求項2】
前記光ファイバセンサによる検知に基づいて前記構造物の温度を計測する温度計測手段をさらに備え、前記モニタリング手段は前記温度計測手段により計測した温度をモニタリングすることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステム。
【請求項3】
前記ひずみ計測手段により計測したひずみに基づいて前記構造物のたわみ量を算定するたわみ量算定手段をさらに備え、前記モニタリング手段は前記たわみ量算定手段により算定したたわみ量をモニタリングすることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステム。
【請求項4】
前記計測手段で取得した計測データに関する所定のデータを保存するデータサーバであって、ユーザ端末とネットワークを介して通信可能なデータサーバをさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステム。
【請求項5】
前記構造物は、橋梁であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステム。
【請求項6】
前記橋梁は、斜張橋であることを特徴とする請求項5に記載の光ファイバセンサによる構造ヘルスモニタリングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−132680(P2011−132680A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290503(P2009−290503)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】