説明

光ファイバセンサ及びそれを用いたセンシングシステム

【課題】 信頼性及び耐久性に優れ、測定対象に対する設置上の制約がない光ファイバセンサ及びそれを用いたセンシングシステムを提供する。
【解決手段】 光ファイバ1と、応力を光ファイバの歪みに変換する変換部2と、歪みに伴う光ファイバ1の後方散乱光の変化を検出する検出部3とを備えた光ファイバセンサであって、変換部2が弾性体からなり、弾性体に応力が作用して変形すると、その変形に光ファイバ1が追従して歪みが生ずるようになされている光ファイバセンサ、及び、このような光ファイバセンサを用いたセンシングシステムであって、光ファイバ1を複数とし、それぞれの後方散乱光の変化を処理する処理部4を備えたセンシングシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性体の内部に埋設された光ファイバセンサが、弾性体の応力変化を光ファイバの後方散乱光の変化により検出するようにした光ファイバセンサ及びそれを用いたセンシングシステムに関するものであり、特に、検出精度及び耐久性に優れた光ファイバセンサ及びそれを用いたセンシングシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、トンネルや地盤の変状、山岳や道路斜面の土砂崩れ・落石等のセンシングのために、光ファイバセンサが使用されている。例えば、土砂崩れや落石のセンシングシステムは、測定対象地域に設けられている防護ネットやワイヤロープに光ファイバを取り付け、落下物による光ファイバの伸び歪みを検出している。
【0003】
ここで、光ファイバの伸縮歪みは、光ファイバ中に発生するブリルアン散乱光で検出することができる。ブリルアン散乱光を利用すると、光ファイバの歪みの測定精度や位置精度が非常に高いという利点がある。一方、ブリルアン散乱光の測定には複数波長の測定を要するため、測定に数分〜数十分要するという欠点もある。
【0004】
そのため、短時間で伝送損失を検出することができる、レーリー散乱光を利用する技術も知られている。即ち、光ファイバからレーリー散乱光を検出することにより伝送損失を検出する検出部を備え、この伝送損失の変化に基づいて異常を検知するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−181643号公報(第2頁、図2−5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、応力を光ファイバの歪みに変換する変換部が受け止め板と可動部材とからなっている。即ち、落下物の到来が予測される方向に面を臨ませて回動自由に受け止め板を形成し、落下物を受け止めた応力により、光ファイバを押しつける方向に可動部材を移動させるものである。
【0007】
このように、回動する受け止め板や移動する可動部材があると、回動や移動が何らかの事情によって妨げられた場合、光ファイバの伝送損失を検出する検出部以前に、応力を光ファイバの歪みに変換する変換部が障害となって、信頼性が損なわれてしまう。また、変換部が受け止め板と可動部材とからなっていると、地中等に埋設して使用することが困難であるという問題もある。
【0008】
勿論、従来の技術では設置上の制約から限られた測点数であり、曲げは測ることができなかった。
【0009】
そこで、本発明は、信頼性及び耐久性に優れ、測定対象に対する設置上の制約がない光ファイバセンサ及びそれを用いたセンシングシステムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであって、その第1の要旨は、光ファイバと、応力を光ファイバの歪みに変換する変換部と、歪みに伴う光ファイバの後方散乱光の変化を検出する検出部とを備えた光ファイバセンサであって、変換部が弾性体からなり、弾性体に応力が作用して変形すると、その変形に光ファイバが追従して歪みが生ずるようになされている光ファイバセンサに係るものである。
【0011】
そして好ましくは、変換部となる弾性体が円柱状のゴム又はエラストマーであり、より好ましくは、変換部となる弾性体の弾性率が、測定対象の弾性率に合わせて設定されている光ファイバセンサに係るものである。また、光ファイバは、変換部となる弾性体の内部に埋め込むことが好ましく、検出部は、光ファイバからブリルアン散乱光を検出することにより弾性体の応力変化を検出するものが好ましい。
【0012】
本発明の第2の要旨は、上記の光ファイバセンサを用いたセンシングシステムであって、光ファイバを複数とし、それぞれの後方散乱光の変化を処理する処理部を備えたセンシングシステムに係るものである。ここで、光ファイバセンサを構成する変換部は、測定対象の外部に設置するだけでなく、内部に埋設することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光ファイバセンサ及びそれを用いたセンシングシステムは、応力を光ファイバの歪みに変換する変換部が弾性体からなり、弾性体に応力が作用して変形すると、その変形に光ファイバが追従して歪みが生ずるようになされているので、信頼性及び耐久性が向上し、測定対象に対する設置上の制約がなく、更に、検出精度に優れたものである。
【0014】
そして、連続した歪みや応力分布を測定することができ、軸方向の歪みや変位に加えて曲げ方向の歪みや変位が計測できるという大きな利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の光ファイバセンサは、光ファイバと、応力を光ファイバの歪みに変換する変換部と、歪みに伴う光ファイバの後方散乱光の変化を検出する検出部とを備えている。そして、変換郡は弾性体からなっており、弾性体に応力が作用して変形すると、その変形に光ファイバが追従して歪みが生ずるようになされている。即ち、弾性体自身の変形が光ファイバに歪みを生じさせるので、回動部や移動部がないのである。そのため、故障の発生が大幅に低減され、信頼性及び耐久性に優れた光ファイバセンサとすることができる。
【0016】
ここで、変換部となる弾性体は、それ自身で曲げ歪みや軸歪みを生じ、測定対象の変位に追随して、変位に伴う応力を光ファイバの歪みに変換できる柔軟素材であればよい。具体的には、例えば、ゴム、エラストマー、軟質樹脂等が該当するが、ゴムの場合には、加工しやすいNR、耐熱性や耐薬品性に優れるCR等が好ましく、樹脂の場合には、耐熱性や耐薬品性に優れるシリコン樹脂等が好ましい。
【0017】
また、弾性体の形状としては、細長い光ファイバに合わせて円柱状とすることが好適である。即ち、円柱状の軸方向に光ファイバを設置することで、変換部を任意の長さに調整することができるようになる。
【0018】
更に、弾性体の弾性率は、測定対象の弾性率に合わせて設定することが好ましい。両者の弾性率を合わせることにより、感度や精度が向上するからである。特に、光ファイバセンサを地盤変状のセンシングに利用した場合、地盤の土質に応じて弾性体の弾性率を設定し、埋設すれば、見かけ上、弾性体の存在を無視できることとなり、地盤変状が光ファイバの歪みに直結するので、非常に高精度のセンシングが可能となる。なお、地盤の弾性率は、圧縮初期の弾性を示す範囲で計測する。
【0019】
ところで、光ファイバは変換部となる弾性体の表面に沿って設置することもできるが、弾性体の内部に埋め込むこともできる。埋め込むことによって光ファイバが弾性体で保護され、外傷による故障等を防止でき、測定対象に対する設置上の制約がなくなるからである。埋め込みは特に、変換部を測定対象(トンネルや地盤等)の内部に埋設するセンシングシステムとした場合に有効である。
【0020】
このような光ファイバセンサを用いてセンシングシステムとするには、光ファイバを複数とし、それぞれの後方散乱光の変化を処理する処理部を備えればよい。即ち、変換部が設けられている光ファイバの各箇所について、検出部で検出された光ファイバの後方散乱光の変化を処理部で通常時のレベルと比較し、その増減から異常を検知するのである。なお、処理部は、増減が発生した位置と増減量とを記録し、測定結果を画面に表示するコンピュータ装置等で実現することができる。
【実施例1】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態の具体例を図面により説明する。図1は、本発明の光ファイバセンサの一例を示す概念図である。図1に示す第1実施例の光ファイバセンサは、応力を光ファイバ1の歪みに変換する、弾性体からなる変換部2としてゴムを採用したものである。このゴムは円柱状のNRで、円柱の直径は35mm、硬度は75度(JIS A)となっている。また、円柱状ゴムの周囲に4本の光ファイバ1が等間隔で軸方向に取り付けられており、光ファイバ1の一端は図示しない検出部に接続されている。
【0022】
この光ファイバセンサは、地面に対して鉛直方向に掘られた穴の中に設置されて地中変位計となる。即ち、地盤変形が生じると、その変位に追随して変換部2に曲げ歪みや軸歪みが起こり、それがそのまま光ファイバ1の歪みに変換され、光ファイバ1の後方散乱光の変化となる。すると、別に設けられた検出部が後方散乱光の変化を検出し、地中の変位が計測されることとなる。勿論、地面に対して掘られる穴は鉛直方向だけではなく、任意の方向に掘られた穴の中に設置され、地中変位計となることができることは言うまでもない。
【実施例2】
【0023】
図2は、本発明の光ファイバセンサの第2実施例を示す一部断面図である。図1に示す第2実施例の光ファイバセンサは、第1実施例に対し、変換部2となる弾性体(円柱状のゴム)の内部に、光ファイバ1を2本埋め込んだものである。埋め込み位置は、直径35mmの円柱の外周面からそれぞれ5mmの深さとなっている。また、弾性体はNRで、その弾性率は測定対象の弾性率に合わせて設定されている。
【0024】
従って、第2実施例の光ファイバセンサは、光ファイバ1が弾性体で保護されていることから信頼性及び耐久性に特に優れ、測定対象(地盤等)に対する設置上の制約がない。しかも、弾性体の弾性率が測定対象の弾性率に合っていることから、地盤変形に対して弾性体と土質とが実質的に等価なものとなっている。そのため、地盤と一体的な弾性体に応力が作用し、内部に光ファイバ1を有する弾性体が変形すると、その変形に直に追従して光ファイバ1に歪みが生ずるので、センサとしての精度が非常に優れたものとなる。
【実施例3】
【0025】
図3は、本発明の光ファイバセンサを用いたセンシングシステムの一例を示す概念図である。図3に示すセンシングシステムは、地中変位の計測に応用した例であり、光ファイバセンサを構成する変換部2が、測定対象の内部(地中)に埋設されている。そして、複数の光ファイバ1が検出部3に接続され、後方散乱光の変化が検出される。なお、この検出部3は、光ファイバ1から後方散乱光の変化を検出する装置で構成されている。
【0026】
検出部3で検出された後方散乱光の変化は処理部4で処理される。この処理部4はパソコン等のコンピュータ装置で実現することができ、変換部2が設けられている光ファイバ1の各箇所について、検出部3で検出された後方散乱光の変化を通常時のレベルと比較し、その増減量から地中変位を検知する。そして、処理部4は、増減が発生した位置と増減量とを記録すると共に、測定結果を画面に表示する。
【実施例4】
【0027】
図4は本発明の光ファイバセンサを用いたセンシングシステムの他の例を示す概念図である。図4に示すセンシングシステムは、トンネルの挙動計測に応用した例であり、光ファイバセンサを構成する変換部2が、測定対象(トンネル躯体)の内部より放射状に開けられた穴内に埋設され(図4の(a))、或いはトンネルの周辺地盤よりトンネルの周囲に向けて開けられた穴内に埋設(図4の(b))されている。従って、トンネルの経年変化に伴う躯体監視(亀裂の測定等)、他工事の近接施工に伴う影響・監視計測、山岳トンネルの施工管理に伴う変位計測等ができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の光ファイバセンサ及びそれを用いたセンシングシステムは、信頼性及び耐久性に優れ、測定対象に対する設置上の制約がないので、トンネルや地盤の変状、山岳や道路斜面の土砂崩れ・落石等のセンシングに広く利用できるものである。
く、更に、検出精度に優れたものである。
【0029】
そして、本発明のシステムによれば、従来の測定システムとは大きく異なり、連続した歪みや応力分布を測定することができ、更には軸方向の歪みや変位に加えて曲げ方向の歪みや変位が計測できるという大きな利点があり、検出精度は格段に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】光ファイバセンサの一例を示す概念図である。(実施例1)
【図2】光ファイバセンサの他の例を示す一部断面図である。(実施例2)
【図3】光ファイバセンサを用いたセンシングシステムの一例を示す概念図である。(実施例3)
【図4】光ファイバセンサを用いたセンシングシステムの他の例を示す概念図である。(実施例4)
【符号の説明】
【0031】
1‥光ファイバ
2‥変換部
3‥検出部
4‥処理部





【特許請求の範囲】
【請求項1】
光フアイバ(1)と、応力を光ファイバの歪みに変換する変換部(2)と、歪みに伴う光フアイバ(1)の後方散乱光の変化を検出する検出部(3)とを備えた光ファイバセンサであって、変換部(2)が弾性体からなり、弾性体に応力が作用して変形すると、その変形に光フアイバ(1)が追従して歪みが生ずるようになされていることを特徴とする光ファイバセンサ。
【請求項2】
変換部(2)となる弾性体が、円柱状のゴム又はエラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバセンサ。
【請求項3】
変換部(2)となる弾性体の弾性率が、測定対象の弾性率に合わせて設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバセンサ。
【請求項4】
変換部(2)となる弾性体の内部に、光フアイバ(1)が埋め込まれていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光ファイバセンサ。
【請求項5】
検出部(3)が、光フアイバ(1)からブリルアン散乱光を検出することにより弾性体の応力変化を検出するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光ファイバセンサ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の光ファイバセンサを用いたセンシングシステムであって、光フアイバ(1)を複数とし、それぞれの後方散乱光の変化を処理する処理部(4)、を備えたことを特徴とするセンシングシステム。
【請求項7】
光ファイバセンサを構成する変換部(2)が、測定対象の内部に埋設されていることを特徴とする請求項6に記載のセンシングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−38794(P2006−38794A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222976(P2004−222976)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000173773)財団法人地域地盤環境研究所 (7)
【出願人】(500140127)エヌ・ティ・ティ・インフラネット株式会社 (61)
【出願人】(595122187)ブリヂストンケービージー株式会社 (36)
【Fターム(参考)】